小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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<   2006年 03月 ( 9 )   > この月の画像一覧


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 9日の夜、チャンネル4という民放チャンネルで、映画「グアンタナモへの道」(仮の邦訳)が上映された。

 先月、ベルリン国際映画祭で銀熊賞というのを取っている。監督賞と同様であるようだ。マイケル・ウインターボトム氏が共同監督した。

 映画を見た後、ダウンロードできるようになっていたので、やってみた。何故か英国居住者だけがダウンロードできる、と書かれてあったが。(映画をダウンロードしたのは初めてだった。20分ぐらいかかっただろうか。日本円で1000円くらい。)アマゾンをのぞいてみると、26日ごろから、DVDでも販売している。
 http://www.channel4.com/film/newsfeatures/microsites/G/guantanamo/index.html

 英国バーミンガムに住んでいた20歳頃の青年たちが、パキスタンからアフガニスタンにでかけ、タリバン戦士としてつかまってしまい、キューバにある米軍グアンタナモ基地で2年ほど拘束されてしまう、という物語だ。現在は、解放されて、英国に戻ってきている。

 今日の新聞各紙のテレビ評を見ると、全部が全部といっていいほど、同じことに関して疑問を呈している。

 つまり、「何故青年たちがパキスタン、アフガニスタンに行ったのか}(1人は結婚するはずだった、というのが理由だったけれど)、「監督は、青年たちの言うことを、うのみにしすぎる」というもの。

 映画としては、私はよくできていると思ったし、最後は非常に叙情的で、終わりよければ・・という感じだったけれど、「青年たちのいうことを鵜呑みにしすぎている」という批評が、気になった。

 つまり、2004年、グアンタナモの拘束者に関しては、既に芝居になっていて、それがとても好評だった。(「グアンタナモ:自由を守る誇り」--ビクトリア・ブリッタン氏他が書いたもの)。この芝居の上演時点では、英国人青年たちの何人かはまだグアンタナモにいたけれど、それでも、全員が「無実なのにつかまった」という前提で芝居が書かれていた。

 2004年の時点では、何の不満もなかったはずなのに、2006年の現在では、メディアの中に疑念が湧いてしまっているのだろうか?2005年7月のロンドンテロの影響か?

 ロンドンテロは、イスラム教徒の4人の青年たちが実行犯だったけれど、家族や知人らが、彼らのことを、「愛情あふれる、家族思いの青年たち」と評していた。

 この青年たちと、グアンタナモにいて、帰ってきた若者たち、ほとんどが英国で生まれ育ち、イスラム教徒であること、主にパキスタン系であることなどが共通点だが、一方は無実なのに拘束され、一方は誰も気づかないうちにテロを起こしていた。

 一体、誰を信じたらいいのか?という思いが、英社会の中にあるのだろうか?

 

 
by polimediauk | 2006-03-11 03:05 | 政治とメディア
「今でも殺人者」

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(サウジアラビアのテレビで告白をするサンプソン氏 BBCオンラインより)

 ロンドン市内で、拷問に関するイベントが、8日夜、あった。人権団体ヒューマン・ライツ・ワッチが、2006年の世界の人権侵害状況に関する報告書を出版したのでhttp://hrw.org/wr2k6/、これを機に拷問が正当な情報収手段といえるのかどうか?に関して議論をする、というものだった。

 3人のパネリストの中の1人が、ウイリアム(ビル)・サンプソン氏という男性で、実際に、サウジアラビアでつかまり、拷問を受けた人物だった。

 当人が語った言葉と、BBCオンラインからの情報をやや付け加えて、再現してみたい。

 ことの起こりは2000年11月。サウジアラビアの首都リビアで、爆発がおき、英国人男性が死亡。妻も重症に。運転していた車が爆発した。男性はリビアの軍用病院で働いていた。当時3万人の英国人がサウジアラビアに居住しており、多くが軍事産業に従事。その後も、一月ほどの間に、英国人数名がターゲットにあったという。

 その後、英国人、カナダ人、ベルギー人らがサウジアラビア当局に逮捕され、拘束される。このカナダ人がビル・サンプソン氏だった。(カナダ人ではあるが、英国との二重国籍を持っているようで、現在は英国在住。)

 拘束後、3人は拷問にあった、とサンプソン氏は述べている。

 2001年2月、サウジアラビアのテレビで、3人は爆発物を仕掛けたのは自分たちだ、と、「告白した」。

 サンプソン氏は、この告白の中で、自分は、サウジ・インダストリアル・デベロプメント・ファンドというところに勤める、マーケティングコンサルタントである、としている。他の2人と協力の上、爆破物を仕掛けた、と述べた。

 サウジアラビアの法廷で、サンプソン氏を含めた3人は、殺人者としての決定が下される。

  ロンドンの昨晩のイベントで、サンプソン氏は、「自分は拷問をされたために、殺人者だ、と自供した。この日まで、この汚名は晴らされず、今でも殺人罪を犯した、ということになっている」。

 「拘束中には、ありとあらゆる拷問を受けた。さかさまにつるされ、眠りを奪われ、レイプされた。あまりにも拷問がきついので、体の感覚がなくなった。背中や腰、肩の感覚が今でもおかしい。心臓発作を何度か起こした。独房にも長期間入れられた」。

 「私たちが解放されたのは、キューバにある米軍グアンタナモ基地収容所にテロ容疑者として収容されているサウジアラビアの男性たちと『人質交換』のシステムを通じて、英国に返されたからだ」。

 「サウジアラビアで私たちが拷問を受けていることを、英政府は最初から知っていたと思う」。

 「解放されてから、拷問を受けての自供だったので、殺人者ではないことを証明するために英外務省の協力をあおいできたが、現在まで、進展はない」。

 「他の2人のうちで、ベルギーはサウジアラビア政府に対する訴えを起こしていると聞いたが、英政府は何もやっていない。英国ではできない、と言われた。私にはサウジアラビア政府に対する訴えを起こす権利がない、という。いくら私が、拷問状態では私の精神及び体の状態が尋常ではなかったことを示す診断書を提出しても、ダメだった」

「何故英政府が動かないのか?私の推測だが、英政府はサウジアラビアに対して多額の武器取引があり、これをだめにしたくないのではないか?」

―毎日、何を心の糧に生きているのか?

サンプソン氏「体も心も、まだ拷問の後遺症に悩む。しかし、いつか、汚名を晴らしたいと思って、英外務省との交渉を続けており、これが生きがいになっている」。

 「自分自のことを、サウジアラビアの件の前は、マッチョで、強い男だと思っていた。しかし、自宅のドアを開けられ、サウジアラビア当局の数人に突然殴られ、逆さづりにされたとき、私は叫び声をあげつづけるしかなかった・・・」。これ以上の描写もあったが、再現するのは難しい。

 時々言葉につまりそうになりながら、目をやや赤くしながら語るサンプソン氏。

 イベントが終わって、二言、三言、言葉を交わした。今でも殺人者となっているとはどういうことか?自分自身、衝撃を受けた夜だった。

 体験を本に書いたという。「無実の男の告白」(Confession of an innocent man)だった。

 (上記は聞き語りなので、正確でない情報もあるかもしれません。もし何かご存知の方はご一報ください。詳細が分かり次第、アップデートしたいと思います。)

もう1つ、どうしても頭から離れないので、皆さんご存知のトピックだが、貼り付けておきたい。

 
イラク 香田さん殺害のファハミ被告、動機語る
  【カイロ高橋宗男】イラク内務省特殊部隊に逮捕され、04年10月の香田証生さん(当時24歳)の殺害を自供したフセイン・ファハミ被告(26)は8日、バグダッドの毎日新聞助手の取材に応じ、香田さんら外国人の殺害について「イラク人やイスラム教徒が殺りくされ続けていた現実を世界に知らしめるため実行した」と動機を語った。
 ファハミ被告は「世界が騒ぐのは、米国人や日本人のような外国人が殺されるときだけだ。イラク人が毎日、(米軍などに)殺害され続けていることに、なぜ一切興味を示さないのか」と毎日新聞助手に怒りをぶつけた。また、同被告が所属するグループが香田さんの殺害を決定した直後に「処刑役」として呼ばれたと語り、「殺害を後悔していないか」との助手の問いかけには「いいや。言うべきことは何もない」と語った。
 同被告によると、香田さんの拉致は同じグループのウィッサム・キリとアイヤッド・キリ(ともに愛称)の2人が実行。同被告のほかグループのリーダー、サーイル・サイヤッドとアブドル・カーディルの計3人が殺害した。カーディルという男はいまだに逃走中という。


 「バグダッドの助手」に語った話、ということになっている。聞くほうもさぞつらく、かつ、複雑な感情だろう。




 

by polimediauk | 2006-03-09 23:52 | 政治とメディア
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 明日10日から、コペンハーゲンではイスラム教に関する会議が開催される。預言者ムハンマドの風刺画事件をきっかけに世界中で抗議運動がおき、デンマーク製品のボイコットなども起きた。ムハンマド、イスラム教に関する知識を深めるために開催される。

 エジプト人の説教師でテレビでも著名であるというアムル・カールドAmr Khaled氏が中心となって、合計で120人のイスラム教指導者や若いイスラム教徒たちのグループをコペンハーゲンに招いているという。ファイナンシャルタイムズの記事から拾ったが、主催者が不明だった。読んだ限りではカールド氏がいかにも主催しているかのように見える。(デンマーク政府あるいはコペンハーゲン市がサポートしている、という記事をどこかで読んだように思うが・・・。)

 一方、「イスラムとは何か?」というタイトルの本が、コペンハーゲンの書店で平積みになっているのをよく見かけたが、この本の広告ポスターを駅にはるかはらないかで、揉め事がおきていた。

 コペンハーゲンポスト紙が8日付で伝えたところによると、コペンハーゲン内のある駅にこの本のポスターを貼ろうとしたところ、鉄道を運営するレイル・ネット・デンマークが、「ポルノ、宗教、政治的広告に関する倫理基準を犯した」ということで、ポスターを張ることを止めようとした。しかし、「議論の結果」、ガイドラインを犯していない、という結論を経営陣が出した、ということだった。当初は、ポスターが侮辱的内容である、としていた。デンマーク国会議員たちは、もしポスターが禁止となれば、風刺画事件の後の単なる反射行動だと思われる、と懸念していたという。

 ポスターだけ見ると(画像)、本当に、何と言うことはないのだが・・・。

 全国紙「ポリティケン」は、書評欄で「イスラム教への重要なイントロダクションとなる本」だとしていた。
by polimediauk | 2006-03-08 23:49 | 欧州表現の自由
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 ファイナンシャル・タイムズ(FT)のオンライン版http://news.ft.com/home/ukへのアクセスが、11日まで無料となっている。通常、有料記事がところどころにあるが、これが全て無料で読める、ということだ.

 ガーディアン、テレグラフのオンライン版は過去記事も含めて通常全て無料。日にちが過ぎるとアーカイブに入り、一定の料金を払うのがタイムズ、インディペンデントだ.、この4紙とFTとを比べると、ちょっとしたコメントなどは、料金を払わないと見れないようになっているのが、インディペンデントとFTで、購読者になっていない場合、オンラインだけでは読みにくい新聞、という印象がある。

 FTは紙の新聞で購読者になっていても、オンラインの購読者にもならないと、過去記事や他の新聞の記事などが読めないことがある。これはこれで!!!だが、一旦覚悟を決めてオンラインの有料購読者になってみると、確かに、使いやすい。特に、レベル2というオンライン購読のコースを選ぶと、インディペンデントを含めて、他の世界中の新聞やワイヤーサービスの検索もできるので、調べものをしているときに、助かることがある。

 FTは、英国内での紙の購読者数が少なく、海外読者への販売に依存してきたが、赤字が続き、出版元のピアソンが、いつ手放すか?という記事が、よく他紙で報道されてきた。

 しかし、最近になって、黒字に転換。前編集長のアンドリュー・ガウアー氏もFT・コムには随分力を入れており、ガウアー氏は去ったが、彼の努力が実ったことになるのだろうか。

 8日の午後1時(日本時間の午後10時ーー先ほど9時と書きましたが、10時でした)には、バージンのリチャード・ブランソン氏が、ライブ「出演」し、読者と一問一答をするそうだ。

 ガーディアンの3日付の記事によると、FTコムには8万人のオンライン購読者がいるそうだ。年間75ポンド(15000円)か200ポンド(4万)ほどを払うと、過去5年間の記事にアクセスできる。500のニュース・ソースと、18,000社の企業情報にもアクセスできるそうだ。こうした財務情報にアクセスできるのは、FT以外にはインディペンデントのウエブだけだそうだ。

 ガーディアンの場合、アクセスは無料(過去記事も含む)。しかし、年に20ポンド(4000円)払えば、広告の入らないバージョンを読める。クロスワードやデジタル版(新聞紙面がそのまま読めるようにしたもの)には、特別料金を払う。
by polimediauk | 2006-03-08 02:34 | 新聞業界

「英国の内政に干渉できないから」

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 米国防総省が3日、米海軍グアンタナモ基地(キューバ)で長期拘束中の「敵の戦闘員」の氏名や国籍を公開すると発表した・・・というニュースが報道されたり、ベルリン国際映画祭で元拘束者の物語をドキュメント仕立てで作った「グアンタナモへの道」が賞をとるなど、グアンタナモ関連のトピックがまた注目を浴びているが、5日夕方、自分にとっては驚くべきメールを受け取った。
                                           
 このメールは、「ルモンド・ディプロマティークの友の会」のロンドン支部からのもの。グアンタナモ基地収容所に「敵性戦闘員」として拘束され、1年前に釈放された英国人男性モアザム・ベッグ氏(上の写真 BBCオンラインより)が、今年1月14日、ロンドン支部が主催したイベントにスピーカーとして出ていたが、このとき、通常のイベント開催の場所を仏機関から拒否される、という経緯があった。

 「友の会」は、毎週土曜日、ロンドンのフレンチ・インスティテュートの建物を使い、学者やアーチスト、運動家などと市民のディスカッションの場(通称「カフェ・デポ」)を提供してきたのだが、通常通り、ベッグ氏をゲストとして呼んでいたところ、開催直前にフレンチ・インスティチュートが「今回は場所を貸せない」と「友の会」側に伝えてきた。

 「英国の内政に干渉するわけにはいかない」というのが理由だが、主催者側は英国の政治家をこれまでに招いた際には何の問題もなかった。インスティテュートが場所の貸与を拒んだのは今回が初めてだった。結局、この回はロンドン・インペリアル・カレッジで開催された。(私も行ってみた。)
 
 場所を使わせてもらえなかった理由を、「何らかの意味でベッグ氏がテロに関係している、あるいは危険な人物とみている可能性もある」と、主催者側は話していたが、今回在英フランス大使に「正式な回答を求め」、その結果を伝えてきたのだった。

 メールは、フランス側の返答が納得できるものではなかったため、今後は別の場所で開催することを決定した、というものだった。 

 友の会は、フレンチ・インスティテュート側に対し、「英国ムスリムコミュニティーにおける、7-7テロの影響」と題された講演予定を伝えていたが、インスティテュートはスピーカーに関する詳細な情報を要求した。情報提供にあたり、友の会は、3年間の基地収容所拘束の結果、無実になっていること、帰国してからは和解と非暴力を訴えてきたことを伝えた。

 これに対し、インスティテュートの文化担当者が、「開催場所はフランス大使館の一部であるし、英国の内政事情に一切干渉するわけには行かない」ため、場所を貸せないし、この決定を自分が覆すことはできない、と言ったという。

 友の会の運営部はこの説明は不明瞭だとして、フレンチ・インスティテュートに再度コンタクトを取った。そこで、スピーカーが問題なのでなく、話すトピックが問題なので、場所の使用を許可できない、ということだった。そこで講演のタイトルを変える事を申し出ると、それでも開催は禁止されている、という答えだった。(みなさんも、こういう経験はないだろうか?非常にiいやな経緯である。)

 友の会は、このような返答は、スピーカー自身だけでなく、英国のムスリムコミュニティーにマイナスの影響を及ぼすだろう、と思ったという。

 何らかの誤解が起きている可能性もあるため、今度はフランス大使に説明の詳細を求める手紙を書いた。

 2月になってから、友の会は大使からの短い手紙をもらったが、これは、フレンチ・インスティテュートの文化参事官のオリビエ・Chambard.(シャンバール)氏に聞くように、ということだった。そこで友の会の代表が、先のインスティテュートの文化担当者とシャンバール氏との面談の機会を持った。

 面談は、不毛に終わった。シャンバール氏は、フレンチ・インスティテュートは「外交の場所であり、仏大使館にリンクしている」というこれまでの説明を繰り返すだけだった。「外交上の場所」なので、 「重要な国家的議論」に言及するようなスピーカーを受け入れることには積極的ではない、とした。

 過去に、同程度にセンシティブな問題について話した際には、何故使用が許可されたのかに関しては、何の説明もなかった。「これからも友の会がインスティテュートを使うことを望んでいる」、と言われたが、友の会側は、同様のことがいつ起きても不思議はない、と感じた。

 毎週土曜日の議論の会合は、まさにこうした「重要な国家的及び国際的問題」を議論し、言論の自由を保障するために存在している、と友の会は考えた。「社会の中で無視されたり誤解されたりしているような事柄に関して情報を広め、また、社会的正義の土台を崩すような政策あるいは状況を黙らせてしまうような動きに反対するために、存在している」のが、存在理由だった。

 したがって、大きな国際的重要性を持つトピックに関して話そうとしていた、何の罪にも問われていないスピーカーが来ることを禁止するような場所で、今後、イベントを開催していくことは不可能だ、と友の会は考えた。

 「将来的に同様のイベントが恣意的に開催を停止されることも起きるかもしれない。フレンチ・インスティテュートには、これまで場所を貸してくれていたことを感謝するが、3月末をもって、最後としたい」と書かれてあった。

 4月からは場所を変えてイベントは続くということだが、「元拘束者」への偏見がいかに強いか、未だ「危険人物」と見られている現状に、驚いた。それも、仏政府がそうしているのだ。英政府から、何らかの指示があったのだろうか?この点がはっきりしない。

 いずれにしろ、英国の文脈の中では、フレンチ・インスティテュートのこうした動きは、フェアではない、正当ではない、人権問題・・といった風にとられる。

 しかし一方では、仏のテロ取り締まり策は英国よりはるかに現実的で厳しいとも聞く。

 とにかく、こういったことが日常的に起きていることを知った日だった。

 参考: ロンドン支部 イベント情報他 http://www.monde-diplo-friends.org.uk/

 グアンタナモ関連ニュース。

<米国防総省>「敵の戦闘員」の氏名、国籍を公開へ

 【ワシントン和田浩明】米国防総省は3日、米海軍グアンタナモ基地(キューバ)で長期拘束中の「敵の戦闘員」の氏名や国籍を公開すると発表した。AP通信の公開要求をニューヨークの米連邦地裁が2月下旬に認めたことを受けた措置。同基地には01年からの対テロ戦争で拘束された外国人約490人が収容されているが、身元や容疑はほとんど公表されず、人権擁護団体などから批判が出ていた。
 何人分の身元が公表されるかは不明だが、同通信は数百人分に上るとしている。公開されるのは、拘束者の一部の氏名や国籍を含む関連文書317件約5000ページ分。同省はAP通信の請求に基づき文書をいったん開示したが、拘束者の氏名や国籍などは「公開すれば拘束者が報復を受ける可能性がある」などとして塗りつぶしていた。 (毎日新聞) - 3月4日17時29分更新


 「グアンタナモへの道」(仮の題)が映画祭で賞をとったものの、出演者たちが拘束されたという情けないニュースが、先月末報道されていた。しかも、元拘束者たちは、「無実」だったはずなのだが。まだ疑われているのだろうか?

テロ容疑者演じた男優拘束 ベルリン映画祭の受賞作

 【ロンドン22日共同】英警察当局は21日、世界三大映画祭の一つ、ベルリン国際映画祭で次点の銀熊賞(監督賞)を受賞した「ロード・トゥー・グアンタナモ」で、米軍に拘束されたテロ容疑者を演じたパキスタン系英国人ら男優2人を、反テロ法に基づき16日に一時拘束していたことを明らかにした。
 同作品はグアンタナモ米海軍基地での収容者への虐待などがテーマ。警察は拘束について「通常のテロ対策の一環」としており、具体的なテロ容疑はなかったとみられている。映画のモデルとなった元被拘束者の2人も同時に一時拘束された。
 所属事務所などによると、男優らはベルリンの映画祭からロンドン郊外のルトン空港に到着した際に警察に呼び止められた。 (共同通信) - 2月22日12時5分更新

 

by polimediauk | 2006-03-06 06:50 | 政治とメディア

 3日の夕方から夜にかけて、前から注目していた、及び驚いたニュースが続々と入ってきた。(後数時間で、日本でも出るだろうか?)

 BBCオンラインのトップ頁や、興味のある方はBBCの夜の解説番組Newsnight(専用サイトがある)をネットで再視聴もできるが、主に記憶を頼りにメモってみると

 -ブレア英首相が、4日放送予定の、あるテレビのインタビュー番組で、イラク戦争で英兵が命を落としている点をどう思うか、を聞かれ(詳細はきっと後で日本語でニュースが流れると思う)、イラクに英兵を送るかどうかを決めるときに、良心、または神に聞いた、というようなことを言ったのだった。(サイトのビデオを見るともっとはっきり分かるのだが、とりあえず。)私はこれを夕方のニュースで聞き、どき!!とした。ブレア政権は「神をやらない」ことになっている。キリスト教への信仰を政治の中に入れるような発言をしているブッシュ政権とは一線を画していたはずだった。何故こんなことを言ったのか?Newsnightでは様々な分析があった。

 -グアンタナモ米軍基地の収容所に拘束されている人々の名前が入った書類をペンタゴンが公開したようだ。分厚い文書の中に、現在収容中の約500人の中の300数十人の名前が入っている、という。名前が分かれば、何故拘束されているのか、など、釈放への運動が加速する。

 -「グアンタナモへの道」という映画は先月、ベルリン映画祭で賞をとったが、これが9日、民放チャンネル4で放映される。この後、ネット上でもダウンロードが可能と聞いた。元拘束者の話をドラマ化したものだ。

 ーまた、4日の午後7時半頃から、北アイルランドに関する番組がBBC2というチャンネルで放映される。(これもまた放送後ネットで見れるので、英国にいる必要はないだろうと思う。)30年以上もカトリックとプロテスタントの住民とのいさかいが続いているが、テロリスト達と、テロリストに家族を殺された人たちが、番組の中で、向き合って話をする。和解を目指すもので、南アフリカ共和国で初めて試された方法だという。


 ・・というニュースの殆どをNewsnightの番組内で知ったが、情報を取るときに、文字情報もいいが、人の話、意見がたくさんでるテレビもいいなあ、と思う。

 ところで、アルジャジーラの英語版ウエブに、私が書いたオランダのムスリムー非ムスリムの対立の記事が、1日から出ている。もうこのブログで、「オランダ 表現の自由」の項目の中で何度もしつこく書いたので、特に新しい内容はないが、1つもしあるとしたら、例の風刺画事件の影響は?という点だ。
 http://english.aljazeera.net/NR/exeres/1DA8F833-CEA8-4283-8463-8E3FC1A53FD7.htm

 私が取材したところによると、アムステルダムの中心でデモはあったものの、大体平和的なデモだったという。しかし、風刺画事件が世界中で暴力事件を生み出したり、人が殺されたりしたので、「これでイスラム教徒の悪口を言っていい」という雰囲気もあった、という。「イスラム教徒には表現の自由という観念は分からないのだろう」というコメントは、「イスラム教は後進的な宗教だ」と、何人ものオランダの知識人が言ったコメントをほうふつとさせるものだったという。

 驚くような展開ではないが、オランダの政治家アヤーン・ヒルシ・アリ氏は「侮辱する権利」を主張し、右派政治家のへールト・ウイルダース氏は、風刺画を自分のウエブに掲載し、脅しを受け取った。

 ウエブサイトを通じて、記事には読者がコメントを送れるが、書いた人のところに、フィードバックとしてこうしたコメントが自動的に送信されるようだ。この仕組みが分からなかった私は、最初あせったが、2回目からは、特に私が何かをするものではないことが分かって、ほっとした。

 

 
by polimediauk | 2006-03-04 09:05 | 政治とメディア

 「共に生きるようにするべきだ」

AFPなどの報道によると、2月末の時点で、世界56カ国の143の新聞がムハンマドの風刺画12枚のいずれかを掲載したという。紙媒体での掲載とオンライン掲載を含む。デンマークのジャーナリズム機関Danish School of Journalismが発行するオンラインの雑誌、eJour, の調査結果だ。

 143の中で殆どは欧米の新聞だ。70が欧州紙で、14が米紙だった。カナダとニュージーランドでそれぞれ1紙、オーストラリアでは2紙、日本では1紙だった(日本はどこも掲載していないように思っていたが??)。イスラム教国では、アルジェリア、ボスニアーヘルツェゴビナ、エジプト、インドネシア、ヨルダン、マレーシア、モロッコ、サウジアラビアでも掲載された。米国では全国紙で掲載したところがなく、14紙はいずれも地方紙だった。

 本日の時点では、さらに増えている可能性もあるだろう。

http://www.news24.com/News24/World/News/0,6119,2-10-1462_1890298,00.html

 一方、英デイリーテレグラフ紙が、風刺画関連で訂正をしていた。

 前に、デンマーク風刺画問題で、「何故デンマークでこんなことが?」という疑問を書いたときに、デンマーク女王が、自伝の中で既に移民、ムスリムたちにやや否定的なことを書いている、と教えてくださった方がいらした。デイリーテレグラフの昨年4月の記事だった。

 この記事には、実は翻訳のミスがあったという。ミスに気づいたのは、テレグラフ・オンラインがきっかけだ。テレグラフのサイトでは過去記事が1996年までさかのぼって無料で見れるが、昨年4月のデンマーク女王の記事へのアクセスが急激に伸びていたそうである。風刺画事件と関係あるため、と分かったのだが、その中で、ある箇所に間違いがあることに気づいた。テレグラフの最初の記事では、女王が、デンマーク国民に向かって、イスラム教に対する反対・抵抗(オポジション)を示すよう、呼びかけていた、というような文脈になっていた。

 ところが、テレグラフのスカンジナビア特派員(記事を書いたのはベルリン特派員なので、別人)が気づいたところによると、テレグラフの誤訳記事のために、反デンマーク感情を増幅させている状況が起きているらしいので、特派員はその旨をテレグラフの外報デスクに報告した。

 また、在ロンドンのデンマーク大使が同様の趣旨の指摘をテレグラフにメールで送っていた。

 そこで外報デスクが問題の箇所を確かめてみると、「オポジション」という訳は、AFPやAPの報道でも使われていた言葉だったが、大使によると、もともとのデンマーク語の翻訳としては「カウンターバランス」(勢力の均衡)の方が正しかったのだという。

 この指摘に対し、記事を書いた特派員は、翻訳が間違っていたことを確認。(間違えたのはAFPやAPの方ではあるのだが。)

 そして、テレグラフは4月の記事をオンライン上で訂正する。


 直った記事がhttp://www.telegraph.co.uk/news/main.jhtml?xml=/news/2005/04/15/wqueen15.xml
 
 見出しが、デンマーク女王 「私たちにはイスラムに対するカウンターバランスが必要」。

 最初の段落では、「イスラム原理主義に対するカウンターバランスをとることが必要・・・」となっており、結末部分を読むと、この意味が説明されたような格好になっている。

 記事の中で女王は、伝記作家アネリセ・ビストラップ氏に、不満を抱くムスリムの若者たちが宗教に避難場所を見つける可能性があることを理解している、と述べていた。もっと社会融合が進むように、ムスリムたちにデンマーク語を学ぶように奨励するべき、という考えを披露している。

 「隣に住んでいるということだけで満足してはいけない。共に生きるようにするべきだ」。

―――

 自伝全体を読んでいないので、正確な判断がしにくいが、相手を拒絶するのではなく、融合を提唱する考えの持ち主のように、書き直された記事からは見える。

 いずれにせよ、翻訳が間違っていた、という部分は事実のようだ。

 テレグラフ(大手高級紙)が、よくここまでやったなあ、と感慨深かった。

 英文記事が訂正された日付は2月16日。

 ネットのおかげで、メディアの説明責任が高まった、とするテレグラフのコメントに含蓄があるように思えた。
by polimediauk | 2006-03-04 01:20 | 欧州表現の自由

「知識人は知識人であり、新聞は新聞だ」
 
 デンマークのユランズ・ポステン紙が、イスラム教の預言者ムハンマドの風刺画掲載事件をきっかけにして起きた、表現の自由に関する論争を、再燃させるかのような記事を、3月1日付の紙面で掲載した。
http://www.jp.dk/indland/artikel:aid=3585740/

 これは、「エディターズ・ウエブログ」(世界新聞協会の一部)によると、フランスの週刊誌シャルリー・エブドに掲載された記事の翻訳だそうである。

 シャルリー・エブドが出した記事をどのような形で出したのだろう?紙面を見ないと正確には分からないが、シャルリーエブドの記事の単なる紹介ではなくて、「同じものを、英語にして出した」、ということでいいのだとしたら(ウエブログによると、そうだが)、ユランズポステン自身が内容の掲載・転載に意義を感じていることになる。

 読んでいて、フランス語の翻訳ということで、自分にとっては分かりにくい面もあったが、イデオロギーの記事、キャンペーンの記事になっており、不快感さえ感じてしまった。特に、自分たちの価値観が「普遍的価値」として疑わないあたり、欧州以外の人にとっては、違和感がともなうのではないだろうか。

 本当に、フランスと英国は随分違うものだ。

 (大体の訳です。うまく翻訳できていない箇所をお許し願いたい。)

 「マニフェスト:新たな全体主義に共に直面する」とするタイトルの記事だ。

 「ファシズム、ナチズム、スターリニズムに打ち勝った後で、世界は新たな全体主義的なグローバルな脅威に直面している。それは、イスラム主義だ。

 私たち、作家、ジャーナリスト、知識人らは、宗教的な全体主義に対する抵抗と、全ての人にとっての自由、機会均等及び政教分離の価値観の奨励を呼びかける。

 欧州の新聞数紙にムハンマドの風刺画が出版されてから起きた最近の事件は、こうした普遍的な価値観に対する戦いが必要であることを明らかにした。この戦いは、武器を使って勝利を得ることはできず、イデオロギーの分野の戦いになる。文明の衝突でもなければ、私たちが目撃している西側と東側の敵意でもなく、民主主義者と神政国家者との間の地球規模の戦いだ。

 全ての全体主義者がそうであるように、イスラム主義は恐怖と欲求不満によってはぐくまれてきた。憎悪を説く者たちは、liberticitalで不平等主義の世界を押し付けるための軍隊を作るために、こうした感情に賭けている。しかし、私たちは、明確に、断固として言明するーー何ものも、例え絶望でさえも、反啓蒙主義、全体主義、憎悪の選択を正当化しない、と。イスラム主義は平等、自由、世俗主義を殺す反動的なイデオロギーだ。イスラム主義の成功は、相手を支配をする世界につながる。男性による女性の支配、イスラム教主義者による、他の全宗教の信徒に対する支配だ。これに逆らうために、私たちは抑圧されたまたは差別された人々に対して普遍的な権利を保証しなければならない。

 私たちは、「文化的相対主義」を拒絶する。イスラム教徒の文化の男性や女性が、文化や伝統を尊重するということで、平等、自由、世俗主義的価値観に対する権利を奪われてもいい、ということを認めることになるからだ。「イスラムフォビア」と呼ばれることを恐れて、批判精神を断念することを拒絶する。イスラムフォビアはイスラム教を宗教として批判することと、ムスリムたちに汚名を着せることを取り違えている不幸な考えだ。

 私たちは、全ての悪用、全てのドグマに対して、批判的な精神が全ての大陸で実行されるように、表現の自由の普遍性を弁護する。

 私たちは、私たちの世紀が、反啓蒙主義でなく、啓蒙主義の世紀であるようにと、全ての国の民主主義者と自由な精神の持ち主に呼びかける。

署名
アヤーン・ヒルシ・アリ
チャーラ・チャフィク
キャロライン・フォウレスト
バーナド・アンリ・レビー
アーシャド・マンジ
メーディ・モザッファリ
マリャム・ナマジー
タスリマ・ナサレーン
サルマン・ラシディー
アントワーヌ・スフェー
フィリップ・バル
イビン・ワラク
(それぞれの人の読み方はアルファベットをそのまま読んだもの。詳しくはオリジナル記事をごらんいただきたい。経歴もついている。)


 ここまで読んで、エディターズ・ウエブログの分析を見ると、「ユランズポステンの「謝罪の時期」(1月)は終わったようだ」という。http://www.editorsweblog.org/print_newspapers/2006/03/jyllands_posten_reprints_manifesto_fight.php

 「雑誌シャルリー・エブドとユランズ・ポステンは、風刺画論争の新たな章を作った」。

 「表現の自由を弁護することと、新たな全体主義に関してキャンペーンをするのは別だ」。(やっぱりなあ、と妙に納得した。)

 「昨年の10月から今年2月まで、攻撃を受けたユランズポステンに全ての新聞が連帯し、読者に情報を与える権利、あるいは義務を支持した」が、この3月1日のマニフェストはこれまでとは全く違う。それは左と右という2つの方向を再導入したからだ。右派の新聞のいくつかはこのマニフェストに合意し、これを奨励するだろうし、左派の新聞は3点の理由からリスクを懸念するだろう。

 一つには、イスラム教とイスラム主義が混同されやすい

 また、風刺画事件の後で、ムスリム世界との真の対話を始める必要が出てきている

 さらに、「文明の衝突」、「第4次世界大戦」の主張の罠に入るリスクがある

 私たちのポジションは、知識人は知識人であり、新聞は新聞だ、ということだ。このマニフェストのような記事を新聞が載せるのはノーマルだ。しかし、1面や非常に目立つ面に出すかどうかは、イデオロギーが絡む選択になる」。
 
by polimediauk | 2006-03-02 07:58 | 欧州表現の自由

 風刺画事件に関して、欧州に住む方、あるいは日本に住む方から様々な意見・インプットをいただいた。

 自分の考えが足りないところが随分あって(特に欧州のほかの国の見方)、自分の分析は英国、デンマーク、及び英文資料をもとにしたものであることの、限界も感じた。

 新聞通信調査会というところの、3月1日付の会報に、これまでの経過をまとめてみた。2月10日ごろまでの情報であること、他の欧州の国の見方のインプットが反映されていないことをお許しいただきたい。(デンマーク国内の状況にご興味のある方は、少し前から、デンマーク取材のインタビューを日刊ベリタに掲載中。中東を訪問して、問題を悪化させたと言われた、イマームのアーマド・アブ・ラバン氏のインタビュー記事を準備中。)

 預言者ムハンマドの風刺画の波紋
 欧州型表現の自由とイスラム教徒の対立


 デンマークの保守系有力紙「ユランズ・ポステン」紙が、イスラム教の預言者ムハンマドの風刺画十二枚を紙面に掲載したのは昨年九月。国内に住むイスラム教徒の一部が、偶像崇拝を否定するイスラム教ではムハンマドの肖像を描くことさえ許されておらず、ましてや戯画化は「イスラムへの冒とく」として抗議をしたものの、新聞からの謝罪はなく、デンマーク政府も「独立メディアの編集権には干渉しない」という理由から対話の機会を持とうとしなかった。業を煮やしたイスラム教団体幹部らが中東諸国を訪問し、抗議の支持を取り付けると、デンマーク大使の本国送還などが始まった。これを「表現の自由の危機」と見なしたノルウエー、フランス、ドイツなどの新聞や雑誌が、今年になって、風刺画を転載。この時点で、ムハンマドの風刺画事件はデンマーク一国ばかりでなく、一躍世界中に知られることになった。

 欧州の新聞各紙が「表現の自由」を主張し、これに賛同して風刺画を掲載する新聞が増える一方で、中東諸国に限らず、アジア、アフリカ諸国でもイスラム教徒による抗議デモが広がった。デモは次第に過激度を増し、死者が出るまでになった。  
 
 一方、欧州の表現の自由を「二重基準」と非難するイランでは、ハムシャハリ紙が、欧州でタブーとされるホロコースト(ナチドイツによるユダヤ人虐殺)の存在を否定するような風刺画のコンテストを開始する、と宣言し、対決姿勢をあらわにしている。

 一連の風刺画問題の背景には、イスラム教と西欧の価値観のぶつかり合いがある。国際政治の面からは、米国を含めての西側とイスラム教社会との覇権争いとも言えよう。直接的には、欧州社会に移民として住むイスラム教徒とホスト国になっている欧州各国の既存価値観の衝突でもある。宗教・表現の自由、民主主義を基本とする欧州社会で、自分の宗教に対する批判を良しとしないイスラム教徒は、どうやって折り合いをつけて生きていくべきなのだろうか?未だこの問いに対する答えは見つかっていない。

―「表現の自由」を試したい

 デンマークの風刺画掲載までの流れを振り返る。

 英各紙などの報道をまとめると、昨年夏、デンマークの児童作家カーレ・ブルイトゲン氏が、移民と非移民との間の理解と融合を深めるために、預言者ムハンマドに関する児童書を書こうと思いたった。イラストを描く漫画家を見つけるのが難しく、最終的には、ある風刺画家が匿名を条件に描いたという。

 この顛末をライバル紙「ポリティケン」紙で知ったユランズ・ポステン紙の文化部長フレミング・ローズ氏は、「メディアの自己検閲がどれくらいかを試すために」、ムハンマドの風刺画掲載を思いついた。

 ローズ氏は、二十五人の画家にムハンマドの風刺画を依頼したが、十三人が断り、十二人が承諾。九月三〇日、「自分が見たとおりのムハンマド」というテーマの風刺画が掲載された。

 風刺画の一つでは、ムハンマドのターバンが爆弾になっていた。また、ムハンマドが自爆テロ犯たちに向かって、「待てよ、もう処女がいなくなった」(自爆テロをすると、天国で処女が待っている、と考えるため)、と述べている風刺画もあった。イスラム教とテロを直接結びつけたかのようなこの二つの風刺画は、特に冒涜的だとして強い反感の対象になってゆく。

 風刺画掲載以前のデンマークだが、イスラム教を巡り、一定の緊張感が存在していたようだ。
英各紙の分析によると、プロテスタントの国デンマークでは、他の欧州諸国同様、風刺が強い政治漫画を新聞に載せる伝統があるが、近年はテロや移民増加を背景に反イスラム感情がうっ積していた。全人口約五四〇万人の中で約二〇万がイスラム教徒だが、「イスラム教はテロリストの宗教」と公言する極右政党の国民党が勢力を伸ばしていた。

 十月中旬、風刺画家の何人かがイスラム教徒過激派から殺害予告を受けた。同じ頃、国内のイスラム教徒五千人は抗議のデモを行っている。また、イスラム諸国からの十一人の大使が、風刺画に対する抗議のため、ラスムセン・デンマーク首相との会談を希望するが、首相はこれを拒否した。

 十二月、デンマークのイマーム(イスラム教の伝道師)たちは中東を訪問して抗議活動への協力を求めた。このとき、十二枚の本物の風刺画とは別に、ムハンマドが児童性愛主義者として描かれるなどさらに過激な風刺画も加えられた、と言われている。

 今年一月十日、ノルウエーのキリスト教週刊誌マガジネットが風刺画を「表現の自由」のために転載。

 二十六日にはサウジアラビアがデンマーク大使を送還。国内でのデンマーク製品のボイコットも始まった。

 三十一日、ユランズ・ポステン紙は風刺画掲載でイスラム教徒の感情を傷つけたことに関して謝罪。しかし、掲載自体に関しては謝罪せずに現在に至っている。ラスムセン首相も、「独立メディアに政府は干渉できない」という姿勢を崩していない。

―欧州新聞が追随

 二月一日、フランス、ドイツ、イタリア、スペインの新聞が風刺画を転載し、風刺画問題は一挙に世界の注目を浴びることになった。この中の一紙フランス・ソワール紙の編集長はその日のうちにエジプト系フランス人の社主に更迭された。

 シリアでは、首都ダマスカスにあるデンマークとノルウエー大使館をイスラム教徒のデモ参加者が襲撃。レバノンの首都ベイルートにあるデンマーク大使館はイスラム教徒らによって放火された。レバノン内相は放火の責任を取って辞職。アフガニスタンやソマリアでは、少なくとも八人のデモ参加者が警察とのもみ合いの中で命を落とした。暴力を行使するデモに対して非難の声があがりだした。

―英国では掲載なし

 英国では、大衆紙及び高級紙共に今回の風刺画の転載をしていない。

 掲載しなかった理由は、例えばデイリーメール紙は、「掲載した新聞の弁護のためには死もいとわないが、掲載の事実そのものには同意しない。権利は権利だが、責任はまた別のものだ」。デイリーテレグラフは、あからさまなヌードや暴力シーンを印刷しないのと同様の理由から、風刺画を掲載しないことに決めた、としている。「表現の自由」は大事だが、「故意に侮辱する」のは避けたい、というのが各紙の主旨だった。BBCなどのテレビ局が一瞬、風刺画が掲載された仏紙の紙面を放映しただけでも、イスラム教の団体が抗議声明を発表し、放送局の建物の前で抗議デモが起きる、といった背景要因もあった。

 メディア専門家らが推測した他の理由としては、イスラム教団体の反感を買うことで読者が減少するのを恐れた、新聞を販売する小売店の販売主の多くがイスラム教徒であることを考慮した、編集長の首が飛ぶことを恐れた、などがある。

 一九八九年、イランの指導者ホメイニ師が、小説「悪魔の詩」のインド系英人作者サルマン・ラシュディ氏に、イスラムを冒とくしたとして処刑を命じたが、英メディアはイスラム教徒の国民の感情に配慮する教訓を学んでいた、とする説もある。

 ただし、ウエブサイトでは見れるようになっていたため、ネットでリンク先を掲載しながらも紙媒体には載せない英新聞界を「臆病者」と呼ぶコラムニストもいた。

―対立から妥協へ?

 八日、仏漫画週刊紙シャルリー・エブドが、問題となった風刺画とあわせて新たなムハンマドの風刺画を掲載し、売れ行きを大幅に伸ばした。この頃から、欧州側の表現の自由に対する見方がやや変わってきたように思える。

 政教分離の原則から公的場所でイスラム教徒がスカーフをかぶることを許さなかったフランスだが、この方針を推進したシラク仏大統領が今回の雑誌の風刺画を「あからさまな挑発」と呼び、「表現の自由は責任を持って行使されなければならない」、と述べているのがその一例だ。

 「表現の自由」至上主義を主張してきた西欧のメディアだが、「責任」の意味合いを考える機運がわずかに見えてきた可能性もある。
by polimediauk | 2006-03-02 04:18 | 欧州表現の自由