小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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テレビで、ウエブサイトで、変化を起こす

 英国のテレビ局の1つ、チャンネル4がらみの動きが、30日、2つあった。

 まず、英国の総選挙の投票日が5月上旬に迫り(まだ正式発表はされていない)政治家の言っていることが嘘か本当かを検証するためのウエブサイト「ファクトチェック」FactCheckを立ち上げた。www.channel4.com/news/microsites/F/FactCheck/index.html

 2003年米国で開始された同様のオンライン・サービスをまねたもの。政治家がスピーチや記者会見、プレス・リリースなどで発言、公約した内容の信頼度を分析する。

 「選挙キャンペーン中、政治家による多くのコメント、スピーチなどが出るが、どれが真実なのか、一般国民には分かりにくい。ファクトチェックのサイトで必要な情報を提供したい」と、チェンネル4のニュース・時事番組のチーフ、ドロシー・バーンズさんはガーディアン紙のインタビューの中で述べている。

 サイトはチャンネル4にニュース番組を提供しているITNが担当するという。

 元のアイデアは昨年の米大統領選挙で活躍した米版「ファクトチェック・オルグ」FactCheck.orgだ。ディック・チェイニー氏がこのサイトについて言及した後からアクセスが急激に増えた。ワシントンにベースを置くチームが運営しており、かつてAP、ウオールストリートジャーナル、CNNなどのジャーナリストだったブルックス・ジャクソン氏が責任者となっている。

 もう1つは、日本でも料理番組「裸のシェフ」シリーズで知られる(シェフが裸になるわけでなく、新鮮な食材をシンプルに料理するなどの意味)ジェイミー・オリバー氏が学校給食の現場に入り、何とか子供たちに質の良い給食を食べてもらえるよう奮闘した番組「ジェイミーの学校給食」(今月上旬放映)の結果、政府が給食費の大幅増額を決定した。

 今後3年間で2億8千万ポンド(約560億円)の資金がイングランド地方の学校給食費として追加されることになった。現在子供1人に使われる学校給食の食材費は37ペンス(約74円)だが、これを小学校では50ペンス(100円)、中学校では60ペンス(120円)に増やすという。栄養基準のガイダンスも即導入され、秋からは実際にどのように運用されているかを政府が検査する。

 BBCのインタビューで、教育文化・スポーツ大臣のルース・ケリー氏は、「3ヶ月前の大臣就任以来、個人的にも学校給食に力を入れたいと思っていた」として、イングランド地方の学校給食の質を変えるために学校を訪ねたオリバー氏の番組が給食費増額の直接のきっかけではないと述べたが、ブレア英首相も英紙でオリバー氏の功績を賞賛するなど、政府は何らかの形で給食向上プランを出す必要に迫られていた。

 オリバー氏は、「増額はうれしいニュースだ。20年前に実行されていたらもっと良かったと思うが」と取材陣に述べている。番組放映後に立ち上げたウエブサイトfeedmebetter.comを通じて、加工食が中心の学校給食の質を上げることを提唱し、27万人からの賛同の声を集めた。これを官邸に提出。多くの議員らも賛同の声をあげており、あっという間の展開となった。

 野党自由民主党のフィル・ウイリス氏は、BBCオンラインのインタビューの中で、「労働党が政権を取ってから8年になるが、学校給食は改善されてこなかった。有名シェフの番組がないと政府が重い腰をあげることなかっただろう」と述べた。

 オリバー氏の番組は、今月末、再放映された。

 テレビの威力、ウエブサイトを通じての反応の迅速さ。放送とネットを組み合わせて何らかの結果を作り出した、おもしろい例となった。
by polimediauk | 2005-03-30 19:27 | 放送業界
「長い目で」

ライブドアのパブリックジャーナリストの存在が話題になっている。私は残念ながらまだ読んでいないが、雑誌「世界」への寄稿記事がライブドアのジャーナリズムを批判している、ということがきっかけになったようだ。

今日のライブドアのサイトにもパブリック・ジャーナリストの1人の原稿が載っている。非常に正直に自分の気持ちを書いている。(添付します。)

ほんの感想だが、自分が「パブリック・ジャーナリスト」であることで、何がしかの引け目を感じているとしたら、そう思う必要はないと思う。

「PJの一人として自分の投稿が出て、その内容に責任がとれるのか、事実関係の検証をどうすれば良いのか、一般マスコミが報道している事実を書き写すだけで果たして「ニュース」といえるのか、等々疑問を上げればきりがない」という箇所が最初にある。

前人未到の領域のようだが、例えば「事実関係の検証」は、実際に担当者に聞くこと、関連報道、資料を集めることなど、いわゆる「一般マスコミ」とされているところで働く記者も、パブリックジャーナリストもやることは、変わりない。やる気があれば、かなり調べることはできるのではないだろうか。特に「ジャーナリストであること」、「ライブドアに書くこと」などを取材相手に名乗れるのであれば、なおさらやりやすいのではないか?

ライブドアはユーザー数、ヒット数から言うと、かなり巨大になったのではないか、と推測する。自分の原稿が数十万、あるいは100万近くの人の目に触れるかもしれない・・・そんなメディアで書いていること、これは大きいことではないかと思う。逆に言うと、例え何を書いても大人数の読者の目に触れることにもなる。最初から、多くの読者の目に触れる場所で原稿を書ける、というのは、幸運だと思う。

「ネットは新聞を殺すかブログ」で、長い目でライブドアのジャーナリズムを見たい、という発言があった。

とにかく、続けること、続くこと、が肝心だと思う。

(以下、引用です。)

PJ(パブリック・ジャーナリズム)の限界と発生の要因【東京都】
【ライブドア・PJニュース 03月29日 東京都】- 小田氏が朝日新聞の団藤保晴氏のPJ批判に対して見事な反論を展開されたが、やはりパブリック・ジャーナリストについてはある種のいかがわしさ、たよりなさを感じてしまうのは団藤氏だけではないと思う。PJの一人として自分の投稿が出て、その内容に責任がとれるのか、事実関係の検証をどうすれば良いのか、一般マスコミが報道している事実を書き写すだけで果たして「ニュース」といえるのか、等々疑問を上げればきりがない。

 そもそもPJ(パブリック・ジャーナリズム)という言葉を知ったのは韓国の「オー・マイ・ニュース」のことを伝え聞き、オー・ヨンホ代表の講演を聞いたことがきっかけだ。オー・ヨンホ氏によれば、「現在約3万人のパブリック・ジャーナリスト(PJ)がいるが、記事を書いてくれるPJは必ずしも多くなく、8割以上が「オー・マイ・ニュース」のプロパーの記者が書いている。またスクープと呼ばれる記事のほとんどがプロパー記者が書いたものだ」と語っており、PJ制度の本家ともいうべき韓国においても、PJ制度の限界を説いているのである。

 また、オー代表によれば、韓国においてインターネット新聞のPJ制度がもてはやされる原因には、韓国特有の政治的要因が存在することを忘れてはならない。つまり、第二次大戦後の長い軍事独裁政権の下で、権力を監視し、社会の木鐸であるべき民主主義社会のジャーナリズムの役割が、長らく充分に機能しなかった歴史がある。それ故、インテリ、一般民衆にかかわらず既存のジャーナリズムに対する不信感が高く、それがパブリック・ジャーナリズムを育てていったという事情が存在するという。

 なるほど、韓国においてパブリック・ジャーナリズムが盛んになったのは既成のジャーナリズムが「だらしなかった」から発達した側面もあるのだと理解した。

 ひるがえって、日本の現状はどうだろうか?

 ちょうどこのPJ制度が始まった2005年の2月頃は、閣僚がNHKの放送内容に対して内容を変更するよう政治的圧力をかけたかどうかについての論争がマスコミどうしで行なわれていた。「議員に呼びつけられ、その議員から圧力をかけられた」と報道した朝日新聞と、「圧力ではなく、国会説明する内容を事前に関係議員に説明にいっただけ」と説明するNHK側との対立は、一般国民にとっては両者の泥試合としか思えず、マスコミへの不信が増大した。NHKの受信料の不支払者は増大し、朝日新聞の販売部数は長期低落傾向に歯止めが効かなくなってきたといわれる。

 多くの一般大衆にとっては、NHKや朝日新聞というのは、まさに「社会の木鐸」として、双方の報道には絶大な信頼を寄せていた。にもかかわらず、両者の行なった泥仕合は、そうした信頼を見事に揺り崩してくれた。ライブドアに関する報道が、それに輪をかけたようなものにならないことが望まれる。

 もしライブドアに関する報道が、ライバル新聞社、放送局に対する単なる非難、攻撃に終始するならば、ちょうど、政府官僚に対する信頼が、90年代末あたりから急速に低下ししたのと同じような現象が、今度はマスコミに対して出てくるのではないだろうか?

 そうしたマスコミへの建設的批判勢力の一つとしてパブリック・ジャーナリズムも存在している、という程度の認識でいてもらえればありがたいし、文章のあまりうまくないPJとしても気も楽になる。民主党や自民党の掲示板が半ばあらされるような形で廃止になり、朝日.COMの若手政治家との討論サイトが消えた中で、数少ない面白くてためになりそうなインターネットサイトの一つとして育ててやる、くらいの気持ちでPJの記事を見てもらえればありがたいと思う。【了】
ライブドア パブリック・ジャーナリスト 孝二郎
この記事に関するお問い合わせ先:newscenter@livedoor.net
by polimediauk | 2005-03-30 06:00 | 日本関連

イラク戦争の意義ー3

「公的利益」にかなえば情報の公開も?

 2003年3月開戦のイラク戦争が、果たして国際法から見て、合法だったのかどうか?解釈は、英国内の弁護士たちの間でも、少なくとも2つに分かれている。(国際法自体の意義を問う人もいる。)圧倒的に「違法」とする声が多いが。

 ブレア首相に司法アドバイスをしたゴールドスミス法務長官は、かねてから、「新たな国連安保理決議がなければ、イラクへの武力行使は違法だ」としていたが、開戦直前になって、「新たな決議なしでも合法」とした。これが、開戦への事実上のお墨付きとなった。

 法務長官の突然の心変わりの謎を解明するには、「違法かもしれない」という、ためらいがちのアドバイスが書かれていたと言われている、「2003年3月7日付の、ブレア首相への書簡」が鍵となるとみられている。

 この書簡の公開願いを、今年1月から実施された情報公開法に沿って、各メディアは要求してきたが、これまでのところ、他の多くの例外事項同様、公開されていない。

 しかし、昨年来の執拗なメディアの追及、特に先週からのチャンネル4によるスクープ(元外務省の法律顧問が、辞職願いの手紙の中で、法務長官の心変わりを明記していた)の後、緊急に国会審議が開かれ、政府側がこの点に関して野党議員などからも追及されるという流れとなった。

 メディアによる権力の監視という観点から見ると、1つの理想的な流れとなって事態が進展した。

 25日(先週の金曜日)、BBCのラジオ番組に、情報公開法の運用度をチェックする「情報長官」(インフォメーション・コミッショナー)のリチャード・トーマス氏が出演。既に、この「3月7日の書簡」を公開するかどうか、調査を開始した、と述べた。

 いつまでに公開するか、そもそも公開するのかどうかは、「答えられない」としたが、これまで「非公開」としてきた書簡に関して調査を開始したというのは、前進だ。

 情報公開法は中央及び地方政府・自治体が持つ公的情報に関して、一般市民などが公開を要求できる、というもの。リクエストは書面で行う。最長で20日以内に、行政は返答する。既に情報公開法があるアメリカや日本と比べると、英国の情報公開法の施行は非常に遅かった。

 国家機密に関する情報など、例外として非公開になる場合もある。(例外が多すぎる、と批判されている。)しかし、「公的利益にかなう」と見なされれば、後に公開される可能性がある。

 法務長官の書簡の公開が、果たして「公的利益にかなう」と判断されるのかどうか?もし公開されないとしたら、それなりの理由がないといけないことになった。

 市民が参加する討論番組などを見ると、国民の間では、「公開するべきだ」という意見が多い。しかし、政治家や法律家の一部には、公開しないほうがいい、という声もある。これまで、法務長官が時の首相に法的なアドバイスをするとき、内容は一切秘密とされてきた。今回イラク戦争に関してそのアドバイスの簡略したもの(A4で1枚)が発表されたが、これは異例中の異例で、通常は国家機密扱いになるのだった。

 もし法務長官の首相に対する法的アドバイスが、常に国民に一般公開されることになったら、長官は秘密のアドバイス、首相だけに言っておきたいこと、首相のみが知るべきだと思うことなどなどを、伝えることができなくなる。このシステムを守ることは非常に重要だ、というのが、「書簡を公開しない」方を支持する人々の意見だ。

 BBCの政治記者アンドリュー・マー氏は、「書簡の行方を追っても、何も出ないと思う。例え公開されたとしても、何故法務長官が自説を変えたのかを説明することはできない。法務長官自身が、説明しない限り」と述べている。

 「何故?」これを証明するのは、非常に難しい。また、「絶対に言わないぞ」とある人が心に決めた場合、「民主主義のために真実を」と言われても、簡単にはいかないだろう。

 ゴールドスミス法務長官の心変わりの理由は、何としても開戦をしたいブレア政権とブッシュ政権の圧力があったからだというのが、もっぱらの推測だ。

 所詮、ゴールドスミス氏は政府のために働いているのだから、首相が彼に言って欲しいことを言っただけだ、それだけだ、と書いたのは、タイムズ紙のコラムニスト、サイモン・ジェンキンス氏だった。

 
by polimediauk | 2005-03-29 07:00 | 政治とメディア

一方米国では・・・


新聞社がニュース専門サイト買収

 ライブドアが既存メディアの買収ということで話題になっている日本だが、逆のケースが読売新聞で報道されている。

【ニューヨーク=大塚隆一】米国の新聞業界上位3社は23日、ニュース専門サイト「トピックス・ドット・ネット」の株を25%ずつ、計75%取得したと発表した。

 ライブドアによるニッポン放送株取得の波紋が広がる日本とは逆に、米国では主要メディアによるインターネット企業の買収合戦が激化している。最大手3社の参戦でこうした動きに一段と拍車がかかりそうだ。

 株取得を発表したのは、米国最大の新聞USAトゥデーをはじめ100紙以上を所有するガーネット社、マイアミ・ヘラルドなどを傘下に持つナイト・リッダー社、ロサンゼルス・タイムズやシカゴ・トリビューンを発行するトリビューン社の3社。購入価格は明らかにされていない。

 トピックスは新興のネット企業。1年前に開設したサイトでは、約1400の日刊紙や約3000の雑誌のネット版を自動検索してニュースを集め、その見出しや前文を分野別に整理して掲載している。月間利用者は140万人という。

 米国ではニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、ダウ・ジョーンズなどの大手各社が昨年末から立て続けにネット企業を買収している。

by polimediauk | 2005-03-24 18:05 | 新聞業界

イラク戦争の意義-2

スクープ

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(左: ゴールドスミス法務長官 BBCオンラインより)

 BBCが、時事ドキュメンタリー専門の番組「パノラマ」の枠で、イラク戦争が合法だったのかどうかを問うエピソードをイラク戦争開戦2周年の20日に放映した。

 23日、チャンネル4で、これをさらに進めるスクープ報道があった。新聞各紙も、イラク戦争の意義を問う報道をしつこく書いている。執念と言うか、「政治家の責任を問う」という流れを汲む報道が、次々と途切れることなく続いている状態だ。

 今日起きた、2つの大きな動きを紹介したい。

ー手紙から消えた部分

 イラク戦争開戦が国際法から見て合法だったのかどうかという観点から、最近焦点となってきたのが、ブレア首相に合法だとアドバイスをしたゴールドスミス法務長官の決断だ。長い間自論では違法としていたのにも関わらず、開戦の直前に合法としたからだ。

 法務長官側は、「一貫して合法だと言ってきた」と主張しているが、このほど明らかになった外務省の元高官の辞職願いの詳細が法務長官の心変わりを示唆している。

 外務省の法律アドバイザーだったエリザベス・ウイルムスハーストさんは、2003年3月のイラク戦争開戦の直前、「イラク戦争は侵略罪」とし、辞職した。辞職願いの手紙は既に公開されていたが、一部が非公開となっていた。チャンネル4は、この非公開部分を探し当て、法務長官がイラク戦争に関する法的判断を変えていた、と報道した。

 ウイルムスハーストさんは、BBCが情報公開法を使って外務省から手に入れた辞職願いの手紙の中で、イラク戦争は「武力の非合法的実行」であり、「侵略罪に当たるもの」とし、「国際秩序と法のルールにとって有害となるだろう武力行為に賛同できない」としている。

 チャンネル4が入手した、これまで非公開だった部分は、「私の見解は、このオフィス(注:外務省の法律チームのオフィス)が、国連安保理決議1441の決議前にも後にも継続して提供してきたアドバイスと同様のもので、法務長官が、3月7日の手紙を書く前の彼自身の見解と一致している。(3月7日の手紙に書かれた見解は、もちろん変わってしまい、別の公式見解になってしまったのだが。)」となっている。

 3月7日以前、法務長官は、新たな国連決議がなければイラクへの武力行使は違法だと考えていたこと、3月7日のブレア首相にあてた書簡の中では新たな国連決議があったほうが安全だと書いたことなどを裏付けた。ところが、3月17日、国会に提出した書簡の中では、法務長官は、国連決議なしでも合法としたのだった。

 国連決議678は米英など多国籍軍による対イラク武力行使を容認したもので、湾岸戦争の停戦に際し、大量破壊兵器を検証可能な形で撤去することをイラクに義務づけている。決議1441は、イラクの現状が687違反であることを明確にし、義務違反を重ねれば「深刻な結果」に直面する、としている。

 ゴールドスミス法務長官によれば、イラクが国連の要求を継続して退けてきたので、これが決議678を再起動させたことになり、したがって、敵意ある行動をイラクに対して起こしてもいい、と解釈される、というものだった。武力行為を可能にするためには新たな国連決議はいらない、つまり、今回のような武力行使を合法と見なすのだ。

 一方、ウイルムスハーストさんは、武力攻撃を可能にする新たな国連決議が必要とする立場を取っていた。こうした決議がなければ違法と見る。

 BBCの取材に、法務長官の広報担当者は、「どのようにして最終的見解に至ったかは、問題ではない」とし、合法と言う判断は法務長官自らの独立した意見である、として、ブレア首相あるいは米政府など他からの影響によって変わったのでは?という疑念を否定した。

 チャンネル4は、手紙の非公開部分入手の詳細を明らかにしておらず、報道が100%の事実を反映しているとは必ずしも言えない。しかし、ウイルムスハーストさん自身が、チャンネル4に抗議をしていないところを見ると、かなり信憑性が高い。

 ウイルムスハーストさんは、外務省辞職後、ロイヤル・インスティテュート・オブ・インタナーショナル・アフェアーズ(通称チャタムハウス)という、在ロンドンのシンクタンクの国際法部門を統括している。

 午後8時、このシンクタンクの広報からメールが来た。チャンネル4の報道に付け加えることはないが、2004年2月27日付のウイルムスハーストさんの見解として、以下を送付してきた。

 「2004年2月27日

 私が外務省の法律アドバイザーの職を辞めたのは、イラクへの武力行使が違法で、どんな状況の下でも、法律アドバイザーとして勤務していたくなかったからです。」


 (続く)
by polimediauk | 2005-03-24 11:08 | 政治とメディア

取り扱いが、内外で差

 米国で、16歳の高校生が銃乱射事件を起こした。

 イギリスの朝刊には男子生徒の顔写真、名前、事件の概要が載っている。BBCオンラインのネットニュースでも同様だ。

 そして、同じニュースを日本語のネットで見る。おそらく紙の新聞でも同様の扱いになっているとは思うが、この男子高校生の実名、顔写真は載っていない。

 海外のニュースであまり細かいことまで日本の読者に伝える必要がない場合、事件の人物の実名などを出さないことはあるだろうと思う。しかし、これほど大きな事件で、犯人とされる人物の実名などの情報が出ていないのは、日本では年少者保護の観点から報道内容の一部に縛りをかけているからだろう。

 イギリスに本拠を置くロイターのウエブ・ニュースでも、日本語版では高校生の実名がなく、その徹底度に驚く。

 イギリスでも、18歳未満の少年少女が事件を起こした場合、基本的には新聞で実名報道をしないことになっており、特に一旦裁判が始まってしまうと、報道規制がきつくなる。しかし、10歳から刑事責任を問われるという、日本からすると(いや、日本だけではなく、国際的に見てもこの数字がかなり低いので、国連も引き上げを要求しているという報告書を目にしたことがある)年少犯罪者に対して厳しい姿勢で臨むイギリスでは、実名・顔写真報道がなされることは、たびたびある。

 特に、その犯罪が「重大」とされるもの、例えば殺人などの場合、実名が報道される確立が高い。報道の基準は、基本的に裁判官がすることになっているが、裁判が始まる前から報道されることもあるから、一旦犯罪を起こしてしまうと、実名報道が避けられない状態になる可能性が高い。

 そこで、2つ疑問がわく。

 日本で起きた少年犯罪で、該当少年の保護のために実名・顔写真報道をしないというのは、納得できるが、海外で起きた場合でも、実名などの情報を隠す・報道しない必要があるのだろうか?該当少年が日本に来て住むということはほとんどないだろうし、日本から該当少年あてに嫌がらせが起きるとも思えない。他の少年報道と足並みを合わせるため、という理由があるのだろう。

 そこで次の疑問になるのだが、いや、疑問というよりも思ったことは、「報道の自由」、「知る権利」といったことを考えるとき、どこまで知る権利があるのか、どこまで報道の自由があるべきか、ということだ。

 イギリスで10歳から刑事責任を問われると書いたが、こうした懲罰主義と、日本の少年法の意義、精神は合致しない。日本の国民世論も、年少者の実名報道に合意・納得する状況ではなさそうだ。

 したがって、イギリスで実名・顔写真報道がなされているからといって、イギリスの方がオープン、ということで、これに追随するわけにはいかない。国によって、どこまで報道するのか、許されるのかが、違うのだ。

 これは少年報道に限らず、他の点でも似たような面があって、大雑把な言い方だが、イギリスは対決、対立をものともせず、言いたいことを言う、書きたいこと・書くべきことを書く、という面が、日本よりは強いようだ。しかし、これはメディアが勝手にやっている、というよりも、国民の合意というか、「そうあるべきだ」とする考え方に支持されている。

 イギリスにいて、米高校での乱射事件の報道を、英語で、それから日本語で読むと、日本語の方の、「名前なし」報道が、ちょっといびつに見える。しかし、イギリスのように、懲罰主義的な実名報道になったほうがいいのかどうか?結論は簡単には出ない。


 
by polimediauk | 2005-03-23 18:27 | 英国事情
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イラク戦争の意義を問い続ける


 BBCの時事ドキュメンタリー番組「パノラマ」の放映が開始されたのは1953年の11月。時の権力の乱用をチェックし、追及するという点が番組の意義の1つだ。

 3月20日放送分は「イラク、トニー、真実」と題され、2003年3月のイラク戦争開始までの過程で、ブレア英首相が戦争の大儀に関して嘘をついたのではないか?という点を、関係者のインタビューを交えて徹底取材したものだった。戦争開始から2周年記念、というのが放送開始のタイミングだ。

 米国と共にイラク戦争を開始した英国だが、イラクの大量破壊兵器の脅威に関して、さんざん脅かされた英国民は、戦後、大量破壊兵器が見つからなかったことで、「十分な開戦理由がなかったのでは?」という疑念を持ち続けてきた。

 開戦後2ヶ月がたった2003年5月、BBCの朝のニュース番組「TODAY」の記者が、「英政府はイラクの脅威を誇張した」と報道した後、この報道の匿名情報源だった国防省顧問が自殺している。この報道はたった1人の人物の自殺では終わらず、自殺に至る経緯を解明するために立ち上げられた調査委員会が、「BBCの報道には根拠なし」としたため、BBCの経営委員長と会長がほとんど同時に引責辞任をする顛末にもなった。「政府側が誇張していた事実はなかった」と調査委員会が結論づけて、政府側には何の辞任もなかった。

 現在までに、他の調査委員会の報告などから、開戦前に言われていたような大量破壊兵器は存在していなかったこと、開戦に至る諜報情報が信頼性の低いソースに依存していたことなどが分かってきた。

 一国の政府の重要な決断の中でも、開戦の決断は最重要の事柄と言えるが、こうした決断の際に、ブレア首相は、情報が信頼性の低いものであったことを「知っていながら」、それでもイラクの大量破壊兵器の脅威を国民に訴え、開戦へと誘ったのだろうか?それとも、信頼性が低いものだと言うこと知らずに、開戦を訴えたのか?

 徹底的な調査報道で知られるパノラマが、この問いに答えを出そうとしたのが3月20日の放送だった。
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 番組は、2002年の時点から、既に、フセイン体制の打破には武力攻撃しかないと見ていた極秘の政府文書を紹介していく。

 2003年3月、武力攻撃を可能にする国連決議採択に向けて努力していた英国だったが、シラク仏大統領がいかなる決議案も否決するとフランスのテレビのインタビューで答え、これを機に、一気にフランス・バッシングの雰囲気が英国内で作られてゆく。

 最終的に英政府が新たな国連決議なしに開戦へと進む動きのよりどころになったのが、ゴールドスミス法務長官の助言だった。法務長官は、かねてから、新たな国連決議なしでのイラク戦争開戦は「違法」としていたのだが、開戦直前になってワシントンを訪問した後、「新たな国連決議なしでも開戦は合法」とする助言を出す。

 これをきっかけにブレア首相は開戦決議案を議会に提出。長丁場の審議の上、開戦が決定されてゆく。

 番組は、開戦までに至る過程で、フセイン政権打倒という米国の方針に、いかに英国が追従していったか、「違法」を「合法」とし、「信頼度の低い情報」を「間違いのない情報」として国民に提示していったかを、明瞭にした。

 昨年まで欧州問題に関する首相アドバイザーだったスティーブン・ウオール氏は、番組の中でこう語っている。「国連の決議なしでもイラクを武力攻撃できるとした法務長官の助言は、法の議論を限界を超えて引き伸ばしたのだと思う。政府側には、そんなことをする権威はないのにそうしてしまったのだから、危険な前例を作ってしまったと思う。ブレア首相に自分の見解を伝えなかったことを後悔している」。

 「戦争に行くということは、国際関係の中でも、最も真剣な行為だと思う。人の命を、国民の命を危険にさらすことなのだから最後の手段であるべきだし、(開戦の決定は〕国際的権威のあるところが決定するべきことだった」。

 番組は、以下の言葉で終わる。

 「大量破壊兵器は見つからなかった。

 政府のイラク文書を作成するのに使われた情報機関MI6の主な情報源の半分は、信頼するに足りなかったものとして取り下げられている。

 首相官邸にコメントを求めたところ、これまでに行われた4つの調査委員会が報告した事実に、これ以上付け加えることはないということだった。

  しかし、どの調査委員会も明らかにしていないことが1点ある。それは、ブレア氏のイラク政策の進化だ。

 ブレア首相が公で言ったこと。個人的に知っていたこと。この2つを自分の中では調和させることができるのか」。

 プリゼンターのジョン・ウエア氏はエディターのマイク・ロビンソン氏とともに、イラク戦争関連で3本の番組を担当した。BBCの報道を巡って自殺した政府高官の話をトピックに、BBCと政府との対立の様子を描いた「死への闘い」は、ロイヤル・テレビジョン協会賞を受賞。政府批判もさることながら、BBCという自社批判が高く評価された。もう1つ、開戦までの諜報情報の不十分さを描いた「諜報情報の失敗」も制作している。

 それぞれ、番組のトランスクリプトがウエブ上からダウンロードできるようになっている。

 関係者へのインタビュー、文書資料、ニュース映像などによって構成され、非常にオーソドックスな作りになっているが、放映終了後、これほど真っ向から、時の政府の重大な決断に関して、鋭く突いたドキュメンタリーをしばらく見たことがないような気がした。

 前に、BBCにも日本のNHKにも、同様にすばらしい番組がたくさんある、と書いた。しかし、政府批判を1つの文化と言えるほど頻繁にしてきたBBCだからこそ、できた番組だった。

 昨年、パノラマの制作者に話を聞く機会があったが、「TODAYの記者が、ネタをこっちに、持って来てくれればなあと、何度も考えた」と言われたことを思い出す。「そうしたら、こっちの調査取材のこれまでの蓄積を十二分に駆使して、もしかしたら、ブレア政権の転覆だって夢とはいえなかったと思う」。

 TODAYの報道の後でトップ2人を失ったBBCは、政府との闘いにある意味では、「負けた」。しかし、BBCというジャーナリズム組織が存在する限り、様々な形で、時の権力をチェックし、パワーの乱用、不正を追及することが、何度も、何度も、できる。TODAYのかたきを別の番組がとった・・・そんな思いもした。


 
by polimediauk | 2005-03-22 09:10 | 放送業界

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究極の目標とは・・・


 英国最大の公共放送BBCの活動内容と資金調達方法などは、10年に一度更新される設立許可状が定めている。現在の許可状が期限切れになるのは2006年末。2007年からの10年間をどうするかに関する議論が続いている。

 これまでに、英文化省の依頼で独立調査委員会などがBBCの活動を様々な観点から調査、分析しこれを報告書にまとめさせている。2004年から活動を開始した、新・通信規制団体オフコムも「公共放送はどうあるべきか」に関しての独自の報告書を数回に渡って発表。BBC自身も、今後10年間で何を目標とするのか、自分たちなりのマニフェストを出している。

 ここ1年ほど、BBCは「危機にある」とされてきた。きっかけは、2003年「英政府情報操作疑惑報道」だった。

 同年5月、BBCの朝のラジオ番組「TODAY」は、イラク戦争開戦に至る過程で、英政府がイラクの大量破壊兵器の脅威を誇張した、と報道した。この報道の匿名の情報源となった国防省顧問が、名前を新聞にリークされた後で自殺。BBCと政府側は「誇張した」「誇張していない」と互いの主張を繰り返す中で、その関係は次第に悪化していた。

 緊急に設置された独立調査委員会(ハットン委員会)は2004年1月、「報道に根拠なし」とし、BBCの編集体制と経営陣を厳しく批判した。これを受けてBBCのトップ二人がほとんど同時に引責辞任。報道をした記者も辞任した。BBC最大の危機の1つ、と言われた。

 BBCはこの先どうなるのか、ジャーナリズムの独立性を保てなくなるのではないか?設立許可状の骨組みを決める実権を握る政府が、BBCに意地悪をするのではないか?そして、メディアと政治の関係や公共放送はどうあるべきかなど、議論が百出した。

 特に人々の注目を集めた提言の1つは、野党保守党が依頼した、BBCの将来に関しての分析リポートで、商業放送チャンネル4の元トップだったデビッド・エルスティーン氏が他のメディアの重鎮数名と書き上げたものだった。視聴者が見たい番組を見るという傾向が強くなる多チャンネル時代が進む将来、BBCを見たい人は相対的に減ってゆく。一種の税金のようになっている受信料をBBCが全て使うのはおかしいのではないか、受信料制度は意味がなくなってくるとして、廃止を求めた。

 英政府は、2012年ごろまでに、全アナログ放送を終了させ、デジタル放送のみに変更する予定でいる。かつては放送の全てを独占し、今でも大きな位置を占めるBBCだが、将来の圧倒的地位に変化が生じる可能性が高い。

 何故受信料収入が必要なのか、公共放送としてのBBCがいかに英国民にとって重要なものかを、BBC側は政府や国民に示さないといけなくなった。

 BBCにやってきた新経営委員長のマイケル・グレード氏は、「公的価値を作る」と題されたマニフェストを発表し、BBCの公共放送としての重要性を強調した。

 3月上旬、文化省はBBCの将来に関し「緑書」と呼ばれる、白書の一段階前の文書を発表した。情報操作疑惑での対立から、政府側が何らかの形でBBCの活動を狭めるような提言を出すのではないかと懸念されていたが、ほぼ現状維持となった。まず受信料は「今後10年間は継続」とした代わりに、ハットン委員会が経営陣との癒着を指摘した経営委員会の廃止を推奨した。この経営委員会の代わりに「信託」を設立することを提言したが、内容を見るとBBCの自主監督を担う組織ということで、現在の経営委員会とほとんど変わらないのだった。

 政府は、現在国民からの緑書に関するコメントを受け付けている。途中5月の総選挙を含み、現在から、最終方針となる白書の発表の秋までが、BBCの、そして英国の公共放送の将来の鍵を握る大事な山場となる。

 BBC側としては、現状ほぼ維持の緑書の結果に胸をなでおろしてばかりもいられない。

 受信料制度の継続は2016年までは(現時点では)保障されたものの、2017年以降どうするかに関して、「数年後に議論する」ことになったからだ。一方、BBC会長マーク・トンプソン氏は、各部門での15%のコストカットと、3000人規模の人員削減を発表している。全従業員が28000人のBBCだが、この数字は「大きすぎるのではないか」というのは、英国ジャーナリスト組合(NUJ)の役員は話す。「無駄をはぶくというならいいが、政府側を見てのコストカットだと思う。政府は指一本切ろといったのに、腕一本をあげたようなものだ」。

 総選挙(正式発表はまだされていない)で与党労働党が過半数を取ることは予想されているものの、「強いBBC,独立したBBC」と繰り返してきた現在のテッサ・ジョウエル文化相が、同職につくかどうか未定であるため、「今回の緑書の提案で首がつながったと思ってはいても、決して楽観してはいけない」(NUJ代表ジェレミー・ディア氏)。

 2012年以降も、現状のままのBBC体制が続くと思っている人は、英国にはいない。

 BBC及び放送業界の未来の論点をこれから細かく見ていきたいが、その前に、こうした議論が国をあげてのものであることに注目したい。

 英国の街角であるいは家庭で、職場で、誰かに「将来、BBCはどうしたらいいと思う?」「最近のテレビ、どう思う?」などと聞いて見ると、それぞれが一家言を持つ。主にテレビやラジオ、新聞などの既存メディアで報道されたことを基にしての意見だが、一般の人が議論に参加できる機会がメディアを通してふんだんにあり、視聴者には幅広い論点にアクセスできる環境がある。

 自分がお金を払う受信料がどう使われるのか、無駄には使ってほしくない、という気持ちも英国民の間では強い。

 「BBCが存在しているから」という要素もある。1927年の創立から1950年代半ばまでBBCが英国の放送業界を独占し、現在も業界トップとしての位置にいるので、放送業界の将来を考えることがBBCの将来を考える行為と重なる。もしBBCほどの大きな影響力のある放送メディアが英国になかったら、これほど議論も高まっていないだろう。

 BBCの初代会長だったリース卿が唱えたBBCの目的「教育、情報を与える、楽しませる」という精神が未だ引き継がれており、BBCの活動、つまりは放送業は英国の国民生活の上で非常に重要な役割を果たすもの、とされている。究極的には、放送業は民主主義社会が健全に機能するための重要な手段の1つ、ということだ。

 ・・・と、書くと格好よすぎるような結論だが、実際、放送業と民主主義を結びつける考えは広く浸透している。





 

 
 
by polimediauk | 2005-03-15 07:30 | 放送業界

BBCとNHK


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(BBCの人気報道番組「TODAY]のスタジオ風景)


等身大で見ると・・・

 一部従業員によるスキャンダル事件、受信料不払い運動、政治権力の介入問題など、NHKが日本で大きな話題になってから数ヶ月が過ぎた。

 時の権力の介入をどうするか?という観点から、メディア論、ジャーナリズム論、日本社会の構造にまで話は広がっているようだ。

 そんな中で、NHKとイギリスのBBCとの比較がなされることがある。同様に受信料(視聴料あるいはイギリスではテレビ・ライセンス料)が主な収入源であること、公共放送であること、など、確かに共通点が多い。

 しかし、NHKとの比較に限らず、BBCというと、日本では随分持ち上げられているような気がしてならない。確かに多くの優れた番組を放映、放送しているが、「日本と比べてことさら優れているのか?」というと、日本でも随分質の高い報道、ドラマなどがあり、甲乙つけがたい。嗜好の問題もあるだろう。

 日本では(あるいはイギリス以外の国で)神格化されているようなBBC。

 イギリスに住んでみると、全く別の側面が見えてくる。

 確かに、BBCは英国民から愛され、支持されてはいる。しかし、一方では、受信料という安定した収入源に支えられているという点をいいことに、例えばデジタル放送の分野にお金を使いすぎている、視聴率が低くても収入は変わらないのに商業放送でもできるような大衆受けする番組を作りすぎている、人気番組の亜流ばかり作っている、他のテレビ局の営業を規模で圧迫している、キリスト教徒に批判的過ぎる、政治・政治家を馬鹿にしている、メディアであるのに野党として振舞っている、傲慢だ、などの批判がある。それぞれに、真実をついている。

 視聴者がこうした様々な批判をするのに加え、シンクタンクなども、十分な調査の上に、BBCの「欧州連合に関する報道は否定的なものが多く、十分とはいえない」と結論づけた。BBCのイラク戦争の報道が偏っていた、とする調査結果まである。他のテレビ局のイラク報道とを比較したとき、英政府から出た情報を基にして報道をする割合がBBCの場合最も多かったそうである。

 ただし、政府の方は、BBCのイラク報道が政府寄りだったとは、思っていない。イラク人側の声を報道し続けたジャーナリストらを英国に帰すよう、プレッシャーをかけた、といわれている。辞任したBBCの元会長グレッグ・ダイク氏の著書「インサイド・ストーリー」によれば、ブレア首相自身もBBCのイラク報道に満足しておらず(政府側からすると、反政府、反イラク戦争過ぎるということらしい)、何とかして欲しいとコンタクトを取った、という。

 また、幻想化・神格化の1例として、BBCがいかに政府から独立しているかを過剰に強調する場合がある。

 確かに、BBCは「編集上」時の政府から独立し、時には対立することも辞さない。しかし、BBCの受信料の値上げ率、BBCの活動内容を規定する設立許可状、放送内容の自主チェックを行うBBC経営委員会及び経営委員長の人選など、様々な骨組み部分は、政府が決定している。

 また、通常の企業の社長職にあたる会長職は、政府とうまくコミュニケーションを取れる人であることが望ましいとされる。

 最終的に、BBCは及び時の政府は、英国のためにあるいは英国人のために良かれと思うことをやるわけだから、協力関係にあっても不思議はない。

 ・・と言った後で何だが、また別のレベルでは、BBCと時の政府はライバルでもある。BBCというよりも、新聞を含めたメディアが、といったほうが正確も知れないが。

 イギリスのメディアは、一種の野党の役目を果たしている。英メディアの中でも最大のパワーを持つのがBBCだ。つまり、政府とBBCの闘いは(闘いがあるとすれば、だが)、イギリスの2大パワーの権力争いでもある。

 イギリスのメディア・パワーは非常に強く、ちょっとでも政府があるいは他の権力団体が干渉、影響を与えようとすると、猛烈な抵抗にあう。おいそれとはいかない。

 BBCの話に戻る。

 1927年創立のBBCだが、現在は大きな変革期にいる。その資金調達体制、英テレビ界での位置が、これまでにないほど変わってしまうかもしれない時期に入りつつある。

 BBCの現状とそれに派生した事柄を、現場訪問、インタビュー、などからたどってみる。
by polimediauk | 2005-03-14 03:30 | 放送業界

「ブロガーがやってくる」


 アメリカでは、ホワイトハウスのブリーフィングにもブロガーが入った、と最近ニュースになったが、イギリスでは、ブログはまだそれほど大きな動きにはなっていない。特に、日本で花開いている個人のブログも大きくは広まっていない。

 何故イギリスでブログがアメリカ型、あるいは日本型のように流行にならないのか?

 あくまで私見、推測だが、アメリカ型のような、メイン・ストリームで出ている議論とは、違った点から物事を見るという形でのブログ・ジャーナリズムで言うと、イギリスでは既存のメディアが既に「他の視点」を提供している、という要素があるようだ。まず、BBCが英国最大の公共放送機関として、様々な視点を紹介する番組を提供している。テレビの討論番組などで人々が思い思いの意見を述べる機会も多い。商業放送(といっても、衛星放送以外は公共放送となる)が、BBCの番組に挑戦するような様々な時事番組、ドキュメンタリー、参加番組を放映している。

 日本の朝刊紙にあたる新聞は、中立であることを目標としておらず、それぞれ独自の論の展開をするので、これもまた、読者が様々な視点に触れて自分自身の意見を形作るのに役立つ。

 日本型のブログがカバーする領域の中で、裏の話、本音、悪口も含めた言いたいことを言う・・といった内容の部分は、大衆紙と呼ばれるタブロイド紙がカバーしている。

 ブロガー同士がつながる・・・といったコミュニティーの部分はどの英メディアでもカバーされないことになるが、この部分のニーズが出て広がるのか、あるいは既に存在しているメディア報道をさらに深くするための動きが出てくるのか、この先は、私自身、つかめていない。

 いろいろなメディア関係者から聞いたり、コメントを読んだりする限りでは、アメリカ型ブログ・ジャーナリズム(既存のメディアが扱っていない真実を明るみに出す)の必要性、緊急性を、感じている人は、少ないようだ。ブログで暴露されるような真実、事実だったら、ネタを買ってくれるタブロイド紙に売るか、競争の激しい既存メディアの誰かがもう既に報道している、ということのようだ。

 ・・と思っていたら、3月11日付けタイムズ紙のコラムニスト、サイモン・ジェンキンズ氏が、ブログの衝撃を書いていた。

 おもしろいと思ったのは、自分自身(大手新聞のコラムニスト)が、ブロガーとどこが違うのか?と自問自答をしている点だ。自分自身も、ブロガーと同じこと(その時々の時事トピックに関して、自分の独自の意見を述べる)をしている、と気がつく。自分だって、うかうかしていられない、と思いだす。

 日本で、大きな新聞に毎週コラムを書いている人で、ブロガーの存在に脅威を感じる人がいるだろうか?そしてそんな脅威を正直に書くだろうか?

 そんなことを思いながら、記事を読んでいた。http://www.timesonline.co.uk/article/0,,1059-1520138,00.html

 一部を、紹介してみたい。(若干言葉の補足をしてあります。)

 「明らかになったことは、既存新聞の世界をブログが一時的に嵐のように乗っ取ったということだ。」
 
 「確かに、紙としての新聞のタイムズは一日70万部売れているが、世界中で、ネットでタイムズを読む人はこの5倍もいる。私や他のコラムニストが読者から受け取る手紙も電子メールの方が多くなった。新聞を作る作業が、スクリーンとキーボードを使っての電子的な会話、になってしまった。オンラインだと新聞をただで読める時代に、新聞を買うというのは贅沢なことになったのだろう。」

 ジャーナリズムを教える学校では、既存ジャーナリズムの原則(事実の確認、調査)をネットのジャーナリズムにもあてはめようとしている。「しかし、ブログの魅力は、こうした原則から逃れることができる点にある。」

 「既存のジャーナリズムの問題は、情報収集、信頼性といったものが、(ブログの)意見の叫び声よりも価値があり、お金を出して買ってくれる根拠になる、と思っている点だ。」
 
 「(既存メディアの情報は)誰かが確認したり、書いたり、編集したものだ。既存メディアはお金を稼ぐ必要があり、そうでないとブロガーたちの情報の元(リソース)がなくなることになる。新聞の発行部数が減少し、海外支局が閉鎖される動きが世界中で起きているので、いつまで既存メディアが利益を出し存続できるのか、見通しはあまり良くない。意見を言うのは無料だが、事実(を集めるのには)はお金がかかる、というのは本当だ。」

 「(自分にとっては、ブロガーの存在は)地面が動いたぐらいの衝撃だ。私の職業の中心部分と関わることが起きている。(ブログは)意見を売る。自分が(ブロガーより)高い位置にいるふりをすることはできる。シェークスピアの引用をすることだってできる。」

 「しかし、実際、私自身もブロガーなのだ。発生するニュースからあるトピックをとりあげ、そのトピックに関しての自分の意見を、読者を説得するために書いているのだから。そして、自分はそれでお金をもらってもいる。ブロガーは、無償でやっている。」

 ブロガーの存在に、コラムニストとして自分も全力で書こうと思う、という意思表示をしている。
by polimediauk | 2005-03-11 23:40 | ネット業界