小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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 視聴者参加型番組での英テレビ局の不正問題で、民放ITVの件が気にかかっている。

 過去2年間の「不正」の調査を会計会社デロイット・ハスキンスに依頼し、その結果が10月出たのだが、「何故2年だけなのか?」という声が出ている。2年を越えた番組でも不正があったのではないか(逆に、ない可能性は低いと言っていいだろう)という点で、「まだまだ何か隠している」と見ている人は多い。

 また、視聴者参加型番組を巡る「やらせ」(鍵カッコつきばかりで恐縮だが、一言で説明しにくいのである)だが、当初明るみに出たのは、例えば視聴者が番組に電話し、その中からクイズの当選者や次回の番組の出演者を選出するという仕組みの中で、(1)技術上のエラーで正しい人物を選出できなかったため、別の人をあるいは架空の名前を当選者として発表していた、(2)既に選出していたが、お金を稼ぎたいので、電話線をつなぎっぱなしにしていた、(3)制作側が、番組のインパクトを高めるために、まっとうに選出された人ではなく、あえて別の人を「当選者」として紹介していたなど、いろいろなケースがある。

 本当に「技術上のエラー」だったのか、あるいは故意に電話線をつなぎっぱなしにしておいて、お金をもうけようとしていたのかどうか、現時点では分からない。

 この(3)にかかわる、作為的な選出が行なわれていたのが、民放ITVのケースだった。調査書をよく読んでも、その選出方法が入り組んでいて分かりにくいが、「あえて別の人を制作者側が選んでいた」のは確かだった。

 調査書を見て、ITVのトップは、「制作側が利益をあげるために、やらせをしていたのではないこと分かった」と結論づけているが、「利益をあげる」ためではなくても、「視聴率を上げるために」やったことは確実で、ウエブサイトからダウンロードできる、今後の活動計画書を見ても、減少した広告収入を上げるために視聴率を上げることが至上命令になっていたことが分かる。

 ITVを見ていると、「電話を使った視聴率参加型番組で被害を受けた人は、ご連絡ください。電話代を払い戻します」という広告が出る。期限は来年2月までで、それまでに申し出がなかった場合、余分に受け取ったとされる金額は、チャリティー団体に寄付される。

 ガーディアンに載った記事によれば、あるブロガーが言うことには、「何年も前の番組のどの日に自分が電話をかけたかなんて、覚えていない。ITVの方には記録が残っているのだから、ITVが調べて払い戻せばいい」。しかし、これでは経費がかかりすぎるのだそうだ。払い戻しがあるとしても、例えば1回の電話で50ペンス(100円ぐらい)なのだそうだ。これでは、払い戻し願いをする人がたくさんいるとは思えないー。つまり、「払い戻しをします」というのは、聞こえはいいが、そしてそういうオファーをするべきとも思うけれども、それでも一種のポーズだなあと思わざるを得ない。やはりこれは、担当者の首を切る、というか、何らかの形で責任を取らないと・・・。ITVトップは誰の首も切らないと言っているのであるが。

 デジタル化時代で、広告料を増やそうとする、英テレビ界の暗い部分が出た事件ではないかと思っている。全く、テレビと言うのは番組を作って放映するところではないのか、と思う。テレビのリモコンや電話を使って、クイズに参加する・・・これではゲーム機と同じだ。

 ・・・と言うことを新聞協会報11月20日付に書いたが、若干の言葉を付け加えたものが以下である。

 英民放最大手ITVが、10月中旬、過去2年間の複数の視聴者参加型番組に電話をかけてきた視聴者から、780万ポンド(約18億円)を不当徴収していたとする報告書を発表した。約1千万人の視聴者が影響を受けた模様で、今年年頭から明るみに出た、視聴者参加型番組を巡る英テレビ界の不正事件では最大規模となる。ITVは不当徴収分を視聴者に返却し、該当視聴者から申告がなかった分は、残金を慈善団体に寄付する。高視聴率、高収入が見込める視聴者参加型番組の制作に走った英テレビ界の問題点を映し出した。

 近年、英国では「フォーン・イン」と呼ばれる視聴者参加型番組が人気となった。視聴者は番組内のクイズに解答して賞品を得る、コンテストの勝利者を選出する、次週の番組に参加する権利を得るなどの目的で、番組に電話をかける、携帯電話からショート・メッセージを送る、双方向テレビのリモコンを使って信号を送るなどして、番組に「参加」する。電話をかける場合は、通常の電話料金に情報料として上乗せ料金を払う「プレミアウム・レート」サービスを利用する。

 こうした番組は視聴率が上がり、電話代の約半分がテレビ局と制作会社の収入になる。多チャンネル化が進み、視聴率競争が激化していることから、一定の視聴率が得られる参加型番組に各テレビ局は収入を依存するようになった。双方向性を可能にしたデジタル機器の普及も参加型番組の増加に寄与したことを考えると、デジタル化の進展が生み出したジャンルとも言える。

 BBCを含めた複数の大手テレビ局の参加型番組で起きた不祥事が明るみに出たのは今年2月だった。原因は主に技術上のエラーがきっかけだったが、編集上の判断から電話参加の結果を反映しない決定をしていた場合もあった。

 ITVは、七月、会計会社デロイット・ハスキンス社に独立調査を依頼し、今回出たのがその報告書だった。複数の人気参加型番組で、電話をかけてきた視聴者全員に番組出演の可能性がある印象を番組側は与えていたが、実際には収録場所近辺に住む視聴者からの電話のみを選別の対象にしており、全く選出される見込みのない視聴者の電話を受け付けるなどの行為があり、結果的に視聴者を欺き、電話料金を過剰徴収していた。電話のかけ手が多いほど、ITVの収入は増える。通信・放送監督機関オフコムの調査が入っているが、刑事事件として、英重大捜査局の取り調べ対象になる可能性も出ている。

  視聴者参加型番組の不正行為では、BBCが子供番組「ブルー・ピーター」でのやらせ行為でオフコムから五万ポンド(約千二百万円)の罰金を科され、ITVが75%所有する朝の情報番組GMTVはクイズの解答を巡る不正で、2003年から今年まで、年間1千万ポンドを過剰徴収していたため、オフコムから200万ポンドの罰金を課された。GMTのトップは引責辞任した。

 ITVの報告は過去2年のみの調査結果だった。それ以前の同様の不祥事はなかったのかどうかに注目が集まっている。グレードITV会長の辞任を求める声も一時、あがった。

by polimediauk | 2007-11-27 05:21 | 放送業界
 ニューズ社の会長ルパート・マードック氏が、英上院の通信委員会から質問を受け、自社が所有する新聞の中で、大衆紙サンと日曜大衆紙ニューズ・オブ・ザ・ワールドの政治ラインは自分が決めるが、高級紙タイムズとサンデー・タイムズに関しては、自分では決めない、と答えた。BBCサイトに出ていた。http://news.bbc.co.uk/1/hi/uk/7110532.stm

 タイムズとサンデータイムズの場合、ニューズ社から独立した編集委員会があって、この委員会が決めるので手足が出ないようだ。

 上院通信委員会がマードック氏に聞き取り調査をしたのは9月だ。場所はニューヨーク。

 政治的ラインとは、つまり、総選挙でどの政党を支持するか、あるいは欧州政策に関わる論調だ。やっぱり、サンの政治の見方=マードック氏だったのだなあと改めて分かった。

 タイムズやサンデータイムズ(の編集陣)に「ああしろ、こうしろ」とは言わないそうだが、「今何やっているの?」とは聞くそうだ。この2紙の編集長をマードック氏は「推薦する」が、編集委員会が最終的に決定する。同じオーストラリア人のロバート・トムソン氏をタイムズの編集長に推した時、編集委員会の意見は「真っ二つに分かれた」が、推薦を拒否はしなかったと言う。

 また、衛星放送BSKYB(ニューズ社が株を持つ)のスカイ・ニュースについて、米国のフォックス放送のようになれば、BBCの「正統な選択肢」になれる、と話した。

 BBCラジオ4のWorld This Weekend という番組に出た、上院通信委員会の委員長の話の中で、マードック氏のコメントが紹介されたもの。

 ふと、日本の新聞と比較して考えてみたのだが、もし大きな違いの1つを挙げるとすると、英新聞は中立であろうとしないことだろうか。それぞれに独自の「ライン」が明確にあって、読むほうも分かっていて読む、という感じ。日本もそうだろうけど、英国はもっときつい感じ。

 ただし、(繰り返しになって恐縮だけれど)放送業界は公正さ、客観性、などを維持するように法律で義務付けられている。公共放送はすべてそうである。衛星放送は例外だが、ニュース報道に関しては、スカイニュースも公共放送に要求される水準を持つことが期待されている。新聞にはこういう法律の「義務付け」がない。
by polimediauk | 2007-11-25 06:21 | 新聞業界
 デンマークのラスムセン首相が、近い将来、ユーロを導入するかどうかに関して、国民投票をする、と宣言した。これは英国に微妙な影響を及ぼす。

 今のところ、デンマーク国民のユーロ導入支持率は高くないようだが、もし導入することになれば、2004年5月、EUが東方拡大した以前に加盟していた国の中で、ユーロに参加していないのは英国とスウェーデンだけになってしまう。デンマークは、1973年、EU(当時は違う名前だが)に加盟してから、これまでにEUに関する問題に関して、6回国民投票を行っている。英国は1975年の1回のみ。「国民に信を問わずに勝手にEUとの統合を深化させている」と野党側の批判の的になる。ブラウン首相は、かねてから、もし英国がユーロ圏に入る場合、国民投票をする、と約束してきたが、どうなるか?

 ラスムセン首相は常に親EUだったが、11月中旬の総選挙で勝利し、第3期目になって時期が熟したと思ったのか。

 国内に目を移すと、インディペンデントの23日付が、社説で野党自民党の党首候補ニック・クレッグ氏を推すという記事を出していて、驚いた。2人しか候補者がいない時に、片方だけを強く推す。しかも、対立候補のクリス・ヒューム氏はインディペンデントの記者でもあったのに。

 しかしこれはこれで意味があるのは、当初、ニック・クレッグ氏が最有力と見られていたのだが、ヒューム氏の選挙陣営の一人が「災難クレッグ」と言う表現を使ってクレッグ氏を非難した。ヒューム氏自身はこの表現を全面的に謝罪したけれども、「ニックの言っていることは統一性がない」と指摘した。そう言われて改めてクレッグ氏の言動に注目すると、すごくいい青年という感じではあるのだが、話し方がより「クール、理論的」なヒューム氏と比べると、どことなく「何かが足りない」ようにも見えてきた。「おい、しっかりしてくれ」という記事が昨日のタイムズに載っていた。

 それでも、英国の政治の長い伝統である、2大政党制はもう古い、新しい風を起こしたい、というクレッグ氏の考えは非常に新鮮で、この点をインディペンデント紙は評価しているようだ。

 インディペンデントは、自民党に一番近い新聞とも言われ、読んでいて、やはり、とも思った。と言うのは、どの新聞もテレビ局も、「まあ、第3政党の自民党の党首選なんて、ほんのお遊び。たいしたことはない」という態度がメインなので、わざわざ真剣に社説で取り上げるということ自体が、「親自民党」という感じがする。

 18歳の女子高校生が労働党の公認候補者になるなど(エミリー・ベンの場合)、英国の政治には若返りの波が続いているような気がする。考えてみれば、43歳で首相になる(トニー・ブレア)というのも、英政治では斬新だった。ブラウン首相が56歳だから少し高年齢になってしまったが、ここらへんで、2大政党制を崩し、欧州のほかの国のような連立政権が誕生する・・・という「実験」をしてみてもいいのでは、と思う。女性首相を生み、若い首相を生んだ英国で。

 タイムズに出た本日の世論調査で、保守党支持率が労働党支持率を(おそらく1997年以来?)10ポイント近く、上回った。しかし、労働党(特にブレア??)に近いと私が見る、政治コメンテーター、アンドリュー・ランズリー氏によると、「それでも政権を取るほどまでには、保守党は支持率を上げていない」と「ニューズナイト」で評していたが。
by polimediauk | 2007-11-24 07:53 | 政治とメディア
 タイムズの編集長ロバート・トムソン氏が、今月上旬、メディア・コラムニストから取材を受けた。その様子の(下)である。

―ネットが普及して、ブロガーが増えた。市民ブロガーたちはプロのジャーナリズムの領域を侵害するようになるのだろうか?

トムソン編集長:もうなっている。読者はニュースを自分たちで集めて読む。例えば安いホテルを探すときのように情報を集める。しかし、ジャーナリストの役割が段々少なくなっている、という説には同意しない。ガーディアンやインディペンデントのサイトのトラフィックがあれだけ大きいのは、信頼されているからだろう。

 かつては、家庭で親が新聞を読んだ。今の若い人はもうそうしない。若者たちは、情報の意味を読み取る教育を受けているかというと、どうだろう?(情報を読み取り、記事を書く)ジャーナリストの役割がここにある。

―ネットにアクセスが世界中からあるとすると、例えば報道の自由など米国あるいは英国社会の価値観、つまり民主主義の概念などが外に広がることになる。こういうことは良いことだろうか?

 日本に5年いたが、日本にも報道の自由をはじめ、英米社会と同様の価値観がある。

―私が聞きたかったのは、例えば中国だ。

 中国に言論の自由などの価値観を広めることを恥ずかしく思ってはいけないと思う。中国では今、人々は様々な問題に関して、話すようになっている。西欧の価値観と言われてきた様々なことが、既に中国の議論の中に入っている。

―投資するだけのお金があり、広告主を気にせず紙面を作れ、かつマードック氏からも何も言われないというのがあなたの現在の状況、ということだった。すると、あなたには随分自由があることになる。

 「権力」と言ってもいいと思う。しかし、責任を持つことが課せられている。タイムズの伝統を維持することやメディアとしての役割を果たす責任がある。

ーライバル紙の編集長についてどう思う?あなたのように編集の自由があるだろうか?

 自由はあると思う。英国の新聞業界はすばらしい。

―テレグラフも「すばらしい新聞」だと思うか?

 (笑い)全部に同意するというわけではないがー(注:質問をしたコラムニストはガーディアンに書いている。ガーディアン知識層はテレグラフを馬鹿にする傾向がある)。テレグラフの編集長、ウイル・ルイスは友人なんだよ・・・。ただ、インディペンデントのスタンスには同意しない。

 タイムズは、来年から利益が出ることになった。これはタイムズの近代の歴史でも初めてだ。完全な価格で売っている部数(注:ある程度のまとまった数を販売する、あるいは販促のために販売する、などの場合、ディスカウント価格になる)だけで比較すると、テレグラフよりも利益は大きい。特にネットを通じての収入が大きい。

―日曜版新聞はなくなるだろうか?

 タイムズに関しては、ネットサイトでは(月曜から土曜のタイムズも日曜版のサンデータイムズも)一緒だ。サイトをそれぞれに分けても意味があるかどうか。紙の日曜紙はこれまで通り、デイリーの新聞とは別個に続くべきだ。

―24時間ニュース体制になって、スタッフも24時間働くのか?

 ネットは透明性が高く、確かに24時間体制になっているけれど、一日の中で重点は変わる。紙とネットと言うよりも昼のエディターと夜のエディターと、どっちを重視するか、ニュースをどう分けるのかで苦労している。

―タイムズはイラク戦争開戦を支持した。今はどう思うか?

 大量破壊兵器の脅威が支持の理由だったが、イラクの現状を見ると、破滅的状態だ。しかし、良くなっている部分もあるのではないか。

―イラク戦争開戦の支持はどうやって決定したのか?

 私はよく専門家に話を聞く。自分がすべてて、上から下に指令する、というよりも、社説の書き手など既に様々な考えを持っている人たちの意見を聞く。それで決めた。

―人気の無料紙について、どう思うか?

 今はおもしろい時代になったと思う。タイムズの売れ行きへの影響はあると思う。しかし、一般の読者にとって、それからジャーナリズムにとっても無料紙があることはいいことだと思う。

―ブラウン首相をどう思うか?

 秋の労働党党大会で、「英国人に英国の雇用を」と言った。何かおかしいと思った。今、政府が大きくなっていることに懸念を抱いている。GDPの40%が国に関わるものだ。政府関連の支出は自己肥大しがちだ。削減するのが難しい。

―ジャーナリズムに関して聞きたい。外国特派員が自分の思い込みで記事を書くことをどう思うか。

 客観性を持つのは非常に難しいことだ。自分が強い感情を持ち、こうあるべきということをニュースとして書いたら、悲劇的な間違いとなる。その土地での事実が最も重要だ。

―何故利益があがったのか?

 紙媒体への広告の出稿が強かったこと、部数が伸び、オンライン収入も大きかったことだ。

―オンラインにかけるコストはどのぐらいか?

 算出は難しい。あるジャーナリストがどれぐらいの時間を紙だけのために、あるいはオンラインのためだけに使うのかを計算するのが難しいからだ。あるコンテンツを様々なメディアに出しているのであって、区分けがあるわけではない。ネットを運営する単純なコストそのものは一定している。広告からの収入が大きい。オンラインの収入は前年と比較して45%増えた。

―ガーディアンは米国向けのサイトを作るという。タイムズは?

 1年半前ぐらいから国際版を作っている。読者の3分の1は米国から来る。米国から読みに来る人が増える、ということは、米国を戯画化しない記事を増やすということだと思っている。(注:英国の新聞は米国人、あるいは米国が文化的に一段低いという見方の記事を出す傾向がある。)

 (ロンドンのフロントライン・クラブ、11月7日のイベントより)
by polimediauk | 2007-11-23 07:23 | 新聞業界
 タイムズの編集長ロバート・トムソン氏が、今月上旬、ロンドン市内のクラブで、メディア・コラムニストから取材を受けた。その様子と会場からの一問一答の部分を、紹介したい。

 トムソン氏はオーストラリア出身で、メルボルン・ヘラルド紙で勤務を開始した時、17歳だったと言う。下っ端から始めて、英国の高級紙の編集長にまで上りつめたことになる。シドニー・モーニング・ヘラルド紙に勤務していた時、北京に派遣される。そこで後に結婚する女性と出会う。一時、フリーでもやっていたようだ。その後、フィナンシャル・タイムズに雇われ、再度北京、それから東京へ。FTウイークエンドを経て、米国(NY)支局へ。2002年から現職。

 インタビューの中ではニューズ社のトップ、ルパート・マードック氏とどれぐらい親しいのかを何度か聞かれた。マードック氏もオーストラリア人で、トムソン氏はマードック氏のお気に入りと言われている。来年からは、ニューズ社が買収したウオール・ストリート・ジャーナル紙の経営陣かあるいは編集に加わるのではないか、と噂されている。

  タイムズ紙では、マードック氏があれこれと編集に指図しているのではないか?と聞かれたが、トムソン氏はこれを全面否定した。

 ところが、ある時、トムソン氏は政府が国民の生活に干渉しすぎるのではないか、政府関連機関に勤める人が増えていることは問題なのではないかと語った。私も含めて、聞いている方は、「まるでマードックがしゃべっているようだ」と思ったのも事実だった。

 ロンドンで取材されているところを見た限りでは、やや恥ずかしがり屋の人に見えた。

―今でもタイムズは「ニューズペーパー・オブ・ザ・レコード」(質の高い新聞、政府が正式な通知をするために使えるほどの新聞)と言えるだろうか?

トムソン氏:タイムズは社会のトップの人のための新聞と言われてきた。しかし英国は変わった。大学に行く人も増えた。以前は、トップの人といえばピンストライプのスーツを着た人だった。しかし今はそれだけではなく、様々な人が入るようになった。また、読者の興味範囲も多様だ。読者がネットなどを通じて、新聞の画面を作る(=カスタマイズ)ようにもなった。

―それでは、タイムズはありとあらゆる人のための新聞か?

 違う。高い質を維持する新聞だし、読み手を高水準のジャーナリズムに連れてゆくことが重要だと考えている。

―かつて、タイムズは安値競争を主導した。DVDを付録につけたりなど、本来の新聞のやることではないことをやったりしている。質を低下させる動きではないか?

 まずどうやって「質」を定義するかだ。私はジャーナリズムの質が問題なのだと思う。元来、タイムズは国際記事に強かった。そこで、この分野のジャーナリズムに投資してきた。特派員を増やし、広い範囲の視点を提供している。新聞の大きさは小型化したけれども、エッセンスはジャーナリズムの質だ。低級化はしていない。

―編集長ということだが、どれくらい現場の編集作業に関わっているのか?営業など、他にやらなければならない業務もたくさんあるのではないか?

 私はシニア・エディター(部長クラスのデスク)に信頼を置いている。通常は干渉しないが、口をはさむこともある。例えば、新聞のリズムやマイナーな直しなど。他の業務があって忙しいからではなく、必要性を感じて、(あえて)様々な人からアドバイスも受ける。

―タイムズは、他の新聞(例えばインディペンデント紙など)と違い、(ある目的を達成するための)キャンペーン運動を紙面を使ってやらないようだ。何か事件が起きて、それに反応する、というタイプの新聞だ。これでは、記事にパンチを効かせにくいのではないか。

  私は(インディペンデント紙のような)意見を表に出す、いわゆる「ビュー(意見)ペーパー」は、新聞の堕落だと思う。インディペンデントのサイモン・ケルナー編集長のやり方には同意しない。新聞が客観性を持とうとするのは重要だと思う。

 ビューペーパーにならなくても、タイムズではスクープの数が他の高級紙と比べても一番多い。古い考え方と言われるかもしれないが、新聞がキャンペーン運動をすることには居心地の悪さを感じる。

 しかし別の意味でキャンペーンをしているとも言える。例えばあるトピック関して、時間を割く、人を投入するなどリソースに力を入れれば、そのトピックに関するキャンペーにもなる、とも言える。

―最近のスクープにはどんなものがあったのか?

 (やや顔を赤らめてー恥ずかしかったのだろう)イラクの英軍向け通訳者に政府が支援を差し伸べるという記事だ。また、労働党党大会ではゴードン・ブラウン首相・党首のスピーチ内容をスクープした。スピーチ自体は、内容を聞いていて、「これはまずい(ことを言っているな)」と思ったが(注:ここは、タイムズが現政権にやや距離を置きだした、と解釈されるようだ。どこが「まずい」と思ったのか、後で説明があった。)

―タイムズなどはニューズ・コーポレーションが所有する。ルパート・マードック氏との関係はどうなっているのか?

  ああしろ、こうしろ、と言われたことはないが、良く話はする。週に(電話で)2,3度だ。話の内容は日本、ロシア・・・多様だ。マードック氏はおもしろい人物だ。

ー翌日の紙面に何を入れるべきか、という話は?

 一度もない。話題には上らない。

―何故この記事がこんな形で出たのか、と聞かれることはないのか?

 全くない。ただ、マードック氏がロンドンにいれば、写真のテクニカルな話や文字のタイプの話など話すこともあるが。干渉は一度もない。一度も。

―つまり、トムソン氏が自己検閲する、ということはないのだろうか?マードック氏が気に入りそうなトピックを入れるとか?

 ない。そう言っている人はいたら、嘘だ。ただ、マードック氏は国際分野に興味があるし、マーケット至上主義でもあると言っておこう。

―つまり、マードック氏は、あなたが既にこうした価値観を共有することを知っていた、と?

 そうだ。

―マードック氏が買収する米ウオール・ストリート・ジャーナル(WSJ)について聞きたい。WSJをどう見るか。

 すばらしい新聞だ。FT米国版で働いていた時、WSJはライバルだった。同時に、ニューヨークタイムズも注視していた。

―マードック氏は何故WSJを買ったのだろう?

 (答えにくそうに)WSJには投資が欠けていた。ジャーナリズムにどうやって投資するのか、これはどの新聞にとっても課題だ。

 今、タイムズは35の海外提携のパートナーを持っている。(一方のWSJの現在の所有者ダウ・ジョーンズは国内中心だ。)結果として、収入を増やした。

―マードック氏は、現在有料のWSJのオンライン購読料を無料にしようと思っているようだ。タイムズは随分オンラインに投資している。新聞とネットとの関係をどう思うか?紙の新聞はもう将来がないのだろうか?

 紙に印刷する新聞の将来は暗いかもしれないが、タイムズの発行部数を見ると、米国の新聞ほどには落ちていない。タイムズはグローバルな市場を持っている。もし英国新聞市場だけを見れば、印刷の新聞の将来は暗いかもしれないが。

 英国の新聞のウエブサイトは非常に進んでいると思う。タイムズの収入も増えたのもオンラインのおかげだ。だからこそ、紙にはプレッシャーがかかるのだろう。しかし、日本や韓国ではそうではない。オンラインよりも紙が上だ。

 ネットをやって思うのは、オンラインのサイトを通じて、毎日新しいことを発見している。本当にそうだ。ジャーナリズムの面からもそうだ。他の人が何を書いているか、やっているか、サイトで見て、人は何かを学ぶ。ああ、こうやっているのか、と。

 私たちの仕事の中核になるのはコンテンツだ。優れたジャーナリズム、ジャーナリスト、専門家がいないと、読者から見放されてしまう。今は、ユーザーが王様だ。ユーザーはコンテンツに厳しい判断を下す。タイムズはジャーナリズムに投資してきたので、ネットの時代でも人を減らす必要がない。

 米国の新聞で、紙に対する人気が下降してだめになっていくかどうかは、その新聞による。紙だけでなく、携帯や、オンラインのサイトなど、様々な場所を通じてコンテンツを出していかないと、ユーザーに罰せられる。(下に続く)
by polimediauk | 2007-11-22 05:43 | 新聞業界
 オランダの下院が、慰安婦問題で日本政府に謝罪と補償を求めるよう要求した法案を可決した、と産経新聞が現地から伝えている。ヤフーニュースで詳しく見ていただきたい。グーグル英語で調べると、報道していたのは中国系と韓国系のメディアのみ。英新聞は今のところ伝えていないようだ。紙面で明日出る可能性もあるが。

 産経によると、欧州議会でも、12月13日に開かれる本会議で慰安婦問題に関する対日非難決議案の採択がある。

 オランダは日本のこと、特に戦争中の行為に関しては非常に批判的である。反日と言ってもいいかもしれない。日本軍が占領していたインドネシアで、先にいたオランダ人たちは「ひどい目に」あったことになっている。当時インドネシアにいた親戚や家族の誰かが苦しい思いをした、という経験を持たない人は、オランダ国民には「いない」と聞いたこともある。「いない」と言い切るのはやや誇張しているようには思うけれど、「そんな感じがする」というのだろう。

 もちろん、移民も増えているし、全員がそう思っているわけでないないけれど、人権擁護というテーマにはすぐに支持が集まり易いし、元慰安婦を助けたいというのもあるのかもしれない。

 それにしても、何故、今なのか?

 こういう形で来られると、「じゃあ、何とかしましょう」と日本国内の世論が高まらないのではないだろうか。かえって逆効果にならないのだろうか。

 英国に元慰安婦たちが今月来た時〈私は見逃してしまったのだけれど〉、アムネスティーがバックアップしていたようであったので、人権問題の一つとして欧州内で認知されつつあるのかもしれない。

 英国でオランダや欧州議会の例にならう・・・ということはないように思う。英国は欧州が嫌いだし、外交を大事にする(「大事」とは良い意味でではないが。)今のところ、何故か関心が非常に低いようだ。

 それよりも、今、英国民が大きな衝撃を受けているのは、歳入関税庁が児童福祉手当の受給者2500万人分の個人情報が入ったCDを紛失したと発表した件だ。関税庁のトップは自ら辞任した。

 国民のデータを失くしてしまうのは日本だけではない。むしろ、英政府の方が危ない。CCTVの数が世界最大で、DNAデータベースの数も大きいけれど、データの取り扱いに失敗が目出つ。

 このところはID詐欺と言って、人のID情報を盗んで、誰かに成りすましてクレジットカードを作ってお金を引き出したりと言うケースがちょくちょく報道される。

 今回のCDだが、児童福祉手当てをもらっている人の情報を会計監査院に送ることになり、通常の郵便物のように封筒か何かに入れて、政府間の書類などの配送をする会社のトラックで運ばれた。これが10月上旬。ところが、今日まで届いていないのだ。どこかでまぎれたのか、誰かが盗んだのか分からない。今どこにあるか、全く分からないのだ。手当ての受け取り者の名前、住所、雇用保険ID,銀行口座情報などが入っているものだ。これを財務相が議会で発表すると、思わずため息と言うか、驚きが議会内に広がった。

 政府の上層部がこれを知ったのは今月に入ってからで、それから数日後に銀行に通知された。これも驚きである。即、銀行に知らせるべきではないか。

 昨晩、「ウオッチドッグ」というテレビを見ていたら、女性二人に全く同じ税金番号が与えられたという話が出ていた。数年経って、女性たちがこれに気づき、担当の関税庁に連絡をとったという。片方の女性は日本円にして約200万円近い税金を余分に払っていた。そこで払い戻しを要求したら、何と、上限があって、例えば150万円分しか返却できないと言う。規則だから、と。彼女のミスではないのに。これが英国である。生活をしてみると、驚くことは多い。

 本日夜の「ニュースナイト」で、スーザン・ワッツ記者のレポートが光る。データは特別なロックをかけずに送られたそうである。元ハッカーの人の話では、今頃、これを悪用しようとする人が必死になって探している、あるいは探し出しているだろう、と。とにかく機密書類に簡単なパスワードをかけるだけで送るのが本当にばかげている、と言っていた。

 この番組に出ていた教授は、莫大の量のデータを、何十万人もの政府役所に勤める人が使うようになっているため、一人でも間違いをしたら、大量のデータ流出につながるようになっていると言い、これは「たった一人のうっかり」ではなく、中央集権化した巨大なデータベース体制を構築している政府の責任であり、政策上の失態だ、と言っていた。
by polimediauk | 2007-11-21 06:34 | 英国事情
 ブレア英警視総監に対する辞任要求が、日を追う毎に高まっており、実際のところ、遅かれ早かれ、辞任せざるを得なくなるのではないか?

 そんな疑問・懸念を、「英国ニュースダイジェスト」最新号に書いた。以下はそれに情報を若干追加したものだが、11月2日と4日に世論調査会社ポピュラスが調べたところによると、48%が「辞任するべき」46%が「辞任するべきではない」として、意見は真っ二つに分かれた。2005年に警視総監になったばかりで、もう職を追われるのだろうか?

―ロンドン市議会が不信任決議

「私を辞任させる力があると言うなら、そうすればいい」-。7日、イアン・ブレア英警視総監は怒りを込めてこう言い切った。怒った相手はロンドン市議会員たちだ。この日、ロンドン警視庁トップの座にあるブレア氏の業務遂行能力に「信頼感を失った」として、市議会は過半数の票で不信任決議を採択した。警視総監を解任できるのは内務相だが、野党を中心に、ブレア氏に対する辞任要求がこれまでにないほど強まっている。

 きっかけは、2005年7月22日、ロンドンの地下鉄ストックウエル駅の構内で、テロ容疑者と間違われて射殺されたブラジル人男性ジェアン・シャルレス・デメネゼス(注:ジメネゼスと表記する場合もあるようです)さんの事件だ。

 同年7月7日、ロンドン同時爆破テロが発生し50数人が死亡し、2週間後の21日には同様の爆破事件(死傷者はゼロ)が起きた。翌日、警視庁はデメネゼスさんを21日の事件の容疑者の一人と誤認し、通勤途中を追跡した。地下鉄駅に入り、電車の座席に腰掛たデメネゼスさんを、自爆テロが起きると錯覚した捜査官数人は、頭部など7箇所を銃撃して射殺した。

 誤射事件の解明には時間がかかった。独立警察苦情委員会(IPCC)が2005年内に事件の経緯の調査を終了していたが、予定されていた裁判終了まで内容の公表が不可能とされ、デメネゼスさんの遺族は、英国民同様、憶測報道の闇に置かれることになった。

ー警察官全員が不起訴

 今年7月、公訴局は事件に関与した警察官全員を嫌疑不十分で不起訴にした。真相解明が思うように進まない中での不起訴判定に、警視庁、ひいては警視総監への不満が募った。
11月1日、ロンドンの中央刑事裁判所の陪審は、警視庁に対し、市民の安全を守る義務を怠ったとして、17万5000ポンド(約4200万円)の罰金と訴訟費用38万5000ポンド(約9200万円)の支払いを命じた。事件は「組織的過失」の結果と結論付けた。野党を中心とした辞任要求に対し、警視総監は職にとどまると宣言した。

 辞任要求にさらに拍車をかけたのが、8日のIPCCの記者会見だった。1年半ぶりに公表可能になった事件の調査書を発表したニック・ハードック委員長は、警視庁内の「深刻かつ避けることができたはずの」エラーが誤射につながったと述べるとともに、警視総監がIPCCの調査を阻んだ事実を明らかにした。警視総監は、再度「辞任はしない」と述べたものの、調査妨害の暴露の痛手は大きい。

 スミス内相はブレア氏慰留支持を表明しており、リビングストン・ロンドン市長も「非常に優れた警視総監だ。政治的圧力、メディアの辞任コールに負けるべきではない」と繰り返し述べているものの、いつまでブレア氏が現職にとどまれるか、先行きは不透明だ。デメネゼスさんの死因審問や遺族による民事裁判の開始も今後予定されており、誤射事件の影響に悩まされる日々が続きそうだ。

ーイアン・ブレア警視総監のプロフィール
 1953年生まれ。イングランド中西部シュロプシャーと米ロサンゼルスで勉学後、オックスフォード大学で英文学を学ぶ。74年、ロンドン・ソーホー地区の巡査になる。順調に昇進していく中で警察内の汚職事件捜査の指揮を執ったことも。組織の近代化に力を注ぎ、コミュニティーの防犯活動の充実に大きな成果をあげて評価される。2002年5月から現職。2003年、ナイトの称号を授かる。ジョン・スティーブンス前警視総監は警察官仲間で人気があったが、ブレア氏は著名大学出身と言うことから、「エリート」、「現場の思いに鈍感」とも言われた。2005年、起訴前のテロ容疑者の拘束期間を90日間に延長するための運動を展開し、警察を「政治化」していると批判された。

ー噂される次期警視総監の顔ぶれ

ヒュー・オーデ氏(48歳)
北アイルランド警察庁(PSNI)長官。スティーブンス前警視総監の弟分とも言われる。鋭い情報分析力と国家の安全保障に関わる問題の処理能力に優れる。人種問題解決にも成果をあげ高い評価を受けたが、昨年、既婚の身でありながら、隠子問題が発覚し、判断力に疑問符がついた。

ロニー・フラナガン氏(58歳)
女王陛下の主任警部。PSNIの前身RUCに30年以上勤務し、組織の近代化に力を入れた。反テロに関する知識が豊富。ブレア前首相から信頼され、イラク警察の近代化に関して報告書を提出した。

ポール・スティーブンソン氏(53歳)
警視副総監。キャリアのほとんどを北西部の警察で積み、ランカシャー州の犯罪率の減少に貢献。警視庁では戦略と近代化を担当してきた。反テロ関連の記者会見で報道陣にブリーフィングする役目を果たす。ブレア警視総監とボーナス額について口論になったと噂された。

マイク・トッド氏(50歳)
グレート・マンチェスター警察本部長。警視庁勤務時代はメー・デーのデモの警備などを担当した。メディアに登場するのが好きで、スタンガンの威力を見せるため、自分に向かって撃った事も。ヒーローは湾岸戦争で著名になった米シュワルツコフ大佐だ。

ーロンドン警視庁の「今、昔」

1829年(創立時)
人員:警察官1000人
担当範囲:チャンリング・クロスから半径7マイル
該当する人口:200万人

現在
人員:警察官31,141人、事務職員13,661人、交通巡視員414人、コミュニティー・サポート員21,06人
担当範囲:620平方マイル(但し金融街シティー・オブ・ロンドンは含まない)
該当する人口:720万人

ー誤射事件の広がりの経緯と今後

2005年7月7日 ロンドンでテロ発生。実行犯4人を含む56人が死亡。
7月21日 ロンドン市内でテロ未遂事件発生。
22日 21日の事件の容疑者の一人と間違われ、ブラジル人技師デメネゼスさんが、警視庁捜査官らに地下鉄ストックウエル駅構内で射殺される。
23日 警察がデメネゼスさんがテロとは無関係だったと発表
25日 ブレア首相(当時)が射殺事件を公式に謝罪
2006年1月19日 独立警察苦情委員会(IPCC)がデメネゼスさん誤射事件に関する調査書を公訴局(CPS)に提出
2007年7月17日 CPSが、誤射事件に関与した警察官全員を嫌疑不十分で不起訴にすると発表。ロンドン警視庁を職場保健安全法違反の罪で起訴。
8月2日 IPCCが、誤射事件に関する報告書「ストックウエル2」を公表。警察幹部の対応に深刻な欠陥があった、と述べた。
11月1日 ロンドンの中央刑事裁判所が、警視庁に職場保健安全法違反で有罪判決を下す。17万5000ポンド(約4200万円)の罰金と訴訟費用38万5000ポンド(約9200万円)の支払いを命じた。警察側は控訴予定。
2日 野党からブレア警視総監の引責辞任要求高まる。警視総監は辞任しないと表明。
7日 ロンドン市議会が警視総監の不信任決議を採択
8日 IPCCが、誤射事件に関するもう1つの報告書「ストックウエル1」を公表。「警察が事件で深刻な過ちを犯した」、「警視総監が調査を妨害しようとした」などが明らかになった。警視総監は、辞任を再度否定。
12月 デメネゼスさんの遺族と死因審理官が、来年実行予定の死因審問の詳細を議論する予定。

ー警察苦情委員会の報告要旨(11月8日発表)

―デメネゼスさん誤射事件で、ロンドン警視庁は深刻で、避けることが可能だった間違いを犯した
―ブレア警視総監が調査を妨害しようとした
―「シュート・ツー・キル」(殺害目的の銃撃)方針は見直すべき
―銃撃を担当した警察官らと指揮官との意思疎通に問題があった
―公訴局は銃撃関係者数人を起訴するべき

ー独立警察苦情委員会Independent Police Complaints Commission(IPC)とは?

 イングランド・ウエールズ地区の警察の活動に関わる苦情を処理するための独立団体で、警察内の人種差別が捜査に影響したとされる、黒人少年スティーブン・ローレンス君殺人事件などを反省し、2004年発足。これ以前に存在した苦情処理委員会(PCA)よりも取り扱い範囲が拡大し、独立性も高まった。警察の捜査を補助すると共に、死を含む重要な犯罪に関わる汚職疑惑、警察幹部に関わる疑惑、人種差別に関わる疑惑、司法妨害に関わる疑惑を、市民からの苦情に基づき、あるいは苦情が出ていない場合でも必要と認めた場合には独自に調査する。17人の委員は内相が任命する。
by polimediauk | 2007-11-20 08:19 | 英国事情
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(テレグラフ編集室の様子。BBCのニュース室に似ている・・・。テレグラフ社写真)

 ガーディアンの報道(16日付け)によると、テレグラフがデイリー部門とサンデーぺーパー部門との統合をさらに一歩進め、両紙(月曜から土曜のデイリーテレグラフと日曜のみのサンデー・テレグラフ)のビジネス部門を一元化することにしたようだ。

 それぞれの新聞の経済記者がどちらにも書く、そして、ウエブにも書く、と。記者の仕事量が増える、という見方もあるようだが、こういうのを聞くと、先日、サンデー・テレグラフの編集長が「さらなる統合」に反対して辞めた、という噂が本当だったのかな?とも思えてくる。

 一方、ガーディアンのウエブサイトを見ていると、これよりもっと大きな記事が、大きなテレグラフ批判だ。ライバル紙の悪いことは大きく扱いたがるのは他のどの新聞でも同じだ。

 地方ニュースを担当するベテラン記者が、支局が2つ閉鎖されたことを機に、辞職することにし、お別れパーティーを開いたのだが、これに出席した、テレグラフのコラムニストで以前に編集長でもあったチャールズ・ムーアが、新経営陣を批判する発言をした、という記事だ。デジタルに力を入れる新経営陣及び、暗に現在の編集長も批判しているようだ。

 テレグラフはウイル・ルイス編集長の下でデジタル、ウエブファーストなど、マルチメディア作戦に力を入れている。随分デスククラスの記者の交代もあった。既に大衆紙化し、ライバルはタイムズやガーディアンでなく、既にデイリーメールになってしまったといわれる。じっくりした解説・分析記事が重要視されなくなった、と聞くけれども。(私自身は楽しく読んでいるのだが。)

 一体どうなるのだろう、テレグラフは?



 
by polimediauk | 2007-11-17 07:15 | 新聞業界
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(デンマークの国会の建物の階段を転げ落ちる子供たち。国会開会日の習慣と言う。)

 デンマーク総選挙の結果が出た。与党自由党と保守党、極右の国民党(閣外協力のみ)は、179議席中、90議席を獲得し、中道右派の第3期目政権が成立することになった。ただし、2005年は94議席だったので、若干減少した。本当にきわどい戦いとなったようだ。総議席数のやっとぎりぎり半分だ。

 シリア出身のナッサー・カーダー議員(ムスリム)が作った新党「ニュー・アライアンス(新同盟)」は5議席だが、ラスムセン首相はこの政党から誰かを内閣に入れるかどうか協議に入っている模様だ。もし誰か入れば、反移民政策を緩和することになるのかどうかが注目される。

 産経新聞の木村特派員が選挙前夜、分析記事を出している。「イスラムが鍵」と言うので、やっぱり、と思った。ヤフー・ニュースから読めるのだが、以下貼り付ける。

デンマーク総選挙 イスラム社会との距離も争点
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/101111/TrackBack/

 【コペンハーゲン=木村正人】デンマークの総選挙の投票が13日始まった。同国では2年前、有力紙がイスラム教預言者ムハンマドの風刺画を掲載、イスラム諸国の激しい抗議行動を巻き起こした。選挙戦はムハンマドの漫画入りポスターを掲げた極右政党や「イスラムと民主主義の共存」を唱える新党などが混戦模様の中、与党と野党の支持率は伯仲、予断を許さない展開だ。投票は即日開票され、同日深夜(日本時間14日午前)に大勢が判明する見込み。

 「表現の自由を!」

 ムハンマドの漫画をあしらった極右政党「デンマーク国民党」の選挙ポスターにはこう大書きされている。女性のピア・キャースゴー党首(60)は「デンマークの価値を守ろう」と声高に主張している。

 風刺画騒動の発端となったユランズ・ポステン紙の元コラムニストで、シリア系デンマーク人のファーミー・アルマジド氏(61)は「イスラム社会は国民党の挑発に乗らなかった。今、この国はイスラム社会をどう扱うか重要な時期に差しかかっている」と語る。

 同国では1970年代から外国人労働者が流入し、現在、全人口542万人のうち約20万人がイスラム系だ。イスラム系住民の急増を背景に、デンマーク国民党は移民・難民対策の強化を唱え、98年の選挙で13議席、前回2005年は24議席に躍進した。国民党は、01年からラスムセン首相が党首を務める自由党と保守党の連立による中道右派政権に閣外協力、欧州で最も厳格とされる移民法制定にも一役買った。

 今回の選挙では当初、与党側が有利とみられていたが、厳しい移民規制に対する批判の声もあって、直近の世論調査では社会民主党を中心とする野党勢力が与党勢力を激しく追い上げている。

 今年5月、国民党の主張に反発するシリア出身の国会議員、ナサ・カダー氏(44)が結成したイスラムとの共存を訴える「新同盟」が、どこまで票を伸ばすのかも注目される。

 「世論がどちらに触れるにせよ、デンマーク王国のキングメーカーは今やイスラムになった」。英BBC放送の番組で風刺画騒動を追ったデンマークのテレビ制作会社社長、カーステン・キヤー氏(57)はこう指摘した。〔貼り付け終わり)

by polimediauk | 2007-11-14 20:34 | 欧州表現の自由

 13日は、デンマークの総選挙の投票日だった。まだ結果は分かっていないが、僅差で与党自由党が政権を再び握ることになるのではないかと言われている。

 結果が出る前の現時点で、例のムハンマド風刺画、ムスリム移民の要素が気になっている。

 右派中道のラスムセン首相は、好景気が続き、世論調査も上々ということで、2009年予定だった総選挙を今年に繰り上げることにしたようだ。BBCによると、税金問題が議論に上るのに先駆け、まず選挙で勝っておきたい、という要素があった。

 現政権が成立する前の政権は社会民主党系で、こちらも一定の支持を拡大すると言われており、台風の目になりそうなのが、、新党「ナショナル・アライアンス」のナッサー・カーダーと言う社会党系議員だ。

 この議員は、風刺画事件の時に、「民主ムスリムネットワーク」という市民組織を立ち上げている。自分は「世俗派ムスリム」と言っており、「イスラム教徒でも穏健派を支持する」という市民を集めるためのネットワーク作りで、急速に人気を高めた。

 もともとの風刺画掲載(2005年秋)から2年経ち、デンマーク国内はイスラム教徒を「良いムスリム=穏健・民主ムスリム」、「悪いムスリム=イスラミスト、宗教熱心なムスリム」と2つに分ける傾向があると現地のムスリムたちから、聞いた。前者を代表するのがカーダー議員。イスラム教徒であれば「自分は民主ムスリムだ」と声をあげなければ、「イスラミスト」と言われてしまうので、生きにくい、と言うのだ。

 選挙運動の中で、右派国民党(現政権に閣外協力)が、新たなムハンマドの風刺画を使ったポスターを作り、これも議論を呼んだ。昨日、BBCニュースを聞いていたら(ラジオ)、国民党に対し、このようなポスターを何故作ったのか?とインタビューしていた。答えは、「これがこの国の価値観だ。いやなら、極論を言えば、出て行けばいい」。デンマークで生まれた移民の2世、3世はどうなるのか、と思った。

 風刺画を掲載したユランズ・ポステン紙の文化部長フレミング・ローズ氏のブログを見る(タイトルは「ノーザン・ライツ」)と、「イスラム教徒は預言者に関する風刺を受け入れるべき」「表現の自由は最優先」という態度を崩しておらず、ポスターにも一理あるという見方を示している。議論はいつまでも平行線だなあとしみじみ思う。

 ローズ氏は、欧州ムスリムの「融和」論者タリク・ラマダン氏との対話をロンドンでしたそうだ。結果、「やっぱりムスリムはダメだ」というような思いをしたようだ。スウェーデンでも風刺画事件があって、画家が警備状態になったことも、ムスリムが宗教への批判を受け入れないことの証拠として否定的な意味で認識しているようだ。
 
 私が気になるのは、ローズ氏が「自分は絶対正しい」、「表現の自由の死守」とかたくなに考えているように見えることだ。何をどこまで言うべきかは、その時代や国民の気持ちによって変わる・・・という可能性を全く考えていないのかなあ、と。

 ‘デンマーク国内のムスリムの、今回の国民党のムハンマド諷刺画に対する反応は、落ち着いたものだったようだ。BBCラジオで、「一切反応しないことにした。いかに世界的にマイナスの反応を引き起こすかがわかったから」と述べていた。

 一方、イスラム教を批判してきた元オランダの国会議員ヒルシ・アリ氏の警備費用(批判した映画を作った脚本を書いたことで過激派から狙われたため厳重警備がつく)を、オランダ政府が支払いを停止したことで(本人が米国に移住したため)、デンマーク首相はオランダを厳しく批判した。

 これに合わせて、デンマークの複数の都市が、「ヒルシ・アリ氏にぜひ住民になって欲しい」と声をあげ、保護を申し出たそうだ。フランスのリベラシオン紙も、ヒルシ・アリ氏をフランス国民にして、警備をフランス国民の税金で払ってはどうか、と提案した。行き過ぎのような感じがしないでもないが。

イスラム教徒の風刺に関わる「表現の自由」を巡り、欧州内の一部の国の知識人(特にフランス、デンマーク、オランダ)には、一種の「表現の自由原理主義・ファンダメンタリズム」が存在し、英国の知識人(ムスリムに敬意を払いながらも表現の自由を守る)や欧州内のムスリムたちとの間に起きた亀裂は、ますます深くなっているように思う。融和、あるいは議論の解決の方向に向っていかない。デンマークの場合は、「右派中道」がより「右派」に、国全体が右にシフトしたような感じがする。こうした状態が何時まで続くのかな、とも思う。ある意味では外国人・ムスリム人口がまだ少ないからこそ、「少数民族は大多数の価値観に従え」という考えが有効なのかもしれない。

総選挙の結果、分析が楽しみである。(13日夜中までには判明するそうだ。)
by polimediauk | 2007-11-14 02:14 | 欧州表現の自由