小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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 NHKの番組改編問題で、東京高裁が29日判決を出したことを知った。ネットで記事を読んだだけだが、全体を理解するには再度読み直しが必要だ。

 それでも、最初に疑問に思ったのは、NHKバッシングなのかな、と。政治家の責任はどうなるのだろう?「番組作りは公平・中立にして欲しい」というリクエストを出した政治家は?政府高官からそう言われたら、かなりプレッシャーを感じるのは普通だろう。安部首相の進退にも関係するのかどうか知りたくてヤフーなどを見ていたが、どうもそういう議論にはなっていないようだ。

 実際の番組を見ていないことをお断りしておきたい。

 BBCと英政府の関わりと重ね合わせてしまう事件だが、おそらく、これは100%仮定の話だが、もしこういうことが英国で起きていたら、番組の編集内容に関して政府の高官がBBCの番組編集者と会っていたこと自体が問題になるのでは、と思ったりした。つまり、BBCの編集権に介入しようとするとは何事か、と。メディアの編集権、表現の自由が金科玉条のごとく扱われる(必ずしもいいとは言えないのだが)雰囲気が強いので、時の政府に都合が悪い・良いかを考えてメディア側が編集を変更してはいけない、という暗黙の了解があると思う。もちろん日本もそうだとは思うが。

 もう1つ、表現の自由に関する懸念も気になる。一般的な話だが、制作者側の表現の自由、編集権の自由の点だ。

 最後に(というほどでもないが)、「真実」は何だったのだろう?と多くの人が思うだろう。NHK側が「政治家に言われて、故意にセンシティブな部分を取った」「あえてそのことを取材された側に言わなかった」などなど、本当のことは誰が知っているのだろう。いろいろ、タブーのトピックが多いようだ。タブーがあることは日本だけではなく、欧州でも例えばホロコーストの否定など、そういうトピックはあるが。

 日本にいらっしゃる方のほうが詳しくご存知とは思うが、BBCと英政府の関係にどうしても重なって見える事件だ。

番組改編訴訟、NHKの賠償責任も認める…東京高裁
 NHK教育テレビが放送した戦争特集番組を巡り、制作に協力した民間団体などが「放送直前、当初の説明とは違う趣旨に内容を変更された」として、NHKと下請け制作会社2社に損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が29日、東京高裁であった。

 南敏文裁判長は、「NHKは国会議員などの『番組作りは公平・中立であるように』との発言を必要以上に重く受け止め、その意図を忖度(そんたく)し、当たり障りのないように番組を改編した」と認定し、民間団体側の期待と信頼を侵害したとして、NHKと制作会社2社に計200万円の賠償を命じる判決を言い渡した。NHKは即日上告した。

 一方、この番組に関して朝日新聞が2005年1月、「政治介入で内容が改変された」などと報道したことから、控訴審では政治的圧力の有無が争点となったが、判決は「(政治家が)番組に関して具体的な話や示唆をしたとまでは認められない」と介入を否定した。

 1審・東京地裁はNHKの賠償責任を認めず、下請け会社1社にだけ100万円の賠償を命じていた。

 問題となったのは、NHKが01年1月に放送した番組「問われる戦時性暴力」。判決によると、NHKの下請け会社は、民間団体「戦争と女性への暴力」日本ネットワーク(バウネット)が開催した「女性国際戦犯法廷」を取材する際、「法廷の様子をありのまま伝える番組になる」と説明して協力を受けた。

 しかしNHKは放送前に編集作業を繰り返し、「法廷」が国や昭和天皇を「有罪」とした個所などを省いて放送した。

 判決は、放送事業者の「編集の自由」について、「取材対象者から不当に制限されてはならない」とする一方、ドキュメンタリー番組や教養番組については「取材経過などから一定の制約を受ける場合もある」と指摘。その上で、「NHKは次々と番組を改編し、バウネットの期待とかけ離れた番組となったのに改編内容の説明も怠った」と、NHK側の責任を認めた。(2007年1月29日21時52分 読売新聞)


番組改編 NHKに2百万円賠償命令 「政治家発言」認定
1月30日10時20分配信 毎日新聞

 戦時下の性暴力に関するNHKの番組を巡り、取材協力した市民団体が「政治的圧力で事前説明と異なる内容で放映された」として、番組を改変(判決では改編)したNHKと制作会社2社に4000万円の賠償を求めた訴訟の控訴審判決が29日、東京高裁であった。南敏文裁判長は、NHK幹部が放映前に安倍晋三首相(当時は官房副長官)らに面談し「相手の発言を必要以上に重く受け止め、その意図をそんたくして改編した」と初めて認定し、NHKなど3社に200万円の支払いを命じた。NHKは即日上告した。

 1審・東京地裁判決(04年3月)は、取材を担当した制作会社ドキュメンタリー・ジャパンのみに100万円の賠償を命じ、NHKとNHKエンタープライズの責任は認めていなかった。

 問題とされたのは01年1月30日に教育テレビで放映された「ETV2001 問われる戦時性暴力」。「戦争と女性への暴力」日本ネットワーク(バウネット)が00年12月に開いた「女性国際戦犯法廷」を取り上げたが、「ありのまま伝える」との事前説明と異なり旧日本軍の性暴力被害者の証言や判決がカットされたとして同ネットが訴えた。

 判決はまず、放送事業者の編集権は憲法上尊重されるとしながら、ニュース番組と異なり本件のようなドキュメンタリー番組などでは「特段の事情」がある場合、編集権より取材対象者の番組への期待と信頼が法的に保護されると1審と同様の判断を示した。今回は取材の経緯から「特段の事情がある」とし、その上で、番組改変は「期待と信頼を侵害した3社の共同不法行為」と認定。内容変更を原告側に伝えなかったことも「説明義務違反」と指摘した。

 改変の理由について判決は「NHK予算の国会審議に影響を与えないように、説明のため松尾武放送総局長(当時)らが安倍官房副長官(同)らと接触した際『公正中立な立場で報道すべきだ』と指摘された。発言を必要以上に重く受け止め、当たり障りのない番組にすることを考え、現場の方針を離れて編集された」と認定した。一方で「政治家が番組に関して具体的な話や示唆をしたとまでは認められない」と直接的な圧力は否定した。

 NHKは「編集の自由」を主張したが、判決は「改編は自由の乱用」と退けた。【高倉友彰】

 ▽NHKの話 判決は不当で極めて遺憾。直ちに上告手続きを取る。取材相手に期待権が生じるとしたが、番組編集の自由を極度に制約する。国会議員らの意図をそんたくして編集したと一方的に断じているが、公正な立場で編集した。
 ▽NHKエンタープライズの話 番組取材、編集、表現の自由を制約する判決で、到底認めることはできない。直ちに上告の手続きを取る。
 ▽ドキュメンタリー・ジャパンの話 判決は表現の自由の根幹を成す取材の自由を脅かすもので到底受け入れがたい。

 ■解説 裁判所が「期待権侵害と説明義務違反の両方認める」
 東京高裁判決は、(1)NHKは市民団体(バウネット)が抱いた番組内容に対する期待権を侵害した(2)NHKは、事前説明とは異なる番組となったにもかかわらず、その変更について放送前に説明しなかった--の2点において不法行為責任を認めた。事前に説明を受けていれば、市民団体側は、取材を受けないなどの判断ができたり、問題を他の報道機関に明かすことなどができたが、その機会を奪ったというわけだ。弁護団によると、期待権の侵害と説明義務違反の両方を裁判所が認めたのは初めてという。
 期待権について判決は「ニュース番組とは異なり、ドキュメンタリー番組、または教養番組では取材される者の重大関心事」だとして、報道とは区別する姿勢を示した。だが、判決は違いの理由を示さず、期待権が発生する条件についても「特段の事情がある場合」としただけで、具体的な基準を示さなかった。元共同通信編集主幹でジャーナリストの原寿雄さんは「説明責任を果たすべき立場にある政治家や官僚など公人に対する取材活動にもこの理屈が認められると、真実を追究するための取材に支障が出る恐れがある」と指摘する。報道機関への萎縮(いしゅく)効果も懸念される。
 取材の結果、当初の狙いとは異なる番組や記事になることはある。NHKによる期待権の侵害や説明義務違反は、本来、ジャーナリズムの倫理として論議する問題だ。【臺宏士】
 ■NHK番組改変訴訟の東京高裁判決の要旨は次の通り。
 《期待を抱く特段の事情》
 放送事業者の編集の自由は憲法上も尊重されるべき権利で、取材対象者が番組に何らかの期待を抱いたとしても、番組の編集、制作が不当に制限されてはならない。他方、どう編集されるかは、取材対象者が取材に応じるかどうかの意思決定の要因となり得る。この両面を考えると、取材者の言動により取材対象者がそのような期待を抱くのもやむを得ない特段の事情が認められるときは、取材対象者の番組への期待と信頼が法的に保護されるべきである。
 被告の説明や取材、原告の協力にかんがみれば、番組は女性法廷の判決までの過程を、被害者の証言を含め客観的に概観できるドキュメンタリーか、それに準じる内容になるとの期待と信頼を、原告が抱くのもやむを得ない特段の事情が認められる。

 《期待、信頼の侵害と理由》
 放送された番組はドキュメンタリーとはかい離し、原告らの期待と信頼を侵害するというべきである。NHKは01年1月26日、普段立ち会いが予定されていない松尾武放送総局長、国会担当の野島直樹総合企画室担当局長が立ち会って試写を行い1回目の修正がされ、修正版について現場を外して2人と伊東律子番組制作局長、吉岡民夫教養番組部部長のみで協議し、その指示でほぼ完成した番組になった。さらに放送当日に松尾総局長から旧日本軍兵士と元慰安婦女性の証言部分の削除が指示され、最終的に番組を完成しており、本件番組は制作に携わる者の制作方針を離れて編集されていったことが認められる。
 その理由を検討すると、番組放送前に右翼団体から抗議されNHKが敏感になっていた折に、予算の国会承認を得るため各方面へ説明する時期と重なり、番組が予算編成に影響を与えないようにしたいとの思惑から、説明のため松尾総局長と野島局長が国会議員と接触した際、相手から番組作りは公平・中立であるようにとの発言がなされた。2人が相手の発言を必要以上に重く受け止め、その意図をそんたくして当たり障りのない番組にすることを考えて試写に臨み、その結果、改編が行われたと認められる。
 原告らは政治家が番組に対し直接指示をし介入したと主張するが、面談の際に一般論として述べた以上に政治家が番組に関し具体的な話や示唆をしたことまでは認めるに足りない。

 《説明義務違反と不法行為》
 番組制作者や取材者は特段の事情がある時に限り、内容や変更を取材対象者に説明する義務を負う。本件で原告は番組内容に期待と信頼を生じ、特段の事情がある。被告が説明義務を果たさなかった結果、原告は番組からの離脱や善処申し入れの手段を取れなくなり、法的利益を侵害された。
 NHKは番組改編を実際に決定して行い、放送したことから、原告の期待と信頼を侵害した不法行為責任を負い、説明義務を怠った責任も負う。NHKは制作担当者の方針を離れてまで国会議員の意向をそんたくして改編し、責任が重大であることは明らかである。

by polimediauk | 2007-01-30 20:04 | 日本関連

英王室報道 盗聴事件


 最近、英国の王室報道が問題になっている。

 26日には日曜に出る大衆紙「ニューズ・オブ・ザ・ワールド」の王室報道記者クライブ・グッドマン氏に、チャールズ皇太子側近の携帯電話に残されていた音声メッセージを盗聴していたとして、4ヶ月の禁固刑が下った。罰金を払う、あるいは処罰として奉仕活動に従事する、などを本人側は想定したようだが、実際には厳しい判決が下った。

 また、実際に盗聴活動に携わっていた、探偵のグレン・マルケア氏にも6ヶ月の禁固刑。

 判決が下りた時点で、ニューズ・オブ・ザ・ワールド紙の編集長アンディー・クールソン氏は辞任した。

 関連の記事を全部は見ていないのだが、モラル面の話よりも2つの論調が気になった。

 1つは、グッドマン氏は約10万ポンド(約2千万円)の資金を経費として使っており、これは相当大きいので編集長は知っていたとして、上司の責任を問うものだ。「上」は編集長どまりなのか、それとももっとずっと上まで行くのかどうか。何が起きているか知っていながらやらせたとしたら、処罰が下るのはグッドマン氏、マルケア氏だけで十分だろうか?プレスの報道苦情委員会が、元編集長のクールソン氏を呼び状況を聞く予定だ。

 もう1つは、「盗聴はどこでもやられている」というもの。様々なスクープ記事が(全てではないが)実は盗聴を通して実現しており、捜査当局などもこの手を使っている、と指摘する人がいる。つまり、今回禁固刑にまで行ったのは、グッドマン氏が一連の盗聴でスクープを出せなかったからで、出していたら、大きなニュースにならなかった、というもの。随分シニカルな見方だが、英新聞業界では、とにかく市場原理が何事をも決定する傾向がある。

 インディペンデント・オン・サンデー紙(28日付)は、「この新聞は個人の会話を盗聴するようなことは絶対にしない」と社説で書いている。

 27日のデイリーテレグラフ紙はどうやって盗聴したかの手口をかなり詳しく書いていた。同様の手口が取られない様に、携帯電話会社はシステムを変えたと言うが、果たして大丈夫か、と心配にもなった。盗聴がばれたのは、電話に残っていた音声メッセージの中で、初めて聞くメッセージなのに既に聞いたメッセージとして扱われていた(つまり記者や探偵が最初に聞いていたので)ことから発覚した、と書かれてあった。
by polimediauk | 2007-01-30 04:06 | 新聞業界

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 ・・と書いてもやや何やら分かりにくいが、英領北アイルランドで、アイルランド共和国との一体化を目指してきたシン・フェイン党が、やっと北アイルランドの警察を承認することに多数決で決めた、ということ。

 これがとても大きなことなのだ。

 北アイルランドではアイルランドとの一体化を目指すカトリック系住民と、英国にとどまることを望むプロテスタント系が長い間いがみ合いを続けてきており、警察はほとんどがプロテスタント系だった。カトリック系住民は警察にたよらない、ということになっている。警察は英国政府寄り、プロテスタント寄りだからだ。

 2002年から北アイルランドの自治政府は崩壊してきたが、今これを再開させるために努力が続いている。

 シン・フェイン党が警察を承認した、と言うのは、このための大きな一歩だ。

 アイルランド共和国の首都ダブリンで党大会があって(シンフェイン党は北アイルランドばかりでなく、アイルランド共和国にもまたがって勢力を持つ)、多数決がとられ、承認が多数を占めた。

 シンフェイン党の党首ジェリー・アダムズ氏は、「今日、党員の皆さんは、この島(=アイルランド)の政治を永遠に変える可能性を作った」と述べた。カトリック系とプロテスタント系の「歴史的妥協」だと。

IRA政治組織、警察承認を決定=和平交渉進展へ-英領北アイルランド
1月29日8時1分配信 時事通信
【ロンドン28日時事】英領北アイルランドの和平交渉で最大の障害となっていた警察承認問題で、カトリック系過激組織アイルランド共和軍(IRA)の政治組織シン・フェイン党は28日、アイルランドの首都ダブリンで特別党大会を開き、北アイルランド紛争で宿敵と位置付けてきた北アイルランド警察に今後は協力していくことを賛成多数で決めた。同党にとって大きな方針転換となり、和平プロセスの進展が期待される。 

by polimediauk | 2007-01-29 09:00 | 政治とメディア

報道した後で犯人ではなかったら、どうするか?

 年末から年頭にかけて、売春婦連続殺人事件が英国で起きた。その時の過熱報道の是非に関して「新聞協会報」(1月16日付)に書いた。

 (以下はその記事に加筆したものです。)

英・連続殺人事件
 容疑者報道が過熱化 ネット公開の情報利用し

 19世紀の「切り裂きジャック」事件を思わせるような連続殺人事件が昨年秋から年末にかけ、英国で発生した。容疑者として逮捕された男性に関する大量の個人情報が報道され、当局は何回も自粛をメディアに求めた。しかし、個人がウェブサイトで情報を公開することが一般化するなか、法廷侮辱罪を理由にした自粛の実効性と人権の問題が問われた。

 5人の犠牲者はいずれも、英東部サフォーク州イプスイッチの売春婦。昨年10月30日以降、相次いで失踪し、12月中旬までに5人の全裸の死体が近辺で見つかった。この内の一人は、2人の死体が発見された後で、英民間テレビITVのレポーターに取材されており、「身の危険を感じているが、麻薬を入手するために、通りに出て客を取るしかない」と話していた様子を、私自身、覚えている。

 容疑者が逮捕される12月18日前後から、個人的な情報が大量に流された。これには、いくつかの要因がある。まず、死体が売春婦が多い地域の近辺で発見され、報道機関は狭い地域を集中して取材できた。この過程で逮捕前の容疑者にも接触し、独自に多くの情報を入手できた。また容疑者はSNSサイト(MYSPACE)に写真や個人的な情報を公開し、転載も容易だった。

  12月17日付のサンデー・ミラー紙は、37歳の元スーパー店員、トム・スティーブンス氏のインタビュー記事を掲載した。スティーブンス氏は5人の女性全員を知っており、アリバイがなく、「自分が犯人と思われても仕方ない」ことを述べていた。その前週にBBCも、裏づけ取材の一環として、同氏のインタビューを録音していた。

 地元警察は翌日、「37歳の男性を容疑者として逮捕した」と匿名で発表した。当局はあくまでも数人の容疑者の中の一人であること、犯人である確率は50%ほどであることを述べたが、メディアがこの男性の身元を割り出すのに時間はかからなかった。スティーブン氏の自宅の前には捜査官が群がり、通りは通行止めになっていたからだ。

 BBCは逮捕当日から、容疑者の声をテレビやラジオ、ウェブなどで流した。メディア法を専門とする弁護士らは、法廷侮辱罪になるとして、これを批判した。これに対しBBCは放送は「公益にかなう」と反論した。

 12月18日付BBC電子版によると、スティーブンス氏は音声を「放送しないよう要請していた」ため、倫理的な観点から放送の可否を検討。連続殺人事件という状況のなか、容疑者の肉声を録音したテープがあるという「非常に珍しい環境」を考慮に入れ、放送に踏み切った。(この判断はかなり重みのあるものではないかと今でも思う。常に「今回は特別」ということで境界線が押し広げられているのが現状だ。)

 新聞各紙も高級紙・大衆紙を問わず、スティーブンス氏が犯人であることを前提に19日付の紙面を制作した。同氏がSNSで公表する個人情報、写真が使用された。

 ゴールドスミス法務長官は、報道が過熱気味だとして、自粛を数回にわたり求めた。州警察も各紙の編集長あてに書簡を送り、自粛を求めている。

 12月19日、事態は意外な展開を見せる。元トラック運転手のスティーブ・ライト氏(48)が二番目の容疑者として逮捕、21日には起訴されたのだ。スティーブンス氏は保釈されてしまった。最初に容疑者とされた同氏の個人情報を多く露出させたメディアの責任はどうなるのか。

 BBC(22日付電子版)によると、英国法廷弁護士評議会のジェフリー・ボス氏は、「公的利益のために」情報を提供する、という役割をメディアが果たした点を評価している。

 一方、12月22日付のガーディアン紙でコラムニストのマーク・ローソン氏は「例え法務長官や捜査当局が報道の自粛をしても、逮捕された者の隣人や親戚がウエブサイトに情報を出してしまう」ことができる時代になっていることを指摘。「ジャーナリストが無責任に情報を出しているのではなく、多量の情報が既に公開されている」。

 「個人がこれほど情報を公開している現在、一旦非常事態になったからといって、匿名にすることは不可能ではないか」と問う。

 また、重要な問題は、「法廷侮辱罪にあたるかどうかではなく、逮捕されてから、あるいは起訴された後でも無罪になった時に、犯人扱いのメディア報道がその人の人生にどんな影響が及ぶかだ」という。「オフ・レコとされたインタビュー内容が公開され、個人的な出来事が新聞の一面で報道されるなら、一旦容疑者とされてしまったら、全く人権がないことになる」。

 容疑者に関する情報をメディア側が多量に入手しているとき、及び容疑者自身が個人情報を既に公開していたとき、「報道自粛」はどうあるべきなのか、課題を残した事件となっている。

 ライト氏は、12月22日、今年1月2日とイプスウイッチ治安裁判所に出廷した後再拘留中で、次回は5月1日出廷予定となっている。現時点で、氏が犯人だったという証拠は出ていない。(終わり)

(追記)
 タイトルに「報道した後で犯人ではなかったらどうするか?」と書いたが、私もどうしたらいいか、分からないのである。しかし、メディアは罪深い存在になると思う。故意にメディアがそうしているのではないとしても。責任は重い。
by polimediauk | 2007-01-25 03:03 | 新聞業界
 
市民10万人が集まったことの衝撃

  (体調を崩したのと少し調子が良くなると外に出かけている内に大分間が開いてしまい、大変恐縮です。)

 欧州に住んでいるとトルコのことが気になり、昨年末トルコに行ったせいもあって、知識は少ないのにますます気になっている。

 と思っていたら、アルメニア人の虐殺に関して書いたジャーナリストが銃殺された。

 読売新聞から拾ってみたい。

記事に民族主義者ら反発?トルコで編集者銃撃され死亡
 【カイロ=長谷川由紀】トルコからの報道によると、同国の最大都市イスタンブール中心部で19日、アルメニア系トルコ人ジャーナリスト、フラント・ディンク氏(53)が頭などを撃たれ、死亡した。
 ディンク氏は、トルコでタブー視されている、20世紀初めにオスマン帝国で起きた「アルメニア人虐殺」に関する記事や言動で知られ、民族主義者らから反発を買っていた。
 ディンク氏はトルコ語とアルメニア語の2か国語週刊紙「アゴス」の編集長。アゴスの事務所がある建物を出たところを、若い男に銃撃されたという。
 トルコ政府は「虐殺」を否定しており、同国では虐殺を認める発言や文章の発表は、国家を誹謗(ひぼう)した罪に問われる。ディンク氏は何度か起訴され、昨年、有罪判決を受けた。
  トルコが加盟を目指す欧州連合(EU)は、アルメニア人虐殺問題を含め、トルコ側に言論統制緩和を求めている。エルドアン首相は「民主主義と言論の自由に対する銃撃だ」と犯行を非難したが、事件は政権にとって痛手となりそうだ。(1月20日)


記者殺害、逮捕の少年「民族主義組織が依頼」…トルコ
 【カイロ=岡本道郎】イスタンブールからの情報によると、アルメニア系トルコ人のジャーナリスト、フラント・ディンク氏が同市で殺害された事件で、殺人容疑で逮捕された無職少年(17)は、21日までのトルコ捜査当局の調べに対し、知り合いの民族主義組織の首領にディンク氏殺害を依頼され、この男から渡された銃で殺害したと供述していることがわかった。
 22日付トルコ有力紙ヒュリエトが報じた。
  この首領は、少年と同じ黒海沿岸トラブゾン出身のヤシン・ハヤル容疑者で、すでに拘束されている。同容疑者は、少年に銃と旅費を渡して殺害を依頼した事実を認め、「少年は任務を果たし、トルコの名誉を守った」などと供述しているという。
  同容疑者は、2004年にトラブゾン市内の米ハンバーガー店マクドナルドに爆弾テロを仕掛け、約10か月服役した後、地元で10代の若者らを集め民族主義組織を結成。トルコ政府が否定する20世紀初頭の「アルメニア人虐殺」についての言動を繰り返していたディンク氏を敵視し、「政府が(同氏に)何もできないのなら、我々が排除する」と手下に語っていたという。
 逮捕された少年はまた、「自分は足が速いから(実行犯に)選ばれた。後悔していない」などと供述しているという。(1月22日)


トルコのジャーナリスト殺害、葬儀に市民10万人
【カイロ=岡本道郎】イスタンブールで無職少年に殺害されたアルメニア系トルコ人ジャーナリスト、フラント・ディンク氏の葬儀が23日、同市で行われ、市民10万人以上が非業の死を悼んだ。
 20世紀初頭のオスマン帝国によるアルメニア人大量殺害が「虐殺」だったと主張しながら、同時に、トルコ国民としてトルコを愛し、トルコとアルメニアの懸け橋としての役割を担ってきたディンク氏暗殺は、欧州連合(EU)加盟を目指すトルコに大きな衝撃を与えており、その死の意味をめぐる論議がしばらく続きそうだ。
 「銃弾はトルコに向けて撃たれたのだ」――有力紙サバーハのファティフ・アルタイル編集主幹は22日付社説でこう訴えた。同主幹は、ディンク氏がアルメニア人「虐殺」の事実を追究する一方で、この問題をトルコのEU加盟の可否に結びつけようとする欧州諸国を「非倫理的」と批判してきた事実に言及。同氏はアルメニア系トルコ人の「理性の人」だったとして、同氏の殺害を「トルコの敵の仕業」と糾弾した。
 「少数派アルメニア人記者の民族主義者による暗殺」という事実は、トルコのEU加盟に反対する欧州諸国が常用する「欧州とは異質の国」という悪いイメージを植え付ける格好の材料を与えることになった。国粋主義に傾倒した17歳の少年による犯行という事実も、トルコ社会が潜在的に持つ「非トルコ的なもの」への敵意が暴発してしまった意味で深刻だ。
 それだけに、トルコ国民が事件から受けた衝撃は大きい。23日の葬儀に集まった人々の多くは生粋のトルコ人だった。「我々はみんなアルメニア人だ」とのプラカードを持ち、ディンク氏とアルメニア人への最大限の連帯を表明。トルコ政府も、外交関係のないアルメニアのキラコシアン外務次官を葬儀に招待した。
 トルコのチチェク法相は23日、トルコを侮辱した者は懲役6月~3年とする刑法301条の改定論議に着手する方針を明らかにした。事件を機に、トルコ、アルメニア両民族が和解の機運をつかめるかどうか、EU加盟交渉の行方にも影響するだけに注目される。(1月23日)


 葬儀に集まった人々のほとんどが生粋のトルコ人で、「我々はみんなアルメニア人だ」と書いたプラカードを持った・・・というエピソードにほろっとした。

 イスタンブールは私が見たところトルコの中でも最も国際的な都市で、結構「クール」な人も多かった。

「私たちは西欧人と全く変わらないんだ」「表現の自由は西欧と同じぐらいあるんだよ」「イスラム教徒って言ったって、みんな自由なんだから。拝みたい人は拝みたければいいし、そうしたくない人は心で思っていればいいんだよ。アルコールだって飲むか飲まないかはその人の自由なんだ」と言っていた、イスタンブールに住む人たちは今どうしているか。

 殺されたジャーナリストの葬儀に10万人が集まったと言うのはどうやって数えたかは分からないが、これは相当大きい。かなりの衝撃だったことになる。実際に行かなくても心はそっちに行っている人もかなりいるだろうから。よっぽど衝撃だったのだ。

 BBCによると、トルコの新聞は各紙この殺害を非難したという。

 ここ2週間ほど、コンピューターに向かうのがつらかったので、横になりながらトルコの作家オルハン・パムクの「雪」と「私の名は紅(あか)」(和訳)を読んでいた。トルコのことが知りたくて読んでいたのだが、今回の銃殺はまるで「雪」の一場面のようだった。クーデターが起きて、いろいろな人が銃殺され、民族主義者やイスラム教原理主義者がそれぞれ対立する。(小説の好きな方は、書店でめくってみてください。「私の名は・・・」の方を特におすすめしますが・・・。)

  ジャーナリスト殺害の容疑者はーー10代の若者らを集め民族主義組織を結成していたという。トルコ政府が否定する20世紀初頭の「アルメニア人虐殺」についての言動を繰り返していたディンク氏を敵視し、「政府が(同氏に)何もできないのなら、我々が排除する」と手下に語っていたーーという箇所が上の記事の中にあったが、こういう感情、こういう動きがトルコでは非常にリアルに存在しているのが、2冊の小説を読んだ限りでは、そして私の短い旅行から得た印象ではやはりそうなのだ、と思ったりもした。

 これが何か良い動きにつながるといいのだが。





 








 
by polimediauk | 2007-01-24 08:53 | トルコ
 
 これまで、キューバにある米グアンタナモ収容所に関して何度となく書いてきたが、どうしても日本の方からするとピンとこない部分があったのではないかと思われる。

 ライブドアニュースを見ていたら、釈放された英国人2人が映画の紹介で来日したという。あの映画に字幕をつけて公開する所までもっていった人がいることに感銘。

 http://news.livedoor.com/article/detail/2977669/

 http://www.guantanamo.jp/

 27日から、日比谷シャンテ他で公開予定という。〔英語版ではネットでダウンロードして買えるはずだが・・・。)

 〔追記)
 昨年3月にこの映画に関して書いた。
http://ukmedia.exblog.jp/m2006-03-01/#3639995

 


 
by polimediauk | 2007-01-14 22:13 | 政治とメディア


 (ブレア英首相がスピーチをして、「テロの戦争」、「2001・09・11から世界が変わった」と述べている。こういう言葉を使っている限り、「テロの戦争」は永遠に続くかもしれない。あまりにもブッシュ米大統領と同じ言葉を使っているので、がっかりだ・・・・。このような言葉づかいが返ってアルカイダなどのテロ集団(アルカイダが一つのまとまった組織かどうかは別としても)を宣伝していることになる、ということが幾度となく在英シンクタンクなどで指摘されてきたのだが。
http://news.bbc.co.uk/1/hi/uk_politics/6254253.stm)

                  *****


 英週刊誌「エコノミスト」が新しい編集長になって約10ヶ月経った。前任者は日本に関する本などを出して著名なビル・エモット氏。今はどうなったのだろうと思っていたところ、12日、ロンドンの外国プレス協会で外国人報道陣と話す機会が設けられた。

 新編集長の名前はジョン・ミックルスウエイト(John Micklethwait)。ちょっと発音がしにくい。19世紀半ばに創刊されたエコノミストは、彼が16代目の編集長となる。
.
 当初は2万部ほどの発行部数で、現在は約100-150万部。約60万部が米国で、16万が英国で売れている。他は他の欧州や世界の各地で。

 英国では(世界中各国でも)新聞の発行部数減少の傾向があるが、エコノミストの場合毎年約7-8%伸びていると言うから、うらやましいと思う出版人もいるだろう。購読費だけで経費をまかない、通常どこも赤字のネットサービスからも利益が出ているという。

 1月8日のインディペンデント紙の記事によると、サンデー・タイムズ紙の元編集長アンドリュー・ニール氏は、エコノミストのことを「最も成功している、世界的なブランド」と呼んだ。

ミックルスウエイト氏は44歳でオックスフォード大学のマガダレン・カレッジ出身。(確かエモット氏もこのカレッジだったと思う。)大学卒業後は2年間、チェース・マンハッタン銀行に勤めた。米国の政治に関する本も出している。「The Right Nation: How Conservatism Won」

 プレス協会に来たミックルスウエイト氏はさまざまな点に触れたが、ここ10ヶ月を振り返り、変わったところと変わらないところがある、という。

 変わったのは、勤務するスタッフの異動。約25人が去り、新しい人が入ってきた。新しい国際のセクションを作った。変わらないところは社会リベラル派という創刊からのスタンスで、奴隷制度、死刑などに反対の立場を取る。また、どこの団体にも影響されない独立メディアだという。

 最大の脅威は(これは前にタイムズ紙の編集長も言っていたのだが)ネットだという。編集長になるまでは、ハリケーンが来た!という感じでどうしようと思っていたが、今はウエブのレイアウトを工夫し、ブログも始め、「ネットに関して前よりはもっと楽観的になった」。

 前よりも楽観的な理由の1つは、20-30代の読者を見ていると、ネットで情報を取っているものの、だからと言って週刊誌を読まなくなっているわけではなく、エコノミストも販売を伸ばせると考えるようになったと言う。

 しゃれた文句がつくエコノミストの表紙の決めセリフや扱うトピックは最終的には自分で決めるという。

 たくさんの記事が出ているが、編集長あるいはデスクが「こういうのを書くように」と依頼するよりは、書き手のスタッフが書いたものを上にあげる、供給型だそうだ。毎週水曜と木曜日を中心に大量の記事を読み、印刷版に関しては出る前にすべて読むけれども、ネットで先に出るものなどは、出てから後で読む場合もある。

 毎週月曜日、70人いるジャーナリストの中で50人ほどが編集会議に出る。ミニ編集会議は金曜日にもある。

 中国の報道は増えているけれども、経済大国日本の報道の量を減らすことは考えていないという。

 エコノミストの記事には署名がなく、文章に統一感がある理由を聞かれ、「全員がそれぞれの記事の編集をするプロセスがあり、次第に統一感が出ている」、という。しかし、編集スタッフ同士では、誰がどれを書いたのかは分かるそうだ。

 外国特派員を減らすか増やすかと聞かれ、「増やした」と言う。かつては現地採用の外部スタッフが書いた記事を使っていたこともあるが、今は自社スタッフを特派員として置く方に力を入れているという。

 今回の聞き手は外国特派員などが主だったので、ここがちょっとしたハイライトになった。

 ミックルスウエイト氏は、特派員を置くことで、「個人的な体験を入れることができる」とする。氏は、ロンドンにいながら米国担当デスクだったことがあったという。すると、現地からいろいろな記事が送られてくるし、ウエブでさまざまな情報にアクセスできた。しかし、「通りの人の声が聞こえなかった」。

 例えば、氏はあるときニューヨークに行った。そこで、市内のバスがたくさん走っていて、どのバスも「イーベイやドット・コム企業の宣伝が車体に載っていた」。この光景を見て初めて、いかに米国でネット企業が身近になっているか、人気になっているかが実感として本当に分かったと言う。

 「そこにいることが大事なんだ」。

 私を含めたその場にいた人々にとって、これは格別な意味合いを持って響いたのではないかと思う。

 ロンドンにいることの利点を聞かれ、「本当におもしろい場所だと思う」。

 「世界を英国の視点からだけでなく、さまざまな視点で見ることができる。通りに出れば、さまざまな言語、例えばアラビア語やあるいはアジアの言語を人が話しているのを聞ける。英国人は他国から来た人と一緒にいることを楽しむ。寛容とオープンさがある」、という見方を述べた。

 
by polimediauk | 2007-01-13 01:36 | 新聞業界

c0016826_20283569.jpg 大分前の話になるが、英国に住む人の頭から未だに離れないトピックが、イラク戦争開戦までの経緯だ。

 イラクの大量破壊兵器が「ある」「ある可能性がある」ことを前提に、2003年のイラク戦争開戦まで持っていたブレア英首相の「嘘」(「当時はみんなあると思っていた」と発言)。これに対し、「イラクの脅威を誇張していた」と報道したBBCは、「誇張をしていなかった」と結論づけた2004年の「ハットン報告書」で危機状態に見舞われる。当時の経営委員長と社長(会長という呼び方をすることもある)がダブル引責辞任している。

 経営委員長と社長とがほとんど同時に引責辞任するというのはBBCの歴史が始まって以来初めてのことだった。

 当時の社長はグレッグ・ダイクという人で、後にこの経緯を本にも書いた。(和訳もされている(「真相―イラク報道とBBC」。)

 ダイク氏は「報道の信憑性を信じる」という側に立って政府側と闘ったのだが、ハットン報告書の結末に、BBC全体が動揺。「誇張があった」という結末になるものだとばかり、みんな思っていたからだ。また、「誇張があった」とはっきり書かなくても、喧嘩両成敗というか、「政府側にも至らないところがあった」という結論になるだろうと予測されていた。

 しかし、ハットン報告書はBBC側の編集体制の不備を一方的に責めるような内容になった。(今から考えると、ハットン報告書は一つの見方であったに過ぎず、この後で「バトラー報告書」が開戦に至る諜報情報を精査して、実際のところいかに情報があやふやなものだったかがはっきり示され、実質的にBBCの報道が正しかったことが分かるのだが、当時は多くの人がハットン報告の内容に衝撃を受けてショック状態だった。)

 既に経営委員長は辞表を提出しており、ダイク社長がどうするか?が注目されていた。

 ダイク氏は辞めたくなかったのだが、BBCの経営委員会でそれが通らず、いろいろな議論があって、結局、辞表を出し、これを経営委員会が受け取らない、つまり、「そこまで覚悟しているのか。でも辞めなくていいよ」という展開になるだろうと思っていたという。ところが、委員会がこれを受けてしまい、本当に辞職せざるを得なくなった。その後でさらに「戻りたい」とお願いするのだが、これも不可になった。

 ・・・という経緯が氏の本の中に書かれているのだが、昨日、この経営委員会の議事録が公表された。

 本を読んでいれば特に目新しいことはないようだ。しかし、今回の公表で新しいことがいくつかある。

 BBCのニック・ダグラス記者が丁度この点について書いている。

http://news.bbc.co.uk/1/hi/entertainment/6254307.stm

 この議事録が公開されたのは、ガーディアン紙が、情報公開法に乗っ取って公開を求めた結果だった。BBCは受信料で運営されている公共団体であり、国民=受信者がその運営の詳細に関して知る権利があるが、BBC側は公開を渋ってきた。経営委員会(現在はBBCトラストという名前になっている)のメンバーが、議論の内容が後で公開されるとなった場合、発言がしにくくなる、と思われたからだ。

 情報公開コミッショナーという、この法律がいかに実行されているかを管理する組織のトップも、公開しないというBBC側の判断を支持した。

 ガーディアンは裁判所にこの件を持ち込み、裁判官がハットン事件は「特別の意味合いがある事件」として公開を命じた、という経緯があった。

 そこで現BBCトラストが議事録を公開したが、ガーディアンが求めていたのは、ダイク氏の辞任願いを受けるまでの話し合いの部分(2004年1月28日)だったが、ダイク氏が「もう一度社長に戻りたい」といったため、これを話し合った議事録(2月4日)も「自発的に」公開した。

 ダグラス記者が指摘しているのは、BBCは今回のように他のメディアから情報公開を要求される存在という面と、BBC自体がメディアなので政府機関などに情報公開を要求する側でもある、という点だ。なるほどな、と思った。
by polimediauk | 2007-01-12 20:38 | 放送業界

c0016826_23122419.jpg

         (昨年2月のロンドンでのデモの様子)

 何度もしつこく書いてきたが、デンマークの風刺画掲載が大きな論争として世界中に波紋を広げてからそろそろ1年が経つ。2006年1月、ノルウエーの「マガジネット」が再掲載したのがきっかけだった。2月になって、フランスやドイツの新聞もこれにならい、どんどん広がっていった。

 現在デンマークではどのような状況になっているのかを、インタビューを中心として、オンラインの「ベリタ」に出す予定で、今日からその第1回が始まった。(ご興味のある方はwww.nikkanberita.com)昨年2月、9月、10月、そして今年になってからも取材を続けた分をまとめたものだ。デンマークの話が中心だが、話を世界に広げると、様々な見方ができて、一人では難しかった。イスラム教世界対欧州社会(=キリスト教世界)の価値観の衝突、という面もあったわけだが、これはデンマークだけに固有の問題ではない。今後もきっと何らかの形で同様の現象があるだろう。

 「論争」というレベルだけでなく、未だに事件の影響下にいる人たちもいる。

 例えば、イエーメンでは、イエーメン・オブザーバー紙に風刺画を再掲載した(昨年2月時点で)編集長ムハンマド・アッサディ氏が、イスラム教を侮辱した罪で、罰金の支払いを命じられている。これが昨年の12月。11月には、また別のイエーメン紙(アルライアラアーム紙)の編集者カマル・アルアラフィ氏が、1年の禁固刑を命じられている。氏は控訴の予定であるという。(BBC)

 私にとってショッキングだったのは、ある英国人男性が、昨年2月の風刺画抗議デモに参加して、「殺せ、デンマーク人を殺せ」と叫んでいたために、有罪となったことだ。バーミンガムのウムラン・ジャベドという男性で、デンマーク大使館前の抗議デモに参加し、「デンマークを、米国を爆撃せよ」と言っていたので、人種偏見を扇動したことになった。本人はスローガンとして言っていただけで、今は後悔しているというが。確かに怖いことを言っていたわけだが・・・。

http://news.bbc.co.uk/1/hi/uk/6235279.stm
 
by polimediauk | 2007-01-06 23:08 | 欧州表現の自由

 フセイン元イラク大統領の死の反応として、中東各地の様子の写真が、今オーマイニュースジャパンのトップ記事になっている。記者が撮った写真がリアルだ。

 これに加え、英国で命を落としたロシア人スパイ(という表記でいいのかどうか不明だが)リトビネンコ氏の「友達」の話が動画で掲載されている。

http://www.ohmynews.co.jp/News.aspx?news_id=000000004186

 このリトビネンコ事件というのはどこからどこまでが本当なのか、不可解だ。当初、英国メディアはリトビネンコ氏のことを、「良い人」「クレムリン・プーチンが殺したのだ」という文脈で扱ってきたが、リトビネンコ氏自身が英国で何をしていたのかに関しても不明な部分が多いことが分かり、限りなくスパイ小説(誰をも疑う)に近い話になってきた。

 それはそれとしても、リトビネンコ氏がどんな話し方をしていたのか、実写を見れるサイトの1つとして、フロントライン・クラブというロンドンのプレスクラブのサイトを挙げておきたい。(他にもたくさんあるとは思うが。)

 このクラブは様々なイベントを開催するが、その時々の時事トピックに関してパネリスト、ジャーナリスト、関係者を呼んで、議論するという形を取ることが多い。

 以前にも、アフガニスタンの戦況を、タリバン広報担当者(電話参加)、英軍の元大佐などを呼んで話したりなど、結構おもしろいものがある。

 元々、海外特派員だった、主にテレビ関係の英国ジャーナリストの集まりとして始まったと聞いた。今はジャーナリストなら誰でもメンバーになれる。メンバーにならなくても、イベントには参加費(約1000円)を払うと出られる。

http://www.frontlineclub.com/

 このサイトで流れ出す映像は、昨年10月、殺されたロシア人ジャーナリストアンナ・ポリトコフスカヤさんの追悼のようなイベントでの場面だ。

 参加者の中にいたリトビネンコ氏が、意見を言う。そして、ポリトコフスカヤさんを殺したのはプーチン大統領だ、と。最初は英語で途中からロシア語(通訳つき)となる。(以下、抜粋)
 
「誰がやったのか?ロシア大統領のプーチンがやったのだ」
「事実だけ言いたい」
「過去3年間、彼女と友達だった。ロンドンに来るたびに会っていた。家にも来て家族に会った」
「ロシアの諜報機関のやり方を私に聞いた。彼女が『プーチンのロシア』という本を出してから、政府からの脅しが増えたという。そして、『私を殺せるかしら?』と聞いた。私は『できる。ロシアを逃げたほうが良い』といった」。
「私は何も隠していない。法廷で同じことを言える」。
「私は誰がどうやって殺したか、知っている。情報を持っている。証拠を」。
「こんなことを出来るのはロシアではただ一人。プーチンだ」。
「あれほど評価のあるジャーナリストを殺すのは上から指令がないとできない」
「アンナは政敵だった。だから殺された」
「政権が変われば、すぐに事実が明るみに出るだろう」。
(拍手)



 (追記)
 上のオーマイニュースの動画の件を見る前にこのエントリーを書いた。後で見てみると、本当におもしろく、まだの方は是非見ていただきたい。

 特に、ロンドンでこの毒殺が起きたことに関して、英情報機関側が大失態と思っていることや、ロシアと英国のエネルギーの件など、リアル。
by polimediauk | 2007-01-04 19:16 | 政治とメディア