小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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カテゴリ:ネット業界( 154 )

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(オランダ生まれのサイト「Blendle (ブレンドル)」)

 オランダで生まれた、マイクロ・ペイメント制のメディア・サービス「Blendle(ブレンドル」が、立ち上げ(2014年4月)から1年余を経て、海外展開を始める予定となっている。

 20代後半のオランダのジャーナリスト2人が立ち上げたサービスで、一本ごとに記事を買える仕組みだ(1本15セントから30セント=約20円から40円)。記事の販売価格は出版社側が決めるため、場合によっては30セント以上になる場合もある。読んでみて気に入らなかったら、返金もできるという(その場合は理由を伝える)。返金率はこれまでに全体の約5%で、ほとんどの人が満足して読んでいるようだ。

 現在のところ、利用者はオランダ国内の25万人で、人口全体の2%にも満たないものの、60%が20歳から35歳の若者たちで、最も多い読者層は20歳から25歳まで。「新聞を読まない」とされる層であることが強みの1つだ。

 ブログ「メディアの輪郭」によると、政府の助成金や自分たちで貯めた資金でサービスを立ち上げた。販売する記事価格の約70%を出版社が受け取り、30%をブレンドルが受け取る仕組みだ。

記事バラ売りのアイデアは前からあったが

 「欧州ジャーナリズム・オブザーバトリー」の記事によれば、 ニュース記事を1本毎に売るというアイデアはブレンドルが初ではない。6年前に米ニュース週刊誌タイムの編集幹部だったデービッド・カーとジャーナリストのウオルター・アイザックソンがすでに思いついていたという。私自身も、英新聞のいくつかのサイトで、前に似た様なことをやっていたことを記憶している(1本購入した後で、知りたかったことが書いておらず、がっかりしたり、など)。

 ブレンドルはフリーランスの書き手にも道を開く。欧州オブザーバトリーの記事の中で紹介されているように、フリーランサーたちが便宜上1つの集団としてまとまり、「出版社」として記事を提供するのだ。その具体例が「TPOマガジン」だ。

 読んだ記事はソーシャルメディアでシェアでき、友人たちや著名人がどんな記事を読んでいるか、どんな記事がトレンドになっているのかが分かるようになっている。

 ブレンドルのウエブサイトによれば、利用者が読みたがるのは深みのある、じっくり書かれた記事、分析、論説などだという。

 ドイツの新聞最大手アクセル・シュプリンガー社や米ニューヨーク・タイムズが投資をしていることでも知られているブレンドル。若者層が利用者となっている部分が、大手メディアにとって、何物にも変えられない、大きな魅力なのだろう。

 「ジャーナリズムのアイチューンズ化」を目指すと創立者たちは言ってきたが、アップルが音楽のストリーミングビジネスに入るという大きな決断を発表した今、果たしてマイクロペイメントから閲読ストリーミング(?)、例えば毎月一定額(ただしそれほど大きな額ではなく)を払って存分に読める形も、将来的には考えることになるのだろうか?

 ただし、もちろん、毎月一定額を払えば掲載記事が全部読める、という形はすでに存在はしているが。

 例えば私が参加している朝日新聞の有料サイト(無料記事もある)「WEB RONZA」は、さまざまな記事の配信方法を試みている。また、記事の有料配信と言えば日本では「ケイクス」(週に150円)が人気だ。他にも大手メディアは紙媒体の購読者となっていれば、自社記事に限れば、電子版でもすべてを読めるようにしているところが多い。

 英語あるいは日本語でブレンドルのサービスが始まったら、少しは私も利用してみようかなと思っている。

 私自身、いくつかのメディアについては有料購読(毎月あるいは年間)しているが、興味があるメディアすべてを有料購読したら、財布がパンクしてしまうので、無料記事だけを読む場合がある。そこで、トライアルとして読みたい記事をバラ買いするのもいいかな、と。読むことで紹介されている媒体の定期購読をすることもあり得るかもしれない。

 また、フリーランスのジャーナリストへの道が開けるという可能性も魅力的だ。


どんな記事が読めるかが鍵に


 書き手として気になるのは、「お金を払ってもらえるほどの価値あるコンテンツを、生み出せるだろうか」と。

 紙媒体の定期刊行物であれば、他の記事とセットになるわけだが、ブレンドル形式だと、1本1本の記事が勝負になる。

 また、読み手として考えた場合、1本毎にお金を出して読むほどの興味深い記事を果たしてどれだけ見つけられるかな?と。

 日本ではニュースのキュレーションサービスがどんどん出てきており、もはや「どうやって配信するか」「お金をもうけるのか」よりも、「どんな内容だったら、読んでかつお金を払ってもらえるのか」の段階に来ているように思っている。とにもかくにも「内容」なのだ。

 ということで、ブレンドルが英語でサービスを開始した時、何が読めるようになっているのか、この点が最も肝心だろうと思っている。
by polimediauk | 2015-06-09 22:33 | ネット業界
 オランダのスタートアップ・メディア「コレスポンデント」については、これまでにも何回か書いてきたが(記者と読者の関係を変える、オランダの「コレスポンデント既存メディアの枠を打ち破るオランダでの試み世界新聞大会で気づいた7つのことなど)、13日、アムステルダムで開催された「出版エキスポ2014」(世界ニュース発行者協会=WAN IFRA=主催)のイベントの一環として、実際にオフィスを訪ねる機会を得た。

 コレスポンデントはオランダの日刊紙「Nrc・next」の元編集長ロブ・ワインバーグ氏と同紙のブロガーの一人で、NRCメディアのインターネット部門の編集長だったエルンストヤン・ファウス氏が中心となって立ち上げたウェブメディアだ。クラウドファンディングでほんの数日で約1万5000人から総額100万ユーロ(約1億3900万円)を集め、オランダ内外で注目を集めた。広告収入には頼らず、購読料(年間60ユーロ=約8000円)で運営をまかなう。読者は「メンバー」と呼ばれ、記事に対するインプットを「コントリビューション」(貢献)として扱う。記者(=コレスポンデント)は読者との「会話」を奨励され、「会話を始める人」という役割も持つ。書き手と読者が知識を持ち寄り、より充実したジャーナリズムを作り上げることを狙う。オランダ語サイトだが、一部の記事は英訳されている。

 昨年9月のサイト開始から1年余りが過ぎた。現在、購読者数は2万8000人。(ファウス氏自身による1年を振り返るブログポストは「ミーディアム」に掲載されている。)

c0016826_18103032.jpg コレスポンデントの狙いや今後について、ワインバーグ氏とファウス氏が報道陣の前で話した内容の一部を紹介したい(以下、敬称略)。

 コレスポンデントのオフィスはアムステルダム市内のビルの一角にある。ドアを開けると白い壁の細長い部屋がある。左手にはグレーのソファーがあり、右手にはミニ・バーがある。木製のカウンタートップに、2人が次々と報道陣向けに飲み物を並べてゆく。

 部屋の奥には長い机があり、いくつものコンピューターが並ぶ。ここが「編集室」のようだ。報道陣が訪 れたのは午後7時半過ぎ。2人の女性がコンピューターの画面に向かって作業をしていた。

***

読者の知識=ジャーナリズムの宝庫


エルンストヤン・ファウス:読者の知識は今までに手がつけられていなかったジャーナリズムの領域ではないか。考えてみて欲しい。3000人の医者がいたら、その人たちの医療知識はたった一人の医療問題の記者の知識よりはるかに深く、広い。

 今はそれぞれ専門知識をシェアできる時代だ。オランダはツイッターも流行っているし、多くの人がネットでつながっている。知識をシェアするジャーナリズムをやりたかった。

 自分はロブ・ワインバーグがいたNRCのウェブサイトのブロガーだった。市民の意見・コメントではなく、専門知識をシェアする試みを行っていた。サイトの閲覧者も倍に増えた。

 しかし、ロブが「解任」されてしまったので、プロジェクトはつぶされてしまった。これが2012年の秋だった。

「一から始めよう」


ロブ・ワインバーグ:NRCの全ての編集者たち、ジャーナリストたちは質の高いジャーナリズムを作るという使命を共有していた。しかし、会社側はこれをあまり共有しておらず、利益を生み出すことをそれ以上に重要だと考えていた。

 私たちは新聞でイノベーションを起こそうと思った。私たちのプロジェクトはすぐに利益を生み出さない種類のものだ。株主がいる会社組織では、株主が3ヶ月で結果を出しなさいというだろう。

 私が前にいたNRCでは、100年前とまったく同じことをやっている。それを変えるのはとても大変だ。組織としても巨大だ。
 
 私たちは自分たちで一から始めることにした。

ファウス:それが2012年の秋だった。立ち上げについてのアドバイスはほとんど無視した。つまり、最初は小規模で、コーヒーショップの片隅で始めなさいとか、ニュースは商品なのだから、そのように扱いなさいとか。

ワインバーグ:ニュースをやるなら、ビジネスプランを持て、とかね。広告をどうするのか、とか。たくさんのオーディエンスを持つことを目的にしてしまうと、試験的な記事が出せなくなってしまう。

ファウス:広告記事を書くようなジャーナリストを雇え、という人もいた。いわゆるブランデッド広告だ。ウェブサイトの一部にこうした広告記事を出して、お金をもうけなさい、と。読者が欲しいものを与えなさい、つまりはネット時代なのだから短い記事をどんどん出しなさい、とか。

 そんなもろもろのアドバイスは私たちがやろうとしていたこととは正反対だった。

 まず、小さく、コーヒーショップの片隅で始めるということ。これはダメだ。

デザイナーとの共闘作業

 私たちが生きているこの時代に、デザイナーがどうやって物語を語るかは記事の中身と同様に重要なんだ。私たちは今、どのようにジャーナリズムを出していくのか、作っていくのかを考えている真っ只中だ。そんなとき、デザイナーと一緒になって、どうやってやるかを考えるべきなんだ。

 そこで、デザイナー&デベロプメントの会社「モンカイ」と一緒にやることにした。でも、普通に仕事を依頼すれば、すごく高い料金を払わなければなくなる。そこで、ビジネス上のパートナーになってもらい、低コストでやってもらえるようにした。

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(画面の例。モンカイ社のデザインが光る)

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(上の画像の右端、記者部分をクリックすると、記者専用の画面になる)

ワインバーグ:広告は入れない。これはある意味ではリスクだ。メンバーからの購読料だけで運営するのだから。

 広告を入れないことにした理由は、そうすることによって、自分たちが本当に重要だと思うことや、社会や読者が本当に読みたいと思うことに集中できると思ったからだ。

 私たちは読者を(何かを売るための)「ターゲット」としては捕らえていない。読者の特性を広告主に売りつけたりはしない。

 広告主がいないと、ジャーナリズムに対する考え方ががらりと変わる。広告主を悪魔のような存在だと言っているわけではない。

読者のバックグラウンドは何でもいい


 要は、私たちは読者の特性(性別、年齢、社会的バックグラウンドなど)をまったく気にかけもしないんだ。良いジャーナリズムの記事は18歳の読者にも80歳の読者にも読まれるだろう。お金持ちか、貧乏かも関係ない。読者が金持ちだろうが、貧乏だろうが、どちらでもいいんだよ。読者には、記事以外にはほかに何も売りたくはない。これは永遠にそうだ。私たちがやるジャーナリズムの根本なんだ。

ファウス:運営費は完全にメンバーからの購読費による。

 短い記事が良いというアドバイスがあったけれど、私たちはまったく違う。長い、深みのある記事を出す。ネットでは長く書いたり、説明したり、リンクやシェアができる。

ワインバーグ:だからと言って、「ロングフォーム」(長い形の)ジャーナリズムであれば何でも良いという意味ではない。また、手がけているプロジェクトはその過程を読者に公開している。

ファウス:記者は2-3ヶ月、半年、あるいは1年をかけて記事を仕上げる。

 あるトピックが今話題になっているかどうか、「ニュース」かどうかなんて、関係ない。記者が「これがこんな理由で重要なトピックだ」と説明したら、それが取り上げるに足る理由になる。

―資金作りはどうやったのか?

ファウス:クラウドキャンペーンを使った。年に60ユーロで、もし1万5000人集まったら、何とか始められるだろうと思っていた。でも、実現の可能性は50%ぐらいかなと思っていた。ロブ(ワインバーグ)があるテレビ番組に出て、資金を募ったらー。

ワインバーグ:テレビ出演から8日間で1万5000人以上が購読者になったんだ。このときの購読者を私たちは「創設メンバー」と名づけている。

 記者には1800人ほどから応募があり、3ヶ月かけて、これはと思う人物を選んだ。8人がフルタイムで、20人がフリーランス。5人のサポートスタッフがいる。

 ある記者は教員でもある。記事の発想が教育の現場から生まれる。元NRCにいた女性記者が今はアフリカの紛争について書いている。

ファウス:独自のコンテンツマネジメントシステム(CMS)があるべきだと思い、モンカイと協力しながら作り上げた。

 開始から1年後の今年9月末でメンバーは2万8000人だ。

 記者は原稿を仕上げるまで、いわば「旅」をする。記者にお願いしたのは「読者=メンバー=との会話のリーダー役になってくれ」、と。記事を出して終わりではなく、メンバーからの知識を引き出すようにサイト上で情報を出し合う。

 メンバーにはそれぞれ自分の専門の知識がある。例えばホームレスであった経験を持つ人がいたり、ポルノ女優であった人も。それぞれの知識をサイトにインプットしてもらう。

ワインバーグ:前に新聞社にいた記者は、読者との会話をするという作業に対し、「追加の仕事が増えた」という。私たちが言うのは、「追加の仕事じゃない。これこそが仕事なんだよ」。オーディエンスにエンゲージするのが仕事なんだ。

 コレスポンデントの記者は記事を出してからの仕事がある。読者には「コメント」ではなく、自分が知っていることを「コントリビュート」(貢献)してもらう。「どう思ったか」ではなく、「これについて何を知っていますか」と読者は聞かれる。

ファウス:知識を共有しましょう、ということだ。

―オーディエンス、あるいはメンバーを増やすためのマーケティング戦略は?

ファウス:ほとんどしていない。フェイスブックのページを持っている。これは「いいね」が8万回、ついている。

 記事自体をメンバーがシェアすることで広がっている部分もある。シェアすると、誰がシェアしたかが分かるようになっている。非メンバー、つまり購読者になっていない人もメンバーがシェアした記事は読める。

****

 2人の話を世界中からやってきた報道陣が聞いた。小さいオフィスながら、大きな大志を持つ2人。

 「私たちは読者の特性(性別、年齢、社会的バックグラウンドなど)をまったく気にかけもしないんだ。良いジャーナリズムの記事は18歳の読者にも80歳の読者にも読まれるだろう。お金持ちか、貧乏かも関係ない。読者が金持ちだろうが、貧乏だろうが、どちらでもいいんだよ」--ワインバーグ編集長のこの言葉を聞いて、思わずほろっとしたのは私だけではなかったように思う。

 とは言え、将来性はどうなのだろう?また、この動きがメディア界全体に広がる見込みは?

 エキスポの会議に出席していた、アムステルダム大学のメディア学教授マーク・デューズ氏に聞いてみた。「将来性はあると思う。これからも続くだろう」。ただし、「コレスポンデントはあくまでもニッチ=隙間のジャーナリズムだと思う。いくつかの特定された分野のトピックを深く追いかけているから」だ。

 コレスポンデントのワインバーグ編集長によれば、ジャーナリズムのスタートアップのやり方やCMSなどを他のメディア機関に販売することも予定(遠い先の話のようだが)しているという。一部の記事をまとめた書籍(紙の本)もあり(電子本もすでに出している)、10月初旬、フランクフルトで開催されたブックフェアで披露したばかり。今後が楽しみなメディアであることは間違いない。
by polimediauk | 2014-10-23 17:42 | ネット業界
「ネット上でいつも面白いことを探していた」

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 ハッカー集団「アノニマス」の分派として、2011年に活動した「ラルズ・セック」(ラルズ・セキュリティー)。広報担当役としてメッセージを発信した青年ジェイク・デービス(現在21歳)にインタビューした(写真右、撮影はMinako Iwatake)。

 デービスは2年間の実刑判決を受けたが、身柄が拘束されていた期間を加味し、実際に刑務所に入っていたのは38日。出所後には夜間外出禁止令が課され、足には行動を追跡するために電子タグがつけられた。2年間、インターネットの利用が禁止された。

 ラルズ・セック参加当時、デービスは18歳。自分でも認める「引きこもり」状態で、コンピューターにかじりつく日々をすごしていた。

 以下はデービスのインタビューの後半である。(前半はこちらから。)

―ウィキリークスが2010年ごろから「メガリークス」の発信を開始した。あなたは当時アノニマスにいたのだろうと思う。ウィキリークスについて、どう思った?

 当時、自分は17歳ぐらいだった。ネット上でいつも面白いことを探していた。ネットで何かできないものか、と。そして、ウィキリークスが作った「コーラテルマーダー(「巻き添え殺人」)(=イラク米軍による民間人の誤射映像。2010年4月公開)の動画を見た。

 とても衝撃的な動画だった。ネットの情報配信力のすごさを示していたと思う。普段は猫の動画を流しているようなユーチューブがすばらしいことを達成できる。その後には米国の外交文書をばらした「ケーブルゲート」事件(2010年11月)があった。大きなパワーを感じた。


―アノニマスに関わるようになったのは?

 ケーブルゲート事件の後で、あるオンラインの友人がケーブルゲートについての記事のリンクを教えてくれた。ウィキリークスが資金を受け取るために使っていたマスターカードやビザ、ペイパルなどのサービスが使えなくなっているので、アノニマスがこうした企業のサーバーを攻撃しようとしていると書かれてあった。そこで、「トピアリ」として中に入り、どんなものなのか見てみようと思ったんだ。

 このときまでに、7000から8000人が参加していたな。みんながウィキリークスのことを話題にしていた。何とかウィキリークスにお金が流れるようにしたがっていた。私は攻撃には参加しなかったが、これほどの数の人がものすごく熱くなっていて、行動を起こそうとしていた状況はこれまでに見たことがなかった。4チャンのようにとても早いスピードで、変化の波が起きていた。

 すごいなと思ったよ。でも、一旦は通信を閉じてしまおうと思った。そこでラップトップを閉じて、何か別のことをやって、眠ってしまった。起きてからラップトップを開けてみたら、まだスイッチが入っていたことが分かった。

 8000ぐらいの反応が数十万規模に膨れ上がっていた。政治運動に変わっていた。そのときは、「アラブの春」のチュニジアの市民を助けたがっていた。市民がフェイスブックにアクセスできるように、行動を起こそうとしていた。

―自分はハッカーの活動家=ハクティビストであると思っていたか?世界を変えようと?

 17か18歳の頃、インターネットは世界を変えるほどの力を持っていると思っていた。だから、反政府の動きを見ているのはとても刺激的だった。政府がネットへのアクセスをブロックできると思っていた国で、状況を変えることができるなんて。この頃から、トピアリとしての活動に熱中するようになった。

―ラルズ・セックの活動を振り返って、どう思うか。

 今から3年ほど前のことで、現在の自分にとっては言葉遣いなどについて赤面するばかりだ。ただ、何かは分からないが何かをやろうとしていたのは確かだ。

「逮捕されるかもしれないとは思っていた」

―何故50日間で、活動を停止したのか。

 英国に住むメンバーの数人が状況を俯瞰して眺めたとき、思いがけずこんな大きなハッカーの集団を作ってしまったことに驚いた。大きな数の支持者たちができていた。同時に、すべての権威に反抗する人たちが出てきた。特定の個人や組織を過激な手法で攻撃しようとしていた。この時が分かれ目となった。

 私は当時16歳の(といっても当時年齢は知らなかった)「Tフロウ」(実名はムスタファ・アルバッサム)とチャットをしていた。普段、私たちは真剣なことを話し合ったりはせず、個人的なことも話さなかったが、ある日、自分たちが思うような方向ではない方向にラルズ・セックが進んでいると2人とも思っていることが分かった。そこで、すべてを止めることにした。逮捕されたのはその直後だ。

―逮捕の予感は?

 閉鎖の2-3週間前には逮捕されることもあるかもしれないとは思っていた。

―警察が来たときは、どんな感じだったのか?

 他の人間との接触が少ないところで1人で住んでいたので、ドアの外に人がやってきたのを見たとき、自分のこととは思えなかった。

 トピアリという名前のオンライン上の人物と生身の自分とが乖離していた。オフラインでは、トピアリがまったく存在していないように感じていた。刑事がトピアリとしての自分について話していたが、奇妙な感じがした。

―いつ、ぴんと来たのか。

 逮捕から6-7ヵ月後にやっと意味が分かった。あまりにもいろいろな感情があってー。

 その後、ネット活動を2年間、禁止された。時々、怒りを感じたが、当初はネットが使えなくなってほっとしたぐらいだった。次に進むための唯一の道だったと思う。誰かに止めて欲しいという思いもあった。

ーネットが使えなくなって、どうやって時間を過ごしたのか?

 事件の関連書類を見ながらすごした。検察側が印刷したものを自宅に送ってくれた。ネットの活動を紙で読むという体験だ。裁判のために準備をしたり、仕事を見つけようとしたり。ただ、職探しをするとメールアドレスを聞かれる。何故メールが使えないかを説明しなければならず、複雑になった。

―家族とはどうなったか。

 逮捕後は母と一緒に暮らした。夜間外出禁止令があって、足首には電子タグがついた。

 家族は非常にサポーティブだった。複雑な事件だったけれど、物を盗んだようなシンプルなことではないと分かってくれた。幸運だったと思う。これほどのサポートを家族から得られない人もいる。

 2011年に逮捕され、2013年に2年の実刑判決が出た。フェルタム少年院で38日間を過ごした。

―刑務所での周囲の反応は?

 他の受刑者はほとんどの人がギャングやドラッグ関係の犯罪で入っていた。いろいろな人がいたよ。自分はインターネットの犯罪だったということで、一目置かれていた。最初は独房で、次に父の車を壊した青年と共同部屋となった。

―空き時間はどのように使ったか。

 ほかの受刑者で単語のつづりを知らない人につづりを教えていた。文章を読んだり書いたりできない人がこんなにも多いことを初めて知った。

 どんな受刑者も家族に手紙を送りたがる。家族もどんな様子かを知りたがる。他の受刑者が書いた手紙をチェックしたりした。

―以前は引きこもりで、人との付き合いが苦手だったようだが、刑務所でもまた今も、非常に社交的に見えるが。

 2年間、ネットへの接続を禁止されていたので、オフラインでの友達を作るようにしてきた。複雑な、本当の人間と話すのはとても面白い。

―現在、ネット利用にはどのような制限がつくか。

 当局が監視していると思う。利用履歴を消すことを禁止されている。ファイルを暗号化して使ったりなどができない。遠隔操作で人のコンピューターを使うことも禁止されている。

 2018年5月までは、私のネット上の行動を当局がいつでも必要に応じて見ることができるようにしてある。といっても、テクノロジーの進展はあっと言う間なので、今後2年で規制の中身がどれほど意味を成すのかは分からないがー。

 例えば、コンピューターの利用のすべてが暗号化されているのがデフォルト設定になっていたら、どうするか。暗号化されているものはすべて使ってはいけないというのでは、何も使えなくなる。規制は変わってゆくだろうと思う。

 こうした規制を非常に厳しいものだと受け止める人もいるが、もっと厳しい条件の人もいる。

「事件についてどう思うかを答えるのは難しい」

―逮捕直前の自分の行動をどう思うか。過去の行動を否定したいという思いはある?

 その時々によって、思いは変わる。今からだと3年前の話だ。ずいぶんと昔のことに思える。2-3年前までは話しにくかった。生々しい記憶だったからだ。

 どう思うかについて、答えるのは難しい。

 多くの若い人が、自分たちがどんな人間で何を到達したいのかを理解する過程で、いろいろな馬鹿げたことをする。

 当時自分たちが使っていた言葉とかやっていたことを考えると、寒気がする。困惑する。10代の少年たちの苦悶がぶちまけられるのを見ることになるからだ。自分は非常に未熟だった。

 しかし、あんな体験をしてよかったと思う。

 アラブの春への支援については、今でもすごいことだったと思っている。ハクティビズムのよい例だった。

 検察からの書類を見ながら、自分がやったことを確認していった。どこで間違えたか。知ることには自己治療な意味があると思う。起きた事の良い部分を拾い上げ、これからも続け、悪い部分は後に残していこうと思っている。

―他のメンバーに対してはどう思う?米当局に通報した形になったサブーについては、怒っている?

 怒ってはいない。

 後でラルズ・セックのメンバーの何人かと英国で会った。以前は互いと連絡を取り合うことを禁止されていたが、この春から許されるようになった。初めて顔を合わせたが、いい感じだった。

 サブーがラルズセックの活動に一番思い入れがあった。誰よりも。彼は私たちよりかなり年上だし、何が起きているかを知っていた。私たちは何が起きているかを理解できないままに動いていた。急激にいろいろなことが起きて、それぞれ学びながら対応していた。

 サブーはラルズ・セックに一番力を入れていた人物だったー。彼が今どう思っているのかは分からないけれど。

―彼に会う予定は?

 計画はないが、他のメンバーには会った。ムスタファは、当時16歳で頭脳明晰な男性だった。会ってみると、お互いにルービックスキューブが好きだったことが分かった。ムスタファは頭がいいので、数十秒で完成させてしまう。私は2-3分かかるので、教えてもらっている。互いに互いのことをいろいろ知るようになった。

―今は何をしているのか?

 映画や芝居の台詞についてコンサルティングしたり、映画会社でパートタイムで働いている。

「子供たちを助けたい」

―今後は?

 いろいろなイベントで話してみたい。パネリストとして出てみたい。テーマはデジタルスキルなど。

 今後2-3年は、学校などで多くの若い人に向けて話しても見たい。引きこもりや人と接触することができない症状に悩む子供たちが助けを必要としているかもしれない。

 自分が13-14歳の頃、誰か自分と同じような症状を克服した人ととても会いたかった。どうするべきかを教えてもらうというよりも、知識を増やしたかった。だから、自分の経験を共有できればと思う。

 14-15歳の少年たちで、何かをやりたくても、実際には何をやったらいいか分からない人たちがいる。報酬をもらうためと言うよりも、ほかのことをやって家賃を払い、それとは別にやってみたい。

―以前に、ラルズ・セックで架空の名前を使ってネット活動をやることで、大きな高揚感、興奮を体験したという話を聞いた。現在、高揚感を持てる対象は見つかったのか?

 今何かそういうものがあるかと聞かれれば、今はすべてに、毎日の出来事に触発されている。もっと旅行もしてみたい。13-14歳の頃は、いつか飛行機に乗って、いろんな人に会って、いろんな文化を知りたいと夢見ていたから。今年は、パスポートが返ってきて、外国に行けることになった初めての年だ。人生で初めて外国に行ったのが10歳の時だ。学校でイタリアに旅行に出かけた。今年はアムステルダムに初めて行った。美しい都市だった。パスポートを手にし、普通の市民のように滞在できた。

―ラルズ・セックでは広報担当としてさまざまなメッセージを出していた。言葉遊びもたくさんあった。どこで文学的能力を取得したのか?

 自分はとても自分に対する批判が強いので、若いときに書いたものは困惑しすぎて読めないぐらい。怒りに満ちていて、ダークだ。そのときにいた場所の雰囲気を反映している。

―刑務所では読み書きがまともにできないばかりか、きちんと文章を話せない人がいたと聞いたが。

 悲しかった。多くの若者は何度も刑務所を出たり入ったりしていた。家がないも同然で、刑務所が家になっていた。言葉を学ぶ機会を持てなかったのだろう。人によって、何が普通かの定義が違う。刑務所にいることが普通だと思う人もいる。

 私が刑務所に送られる車の中にいたとき、隣に座っていた人が「家に帰る」という話をしていた。その「家」とは刑務所であることを知るには時間がかかった。

 コンピューターのスキルを持っていること、普通に読んだり書けたりすることが特別なことであることを、刑務所に行って実感した。

―たくさん、本を読むのだろうか?言語能力の高さの源を知りたい。

 テレビがないので、読むことは読むよ。1つの言語しか分からないので、複数の言語を理解できる人にジェラシーを抱く。他の言葉も勉強したい。

―どんな本を?

 本と言うより、学術論文、マニュアルを。古い機械の作り方とか。フィクションなら面白い視点があるもの。村上春樹は好きだよ。娯楽だけではなくて、何か新しい発見がある小説がいい。家には大きな本棚があったことを覚えている。

―日本について

 村上を読み、最近は見ていないが、日本のアニメのスタイルが好きだ。日本は一度ぜひ行って見たい国の1つだ。

―日本で見たいものは?

 秋葉原のアーケードに行くだろうな。秋葉原の。スーパーモンスターのゲームなど。カラフルな大きな音がするようなものが好きなので。

ーネットについての考え方は、変わったか?

 特には変わっていない。

―元CIA職員エドワード・スノーデンのリーク情報を元にして、米英政府が大規模な監視行動をネット上で行っていることがわかった。国家的な監視に対する警戒感が広がったが、これについてどう思うか。

 報道によれば、英情報収集機関の1つGCHQでも、意外と若い人が監視員であったりする。諜報機関に勤める人が離婚して、元の妻を監視するために監視機能を使っていたという記事を読んだことがある。誰かがあなたの行動をいつも見ている、すべてを見ている、と。怖い状況だ。

 フェイスブックも秘密裏に心理テストをやっていた。将来、政府が秘密裏に収集した情報を使うかもしれない。実際に、政府がどんなことをやっているのかは分からない。こうしたことを若い人に教えるべきだと思う。

***

 ジェイク・デービスに興味をもたれた方はツイッターや「ASKFM」のサイトをのぞいてみてはと思う。

 また、アノニマスとラルズ・セックの事件の一部始終は、「我々はアノニマス」という本(邦訳はヒカルランド社から刊行、著者は米フォーブス誌のパーミー・オルソン氏)に詳しい。ご関心のある方は一読をお勧めしたい。
by polimediauk | 2014-10-21 17:11 | ネット業界
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(英ロイヤルコート劇場前のジェイク・デービス。撮影 Minako Iwatake)

「何かをやりたかったけど、それが何か分からなかった」

 3-4年ほど前、一定の社会的意図を持って大企業や政府のウェブサイトを攻撃し「泡を吹かせる」-そんな行動に熱狂した若者たちが英語圏で注目を浴びた。話題をさらったのは「アノニマス」、そしてその分派「ラルズ・セキュリティー」(通称「ラルズ・セック」)。「ラルズ」は「Lulz」とつづり、「大笑い」を意味する。「大笑いのセキュリティー」とは、名前からしてユーモラスだ。

 今月末まで、ロンドンのロイヤル・コート劇場ではラルズ・セックの活動をドラマ化した芝居「インターネットは真剣なビジネス」が上演されている。

 台本を書いたティム・プライスは、アノニマスやラルズ・セックのメンバーたちの行動を一種のハクティビズムと捉えている。ハクティビズムとは「ハッカー行為をする」「問題を解決する」という意味の「ハック(hack)」と社会的・政治的な改革を目指す行動主義「アクティビズム(activism)」を合成させた言葉で、政治的な目的のためにコンピューターを使って行動を起こすことを指す。若者たちは、寝室でラップトップを操りながら「大きな資本主義の権力に集団として戦った」のだ、と。

 米フォーブス誌のパーミー・オルソン記者によると、アノニマスとは悪ふざけ、あるいは抗議の手段としてインターネットを混乱させる人々の名称で、利用者が匿名を使う画像掲示板「4chan(フォー・チャン)」に書き込むときに、特定のハンドル名を使わずに「アノニマス」(名無し)として投稿することに由来している。アノニマスには明確な指導者はおらず、「ゆるやかなネットのルールを順守する流動的な集まり」だ。

 アノニマスの名前が広く知られるようになったのは、内部告発サイト「ウイキリークス」によるメガリーク。サイトの創始者ジュリアン・アサンジは、英ガーディアン、米ワシントン・ポスト、ニューヨーク・タイムズ、仏ルモンドなど欧米の主要紙と協力し、2010年以降、米軍や米政府の機密書類を続々とリークして、世界中の注目を浴びた。

 米クレジットカード会社ビザカード、ネットの決済サービス、ペイパルはウィキリークスがサービスを使えないようにし、資金を得る手段を奪った。このとき、アノニマスのメンバーはビザカードやペイパルのサイトを攻撃し、ウィキリークスを援護射撃的に支援した。

 2011年、中東の複数の国で民主化を求める運動が発生。「アラブの春」と呼ばれる現象となってゆく。運動を抑えようとするチュニジア、エジプトなどの政府サイトにアノニマスが攻撃をかけ、一時使えないようにしたこともあった。

ラルズセックの勃興と顛末

 ラルズ・セックはアノニマスの分派として2011年春、活動を開始。ハンドル名「トピアリ」と「サブー」が他数人のアノニマスの参加者とともに立ち上げた。「権威ある対象に恥をかかせ、笑う」目的でのサイバー攻撃を次々と手がけた。

 米国のタレント勝ち抜き番組「Xファクター」の出演者のデータベース、米映画会社フォックスのウェブサイトのユーザーのパスワード、ソニー・ピクチャーズのユーザー情報、FBI関連のインフラガード社のウェブサイトなどを攻撃した。米CIAのサイトを一時ダウンさせたのもラルズ・セックだった。

 「大笑いセキュリティー」と名づけるだけあって、ラルズ・セックが自分たちのイメージとして使ったイラストもユーモラスだった。シルクハットをかぶり、モノクルをつけた男性が葉巻を吸っているイラストだった。現在も30万人を超えるフォロワーがいるツイッター・アカウント(今は活動停止中)から発信されたつぶやきはユーモアや言葉遊びに満ちていた。

 ラルズセックは2011年6月26日、50日間の活動を終了すると宣言した(ただし、7月にもハッキングを一度行っている)。その後、メンバー数人らが続々と逮捕された。後で分かったことだが、リーダー格の米国人ヘクター・ザビエル・モンセガーが米当局に逮捕され、司法取引に応じていた。これがグループのメンバー摘発につながった。

 2013年5月、コンピューター関連法に違反したとして有罪となっていた英国在住のライアン・クリアリー(当時21歳)、ライアン・エイクロイド(26歳)、ジェイク・デービス(20歳)、ムスタファ・アルバッサム(18歳)に判決が下された。クリアリーには32ヶ月の禁固刑、エイクロイドには30ヶ月、デービスには24ヶ月、アルバッサムには2年の執行猶予付きの20ヶ月の実刑が下った。

何故?を聞いてみた

 その後の英国在住のハッカーたちがどうなったのか?私は気になっていた。何故こうした行為を行ったのか。現在はどう思っているのだろう?

 ラルズ・セックの広報担当役として、ユーモラスなメッセージを発信し続けた青年ジェイク・デービス(現在21歳)に昨年秋、あるイベントで出会った。その後、何度か会話を重ね、長いインタビューを記録する機会を得た。

 デービスは2年間の実刑判決を受けたが、身柄が拘束されていた期間を加味し、実際にロンドン郊外のフェルタム少年院に入っていたのは38日。出所後には夜間外出禁止令が課され、足には行動を追跡するために電子タグがつけられた。2年間、インターネットの利用が禁止された。

 パスポートの利用も禁止されていたが、国外に出ることが許されたのは今年夏以降。現在はネットの利用が可能だが、2018年まで、暗号化ツールを使えないことになっており、ネットの利用状況は当局が監視している。利用履歴を消すことができない状態だ。

 ラルズ・セック参加当時、デービスは18歳。自分でも認める「引きこもり」状態で、コンピューターにかじりつく日々をすごしていた。昔、自分が発信していたメッセージや書き込みの文句を目にすると、「ぞっとする」と今では言う。

 犯行当時はスコットランドに住んでいたが、生まれはイングランド地方。英国では家庭環境や教育程度によって話し方が変わる。デービスはスコットランド特有のアクセントはなく、ロンドンで生まれ育った、かつ非常に聞きやすい発音で話す。饒舌に、社交的に話す様子を見ていると、かつて引きこもりであったことが信じられないほどだ。

 デービスの生の声をお伝えしたい。

―生まれはどこか?

ジェイク・デービス:イングランド地方だ。それから遠く離れたシェトランド諸島に引っ越した。

―イングランドのことは何か覚えている?

 本当に小さい頃だったので、覚えていない。ホステルに住んでいた。転々としていたらしい。普通の家というものはなかった。5歳から6歳の頃、シェットランド諸島に行ったのだけれど、これが最初の記憶かな。町には89人しか住んでいなかったんだよ。孤立した場所だった。そこに12年ぐらい住んでいた。

―最後のほうは1人暮らしだったんだよね。

 そうだ。17歳で家族を離れた。1年ぐらいして、逮捕された。当時は1人で住んでいた。一人暮らしをしているといろんな事が起きる。

―10代の頃は数学にとても興味があったと聞くが。

 そうだったよ。最初にコンピューターを買ったとき、うれしくて。どうやってウインドウを開けたり、閉じたりできるのか、学んでいた。ある場所をクリックすれば何らかの機能を実行できることは分かったけど、どうしてそうなるのか、知りたかった。

―それは何歳のときか。

 12か13歳ぐらい。ダイアルアップ接続がブロードバンドに変わりつつある頃だった。だんだん処理速度が速くなっていた。コンピューターをつけていると、ハミング音が出る。何故こんな音が出るのか、知りたかった。何故ハードライブの中であんな風に部品が回るのか知りたかった。そんな興味がたくさんあった。コンピューターにとりつかれていたと言ってもいい。何故かを知りたかった。

―自分で学習したのか?

 そうだよ。学校は13歳でドロップアウトしたから。退屈でたまらなかった。あの学校の教育体制はだめだった。自分は無視されていた。

 インターネットは質問をするためには最高だった。だからいろんなフォーラムやヤフーで質問をすれば答えてくれるサービスなどに加入した。答えを知りたかった。

 インターネットに行けば、誰かしら必ず専門家がいる。知っている人がいる。たくさんのコミュニティーがある。例えば、どうやって洗濯機を直すのか、100のアイデアを持っている人がいるとかね。

 フォーラムなどにたくさん加入して、ばかげた質問をしたよ。何も知らないアマチュアのような、単純な質問だ。きつい言葉がよく返ってきた。でも、試行錯誤を重ねながら、いろいろなことを学んでいた。そうやって何年もが過ぎた。

ー質問をするとき、実名を使っていたの?

 うーん、覚えていない。13か14歳の頃は実名を使っていたんじゃないかな。でもどこかで、架空の名前を使うべきと言う投稿を見た。そこで架空の名前をたくさん使った。14歳ぐらいから。17から18歳にかけて、それまでの投稿をすべて消すようにした。投稿それ自体が命を持つようにしたくなかった。ネットの外に本当の生活があるようにしたかった。

―1日中ネットを使っていたとき、どんなことに一番時間を費やしたか?チャットルーム?

 チャットとかフォーラムとか。自分は常にいろいろな文化を持つさまざまな種類の人と知り合いたいと思っていた。自分が住んでいた小さな町では不可能だった。だから、コンピューターは「窓」だと思っていた。世界について知るために、世界の違う場所にいる人と友達になるために。チャットルームに集まって、何でも話したよ。これから公開される映画や本のこととか。他の人の視点を知りたかった。知識とか意見とかに飢えていた。とても孤立した住環境、家庭環境だったから。

―家を出て、遠くの都会例えばロンドンに行きたいとか、思わなかったの?

 自分はナイーブだったんだ。何か大きなことをやりたかったけど、それがなんだか分からなかった。どこからも遠く離れた場所に住んでいたので、外に出たら何があるのか、想像できなかった。何かやりたいということは分かっていたけど、それが何か分からない。そしてインターネットに吸い込まれていったんだ。

 日本語で、こういう状況を説明する言葉があるね。コンピューターづけになって、部屋にずっといること。

―引きこもりのこと?

 そうだ。自分は少しそうだったんだ。

ーテレビは見なかったの?

 テレビを持っていなかった。インターネットだけだ。ユーチューブで動画を見た。

ー家族(母と弟)は何も言わなかったの?部屋から出てきなさい、インターネットをやめなさいとか?

 そう言っていたよ。でも、最後はあきらめたようだ。17歳で1人暮らしを始めるまで、インターネットを1日中やっていた。1人になってからはもっとコンピューターにのめりこんだ。家族は僕をサポートしてくれた。たぶん、僕はコンピューターに時間を割きすぎていたんだと思う。

―自分ではこんなことをしていてはいけない、外に出なきゃとかは思ったのか?

 難しいバランスだった。自分では外に出て、いろいろなところに行って見たい。何かしてみたい。でも、それがなんだか分からない。あんなさびしいところでは、何かをすることが難しかった。何かをしようとしてもがいていた。自分に刺激を与えるほどの何かを見つけることができなかった。悪しき循環というわけだ。何かをしたかったけど、町が小さすぎた。はるかに面白いことにインターネットに行けば毎日、出会えた。健康的ではなかっただろうけど、それが現実だった。

ーアノニマスやラルズセックのメンバーたちも出没した4チャン(日本の2チャンネルの英語版)だが、掲示板の書き込みを見ると、会話のスピードがものすごく早い。「このホモ野郎」とか、攻撃的なあるいは差別的な言葉も頻繁に使われている。どう受け止めていたのか?

 当時は14か15歳。使っているうちに慣れた。使い始めてすぐに分かったのは、4チャンを使う人はとても攻撃的に、侮辱的に振舞うようにとある意味では期待されているということだった。利用者と4チャンの場以外で会ったことがあって、4チャンというのはインターネット上の舞台なんだと思った。あそこに行って、見世物を演じる。できうる限り攻撃的になるんだ。

 4チャンでの言動を実際にオフラインでする人に会ったことがない。4チャンに行けば、あんなふうに発言する。誰しもがそうする。

 4チャンを使うなら、あの雰囲気に適合しないと。利用する人はみんなそうしてる。普段利用しない人からすれば、確かに異様かもしれない。誰しもが最も早く、最も攻撃的な言動をしようとするのだから。

―一種のゲームのような感じ?

 一瞬、4チャンの場にいるときだけかぶるマスクのようなものだろう。過激な4チャンの場は必要だろう。その後で、穏やかな普通のインターネットの世界に戻るためにも。4チャンもそうだし、アノニマスのイメージボード(掲示板)もそうだ。使うときには一種の仮面が必要となる。

 心理学にとても興味を持っている。自分が利用者になるというよりも、どうやって機能しているのか、知りたかった。

―15-16歳ごろ、よく行っていたウェブサイトは?

 ソーシャルメディアを使ったことはなかった。ツイッターの人気が出始めた頃だった。時間を最も費やしたのはオンラインゲームだろう。ゲーム類のサイトだな、よく行ったのは。すばやくカーソルを動かすようなサイト。それと、ウィキペディアをよく読んでいた。マニュアル類も毎日のように読んでいた。特に目標があったわけではない。時間をつぶすためだ。ネット上で他の人と話したり、静かに知識を蓄積していた。新しい友達を作ろうとしていた。
 
 友達を作るって言うのが本当に大きな問題だった。引きこもりだったから、実際に友達が誰もいなかった。オンラインで話ができる、最高に面白い人を探していた。スカイプ、音声チャットなんかをやっていたな。ヘッドフォンをつけてね。

―ネットの上では友人たちがいたわけだ。

 そうだ。オンラインコミュニティーに参加していた。実際には誰かを互いに知らずに通信していた。

―オンラインの匿名での会話は特別な感情を引き起こすことがある。時として、オンライン上での自分の発言を後悔するとき、リアルの人生で言ったときよりも強い感情を引き起こす。そういう経験はないか?
 
 その意味はよく分かる。その逆の場合もあるだろう。自分の場合は文字の裏に人がいることが実感できなかった。逮捕されてからやっと、人間がいることが実感できた。

―ラルズ・セックでは「トピアリ(Topiary)」という名前を使っていたが、その前にどんな名前をオンライン上で使っていたのか?

 覚えていない。14か15歳の頃、仮名を使っていたとき、きっとコンピューターのオタクがするように、異様に長い名前だったんじゃないかな。数字と文字、大文字小文字とかを組み合わせて。

―仮名を使っていると、その仮名が生み出す、1つの性格ができていくね。

 そうだ。だから、2-3ヵ月に一度、名前を変えていた。でないと、1つの性格に固まってしまう。周りの人はあるプロフィールを作り上げてしまう、1つの名前に。後でそんなプロフィールにそぐわない発言をしたりするようになる。だから、時々変えた。

 でも、トピアリについては長い間使っていた。おそらく、間違いだったと思う(逮捕につながったから)。7-8ヶ月ぐらいだろうか。ほかの名前はたくさんあったので覚えていない。(つづく)
by polimediauk | 2014-10-20 20:57 | ネット業界
 世界10カ国・地域を対象とした、デジタルニュースの利用についての調査で、日本はニュースをソーシャルメディアで共有したり、ウェブサイトにコメントを書く比率が他国と比べてかなり低いことが判明した。

 英ロイタージャーナリズム研究所が毎年出している「デジタルニュースリポート」の最新版は、各国の市民がどのようにネット上でニュースを閲覧しているかをさまざまな角度から分析している。(その概要については読売オンラインにまとめている。)

 調査の対象となった国・地域は、日本、米国、英国、ドイツ、フランス、デンマーク、フィンランド、スペイン、イタリア、ブラジル都市部。対象者は全部で約1万9000人。

 ニュースをどのように利用しているかについて調べたところ、「ニュースの参加度」という点では日本の数字が極端に低い。これは前年もそうだった。以下はリポートの中の「国別参加度」の表である(上記リポートの73ページ目)。

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 左から、米国、英国、ドイツ、フランス、デンマーク、フィンランド、スペイン、イタリア、ブラジル都市部、日本の順だ。

 項目は、上から「ソーシャルメディアでシェアする」、「電子メールでシェアする」、「記事を評価する・いいねをつける」、「ソーシャルメディアでコメントする」、「ニュースサイト上でコメントする」、「ニュースについてブログ記事を書く」、「ソーシャルメディアに写真をアップロードする」、「ニュースサイトに写真をアップロードする」、「オンライン投票をする」、「キャンペーンをオンラインで行う」、「オンライン上で友人にニュースについて話す」、「誰かと会った時にニュースについて話す」だ。

 日本の項目を眺めると、ほとんどが一ケタ台で、「ニュースサイトにコメントを書く」は3%のみ。二ケタ台(14%)になったのは、「誰かと会った時にニュースについて話す」のみ。

 逆に、非常に活発にオンライン上で活動をするのがブラジル都市部の市民だ(会った時にニュースについて話す人は44%、ソーシャルメディアで共有は42%、ソーシャルメディアでコメントが33%)。イタリア、スペイン、米国の市民たちもネット上でニュースについて盛んに会話を行っている。

 リポートはなぜ日本で「ニュースの参加度」が低いのかについて、分析していない。ロイター研究所にはぜひこの点を解明していただきたいものだ。

 自分自身の体験から言えば、自分あるいは自分の友人たちあるいはフォロワー同士の反応を見ると、面白い、興味深いトピックがあれば、すぐにシェアがあるので、こうした結果は必ずしもぴんとは来なかった。ただ、「一部の人が盛んにシェアしている・ニュースを広めている」という状況にある可能性もある。ほとんどの人が、いわばニュースを受動的につまり、ただ読むだけという場合が圧倒的なのかもしれない。少なくとも、このリポートはそんな読み手の姿を浮き彫りにしている。

英国とスペインを比較

 日本の状況の分析はないのだが、その代わり、英国とスペインとの比較が出ている。

 そのきっかけは、米国と英国のニュースの参加度を見たときに、母語が同じ英語であり、ネットの接続度も同様であるのに、米国市民のほうが参加度が非常に高いことだった。これはもしかして、「プライバシーやネット上の透明性について、異なる感覚を持っているからではないか」と思ったそうだ。
 
 「英国人は自分の意見を表明したがらない傾向が(米国に比べて)強いのではないか」という仮説を立てた。そして、米国よりもいくつかの項目で参加度が高いスペインと英国とを比較した。
 
 「ニューサイトにコメントを残したときに、実名を使ったか」では、英国が9%、スペインが21%。

 「ソーシャルメディアで使うユーザーネームを使った(これで実名が分かる」は英国で8%、スペインが16%。

 分析の結果、スペインの市民と比べたとき、英国市民は「実名を使うよりも匿名を好む」傾向があったという。

 また、ニュースサイトにコメントを書き込むのは「若い男性」が主だという。英国の21-24歳の47%が、スペインの25-34歳の75%がコメントを書き込んだことがあると答えている。

 リポートは、結論として、米バズフィートのようなサイトはどれだけトピックが広がるかで成功の度合いを測っているけれども、これからのニュースサイトにとって重要になるのは「いかに利用者に参加してもらえたか」だろう、と書く。

 競争が激化する中で、「単にリーチや頻度で計測するのではなく、意味のあるエンゲージメント(従事度・没頭度)が鍵を握るだろう、と。エンゲージメントを高めるのは「コンテンツとブランドへの忠誠心」だという。平たく言えば、面白い・興味深い中身があることと、「このブランド=媒体=なら読みたい」と思う人を増やすことだろう。
by polimediauk | 2014-06-25 14:46 | ネット業界
 オランダのメディア・スタートアップ「コレスポンデント」(De Correspondent)の話を、これまでに何度か書いたのだけれども「既存メディアの枠を打ち破るオランダでの試み」、「8日間で100万ユーロを集めたオランダの新メディアDe Correspondent」)、ジャーナリズの面で新しいと思ったことがあったので、記してみたい。

 まず、記者=書き手と読者の関係が大きく変わる点だ。

 これまでにも、「メディアサイトは双方向であるべきだ」と言われてきたし、もうそんなことを言う必要がないぐらい、既成事実化しているとも言っていいだろう。

 しかし、その実態はというと、たいがいの場合、

 ―ウェブ記事の最後にコメント欄をもうけている

 ―ソーシャルメディアでシェアできる(例えばツイッターでシェアした場合、ツイッターのプラットフォームで議論が続く可能性)

 -記者・編集スタッフがソーシャルメディア上で情報交換(感想を述べたり、時には批判したり、情報交換などが主)

 などが中心だったのではないだろうか。

 「オープンジャーナリズム」ということで、編集室の様子をガーディアン紙が見せていたこともあったし、ガーディアンは一定の才能を持つ人にはブログを開設させてもいる(「コメント・イズ・フリー」)。

 作るほうからすれば、いちいち読者の意見を巻き込んで作るというのはやっかいではあったろう。どんどんニュースを発信していかないければならないわけだから。

 「コレスポンデント」の場合、さらに一歩踏み込んだ関係性を作り上げているようなのだ。サイトを見ると、記者+読者の新しい関係がよく分かるつくりになっている。

 今後、「コレスポンデント」がどこまで読者の支持を得るか分からず、もしかして私が気づかない、ほかのサイトがもうすでにやっているのかもしれないが、ひとまず、ここで紹介してみたい。

―関係性を変える9つのポイント

「コレスポンデント」の創業者の1人がブログ「メディアム」(4月30日付)で、記者と読者の関係性を変える9つのポイントを紹介している。タイトルは「なぜ私たちがジャーナリストを会話のリーダーとし、読者を専門コントリビューターとしているか」である。

 9つのポイントとは

(1)「コメント」でなく「コントリビューション」

 ウェブサイトの記事の下に設けられているコメント欄。これをコレスポンデントは「コメント」でなく、「コントリビューション」(貢献)と考えているという。

 小さな言葉の違いかもしれないが、サイト側が読者に何を期待しているかを示すものだという。
  
 察するところ、コメントといえば、記事=主があって、それにつく感想のような位置付けになる。しかし、記者よりも専門的な知識を持っているかもしれない読者が記事の厚みを増すために情報や知識を貢献する、というわけである。

(2)購読者(=メンバー)のみが貢献できる。実名のみ

 コレスポンデントは年間購読制(60ユーロ=約8000円)をとる。購読した人だけが記事に貢献できる、としている。実名以外で記事に貢献したいなら、記者に電子メールを送ることを奨励している。また、完全に匿名にしたいなら、暗号化メールも受け取れるように設定されている。

(3)貢献したコンテンツはグーグルの検索対象に入らない

 これで安心して、貢献できるというわけだ。読者の中にはグーグルに拾われることへの警戒感があるという。

(4)購読者はなぜその道の専門家なのかを表記できる

 読者が貢献をするとき、「xxの博士号を持っている」などと書ける。短い履歴などを書くことで、さらに議論が深まるということのようだ。

(5)記者は2つの形で記事を出版できる

 1つはすべての購読者用で、読み手に専門知識があるかどうかは問わない。2つ目は自分をフォローしてくれる読者用だ。自分をフォローしてくれるぐらいの読者には担当の分野の知識がある程度あることを意味する。こうすることで、記事に貢献するようなことを書く読者も、深いことが書けるし、議論がより高いレベルになる。

(6)すべての記事を読者への問いかけの形で終わらせる

 こうすることで、記者がいわゆる「会話のきっかけを作る人」になれるということのようだ。

(7)読者にはゲストとしてコラムを書く機会がある

(8)世界でもっとも偉大な名刺整理箱を作る

  まだ実験中の試みで、記者がよい情報を共有してくれた読者に「専門家」というタグをつける。タグ付けがたまったら、バッジを出すとか、書き手としてコレスポンデントに向かい入れるなどを考えているようだ。

(9)正しい態度から(すべてが)始まる

 記者が読者との会話を始める役をつとめ、読者がそれに答えてゆくことで、サイトの質も高まるーこういう考え方があってこそ、テクノロジーが追いついてゆくのだという。

 さて、ここまで読んで、ぴんと来た方も来なかった方もいらっしゃるだろう。(1)から(9)のポイントがどのようにサイト上に生かされているのかをみると、すっと頭に入るはずだ。

 例えば、テクノロジー記者マウリツ・マルティン氏のコーナーはこんな感じになる。
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 オランダ語が理解できなくても、まず、斬新なデザインにちょっと驚くだろうと思う。

 イラストの上に記事のタイトルが重ねられ、下に記事が掲載されている(中身は購読者ではないと読めない)。読者への問いかけも下にある。

 右側には記者のバイオ。電子メール、ソーシャルメディア、暗号化通信の連絡先。記者が面白い思った記事などが下に紹介されている。

 記者が関心を持つテーマを読者も同時に追うことができる。会話が生まれる仕組みがここにある。

 デジタルのニュースメディアで、どうやってニュース・記事を出してゆくか、どんな風にして読者をエンゲージしてゆくのか、まだまだこれ!という正解はないのかもしれない。

 私自身は、コンテンツの編集者たちがテクノロジー、デベロパー、ウェブデザイナー、アーチストたちと働くことで、頭の中にあるぼやっとしたことが形になってゆく様子をコレスポンデントのサイトで見たような思いがした。
 
 



 
by polimediauk | 2014-05-27 21:49 | ネット業界
 先日、境治さんが「日本版1周年にあたりハフィントンポストに期待すること」というブログ記事をお書きになっていた。ハフィントンポストで読ませていただき、私も一言と思い、まねをして(!)書いてみようと思う。

 私は普段、主に英国のメディアの動きについて書いており、欧州のメディアにも少し目をやる。BLOGOSさんやヤフーの個人ニュース、ビジネスニュースさんにもとてもお世話になっている。

 しかし、ハフィントンポスト日本というのは、一つ、違ったポジショニングがあるのだろうと思う。使命、というようなものがあるのではないか。
 
 私がハフィントンに期待することは、たった一つ。「リベラル論壇」であり続けてほしい、ということだ。

 具体的なイメージとして、昔、朝日が出していた「論座」という月刊誌があった。ちょっとふざけているような(?)記事もあったような感じがするが、これがまたいわゆる「遊び心いっぱい」で楽しかったものである。記者が、インタビューをされる著名人に叱られ、そのありさまを記すなど、非常に痛快であった。 (残念ながら、雑誌は廃刊になってしまった。)

―リベラル論壇とは何かーあくまで私的なとらえ方

 「リベラル論壇」といっても、これを思想的にきちっと説明するのは私の知識・学識・知能をこえてしまうのだけれども、イメージとして、「愛国主義的に陥らない」、「保守とは反対方向」、「自分とは異なる意見をすぐに否定しない」、「自由(言論の自由を含む)を尊重」-。

 逆に言うと、ハフィントンポスト日本誕生以前の日本のネット言論(実はネットだけではないのかもしれないが)は、どちらかというと保守系、右派系が強いように感じてきた。

 例えば、アジア諸国のことや領地問題にちょっとでも言及すれば、一定の方向の言説をいわなければ非難の嵐(?)。「英国ではこうですよ」と書くと「外国かぶれ」とされてしまうような。

 非常に呼吸がしにくい言論空間になっていたような気がする。

 その一方で、ネットの外の、例えば既存大手メディアに目をやれば、特定のイデオロギー色が非常に強いことがあり、これにもへきえきしていた。英国のタブロイド・大衆紙がそうするのなら分かるが、しっかりとした報道機関であるのだが、議論を一定の方向に向けるために必要な情報を入れないような記事を見かけたりし、暗たんたる気持ちにもなった。 

 イデオロギーにがんじがらめになるのは、よくないのだろうと思う。左も右も、である。息苦しくなってしまう。

 息苦しくならないための1つのやり方は、外に目を向けることだ。

 例えば、ここ数ヶ月、ハフィントンポスト日本では海外(欧州)の子育てや女性の生き方、男性がどれぐらい家事を手伝っているかなどの話がちょくちょく掲載された。外国の例がすぐに日本に採用されるとは思わないが、「ちょっと一息」つける話の数々であった。

 これからも、特定のイデオロギーに偏ることなく、自由な気風を全うしていただきたい。 

 そして、境さんが書かれていらっしゃるように、「世界」の話も継続して紹介していただきたい。日本で議論が熱っぽくなりつつある「戦争」の話は世界を見渡すことで、まったく違った立場で考えることができるだろう。「戦争」は日本にとっては70年前の遠い出来事かもしれないが、世界中で今、この瞬間にも起きていることも知ってほしい。理論ではない国がたくさんある。(ちょっとイデオロギーぽっくなってきたので、ここでやめようと思う。)

 時に軽く、時には愉快に、時には真剣に。

 でもでも、リベラル論壇であり続けますように。
by polimediauk | 2014-05-26 06:12 | ネット業界
 グーグルの広告ビジネスを概観する拙稿を「日経広報研究所報」2014年2-3月号に出しています。以下はそれに補足したものです。昨年末時点の情報をもとにしています。)

利用度低い国・地域も

 これからの広告市場とグーグルの位置づけを考えてみたい。

 広告市場の今後を占うキーワードは、デジタル、モバイル、動画の3つとされている。

 プライスウォーターハウスクーパースの予測によると、デジタル広告市場は12年の1002億ドルが17年には1854億ドルに拡大する。そのなかで検索連動広告がデジタル広告に占める割合は、12年の43%が17年には41%に低下するものの、首位を堅持するという。シェアの低下は、広告主の間でモバイルや動画への関心が高まるからだ。

 一方、ディスプレー広告はいかに目立たせるかという悩ましい問題が深刻さを増し、デジタル広告内のシェアは12年の29%が17年には27%に減る。動画広告は12年に前年比33%増を記録し、シェアは3・8%だったが、17年には6・5%に拡大する。もう一つ急拡大するのがモバイル広告で、17年には270億ドルに達し、ネット広告全体の15%(12年は8・3%)を占めるようになる。

 グーグルは全世界の検索エンジン市場で圧倒的な地位にあり、ネット広告分野でも同様の存在感を持つ。これを追いかけているのがフェイスブックだ。

 eMarketerによると、米国内のデジタル広告売上高のうち、グーグルは40%以上を維持しトップを独走している。2位のヤフーが徐々に比率を下げる一方、フェイスブックはシェアを増大させている。もちろんその差は2015年で見ても、グーグルの44・0%に対して、フェイスブックは8・3%とまだまだ大きい。しかしモバイル広告にしぼると、フェイスブックのシェアは2ケタ台にあり、その差が縮まっている。

 グーグルの広告ビジネスの課題をあげるとすれば、クリック単価の下落、パソコンからモバイルへのシフト、検索連動広告のネット広告内での比率低下などであろう。

 また、世界各国・地域での市場開拓も課題の1つだ。昨年10月、英オックスフォード・インターネット・インスティテュートはウェブサイト分析の専門会社米アレクサ社と共同で、世界各国の人気サイト調査の結果を発表した。それによると、グーグルは50カ国で最も訪問者が多いサイトとなった。フェイスブック(36カ国で訪問者が最多)、ユーチューブが続く。ユーチューブはグーグル傘下にあるので、合わせればグーグルが飛びぬけたトップともいえる。

 しかし、グーグルは世界各国でまんべんなく人気があるわけではない。強いのは欧州諸国の大部分、北米、オセアニア地域に限られる。フェイスブックは中東、アフリカ北部で首位に立つことが多い。中国では百度の人気が高い。2010年、グーグルは中国当局による検閲を嫌って市場から撤退している。日本や台湾ではグーグルよりヤフーの人気が高く、ロシアもヤンクスが首位にある。

フェイスブックとグーグル、ツイッターの戦い


 デジタル広告市場を誰が将来牛耳るようになるかについて、米ネット界では議論が沸騰しているが、最強のグーグル、これに続くフェイスブックのどちらが勝つかを米調査会社フォレスター・リサーチのネイト・エリオットが論じている(米サイト、All Things Digital、13年8月21日付)。

 フェイスブックで「いいね!」を押す、ツイッターでつぶやく、米電子商取引サイト、アマゾンでレビューを書き込むー世界中で、こういった行為に興じる人が世界中に存在するようになった。このようなソーシャルメディア上の活動は、利用者がある人(あるいは人々)、製品、モノについての好みや結びつきたいという思いの表れだ。

 自分は何(あるいは誰)について親しみ(アフィニティー=affinity)を感じるのかという情報がネット上に蓄積される一方で、何かを探しているときの情報が検索エンジンによって収集されている。

 エリオットによれば、後者、つまり検索エンジンは人がこれからやろうと思うこと、つまりある意図(インテンション=intension)についての情報を集めていることになる。人が何を欲しがっているのかが分かれば、何を売れるかも分かってくる。「意図についてのデータをターゲット広告に使い、売上げを上げているのがグーグル」だ。

 ところが、「親しみの感情」を貨幣化することは簡単ではない。その証拠は、グーグルは12年で約500億ドルの売上げとなったが、フェイスブックが50億ドル程度だったことだ。

 大きく差がついた1つの理由は、親しみの感情は普通、何かを購買・所有・消費した後で生じるためだとエリオットは説明する。「既に持っているものに対する感情」だからだ。意図についての情報ほどには、短期間の購買行動に結びつかない。親しみの感情をマーケティングに使うためには、ブランド価値を育むなど、中長期の戦略が適しているという。

 エリオットは、グーグルとフェイスブックのどちらが利用者について集めた情報をマーケティングに使う競争で勝つかを分析し、グーグルに分配をあげている。

 その理由は

 (1)「グーグルが広い範囲のアフィニティー・データを収集している」から。グーグルが収集しているのは検索を通じての意図の情報だけではない。傘下のユーチューブには毎月8億人が訪れ、500万人近くがユーチューブで視聴した動画をGメールを使って友人たちと共有している。グーグルの検索表示画面には様々な項目についてのレビュー、ブログ、ツイートなどが出てくる。不人気と言われるグーグル・プラスだが、2億人を超える利用者が自分が気に入った情報を載せている。

 (2)「データに意味を与える点で、グーグルはフェイスブックよりも優れている」。ある情報についてさまざまな文脈を示す情報をあわせて出すーこれは検索エンジンとしてのグーグルの得意とする点だ。グーグルが持つ、ネット広告の配信インフラ、ダブルクリックは過去15年間、検索エンジンの利用者に検索項目に合致した広告を表示してきた。広告主には結果を分析するツールを与え、グーグルが持つデータを活用もさせている。

 (3)「グーグルはブランドのインパクトを構築する広告ツールを持っている」。ブランドを強くアピールできる媒体をグーグルは既に持っている。例えば、ユーチューブで見たい動画が始まる前に流れる広告は100万単位の視聴者に届く。これは通常のテレビ番組並みだ。グーグルと提携するウェブサイトやGメール、ユーチューブの画面の一部にリッチメディアの広告を出す「グーグル・ディスプレイ・ネットワーク」もフェイスブックの同様のサービスと比較すると優れている、とエリオットは書いている。

ツイッターはどこまで伸びる?

 グーグル、フェイスブックと比較すれば規模が大きく異なるツイッターだが、米国の900の広告主を対象として調査したところ、その将来に大きな期待が寄せられていることが分かった(米サイト、Investing、12月13日)。

 米RBC Capital MarketsとAd Ageの調査によると、インターネットのトレンドである「モバイルでの利用」、「テレビに投入されていた広告費がネットに向かっている」がツイッターの広告媒体としての潜在的可能性を高めているという。

 900の広告主の中で、71%が既にマーケティング目的でツイッターを使っており、今後一年間に広告をだすことを考えているという広告主が81%だった。すでにマーケティング用にツイッターを使っている広告主の60%が14年はツイッターを使っての広告・マーケティング費用を増やすと答えている。

 RBC Capital Marketsの分析を担当したマーク・メハーニーは、ツイッターの魅力として「テレビとの相乗効果」を挙げている。

 日本でもテレビ視聴とツイッターを結びつける動きが活発化している。昨年12月10日、テレビの視聴率を記録するビデオリサーチ社は、今年6月から、テレビ番組に関連するつぶやきを番組ごとに集計し、視聴率とは異なる指標を作ることを発表した。

最後に

 本稿では大手広告会社としてのグーグルに焦点を当てたが、広告業で足場を固めながら規模を拡大させる同社は、「検索エンジンの会社」という呼び名では似つかわしくないほどに日々成長を続けている。

 めがね型コンピューター「グーグルグラス」で多くの人の度肝を抜いたかと思うと、新たにロボット事業を発表し、次々と新たな発明を形にしている。技術革新を行う、発明企業という捕らえ方が現在最もふさわしいかもしれない。広告の仕組みばかりか、社会を変えていく企業といえよう。 

 もしアキレス腱があるとすれば、「ソーシャル」だろうか。フェイスブックやツイッターはSNSとして大きく伸びた。情報が膨大になったからこそ、友人、知人のお勧めというフィルターを経た上での情報に価値が高まっている。巨大になりすぎたグーグルに人々が警戒感を持つようになれば、必ずしも安泰とはいえなくなるのではないか。

余談

 私自身は、何もかにもがグーグルでできてしまう世界・・・というのはどうにも奇妙な感じがしてしまう。なんだか、息苦しい。グーグルをしのぐような企業は出てこないものなのだろうか?これだけネットインフラで大きな位置を占めるようになったグーグルは、公共組織化するべきではないのだろうか?

 英誌「エコノミスト」のデータエディターで、ビッグデータについての本を書いた米国人記者ケネス・クキエ氏に、そんな疑問をぶつけてみたことがある。クキエ氏はグーグルが公共組織化するべきとは「全然思わない」。公権力は常に不正を働こうとするからだという。市場の力で動く民間企業のほうがよっぽど信頼できる、とー。公共放送BBCが提供する幅広い娯楽や報道番組を視聴でき、無料診療を原則とする国民健康保険サービスがある英国に住む自分は公共サービスの恩恵を日々享受しており、民間企業の限界を感じてしまうのだけれどもー。

 みなさんは、どう思われるだろう?

 (長い記事の拝読をありがとうございました。)

 (日経広報研究所が出している「日経広報研究所報」 2014年2-3月号掲載分の筆者記事に補足。)
by polimediauk | 2014-03-03 17:48 | ネット業界
 (グーグルの広告ビジネスを概観する原稿を日経広報研究所が出している「日経広報研究所報」 2014年2-3月号に出しています。以下はそれに補足したものです。昨年末時点の情報をもとにしています。)

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 グーグルが展開するインターネット広告サービスの中核と言えるのが、アドワーズとアドセンスである。

3者がハッピーになれる広告とは

 2000年に開始したアドワーズは、企業などが製品・サービス・ビジネスに関連するキーワードのリストとともに広告を出稿する仕組みだ。グーグルを使って検索する利用者がリストにあるキーワードを入力すると、これに付随した広告が検索表示画面に連動して掲載される。広告の掲載位置や料金は入札で決まり、最も一般的なクリック単価制を採用した場合、利用者が広告をクリックした時だけ料金が発生する。広告主は、掲載先のウェブサイトや地域(国、都道府県など)を指定できるのも利点だ。

 サイトにコードを埋め込むことで、広告を通してサイトを訪れた見込み客数や、実際に購入や申し込みに至ったかどうかといった情報も取得できる。

 アドセンスのサービス開始は03年からで、広告が検索結果画面ではなく、利用者のウェブサイトに関連して出てくる。利用者は、自分が運営するサイトのどこに掲載するかを指定し、広告の種類を選択する。広告コードをサイトに掲載すると、広告主がリアルタイムオークションで広告枠に入札し、最高額の広告が常にサイトに表示されるようになる。大きな広告予算を持たない企業でも気軽に使えるため、参加企業が見る間に増えていった。

 利点として、競合他社や不適切な広告をフィルタリングできる、さまざまな広告フォーマットを選択できる、パフォーマンス報告と分析ツールの「グーグル・アナリティクス」を参考に改善が図れるなど。また、広告主は一度広告コードをウェブに追加すれば自動的に広告が表示されるようになるので、その後は何もしなくても収益が上がるといったメリットもある。

 グーグルについての著作「イン・ザ・プレックス(In the Plex)」を書いたスティーブン・レビーによると、最適な検索結果を出すことを目指すグーグルにとって、アドワーズの仕組みは同社らしいサービスで、「広告の質」を示す最初の試みとなった。「グーグル、広告主、そして特に利用者の3者全員がハッピーになれる」。自分に関係ない広告がサイトに出れば、利用者は不満を持つ、だからグーグルは「無関係な、いらいらさせるような広告を出さない仕組みを構築することを最優先した」としている。

増益基調も、クリック単価下落が悩み

 グーグルの財務状況に目を向けてみたい。12年決算は、売上高が501億7500万ドルで、前年に比べ32%増加した。営業利益は8・7%増加し、127億6000万ドル。純利益も10・3%増の107億3700万ドルだった。

 12年に買収したモトローラ・モビリティを除く売り上げは460億390万ドルで、21%の増加(2014年1月末、売却を発表)。

 10月に発表した13年度第3四半期(7-9月)決算によれば、売上高は前年同期比12%増の148億9300万ドル、純利益は36%増の21億7000万ドルと好調を維持している。
グーグル直営サイトを通じたアドワーズによる収入は22%増の93億9400万ドル(売上高137億7200万ドルの68%)で、アドセンスプログラムを通じたパートナー経由の収入はほぼ横ばいの31億4800ドル(同23%)。それ以外の9%は「その他の事業収入」で、85%増の12億3000万ドル。グーグル・アップスや携帯機器用OS(基本ソフト)のアンドロイドなどだ。

 ペイドクリック(利用者が広告をクリックした数)は前年同期比26%増と、過去一年で最高の伸び率を記録した。半面、クリック単価は8%、前期比でも4%減った。単価が低いモバイル広告への移行が進んでいるのが要因と言われる。

 ペイジCEOによると、グーグルが所有する動画投稿サイト、ユーチューブへのモバイル機器からのトラフィックは、2年前は10%足らずだったが、現在は40%前後に増えた。同社が携帯電話を製造するモトローラを買収したのも、モバイル強化の一環だ。13年2月にはクリック単価の低下に対抗するため、スマートフォン、タブレット、デスクトップの広告を統合するサービスを始めている。

全能か無能か

 グーグルが広告会社として成功した背景に、インターネットの急速な発展・普及といった時代の大きな流れがあったことは否定できない。

 「世界中の情報を記録・整理する」目的を掲げて、検索エンジンに優れたアルゴリズムを採用し、最新技術を駆使したサービスを次々と展開しながら、利用者の情報を絶え間なく収集してきた。

 検索などのサービスを世界規模で拡大した結果、地球上に張り巡らせたネット広告の大きなプラットフォームが出来上がった。個人や中小企業に対し、手持ち資金が少額でもネット上に広告を出せるシステムを提供し、市場を拡大させている。

 米オムニコムと仏ピュブリシスの合併は年間50億ドルの経費削減につながるうえ、メディア購入部門の拡充で広告主への貢献度合いが高まるのがねらいと言われる。

 しかし、この合併策も移り変わりの激しい広告業界で万全の策とは言えないと、英エコノミスト誌は警鐘を鳴らしている。同誌は13年8月3日付記事で広告会社の将来像を分析し、オムニコムの社名をもじって、見出しに合併が「全能か、無能か(Omnipotent, or omnishambles?)」を掲げた。

 「無能」となるかもしれない要素として、エコノミスト誌はグーグルやフェイスブックのようなネット企業はサイト利用者について豊富なデータを持ち、広告主は広告会社を通さずに直接モノやサービスを売りたい顧客に結びつくことを可能にした点を挙げる。

 テレビや新聞といったマスメディア広告が伸び悩むなかで、デジタル広告市場は拡大している。その要因の一つは、広告主が広告を掲載するまでの過程が簡略化され、迅速に出来るようになったことだ。かつて広告出稿には広告代理店が欠かせなかった。広告主とメディア企業の間には広告代理店が介在し、仲介役を果たしていたが、ネット広告市場ではこのスタイルが万能でなくなっている。

 一般企業などが魅力的な広告作品を独自に制作するところまで、広告市場が大きく変わるかどうかは分からない。広告会社は今後も存続するだろうが、巨大化が生き残り策と言えるかどうかは疑問である。

フラットで自由な発想生む職場

 グーグルの広告ビジネスの発想法やイノベーションの生み出し方について、筆者がかつてグーグルの関係者に行ったインタビュー(「週刊東洋経済」2008年9月27日号)の一部を当時の編集者の許可を得て紹介したい。

 相手はグーグルの欧州及び新興市場向け製品とエンジニアリング部門のバイス・プレジデント、ネルソン・マトスで、スイス最大の都市チューリッヒにあるグーグルのエンジニアリング・調査開発センターに勤務していた。

 マトスはグーグルの検索サービスは他社サービスとは「質が違う」と説明、その要因として「カバーする地域の広さ、インデックス数の大きさ、クロール(ソフトウエアなどで自動的にウェブページを収集する作業)の頻繁さ」を挙げた。

 さらに会社組織が「非常にフラット」で「透明性が高い」と強調し、従業員ならだれでもCEOや創業者に連絡をとって議論することが可能で、全ての従業員の達成すべき課題を相互に確認できるといった体制を説明した。このシステムが会社の意思決定を迅速にし、各種サービスの開発などを効率化している。加えて「技術力が高く、起業家精神にあふれる人材を採用する」ことも、イノベーションを生み出す鍵になっている。

 以下はマトスとの一問一答である。

―グーグルのような検索サービスをほかの企業が何故できないのか

 「まずできないだろう。検索エンジンの結果の質が違うからだ。また、それぞれの地域や言語に応じた検索サービスを提供しているーこれほどの規模では他社はできない。第3として、グーグルのインフラの規模の大きさがある。検索エンジン業界で、おそらく最大のインデックスを使っている。どのウェブサイトをどれぐらいの頻度でクロールすればどれぐらいの質の高い検索サービスを提供できるのかを何年にも渡って研究してきた。他の検索エンジンはグーグルほど頻繁にはクロールしていない」

―製品開発やR&Dなどの面で、グーグルはほかの会社とどこが違うか

 「大きな違は会社の構造だ。グーグルは非常にフラットな組織体制を持つ。会社の中のコミュニケーションがスムーズに縦横に進む。会社の最高経営責任者や創業者たちに誰でもが連絡を取れ、議論できる。会社としての意思決定が非常に早く、ものごとが効率的に進む」

 「次に、雇う人材が違う。技術能力が高く、起業家精神にあふれる人を採用する。内部の仕組みも違う。プロジェクトは少人数のチームで手がけるので、良いアイデアが非常に早いスピードで発展して行く」

―エンジニアたちの「効率性」の達成をどのように行っているか

 「グーグルには他社と違う6つの要素がある。(1)「エンジニアのレベルが高い」、(2)「技術上の知識が豊富なだけでなく、起業家精神にあふれ、20%の勤務時間を独自のプロジェクトにつぎ込める人を選ぶ、(3)従業員同士のネガティブな競争をなくするために、透明性を重視する-すべての内部情報に誰でもがアクセスできるようにしている。(4)4半期ごとの達成目標がすべての従業員に設定されている。これは最高経営責任者から秘書職までの全員だ。ネガティブな競争がなくなり、共同で働くことができる」

―それでも競争が起きそうになったらどうするか?

 「良い・悪いなどの主観的決定をするには、データでの裏づけを示す(5)。データで良し悪しを判断できない場合はユーザーに焦点を合わせる。ユーザーにとって良いことかどうか。最後(6番目)の秘訣はスピードだ。ネットの世界ではスピードは本当に重要な要素だ。早く開発して、市場に出し、フィードバックを元にアップデートし、また市場に送り出すー何度も。とにかく早く動くことだ」

―世界中に散らばるエンジニアたちを統括する役目を担うと聞く。どのようにして「管理する」あるいは仕事の動機付けをしているのか?

 「モチベーションを与える必要がない。理由は、エンジニアたちが自分たちでモチベーションを見つけているからだ。グーグルは非常にフラットな組織になっている。そして、非常に技術力に優れた、かつ自分でアイデアを発想・開発できる人を雇う。そうすると、社内で、私がエンジニアのところに行って、『ある言語で検索をしやすくするにはどうしたらいいか考えて欲しい』と言わなくてもいい。エンジニアが私のところにやってきて、「ユーザーが検索ワードを入力する時、途中まで入力しただけで、検索が始まるサービスを作ったらどうか」と言う。私がやるのは、『それはいいアイデアだ。よしやってくれ』と言うだけだ」

 「ただ、折を見て、方向性を示すこともある。世界でどんな技術上の挑戦があるか、すべてのエンジニアに情報を出している。一旦、全体的な方向性を示すと、エンジニアたちは勝手にどんどんアイデアを考え出してゆく」。

 マトスは現在、チューリッヒでの勤務を追え、米サンフランシスコのグーグル・オフィスで働いている。(つづく)
by polimediauk | 2014-03-02 19:06 | ネット業界
 メッセージングアプリ、ワッツアップをフェイスブックが巨額で買収することになり、大きなニュースとなった。グーグルもワッツアップを買収する交渉をしていたといううわさが出た(グーグル側は否定)。

 世界で最も大きいネット広告の市場は米国だが、ここでシェアの奪い合いをしているネット企業といえば、グーグルとフェイスブックが視野に入ってくる。

 グーグルはこのところ、人口知能にかかわるネット企業の買収もしており、「検索大手」という呼び方におさまらない存在になっている。

 昨年末時点での情報を使って、日経広報研究所が出している「日経広報研究所報」(2014年2-3月号)に、グーグルについて書いた。

 以下はそれに若干補足したものである(題名や見出しを少し変えている)。

 グーグルなどのネット企業は刻々と変化をとげているので、3月上旬現在、若干古くなってしまった感さえある分析となったが、グーグルとはどんな会社で、これからどこに行こうとしていくのかを考える1つの「まとめ」あるいは「概観」として見てくださると幸いである。

 長いので何回かに分けている。また、事実の間違いがあったらご教示願いたい。

米オムニコムと仏ピュブリシスは合併を選択したが

 2013年7月、広告市場で売り上げ世界第2位の米オムニコムと3位の仏ピュブリシスは、合併することで合意したと発表した。これが実現するとトップの英WPPをしのぐ世界最大の広告会社が誕生することになるだけに、世界的な注目を集めた。

 オムニコム(12年の売上高約142億㌦、米eMarketer社調べ)とピュブリシス(84億㌦、同)を合わせた売上高は226億㌦だが、米大手インターネット検索会社のグーグルはこれをはるかに上回る広告収入を上げている。

 同社の年間売上高は500億㌦を超える。12年に買収した通信機器メーカー、モトローラ・モビリティの売り上げ(約41億㌦)を引いても、460億㌦に達し、その95%がグーグルサイトや傘下サイトからの広告収入だ(注:今年1月末、中国のパソコン大手レノボ・グループがモトローラを29億1000万ドルで買収することに合意したと発表した)。

 検索市場での独占的な地位や矢継ぎ早の新サービスに目を奪われがちだが、グーグルは堂々たる大手広告企業と言える。

 英プライスウォーターハウスクーパースの調査(「Global Entertainment and Media Outlook 2013-2017」)によれば、12年の世界広告市場でデジタル広告のシェアは20%だったが、17年には29%まで拡大する。その成長を支える最大の要因は検索機能である。

 グーグルは日々30億を超える検索要求に対応しており、世界中に11億人の利用者を抱える米交流サイト、フェイスブックとデジタル広告市場で激しい競争を展開している。

 今のところグーグルが圧倒的に優位な立場にあるが、2億人の利用者を持つ短文投稿サービス、米ツイッターや1億5000万人が使う写真投稿サービス、米インスタグラムが後を追っている。他のテクノロジー企業にも追いつかれないよう、グーグルには常に先を行く戦略が求められる。

 オムニコムとピュブリシスの合併は規模の拡大によって広告市場での影響力強化を狙った戦略と言えるが、欧米メディアの報道からは「大きさで勝負するのは古い発想だ」「大きな組織は小回りがきかない」「重視すべきはテクノロジーへの投資だ」といった声が聞こえて来る。多くの人々がインターネットへの依存度を高めており、各利用者の行動を数値で計測できるネット広告の重要性も高まっている。このような現状を踏まえた発言と言えるだろう。

 グーグルはどのように広告ビジネスを立ち上げ、インターネットおよび広告業界に影響を与えているのか、今後の展望を含めて考えてみたい(文中敬称略)。

二人の出会いとページランク


 まず、グーグルの成り立ちと基本的なビジネス構造を振り返る(あまりにも有名な話だけれども)。

 1995年、米スタンフォード大学で博士号取得を目指して勉強していた二人の青年ラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンが出会ったのが発端だ。二人はともに22歳だったが、翌年グーグルの前身となる検索エンジン、バックラブを開発する。

 98年には非公開会社としてグーグルを創業し、2004年に株式公開した。11年からは創業者の一人ペイジが最高経営責任者が、エリック・シュミットが会長を務めている。シュミットはペイジやブリンより18歳年上で、01年にグーグルのCEOに就任する前は米ソフト開発企業ノベル(Novell)のCEOだった。もう一人の創業者ブリンは現在、特別プロジェクトを担当している。

 グーグル検索の中核は「ページランク」と呼ぶアルゴリズムで、常に更新されている。検索要求に最も合致する結果を出すために、該当するウェブサイトと他サイトのリンクに注目、その他ウェブサイトの訪問頻度、検索キーワードの位置、サイトの誕生年なども考慮しているという。

 同社サイトなどによると、以下のような過程を経て検索結果が表示される。

 グーグルは60兆を超えるウェブサイトを巡回し、サイトのページ同士のリンクに注目する。内容やその他情報を取得し、インデックスを作る。インデックス情報は1億ギガバイトにも上る(13年12月現在)。

 利用者が検索キーワードを入力すると、独自のアルゴリズムによって最適な結果が表示されるシステムが働く。検索キーワードに直接関係ないのに意図的に検索結果に表示されるような操作をするウェブページもあるが、これらは自動的にはじかれる仕組みができている。ただ、すべてを機械で取り除くことは不可能なので、同社の技術者が処理する場合もある。

 筆者がグーグルサイトで検索結果の表示過程を閲覧し最後の行まで読み終わったとき、閲覧時間内にグーグルに何件の検索要求があったかが表示された。閲覧に要したおよそ6分間に約1500万件の要求があったと知って、検索数の巨大さを改めて実感した。

世界の検索市場とグーグル

 インターネット上にはさまざまな情報が飛び交っているが、グーグル創業時、必要な情報を探し出すガイド役となる検索エンジンの重要性を認識していた人はそれほど多くなかったろう。今では誰でも、検索エンジンの重要性を知っている。

 グーグルはインターネット検索市場の最大手だ。米コムスコア社の12年調査(米ウェブサイト「サーチエンジン・ランド記事)によると、同年12月時点で、世界の検索市場の65・2%をグーグルが占める。これに続くのは中国の百度(8・2%)、米ヤフー(4・9%)、ロシアのヤンデックス(2・8%)、マイクロソフト(2・5%)で、グーグルの独走状態と言える。

 日本国内はどうか。朝日新聞社の調べによると(13年10月13日付)、日本の検索エンジンのシェアは05年ではヤフー!ジャパン(53%)、グーグル(30%)、マイクロソフト(10%)、その他(7%)の順だったが、12年はグーグルが85%(ヤフー経由も含む)と圧倒的な地位を占める。

 ヤフー!ジャパンは01年にグーグルと提携し、グーグルの検索技術を採用したが、04年いったんは自社の検索技術に変更。10年に再度、グーグルの検索技術を採用した。(つづく)
by polimediauk | 2014-03-02 01:03 | ネット業界