小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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9・11の重み

 6月30日付けのタイムズ紙にブッシュ米大統領のインタビュー記事が載っている。

 途中から一問一答になっており、インタビューの全部を書き取ったものもウエブサイトからダウンロードできるようになっている。 (www.timesonline.co.uk)

 2001年9月11日のテロの衝撃と「テロの戦争」部分のみを紹介したい。

 タイムズ:大統領、昨晩、あなたはイラクと9・11のつながりについて言及されましたね。しかし、イラクは聖戦者たちの避難場所になっているという証拠があります。CIAの調査書でも、(イラク戦争開戦以前よりも)危険な場所になっているとそうですが?

 ブッシュ大統領:そうは思わない。反対だと思う。テロの戦争に勝つということは、戦場に出かけて、そこで終わるということだ。そうなったと思う。「よし、闘おう、ここが戦場だ」と。私が言いたいのは、憎悪のイデオロギーがあって、このイデオロギーの下、過激派は日々人々の生活を、何百人ものイスラム教徒の生活を、支配する世界観を持つ。彼らは、中東の政府を倒したいという意志を持っている。アメリカに撤退してもらいたいと思っている。暴力を利用することに関心を持っているのだ。結局、9月11日以降、何が起きたかを見てほしい。タイムズの読者にわかって欲しいのは、アフガニスタンにまだタリバンがいたら、一体どうなっていたか、という点だ。

 私たちはアメリカを守る、そしてサダム・フセインを倒すということを決定した。聖戦者たちはイラクに来て、私たちと戦う決定をした。理由があったのだ。もし私たちが、アフガニスタンでそうしたように、イラクで成功すれば、彼らのイデオロギーにとって、大きな打撃となる。〔米軍の中東担当コマンダーのジョン・〕アビザイド氏が、テロの戦争が始まったばかりのころ、とても興味深いことを話してくれた。アビザイド氏は能力がある男だ。アラブ系アメリカ人で、深みと理解力のある人間だ。アフガニスタンとイラクでアメリカが勝てば、それは終わりの始まりだ、と彼は言った。テロの戦争のことを話していたときのことだ。もし勝たなければ、始まりの始まりになる。これが私の見方だ。

 テロの戦争を直接的に体験したのが、9月11日だった。前回、欧州に行ったとき、欧州の多くの人が悲しみの瞬間として9月11日を捉えている、と言った。「瞬間」なのだ。私にすれば、9月11日は、私がそして多くのアメリカ人が世界観を変えることになった大きな戦争の結果としての攻撃だった。世界のありようを変えた歴史的瞬間の1つだったと思う。私がこの大統領執務室にいる限り、9月11日の教訓は決して忘れないし、冷血な殺人者たちに対する地球規模の戦争の中にいる。

 現在のイラクではこうした戦争が起きている。アメリカは、イラクで勝つ。勝つ、というのは、1つには(聖戦の首謀者を)探し出し、裁きを受けさせるからだ。2つめにはイラク人をトレーニングして自分たちで戦えるようにする。イラク人たちは外国軍が国内にいてほしくないと思っている。自由を目指す前進を止めてしまうからだ。人々は自由になりたがっている、という考えが正しいものであることは、800万のイラク人が選挙で投票したという事実が実証してくれた。

 率直に言って、世界中の知的エリートたちから「全員が自由になるわけはない」と言われたが、私はこうした考えを受け入れることを拒否してきた。そう思わないからだ。もちろん、ご存知のように、露骨な理想主義者だとレッテルを貼られているのは知っている。

 しかし、私はそんな露骨な理想主義者なのだ。それは、人々が、宗教やどこから来たかには関係なく、自由になりたいと思っているだろうと信じているからだ。中東の女性たちにはもっと力が与えられるべきだと思っている。最終的には聖戦主義者の暴力を生み出してしまうような、望みのない状況を作り出す政府を受け入れることはできない。あるイデオロギーを究極的に打破するには、より良いイデオロギーを与えることだと強く信じている。歴史がこれを証明してきた。

__________________________________________________________

 
 心から、自分のやっていることが正しいと信じている、という部分が伝わってくる。

 このインタビューと直接関係はないが、9・11の衝撃は米国に住んでいる人でなければ、本当には分からないのではないだろうか?イラク戦争に賛成するのも反対するのも、米国に住んでいる場合には賛成・反対の重みが違うように思う。(もちろん、イラクの人はまったく違うレベルで様々な深い思いがあるだろう。)
 
 インタビューの中の、ちょっとしたこぼれ話を付け加えると、G8サミットが7月6日から8日までスコットランドで開催される。ブッシュ氏も出席するわけだが、食べたくないものは、スコットランドの有名な食べもの1つ、ハギス。これは、羊の臓物を刻んで胃袋に詰めて煮込んだ料理だが、「どうやって作られるかを聞いてから、食べたくなくなった」という。男性がはくキルトもはきたくないそうだ。ゴルフをする時間はとれそうにないので、せめて、ローラ夫人とスコットランドの霧の中を散歩したいそうだ。

 
by polimediauk | 2005-06-30 18:45 | 政治とメディア

情報のギャップ

 2003年3月のイラク戦争開戦前夜の話がアメリカのマスコミである程度大きく報道されているようだ。特に、2002年ごろの英首相官邸でのメモ(「ダウニングストリート・メモ」)が問題になっているようだ。(ヤフーで探すと、いろいろ出てくる。)

 何人かの人から、イギリスではどうなのか?と聞かれたのだが、実はそれほど大きなニュースにはなっていない。(口火を切ったサンデータイムズは別だが。)むしろ、アメリカで何故今大きなニュースになっているのか?を不思議がるような傾向さえ、ある。英マスコミの分析は、「米民主党が、何らかの意図があって、大きなニュースとして扱っている」というものだが、もちろん、米国民・米マスコミの間で知られていなかった事実であるために、騒がれているのだろう。米政治には詳しくないが、他にも理由がある可能性もある。

 何故イギリスで大騒ぎになっていないのか?だが、結局は、既に織り込み済み、というか、少なくとも国民の認識・理解の上では、細かい事柄〔誰が何をいつどう言ったか〕は覚えていなくても、2003年の開戦よりもはるかに前から英米間〔ブレア首相とブッシュ大統領間〕で、合意ができており、戦争が開始された、というのが定説、通説になっているためだ。

 2002年の時点で既に米英政府がイラク開戦をほとんど決定していた、英官邸で可能性が話し合われていた、あるいはブッシュ氏が大統領になった時点で既にイラクへの武力攻撃することを心に決めていた、という点を含めて、開戦にいたる過程は英マスコミがこれまで、これでもか、というほどしつこく報道してきた。開戦理由を誇張していたのはではないか?を調査したハットン独立調査委員会が2004年1月末に報告書を発表し、諜報情報の正確性を調査したバトラー委員会も7月に報告書を発表している。

 元閣僚らも本を出版し、それぞれが、「ダウニングストリートメモ」に直接言及していなくても、「開戦時期よりかなり以前に英米間で決められていた」という疑念(あるいは事実)は、かなり露出されてきた。米政権の中枢にかつてはいて、辞職した人々のインタビューなり本なども英国ではよく読まれてきた。

 「ダウニングストリートメモ」で、つまり官邸内で2002年の時点から既に開戦に関しての話があった、という報道は、ストロー外相などが、「当時は様々なことを議論しており、あらゆる可能性を考える必要があった。その一環だった」と5月の時点で、答えている。本日(6月29日)、外国プレス協会での会見で、改めてこの点を問われた外相は、「報道は全体の文脈の中の一部を取り出したもの。これ以上は答えることがない」としている。

 ・・と、ここまでは、「イギリスでは既に周知のことなので、あまり大きな話題になっていない」という結論で話が終わるのだが、やや問題が出てくるのは、例えば、関連トピックを扱った報道が、6月28日付であった。

「米に同調は危険大きい」=イラク開戦前、ブレア首相に進言-英外相
【ワシントン28日時事】28日付の米紙ワシントン・ポストは、イラク戦争開戦前に英国のストロー外相らブレア政権の中枢が、軍事作戦を急ごうとする米国と行動を共にするのは「危険が大きい」などとブレア首相に懸念を伝えていたことが、政権内部の記録から分かったと報じた。 
(時事通信) - 6月28日21時1分更新

 この報道のみから判断すると、一般的な印象として、何か新しい情報のように思えるが、実際には、ストロー外相が最後まで慎重派だったのは英マスコミでは何度か過去に報じられてきた。その情報源の1つとなったのがロビン・クックという元閣僚が出した日記形式の本(The Point of Departure 2003年10月発売)で、ストロー外相が開戦に反対していたことが綴られている。

 いかにも、すごく新しい情報である、としてワシントンポストで報じられているとしたら、さびしい気がする。

 この報道の内容や2002年時点で開戦の可能性も英政府中枢部で語られていたことなど、英国では「既報」であることが、米国や日本ではあまり報じられていなかったのかな、と思うと、情報・報道内容のギャップが非常に大きいような気がするからだ。

 もう1つの例がある。

 今は日本でも知られるようになった、キューバにある米軍のグアンタナモ基地の話で、ここには世界中からテロ容疑者として数百名が弁護士の接見なし、無期限で拘束されている。拘束が始まったのは2002年の1月。拘束されている人々は、「戦争捕虜」ではない、と米政府が当初言っており、このため、戦争捕虜の人権を守るジュネーブ条約が適用されない、ということで、人権団体らの強い非難の的になってきた場所だ。

 米国は、ジュネーブ条約を無視するのか?これが大きな議論の的に、少なくとも英国ではなっていた。

 後に、米兵の死者の写真などをアラブ系のメディア〔アルジャジーラだったかもしれない〕が放映したが、これをもって、米ラムズフェルド長官は、「ジュネーブ条約に違反している」と非難した。日本で、長官の言っていることをそのまま報道している例を読んだことがある。

 ラムズフェルド長官が「ジュネーブ条約」と言えば言うほど、米国自身がジュネーブ条約をグアンタナモ基地の拘束者に関しては守っていない、という状況があるので、英国では失笑の的となり、論理を自分の都合の良いように捻じ曲げる国、という印象が広まった。

 ラムズフェルド長官、ジュネーブ条約、とくれば、グアンタナモ基地での米軍による拘束者の扱い、というところまで、入れる報道が欲しかった。

 私自身、通常、新聞を読んだり、テレビを見たりするだけで、特別な情報源を持っているわけではない。それでも、「長官―ジュネーブ条約」だけで終わっていた日本の報道に、やや物足りなさを感じた。

 日本には〔米国にも〕たくさん情報が入ってくるはずだが、ある事象の判断に絶対不可欠の要素でも、報道されていないこと、認識されていないことが、意外と多いのではないか?ダウニングストリートメモの日米での取り扱いを垣間見るときに、そう思ったりする。

 (といって、英マスコミが完全であるのでは、もちろんない。予防注射と自閉症とを結びつける報道など、日本からすると、???と思うものはいっぱいある。)

 最後に、このメモの詳細に関しては、ヤフーで探してみたときに、どれもそれぞれで、うまい具合に代表的なものを見つけることができなかったが、興味のある方は、いろいろあるので、見てみていただきたい。


 
by polimediauk | 2005-06-30 01:19 | 政治とメディア

「国際的」「物価が高い」

 東京の大手町にある外国特派員協会に相当するものが、ロンドンの外国プレス協会になる。一種のクラブのようなものだが、協会の建物では会見なども多く開かれている。

 この協会を通して今までに会ったジャーナリストの中では、なぜかドイツから来た特派員たちにはロンドン生活を楽しんでいる人が多く、中国の場合、ややイギリスに関して批判的〔帝国主義の名残など〕な人が多かったように思う。偶然かもしれないが。

 日本からの特派員で、イラクに行って帰ってきた人と会ったときに、「ロンドンは〔イラクやアメリカ・ワシントンに比べて〕退屈だ。何も起きていない」という感想を聞いた。確かに、弾が飛んでくることはなく、大きな政変もないし、平和といえば平和だが。

 インディペンデント紙の6月27日号が、数名の外国特派員に、ロンドンをどう思うか?を聞いている。ほとんどが好意的な意見だが、もし「イギリスに関してどう思うか?」と聞いたら、厳しい分析・意見が出たのではないかと思う。

 「ロンドンは、世界中で最高にすばらしいトピックが常に存在する場所とは言えない。しかし、最高に楽しめる、かつその声が世界に届く場所だと思う。ドイツでも、ロンドン発の報道への関心は高まっている。英国は欧州の経済的奇跡を成し遂げている。その強みは賞賛に値するが、弱点もある。ロンドンは多くの記事の豊富な情報源だ。ネットワーキングは簡単だ。ニューヨークに匹敵するくらいの生き生きするアート・シーンもある」。(ドイツのデル・スピーゲル紙のマチアス・マツセック氏)

 「最初に驚いたのは天候だ。言われているほどひどいとは思わないが。スペイン人がイギリスの生活に関して高い関心を持っていることにも驚いた。関心が高すぎる!独ハノーバーで肉屋が老女を殺しても誰も関心を持たないが、これがロンドンのピカデリー・サーカスで起きたとなると、マドリードの同僚は細かいところまで知りたがる」。(スペインのエル・パイス紙のウオルター・オッペンハイマー氏)

 「ロンドンで生活するのは高額だ。北米から来る特派員はロンドンに赴任するとなると、躊躇する。ロンドンはニュースが発生する場所。アングロ・アメリカ文化の偏見があるからだろうが。公平に見ても、ロンドンにはたくさんニュースがあると思う。イギリスにはビジネスや公共サービスの斬新なアイデアが生まれる文化がある。ロンドンには、ニュースを作る政治的議論があると思う」。(カナダのグローブ&メールのダグ・サンダース氏)

 「ロンドンはニューヨークタイムズの海外支局の中でも最も忙しい支局だ。イギリスはアメリカ人にとって魅力的な国だし、政治、文化、芸術、劇場、時事、知的議論を追いかける記者にとって、報道するネタが一杯だ。ブレア首相とブッシュ大統領が連携しているので、原稿に切迫性がでる。ロンドンは、欧州、中東、そのほかの世界の国々とつながる場所でもある」。(米ニューヨークタイムズのアラン・コーエル氏)

 「オーストラリアのプレスにとって、ロンドンはとっくの昔にワシントンに首位の座をとられている。今はアジアの方が報道の焦点だ。しかし、今でも重要な場所であることは確かだ。ロンドンから、イギリスだけでなく欧州全域をカバーする。利点は、英語が使える点と、飛行機の連絡がいいことだ。悪い点は生活費が異常に高い点と、使い勝手の悪い地下鉄、公的サービスだ」。(ザ・オーストラリアンのピーター・ウイルソン氏)

 「発達したメディア、世界中のリーダーの訪英、トップレベルの会議、著名なシンクタンクの存在など、ロンドンはジャーナリストにとって天国だと思う。イギリスの交通機関、通信網などにも感銘をうけている。予期していなかったのは、インタビューのアポイントがとりにくいことだ。ロンドン支局は中国の人がイギリスに関して知識を得るために大きな役割を果たしている」。(Xinhua New Agencyのリー・ジガオ氏)

 このほかにもあったが、リップ・サービス部分が多いようにも思う。嘘は言っていないと思うが、表立ってネガティブなことは言えないのだろう。一方、人によって全く反対の印象〔交通機関など〕を持っていることが、分かる。

 私自身の印象は、確かにロンドンは国際的で、ここにいると、欧州、アメリカ、中東、アフリカなどの問題が身近に感じられる。アジアは主に中国に関する関心が非常に高い。中国の記者で、取材のアポイントがとりにくい、とあったが、逆に私はとりやすいように感じてきた。ただし、休暇をばらばらの時期にとる人が多く、予期せぬときに相手が出社しておらず、連絡がつかない、という事態は何度も経験した。日本人としては、日本にもっと興味を持って欲しい、と思っている。
 
 
by polimediauk | 2005-06-29 02:35 | 英国事情

外の視点

 天皇、皇后両陛下がサイパンを訪問。BBCでもラジオやネットでその様子が報道された。

 日本の天皇がサイパンを訪問することはどんな意味があるのか?諸外国から見たら、どうだったのか?BBCの報道には、外から見た場合の視点が入っている。日本の報道は、ネットで見ただけなので見落としもあるかもしれないが、どちらかというと官製報道のような、天皇・皇后側に立ったような報道になっている。

 そこでBBCの報道を聞く・読むと、日本の外から見たら、こういう見方になるのかな、と思う。一般的に、他の日本の事象に関しても、海外の報道を見たときに、別の見方があることに気づき、その「別の見方」が果たして正当なものなのかどうかはそれぞれの判断にまかせるにしても、日本とはどういう国なのかを考えさせてくれる材料になる。

 例えば、BBCオンラインでは以下のように報道されている〔大体の訳〕。細かく日本の出来事を追っているジョナサン・ヘッドという記者が書いたものだ。http://news.bbc.co.uk/1/hi/world/asia-pacific/4628947.stm 

 日本の記事には載っていないような部分は、青字にしてみた。後には日本の記事をネット上から拾った。

「日本の天皇が第2次世界大戦の死者を慰霊

 日本のアキヒト天皇が、第2次世界大戦中、米国が所有していたサイパンでの厳しい戦いの犠牲者を慰霊した。

 天皇、皇后両陛下は、この小さな島の戦争の犠牲者の主な慰霊碑の全てを訪れ、頭を下げた。

 約4万3000人の日本の兵隊と1万2千人の民間人が、迫る米軍に死ぬ気で闘うようにという命令を受けて、命を落とした。

 1944年6月には、約5千人の米兵が殺された。

―遺憾の意の表明

 数百人にも上る日本の民間人が命を落とした崖の端に立ち、天皇、皇后両陛下はこの場所で失われた命に思いをはせた。

 戦時中の日本の残虐行為に対する近隣諸国の怒りのため、天皇が死者の慰霊のために訪問できる場所はほとんどない。

 日本に対する感情は一般的に温かいものとなっているサイパンでさえも、外交上の困難さがあった。

 犠牲者全員の慰霊をしたいという願いにも関わらず、韓国人犠牲者の慰霊場所への訪問は理由なくスケジュールからはずされ、サイパンの大きな朝鮮半島出身者のコミュニティーから抗議の声が出た。

 最終的には、両陛下は記念碑に短時間訪れ、頭を下げたが、写真を撮ることは禁じられた。

  生き残った日本の元軍人たちにとって、今回の訪問は大きな意味を持っていた。

 破壊的な敗北を忘れることを好むこの国では、軍人たちの苦しみはほとんど認識されることがない。

 しかし、個人的思いがどうだったにせよ、外国の戦場への天皇の最初の訪問に関わる厳しい外交儀礼のおかげで、天皇は、もっと説得力のある反省の思いを見せる機会を持つことができなかった。


 サイパンには約5万人が住む。アメリカ領の北マリアナ連邦の首都である。

 
〔日本の報道のいくつか〕

天皇、皇后両陛下、サイパンへ出発

 天皇、皇后両陛下は27日昼過ぎ、東京・羽田空港から政府専用機で米国自治領北マリアナ連邦のサイパン島への「鎮魂・慰霊の旅」に出発した。戦後60年の節目にあたる今年、太平洋戦争の激戦地への旅は両陛下の強い希望で実現した初の慰霊目的での外国訪問で、28日夜帰国する。
 皇太子さまや小泉純一郎首相らが出席した空港での出発行事で、天皇陛下は「61年前の今日も、島では壮絶な戦いが続けられていました。海外の地において、改めて、先の大戦によって命を失ったすべての人々を追悼し、遺族の歩んできた苦難の道をしのび、世界の平和を祈りたいと思います」と述べた。
 両陛下は滞在中、日本、米国、現地住民のほか、中部太平洋地域での戦没者らの慰霊碑に供花する。また、米軍への投降を拒み、多くの日本人が身を投げた断がい「バンザイ・クリフ」と「スーサイド・クリフ」も訪れる。
 戦時中日本が統治していたサイパンでは、1944年6月に米軍が上陸し7月に占領されるまで激しい戦闘を展開。日本兵約4万3000人と在留邦人約1万2000人が亡くなった。米軍はテニアン島を含めて約5000人、チャモロ人ら現地住民約930人が死亡した。

 【天皇陛下のあいさつ】
 天皇陛下の出発行事でのあいさつは次の通り。
   ◇
 終戦60年に当たり、サイパン島を訪問いたします。
 サイパン島は第一次世界大戦後、国際連盟の下で、日本の委任統治領になり、沖縄県民をはじめとする多くの人々が島に渡り、島民と共にさとうきび栽培や製糖業に携わるなど、豊かな暮らしを目指して発展してきました。
 しかし、先の大戦により、この平和な島の姿は大きく変わりました。昭和19年6月15日には米軍が上陸し、孤立していた日本軍との間に、20日以上にわたり戦闘が続きました。61年前の今日も、島では壮絶な戦いが続けられていました。
 食料や水もなく、負傷に対する手当てもない所で戦った人々のことを思うとき、心が痛みます。亡くなった日本人は5万5000人に及び、その中には子供を含む1万2000人の一般の人々がありました。同時にこの戦いにおいて、米軍も3500人近くの戦死者を出したこと、また、いたいけな幼児を含む900人を超える島民が戦闘の犠牲となったことも決して忘れてはならないと思います。
 私どもは10年前、終戦50年に当たり、先の大戦で特に大きな災禍を受けた東京、広島、長崎、沖縄の慰霊の施設を巡拝し、戦没者をしのび、尽きることのない悲しみと共に過ごしてきた遺族に思いを致しました。また、その前年には小笠原を訪れ、硫黄島において厳しい戦闘の果てに玉砕した人々をしのびました。
 この度、海外の地において、改めて、先の大戦によって命を失ったすべての人々を追悼し、遺族の歩んできた苦難の道をしのび、世界の平和を祈りたいと思います。
 私ども皆が、今日の我が国が、このような多くの人々の犠牲の上に築かれていることを、これからも常に心して歩んでいきたいものと思います。
 終わりに、この訪問に当たり、尽力された内閣総理大臣はじめ我が国の関係者、また、この度の私どもの訪問を受け入れるべく力を尽くされた米国並びに北マリアナ諸島の関係者に深く感謝いたします。
(毎日新聞) - 6月27日14時32分更新

断がいに慰霊の祈り=韓国、沖縄の塔にも-両陛下、激戦の地サイパン

 【サイパン28日時事】戦没者慰霊のため、北マリアナ諸島のサイパン島(米自治領)を訪問した天皇、皇后両陛下は28日午前、島内の慰霊碑に供花。「バンザイクリフ」など、多くの日本兵や民間人が身を投げた断がいを訪ねられた。沖縄出身者の慰霊塔や、朝鮮半島出身の犠牲者を対象とした「太平洋韓国人追念平和塔」にもそれぞれ立ち寄り、車から降りて沿道から黙礼した。
 戦後60年を機に実現した初の海外「慰霊の旅」で、両陛下は国籍を問わず全犠牲者を追悼。平和を祈念した。
 沖縄と韓国の慰霊塔立ち寄りは発表された予定にはなかった。宮内庁幹部は「陛下の気持ちに基づき行われた。計画はあったが、いろいろな状況を考えリスクもあり、27日夜に最終決定された」と説明した。 
(時事通信) - 6月28日13時1分更新

「懸案解決の契機に」=天皇陛下のサイパン慰霊塔訪問-韓国遺族団体

 【ソウル28日時事】サイパンを訪問した天皇陛下が28日、「太平洋韓国人追念平和塔」に立ち寄り、黙礼したことについて、1981年に同塔を建て、在韓日本大使館などに塔訪問を要請してきた「海外犠牲同胞追念事業会」の李龍沢会長(76)は「小さいことだが、訪問自体に意味があり、良かった」と歓迎。「日韓両国の懸案などを解決する契機になってほしい」と期待感を示した。通信社・聯合ニュースが伝えた。 
(時事通信) - 6月28日13時1分更新

両陛下、慰霊の祈り

 【サイパン=河嶋一郎】戦没者慰霊のためサイパンご訪問中の天皇、皇后両陛下は二十八日午前、島北部の「中部太平洋戦没者の碑」や、民間人多数が自決したスーサイドクリフ、バンザイクリフに足を運び、この地の激戦で亡くなった多くの将兵、民間人らを追悼された。
 また、当初の予定になかった沖縄出身者の慰霊碑「おきなわの塔」と朝鮮半島出身者の慰霊碑「韓国平和記念塔」にも立ち寄り、拝礼された。宮内庁によると、礼を尽くしたいという両陛下のお気持ちから実現したという。
 第二次大戦中の昭和十九年六月から七月にかけて戦われたサイパン戦では、日米の軍人、民間人、地元民ら合わせて六万人以上が亡くなった。
 両陛下はこの日午前六時四十分(日本時間午前五時四十分)過ぎ、宿泊先のホテル近くの砂浜に出て、十九年七月に日本軍が最後の集団的な戦闘を行った当時の様子を帰還兵らから聞かれた。
 続いて、島北部に日本政府が建立した中部太平洋戦没者の碑に寄られた。この碑はサイパンを含む中部太平洋で戦没した人々を国籍を問わず対象としている。両陛下それぞれが供花し、静かに頭を下げられた。
 続いて、マッピ山北側で米軍に追い詰められた多くの日本兵、民間人が身を投じたスーサイドクリフやバンザイクリフのがけでも、海を望みながら黙礼された。
 正午(同午前十一時)前には、アメリカ慰霊公園を訪ね、亡くなった現地人の名が刻まれているマリアナ記念碑、軍人を追悼する第二次世界大戦慰霊碑にそれぞれ、花を供えられた。
 同日午後には、島中部の敬老センターを訪問し、帰国の途に就かれる。
(産経新聞) - 6月28日15時4分更新
by polimediauk | 2005-06-28 17:21 | 日本関連

ブレア首相会見


生の情報

 官邸で昼から小1時間ほど、ブレア英首相の会見があった。毎月開催しているものだ。BBCオンラインで同時中継され、内容のキーポイントはサイトで紹介される。また、官邸のウエブサイトにも後に掲載され、事前にメールアドレスを登録していた場合は、自分のアドレスにも送られてくる。

 従って、出席しなくても情報は取れるし、行き帰りの時間を思うと行かないほうが効率的とも言える。

 しかし、実際に行ってみると、質問ができる(といっても首相にあてられないと、発言できないが)のと、ビデオで見ただけではないニュアンスが伝わってくる。公式会見に出てもしょうがない、という見方があり、「出なくても情報は取れる」というのは本当だと思う。しかし、どんな小さな情報でも欲しい、という外国人記者陣からすれば、生の首相に会える毎月の定例会見は重要な取材の機会の1つともなり得る。

 今日はなぜかアジア系の記者には全くあたらなかったが、国内の大手メディアの記者、欧州や中東の記者などから、幅広い質問が出た。

 私の収穫としては、ジンバブエからの難民申請の問題で質問をしようと思って手を上げ続けたがあたらなかったのが残念だったことを抜くと、まず最新テクノロジーを使ったIDカードの件と、難民申請の件で首相のスタンスがより如実に現れて、かなり参考になった。

 IDカードの件だが、この導入に英国内ではかなり反発が強い、ということになっていて、特にここ数日はマスコミのバッシングがすごい。個人情報を政府が一挙に入手することで、個人の自由が奪われるとする意見、緊急の必要性もないのに導入するというのは何か隠れた議題があるのではという疑念、コストが高すぎるという声などがある。

 首相は、世界的に最新テクノロジーを使ったIDカードを作る流れがある、ということ、国境を守らなければならないこと、テロリストを防ぐことにもなる、便利、既に何かしらのIDを国民が持っているので、単に追加料金を払うだけで入手できる、など、合理的な説明をした。なかなか説得力のある「売り」だった。

 英国政府がある程度資金を投入するようなプロジェクトを行おうとする場合、マスコミは最初からそのプロジェクトそのものの存在理由を問う。「何かおかしいことが、あるに違いない」というスタンスから、様々な調査記事、批判記事を出していく。国民のために、チェック機能を果たしている、というわけだ。

 しかし、最初から、「何か悪いことがあるに違いない」という眼で物事を見る、というのは、おかしいようにも個人的には、思う。健全な疑いの目、つまり「悪いことがあるかもしれない」というレベルなら良いとは思うが・・。この点は既に様々なマスコミ批判者が指摘している。

 今回のIDカードに関しては、費用負担が国民一人当たり300ポンド(約6万円)になるかもしれない、という新聞報道があり、日本人の私の「必要な分であればお金をかけるのは当然ではないか?」という感覚からは理解できないほどの強い調子のバッシング記事が出る。(6万円というのは、確かに大きいが。)政府側は多くて2万円ほど、今日のブレア氏の説明では、「せいぜい6千円相当」だった。

 IDカードの説明で、記者たちに問い詰められるたびに、首相は、「そんなことを君たちは言うけれど、国民の大部分はIDカードを支持している。テロをなくして欲しい、という声は高く、そのためにIDカードが役に立てば支持する人が多い」、と自信たっぷりに繰り返した。

 確かに、IDカードに対する国民の支持率、テロをなくして欲しい、国境を守って欲しい、という声は高く、アンケートでもそのような結果が出ている。

 マスコミが何といおうと、国民からの支持が得られている、という思い、自信がブレア氏の顔からにじみ出ていた。

 新聞だけ読んでいると、IDカード導入は最悪のプロジェクト、と思えてくるが、実はそうではなく、ひょっとすると、騒ぐほどには難航せずに関連法が議会を通り、実施される可能性も高いかも、と感じた瞬間だった。

 ジンバブエから来ている難民申請者たちの問題では、申請書類が通らなければ、本当にこうした申請者を国に返してしまうのかどうか?と聞かれ、ブレア首相は、何度も、「ほとんどの申請理由は実態がなく、国に返すという選択肢を取らざるを得ない」と繰り返した。

 「難民問題は相当にセンシティブな問題だ。もしジンバブエ国内での人権擁護の状況が悪化しているから、という理由で、ジンバブエからの申請者を返さずに、一種のモラトリアムを与えてしまえば、ある特定のシグナル(難民申請者に対して甘い英国)を世界に送ることになる。これは避けたい」。

 「せっかく、難民申請者の数を減少させた。これをまた増やすわけにはいかない。歯止めが利かなくなる。ドアを大きく開けることになる。ジンバブエから来た人々だけを特別視はできない、移民政策に一貫性がなくなる」。

 しかし、ジンバブエに返された人々は、果たして何らかの迫害なしに暮らしていけるのだろうか?

 そんな疑問が渦を巻いたが、何度も「移民政策の一貫性」「申請者の数を増やすわけには、なんとしてもいかない」と繰り返した様子を見ていると、よっぽど何らかのプレッシャーがかかっていることが分かる。

 英国民の間で移民・難民をこれ以上増やして欲しくないという声は高く、もし年間の受け入れ数が増えようものなら、マスコミが政府をこてんぱんに批判するだろう。難民申請件数は2002年で8万4千件だったが、2003年は4万9千に減少したのだった。

 帰ってきて、BBCオンラインのサイトを見ると、会見の記事ではジンバブエ問題がトップになる構成になっていた。(会見が終わったか終わらないかの頃には、既に記事がサイトに載ってしまうのである。本当に、時間との闘いだ。)
by polimediauk | 2005-06-27 23:43 | 政治とメディア

「無料」の可能性

 欧州で見られるようなフリーペーパー〈通常の新聞のようなニュース記事が入る日刊紙だが無料)は日本では出ないのか?と思っていたら、雑誌で既に人気が出ているものがあった。

 読売新聞6月22日付けの記事によると、リクルートの無料週刊誌R25がそうなっているそうだ。1つのビジネスモデルとして興味深い。最後の評論家の武田徹さんのコメントも、 様々な示唆を与えてくれる。

 (以下、貼り付け。)

無料週刊誌「R25」創刊1周年
“広く、浅く”入り口提供

 通勤のサラリーマンらが素早く手に取る。ラックに積まれた雑誌がたちまち減っていく――。リクルートの無料週刊誌「R25」が来月、創刊1周年を迎える。無料ながら、有料誌に近い誌面で雑誌界を驚かせた同誌は、首都圏の読者に定着し始めたように見える。

 「R25」は映画で言う「R18指定=18禁」と同様で「25禁」の意味。25歳以上、具体的には25~34歳の男性を主なターゲットに創刊された。毎週木曜に発行され、首都圏1都3県のターミナル駅やコンビニ、書店など約4500ポイントで配布されている。

 当初50万部でスタートし、昨年9月以降は60万部を維持している。実売率ならぬ“捌(は)け率”は100%近い。実はトップクラスの有料週刊誌並みの部数なのである。この春には新卒者向けに「R22」、さらに今週、ボーナス商戦をにらんだ「+(ボーナス)R25」という特別号も発行している。

 編集長の藤井大輔さん(32)は自らと同じ世代の男性について、「既存メディアとの接点が薄いと言われるし、わが社の情報誌からも離れる傾向があった。それを再び引き戻すのが創刊の目的」と説明する。ただし関心を持てば、情報を検索する能力は高い世代でもある。そこで「興味の入り口、社会の入り口、活字の入り口になるような編集を心がけてきた」という。

 例えば毎号25本掲載されるコラム。幅広い話題やニュースを扱い、“そもそもの話”から説き起こしつつ、すっと読ませる。ライターの技能は高い。デザインの統一感も目をひく。原則48ページと厚さはないけれど、有料誌に引けを取らない誌面と言ってよい。

 フリーペーパーの団体、日本生活情報紙協会がまとめた「全国フリーペーパーガイド2003改訂版」によると、1156紙誌が発行され、総発行部数は2億2000万部を上回る。ただし同協会が「女性密着、地域密着、暮らし密着」を掲げる通り、無料紙誌は地域情報、生活情報に強い。近年は編集ページに力を入れる媒体も増えたが、「R25」は基本的に全国ベースの記事・広告を載せている点で、とりわけ有料誌とよく似ている。

 むろん販売収入でなく、すべて広告収入で発行されている点はまったく異なる。記事と広告の関係についても、誌面上は「読者が欲しい情報であることに変わりはない。いかに楽しんでもらえる形に加工するかを、むしろ考えている」(藤井さん)。だが記事と広告を連動させる誌面作りは、ファッション雑誌などでは普通に行われてきた。

 ただし「R25」として、有料誌と競合するつもりはないのだという。書評誌「ダ・ヴィンチ」編集部も経験している藤井さんは「有料誌は味付けを濃くし、コアな読者をつかもうとしている。うちの雑誌は“広く、浅く”。それを入り口に、もっと活字の世界に入って欲しいという気持ちが強い」と語る。「R25」の定着は、有料誌が対価に見合う情報を、優れた編集技術で提供できるかどうかを問い直しているのかもしれない。

 メディア論に詳しい評論家の武田徹さんの話「ネットの普及で『情報はタダ』という価値観が広まってきた。大学生たちと付き合っていると、出版物は相対的に高いと感じているようで、実用誌以外はあまり買わない。だが彼らは情報の信頼性に対するクールな目を備えている。有料誌はそれにこたえる方向性を求められているのではないか」

by polimediauk | 2005-06-24 14:14 | 新聞業界
ネットは新聞を殺すかブログ http://kusanone.exblog.jp/でも紹介された、毎日新聞に掲載されたネットジャーナリズムに関する特集がおもしろい。

3回の特集のそれぞれにおもしろさがあるが、私が一番心に残ったのが、3回目で、韓国のオーマイニュースの代表の人が、韓国の状況について話した個所だった。

http://www.mainichi-msn.co.jp/it/net/news/20050614org00m300067000c.html

新聞業界、メディア界などがこれからどうなってゆくのか?テクノロジーの発展の観点から考えるのもいいだろうし、ビジネスとして考えるのもいいだろう。

しかし、推論のゲームとしては楽しいが、新聞を読む側、テレビで報道を見る側からすると、どうももっと切実で重要な問題があるのではないか、と時々思う。

それは、前にも似たようなことを書いたが、「必要な情報の欠如」と「国際問題に関する国民側のやや低い関心・切実感の欠如」が、テクノロジーの発展以前の問題として、存在しているような気がするのだ。

例えば後者だが、自分自身、日本に住んでいた頃は世界情勢に関して関心が低く、知識として知っていたとしても、どうにも切実感が少なかった。

例えばイギリスにいると、それはBBCのせいかもしれないし、あるいは過去の植民地化の歴史のためかもしれないし、または様々な人種の人が身の回りに住んでいるせいかもしれないが、例えばイラクのことにせよ、フランスのことにせよ、様々な国際問題などが、非常にリアルな感じがする。人々は常にイラクがどうした?EUがどうなる?アフリカの飢餓問題はどうするんだ?といったことに、それぞれ関心を抱いていて、情報がふんだんに提供されており、議論があったり、会話の話題になったりする。例えば、イラク人などに実際に会ったことがあったりなどする〔在英イラク人は約30万。)

日本の新聞を読んでいて、読むだけでは不思議とは思わなかったが、それを例えば仕事で英語に訳すなどの作業をしたときに、情報が足りないことが多々あって、かなりつけたさなければならないこともあった。

日本にたまに帰って、人と話すと、様々なことに関して、片側の、あるいは一部の情報しか提供されていないようなケースに度々遭遇した。また、逆に自分が国際関連のトピックに関して話し出すと、相手の情報や関心がかなり少ないか、低いことにも気づいた。

日本の新聞、雑誌での国際報道が少ない、と言っているわけではないのだが、国際報道に限らず、結果的には十分に情報が与えられていない国民ができているような気がしてならない。

テクノロジーでなく、会社の経営の仕方云々でもなく、何かが、欠けている。提供する側に問題があるのか、受け取る側の問題なのか?「言わぬが花」という部分を大切にする国民性も関連しているのかどうか?(もうこんな考え方は古いだろうが。)

繰り返しになるが、この情報格差(と私が感じる)の原因が、受信料は払うものの、ほとんど無料状態で国民が情報を享受できるBBCが日本に存在しないせいなのかどうか?

まだ答えは出ていないが、考え続けている。

非常に前置きが長くなったが、私がはっとした、韓国オーマイニュースの方のコメント部分は以下。(ご関心のある方は、是非全文をご覧ください。)

 オーマイニュースは韓国の特殊性にも基盤を置いているが、優先されるのはインターネットの特性だ。双方向性、空間が無限。自分が聞いたニュースを直接伝えたいというのは人間の基本的な欲望で日本人もアメリカ人も持っている。まず韓国で起きたが、プロレタリア革命がロシアで起きたように、歴史的にもっとも起きやすいところで起きたのだ。まず韓国で起きたが日米どこでも起こりうる。社会環境が違うから、(国により)若干モデルを変える必要はあるだろうが、オーマイニュースのモデルは既にスタートしている。

 重要なのは既存メディアが市民のニーズを満たしているか。韓国は満たしていなかったので、オーマイニュースのような代替メディアが出た。日本ではニーズをどのくらい満たしているか。もうひとつ、市民に準備ができているかも重要だ。オープンにしても参加がなければ意味がない。韓国は南北に分断され、戦争が起きたら自分の命にかかわる。(政治に)関心をもたざるをえない。日本の若者は政治に関心を持つ準備ができているかだ。

by polimediauk | 2005-06-17 22:03 | 新聞業界

再犯の可能性を疑わない英国

 現在、東京に短期滞在中だが、今晩(13日夜)のテレビ番組「TVタックル」で、再犯を防ぐために、性犯罪の前歴のある人の個人情報を警察が把握できるようにする、という流れをどう思うか?に関して議論がなされていた。

 イギリスでは、性犯罪を犯し、刑を終えた人は、刑務所から出る時点で警察に個人情報を登録することが義務となっている。その時点のみでなく、もし住所が変わった場合などは新たに登録する。こうした義務を怠ると、禁固刑になることもある。また、警察のみでなく、地域の保護観察団体や福祉関係の部署などでも同様の情報が共有される。地域ぐるみの監視、保護、といったことになる。

 番組では、様々な論点がとりあげられ、よくできていると思ったが、この番組に限らず、日本の場合とイギリスの場合で考え方に大きな違いがある。それは、日本の場合は、一度性犯罪を起こしたが刑を終えた人を、性善説でとらえ、イギリスでは、いわば性悪説でとらえている。

 いったん、性犯罪を犯したら、再犯する可能性がある、つまり性犯罪者は基本的に直らないもの、という見方がイギリスには、ある。日本は「再犯するとは限らないのだから、前歴者の権利を守ることが大切」と考える傾向が強いようだ。

 もう一つ、日本とイギリスで違うのは、原子力・核エネルギーに対する考え方だ。

 イギリスでは、原子力発電が環境上最もクリーンなエネルギーであること、さらに「安全な」エネルギーであるとされている。もちろん、チェルノブイリは、ある。しかし、こうしたことは例外であって、全体からすると、事故は少ない、と。

 従って、原子力発電・核エネルギーに関しての否定的な意見が出るときには、もっぱら、費用面の話になる。廃棄物をどうするのか、という面も話題に上る。

 日本では、安全性が紙面をにぎわすようだ。

 同じトピックでも、国によって、随分見方が変わる。

 (ここまで読まれた方へー全くの別件だが、読売新聞6・12付けの1面に、地球を読む、というコラムがある。ポール・ケネディーという人の人権に関する記事だ。残念ながらアーカイブには入っていないようで、ここに今すぐ貼り付けができないが、もし入手できるようなら、ご一読を。アメリカの見方が変わる。)
 

 
by polimediauk | 2005-06-13 23:48 | 英国事情
「フランスが悪い」という口実

EU憲法の批准に関して、来年の春にでも国民投票を行う予定をしていたイギリスが、これを中止することになりそうだ。ストロー外相が、明日、議会で発表するらしい(BBC他、各紙)。

 フランスとオランダの国民が「ノー」票を投じたので、既に憲法は死んだ、という見方・流れができており、ブレア英首相は最近まで休暇中だったものの、首相の腹心のピーター・マンデルソン氏(EUの委員でもある)が、「ポーズボタンを押す時だ」と発言するなど、「もうだめだ」「国民投票をしても仕方ない」という声がイギリス国内でも圧倒的になった。

 結局、「欧州統合の中心だったあのフランスが」、そして「最初からの加盟国であるオランダでさえも」、憲法を国民投票で批准しなかったのだから、「もう仕方ないのだ」、という論理だ。

 私は、若干眉唾の思いで、流れを見ている。

 それは、イギリスは、というかブレア政権は、フランスを結構だしに使うのだ。都合の悪いときに、「フランスがそういったからこうなった」と。〔逆に、フランスは、「イギリスがこうだから・・」ということを言っている「らしい」が、本当だろうか?)

 その代表的な例が、イラク戦争開戦までの過程だ。イギリスは国連安保理の新決議を出してもらい、これを盾にイラクへの武力抗議をしようと考えていた。

 しかし、フランスは、首をたてに振らなかった。新決議を出すための意思決定がなされる前に、「フランスは、どんな妥協案を出しても、OKとは言わないことが分かったので」、交渉は決裂した、というようなことを、英国のグリーンストック国連大使〔今は退職)は記者会見で語った。

 その後も、事あるごとに、英政府は、「国連での新決議が欲しかったけれど、フランスに阻まれた」と、フランス=悪人説をしょっちゅう持ち出すことになった。

 「新決議なしの武力攻撃は、国際法の違反になるのではないか?」など、イラク戦争の合法性に関する議論が、一旦、ふっとんでしまった。「とにかく、フランスが悪い」ので、「やむを得ず、新決議なしに、武力攻撃に入らざるを得なかった」・・・というような論理の流れだった。

 どうも、今回も、あまりにもパターンが似すぎている。

 英国民はEUに対する反感が強いので、国民投票をしたら、ノーが多くて、ブレア首相は面目を失ってしまう可能性が高く、できれば、「他国に先にノーといってほしい」という気持ちがあるのだった。このもくろみは、結局、成功しそうだ。

〔参考)
2003. 03. 18  読売新聞
対イラク新決議修正案撤回 米英大使、仏の拒否権「脅し」と非難  
 ◆「安保理の連帯」崩れる
 【ニューヨーク=勝田誠】米、英、スペイン三か国が十七日午前、国連安全保障理事会の非公式協議の開催前に、今月七日に安保理に提出した対イラク武力行使を容認する新決議修正案を採決にかけず、取り下げる方針を発表した。米英は取り下げ理由として、常任理事国のうちのある一か国が、拒否権行使の「あからさまな脅し」(ネグロポンテ米国連大使)をかけ続けたためと説明したが、これがフランスを指すのは明らかだ。〈本文記事1面〉
 米英などと仏の確執は最終的な局面で、決議案取り下げ、米英による安保理決議無しでの武力行使という事態を迎え、アナン事務総長が訴え続けた「安保理の連帯」にとって、最も厳しい結果となった。
 英国のグリーンストック国連大使は、決議案取り下げの理由として、各国に対する最後の数時間の外交折衝にもかかわらず、常任理事国のうちの一か国が「いかなる条件であっても最後通告には反対する」として、拒否権行使の姿勢を崩さず、英国の妥協案を拒否したためと説明した。
 英大使はさらに、英国が〈1〉イラクの姿勢を試す信頼できる最後のテストの実施〈2〉現実的かつ厳しい期限設定〈3〉テストで不可と判定された場合、安保理決議1441(昨年十一月採択)に基づく「深刻な結果」、つまり、武力行使を認める――という妥協案を試みたが、常任理事国一か国に拒否されたと述べた。これも、フランスを指すのは明らかだ。
 これに対してフランス外交筋は、現在の新決議修正案が「たった四票しか賛成票を取り付けていないのは事実。国際社会全体が同案を支持していないのに、わが国を非難するのには驚いた」などと語った。
 一方、米国のネグロポンテ国連大使は「投票すれば、接戦だったはずだが、ある常任理事国によるあからさまな威嚇により、票読みも最も重要なことでなくなったことが遺憾である」と声明を読み上げた。





by polimediauk | 2005-06-06 04:41 | 欧州のメディア
 欧州憲法に関しての話題がまだまだ続くイギリスだが、フランスとオランダがEU憲法批准にノーと言った後、「25の全加盟国が批准しないと憲法は発効しない」ため、「もう憲法は死んだ」という論調が支配的になっている。

 理屈の上では、「2カ国がノーと言ったのだから、発効しない」「これ以上国民投票をしても無駄」というのは合っているのだが、前にも書いたが、民主主義の面から、「フランスとオランダがノーだから、ノーだ」「もう他の国の国民には、一切聞く必要なし」という流れに対する違和感が消えない。

 一ヶ月前の五月、イギリスでは総選挙があった。投票率は約61%で、前回の59%よりは高いものの、イギリスとしては低い。かつては、70-80%がざらだったからだ。

 投票率の低下を嘆く声は大きいが、「こんなものだろう」という見方もある。つまり、もし選挙に大きな争点がなく、経済も安定していて国民の側に大きな不満がなければ、わざわざ投票に行く人は少なくなる、という、見方だ。

 ここでも、「民主主義」の点からは疑問が出てきた。この投票率自体は日本と比べても決してそれほど低いほうではないのだが、歴史的な3連勝を果たした労働党の得票率は35・2%で、与党としては第2次大戦後で最低だった。 主要3党の得票数は労働955万7052票(得票率35・2%)、保守877万2484票(同32・3%)、自民598万2084票(同22・1%)。

 既存政党の中では最大支持を得られた、といっても、全体で見ると、随分少数の人に支えられた政権、ということになる。そして、労働党は他の党とは一切協力せず、自分の党だけで、政府を作ってしまう。

 もし「民意」を広く反映させるのであれば、第1野党の保守党、第2野党の自由民主党と連立政権を組むべきではないのか、と思ったりする。

 どこの国も、決してパーフェクトではないことがしみじみ分かる。

 一方、総選挙中のメディア報道を見ていると、争点がないのでちょっとつまらない、というのが本音だった。争点になりそうなトピック、つまり、7月からイギリスが議長国となるEUとの関わり具合などは、マニフェストなどでもほとんど触れられていないのだった。

 その代わりに、目だったのが、メディア自身のIT使用だった。デジタル放送、インターネット、双方向性・・・。この点からは、一種のショーと言うか、イベントとしては、おもしろかった。政治は常に人間ドラマ的側面を持つと思うが、3つの政党の党首インタビューなどは、一人一人の人間性がにじみ出て、人々の話題にも多く上った。

 新聞通信調査会が出している調査会報6月号に、英総選挙のメディア・ウオッチングをまとめてみたので、紹介させていただきたい。http://www.chosakai.gr.jp/index2.html

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英総選挙とメディア
 多チャンネル、ネットがさらに身近に

 五月五日、英国で四年ぶりに総選挙が行われ、史上初めての三期連続労働政権が誕生した。昨年秋の米国大統領選挙では、個人の日記形式の簡易ホームページ「ウエブログ(ブログ)」が新しいジャーナリズムとして確立する機会となったが、英国ではブログは日本や米国ほどの人気にはなっておらず、その代わりに英国放送協会(BBC)などを筆頭する大手メディアが中心となって、多種多様な視点を有権者側に提供した。多チャンネル・デジタル放送やネットを通じての情報提供が多用されるようなったのも、今回の総選挙の特徴だ。

 一方、投票率は六十一・三%で、前回の五十九・三%からすると微増。英国の総選挙は七十%台が長年続いており、前回の投票率は一九一八年以来最低となっていた。投票率の低下は、政治家や政治そのものに対する不信感が強くなっているという分析と、景気が好調で大きな争点がないため、また労働党と野党保守党との政策に大きな違いが見られないために、国民がわざわざ投票をしようという気になれないでいる、という見方がある。

 選挙戦期間中の世論の形成要因、ネット機能を駆使する既存メディアの試みを見て行くことにする。

―それぞれの支持政党を持つ新聞

 世論形成に長年大きな影響力を持ってきたのが新聞だが、日本と比較した場合の特徴として、英国の新聞は中立を目指さない点がある。社主の意向でそれぞれ独自の支持政党を持ち、読者もこうした新聞のスタンスを了解して記事を読む。

 高級紙では発行部数が最大のデイリー・テレグラフ紙は伝統的に保守党支持。タイムズ紙を所有するメディア王ルパート・マードック氏はブレア首相支持で、従ってタイムズは労働党支持となる。

 四大高級紙の中で左派のガーディアン紙は労働党支持。ガーディアンよりもさらに左なのがインディペンデント紙で、一九八六年の創刊当初より、特定の支持政党を持たず、「独立している(インディペンデント)」としてきたものの、欧州政策に重きをおく第二野党・自由民主党や労働党のブラウン蔵相(ブレア首相のライバルで次期首相と目されている)を支持している。

 左派系シンクタンク、フィデラル・トラストのディレクター、ブレンダン・ドネリー氏によると、「高級紙はその支持政党を巧妙に隠す場合が多い」。例えば、ブレア支持のタイムズであってもブレア批判の記事を出し、保守党支持のデイリー・テレグラフでもハワード保守党党首に対して厳しい記事も出す。これは、ドネリー氏によると、「高級紙として、バランスのとれた新聞であるということを読者に示すため」。

 今回は選挙とあって各紙はそれぞれの信条を明確に出した。投票日の直前にタイムズ(労働党)、ガーディアン(労働党)などが支持姿勢を社説で表明したのに加え、週刊誌エコノミストも、四月三十日―五月六日号で「選択肢は他になし」とする見出しをつけたブレア首相の大きな笑顔の写真を表紙とした。

―サン紙は労働党支持を宣言

 高級紙に比べて庶民的で読者の感情に直接訴えかけるような記事が満載のタブロイド紙・大衆紙も、世論形成に大きな役割を果たす。

 英国の日刊紙の中で最大の発行部数三百十万部を誇るサン紙は、長い間保守党支持で、一九九二年の総選挙でジョン・メージャー氏が率いる保守党勝利した際に、翌日の一面で「私たち(サン)が勝った」と勝利宣言をしたエピソードが知られている。

 サンは、一九九七年の総選挙で、突如ブレア氏が率いる労働党の支持に鞍替えした。この年は労働党勝利となったため、「常に勝つ側にいる」とも言われている。二〇〇一年も労働党支持だったが、二〇〇五年も四月末、ブレア氏支持を明言した。サンが支持表明というだけでも既に、労働党勝利というメッセージが伝わる効果があった。

 サンの政治部長トレバー・カバナー氏は、四月中旬、ロンドンの外国プレス協会の会見の中で、「実際にサンが投票動向に影響を及ぼすことが出来るのかどうか、本当は分からないと思う」と述べている。「あるとしても、せいぜい支持率を二%上げるぐらいだろう」。

 しかし、二%は政党側にすれば大きい。

 タブロイド紙の影響力に注目する政治家達は、特定の文脈の中での話題づくりを狙って、頻繁に情報をタブロイド紙に流す。

 サンの場合、マードック氏とブレア氏との親しさから、政府のしかも首相近辺の人物でなければ知りえないような情報が故意にリークされるケースも度々ある。例えば総選挙の期日はまずサンにリークされた。

 こうしたリークが結果的に大スクープとなるので、大衆紙が何をどう報道するかで今後の政界の動きなどを見て取れるという面が出てくる。政治家も知識人も大衆紙の見出しに注目をせざるを得ない状況となる。

―宣伝紙になるタブロイド紙

 単なる「支持」どころか、露骨な宣伝紙になってしまうタブロイド紙もある。

 デイリー・ミラー紙は元々は労働党支持だが、近年はイラク戦争をめぐってブレア政権の批判を続けていた。

 昨年、編集長交代があり、デイリー・ミラーは労働党に好意的なスタンスに編集方針を戻したようだ。四月六日号では、一面がブレア首相の手書きの手紙。中面でミラー読者に向けた五枚の便箋に書いた手紙の文面が掲載されている。「ミラー読者のおかげで、一九九七年、政権を取ることができた」というもので、「三〇〇字以内でブレア氏に手紙を書こう」と呼びかけるコラムもついていた。「新聞」というよりも宣伝紙といっていいだろう。

 ファイナンシャル・タイムズの雑誌FTマガジンの編集長ジョン・ロイド氏は、五月七日号のコラムの中で、これまで選挙の行方に影響を持つとされてきたタブロイド紙だが、憤りの感情を基にした扇情的な見出し(「ブレアが嘘をついて私たちを戦争に追いやった!」「病院の予約を取るのに何日も待つなんて!」)に、英国の有権者はそのうちあきあきするのではないか、とも書いている。

―テレビで人柄を観察

 英国民は、新聞よりもテレビやラジオのニュース報道に信頼を置いているが、これは、放送業界は衛星放送を除き全放送局が公共放送となり、一定の基準を維持することを法的に義務付けられていることが背景にある。ニュース報道の場合は公正であること、バランスを保つことなどが条件となる。

 テレビ放送でハイライトの1つとなったのが、鋭い質問を投げかけることで知られるBBCのジェレミー・パックスマン氏が、ブレア労働党党首、ハワード保守党党首、ケネディー自民党党首らに、それぞれ30分ずつの単独インタビューをした時だ。

 選挙戦では政党間の政策の違いに加えて、あるいはそれ以上に党首の信頼度、人柄のアピールが投票行動に大きな影響力を持つ。どんな答え方をするのか、質問をはぐらかしていないかどうか、嘘をついていないのか、など、視聴者が指導者達の素顔をじっくり観察する機会となった。

 同じくBBCで「クエスチョン・タイム」という視聴者参加番組がある。通常は100人ほどの視聴者を呼び、政治家などを含む数名のパネリストに質問するといった形を取る。

 今回は、3人の党首を時間差で30分ずつ出演させた。それぞれの党首はたった一人で、数十人の視聴者からの質問を受ける。ブレア氏が登場した瞬間から観客の一部がブーイングの声を上げた。出場者は意見の偏りがないよう留意して選ばれているが、イラク戦争が国際法上違法だったのではないか、と考える人が数名おり、合法・違法問題に関しての質問が相次いだ。スタジオのライティングのせいか、あるいは質問の鋭さのせいか、ブレア氏は額に汗し、弁明に精一杯だった。

―ネットで参加

 今回の総選挙で、最も大きな変化が見られたのは、ブロードバンド、インターネットの影響であろう。

 前回〇一年の総選挙以降、国民のデジタル技術の利用ははるかに進んでいる。ネット・ショッピングをする人の割合は増える一方で、ブロードバンドの普及も〇二年には百万人だったが、〇四年には五百万人を超えた。五三%の家庭がデジタル放送を楽しみ、テレビのリモコンを使って特定のトピックだけを選択して視聴したり、自分の意見を表明したり、携帯を使ってメールを送ったり、という、テレビとの双方向のコミュニケーションが広く行われるようになっている。

 こうした中、各メディアもネットやデジタル放送を使ったサービスに工夫を凝らした。

 BBCでは、ニュース・クリップやラジオの番組の大部分がBBCのウエブサイト上に保存されており、後日再視聴することができるようになっている。前述の党首インタビューなども繰り返して見れる。

 BBCオンラインのウエブサイト上では、一九四五年以降の総選挙の結果と読み物的話を載せた。その時々の政治家、例えばサッチャー前首相などの声も聞けるようになっている。文字情報だけでなく音声・映像のアーカイブを惜しみなく使ったサイトとなった。

 テレビ局のチャンネル4は、自社サイトの中で、もともとはアメリカからヒント得たアイデアだが、「ファクト・チェック」という項目を作った。これは、政治家が選挙中は様々なことを約束するものだが、果たしてこうした約束が事実に即したものなのか、嘘を言っているのではないかを、このコーナーを通じてチェックしよう、というものだ。

 開票が始まると、各メディアは選挙関連ニュースや開票速報を電子メールで携帯電話などに流した。

 BBCのウエブサイトでは、自分の住む地域の郵便コードを入力すると、瞬時に、どの候補者が当選したかがすぐ分かる仕組みとなっていた。ネット以外の他メディアでは、自分が住む地域の結果がどうだったかを即時に知ることはできないので、ネット独自で国民にとっては有益なサービスの1つと言えよう。

―ガーディアンのネットの実践

 新聞社系サイトでは、以前からネットに力を入れてきたガーディアン紙の選挙特集サイトが群を抜いていた。カラフルな選挙地図が掲載され、興味のある部分をクリックすると候補者全員の情報が出る。この仕組みそのものは他社サイトでも行われていたが、ガーディアンの場合は地図のグラフィックのレベルが高く、かなりの人手と資金を投入しているのが明らかだった。

 ガーディアンは、タブロイド判にして人気を博しているインディペンデント紙やタイムズと比べて、発行部数が下落の一方をたどっている。しかし、特にアメリカを中心として海外からサイトに新聞を読みに来る読者が英国内の読者よりはるかに多く、アラン・ラスブリジャー編集長はデジタル・ガーディアンに力を入れるつもりであることを、事ある度に表明している。

 ガーディアンはブログも早くから取り入れており、選挙サイトにもブログのコーナーを設けた。ガーディアンが選んだジャーナリスト、政治家らに自分たちの選挙に関する意見を書いてもらい、それに読者がコメントを重ねて行く。

 サイトにはガーディアンの政治部長による選挙結果の分析(音声)やブレア首相の勝利スピーチ(BBCから借りた映像)なども載っている。「新聞は紙媒体」というこれまでの定義を、ガーディアンは既に超えてしまったようだ。

 ブログの中にはラスブリジャー編集長の書いたものもあり、メール・アドレスがついている。英国の新聞で書き手のメール・アドレスが記事の最後についていることは珍しいことではない。

 米ニューヨーク・タイムズ紙も、五月九日、すべての記事について記者宛の電子メールが送れる仕組みを作る案を発表している。今後、新聞の書き手・作り手の顔が見えるこうした動きは英語圏のメディア内で拍車がかかることが予想される。

 開票は午後十時過ぎから始まり、大勢が判明したのは翌朝六日の早朝だった。この間、各テレビ局は特別番組を編成。BBCのメイン・チャンネルBBC1と民放ITVのこの夜の選挙番組の視聴者数は約七百万人で、前回〇一年の総選挙時と比べて約百万人、一九九七年との比較では四百万人減少した。一方、スカイ・ニュースやBBCニュース24など、多チャンネル・デジタル放送の視聴の割合は年々増えている。

 かつてテレビ放送といえば地上波のBBCがメインで,世論形成にはタブロイド紙を中心とした新聞業界が大きな役目を果たしてきた。しかし、有権者は多チャンネル・デジタル放送やネットを通じて、多彩な情報に自分達でアクセスすることを楽しんでいるようだ。

 せっかくの多彩な情報の選択肢の広がりを投票率の大幅な上昇につなげるにはどうするか?これは次回の課題となろう。

 

 
 

  

 

 
 


 
by polimediauk | 2005-06-05 01:53 | 政治とメディア