小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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英総選挙の噂 その2


総選挙が近い、という話で最近は持ちきりになってきた。明日から保守党の党大会が始まり、週明けにかけて、あるいは党大会開会中に(あるいは閉会後に)、ブラウン首相が選挙をやる、と宣言するのではないかと言われている。

 今のところ、すぐやるとしたら10月25日、11月1日、11月8日の可能性がある。11月説がやや真実味を帯びてきたようだ。

 近頃特に、与党・労働党と野党・保守党は政策が似通ってきている。第2野党自由民主党も健闘はしているものの、実質的には2大政党制が続いている。

 しかし、「政策が似通っている」うんぬんどころか、現国会議員(及び議員事務所で働く人々)+上院議員はすべて、1つの「政治クラス」に所属し、様々な不当な恩恵に授かり、権力を自分たちのクラスの中だけで維持しようとしているー。と見ているのが、英ジャーナリスト、ピーター・オボーン氏だ。彼の最新作「ザ・トライアンフ・オブ・ポリティカル・クラス」によると、である。

 英国の政治家には、日本で言うところの「2世議員」は非常に少ない。著名な家系をあげるとするとチャーチル家や現在環境大臣のヒラリー・ベン氏のベン家が思い浮かぶぐらいだ。選挙区が親と子供では異なることがしょっちゅうで、「地盤」ができにくい上に、党の公認候補になるまでの選出過程が非常に厳しい。本人の実力が鍵を握る。

 議員選出は実力主義ではあるのだが、下院議員全体の経歴を見ると、白人・男性・ミドルクラスが多い。また、議員になる前に一端働いてから、というよりも、大学卒業後、政策シンクタンクや議員秘書など、政治がらみの職にストレートに就く人も増えている。政治家が職業化しているのだ。つまり、一種のキャリア、であるのだ、若くて頭のいい人にとっては。「人のために尽くそう」と考えて議員になる人はいったいどれほどいるのかな、と思う。

 オボーン氏は、先週の月曜日、チャンネル4「ディスパッチ」で、いかに議員たちが出費の明細を公開しなくて良いように闘ったかをリポートした。見ていて、おそろしくなる思いがした。女王様がいて、世襲貴族は大幅に減ったとは言え、未だに「一代貴族」(=上院議員)を任命する国(何故、人の上に人を作るのか??)、つまりは階級性を維持する国ならではだと思った。

 1960年代以降、「ミドル・クラス」の範囲は大きく広がっていったとはいえ、「クラスなくして英国なし」の状況は変わっていないとしみじみ思う。

 ・・・と考えると、総選挙もやや色あせて見えるのだが・・・。

by polimediauk | 2007-09-30 05:56 | 政治とメディア
c0016826_044138.jpg 28日付の英各紙は、フィナンシャルタイムズも含めて、ヤンゴンで取材中に死亡したカメラマン、長井健司さんの写真を一面トップで扱った。

 無料紙メトロは中面で、道に横たわった写真はなく、顔写真のみ。ほかはタイムズ、ガーディアン、インディペンデント、テレグラフが既に息が切れたような写真を中心に掲載していた。いつどうやって銃撃されたのかは不明としている新聞もあったが、インディペンデントは、まだ横たわりながら映像を撮っている長井さんの側にいた兵隊が銃撃した模様と伝えていた。タイムズは、(1)横たわりながら映像を撮っている写真と、その直ぐ後に撮られたらしい(2)既に撃たれて意識を失ないながら横たわっている写真を、3面で並べて見せた。

 ガーディアンのサイトでは今のところ、日本政府が抗議をしたという記事がトップになっている。長井さんがイラクで取材したビデオも見れるようになっていた。

http://www.guardian.co.uk/news/video/2007/sep/28/japanese.journalist.shot

 インディペンデントのコラム記事で、1980年代の反政府デモに抗議者として参加した人が、「インドや中国といった隣国に、国際社会が大きな圧力をかけるべき、米国や欧州が経済制裁をしても、この2国が動かなければ何も変わらない」と述べていた。

http://comment.independent.co.uk/commentators/article3007092.ece
by polimediauk | 2007-09-29 00:45 | 日本関連

  ポルトガルで失踪したマデリンちゃん事件は、まだまだこちらではトップニュース扱いだ。今日、モロッコで似ている少女が目撃されたが、別人だった、とのこと。(ミャンマーの旧首都ヤンゴン市内で起きた反政府デモの鎮圧を巡る事態も非常に大きなニュースになっているが。英国ではミャンマーでなく「ビルマ」という。現在の軍事政権の正当性を認めていないことを示すものだ。日本は「ミャンマー」。)

 「英国ニュース・ダイジェスト」最新号にまとめたものをたよりに、マデリンちゃん事件を振り返ってみたい。一部の高級紙は、この事件を「大衆のヒステリア」と呼んでいる。ダイアナマニアをほうふつとさせるようで、公衆の面前で感情をあらわにすることは「正しくない」と考える一部知識人からすると、マデリンちゃん事件への熱狂は見苦しいものに見えるのだろう。

 この事件がドラマチック、あるいはユニークなのは、娘を探していた両親が容疑者となってしまった点だった。

 英レスターシャー州に住む心臓専門医ジェリー・マッカーンさん(39歳)と妻でGPとして働くケイトさん(同)は、5月、ポルトガルの保養地で休暇中、3人の子供の中の一人、マデリンちゃんが行方不明となる悲劇に遭遇した。娘は誘拐されたと結論づけた夫妻は、メディアに積極的に登場し、支援を呼びかけてきた。「私の娘を傷つけないで欲しい」と誘拐犯に訴えるケイトさんの姿や愛くるしい笑顔を見せるマデリンちゃんのビデオ画像は人々の心を揺さぶった。著名人も続々と情報提供や支援を呼びかけ、捜索キャンペーンは大きく世界中に広がっていった。

―メディアの中傷

 ポルトガル警察は失踪直後、マッカーン一家のアパートを立ち入り禁止にせず、国境検査も当初行なわなかったため、英メディアは「初期捜査の失敗」を書きたてた。ポルトガルの法律は警察が捜査の進展をメディアに公開することを禁止しており、情報の欠落が英新聞の大きな不満の種になった。ポルトガル地元紙は警察からのリークに頼りながら、マッカーン夫妻が容疑者とする大胆な推測を8月頃から掲載した。

 サンデー・タイムズ紙9月16日付けは、ポルトガルと英社会の文化の違いや互いへの不信感が、マッカーン夫妻に対する様々な憶測や不満を生み出した、と分析する。例えば家族の絆が強いポルトガルでは、親が子供を置いて友人たちと食事に出かける行動は「信じられない」と解釈される。ポルトガルの基準からすれば取り乱した様子がなく、カメラの前でインタビューに答えるケイトさんも「冷たい親」という印象を与えた。

  9月に入り、ポルトガル警察は夫妻を容疑者とし、事件は大きな展開を見せた。容疑者認定のきっかけは、夫妻が借りた車の中で見つかった「体液」(あるいは血痕)のDNAが、アパートから採取されたマデリンちゃんのものと思われる血痕のDNAと「ほぼ一致」したのだ(この信憑性にはあとで疑問符がつくようになる)。地元警察は夫妻が何らかの理由でマデリンちゃんを事故死させ、遺体を隠した後に、借りた車で移動させたと見ているようだ。

 英国内では夫妻が娘を殺害したあるいは事故死させたと考える人は多くはないが、世論調査会社YouGovによると、76%が「子供置いて出かけるべきではなかった」と見ている。また、「夫妻は娘の死に関与していない」は20%、「事故死も含め、娘の死に何らかの形で関与していた」は48%、「分からない」は32%だった。ネット上では、「両親自身がまさに恥だ」、「絞首刑にされるべきだ」など極端に否定的な意見も多い。

 捜査の方向性を大きく変えたのはDNA鑑定だった(ただし、本当にマデリンちゃんのDNAだったのか、それとも双子の兄弟のDNAだったのかは、現在のところ、はっきりしていない)が、この鑑定方法を世界ではじめて考案した英教授自身が、事件捜査を「DNA鑑定だけに頼ってはいけない」とBBCの取材の中で答えている。過熱報道が続く中、地元警察への事件解明への過度の圧力やDNA鑑定に大きく頼った推測が、無実の人を有罪としてしまう事態を引き起こさないことを祈りたい。

用語解説 DNA FINGERPRINTING
直訳は「DNA指紋」だが、DNA鑑定を示す。DNA(デオキシリボ核酸)は全ての生物の細胞核内の染色体に含まれ、遺伝子の本体とされる物質。4種類の塩基が結びついて2重らせん構造になっているが、塩基の配列順序は個人によって異なる。DNA鑑定は、この違いを比べて人の同定や近縁関係などを調べる。DNAは毛髪、体液、皮膚も含め体中の細胞にあるので、痕跡から鑑定が可能で、英国は1984年、世界に先駆けてこの方法を「発見」した。指紋鑑定のように個人を100%特定できないので、DNA鑑定の生みの親、アレック・ジャフリーズ教授は、事件捜査を「DNA鑑定だけに頼ってはいけない」と警告している。日本では、1992年に正式にDNA鑑定が用いられるようになり、全国的にシステムが整備されたのは1996年末。

飛び交う憶測と謎

①鎮静剤を与えた?
 ポルトガル紙によると、マデリンちゃんを眠りにつかせるために、夫妻が鎮静剤を与えた可能性がある。過剰摂取でマデリンちゃんが亡くなった後、夫妻が遺体を処理した。夫妻はこの疑惑を否定し、この疑惑を報道したポルトガル紙を訴えている。
②何故血が車の中に?
 失踪後数週間後に夫妻が借りた車の中に、マデリンちゃんの血痕(体液という説もある)が見つかった。アパートの中から採集されたマデリンちゃんのDNAと血痕のDNAが80%以上(数値には諸説ある)合致したと言われる。夫妻が車にマデリンちゃんを乗せ、別の場所に移した疑いが出た。夫妻は、警察が自分たちをわなに陥れようとしている、と述べた。
③髪の毛も車の中で見つかった
 情報筋によると、血痕ばかりか、マデリンちゃんの頭髪が借りた車の中で見つかったという。毛布や衣類についていた頭髪が車の中に入ったのではなく、マデリンちゃん自身が車に入って落とした頭髪とされた。警察はノーコメント。
④子供たちを常に置き去り?
 ポルトガル紙は夫妻が、頻繁に、3人の子供たちをアパートに置き去りにして、友人らと飲みに行っていたと伝えた。失踪の晩、十分に子供たちの様子をチェックしていなかったという説につながる。
⑤教会の敷地に埋められた?
何らかの形で息をひきとったマデリンちゃんは、夫妻がよく訪れた現地の教会の敷地に、夫妻の手によって埋められたという説もある。

失踪日(5月3日)の経過

午後2時29分:ポルトガル南部の保養地プライアダルスのオーシャン・クラブ・リゾートで、マッカーン一家は休暇を愉しむ。プールの側で家族と一緒にくつろぐマデリンちゃんの最後の写真が撮影された。
午後7時:マデリンちゃんと双子の兄弟が、一家が宿泊していたアパートで就寝につく。午後6時頃、マデリンちゃんを見たという証言もある。
午後8時40分:マッカーン夫妻は、アパートから100メートルほど離れた、クラブ内のレストラン・バーに到着する。テーブルにつき、エアロビクスの教師ナジョバ・チェカヤさんさんが主導したクイズに参加する。テーブルは友人ら7人が同席し、夫妻は友人たちとともに30分毎に自室で眠る3人の子供をチェックしたと警察に説明。友人の一人は、それぞれが自分たちの子供をチェックすることになっていたと主張している。
午後9時5分:父親ジェリーさんが自室に戻り、子供たちが無事眠っている様子を確認する。部屋からレストランに戻る途中で、テニス仲間の英国人テニス仲間のジェレミー・ウイルキンス氏に会い、数分話す。
午後9時15分:レストランにいた友人たちの一人ジェーン・タナーさんが病気だった娘の様子を見に、レストランを去り、宿泊施設の方に向かう。途中で、ジェリーさんが英国人と話している姿を目撃する。タナーさんは、35歳ぐらいの男性が毛布に包まれた幼女を抱えて歩いている様子も目撃したも。後に誘拐犯だったと証言した。一方のウイルキンソン氏はタナーさんも毛布の男も見なかったという。「自分が立っていた場所は非常に狭く、もし誰かが通りかかったら必ず気づいていた」とウイルキンソン氏は語っている。
午後9時半:友人の一人、マシュー・オールドフィールド氏がマッカーン夫妻の子供たちの様子を見るためにテーブルを離れる。警察に対し、氏は当初、単に部屋の外にいて中の様子を聞いただけと証言したが、後に、部屋に入ったと証言した。マデリンちゃんがいたかどうかは覚えていないという。一方、ジェリーさんはエアロビクスの教師チェカヤさんを自分たちのテーブルに招いた。チェカヤさんは9時30分から10時の間に、テーブルを去った人は誰もいないと主張。席を外したオールドフィールド氏の証言との食い違いを見せる。
午後10時:母親ケイトさんがテーブルを離れる。レストランの従業員は、この夜テーブルを離れたのは背の高い男性、つまりオールドフィールド氏だけと証言している。また、ポルトガル紙はマッカーンさんのグループが14本のワインを飲んだと書いたが、マッカン夫妻は3-4本としている。ケイトさんは、マデリンちゃんがいた部屋の窓と外のシャッターが開いており、行方不明になっていることを知った(ドアや窓がいつどのように開いていたかに関し、証言者の間で異なる説明がある)。テーブルに戻ったケイトさんは、娘が失踪したと告げた。
午後10時14分:友人たちが捜索した後、警察に通報する。目撃者によると、ケイトさんは、マデリンちゃんは「彼らが誘拐した」と叫んでいたそうである。警察は主語が複数であったこと、直ぐに「誘拐」と結論付けた点から、ケイトさんに疑念を抱いたと言われる。しかし、「マデリンがいなくなった。誰かが誘拐した」とケイトさんが言っていたという目撃者もいる。
(Source: Telegraph, BBC)http://www.telegraph.co.uk/news/main.jhtml?xml=/news/2007/09/11/wmaddy311.xml
http://news.bbc.co.uk/1/hi/uk/6984836.stm

これまでの流れ

5月3日:マデリンちゃん、ポルトガルの保養地で失踪
5月12日:マデリンちゃんの4歳の誕生日
5月16日:マッカーン一家が滞在していた場所の近辺に住む、英国人男性ロバート・ミュラ氏が容疑者になる。
5月26日:失踪日に子供あるいは物体を抱えていた男性が失踪している、と警察が発表。
5月30日:マッカーン夫妻、ローマ法王に会う。娘を見つけるため、欧州各国を訪れる。
6月12日:夫妻、ポルトガルに戻る。
6月17日:地元警察官が、失踪が分かった後、現場が十分に保護されていなかったため、重要な証拠が破壊された可能性があると認める。
7月10日:ミュラ氏、再事情聴取。
8月6日:地元警察、ミュラ氏の自宅で十分な証拠を発見できず。
8月7日:英バーミンガムの研究所が、アパートで捜査犬が見つけた血痕の検査を開始する。
8月11日:マデリンちゃんが既に亡くなっている可能性を地元警察が認める。地元紙はマッカーン夫妻が容疑者とする報道をするが、警察側はこれを否定。
8月24日:地元警察は、マデリンちゃん失踪の経緯や生存しているかどうかは不明と発表する。
8月31日:「警察は夫妻が娘を殺したと見ている」と報道したポルトガル紙を、マッカーン夫妻が訴える。夫妻は、疑惑報道に「非常に傷ついた」と発表。
9月6日:地元警察がケイトさんを目撃者との一人として、11時間事情聴取。地元筋が、英研究所での血痕分析結果が一部出たことを確認する。
9月7日:ケイトさんが容疑者の一人となり、起訴される可能性が出た。父親ジェリーさんも容疑者となる。夫妻の代表者は、マデリンちゃん失踪から25日後に夫妻が借りた車に、マデリンちゃんの血の跡が残っていることを地元警察が発見したと述べた。
9月9日:マッカーン一家は、4月末、休暇のために英国を去って以来、はじめてレスターシャー州の自宅に戻る。
9月10日:失踪事件に関する捜査書類が地元検察庁に送られる。レスターシャー州の警察や福祉サービスが2人の子供への支援に関し、討議。
9月15日:夫妻が、マデリンちゃんを探す新たなキャンペーンを開始。
9月20日:ポルトガルの検察側が、確たる証拠がなく、捜査が袋小路に入ったと表明。
(Source: Telegraph, BBC)

by polimediauk | 2007-09-27 01:16 | 英国事情

WSJのサイト、無料化へ?

 新聞の価格がまたトピックになっている。米経済紙ウオール・ストリート・ジャーナル(WSJ)を所有するダウ・ジョーンズ社を買収するルパート・マードック氏が、WSJのウエブサイトの無料化を示唆しているからだ。

 メディア王マードック氏は、買収処理が終了する12月以降、WSJのサイトを無料化する可能性を、先月頃から述べだしている。

 WSJのサイト購読料は年間99ドル。マードック氏は、無料化が読者及び収入の増加に結びつくと見ている。「もしサイトを無料にしたら、新聞に損害を与えるだろうか?そうは思わない。無料化が将来の道だ」(18日の発言)。この発言は、ニューヨークタイムズ紙がプレミアムサービスとして有料化してきたサイトの購読料を無料化した時になされ、米英の新聞界に衝撃が走った、というわけだ。

 ニューヨークタイムズは過去記事や人気のある論説の記事が読める「タイムズセレクト」というサービスを有料にし、毎月7・95ドルを購読料として取っていた。NYタイムズ・コムの責任者(ガーディアン19日付け)によると、グーグルやヤフーのニュースサイトでNYタイムズの記事を読み、タイムズのサイトに飛んでくる読者が多いことに気づいたという。全サイトが無料だと、広告収入がもっと大きくなると判断した。NYタイムズのコラムニストたちは、無料で記事がサイトで読めるよう経営陣側にお願いしていた経緯があり、2年前にタイムズが一部有料化に踏み切ってから、有料購読者は22万7000人増え、年間1000万ドルの収入を得ていたという。

 米大手新聞がサイトの購読無料化へ踏み切る流れができると、困ったのはファイナンシャル・タイムズだ。オブザーバー紙の23日付によると、FTは今のところ年間98・99ポンド(約2万―2万5千円)のサイト購読料を取っており(注:一部は無料でも読めるが)、10万人の購読者がいる。どんどん無料の新聞サイトが増えると、FTにも購読料をなくするように、という圧力が高まるのではないか、という見方だ。

 「マデリンちゃん」事件の調査で、久しぶりにサン紙を買った。何と、20ペンス(40円―45円)になっているのに驚いた。通常、大衆紙は35―40ペンス、夕刊紙イブニング・ポストも50ペンスであるので、格別に安い。マードック氏が80年代にしかけた新聞価格競争の再来なのか?

ガーディアン
http://business.guardian.co.uk/story/0,,2172101,00.html
マードック氏プロフィール、BBC
http://news.bbc.co.uk/1/hi/business/6925738.stm
by polimediauk | 2007-09-25 20:21 | 新聞業界

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ネットを強力に全面に押し出した「デイリー・テレグラフ」から、またデスク級の人が一団となって、辞めた。

 ガーディアンで紹介されたところによると、元のスタッフなどが中心に、テレグラフの1面のパロディー版を作っている。「英国で最も売れている質の低い新聞」という文章が、拡大すると、見える。

 今回辞めたのは6人で、政治、王室報道、教育記者及びニュースのデスク。それぞれがデスク級のスタッフだ。テレグラフは2004年から新しい所有者(バークレー兄弟)の下で、改革を進めてきたが、古い記者・デスクは新テレグラフに肌が合わない思いを抱いているようだ。現経営陣はネットを強化し、新しい読者の開拓を狙う。じっくりした分析記事よりも「早く、新しく、過激に」がモットーになっていると聞く。

 過去4年は特に日曜版のサンデータイムズも入れると編集長の入れ替わりが非常に激しく、現在のテレグラフのウイル・ルイス編集長で7人目だ。タイムズのビジネスデスクだった女性記者を1年半ほど前に引き抜き、サンデー・テレグラフの編集長としたものの、つい最近彼女も辞職してしまった。ネットを中心とした編集方針に従うことが出来なかった、と噂された。

 パロディー版を見ると、政治記者が辞めたのは「政治や政治家に関して知りすぎていたから」で、欠点は、「正しい人たちとゴルフをせず、英国の政治記者の長老グループに入らなかったこと」とある。また、全員が「ごますりとは無縁」という犯罪を犯していた、と言う。

 一般的にテレグラフはライバルがタイムズと見られているが、実際には、タブロイド紙デイリー・メールをライバル視していると聞く。「分析記事はもう好まれない」とテレグラフ情報筋が言っていた。(ただ、「高級紙」の手前、表立ってはそうは言わないようだ。)

http://media.guardian.co.uk/presspublishing/story/0,,2174328,00.html

http://media.guardian.co.uk/presspublishing/story/0,,2162754,00.html


by polimediauk | 2007-09-23 23:05 | 新聞業界

英中銀総裁、首???


イングランド銀行(英中央銀行)の首が危なくなってきた。なんだか、どきどきしながら事態の成り行きを追っている。http://news.bbc.co.uk/1/hi/business/7004001.stm

  ここ数週間、マデリンちゃん事件とともに英国で大きな話題になってきたのが、英住宅金融大手ノーザン・ロックの資金繰り問題だ。元々は、米国の「信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)の焦げ付きと信用収縮」(日経の説明)状態が英国にも飛び火しつつの状況があったようだ。金融市場の不安定さが増し、ノーザン・ロックは資金ひっぱく状態となってしまう。

 ひっぱく状態であることを、イングランド銀行が気づいたのは、キング総裁によると、8月上旬から中旬頃。ノーザン・ロックはイングランド銀行に資金融資を申し出る。これが報道されると、口座を持っていた人はノーザン・ロックが経営不振に陥ったと見て、どんどん、お金を持ち出し始めた。預金全部を引き上げる人もたくさんいて、どのノーザン・ロックの支店の前にも長い行列を作り出した。

 これはまずい!ということで、エコノミストや経済記者、政府筋は「ノーザン・ロックは経営破たんをしていない。お金を引き上げる必要はない」と力説。しかし、これに誰も耳を傾けず、支店の前の列は長くなるばかりだった・・・。

 私もこれはまずいなあと思ってテレビの画面を見ていた。実際に経営破たん状態にあるかどうか、というのは、多くの人にとってはあまり関係がない。「危ない」という噂がたつだけで十分だし、不安を感じて預金者が口座を引き上げれば、前は危なくなくても、危なくなってしまうのである。

 「2000ポンド」(約50万円)までは全額預金は保障されるのだから、「大丈夫」といくら言われても、3000ポンド持っている人はどうなるのか?

 とうとう、政府は「全額保証する」と前代未聞のことを言わざるを得なくなってしまった(全額保証は、一見したところ、良いように聞こえるが、事実上の国営化にもなる。また、銀行経営陣は損得関係なくビジネスができることにもなる。最後は国が払ってくれるのだから。自由市場経済に反する動きとなるように思う。)そして、最初はしぶしぶだったイングランド銀行は、ノーザンロックに当初よりもはるかに大規模な資金供給をすることになった。

 英国の金融はイングランド銀行、金融サービス庁FSA、,財務省が面倒を見ることになるが、ここら辺から、私はどきどきしてきた。大規模資金供給は、3者の話し合いがあったのだろう(それ自体はもちろん違法ではない)が、イングランド銀行は1997年から、政府から独立したのである。現在のブラウン首相(当事の財務相)が独立させた。一体、イングランド銀行の独立性はどこまで維持されたのだろう?
 
 もし何らかの政府からの圧力があって、それに負けたのなら、「首」がかかった動きになるのではないか?イングランド銀行の政府からの独立性に、英政府も総裁も非常に誇りを持っていたはずなのだ。

 20日付のファイナンシャル・タイムズは、キング総裁の将来に疑問符がついたことを社説などで書いてある。総裁の職の期限(5年)は来年6月頃で、これ以降更新するかどうかどうか。

  FTも、政治家の一部も、預金者がノーザン・ロックの視点に長い列を作る前に「もっと何かできたのではないか」とキング総裁を批判的に見ている。誰か責める人を作りたいのかもしれない。

 キング総裁は今日、下院の財務問題委員会に呼ばれて、ノーザンロック問題に関して、議員たちから厳しい質問が浴びせられた。「何故もっと早い時期に何かできなかったのか」と。一部を見ていて、どことなく、金融市場=情報の行き来で上下すると言う点が、どうもしっくりと来ていない議員もいるように見えた。おいそれと動くと、「イングランド銀行がここまでした」ということで、金融危機をあおる。何故もっと早い段階でノーザン・ロックを支援できなかったかと聞かれ、総裁は、「(鉄道車両の)緩衝器に衝突する前に列車を爆破させるわけにはいかない」と答えている。

 支店前の預金者の列は、政治的にもマイナスで、「これで秋の総選挙の可能性が消えた」と書いた新聞もあった。大規模な資金供給の決定には「政府の圧力に屈したのではないか」と議員に聞かれ、総裁は、「個人の尊厳にかけても、ない」と答えている。

 ノーザン・ロックの株価が下がったりし、そういう意味では犠牲はあったのだろうけれども、実際には銀行がつぶれたわけでもなく、大きな被害にあった人はほとんどいない。そうすると、今回の事件が危機だったとすると、金融や経済の危機よりも、イングランド銀行の独立性を巡る、政治危機のような気がしてならない。

 大胆な推測:それにしても、20日付の新聞は一斉にキング総裁バッシング的な記事が出た。なんだか不自然だ。財務省やFSAの責任は???一説には、「首相のスピン」の結果といわれる。もちろん、ブラウン首相は「キング総裁を支持する」というコメントを出した。しかし、ブラウン氏は大嫌いなブレア元首相のことも、在任時代は常にほめていたのだった・・・。イングランド銀行に責任を押し付け、キング総裁に退いてもらう下地を作りたかったのかもしれない。総選挙に勝ちたいから、今回の危機を自分の失態とはしたくないのだ・・・。

 ****この件で久しぶりにFTの紙判を買った。何と1・30ポンド(約300円弱)となっていた。見出しのフォントが大きく、紙面にすかすかした空白があり、どうも読みにくい。あまり格好いいデザインとは思えないように見えた。また、これも久しぶりにデビッド・ピリング氏の記事を読んだ。今でも東京支局長だとしたら、もう5-6年で、ずいぶん長い赴任だ。内容は日本の政治予測だ。日本は2大政党にこれからなるのではなく、リニューアルした自民党(あるいは民主党など他の党)が牛耳る、と書いてある。一党体制はこれからも続くだろう、とあった。タイトルは「日本は首相なしでも何とかやっている」Japan gets by without a prime ministerだ。

by polimediauk | 2007-09-21 07:37 | 英国事情

 スウェーデンの風刺画事件は、17日、画家が自宅を出て、避難する事態に発展した。15日、「アブ・オマル・アルバグダディ」なる人物が、イスラム教の預言者ムハンマドを犬に見立てたイラストを描いた画家を殺害した者には10万ドル、イラストを掲載した新聞の編集者を殺害すれば5万ドルの賞金を出す、という殺害予告をネット上で出したことを受けての動きだ。

 画家のラース・ビルクス氏は、ロイターの電話取材に答え、スウェーデンの諜報機関SAPOから連絡を受けて、身を隠すようにいわれたという。

 ボルボ、エリクソン、イケアなどスウェーデン企業にも脅しが出ている。

 このイラスト・風刺画そのものは、フランス24のテレビ局のサイト上でも見れる。
http://www.france24.com/france24Public/en/news/world/20070916-swedish-cartoon-row-france24-exclusive-prophet-mohammad-editor-.html
〔画面右端のイラストをクリック〕

 フランス24によると、殺害予告者はアルカイダのイラク支部(?)の自称トップ。以下はインタビューの一部。

―この殺害予告をまともに受け止めているか?
アルフ・ヨハンセン編集長(ネリケス・アレハンダ紙):そうしている。自分の命に値段がつくことはしょっちゅうはない。

―今、身を隠しているのか?
編集長:隠していない。

―デンマークでも風刺画事件があった。何故このような風刺画を自分の新聞で掲載したのか?
編集長:今回は違うだろうと思っていた。多くのスウェーデンの新聞はこの風刺画を再掲載しているし、デンマークのような事態ではない。スウェーデンの外国人人口とスウェーデン人の間の雰囲気は、デンマークとは大分違う。このような風刺画を掲載しても、問題はないだろうと信じていた。

―掲載後、このような動きになると予想したか?
編集長:もちろん、こうなるとは思わなかった。他の新聞も掲載し、何の反応もなかった。地元では反応があり、それが国際的に広がった。それでも、スウェーデンのイスラム教徒たちは非常によく振舞い、殺害予告に反対し、私たちを支持してくれている。この点は非常に重要だと思う。

***

 一方、スウェーデンの英字紙「ローカル」によると、欧州のムスリム団体は今回の殺害予告を一斉に非難している。

 また、タイムズ紙17日付けによると、これまでにエジプト、イラン、パキスタンがスウェーデン政府に抗議を申し立てた。アフガニスタンやヨルダンの宗教指導者も風刺画を避難した。

 日刊紙Dagens Nyheterは風刺画を再掲載。 Svenska Dagbladet紙は、言論の自由を維持することを読者に呼びかけた。「表現の自由はメディアやジャーナリストの特権ではない。市民が様々な印象、無数の情報源、インスピレーション、自分たち自身の結論を導く可能性を持つための保証だ」と書いている。

by polimediauk | 2007-09-18 16:50 | 欧州表現の自由

マデリンちゃん事件 他


*欧州のビジネス情報サービス「NNA・EU」のサイトに、「ヨーロッパのブロガーたち」というコーナーがある。この中に私もサイトも紹介してもらっているのだが、他のブロガーたちのブログをのぞくと、それぞれ思うことが書かれている。読んでいて、ブログもずいぶん進化・成熟したなと思った。市民メディア「オーマイニュース」を待つまでもなく、どんどんいろいろな人が書いている。英国に関心のある方は、このサイトの「ヨーロッパで働く女社長のブログ」を見ると、おもしろい。ほとんど毎日更新され、その日のニュースに関して書かれている。http://news.nna.jp/free_eu/blog/

*デイリーテレグラフが、このところ1面で、タイムズ紙の発行部数とウエブサイトのページ・インプレッション数を比較した棒グラフを載せている。7月はテレグラフの毎月のページ・インプレッションが73,230,038で、タイムズは72,154,927。8月の紙の発行部数はテレグラフが887,664部でタイムズが638,820。「勝っている」ことを示したいのだろう。テレグラフ内部の人に聞くと、ライバルは実はタイムズではなく、タブロイド紙のデイリー・メイルと言うけれども。新聞社のウエブサイトは、FT,ガーディアン、タイムズ、テレグラフが「黒字化している」(漠然とした書き方だが)そうだ。

*今メディア報道で段々問題化されているのが、5月、ポルトガルの保養地で行方不明になった、マデリン・マッカーンちゃん事件だ。行方不明当事は3歳で、現在生きていれば4歳だ。両親が、メディアを通じて大々的な捜索キャンペーンを開始し、テレビや新聞でキャンペーンの様子がしょっちゅう報道された。人気キャスターもポルトガルに飛び、現地報道をした。9月上旬、4ヶ月に渡る捜索キャンペーンの後、ポルトガル警察が「夫妻が容疑者」と判断してから、やっと英中部の自宅に帰った。最寄の空港から自宅まで、テレビ局各社は、ヘリコプターを出して、夫妻の様子を追った。家はどこか分かっているのだから、果たして、例えばBBCがヘリコプターを飛ばす必要があったのかどうか?BBCの朝の番組「ツデー」はこれを批判したが、担当ディレクターは、「必要だった」と述べる。こういうことをするから、お金がかかってしまう。

*マデリンちゃん事件はいまだ犯人が見つかっていないが、新聞やテレビで際限なく報道があるので、過熱王室報道のようなおもむきを見せている。果たしてこれほど来る日も来る日も報道していいのかどうか、何故これほど関心が高いのか?などを、BBCラジオの「メッセンジャー」などで議論していた。「国民はミステリーを知りたがるものだから」というのが1つの答えだったが、ふと、「本当に視聴者・読者はこれほどまでに知りたいのかな?」とも思う。メディアが作っている部分もあるのではないか。それにしても、マデリンちゃんの両親やマデリンちゃん自身の映像は非常に魅力的だ。何とかしてあげたい、という思いを多くの人が持つのではないか。http://news.bbc.co.uk/1/hi/uk/6984836.stm

*それでも、私は一抹の違和感を持ち続けていた。それは、マデリンちゃんの両親はメディアと非常に親しい関係を持ちながら、キャンペーンを拡大させたが、メディアは簡単にてなづけられるような存在ではなく、必ず過熱化し、いったん何らかのきっかけがあれば、あっという間に敵対的な顔を見せる。どれほど一時、自分たちに同情的な顔を見せても、中傷記事がとめどなく出る現象に遭遇することもある。夫妻は、今、広報担当者・メディア交渉者を置いているようだ。そして、今でもメディアをひんぱんに利用して、自分たちの思いを伝えている。なんだかすごいことになってきたな、と思う。これほどまでにメディアを使う必要があったのかどうか?サンデータイムズ紙(16日付け)が拾ったところによると、ネット上では夫妻を中傷する書き込みが非常に増えているそうだ。容疑者となってしまったので、「最初からどこかおかしいと思っていた」などの書き込みだ。中傷的記事を書いたポルトガル紙を、夫妻は訴えてもいる。しんどいことになっており、もう少し控えめにできないものかと思う。

*前は、メディアの過熱報道があるとき、もっぱら悪いのはメディア側のような構図があったと思うが、今は、この夫妻のように、自分たちからメディアに情報を出す、メディア側にアプローチをとる場合が増えているように思える。

by polimediauk | 2007-09-17 17:38 | 英国事情
 ダイアナ元妃の評価には2つどころか、様々なものがあるだろう。しかし、事故死後10年で、大きく英メディア報道の流れが二手に分かれたように思う。

 現在のところ、英国民はダイアナ元妃(以下、ダイアナさん)のことをどう思っているのかー?こういう質問を10周年追悼式典前後、受けた。答えは誰に聞くかによって変わるのではないかと思う。王室に聞けば、忘れたい存在(ただし2人の王子は別としても)だろうし、おおよそのところ、好印象はないはずだ。写真誌ハローの読者にとっては、今でも忘れられない存在だ。読者の84%が「ダイアナさんに代わるような象徴的存在は現在いない」(今年9月4日号)と答えている。ダイアナさんにまつわる様々なグッズを集め続ける人、地雷撤去やエイズ撲滅運動への貢献を高く評価する人もいる。

 新聞では、高級紙は一般的にさめた見方が多く、大衆紙は「読者がダイアナさんを慕っている」という前提を基に記事が書かれているようだ。

 目だったのが、高級紙を中心とした、ダイアナさんバッシングだった。「バッシング」というと言葉がやや強いが、ダイアナさんがインテリジェントではなかった、学業成績が十分に高くなかった、次々と愛人を持った点を指摘し、最終的には「こんな女性を慕う・尊敬する・高く評価する」のはまともではない、という結論につながってゆく。かつ、10年前、ダイアナさんの紙が伝わると、国民全体が悲しみの感情を表したことを、「今になって恥じる」という論調がよく出た。「あの時取り乱した私たちは、どこかが狂っていたに違いない」、「いや、あの時はああいう形で感情をあらわにすることが重要だった。今になって恥じるべきではない」という論調を、ガーディアン、タイムズなどで見た。ダイアナさんをほめる記事は少ない。「ダイアナさんをほめる=英知識人のタブー」のような感じさえあった。

 ダイアナさんをほめる、あるいはダイアナさんの死を嘆き、その感情をあらわにすることが、何故タブーになるのだろう、誰がタブーだと見ているのだろうと考えていたら、タイムズのコラムニスト、マシュー・パリス氏が、9月1日付けて書いていたコラム( Off to the class war in a supermarket trolley )を読んで、なぞがとけたように思った。
 
 パリス氏によると、これは英国の「クラス」の問題だ。つまり、一定の線から上のクラス(ミドルクラス+上)は、巨大スーパーマーケット、「ダイアナマニア」(ダイアナさんに熱狂すること)、ローコストの航空会社などを嫌う・格好よくないことと思う傾向があるという。

http://www.timesonline.co.uk/tol/comment/columnists/matthew_parris/article2364189.ece


 私はローコストの航空会社をよく使い、スーパーにも特別な好き嫌いの感情はないが、「ダイアナマニア」には共感できない。それでも、このコラムで、何故高級紙に書くコラムニストたちがダイアナさんに否定的な記事を書くのかが分かるような記がした。氏によると、上の階級がダイアナマニアを嫌うのは、「大衆の存在」を思い出させるからだ。ダイアナさんは良家出身だったが、大衆に愛され、その死を悼まれた。エスタブリッシュメントは大衆の愛情や悲しみを嫌うという。(やや分かりにくいかもしれないが、最後の部分の大体の訳を載せてみる。)

 「ダイアナさんの死は英国を変えなかった。(死は)現在のエスタブリッシュメントに、イングランドの大衆に直面した時の不安感を思い出させた。・・・・フランス革命が起きてからというもの、イングランドの社会の半分は、『ああいうことがここでも起きるのだろうか』と窓の外にいる大衆を神経質に見ながら、思っていた。私たち(注:エスタブリッシュメント)は本当には民主主義を信頼していない。英国民を本当には好きではないのだ。口に出してそうは言わないが。英国民・大衆が行く店を冷笑し、大衆が読む新聞に肩をすくめ、大衆が使う交通機関を認めず、大衆が楽しいと思うことは味気ないものと見て、大衆の悲しみから後ずさりする。」(注:私の少ない経験からも、実際、そうであるようです。)

 「(大衆が好む)ばかげたテレビのソープ・オペラを好きなだけあざけった後で、(ラジオのソープ・オペラ)『アーチャーズ』を聞けばいい。低価の航空会社の飛行機が排出する温暖化ガスを嘆き、その後で4倍ものガスを排出するビジネス・クラスに乗ればいい。でも、こっちの方が質が高いから、価値があるから、環境的にいいから、美しいからそうする、などと言わないで欲しい。クラスの問題なのだ。今までもずっとそうだったし、現在もそうなのだから。」

by polimediauk | 2007-09-15 21:37 | 英国事情

ダイアナ元妃の英報道

c0016826_21384525.jpg ダイアナ元妃の英メディア報道に関し、新聞協会報9月11日号に書いた。これまでブログを目にされた方の中で、私自身がダイアナ元妃の格別のファンではないことに、気づいた方もいらっしゃるかもしれない。しかし、この原稿を書く中で、私はそれまでの見方を変えた。ものすごい人、特別の人だったのではないか?と思ったのだ。(ファンにとっては当たり前のことだろうが。)原稿の結論部分を書く際になってはじめて、多くの人が言っていた、「王室の人間らしくなく振舞った」、気さくだった、特別だったということの意味が推測できる思いがした。

 ダイアナ元妃ほど王室を特別視せず、王室のルールを自分の尺度で曲げた人はいないのではないか。王室の権威の前に、多くの人がひれ伏す。彼女にとっては、王室の威厳を守ることよりも自分の気持ちの方が大事だったのだろう。そうでなければ、結婚の内情をメディアに細かく告白できるわけがない。王室の人間といえば、誰しも情報公開には十分気をつける。王室存続を考える、自分の置かれた地位を考える。ところが、ダイアナ元妃はそうではなかった。身勝手とも言えるが、ある意味人間らしくもある。けたはずれの人物だったように思う。そういう意味で、「第2のダイアナ」のメディア・フィーバーはないだろう。ダイアナ元妃は唯一の存在であり、「第2」はおらず、彼女が消えた今、フィーバーの再来はない。(以下はその原稿に若干付け加えたもの。)

ダイアナ元妃事故死から10年
 王室報道一時代終わる
 メディア利用に批判

 ダイアナ元英皇太子妃が恋人と自動車事故で亡くなってから、8月31日で10年となった。パパラッチに追われたことが原因とされ、メディアも批判の対象となった。しかし現在では、ダイアナ元妃側も、メディアを自己目的で使っていたとの見方が出ている。この10年、メディアの取材が過熱している状況は変わらないものの、2人の王子が主催した追悼式典後、英メディアの報道には「一時代が終わった」感がある。

―国民と直接つながる

 英王室で国民のアイドル的存在のはしりは、1837年、18歳の若さで即位したビクトリア女王と言われる。肖像写真の普及や印刷技術の発展により、メディアを通じて王室と国民が直接つながった。

 19世紀後半には英国最初の大衆紙「デーリー・メール」が創刊され、写真やイラストを多く使った新聞やニュース映画が人気となった。初の王室担当記者もこの時代に誕生している。

 ジョージ5世(1910年―36年)の病死報道は担当医師の苦心のたまものだった。夕刊紙よりも威厳のある朝刊紙で王の訃報が伝えられるべきと考えた医師は、王にモルヒネとコカインの注射を打ち、死を早めた。注射から1時間後、王は息を引き取り、これを受けてタイムズ紙が訃報を掲載した。

 王室にとってメディアは重要な存在であることに変わりはないが、ダイアナ元妃の時代ほど、両者が接近したことはない。

―結婚生活の内実暴露

 1981年の結婚式を頂点に、英国はダイアナ・ブームにわく。しかし夫のチャールズ皇太子との結婚の内実を書いた「ダイアナ妃の真実」(92年)が出版されると、王室ばかりか国民にも大きな衝撃が走った。

 夫の長年の不倫と愛のない結婚生活、王室での孤立などが元妃の家族や友人たちの言葉でつづられていたからだ。出版当時、ダイアナ元妃は著者とは面識がないと主張した。しかし死後、著者が情報源は元妃自身だったと明らかにした。

 94年には、チャールズ皇太子がBBCのインタビュー番組で、不貞を行い、結婚が破滅状態にあると認めた。ダイアナ元妃も95年、BBCの報道番組「パノラマ」でこう語り、夫が不倫を続けていたと述べた。

 次期国王となる人物やその妻がメディアに結婚の内情を暴露するのは前代未聞で、王室はメディアとの間の一線を越えたと言えよう。皇太子や元妃の友人たちは、それぞれの「真実」を伝えようと、率先してメディアに情報を流した。

 王室の記事を掲載すれば部数が伸びる。新聞各紙は競ってダイアナ元妃を追った。買い物をしている姿は1500ポンド(約30万円)、水着姿は1万ポンドが相場となった。一方、元妃自身も大衆紙の親しいジャーナリストに連絡を取り、自分の思惑に沿った写真や記事を書いてもらっていた。

 王室の伝記作家ロバート・レーシー氏の「ロイヤル」によれば、事故死の1か月前、恋人のアルファイドさん一家とイタリアで休暇を過ごしたダイアナ元妃は、豹柄の水着姿で泳ぎ、目立つ写真を撮られることを狙った。チャールズ皇太子が準備していた、カミラ夫人(当時はまだ皇太子と結婚していなかった)の50歳の誕生日の催しが新聞で大きく報じられるのを阻止するためだった。デーリー・ミラーの当時の編集長は「いつ良い写真が撮れるかを毎日電話してきた」と話している。

 97年8月、パリでパパラッチに追いかけられたダイアナ元妃とアルファイド氏が乗る車はトンネル内で事故を起こし、2人は亡くなる。「報道陣の手には血がついている」。元妃の弟のスペンサー伯爵はこう述べ、メディアが元妃を殺したと過熱報道を責めた。

 事故死の当時、大衆紙「ニューズ・オブ・ザ・ワールド」の編集長だったホール氏は、ITVの今年8月の番組の中で、元妃の死に「大きな責任を感じている」と話した。「もしパパラッチが追いかけていなかったら、事故は起きなかったかもしれない」。

 一方、有名人のゴシップ記事や写真を専門とするハロー誌の編集者は、BBC(8月29日付電子版)で「元妃とメディアは共生関係だった」と話す。「ダイアナ元妃は自分のメッセージを伝えるためにメディアを使ったし、メディアも売るために元妃を使った」。

 ハロー誌によると、元妃の記事を掲載で、販売部数は20~50%増える。BBCの調べでは、過去10年で元妃を扱った新聞記事は年間約8000件に上る。今年は既に約8000件となり、年末には1万件を超す見込みだ。

 今年8月31日前後の報道は、大きく二手に分かれた。高級紙は10年前、元妃の死に国民の多くが強い悲しみを表したことが「英国人らしくなかった」として恥じるか、元妃のメディア利用を批判した。一方、大衆紙は時代のアイコンとしての元妃のカリスマ性や慈善事業への献身を称賛した。

 追悼式典はテレビで生中継され、「世界で最高の母親だった」とする次男ヘンリー王子の追悼の辞が人々の涙を誘った。翌日付の各紙の多くが、ウイリアム王子、ヘンリー両王子を中心に式典の様子をトップで伝えた。

 「世界で最高の母親」(サン紙)、「ここで終わりにしよう」(タイムズ紙)など、事故死をめぐる陰謀説など様々な憶測や報道を、10年を機に終息させたいという両王子の思いが伝わる見出しがついた。「一時代が終わった」という思いが、メディア界や国民の間で共有されだした。

 今後、王子2人の結婚をめぐり王室報道が過熱するのは必須だが、美ぼう、カリスマ性、きさくさで人気を博した元妃亡き後、真の意味で同様のメディア・フィーバーは起きないのではないだろうか。(次回:ダイアナ元妃の評価の二極化)
by polimediauk | 2007-09-13 21:43 | 英国事情