小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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 北アイルランドの自治政府は2002年から停止状態になってきたが、今日、これまで対立してきた2大政党が、5月からの再開に合意し、会見をした。シンフェイン党(カトリック系)とDUP党(プロテスタント系)の政党の党首が同じ場所に並んだのは、公的には初めてかもしれない。

 画期的だが、5月に再開するという点に不信感、不安感を感じる人も多いようだ。BBCウエブサイトの読者の声など。何故今すぐでなく、5月なのか、と。

 5月までに何がおきるかまだ分からない、と思っている人が多いのではないか。私もどきどきだ。

 ところで、今日、新しくなったテレグラフのオフィスを見せてもらった。ロンドン・ビクトリア駅から歩いてすごく近い。2分?ガラス張りで光りがよく入る。

 中はちょっとBBCテレビのニュース部門みたいというか、ブルームバーグのオフィスみたいというか。だだっ広い広間に、机が環状に配置されている。自転車の車輪を思い出してほしい。真ん中のハブ部分があって、放射線状に机がある。

 この「ハブ」は、実際、社内でもハブと読んでいるそうだ。編集会議の時に使うので、長い机と椅子が回りに置かれている。普段は誰も座ってなくて、会議のあるときに集まる。といっても、会議室は別にある。

 そこで、編集会議用にここに集まることを「ハブる」と呼んでいる。ちょっとジョークというか、皮肉っぽく使うという。自分で自分を笑う、というか。「ハブって名づけたりして、ちょっと馬鹿みたいだね」と。

 中はお昼頃だったせいか、結構シーンとしている。天井からテレビのモニターがぶら下がっていて、音は出ていないけれど、CNNなりBBCなり、24時間ニュースの画面が映っている。壁の一面にも、いろいろなテレビ局のチャンネルのどでかい画面が映し出されている。本当に、「でかいテレビ局の編集室」という印象だ。ミニ・スタジオもある。今や、記者はただ新聞記事を書くだけでなく、ニュースをポッドキャストで流したり、テレビカメラに向かって話しリ、ブログを書いたりと、マルチ・タスクを要求されるのだという。映像はウエブを通じて見れる。

 編集長の部屋は、他の新聞の編集長の部屋のように、自分の机とミーティング用の長いテーブル。結構がらんとしていた。

 中の様子はテレビ局のニュースルームに似ている、と書いたが、1つ目だって違うところは、着ているものだ。ほとんどがスーツ姿。特に男性たちが何とネクタイを締めている。テレビ局ではジーンズなどかなりくだけているのではないか。自分にとって、結構驚きだった。前にインディペンデントのオフィスを見たときも、ネクタイは編集長と数人だけだったような気がする。

 そして、案内をしてもらった人に、軽い気持ちで、「どう、働き心地は?」と聞くと、結構厳しい答えが返ってきた。頭を整理して、明日以降、書きたい。(続く。)
by polimediauk | 2007-03-27 00:33 | 新聞業界

 安倍首相の慰安婦問題に関する発言とエコノミストの記事を巡る論点は、今日位までに大体出たような気がするが、どうであろうか。慰安婦問題に関して、私自身の歴史解釈などをビシーっと出すことが出来ず、恐縮である。最後は、自分自身堂々巡りになっていくような気がしてならない。

 関連記事をウエブで追うと、米国の新聞でここ数日間にずい分と安倍批判が出ている。安倍バッシング状態になっているようだ。下院での決議案があるからだろうけれども、一体米国がこの問題で日本に何をさせたいのか?何か他意が(決議案の件を抜いても)あるのかどうか?大いなる疑問だ。

 ここでメディアの話そのものに一回戻る。慰安婦問題の中身でなく、メディアの問題として、見てみたい。

 改めて考えると、エコノミストの「恥を知れ」発言は、ある意味エコノミストらしいが、もし自分が英メディア界で働いていて、この記事を読んだら、厳しすぎる、と思うかもしれない。自分が日本人でなくても。

 安倍首相の発言を批判・非難するのはもちろん自由だが、慰安婦問題の重要性に関係なく、それとは別問題として、論調が変に厳しすぎる。

 言葉尻を取り上げて論評するのもなんだけれども、もし「恥を知れ」というのだったら、ジンバブエのムガベ大統領に言うとか、もっと適当な例があるのではないか。

 私は、最初、エコノミストが慰安婦問題を重要と考え、そのために厳しい発言になっているのかなとも思ったが、しばらく時間が経ってから言葉遣いを考えてみると、厳しすぎる感じがした。

 結局のところ
 (1)自分(自分たちが)、世界の事象を判断してやる、という態度
 (2)「過去を反省していない」日本にここで一回カツを入れておきたい
 (3)売れ行きが良い米国読者におもねった??

 などがその背景に考えられる。

 これは思い付きではない。

 (3)は、エコノミスト記者に聞いても、否定するだろうと思う。しかし、エコノミストが下院で決議案が出ている米国と価値観を共有している部分がある、と考えるのは自然ではないだろうか。エコノミストは、私のこれまでの印象では親米である。だからといって、全ての見方が偏っている、というわけではないが、それでも、こういう要素も一応考えておいてもいいかと思う。

 (2)は具体例を出すのが難しいのだが、英国に住んでいると、こういう論調がすごくあり、常に紙面の底を流れていると言っていいと思う。これはエコノミストだけではない。

 (1)は、具体例として実際に働いている人から直接聞いた。かつてエコノミストノの記者だったアンドリュー・マー氏も言っているし、現在の記者の一人もそう言う。他の新聞も、エコノミストをこのように評する。実際、読んでいてもそうである。

 そこで、(1)、(2)、(3)から言って、「エコノミストは傲慢だ」という言い方もできなくはないのだが、私は、むしろ、「これがエコノミスト、エコノミストのスタンス」と思う。

 調査・取材に関しては、エコノミストはずい分細かくしているような印象を受ける。データや様々な視点を、私も他の読者同様、大いに参考にする。

 こちらの考え付かない視点が書かれてあるので、目からウロコの時もある。

 結論として、今回の記事にせよ、他の記事にせよ、最終的には、「エコノミストはこう考えるんだな、こう見るんだな」と思って、読み、参考にしたり、あるいは無視したりすればいいのだと思う。「英国知識層はこう見るんだな」ということではないか。(もちろん、エコノミストは英国の全知識層を代表するのではないが。)

          ***

 来週、新たなコンピューター制度を取り入れた、デイリーテレグラフのオフィスを初めて見に行く。写真はきっと撮らせてもらえないだろうが、週中ごろに報告したい。
by polimediauk | 2007-03-25 07:29 | 日本関連

 クエートのニュースが伝えたところによると、フランス語と英語のバイリンガル放送を続けているフランスの24時間ニュース・テレビ「フランス24」が、4月2日からアラビア語の放送も始めるという。

 放送時間はフランス時間の午後4時から8時までの一日4時間。プレス・リリースによると、内容は経済、文化、スポーツなども含む。11のアラブ湾岸諸国の22のジャーナリストが伝える。これを統括するのはAgnes Levalloisで、初日の放送のためにモロッコとエジプトに飛ぶという。約2500万人のアラブ圏の視聴者を対象にしている。ネットやサテライトで放送されるが、いずれも視聴は無料。

 フランス24は昨年12月、国際的なニュースに「フランスの視点」を出すために始まった。アラビア語放送は自然な発展だった、とフランス24側は言っているそうだ。

 アルジャジーラ、BBCも含め、アラビア語での放送に国際ニュース局が力を入れている新たな具体例と見ていいのだろうか。

http://www.kuna.net.kw/home/Story.aspx?Language=en&DSNO=963885

 一方、遠くにある戦争をどこまでリアルに感じられるか?BBCのイラク戦争特集を見ると、気がめいるほどにリアルだ。

 イラク戦争で息子を亡くした父親たちが、思いを語るというビデオがBBCのサイトで見れる。一人はブレア氏が直ぐ辞職するべきだと述べ、一人はイラクに平和が来ることを望む。

http://news.bbc.co.uk/1/hi/world/middle_east/6453235.stm

 前にも出したが、オーマイニュースの高遠さんのインタビューもすごい。

 
すべて最悪です。現状も最悪だし、今の私の精神状況も最悪。すべて最悪です。帰還米兵の3割がPTSDだと言いますが、すごくよく分かりますね。彼らはもっと凄(すさ)まじいものをやっているし、見ているし、そうなるでしょうね。すごく分かります。

 という部分に納得がいく。


http://www.ohmynews.co.jp/News.aspx?news_id=000000006085
by polimediauk | 2007-03-22 21:16 | 放送業界

 この慰安婦問題が政治・外交問題のツールと化している部分、今回米下院で証言した女性たちの背景(もし特別な背景があるのだとして)への考慮をまだ自分は十分にしていないように感じているが、私自身の見方はどうなのか?という問いかけを時々頂く。先ほど見つけた村山氏のロイター記事に、一番親近感を感じるので、貼り付けてみたい。

従軍慰安婦問題、政府は道義的責任ある=村山元首相
3月20日17時24分配信 ロイター
 3月19日、村山元首相(写真)はロイターとのインタビューで日本政府は従軍慰安婦問題について道義的責任があると述べ、強制連行を示す証拠がないとした安倍首相の発言を暗に批判した(2007年 ロイター/Michael Caronna)

 [東京 19日 ロイター] 村山富市元首相(83)は19日、ロイターとのインタビューに応じ、日本政府は従軍慰安婦問題について道義的責任があると述べ、政府または軍による強制連行を示す証拠がないとした安倍晋三首相の発言を暗に批判した。
 村山元首相は、日本政府や軍が強制的に連行したか否かの議論は無意味だとした上で「軍が関与して慰安所を設置、監督したのは間違いない。その限りにおいては政府の責任はある」と述べた。元首相は第2次世界大戦を正当化するような政治家の動きにも触れ「アジアの人は、昔の日本に戻るのではと心配している」と話した。
 村山元首相はまた、今回の慰安婦問題に対する安倍首相の対応の一部に問題があったとの考えを示した。安倍首相は先に、旧日本軍の関与を認めて慰安婦への謝罪を表明した1993年の「河野談話」を踏襲する一方、日本軍または政府関係者が慰安婦の強制連行に直接かかわった証拠はないと発言している。
 さらに、米議会で慰安婦問題に対する日本政府の謝罪を求めた決議案が提出されたのを受けて、安倍首相が「決議が採択されてもあらためて謝罪しない」とした発言については「言う必要がないことを言っている」と述べた。
 旧社会党出身の村山元首相は戦後50年の1995年、アジア各国に対し、日本の過去の侵略や植民地支配に関する公式謝罪を行った。

最終更新:3月20日17時24分

 


 読めば読むほど、心にしっくりする気がしてしまう。

 それと、戦時中の行為の平和時の判断だが、これは近いところではイラク戦争での米軍や英軍の行動の是非、違法か合法かは、非常に大きな問題になっている。実際に戦闘にかかわった人から見れば、「平時の法律や常識で判断されたくない、裁かれたくない」というのが本音だと思う。さて慰安婦はどうなるのか?あまり論理的な説明ができないが、やはり個人的には同情心は私自身、大きい。

 (追記)
 みなさま、いろいろコメントありがとうございました。

 今回、しみじみ思ったのは、慰安婦問題に関して、西欧・欧米の見方に対し、きちっとした、まっとうなかつ多彩な反論が存在することでした。

 歴史的事件の判断は、それこそ戦争が起きるぐらい、国(あるいは人)によって解釈が異なるので、最後は「どれを自分は信じるのか」「どの見方を自分はとるのか」になってしまうのではないかと思っています。

 私は、この問題に限らず、犠牲者、少数者、人権を虐げられたと思われる人にかたむいたスタンスから見ています。

 慰安婦問題に関して、英国で誰かに聞かれて何らかのコメントを出すことは近い将来あると思うので、整理してみたいと思っています。

 今のところは、米下院で証言した個人数人だけに限らず、一般的に「慰安婦」寄りのスタンスです。

 現在外交問題にまでなっているということは、日本側に相手の気持ちを十分に汲み取れない部分があったのではないか、という思いが消えません。偏っている考えかもしれませんが。

 安倍首相のコメントは、国内の世論(一部かもしれないし、大部分かもしれない)を代弁しているところもある、とすると、これはどういうことなのか?と考えています。

 慰安婦問題に限らず、日本は戦時の過去ときっちり決別できていないのではないかと思います。

 昨日、ロンドン市長がガーディアン紙上で200年前の奴隷制度を謝罪しました。きっと、謝罪しても彼はあまり失うものがないからそう言ったのかもしれません。政治的意図はもちろんあるでしょうけれども、「200年前のことに謝罪する必要はない」という人もたくさんいます。ブレア英首相は、たしか、アイルランドのじゃがいも飢饉で英国が十分にヘルプできなかったなどということで、謝罪したように記憶しています。

 「許し」ということを最近良く考えるのですが、ちょっと離れますが、相手側に後悔の念があって初めて、しいたげられた方は許すことができるのではないか、と北アイルランドの話やキリスト教会の取材で考えさせられます。

 いずれにせよ、慰安婦問題と同時に、今現在様々な場所で様々な苦しい目にあっている人がいることが心に気にかかっています。(東欧から来て売春婦として売られた人など。)

by polimediauk | 2007-03-21 05:40 | 日本関連

イラク戦争開戦から4年


 イラクへの武力侵攻(イラク戦争)開始から、4年経ち、英メディアではこの4年を振り返る報道が始まっている。

 昨晩はBBC夜10時からのニュースで、いつもスタジオからレポートしている、ヒュー・エドワーズというプレゼンターの、イラク南部からのレポートがあった。約1週間イラクに滞在し、毎日レポートを送るという。英軍の従軍記者ということになり、英空軍基地から兵士たちとともにクエートまで飛ぶ。クエートからまた飛んでイラクに着く。この様子を短いが少し紹介した。ここまで見せていいのかな?とやや思ったが、なじみのある顔がイラクまでの旅をすることで、リアル感が出た。普段はエドワーズ氏はめがねをかけていないが、旅をするクリップではめがねをかけており、最後にイラクに着いた頃にはずいぶん疲れている感じがあって、英兵士たちもこんな風にしてイラクまで飛んでいるのだ、ということが良く分かるようになっていた。

 イラク南部バスラは、首都のバグダードに比較して治安の危険度はやや低いということになっているが、それでも危険なことは危険だ、と紹介。その日、英軍が没収した「危険物」を砂の上に並べていた。その1つは大きな石の塊で、実は中に爆弾が入っている。「毎日、攻撃がある」とエドワーズ氏。

 丁度4年前に米軍の爆撃を受けて、両親や家族の多くと自分自身も両腕をなくした少年アリ・アッバス君(今は英国に在住)のクリップを紹介。

 ITVというチャンネルの午後10時半からの番組を見ると、ITVのテリー・ロイド記者(米軍により射殺)の「犯人」が誰か、「段々分かってきた」というレポートがあった。

 ロイド記者は2003年3月22日、バスラ郊外の橋で取材中、イラク側と米軍との撃ち合いの場に巻き込まれた。背中を撃たれたロイド氏は、医療ケアを受けるために連れ去られる途中で、米軍に頭を撃たれて亡くなった。米軍の中でどの部隊が、あるいは誰が撃ったのか、米側はずっと沈黙を守っている。

 昨年10月、検視のための調査が行われ、検視官の結論は、これが「違法の殺人」だった、とした。8日間公聴会が開かれたが、米軍からは誰も出席がなかったという。(ガーディアン20日付け記事。)

 ITVが昨晩やったのは、責任があったとされる米部隊名をつきとめた、ということで、関連していたかもしれない部隊の数名の名前を、画面上に流した。「この中の誰かがロイド記者を撃ったのです」、と。ちょっとリンチのような気がした。

 レポーターは、テレビ局側が、「1998年のローマ条約」に、戦時にジャーナリストを意図的に殺した場合、これを国際的犯罪とする、という条項を入れるよう、キャンペーン活動を開始した、と告げた。

 一方、ガーディアンの12日付によると、イラクでの英メディアの取材で、「10分ルール」あるいは「20分ルール」と言葉を人は良く使うのだ、という。何かというと、あまりにも危険度が高いので、ジャーナリストたちはホテルに缶詰状態で、イラク人のジャーナリストたちを実際には使っている、と。それでも現地の声を入れたい時や映像が必要な場合、どうしても外に出ざるを得ない。車を飛ばしてイラクの市中に出かけ、車から飛び出して、通りにいるイラク人をつかまえ、2,3の質問をして、また車に戻るまでが「10分」あるは「20分」というのだ。

 BBCのベテラン中東記者ジョン・シンプソン氏やインディペンデント紙ロバート・フィスク氏も、「イラクがあまりにも危険すぎて、ちゃんとした取材ができないのが現状」と声をそろえる。

 1年半前、ガーディアンのロイ・キャロル記者が誘拐され、36時間拘束された。これ以降、ガーディアンは常駐記者をイラクにおいていないという。今英メディアで「支局」あるいは常駐記者を自前で置いているのはBBCとタイムズだけだという。

 「こうした状態で取材をしていることを、メディア側はもっとはっきり読者・視聴者に言うべきではないか」、「イラクは最高に重要なトピックだが、レポーターが殺されるのでは割に合わない」とガーディアンの外報デスク、ハリエット・シャーウッド氏が話している。

 昨日、開戦から4年経ったということで、英外務省はメディアに対し、「4年でどれほどイラクでさまざまなことが達成されたか」を詳細に記したリストを一斉に送った。外務省のウエブ上でも紹介されている。

http://www.fco.gov.uk/servlet/Front?pagename=OpenMarket/Xcelerate/ShowPage&c=Page&cid=1007029394374

 日本のオーマイニュース・ジャパンでは、一時人質になったがイラクへの支援を続けている、という女性のビデオクリップが出ていた。(まだ見ていないのだが、生の声が載るので、ウエブはおもしろいなあと思っている。)

http://www.ohmynews.co.jp/News.aspx?news_id=000000006084
by polimediauk | 2007-03-20 21:28 | イラク

 遅くなったが、安倍首相の従軍慰安婦発言に関し、英メディアの報道を見てみたい。

 まず大前提として、英メディアの論調の中では、「日本は過去=戦時中にやった残酷な行為を認めていない」、「慰安婦問題も含めた戦時中の事柄に正面から向き合っていない」という認識が広く共有されてきたように思う。これは今回の安倍発言に関する場合だけでなく、私が気づいた時からするともう数年(10年?)にもなる。

 第2次世界大戦中、日本はアジアで「悪行」を行い、これを十分に清算していないので、中国を始めとするほかのアジア諸国が怒っている、「過去を清算をせよ」、「不正行為を認めて、それから次の段階に進むべき」、今後の良いアジア関係発展のためにも、日本が「過去を清算し、和解をすることが大切」という論調だ。

 こうした論調や前提はほとんどの英メディアにある。基本的に、日本は第2次世界大戦でドイツと組んだ敵側にいたことを、英国は決して忘れていない、と言って良いと思う。(逆に言うと、世界の中で、この点を忘れている国は少ないかもしれない。)戦争中の日本軍の「悪行」「戦争捕虜の扱いの悪さ」を表に出した映画・ドキュメンタリーは時々テレビで放映もされる。

 日本に関する英国の報道を見るときに、こうした要素がまず前提としてあることを、今一度確認しておきたい。

 さて、日本と戦争がトピックになった時、果たして、英メディアは公正な報道をするだろうか?何をもって「公正」とするのかがまず問題になるが、それぞれの国はそれぞれの国の歴史観や文脈で物事を判断するので、慰安婦問題など戦争がらみのトピックの場合は特に、「英国では、こうなんだな」、として、私自身は英報道に接している。

 しかし、戦争がらみのトピックに関して言えば、英国の考え・見方が欧州あるいは他のアジアの国々(特にどこと指すわけではないが)でも漠然と共有されている部分はあるかもしれない。つまり、「日本が、慰安婦問題を含めた戦時中の行為に関して、十分に謝罪していない、きちんと清算していない」とする見方だ。

 このような日本の外での認識は、日本人が現時点でどう考えようと、ある程度広く共有されている、と私は見ている。英語でニュースを拾っていると、少なくともそういう思いがする。これを変えたければ、日本人自身が時には言論・表現の場で、あるいは政治の場で情報を発信していくしかないのではないか。

 ・・・ということで、「エコノミスト」3月8日号の記事を見てみたい。8日号には、2本この件に関して載っていた。2本、同じテーマ(安倍首相+慰安婦問題)で載るというのは珍しい。

 読んでみると、安倍首相に関して、これでもか!というほど厳しい表現が続くことに驚いた。エコノミストは以前イタリアのベルルスコーニ元首相に関しても「辞任しろ」とでも言うような表現でがんがんやったことがあるので、安倍首相だから、と特別視しているわけではないと思うが。これ以上強く言えないのでは、と思うほどにきつい、強い文章になっており、書いている側の怒りが強く出ている。

(以下は大体の訳ですが、意味の通じる範囲で言葉を省略・言いかえているところがあるのをご了承願います。間違い他はどうぞご指摘・アドバイスください。)

(1)3月8日号 No Comfort for Abe 
「安倍氏に慰安はなし」

 日本の首相が、数千人の女性たちの組織化されたレイプに関して、恥ずかしい闘いをしている

 (最初の段落は、6ヶ月前に小泉首相から安部首相になった経緯を説明)安倍氏は日本の市民が「美しい国」に新しい誇りを持つ、と語っている。

 国民は誇りを持つべきなのだ。しかし、安倍氏からもっとよいことを期待していた人々にとって悲しいのは、安倍氏が日本の過去に関する虚偽の上に将来の誇りを築くことができる、と考えている点だ。

 安倍氏が首相としてスタートした時には、十分に希望があるように見えた。中国や韓国に対しもっと微妙なアプローチを取ることで、小泉首相が靖国神社に強情に訪問したために起きた損害を大分取り消すことができた。先週になって、すべての善意を安部氏はめちゃくちゃにした。帝国日本の戦時の泥沼に自分の足を入れ、日本帝国軍によって運営されていた売春宿の制度に、20万人があるいは「慰安婦」たち(韓国、フィリピン、中国、台湾、インドネシア、ネパールや他の国)が集められたかどうかを疑問視したのだ。厳密に言うと、安倍氏は証拠はない、と言ったのだ。

 耳が聞こえないのだろうか?何十年間にも渡る恥辱の後で、1990年代初期から、こうした女性たちの何人かが沈黙を破り始めてから直接の証言が積み上げられてきたのに。最近では、米国下院の公聴会で、日本政府からの完全な謝罪を求める決議を通過させるために努力が続けられており、犠牲者の一部が戦争時の性の奴隷がどんなものだったのかを痛々しく説明した。もしこれまで日本政府が証拠のファイルを閉じてしまったり破壊してこなかったら、もっと証言が出たのかもしれない。

 (慰安婦の制度に疑問を呈するという)このような恥ずべき闘いを何故しようとするのだろう?注意深く行われた、戦時の侵略行為に対する(政府の)過去の謝罪にさえも憤慨している自民党内の保守系グループは、内閣の一員による1993年の声明を覆すための運動を行っている。この声明は、売春宿の設置に軍隊が関与していたことを認めていた。

 売春宿の生存者たちが望んでいるのは、日本(政府)からの完全な謝罪だ。生存者達は、民間資金によるお金を受け取ることを拒否した。こうした人々の証言を疑問視することで(実質的に証言者たが嘘をついている人たちだとしたので)、安倍氏は過去の損害に現在の侮辱を加えた。しかし、損害はさらに広がる。日本の近隣諸国に対して、安倍氏は不信感を復活させている。そして、世界中の危険な場所で、組織化された犠牲者である「慰安婦」のように、戦時のトラウマに苦しんだ人々を支援するために働いている、素晴らしい日本人たちの努力をけなすことになる。

 不快な過去に向き合うことを避けたがるのは日本だけではない。中国は安部氏の発言を厳しく非難したが、中国共産党は、例えば、1950年代、毛沢東が引き起こした飢饉で約3000万人が亡くなったことの責任を認めたことはない。しかし、戦後60年間、意識的に健忘症にかかるのは、近代的で民主的な日本に値しない。安倍氏よ、恥を知れ。


(2)3月8日号より
Scarely an Abe-rration

常軌を外れる行為では全くない(注「やっぱり」、の意味か)

 首相の最近の、そして最も侮辱的な失言は、典型的過ぎる

・・・昨年9月、圧倒的な勝利で、安倍氏が自民党の党首そして日本の首相に選出された時、若々しい(52歳)、新しい政治世代の経験豊富な人物、小泉氏の改革路線を継ぐ人物とたてまつられたものだった・・・・しかし、これまでに、唯一目に付くのは安倍氏の下降だ。

 3月1日、安倍氏は10月北京とソウルを訪問して成し遂げたものの多くを取り消してしまった。中国人と韓国人の多くの苦情の1つを公的に否定したからだ。この苦情とは、日本帝国軍が数万人の女性たち、多くは中国人や韓国人に対し、1930年代から1940年代にかけて売春を強制したというものだ。

 婉曲的に表現される「慰安婦」の全てが奴隷だったわけではない、一部は既に売春婦だったし、他の女性たちは家族の手で奴隷として売られた。しかし、多くの人たちが、女性たちは誘拐され、奴隷とされ、レイプされたと言っている。女性たちの証言があり、軍部の記録にあった書類が見つかったことで、1993年、日本政府は責任を認めた。今になって、安倍氏は、強制が行われた「歴史的証拠」はないと言った。つまり、女性たちはうそつきだ、と言ったのだ。

 これで安倍氏の本性が出た。日本の20世紀の歴史に関して、安倍氏は、リビジョニスト(修正主義者)的見方を長い間持ってきた、保守的な政治家なのだ。今回の発言は、政府の1993年の声明(国会では批准されていない)を覆すための法案を、自民党の保守主義者たちが無理に通そうとしている時に、出された。自民党の保守主義者たちは、米国の国会で性の奴隷問題で日本を非難するための動きがあることに反応していた。強い首相だったら、このようなセンシティブな問題に関してある姿勢を取ることに抵抗していただろう。しかし、安倍氏は、政党の中で基盤を築くことに一生懸命なのだ。

(この後は首相として安倍氏が生き延びられるかどうか、という話に進む。7月の参院選の結果によって、これが決まる、とある。最後が、)

・・(戻ってくることはないだろうが)今となってみると、小泉首相がいないのを寂しく思う。

by polimediauk | 2007-03-19 08:08 | 日本関連

 16日、こちらの時間の朝早く、ホリエモンの実刑判決の件で、アルジャジーラ英語(クアラルンプール)から電話を受けた。その日東京で判決が下っていたことを知らず、「ある意味では罰のような意味合いもあったのではないか」、「日本の伝統的ビジネス慣習にアンチであった存在だった」などと話すうちに、「日本のビジネスの何を持って問題としていたのか」と聞かれ、服装以外にとっさには浮かばず(!)、「2分後にかけ直してくれ」と言わざるを得なかった。

 急いでネットで見てみると、ものすごい大きなニュースになっていて、英国でもロイターやBBCが詳しく伝えていることが分かった。

 ある日本のサイトでは、大きな同情というか、「かわいそう」「実刑が下るとは・・・」という声があって、「日興事件」との比較があった。

 今回の実刑判決に関する衝撃、分析、などなどは日本にいる方が一番良く分かるだろうと思う。翌日付の新聞でもガーディアンを始めとして書かれており、一通り結構詳しく書かれているという印象を持った。ただし、日興との関連に触れた記事はないようだった。(そこまで書いたら詳しすぎるのかもしれない。)プロレスラーの格好(?)になった数人が堀江氏の仮面をかぶっている、おかしな写真がよく使われていた。

 日興の不正会計問題は既に日本にいる方は知っている通り、昨年末不正会計問題が発覚して会長、社長らが辞任。東証上場がキャンセルされるかどうか?というところまでいったが、そのままになったと。日興コーデュアルのケースと堀江氏のケースが全く同じとは思えないが、状況が似ている、という指摘を日本語のウエブの何箇所かで見た。コーデュアルの場合、逮捕者なしで実刑もなしらしかった。日興の件をこの時まで知らなかったので、日興の件=堀江氏の件つまりは、日本の司法制度が堀江氏に不公平だった・・・と直結の結論を出すことはできないのだが、「疑念」とまでは言えるかもしれないなと思い、さらに資料を集めていた。

 日本の新聞報道をウエブで見ただけだが、「反省の色が見られない」など、堀江氏側の態度が問題になっていることに衝撃を覚えた。罪を認めなかったのも実刑につながった、という説明もどこかにあった。ホワイトカラーの犯罪の場合、罪を認めた上で、執行猶予をつけて、実際に刑務所に行かなくてすむようにする、というのが多くの場合だ、という説明も。(今日、ロンドン警視庁の元幹部だった人に話を聞いたら、容疑者の「態度が悪い」ということで有罪になることは、英国でも当たり前だそうである。)

 フィナンシャルタイムズは、自分たちのラインがあるのか、前日までの分析・報道では、(実刑が下るなど、堀江氏に処罰が下れば)これで日本の経済の合理化の動きが遅れてしまう、残念だ」という論調が目に付いた。

 例えば、3月14日付のジョン・プレンダー氏の記事だ。堀江氏は、「会社が、伝統的に、経営者や従業員を株主よりも重視するように運営されている」日本で、「西欧的な資本主義」のビジネスをやる人物とされた、と紹介。

 ここからが日本経済の分析の話に移るのだが、プレンダー氏は、「過剰投資とグローバルなスタンダードからすれば貧弱なリターン」となりがちな日本のビジネスを変えるには、さらなる西欧式のコーポレートガバナンス(企業統治)が必要だ、と見ている。

 様々な説明があって、最後の方に、「痛みのある改革の期間の後に、さらなる変化をしようという日本の意欲は限定されている。コーポレートガバナンスは多くの経営陣にとって危険な輸入品だと今後も見なされるだろう。スキャンダルに見舞われた株主優先活動をした堀江氏や村上氏にもあまり同情心は起きていない」とする文章があった。この記事は堀江氏に関してのものではないが、FTは堀江氏に関して好意的な記事を多く出し続けている。

 アルジャジーラ・クアラルンプールからまた電話があり、「何故エスタブリッシュメントから嫌われたのか?」の理由を聞かれ、通常のビジネススーツでなく軽装を通していたこと、若くして起業家として成功したこと、株式分割・交換を行い、ネット企業を始めとして様々な企業を買収してビジネスを大きくしたこと、ビジネスでリスクをとったこと、既存の企業系列の枠組みを超えて大手の既存ビジネスを買収の対象にしたこと、敵対的買収は日本ではポピュラーではない、などなどを話したが、「・・・それがどうして反感を買うか?」と逆に聞かれ、さらに説明。堀江氏のことを説明するには、逆に「日本とは何か?」を説明することでもあるなあと実感。(後でメディアの話=「ニュースのランク付けをしないこと」もあったと思ったが、とっさには頭に浮かばなかった。)

 午後ロンドンのスタジオで数分話すことになり、出かけた。着いてみると、既にクアラルンプールの支局で、堀江氏が法廷に入るところなどを映した、よく出来たビデオが出来ていた。放送の15分前にスタジオに入り、クリップを見てから、クアラルンプールのキャスターが、イアホーンを通じて質問をするのだが、何故か音が非常に小さい。とりあえず「堀江氏は英国で言うと、(バージンの)リチャード・ブランソンかもしれない」、「ネット上では同情する声もあった」などと説明。3,4の質問で、あっという間に終わった。

 私が見た限りでは英語メディアの堀江氏実刑判決報道は、それぞれよく出来ているように思ったけれど、ホリエモン憎し、あるいは未だに支援、怒り、などなどの熱気は、日本にいる人でなければ到底分からないだろうなあと感じていた。






 
by polimediauk | 2007-03-19 06:01 | 日本関連

c0016826_733895.jpg キューバのグアンタナモ米軍基地で行われた特別軍事法廷の予備尋問の中で、テロ組織アルカイダの幹部とされるカリド・シェイク・モハメド容疑者が、2001年9月11日の米国大規模テロの首謀者であったことを認め、ロンドンのヒースロー空港やビッグ・ベンを破壊する計画があった、と述べたそうだ。

 これは、米国防省が14日公表した尋問記録の一部。モハメド容疑者は、アルカイダのトップとされるオサマ・ビンラディンの参謀役として、約3000人が亡くなった米テロ計画を立案、資金調達、実行の一部を担ったと告白した。テロの犠牲者に対しては、「残念だ」と述べたという。2003年からグアンタナモ基地収容所に拘留されてきた人物。

 BBCや他のテレビなどでもこのニュースを見ていると、果たして彼の言ったことをそのまま信じていいのかどうか?と、一定の疑問が表明されている。

 なにしろ、9・11テロばかりか、カーター元米大統領やローマ教皇(前の)も暗殺しようとした、というのだ。ある意味荒唐無稽ではないか。どんどん羅列されていて、どうなのか?と思った。漫画チックなほどに「悪者」だ。米国人ジャーナリスト、ダニエル・パール氏の首を切ったのも、自分ということになっている。

 チャンネル4に、「アルカイダ専門家」ジェーソン・バーク氏が出ていた。バーク氏はオブザーバーに良く書いていて、自分でもアルカイダについての本を書いている。彼によると、モハメド容疑者が「欧州に行ったかどうかは不明」で、ヒースロー空港やビッグベンを破壊しようとしたかに関しては疑問符がつくそうだ。今回の自白・告白には、「信憑性が高いものと低いものがばらばらに混じっている」。

 このところ、拷問に関する本を読んでいて、拷問をして得られた情報の使用に関して考えている。

 紹介されているモハメド容疑者の顔写真などを見ると、殴打されたあるいもっと手荒いことされたことは明らかだ。2003年に拘束されて、「2001年テロをやったのは自分」と言うまでに4年。何故これほど時間がかかったのか。

 英国では、今回の証言(一部だけの公開)は拷問を使って得られたものではないか、という懸念が高まっている。アムネスティーやヒューマンライツウオッチなどがこうした懸念を表明。つまり、モハメド容疑者が何を言ったかというよりも、どうやってこの証言が得られたのか、非人間的な扱いを受けたのではないかが1つの焦点となっているように見受けられる。

 拷問を禁止する条約があるわけで、英国では拷問を使って得られた情報を法廷で証拠として使ってはいけないことになっていると記憶している。それでも、CIAや他の情報機関が拷問も含めた手段を使って得た情報を、知識として得ること自体は違法とはされないそうだ、英外務省によると。怖いことだが、拷問によって得られた情報かそうでないか、受け取り手の英国は分からない(分かろうともしない)し、巨大な情報収集ネットワークを持つ米国と諜報情報をシェアしている英国は、「ところで、これってどうやって集めたの?」と相手に正すことなど、できるような立場にはないそうだーー元ウズベキスタンの英大使だった、クレイグ・マレー氏によると、である。

 こういうことを言っているのはマレー氏だけでないが、氏は「サマルカンドの殺人」Murder in Samarkandで、こうした点を詳細に書いている。ウズベキスタンがいかに「テロの戦争」の協力者として持ち上げられたか、いかに拷問を使っての嘘の情報が正当な情報として使われているかの舞台裏を描いている。

 諜報情報を得るための拷問の使用のよし悪しに関して、たまに英国でも議論がある。拷問などを使わないと情報が取れないのではないか、また拷問とは一体何を指すのか(眠りを奪うことは拷問に入るかどうか)、その情報の精度はどうなのか、など。

 一般的に、拷問を使って得た、もしかしたら精度が低い(あるいは嘘のレベルの)情報が、正当な情報として英国に伝わり、こうした情報を元にして様々な政策が決められている、というのはほぼ真実と言っていいようだ。個人の冤罪もつらく苦しいが、9・11テロ後の場合、拷問が情報収集の一手段としてますます組織的に行われているようであることが、まさに怖い。もしかして精度が低いあるいは嘘なのではないかと思えるような情報でも、「構わない」という考え方が、米英政府にある、とマレー氏は主張している。

http://news.bbc.co.uk/1/hi/world/americas/6455307.stm


 
 
by polimediauk | 2007-03-16 06:51 | 政治とメディア
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 12日夜、私は残念ながら不在で見れなかったのだが、チャンネル4というテレビ局でチャールズ皇太子に関するドキュメンタリー番組が放映された。

 「ディスパッチ」という番組枠で、皇太子が政治問題などに「ちょっかいを出しすぎる」、「自分の地位を利用して秘密裏にロビー活動をしている」、「国王になったら先が思いやられる」という発言をつないだものであったという。

 これに対し、皇太子の広報室側が30ページに渡る「反論」を展開した。環境や有機農業に対する意見などを述べるのは公的地位にいるものとして当然であり、国王になれば、(特定の政治的示さないという)姿勢を取るのは明らか、などとした。王室広報がメディア報道に対して意見・反論を表明するのは珍しくないが、30ページにも渡る反論というは珍しい。ずい分力が入っている。

 それでも、番組は実際に放映されており、王室だからといって番組の放映差し止めなどを命令するわけにはいかず、メディアと王室の間では常につなひきのような状況がこれまでにも生じている。

 この前に王室報道がトピックになったのは、イラク派遣が決まったヘンリー王子の件だった。英国では通常「ハリー王子」と呼ぶのだが、週刊誌「プライベート・アイ」は表紙に王子の写真を入れて、「ハリー、ハリー(急げ、ハリー)、戦争が続いている間に」という見出しをつけた。名前のHarry とHurry(急げ)の意味を重ね合わせた。

 この件で、「新聞協会報」(3月6日付)に原稿を出した。以下は加筆したもの。

ヘンリー王子従軍報道に自粛要請
 抜け駆け懸念も捨てきれず

 英国防省は、2月22日、チャールズ英皇太子の二男で陸軍所属のヘンリー王子を、陸軍士官としてイラクに派遣すると発表した。これに伴い、王室と国防省は連名で、王子の任務内容や居場所が特定できる報道は「兵士や民間人の生命に重大なリスクを与える」として、メディア各社に報道自粛依頼の書簡を送った。しかし、予定される今年5月から6月にかけての約6ヵ月ほどの任務期間中、抜け駆けでスクープ写真などが出る可能性も捨てきれないのが現状だ。

 書簡は新聞、雑誌及び放送業者の編集長宛てとなっておりその内容は ①王子のイラクでの任務期間中、王子や所属部隊の役割を特定できる報道をしたり、推知させたりしない、②無許可で、王子に関する報道を目的として、記者やカメラマンを派遣しない③無許可で、フリーランスのジャーナリストやカメラマンからの原稿あるいは写真を使用しない、③イラク駐留中の王子に関する全ての記事に関し、国防省に事前に確認をとる4点。

 厳しい要請ではあるものの、内戦状態に近いといわれるイラクに王位継承順位第三位の王子が派遣されれば治安リスクが高まるのは必須で、ほとんどのメディアは今のところ協力体制を表明している。デーリー・テレグラフ紙は、従軍決定を伝える記事の中で「自粛以来を順守」と明記した。

 しかしこれで各メディアの報道に一斉にブレーキがかかったかというと、そうでもないようだ。

 まず、2月28日までに、国民の高い需要に答え、王子の派遣までの経緯や主な任務、携行予定の武器、防弾チョッキの種類、装甲軽戦車の種類や装備など、大量の情報が報道された。かなりの量の情報が報道された。

 派遣期間中を通じて、国防省からは一定の情報の提供が継続する見込みだ。プール取材の機会が設けられるかどうかを含め、どのような情報提供になるかは「今のところは未定」(国防省広報部)だが、自粛依頼の書簡でも「適度なアクセス」が明記されている。

また、王子のイラク派遣以前の段階で、英大手メディアは既に現地での取材体制を築き上げており、通常のイラク取材の一環の中で「たまたま」王子を撮影する瞬間を捕らえるメディアが出てくる可能性もある。

 ガーディアンのマイケル・エバンス防衛担当記者も、「無責任なカメラマンたちが潜在的に重大な悪影響を起こしかねない」事態が起きるのではと懸念を表明している。(2月22日付)。

 王室側からヘンリー王子を巡る報道に関し自粛依頼が出たのは今回が初めてではない。陸軍士官学校時代、「学校を卒業するまで」という期限付きで報道制限があった。

 英王室は、王族が軍人として戦闘に参加することを長年の伝統としている。ヘンリー王子の前には、王子の叔父アンドリュー王子がフォークランド紛争下の1982年、海軍のヘリコプター操縦士として従軍した。当時も王子の所在に関する報道には一定の自粛が求められた。

by polimediauk | 2007-03-13 20:47 | 放送業界

 スエーデンの元首相で現在は外務大臣になっているビルト氏のブログが問題化されている、と通信社などが伝えている。情報を出しすぎて外務大臣という職からは不適切ではないか、という批判が出ているという。

 ビルト氏は57歳でスエーデン語のブログを時には日に数回更新しているという。どのように一日を過ごすか、日々の出来事へのコメントなど。世界の時事問題や公務の後、メディア報道への反応などを投稿するというのだ。国民には大人気でこれまでに40万人の訪問者があったとされる。(正確な開始時期は不明だが、「数週間」とされていた。)

 ビルト氏のブログに書かれたコメントが「外務大臣のものとしてなのか、個人的見解なのか、見分けがつかない」として、イエテボリ大学のケント・アスプ教授(ジャーナリズム)は批判しているという。

 ビルト氏自身は「書いているのは私。外務大臣でもある私(が書いている)、ということだ」。

 3月5日付けでは中東の状況に関して書き、パレスチナの政治の将来についてコメント。「パレスチナにある政府はこの問題を解決するつもりがないようだ・・・」。

 昨年9月、社民連合勢力を追い出し、10月成立した右派中道政権にいるビルト氏は、「情報に対する渇望がある。全ての新たな情報テクノロジーを使って、もっとオープンでアクセスしやすい(政権に)するべきだ」。

 ビルト氏をベネズエラのチャべス大統領とこの点では似ている、と見る人もいるそうだ。それは、チャべス大統領が毎週何時間もテレビを通して個人的な見解について話すからだ。

 しかし、政治家には、通常、国会、外務委員会、メディアなどを通して意見を表明する、という伝統的な手段がある。ビルト氏は、こうした場が重要であることを認めながらも、「国会で言ったこと全てがメディアで報道されるわけではない」点を指摘。ブログは「新しいヨーロッパの自由」の一部だ、としている。

http://carlbildt.wordpress.com/

http://www.thelocal.se/6655/20070311/
by polimediauk | 2007-03-12 22:19 | 政治とメディア