小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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カテゴリ:ネット業界( 154 )

 英中央銀行が、作家ジェーン・オースティン(「高慢と偏見」、「エマ」など)を10ポンド紙幣の裏に印刷すると発表したことをきっかけに、女性ジャーナリストや政治家のツイッターに「殺すぞ」、「レイプするぞ」などの書き込みが殺到する事件が発生した。3日、ツイッター社の英国幹部が、悪質な書き込みを受けた女性たちに謝罪。一連の書き込みは「許されない」、今後、こうした行為をなくするようさらに努力する、と述べた。事件発生から1週間以上が過ぎており、「対応が遅すぎた」という声もある。

 中央銀行が、10ポンドの紙幣の裏に、現在描かれているチャールズ・ダーウィンの代わりに、女性の作家オースティン(1775-1817年)を印刷すると発表したのは先月24日のことだ。

 2016年からは、現在5ポンド紙幣の裏に登場する社会改革者のエリザベス・フライの代わりにウィンストン・チャーチル元首相が描かれることになっている。そうなると、エリザベス女王以外では、女性の姿が英国の紙幣から消えてしまうー。この点を懸念した英国内の女性団体は、女性が紙幣に印刷されるよう、キャンペーン運動を始めた。

 運動の中心となったのが、ジャーナリストのキャロライン・クリアドペレス氏であった。女性を選出するようにというオンラインの署名も3万5000人分が集まった。2017年以降に使われる10ポンド紙幣の裏に描かれる人物としてオースティンが選ばれたことで、クリアドペレス氏の努力が実った格好となった。

 ところが、中銀の発表直後から、「殺すぞ」、「レイプするぞ」、「爆弾をしかけてやる」などの脅しのつぶやきが、クリアドペレス氏のツイッターに押し寄せた。1日に数十回の頻度で発生したという。

 野党労働党の女性議員ステラ・クリージ氏がクリアドペレス氏を擁護する意見を表明すると、今度は彼女のツイッターに同様の悪質なつぶやきが押し寄せた。その後の数日で、ガーディアン紙、インディペンデント紙、米タイム誌の欧州特派員など、複数の女性ジャーナリストのツイッターにも「爆弾をしかけるぞ」などのつぶやきが出るようになった。

 女性たちが警察に通報し、これまでに数人の逮捕者が出ている。

 英国では、一連のツイッター事件は連日、テレビや新聞で報道された。

 しかし、ツイッター側の反応は必ずしも早くはなかった。被害にあった女性たちは脅しのつぶやきを止めるための対応をツイッター側に依頼したが、返事がないままに数日が過ぎた。

 筆者は、英民放チャンネル4の7月30日放送分で、ツイッター米本社の「信頼と安全性」部門の責任者デル・ハービー氏の返答を視聴した。同社は悪質なつぶやきが発生しないよう、ベストを尽くしていると説明していたが、何故英国で大騒ぎになるのか分からないような様子を見せ、米英の温度差を感じた。

 BBCの報道によると、「悪用を報告する」というボタンをツイッターの機能に入れるべきだという署名が、2日時点で約12万5000人分、集まったという。

 ツイッター英国のゼネラル・マネージャーとなるトニー・ウオング氏が、ツイッターの自分のアカウントから、虐待を受けた女性たちに謝罪したのは3日だった。

 「女性たちが経験した虐待はまったく受け入れられないものだ。リアルの世界で受け入れられないし、ツイッターでも受け入れられない」

 同じく3日、ツイッター英国は今回の事件や利用者からのフィードバックによって、嫌がらせについての方針をより明確にしたとブログ内で述べた。

 「悪用を報告する」というボタンはIOSを使う機器ではすでに使えるようになっており、9月からはそれ以外の機器でも使えるようにするという。
by polimediauk | 2013-08-04 07:24 | ネット業界
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(個人情報を保存しない検索エンジンDuckDuckGo ウェブサイトより)

 利用者の検索情報を保存・追跡しないという検索エンジン、DuckDuckGo(ダックダックゴー)の人気が急上昇中だ。6月初旬、米政府が大手ネット企業のサーバーに「直接アクセス」し、個人情報を収集するプリズムと呼ばれる行為を行っていると、英ガーディアン紙が報道してから、トラフィックがあっという間に増えたという。

 英ガーディアン紙の記事(7月10日付)が、DuckDuckGoの創業者ガブリエル・ワインバーグ氏(33歳)への取材を通じ、詳細を報告している。

 ワインバーグ氏によれば、プリズムについての報道が出る直前、DuckDuckGoの検索エンジンは1日に170万件ほど利用されていた。米NSA(国家安全保障局)による大規模な個人情報収集が実行されていたとする報道が連日続き、6月半ばには300万件を超えるようになったという。

 DuckDuckGoという社名は、子供用ゲーム「DuckDuckGoose」をもじったものだ。

 米フィラデルフィアにベースを置くDuckDuckGoでは、約20人が働いている。

 ネット利用者がDuckDuckGoを検索エンジンとして使う確率は低い。デフォルトで入っている検索エンジンをそのまま使い続ける人が圧倒的に多いからだ。

 それでも、クッキー(サイトの提供者が、ブラウザを通じて訪問者のコンピュータに一時的にデータを書き込んで保存させる仕組み。ユーザーに関する情報や最後にサイトを訪れた日時、そのサイトの訪問回数などを記録しておくことができる***)を使わない、利用者のIPアドレスを保存しない、ログインを必要としない、接続が暗号化されているなどの特徴があるDuckDuckGoは、次第に利用者を増やしてきた。もしNSAが利用者情報の引き渡しをDuckDuckGoに命じても、渡すべきものがないのだ。

―「グーグルでは探しだせなかったものがあった」

 ワインバーグ氏はこれまでに、友人を探すサイトOpoboxや同様のサイトClassmates.comなどを立ち上げ、売却。時間に余裕が出来たのでステンドグラスを学ぶ教室に参加したところ、先生が参考用のウェブサイトのリストを渡してくれた。このリストに載ったウェブサイトがグーグルの検索では出てこないものであることを発見し、グーグルよりもよい検索エンジンを作れるのではないかと考えた。

 そこで、ウィキペディア、米クチコミ情報サイトYelp、その欧州版Qypeなどを使って、より質の高いエンジンを作ろうと思ったという。

 利用者の検索データを保存しないことに決めたのは、個人の情報が外に出てしまいすぎると思ったからだ。2006年にはAOLが65万人の利用者によるグーグル検索履歴を流出。この情報の一部を使って、ニューヨーク・タイムズの記者が特定の個人に取材を行う事態が発生した。
 
 ガーディアンの記事によれば、パソコンを使ってグーグル検索をしている場合、グーグルはコンピューターのIPアドレスを知っている。これによって、どのインターネットプロバイダーを使っているかやコンピューターの位置情報も持っている可能性があるという。もしログイン状態だと、これまでの検索履歴も知っている。

 携帯端末でログインしている場合、位置情報の履歴についても把握しているかもしれないという。

 検索行為は非常に個人的な行為だという認識から、ワインバーグ氏は、政府がこうした情報を欲しがるだろうと想像した。「AOLの情報流出の事件を見て、政府が情報を必要とするのは避けられない動きだと思った。検索エンジンやコンテンツの制作側がデータを渡すケースも増えるだろう」。

 「検索データは最も個人的なデータだと思う。自分が抱える問題や欲しいものを入力しているのだから。ソーシャルメディアで公的に何かを入力している場合とは違う」とワインバーグ氏。

 では、グーグルは何故検索履歴などを保存しているのだろう?

 ワインバーグ氏によれば、「グーグルが、利用者についてこれほど様々な情報を保存する必要があるというのは神話だ。検索行為からグーグルが得る収入のほとんどが、利用者が検索エンジンに何を検索するか、から生じている。これ以外にはない」。

 グーグルメールやユーチューブ(グーグル傘下)など、検索以外の利用から収入を得ることは難しい、とワインバーグ氏。結果として、「ネットを利用する間、常に広告が出ている」状態となる。ガーディアンは、ディスプレー広告のサプライヤー最大手ダブルクリックをグーグルが所有することを指摘する。

―「たいがいの人はグーグルを信頼」

 検索エンジンについてのニュースを集めるサーチ・エンジン・ランドのダニー・サリバン氏は、「大多数の人は、プライバシーについて懸念を持つものの、検索をプライベートにしたいという人はほとんどいない」とガーディアンの記事の中で指摘している。グーグルの検索エンジンの利用は一日に130億件であるのに対し、DuckDuckGoは300万件なのだ。

 その理由は、「たいがいの人は、グーグルを信頼しているからだ」としている。

***クッキー情報参考サイト
by polimediauk | 2013-07-28 20:17 | ネット業界
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(米ニューヨーク・タイムズに掲載された無線ランの動きを示す画像 サイトより)

 WI-FI(無線LAN、ワイヤレス)機能は非常に便利で、私も自宅で複数の電子機器をこれでつないでいる。

 しかし、目には見えないWI-FI情報から、他者がさまざまな情報を収集することが出来る。

 この点を改めて気づかせてくれたのが、米ファッション小売チェーンNordstromのWI-FI情報を利用した顧客サービスだ。

 テクノロジーに詳しい人にとっては、今更のことだろうけれども、一部始終を紹介してみたい。

 英ニュース週刊誌エコノミスト(7月21日付、ウェブサイト)によると、Nordstromは、昨年10月から、数ヶ月にわたる実験として、米国内の17の店舗に入った客や通り過ぎた人が持っていた、WI-FI機能付のスマートフォンやそのほかの電子機器から端末識別IDや位置情報などを収集し、店舗内外での人の動きを調査していた。

 5月上旬、Nordstromは情報収集を公にし、テレビ局が報道した。ダラス州のノースパーク店では、入り口に調査の旨を告げるお知らせの紙が出されており、希望しない人はスマートフォンなどの電源を切るように書かれていた。

 情報収集の技術を提供したのはユークリッド(Euclid)という企業である。

 テレビでの報道後、Nordstromは作業を停止してしまった。

 7月になって、米ニューヨーク・タイムズがこの件を取り上げた。

 この記事には記者が取材をした動画がついている。この記事の上の写真はサイトのスクリーンショットだが、緑色の線はスマホなどを持っている人の動きを示す。

 さまざまな店舗が人の動きについての情報を収集しているのは、考えてみれば、私たちはすでに知っている。店舗内の監視カメラは珍しくもない。

 しかし、改めて情報収集の一端を知ると、驚いてしまうのではないか。

 動画の中で紹介されているのは、先の米小売のようにスマホなどのWI-FI機能から情報を収集するサービスを米シスコが提供し、コペンハーゲン空港で使われている例だ。

 また、Nordstromと同じユークリッド社のサービスを使う米カリフォルニア州のフィルズ(Philz)・コーヒーは、何人の客が店舗内に入っているかという情報によって、サービスの向上に役立てている。

 店舗内に設置されたカメラが撮影した動画を分析し、顧客(男性か女性化、大人か子供か)がどこにどれぐらい滞在したかを調査するサービスを利用しているのがリテール・ネクスト社。WI-FI機能を持つスマホを持つ人が来店した場合、たとえWI-FIにつながっていなくても、スマホは自動的にWI-FIにつながろうとアクセスポイントを探すので、顧客の位置情報を収集できるという。

 それぞれの携帯機器には個別の認識コードがついているため、ある客が2度目に店舗を訪れたことや、どのぐらいの頻度で訪れたかなどが分かる。

―洗練化されたカメラ

 ニューヨーク・タイムズの記事によれば、人の動きを監視するカメラの性能はどんどん進化しており、顧客が店内で何を見ているのか、どんな気分だったかまでを記録できるという。

 英企業リアルアイズは、ネット上の広告を人がどのように見ているかなど、顔の表情に関する情報を収集するサービスを提供しているが、リアルの世界では、実際に店舗を訪れた人が、チェックアウトのレジでどんな表情をするのかを分析している。

 ロシアのスタートアップ企業シンケラ(Synqera)は、顔の表情を基に、性別、年齢、気分を察知し、それぞれ異なる広告メッセージを提供するソフトを開発している。

 小売店に電話番号などの個人情報を提供した顧客がいれば、WI-FI機能を通して得た情報にさらに詳細な情報が加わり、個人に特定したサービスが提供できる。そんなサービスを提供する企業の1つが、ノミ(Nomi)だ。

 「私がメーシー百貨店に入ったとする。入った時点で、メーシー側は私が店舗に入ったことを認識し、私に適した情報を私の携帯に伝えてくれる。まるでネットの書籍小売アマゾンのようなサービスができる」とノミの社長はニューヨーク・タイムズに語っている。

 タイムズ紙は、多くの人が自ら進んで個人情報を提供しているエピソードを最後に紹介している。プレースト(Placed)という米企業が、小売店舗のどこにいるかを利用者に聞いてくるアプリを発売した。自分の位置情報を教える代わりに、現金やアマゾンやグーグルプレイなどのギフトカードなどがもらえる仕組みだ。昨年8月のアプリの発売から、約50万人がダウンロードしたという。

―WI-FI機能で情報収集の仕組みとは

 先のエコノミストの記事が、とのようにして情報収集が可能になるのかについて書いている。

 WI-FI機能がついたスマホ、ラップトップとWI-FIのアクセスポイント(ベース・ステーション)との間には常に情報の行き来がある。端末機器がつながることができるアクセスポイントを探しているからだ。

 その過程で、スマホなどは出荷状態の端末機器の識別IDなどの情報を公に発信している。端末機器が「スリープ」状態になっていても、エコノミストによれば、スピードは遅くなるものの、こうした情報を外に出していることは変わりないという。

 小売店の店舗内にアクセスポイントが設置されていると、これに向かって、端末機器がWI-FIにつながろうとして情報を発信し、機器の識別ID,位置、この機器を持つ顧客がどのように店舗内を動くかなどの情報が小売店側に入る。

 エコノミストによれば、これは今はやりの「小売の科学」(retail science)ともいえるようだ。

 現在、トラッキング(追跡)機能は1990年代と比較して格別に進歩しており、実際に店舗に入らず、ウインドウをのぞいただけでも、その人のスマホの識別IDなどが小売店側は取得できてしまうという。

 WI-FI機能がついた機器は、過去に無線ランにつながったアクセスポイントも通常示すので、普段どこで無線を使っているかも分かってしまう。自宅や仕事場などの情報を得ることが可能になる。

 プライバシーが侵害されていると心配する人も出てくるだろう。7月16日、先のユークリッド社などは、米シンクタンク「プライバシーの未来フォーラム」(Future of Privacy Forum)とともに、WI-FIを使ったトラッキングについて規定を設ける計画を発表している。

 以上、通信関係者には当たり前のこととは思うが、「自覚しないままに情報が取得されている」感がまだまだあるように思うので、書いてみた。
by polimediauk | 2013-07-27 20:58 | ネット業界
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 先月始まったばかりの日本版に続き、米ハフィントン・ポストが今週、新たな海外版をスタートさせた。今度は、チュニジア、モロッコ、アルジェリアなどの北西アフリカ諸国=「マグレブ」地域=に向けた、フランス語版だ。

 ハフィントン・ポストン創業者アリアーナ・ハフィントン氏のブログによると、 マグレブ向けのサイトのオープンは、この地域が「社会的、政治的、経済的に大きな変革を遂げている時」にあたる。「世界の視線はマグレブとこの地域に住む人々に注がれている」。

 新サイトはマグレブの民主主義の成長に一定の役割を果たすことも目指しているようだ。

 サイトはフランス語だが、内容を英語、スペイン語、イタリア語、日本語、ドイツ語に翻訳することで、マグレブの声が世界に伝わってゆくようにしたいという。

 6人から8人の編集スタッフをチュニジア、モロッコ、アルジェリアにそれぞれ配置する。

 ハフィントン・ポストは本国の米国以外に、英国、カナダ、フランス、スペイン、イタリア、日本でサービスを開始している。今年秋にはドイツでもスタートする予定だ。
by polimediauk | 2013-06-26 18:58 | ネット業界
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            (「BIG DATA」の表紙)

 「Big Data」(ビッグデータ)と題する本を、少し前に、書いた人に話を聞くために読んだ。5月末、講談社が「ビッグデータの正体 情報の産業革命が世界のすべてを変える」として出版した本だ。

 「ビッグデータ」(巨大な量のデータ)という言葉を意識して聞いたのは、作家・ジャーナリストの佐々木俊尚さんの有料メルマガで、「ビッグデータでプラットフォーム時代を生き延びる」という項目について書かれた文章(2012年1月、2月)を読んだ時だ。

 例えば、以下のような文章があった。

ビッグデータというのは、文字通り「巨大なデータ」。インターネットが普及するようになってから20年近くが経ち、ネット企業には膨大な量のデータが蓄積されるようになってきています。検索エンジンのデータベースや、ショッピングサイトの顧客の購買履歴。ソーシャルメディアで人々が発信した情報、ウェブメールなどでの人と人のやりとり。動画や記事。

  これらの膨大なデータが積み上がったまま放置されているのはもったいない、なにか有効活用できないだろうか?というのが、ビッグデータという考え方になって表れています。つまりビッグデータという概念は、単なる巨大なデータを指すだけでなく、それにどんな価値を見いだし、どのように有効活用するのかという方策も含まれているのです。(引用終)


  その後、さまざまなところで、「ビッグデータで儲ける」趣旨のビジネス記事を読み、「これだけでは、なんだか味気ないなあ」と思っていた。

  その一方で、もし私たちのネット上の足跡が大量の情報を形作るのであれば、その情報一つ一つがどこか一箇所にまとめられ、私たちが思いもよらなかったやり方で使われることには、懸念を持った。

  そこで、今年3月、英エコノミスト誌のデーターエディター、ケネス・クキエさんが、英オックスフォード大学オックスフォード・インターネット研究所のビクター・マイヤー・ショーンベルガー教授との共著で「ビッグデータ」という本を書いたことを知り、早速、一体ビッグデータをどう思うのかをクキエさんに直接聞いてみようと思った。

―読んでいるときに思ったこと

  読みはじめたときの私は、疑心暗鬼でいっぱいだった。ビッグデータの本を書くぐらいだから、著者たちはビッグデータの収集や活用に肯定的な意見を持っている人に違いない。

 逆に、私はビッグデータについて心配なことばかり。プライバシーはどうなるのか?勝手に(?)データを使われたら、たまらない。それに、ビッグデータの効用を信じるあまりに、「データがこう言うから」ということで、人間が判断をする余地がなくなってしまうのではないかー?

 第一、データをそれほど信じきるのなら、最終的には、データの分析で何でも済ませてしまい、最後は、人間をロボットに置き換えようなんてことにならないのだろうか?効率性を重視するなら、ロボットが良いという結論にならざるを得ないではないか?

 しかし、最後まで読むと、ビッグデータとは何で、何ができて、どんな危険性があるのかをリストアップした、非常に分かりやすい本であることが分かった。

 ページをめくると、まず、ビッグデータで何ができるかが何十ページにもわたり、列挙される。これがなかなか、「すごい」あるいは、「恐ろしい」。 生活がさらに便利になっている具体例が出てくる。

―何故ではなく「何が」

  ビッグデータの特質が語られる中で、驚くのは、データは「何故」を示さないという指摘だった。人間が物事を考えるときに「何故か」を普通に考えてしまうのとは対照的だ。つまり、人間はついつい、因果関係を考えてしまう。それが癖になっているのだ。

  ところが、データは因果関係を考えない。データが扱うのは、「何が」という部分のみだ、と本は説明する。

 例えば、ある道路を「毎時間、xxx台の車が走る」ということのみをデータは示す。「何故、xxx台の車が通るのか」を示さない。因果関係を見つけるのは、データを扱う人間なのだ。

 恐ろしいなと思ったのは、データによって、未来図が描けてしまうこと。例えば、犯罪の発生を予測することができる。便利?防犯に役立つ?確かに、そうだ。しかし、行過ぎることはないのだろうか?いまだ起きていない犯罪のために、誰かを拘束してしまうことはないのだろうか?(映画好きの方は、米映画「マイノリティー・リポート」を思い出していただきたい。)
 
 この本の醍醐味は、ビッグデータの危険性とマイナスの影響を防ぐための対処法を記してある点だ。この部分は本の最後のほうに出てくる。しかも、それほど長くはない。でも、とても大事な部分だし、ここを読むと読まないでは、ビッグデータとの付き合い方、考え方がずいぶんと変わってくるだろうと思う。

 著者が、「ビッグデータはこんなこともできる!」とほめあげたくて書いたのか、それともビッグデータの危険性の警告をしたくて書いたのか、気になった。

 そこで、クキエさんに会った時に、聞いてみた。すると、「僕はビッグデータの活用を人に勧めているわけではないよ」、「あばたもえくぼでほめるつもりはない」という答えが返ってきた。

 「自分はメッセンジャーだと思っている」、「世の中で何が起きているのかを読者に伝えるのが僕のジャーナリストとしての役目だ」―。

 ビッグデータを利用するときに気をつけること、そして何がなされるべきなのかーそれは本の最後のほうに書いてあるので、じっくり見ていただけたら幸いである。

 人間はデータに操られる必要はない。データを使うのはあくまでも人間ー私はこの本を読んで、そんなメッセージを受け取った。

***

 クキエさんのインタビュー記事も良かったら、ご参考に:

(5)データエディターとはどんな仕事?(上)

(6)データエディターとはどんな仕事?(下)
by polimediauk | 2013-06-16 01:37 | ネット業界
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(内部告発者スノードン氏の記事をトップにした、英ガーディアン紙の6月10日号)

 29歳の米国人エドワード・スノーデン氏が米政府による個人情報の収集の恐ろしさについて内部告発した事件を、英ガーディアンと米ワシントン・ポスト紙が先週から報じている。

 ここ数日で、日本語でも多数報じられるようになったが、「自分には関係のない話」、「どうせ米国(=他国)のこと」、「全体像がつかみにくい」と思われる方は、結構多いのではないだろうか。

 私自身は結構危機感を感じている。各国政府や企業がネット上で私たちの情報を監視・収集していることは知識として知ってはいたが、具体的な監視プロジェクトの名前や実情が暴露されてみると、いささかショックだった。

 この問題は、この文章を今読んでいるあなたや書いている私に直接関係のある話に思える。

 例えば、米国企業のネットサービスを使っていない日本人のネット利用者はかなり少ないだろう(実在しない?)と思う。また、米政府が外国の情報を監視・収集するとき、「日本は関係ない」とはいえないだろうと思う。現に、英国の通信傍受機関GCHQが、米政府が監視プログラムで取得した情報を使っているという疑念も出て、英政府の関与が問題となった。

 情報が錯綜しているので、現時点(11日)で、基本的な流れを整理してみるとー。

―ガーディアンがスクープ報道

 6月5日、ガーディアンは、米国家安全保障局(NSA)が大手通信会社ベライゾンなどの利用者数百万人から通話記録を収集していた、と報じた。

 手順としては、外国情報監視法(FISA)に基づいて設置された秘密裁判所が、通信企業に対し、電話記録などの提出を命じていた。

 米政府は後に、ベライゾンに対し数百万人分の電話の通信記録(通話時間、位置、電話番号)を申請していたと認めた。

 6日にはガーディアンと米ワシントン・ポスト紙が、NSAがグーグルやフェイスブック、そのほかのネット企業のシステムに直接アクセスし、検索履歴、電子メールの内容、チャット情報などを入手しており、このような情報取得手法は「プリズム計画」と名づけられていた、と報じた。いずれの企業も、「直接のアクセスはさせていない」、「プリズムは聞いたことがない」と表明した。

 8日、米国家情報長官がウェブサイトでこのプリズムについての情報を掲載した。これによると、プリズムはコンピューター内のプログラムで、先のFISA法に基づいて、裁判所から認可を受けた場合に、外国の情報を電子通信サービス提供者から収集する仕組みだという。米国の電子通信サービス提供者から無差別に情報を収集はしないという。

 しかし、米国外に住む人からすれば、こうした形の情報収集はその国のデータ保護法などに違反する可能性がある。また、何らかの拍子で米国人が対象になってしまう可能性もあるだろう。

 米政府の説明によれば、プリズムの「ターゲット」は米国外であり、テロを防ぐなどの目的がある。

 この「ターゲット」の詳細や米政府と電子通信サービス提供者間の取り決めは詳しく分かっていない。

 プリズムの仕組みはブッシュ大統領時代の2008年に設定され、オバマ政権になっても変更されないままとなっている。

 オバマ大統領は「米国民同士の会話に耳を傾けてはいない」として、米国民に安心感を与えようとした。「100%の安全が保障され、かつ、100%プライバシーが守られて、まったく不都合なことが起きないーということは、ありえない」。

 ウィリアム・ヘイグ英外務大臣は「法を遵守する市民は、心配することない」と述べている。

―データはどこに保存されているか?

 BBCのテクノロジー記者ゾー・クラインマン氏の記事によれば、ネットを利用したときに生み出されるデータ(電子メールやソーシャルメディアの足跡)は、利用者が住む国に保管されているわけではない。例えば、フェースブックの場合、利用者のデータが米国に送られ、保管されることに同意する設定になっているという。

 クラウド・コンピューティングを利用した場合、こうしたサービスの提供者の多くが米国企業であることから、情報の保管が米国になることが多いとアムステルダム大のリサーチャー、アクセル・アーンバック氏は述べる。

―誰が情報を管理したら、私たちは安心できるのか?

 ガーディアンやワシントン・ポストの報道を見ていると、「敵=米政府」と思えるかもしれない。

 しかし、データの監視・収集・保存は常に発生していることだ。ある国の政府が、こうした情報を、例えばテロを防ぐなどの理由で収集することには、一定の正当性があろうかと思う。

 ただ、「国民の多くが承知しない方法で」やった点について、今後、オバマ政権は十分に説明責任を果たす必要があるだろうし、外国の政府(例えば欧州連合)が米政権に説明を求めているというのも、理解できる。

 しかし、今回の事件で思い出さなければならない重要な点は、私たちがすでに知っていることだけれども、大きな企業が私たちのネットの足跡を追跡し、収集し、保管しているという事実だ。

 例えば、グーグルをどう考えるか?

 英エコノミスト誌が、グーグルは一国の政府よりもずっとたくさんの情報を知っている、という記事を掲載している。

 政府が市民の情報を把握することの是非を議論するのであれば、一体グーグルはどうなるのか、と問いかける。

 例えばグーグルは、私たちの電子メールの内容を知っている。ユーチューブで何を見たかも知っている。ウェブサイトで自分のネット上の行動や特徴に呼応する広告が出ていることを、みなさんはご経験があるだろうと思う。

 ある人がテロ行為に結びつくような行動をネット上で見せたとき、グーグルが政府に通報するのは悪いことなのだろうか、良いことなのだろうか?

 グーグルには見られても良いが、第3者に情報が渡っては困ると考えた場合、プライバシー設定などで「第3者に情報を渡さない」という選択肢を選ぶという(例えばだが)こともできるかもしれないが、グーグルに限らず、私たちは、新しいサービスを使った後で、「第3者に情報を渡してもいいですか」という質問に、思わず「はい」と答えてはいないだろうか?そうでないと、今後もそのサービスが使えなくなるかもしれないと考えて、あるいは、「面倒くさいから」。

 エコノミストは「スパイ活動を行っているのは、政府ではなくて、グーグルではないか」と書く。

 まったくそうなのだ。グーグルメールや検索などが無料で使えるから、「いいや」で済ませていいのだろうかー?

 といって、今これを読んでいる方を怖がらせるつもりはないし、自分で対処法があるわけでもない。

 インターネットを一切使わない、仮名を使い続ける、複数のコンピューターを使う、暗号機能をかけるーなどなどが対処法になるのかどうか、分からない。もっと違う方法があるのかもしれないし、またはもっと抜本的なことを変えるべきなのかもしれない。

 BBCの先の記事には、マイクロソフトなどのネット企業がどのような情報を収集しているかのリストが掲載されている。

 そういえば、先日、バンコクにいたときに、いつもどおりグーグルメールにアクセスしようとしたら、「いつもと違う場所にいる」ということで、新たにログインしなければならなくなり、いろいろとてこずった(パスワードを打ち間違え、混乱)。

 これは不正侵入を防ぐための手段であり、その点からはありがたいが、とにかく「あなたのことを良く知っていますよ」という声が聞こえた気がした。

***

アップデート情報が入るサイトのご参考
Through a PRISM darkly: Tracking the ongoing NSA surveillance story
by polimediauk | 2013-06-11 23:23 | ネット業界
 いただいたコメントの全文紹介の後半である。4月上旬時点での情報を基にしたものとご了解願いたい。

***

(3)

茨城大学教授古賀純一郎さん

―堀江貴文コメント(登場人物の敬称略)

 IT(情報技術)関連の事業家で21世紀に入り注目されていた人物を3人挙げるとすれば、村上ファンドを立ち上げた経済産業省出身の村上世彰(1959年8月生まれ)、楽天の三木谷浩史(1965年3月生まれ)、そして今回仮釈放となった堀江貴文(1972年10月生まれ)あたりだろうか。うち堀江ら2人は、司直の訴追を受け有罪判決を受けた。

 何が分水嶺となったのか。それは、企業の中で揉まれ、経済システムの中で、企業人、経済人が持つべき最低限の掟を知る環境に身を置く機会があったかどうかに尽きるような気がする。

 三木谷は、大卒後、保守本流企業の筆頭、旧日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行、そこでビジネスの王道を学んだ。これに対し村上は、高級官僚として上からの目線で監督官庁傘下の企業を見ていたのだろう。堀江は、それこそ在学中にビジネスを立ち上げ、それが本業となったのだから、下から這い上がり、試行錯誤を続ける中で走りながらルールを体得することになったのだろう。それが倫理を軽視した経営に繋がったと推察できる。要は、人に上に立つ一流の経営者の在り方を皮膚感覚で学習する機会に恵まれたどうかではなかろうか。

 コンプライアンス(法律順守)がとやかく言われだしたのは、1990年代のことである。CSR(企業の社会的責任)が叫ばれたのは2000年に入ってからだ。利益だけを追求する、古典的な利益優先の企業は社会の中で存在を許されないような立場に今や追い込まれている。有罪判決を受けた2人は、こうした社会の変化を読み違えたということができようか。

 もっとも、有罪判決を受けて服役した堀江貴文。そのブログなどを読むと獄中で、社会そして人間、企業の在り方について熟考する機会をもったようだ。これからは、社会的責任を背に捲土重来をめざす新タイプの経営者として時代の先頭に立っての活動を期待したい。

 寄らば大樹の陰とは一線を画し、堀江は、自らの知恵と力で世の中の荒波に揉まれ、裸一貫で、ライブドアの設立までこぎつけた。有罪判決の基礎となった企業ではあるものの、立ち上げた堀江の企業家精神は大いに評価されるべきであろう。日本人が弱いとされる、こうしたチャレンジ精神の旺盛な企業家をこのまま見捨てるのは多いなる損失と思えて仕方がない。優れた手腕にこれまで欠けていた社会的責任の自覚が備われれば、今後の経営力は、大いに期待できよう。今回の蹉跌を糧に、役割がますます拡大しているIT業界の中で存分にその力を発揮してもらいたいと考えるのは私だけだろうか。

 “七転び八起き”は、再チャレンジが難しいとされる日本経済の活性化にとって不可欠の要素である。増税なき財政再建を目指した第二次臨調などでリーダーシップを発揮した名経営者、故土光敏夫も、当時の法相の指揮権発動でとん挫した昭和29年の造船疑獄で逮捕され、その時の経験がその後の経営で大きな教訓になったと語っている。

 仮釈放後の会見で堀江は、新しいニュース批評に挑戦したいとの決意を語ったようだ。グローバル化、IT化の進展で、メディア界では、ウェブサイトを通じた情報発信がますます重視されるようになっている。新しい感覚を引っ下げた堀江が新境地を開拓すれば、メディア界のみならず、新聞などの既存メディアに対しても新しい刺激となるのは間違いない。堀江が熱心な“放送とネットの融合”にも期待したい。ネット社会に国境はない。国内のみならず、海外に対しても積極的に事業を展開し、日本の情報の対外発信を積極的に取り組んでもらえれば、情報の勝負で強いとは言えない日本にとって大きな朗報となる。再起を切に願いたい。

***

(4)

ワイズプロジェクト 代表取締役殿岡良美さん

―堀江さんをどうご評価なさいますか(ビジネスマン、メディア運営者、起業家、政治的動きなど)

 希代の風雲児だと思っていることはもちろんですが、ご本人も出所当初のコメントで述べられているように、あまりにも社会に対して挑戦的かつ配慮が足りませんでした。そのために、いっときの金権主義の権化のように語られ、落としめられすぎたきらいはあると思っています。(実際にいくつものブログで私は批判し尽くしすぎるくらい批判しました)。

 ですが、彼の持っていた感覚=ネット時代における新しいジャーナリズムの形態に関する予感のようなものは、一定の度合いで確かだったように思います。それは旧メディアに対して強烈なアンチテーゼであり、批判の要素を持っていたのですが、残念ながら当時はIT技術も我々の意識も追いついておらず、旧利権と新興勢力の対峙の問題として飲み語られました。その課題は彼の出所した今日、あらためて継続して考えるべきテーマとなって生きていると思います。

―堀江さんの受刑をどのように受け止められましたか

 これについて当時感じた気持ちは先に引用した「心の中のライブドアショック----私たちは暴力装置の中で生きている」という記事に書きましたが、法的未整備の穴をついて過剰な量刑が彼にスケープゴートとして課されたと思っています。その後に起きた数々の経済事件の主犯が、彼よりも遥かに軽いかあるいは逮捕に至っていないことからもわかります。

―仮出所中ですが、現時点での経営者としての責任他、何かお感じになることがおありでしたら、教えてください。今後に期待されることなど(メディア、事業家、若者へのインスピレーションなど)

 彼に対して責任を求める声よりも、明らかに過剰な量刑を課されて「地に落とされた風雲児」という評価の方が、特に若い世代で主流だと思います。堀江待望論はまだ消えていません。特に、堀江さんが受刑した当時はITバブルの最盛期でした。彼の逮捕によって六本木ヒルズに集ったIT長者の時代は終わり、その後日本は長い不況と低迷の時代に入っていきます。

 アベノミックスのかけ声のもとに日本に対してまたミニバブルの時代を再来させようと政権側が企て始めた時代の中で彼が出所したことは誠に象徴的であり、またぞや彼を利用して、表層的な金権思想が勃興することは警戒します。

 一方で彼自身の才と先見性、時代をとらえる視点については私は深く認めるところであり、前述のネットにおけるニュースのありかたについて彼が発言して行くこと、ビジョンを提示して行くことは歓迎します。また、経営者としての責任は、この間の過剰とも思える量刑に服したことで十分に果たしたと思っています。

 彼にとって不幸に点は無駄に挑戦的に既存勢力に対して刺激的で乱暴な言葉を投げつけるその攻撃的な姿勢でした。出所後の会見ではそれが相当に薄れ配慮ある姿勢に徹していましたから、なお彼の今後には期待をしています。

***

 殿岡さんは堀江氏についての多数の論考をブログを中心に発表してきた。以下はそのブログ記事。

【最新】
帰ってきたホリエモン---ネットニュースに関する物語の続編とライブドアニュースの数奇な運命

ライブドア事件や堀江氏についての過去記事
BigBang カテゴリー「ライブドア」

【買収騒ぎ当時】
堀江貴文の病理------カネが全てではない理由の考察

【逮捕当時】
心の中のライブドアショック----私たちは暴力装置の中で生きている

(以上、コメント、終)
by polimediauk | 2013-05-10 07:37 | ネット業界
 3月27日、元ライブドア社長堀江貴文氏が刑務所から仮出所した。今後、新しいメディアを作るとさまざまなところで話しており、米ハフィントン・ポストの日本上陸ともあわせ、ネット界の今後がさらに面白くなってきた感じがする。

 仮出所直後の熱狂振りと堀江氏に期待するものについて、非営利組織「欧州ジャーナリズム・センター」に原稿を書いた(4月26日掲載)。

 記事内では一部しか紹介できなかったので、コメントをいただいた複数の方から了解をとって、以下にその内容を掲載してみる。コメントをいただいたのは4月上旬であった。それ以降、追加情報が出てきたわけだが(堀江氏がグノシーと協力するなど)、あくまで当時の情報を基にしたものとご了解願いたい。

***

(1)

*メディアストラテジスト集団「Qbranch」代表、新田哲史さん

―堀江さんをどう評価しますか?(ビジネスマン、メディア運営者、起業家、政治的動きなど)

 美辞麗句ではなく、「天才」「革命家」的な気質だけはある人だとは思います。

 時代の先行きを読む感覚は人並み外れているのは確か。日本でSNSが普及する前から、ミクシィをいち早く使っていた辺りは典型的ですね。

 著書名「稼ぐが勝ち」など、その言動が物議を醸したことは、「偽悪者」という評価もありましたが、「天才」であるが故に、凡人の違和感や警戒心を読み取れず、出る杭は打たれる日本社会の暗部を甘く見ていたのではないでしょうか。織田信長が、他人の空気を読めないアスペルガー症候群だったとする説がありますが、そういうことを彷彿とさせますね。ただし、「革命家」は、既成概念や常識にとらわれていてはイノベーションを起こせないので、ある種の代償で得た才能でしょう。

 しかし、元部下(塩野誠氏)の本を見ていると、経営者(リーダー)としてガバナンスが優れていたかは疑問ですね。当時のライブドアは、部下が取引先ともめて訴えられてもすべてが「自己責任」。訴訟対応も自分でやるというものだったそうで、社員を守る普通の企業であれば考えられない感覚です。あの頃の堀江礼賛的な視点で言えば、資本主義、市場原理にかなった対応で「社員は会社で食わせてもらうのではなく、稼ぐものだ」となるんでしょうが、「その他大勢」に与え続けた違和感を拭いきれませんでした。

ー堀江さんの受刑をどのように受け止められましたか。

 事件の事実認定に関する法的な解説が出来ないので、なんとも言えないのですが、仮に本人が粉飾決算の事実を知っていたとしても50数億。日本では、ライブドアより遥かにケタが2つも違う粉飾事件があった中で、実刑が出たケースは少ない。国家権力による恣意的な判断があったと勘ぐりたくもなりますね。これは知人の受け売りですが、「革命家」としては実刑は留学みたいなもので、宿命なのかもしれません。獄中からもツイッターやメルマガで発信し続けたあたり、タダでも転ばないと感じました。

―仮出所中ですが、現時点での経営者としての責任他、何かお感じになることがおありでしたら、教えてください。

 判決の事実認定についての評価は、私もなんとも言えないです。

 ただし、事件当時、当時の幹部が不可解な死を遂げましたし、ご遺族は、相変わらずメディアに出てきている堀江氏をどう思っているんだろうかと考えます。出所後の記者会見で、再犯防止の支援といった社会事業にも意欲を見せていますが、その言葉が本気なのかどうか、まだ見極めるべき段階かなと思います。


―今後に期待されることなど(メディア、事業家、若者へのインスピレーションなど)

 「革命家」として、獄中体験をどう生かすのか。特に新しいメディア事業への意欲を示しているので、どんなものか注目したいです。ただ、かつての彼は「インターネットで誰かが情報を拾って発信すればプロの記者なんかいらなくなる」的な極論を振りかざしていたので、どこまで変わったのか。

 ただし、もし自身の“えん罪”体験を踏まえ、調査報道主体の新しいメディアを立ち上げるような動きを見せると速報重視の既存メディアに良い刺激になってほしいと思います。

***

(2)

メディア・プロデューサー、石山城さん

 先ず、ボクが堀江さんに抱いている感想なのですが(彼はボクより7つ下)、彼はバブルが崩壊してから社会人になった人で、その後失われた20年といわれる超氷河期の日本に現れた超新星だったんだと思うわけです。

 出口の見えない闇雲の中を日本中の人が彷徨っている最中、「こうすれば明るく生きられるんだよ」「こうすればお金は儲かるんだ」というアクションとメッセージは、IT時代・金融時代という時代背景とマッチして華々しく輝かせたのだと思います。

 しかしながら、彼は、いわば「大人語」を使うことができなかったことで、目上の人たちから総スカンをくらった結果が、叩きつぶされた…という結果を招いたのだとボクは思っています。

 一方、同じように注目された人物として、まるで反対の表現をして成功したのが楽天の三木谷さんだったんだとボクは思っています。

 これは、例え二人が似たような才能を持ち合わせていても、大人たちの協力が得られたか、得られなかったか…という、人生の成功するステップには欠かせない要素を得られたか、得られなかったか…という大きな違いだったような気がします。ボクは二人のことはよくわかりませんが、端から見ている限りは、経営手腕はそんなに違わなかったのではなかったかと思います。

 さて、しかしながら、その話も今や昔。今、仮出所で出てきたこの時代は、当時とはかなり状況は変わっていて、今は、いかに新しいことにチャレンジするか? 世代や国籍などいっさい無関係に、いかに賛同者・共感者を集められるか?という「評価経済社会」になっているので、今となっては、堀江さんの今後のアクションは、せまい日本のなかでの、更にはオトナの世界だけに賛同者を得られている三木谷さんよりも、より大きな影響力を持っていて、実は、堀江貴文の人生はこれからが本番なのかも知れません。

 というのも、今、時代を動かしているムーブメントを牽引している人たちは、堀江さんの後ろ姿を追いかけてきた後輩たちであり、それらはGMOの熊谷社長をはじめ、mixiの笠原社長、元ペパボの家入一真くんなどなど、数え上げたらキリが無いぐらいにその影響力は高い状態となっています。

 余談までに、仮出所で出てきてからの彼の言動についての、ボクの感想をつらつらと書きます。

 彼の出所後のインタビューは、ネットのあちこちで全文が掲載されるほどの人気ぶりとなっていますが、それを見る限り、表現はとてもマイルドになったという印象を受けました。
 
 以前は、ケンカ上等のような子どものような印象を受けましたが、彼も、この逮捕経験により、自分がしたいことだけに特化する(それ以外は金持ちケンカせず)ことを学んだように思えます。

 更に、以前の彼と今の彼の違いは、時代の変化に敏感に感じ取っていることもあってか、 より本質的にーーーこれは言わば、ビジネスでも、ダイレクトに個別の商売よりも、サービス(システム)全体を売るという方向にシフトしているのかな、(見え方としてはよりビジネスビジネスに見えづらいけど、でも今の時代はそれが一番儲かる)ーーー変化してるという印象を受けました。それは今のIT成功者たちに共通する思想だともボクは感じています。(その2に続く)
by polimediauk | 2013-05-09 21:47 | ネット業界
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4月末から、読売新聞オンラインのITサイトで連載「欧州メディアウオッチ」を書かせてもらっている。欧州のメディアのニュースはなかなか発信する機会がなかったので、少しずつ拾っていきたいと思っている(欧州に住んでいらっしゃる方で、これは面白いというものがあれば、ご教示ください)。

 第1回から3回までは、イタリア・ペルージャで開催された国際ジャーナリズムフェスティバル(4月24日―28日)での模様を紹介した。

(1)「データ・ジャーナリズム」で未来を予言?

(2)メディア・アウトソーシングの新たな波

(3)既存メディアへの五つの提言

 7日に掲載された(3)の中に出てくる、イタリアのジャーナリズム集団「Next New Media(ネクスト・ニュー・メディア」について、原稿に入りきれなかった分を補足してみる。

 「Next New Media」は、紙媒体、放送媒体、ウェブサイトで経験を積んだプロのジャーナリストや写真家、ウェブ・デザイナーたちの集団だ。新聞社や放送局などが提供するウェブ上のコンテンツを代わりに制作する、メディアコンテンツのアウトソーシング組織。

 この組織を立ち上げた二人のジャーナリスト、ティツィアナ・グエリージ氏(上の写真、右)と、アンドレア・バティストゥツィ氏(左)にフェスティバル会場の一角で話を聞いた。 

―いつどのように始まったのか?

アンドレア・バティストゥツィ氏:2-3年前に起業した。その前にニューヨークで働いていて、イタリアに戻ってきてから、何人かと一緒に、プロのジャーナリストのネットワークを作ろうと呼びかけた。

 全員がウェブ、紙媒体などいろいろなメディアで働いてきた。私は英国のフィナンシャル・タイムズに匹敵する経済紙「Il Sole 24 Ore」で働いていた。ジャーナリスト、写真家、映像作家、ウェブデザイナーたちの集団だ。

 あらゆる種類のコンテンツをニュースウェブサイトに提供しようと思った。ビデオ、写真、記事、ソーシャルメディアの編集-何でもだ。とても面白い。

 新聞界は不景気のために苦しんでいるので、最も必要としているウェブ上のコンテンツを自分たちでは充分には作れない状況にいる。誰もがネット上で情報を利用したいこの時に、だ。

 そこで、完全なニュースルームをアウトソーシングのサービスとして提供しようと思った。

 例えば、「占拠」運動をライブブロギング(ネット上の現場中継)で欲しいといわれたら、ジャーナリストを調達できる。ニューヨーク、ローマ、ミラノ、どこでもニュースがあるところならコンテンツを作って、提供できる。

 イタリア国内でも、シシリーからミラノまで、各地にジャーナリストがいる。欧州ではブリュッセルやモスクワにも。

―ウェブ上でドキュメンタリーを作り、人気を博したと聞いたが、イタリアではこういう手法はよくあるのだろうか?

 バティストゥツィ氏:ドキュメンタリーをウェブで提供していくこと自体は珍しくないかもしれないが、イタリアではなかった。米国、英国、それにフランスでもあったかもしれない。

―どうやって起業したのか?

 自分たちで資金を出してあって立ち上げた。そのあと、二ヶ月ほどイタリアを回って、お互いに自由な時間を使いながら、取材した。お金も投資したが、全員が時間もたくさん投資した。

―どんな作品を作ったのか。

 話題になったのは、刑務所のドキュメンタリーだ。5-6人を1つのチームとして、国内の22の刑務所を訪ねた。

 普通は中に入れないが、刑務所の現状をそのまま出すために、人権団体「Antigone(アンティゴネ)」と協力した。アンティゴネが中を視察する中で、撮影隊がドキュメンタリーを作ってゆき、ウェブドキュメンタリー「Inside Carceri(刑務所の中)」を制作した。

―なぜ、刑務所か?

バティストゥツィ氏:イタリアでは最も熱く語られているトピックの1つだ。

 過去10年間、刑務所改革をしようとしてきたが、うまくいっていない。過密化している。公式には、最大限度は4万4000人。現在、6万6000人が収容されている。生活環境は醜悪で、非人間的とも言える。欧州連合が視察に何度も訪れ、非人間的だと報告している。

 政府はもっと刑務所を建てたがっているが、お金がない状態だ。

ティツィアナ・グエリージ氏:本当に、大きな問題だ。解決が困難だ。

―いつごろから、過密化したのか?

バティストゥツィ氏:急に増えたのは1990年代。移民法に変更があり、アフリカ大陸からやっていくる移民申請者が急増した。1980年代末、収容人口は2万2000人ぐらいだったが、今はその3倍だ。刑務所のスペースは変わらない。ナポリなど、各地で問題になっている。

ー具体的には、どんな感じか?

バティストゥツィ氏:私たちが見たのは、4人が普通の1つの部屋に11人、時には18人がいた。全員がベッドに一度に横になることができない。誰かが横になると、ほかの誰かが立っている。健康も悪化する。伝染病も広がる。

 例えばミラノ中心部には、ある歴史的建造物があるが、これが刑務所となっている。制約があって、簡単には改築できないようになっている。

 ある部屋の中では、あまりにもベッド数が多いので、窓を開けることができないようになっていた。空気が換えられない。そこで、6月に、窓のガラスをとった。窓ガラスが新しくついたのは9月だ。ガラスが入っていない3ヶ月ぐらい、刑務所内はまるで外にいるのと同じだった。雨が降れば、ベッドの上に雨が降った。

―どうやってこの作品を公開したのか?

 このプロジェクト専用のサイトを作り、公開した。多数のテレビ局やほかの大手ウェブサイトがその一部を放送した。

 様々な制限をはずしたかったので、今回のビデオは無料で見れるようにした。昨年11月にサイトで公開してから最初の5日間で、4万回ダウンロードされた。

 私たちの組織そのものは営利が目的だ。コンテンツを販売して生計を立てている。

 今準備しているほかのプロジェクトでは、放送権を売りたいと思っている。そして、人権にかかわる調査報道に関心がある市民団体から資金を出してもらって作りたい。

―刑務所運営者側の反応は?中に入るのを拒否されなかったか?

 先ほどの団体が公式な人権監視組織なので、政府の許可を得て中で撮影できた。ある刑務所の運営者は環境が劣悪でも「自分たちの責任ではない」「改築しない中央政府が悪い」と言っていた。

 刑務所の環境問題は、受刑者のみの問題ではない。その家族、弁護士、支援者、医師、看護関係者などを含めると、100万人ほどが影響を受ける。

 次のプロジェクトは都市開発と環境だ。

**「刑務所の中」の予告編は以下のウェブサイトで視聴できます。

http://vimeo.com/53736965
by polimediauk | 2013-05-07 23:30 | ネット業界
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(ドイツ語版ハフィントン・ポスト開始のニュースを伝える独ウェルト紙のウェブサイト)

 日本では7日から米ハフィントン・ポストの日本語版が開始されるが、今年秋には、ドイツ語版が立ち上がる予定だ。本家米国、英国、カナダ、フランス、イタリア、スペイン、そして日本版に続き、8番目のバージョンとなる。

 私は昨秋、ドイツの新聞発行者協会を訪ねる機会があり、広報担当者から「ドイツ版はない」と聞いていたので、このニュースにやや驚いた。ドイツの新聞界は、他国からやってきた企業が自国の新聞市場を支配する向きを見せると、一致団結して抵抗する傾向がある。かつて、ノルウェーのメディア企業が無料新聞の発行をドイツの都市で開始したとき、対抗する無料紙数紙を発行し、この企業を最終的に撤退させた経緯があった。

 ハフィントン・ポストがドイツ語版開始に手を組んだのは、独出版社ヒューバート・ブルダ・・メディアの子会社で電子出版のトゥモロー・フォーカス社だ。

 ブルダ社の発表によると、ハフィントン・ポスト独語版の本社はミュンヘンに置き、約15人前後と見られる編集スタッフをドイツで調達する。

 ドイツ語は欧州内の数カ国で主要言語となっている。今回のドイツ語版はオーストリアやスイスのドイツ語を理解する読者(約1億人)も対象としている。

 ドイツ語版は2年以内に収益を出すことを目標としているという。ハフィントンポスト社の最高経営責任者ジミー・メイマン氏が3月、オンラインの「ホライゾン・ネット」に語ったところによれば、今後3年から5年以内に、ドイツでトップ5のニュースサイトになることを目指す。

 英フィナンシャル・タイムズなどの報道によれば、ハフィントン・ポストは各市場に200万ドル前後を投資し、費用や収益を合弁会社と折半するという。フランスではルモンド紙、スペインではエルパイス紙、ィアリアではグルップ・エスプレッソ社と提携している。北米以外で最初に開始されたハフィントン・ポストは英国版だった(2011年7月)。

 ドイツのメディア学者Joe Groebel氏がAPに語ったところによれば、ハフィントンポスト独語版はドイツのニュース・メディアに大きな影響を与える可能性があるという。

 Groebel氏によれば、ドイツの新聞メディアは政治報道を中心に据え、事実と論考を分ける形をとる。一方のハフィントン・ポストは「感情に語りかけ、個人の顔を出し、短い記事が多い」。

 また、ハフィントン・ポストの記事は無料で閲読できるので、これもドイツの新聞サイトにとっては脅威となる可能性がある。

 ドイツ最大の大衆紙ビルトや高級紙ウェルトを発行する大手出版社アクセル・スプリンガー社はサイト閲読に有料制を導入しつつある。ほかのドイツ紙も米ニューヨークタイムズのようなメーター制による課金化を計画しているが、商業的に成功したところはまだないといわれている。

 ドイツの新聞発行部数は、日本同様下落傾向にある。ドイツ新聞発行者協会がまとめた情報によれば、2000年から2011年の間に、総発行部数は約2400万部から約1800万部に減少。これは約22%の下落にあたる。

 ハフィントン・ポストがギリシャ系米国人アリアーナ・ハフィントン氏によって創刊されたのは2005年だ。2011年には3億1500万ドルで米AOLに買収された。

参考:

Huffington Post picks Burda publishers for German edition

Huffington Post to launch German edition

Huffington Post rolls out in Germany
by polimediauk | 2013-05-01 22:02 | ネット業界