小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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 フランスの政治学者ジル・ケペル氏の話が、前にBBCオンラインに出ていた。欧州の若いムスリムたちが、ネットを通じて情報を交換し合い、ジハードをするようになってゆく・・・というような趣旨の記事だった。http://news.bbc.co.uk/1/hi/magazine/3997701.stm

 その後、取材する機会があり、その後で本を数冊買った。日本語で出ているのは1冊ぐらいしかなく、大分前のものだったが、新しい翻訳本が出ていることを知った。「ジハードとフィトナ」という本らしいが、どの英語本(あるいはフランス語本)に相当するのだろうか?

2006. 02. 26 読売新聞 「ジハードとフィトナ」ジル・ケペル著
◇評者・布施裕之(本社編集委員)
 「フィトナ」というなじみの薄い言葉を用いて、9・11後のイスラム世界や欧米との関係を読み解いた意欲作だ。「フィトナ」は、異教徒との聖戦「ジハード」の対極にある概念で、イスラム教内部の反乱や内戦を意味する。フセイン排除後のイラク国内の混乱を本書はこの「フィトナ」の現れとみる。中東の現実に対する米国の「無知」が「パンドラの箱」を開けたとする一方、クルド族、シーア派、スンニ派が権利回復を求めて争い、「フィトナの深みに沈んでいく」イラクの現状は、イスラムの学識者が予見していたことだったとも指摘する。
 著者はフランスのイスラム専門家。ネオコン(米新保守主義)やアル・カーイダ・ザワヒリの思想の紹介も簡潔でわかりやすい。ただフィトナ解消に、イスラム同化政策を進める欧州が役割を果たしうるとした終章は、マホメットの風刺画をめぐる騒動を見ると、いかにも皮肉な気がする。早良哲夫訳。(NTT出版、3200円)


 最後の結末は、確かに、皮肉な部分があるのかもしれないが、私自身は、「フィトナ解消に、イスラム同化政策を進める欧州が役割を果たしうる」としたらしいケペル氏の分析を信じている。「イスラム教徒の真の戦いの場は欧州になる」ということを言われたとき、「は??」と思ったのだが(前後の説明を抜きにして急に書いて恐縮だが)、欧州に住む、イスラム諸国から来たムスリムたちの話を聞くうちに、納得するものがあった。

 詳しい理論づけはケペル氏の本を読むしかないが、3200円ということは、かなり分厚いのだろうか?

 (ケペル氏のコメントも少し入った、欧州の宗教に関して書いた文章を参考までに残しておきたい。EUの憲法草案、当時のアメリカの状況との比較も入ったエントリーを、http://ukmedia.exblog.jp/m2005-04-01/#1421560 を1回目として、3回に分けて書いた。)

(追記:後で、日本語の方を買ってみた。最後まで読むことは読んだが、英語本と同じく分かりにくかった。翻訳のせいではなく、この人の書き方だろう。オリジナルのフランス語だと読み易いのかどうか???)
by polimediauk | 2006-02-28 04:39 | 欧州表現の自由

「新聞は読者があってこそ」

 何が英語の新聞デザインの決め手となるのか?

 英字紙「デイリーヨミウリ」を発行する、読売新聞英字新聞部の杉山智代乃氏に、それまでの経歴も含めて聞いてみた。

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 杉山氏はアメリカの大学卒業後、1990年前半から英字新聞「デイリーヨミウリ」で働き始めた。勤務後間もなくして、毎週の消費者情報の頁の担当に。トピックを見つけ、取材に行き、原稿を書き、紙面を作る、という作業に従事した。

 「もともと、特にデザインに関心があったわけではなかった」が、毎週の紙面づくりに熱中していた。「遊びができるから」だったという。ある時、ホワイトアウトの商品紹介を取り上げた。「商品だけ並べるとつまらないので、自分の手でペン型のホワイトアウトを持つ写真を撮ってもらった。それを原稿の上に出して、ホワイトアウトで間違ったところを消す、という構図になるようにした」。

 デザインのアイデアを思いつくこと、考えていることがおもしろかった、という。

 その後、アート面のエディター、新聞の顔となるフロント面、その時々の特集などを手がける中で、次第に中堅どころになってゆく。

 しかし、大きな仕事を手がけるうちに、もっと新聞のデザインについて知りたいと思うようになる。「学ぶ場所を日本では探せなかった」ため、焦燥感が出てきた。「グラフィックや工業デザインはあったが、新聞のデザインを学ぶようなところを捜せなかった」。孤立無援であるように感じたという。

 デザインの改良を通じてジャーナリズムの水準の向上を目指す米国の団体Society for News Design (www.snd.org )に個人で所属し、「クリティークの場」として、ワークショックなどに出席するようになった。米国を中心に50カ国からの2600人の会員がいる団体だ。1998年の話だ。

 ワークショップでは、参加者がそれぞれ紙面を見せ、お互いにアドバイスしあうことができた。杉山氏も自分が作った紙面のポートフォリオを持っていき、批評してもらったという。「おもしろいねという人もいたし、雑誌みたいという人もいた」。

 2001年春、デイリーヨミウリは大幅な紙面改革をすることになった。8月、提携先となった米シカゴ・トリビューン紙に出張の任が下り、2週間デザイン部で仕事をした。「作ってみなさいといわれ、ダミーの紙面コピーとデータをもらい、作ってみた」。アドバイスを受けながらの日程を終えると、トリビューン紙からはデザイン専門の担当者が来日。同様に2週間いながら、新紙面を画像制作スタッフと共に模索。

 10月からの紙面改革実行に備え、総勢90人ほどの編集スタッフに、新たな紙面デザインのポイントを伝えることになった。基本は (1)記事に上下関係をつけてメリハリを出すことと、(2)カラーパレットの導入だった。

 「紙面はメリハリがないとだめ。上がトップでその割りに見出し小さかったりしてはいけない。上には一番重要な記事が来る、下に従って、重要度が低くなる。それに見出しの大きさを変えていくー」。

 上下をはっきりさせることの意味は、「作る側はこういう記事を選び、こういう決定をした、うちはこれは大きいからこうした、ということを自信を持ってプレゼンしなさい、ということ。そうしないと、読者もついてこない。自信を持って記事を取り扱うように、と。」

 記事と記事を分ける線は、基本的になくした。「つけるつけないは新聞によって違う。ないと、すっきり感がでると思った」。

 色味に関しては、それまでは、「カラーを自分勝手に作っていた。カラーパレットとは、新聞で使う色味のこと。色の範囲は無限大でも、すべての色が新聞に合うわけではない。ベースとなる色がある」からだ。

 紙面を開きながら、「デイリーヨミウリは紫だが、ジャパン・タイムズはブルー。変えた色味を中心にして、どんな色がいいか、ブルーブラウン、黄色などを決めていく」作業が続いた。

 デザインのスタイルは、人によって違うという。「私はシンプル、クリアなものを目指している。」

 フォントも変えた。何十年も前からタイムズというフォントを使っており、古めかしい印象がぬぐえなかったからだ。

 「グラフィックデザインと新聞のデザインは違う」というのが杉山氏の持論。「新聞のデザインはあくまでも記事を読んでもらうためにある。デザイン・スキルを見せるためでなく、読ませるためのデザイン。作っている人が、(テクニックに走るのは)、読者を忘れている」。

 読みやすくするための工夫は、視線がどこをどうたどってどの紙面に行き着くか、つまりナビゲーションの工夫でもある。「紙面の名前が入っている『ナビゲーダー』部分を、何故大きくするのか、と聞かれたことがある。ぱっと目に入って、すぐ分かることが大事だと思ったから大きくした。紙面を開いて、すぐに目が、見出しや記事に行くようにすることが大事」。

  連載記事についていた、シリーズ名をあらわすロゴもシンプルなものにした。それまでついていたイラストは必要ない、と判断した。「言葉だけでいいと思った。原稿が重要なのだから」

  杉山氏個人が「きれいだなあ」と思う新聞は、ドイツのDie Welt, やDie Zeit だという。英国の新聞では、ガーディアンもきれいだと思う、という。

 しかし、だからといって、ガーディアンやドイツ紙のレイアウトを日本にそのまま持ってくることはできない、という。「例えばDie Zeitとデイリーヨミウリでは新聞の読者層が違う。DYの読者は日本人と外国人。タイプとしては読者層が絞りきれない」

 「新聞は、自己満足で作ってはいけない。読者があってこそ新聞は存在しているし、紙面は読者を反映している」と見ているという。例えばデイリーヨミウリの紙面デザインをDie Zeitのようにして、読者はついてくるのだろうか?「それは分からない。そこが難しい」。
by polimediauk | 2006-02-27 03:45 | 新聞業界


 これまで、このブログで、何度か、英国の新聞のレイアウトデザインが良い・悪いというようなことを言ってきた。

 その根拠、ベースになるものは何なのか?

 実際のところ、自分自身が英語の新聞の紙面を作っていた、という経験がまずある。古くは20数年前に大学で英字新聞を作っていた。といっても、当時は卵の卵のようなことで、新聞のレイアウトデザイン(今後、デザイン、と呼ぶ)には殆ど全く頭を使うことなくやっていた。経験にさえも入らないほどの英字新聞作りだったが、キーボードで原稿(英作文のようなものだったが)を打ち、印刷をしてもらっていた新聞社でゲラチェック、という作業をやっていた。

 その後いくつかの職を経験し、新聞社に入ってからは英字新聞を作っていた。翻訳、紙面づくり、取材、原稿書きなどを一通りやったが、「英語の新聞のデザインはどうあるべきか?」という部分を特に教わったというよりも、みようみまねでやっていた。しかし、数年して、ある基本原則があることを、職場で教えてもらった。その時はどちらかというとあまり気をいれずにやっていたが、英国に来て新聞を見てみると、全く同じ原理が使われていることが分かった。

 教えてもらった原理・原則には、例えば以下があった。

―紙面は重要度の順にめりはりをつける
―二つの記事の見出しがぶつからないようにする。どちらかを上にしたりなどして、ずらす(1つ1つのピースをはめていくような、パズル的な作業になる)
―一定の隙間(白い部分)を大切にする。
―色味を考える

 他にもたくさんあるが、こういう点を書くと、あまりたいしたことがないように思えるかも知れず、また紙面制作に興味のない方は分かりにくい点もあるかもしれない。しかし、実際には、二つの記事が同じ高さに並んでいて、別々の記事の見出しが同じ高さにあるため、非常にごちゃごちゃした紙面になっている例など、この原理原則に沿っていない場合、あまりあかぬけない印象になる。ただし、紙面デザインは主観的な要素が入ってくるので、原理原則が変わる場合もあるだろうし、応用はそれぞれ違う。

 例えば、現在のガーディアンは、いろいろなルール、原理原則(色味も含め)に沿っており、きれいな感じがする。薄いベージュ、ブルー系はややトレンドになっているようで、例えば、日本にいる方は、週刊の英字新聞「日経ウイークリー」を見ていただくと、基本になってきた「色味」が分かると思う。逆に、どぎつい赤や黄色は(どういうのが「どぎつい」のかは、実際の色で説明するしかないのだが)、あまりいいとは思われないようだ。英国の大衆紙のフロント面がどぎつい色を使ったりする。

一般的な雑誌などのグラフィックデザインと英語の新聞のレイアウト・デザインというのは、似ているところがあっても違う。どこが違うのか?

 そこで、昨年、私がかつて勤務していたデイリー・ヨミウリを訪ね、英字紙デザインレイアウトの基本を、2001年10月の紙面刷新の担い手となった杉山智代乃氏に聞いてみた。彼女がユニークなのは、英語の新聞のデザイン・レイアウトを米国で勉強した日本人である点だ。23日にも書いた米国Society for News Designのメンバーとなって、セミナーなどに出てきたという。http://www.snd.org./index.html

 その前に、日本の英字新聞界の現況を。

 日本で発行されている英字新聞(フィナンシャルタイムズなどの外国の新聞を除く)というと、まず発行部数が長年トップのジャパン・タイムズ、それに続くデイリー・ヨミウリ、そしてかつてはデイリー・マイニチ(マイニチデイリーニュースと言ったかもしれない)、また夕刊紙の朝日イブニング・ニュースが全国紙として4強だった。現在、マイニチはオンラインのみとなり、朝日イブニングニュースはインターナショナルヘラルドトリビューン紙のサプルメント(中面に数ページ)となったため、経済紙の日経ウイークリーを除くと、紙の新聞の朝刊紙で残っているのはトップの2つ、ジャパン・タイムズとデイリー・ヨミウリのみだけとなった。日本ABC協会によると、2005年1月から6月の平均で、ジャパン・タイムズの発行部数は48,844部、デイリー・ヨミウリは 40,513部となっている。(やや古い数字で恐縮である。基本的にはメンバーでないとデータがもらえないことになっている。)このほかに、ネットのみの英字新聞でJapan Today がある。盛りだくさんで、非常に活気がある。(続く)

(追記: alfayokoさんのご指摘のように、Japan Today のウエブアドレスはhttp://www.crisscross.com/jp/ に変更になりました。先のアドレスでアクセスしようとした方、ご迷惑かけました。)
by polimediauk | 2006-02-26 01:59 | 新聞業界

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 BBCテレビのNewsnightという番組で、米俳優ジョージ・クルーニーがインタビューされていた。公開される映画のためのインタビューなのだが、「ニュース中毒だ」という自称する彼が、ジャーナリストとしても通用するくらいの情報分析をしているのに、驚いた。

 英国では午後10時30分から放映された番組の中のインタビューだが、ネットから24時間だけ、見ることができる。日本との時差は、9時間だ。(英国以外では料金を払わないといけないかもしれないが。)もしご興味のある方は、是非見ていただきたい。米政治、メディア、映画、そして風刺画問題に興味のある方に特に。http://news.bbc.co.uk/1/hi/programmes/newsnight/review/4744574.stm
 
 デンマークの風刺画問題にもコメントしていたが、最初の風刺画掲載から、今は随分違った方向に進んでおり、イスラム教国での抗議などはその国の文脈、状況がある、など、かなりニュースをフォローしていることが見て取れた。

 イラク戦争開戦あたりから、米国の学者が英メディア界に頻繁に出演していたが、ブッシュ寄りの発言しかせず、後に米大手メディアも十分に機能していなかったことを知り、それ以来米メディアに対する信頼・関心を失っているが、ちゃんと覚醒している人もいることが分かって、うれしい驚きだった。
by polimediauk | 2006-02-25 08:49 | 欧州表現の自由

ロワ「中東と欧州ではイスラム教徒の置かれた状況は違う」

 「そのまま」で恐縮だが、23日付の毎日新聞で、欧州のイスラム教徒の話を、それぞれの国ごとにまとめた(スケッチした?)ものが掲載されていた。

ムハンマド風刺漫画:欧州のイスラム教徒、対立と動揺
 イスラム教の預言者ムハンマド(マホメット)の風刺画掲載への抗議行動が中東・アジアで続く中、在欧イスラム教徒は宗教的な帰属意識と欧州市民としての立場のはざまで揺れている。昨年9月に国内紙が最初に風刺画を掲載、抗議行動の引き金を引いたデンマークでは、移民排斥を唱える極右政党が「暴動に火をつけた」とイスラム教宗教指導者を非難、反イスラム機運が高まっている。

 ◇市民と距離拡大--デンマーク

 極右政党デンマーク国民党の幹部エスパセン氏は「誤った情報を流して国益を損なった聖職者は国外追放すべきだ」と主張する。ラスムセン政権に閣外協力し、移民規制を進めてきた同党はイスラム教指導者が昨年末、風刺画に加え、ムハンマドをブタに見立てた写真を手にエジプト、レバノンを訪問したことを問題視。同党の反イスラム路線は一部国民の支持を集め、支持率は今月、昨年の総選挙時を約5ポイント上回る約18%を記録した。

 ラスムセン首相は「一部の過激派が火に油を注いだ」と指摘、国民党の主張に同調している。その一方で首相は、イスラム諸国からの移民で宗教色が薄く「デンマーク人としての自覚」を強調するグループとは協力する姿勢を取っており、「良いイスラム教徒」との対話を進めている。

 イスラム教指導者の中東訪問を企画したアブラバン師は「政府は責任転嫁している」と反論する。訪問時の資料ではデンマーク紙に掲載された12枚の風刺画と、ブタの写真は明確に区別されている。同師は「掲載紙や政府に抗議したが相手にされず、仕方なく中東の同胞に支援を求めた」と説明する。

 デンマークには宗教を重視しながら平和な市民生活を送るよう主張する中間派のイスラム教徒もいる。中間派の市民団体「批判的イスラム教徒」のカンカン代表のもとに今月、元移民の女性から「デンマークが気に入らないなら帰れ」と抗議の電話が入った。同代表は「彼女は移民への偏見を恐れて不安になったようだ」と話す。

 最近の世論調査では回答者の45%が以前よりもイスラム教への親近感が減ったと答えている。イスラム教に改宗した女性が近所から無視されるようになった例も報告されている。カンカン代表は「政府と宗教指導者が責任をなすりつけ合っている間に、市民とイスラム教徒の距離が広がった」と憂慮する。

 高福祉社会を目指してきたデンマーク。ニュース週刊誌「月曜の朝」のレッディントン記者は移民やイスラム教徒とのあつれきを「福祉社会の一面」ととらえる。高齢化に伴い高福祉社会を維持できるかどうかの不安が社会で高まり、移民への反感が芽生えているが、対処法がない。「今回の問題は福祉社会の実験途中に支払うコストともいえる」と同記者は分析する。【コペンハーゲンで斎藤義彦】

 ◇板ばさみで苦悩--フランス

 【パリ福井聡】フランスのイスラム教評議会は今月10日、ムハンマドの風刺画を掲載した仏紙を相手取り法的な措置を取ることを決めた。しかし、提訴の具体的な理由や法的根拠、どのメディアを対象にするかなどは未定だ。振り上げた拳の下ろしどころを探っている形で、自らの宗教・信仰を抱えつつ、仏社会で生きていかざるを得ない在仏イスラム教徒のジレンマを象徴している。

 フランスには人口の約1割に相当する600万人近くのイスラム教徒が住んでいるとされる。風刺画への抗議デモは頻発しているが、暴力的な反対行動は起きていない。在仏イスラム教徒の多くは中東・アジアで過激化するデモを前に、国境を超えたイスラム教徒としての連帯意識と、仏市民としての立場との間で揺れている。

 仏全国イスラム教徒連盟のソアイブ・ベンシェイクさんは「私たちが直面しているのは『イスラム』と『表現の自由』についての無知だ。私はイスラム同胞の過剰な反応に驚いている」と打ち明ける。欧州諸国はイスラムへの理解が足りず、イスラム教徒側には、欧州がキリスト教会との戦いを通じて勝ち取ってきた「表現の自由」への理解が欠けているとの意見だ。

 昨秋起きた移民若年層の暴動を教訓に仏政府は「表現の自由」堅持の姿勢を打ち出す一方、「宗教心も尊重されるべきだ」とイスラム教徒への配慮を示してきた。仏イスラム教評議会のブバクール議長らは「風刺画は宗教心を傷付け、怒りをあおるもの」と非難しているが、事態を静観している在仏イスラム教徒も少なくない。フランス人記者が04年にイラクでイスラム武装集団に拉致された際、在仏イスラム教徒はバグダッド入りして解放を呼びかけた。仏国際調査研究センターのルイ・マルタン教授は「イスラム教徒でありつつ、西欧の価値観を持つのは難しい。だが、欧州のイスラム教徒がそれを実現できれば、アラブ諸国のイスラム教徒にとっても(欧州との)和解に向けての模範となるはずだ」と期待を寄せている。

 ◇信仰心と民族差別、直視せよ--ラリ・カリリ・ロンドン大東洋アフリカ学院講師(中東政治)

 風刺画の発端には、「暴力」や「テロ」というステレオタイプのイスラム教徒像を流して、反移民の保守派にアピールするデンマークの右翼勢力の存在がある。デンマークのイスラム教徒は「表現の自由」でなく民族差別と受け止め、国外のイスラム世界に問題を持ち込んだ。それがシリア、イラン、レバノン、パキスタンなどの民衆の反欧米感情と結びつき、デンマークのイスラム教徒の予想を超えて事態は国際問題化していった。

 文化的寛容をうたう英国ではメディアもイスラム教徒も対応は抑制されていた。移民の出身地である旧植民地との関係が大陸欧州とは異なる事情も関係している。フランスのアルジェリア統治は暴力的だった。

 ただ、英国のイスラム社会も過激派と穏健派の対立が続いている。新聞が風刺画を掲載しなかったのは、掲載したら過去に例のないような暴力に発展することを警戒したためでもあろう。

 今回の風刺画問題は欧米とイスラム社会に横たわる幅広い問題の一端にすぎない。欧州の右翼勢力、イスラム世界の過激派の双方が対立をあおってそれぞれ国内的な立場を強め、政治的な利益を得ている。イスラム教徒の信仰心と風刺画の背後にある民族差別を認識し、「表現の自由」を恣意(しい)的に利用しない態度が求められる。【聞き手・ロンドン小松浩】

 ◇イスラム教をめぐる最近の衝突・摩擦

 英国人作家サルマン・ラシディ氏が小説「悪魔の詩」でムハンマドの私生活を描き、イランの元最高指導者の故ホメイニ師が89年、死刑を宣告。小説を邦訳した筑波大学助教授が91年、刺殺される事件が起きた。

 02年にはムハンマドの肖像画を掲載した米誌ニューズウィークがイスラム諸国で発禁処分になったほか、04年にはオランダでイスラム教の「女性差別」を批判する作品を撮った映画監督が殺害されるなど、イスラム教の「信仰」と「表現の自由」をめぐる対立が頻発している。

 最近では米兵によるイラク人収容者虐待が発覚。05年にはキューバのグアンタナモ基地で米軍取調官がイスラム教の聖典コーランをトイレに流したと米誌が報道、イスラム諸国で激しい反米デモが起きた。フランスでは04年、イスラム教徒の女子児童・生徒に公立校内でのイスラムのスカーフ着用を禁ずる法律が制定され、論争となった。

毎日新聞 2006年2月23日 東京朝刊


 後2つ、読売新聞から入れておきたい。自分の防備録として

ムハンマド風刺漫画問題 エジプトとフランスの識者に聞く(2月15日)

 イスラム教預言者ムハンマド風刺漫画事件で米欧とイスラム圏にきしみが生じ、「文明間の対立」の様相を示す。カイロにあるスンニ派大本山、アズハル・モスク(礼拝所)のイード・アブデルハミド・ユセフ師(65)と、西欧の代表的識者のオリビエ・ロワ仏社会科学高等研究院教授(56)に見解を聞いた。
 ◆信仰に対する侮辱 カイロ アズハル・モスク ユセフ師 
 ――イスラム法上の見解は。
 「ムハンマドの容姿や倫理性は神が与えたもので、我々の想像の外にあり、だれも写せない。(ムハンマドに直接教えを受けた)『教友』、預言者イエスやモーゼ、そしてマリアの像も禁止。偶像崇拝は許されない」
 ――なぜ教徒は怒るのか。
 「ムハンマドをテロリストとして描いたからだ。ムハンマドは、信仰を侮辱する者から信仰を守れ、と言った。反発は自然発生的で、抑えようがない」
 ――欧州は侮辱の意図はなかったと弁明している。
 「彼らに侮辱する権利はない。イスラム全体を侮辱しようとした」
 ――掲載した欧州紙編集者らはイスラム教徒ではない。
 「非イスラム教徒はイスラム法に従う必要はない。我々は欧州の世俗の裁判所で関係者を裁くよう求めている」
 ――表現の自由と信仰の自由の関係は。
 「エジプトではアズハル・モスク関連機関の法学者が書籍やテレビドラマの脚本などを検閲する。ムハンマドの乳母の娘を主人公にした有名なエジプト映画があるが、彼女は『教友』ではないと判断し、俳優が演じることを認めた」
 ――西欧で転載が続くが。
 「イスラム教徒への憎悪からだ。人種差別もなく、女性の体を覆い隠すような、イスラム教の善き倫理を恐れるのだろう」
 ――再発防止策は。
 「イスラム教理解のための衛星テレビ局を新設したい。多言語で説明することが大切だ」(カイロ 柳沢亨之)
 ◆イスラムと共存、課題 仏社会科学高等研究院教授 ロワ氏 
 ――発端となったデンマーク紙をどう見るか。
 「この新聞は右翼系で、欧州でイスラム教徒が増えることを嫌う。漫画掲載にはイスラム系移民は欧州の流儀に従うよう要求する意図がある」
 ――西欧で転載が続く。
 「この1世紀、欧州は『表現の自由』を重視してきたが、宗教、人種やゲイなど特定集団を差別してはいけない、とする不文律ができた。掲載・転載は不文律からの逸脱だ」
 ――「文明の衝突」は。
 「『表現の自由』を訴える欧州と、『イスラムに対する侮辱』と反発するイスラム世界の衝突が深まる恐れはあるが、中東と欧州ではイスラム教徒の置かれた状況は違う」
 「イスラム世界でイスラム教徒の怒りを国家が政治利用している。シリアはレバノン政策、イランは核政策、アフガニスタンでは(北大西洋条約機構指揮下の)欧州部隊駐留問題に絡め、反欧州の立場を鮮明にした。一方、欧州ではイスラム教徒への差別が問題になっている」
 ――どう対応すべきか。
 「対話を継続すべきだ。欧州では、キリスト教などに比べて軽視されているイスラム教の地位向上も重要」
 ――教訓は何か。
 「欧州で伸長著しいイスラム教といかに共存を図るのか。イスラム系移民2、3世はイスラム伝統文化も知らず、『自分とは何か』が分からなくなり、過激主義に走る傾向が強まっている。昨夏のロンドン爆破テロ事件、昨秋の仏暴動に続く、今回の問題で、イスラム教徒の同化政策の再検討が急務になっている」(パリ 島崎雅夫)
 


 上の記事で、自分にとって特に印象深かったのが、ロワ教授のコメントだ。欧州のイスラム専門家の中の一人でかなり著名な人物だ。特に最後のコメント、「欧州で伸長著しいイスラム教といかに共存を図るのか。イスラム系移民2、3世はイスラム伝統文化も知らず、『自分とは何か』が分からなくなり、過激主義に走る傾向が強まっている。昨夏のロンドン爆破テロ事件、昨秋の仏暴動に続く、今回の問題で、イスラム教徒の同化政策の再検討が急務になっている」が深いように思った。

 今回の事件は間口を広げるとものすごく広いが、欧州に住む私は、欧州に少数派として住むイスラム教徒と、その周りの社会がどうやって共存・融合、幸せに暮らしていけるのか、を見ていきたいと思っている。

 では、欧州のイスラム社会とは?

 昨年11月24日、読売新聞がまとめていた。

基礎からわかるヨーロッパのイスラム系移民

 フランスの暴動やロンドンの同時爆破テロ事件など、今年はヨーロッパのイスラム系移民に注目が集まる事件が相次いだ。移民たちはどこから、どんな経緯でやってきたのか――。欧州の移民問題の基礎知識をまとめた。
 Q 欧州の移民数は? 
 各国ごとに人口統計の方法や「移民」の定義が異なり、正確な数の把握は難しい。フランスでは、国内で生まれ、5年以上滞在すれば、仏国籍が取得できる。1998年サッカーW杯優勝チームのように、白人が少数派ということもある。
 人口動態の権威、ジョン・ソルト・ロンドン大教授の試算によると、2003年時点で、西欧全体=欧州連合(EU)とノルウェー、スイス=では、約2350万人が外国人居住者だった。地域人口の5・5%にあたる。95年の約1900万人に比べ20%以上増えた。一方、不法移民は300万人前後と推計される。
 主要国政府統計によれば、ドイツの人口約8200万人のうち、「外国人」は約670万人。フランスは、人口約6200万人のうち「移民」が約430万人。英国は01年時点で、同国の人口5880万人のうち、白人は92%で、約8%に相当する約460万人がアジア系など「民族的少数派」だ。スペインでは、総人口約4200万人のうち「合法外国人」約185万人が滞在する。
 また、ヨーロッパにイスラム教徒はどれくらいいるのかというと、やはり国ごとに統計が異なるので集計は難しい。西欧の研究者らで作る独立組織「ユーロ・イスラム」によると、EU主要国だけで1000万人を超える。西欧全体では1500万~2000万人との推計もある。
 20世紀初頭のフランスには、イスラム教徒がほとんどいなかったが、現在では人口約400万~500万人にまで増え、今や第2の宗教である。また、英政府統計では、キリスト教72%に対し、イスラム教は3%で2番目だ。パキスタン、バングラデシュからの移民が増えたためだ。
 Q なぜ増えた? 
 第2次世界大戦後の西欧経済の復興で、労働力が大量に必要になった。西欧諸国は50年代~70年代前半に年平均で3・8%もの成長を遂げた。従来の移民供給先だった南欧からの移民では足りなくなり、欧州外から移民が必要になった。
 英仏は旧植民地など歴史的、地理的つながりがある地域から大量に移民を受け入れた。西独(当時)は、トルコや旧ユーゴと相次いで労働者雇用協定を結んで移民を受け入れた。61年の「ベルリンの壁」建設で旧東独からの労働力流入が止まると、両国からの移民は飛躍的に増えた。
 南欧各国も90年代前半までに、移民受け入れ国になった。スペインでは、96年以降は年率約20%の割合で移民が増えている。
 73年の石油ショックを契機に、西欧経済の成長は鈍化した。西欧各国政府は非欧州からの労働力を短期間だけ利用するつもりだったが、産業界は廉価な労働者の長期雇用を望んだ。一方、移民は豊かな西欧にとどまり、家族を呼び寄せた結果、イスラム系移民を中心に定住化が進んだ。
 ドイツに住むトルコ人に例を取ると、75%が10年以上住んでおり、61%が無期限滞在許可あるいは永住権を持つ。ドイツで生まれた2世、3世は、トルコ人の35%にのぼっている。
 Q どう制限? 
 西欧各国政府は90年代後半から、移民制限を強化し、欧州全体での政策協調に乗り出した。欧州統合の過程でEU域内の国境管理が次々と撤廃され、不法移民が簡単に域内を移動できるようになったからだ。特に、アフリカ大陸に近いスペインや東欧諸国には、「不法移民対策強化」が求められる。
 ただし、「『合法移民』の条件は何か」という本質的な問題で、EU全体の合意はない。不法移民に悩むスペインは05年2月、〈1〉半年以上滞在〈2〉半年間の雇用契約〈3〉無犯罪証明――などを満たせば合法移民と見なして労働許可証を与える、という大胆な政策を導入した。この結果、約50万人が合法滞在を認められたが、他国にとっては「スペインは甘すぎる」と映る。
 移民受け入れ国の中には、「家族呼び寄せ」の制限にまで踏み込んだところもある。英政府は今年、「英語の試験に合格した技術労働者に限って長期定住を許可する」方針を打ち出し、移民管理に動き出した。
 Q 「同化」促進? 「多文化」容認? 
 移民受け入れ後の政策には、「同化主義」と「多文化主義」という二つのアプローチがある。前者はフランスが代表例で、後者は英国、オランダだ。
 フランスには、「仏共和国の基本理念を守る誓いをした人々が仏国民であり、人種や宗教は問わない」という建前がある。そのためには仏語理解は無論、フランスの流儀に従わなければならない。政教分離はフランス革命以来の国是で、公教育に宗教を持ち込んではならない。先に学校でのイスラム系スカーフの着用を禁止したのもそのためだ。
 英国とオランダは、17世紀に旧教徒と新教徒の間の血みどろの宗教戦争を経験し、その経験から政府は思想信条に踏み込まない伝統が確立した。両国では、数多くの宗派が、相互に干渉をせず、宗教教育は自由だ。イスラム系移民も放任されてきた。
 しかし、二つのアプローチの優劣はつけにくい。同化主義の国でも、多文化主義の国でも、移民で成功した例はある。仏暴動に際して強硬発言を繰り返したニコラ・サルコジ内相は、自身がハンガリー系移民2世で、今や次期大統領を狙う。フランスの流儀を守れば、能力に応じて国内のはしごを駆け上ることもできるという一例だ。その一方で、スカーフ禁止強制を導入した時に見られたように、イスラム社会は「フランス流押しつけ」に強く反発する。
 英国やオランダでも、イスラム教徒出身の国会議員や経済界の有力者がいる。
 ただし、どの国でもイスラム系移民が大量かつ同時期に入ってきたため、行政の目が行き届かない「ゲットー(隔離地域)」が出来てしまった。移民は同郷や同民族のつてを頼って移住するので、特定居住地に集中する。ベルリンの「リトル・イスタンブール」やパリのアラブ人地区など、欧州大都市やその郊外には、住民の圧倒的多数がイスラム系移民という地区が出来上がった。
 ドイツには「並行社会」という言葉がある。トルコ人社会にいるだけで日常生活が完結し、ドイツ人社会と接触する必要がないことを示している。ドイツでは肌の色が違う人々を今も侮蔑(ぶべつ)的に「ガストアルバイター(言葉の意味は、客人労働者)」と呼ぶ。フランスには、アラブ系住民をアラブのつづりを逆にして「ブール」と呼ぶ蔑称もある。同化は進んでいない。
 Q 暴動・テロ原因は? 
 暴動もテロも、担い手が移民2世や3世である点に問題がある。2世の世代になっても、教育や就職、所得で白人社会との格差は大きい。「2級市民」として扱われてきたことへの不満爆発が暴動の原因だ。
 フランスでは、平均失業率(10%弱)に対して、都市郊外の移民居住地区はその2倍で、なかには4倍に達する地域もある。職があっても単純労働が多く、年収1万ユーロ(約140万円)と仏平均の4割程度だ。
 ドイツでも平均失業率(11%)に比べ、ベルリン在住のトルコ人男性の間では失業率が40%超。都市部では、トルコ人の子供の4人に1人は義務教育さえ全うしないという統計もある。
 英国では、05年7月7日、ロンドンで同時爆破テロが起こった。自爆した実行犯4人のうち3人がパキスタン系移民2世で、1人がジャマイカ系移民2世だった。オランダでは04年、イスラム社会の女性差別を映画で糾弾した映画監督が、イスラム過激派のモロッコ系移民2世に暗殺された。犯人はオランダ語が巧みで、地区の青少年活動のリーダー役だった。
 英国もオランダも「宗教的寛容」を誇っていたが、イスラム系移民の多くは社会の底辺におり、白人社会から排除されたと感じている。両社会の反目は01年の米同時テロ以降、強まってきた。
 スペインでは、04年3月、マドリードで列車同時爆破テロが起こり、191人が死亡した。国際テロ組織「アル・カーイダ」の犯行と見られているが、担い手は国内に住むイスラム過激派だった。
 Q 「選別」の影響は? 
 西欧は日本同様に、少子高齢化が進んでおり、将来を見据えると、経済成長に移民は欠かせない。
 ドイツでは、IT技術者に対象を絞って移民を奨励し、英国も技能次第で受け入れる方針だ。ただし、「『必要な移民』には条件を和らげ、『不要な移民』の制限を厳しくする」という露骨な選別が進めば、難民受け入れや政治亡命の審査にも影響を与える可能性があり、EUの人権理念にも抵触する。
 政治的には、移民増への不満をあおる大衆迎合型極右・右翼政党の台頭が懸念される。フランスでは前回02年の大統領選で極右・国民戦線のルペン氏が、シラク大統領との決選投票まで勝ち進んだ。オランダ、デンマーク、オーストリア、ベルギーなどでも有力な政治勢力にのし上がった。
 これに対し、イスラム系移民2世、3世の反発は強まる傾向にある。ロンドンやマドリードのテロ事件のように、イスラム過激主義は、イスラム社会の若者の不満につけ込む形で浸透している。
 米ハーバード大のハンチントン教授は主にキリスト教文明とイスラム教文明が対立する、「文明の衝突」の時代に入ったと指摘した。西欧社会がイスラム系移民問題の対処を誤れば、「文明の衝突」が悲劇的な形で展開されるおそれがある。(読売新聞)

 

by polimediauk | 2006-02-24 23:03 | 欧州表現の自由

「非宗教を原則とするフランスで」

 イラクのshrineが破壊された件が大きなニュースになっている。

 夕方のBBCのラジオ番組PMでは、イラクのかつて副首相だったタリク・アジズ氏の娘と息子がインタビューされていた。特に娘の方が父親を一生懸命弁護していた。サダム・フセインを、現時点で、非難するかどうか?と聞かれ、しない、と答えている。「父はサダムフセインのために働いていたのでなく、イラクのために、良かれと思って、働いていた」。娘だからということで、愛情が見方を曇らしているのでは?と聞かれ、「違う。周りの人もみんな言っている」。イラク人のいろいろな人が、フセイン政権を批判していることを聞かれ、これをどう思うか?という問いには、「そういう人は、みんな、安全な(米軍のいる)『グリーンゾーン』に住んでいる」と答えていた。やはり、迫力がある。生の声だ。

 数人の在ロンドンジャーナリストたちと今日話をしていて、ある人から聞いた話なので裏づけを取っているわけではないが、英国の新聞社はいずれもデンマークの風刺画を掲載しなかった。編集長同士が電話をかけあって、出さないことに決めた、と前に書いたが、この人によると、首相官邸も主要新聞社にコンタクトをとったようだ。外務大臣のストロー氏が、後で新聞社が掲載しなかったことを誉めた、といういきさつがあった。少なくとも私には、信憑性が高いように聞こえた。

 一方、読売新聞が仏週刊誌の編集長に取材している。

 
仏週刊紙が風刺漫画掲載、6倍の売り上げ

 フランスの週刊紙「シャルリー・エブド」は8日発売の特別号で、「原理主義者に弱り果てたムハンマド」の見出しで、両手で顔を覆いながら、「愚か者に愛されるのもつらい」と嘆く預言者の風刺漫画などを掲載、通常の6倍の約42万部の売り上げを記録した。

 フィリップ・バル社長(編集最高責任者)(53)に掲載に踏み切った理由などを聞いた。(パリ 島崎雅夫)

 ――なぜ掲載したのか。

 「法治、民主主義の骨格を成す『表現の自由』が、中東イスラム諸国などの反発で危機に直面した。デンマーク紙のムハンマド風刺漫画を転載した独、伊など欧州マスコミと連帯し、表現の自由の重要性を訴えたかった」

 ――イスラム教侮辱との批判があるが。

 「イスラム過激派は、欧州の法治、民主主義体制を壊すことに挑戦している。過激派の伸長は欧州に混乱をもたらし、イスラム教徒が欧州で同化する上で障害になる。欧州の民主主義を守るにはイスラム教の侮辱もやむを得ない。ただ、風刺は過激派の危険性を問題としたもので、イスラム全体への批判ではない」

 ――キリスト教など他宗教だったら風刺しなかったのでは、との指摘がある。

 「キリスト教やユダヤ教は欧州の民主主義を否定していない。もしイスラム教過激派と同様、民主主義のあり方に挑戦すれば、当然、風刺する。差別ではない」

 ――風刺の精神とは。

 「正義だ。欧州各国は政教分離のために長年、闘ってきた。宗教が国家より高い位置を占めれば、この原則が崩れてしまう。歴史認識が正しいと思えば、たとえ批判を受けても、風刺で堂々と主張しなくてはならない」

 ――中東などのイスラム諸国で反発が強いが。

 「各国政府がこの問題を政治的に利用して混乱を拡大させている。事前届け出が必要なシリアやイランなどでデモが起きているのが証拠だ。デンマークの過激派がより挑発的な風刺漫画を中東で配布し、問題を複雑化させている」
(読売新聞) - 2月24日0時2分更新


 別のフランス報道では、「宗教」(非宗教も含め)が欧州のキーワードの1つという思いを強くした。

「宗教と人種」揺れる仏 「反ユダヤ主義」誘拐殺人

 【パリ=山口昌子】フランスで反ユダヤ主義に基づく残酷な誘拐殺人事件が発生し、ユダヤ系住民を中心に衝撃が広がっている。シラク大統領とドビルパン首相が二十三日夕の犠牲者の追悼会に異例の出席を決めるなど、非宗教を原則とするフランスで宗教と人種問題が重要課題であることをうかがわせる。
 パリ市内に住むユダヤ系住民イラン・ハリミさん(23)が全身を刃物で刺され、病院に運ばれる途中で死亡したのは二月十三日。勤務先の店に客を装ってやってきた若い女性に呼び出されて一月二十一日に誘拐された。
 その後、同様の手口の誘拐未遂事件が六件発生していたことや、狙われたのがユダヤ系住民だったことなどが判明。十三人のアフリカ人らのグループが容疑者として浮上し、出身地のコートジボワールに逃走していたリーダーらが逮捕された結果、彼らの供述などから、ハリミさんらを狙ったのは「ユダヤ人は金持ち」という固定観念からだったことが分かった。
 サルコジ内相は、こうしたユダヤ系への固定観念は「反ユダヤ主義」と指摘。ハリミさんの母親も「ユダヤ系ゆえに殺された」との認識を示し、「反ユダヤ主義者には非寛容を」と訴えている。
 フランスでは九〇年代からユダヤ系住民の墓地が荒らされたりシナゴーグ(ユダヤ教会)が放火されるなどの事件が発生しており、ユダヤ系住民から政府は「アラブ寄り」との批判の声が出ていた。一方で昨秋、暴動事件を起こしたアラブ系移民らからは「ユダヤ系に寛大」との声もあり、代々の政府にとって人種問題は難問の一つだ。
(産経新聞) - 2月24日3時11分更新


 話がやや戻るが、ロンドン市長が何故、前にムスリムの人々のデモを支持したのか、ということについて、説明しないといけないかもしれないのだが、私がロンドン市長で非常に印象深いのが、7月7日、ロンドンでテロが起きた直後のことだ。これは前にも書いたのだが、当時、市長はシンガポールにいた。前日、ロンドンで2012年にオリンピックが開催されることが決定した。

 そこで、歓喜が前日にあって、ロンドンに戻ろうとした日に、テロのことを知った。取材陣に、なみだ目でインタビューされていた。

 この場で、やや感動的なスピーチをしたのだが、それは、細かい文句は忘れたが、「様々な人種の人が様々な国から、ロンドンにやってくる。そして、みんながロンドナー・ロンドン人になる」というようなことを、述べた。私も聞いていて、ジーンとなった。

 それはそれとしても、多文化の英国、多文化のロンドン、というテーマが英国の中で頻繁に出てくる。

 ロンドンでは中国の新年のお祭りを、広大なトラファルガー広場を使ってやる。イラク戦争反対のデモも何度かあったが、これにもロンドン市長は自分がスピーチをするか、メッセージを送っている。イスラム教徒の団体のラリーなども、同じくトラファルガー広場で開催されることもあるし、学者やイマーンなどを海外から読んでロンドン市も主催者の一つになって、イベントを開いたりもする。こういう、多文化を肯定的に見れるような祭り、催し事を、ロンドン市は積極的にサポートしている。英国の場合、9・11や7・7のネガティブな影響はもちろんあるのだが、ムスリムたち、あるいは他の人種の人たちが、あまり目立たない。生活シーンの一部になっていて、例えば、スカーフをかぶっている人もものすごく自然にその場に存在している、という現実がある様に思う。
by polimediauk | 2006-02-24 02:53 | 欧州表現の自由

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 米国に本拠を置くSociety for News Design  http://www.snd.org./index.html という団体が、20日、最優秀新聞デザイン賞を発表していた。授賞したのは、英ガーディアン紙と、ポーランドのジェチポスポリタRzeczpospolita紙である。

 まずはどんなものか、画面を開いて、見ていただきたい。

http://www.snd.org/best27/Rzeczpospolita.html
http://www.snd.org/best27/Guardian.html

 どことなく、ポーランド紙の方が、「見た目」では、もっとアーチスチックに見える。格好いい。全国紙の1つで、25歳から45歳の知識人向けだそうだ。

 評価によれば、それぞれのセクションの特徴を生かした紙面づくりとなっているという。例えばビジネス面はグリーン、法律面は黄色を使いながら、記事が配置されている。東欧のイラストの特色もよく生かされている、という。

 ガーディアンは昨年9月から、やや縦に細長い小型の「ベルリナー判」に変えている。シンプルで美しい、という評価がされている。

 ・・・ただ、新聞を買う側からすると、デザインがきれいだからといって買う・・というわけでもないだろうが。しかしそれでも、センスのいいデザイン・レイアウトはその新聞の編集者がセンスがいいことを伝えるだろうと思う。
by polimediauk | 2006-02-23 03:48 | 新聞業界

 デンマークの新聞「ポリティケン」紙が21日付で報道し、これをUPIが伝えたところによると、欧州連合(EU)が、風刺画問題の解決のためにトルコに仲介役としてく動くように依頼したという。

 現在EUの議長国となっているオーストリアがトルコの外務大臣Abdullah Gul 氏に対して、欧州とイスラム教世界との論争に対する長期的な解決策への協力を依頼。
 
 トルコ外相は3月、加盟国25カ国の外相会議で、「文明の同盟」 (Alliance of Civilizations)というグループの立ち上げを提唱する見込みだ。このグループは、文化的及び宗教上の違いに関する対話を通してアラブ世界と西側諸国とを結ぶことを目的とする。国連事務総長のアナン氏の協力のもと、トルコとスペインの首脳が設立を呼びかけたという。オーストリアの外相もこの試みを支持している。

一方、英国PA通信が伝えたところによると、21日に開かれた記者会見の中で、デンマークの首相は、風刺画画家たちを保護している、と述べた。

 何故11カ国からの大使にあわなかったのかと再度聞かれたようで、「デンマークでは言論の自由や報道の自由は、交渉によって決めるものではないからだ」

 「デンマークでは、こうしたことは法廷が決めるし、政府は決めない」。
 
 また、風刺画家などこの件に関係しているデンマーク市民の警護レベルを高めた、と述べた。

http://news.scotsman.com/latest.cfm?id=271002006
by polimediauk | 2006-02-22 06:17 | 欧州表現の自由

 デンマーク・ユランズ・ポステン紙の英語ウエブサイトに、19日付で、問題の風刺画掲載を決定した文化部長フレミング・ローズ氏の記事が載っている。「何故私があの風刺画を掲載したか」というタイトルの署名記事で、記事の最後にはメールアドレスが入っている。

 細かい点に関しては、原文を参照していただきたいが、以下は大体の訳である。ワシントンポストでも掲載された、と聞いた。

http://www.jp.dk/english_news/artikel:aid=3566642/

 
「何故私があの風刺画を掲載したか」
 ユランズ・ポステン文化部長、フレミング・ローズ

 「子供っぽい。無責任。ヘイト・スピーチ。挑発するための挑発行為。宣伝目的。デンマークの新聞ユランズポステン紙に掲載された預言者ムハンマドの12枚の風刺画の批判者たちは、言葉使いに容赦をしなかった。表現の自由とは人々の宗教に対する感情を侮辱して良いことではないし、メディア自身が毎日のように自己検閲をしているではないか、と。お願いだから、限度のない表現の自由に関してお説教をしないでくれ、と。

 出版の自由は何でも出版していいということではない、と、私も思う。ユランズ・ポステン紙はポルノ画像や死体のグラフィックな詳細を掲載しない。ののしりの文句が紙面に載ることは珍しい。

 私たちは、表現の自由を支持する原理主義者ではない。

 しかし、風刺画問題はやや違う。

 先に挙げた例は、倫理上や嗜好の点から抑制をかける、ということだ。つまり、編集の問題だ。これと対照的な動きとして、イスラム教関連の事柄に対して広まっている恐れや脅迫感が原因となっている、欧州でのいくつかの自己検閲の動きに対し、ユランズポステン紙の行動として、風刺画掲載を依頼した。今でも、穏健なイスラム教徒たちが声をあげるようにと呼びかけながら、私たち欧州人が向き合うべき問題だと思っている。不必要に挑発する意図はなかったし、イスラム教世界に暴力を含めたデモを引き起こす意図は全くなかった。私たちの目的は、単に、ますますきつくなっていくように思えた表現の自己抑制の限度を押し上げることだった。

 昨年9月末、あるデンマーク人のスタンドアップコメディアンが、ユランズ・ポステン紙のインタビューの中で、自分はカメラの前で聖書に排尿することに何の問題も感じないが、コーランに同じ事はできない、と述べた。

 これは、一連の自己検閲を代表する例だった。同年9月末、あるデンマーク人の児童作家が、預言者ムハンマドの生涯を描いた本のイラストを描く人を探すのに苦労した、と発言していた。ムハンマドの姿を描いた結果を恐れて、3人の画家がイラストを描くことを拒否したという。最後に仕事を引き受けた画家は匿名を希望した。これは私からすれば、自己検閲だ。ソマリア生まれのあるオランダの政治家がイスラム教に批判的な本を書いたとき、これを翻訳した複数の欧州人の翻訳家たちは、本の表紙に、この作家の名前の隣に自分たちの名前が出ることを拒絶したという。

 同じ頃、ロンドンでは、テート・ギャラリーが、前衛画家ジョン・レイサム氏が描いたイラストを展示しないことに決めた。コーランと聖書とタルムード(注:ユダヤの立法と注解の集大成本)がばらばらになっているイラストだった。ギャラリー側の説明では、7月のロンドンテロ以降、問題を起こしたくないから、ということだった。(この2-3ヶ月前、スエーデンのGoteborgにある美術館が、イスラム教徒を侮辱しないようにと、セクシャルなモチーフとコーランの一説が入っていた絵画の展示を取り下げた。)

 最後に、9月末、デンマークのラスムセン首相が、イマームのグループと会見したが、このとき、イマームたちは、イスラム教に関する肯定的な記事をもっと掲載するように政府がメディアに介入することを要望した。

 2週間で、イスラム教関連の問題に対決することへの恐怖感と言論の自由が戦いをし、自己検閲が起きた複数の具体例を目撃した。報道するべきまっとうなニュースだと思い、ユランズ・ポステンでは、よく知られているジャーナリズムの原則を使おう、と思った。それは、「語るのでなく、見せろ」、だった。デンマークの風刺画家の団体に手紙を書き、「ムハンマドを、自分が見たとおりに描いて欲しい」と言った。預言者を馬鹿にして欲しい、といったわけでは全くない。25人の風刺画家の中で、12人が承諾した。

 デンマークでは、王室や他の公的地位にいる人々を紙面で扱うときに、風刺の手法を使う伝統がある。この伝統が今回の風刺画にも反映された。風刺画家は、キリスト教、仏教、ヒンドゥー教、そのほかの宗教を扱うときと同様の方法をイスラム教にも使ったのだ。

 風刺画は、いかなる意味でも、イスラム教徒を悪魔のように描いたり、ステレオタイプとして描いていない。実際、預言者の描き方はそれぞれの風刺画で異なっており、誰をターゲットにしたかもそれぞれ違う。ある風刺画はユランズポステンを笑っているし、保守的挑発者として文化部長を描いている。

 また、ある風刺画は画家を探せなかった児童作家が、本の宣伝費用が少ないので、この事実を公表した、としていた。ある風刺画は、反移民政策を提唱するデンマーク・ピープルズ・パーティーを犯罪容疑者として描いた。

 ある風刺画は、ターバンが爆弾になっている預言者を描いた。これが一番批判された。この風刺画に怒りを感じた人々は、預言者あるいは全てのイスラム教徒がテロリストであるかのように描かれている、と表明した。私は違うように受け取った。ある人々が、預言者の名前の下で、テロ行為を行っているために、イスラム教を人質として使っている、という状況を表している、と見たのだ。こうした人々が、イスラム教に悪名を与えたのだと思う。この風刺画は、アラジンの御伽噺を下敷きにしてあり、アラジンとオレンジがターバンの中に入って、アラジンがお金持ちになったというエピソードも示唆していたと思う。爆弾は外の世界から来ているのであり、預言者自身から来ているのではないことも示したと思った。

 かつて、ユランズ・ポステンは、キリストに関する風刺画を掲載することを拒否したことがある。しかし、これは2重基準があることを意味しない。実際、ターバンと爆弾の風刺画を描いた風刺画家は、十字架にはりつけになったキリストの風刺画を描いたことがある。キリストの目にはドル札が貼られていた。また、ダビデの星が爆弾にくっついている風刺画も描いた人物だ。それでも、こうした風刺画を掲載したときには、大使館が焼かれたり、殺人予告が出たりはしなかった。

 ユランズ・ポステン紙は、イスラム教を侮辱し、敬意の念を欠いただろうか?全くそういう意志はなかった。しかし、敬意とはどういう意味だろうか?モスクを訪れるとき、敬意を表して、私は靴を脱ぐ。教会や、シナゴーグ、あるいは他の同様の場所でそうするように、私は習慣に沿った行為をする。しかし、その宗教を信仰する人が、信仰をしていない私に対して、公的場所で、その人にとってのタブーを私も守るように要求するとしたら、その人は私の敬意を要求しているのでなく、服従を要求しているのだと思う。こうした態度は、政教分離の民主主義社会には合致しないと思う。

 これは、まさに、影響力が大きい「開かれた社会とその敵」で、哲学者カール・ポパー氏が主張したこと、つまり、人は、不寛容さに寛容であってはいけない、ということだと思う。表現の自由が基本的な権利になっている民主主義社会では、多くの宗教が共に平和的に存在している。サウジアラビアでは、十字架を身に着けていたり、スーツケースに聖書があることが分かっただけで逮捕される。一方で、政教分離のデンマークに住むイスラム教徒には自分たちのモスクがあり、学校、テレビやラジオ局を持っている。

 ユランズポステンに掲載された風刺画で、人々が侮辱を感じたことは認識している。ユランズポステンはこの点を謝罪した。しかし、侮辱するようなものも含めて掲載をする権利に関して謝罪することはできない。何らかの侮辱を起こす可能性があると心配し、呆然としていては、新聞を作ることはできない。私も、毎日のように、新聞に掲載されていることに侮辱を感じる。例えば、ウサマ・ビンラーディンのスピーチを書き取ったもの、アブグレーブ刑務所の写真、イスラエルが地球上から抹殺されるべきだと言う人々やホロコーストが起きなかったという人々の記事を読むときだ。しかし、だからといって、法律の限度内にあって、新聞の倫理コードに反しない限り、こうしたトピックの掲載を避けることはない。他のエディターは違う判断をするだろうし、これが多元主義の基本だと思う。

 元ソ連特派員だったので、侮辱という理由を使って検閲が行なわれる状況には敏感だ。全体主義が非常に良く使う手だ。いかなる批判も、議論への誘いも侮辱としてレッテルを貼れ、違反者を罰しろ。これが人権運動家たちや作家たち、つまりサカロフ、ブコフスキー、ソルジェニツイン、シャランスキー、パステルナクに起こったことだ。当時のソ連体制はこうした人々が反ソビエトのプロパガンダを行っている、としていた。イスラム教徒たちの一部が、デンマークの新聞に掲載された12の風刺画を反イスラム教的だ、としたように。

 冷戦の教訓は:全体主義の勢いに一度でも負けたら、次の要求が出てくる。西洋が冷戦に勝てたのは、私たちが基本的な価値観を守り、全体主義者の暴君に宥和策をとらなかったからだ。

 9月30日、風刺画が掲載されてから、デンマークや欧州の国々で、表現の自由、宗教の自由、移民や人々の信念に対する敬意について、建設的な議論が起きた。多くのデンマークに住むイスラム教徒たちが、タウン・ミーティング、読者欄への投稿、解説面、ラジオやテレビでの討論に参加した。こうした人々が、これほどまでに公的な対話に加わったことはなかった。反イスラム教徒の暴動は起きなかったし、デンマークを追われたイスラム教徒もいなかった。暴力行動を起こしたイスラム教徒もいなかった。中東に出かけ、デンマークのイスラム教徒の状況に関して間違った情報を出した過激派のイマームたちは社会から取り残された。もはやデンマークのイスラム教徒のコミュニティーを代表として発言することはできない。穏健なイスラム教徒たちが、こうしたグループに対して反対の声をあげる勇気を持ったからだ。

 今年1月、ユランズポステンは3ページに渡る特集で、穏健なイスラム教徒たちのインタビューを掲載した。紙面に登場した人たちは、イマームたちに自分たちの声を代弁されたくない、と述べた。近代的な政教分離の民主主義社会で生きることとイスラム教徒であることは一致すると述べていた。

 憲法を遵守する、穏健派のイスラム教徒たちのネットワークが立ち上げられ、反移民のピープルズ・パーティーは、過激なイスラム教徒と穏健なイスラム教徒とを区別するように、と党員に呼びかけた。つまり、シャリア法を広めようとするイスラム教徒と政教分離の法律を認めるイスラム教徒の違いだ。デンマークのイスラム教徒のイメージは変わった。そして、これは「彼ら」と「私たち」(注;彼らはとは非ムスリム、私たちはムスリムを通常さす)の議論ではなく、デンマークの民主主義にコミットしている人々と、コミットしない人々の間の議論なのだ。

 ユランズポステンは、イスラム教徒のタブーに挑戦するために、風刺画家に呼びかけて自己検閲の限度をテストすることを決定したが、現在のこうした議論は私たちが作りだそうと思っていた議論ではない。(自己検閲の限度をテストする、という)目的は果たされただろうか?答えはイエスとノーだ。表現の自由の猛烈な弁護は、感動を与えるほどのものだった。しかし、中東やアジア諸国での悲劇的なデモは私たちが期待したものではなかった。さらに、ユランズポステンは104の脅しを受け取り、10人が逮捕され、風刺画家たちは脅しを受けて身を隠すことになった。ユランズポステンの本社でも何度か爆弾が仕掛けれたと言う情報のために、避難する事態があった。これは、決して、自己検閲を解くような状況ではない。

 今回の風刺画問題は2つの異なる文脈の中にあると思う。1つは欧州で、もう1つは中東である。ソマリア生まれのオランダの政治家アヤーン・ヒルシ・アリ氏の言葉によれば、欧州に住むイスラム教徒の社会への融合は、風刺画のために300年早まったと言う。多分、(18世紀の)欧州の啓発運動でのような戦いをする必要はないのだろう。中東での文脈は、もっと複雑だが、これは風刺画との関連性はほとんどないようだ。

 (メモとして訳したものなので、正確には原文をご参照ください。)

ーーアラブ紙に謝罪広告―一体誰が?

 翻訳をしているうちにまた別のニュースが配信されたが、アラブ系メディアAsharq Al Awsatとzamanというところのレポートによると、19日付の中東の新聞のいくつかに、アラビア語でユランズポステン紙の謝罪広告が掲載されたそうである。しかし、ユランズポステンが出した広告ではない。このレポートが出た時点では、広告主は正確には不明だった。

http://www.zaman.com/?bl=international&alt=&hn=29973
http://aawsat.com/english/news.asp?section=1&id=3854

 ユランズポステンの謝罪は、既にウエブサイトでなされており、現在でも読めるようになっているそうで、デンマーク外務省が確認したところでは、ユランズポステンのサイト上の謝罪文と広告内での謝罪文は同じものだった。

 副編集長のJorgen Mikkelsen氏がAsharq al Awsat紙に語ったところによると、ユランズポステンでは広告を出していなし、広告費も払っていない。しかし、デンマークの経済界が広告費を出しているのではないか、としている。ウエブの文章が他の新聞の広告面に出たことに関して、ユランズポステンの副編集長は怒っておらず、法的手段に訴えることも考えていない。「むしろ、感謝している。私たちの謝罪の気持ちを伝えたいし、なるべく頻繁に掲載されたほうがいい」。

 Asharq al Awsat紙は、デンマーク企業に勤める「筋」の話として、経済界が広告費を出した、としている。
 
 この広告が掲載されたのは、サウジアラビアの地方紙と国際紙al-Shark al-Avsatなど。

 一方、風刺画家の一人Kurt Westergaard氏は、スコットランドの新聞のインタビューの中で、風刺画を描いたことを公開していない、と述べたという。

 イスラム教に由来するテロからインスピレーションを得て風刺画を描き、民主主義のための表現と報道の自由を 弁護した、という。

 氏の風刺画は、デンマークと西欧の「2重基準」に対する彼なりの分析、反応だという。「2重基準」とは、イスラム教に対するタブーと直面する時の態度を指しているそうだ。

  一方、別件だが、今日英国で一日中ニュースになっていたのが、英国の歴史家デビッド・アービング氏のケースだ。ホロコーストはなかった、と発言しており、オーストリアで裁判の結果が出たのだ。禁固3年の刑だったが、控訴する予定であるという。ホロコーストの存在を否定すると違法になる国は、BBCによると、11カ国ある。オーストリア、ベルギー、チェコ、フランス、ドイツ、イスラエル、リトアニア、ポーランド、ルーマニア、スロバキア、スイスだ。

 関連記事が出たので、貼り付けます。

ホロコースト否定の英歴史家に禁固3年…ウィーン地裁
 【ウィーン=石黒穣】ウィーン地方裁判所は20日、英国人歴史家デービッド・アービング被告(67)に対し、ナチスによるユダヤ人大虐殺、ホロコーストを否定した17年前の発言を理由に、禁固3年の実刑判決を言い渡した。

 「ヒトラーの戦争」などの著作があるアービング被告は、1989年、ウィーンとレオベンで「アウシュビッツ(強制収容所)にガス室はなかった」などと演説。これが有罪の根拠となった。

 ヒトラー誕生の地であるオーストリアでは、第2次大戦中ナチスにくみしたことへの強い反省もあって、ホロコースト否定を喧伝する行為を法律で禁じている。指名手配がかかっていたアービング被告は昨年11月、極右団体の会合に出席するため入国したオーストリアの南部で逮捕された。

 アービング被告はこの日の罪状認否で、「ガス室を否定したのは誤りだった」と認めたが、裁判官は「うわべの改心」として情状酌量しなかった。

 欧州では現在、ムハンマドの風刺漫画問題をめぐり表現の自由のあり方が問い直されており、今回の裁判結果は、新たな波紋を投げかけている。

(2006年2月21日11時50分 読売新聞)



by polimediauk | 2006-02-21 08:27 | 欧州表現の自由

 毎日新聞がデンマークからの現地報道を熱心に続けている。
<風刺画>漫画家の一人「もう描かない」

 【コペンハーゲン斎藤義彦】イスラム教の預言者ムハンマド(マホメット)の風刺画がイスラム教徒から反発を受けている問題で、デンマーク紙ユランズ・ポステンに漫画を描いた12人のうち1人が毎日新聞の書面インタビューに答え、漫画の掲載自体は「正しかった」と弁護しながらも、宗教に触れる風刺画は「もう描くのをやめた」と断筆したことを明らかにした。
 ムハンマドを描いた漫画家は「あまりに危険で、警察に取材に応じないように言われている」と面会は拒否。代わりに電子メールを使った書面インタビューに応じた。
 デンマーク人の男性漫画家は掲載について「正しい決定だった。問題がオープンになったからだ」とし、結果として暴動が起こった点も「後悔していない」とし「この国は(イスラム諸国と)完全に異なる。ここを宗教が支配するのは望んでいない」と述べた。
 描いた理由について「描くのが許されない男がいるから、彼を描かなければならなかった」とタブーに挑戦する意図があったことを明らかにした。また、「表現の自由はすべての人にとって死活的だ。自由に話せないなら、本当の人生は送れない」と表現の自由を重視して描いた心境も語った。
 漫画の掲載紙の担当編集長が無期限の休暇に入った点について「彼は問題を正しく扱った」と編集長を擁護した。一方、問題の解決策は「話し合いしかない」とし、身の危険については「自分でも守るが、国連にも(外交的解決で)守ってほしい」とした。
 そして「今のところ、(宗教を風刺する)その種の漫画は描くのをやめた」と断筆していることを明らかにした。理由は明確には述べていないが、「年をとったから」などとしている。
 12人の漫画家は、現在、警察の警備を受け、マスコミも避けている。うち1人は独紙に対し「イスラム教のことも少ししか知らず浅はかだった」と述べている。
(毎日新聞) - 2月20日3時12分更新


 私が聞いた限りでは、かつ雑感だが、メディア関係者の中では、「掲載する権利を支持」が基本的に共有されていた。ただ、風刺画そのもののできは「良くない」「馬鹿な風刺画だった(テロリストとして描くなど)」。「自分だったら、掲載しない」という意見が多かった。

 掲載を実質的に決定したユランズポステン紙の文化部長フレミング・ローズ氏は「あえて挑発した」という見方も共有されているように思った。

 結果的には、「掲載された良かった」というものだ。議論のきっかけができる、と。問題が解決したわけではなく。

 ユランズポステンは保守、かつ現首相に近い、という見方も根強かった。掲載してみて、世界に波紋が広がり、「正直、驚いた」という声も多く聞いた。

 また、「報道の自由」「表現の自由」は擁護されるべきで、この点に関して疑問はないが、実際には、こうした権利を振りかざす・・・という雰囲気はあまりなく、フランスやドイツの一部のメディアとはまた違う状況があった。

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 日本にいらっしゃる方で、雑誌「フォーサイト」をごらんになる機会がある方は、3月号に池内恵さんが、「風刺画問題が炙り出した西欧とイスラームの『対立軸』」という記事を書かれているので、ご参考に。昨年11月の講演を録音したCDもついてくる。

 結論部分で、池内さんは、西欧とイスラームの本音が出た事件だった、と書いている。


 「西欧諸国はイスラーム教を尊重し、寛容であろうとしている。であるのに、イスラーム教徒は西欧諸国の規範を尊重せず、何故異なる価値観に対して寛容になれないのか」という疑念と失望感は、ここ15年ほどの経験から、西欧諸国の市民の間に、右派・左派を問わず共有されてきており、厳しい移民政策が支持される背景となっている。
 ムハンマド風刺画問題は、西欧とイスラーム諸国が、互いの真の姿を見つめる機会となった。西欧の側は、近代社会の基本的な理念と原則においてもはや譲る気はないという決意を明確にした。世界各地のイスラーム教徒の間では、イスラーム教の普遍性と絶対的真理に関する批判や揶揄は許容しない、という意思を改めて確認することになった。

by polimediauk | 2006-02-20 18:48 | 欧州表現の自由