小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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 BBCでイラク関係の記事2つが目に付いた。

 1つは、イラク戦争開戦後、英兵1000人以上が脱走している、という記事だ。

 2005年では377人が脱走し、現在居場所は不明。今年は189人が既に脱走した。

 BBCの調べでは1000人以上が脱走しているとのことだが、政府の正式な数字では900人。英軍部隊はイラクに現在約7500人いる。

 国防省は脱走兵の数が増加しているのかどうかに関して詳細な数字を取っていないそうだが、労働党議員ジョン・マックドネル氏が議会で述べたところによると、この3年間で増えている。

 議員が発言したのは、現在、海外勤務を断った場合、何らかの罰側を与えるかどうかを議論しているためで、最悪の場合は終身刑が課される場合もある。(ここまで読んで疑問が沸くのだが、どことなく、「脱走」といっても、軽い感じがするのだが。「非国民!」ということで、近所の人などからバッシングにあわないのだろうか?居場所が分からない、といっても、ちゃんと調べているのだろうか??)

 脱走兵の中で、何人がイラクに行きたくないということで脱走したのか、あるいは家族などの個人的都合で脱走したのかは分かっていない。

 軍法会議の弁護士達は、脱走するところまではいかないまでも、どうやったらイラクに行かないですむか、という相談を頻繁に受けると言う。

 英空軍のマルコム・ケンドール・スミス氏はイラクへの動員に関する命令を拒否したために、8ヶ月の禁固刑を受けた。ケンドール・スミス氏のケースを担当した弁護士のジャスティン・ヒューストン・ロバーツ氏は、毎日のように、イラクでの任務から逃れたいと言う軍関係者から連絡を受けるという。

 ベン・グリフィス氏はかつてエリート軍団と言われるSASのメンバーだった。今年年頭、イラクに戻るはずだったが、米軍がイラクで違法行動をしている様子を見たために、戻りたくない、と上司に告げた。

 これを機に英軍を去ったグリフィス氏。「米軍はイラク人を軽蔑していた。人間として扱っていなかった。イラク人の命や所有物に対して、全く尊敬の念がなかった」と述べている。

 グリフィス氏は脱走をすすめないが、「イラク戦争が間違っていると思ったら、上司に自分の思いを伝えるべきだ」としている。

 28日(日曜日)、BBCラジオファイブライブで、英時間の午前11時にディスカッションが、午後6時半にドキュメンタリーが放送される。(ウエブから入ると、後で聞ける様になっているだろうと思う。)

 もう1つはイラク・ボディー・カウントで、この団体はイラクでの犠牲者の数を数え続けている。

 今年5月26日付で、イラク人の市民で殺された人は38,990人。イラク人の警察官で殺された人は2,059人。

 イラクでどれだけ市民が犠牲になったかは、数え方によって異なる。米英政府側は少ない数を欲しがる。といって、市民の犠牲者数は詳細には数えていないそうである。ブッシュ米大統領は、昨年12月の時点で、3万人のイラク市民が殺された、と述べている。
by polimediauk | 2006-05-28 17:56 | イラク

 ブレア英首相がワシントンを訪れており、ブッシュ米大統領と会見した。

 昨日は英メディアでもこのニュースで持ちきりだったが、日本とはニュースの重点の場所が違うようだ。どちらが良い・悪いということでなく、国際ニュースとしては、イラクの今後のことを(新政府ができたので)語る・・という面に焦点が集まるのは当然だろう。しかし、2人(あるいはブッシュ氏)が、イラクでの失策を認めた、あるいは、「xxxしなければよかったと思っている」、と述べた部分が英国では大きかった。私自身、この点に驚いた。

 長い間、イラク戦争に関し、あるいは、「テロの戦争」(直接イラクとは関係なかったかもしれないが、ブッシュ氏が当初つながりがある、としていた)の論調で、米政権・ブッシュ氏は、英国でよく言われる「ガン・ホー」スタイル、というか、けんか腰のもの言いを続けてきた。「そんな言い方をしては、火に油を注ぐようなものだよなあ・・」と多くの人が思っていたのではないかと思う。

 それを、今回は「あんな言い方をするべきではなかった」、と認めている。

 例えばだが、Wanted dead or alive という表現を使ったことを後悔しているそうだ。世界中のいろいろな場所で、「間違った意味に受け取られた」と思っているという。

 ブッシュ氏の言葉ではないが、私が思い出すのは、サダム・フセインが捕まったとき、当時イラクにいた米高官(ブレナー氏?)が、「We got him」と言ったのだが、その言い方が、いかにも西部劇で悪者を捕まえたような、映画「スター・ウオーズ」で悪者をこらしめたような、つまりは勧善懲悪のドラマのせりふのようで、いやだなあ・・と思ったものだった。

 テレビのニュースで垣間見た限りでは、ブレア氏の表情も随分暗かった。

 たくさん人を殺した後で、「xxxしなければよかった」(例えばフセインのバース党のメンバーを公職から追放してしまったので、結果的に暴動が増えた、など。ブレア氏の言葉)と言われてもなあ・・・とも思ってみていた。


(産経新聞の記事) 

米英首脳会談 イラク新政権を支援 撤退時期は示さず

 【ワシントン=有元隆志】ブッシュ米大統領は二十五日、訪米したブレア英首相とホワイトハウスで会談した。両首脳は共同記者会見で、国際社会と協力し、米英がイラク新政権を支援してゆく考えを強調。イラクの戦後処理で「誤り」があったと率直に認めつつも、イラクの民主化進展をアピールした。
 ブッシュ大統領は会見で、「米国と英国は協力して新政権が成功するよう手助けしてゆく」と強調した。大統領が視聴率が高い午後七時半から約四十五分間、イラクを訪問したばかりのブレア首相と共同会見に臨んだのは、イラク新政権発足の意義を米国民に訴える狙いがあったとみられる。
 両首脳は、イラク本格政権発足後も武装勢力の襲撃が続くとの厳しい見通しも示し、記者から「後悔している失敗は」と聞かれると、ブッシュ大統領は旧アブグレイブ刑務所で起きたイラク人虐待事件を挙げ、ブレア首相は、旧フセイン体制の支配政党だったバース党幹部の公職追放について「もっとよく選ぶやり方があった」と述べた。バース党幹部の全面的な追放は戦後の混乱に拍車をかける要因になったと批判が出ていた。
 両首脳はイラクからの米英軍の撤退時期については言及しなかったが、ブレア首相は、イラクのマリキ新首相が今後一年半のうちに全土で多国籍軍から治安権限を引き継げると発言したことについて、「イラク治安部隊が徐々に主導権を握る可能性はある」と述べた。
 ブレア首相は二十六日も大統領と会談する。
(産経新聞) - 5月27日3時49分更新


 (追記)
 後でネットを見ていたら、産経新聞のロンドン版でタイムズが6日から米国版を発行する記事があった。他の新聞と見比べても結構詳しく、よく調べてあって、感心した。すごい。

英紙タイムズ 米での発行キックオフ

世界最古の新聞、218年目で初
来月6日から「サッカー特集」で読者獲得狙う
 【ロンドン=蔭山実】現存する新聞では世界最古の英紙タイムズが二百十八年の歴史で初めて米国に進出することになった。サッカー・ワールドカップ(W杯)開幕に合わせてサッカー特集をメーンに六月六日から米国での発行を始める。米国のサッカーファンを中心に部数増を図るとともにインターネット版の読者獲得も目指している。
 タイムズが二十六日に発表したところによると、一部一ドルの価格で数千部の単位から販売を開始する。W杯が終わるまでは連日、一面でサッカー記事を組むなどサッカー特集を展開することを検討している。米国では野球やバスケットに比べると人気のないサッカーの報道に米紙も関心が薄く、それを逆手に取ろうという作戦だ。
 英紙ではフィナンシャル・タイムズがすでに米国版を発行しており、タイムズは英紙で二番目の米国進出となる。
 問題はコスト。タイムズのオーナー、ルパート・マードック氏は米紙ニューヨーク・ポストも所有しており、タイムズの米国内での印刷と販売に問題はない。だが、コストは販売価格の倍近くになるとの見方もあり、採算が合うかが課題となる。
 編集では、タイムズの米国駐在の特派員ら計九人を生かし、英国で発行しているタブロイド(大衆紙)判の紙面を同じ大きさの六十四ページの海外版に再編集するという。いずれは独自に米国版編集スタッフも整備する見通しだ。
 タイムズは事業に破産した英国の石炭商が印刷業に転身して一七八五年に創刊したとされる「デーリー・ユニバーサル・レジスター」が母体。三年後の八八年に「タイムズ」と改称されて誕生した。以来、英高級紙の中核を担ってきたが、一九八一年にマードック氏が買収してからはやや大衆路線に変わったともいわれる。
(産経新聞) - 5月27日16時46分更新

 

by polimediauk | 2006-05-27 17:30 | 政治とメディア

 昨日、英シンクタンクIISSというところが、「ミリタリーバランス2006」という情報を出した。

 以下は共同の記事。

中国軍事費、公表の3倍超 英戦略研報告書

 【ロンドン24日共同】英国の有力シンクタンク国際戦略研究所(IISS)は24日、各国の軍事力と地域情勢を分析した報告書「ミリタリー・バランス2006」を発表した。2004年の中国の軍事費が、研究開発費などを加えて人民元の購買力平価などに基づく独自のドル換算をした結果、公式発表の3倍超になるとの試算を明らかにした。
 03年の軍事費は独自のドル換算前の段階で公式発表の1・7倍だった。
 報告書では、04年の中国の軍事費は843億ドル(約9兆5000億円)で、ロシアを抜き米国に次ぐ世界第2位の規模。05年は995億ドルで、チップマンIISS所長は「急激な増加傾向にある」と指摘、軍事力強化を急ぐ中国の姿が浮き彫りとなった。
(共同通信) - 5月25日12時41分更新

 ーーー

 そうだったのか・・・中国ってすごいな、と思い、日本はどうなっているのだろうと新聞を買ってみた。

 ガーディアンの紙面を開いて、驚いてしまった。(ここからが無知・不勉強をさらけだすことになるが、お許し願いたい。)それは、日本のことだ。

 日本にいるときは、あまり意識しなかったのだが、英国に住んでいると、「日本の軍事費はでかい。日本は(予算の面からは)軍事大国だ」という意見を、よく聞く。軍事力の話をするとき、「日本は実際の戦闘に関わっていないから・・・」ということで、何となく漠然とした態度を示すと、「甘い!」とよく言われるのだった。

 そこでガーディアンを開くと、日本は戦闘員の数=軍事力と見た場合、約26万ほどで、世界19位になるのだが、軍事費ということで比べると、世界第4位だ。(米国、英国、フランスにつぐ。日本の下は中国。)

 大きさの面からは19位なのに、軍事費からは4位?

 これは一体、どういうことなのか?(ご存知の方は教えていただきたい。)高い機材があるということなのか、米軍の肩代わりをしていることなのか。

 ちなみに、英国、フランス、日本の軍事費はほぼ似たり寄ったりだが、米国はこの3つの国のそれぞれの額の、10倍である。異様に大きい。力で世界を席巻???

 それと、中国だが、日本が大体26万から30万の戦闘員がいるとして、中国は公式には225万、実際には700万、とIISSは結論付けている。

 共同以外では、この報告書を記事にした日本の新聞はあるのだろうか?共同の記事は、何故全く日本のことに触れないのだろう?日本の状況は、(私以外の)多くの日本人が既によく知っているから、なのだろうか?
 
 今までぼうっとして(あまりにも)していたが、これもきちんと見ていこうと思った日だった。


 
by polimediauk | 2006-05-26 00:28 | 日本関連

 オランダの国会議員で元難民のアヤーン・ヒルシ・アリ氏(女性)が、9月からアメリカに渡ることになった経緯を、一ツ橋大学教授の内藤正典氏が、ブログで書いている。

 この件にご関心のある方は、経緯と分析が載っており、是非ごらん頂きたい。

 http://www.global-news.net/ency/naito/daily/060518/01.html

 ヒルシ・アリ議員にはオランダで2,3度話しかけたことがあるが、ほっそりして、背の高い女性である。物静かに話すが、言っていることは過激である。オランダ国内よりもアメリカでの人気の方が高いかもしれない・・・。
by polimediauk | 2006-05-20 22:15 | 欧州表現の自由

 雑誌「新聞研究」(日本新聞協会出版)5月号が、欧州を中心とした風刺画事件の背後の要素を分析した記事を数本掲載している。欧州全体の話と、フランス、ドイツ、デンマークの事情だ。
 
 私はそのデンマーク分を担当したが、特にフランスの事情が書かれてある「大きな暴動には発展せず」の記事(産経新聞の山口昌子さん執筆)には、目からうろこが落ちる思いがした。「イスラム教への理解も他の欧州の国より深い」フランスの話を、是非どこかで読んでいただきたい。

 ご参考までに、私自身の記事は以下。もっといろいろな事情もあるのだろうが、一部の外国人=イスラム教徒の国民に対する、一種の挑発行為のように受け止められた、というデンマークの国内事情を中心にしてみた。ただし、風刺画を載せたユランズ・ポステン紙自身は挑発行為ではなかった、としている。これは嘘を言っているのではないと思う。担当した文化部長が、何度も、表現の自由のため、とメディアの取材に答えているのを見てきたし、本音だろうと思う。しかし、結果として、弱いものいじめ、というか、挑発的な行為として映ってしまった、という部分は否定できない、というスタンスで書いたものだ。


ーーー

―デンマーク国内事情とメディアの関わり方
(―外国人嫌いの中の風刺画掲載)

 デンマーク最大の日刊紙ユランズ・ポステンは、昨年九月、「表現の自由の限界をテストする」という理由から、イスラム教の預言者ムハンマドの十二枚の風刺画を掲載した。

 文化部長のフレミング・ローズ氏は、欧州内でイスラム教に関して表現の自己規制が働いている複数の例に遭遇し、こうした状況を変えるために、「イスラム教のタブーに挑戦し、風刺画家に呼びかけて自己検閲の限度をテストする」必要を感じた、と説明している(ユランズ・ポステンのウエブサイトより)。

 同紙のカールテン・ユステ編集長によれば「決してイスラム教徒を挑発する目的ではなかった」。最も問題視されたムハンマドのターバンに爆弾の導火線がついていた風刺画は、「イスラム教の名の下に暴力行為を行う、狂信的なイスラム・テロリストへの問題提起のつもりだった」。

 ユランズ・ポステン側の「表現の自由のため」とする説明をよそに、デンマークの知識人の多くは、風刺画に現政権の反移民策に通じる外国人嫌いのトーンを感じ、掲載は国内に住む約二十万人のイスラム教徒に対する一種の攻撃だと見ていた。

 この見方には背景要因がある。デンマークでは十五年ほど前から反移民感情が強まっており、「イスラム教徒はガン細胞だ」と発言した議員を抱える極右政党のデンマーク国民党が支持率を上げている。国民党は右派中道政権に閣外協力しており、移民政策に大きな影響力を持つ。保守系ユランズ・ポステンは現政権に近い新聞とされており、政治的意図があったと言い切ることはできないが、少なくとも、今回の風刺画は、デンマークのメディア界で近年目立つ移民に関する否定的報道の流れに沿ったものだった。

 政治、社会的要因、現地メディアの反応をたどりながら、ユランズ・ポステンの風刺画掲載の文脈に光を当ててみたい。

―反移民感情

 現在、人口約五四〇万人のデンマークで外国人人口は八%。一九七〇年代からトルコ人などを労働力として受け入れてきたため、外見が異なる「外国人」が社会に共存する光景は珍しくなかったが、デンマークの人権問題研究家ヘレ・ステナム氏の報告書(〇五年九月)によると、反移民感情が表面化し、大きな政治課題になっていったのは一九九〇年代以降だ。難民・移民たちはデンマークの社会福祉制度や文化を「脅かす存在」、「重荷」であり、「移民は私たちと違いすぎる、私たちの一員には決してなり得ないし、ならないだろう」、という見方が強くなった。

 一九九七年にはタブロイド紙「エクストラ・ブラデッド」が「外国人」と名づけたキャンペーンを展開し、非西欧諸国から来た移民を「社会保障を不等に受け取る犯罪人」と呼んでいる。

 一九九八年、十四歳のイスラム教徒の少女が、あるデパートで学校の研修として短期間勤務することになっていたところ、少女側によると「イスラム教のスカーフ(ヘジャブ)を被っていることを理由に」、研修を断られている。複数のスーパーマーケットが、ヘジャブ姿の女性をレジには置かない、と同調し、労働大臣は反差別法に違反する、と非難したが、一部のスーパーマーケットは政府の非難を無視した。

 当時、大多数のデンマーク人は学校で生徒がヘジャブを着用するのはいいが、スーパーのレジで働く場合は着用禁止を支持した。

 一九九六年に結党したデンマーク国民党は、「デンマーク人の犠牲の下で、イスラム教徒が自分たちのやり方をどこでも通そうとしている」、「政府はイスラム教の操り人形となっている」、とコメントしている。国民党は九十八年の総選挙で初議席(十三議席)を獲得して以来、二十二議席(二〇〇一年選挙)、二十四議席(〇五年)と、着実に議席数を伸ばしている。

―移民に厳しい政権

 〇一年十一月の総選挙で、九年続いてきた社会民主党率いる連立政権を破り、「小さな政府」を目指す右派連立政権が誕生した。同年九月の米国同時テロ以降、移民、特にイスラム教徒に対する否定的感情に一層の拍車がかかっており、厳しい移民規制策の実行を公約とした政党が票を伸ばした。

 新政権では自由党のラスムセン党首が首相となって保守党と連立を組み、デンマークの欧州連合からの脱退など過激な政策を主張したデンマーク国民党が閣外協力する形を取った。
ラスムセン氏は、一九九三年、「社会国家から最小限の国家へ」(仮約)という自著の中で、政府の関与をできるだけ少なくする、「リベラル」社会の実現を描いた。それまでは社会の中の弱い人の面倒を社会全体でみる、という考え方が政治の中心となっていたが、リベラル社会では個人が自分で自分の面倒を見ることが期待される。「ネオ・リベラル派」ラスムセン氏は、選挙公約通り、移民規制策を打ち出していく。

 〇二年、「外国人に対する新政策」を施行し、移民の居住認可の条件を厳しくしたことに加え、難民認定の定義も変更した。この結果、〇二年を境に難民認定件数、移民の居住認可件数が激減した。

 例えば、難民申請件数は〇一年には約一万二千件で、一回の申請で難民認定となったのは全体の五十三%だったが、〇四年には申請件数は約三千二百件で、認定率は十%に落ちた。難民に対する社会福祉手当も〇一年当時と比較すると、三十―四十%カットとなった。

 移民が出身国から家族を呼び寄せる条件のハードルを高くした結果、〇一年には申請件数約一万五千件(内一万人許可)が〇四年には申請数約五七〇〇件(二千八百件許可)となった。

 先住デンマーク人であっても、結婚相手が外国籍の場合、夫婦としての居住許可は自動的には下りず、外国籍の妻(あるいは夫)を扶養できること、過去十二ヶ月に社会保障を受けていないこと、自国に対するリンクが夫や妻の出身国より強いことなどを証明しなければならない。
選挙公約を果たしたということでラスムセン首相の人気は上昇し、〇五年二月、総選挙で再選され、現在に至っている。

―「デンマーク人のように」

 デンマーク西部にあるオーフス大学で英文学を教える、インド出身のイスラム教徒タビシ・ケアー氏は、風刺画事件以前から、国内で移民に対する同化への無言の圧力を感じてきた。「もしここに住みたいのなら、文句言うな」、という圧力だ。「ホスト国のルールを守る、というのはもちろん基本だ。しかし、法を遵守しながら、異なる意見、価値観を維持する権利は移民側にもある」。

 今回の風刺画事件でも、「私たちと同じ価値観を持てというトーンが出ていた、とケアー氏は言う。「表現の自由というが、個人が社会の中で暮らす以上、何らかの制限を受けるのは当然だ」。

 「西欧は自国にいる移民の異なる価値観や文化に、本気では関心を持っていないのだと思う。風刺画事件が典型だった」。

 ユランズ・ポステンに風刺画を描いた画家の一人(警備上の理由で匿名)は、社会の中の異文化、異宗教、異なる価値観によって、社会の過半数である「私たち」の文化を曲げるべきではない、とする信念を、ユランズ・ポステンのウエブサイト上で語っている。

 自分自身が無神論者という画家は、デンマークの「すばらしい風刺の伝統」の下では「すべてが、誰でもが風刺の対象になる」。風刺画が一部のイスラム教徒を侮辱したことを認めるが、「イスラム教は私の宗教ではないし、私は自分の国にいる。表現の自由が私たちの民主主義の基礎になっている伝統に従わなければならない。妥協は許されない。正しくない。境界線を引かなければならなかった」。
 
―許容範囲の広い風刺画

 デンマークの新聞を広げると、裸身、排泄物などの鮮明な描写、政治家など権威を持つ人々に対しての徹底的な戯画化が目に付く。

 ユランズ・ポステン紙のライバル紙左派ポリチケンの看板風刺画家ローエル・オルス氏の風刺画の一枚では、中央に環境大臣が自由の女神のような格好をして立っている。他の閣僚が周りを囲み、閣僚の中で男性二人が下半身裸で、環境大臣に向かって放尿をしており、背景にいる国民党の女性党首は体が後ろ向きだったが裸のでん部を露出し、排便していた。カラーのため、それぞれの閣僚の下半身部分や排泄物が鮮明に描き出されていた。

 英字紙「コペンハーゲンポスト」の副編集長で米国人のケビン・マッグイン氏は、デンマークの新聞の「何でも掲載できる自由」に驚く、という。「米国の新聞では赤裸々な裸の画像や、罵りの言葉は紙面には出ない。宗教に関わる事柄の報道にも配慮する」。

 風刺画掲載には、「非常に広い表現の許容範囲を狭められたくない、という強い思いがあったのではないか。イスラム教のタブーに考慮すると、描いてはいけない事柄がどんどん増える可能性に危機感を感じたのだろう」。
 
―「笑うことで相手を仲間に入れる」

 風刺画に描かれた方の反応はどうか?

 十二枚の風刺画の中には、児童作家カーレ・ブルートゲン氏を笑ったものがあった。氏は新刊「ムハンマドの生涯」という児童書に挿絵を描く画家を探したが、イスラム教徒からの報復を恐れた画家は匿名を条件に描くことを承諾した。この経緯がユランズ・ポステンに伝わり、風刺画掲載につながった。

 風刺画は、ターバンを被ったブルートゲン氏のイラストで、「宣伝目的?」と言う文句がついていた。

 ブルートゲン氏は自分が嘲笑されている風刺画を見て笑ったが、怒りを感じることはなかったと言う。

 「戯画化、風刺を楽しむデンマーク人の考え方と、風刺画のために怒ったり、互いを殺しあうまでにいたる人々の考え方には、大きなギャップがあると思う。非常に大きなギャップだ」。
 しかし、一般的には「悪意があって笑うのではないことを分かってほしい。笑うことで、相手をこちら側に受け入れている。私はあなたを笑うことができる、あなたも私を笑う。みんなが笑う。そして仲間になるのだと思う」。

 氏は、「ユランズ・ポステンは政府を支持しているので、掲載には政治的な意図もあった」、と見ている。それでも、今回の風刺画は表現の自由の範囲内であり、ブルートゲン氏は掲載支持の立場をとるという。「神を笑ってもいいと思う」。

 宗教とデンマーク国民との関わりだが、約九十%はルーテル派教会に属する信者となっている。定期的に教会のミサに出席する人は、信者の中の一%から三%と言われ、この数字は欧州の中でも最低の部類に入る。〇三年には、コペンハーゲンの北にある町の牧師が「神はいない、永遠に続く人生はない、キリストの復活はない」と発言し、物議をかもした。

 英週刊誌「エコノミスト」(一月七日号)は、「予言的侮辱」と題された記事の中で、「デンマーク人の多くが表現の自由を支持するが、政教分離の社会であるがゆえに、一部の人々の宗教に関する敏感さに対しては盲目になっているのかもしれない」、とする分析をしている。

―「挑発」か否か?

 ユランズ・ポステンの十二枚の風刺画を、デンマークの他の新聞は、ニュース報道の中で紹介する場合を除いては転載・掲載をしなかった。

 掲載当初国内でそれほど大きなニュースにはならず、一部のイスラム指導者が抗議を表明しただけでは、他紙が転載する理由はなかった。風刺画自体の質がそれほど高いものではなかった、という理由もある。

 ポリチケンのトゥーア・サイデンファーデン編集長は掲載の趣旨に同意せず、転載をしないことにした。「デンマークに住むイスラム教徒たちは社会の少数グループになる。この中でもさらに少数の、強い信仰心を持ったグループを故意に挑発する目的があった」と、瞬時に感じたと言う。「ユランズ・ポステンは、『イスラム教徒たちは近代的・民主的社会の中で、嘲笑されることを受け入れるべきだ』、と主張する。私は同意しない。『表現の自由』をこのような形で使うことに、どんな肯定的な意義も見いだせない」。

 ユランズ・ポステンのユステ編集長は、ポリチケン紙の「挑発を意図していた」とする主張を強く否定してきた。自社ウエブサイト上の説明の中で、風刺画企画を認めたのは国内のイスラム教を巡る報道に関して風刺画家が自己規制をしているかどうかを調べる、メディアの自己検証が目的であって、「ジャーナリスティックな意義がある問いかけだ」と判断したという。

 「もし風刺画が、例えばムハンマドがコーランに放尿をしているなどの描写であれば、掲載しなかった。これまでにもキリストを扱った風刺画で下品あるいは残酷すぎる作品は掲載を取りやめている」。

 氏は、ユランズ・ポステンが表現の自由の下で何でも表現できるとも考えてない、という。「社内の倫理基準では、少数民族などに関して配慮をした報道をすることになっている。しかし、今回の風刺画を見て、いまだに、何故これほどシンプルで、当たり前で、無害の絵柄なのに、あれほどのドラマチックな反応があったのか、自問している」。

ー未解決の問題

 表現の自由に関する国際的議論の発火点となったデンマークだが、風刺画掲載からほぼ七ヶ月経ち、大手新聞は連日組んでいた風刺画特集を紙面からはずし、一段落というところだ。

 移民融合コンサルタントのファーミー・アルマジド氏は「これがムスリムと非ムスリム市民の対話のきっかけになってほしい」と望むが、果たして対話は落ち着いた環境で進むだろうか?

 極右のデンマーク国民党は風刺画事件を通して、さらに支持率を伸ばした、と言われている。移民、外国人、イスラム教徒に対する否定的見方や偏見を増幅させる動きがここ数年強まっているデンマークで、ムスリム市民が好意的イメージを持たれるようになるには、かなりのてこ入れが必要だ。

 風刺画事件をきっかけに、イスラム教徒で社会自由党の国会議員ナッサー・カーダー氏が中心となって、市民団体「民主ムスリム・ネットワーク」が結成された。二月の結成から現在までにムスリム及び非ムスリムの一万人を超える国民が名前を登録した。宗教的価値よりも、民主主義、法のルールを最優先する、という「十戒」を持つ。

 この団体が将来的にデンマークのムスリムの新たな声として定着するのかどうかは予測がつかないが、多文化主義を奨励し、移民・難民の人権擁護を推し進める強い政治的勢力が不在の現在、デンマークの右化現象は止まりそうにない。新たな「十二枚の風刺画」事件が近い将来起きても不思議はない状態だ。
ーーー

 


 
by polimediauk | 2006-05-15 07:48 | 欧州表現の自由
 
 7月7日のロンドン・テロの報告書(情報機関がちゃんとチェックしていたのかどうか、政府の対応は?その日何が起きたのか、背景は?)が、2つ、昨日発表された。

 テレビで会見の様子やコメントなどをずっと追っていたが、もうそろそろ10ヶ月も前のことになる。それでも、爆破が起きた駅の前やバス停の近くからリポーターが様子を伝える報道を見ていると、画面から目が離せなかった。大きな地響きのようなもの、緊張感が伝わってきた。

 自分はその日は自宅にいたので、テロ現場からは電車でも30-40分はかかるところだったが、それでも、衝撃があった。すぐに状況をブログに書こうと思ったが、どきどきして書くことができなかった。昨日も、そのときの衝撃がよみがえったように感じた。

 テロの現場にいなくてもこれだけ衝撃を受けたり、あとで思い出したりするのだから、家族・遺族及び、命をとりとめたもののテロに出くわした人々の心情はどうだっただろう。思い出すだけでもいやだろうし、報告書によって思い出さざるを得なかったことに、怒りを感じている人もいるだろう。怖い目にあうと、体(心)が覚えている、ということがある。後で怖い感情がよみがえることもあるだろうと思う。

 テロ後、公共交通機関に一切乗らなくなった人もいると聞く。これを知ったとき、「大げさだなあ」と少し思ったが、今は、それがよく分かるような気がする。危険を避けるという意味でこうしている人もいるだろうけど、心理的にできなくなった人もいる。

 心の傷は表には見えないから、本人でさえも気づかないこともあるだろうけれど、直るには時間がかかる。10ヶ月はまだまだ短い時間なのかもしれない。

 そして、52人が(プラス実行犯4人)が亡くなったけれど、例えばイラクでは自爆テロなどで毎日同様の事件が起きている。これもまた、イラク人の心(+体)にとって、大きな衝撃になっているに違いない。

 何故ロンドン・テロが起きたのか?実行犯のプロフィールを検証したものの、最後の最後は「分からない」ようだ。

 4人が何故テロを起こしたのかに関して、きちっとした答えがでていない点に、いろいろな人がいらついている。今後、またテロが起きるのを防ぐためにも、解明の必要性があるのは分かる。

 しかし、人の心の中はなかなか分からない部分もあるかと思う。例え家族と言えど。

 外に出た帰りに、駅のプラットフォームで電車を待っていたら、「不審なものが置かれていたら、すぐ通報してください」というアナウンスメントがしつこく何度も繰り返されていた。遠くでサイレンもなっていた。何となく、物騒な感じ。報告書が出たのとは関係ないとは思うが。
by polimediauk | 2006-05-12 22:18 | 英国事情

英地方選とブレア


大きな流れが始まったのか?

 イングランドの地方選が終わり、政権党の労働党があまりにも負けたので(300議席ほどを失い、得票率でも、保守党40%、自由民主党27%という野党の数字に比べて、26%)、何故だろう?と思い続けて、今朝の新聞各紙をめくっていたら、いくつかおもしろい指摘に出くわした。

 まず、外相(だった、というべきか)のストロー氏が、下院院内総務という職についた。これは、「降格」のようだ。2003年のイラク戦争の前後からずっと外相で、そつなく仕事をこなしてきたようにはた目からは見えたのだが。タイムズ紙などによると、もともとストロー氏は下院院内総務の職をやってみたい、と希望していたそうだが、「こんなに早くこの職につくとは思っていなかっただろう」と見られている。

 ストロー氏が何故降格となったのか?理由は一様ではない。まず、次期首相の最有力候補であるブラウン蔵相にやや近づきすぎていた、という点(ブラウン氏とブレア氏は長年のライバル同士)や、米国務長官のライス氏が訪英したとき仲のいい場面が報道され、「自分より注目を浴びた」ストロー氏に対して、ブレア氏が反感を感じた、という点。

 こういった点はちょっとゴシップ的だが、それに加え、外交筋の情報として、イラン問題があった、とする報道があった。ストロー氏は、このところBBCのラジオ番組などで、(濃縮など核関連活動の全面停止を要求している)イランへの武力行使はない、と言い切っていたようだ。あくまでも外交ルート=話し合いを通じて、問題を解決していく、と。これが、ブレア氏側の「どんな手段も例外としない」とする姿勢とはあわなかった、というのだ。ストロー外相が、イラクへの武力行使を当初反対していたというのは既に周知だが、イランに対しても同様の姿勢を貫いている・いたようだ。

 いずれの理由にしろ、驚いた人事だった。ブラウン氏が首相になった際には、返り咲くだろうか?

 一方で、もう一つの焦点は、ブレア氏がいつ退陣するのか?だ。

 ファイナンシャル・タイムズのジャームズ・ブリッツ記者の記事がおもしろかった。

 ほぼ4年ごとに行われている英総選挙だが、前回が2005年だったので、次は2009年ごろになる。ブレア氏は、1年半ほど前に、第3期目(現在)は最後まで全うするが、第4期目はない、と宣言している。いつ退陣して、次をブラウン氏に譲るのか?とメディアに執拗に聞かれ、もし時期をはっきりさせれば、報道フィーバーがおさまる、と願っての発言だったと言われている。

 4期目の前に退陣する、ということは、実質的には2008年ごろに退陣か?とする説が有力となっていたが、5日の内閣大改造は、自分はいつまでも首相でい続けるという意思を示し、「残酷にもなれる」ことが分かった、とするブリッツ氏の記事には、「プレッシャー下の残酷さBrutality under pressure」という見出しがついている。

 ブリッツ氏にある閣僚が語ったところによると、首相になって10年目となる2007年5月、ブレア氏が退陣する可能性がある、という。多くの労働党員及び一般国民の間でもブレア氏に対する信頼感が薄らいでいるからだ。大量破壊兵器の存在を訴え(これが開戦理由ではなかったが)、米政府と共にイラクへの武力攻撃を開始したブレア氏だが、イラクの現在は泥沼化している。

 イラク戦争以来失われた信頼感を、ブレア氏は「とりもどしていない」と、労働党批判者がブリッツ氏に語っている。「ブレア氏が自分たちの声を代弁している、と思わせる力」は、なくなった、と。

 ここまではブレア氏の話なのだが、最後の部分が、私自身、やっぱりなあ、と思ってしまった。

 ブレア氏からブラウン氏の権力譲渡がいつ起きるかという問題よりも「はるかに重要なのは、イングランドの地方選挙で、10年間野党になっていた保守党が国民から高まる支持を受けている事実が明確になった点だ。大きな問題は、もはや、ブレア首相がいつ退陣するか、ではない。ブレア氏が率いる政党に対する、英国民のロマンスが終わりに近づいているのか、どうかだ」。

 労働党から保守党への政権交代を促す大きな流れが出てきた、と言っていいのだろうか?


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 (追記)

 夕方ラジオを聞いていたら、タイムズの外交記者マドックさん(という名前だったと思う。後でもし違っていたら訂正します・外交問題専門記者)などがコメンテーターとして出ており、ぼんやり聞いていたら、え?!と思ったことがあった。

 それはイランのことだが、外交・話し合い路線で事態を解決しようとしていたストロー氏が外相のポストからはずれたので、これが、イラン側から見れば、英政府側の「強攻策をこれからとるぞ」、という風に取られている可能性が大きい、というもの。そして、ストロー氏の話し合い路線が少しでも意味を持っていたのは、現在のイラン政権の前の政権の時までだという。

 今度の外相ベケット氏は女性。イスラム国イランからすると、「女性の外相」であることで、何らかの意味があるのかどうか?と聞かれたマドックさんは、「ない」と即座に否定。(やっぱりな、そうだよな、と納得。)しかし、ベケット氏自身がどのような外交手腕を発揮し、どのような方針でやっていくのか、「全く分からない」ということで、そういう意味での不安感、警戒感はあるかも、という。

 イラン問題でストロー氏を外相のポストからはずした・・・という説にこれでもっと信憑性が出てきたような気がするが・・・。



 
by polimediauk | 2006-05-07 00:26 | 政治とメディア

英内閣改造

地方選があって、政権党の労働党が大敗し、大幅な内閣改造があった。

クラーク内相は、やはり解任となった。

労働党は300議席ほどを失い、逆に保守党はほぼ同じ数の議席を増やした。得票率で言うと、全体の40%が保守党だ。

これほど地方議会(イングランド)で保守党が支持ざれているとは、今まで知らなかった。

しかし、労働党が300失い、保守党が300得る、というのは、どうしても何か大きな流れが起きている、と見るしかない。それにしても、大きな流れの底にあるものは、何なのか?

いろいろな解説記事をネットで追っていたが、まだぴんときていない。反移民の極右BNPも議席をしっかり得たようだ。

明日の新聞で、鋭い分析が読めることを楽しみにしているところだ。
by polimediauk | 2006-05-06 07:45 | 政治とメディア

 イングランドの統一地方選挙の投票が、4日行われた。同日夜、開票が始まり、結果は5日中には分かる。

 夜のニュース番組「ニューズナイト」を見ていたら、政治記者のマーサ・カーニー氏が、労働党が惨敗すれば、「チャールズ・クラーク内務大臣の辞任はほぼ明らか」と、「その筋」の話として伝えていた。

 ブレア政権は、このところスキャンダルが相次いでいる。副首相のジョン・プレスコット氏の不倫が明らかになり(秘書の一人とで、しかも、ドアを開けたままで、オフィスの部屋でことを行っていたと言う・・報道によれば、だが)、クラーク内相は、外国人犯罪者を本国へ強制送還していなかった件で、非難が高まっている。

 「外国人問題」は、時々思い出したように、英国で話題になる。難民申請者の数が1990年代後半ごろから急激に増え(主にイラクから)、これを何とかすることが、ブレア政権の課題となった。欧州連合が東欧諸国からの新メンバーを入れて大きくなった際にも、「東欧から病気持ちの移民が押しかける!」といった見出しの記事がタブロイドを中心に出た。

 「外国人犯罪者」の問題は、英国の外からやってきて、難民としてあるいは長期滞在の許可をもらって住んでいた人物が、犯罪に手を染め、つかまって刑期を終えた場合でも、再度あるいは複数回犯罪に走ったケースがあったため、外国人のために国内の治安を犠牲にしている、という構図ができてしまい、国民の懸念が高まった。

 懸念する気持ちは分かるのだが、強制送還をしようにも、出身国で戦争・紛争が起きていたり、本人が殺される可能性がある場合には、人道的理由から、帰すわけにはいかなくなる。また、刑期を終えたということは、おかした罪をつぐなった、と考えた場合、強制送還では、さらに罰を与えることにもなり、おかしいのではないか?という人権法律家らの声もある。

 私はどちらかというと、後者を支持している。

 それにしても、どうも問題が必要以上に大きく報道され・騒がれているような気がしてならない。連日新聞でもクラーク氏への批判が大きく報道されているので、辞めざるを得ないかもしれない。

 日本でもよくあるが、メディアが必要以上にことを大きく扱ってしまうので、報道そのものが一人歩きしてしまう。

 外国人犯罪者の強制送還が自動的に行われていない事実は、今に始まった問題ではなく、個々のケースを見て判断し、人道的見地からあえて送還しない、という良い面もあるのだが。もっと考えるべき重要な問題が他にあるような気がしてならない。・・・といっても、一旦燃え上がった炎は、辞任するまで消えない「かも」しれない。


(追記:昨日、イングランドとウエールズ、と書きましたが、イングランドのみでした!!!)
by polimediauk | 2006-05-05 08:15 | 政治とメディア

BBC 改革の行方


 アルジャジーラ英語放送社長ナイジェル・パーソンズ氏がよく言うフレーズで、「座る場所が変わると物事が違って見える」というのがある。

 旅をすれば、確かにそういうことがあって、多くの人が体験をしていることだろう。

 英国に住んで、日本にいるときとは違って見えることの1つに、BBCの見方がある。「これだけ巨大なメディアで、一体どうするのだろう?」、「受信料を無駄に使っていないだろうか?」。

 来年から、BBCは新たな活動方針の下で(10年ごとに設定される)やっていくことになる。政府最終案が三月に出た。今後の私なりの分析を、「新聞通信調査会報」5月号に書いた。(他の執筆者の方のメディア、国際、国内事情に関する解説も、ご興味のある方はごらん頂きたい。月の中旬から末頃に、その月の会報がサイト上からダウンロードできる。http://www.chosakai.gr.jp/index2.html)

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BBC、改革の行方
 政府案は首位維持を支援

 BBC(英国放送教会)の二〇〇七年から十年間の経営方針、活動内容を規定する「設立許可状」の政府最終案(「放送白書」)が、三月中旬発表された。

 設立許可状は十年ごとに更新されるが、現行の許可状は〇六年末で期限切れとなるため、約三年をかけ、視聴者、有識者らとの意見交換、議論の結果まとめあげられたのが今回の最終案だ。これをたたき台として議会で討論を重ね、年内に最終決定となる。

 今回の許可状の注目点は、デジタル化、多チャンネル化が進む中で、国内最大の公共放送であるBBCが果たす役割や提供するサービスはどうあるべきか、テレビ受信機を持つ家庭から徴収する受信料が全額BBCにつぎ込まれる制度が果たして今後十年間も最善及び公正な仕組みと言えるかどうか、などだった。〇三年の政府とBBC経営陣との対立をきっかけに起きた、経営の透明度を高める声に応えるための仕組みづくりも目玉の一つだった。

 現在進行中のNHK(日本放送協会)の改革論議でも公共放送としてのNHKの活動内容、経営の独立性、資金調達方法の是非などが論点になっており、参考になる部分もあろう。

 新規設立許可状策定に向けての最終案「全ての人に対する公共サービスーデジタル時代のBBC」は全体的にBBC寄り、あるいは政府とBBCとの共同作業とも言える内容となっており、かつての政府とBBC経営陣との対立が既に全く過去のものとなったかのような印象を与える。

 受信料制度は廃止される、あるいは他の公共放送業者とシェアするなどの可能性が一時話題に上ったが、結局は、今後十年は維持される見込みとなった。

 経営の独立性、透明性を高めるため、これまで経営監督と執行を兼任していた経営委員会は廃止される。代わりに有識者らによる「トラスト」を創設する。トラストは監督を担当し、組織運営は「執行委員会」が行う。

 また、最終案は十二年に予定されている完全デジタル化への移行の過程でBBCが主導的役割を果たすことを提唱している。
個々のポイントを見てゆきたい。

―六つの目的

 公共放送は何を目的とするべきか?この議論は約八十年前のBBCの創立当時から続いている。初代社長のリース卿はBBCの目的を「娯楽、教育、情報を提供すること」、とした。
これに肉付けをした形で、最終案はBBCの存在目的として以下の六点を挙げた。(一)市民権と市民社会の維持、(二)教育・学習の奨励、(三)映画を含め、創造性と文化的優秀性を刺激、(四)英国の国、地域、コミュニティーを反映、(五)世界を英国に、英国を世界に伝える、(六)デジタル国家英国を築き上げるための「信頼に足るガイド」となる。

 インディペンデント紙は三月十五日付け社説の中で「市民権と市民社会の維持」とする部分に言及し、政府権力から独立しているべき存在のメディアが「国策の一環として使われている」、として警告を発した。BBCが受信料を払う視聴者のために活動するのは当然としても、存在目的の一つが「市民権と市民社会の維持」で、「愛国心がBBCの価値を測るために使われる」将来に危機感を表明した。

 この項に限らず、政府がBBCを国策を実行する上で一定の役割を果たして欲しいと考えてい ることを示す箇所が、最終案では時折見受けられる。デジタル国家としての発展の箇所もこれに含まれる。この点は後述したい。

―受信料制度は継続

 〇三年、BBCは大きな危機に見舞われた。BBCラジオの記者が「政府は、イラク戦争開戦の理由付けとして用意した文書の中でイラクの脅威を誇張した」と報道し、これを否定する政府との間で大きな対立が生まれた。〇四年、独立調査委員会が「報道には信憑性なし」とする報告書を出し、BBCの社長と経営委員会の委員長は引責辞任をした。

 一種のBBCバッシングが続く中、受信料廃止説や他の公共放送業者との間で受信料を共有する案が支持を集めた。結局、政府最終案は現行の受信料制度を今後十年間維持する、とした。

 BBCの現行の受信料収入は年間約二十九億ポンド(約六千二十七億円)で、一戸あたり年間百三十一・五十ポンド(約二万七千円、カラーテレビの場合)だ。BBCは〇七年から毎年、物価上昇率に二・三%上乗せした値上げを求めており、この場合、十四年では百八十七ポンド(約三万九千円)となる。受信料の値上げ率を決定するのは時の政府だが、夏までに最終決定の予定だ。

 過去の例では、BBCの値上げ案がそのまま承認されることが多く、今後十年間、三十億ポンドを超える金額が毎年、BBCに安定した収入として入る見込みに、民間放送業者は大きく反発している。

 商業放送ITVのトップ、チャールズ・アレン氏は、「巨大な資金に支えられたBBC」のおかげで、民間の放送業者が「放送を維持し、番組に投資し、コンテンツ・サービスを開発し、新たな収入の道を生み出すこと」が不可能になると、ガーディアン紙の三月十九日付けの紙面で抗議した。

 最終案は、次の次の十年の設立許可状の期間となる十七年以降も現行のような受信料制度を継続するかに関し、アナログ放送が完全停止となる十二年頃から検討を始める、としている。定期契約制、あるいは他の公共放送業者にも受信料を分割配分するなどの可能性もある、とした。

 メディア環境が今後数年で大きく変化する点を無視できなかったと見ていいが、どのように検討していくのかの道筋は明らかにされていない。

 一方、BBCの受信料は支払い率が九十五%近くに上るが、支払いをしないと、最大で千ポンド(約二十万円)の罰金が課せられる。〇四年には、罰金未払い者四十六人が投獄された。最終案は、こうした措置が厳しすぎたのではないかという反省から、より良い徴収方法を実行する、としている。

 支払いを促すために、銀行口座からの振込み(現在五十九%がこの方法を利用)、ネットでの支払い(二・四%)、携帯電話にメッセージを流す(昨年十一月時点で二十五万人が登録)などを増やす。

 日本ではNHKが未払いの視聴者に対する懲罰を考慮中ということだが、BBCの場合は、既に投獄という厳しい手段も行った後で、アクセスしやすい支払方法を提供する方向に転換しつつある。

―「トラスト」の設置

 BBCは創設以来、経営の監督と執行を組織内で行う形を取ってきたが、〇三年、政府との対立問題を通して、経営委員会の監督機能が十分に働いていなかったことが如実になった。
最終案は、BBCの〇四年の提案を踏襲し、経営委員会を廃止する、とした。代わりに、外部の有識者で作る「トラスト」が監督し、BBCの運営は「執行委員会」が担当する。

 しかし、トラストと執行委員会の仕組みは、現行制度と非常に良く似ている。執行委員会はBBC社長マーク・トンプソン氏が委員長となり、トラストは現行の経営委員会委員長マイケル・グレード氏が率いるなど、顔ぶれも殆ど変わらない。

 さらに詳細を見ると、新制度に対する疑問が湧く。まずBBCが新規サービスを開始する場合、それが十分に公的な価値があるかどうかをトラストが吟味する、としている。これまで十分な吟味なしに新規サービスを展開していると、BBC外部から批判があったことを受けたものだ。また、通信規制団体のオフコムが、該当サービスが民間放送業者に不当な損害を与えないかどうかを、検証することになっている。完全に外部の団体が、BBCのサービス展開にこのような形で介入するのは初めてだ。

 こうした点は透明性及び監督機能が高まる動きと言えるが、オフコムの結論の後、最終的にそのサービスを開始するかどうかは、トラストが決めることになっている。

 結局最後はBBC内部で物事が決定されてしまうという印象は否めず、今後に課題を残した。

―デジタル国家

 現在、英国の約四百万戸の家庭がブロードバンドに接続しており、オフコムによると、十年後には三倍から五倍に増加する。

 多チャンネルの家庭が増加するにつれて、BBCの番組視聴率の割合は年々減少しているが、最終案は、「英国が放送業の世界的リーダーであり続けるために」、BBCがデジタル化で主導的役割を果たすことを期待する、と述べている。BBCが国策の一端を担うことを明言した、と言えるだろう。

 デジタル化の恩恵は他のチャンネルにも及ぶであろうし、デジタル国家の発展に、BBCだけを特別扱いする必要が、果たしてあるのだろうか。

 〇一年までの五年間、BBC経営委員会の委員長だったクリストファー・ブランド氏は、三月下旬、市民団体「視聴者の声」の会合の中で、受信料をデジタル化への移行に使うべきではないと述べている。「政府が政策を実行するためにBBCと受信料を使っているだけ」に過ぎず、「BBCは政府が自分でやるべきことを実行するために受信料を使ってはいけない」、と警告した。

―止まるところがない活動範囲

 BBCは国民の間で圧倒的な支持があり、デジタル化が進んでも強い愛着は簡単には消えないと思われる。

 しかし、その巨大さに危機感を抱くメディアは少なくない。最終案に対し、最も手厳しい見方をしていたのが、タイムズ紙だった。三月十五日付けの社説は、「オンライン時代にBBCがどこまでその帝国を広げるか、限度は無い」として、地方で新規サービス始めたい、あるいは国際情報の提供者になりたいと思っても、BBCにつぶされる可能性があることを指摘。最終案がするべきだったのは、「BBCの活動範囲の境界線を定めることだった。その代わりに、境界を大きく広げ、英国を失望させた」、として終わっている。

 かなり悲観的な見方だが、「ここまで、受信料を使ってBBCがやるべきなのか?」という批判には一理あることも事実だ。

 例えば、最終案は、「非常に競争率の高い市場」であるスポーツ・イベントの独占放映権獲得にBBCが参画することを奨励しているが、BBC以外のチャンネルがスポーツ・イベントを放映しても、視聴者側からするとそれほど大きく失うものがあるだろうか?

 また、英国のネット利用者の四十六%がアクセスするほどの大人気のBBCのオンラインサイトでは、「民間放送業者が既に提供しているサービスをBBCは提供するべきではない」という、政府が依頼した調査委員会の提言によって、スポーツ、ゲーム、連続ドラマに関するサイト・サービスの一部を廃止しているが、提言前にはこうしたサービスが行われていたことに驚かざるを得ない。

―再編?

 BBCが継続した受信料収入の独占にこだわり、果てなくサービス内容の拡大を目指してきた背景には、収入面では既にBBCを抜いている衛星放送BSkyBの存在がある、と見てよいだろう。

 スカイテレビのチャンネルを持つBSkyBは英国内の有料テレビ放送市場の三分の二を占め、投資銀行モーガンスタンレー社などの予測によれば、〇七年までに年間収入が四十五億ポンド(約九千二百七十億円)にまで増加すると見られている。一方、受信料制度ではなく定期契約制にした場合、BBCの〇四年の調査によると、現在の受信料支払い者の三分の一がBBCとは契約しないと見込まれるため、BBCにとっては収入がかなり減少する。

 〇四年ー〇五年時点で、テレビ受信機のある全戸の八十六・六%がBBCテレビを、三十・七%がスカイテレビを視聴しており、未だ大きな差があるが、多チャンネルの家庭だけを対象にするとBBCが八十四・五%、スカイテレビが四十八・四%と、差が縮む。

 政府最終案は、巨大放送業者として拡大し続けるBBCの将来像を描いた。しかし、メディア環境の変化や激化する他放送業者との競争で、拡大計画に変更が求められる可能性は高い。英放送業界の再編が大きく進む十年間になりそうだ。
by polimediauk | 2006-05-03 16:33 | 放送業界