小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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信用危機に揺れた英金融街


 英住宅金融大手ノーザン・ロックが資金繰り難に陥り、英中央銀行から金融支援を受けることになったー。9月中旬、BBCが報じたスクープは、顧客にパニックを引き起こした。「債務超過に陥っているわけではない」という金融当局の声をよそに、預金を引き出そうとする人が銀行の前に行列を作り、19世紀末以来の「取り付け」騒ぎとなった。元はと言えば、米国の住宅ローンの焦げ付きに端を発した金融市場の混乱が原因だ。「英国ニュースダイジェスト」の今週号に書いたものに付け加えてみた。(注:この件は動いているので、9月末の情報です。)

 英国が世界に誇る金融サービス業界で、あってはならない事態が起きた。住宅金融が中心の中堅銀行ノーザン・ロックで、過去150年間初めての取り付け騒ぎが発生したのだ。8月、ノーザン・ロックは、米サプライムローン(信用度の低い借り手向け住宅ローン)の焦げ付き問題に端を発した世界的信用収縮で資金繰りが悪化し、イングランド銀行(英中央銀行)に緊急支援を要請していた。これが9月になって明るみに出ると、「破綻か?」とパニック状態に陥ったノーザン・ロックの預金者は、一斉に、預金の全額引き上げに動いた。

銀行は「破綻状態にはない」、「短期の資金繰りがひっ迫しているだけ」と金融当局はメディアを通して国民に訴えたが、効き目はなかった。ノーザン・ロックの株価や他の住宅金融界社の株価は急落し、英国の金融システム全体に大きな不安感が漂った。

 事態打開のため、中央銀行はノーザン・ロックへの金融支援を実行した上に、システムの安定化のため、短期金融市場へ100億ポンド(約2兆3000万円)の資金供給を発表した。また、ダーリング財務相はノーザン・ロックの顧客に対して預金全額保護を確約する(通常は一定の限度がある)など、異例の対策を取った。

 9月20日、ノーザンロック問題を検証するために開催された下院財務問題委員会に呼ばれたキング中央銀行総裁は、信用収縮の解消に、欧州中銀や米金融当局が資金注入などの手を打っていた中で、英中央銀行だけが「何もしないでいた」責任を問われた。総裁は、早い段階で行動を起こせば金融不安を引き起こし、かつ秘密裏に金融支援を行なうことは英国及び欧州連合の規制の下では「不可能」だったと説明した。安易な資金供給で銀行側が「モラル・ハザード」に陥ることを避けた、とも述べた。(注:私はこの時のやり取りをクリップや新聞で読んで、非常に感心した。小学生=質問をしていた議員と大学教授=総裁の会話のようだった・・・。議員たちの負け。それにしても、こういう人たちが財務問題の委員たちとは一体どうしたことか???)

 英中央銀行は1997年、ブラウン現首相が財務相だった時に政府から独立した機関となったが、ノーザン・ロック救済には財務省や金融業界の自主規制団体、金融サービス庁から圧力があった、と噂され、その独立性に疑問が呈された。一方の財務省も、住宅価格の高騰や審査がゆるい住宅ローン市場の拡大を許した責任がある、とする見方が出た。

 また、ノーザン・ロック自体の内情は、実は必ずしも誉められる状態ではなかった。預金ベースが少なく、資金調達の大半を大口の短期金融市場から行なっており、流動性のひっ迫に影響を受け易い状況にあった。既に8月頃からロイズTSBなど他銀行への身売り交渉を開始していた。株価は1年前と比較して80%以上落ちており、新聞の金融アナリストらは株主に対し、「損をしたくなかったら、今のうちに売れ」とアドバイスをするほどだ。支店前に行列を作った顧客の「勘」は、「虫が知らせた」結果だったのかもしれない。

用語解説
SUBPRIME LOAN
サブプライム・ローン。元々は、米金融機関が、信用力の低い人(低所得者や過去に破産、担保差し押さえなどの経歴がある人)に貸し出すローンだが、狭義では住宅ローンに限定される。優遇金利をプライムと呼ぶのに対し、補助的なローンということから「サブ」と名づけられた。審査基準が通常のローンよりもゆるく、最初の2-3年は金利がゼロあるいは低く設定されているため、米国では、2004年半ば以降の住宅投資ブームに乗って、利用者が増加した。3年目以降は10%を越える高金利となるが、住宅価格が高騰を続けたため、借入者は価格上昇分を担保にして通常の住宅ローンに乗り換える(=借り換え)などをしてきた。しかし、長期金利の上昇と住宅価格の伸びが鈍化し、借り換えが不可能になると、急激に増えた返済額を払えなくなる人が増えた。世界中に信用収縮懸念を引き起こし、英ノーザン・ロックも短期資金繰りに苦しむことになった。

経緯(9月25日まで)
2007年春:住宅ローン専門の金融会社ノーザン・ロックが、米国で人気を博していた、融資の審査基準がゆるい「サブプライム・ローン」の取り扱いを開始。本家米国では、長期金利の上昇や住宅価格の伸びの鈍化から、ローン返済を出来なくなる人が増える。このローンを主に扱ってきた米金融会社数社が破産状態に陥る。
6-7月:米サブプライム・ローンの焦げ付き問題が世界の信用収縮懸念につながってゆく。ノーザン・ロック経営陣は、リスクがあることを承知でサブプライム・ローンの貸し出しを続行。
8月8日:英イングランド銀行(中央銀行)総裁が世界の金融市場で信用収縮懸念が起きていると述べる。「(融資)リスクの慎重な査定が必要」と警告し、利上げを示唆。
8月9日:欧州金融市場で金利が高騰。貸し渋り状態を解消するため、欧州中央銀行は市場に大量の資金を導入。米連邦準備銀行も同様の措置を取る。英中銀は何もせず、後に批判の対象に。
8月14日:ノーザンロックの代表が中銀に対し、資金繰りが厳しくなったことを相談。国内の銀行業務を監督する金融サービス庁がノーザン・ロックの会計を検査。追い詰められたノーザン・ロックは十数行の銀行に融資ビジネスの引継ぎを打診。
9月4日:ロンドン銀行間取引金利が過去9年で最高に達する。
9月10日:ロイズ銀行との交渉が決裂。ノーザン・ロックは中銀に対し、緊急融資を依頼。
9月12日:キング中銀総裁は、財務省に対し、リスクの高いビジネスを行なった銀行に資金援助をして救い出すのは「将来の金融危機の種をまく」ため、良くないとする書簡を出す。
13日:金融市場の安定化のため、中銀が市中銀行に44億ポンド(約1兆円)の資金を提供。ノーザン・ロックが資金繰りに悩んでいるという噂から、株価が過去4年で最低値に落ちる。BBCが、中銀がノーザンロックに財政支援をするとスクープ報道。
14日:140万人の顧客がノーザン・ロックから預金引き出しに走る。一日で10億ポンド(約2300億円)が引き落とされる。他の金融会社の株価も一斉に下がる。中銀がノーザンロックに緊急融資。
15日:財務相は預金者を支援するとメディアで保証したが、預金引き落としのために並ぶ人は増すばかり。金融正常化支援のため、中銀が100億ポンド(約2兆3000億円)を短期金融市場に資金供給すると発表。
17日:財務相、ノーザンロックの預金を全額政府と中銀が保証すると宣言。
18日:銀行前に並ぶ預金者の数が次第に減少。米連邦準備銀行が、金融市場の流動性向上のため金利をカット。金融サービス庁のマッカーシー会長が、資金繰りの73%を資本市場に頼るノーザン・ロックのビジネスモデルは「過激すぎる」と表明。
19日:キング総裁、英金融界全体に広がった貸し渋り状態を緩和するため、10億ポンド相当を市場に注入すると発表。
20日:総裁が下院財務委員会で、中銀の判断を釈明する。
25日:ノーザン・ロック、中間配当の配当金の支払いを断念。

参考記事:FT,サンデータイムズのTen days that shook the City, Sept. 23

by polimediauk | 2007-10-10 19:23 | 英国事情
 もう1つ、BBCが「時系列を逆編集」した件が最近あった。

 6月末、元財務相のブラウン氏が首相になった。就任前日の26日、BBCのニュース解説番組「ニューズナイト」で12分ほどのクリップが放映された。

 独立ドキュメンタリーメーカーのジェイミー・キャンベル氏が制作したクリップの中で、労働党の党首を決めるコンテストの際に、ブラウン氏とのインタビューを取り付けようとする場面があった。財務省の広報官ボルシャン・イゼット氏は、(1)ブラウン氏がイスラム教徒たちとの会合のために姿を現したところで、アプローチをするキャンベル氏をさえぎった。(2)次にキャンベル氏が広報官イゼット氏と出くわした時、広報官はキャンベル氏を見つけて、警察を呼び、反テロ法で尋問することを要求した・・・。

 実際は(1)と(2)は時系列が逆で、2週間の間があいていた。一見したところ、同様のエピソードの列挙(1)+(2)あるいは(2)+(1)という感じで、たいしたことはないようにも思えるが、財務省からすると、(1)から(2)という流れの編集は「事実に反する」上に、「広報官がキャンベル氏個人をターゲットにしている印象を与える」と言う。隠しカメラで撮っていたので、ブラウン氏の警備官が「ブラウン氏は恥ずかしがり屋で内向的」と話す言葉も拾っていた。

 私自身フィルムを見ていないので判別がつきにくいが、説明された部分だけで判断すると、「インタビューには応じないブラウン氏」、「広報官がキャンベル氏を特別視して意地悪をした」印象が出る。(1)だけでもいやな感じ、手荒な感じが出るが、(2)が(1)の次に来ると「警察まで呼ぼうとした」、つまり広報官の行動がエスカレートしたことになる・・・ということか??(でもそれほどたいした違いはないかも。ただ、取材されたほうからすると、怒るだろうな・・・。)

 BBCは非公式に財務省に謝罪した。

 この件があきらかになった7月19日のガーディアンの社説を読むと、時系列を逆編集した件を含めて、BBCのさまざまな不正編集をかなり怒っている。公共放送でありながら、「民間の衣をまとい」、他のメディア同様、きわどい表現を度々しようとしている・・・点を批判している。

 BBCの内部調査でぽろぽろ、「実は・・」という件が明るみにでており、一部には「まあ、細かいことまで言わなくてもいいじゃないか」という声もあるにはあるのだが、BBCの中で「何かがおかしい」印象がぬぐえないのが現状だ。

http://media.guardian.co.uk/print/0,,330220903-105236,00.html

(次回、ノーザンロック事件)

by polimediauk | 2007-10-10 05:35 | 放送業界
  総選挙は今秋はナシ、ということになった。ブラウン首相によると。来年もないそうだ。

  今、野党保守党の人気が上がってきているところ。来年もないとしたら、一体現在の盛り上がりを、キャメロン保守党党首はどこまで維持できるだろう??政治の先行きの予測は難しく、1年後あるいは半年後どうなっているかは分からない。総選挙が1年以上後だとしたら、急にすべての目標が消えたようなことになった。

 ・・・しかし、ものすごく慎重なブラウン氏である。大差で勝つのでなければ、十分ではなかったのだろう。

 もう総選挙は近くにはないかもしれない、という予測を早々と出していたのは、BBCの木曜夜の政治番組「ディス・ウイーク」だった。お遊び的雰囲気のある番組だが、結構「ヒント」が隠されている。

 BBCのやらせ的話が2つある、と昨日書いたが、その1つはヤントブ事件だ。

 BBCのエグゼキュティブの一人にアラン・ヤントブという人がいる。「イマジン」という番組でナレーターをやっていた。アート系、クリエイティブ系の番組で、ヤントブ氏自身が様々な試みに出くわし、驚き、時には戸惑いながらも、楽しく学んでいく、という番組。「ヤントブのイマジン」と言う題名にしても良い位で、ポイントは「ヤントブ氏が」学ぶところにあった。ヤントブ氏もできたのだから、あなたもやってみませんか?という雰囲気を出すのがポイントだった。

 この番組では様々な人物にヤントブ氏がインタビューする。インタビューしながら、学んでいく・・・というもの。

 ところが、この番組の中で、全員をヤントブ氏はインタビューしておらず、他の人がインタビューしたものに、後でヤントブ氏が「そうですか・・それで?」などと相槌を入れたり、うなづいたりする場面をくっつけていたことが分かった。

 テレビ界の常識では、インタビューの収録で、ジャーナリスト側のうなづき部分のみを後で収録し、最終的に両者が1つの流れに収まるよう「編集する」ということはよくあるそうである。英テレビ界によると。カメラが一つの場合、相手(政治家など)の方に向けられているので、インタビューする側の画像が入らない。それで後から入れる、ということはよくあるのだそうだ。説明されてみれば、「そういうものかな」とも思う。

 ところが、ヤントブ氏のケースが大きな問題になったのは、「ヤントブ氏自身がインタビューする」ことが目玉であった番組で、「ヤントブ氏がインタビューをしていないのに、したふりをした」部分だ。ヤントブ氏は何せエグゼキュティブなので、下っ端の人が代わりにインタビューすることも「あり」なのかなあと漠然と思っていたが、どことなく、この件が明るみに出たとき、心臓がドキドキした。何となく、「これはヤバイぞ」と思った。

 日本の週刊誌などで、「データマン」という役割の人がいると聞いた。つまり、取材する人と書く人が違う。取材したりリサーチをする、つまりデータを集める人と署名原稿で書く人とが違う、と。これはこれで、私からすると「!!」と思うけれども、新聞社でも数人がチームで取材し、誰かがまとめて書くということもあったような気がするし、あまり細かいことを言ってもなあとも思った。

 それでも、「自分がある場所に行っていないのに行ったふりをする」、「自分がインタビューしていないのにインタビューしたふりをする」のは、非常にヤバイのではないか?・・・と、ずーっと思ってきた。

 そこでヤントブ氏のケースである。誰かに取材させる、インタビューしてもらうのは良いとしても、自分がインタビューしていないのに、したことにして、自分がうなづく場面を付け加えるというのは相当に恥ずかしいことではないか?

 ところがBBC側は、「良くあること。テレビ界では誰でもやっている。ヤントブ氏は忙しいので、すべてのインタビューをやることはできない」と説明した。「とにかく誰でもやっているのだから」と。

 今のところ、これはこれで終わってしまうかもしれない。それでも、先にも書いたが、ガーディアンにコラムを書いているメディア評論家のスティーブ・ヒューレット氏は、これを「絶対におかしい」と言い続けている。「誰でもやっている、とBBCは言うが、違う。誰もこんなことやっていない」と。

 テレビ・プロデューサーでコラムニストのデビッド・コックス氏にも聞いてみた。「BBCがテレビ界では誰でもやっているというのはうそ。誰もやっていない」。
 
 昔、フォークランド戦争があった時、大衆紙サンが、戦争に行った兵士の母のインタビュー記事を出した。これは最初から最後まででっちあげだった。そして、英新聞各紙からの大きな批判の的になった。「兵士の母に電話して、何のコメントも取れずに電話を切られたが、きっと言いたいことはこうだったのだろうと推測して書いた、あるいは兵士の母が記事の内容とまったく違うことを話したけれども、これもきっとこういうことが言いたいのだろうと『編集』して記事を書いた・・・これなら、まあ分かる。広い意味での編集と言えなくもない。他の英国の新聞はあまり文句を言わなかったと思う。しかし、この『兵士の母』そのものがでっちあげで、該当する人物を探して電話をしようとさえしなかった。つまりまったくのゼロだった。これを他の新聞は許せなかったー。何でも好き勝手なことを書くように見える新聞業界だけど、一筋の良心はまだ残っている」。

 

(追記:意外な結末)

・・・ところが、という結末になった。アラン・ヤントブ事件で、怒っていたスティーブン・ヒューレット氏が、ヤントブ氏に直接聞いたところ、「インタビューしていない人物に、自分がインタビューをしたふりをして、相手の返答にうなずく場面を後で挿入していた」という事実は全くないことが分かったのだ。〔ガーディアン10月8日付。アドレスはコメント欄に。〕

何故こんなことが起きたのか?ヤントブ氏によると、「イマジン」はアート系、クリエイティブ系の、遊び心の番組で、様々なクリップを切ったりつないだりする。全てに自分が目を通し、自分が取材したものかというと、自信がなかったのだそうだ。そこであいまいな答えをしていたら、大きな事件と思われてしまったとのこと。やれやれであった。

by polimediauk | 2007-10-07 06:40 | 放送業界


 明日の英各紙の1面に、BBCの話が出ることが確実だ。

 7月に発覚した、「王冠事件」に関する調査報告書が発表され、BBC1(NHKの第1放送のような)というチャンネルのコントローラー〔放映内容の管理をする〕が、辞任となったからだ。

 王冠事件とは、エリザベス女王の一日を紹介する番組の予告ビデオを巡る事件だ。女王が著名女流写真家に写真を撮ってもらおうとしている場面があった。写真家は、女王に「王冠を取られたほうが・・・」と提言する。この後直ぐに、女王が廊下を文句を言いながら急ぎ足で歩く場面がつながっていた。まるで写真家に気分を害することを言われて、女王が怒って部屋を出て行ったかのように見えた。

 しかし、実は、急いで廊下を歩く場面は、写真撮影の場面の前に撮られていたものだった。制作会社が、「女王が怒って部屋を出て行った」という印象を与えることを承知で、むしろその方が制作会社の作品を海外の顧客にマーケティングする際の「売り」になると思って、時系列を逆に編集していた。しかし、制作会社の説明では、「元々BBCに渡るはずのないビデオ」で、あくまで海外の販促だった。

 BBCは、このビデオを、制作会社RDFから受け取り(ビデオ編集の会社の手を経て)、秋の放映作品の目玉として、7月、メディアに紹介した。報告書によると、BBC側が、この時点で、制作会社の方で時系列を逆にしていた、と知っていたふしはない。しかしそれでも、この場面が「売り」になると思っていたのは確かで、BBCのコントローラーで今回辞任したピーター・フィンチャム氏は、この場面を特に目玉として売り込んでいた。翌日の新聞はこのビデオを中心に秋の番組を紹介した・・・・。

 BBC関係者が、時系列を逆にした部分があったことにようやく気づいた後でも、これを発表するのに時間がかかり、新聞や他のメディアがどんどん「女王が怒った」という文脈の報道を作っていった。時系列逆のビデオを制作したのは独立制作会社だということの発表にも時間がかかってしまった。また、BBCのトップが現状を知らされたのも、BBC関係社内での「発覚」の翌日だった。

 メディア・アナリストのスティーブ・ヒューレット氏が「ニューズナイト」(5日夜)に語ったところによると、王室のクリップであること、その中で女王が怒って部屋を出て行ったという場面を見ただけで、「赤信号がともるべきだった」。私も実際、そう思う。

 BBCの報告書やBBC内の記者の報道ではなかなか出てこない視点なのだが、今回のような(王室や他の注目度の高いトピックを扱ったもの+センセーショナルな視点がある)ビデオ・クリップを見て、何かを気づかないのはおかしいのではないかと思うのだ。つまり、「あれ、これは何かあるな」と実際は何かを気づいていたんだけれども、「視聴率が取れそうだから、いいや」と思ったのではないかな、と。これは推測でしかない。しかし、ヒューレット氏も同じことを思っているような気がする。

 BBCのテレビ部門のトップの女性で、経営陣の中ではNO2の人物が本当は辞めるべきではなかったのか、という声もある。彼女もビデオを見ていたが、「おかしい」と気づかなかった、「この部分を検証するべき」と思わなかったからだ。これは番組内のガーディアンの記者が言っていた。「BBCはNO2を守ろうとしている。ゆくゆくはトップの社長職も危なくなるからだ」。

 BBCで起きた、最近のおかしなエピソードを2つ、明日以降、紹介したい。(ヤントブ事件、ブラウン事件)

by polimediauk | 2007-10-06 07:13 | 放送業界
  ガーディアンの4日付によると、BBCのニュース部門にいる約100人のスタッフが(著名キャスターのギャビン・エスラー、ジョン・ノクティーなどを含む)、BBCトラスト(元の経営委員会)のトップに向けて、「ニュース部門の削減をしないでほしい」という抗議の書簡を出したそうである。

 BBCの経営は国内の受信者が払うTV受信料でまかなわれている。値上げ率はBBCが希望する額を出し、最終的には政府が承認する。今後6年の決定額は、BBCの希望額より3%下だった。でも、「値上げなし」となったのではなく、上げ率が思っていたよりも低かった、ということ。

 これにあわせて、BBCの社長は「カットできるところはカットするように」と全スタッフに伝え、部門ごとに削減額を指定している。

 つい最近も、ニュース部門に働くスタッフ一人一人に対し、「何故あなたの仕事が必要だと思うか、200字で書いてください」という手紙が経営陣から送られたばかり。

 そこでBBCのニュース部門100人の書簡提出、ということになったわけだが、「BBCでニュースは最も大切な部分なので、カットしないで」という文面がある。こういう話を読んで頭に血が上ってしまうのは、一視聴者としてBBCを見ていると、ずいぶんお金を使っているように見え、「ニュースが最も大事」と書かれると、他の部門で働くスタッフはどうなるのだろう、と思ったりする。

 ニュースも、他の番組も、ドラマ部門だって、それぞれ大事だろうし、管理部門も一定の人がいないと回らないだろう。「自分たちが一番大事」というBBCニュース部門の、ある意味でいやな感じ・ごうまんさは時々、BBC批判者も声に出す。作品に情熱とプライドを持つのは重要だが、「自分たちが一番・・・」というのが、あーあと思ってしまう。

 BBCニュースががお金をかけているなあと思うのは、飛ばさなくてもいい飛行機を飛ばしてニュースの素材を追っている、行かなくてもいいところに重量級のニュース・キャスターを出張させる、などなど。具体例は、マデリンちゃん事件で、両親が数ヶ月ぶりに自宅に帰ってくるところで、飛行場から自宅までの道のりを、飛行機を飛ばして空の上から、両親の車を撮影するなど。もちろん、こういうことをしないと「最先端にいる」ことにならない、という理由付けになるのだろうけれど、困ったなあという感じがする。つまり、民放に張り合っている。

 それと、もう1つ気になるのは、BBCの経営陣がいわば勝手に作り上げた予算額と比較すれば、「低い受信料設定だった」と言えるだろうけれど、値上げがないわけではなく、もし最終額が期待より低かったら、「現状のカット」というよりも、予算案が生まれた壮大な計画案を見直せばいいだけなのではないか??

 ・・・と言っても、こういうことは日本人の私だからこそが考えること。ここ英国では、このニュースのスタッフたちのように、声をあげたものがきっと勝つのだろうと思う。いったん抗議をしてしまえば、「カットするにもしにくくなる」事態を狙っているのだろう。

 それにしても、マルチ・チャンネル化がますます進む中で、BBCも、すべての分野でトップに・・を狙おうとしてたくさん予算を欲しがっても、やはりそれでは無理ではないかと思う。民放チャンネルも複数あるし、衛星放送も、ネットもある。いつまでも、張り合うために受信料の永遠の上昇を願っても無理なのだ。実際、現在から6年間の受信料の値上げ率は既にほぼ確定しているが、7年目からは政府は「後で決める」としているのだ。上がる一方の受信率、というビジネスモデルはもう破綻しているのだ。

(アドレスをつけようとしたらうまく行かなかったので、ガーディアン記事のタイトルは以下。)
BBC News staff protest over cuts
by polimediauk | 2007-10-05 06:37 | 放送業界
日本の新聞業界にいよいよ大きな動きが出てきたか?と思わせたのが、朝日、日経、読売がネットと販売で協力する、というニュースだった。3社を合わせたポータルサイト作るのかはまだ決まっていないようで、ネット面で協力と言っても、未知の部分も多いようだ。来年から実行するのに、詳細が決まっていないようだとしたら、大丈夫だろうか。

 ・・というニュースを新しくなった産経ネットで知った。
 
 産経は9月末、福田政権の登場とともに、MSNと協力してサイトを大幅に変えた。一種の雑誌のような紙面でもあるが、ネット媒体であることを強みとして思い切って変えた感じがあるのに対し、朝日・読売・日経は何となく、「余儀なく・・」という感じがある。

 産経分析記事によると、

http://sankei.jp.msn.com/economy/it/071002/its0710021516000-n2.htm

(朝日・日経・読売の)「『詳細は紙面で』という紙媒体優先の姿勢と」、(産経ネットの)「『スクープもネットに流すウエブ・ファーストに、紙面では情報を効率よく』という設計思想の違いは歴然だ。どちらが読者に親切で、経営的にどちらが有効かは分からない。だが、新聞社のネットへの取り組みは、否応なく第2幕に突入した」、とある。

 ウエブ・ファーストは英国の新聞の多くが導入している形だ。といっても、常にウエーブファーストでなく、ケースバイケースでいつどこに載せるかを決めているようだ。

 産経分析には無料のウエブだけではビジネスモデルとして成り立たないようなことが書かれていたが、英国のウエブサイトはデートクラブや広告など様々な有料サービスを同時掲載しながら、いずれも黒字化していると聞いている。「やれば可能・できる」はずだが・・・。ただ、日本語のウエブと英語のウエブでは読者層の広がりが違うかもしれない。世界的に使われる言語としての英語の強みがあるだろう。それに、販売店を支える人材がある日本ではビジネスモデルが違うのかもしれない。

 今回の朝日・読売・日経の提携で、職を干される人も結構出るのではないか?「コスト削減ができる」と言っているようであるし。そうすると、新聞業界で働く人にとっては、万々歳の話では到底なさそうだ。

 昔、(今はすっかり評判が悪くなった)ホリエモンが「ネットとメディア(放送業界?)の融合」や「ネットで新聞を殺す」(??正確な言葉ではないかもしれない)というようなことを言っていたように記憶しているが、そういう流れになっているなあと思ったりする。

 ・・・それにしても、たくさんお金がありそうな読売・日経・朝日が、ライバル他社と提携するまで追い詰められているとは・・・。驚きだった。「追い詰められている」という印象を持ったのは、もしプロアクティブな提携ならば、新たなポータルサイトの詳細やビジョンがもっと明らかになっているはずなのだから。

 


追記:「英国の新聞のウエブはどこも黒字化している」と書いたけれども、あくまでネット部門にかける費用だけをみた時に、まあまあ広告で回収できている、というようなことであって、考えてみると、紙媒体の方の記者・設備を使っているわけである。・・・とすると、やはりネットだけで全てをカバーするのはたやすくないことになる。
by polimediauk | 2007-10-03 23:34 | 新聞業界

 元米FRB議長グリーンスパン氏が今英国に来ている。昨日昼、スピーチを聴きに出かける予定だったが、いろいろあって断念。後でテレビの短いクリップを見ていたら、なるほどなあと思うコメントがあって、やっぱり行けば良かったなと思うことしきりだ。

 グリーンスパン氏の評価は一般には高いが、批判する人もいるだろう。本を出したので、そのマーケティングもあって英国に来たようだ。

 夜、「ニューズナイト」でインタビューされていたが、中央銀行が金利を調整して金融・経済危機の広がりを止めようとしても、「うまく行くのは全体の60%」だと言っていた。これに対し、インタビューをしていた人は、「それでは十分ではないのではないか」と聞くと、「誰にも予測はできない事態が起きるもの」として、「こんなものだ」と述べていた。

 また英国では、ノーザン・ロック銀行事件で対応が遅かったのではないかと批判されているキング英中銀総裁を高く評価していることが分かった。「私はキング総裁の大ファンだ、何年も中銀総裁であればいいと思う」とテレグラフ記者などに述べている。BBCのニューズナイトのサイトから昨日の夜の番組が見れる。今晩放映時(夜10時半)直前まで。

 ブラウン首相がイラク・バスラを「電撃訪問」した。本当に総選挙への盛り上げがうまいな、と思う。現在開会中の保守党大会で、昨日は影の財務相が大きな税金削減策を発表したばかり。非常に好意的に受け止められ、本日の新聞もそれぞれトップでこれを扱った。このままだと、保守党大会が非常に盛り上がることが確実だった。イラクに行くことで話題をさらうことを狙ったのだろう。

by polimediauk | 2007-10-02 17:12 | 政治とメディア
 2週間ほど前に、ニューヨークタイムズのウエブサイトが、コラムニストの記事やアーカイブ記事を無料化した報道があった。FTのサイトは、ビジネス以外のニュースや分析記事などが無料で、24時間後には購読者のみが読めるようになっていたが、無料化部分を拡大することになったようだ。

 ガーディアンの1日付の報道によると、本格的な開始は10月中旬から。最初の5本は無料で、簡単な登録を済ませると、月に30本が無料になる。(やや分かりにくいが、一日前の分も含めた過去記事などが前は無料では読めないようになっていたが、登録すると、最大限月間30本まで読めるようになった。)

 FTのチーフ・エグゼキュティブによると、「読者が選ぶ(どの記事を読むか・無料か有料か)」。

 また、デザインも刷新し、新しいマーケット頁を作り、ブロガーやビデオの数を増やす。

 FTの固定ユーザーはどんどん増えているそうで、今年は前年に比べて50%以上増加。今年8月までの3ヶ月で固定ユーザーは650万人、ページ・ビューは4300万。サイトの有料購読者は10万1000人だ。ちなみに、ニューヨークタイムズは22万7000人、ウオールストリートジャーナルは98万3000人。

 FTのサイトは現在年間99ポンド(約2万円)の購読料を科しており、サイトからの収入は非公式だが700万から900万ポンドと言われている。

 今回の動きの効果だが、シラキュース大学の教授の話(ガーディアン)だと、「FTを使いたいと思っても紙媒体にアクセスできず、かといって、どれぐらい使うことになるか分からないので有料購読者になっていなかった人がたくさんいる」として、評価している。

 FTは有料化をすてたわけではない。FTチーフエグゼキュティブは、「読者は、FTのジャーナリズムに、適正な価格を払う用意があることを確信している」と語っている。

―日本とビルマ・ミャンマー

 日本政府が抗議をしている話が週末から週明けの英新聞に載った。2国間の関係が気になっていたら、ガーディアン金曜日付けによると、「日本は、2003年、アン・サン・スーチーさんが拘束されてから、ビルマに対しての新たな援助を凍結してきた。しかし、救急医療プロジェクトには資金を提供しており、研修や技術移転を続けている。2001年にはビルマへの援助は100億円だったが、近年は30億円ほどに減少している。ビルマには615人の日本人と74の日本企業がある」とあった。

by polimediauk | 2007-10-01 18:38 | 新聞業界