小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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カテゴリ:ネット業界( 148 )

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 朝日新聞の月刊メディア雑誌「Journalism(ジャーナリズム)」がソーシャルメディア特集をしている。
メディアあるいはジャーナリストがソーシャルメディアをどう使うか、である。

http://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=14106

 ツイッター導入に積極的な朝日のソーシャルメディア担当者、毎日新聞やTBSの実践者の話に加え、英国(小林)や米国の活用例が紹介されている。日本に住む方には朝日や毎日の事例が参考になるのではないだろうか。私自身、米国メディアがいかにソーシャルメディアを駆使して報道しているかが興味深かった。

 中国事象のエキスパート、ふるまいよしこさんによる「変化する中国メディアの視点 この頃反日デモが起きない理由」も示唆に富むように思った。常々、中国やほかのアジア諸国にかかわる報道で、ついつい私たちはこうした国の政治パフォーマンスに踊らされ(過ぎ)てはいないか?と思っていたからだ。ふるまいさんによると、中国ではどんどん新しい感覚の記者が育っている。こうした記者たちは、

 「古い話題ばかりの日本にかまっているヒマ」はないのである。

 という箇所があった。ネットを使い、米CNNを見て育った若い記者がぞくぞくと生まれている。こうした世代の意識は、古くからの記者の意識とはかなり違う。

 ソーシャルメディアの話に戻るが、朝日のデジタル編集部記者の方の記事で、最後の方に

 ツイッターはその発信コストの圧倒的な低さによって、人々の感情を知るセンサーの機能すら持つようになっている。だが日本のメディアはこうした動きに完全に乗り遅れている。

 とあった。

 この結論とはやや離れるかもしれないが、日本で会った大手メディア勤務者(編集職)の中で、ソーシャルメディアについて「名前だけは知っている」という人が結構多かった。「名前だけ」というのが、なんともさみしい感じがした。私が会った人たちの顔ぶれが40代から50代(+30代)ぐらいだったせいなのだろうか?同時に、「会社での仕事(繰り返すが、ニュース制作が仕事である)が終わると、ニュースをチェックしない」「会社で画面ばかり見ているから、目が疲れるから」と何人かに言われた。「あれはどうなったのだろう?」という野次馬根性はないのかなあと思ったが、なんだか、いろいろなことがのんびりしている(?)のかもしれないし、始終ニュースやメールをチェックしなくても、できてしまう仕事なのかもしれない。いわゆる「デスク」クラスに入る人たちであったが、どことなく、愕然としたことも確かである。

 日本では、ソーシャルを含むデジタル世界は、大手メディア勤務者にとっては、結構隔絶した存在なのかなあと思った次第。-どうなのだろう?

 紙(の制作)とネット版とを分けて考えない方向に今少なくとも英国は進んでいる。その最大の理由は、社会全体がデジタル化にますますなっているし、広告主とメディア利用者がデジタル界に生息しているからだ。

 話が飛ぶが、BBCの経営トップ、マーク・トンプソン氏が、この秋に退任後、米ニューヨークタイムズの最高経営責任者になることが分かった。トンプソン氏はBBCのオンデマンドサービス、アイプレイヤーを推進した人。BBCのデジタル戦略の牽引者。ニューヨークタイムズは生き残り策としてトンプソン氏を選んだようだ。

BBC会長がNYタイムズCEOに(NHK)http://www3.nhk.or.jp/news/html/20120815/k10014294151000.html

NYタイムズCEOにBBC会長(これもNHK.背景が良く分かります。)
http://www3.nhk.or.jp/news/web_tokushu/0816.html

引用(トンプソン氏の)持論は、「テレビやラジオの放送事業者ではなく、視聴者がどこにいても番組を届けることを目指す」。
by polimediauk | 2012-08-19 17:47 | ネット業界
 c0016826_5225267.jpg4月16日―18日、ロンドン・ブック・フェア(http://www.londonbookfair.co.uk/)が開催され、世界各国の出版関係者が集まった。3日間で、私が行けたのは16日だけだったのだけれども、様々な思いがけない出会いがあった。

 まず、 自分にとっては数年ぶりに訪れたフェアは、かなり活況があるように見受けられた。特集として中国の書籍や作家に焦点をあてていたのだけれども、中国政府が認可した作品ばかりの紹介だったことで、一部で批判が出たようだ。

 中国以外に目立ったのは、やはり、何といっても電子書籍の話である。たくさん関連のセミナーがあったのだけれど、アマゾンのブースにいた、アルバイトみたいな若者の話を聞いてみると、彼自身が自費出版した作家であると知って、驚いた。それも、30万部以上を売っていて、英国のアマゾンサイトのベストセラー(昨年発売の処女作「LOCKED IN」ほか)を生み出した人物、ケリー・ウィルキンソン氏(31歳)であった。これまでにアマゾン・キンドルから出した小説3作はシリーズになっていて、犯罪の謎解きがテーマだ。同じ主人公が出るシリーズの4作目と5作目もすでに発売予定となっている。

同氏のホームページ
http://kerrywilkinson.com/

アマゾンのページ
http://www.amazon.co.uk/Kerry-Wilkinson/e/B005DD1EJA

―どうやって本を売ったのですか?

ケリー・ウィルキンソン:マーケティングは自分でやりました。ソーシャルメディアを主に使いました。自費出版をやるとき、ここが一番難しいですね。

―どれぐらい売ったのでしょう?

 これまでに3冊を書いて、トータルでは30万部を売りました。

―どれぐらいが利益になったのですか?

 販売額の35%です。というのも、最初、98ペンス(約127円)で売ったからです。アマゾンでは、1・49ポンドの以下の作品のロイヤリティーは35%なんです。これ以上になると、70%になります。

 最初は英国でよく売れていましたが、フランスのチャートでも上に入り、ドイツやスペインでもよく出ました。

―作家になる前の仕事は?

 BBCでスポーツジャーナリストとして10年働いてます。

―ジャーナリストであるのに、何故小説を書こうと思ったのですか?

 小説が書けるということ証明したかったから。できるかできないかを証明するには、書くことだと思いました。自分で自分に証明したかったのです。

―将来は紙でも小説を出すのですか?

 マクミラン社から契約をもらっています。(すでに「ロックトイン」はペーバーバックに。)

―今まで、失礼ですが、あなたの存在に気づきませんでした!新聞の書評欄とかをよく見るほうなのですが。

 何度か、取材されたことはありますよ。ガーディアン紙にも出ましたし。でも、新聞や雑誌の記事に出ても、売り上げにはまったく影響がありませんでした。出たからと言って販売部数が上昇するということはなかったのです。

―最初の作品はどれぐらいの期間で書き上げたのですか?

 約2ヶ月です。トータルで9万8000語でした。

―事実を積み上げて、分析するのがジャーナリストですね。事実を書く、ノンフィクションの世界から、フィクションの世界に移ったわけですが、どうやって別世界に飛び移ったのでしょう?

 うまく説明できませんが、自然にできてしまったのです。やってみたら、できた、と。

―アマゾンの自費出版では、自分で書いて、ボタンを押せば、出版されてしまいますね。編集者が介在しない点については、どうでしたか?

 代わりに何人かの友人や知人に、事前に読んでもらいました。

―今後は?

 紙も、電子書籍も含め、どちらもやって行きたいですね。

***

 こぼれ話:どことなく、余裕しゃくしゃくの若者であった。いとも簡単に出版できてしまうことに驚きを感じたが、ベストセラーになるのは本当にすごい。しかし、同時に、本の価格を最初1ポンド以下にしたということについて、いささかのショックを受けていた。1ポンドでは(新聞は買えるが)、コーヒー一杯も飲めないのだ。たくさん売れれば一定の利益は出るようになるだろうが、そこまで安くしなきゃいけないのだろうか?(関連のアマゾン・キンドルの話、次回に続きます。)





 
by polimediauk | 2012-04-29 05:21 | ネット業界
(「オープン化」については、このところ、少々考えが変わったところがあって、続きは稿を改めたいと思う。)

 ニューヨーク・タイムズを読んでいたら、何でもネット上に記録・保管できるサービスを提供するEvernoteの社長のインタビューが載っていた。

http://www.nytimes.com/2012/04/08/business/phil-libin-of-evernote-on-its-unusual-corporate-culture.html?_r=1&ref=adambryant

 普通の会社ではお目にかかれない、様々な斬新なビジネスアイデアを実行しているのが、フィル・リビン社長。

 まず、もともとリビン氏はエンジニアであったので、当初、ある程度少人数でやる気いっぱいのエンジニアたちを統括するという意味ではうまく行っていたのだが、そのうち、会社が大きくなると、様々な人がいて、それぞれの動機付けを考えたり、調整のための政治力が必要とされるようになった。リビン氏は、自分がマネージャーとしては力が足りないことを知った。今は160人ぐらいスタッフがいるそうだが、管理スキルに長けたスタッフを持つことで、うまく行っているようだ。

 社内の雰囲気は限りなくフラットだそうだ。例えば、それぞれの従業員には特定のオフィス・スペースがなくて(おそらく、固定デスクがないという意味だろう)、お給料は上下がもちろんあるのだけれども、上司だからと言ってよい椅子に座れるとかそういうのがない。いかに「効率的に、本来の仕事に取り組めるか」を意思決定や評価のベースにおいている。

 その1つのやり方として驚くのが「社内の電話をなくした」こと。みんな携帯を持っているし(電話代の基本料金は会社が負担しているようだ)、営業の会社ではないので、電話を使って外部と長々と話をする必要はないからだ。電話で話す暇があったら、仕事に熱中するべきなのだ。電話をかけたかったら、机から離れて、会話をする人が多いという。

 そして、長いメールも駄目。要点を書くことが奨励され、長いメールに書くような案件があるのだったら、歩いてその人のところまで行って話す方がいい、と社長はいう。

 エバーノート内の業務をスタッフ全員が知ることを目的として、「エバーノート・オフィス・トレーニング」というのをやっている。これは、普段の自分の職場から離れ、ほかの部署に行って何をしているのかを学ぶ方法。そうすることで、社内の業務全体を知り、他部署の会議に出る中で、質問をしたり、新鮮なアドバイスが出せる。受け入れたほうの部署の人は、外からやってきた人からいい意味で刺激を受ける、と。

 驚きはここで終わらない。まず、休暇が無期限なのだ。自分で判断して長さを決めなさい、と。仕事をこなすことが大事で、社員は「大人なのだから」、まるで罰のように会社にいさせるということはしない、と。

 しかし、休暇の長さを自由裁量にすべてしてしまうと、かえって社員が休暇を取らないようになるのでは、と社長は心配した。そこで、休暇をとる際には、すくなくとも1週間は連続してとるようにしてもらい、そうした場合には(1週間以上の連続休暇をとる場合)、1000ドル(8万円ぐらい)のおこづかいをあげることにしたそうだ。それで非常にうまく行くようになった、と。

 もう1つ、驚くことを挙げれば、自分が社内にいないとき、「エニーボット」というロボットを使っていること。この記事にはこのロボットの写真はついていないのだけれども、画面がついていて、2つの車輪付き、高さは6フィートというから、箱のようなものかもしれない。その画面を通じて、社員は社長の顔を見れるし、ロボットに付いたカメラや聴音装置で、社長は社内の様子を見たり、社員と会話を交わすことができるというのだ。

 こういうロボットは、前にもテレビで見たことがあって(エバーノートの会社だったのかもしれないが)、珍しくはないのかもしれないが、なんだかなあ・・・と思う。これは、スカイプやテレビ電話の1つの形態とも考えられるけれどもー。(遠く離れた支社同士で働く社員に帰属感を持たせるために、社内に大きな「画面」を置いておく、という話もあった。私は小説「1984年」のビッグブラザーを想像してしまったが。)

 ここまで説明してきて、テクノロジー関連の企業に働く人からすれば、何も驚くことがない・・・と感じる人もいるのかもしれないと思う。

 経営スタイルも含め、すごいことになっているなあ、でも、これがーーグーグルも特別なめがねを発表したことだしーー、少なくともテクノロジー関係の会社では普通になっていくのかなあと漠然と思うわけである。
by polimediauk | 2012-04-09 17:34 | ネット業界
c0016826_2031527.jpgメディア組織に雇われた編集スタッフだけで制作するのではなく、外部の声を取り入れるジャーナリズムのあり方が、最近、英国で目につく。これを仮に「オープン・ジャーナリズム」とでも呼んでおく。

 メディアがインターネットを使うようになった時点で、すでに編集部の外からの声が入ってきたとすれば、この現象は決して新しいものではない。また、英国「だけ」で起きている現象でもないはずだ。最近のソーシャルメディアの活用は、一種の「オープンな」ジャーナリズムともいえるだろう。

 しかし、ここに来て、外部参入の度合いを一段と高めるような、いくつか新たな動きが出ているように思う。今回はまず、「市民ジャーナリズムをよみがえらせた」といわれる、ニュースサイト「Blottr(ブロット)」http://www.blottr.com/ を紹介したい。(右上写真は創設者のアダム・ベイカー氏)

 2010年夏に始まったこのサイトは、市民の投稿による原稿で制作される、いわば市民ジャーナリズムのサイトである。「市民ジャーナリスト、市民ジャーナリズム」(citizen journalist, citizen journalism)という言葉は、少し前にもてはやされたが、今は英国では下火になったかのような言葉だ。日本でも市民ジャーナリズムによるウェブサイトで大成功といえるものは今のところはないようだ。

 Blottr(2011年、英優秀起業賞受賞 http://www.startups.co.uk/2011_4)は、現在、約5000人の登録記者を抱える。ユニーク・ユーザーは200万ー300万人だという。世界中に散らばる記者たちが、自分の目で見た事件を報道する。このブログを読んでいるあなたも、名前や電子メールのアドレスなどを登録すれば、すぐに記事を投稿できる。原稿を書き、自分で満足したなら、「提出(submit)」というボタンを押すと、まもなくしてサイトに掲載される。載るか載らないかで気をもむ必要はない。編集者の手が入らずに、すぐに出るからだ。

 Blottrは、編集過程を「共同作業」(コラボレーション)と呼ぶ。数人の編集スタッフやほかの登録記者たちが情報を追加したいと思えば、これもすぐにできるようになっている。あなたの投稿した記事に様々な人の手が入り、肉付けがされて、より充実した記事になってゆく。自分が書いた原稿の一字一句を変えてほしくないと思ったら?そういう人はBlottrへの参加はお勧めできない、とウェブサイトではっきりと宣言されている。

 Blottrには英国内で自分が住む都市によって画面を変える選択肢がある。例えばロンドンであったり、バーミンガム、レスター、マンチェスターなど、7都市を選択できるのである。選択すると、その都市でのニュースを中心としたつくりに変わる。また、ドイツ語版、フランス語版もある。将来的には日本語版を作りたいとBlottrは願っているそうである。

 ロンドンにあるBlottrのオフィスを訪ね、創設者のアダム・ベイカー氏(37歳)に、創設の理由と実際にどのように運営しているのかを聞いてみた。

―何故Blottrをはじめようと思ったのか?

 ベイカー:まず、自分はニュースが大好きだということ。しかし、ニュース業界が向かっている方向に大きな不満を抱いていた。例えば、ある新聞社はウェブサイトを有料化したり、編集人員を削減したり。新聞を広げれば、トップになる記事は大体同じようなものだし。どの新聞もそれほど変わらない。

 ニュース中毒としては既存の新聞を読んでもあまり価値がない。毎日、わくわくして読む感じではなくなっていた。その一方で、テクノロジーがどんどん発展し、カメラつきの携帯電話やスマートフォーンを持っている人が増えているし、どこからでも情報を発信できる時代になってきた。

 そこで、実際に現場にいる人が自分で目撃したことを伝えれば、これほどパワフルなことはないし、ニュースを収集し、報道するやり方としてはすばらしいことになる、と思った。

 2001年の9・11米国大規模テロのとき、大手報道機関が現場に行って、状況を伝えるまでにものすごく時間がかかったことに驚いてもいた。発生現場には何百人もの人がいて、自分でカメラや携帯で現状を撮影していたのに、と。

 実際に現場にいる人が送るニュースには迫力があるし、市民が市民のために作るニュースのサイトを作ろうと思った理由は、こういったことだった。

―構想からスタートまではどれぐらいの時間がかかったのか?

 構想は2010年の初頭で、サービス開始はその年の夏だ。

―設立資金やスタッフはどうやって集めたのか?

 いくつか会社を経営していたが、2007年にその1つを売却した。このときの資金を使って、別のプロジェクトで一緒にやったデベロパーとで立ち上げたんだ。幸運だった。一旦サービスが開始となってからは、もっとデベロパーを雇ったよ。今は社員は自分も含めて9人だ。

―新しいサービスを開始するということをどうやって広めたのか?

 検索エンジンにひっかかるような工夫をしたよ。サイトを探してもらえなかったら、もうアウトだから。ツイッターやフェイスブックなどのソーシャルメディアが特に役に立ったね。

―現在、登録者が5000人で、200万人余のユニーク。ユーザーと聞くが、今後は?

 今後1年で、その倍にしたい。

ー収入の内訳はどうなっているのだろう?

 広告や企業やブランドのスポンサーシップ、それに「ニュースポイント」*(後述)というテクノロジーをほかの企業に販売している。

―投稿者は何を目的で Blottrに記事を書くのだろう?

 基本的には自分の記事が出版されたのを見たいからだろうと思う。特に、かなりユニーク・ユーザー数が大きくなっているので、インパクトは増している。自分が興味を持ったことについて書き、ニュース記事を作る場をBlottrは提供している。参加したいという人は多い。

 具体的には、事件が発生している現場にいた市民、ジャーナリズム専攻の学生など。後者は履歴書に記事の出版経験があると書き込むができる。あるいは、すでにブログなどで情報を発信している人、人に話したいような意見を持っている人など。ブログを書いていても、Blottrに記事が出れば、ブログへのアクセスも増やせる。
 
 サイトの記事は無料で読めるし、投稿者も原稿料は無料で書いている。多くのニュース・サイトが失敗したのは、原稿を書いてお金を稼ぐプロのジャーナリストに、無料で書いてもらおうとしたからじゃないかな。
―どうやって、「ニュース」記事を生み出しているのか?投稿登録者の数は確かに多いが、いつもいわゆる「事件」に遭遇するわけではないはずだ。

 確かにそうだ。いつも事件に出くわすわけではない。事件が発生しそうな場所にいつもいるわけにもいかない。サイトが最終的に狙うのは、登録記者が事件の現場からニュース原稿を送ることだが、いつもそういうわけには行かないから、アクセスが増えるような記事を出すことに力を入れざるを得ないときもある。でも、ニュースといえるような事件に関する報道をしてゆくことで、読み手でもある投稿者が、「これなら自分でも報道できる」と思ってくれて、実際にそうするようになる。

 最初はそうではなくても、この次、外に出かけたときに、投稿しようと思うようになる、というわけだ。書いてくれる人の多くがなにかしらの事件に遭遇してすぐにレポートするけれど、その人たちも、最初の頃は事件というよりも、自分に関心があることから書き出す、というパターンだ。

―「こういう事件があるから、ここに行ってくれ」と編集部から投稿記者に指示を出すことはないのだろうか?

 基本的にはない。しかし、例えばこんなことがある。シリアでは今内戦状態になっている。そこで、編集スタッフはまず、シリアに関する情報を集めて、原稿が入ってくるのを待つ。

 ある人がシリアの現状に関するとてもよい原稿を送ってきたとしよう。編集チームはその人に連絡をして、もっと送ってくれとか、周囲の状況を聞く。「誰かほかに現場にいて、レポートしてくれそうな人を知りませんか?」と聞くこともある。ほかにも投稿記者が見つかれば、現場で一種のチームが結成された感じになる。編集作業を重ねることで、充実した記事が出来上がってゆく。

―記事の信憑性はどうやって確保するのか?

 その点については、私たちも気を使う。出版する記事が事実の面で正確であるように、注意を払っている。アルゴリズムを使って、その書き手のほかの利用者に対する影響度や、書き手自身についてのこちらの情報を分析する。どれぐらい私たちはこの書き手のことを知っているのか、前に書いたことがあるかどうか、投稿の内容を裏付ける写真があるかどうか、動画はあるのか、何人がこの原稿の編集作業に関与しているのか?こうした細かい点をすべて網羅して、「よし、この書き手は信頼できるし、この投稿も信頼に足る内容だ」と言えるようになる。

―原稿を書いて、「投稿」ボタンを押すと、すぐにサイトにでてしまう。これでどうやって原稿の質を確保できるのだろう?文法上の間違いがあったらどうするのか?

 利用者たちが内容を直してくれる。利用者同士の共同作業になっている。利用者には原稿を送るだけでなく、ほかの人の原稿にも手を入れて、編集したり、情報を新しくしたりしてもらっている。編集チームもいるので、文法の間違いがあったら、すぐ直せる。また、内容が中傷あるいは卑猥なものであった場合には、すぐに取り下げる。

―サイトの記事には、「xxxによると」という表記がないようだ。例えばBBCによると、という表現がない。

 確かにそうだ。これは重要な点だ。例えばBBCのウェブサイトを見ると、記事の中で、「AP通信によると」という表記がある。これは、BBCが現地に行っておらず、AP通信の記者がいたので、「AP通信によると」という表現になる。

 Blottrでこれがないのは、書き手が実際に現場にいるからだ。だからほかの媒体を引用する必要がない。

―登録の際の個人の身元確認はどこまでやるのか?

 登録にはまず名前と電子メールのアドレスが必要だ。メールアドレスはあなたが人間であることを証明し、こちらで連絡を取る場合に必要だ。これ以上はなしだ。

―仮名を使ってもよい?

 かまわない。例えば「エルシド」という名前の書き手がいる。非常によい原稿を出す書き手だ。ほかにも仮名の利用者がいる。書き手の本名にはこだわらない。よい原稿を書けるかどうかが決め手だ。

―英メディアを変えているという気持ちはあるか?

 そう思いたいね。最初は知名度を高めるのに苦労したが、次第に、まじめなニュースサイトであること、ほかのニュース媒体より先にニュースを発信していること、ジャーナリストではない書き手が報道を行っているなどが理解されてきた。ニュース界を変えつつある。Blottrの規模がメインストリーム(大手)と言えるほど大きくなったら、市場が変わるだろうね。既存のメディアは古臭い方法でニュースをリポートし、制作している。Blottrは、人々が自分たちで目撃し、リポートしたニュースを掲載する。

―将来は?

 もっとアクセスを拡大することと同時に、今後1年で、さらに海外版を増やしたい。例えば1つはほかの英語圏で、それから、できれば日本語でも始めたい。

***

関連:
Newspoint(ユーザーが作ったコンテンツをブログやサイトに組み合わせるテクノロジー)
http://newspoint.biz/
「欧州ジャーナリズムセンター」の記事
http://www.ejc.net/resources/featured/blottr1/
by polimediauk | 2012-03-30 17:17 | ネット業界
 英メディアとツイッターの話で、「何をつぶやくか」の件である。

 組織に勤める記者で、会社から公式アカウントをもらってツイッターをやっている人の場合、組織人としての発言になるわけだから、つぶやく内容には一定の制限がかかる。

 まず、組織の側が記者のツイッターに期待するのは、

 「組織の人間として、担当分野にかかわる様々な気づき、発見、最新の情報などを、なるべく多くの数の読み手に、発信する」ことだろう。目的は、広い意味の広報・宣伝活動である。

 その結果、広い範囲の情報の受け取り手に対し、組織の名を広め、例えばニュースであれば報道機関としての優位性を示し、発行する新聞を買ってもらい、あるいは番組を視聴してもらい、ウェブサイトに1人でも多く来てもらうことを狙う。

 何故フェイスブックだったり、ツイッターがその手段となるのかは、前々回のエントリーに書いたが、潜在的読者や視聴者がそこに生息しているからである。

 新聞のウェブサイトに来て記事を読んだり、番組の視聴へといざなう際の、決め手となっているのが、こうしたソーシャルメディアの場である。マス向けの広告よりも、「BBCのxx記者がこう言っている」という、個人の顔を出した情報に、より付加価値がつく。

 「読者あるいは視聴者と直接つながる」ことが業務の一部となっている状況を、前回紹介した、民放ITVテレビのローラ・クエンスバーグの例で見てみる(ガーディアン、1月29日付記事)

 クエンスバーグはITVの夜のニュース番組の経済記者だ。まず、午前7時ごろから、新聞を読んだり、昨晩のニュースをチェックする。それからITVのウェブサイトにある、自分のブログに今日の見立てを書く。これが2-3時間。その後、英議会や金融街シティに出かけ、取材。午後4時にはスタジオに入って、6時放映のニュースの準備のための原稿作り。午後8時からは10時のニュースの準備。こうした作業の合間を縫って、現在の経済状況やその日のニュースに関してツイッターで情報発信。

 「ツイッターは記者の仕事の一部になった」とクエンスバーグ。視聴者が「すぐにニュース情報を得たがっている。たくさんの視聴者がすでにツイッターやフェイスブックを使っているので、私たちもその中に入らないと、置いてけぼりにされる」。

 2-3年前には、通信社から流れる情報をコンピューターで常にチェックしていた。今は、ツイッターを見ているほうが情報が早いという。「経済情報を出す人たちがツイッターを使って情報を出している。だから通信社電より早い」。

―入ってきた情報をかたっぱしからツイート

 では、一体、どんなことをツイートしているのだろう?

 27日付のツイートでは、「これから2-3日は出ないけれど、ITVニュースを見ててね」というメッセージが。https://twitter.com/#!/ITVLaura

Thanks for all your tweets as ever - I'm not around in next few days so keep up with @itvnews - see you!

 1つ前が、

 「切手の値上げで郵便制度の穴を埋められるだろうか?民営化への準備か?午後10時のニュースを見てね」である。(その少し前を見ると、利用者から郵便を利用するかどうかの問いがあった。)

 Is rise in stamp price really just to fill a hole in Royal Mail's balance sheet? Or preparing for privatisation - watch @itvnews at 10

 これの1つ前が 「キャメロン首相は地下鉄ジュビリー線が経済を活性化するといっているけど、おっと、キング英中銀総裁は経済が縮小するといっている」。

 Cameron said the Jubilee would give us the chance to 'go for it' - but oops, Mervyn King says Jubilee impact will lead economy to shrink

 フォロワーたちとの相互コミュニケーションや、番組視聴への誘い、キャメロンとキング総裁の発言の比較を通して、新たな視点を読者に提供している。

 スカイテレビの制作プロデユーサーの1人、ニール・マンも著名なツイッター利用者の1人だ。「個人的な意見」という断り書きがプロフィールに付く。

http://twitter.com/#!/fieldproducer

 今見たら、例えば、@WyreDaviesの情報、「バグダッドの中心部で3つの爆弾が爆発」をリツイートしていた。自分がフォローする人から受けた情報を、自分の興味がおもむくままに、流しているわけである。
 
RT @WyreDavies: At least 3 explosions heard in central #Baghdad. No idea what or where yet.

 「両方の陣営でプロパガンダの戦争が起きていることを、とても多くの人が忘れているよね」と2人のフォロワーに向かって書く。

@stuartdhughes @marklittlenews so many forget that there is a propaganda war on both sides.

 彼が英国のメディア関係者の間で人気になったのは、情報が早く、重層的であったことだ。様々な情報源からの情報を、すばやく、コメントつきで流してゆく。やはりここでも、「双方向のコミュニケーション」がある。

―スクープはどうするか?

 ツイッターで、スクープ情報を流してもいいのだろうか?特に、組織の公式アカウントを持っている記者はどうするか?まずは組織のデスクに流してから?

 BBCや衛星放送スカイテレビのスカイニュースは、規定では「編集部に連絡を入れる」「編集部に情報を先に流す」などの行為の後で、ツイッターで発信することを推奨している。

 しかし、これはその時々で変わるのかもしれない。実際に、多くのスクープを出している、BBCのビジネス担当記者ロバート・ペストンの場合、http://twitter.com/#!/Peston  @Peston テレビのニュース番組でスクープを流す前に、ツイッターやブログで出したことが何度もあると言われている。

 前に、デイリー・テレグラフ紙の編集室で話を聞いたことがあったが、翌日の紙媒体でスクープを出す前に、ウェブサイトで出すことをやるようになった(適宜)ということで、それは、「テレグラフが最初に報道した」ということさえ、周囲が理解すれば、「どんな形でもかまわない」ということであった。

 これで行けば、例えば、午後10時のBBCのテレビのニュースに出るペストン記者の場合、視聴者がこの時間にテレビの前に座っていればいいが、多くの人がテレビを見ていなかったり、外出していたりする確立は高い。ブログやツイッターで流せば、特に後者の場合、瞬時に利用者の携帯電話などに流れるわけで、「最初の報道がBBCだった」ということにしたいのであれば、テレビの10時にこだわる必要はなくなる。速さを競う報道機関にとって、ツイッターは非常に便利な媒体である。

-個人的な話は(あまり)書かない

 「個」が見えるツイッターではあるが、英メディアでジャーナリストとして発言している人の場合、「お昼に何を食べた」などのプライベートな話はあまりしないのが、1つの特徴であるようだ。

 例えば、前に紹介した、スカイニュースの記者はアカウントが記者としてのものであることを自覚し、ニュースがらみの話に徹底しているという。というのも、「ニュースには関係のない、プライベートなことを書いていたら、がくんとフォロワー数が落ちた」からだ(マーク・ストーン記者)。

―個人裁量でつぶやく

 記者が公式アカウントでつぶやくとき、英メディアの場合(ほかの国も同じとは思うが)、その内容については、原則、自分が決めている。流す前に上司などに相談するのは、特別な事情(スクープなど)を除き、ないようだ。

 ただ、BBCの場合、つぶやき内容をソーシャルメディアの担当者が「監視」(モニター)しているという。ブログの場合、BBCでは書く本人とその上司という最小限のチェックで画面にでるようだ。かなりの個人裁量が発揮できる。

―米国の例

 2011年5月、The American Society of News Editors(全米ニュース編集者協会)がソーシャルメディアの利用についての各社の方針を文書化している。

http://asne.org/Article_View/smid/370/ArticleID/1800.aspx

 ブルームバーグからワシントンポスト、ウオールストリートジャーナル、ニューヨークタイムズなど、主に米国のメディアを中心とした、ガイドラインの紹介である。

 APのガイドラインは以下。

http://www.mediabistro.com/10000words/ap-updates-social-media-guidelines-to-address-retweets_b8179

 いずれも、ソーシャルメディアの利用を奨励しながらも、気をつけることを列記している。

ー企業とソーシャルメディア

 フィナンシャル・タイムズが3月8日付けで、従業員がソーシャルメディアをやることについて、企業側はどう考えるべきかを米ガートナー社アナリスト、キャロル・ローズウェルに聞いている。

―何故、企業はソーシャルメディアに関する方針を持つべきなのか?

 従業員がすでに使っているから。

―どうやったら、意味のある方針を作成できるのか?

 組織がすでにある内規に準じるものにする。ソーシャルメディアの利点を忘れないように。よい方針・ガイドラインには以下の要素が入っている。

*従業員がソーシャルメディアで取るべき行動とその理由
*1-2ページに収まる
*組織の文化や価値と一致している
*関連するガイドラインや教育用資料にリンクさせる

 ローズウェル氏は、ソーシャルメディアを通じて、「企業は(企業が提供するサービスの)利用者とつながり、会話を交わす機会が持てる」、「まだこれがどんな意味を持つのかを、私たちは学んでいる最中だ」と述べている。

―止められない動き

 BBCのテクノロジー記者ローリー・ケアリン=ジョーンズは、ブログ(2月8日付)の中で、ソーシャルメディアは報道機関の編集室の「力関係を変えた」と書く。「新しい世界」を知っている若い記者たちが、自力でメディアの評判を作り上げることができるようになった、と。

 「かつては、ニュースのデスクにすべての権力が集中していた。署名記事が書けるのは一部の記者だけだったし、新聞が出る前に情報を外部に出したら解雇された時代だ。そんな時代に時計の針を戻したい人はいるだろう」、しかし、「もう遅すぎる」と書いている。
http://www.bbc.co.uk/news/technology-16946279








 
 

 

 
by polimediauk | 2012-03-29 21:50 | ネット業界
 NHK堀さんのツイッターアカウントの件で、話が盛り上がっているようだが、ひとまず、英メディアとツイッターの話で前回、入りきれなかったことを紹介してから、この件を考えてみる。

―司法界

 ツイッターを利用する人がどんどん増える英国で、昨年末、イングランド・ウウェールズ地方(英国の人口の5分の4を占める)で、裁判を傍聴する記者が事前の許可なしにツイッターや電子メールを通じて法廷から外部にツイートすることが認可された。

http://www.bbc.co.uk/news/uk-16187035

 これ以前の話として、2010年末、ウィキリークスの創始者ジュリアン・アサンジの裁判で、記者らが(許可なく)ツイートを始めた事件があった。昨年5月には、芸能人らのスキャンダルを巡って、裁判所が報道禁止令を出していた件で、ツイッターに当事者を特定する書き込みが多数発生した。禁止令は有名無実化してしまった。

 今年2月には最高裁がツイッターを開始している。アカウント:@UKSupremeCourt

―人種差別発言で有罪

 ツイッターは気軽に情報発信ができるが、学生が黒人サッカー選手に関する人種差別的発言をして、逮捕される例も出ている。その一つは、3月17日、サッカー場で倒れた、ザイール出身のファブリス・ムアンバ選手について、人種差別発言をツイッターで流したリアム・ステーシー君(21歳)。28日、ステーシー君に56日間の禁固刑が下った(チャンネル4)。 

http://www.channel4.com/news/muamba-tweets-man-could-face-jail

―組織で使うアカウントは誰のものか?

  組織名が入ったアカウントの場合、使い手・記者は「組織の一員としての発言」を求められる、と考えるのが普通であろう。

 しかし、組織を出て、別の組織に移動した人の場合、前の組織で作ったアカウントのフォロワーたちは、誰のものなのだろう?

 昨年夏、公共放送最大手BBCの政治記者ローラ・クエンスバーグの民放ITVへの移籍が物議をかもした。

 というのも、記者はBBC名が入った自分のツイッター・アカウント(@BBCLauraK )に約6万人のフォロワーを持っていたが、ITV側は移籍後のアカウントとして@ITVLauraKを登録していたからだ。

 クエンスバーグがこれほどの数のフォロワーを持てたのは、BBCの記者として画面に登場していたからだが、果たして、BBCという組織はクエンスバーグのフォロワーたちを「所有」しているのだろうかー?

 現在のところ、BBCが所有権を主張する法律がないようである。過渡期なのだ。

 さて、3月末時点で、クエンスバーグのITVのアカウントのフォロワーは7万5千人を超えている。記者はBBC時代のフォロワーをライバル局に「持っていった」ことになった。BBCは悔しいかもしれない。でも、残念ながら、どうすることもできないのが現状だ。

 もともと個人同士のコミュニケーションの活発化のために発展したソーシャル・メディアは、参加者一人ひとりの価値観や特徴が強くにじみ出る性格を持つ。

 既存のメディア組織で働く記者にとっては、情報の発信媒体と受け取り手との間に存在していた格式ばった隔たりが消失し、記者個人の見立てによる情報の発信が可能になった。

 組織の側からすればツイッターはブランドの価値を高める一手法だが、情報の受け取り手は記者個人の視点や専門性、性格などに共鳴し、フォロワーとなる。

 記者のツイッター・アカウントのどこまでが個人のものでどこまでが組織に所属するのか?その境界線は、あいまいだ。

 クエンスバーグの例で考えると、BBC時代の彼女の6万人のフォロワーが「BBCの所有物」として、もし法的に定義されたとしても、BBCはこの6万人の大多数が、クエンスバーグの新しいアカウントに流れることを止めることはできない(もちろん、この6万人が、クエンスバーグの現在の7万5000人のフォロワーの中の6万人とぴったし同じ人であるという証拠はない。しかし、大部分は重複していると考えるのが妥当であろう)。

 つまり、「止められない」ので、「何ともしようがない」という部分がある。

―NHK堀さんのアカウントについて

 NHKの番組アナウンサー堀さんのアカウントが、担当番組が終了するために3月いっぱいで使えなくなるそうで、議論が沸騰している。

http://blogos.com/discussion/2012-03-28/nhk_HORIJUN/

 私も意見を少し書いたのだが、まず、このアカウント名は@nhk_HORIJUNで、番組名が入っていない。つまり、番組終了後も、もし掘さんがNHKに勤務し続けるのであれば、使えるアカウントである。9万人ものフォロワーがいるのであれば、このまま利用できるようにすれば、と思うけれどー。

 「特定の番組のアナウンサーとして作った」アカウントであるならば、別のアカウントを新たにNHKに作ってもらったらどうだろう。今度は担当職務の変更でその都度、変えないようにしてーー察するところ、これができないので、「さよなら」というつぶやきになっているだろう、おそらくー。(この部分が実はすごく深いのだろうと想像する。)

 このアカウント名にどうも「秘密」があるような気がしてならない。番組名が入っていないアカウントを、その番組の担当からはずれるからといって、「返上する」というのは、やや外に立って物事を眺めると、どうにもおかしい。不思議である。

 これを機に、NHKのほうで、「記者、編集者には積極的にツイッターによる情報発信をしてほしい」ので、改めて、「堀さんをはじめとする様々な人に公式ツイッターアカウントを作ります」―と言ってほしい。どうであろうか?

 結局、問題は、「番組担当中にのみ、ツイッターで情報発信をさせる」という方針を、NHKが持っているかどうか。「もし」そうならば、その方針を変更することはできないものだろうかー?

 (長くなったので、「何をどこまで発信できるのか?」については後日。)

***追記***

 後でいくつか、思ったことをメモする。(ツイッターでも流そうと思う。)

 ①NHKのツイッター(あるいはソーシャルメディア)についての方針で、文書の形にしたものがあるのであれば、これをできれば公表してはどうだろうか?これがないと、話が憶測に基づくことになりがちだ。 (前のエントリーに書いたが、英BBCではこれをウェブサイトで公表している。)

参照:BBCのソーシャルメディア方針
公式アカウント用:
Social Networking, Microblogs and other Third Party Websites: BBC Use
http://www.bbc.co.uk/guidelines/editorialguidelines/page/guidance-blogs-bbc-summary

個人利用用:
Social Networking, Microblogs and other Third Party Websites: Personal Use
http://www.bbc.co.uk/guidelines/editorialguidelines/page/guidance-blogs-personal-summary
ツイッター利用規定
http://news.bbc.co.uk/1/shared/bsp/hi/pdfs/14_07_11_news_official_tweeter_guidance.pdf
公式ブログ、ツイッターアカウントの表
http://www.bbc.co.uk/news/help-12438390

 ②これがNHKバッシングにつながらないといいな、と思う。

 ③組織側からすると、いい意味の広報役を失うことになるが(9万人もいるので)、もったいなくはないのだろうか?

 ④堀さん(あるいは同様に、組織内でツイッターをやっている人など)は、ひとまず、個人でアカウントを作ったら、どうか?組織が方針を変えるまでには時間がかかるし、組織には組織の理由があるかもしれない。だから、それを待つのではなく、自分で、個人の資格でやる、というわけだ。

 実際に、日本で、社名が入ったアカウントを持つ人でも、「所属組織の意見ではない」「個人のツイートである」ことを明記して、やっている人は結構いるので。

 ⑤「わざわざ、ツイッターをやる必要はないんじゃないか?」という意見をBLOGOSで見たけれど、今、情報を取ることを仕事とする人は、特にニュース報道や情報番組を作っている人は、ツイッターで情報収集をしないと、出遅れる感じがする。記者・ジャーナリスト「だからこそ」やるべきと個人的には思う。自分が発信しなくてもいいから、情報収集だけでもー。

 とりあえずー。 



 



 
by polimediauk | 2012-03-28 20:55 | ネット業界
 英国の大手メディアがソーシャルメディアをいかに活用しているかについて、「新聞協会報」(3月27日号)に書いた。かなり大きなスペースをいただいたのだけれども、いろいろなことが起きていて、調べた分だけでもすべてを入れることができなかった。

 今回は、ひとまず、協会報掲載分に若干補足したものをここで紹介し、次回のエントリーで、入りきれなかった論点を紹介してみようと思う。

 ***

 英大手メディアは、インターネット上で参加者が情報を提供・交換・共有するサービス、「ソーシャルメディア」の活用を活発化させている。

 ネットが情報収集の大きな場として成長する中で、リアルおよびにバーチャルな友人・知人による口コミが情報の収拾選別の方法として広まってきたことが背景にある。

 速報性に優れることで大きな注目を浴びる短文投稿サービス「ツイッター」の例を中心に、これまでの経緯やガイドラインをまとめてみた。

―ツイッターで一報

 英国のメディアがウェブサイト上に日記形式の「ブログ」を取り入れたのは2003年頃である。

 翌04年初頭には米国でソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の元祖ともいうべき「フェイスブック」が始まった。これは「友達」であることを互いに承認する形でバーチャルな友人網を作り上げるサービスで、現在までに世界中で8億人が参加する。

 06年、米でサービスを開始したツイッターは、利用者が140字以内の短文で投稿すると、その内容が複数の「フォロワー」(情報を追う人)たちにいっせいに発信される仕組みだ。

 フェイスブックは相互承認を必要とする友人同士という閉じられた空間での情報交換であったが、ツイッターは承認を受けずに、情報発信者を「フォローする」(発信者の投稿内容を自分のサイトに反映させる)ことができ、原則オープンな空間での情報提供・共有ツールだ。

 ツイッターは、情報の収集や発信などジャーナリズムのツールの1つとして、英国では頻繁に使われている。その威力を発揮したのは、昨年夏のロンドンやイングランド地方各地での暴動だった。

 衛星放送スカイ・ニュースのマーク・ストーン記者は、次に暴動が発生しそうな場所の情報を自分の携帯電話の画面から「同僚によるツイッターで知った」。現場に駆けつけ、状況を携帯で撮影し、動画を編集部に送信。撮影から編集部に送信するまでに要した時間は「10分ほどだった」(3月7日、ロンドンのイベントでの発言)。

 同事件の取材で、最初の5日間、現場では「紙のノートにメモを取らなかった」、とガーディアン紙の記者ポール・ルイス氏が語る(同イベントで)。

 ルイス記者は報道の最初の一歩としてツイッターを使うという。「見たことをすぐに発信する。事件が進展するにつれて、次々と細切れに情報を出してゆく」という。「長い記事は後で翌日用に書く」。

―個人と組織の兼ね合い

 個人同士のコミュニケーション進展のための媒体であるソーシャルメディアを、組織で働く記者が利用する場合、「個人による情報発信」という面と、「組織の一員としての情報発信」という面が出てくる。

 2つの面の兼ね合いについて、スカイ・ニュースのストーン記者は、ツイッターでは「記者としての情報を出しており、日常の個人的な生活に関してはつぶやかないので問題がない」と述べた(同イベント)。

 各メディアのソーシャルメディア用のガイドラインを見ると、ガーディアン紙は、ブログやネット上で読者から寄せられた意見について、記者あるいは編集者が「建設的な意見交換に従事する」「事実の根拠をリンクで示す」「事実と意見の違いを明確にする」ように、と規定する。

 同紙ではアラン・ラスブリジャー編集長が率先してツイッターでの情報発信に従事する。内容は主に紙面で扱うトピックに関するものだが、09年には国際石油取引会社による汚染物廃棄をツイッターで暴露した。

 民放チャンネル4のニュース番組「チャンネル4ニュース」では、記者全員がツイッター・アカウントをもち、ブログを書く。

 「自分らしさを維持すること」を記者らに伝えているという(ウェブサイト担当者アナ・ドーブル氏談)。記者のツイートを発信前に確認することはない。指針とするのは、「放送中に言えないことは、ネット上でも言わない」だという。

 スカイ・ニュースの内部向けガイドラインによると、同ニュースの記者としてのアカウントを使用時、「自分が関与してないニュースについてはツイートしない」「他局のニュースを再発信(リトイート)しない」(その情報の真偽が確認できないためと、自局の編集過程を経ていないため)のほか「スクープ情報は最初に編集デスクに連絡し、その後にツイートする」などの規定がある。

 スカイ・ニュースはツイッターで数多くのスクープ情報を出してきた過去を持ち、自局以外の情報源から集めた情報を再発信することで、多くのフォロワーを集めた著名編集者がいることもあって、こうした規定が2月7日、ガーディアン紙を通じて暴露されると、「記者の口を封じる」「自由な情報の拡散を阻害する」などの反発がツイッターやブログ界で多数出た。

 BBCは詳細なガイドラインとソーシャルメディア参加者の名前などの情報をウェブサイト上に公開している。

 ツイッターに関しては、個人用アカウントとBBCニュースの一員としてのアカウントについてのガイドラインが分かれる。個人用のアカウントではBBCの評判を落とすことがないよう、「分別ある」振る舞いをすること、アカウント名にBBCを入れないこと、発信内容は個人の意見であることを明記すること、と定めている。

 公式アカウントの場合、BBCニュースのウェブサイトのコンテンツの1つとなる。所属する部門の上司と相談の上、ソーシャルメディアの専任編集者からアカウント名をもらう。不偏不党のBBCの編集方針に沿ったツイートが奨励される。スクープの場合は、ツイッターで公的空間に流す前にBBCの編集部に情報が流れるようにする、という項目が2月8日、追加された。

 一連の規定は、ツイートによる情報発信の速度を遅らせる(=スクープ発信が遅くなる)、SNSに特有の情報発信者の個人的な視点が阻害される(この点が失われると、ツイートがメディア企業の単なるPRになってしまう)などのリスクがある。

 記者の見立てで瞬時にネット上で情報を発信できるという特徴を持つツール、ツイッターの取り扱いを含め、ソーシャル・メディアのガイドライン作りには、今後、紆余曲折が見込まれる。
by polimediauk | 2012-03-28 00:17 | ネット業界
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 普通の人(=自分も含め)がインターネットを使って何かを発見したり、楽しんだり、学んだり、消費行動をしているとしたら、世のアーチストたち(=創造性にあふれ、その創造性を使って、さまざまなことをしている人たち)は、さぞや、さらに面白がってインターネットとか、デジタル機器を使っているんだろうなあ、まったく新しい地平線ができているのだろうなあーーそんなことを、最近、考えていた。

 ある英国のアーチストの作品の作り方に衝撃を受けてから、こんなことを考えるようになった。

 それと平行して、BBCのラジオ番組(映画の番組)で、映画監督がデジタル機器を使って、これまでにないほどの低予算で短編映画を作った、と聞いた。ロバート・レッドフォードが始めた、米サンダンス映画祭への出品作品の1つだったと思う。

 次に、その人が言ったのは、「何せ、お金がない」ので、低予算で短編を作った後、宣伝費とかがまったくない。そこでどうしたかというと、使ったのはソーシャルメディアだった。フェイス・ブックなり、ツイッターなりを大いに駆使して、情報を広めたのだという。

 次に出たゲストの人も、同様のことを言っていた。そうか、映画もそんな感じなんだなあと思っていた。

 しかし、最初の大きな衝撃は、英国が誇るアーチスト、デービッド・ホックニーから来た。今、ホックニーは展覧会をロンドンのThe Royal Academy of Artsでやっているのだが(4月まで)、これに出展したのが、とってもきれいな、大胆な色使いの絵の数々(上の図をご覧ください)。そして、なんと、これをアイフォーンやアイパッドだけを使って描いたのだという。

 私はこれにとても驚いた。なんだか、ガーンとした。

展覧会の情報(ぜひこのサイトを開いてみてください)http://www.royalacademy.org.uk/exhibitions/hockney/

 そして、ホックニーがいうところによれば、アプリの「brushes」というのを使ったそうである。こういう話はアート関係の人からすれば、当たり前すぎる話なのだろうけどー。以下がそのアプリの紹介サイト。米国の雑誌のイラストもこれでやっている、という話が聞けるビデオがついている。

http://www.brushesapp.com/

 ホックニーが描くところをテレビで見ていたら、とても簡単そうにやっている。私もやってみようかなと、絵心がまったくないのに思った。しかし、このアプリは有料だったので、ひとまずartstudioという無料アプリを試してみた。以下はその説明のサイト。

http://itunes.apple.com/jp/app/artstudio-lite-o-huikaki-peinto/id395508420?mt=8

 私はこのアプリをアイフォーンで開いて、適当に描いてみた。そしたら、すぐに絵ができたのである。早速、保存した。知らない人が見たら、誰もこれを私がアイフォーンのアプリを使って描いた、それも絵なんか描くのは学校以来ということも知らないだろうな、と。頭の体操にもいいかもしれないと思う。ちょっとしたイラストを手紙とか、メールとか、名刺とかに入れるのも面白いかも。夢は広がるのである。

 今度は音である。音楽はまったく???なのだけれど、そして今のところ試すつもりはないのだけれど、「サンデー・タイムズ」の2月5日付に、ポール・マッカートニーの話が載っていた。彼は新しいアルバムを出したので、いろいろなところでインタビューを受けている。その中で注目したのが、メールとかインターネットとかをほとんどやらないというマッカートニーが、音楽作りでコンピューターを使うことに夢中らしいのだ。

 まず、アップルのマックを使っている。そして、オーケストラの音を作るときに立ち上げる。大きな画面の前で、「とっても簡単」という、Cubaseというソフトを使っているという。これの案内は以下のウェブサイトから。 http://www.steinberg.net/en/shop/cubase.html

 これを使うと、まるで「中毒になったみたい」になって、「何時間も」やっているそうなのだ。ただ、メロディー作りには、今までのやり方、つまり、ギターと鉛筆を使うそうだが。

 ネットはほとんどやらないけど、Cubaseで何時間も時を過ごす・・・かなり、好きなんだと思う、このソフトが。

 最後に、上の2つの話とは直接つながらないのだけれど、前から一度ブログに書き留めておこうと思ったことがあったので。それは坂本龍一さんのこと。「英国ニュースダイジェスト」昨年10月13日号に掲載された独占インタビューでこんな一説があった。

 まず、インターネットを使った音楽や映像の配信サービスについて、「こういうことがあったらいいな」と思う技術があるか?と質問されて、その答えがこうであった。

 「ユーストリーム中継でライブを観る人が、ライブそのものやアーティストに対して働きかけるチャンスを与えられるような仕組みがあればよいなあと思っています。僕は常々、『おひねりを投げる仕組み』って言っていますけど」

「分かりやすい例を挙げれば、コンサートの生中継を行っているアーティストの映像を観ながら、そのアーティストの曲を買うことができるような仕組み。その映像を流している画面にリンクを貼って、CDの販売サイトとかアイチューンズに飛んでもいいのだけれど、そのまま同じ画面で、つまりハードルがもう少し低い状態でおひねりを投げられるといいなと。そういうのを作ってくれともう何年も頼んでもいるんですけど、あまり広がらないですね」

 「ただ技術的には、例えばインターネットの決済サービスであるペイパルを使ってできないこともないはずです。東日本大震災の発生直後には、ニュース映像を観ながら、同じ画面上でクリックすれば寄付できるという仕組みをユーチューブで見かけましたし。それが早く普及するといいですね」。

 ***

 アーチストの側から見た、ネット、あるいはデジタル機器の使い方。なんだか結構面白いと思う。
by polimediauk | 2012-02-15 08:46 | ネット業界
 雑誌「ワイヤード」日本語版の、「読むを考える」のシリーズから、ヒントになったことをメモしている。

 ご関心のある方は、以下が元記事です。

「本」は物体のことではない。それは持続して展開される論点やナラティヴだ – 読むが変わる from 『WIRED』VOL.2(ケビン・ケリーのインタビュー)
http://wired.jp/2012/01/28/future-of-reading-kevin-kelly/
「雑誌」とは何だ?とずっと自問自答している。その答えは、いまも出ていない – 読むが変わる from 『WIRED』VOL.2(クリス・アンダーソンのインタビュー)
http://wired.jp/2012/01/29/future-of-reading-chris-anderson/
 そして雑誌はやがてアンバンドル化する – 読むが変わる from 『WIRED』VOL.2(小林弘人さんのインタビュー)
http://wired.jp/2012/01/30/future-of-reading-kobayashi-hiroto/

                      ***

 まず最初が「ワイアード」の元編集者で、サンフランシスコに住むケビン・ケリー氏の話。本好きのケリー氏は、最近、読み方が変わってきたという。アマゾン・キンドルで読むことが多くなったからだ。

 同氏は、「読み物とインタラクトしたい動的なタイプの読者」なのだという。「書き込みをしたいし、カット&ペーストしたいし、読んだものを『シェア』したい。タブレットの登場によって、こうしたことがより簡単になった。つまり読書は『ソーシャルな行為』になったと言える」。

 私自身は、映画についてはこんな思いを強く感じるが、本についてはそういう感情を持ったことがほとんどないがー。

 私にとって話が広がってゆくように思えたのは、ケリー氏が、本は紙だけでなく、電子書籍にもなる、つまりフォーマットが変わると、「『本とはなんだ』という再定義が必要になってくる」と考えていること。

 「『本」は、その物体のことを指しているわけではない。『本』とは、持続して展開される論点やナラティヴ(語り/ストーリー)のことだ。雑誌も同様だ。ぼくが考える『雑誌』とは、アイデアや視点の集合体を、編集者の視点を通して見せるというものだ」。

 「雑誌=アイデアや視点の集合体を、編集者の視点を通して見せる」-改めて、はっとする、つかみ方だ。

 「かつて読書という行為はソーシャルなものだった。字が読める人が少なかった時代、読書は読める人が読んで聞かせる行為だったからだ。そしていま、読むという行為は、またソーシャルなものになりつつある」

 「テキストや本はネットでシェアされ、テキスト同士はハイパーリンクでつながっている。グーグルがこの世のすべての本のスキャンを実現できたら、巨大なヴァーチャルの図書館ができる」。

 ケリー氏は10年後には、(紙の)本そのものが無料になる、という予測も出している。

 次に、「ワイヤード」編集長クリス・アンダーソンの話。

 「ワイヤード」のアイパッド版を作るとき、制作に相当苦労したという。しかし、それ以上に大変だったのが「読者がいったい何を求めているのかを見極めることだ。画面は横向きがいいのか、縦がいいのか。そもそも表紙は必要なのか? 読者はテキストを『読む』ことを望んでいるのか? どのくらいの頻度で出版すべきなのか? どうマーケティングするのか? 適性な価格は? つまり『雑誌』とは何なのだ?という質問」を自問自答し続けたという。こうした疑問の答えは、「いまなお出ていない」と告白している。

 アンダーソン氏は、「社会が複雑になればなるほど、キュレーターやガイドの必要性は大きくなると見ている。そういう意味では『雑誌』の役割は変わらないと思うし、編集者の役割は、むしろますます大きくなってくると思う。雑誌をクラウドソーシングでつくるなんていう話はナンセンスだとぼくは思っている」。

 最後は、旧『WIRED』日本版編集長、デジタル・クリエイティブ・エージェンシーinfobahn代表取締役の小林弘人の話。

 小林氏の本(の1つ)を、実は私も持っている。『新世紀メディア論』という本で、読みながら、大いに刺激を受けた。小林氏は日本の電子書籍の現状と未来を聞かれる。非常に示唆に富む答えがどんどん出てくるのだが、まず、

 「自分が監修した本がeBookになったり、仕事で出版社の人とかと会うなかで見聞きしてるのは、100万部のミリオンセラーが電子書籍では50万円しか収益がないというような状況です。ニッチどころじゃなくて、マーケットが存在していないということですね」。

 やっぱりなあ・・・と。しかし、米国でも「Kindle前夜は同じ状況でしたから、いまの段階でマーケットが成り立たないと同定するのは時期尚早だと思います。基本これはプラットフォーム戦争なので、ハードの問題は二の次。『アマゾン』というすでにぼくらが日々利用しているプラットフォームがあるので、あとはKindleが出てくるのを待つばかり、という状況だと思います」。

 eBookに向いたあるいは向かないコンテンツというのは、「ない」という。「大事なのは読書体験で、それはデヴァイスに作用されるものではない」。

 「最も存続が危ぶまれるのは、フローでもストックでもなく、その中間にある紙の雑誌です。一部の雑誌以外はすべてウェブに取って代わられることになるだろうと思いますね」。

 残ってゆく雑誌の形とはどんなものか?これに対し、小林氏は、「最良のかたちにおける雑誌を、ぼくはソフトでもない、ハードでもない『マインドウェア』という言い方で呼んでいるんですが、これは心に浸透していくようなもののありようを指しています。そういうものとして読者が雑誌を認知できるなら、その雑誌は残っていくでしょうね」。

 この「マインドウェア」というのは、英国では新聞関係者がいうところの「ブランド」にも通じるのだろうか?たとえば、経済紙フィナンシャル・タイムズだと、市場経済の信奉、世界の隅々を主に経済を軸に、しかし政治・社会面の要素も忘れずに追う・・などなどの特徴があって、読むほうもこうした特徴があることを知って、それに共鳴してあるいは予想しながらページをめくる、など。 ものを見るときの一定の姿勢というか、考え方があって、それにひっかっかったトピックを紙面にちりばめているわけで、これを読者も期待して・予測して、特定の新聞を手に取るのであるー。

 最後に、出版業の将来はどうなるのだろうか?小林氏はこんな風に述べる。

 「今後、コンテンツを提供する人は出版社のような仲介業を抜きに活動できるようになっていくでしょうね。村上春樹やスティーヴン・キングなんかは、もう出版社なしでも活動できるはずです。誰かが彼らのデジタルマーケティングやリーガルのコンサルをやって自前でeBookを取り扱えるようになったら、出版社はいよいよ立つ瀬がないと思いますよ。ぼくはCursorっていう出版プラットフォームに注目していますけど、彼らはクラウドソース・出版社なんですね。これは非常に21世紀的なスキームだと思います。電子書籍をめぐる状況はいま本当に過渡期で、そうであるがゆえに面白い。編集者や書き手が、自前で新しい出版ビジネスを立ち上げるのに、いまほど面白いタイミングはないと思いますね」。

 なんだか、勇気が湧いてくるようなコメントである。ぜひ、もと記事のご一読を。(①から③まで続いたこの項、今回で終わり)
by polimediauk | 2012-02-13 22:06 | ネット業界
 いよいよ、アマゾンが日本で電子書籍端末(キンドル)の販売を開始する見込みだ。4月からというのが、いかにももうすぐだ。

米アマゾン、日本で電子書籍端末 ドコモから回線
http://www.nikkei.com/tech/news/article/g=96958A9C93819696E3E2E2909E8DE3E2E2E0E0E2E3E09F9FEAE2E2E2;da=96958A88889DE2E0E2E5EAE5E5E2E3E7E3E0E0E2E2EBE2E2E2E2E2E2

インターネット通販で世界最大手の米アマゾン・ドット・コムは4月にも電子書籍端末「キンドル」を日本で発売する。NTTドコモから回線を調達し、携帯回線でネット上の電子書籍を入手できるようにする。価格を1万数千円に抑え、電子書籍サービスの顧客獲得につなげる。
 ドコモ回線のほか、一般の無線LANも選べる。ドコモ回線の使用料は電子書籍の購入代金に含まれ消費者に通信料金はかからない。


 すでに電子書籍を出している佐々木俊尚さんが、日本の出版社もすでに電子書籍を出版しており、アマゾンがキンドルで出す書籍はたぶんラインアップ的にはそれほど変わらないかもしれないが、違いがあるという。それは、アマゾンがやるということで「安心感」を与えることではないか、と書いていた(フェイスブック・フィード)。

 キンドルは、使ってみないとその便利さがいまいちピンと来ないだろうと思う。これを機会に電子書籍市場がどっと拡大すればいいなと遠くから思っている。

***

 「ワイヤード・ジャパン」で年末紹介されていた、「読むが変わる」シリーズ(1から6)やその関連シリーズの記事が、電子書籍の将来や「読む」ことの意味について考えるために、非常に示唆に富む内容になっていた。一歩先を進んでいる米国の話で、日本の動きと重なるものもあれば、「なんだかはるか遠い話」に見えるところもあるかもしれないが、ご一読をお勧めしたい。文章はKei Wakabayashiさん、写真はYasuyuki Takagiさんである。

 http://wired.jp/2011/12/19/new_medium_new_forms_new_stories_1/
http://wired.jp/2011/12/20/new_medium_new_forms_new_stories_2/
http://wired.jp/2011/12/21/new_medium_new_forms_new_stories_3/
http://wired.jp/2011/12/22/new_medium_new_forms_new_stories_4/
http://wired.jp/2011/12/23/new_medium_new_forms_new_stories_5/
http://wired.jp/2011/12/24/new_medium_new_forms_new_stories_6/

 私が目に留めた部分の抜粋をすると、まず、最初の問いかけが、端末が「いくら進化したところで、面白いコンテンツがなければ、なんの意味もない。じゃあ面白いコンテンツってなんだ? 電子ならではのコンテンツってなんだ? ぼくらはいったい何を読みたいのか? 書き手はそこでいったい何ができるのか?」であった。

 そこで筆者とカメラマンは米国に飛ぶ。思い出したのが、米ワイヤード編集長クリス・アンダーソンが言った、電子版の登場で「新しいストーリーの語り方が可能になる」という話だったという。ストーリーの語り方=ストーリーテリング、である。そこで筆者は、雑誌は「物語りを語るもの」であったと気づく。欧米の雑誌には「ストーリー」としか呼びようがないような、「長文の記事が掲載されている」。

 一方、日本ではこの意味でのストーリーにはなかなかあたらず、それは、筆者によれば、「雑誌も本も『物語』ではなく『情報』を扱うメディアになってしまった」から。雑誌のみばかりか、あらゆるメディアが「ひたすらカタログ化の一歩をたどった」。
 
 ・・・なるほどなあとしばし、考え込んだ一節である。

 筆者は電子端末がいったいどんな「ストーリー」を提供してくれるのかを探るため、米国で様々な人に会う。

 実際に米国で電子書籍で本を読んだ人に話を聞くと、実は最後まで読みきった人が意外と少ないことに筆者は気づいた。しかし、最後まで読めた本として挙げられたのが、犯罪もののノンフィクションで、これを出版していたのがTHE ATAVIST(ジ・アタヴィスト)であった。

 電子本出版社アタヴィストが新しいのは、普通の雑誌記事としては長いが、一冊の本にするには短い、「シングル」というサイズのストーリーの出版に目をつけた点だ。「雑誌には載せられないような長いノンフィクション記事を、単体で安価に販売する」というアイデアである。当初はうまくいかなかったが、アマゾンが「キンドル・シングル」というセクションを設けたことで、ビジネスが軌道に乗り始める。

 出版社側は「雑誌のストーリーがウェブに引っ張られる形でどんどん断片化していく状況に不満を感じている書き手・読者のためにロングフォーム・ジャーナリズムを提供する場を作りたかった」という。

 この記事の中でも紹介されているが、英ガーディアン紙も、「ショーツ」というジャンルで、キンドル・シングル向けの電子本をどんどん出している。

http://www.guardian.co.uk/info/series/guardian-shorts

 新聞社にはコンテンツがあるから、こういうこともありだろうなと思う。(ちなみに、朝日新聞でもウェブ新書というのを出している。)

 次に、「ワイヤード」のWakabayashiさんが出かけたのは、BYLINERバイライナーという電子書籍専門の出版社。現在、3500人のノンフィクションの作家6万件の記事を販売。一つの作品は大体1万から3万5000ワード。それぞれの作品は「雑誌記事でも本でもない、その中間にあるフォーマット」だという。

 「ただ本を出して、お客さんが集まってくるのを漠然と待っているやり方はしない」と心に決めていたのだと出版社の人は言う。「わたしたちが扱っているノンフィクションに興味のある読者を、こっちに集める」。ある作家に興味のある読者が集まってくることで、コミュニティーが成立する。そこに向けて、出版社は直接、商品を投下する、と。「読者と書き手をここで結びつけることで、ひとつのエコシステム」ができるようにしたかった、と。
 
 このシリーズで最後に訪問したのは、TED BOOKSのジェームズ・デイリー。デイリーはもと「ワイヤード」の編集長だったそうだ。TEDはご存知の方も多いだろうが、「1984年に始まった非営利組織」で、広める価値のあるアイデアを広く知らしめることを趣旨に、世界中で会議を開催してきた。これまで、その活動は主に「講演会」だったが、昨年から、読み物を制作しだした。

 TEDの趣旨は「新しくてエキサイティングなアイデアをスピーディーに広める」ところにあるが、「通常の出版の形態の中でやるのは難しい」。講演だけでは物足らないが、「専門書をちゃんと読む時間もない」読者に、「シングルのサイズ感はぴったり」。
 
 この箇所、本当に、個人的にもうなずける。自分が読み手、書き手、買い手、情報の収集者であるとき、「簡単な解説書はないかな」、「編集者の手を通って、正統性があり、かつ本ほどは長くないもの」がほしいと何度も思う。また、書き手ということに限れば、「この件に関しては、詳しいんだけれど、一冊の本として出すには時間と手間がかかりすぎる」、「世の中にすぐに出したいのに(=情報が広がる、かつ生活の糧になる)」と思うこともしばしばである。

 記事に戻れば、電子書籍だからといって、「書き手が書いた原稿がそのまま商品になるわけではない」「制作のプロセス、クオリティーは『本作り』のプロが管理する」という。これもいいなあ、と思う。

 何人かの作家の方が、最近ネット上で書いていたけれど、書き手が見出しも含めてほぼすべてを書いて、ほぼそのまま本になっているように見える場合でも、やはり、いったん、編集者というか、他者の視線が入っているのは大切だし、より質が向上するのは真実だと思うからだ。

 ご関心のある方は、上記のアドレスからじっくり記事を読んでいただきたいが、この「シングル」、あるいは「ショーツ」がーーーかつ、短いだけではなく、ある程度長く、しっかりと内容のあるものがーーアマゾン・キンドルの日本語版開始で、花開くといいな、と思う。



 



 
by polimediauk | 2012-02-11 21:20 | ネット業界