小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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 イスラムと西欧の問題(問題があるとして、だが)を考えるとき、「テロの戦争」やアルカイダ、アフガニスタンの戦いやイラク戦争などを自分の中でどことなく関連付けてきたが、フランスのアラブ学者ジル・ケペル氏の「ジハードとフィトナ」(NTT出版)を読んで、改めて、アルカイダなどの一連のテロといかに闘うかという部分と、西欧社会の中のイスラム教徒の処遇などをはっきりと分けて考える必要があることを再発見している。

 ケペル氏の本はオリジナルがフランス語で、英訳版を既に手にしていたが、翻訳のせいなのか、自分の中東問題に関する知識が少ないせいなのか、なかなか最後まで読み進むことができず、そのままになっていた。(このブログを通じて、コメントを残された方が、和訳が出ていることを教えてくれた。やはり日本語だとかなり読みやすい。)

 この中で氏はアルカイダ・オサマ・ビンラディンとNo2のザワヒリ氏が何故米国テロを起こすようになっていくのか、どんな影響があるのかを詳細に書いている。

 そして、未だに米国がアルカイダのテロを根絶できていない、ビンラディンを捕まえていない理由として、目標を間違えている、という指摘があった。つまり、アフガニスタンのタリバン勢力を倒す、イラクのサダム・フセイン政権を崩壊させる、といった、米側の中東での目標があって、この目標達成ために様々な点でリソースが使われたために、ビンラディンを捕まえる、アルカイダ・テロの根絶という面には十分に力がさけなかった、という指摘で、改めて目からウロコの思いがした。

 法王の話に戻るが、一ツ橋大学の内藤教授が彼の考察をブログに書いている。もしご関心がある方は:
http://www.global-news.net/ency/naito/daily/060925/01.html


 法王問題が一段落したと思ったら、今度はドイツの話だ。
http://www.timesonline.co.uk/article/0,,3-2376967.html

 タイムズの27日付。ドイツであるオペラの上演をしようとしたら、中には預言者ムハンマドの首を切る場面がでてくるので、主催者側が、製作サイドに何らかの危険が生じると困るので、突如、題目を変えてしまった、という。自己検閲だが、ムハンマドの話となると、どうしてもこうなってしまうのだろうか?

 29日から、デンマークに行く予定だ。ムハンマドの問題の風刺画が掲載されたのが、昨年の9月30日だった。果たして、1年後、何が変わったのか、あるいは変わっていないのかを見てきたい。
by polimediauk | 2006-09-28 08:06 | 欧州表現の自由

 新しい無料紙・フリーペーパーが発行されてから、ほぼ1月経つ。

 この無料紙、本当に基本的には新聞と同じ構成で、ウイークデーの毎日発刊されている。最近では、あまりにも手で配る無料紙が増え、道端に散らばっているという話もニュース報道されたが、それでも、広告=無料紙の創刊はこれからもありそうだ。

 これまで、朝の無料紙メトロが駅構内での販売独占権を持っていたが、この秋から年末にかけて、他の新聞も販売することができるようになるという。

 以下は週刊の「新聞協会報」(9月26日号)に掲載された。

 

 ロンドンで8月末から、二紙の無料紙が相次いで創刊された。夕刊での無料紙の発刊は初めて。通勤客が約五百万人とされるロンドンで、二紙は当初の目標だった四十万部の発行部数をほぼ達成した。しかし今後の見通しに関する評価は分かれている。一方、有料の夕刊紙は、無料紙と読者層の差別化を進めている。

 新たに登場したのは、アソシエーテッド・ニューズペーパーズ社の「ロンドン・ライト」(八月三十日創刊)と、ニューズ・インターナショナル社の「ザ・ロンドン・ペーパー」(九月四日)の二紙。ロンドンの無料紙は朝刊の「メトロ」(約五十七万部、英ABC調べ)、経済情報を中心とする「CITYAM」(約九万部/昨年創刊)と合わせ、四紙となった。

 今回の相次ぐ創刊は、ニューズ社を率いるメディア王のマードック氏が、メトロの成功を見て、夕刊紙市場への参入を表明したことがきっかけ。アソシエーテッド社もかねて夕刊の無料紙発行を考えていた。

 両紙とも、新聞を読まず、テレビやラジオもそれほど視聴せず、ウェブサイトで情報を得る読者層を想定する。広告業界が最も接触を望む層でもある。そうした読者を引きつける媒体が、夕刊紙の市場にはなかった。

 二紙が出そろったのは九月四日。翌日の高級紙各紙は「ロンドンの無料紙、相手を倒すまでの戦い」(タイムズ)、「ロンドンの無料紙戦争は若く、裕福な読者が対象」(フィナンシャル・タイムズ)など、「若者向け」「無料紙戦争」などの見出しを多用した。

 紙面構成を見ると、ロンドン・ライトは字体やレイアウトの面で、同じアソシエーテッド社が発行する有料の夕刊紙イブニング・スタンダードや、タブロイド紙に似ている。一方、ロンドン・ペーパーは色使いや字体がガーディアン紙を思わせ、「斬新」という意見が高級紙に寄せられた読者の意見では目立つ。

 一方、部数減の一途をたどっていたスタンダード(約三十一万部)は、「プレスガゼット」(十五日付号)によると、相次ぐ無料紙の発刊で連日、七千部の落ち込み。八月三十日から一部五十ペンス(約百円)に値上げし、高級紙に価格が近づいた。読者層を世論への影響力が大きい高所得者に拡大し、無料紙と差別化するのが狙いとされる。

 記事の本数は、「プレスガゼット」(同号)によると、前日付の無料二紙(遅版)とスタンダード紙    (早版)とで比べたところ、ライトが八十三本で最多。スタンダード七十八本、ペーパー六十四本と続く。独自取材の記事はペーパーの四十本をはじめ、ライト三十二本、スタンダード二十八本だった。しかし「読み応えでは、スタンダードがベスト」と評している。

 ロンドンの無料紙の今後については、有料紙と両立するという見方と、共倒れになるとの意見が拮抗する。

 ニューズ社は順調に伸びた場合、他の英国内の都市でも発行を考えているという。

by polimediauk | 2006-09-26 14:45 | 新聞業界
c0016826_5493631.jpg今日、昼頃、ぼうっとBBCのニュース24を見ていたら、リード内務大臣が、東ロンドンのある場所でスピーチをしている様子が映っていた。

 ムスリムによるテロを防ぐため(言葉はいろいろ違うものを使っているが)、親・家族が、もし子供が過激主義に走りそうになったら、注意して、そっちの方向に行かせないようにしよう、親はそういう義務があるんだよ・・・・というようなことを話していたようだった。

 その途中で、突然、聴衆の中の一人が、大臣に向かって、叫ぶようにしゃべりだした。音を消していたので、あわてて音を大きくした。

 6月に東ロンドンの無実のムスリムの兄弟が、「テロリストの可能性がある」として、警察の捜査を受けた。一人の兄弟は撃たれてしまった。結局、無実だった。フォレストゲイト事件、という。

 この男性は、白いムスリム装束で、ものすごく、怒っていた。「警察はフォレストゲイトのようなことをしている。国家そのものがテロをやっているじゃないか」。

 周りの人がおろおろして、静かにしなさい、外に出ましょう、とか言うのだが、男性はやめなかった。

 この人は、既に禁止されたイスラム過激グループの一員だった。

 内務大臣は、決まり悪そうにこれを聞いていた。ずっと。

 しばらくして、男性が外に出たので、カメラが追った。テレビ画面が2つに分かれて、半分は外にいる男性がカメラに向かって話す様子、もう半分は大臣がまた話を始める様子を映した。

 こういう場合、大臣の立場にいる人は、非常にきまずい。決まり悪い。

 それでも、一生懸命、「こういうことは、政治をやっていれば、いつもあることなんだよ」と言って、「狂信的な人が脅すと怖いけれど、勇気を持って立ち向かうことが必要だ」といった。

 私は、テレビで見ていただけだったが、緊張感が伝わってきて、男性の怒鳴り声があまりにも強くて、心臓がどきどきした。怖かった。

 全体的に、他の欧州の国と比べると、英国はイスラム教徒が特に生き辛い国、というわけではないと思うけれど、何故これほどの怒りがあるのか。何故こうなってしまったのだろう。

 親が過激主義に染まりそうな子供を注意してみるなんて、ほとんど、アナクロっぽいと言われても仕方ない。第一、「子供」といっても、18歳、20歳などのいわば大人だ。親が何か言って、聞くだろうか?コンピューターのチャットルームで過激思想にはまるなら、親が分かるわけは無い。

 それでも、大臣として、こんなことも言わなければならないのだろう。言っている事がある意味ではばかばかしく聞こえるかもしれなくても、あえて言わざるをえないのだろう。テロをとめる特効薬は無いのだから。

 何と悲しいことだろう。

 この様子はビデオで見れる。

 http://news.bbc.co.uk/1/hi/uk/5362052.stm

 ここから、ビデオを見る、を選び、Heckler interrupt John Reid's speech(約2分)を選択する。

 
 
by polimediauk | 2006-09-21 06:03 | 英国事情

ローマ法王の「何故?」

c0016826_7572469.jpg ローマ法王発言事件(!)で、謝罪も出たことでもあり、この件に関して書くのを止そうと(いったんは)思ったのだが、トラックバックをしてくださった方のブログに行くと、ものすごく熱心に、丁寧に考えている方がいらっしゃることが分かり、私も、今日読んだ新聞で分かったことを、自分の胸に秘めることなく、少し足してみたい。

 まず、もう既に他の方がやっていらっしゃることを望むが、やはり、欧州の中でイスラム教とキリスト教が覇権争いを長い間してきた、という点を、1つ考えなければならない。現在でも、その覇権争いが続いている、という見方も一般的になっている。

 サンデータイムズ17日付の記事Pope vs Prophet(教皇と預言者)によると、「19世紀まで、法王は宗教の自由と世俗主義(政治と宗教の分離)に反対する立場を取ってきた。19世紀後半のピウス法王は他の宗教に対する尊敬の念を持つのは『狂気だ』と述べている」

 「歴史的なUターンになったのは1960年代半ば。ようやく、米国のような宗教の多元性を認めるようになったという。しかし、伝統的カトリック信者からすると、この方向は歓迎されていない。法王が絶対に正しい存在であり、カトリック教が真実の全てとするならば、どうして他のキリスト教の宗派を認めることができようか?」

 「前法王は・・(中略)・・・宗教の多元性を受け入れていた。無神論の国でも、カトリック教を信じる権利がある、と。」

 「しかし、1999年、将来ベネディクト16世となる法王、当時のジョセフ・ラトツインガー氏は、カトリック教以外の全ての信仰には欠点がある、とする文書を世界中に向けて書いたことがあった」。

 前法王と現法王のアプローチの違いを書いたのは、17日オブザーバー紙のPope Benedict’s long mission to confront radical Islamだった。

 「ベネディクト法王は、友人たちが言うように、キリスト教徒とイスラム教徒の間の対話を心の底からすすめようとしている。しかし、テロの暴力と、一部のイスラム教徒の指導者たちがこれを支援していることが、対話の大きな障害になる、とも思っている」。

 「9・11テロの後の法王(当時はまだ法王ではない)のコメントが、こうだった。『このテロとイスラム教を結び付けないことが重要だ。関連付けは大きな間違いだ』とバチカン・ラジオに語った。しかし、その後すぐに『イスラム教の歴史には、暴力の傾向がある』と。」

 「『イスラム教には(暴力に向かう傾向を持つ流れと)、神の意思に完全に自分をゆだねるという流れがある。(後者の)ポジティブな流れを助けることが重要だ。もう一方の流れに打ち勝つ十分な力を維持するために』と」。
 
 「前の法王はこんなことは言わなかった。ジョン・パオロ法王の念頭にあったのは共産主義だったからだ。法王庁にとって、そして米国にとって、イスラム教とはマルキシズムと闘う貴重な同志だったからだ」

 「ジョン・パオロ法王は、イスラム教のモスクを訪れた最初の法王だった。法王庁の組織の中の、他の信仰との連絡業務を行うインター・リリジャス・ダイアローグというグループのトップには、イスラム教の専門家をあてていた」

 「現在のベネディクト法王にとって、主な対決相手は、攻撃的なイスラム教過激主義と、政教分離が進む西側社会だ」

 「今回、法王になってから、イスラム教とテロを結びつけて言及したのは初めてだった」

 現法王が前法王とどのように違うのかを書いたBBCの記事はここに。
http://news.bbc.co.uk/1/hi/world/europe/5352404.stm

 ちなみに前任の法王はポーランド人で、現在の法王はドイツ人である。(ドイツ人であることが、今回のスピーチやイスラム教に対する態度に関して何らかの特別な意味合いがある、と読む人もいる。私もそういう面を感じているが、まだ十分に裏づけができていない。BBC他によると、今回の記事には直接関係ないが、ナチの少年隊ヒットラー・ユースというグループのメンバーでもあったそうだ。http://news.bbc.co.uk/1/hi/world/europe/5024324.stm)

 このBBCの記事では、今年5月、アウシュビッツを訪れた様子が書かれている。当初訪問の予定はなかったそうだが、「個人的にどうしても行きたい」ということで、時間をとったようだ。一人で歩き回る時間ももうけ、感動的な訪問となったようだ。

 今回の謝罪までの流れで、結局は、本当に良い対話につながるといいのだが。

 過去の歴史(11世紀から数世紀に渡り、キリスト教徒の十字軍遠征を通して、お互いの勢力地の奪回、再奪回という歴史が)を見ると、言葉(や、風刺画)など、表現上の(思想上の、ともいえるのだろうが)ことで議論やデモ(イスラム原理主義勢力の強いソマリアでは修道女が発砲され命を落としたものの)などになる、という現在の「戦い」は、まだいい方なのだろうか?
by polimediauk | 2006-09-18 08:00 | 欧州表現の自由
 前回、言葉が足りないように感じたので、BBCラジオのTODAYの中の会話の大枠を再現してみたい。(9月16日放送分。来週の月曜日の朝6時前までは、おそらく16日付分が聞けると思う。放送開始後1:35分頃より。http://www.bbc.co.uk/radio4/progs/listenagain.shtml)


 オックスフォード大学の教授タリク・ラマダン氏とウエールズ・カーディフ大司教ピーター・スミス氏がゲストだった。

―スピーチに怒りを感じているか?

 ラマダン氏:怒りを感じない。全体の文脈の中で考えるべきだ。最善の言葉ではない、と思った。14世紀の言葉を引用している。こんなことをする正しいときではないし、正しいやり方ではない。私たちは落ち着いて、合理的にこの問題を考えるべきだ。法王はジハードなどの問題を問いかけている。もっと重要なことにはイスラム教の合理性と欧州の伝統に関して話している。ただ、やり方がよくない。

―つまり、(暴力を用いるジハードに対する)問い自体は正しいわけですね?

 ラマダン氏:もちろんだ。イスラム教の名の下で、ジハードということで人を殺す人々が世界中にいる事態に、イスラム教徒たちは直面している。米国だけでなくイスラム諸国でも起きている現象だ。

 こうした人たちに対し、私たち(=イスラム教徒たち)は、ジハードは「聖なる戦い」でなく、抵抗のことであること、心の中の抵抗であること、抑圧されている状態での抵抗であることを明確にしなければならない。しかし、戦争の倫理性というのがイスラム教にあるので、これも説明しないといけない。それにしても、法王は、引用を使ってイスラムにはジハードの問題があると言っておきながら、何故そうなるのかなどを言わないので助けにならない。

―イスラム教を攻撃しているわけではない、ということを、法王がもっとはっきりさせるべきだったと思うか?

 スミス氏:もちろん、イスラム教を攻撃していたわけではないし、それが目的ではなかった。

 レクチャーはかなり学問的だと思った。「信仰と合理性(faith and reason)」というのは彼が長年考えてきたテーマだった。私が見たところでは、数世紀に渡り、宗教のために暴力を使うことが正当化されるべきかどうかを議論していた、ということを指摘したかったのだろう。もちろん、結論は、「正当化されない」、ということだ。どの宗教にもいえることだが、もし合理性を失えば、信仰は暴力的、狂信的になる、と。

―前任の法王がイスラム教も含めた全ての宗教の信者とともに祈ったときに、現法王は複雑な気持ちを抱いていた、と聞く。また、まだ法王になる前、トルコがEUに入ることに反対していた、という。人々が法王の真意について疑わしい思いを抱くのも無理はないのでは。

 スミス氏:不幸なことだ。彼には以前会ったことがあるが、正直な人物だ。ものごとをよく考えている。トルコのEUの件は、欧州の地理的な範囲を指していたのだろう。

―いや、欧州を地理的でなく文化的集合体と見ていた、と聞く。キリスト教文化のルーツがあるのが欧州、と言っていた、という。

 スミス氏:法王は欧州に関していろいろ前から書いている。欧州はいろいろ変わったが、キリスト教的価値観に基づいて作られた。トルコや東欧はイスラム教的価値観が強い。法王が言いたかったのは、異なる文化の間で議論があるべきだ、ということだった。

―欧州の文化の議論についてどう思うか?

 ラマダン氏:これは深い問題だ。法王になる前、欧州のアイデンティティーに関して(否定的な)態度を持っていた人物だ。

 このレクチャーでも、もし宗教と合理性を切り離せば暴力に通じる、といっている。しかも、この箇所はイスラム教の伝統は合理性とつながっていない、と言った後に来る。

 これは一体どういう意味か?イスラム教は欧州の中心となるアイデンティティーの外にあるということか?つまり、これから行く予定のトルコさえも、この伝統の一部ではない、ということだろうか?こうした見方は危険だし、間違っている。欧州はキリスト教の伝統だけの場所ではない。イスラム教の伝統も入っている。

―つまりあなたは、法王が、イスラム教が合理的な宗教でないと言っている、と見ているのか?キリスト教的見方からすれば、ということだが?

 ラマダン氏:(そうだ。)法王は、キリスト教的伝統が合理性とつながっているほどには、イスラム教的伝統は合理性と結びついていない、と言っている。これは間違っているし、多元的価値の欧州の将来にとって危険な考えだ。イスラム教を合理性の範囲の外に置くことで、欧州の範囲の外に置いている。危険だ。

―同意するか?

 スミス氏:ラマダン氏の指摘した点が重要だということは認めるが、意見には同意しない。欧州・キリスト教の伝統では哲学や神学は一緒に働くが、私の印象では、イスラム教の伝統ではそうはならない。

 ラマダン氏:それは真実でなく、そういう印象がある、ということを言っているにすぎない。

―もし法王が、イスラム教が欧州の伝統の枠の外に存在し、宗教としては合理性とかけ離れている、と解釈しているとすれば、こっちの方がものすごく重要な問題だが。

 スミス氏:だから、私はその点ではラマダン氏の意見に合意しない。法王が言っているのは、2つの異なる宗教的伝統が発展してきた、と。現在のような政教分離の欧州の文化の中で、私たちがしなければならないのは、それぞれの文化や伝統が互いをどう見ているのかを理解することが重要だ、といっているのだと思う。

 議論の流れをうまい具合に説明できたかどうか?やや心配だが。

 もしかすると、今回の一連の流れで、イスラム教に対する言論の自由がない・窮屈だなあと思っている方もいらっしゃるかもしれない。

 こうした窮屈さを打破したいという思いが、きっと、今年2月話題になった、デンマークの預言者風刺画事件の背景にもあったろうと思う。

 しかし、イスラム教徒側が、「言うな」と必ずしも言ってるのではない。

 欧州といえば、キリスト教文化圏、というのがある意味では一番シンプルだろうけれど、そういってはいけないのが現実となっている。欧州=キリスト教文化の場所、という概念を表明した人は、(言論で)攻撃される。新聞記事として掲載されてしまう。イスラム教徒からの攻撃、というよりも、特に多文化主義(といわれる)英国では、その人は浮いてしまうし、「右」的な見方をされる。言えない事は、結構いろいろあるのである。イスラム教側に言われて、口止めをしている、というよりは、自分たち自身が課した「言ってはいけないこと」の中で、動けなくなっているようにも見える。

 去年4月、宗教と欧州について書いた。前法王とトルコのことに触れている。ご関心のある方はーー。http://ukmedia.exblog.jp/m2005-04-01/#1427712

 **前のエントリーにコメントを残してくださった方のご指摘に、大学での発言だったからではないか?という説明があった。その要素もかなりあったと思える。
by polimediauk | 2006-09-17 01:09 | 欧州表現の自由
預言者ムハンマドはどうやってイスラム教を広めたか

 ローマ法王が12日、ドイツで行ったスピーチの内容に、世界各地のイスラム教国家で反発がおき、インドではローマ法王に似せた人形を人々が焼く、という行為があった。

 そのスピーチの内容の抜粋の英訳がBBCのウエブサイトに載っていたが、そのまま訳すのが難しい。言葉をじっくり聞いて、考える・・・という性格のものなのだろう。また、キリスト教に造詣の深い方は、深く読めるだろうと思う。

 テレビ画面で見た限りは言語はドイツ語のようだったが。(法王はドイツ人。)
http://news.bbc.co.uk/1/hi/world/europe/5348456.stm

 全訳もPDFであった。
http://news.bbc.co.uk/1/shared/bsp/hi/pdfs/15_09_06_pope.pdf

 オリジナルのドイツ語でどうだったか、キリスト教の教義との関連ではどうなるのか、この2点での私の知識が十分でないため解釈の上でギャップがあるかもしれないことを最初にお断りしておきたい。

 英訳読後の現時点では、「イスラム教批判ではない」(ローマ法王庁の話)だとするにはやや無理がある印象を持った。イスラム教批判が目的ではない、としても、結果的に批判になってしまった状況があるのではないだろうか。一方、「直接的には」批判ではない、と言えないこともない。つまり、いくつかのカバーというか、保護幕がつけられている仕組みになっているからだ。

 まず、スピーチは、「14世紀のビザンチン帝国のある皇帝と知識層のペルシア人の男性との会話」の中の言及を、法王が引用した、という形になっている。そして、イスラム教や預言者ムハンマドに関して否定的な言葉を言っているのが、この皇帝となる。つまり、「14世紀の皇帝はこう言っている」、と法王は言っているだけなのだ。

 この皇帝とペルシャ人男性がイスラム教とキリスト教に関して会話・対話をしていたという。ここで、皇帝は、宗教と暴力の一般的な関係に関して話し出す。そして、預言者ムハンマドがもたらしたものは、「悪と非人間性だけだ」として、具体例として、信仰を「剣で(つまり暴力で)広げた」としている。

In the seventh conversation...the emperor touches on the theme of the holy war. Without descending to details, such as the difference in treatment accorded to those who have the "Book" and the "infidels", he addresses his interlocutor with a startling brusqueness on the central question about the relationship between religion and violence in general, saying: "Show me just what Muhammad brought that was new, and there you will find things only evil and inhuman, such as his command to spread by the sword the faith he preached."

 そして、暴力を使って信仰を広げることがいかに不合理なことかを、皇帝は説く。「神の摂理や自然の摂理は暴力とは相容れない」からだ。宗教指導者は、暴力や脅しを使わずに、上手に話し、適切に説いて人を納得させるものだ」。

 「理性に沿って行動をしないことは、神の摂理に反する、というのが、暴力反対への根拠」と続け、皇帝にとってはこのことは自明のことだが、イスラム教の教えでは、神は全てを超越するので、神の意思は、理性的活動も含め、私たちが考えるいかなるカテゴリーによっても制限されない」。
The decisive statement in this argument against violent conversion is this: not to act in accordance with reason is contrary to God's nature. The editor, Theodore Khoury, observes: For the emperor, as a Byzantine shaped by Greek philosophy, this statement is self-evident. But for Muslim teaching, God is absolutely transcendent. His will is not bound up with any of our categories, even that of rationality.

 そこで、理性に沿って行動しないことは神の摂理に反する、と考えることは常に真理であるのかどうか?・・・と議論が進む。

 今知りたいと思うのは、何故「今」「法王が」「こんな形で」イスラム教に言及したのか?だ。

 大学でのスピーチだったが、学生や学者だったら議論を触発するために様々なことを言うだろうが、法王という立場にいる場合、その一言一句は、世界中で自分でも思っても見なかった方向に展開する場合がある。どうしても、一種の政治的な意図があると受け取られるてしまう可能性が高い。

 そこで、15日の夜、英テレビを見て反応がどのようなものか、注目していた。スカイテレビは視聴者からの電話を受けつけ、スカイもそうだったがBBCニュース24でも、イスラム教側、キリスト教側のコメンテーターを招き、意見を聞いていた。

 キリスト教側のコメンテーターは、「カトリック教のトップとして、自分が信じることを言ったまでだ。当然だ」と言い、ローマ法王庁側が「イスラム教批判の意図はなかった」とするコメントを紹介。イスラム教側は「ムハンマドと暴力のことを言うなら、なぜキリスト教の十字軍のことも同時に言わないのか。バランスがおかしい。したがって、イスラム教徒への攻撃だと言っていいと思う」。

 キリスト教徒でもイスラム教徒でもない私は、スピーチが、はっきりと、ムハンマドと暴力の関わりを言っているので、これを「イスラム教批判ではない」と言うことで議論が進むのは、おかしいなあと思って聞いていた。これまでの歴史では宗教に暴力が絡んだケースは多々あった。ことさらムハンマドの例をローマ法王として出したのは、たとえ無意識であったにせよ、その「無意識」部分の裏が知りたい、と思って聞いていた。

 そこでヤフージャパンを見ていたら、次の記事が出ていた。

<ローマ法王>「聖戦」批判を擁護…独首相「意図を誤解」

 ローマ法王ベネディクト16世の出身国ドイツのメルケル首相は15日、イスラム原理主義の「聖戦」を批判した法王の発言に対するイスラム社会の反発について、「法王の発言の意図を誤解している」と述べ、法王を擁護した。法王の発言について「宗教に名を借りたあらゆる暴力を断固として拒絶する内容だった」と評価した。
(毎日新聞) - 9月16日10時28分更新


 ドイツ語ではそうなっているのかもしれないが、「イスラム教原理主義の聖戦を批判した」・・・というのは、どうなのだろう?英訳では、はっきりと、「ムハンマドが暴力を使って宗教を広めた」(皇帝の発言として)といっており、原理主義の聖戦批判というよりも、もっともっと強いと思うが、どうだろう?

 ・・・それはそれとして、「宗教に名を借りたあらゆる暴力を断固として拒絶する内容だった」というのは本当だと思うのだが、それにしても、ムハンマドと暴力を結びつける言葉を引用しながら、「キリスト教も・・・」というところがないのが、どうにもバランスに欠けている、つまり何らかの無意識的な意図があったのかどうか。この点で、私はテレビに出ていたイスラム教徒のコメンテーターの見方に近い。

 それにしても、欧州にいると、法王のスピーチに対して、「世界のイスラム教徒が過剰反応をしている」という論理がでてしまうのが、じれったいような思いがする。しみじみ、「イスラム教徒」は、欧州にとって、「他者」なのだろうな、と思うからだ。(本当は他者でなくても、そういう風に意識する、という意味で。)

 まだまだ論争は続きそうだ。

―欧州とキリスト教

 暴力うんぬんという部分から離れ、もう1つ、このスピーチで私自身が?と感じた部分があった。それは、欧州という概念に関わる点だった。

 今、欧州では、欧州=キリスト教文化、と言い切ってしまうことは一種のタブーとなっている。地理的にも欧州がどこからどこまでなのか、が自明ではなくなっている。特に、EUに加盟希望をしているトルコ。国民の99%近くがイスラム教徒。しかし政教分離の国。トルコがEUに入ることに関して、EU加盟国内でも抵抗がある。トルコは欧州といえるだろうか?

 EUでは新憲法を作ろうとしており、これは昨年フランスとオランダの否決で、一時停止状態だが、草案を作っているときに、「キリスト教」文化をシェアする・・・という表現を入れないことになった。EUの中で政教分離を徹底させたいという流れが1つの理由だ。

 しかし、実際にはキリスト教をベースにした文化が共有されていることは事実。

 それでも、欧州の中にイスラム教を含めた異教徒の移民が増えている中で、欧州=キリスト教文化、と言い切ることができない雰囲気ができている。

 今回の法王のスピーチの中で、宗教(=キリスト教)にも理論・理性を求めるのが欧州の伝統・文化だが、他宗教(=イスラム教)は、神が一切のものを超越する考えをとる、という発言が引用されている。つまりは、イスラム教は欧州の宗教(=キリスト教)とは異なる価値観を持った宗教、欧州文化にそぐわない宗教、という見方が表現されている。

 この点が、ムハンマド=暴力で宗教を広めた・・という部分の裏の考えとして、今後、多くのイスラム教徒の移民を抱える欧州で議論が広がる可能性もある。

 16日朝、BBCのTODAYという番組で、何度かこの問題に関して報道があった。特に8時30分頃からの議論を、ご興味のある方は聞いていただきたい(ウエブから後で聞けるようになっている)。 http://www.bbc.co.uk/radio4/progs/listenagain.shtmlから、TODAYという項目を選び、放送開始から1:35分経ったところから開始。

 イスラム教学者タリク・ラマダン氏はこの番組の中で、この後者の部分を指摘していた。もう一人、ウエールズのカーディフ大司教ピーター・スミス氏は、スピーチは「相互理解を提唱する」という意味の、学問的な問いかけだった、と評価。

 キャスターがラマダン氏に、「イスラム教徒の学者として、ムハンマドの箇所を読んで怒りを感じたか?」と聞かれ、氏は、「怒っていない。しかし、14世紀の皇帝の発言をこのような形で出したのは不合理だと思うし、まずいときにまずいやり方のスピーチだと思った」。

 「イスラム教徒の側にも考えるべき点はある。現在、イスラム教の名の下で、宗教を理由として、暴力が行われていることは事実だ。イスラム教徒が直面しなければならない問題だ。問いを発すること自体は正しい」。

 「しかし、欧州の宗教や文化の下では論理付け・理性(リーゾン)が可能だが、イスラム教はそうではない、としたところに大きな問題を感じた」。
by polimediauk | 2006-09-16 16:29 | 欧州表現の自由

ブログとビジネス

 少し前の話になるが、英週刊誌ニューステーツマン(8月28日号)で読んでから気になっていることがある。

 それは、ビジネスとブログの関係だ。ビジネスに絡めとられすぎると、一体どういうことになるのか?一読すると、怖くなってくる。

(以下は記事の抜粋です)

Bloggers for hire

7月末、ブログ・リパブリック・ブロガーというサイトで、ブロガーに向けた広告が出た。携帯電話、ブロードバンド、旅行、健康、株、ブログに関するに関して書いてくれるブロガーを探しているという。書けば書くほど、儲かる、と。

この広告はオンライン世界では衝撃として受け止められた。それは、ブログといえば「大企業に立ち向かうという立場にあるもの」、のはずだったからだ。広告費を稼ぐためのものではない、と。

6月、ランドローバーの顧客の一人だった男性が、サイトを立ち上げ、いかに会社のサービスが悪いかを書いた。次第にサイトを訪れる人が増えていった。7月、会社が彼に負け、問題となっていた箇所を直したが、その後で、彼のサイトをランドローバーの顧客が集まり意見を交換するサイトに変えることを提案した。

昨年、あるウエブサービスの会社が20のブロガーたちに対し、3ヶ月間、週に一度は会社に関してブログ上で書くことを条件として、2400ドル払う契約を交わした。

今年、企業がブロガーにお金を払って、企業の製品に関して書くというビジネスを取り次ぐサイト payperpost.comができた。ここに登録して、飛躍的にアクセスを伸ばす学生ブロガーも出てきた。「どうして、自分が信じることを書いて、お金をもらってはいけないのか?」とある若いブロガーが言ったそうである。

ここまでが米国の話。

話を英国に持ってくると、こうしたサービスを既存メディアがやれば、違法となるという。(ここが詳しく書かれていなかったのだが、広告とは思わせないで実は広告だった、勧誘していた、ということになるからだろうか。)

米海軍はネットワークのサイト「マイスペースコム」を使って、人を集めているが、ブログを使って海軍に対する良いイメージを広めている可能性はないだろうか。誰にも分からない。ブログの世界は規制されていないからだ。

ブログ世界で起きていることは、実世界でも起きる。例えば、音楽業界は、チャットルームを使って、バンドやアーチストの宣伝をしている。

広告会社のスターコムのジム・カイト氏によれば、通常の広告はもうあまり効かなくなっている、という。「口コミが重要であることは知っていたけれど、どれほど重要か、これまで分かっていなかった。口コミを中心にしろ、と顧客に言っている」。

プロクター&ギャンブル社は、「ブランド大使」を雇っている。近所の人が集まったときなどに、会話の中に製品名を入れる、などをする人たちだ。「口コミマーケティング協会」もできた。誰がどこに隠れてマーケティングをしているか、分からなくなった。

 「コークが大好き」という名前がついたブログで、いかにコークがおいしいかを読みたいと思う人は少ないかもしれないが、友人が進める製品には耳を傾けるのではないか。人々の意見が、急に何かを売るためのものになったとき、言論の自由の金額はどれほどになるのだろう?

 以上、ニューステーツマン記事の大体の訳。若干、省いた部分もある点をご容赦ください。(購読者はウエブでも読める。)


 ・・・ちょっと脅しの要素も入っているかもしれないが、ここまで言われると、怖くなってこないだろうか?

 それにしても、ニューステーツマンはちょっとした脅しの記事が結構ある(だが中身は意外と薄いときも)ので、自分はそれにひっかかっただけなのかしれないが。

 実際、実生活ではこういうことはたくさん既にあるのだろうから。(つまり知らないうちに広告につかまった、ということが。)
by polimediauk | 2006-09-15 04:51 | ネット業界

c0016826_22321830.jpg 8月のテロ未遂事件で、英メディアがどのように報じたか、に関して、週刊の「新聞協会報」9月12日付に原稿を書いた。取調べはまだ続いており、全貌が明らかになったわけではないが、転載許可を得たので、記録としてここに入れておきたい。
 

 旅客機テロ計画、英国内の報道
  -大量の情報流れ過熱化

 8月10日早朝、英国民は衝撃的ニュースに接することになった。米国行き旅客機爆破テロ計画が阻止されたことが発表されたからだ。20数人が容疑者として逮捕され、警戒レベルは最高度に引き上げられた。

 今回のテロ計画事件では、捜査当局などから流れ出た大量の情報を、メディア各社が競うように報道した。通常は公開されない未成年容疑者の実名が報道されたことに加え、容疑者の顔写真、住所などの個人情報が頻繁に出た。

 英国では、容疑者が逮捕された後、後の裁判で被告に対して不利となるような情報は、法廷侮辱罪に当たるとして報道が許されていない。しかし今回は、これまでなら許容されないような情報が流された、とも言われる。

 テロ計画阻止発表後から約1か月の英メディアの動きを振り返る。

 -政府主導の情報発信

 今回の爆破テロ計画では当初、「想像できないほどの規模の大量殺りく」の計画を阻止したという表現が繰り返して報道された。ロン警視庁担当者が10日に述べた発言だった。

 各空港では、「液体爆弾が見つかる可能性がある」として、赤ん坊のミルクでさえ母親が一口飲んでからでないと機内持ち込みができないほどの厳戒態勢が敷かれた。長蛇の列をなす乗客の様子が延々とテレビで放映される。「想像できないほどの規模の大量殺りく」という言葉が、緊張感をさらに高めた。

 翌11日から、各紙は一斉に報道を開始した。

 タブロイド紙のデイリー・メールは2001年9月11日の米国大規模テロでニューヨークの世界貿易センタービルから炎と煙が出ている写真を一面に使い、「新たな9・11を摘発したのか?」という見出しをつけた。デイリー・ミラー紙は、「狂気 数千人を殺したかもしれないテロ計画で逮捕された一人」とする見出しに、逮捕された容疑者の一人の男性の顔写真を大きく扱った。

 メッセージ性を持たせた短い見出しを使ってインパクトの高い一面を作ることで知られる高級紙インディペンデントは、黒の背景に大きな赤色の数字「10/8」(8月10日の意味)を載せた。9・11テロを念頭に、「これ(8・10)がテロのカレンダーでは次の日になるはずだったのか」と見出しをつけた。

 保守系デイリー・テレグラフ紙は「英国生まれのテロリスト」とする見出しで、住宅街での大捜査の様子を伝え、テロリストが身近に潜むテロの恐怖を表した。

 財務省は8月11日、反テロ法の下、容疑者グループの資金凍結を決定。英中央銀行が対象者の氏名、住所、生年月日をホームページ上に掲載する、という前代未聞の行動に出た。

 この19人の中には17歳の男性もいた。英国では18歳未満までが少年・未成年として扱われ、実名、顔写真など個人情報の報道は原則として報道されない。しかし、犯罪の重大性などから公表したほうが公益にかなうと裁判官が判断すれば、実名報道が許される。

 中央銀行の情報開示を、政府側は「資金凍結となると、国内の多くの金融機関がかかわる。混乱を防ぐために情報開示が適切と考えた」と説明した。

 中央銀行の情報開示、リード内相の「主犯格は既に逮捕した」(11日)という発言が、当局からの情報公開への号令だったかのように、12日付けからは高級紙も含めた各紙は容疑者リストを掲載。数人は顔写真も掲載されたが、成人になってからの写真をメディア側が入手できなかったある容疑者の場合、少年時の顔写真が使われた。さらに、過去の恋愛歴、家族構成などの情報も出るようになった。

 ー法廷侮辱罪の可能性も

 過熱する報道に法廷侮辱罪に抵触する懸念を感じたゴールドスミス法務長官は12日、リード内相とともに、メディアに報道自粛を求めた。

 メディア法に詳しい弁護士のダンカン・ラモント氏は、ガーディアン紙のウェブサイトが提供する音声クリップ「メディア・トーク」(21日)の中で、政府が2つの相反するメッセージを発している、と指摘する。

 法務長官が報道自粛を呼びかける一方、内務省や警察側は容疑者の個人情報や、裁判になれば証拠として使われ、被告側に不利に働く可能性もあると思われる「殉教テープ」の存在など、捜査の過程で得られた膨大な量の情報をメディア側に流していたからだ。

 同氏は、今回のテロ報道が従来に比べ、法廷侮辱罪に問われない幅を極限まで広げたと見る。「テロ容疑者に関する情報を無制限に報道する前例を作ってしまった可能性がある」

 法廷侮辱罪はもう一つの動きも触発した。米ニューヨークタイムズ紙は28日、今回のテロ計画に関する記事に、英国からウェブサイトを通じてアクセスできないようにした。アクセス地域別に広告を切り替える技術を使い、英国からのアクセスを遮断したという。

 在英弁護士のマーク・スチーブンソン氏は、30日付のガーディアン紙で、情報はブログや電子メールを通じて世界中に伝わっていると指摘。「アクセスができないようにしたことが、逆に情報を英国に伝える役目を果たした」と述べた。


ー検証が本格化

 当局側が大量の情報を流す今回のような事件の場合、メディアはどうやって一定の距離を保つのか。

 英メディアは、記事中に事件名の前に、alleged(「-と言われている」)という言葉をよくつける。これにより、捜査当局発表の大規模テロ計画の実態は、証明されるまでは「疑惑」とし、書き手は中立の立場にいることを示せる。

 また、タイムズをはじめ高級紙の各紙は、当局側の説明の中で「何が自明で、何が未だに不明なのか」のポイントを囲み記事などにして掲載した。

 19日付のガーディアンは、テロ計画の現状を洗い直し、「数日続いた空港での厳重な検査体制は、必要なかった」と結論づけた。政府からの情報をうのみにはしていない、という姿勢を見せた。

 英ムスリム団体などから当初、「裁判の前にメディアが容疑者を裁いている」(BBCなど)と批判を受けた英テロ報道だったが、数週間後の現在、事件の検証作業が本格的に始まっている。

by polimediauk | 2006-09-13 22:41 | 新聞業界
(リンクを自由にしてよいとのメッセージを頂いているので、ここに紹介させていただきます。)

 9・11テロの陰謀説は根強いが、大手メディアではあまりまともに扱われていなかったように思う。

 こうした風潮に、やや変化がでてきた、というのが、「報道写真家から」ブログの主張だ。

 http://blog.goo.ne.jp/leonlobo

 これは、メディアが9・11事件の真相に気づいたとか、何かに目覚めたからではない。メディアは真相などとっくの昔に知っている。ブッシュ政権を取り巻く状況が変わったのだ。メディアは、いままでのように9・11はオサマ・ビン・ラディンと「アル・カイーダ」の仕業であるというシナリオを維持することに限界があると悟ったのだろう。あるいは、ブッシュ政権はいずれボロを出すと読んでいるか。


 このために、いわば、「保険をかける」感じで陰謀説を報道しだした、というのだ。

 理由はいろいろあるにせよ、米メディアの「微妙な変化」というのを、別の形で何となく感じていたので、読んでいて、どことなく、思い当たるふしがあった。ご関心のある方は、ご一読を。

 一方、オランダの「フォルクスクラント」紙も、11日付紙面で、陰謀説を検証していたという。証拠などを検証した上で、「不明な部分、つじつまの合わない部分はたくさんあるが、だからといって、陰謀があったとはいえない」という結論を出していたようだ。(ラジオネザーランドのお知らせメールによる。)

 昨日はやや体調をくずし、全てのメディアをチェックしていたわけではないが、5年経って、テロの戦争はまだ続き、オサマビンラーディンは捕まっておらず、世界はより安全にはなってない、という論調がインディペンデントなどにあった。

 12日付のテレグラフを読んでいたら、ブッシュ大統領が5周年記念のスピーチで、テロの戦争は文明への闘い(struggle for civilisation)と言っていたことを知った。自分たちの側に文明があり、相手側には文明が少ない・ない、ということなのだろうか?どうしていつも「こちら側とあちら側・敵と味方・我々と彼ら・白と黒」という形の物言いをするのだろう?

 ブッシュ政権側とアルカイダ(あるいは他のテロリスト側)とが両方で、「テロとの戦い・戦争」を盛り上げている、と思わざるを得ない。

 米国には米国の文脈、ものの考え方、アイデアの表現の仕方があるのだろう。間に入った日本(や他の国)は、どちらかを選ばなければならない、ということなのだろう。ため息が出るばかりだ。

 
by polimediauk | 2006-09-12 20:15 | 新聞業界
 今日は一日中、ブレアーブラウンの話しでこちらはではもちきりだった。

 ブラウン氏が首相になったら、どうなるのか?という話がちらほら出てきている。

  5日、元CIAエージェントのロバート・ベアという人の話を聞く機会があった。

c0016826_6415451.jpg 9月11日と18日、彼がナレーターとなって作った、チャンネル4から放映される、「自爆テロのカルトII」という番組を紹介するのが目的の集まりだった。

 番組は、英国の最初の自爆テロ犯の話から始まる。2人の男性は、イスラエルに行って、自爆テロを起こそうとする。一人は失敗し、逃げるが、海で死体となって浮いているところが後で発見された。

 番組は、2人が何故テロに走ったのかを丹念に追っていた。また、昨年のロンドンテロの自爆犯4人の生活の様子も、丁寧に追っていた。

 ベア氏は、米映画「シリアナ」の主人公(ジョージ・クルーニーが演じた)のモデルなった人、と言われる。白っぽい、こなれた感じのジャケットを着ていた。しゃべり方、ものの見方が、いろいろな物事を長年に渡って見てきた、探偵のような感じがした。

 番組の中でも、取材相手に、シンプルだが核心をつく質問を聞く。普通なら2,3回に分けて聞くようなことでも、一回で済む。しかし、全く攻撃的な質問の仕方をしない(英国ではジャーナリストは攻撃的な質問をよくするのだが)。全くの素人が、「ふと、疑問に思って聞いたみた」という聞き方をする。

 番組の中で、中東に何十年もいたベア氏は、90年代半ば、久しぶりにロンドンに来て、新聞販売店などで、過激主義思想の発行物が普通に販売されているのを見て、驚いた、という。ロンドンテロが起きたとき、多くの人は衝撃を感じたが、氏が観察したところに寄れば、過激主義の印刷物、モスクでの教え、ネットなど、勧誘の手があらゆるところにあふれていたと感じたという。

 話が進む中で、「外国人の目」だからなのかどうか、ロンドンテロの実行犯の一人が住んでいた場所の近辺の映像があって、いかに貧しい場所だったかが(全部がそういう場所ではないだろうが)、身に染みて分かった。戦前の日本みたいな感じの建物もあった。

 実行犯の一人がよく行っていた本屋、その上の階にあったスペースの中のコンピューターには過激主義の情報が一杯あった。

 調査が進むうちに、本当に、テロの「カルト」なのだ、ということが、説得力を持って迫ってきた。

 番組の中に出てきた、イスラム教徒の学者が、「自分で自分をテロ犯としてリクルートする」傾向を指摘した。

 爆発専門家の人は、「2日ぐらいで、スーパーなどで買った材料で、7・7テロの爆弾はできる」という。

 7・7テロ犯のような人物がまた生まれつつあること・・・これは止められない動きだなあと思いながら見ていた。

 番組が終わって、報道陣との一問一答になった。

―打つ手は無いのだろうか?

 ベア氏:2,3あることはある。まず、政府の中東政策、イラク政策を何らかの方向で変えていくことだ。中東で正義が行われるようにすること。つまり、イスラエルーパレスチナ問題の解決に向けての努力だ。また、イラクが内戦状態になっていることは誰の目にも明らかだが、米英政府はこれを認めようとしない。現実を見ようとしていない。このテロのカルトには中央で指令を送っている人がいないことにも気づいて欲しい。

―英国の情報・捜査当局は、大失態をした、と思うか?ロンドンテロを防げなかったという点で?

 ベア氏:というよりも、想像力に欠けている。どこにでも過激思想を広める印刷物、モスクでの説教などがあるのに、自国民の中でテロが起きると考えることができなかった。結びつけることができなかった。
 8月のヒースロー空港で起きたかもしれないとされるテロ未遂も、空港は人の出入りがあるし、テロリストが今度やるとしたら、地下鉄の次には空港と考えるのは自然だろう。簡単に結びつくのに。
 爆弾だって、すぐにできてしまう。ドラッグストアに行けば材料がそろう。ネットでも作り方がわかる。

―米国は何故オサマ・ビンラーディンを実物より怖い存在、大きな存在として扱うのか?テロの戦争、などと言うのか?

 ベア氏:それは、どうしたらいいか、分からないからだ。だから、そういうことを言うしかない。だって、何ができるというのか?テロの戦争でイラクに武力攻撃というのだから。イラクは自分もずっとウオッチしていた国だが、米国側にはイラクに対してまともな情報が全く無かった。戦争を始めるほどの情報はなかったんだ。それでも戦争を始めた。それで、(イラクのアルカイダのNO1といわれた)ザルカウイを殺して、うれしがっている。ザルカイを殺しても、すぐに次ができるのに。

 人々の頭の中にあるアイデアをミサイルで殺すことはできないのに。

―何故欧州の移民2世がテロに走るのか?

 ベア氏:最初の世代はルーツが元の国にあった。第2世代はそれがない。融合することが大事と言われているが、何に融合すればいいというのか?

―米国では移民がなじんでいるというが、欧州の場合をどう見るか?

 ベア氏:フランスもドイツも移民の問題を抱えている。米国ではイスラム教徒かどうかというよりも、人種のるつぼだから。

 英国は違う。多くの層が社会の中に存在している。例えばどのクラスに属するのか、オックスフォードやケンブリッジに行ったかどうか、とか。英国で新たに来た人が本当に中に入っていくのは難しい感じがする。
米国は表面的な文化だ。教育や社会的背景、宗教よりも、物質主義で、お金を稼ぐことが重要だ。

 フランスはもっと文化に自信を持っている。でも移民の融合は失敗していると思う。移民たちがあのパリ郊外のアパートに入って、出られない。あんなアパートは壊すべきだ。
これからは、どれだけ血が流れるか、だ。警察を使ってカルトを抑えようとしても、人々の頭の中に入っていくわけには行かないんだ。

 今怖いのは、この間のレバノン紛争で、ヒズボラが勝ったことだ。これだけイスラエルにダメージを与えることができたのだから、自信をつけている。そのうち、レバノン政府を倒そうとするかもしれない。政府が崩壊するところまで行くかもしれない。

 ロンドンでレバノンの人に会うと、どんな人でも、「ヒズボラはすごい」と言う。驚きだ。

―これからも同様のテロはロンドンにあるか?

 ベア氏:あると思う。
 米国でもそうだが、刑務所がテロ犯を育てる場所になっている。
1983年から、自爆テロ犯のプロフィールを研究始めた。頭がおかしい人たちではない。いろいろな理由で自爆テロを行うようになる。
 自分の宗教の存続があやういと感じるとき、人は過激主義者になる。

―モスクにいる、穏健なイスラム教徒が何かできるのではないか?

 ベア氏:確かにそうだが、青年達はモスクに行かない場合も多いし、他の人からのアドバイスは受けない。

―恐れが恐れを作ると思うか?空港テロ未遂を、英政府は「想像できないほどの大量殺りく」と言った。言葉がテロを作るのか?

 ベア氏;それよりも、例えば、取調べの一環で、警察が、あるイスラム教徒の家のドアを蹴る。こんなことが、警察に対する不信、憎しみ、テロにつながる。

――

心に残ったのが、カルトに染まった若者たちの、「思想を取り締まることはできない」という部分だった。
 
テロ取締り法にはまさに「考えただけで」「謀議をしただけで」逮捕される項目もある。テロ行為を称賛してもいけないのだ。もちろん、「会話に出てきた」ぐらいでは捕まらないのだが。

 もっと知りたい方に:
 ベア氏の過去の経歴
http://news.bbc.co.uk/1/hi/programmes/panorama/2549937.stm
http://news.bbc.co.uk/1/hi/world/middle_east/4748181.stm
著書(和訳)
「CIAは何をしていた?」
「裏切りの同盟」
by polimediauk | 2006-09-09 06:42 | 英国事情