小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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 30日、ロンドンで発売予定の新しい無料新聞2紙のうち、1つが発行開始となった。

 昼頃、ピカデリーサーカス近辺でイブニング・スタンダード紙を販売する新聞スタンドにいる人(イブニングスタンダード紙と同じ新聞社が発行するので)に聞くと、「明日から配るから」と言われた。

 そんなはずはないのになあ、と思っていると、夕方5時ごろ、知人からの電話で、「今、ここで配ってるよ!」。あわてて走ってゆき、通りで配っている人から数部をもらった。

 頁をめくると、朝刊の無料紙メトロ(これも同じ新聞社が発行)に比べると、やや軽い記事、ゴシップ記事が多いように思った。20-30歳の若者層がターゲットなのか?既に、メトロでは、「今日から、ロンドン・ライトが始まる!」という広告が載っていた。

 少ししてから、別のイブニング・スタンダード紙のスタンドに行ってみた。ちょうと仕事が終わって帰る人たちが、地下鉄の駅に入ってゆく。ロンドン・ライトを抱えた人もいれば、イブニング・スタンダードを抱えている人もいた。

 スタンダードを一部買った。通常40ペンスなので、50ペンス硬貨を出して、おつりを待っていると、「今日から、50ペンスなんだよ」と言われてしまう。そうだったな、と思った。ロンドンライト発行と同時に、スタンダードは10ペンス値上げになったのだ。

 「ロンドンライトが出ているけど、今日の売れ行きはどう?」と聞くと、販売人の男性は「いつもと同じにちゃんと売れてるよ」と答えた。

 「スタンダード、これからも続くと思う?ずっと売り上げが落ちているんでしょう?」と聞くと、「うーん・・・。もう、これ以上、聞くなよ。俺だってわからないよ」と苦笑い。

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 しばらく地下鉄に乗って、また他のスタンダード紙の販売スタンドを見ると、「一部50ペンス」と書いた手書きのメモを貼っているところが多かったようだった。

 それにしても、英メディアは、「ロンドンの無料紙戦争」と言ってはやしたてたけれど、結局、無料紙に乗っている広告のパイの奪い合いだけじゃないのか?これにもう1つ加わるとして、読者は広告の洪水にさらされるだけじゃないのか?と思ったりした。誰も読者のことを考えて、夕刊紙市場を質の高いものにしよう・・なんて、考えてはいないのだろうなあ、と。

 ロンドン・ライトに比べたら、有料紙スタンダードは、やはりというか、読み応えがあるな、と改めて感じたが。

 もう1つのロンドンペーパーという無料紙は9月4日発売予定だ。

 (追記:上の項目とは全く関係ないが、英国人ーーもう米国籍になったのかもしれないがーー俳優のゲイリーオールドマンが、ノキアのコマーシャルに出ている。ガーディアンのサイトからビデオでも見れるようになっている。http://media.guardian.co.uk/advertising/story/0,,1861398,00.html
 今は米国に住んでいるようだが、すっかり米語で話しているのを見て、驚いてしまう。英国は住む環境、社会的バックグランドで英語のアクセントが違う。自分のもとのアクセントは出したくないのだろうか?いろいろな役柄を演じる俳優の場合、自分が誰なのか、どんなアクセントが自分なのか、あいまいになるのだろうか?故ピーター・セラーズはそういっていたようだ。自分が誰か分からない、と。閑話休題だが。)
by polimediauk | 2006-08-31 15:46 | 新聞業界
 今年の8・10英国旅客機テロ未遂事件の後、英国では、イスラム教徒(あるいはイスラム教徒風に見える)国民に対する、実態のありそうでなさそうな恐れの感情が非イスラム系国民の間で強まっている。

 昨年の7・7ロンドンテロの後も、地下鉄の中でリュックサックを持ったアジア家風貌の男性がいて、電車が急停車したりなどすると、怖い、という思いを持つ人はいたと思うが、今回は、一層それが強くなっている。

 その直接のきっかけは、(前提として未遂計画があったのだとしても)「想像できないほどの規模の大量殺戮」が起きる可能性があった、と繰り返した政府筋、およびこれを大々的に報道したメディア報道にあるように思う。

 一体、「想像できないほどの規模」とは、どんなものか?こんなことを言われたら、誰だって心配になるし、恐怖感が募る。

 これは英国ばかりではなく、オランダでも似た現象が起きているようだ。

 アムステルダム発の飛行機の中に「イスラム教徒風で」「なにやら不審な行動をしている」とされたインド人の乗客数人がいた、という。他の乗客が心配になり、途中で飛行機はアムステルダムに戻り、この数人が逮捕される、という騒ぎがあった。テロとは何の関係もない、ということで、間もなく釈放されたという。

 欧州に住み、イスラム過激主義に染まった若者たちが起こすテロをどうやって防ぐのか?どの国も悩んでいる。

 6月、オランダの移民研究所の研究者たちが発表した報告書によると、イスラム教、あるいはイスラム教徒に対する、政治家や知識人の否定的な発言を減らすことが第一歩だそうだ。
http://www.radionetherlands.nl/currentaffairs/islamned060616

 これはオランダの特殊事情もあるかもしれない。2002年に動物愛護家に殺害された、人気があった政治家ピム・フォルトイン氏は、「イスラム教は後進的な宗教だ」と言ったりなどしていた。2004年に殺害されたオランダの映画監督テオ・ファン‘ゴッホ氏は、自分の犬に「アラー」という名前をつけていた。著名人、政治家などのイスラム教、イスラム教徒に対するきつい表現がメディアをにぎわしていたようだ。

 もちろん、全ての国民がこういう物言いに賛同するのではないのだが、言葉は頭の中にインプットされて、残ることも多い。

 英国では新規のEU加盟国(特にポーランド)からの移民が思ったよりもかなり多かったので、「英国は移民だらけになる」「大変だ!」といった議論が最近表に出ている。

 この要素と、テロ未遂事件の影響から、「多文化主義は間違っていたのではないか」「もっと移民(移民2世も含め)は社会の中に融合・融和するべきだ」という意見が強くなっている。

 しかし、特に過去60年ほど、元植民地だった国からの移民がすっかり根付いている英国には、オランダのフォルトイン氏やファン・ゴッホ氏のような人はいない。BNPという極右の政党があるが、票を伸ばしているとはいえ、まだまだ大きな政治的勢力にはなっていない。

 オランダとの比較で考えると、英国は融合がかなり進んでいる国と思うのだが。英新聞だけを読んでいると、「危機」状態にあるかのような錯覚に陥ってしまう。
by polimediauk | 2006-08-29 18:49 | 欧州表現の自由
 イスラエルとレバノンの紛争の報道で、ある写真がきっかけとなって、ロイター通信があるカメラマンの写真を使わないことにした、という。
(ガーディアン8月13日号。現在、様々なコメントがついている。)
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/story/0,,1843607,00.html

 ちょっと見にくいかもしれないが、下の写真(新聞紙面から撮ったもの)を見ていただきい。(この写真そのものはAPが出所、とあるが。)

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 ロイター通信社に写真を出していたアドナン・ハッジAdnan Hajj氏がベイルート市内での爆撃の様子を写真に撮り(右がオリジナル)、左のように、建物から出る煙をやや強調したのである。

 ガーディアンの記事によると、「画像から埃をとるために」ハッジ氏が作業を進めたのだという。

 私は、二つ並べたものを見たとき、明らかに違いが分かるので、これはひどい、何と言うことをしたのだろう、と思ったのだが、考えてみると、一体、報道写真の場合、どこまで修正が許されるだろうか?

 デジタル作業が進展し、特別な技術を必要としなくても、簡単に撮った写真にかなりの手を加えることができるようになった。

 実際、自分が撮った写真を新聞用に使う場合、暗く撮れた写真や、ややぼやけた写真などは、フィルムに後ろから光を与える方法でやや明るくしたり、あるいは鮮明さを増すために、よりシャープにする、という作業はよくしていた。シロをクロにする、というところまではいかないが、見やすくする、より鮮明にする、という作業を全くしていない写真をそのまま使う、というケースは、実際には多くないかもしれない。

 さらに、イラク戦争の場合だが(前に書いたような気がするが)、ある爆撃後の悲惨な写真で、同じ写真をガーディアンと他の新聞が使ったときに、ある新聞はその場面の中にあった、転がっている子供の死体の色を、カラーでなく、つまり血液の赤が見えないようにグレーにしたり、あるいはその子供の死体そのものを、消してしまっていた。今から考えると、そこにある死体の1つをまるっきり消してしまう、というのも随分思い切った行為だ、という感じがする。

 もし自分だったら、その子供の死体を入れたくない場合、消す技術を持っていないという要素もあるが、まずはフレームの場所を変えるかもしれない。写真は目の前の光景の一部を切り取ったものだが、どこからどこまでを入れるかは撮った人あるいはその写真を使う編集者が決めることができる。入れたくないものが映っているとすれば、通常は、そのものが入らないようなフレームを考えるだろう。

 時をさかのぼると、先のガーディアンの記事に載っていたのだが、写真の構成そのものを作為的にやる、という行為があって、これをどうするか、という問題もある。

 それは南北戦争時の写真である。これも非常に見難いとは思うが、ご参考に。1863年のゲティスバーグの闘いでの様子で、アレクサンダー・ガードナーという人が撮ったものだ。(非常に見にくいのをご勘弁ください。)
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 この中で、目を凝らしてみると、左に鉄砲が立てかけられているのが見えるが、これはいかにも兵士の一人の鉄砲のように見えるだろうが、実は写真を撮った人物が持っていた鉄砲を後で置いたものだそうである。また、横たわっている兵士の頭の下には、故意にリュックサックが置かれており、これは、兵士の顔が見えやすくするための作業だったという。

 写真撮影の専門家からすると当たり前のことで悩んでいるのかもしれないが、写真=現実そのもの、という過程が崩れた現在、様々なガイドラインも変わってくるのだろうか、と考えたりする。

 (追記:ヒズボラのトップ、ナスララ氏が、レバノンのテレビのインタビューに応じ、このような戦争状態がおき、犠牲者が多数出ることが分かっていたら、イスラエル人兵士を人質にとらなかった。もし1%でもそう思ったら、そうしなかった、と述べている。BBCのこの記事のタイトルは、「ナスララ、戦争の規模を残念に思う」だ。ものすごくメディア戦略にたけているな、と思わざるを得ない。国連のアナン氏がベイルートを訪れる前日のインタビュー。タイミングが絶妙だ。次の段階の戦争ーー言葉・メディアーーが始まっているのだろう。)
http://news.bbc.co.uk/1/hi/world/middle_east/5291420.stm
by polimediauk | 2006-08-27 23:52 | 新聞業界
 BBCのニュースサイトが今週から一新した。

 様々な手段でニュースを視聴できることを全面に押し出している。
http://news.bbc.co.uk/
http://news.bbc.co.uk/1/hi/help/products_and_services/default.stm

 メインの頁の真ん中辺りに赤いバナーがあって、今どんなビデオが見られるのか、人気のあるビデオは何か、また、上の方には、今すぐPCで視聴できるのはどんな番組か、が分かるようになっている。下を見ると、現在最も読まれた記事は何か、この1分間にどれぐらいのアクセスがあったのか(現在午後の11時過ぎだが、1万強のアクセス数だった)など。グーグル・ニュースや様々なビデオ映像が見られるユーチューブを意識しているのだろうか?

 あるいは、米テレビ局のウエブサイトに負けたくない、世界をリードしたい、という意思の表れなのか、決意宣言なのか?

 前からあったが、市民からビデオや静止画、情報などを募集するコーナーも見やすくなっている。
http://news.bbc.co.uk/1/hi/talking_point/4784595.stm

 CNNも市民からの映像などを取り込む方式を一歩進めている、というニュースが1週間ほど前にあった。http://www.cnn.com/exchange

 BBCのウエブのエディターのブログもある。http://www.bbc.co.uk/blogs/theeditors/index.html

 現時点で87のコメントがついていたが、一人は自分はビデオクリップを見ることができない状態にいるので、自分にとってはスペースの無駄遣い、という人や、大体良いが、自分でバナーの場所を変えたりしたい、という人、ものすごく細かく注文をつけている人もいる。実際にこうした意見をウエブ作成者側がとりいれるかどうかは疑問としても、一見、「みんなで作っているサイト」というイメージを与える。

 テレビ+ラジオ局のウエブだからこそ、使える音声や映像ソースがあるのでここまでできるのだろう。かつ、安定した受信料があるので。英語のウエブだ、という強みもあるだろう。世界の国々からユーザーを一挙に取り込むことができる。巨大メディアのサイト、という感じで、何となく、空恐ろしいような気持ちもややするのは、私だけだろうか?
by polimediauk | 2006-08-23 07:29 | 放送業界
世界中で、一体どれほどの既存の放送局が番組をオンラインでも見れるようにしているのだろう?一部がストリーミングで見れるようになっているのは、いろいろあるようなのだが。

 例えばBBCはウエブサイトを通して、多くのニュース番組やスポーツ番組などが同時と後から見られるようになっている。ラジオに関しては基本的に全てが同時と放送後の7日間、聞ける。テレビも同様になる動きもある。

 8月18日付の英各紙によると、米国の大手テレビ局としては初めての動きとして、CBSが、9月5日から、夜のニュース番組をネット上でも同時に見れるようにする、という。テレビのニュースを避ける傾向にある若者を捕まえるため、ということだ。

 この日は、米国のテレビネットワークでは初の女性ソロ・アンカー(一人でニュースのプリゼンター役となる)のデビューとなる日でもあるそうだ。(この点では米国は遅れているのだろうか?日本では既にあったと思うし、英国でも珍しくはない。)

 1980年代と比べると、大手米ネットワークはCNNやフォックスにパイを奪われ、視聴者が半減してしまったという。CBSがブロードバンド用ネットサイトを開設したのは昨年だ。

 一方、ABCやNBCも何とか若者の視聴者を増やそうとしており、アンカーたちによるブログやポッドキャスティングなどをウエブサイトに開設しているという。CNNはパイプラインというサイトを立ち上げ、ここを通じて視聴者が見たい番組のビデオ・ストリーミングで提供している。

 テレビ・ニュースの動きを追っているティンドール・レポート社のアンドリュー・ティンドール氏は(余談だが、昨年秋、オランダのメディア会議で氏に会った。どんな会社かサッパリ分からなかったが、やっとこれで意味が通じた)、「これから5年もすれば、CBSのニュースは、放送業の製品とは思われなくなるかもしれない。テレビ受信機も含めた様々な装置を通して視聴するビデオ製品となっているかもしれない」、と、ファイナンシャルタイムズ紙に語っている。

 CBSデジタルのラリー・クレーマー氏によると、今回の動きに踏み切ったのは、今年3月、毎年行われる大学のバスケットボールの選手権の様子をネット上で一部流したところ、大好評だったそうだ。「これからは、ニュースとスポーツ番組がウエブでの主眼になる」。
by polimediauk | 2006-08-20 05:05 | 放送業界
 昼時、ロンドンの中心部を歩いていると、夕刊紙イブニング・スタンダード(通常一部40ペンス・80円ほど)を売っている同じ人が路上に立って「スタンダード・ライト Standard Lite」という無料紙を配っている。

 電車の中で無料紙「メトロ」を拾えなかったとき、思わず手にとってしまう。特に無料であるため、何のプレッシャーもなく受け取れる。最新の情報が入っていて、10分から15分ほどで大体読めるので丁度良い。

 メトロがあまりにも成功し、イブニング・スタンダードの売れ行きが落ちるばかりなので、スタンダード・ライトという無料紙(現在約8万部発行)が出たわけだが(読者が後でイブニングを買ってくれることを期待して)、さらに新たな無料紙が出ることになった。

 まず、メディア王と言われる(簡単な言い方なのでつい使ってしまうが)ルパート・マードック氏が所有するニューズ・インターナショナル社が、9月18日から無料紙「ザロンドンペーパー thelondonpaper」を発行予定だ。

 さらに、これに対抗して、ブニング・スタンダード、スタンダード・ライト、及びメトロを発行するアソシエーテッド・ニュースペーパー社が、同じく9月から、「ロンドン・ライト London Lite」という無料紙を出す。これにあわせて、イブニングは紙面を刷新し、ライトの方はなくしてしまう、という。

 来月からは、ロンドンの新聞市場は随分混雑した様子を見せることになる。

 通常の有料新聞に加え、無料紙としては、朝のメトロ、昼過ぎからのCITY AM(ビジネス専門の無料紙)、ロンドンライト、ザロンドンペーパー、これに有料のイブニングスタンダードがからむことになるからだ。

 さらに、もっと無料紙が増える可能性もある。ロンドンの交通局や鉄道会社のネットワークレールは、それぞれ、午後に出す無料紙の許可を申請しているという。

 ロンドン・ライトは、月曜から金曜の昼間、イブニング・スタンダードの販売者が、道行く人に手渡す形をとる。発行部数は35万から40万を予定。

 17日付のガーディアンの記事によると、ロンドン・ライトの発行は、新聞広告が紙の新聞よりもオンラインサイトに移っている傾向があるので、十分に広告が取れないのではないか、また、アソシエーテッドニュースペーパー社がたくさんのタイトルを同時に出すためともぐい現象がおきる、とする悲観論と、それぞれ異なる読者層に向けて出すのであれば、成功するという楽観論がある。

 イブニング・スタンダードのウエブサイト(Thisislondonco.uk)は一月に130万人が訪れるという。ロンドン・ライトの発行とともに、大幅に変更される予定。

 新聞の発行部数を毎月発表しているABCによれば、イブニング・スタンダードの部数はかなり落ちている。7月は前年に比べ20%ほど落ち、30万部だった。損失は毎年約1000万ポンドといわれている。

 マードック氏のザロンドンペーパーの方だが、こちらも約40万部発行予定。

 ガーディアンの13日付の記事によると、既に700人のスタッフが雇用されているという。新聞は午後4時から7時ぐらいの間に配布される。48ページのダミー版を見た、メディア代理店キャラットのドミニク・ウイリアムズ氏によると、「娯楽や軽い記事が多く、現在の無料紙に比べてもっとシャープな感じ」だそうである。

 メディアコラムニストのロイ・グリーンスレード氏は、自分のブログの中で、イブニングスタンダードの発行元アソシエーテッド・ニュースペーパーが何を考えているか、を分析している。

 氏によれば、アソシエーテッドは、イブニングが最高に価値のある新聞だと考えており、将来的には、有料の全国紙タイムズやガーディアンなど、一部60ペンスから70ペンスを払ってでもイブニングを読みたいという読者はいるはずだ、と考えているという。

 たとえ値上げによって読者を10%失ってもいい、と。

 「朝はメトロ、午前中はロンドン・ライト、ウエブサイトは一日中、帰宅途中でイブニング」という構図を狙っているのではないか、としている。
by polimediauk | 2006-08-17 19:13 | 新聞業界
 昨日英テレビでも少しやっていたようなのだが、日本では報道されているだろうか?(もしされていたら繰り返しになって申し訳ないが。)

 米航空宇宙局(NASA)の広報官が14日語ったところによると、米宇宙飛行士ニール・アームストロング氏がいったOne small step for man, one giant step for mankindでも有名な、人類初の月面着陸の様子を伝えるオリジナルの録画テープが、今どこに行ったか分からなくなっているという。ロイター通信が伝えていた。ニュースそのものは新しくないのかもしれないが、広報官が話した、ということで新しいのだろう。

 アームストロング氏が歩いて見せたのは1969年7月20日。世界中で多くの人がテレビ画面上でこの光景を見たという。しかし、NASAによると、このときのオリジナルのテープが紛失している。このテープには、宇宙飛行士の体調やアポロ飛行船がどんな状態にあったのかを示すデータも入っているという。

 NASAは、テレビ放映したときのフィルムを所有しており、ウエブサイトにもこれを出しているという。しかし、オリジナルに比べると画質が悪いという。当時NASAの機材がテレビ用になっていなかったため、オリジナルの画像をモニターで見せ、これをテレビのカメラが放送用に撮影したものが放映されたという。

 オリジナルテープがないということもあって、英テレビのキャスターの一人が、「月面着陸そのものがうそだったという陰謀説がでたことがある」と話していた。

 一方、9月から、新たな欧州の国際ニュース専門のテレビ局EUX.TVというのができるそうである。www.eux.tv

 プレスリリースを見ると、無料で、欧州の政治及び他のニュースを放映する、ということだ。ブリュッセルや他の欧州都市から、新聞及び放送ジャーナリストたちがニュースを報道する。CNBCヨーロッパという、ビジネス専門テレビ局の欧州特派員だった、レイモンド・フレケン氏が日々のニュースを担当する。

 番組は、ウエブサイトを通じて無料で視聴できる、というから、始まったら、見てみることができる。ケーブルやデジタル放送など、ネットにつながっているテレビ受信機なら世界中のどこでも見れるそうだ。

 今後、「国際ニュース専門のテレビ局」となった場合、ある一定の地域でないと見れないとか、受信料を払わないとダメとか、ホテルでだけ見れる、とか、そいう条件を取っ払って見れるのがいい。

 EUX・TVはそうなるようなので、ちょっと期待している。

 (追記)

 NASAの日本語の記事を、16日付の日本のある新聞のウエブで発見。他紙にはもっと前にでていたかもしれないが。「15日、分かった」と書いてあった。NASAの広報が話したのは月曜日だから14日なるはず。また、その前に英国の新聞に出ていたから、13日ごろかあるいはその前に一部情報が出ていたと思う。それにしても、「15日、分かった」とは????その新聞の特派員が、他紙を見て、気づいて、出した、ということか???疑問が残る。
by polimediauk | 2006-08-15 17:29 | 欧州のメディア

人種の多様性


 13日のオブザーバー紙に、メディア関係でいろいろと興味深い記事が出ていたが、その1つに、BBCテレビの海外特派員に白人が多すぎるので何とかしないといけない、というものがあった。(BBC correspondents too abroad ‘too white’)

 ネタは新しくないのだが、常々私もそう感じていたので、ひき込まれて読んだ。

 この記事についている写真は、BBCの中東記者のジョン・シンプソン氏だ。

 BBCのテレビの特派員は世界中にいて、人によって違和感を感じない人(白人でも)いるのだが(この「白人」という言い方そのものが差別的かもしれないが、便宜的にお許し願いたい)、シンプソン氏の場合、私も、ふと、違和感を感じることがあった。

 彼は画面上で見ると、結構大柄の白髪の英国人、といった感じで、ほほやあごが、いかにも裕福な国から来たな、という感じがする。英語も良い大学に行ったのだろうな、という感じの英語だ。

 シンプソン氏がリポートをしているとき、その背景に、アフリカやあるいは中東の国の、十分に食事を取れない感じの小柄な人々が映っていると、リポーターから受ける印象とのギャップが大きく、「本当に現地事情が分かって話しているのかな?」「現地の痛みを共有できているのだろうか?」、と漠然とした思いを抱くことがあった。

 シンプソン氏はイラクでの報道で爆撃を受け、片方の耳が今でも聞こえないらしい。それほどリスクをとって報道している特派員に、厳しい、残酷なことを言うようなのだが、テレビ画面は、ある種、容赦のない、残酷な面があるかと思う。

 別にBBCはシンプソン氏をターゲットにしているわけではない。一般的に、現地の事情に熟知している人、文化を知っている人、できればその地域出身の人などがレポートすることがもっとあってもいいのでは、ということだ。これ以前にも、もっと様々な人種のレポーターが起用されるべき、ということは何度も言われてきている。

 そこで、BBCとしては、マリー・フィッツパトリックさんという女性に、新たに作った「多様性を深める」という任務を与え、アフリカやアジア地域の特派員にはアフリカ系、アジア系の記者をあてるようにしたい、と。

 フィッツパトリックさん自身は混合人種(ミックス)だそうだ。

 1990年代、チャンネル4というテレビ局でリサーチ助手として働いた時、ある会議のために、BBCを訪れたという。彼女の姿を見たBBCの当時の経営陣の一人が、「絨毯の掃除に来た方ですか?」と聞いたそうである。「黒人の女性がいたから、絨毯の掃除の人、と思ったんでしょうね。この人はまだメディア業界にいます。彼はきっと忘れているでしょうけど、私は忘れません」とフィッツパトリックさん。

 フランスでは、つい最近、有色人種のテレビキャスターが出た、ということでニュースになったと聞く。

 英国では様々な人種の人がキャスター、レポーターとなっていて、珍しくはない。それでも、海外特派員の人選ではまだまだ努力が足りない、とBBCは考えているようだ。

 シンプソン氏を画面で見て、何となくしっくりしない感じ・・・これはテレビで実際に見ないと分かりにくいかもしれないが。
by polimediauk | 2006-08-14 02:59 | 放送業界
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 外出していて、自宅に戻る途中の駅の構内で、イブニング・スタンダード紙の販売スタンドにあったポスターが目に入った。夜遅かったので、もう売り子はいなくなっており、見出しの文句だけがストレートに入ってきた。

 「中東危機:ブレアが休暇を遅延」

 ・・・。これは本当で、今日から休暇に入る予定だったが、2,3日伸ばすことになったのだ。

 しかし、なんとも滑稽にも聞こえる見出しだ。まるで滑稽な記事満載の週刊誌「プライベートアイ」の見出しのような・・・。そして、これが事実であるのがつらいような気もする。電話で常に連絡がとれるとはいえ、休暇を取ろうとしていたのだ、昨日までは。しかし、いくらなんでも、あと1日、二日は待ってくれという周囲のプレッシャーが効いた様だ。飛行機に乗っている間の数時間、電話連絡が万が一取れない可能性もあるから、ということだ。

 発売中の雑誌「ニューステーツマン」で、編集長がブレアをこてんぱんに書いている。しかしなんだか古い感じだ。ブレア氏がブッシュ氏・米国に、この問題に関していかにべったりだったかを書いているが、それはいいから、今後どうするかを考えないと。米国にべったりでないとしたら、どんな選択肢があるのだろう?選択肢がない、という意味ではなくて、将来への何らかのヒントが読みたかった。

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 以下は、昨日の続きだが、ロンドンテロから1年後のその2.「新聞通信調査会報8月号」に掲載された分に若干言葉を補足している。


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―「私には関係ない」

 英国でロンドン・テロの原因を究明しようとする時、難しい点の1つは、テロを起こした若者たちとテロに関わらなかったその他のイスラム教徒たちとをどう位置づけるか、だ。

 「イスラム教徒」として1つのグループにくくられることを嫌うイスラム教徒の国民は多い。

 例えば、「インディペンデント」紙のコラムニストでイスラム教徒のヤスミン・アリバイブラウン氏は、常々、ロンドン・テロの実行犯のような過激思想を持つイスラム教徒と自分とは「一切関係ない」と言い続けている。

 元BBCのジャーナリストで現在アルジャジーラ英語放送にいるラゲー・オマール氏も自分自身がイスラム教徒だ。

 近著「ハーフ・オブ・ミー」の中で、オマール氏は、テロ事件の議論の中で、いかに非イスラム教徒の国民がイスラム教について無知であるかが分かった、と書いている。

 「イスラム教徒だけが問題を解決すれば社会の問題が消えると考えるのは間違っている」、「他の人にイスラム教徒がどうあるべきかを語られたくない」。

 ロンドン同時テロ以降、イスラム教徒(もしくはそのように見える人物)に対する警察の路上質問の頻度が増え、東ロンドンの兄弟のように警察から暴力的な捜査を受ける、といった事態が起きている。

 こうした状況に対し、少なくない人数のイスラム教徒の国民は不満を抱いている。不満の矛先は、英政府や当局に向けられる。

 元保守党政治家で今はコラムニストのマイケル・ポーテロ氏は別の見方をしている。

 サンデー・タイムズ紙の7月9日付コラムの中で、氏は、イスラム教徒たちは爆破犯の犠牲者であり、国家や警察権力の犠牲者ではないことを直視するべきだ、としている。

 イスラム教徒たちが疑惑の対象で見られるとしたら、そういう状況を作り上げているのは、「イスラム教の名の下で殺人を犯す爆破犯」なのであって、英政府や警察ではない。

 「全員で相手の価値観に対して不寛容な人々に対抗していこう」、と呼びかけている。

 氏の意見には私も同感なのだが、なかなか物事は思うようには進まないものだ。

―市民記者の行方

 昨年7月7日は、「市民記者」によるジャーナリズムが英国で一斉に開花した日ともなった。

 爆破テロが起きた地下鉄の構内の息苦しい様子を生々しく伝えたのが、携帯電話で撮った映像だった。BBCや各テレビ局は早速こうした映像を放映した。

 乗客ばかりではなく、テロが起きた地下鉄駅あるいはバスの近辺を通りかかった多くの人々が、傷ついた乗客の様子、救急隊の仕事振り、無残に破壊されたバスの姿などを、頻繁に携帯のカメラで撮り、メディアに送った。

 メディアに市民が無料あるいは有料で映像も含めた情報を提供することはこれまでにもあった。しかし、突発的な事件が起きた場合に、一般市民が競うようにして携帯から画像を送るという行為は7・7同時テロで大きな注目を集めた。

 特に国内最大の放送業者であるBBCがこうした情報の大きな受け手となり、ウエブサイトなどを通じて視聴者からの情報提供を歓迎した。

 メディア問題を継続して追っている「ガーディアン」紙などの既存メディアは、「市民ジャーナリズムの誕生」、「プロの記者もうかうかしていられない」など、市民記者たちをもてはやした。

 一年後の現在、雰囲気は随分変わったように見える。

 携帯を利用して画像情報を送るという形での市民記者の存在は当のガーディアンのネット担当コラムニスト、エミリー・ベル氏が7月3日付紙面で述べたように、「殆どまったく話題に上らなくなった」。

 とはいっても、主に携帯を通じて目撃情報・画像を送るという行為が廃れたわけではない。

 テロ当日、BBCは爆破テロに関する22,000通のメール、300の写真あるいは動画(そのうちの50枚は爆破発生から1時間以内)を受け取った。

 現在、大きな事件が無い場合でも、毎日1万通のメール、1週間に200枚の写真あるいは動画を受け取るという。

―市民の行動をカメラが追う

 最後に、テロ関連で特に印象深かった番組を紹介したい。

 7日夜、ガールフレンドをテロで亡くした男性グス・アリ氏が、実行犯の一人ハシブ・フセイン容疑者の家族が住む家を訪れる様子を、BBCが放映した。

 アリ氏は、何故テロが起きたのかを知りたくて、父親との面会を求め手紙を何度か書いたが、返事をもらえていなかった。ある日、何の予告もなく、容疑者の父マムードさんが今でも住む家を訪ねる。

 マムードさんの姿を見つけ、「あなたの息子が私のパートナーを殺したんです」、と話し出すアリ氏。

 最初はアリ氏と話すことを拒んだ父親は、「息子がやったとは思っていない。誰も証拠を見せてくれない」、事前に知っていたら「足を折ってでも、刑務所に入れてでも、やめさせた」、とアリ氏に語る。

 他の3人の容疑者のことも知っていたとして、「いい少年たちだった」と表現する父親。

 アリ氏が、「何故テロを起こしたと思うか」、と聞くと、マムードさんは「暗闇の中にいる。理解できない。答えを探している」、と答えた。

 アリ氏は、同情を感じ、マムードさんの手を握ってから、帰って来る。

 こういうことをした場合、日本ではどのような反応になるだろう?

 事前の承諾を取らずに、テレビカメラ片手に相手の自宅に押しかけるのは乱暴なやり方であろうし、プライバシーの侵害など問題のある手法だろうと思う。また、暴力沙汰となる可能性もあって冒険だろう。

 しかし、番組は悲しみから立ち直れない犠牲者の家族や怒りを感じる市民に対し、一定の癒し効果を与えたように見えた。(後の新聞でのインタビューで、アリ氏の怒りは消えていないようだったが。)
by polimediauk | 2006-08-05 08:16 | 英国事情
 イスラエル、レバノン情勢は毎日、こちらではトップニュースだ。コメント欄にも書いたのだが、英テレボ+CNNインターナショナルを見ていると、この問題に関して、世界は米英以外に大きなパワーブローカーがいないかのように報道されている。

 立ち位置を変えて、イラン、シリア、他の中東諸国、フランス、ドイツからみると、全く違うシナリオというか、文脈で物事が語られている可能性は高い。

 ・・・ということで、自分が体験したこと、見えたことに関して、書きたい。1年少し前のロンドン・テロのことだ。

 今年は1周年で様々なセレモニーなどがあったが、1年経って、テロに直接関わらなかった市民の視点からは、やや衝撃度が薄れたような気がした。といっても、実際に報道を見たり、地下鉄などの現場に行ってみると、それなりに強く感じるものはあったのだが。

 地下鉄に乗っていても、何らかの都合で長い間停車していたりなどすると、不安感にかられるようになったのは、私だけではないだろう。地下鉄駅構内の警察官の数も目だって増えた。

 また、地下鉄は冷房がない場合がほとんどなので、車内はむっとしており、昨年のテロでもこんな風に暑かったのかなあ、随分苦しかっただろう、などと思ってしまう。

 衝撃度が薄れた、という理由の1つは、イラクで自爆テロによる被害者数が毎日100人近くある報道が最近続いており、人数の大小は関係ないことは関係ないのだが、それにしても、改めて見渡すと、世界中で多くの人が殺されていることで、つらい思いがする。

 いずれにしろ、ロンドンの地下鉄あるいはバスで、自分やあるいは家族・知人がテロに巻き込まれる可能性は、非常にリアルになったことは確かだ。何が起こるかわからないし、もし起きたら・・ではなく、何時起きるか、と当局が言うのも、感覚的には一理あるように聞こえる。

 しかしまた一方では、テロにあうよりも、交通事故にあう確率の方が、もちろん多いだろう、という現実もある。さらにイスラエルーレバノンの犠牲者を思うと、つらいことばかりだ。

 新聞通信調査会というところが出している、「調査会報8月号」に、テロから1年の英国での議論の流れとメディアの動きを書いた。毎月、中旬から月末頃になると、その月の会報がPDFでダウンロードできるようになっている。 http://www.chosakai.gr.jp/index2.html


 以下は、8月1日付で出た原稿に若干言葉を足したものである。


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ロンドン同時爆破テロから1年
―真相は未だ解明せず

 昨年7月7日、ロンドンの地下鉄とバスで発生した爆破テロは、52人の犠牲者、800人以上の負傷者を出した。実行犯と見られる4人はいずれも自爆で命を落としている。

 全員がイスラム教徒で、3人は英国で生まれ育ったパキスタン系移民二世、1人がジャマイカ生まれで英国に長年住んでいた青年だった。

 9・11米国大規模テロ以降、同様のテロが英国に起きるのは時間の問題とされてきたが、イスラム教過激主義のテロリストと言えば英国の外からやってくるもの、とする漠然とした認識があったため、テロの惨事とともに犯人像が判明すると大きな衝撃が走った。

 テロ発生直後から現在まで、英国民を悩ませてきたのが、「何故?」という部分だ。

 現在までにテロの経緯などに関する調査報告書が3つ出ているが、家族や知人が「どこにでもいる普通の青年」と評する若者たちが、何故どのような過程でテロ行為に走ったのか、肝心の部分は十分に解明されていない。

 もっと正確に言うと、解明された、という思いを多くの国民が抱いていない。(これは小説やドラマなどの形でないと、もしかしたら無理なのかもしれない、と最近思っている。)

 基本的には、イスラム教徒の青年たちが引き起こしたテロ、ということなのだが、これだけで片付けるというわけにも行かない。

 例えば、英国で、今後同種のテロが起きないように、ということで、イスラム教徒のみに適用されるようなテロ根絶策を政府が出した場合、歓迎されないという現状がある。

 また、うっかりイスラム教徒の国民にテロの原因に関して問いかけをすれば、「犯罪人と一緒にしないで欲しい」という答えが返ってくることも多々ある。私自身も、こういう状況を経験した。

 つまり、英国に住むイスラム教徒からすれば、「今回のテロの原因について、テロとは関係のない私たちに聞くなんて、質問すること自体が失礼だ」、と。

 確かに失礼だろうとは思うのだが、それでも、何でもいいからとにかくヒントが欲しいと、わらをも掴む気持ちで知りたがる多くの英国民がいるのも事実なのだ。

 原因究明がスムーズに進まない背景要因と最近目についたメディア報道の具体例を挙げてみたい。

―ビデオの自白

 まず、爆破テロの概略だが、実行犯とされる4人はリーダー格で英国生まれのモハメド・サディク・カーン容疑者(30)と、シェザード・タンウイアー容疑者(22)、ハシブ・フセイン容疑者(18)、そしてジャマイカ生まれで幼少時から英国で暮らしたジャーメイン・リンジー容疑者(19)。

 7月7日朝、爆発物が入ったリュックを抱え、乗車したロンドンの地下鉄3車両、バス1台でそれぞれ自爆テロを発生させた。

 これまでの調べでは、テロ行為を起こす直前、イスラム教過激主義に心酔するようになっていたようだ。カーン容疑者とタンウイアー容疑者は2004年ごろパキスタンを訪れており、国際テロ組織アルカイダのメンバーと接触した可能性があると言われている。

 カーン容疑者は一時補助教員として働いたことがあり、タンウイアー容疑者は英国文化の代名詞の1つとも言われるクリケットを好んでいたという。

―アルジャジーラがビデオを放映

 爆破テロから1周年の前日、犠牲者の家族や生存者にとって衝撃的なビデオが放映された。

 中東の衛星テレビ局アルジャジーラがタンウイアー容疑者のテロ決行前のメッセージが入ったテープを入手し、これを放映したのだ。早速、英メディア各社も再放映した。テープはアルジャジーラに直接届いたものだという。

 この中で、タンウイアー容疑者は、「あなたたちが目撃した(テロ)はいくつもの攻撃の最初で、 イラクやアフガニスタンから軍隊を撤退しない限り、さらに大きな攻撃が続く」と述べた。

 人差し指を振りかざしながら話す様子は、昨年9月、同様の過程で放映されたテープの中の、カーン容疑者のしぐさや言葉遣いとほぼ同一だった。

 タンウイアー容疑者の出演部分は30分のテープの中のごく一部で、他はアルカイダのナンバー2といわれるアイマン・ザワヒリ容疑者などが登場し、カーン容疑者とタンウイアー容疑者がアルカイダの軍事キャンプで訓練を受けた、と主張した。

 英専門家らの間では、容疑者たちがアルカイダの動きにインスピレーションを受けた可能性はあるが、アルカイダからどの程度指令を受けたのか、メンバーなのかどうかは現時点では不明、とする見方が強い。

 アルカイダ自体が巷で思われているほどには組織化されていないという説も根強い。

 しかし、ビデオを見て、容疑者たちがアルカイダのメンバーであると受け取る若者たちが少なからずいる可能性は高い。アルカイダのプロパガンダ戦略を見せ付けられた思いだった。

―「何故」?

 ブレア首相は、テロ発生直後からイスラム教過激主義根絶のための行動を開始している。

 昨年8月の会見では「ゲームのルールは変わっている」と宣言した。より厳しい反テロ策を法案化し、過激主義思想を広めるいくつかのイスラム教団体の存続を禁止する、と述べ、イスラム教団体のトップや指導者らを官邸に呼び、今後を話し合った。

 しかし、ブレア氏のもくろみは思うように進まなかった。

 非合法化するとした団体は名称が変わっただけで今でも存続している。新たなテロ法は今年4月施行されたが、当初、首相はテロ容疑者の起訴前の拘束期間を現行の14日間から90日間に延長することを望んだが、人権侵害の恐れがあるとする議員からの反対にあい、28日間に削減された。テロをほめたたえるような発言を取り締まる条項は入ったものの、思想統制になると人権団体から大きな非難をあびた。

 これまで協力関係にあったイスラム教指導者らとのきしみも表面化した。

 昨年のテロ発生直後の記者会見では、ブレア首相は、国内のイスラム教徒たちを刺激しないようにという配慮から、「多くのイスラム教徒たちは法を遵守する市民であり、ともに今回のテロを非難している」と語りかけていた。

 ところが今年7月4日の下院連絡調整委員会では、「穏健イスラム教徒たちは、過激思想を持つイスラム教徒に対してもっと厳しくあたるべきだ。政府がイスラム教社会の過激主義を根絶することはできないのだから」、と述べ、イスラム教団体から批判を浴びた。

 何故批判を浴びたかというと、「一緒にやっていこう」というのが1年前のメッセージだとすると、今回は、「あなたたちがどうにかしなさい。あなたたちの責任だ」、と問題を押し付けられたように聞こえたからだ。

 また、実行犯の1人カーン容疑者は自爆テロ用ビデオの中で、英政府のイラクへの武力侵攻など外交政策を痛烈に批判していたが、ブレア首相は、西欧が世界中のムスリムを犠牲にしている、などとする考えに、イスラム教指導者らが強く反駁せず、むしろ一種の同感を持っている、と指摘して、これもまた指導者批判として受け止められた。

 「こうした考えは間違っている、イデオロギーが非常におかしい、と相手にはっきりと言うべきだ」、とブレア首相は述べていた。つまり、「はっきり言わないあなたたちが悪いのだ」、と暗に言っているようだった。

 さらに、犠牲者の遺族やイスラム教団体の一部は、7・7テロの原因究明のための独立調査を開始するよう望んでいるが、これに対し、首相は、「テロの危険が差し迫っている現在、警察や情報機関がテロを防ぐことに全力をつくすことが重要」、として退けた。

 ブレア政権と緊密な協力関係にあった英ムスリム評議会の前事務局長のイクバル・サクレーン氏は、ブレア氏が独立調査の開始を「たいした理由もなく拒否している」と批判。

 「イスラム教徒のコミュニティーが望んでいる独立調査を拒否したことで、不信感が広がっている。政府側に何か隠すところがあって、調査をしないのではと見られている」。

 「私たちは、ロンドンテロの教訓を得たい。何がどのように、そして何故起きたのかを知りたいのだ。まだ答えはでていない」。

 イスラム教徒の国会議員サディク・カーン氏もブレア首相に批判的だ。

 イスラム教指導者側は64の推奨事項を政府に提言したが、実行されたのは3つだけだったという。「イスラム教指導者を相談と対話のために丘に登らせておいた後で、手ぶらで丘を下らせたようなものだ」。

 「現在、イスラム教徒の中には、以前よりももっと疎外感を抱いている者もいると思う」。

 疎外感がクローズアップされたのは、6月上旬東ロンドンで起きた事件だった。

 数人の警察官がバングラデシュからの移民2世の兄弟の自宅を捜査したのだが、この過程で発砲し、兄が胸を撃ち抜かれた。

 「信頼のおける筋からの情報」で化学兵器を探していた、と警察は説明したが、兄弟の自宅前には大きな白いテントが設置され、100人以上の捜査官が家とテントを出たり入ったりした。結局、化学兵器は見つからなかった。兄弟は涙ながらの会見を開き、警察に謝罪を求めた。

 この事件は、イスラム教徒の国民の7・7テロ後の治安に対する不安感、警察に対する不信感を募らせる、象徴的出来事のように見えた。

 兄弟の釈放から10日ほどたって行われた地元での抗議デモには、地元以外からの参加者も含めた約1000人の姿があった。(続く)
by polimediauk | 2006-08-04 06:28 | 英国事情