小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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 来年(といってももう2-3日後)の英政治界はどうなるか?

 様々な新聞、雑誌記事が予測を立てているが、エコノミスト(12月19日号)とタイムズのコラムニストでブレア前首相の自伝を書いたこともある、ジョン・レントウルの分析(12月30日付け)に注目した。

 エコノミストは第3政党自由民主党の新党首ニック・クレッグに新しい息吹を見る。

 労働党と保守党の2大政党制が続いてきた英国では、メディアも政界も自民党を「役立たず」と見て、その主義主張にあまり関心を払わない場合が多い。

 しかし、自民党は1990年代から人気上昇の流れに乗っており、前回2005年の総選挙では自民党の得票率は22%だった。1992年以降は16%以上の得票率を維持しており、下院議席数646の中で自民党は62議席を保持しているだけだが、それでも、この得票率のレベルは、エコノミストによれば第3政党としては戦後最高の高さだと言う。

 2007年は英国の政治の1つの転換期だったと見るエコノミストは、その大きな背景理由として、ブレア前首相の退陣を挙げる。ブレアは「ニューレイバー」を掲げ、かつての保守党のような政策を打ち出して政権を取得した流れがあるが、このブレアの政策は英社会の基本的な変化に呼応したものだ、と言う。この「変化」とは、古い産業を中心とした経済の没落、家柄ではなく本人のやる気が重視される考え方の進展、階級をベースにした政治闘争(労働者階級は労働党、ミドルクラスは保守党など)の終わりだ。

 現在、ブラウン首相もキャメロン保守党党首も、票を依存してきたかつての支持母体にもうたよれなくなっている。浮動票が増え、投票率も落ちている。国民の間の政治に対する無関心をいかに克服するかが各政党の課題になっている。国政に対する不信感が高まり、1つの売りを表に出す極小政党の支持に回る国民も増える。ブレアの退陣後、先行きがどうなるか分からない政況ができた。

 エコノミストによると、今後の各党の課題は、保守党に関しては、支持が弱いイングランド北部に力を入れること、つまり「地理」だ。しかし、最近の政府の失態(データ紛失、ノーザンロックのクレジット・クランチ)がどう選挙民の心理に影響するか、その時の「雰囲気」という要素もある。また、今後の景気がどうなるか、「経済」という要素も決め手になる。

 いずれにしろ、次回の総選挙(2009年か、あるいは遅くても2010年)は、保守党と労働党の議席数の差がかなり縮まると見られ、いずれかの政党は自民党との連立を余儀なくされる見込みがある。そこで、自民党党首クレッグの挙動が鍵を握る可能性が出ている。

 タイムズのジョン・レントウルによると、「噂」として、ブラウン首相の人気がかんばしくないので、2009-10年の総選挙をブラウンが党首では勝てないと考える労働党の一部が、新党首擁立を考えている、と言う。「政党内で党首を変えることで長期政権を維持するのは、まるで日本の自民党のよう」と言う人もいたそうだ。もしそうなると、例えば新党首は現外相のデービッド・ミリバンド、財務大臣として現学校問題担当大臣のエド・ボールズ(ブラウンの右腕と言われた)が挙げられている。ただし、レントウルは「ミリバンドもボールズもまだ準備ができていない」と見ている。

 静かに、しかし、ほんの少し英政界地図が変わりつつあるのかもしれない。
by polimediauk | 2007-12-30 21:20 | 政治とメディア
 23日、イングランド南部一帯に濃い霧が出て、ヒースロー空港では数十便が欠航した。私も車で出かける予定だったが、あまりにもミルク色の霧が濃く、旅行を一日遅らせた。日本でこんなに霧が出た状況にあった記憶があまりないが、窓からのぞくと、直ぐ近くの木々が白い雲のような層に覆われていた。外を歩く人は少なく、みんな家に閉じ込められた格好となった。

 クリスマス前に、メディア業界の話を一つ。

 BBCと民放ITV、チャンネル4は、11月末、ネットを通じたオンデマンドでの番組配信で来年から共同事業を始めると発表したが、これはどことなく、日本の新聞業界のANY(朝日、日経、読売のネットでの共同作業)を思わせる動きだった。

 この件の解説を「新聞協会報」(12月18日付け)に書いたのだが、これに加えて考えてみた。放送業、ネット業、映画などの動画エンタテインメント業界の垣根がますますぼやけてきたようだ。「大手があせっている」感じにも見える。来年以降も、どんどん放送+ネット+エンタテインメント界の融合は進むのだろう。

英BBCと民放、ネット配信で提携
新た収入源を模索


 BBCと民放ITV,チャンネル4によるネットを通じたオンデマンドでの番組配信の連携は、ユーチューブなど動画投稿サイトに対抗して新たな収入減を確保するのに加え、テレビのオンデマンド市場で主導権を握ることも視野に入れている。大手のコンテンツ所有者が協力し、独自の動画配信サイトを作る米国の動きを英テレビ界も追っている。

 来年半ばまでに始まる予定の3社による合弁事業は「プロジェクト・カンガルー」(仮称)と呼ばれる。約1万時間の番組を共同サイトから配信。配信は無料・有料が混在する見込み。毎月一定の視聴料を徴収する方法も検討中という。合弁会社の出資比率は3社均等だが、利益分配の詳細は公表されていない。

 3社それぞれが無料(1部有料)で映像をネットを通じ配信するなか、BBCは「1つのサイトで3社の番組が視聴できる」ことや、「放送局がコンテンツ管理の主導権を握る必要性」などを合弁の理由に挙げた。BBCは受信料収入が予定よりも大きく落ち込むことが確実の中、収入源の拡大も目論む。

 合弁会社はユーチューブなど人気の動画投稿・配信サイトに加え、BスカイB,ヴァージンメディアなど有料放送とも競争する。有料放送の契約者は、複数局の過去の番組をテレビで視聴でき、1部保存も可能だ。「カンガルー」も、ゆくゆくはテレビでのオンデマンド番組視聴を目指しており、先行サービスとの差別化が課題となる。

 今回の動きは、米国のNBCとフォックスを持つニューズ・コーポレーションの2社が10月、動画配信サイト「Hulu」を立ち上げたのに続く形となる。米英で放送局が協力して番組配信に乗り出す背景には、動画サイトに投稿された場合、放送局の収入にならないのに加え、有料配信サイト「アイチューンズ・ストア」を運営する米アップル社への不満がある。音楽業界が違法、合法の音楽ダウンロードに苦しみ、音楽著作権保持者に打撃が出た状況を繰り返したくないという放送業社の共通した認識がある。

 米テレビのダウンロード市場の「80%がアップル社のiTuneを通して配信されている」(業界筋)中で、NBCを初めとした放送業者側はアップル社の番組廉価販売に不満感を持つ。BBC幹部も「アップル社が音楽の消費者に与えた貢献は素晴らしいが、音楽著作権権利者にとっては災難だった。放送業界を音楽業界の二の舞いにしたくない」と「カンガルー」発表時に述べている。

 昨年末いち早く参入したチャンネル4のオンデマンドサービス「4oD」、ITVの同様のサービス、BBCiPlayerには新サイトから飛べる仕組みになる予定だ。

 放送雑誌「ブロードバンド」のコノー・ディグナム氏(インディペンデント電子版12月3日付け)は、「カンガルー」がオンデマンド市場で圧倒的な人気を得るには、見たい番組をPCの画面からテレビの画面に簡単に移動させることができるような、PCとテレビの融合が進化するか、あるいは、アップル社のアイポッドのような専門の再生機が必要だとの見方を示した。

 しかし、この2点が未だ実現していない現在、カンガルーは未知数の存在だ。特に、様々なチャンネルの放映済み番組をテレビのリモコンの簡単な操作で選択して視聴できる「キャッチアップ」サービス(BスカイBの「スカイ・エニータイム」など)が普及しつつある中で(私自身も同様のサービスを気軽に楽しんでいる)、果たしてどれほど独自のサービスが展開できるのか。来年のサービス開始まで、「成り行きを見守りたい」という論調が多いのが現状となっている。
 
by polimediauk | 2007-12-24 06:32 | 放送業界

英国の政治とカネ


 クリスマス商戦たけなわの中、ブレア前首相がカトリックに転向する、というニュースが入った。妻や子供たちが既にカトリックだ。イラク戦争を始めるか否かを含めて、信仰を様々な決断の(心の)よりどころにもしていたようだが、宗教のことを話したら、「人から頭がおかしいと思われてしまう」ことから、ずーっと黙っていた、と最近のテレビ番組の中で語っていた。また、彼の右腕だった人物(アリステア・キャンベル)がニューレイバーは「神はやらない」(=宗教の話はしない、政治に混ぜない)と公言したことでも著名だ。何だか非常にクリスマスっぽい話になっている。

 ブレア氏の遺産の1つとも言えるのが、政治とカネの問題だ。上院議員になる権利を、労働党への融資提供者から選び、いわば議員資格をカネで売ったという疑惑が出た。警察の調査は最後は証拠を見つけ出せず終了したが、ブレア氏自身も警察からの質問を受けた。今朝(22日)、BBCのラジオ4で放映された政治とカネの番組では、「労働党への巨額融資提供者全員が、上院議員になるための推薦者リストに入っていた」と言っていた。

 ブラウン政権になって、政治とカネの関係がまた注目された。

 11月末、不動産開発業者デービッド・エイブラハムズ氏が他人名義で労働党に巨額の違法献金をしていた事態が発覚したからだ。労働党副党首ハリエット・ハーマン氏も巻き込まれた事件は、刑事犯罪となる可能性もあり、ロンドン警視庁が捜査を開始したと言う。「ニューズダイジェスト」に書いたものからまとめてみた。


労働党幹部を揺るがす
英国の政治とカネ



―献金疑惑の主な登場人物

 デービッド・エイブラハムズ氏(63歳):不動産開発業者。2003年以降、66万ポンド(約1億5000万円)以上を他人の名義で労働党に献金。イングランド北東部タイン&ウエア州の元州議員。ビジネス上の別名としてデービッド・マーティンを使うことも。1992年、労働党の国会議員候補になろうとしたが、私生活やビジネスのやり方に関して党から疑問を持たれ、断念。未婚だが、選挙民の受けを狙って、ある女性とその息子が自分の家族であるとして紹介していた。他人名義で献金をしたのは、自分がユダヤ人であるため、「(献金を)『ユダヤ人の陰謀』と言われたくない」、「プライバシーを守りたい」と思ったためと説明している。

 ジャネット・キッド:エイブラハムズ氏の秘書。18万5000ポンド(約4200万円)を労働党に、5000ポンド(約114万円)をハーマン議員に献金。

 レイ・ラディック:建設業者。19万6850ポンド(約4500万円)を労働党に献金。

 ジャネット・ダン:エイブラハムズ氏の会社の従業員の妻。2万5000ポンド(約570万円)を労働党に献金。

 ジョン・マッカーシー:弁護士。25万7125ポンド(約5800万円)を労働党に献金。

 ハリエット・ハーマン労働党副党首:副党首選挙戦でジャネット・キッドから5000ポンドの献金を受ける

 ブラウン首相:党首選で、ジャネット・キッドからの献金を拒否。

 ヒラリー・ベン環境・食料・農村問題大臣:副党首選挙戦でエイブラハムズ氏から直接5000ポンドの献金を受けるが、代理人名義での献金は拒否。

―これまでの経過

 イングランド北東部を拠点とする不動産実業家デービッド・エイブラハムズ氏が、「プライバシーを守りたい」という理由から、4人のビジネス関係者の名前を借りて、約66万ポンド(約1億5000万円)の献金を過去4年に渡って行なっていたことが発覚したのは11月末だった。

 政党・選挙・国民投票法によれば、政党は身元不明のあるいは身元を偽った人物から献金を受けてはいけないことになっている。エイブラハムズ氏が正当な理由がなく、他人名義で献金を行なったとなれば、法律違反行為となる。実際の献金者は名義人ではなくエイブラハムズ氏だと政党側が知りながら献金を受け取っていたとすれば、これ自体も違反行為だ。もし、労働党への秘密の献金を通して、エイブラハムズ氏がビジネス上の利益、例えば自分の会社が関わる土地の建設許可を該当当局から格別に迅速に得ていたとなれば、腐敗防止法(1906年)の違反になる可能性もある。選挙管理委員会は献金の経緯の調査書を11月30日、警察に渡し、捜査が続行中だ。

―「気がつかなかった」とハーマン議員

 エイブラハムズ氏の寄付金は、7月、当時労働党副党首の座を狙っていたヒラリー・ベン議員とハリエット・ハーマン議員にも向った。秘書ジャネット・キッドの名前で献金しようとしたが、ベン議員はエイブラハムズ氏が真の提供者であることを知り、他人名義の献金の受け取りを拒否した。後、エイブラハムズ氏本人の名義で5000ポンドを受け取っている。一方のハーマン氏はキッド名義で同額を受け取り、提供者がエイブラハムズ氏であることに「気がつかなかった」と弁明している。労働党事務局長ピーター・ワット氏は「知っていたが、違法とは思わなかった」とし、事件発覚後、間もなくして辞任した。

 労働党は昨年、上院議員への推薦にからむ巨額融資疑惑に揺れた。2005年の総選挙で労働党に巨額融資をした実業家12人全員が、首相(当時)から上院議員になるための推薦を受けていたことが発端だった。全員が上院議員になったわけではないが、労働党が金銭で貴族(=上院議員)の地位を売ったのではないか、とする疑念が出た。政党は一定額の献金を受けた場合、これを公表する義務があるが、融資として資金提供を受けた場合は、関連法が修正された昨年秋以前はその義務がなかった。

 上院議員疑惑融資スキャンダルの後、政治資金の新たな浄化策を行なうことで各政党は合意したが、事態は思うように進展していない。野党保守党は労働組合を含めて各個人・団体の献金最高額を5万ポンド(約1140万円)に限定する案を提案したが、組合からの献金を大きな収入源とする労働党はこれに反対している。「最も腐敗が少ない政治体制」と言われる英国で、もし改正があるとしても「小規模になる」というのが専門家の見方となっている。

ーそれではどうしたら?

 融資を受ける、あるいは政治献金を受けるのが腐敗につながりやすいのだと仮に考えた場合、解決策の1つとして、「税金でまかなう」という考え方もあるだろう。先に触れたBBCのラジオ番組によれば、「税金でまかなうシステムになっても、規則が増えるばかり。ありとあらゆる手を使って、人は規則を潜り抜け、政治に影響を及ぼそうとする。あまり変わりはないだろう」という声が出た。

 また、ある程度の資金を持った人が、まっとうにある政党の活動の支援をしたいと思って、融資あるいは献金をしたとき、「胡散臭い目で見られるのはごめんだ」、「堂々と寄付したい」という献金者の声も出た。うまい解決策はないような感じがした。

 それでも、ブレア氏の時代の上院議員融資疑惑の件も、今回のエイブラハムズ氏の件も、資金が欲しい労働党が「ありとあらゆる手を使って、少々胡散臭くても、カネを集めた」ことの結果と言えるだろう。「他人名義の献金を受け取ってはいけないと知らなかった」というのは、大嘘と思わざるを得ない。〈常識的に考えて、ルールは知らなくても、何だか変だなと思うのは普通だろうから。)

―日、英、米の政治献金情報の公開度

 日本:政治団体の会計責任者は、総務大臣か選挙管理委員会に対し、年間5万円を超える寄付については、寄付者の氏名など、一つの政治資金パーティーごとに20万円を超えるものについて、支払い者の氏名などを報告する。政党・政治資金団体に対する寄付で、個人の年間限度額は2000万円、企業・労働組合の場合は750万円から1億円まで(資本金などによって変わる)。一つの寄付受領者に対する年間減額は個人からの場合150万円までで、企業・労働組合の場合5000万円まで。
英国:政党本部が受け取った、「正当な献金者」からの5000ポンド(約114万円)以上の献金を選挙管理委員会に報告する。「正当な」とは英国の選挙民、英国で活動をする企業、労働組合、団体、政党など。これに該当しない人物あるいは団体、例えば具体的に特定できない人物あるいは団体からの200ポンド(約4万5000円)以上の献金を受け取ることは禁止。融資もほぼ同様の扱いを受ける。
米国:個人が一度の選挙運動中に一人の候補者に献金できる最大額は1000ドル(約11万1000円)、年間では2500ドル以上(約27万8000円)の献金はできない。候補者は献金を受けた全団体を公表する義務がある。年間200ドル(約2万2000円)以上の献金を受けた個人の名前も公表。
(Source:総務省、BBC、Electoral Commission)

―関連キーワード 
ELECTORAL COMMISSION:選挙管理委員会。政党・選挙・国民投票法(2000年)を下に、設立された独立団体。民主制度の品位と国民の信頼を維持するために存在する。政党の登記、政党や選挙の資金繰りに関する知識を国民に広める、政党や個人の政治資金の集め方や出費内容の公表、選挙制度の水準の維持、選挙結果の公表など、地方及び全国規模の選挙が公正に行なわれるようにする。選挙区を決める境界委員会とも協力する。選挙関連法改革に関し、政府に諮問する。一定額の政治献金や融資を受けた政党はこれを委員会に報告する義務がある。
by polimediauk | 2007-12-23 07:03 | 政治とメディア
c0016826_73993.jpg12月13日の欧州議会での慰安婦問題に関する決議採択で、中心となった人物、英国のジーン・ランベート氏に取材した話をベリタに出した。無料記事なので、ご関心のある方は見ていただきたい。

 http://www.nikkanberita.com/index.cgi?cat=special&id=200704290339260

 特に「裏」が分かったわけではないが、アムネスティー・インターナショナルがオーガナイズした運動で、元慰安婦たちの話を聞き、それに心を動かされたのがきっかけのようだ。

 欧州議会に関する限り、中国系パワーの関与ということではなさそうだ。あくまで人権がらみの文脈での採択、と。

 この件でウイキペディアを見ていたら、日本語にはかなりいろんな説が出ていたが、英語版が結構薄い感じでやや驚いた。米国での決議案の件もあって、英語は相当あるのかなと思っていたのだが。村山氏の謝罪もいつのまにか、「小泉純一郎首相の謝罪」になっていた・・。

 いずれにしろ、日本と中国+韓国+朝鮮との対話しかないようだ。
by polimediauk | 2007-12-21 07:02 | 英国事情

 米国に続き、カナダ、オランダ、そして欧州議会でも慰安婦に関連して、日本政府に謝罪を求める決議案が採択され、この経緯や裏事情に関して英・欧州メディアで分かることはないかと、調べてみた。(日本語のブログでこの件で詳しいものがたくさんあるとは思う。この問題に関して「クールな英国」から見た、現況を伝えてみたい。)

 まだ調べ始めたばかりで「裏」というところまでは行っていないのだが、現時点では

 ―12月13日の欧州議会決議案採択は、英国のメディア(4代高級紙)をネットで検索してみた限りでは、現在までに記事が見つからなかった。米国での決議案の件はタイムズで出ていたが。

 ―オランダの決議案の件も、ネットで英語のものを調べた限りでは、特に解説めいたものはなかった模様だ。(ただし、国会で議論されて採択されたのだから、オランダ語新聞ではかなり出ていた可能性がある。もし知っている方がいらしたら、教えていただきたい。)

 ―英国メディアが何故、現時点でこの件をほとんど報じていないかだが、前にもコメント欄に少し書いたけれど、私の見たところではいくつかの要素があるように思う。まず(1)この件は英国には直接関係していない。英国ででかい人権団体アムネスティー・インターショナルが元慰安婦たちを欧州に呼んで、催しを開いていたにも関わらず、だ。(2)英政府側に、現時点において日本に対して特に「懲らしめよう」という悪意・アジェンダがない。(3)在英中国コミュニティーの関心は「対日本」うんぬんでなく他のことにある。(4)最も近い例の欧州議会の件は、「欧州議会」やEUに対する反感が強い英国では、「関心外のこと」、「自分には関係ない」と思う国民が多く、よっぽどのことでない限り、報道されない(EUや欧州議会を嘲笑できるケースをのぞき)―などなどの理由があるかと思う。オランダの件も報道されたのを見ていない。オランダは同じEUの仲間だが、英国からすると、「外国」感覚が強い。一般的に言って、英メディアの報道を見ていると、他のEUの国のニュースはフランス、ドイツ、スペインがせいぜいである。(5)また、どうも人権に対する考え方も違うようだ。この説明が難しいが、人権に関して、一部の欧州諸国よりも、英国はアバウトな面があるのではないかと私は思っている。「正義よりも国益優先」というか。(6)何故オランダが?という面では、オランダには元慰安婦がいる、というのがまず最大の理由だろう。オランダが植民地化していたインドネシアに日本がやってきた時のことだ。オランダで日本に恨みを持っている人は結構多いと私は見ている。(日本を好きではない国は結構ある。外に出ると、実感される方は多いと思う。)

 ―もう1つ、気づいたのが、英語(グーグルニュース)で関連記事を拾ってみると、「欧州議会の採択」がらみでは、EUが出したもの以外にはブルームバーグの報道などがあったものの、他はほとんどが中国系、韓国系メディアの英語版だった。つまりこれは、「日本対中国(あるいは中国と韓国)の闘い」なのだと思う。米国、カナダ、オランダ、欧州議会という形で採択が出てきても、日本が向き合っているのは、あくまで中国・韓国だ。

 ―欧州議会決議までの道順だが、以下のアドレスからチェックしたところでは、アムネスティーの企画で、元慰安婦が各国を訪問し、体験談を話す、というイベントが開催され、慰安婦たちは11月上旬、欧州議会員の前で苦しみを語った。その後、12月13日、日本政府に謝罪を求める法案の可決となったが、興味深いのは討議・採択に持ち込むまでに時間がかかった(5ヶ月)そうで、それは議会の中での関心が低かったからだそうだ。この問題を取り上げようとしたがらない雰囲気が強かったのだと言う。「やっぱり・・・」という感じがする。いくらなんでもずい分昔の話だし、本当の部分は「日本対(主に)中国・韓国」の問題なのだから。

 ―日本政府に慰安婦制度の存在を正式に認め、その歴史的責任を謝罪することを求めた請願書に署名をしたのは54人の欧州議会議員である。議員の全体数は785人だ。

 ―この法案を提出したのが、ロンドン出身の議員ジーン・ランバートだった。前に難民申請者を救うための運動の一環で会った事がある人だった。明日20日、取材予定である。何故法案提出に至ったかの経緯を聞いてみたい。(注:採択日は13日だったので、後で変えました。)

 以下はランバート議員のHPと欧州議会のプレスリリース。

http://www.jeanlambertmep.org.uk/contact_jean.php

http://www.theparliament.com/EN/News/200712/303a08a6-197b-42df-9425-bc36e5c8de3b.htm
by polimediauk | 2007-12-20 06:34 | 英国事情
 ルパート・マードックのことを書きたいと思っている間に、ずい分と前のエントリーから間があいてしまった。今朝、テレグラフの紙面をあけたら、全面広告で、マードックのニューズ・コーポレーションが大きく出ていた。何事か?と思ったら、米ウオールストリートを傘下に入れたので、ということらしい。WSJを所有するダウジョーンズ社をニューズ社が買収し、その手続きが一通り終わったようだ。

 次のページをめくると、まだ広告が続き、何と3面に渡ってニューズ社の広告になっていた。3面続けてというのは 非常にめずらしい。私のほんの数年の記録では初めて見た。

 マードックは本当に米新聞業界+WSJに力を入れているようだ。新たなおもしろい素材が見つかった、とでも言うような。WSJには経済の話だけでなく、文化や社会面的記事を増やしたいらしいのだ。ニューヨークタイムズを叩きのめしたいらしい。比ゆだが、「戦争」だな、という感じがする。

 話はメディアからずれるが、「ブログで特に政治トピックを楽しみにしています」という方に時々、出会う。

 今年の英政治界の動きで日本からも注目が集まった話といえば、首相交代(ずい分昔のような気もするが)のほかには、女子高校生エミリーベンの立候補者として選出、というトピックだろうか。

 何故若者候補が必要なのか?を、前にもインタビューをしたことがある、フェビアン協会のスンダー・カトワラ事務局長に聞いた話の採録(オリジナルはベリタ)をしたい。


英労働党系シンクタンク事務局長に聞く:「国民は『消費者の嘆き』で政治を語ってはいけない」


 9月末、当時17歳だったエミリー・ベンさんが、英下院選の最年少の立候補者に抜擢され、国内外で注目を集めた。当初10月頃に予定されていた総選挙がもし実行されていたら、18歳の国会議員が誕生していた可能性もあった。英国では、若者層の政治参加を促すため、昨年、下院議会への立候補最低年齢を21歳から18歳に引き下げたばかりだ。選挙権の最低年齢18歳を16歳に下げようという声も根強い。低年齢化の支持が広がる背景や日英の選挙事情の違いを、労働党系のシンクタンク、フェビアン協会のスンダー・カトワラ事務局長に聞いた。
 
―何故若者層の取り込みを狙うのか? 
 
カトワラ事務局長:若者層の投票率が他の年代と比べて非常に低いことが一因だ。労働党に限らず、野党の自由民主党なども、選挙権や被選挙権の低年齢化を支持している。若者自身が政治の中に入れば、政治に関心を持つようになるのではないかと考えたからだ。しかし、若者が政治家に立候補したからと言って、他の問題がすべて解決できるというわけではない。例えばここ数年で始まった、市民権の授業も重要だ。今中等教育では履修が義務化されている。いずれにしろ、一筋縄ではいかない。 
 
―18歳で国会議員になる、と言うのは若すぎるのではないか?人間的にもまだ未熟では? 
 
事務局長:責任ある職につくのは、18歳にとっては挑戦でもある。個人の能力と周りの支援で責任ある職をまっとうすることは可能だと思う。若い人が政治家になりたがるのは、若いからでなくて、自分が信じていることがあるからだろう。しかし、18歳で閣僚になれるかと言うと、これはうまくいかないと思う。ただ、現在、約650人の下院議員の中で20代は3人ほど。若者が議会の年齢構成を見たら、自分たちの存在を反映していないと思うだろう。 
 
―英ジャーナリストのピーター・オボーン氏が、「政治階級の勝利」と題する本を書いて、人気だ。政治家や政治家のために働く人々が、1つの階級として存在し、自分たちの階級の利益拡大のためだけに生きている、と主張した。政治家たちが、国民の存在を無視して、自分たちの利権擁護のみを考える特権階級になるのをどうやって防ぐのか。 
 
事務局長:確かにそういう批判には一理ある。国会議員は選挙区の地元民と関わりを深める努力するべきだし、国民に対して開かれた存在であるよう努めるべきだ。しかし、国民の側も、政治教育も含めて、もっと能動的になれる部分があるのではないか。政治を人任せにしている部分があるのではないか。政治階級のやっていることが気に入らなければ、これを市民が正すようにもっと動くべきだ。 
 
 私が現在の政治に対して持っている大きな懸念の1つは、ある政治体制が機能しているかどうかを市民が検証する時、「自分が欲しいものを得られたかどうか」という点から判断する傾向だ。「私は非常に忙しい。自分の人生があるし、仕事がある。私は消費者だ。私は政治を無視する。政治家のあなたがやればいい。政治はあまりにも退屈すぎる」と言って、政治問題に全く関心を持とうとしない点だ。まるで、市民がお店に行って、「あれが欲しい」といって消費するようなものだ。しかし、政治は消費行為とは反対の行為だ。将来を能動的に作り上げていく過程だ。社会の構成員全体のための決定を、集団で行なうことだ。政治が単なる消費者の嘆きになると、その意味が失われてしまう。 
 
―英国の選挙では日本で言うところのいわゆる「地盤」があまりなく、候補者は自分とは全く関係ない選挙区から立候補することが多々あると聞いた。これは良いことだろうか? 
 
事務局長:そういうやり方も良いと思う。でないと、そのコミュニティーで生まれ育った人だけが立候補できることになる。考えてみて欲しい。ある特定の人種の人のみがその人種の選挙民を代表できるのが果たしていいことかどうか? 
 
 労働党議員でスティーブン・トイッグという人がいる。かつて内閣の一員だった。2005年の総選挙で、彼は英北部リバプールの候補者になった。この地域に個人的なつながりはない。労働党のリバプール支部は、誰を公認候補にするかの選抜を行い、現職の労働党議員ではなく、トイッグを選んだ。選ばれた理由は、確かに全国的に名が知られていただろうし、これが有利に働いたのもあったのかもしれない。しかし、地域の人がすればアウトサイダーを候補者として選んだのは、彼に何か訴えるものがあったからだろうと思うし、例え自分が生まれ育ったわけではない選挙区であっても、選挙民の声を代弁するために私利私欲を越えて働くのが、本来の議員の役目だ。 
 
―英国では2世議員が少ないと聞く。何故か? 
 
事務局長:それは、ベン家が良い例になる。労働党公認候補者となったエミリー・ベンは現在18歳だが、公認候補になるまでの選抜中は17歳だった。叔父が現在の環境大臣ヒラリー・ベン、祖父のトニー・ベンは50年間国会議員で、閣僚も歴任した政治家だ。エミリーがもし政治家になったら、ベン家の5代目の政治家になる可能性があった。 
 
 英国では政党が中心となって国の政治が進む。このため、例外はあるけれども、個々の政治家の名前のブランドはあまり重要ではなくなる。選挙民も成熟していて、名前のブランドには騙されない。メディアも容赦なく批判記事を出すので、有名人と言えど当選するとは限らない。逆に反発を食らうこともあるだろう。 
 
―10月か11月と思われていた総選挙を、ブラウン首相は結局は行なわないことにした。きっかけは保守党の支持率が急上昇したからと言われている。選挙をしない、という判断は正しかったと思うか?途中で気持ちを変えた、ということいで、批判を浴びたが。 
 
事務局長:絶対に正しかったと思う。私は、今日選挙をやってブラウンは勝てたと思う。しかし、(保守党に人気が逆転される前までは)支持率は高かったけれど、そういう理由で選挙に勝つべきではない。変化を起こすための政策提言があって、それで勝つべきだ。 
 
―労働党が政権を取ってから、世襲貴族700余人の貴族院(=上院)の中で、92人を残して他は一代限りの貴族のみとなった。一代貴族の存在そのものが、労働党の考えからすると、まずいのではないか? 
 
事務局長:それはそうだが、全員が選挙で選ばれるとなると、下院との区別がなくなる、という議論がある。これをどうするかだ。 
 
―君主制はどう考えるか。 
 
事務局長:君主制の廃止、つまり共和制は支持していない。フェビアン協会では最近、君主制に対する議論を行なった。民主的な君主制を維持するのは可能だという結論に達した。 
 
 何故多くの国民が君主制を支持しているのか?2つの理由があると思う。1つには、歴史とのつながりがある。いわば君主制は1つの儀式だ。国民は、儀式の全てをなくそうとは思っていない。 
 
 もう1つは、君主がある意味では政治の外側にいて、政治のレフリーのような役割りを果たせる、ということ。国民は、政治家よりも君主に信頼を置いているのかもしれない。 
 
 労働党は社会民主主義の政党だ。だから、基本的に、生まれたときに人に差があるべきではない、と考える。そういう意味では世襲制の君主制度はこうした考えに逆行している。しかし、「全ての人に機会が均等に与えられる」社会を構築する手段はあくまでも民主主義だ。もし労働党の人に聞けば、半分か半分以上の人が、理想としては、世襲の君主制を廃止するべき、と言うかもしれないが。 
 
 個人的には、王室は何百年も続くと思う。国民の間では、王室を廃止せずに近代化を望む人が多いようだ。共和制を望む声は過去20年を振り返っても、20%ほど。もし50%の国民が廃止したほうがいいと考えるようになったら、あっという間になくなるかもしれないが。 

(2007年10月24日ベリタ掲載 )
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=200710240249223
by polimediauk | 2007-12-15 01:22 | 政治とメディア

加藤紘一氏の・・・

 ニューズ社会長のルパート・マードックが息子のジェームズに社の英国・欧州担当を任せると発表し(英国での子会社ニューズ・インターナショナルを任せる)、「世代交代が始まった」と、英メディア界では結構大騒ぎとなっている。ニューズ社は高級紙タイムズや大衆紙ナンバーワンのサンを所有する。

 加えて、タイムズの編集長だったロバート・トムソン氏が米ウオールストリートジャーナル(ニューズ社はWSJの発行元ダウ・ジョーンズ社を買収)の発行人となる。「発行人」とはどういう仕事をするのか?編集を統括する、ということだろうか、それとも経営のみかどうか。

 そして、トムソン氏がいなくなるので、新しい編集長はタイムズでビジネス面を統括していたジェームズ・ハーディング氏となる。38歳。去年夏、フィナンシャルタイムズからタイムズに来たばかりだ。FTにいた時、マードック氏のインタビューをし、「印象付けた」とも言われる。

 ケンブリッジ大学卒業後、1994年からジャーナリズムの世界に。FTから始まって、中国・上海支局の最初の支局長。日本語、中国語、フランス語、ドイツ語にたんのうだそうだ。日本語が話せるのはケンブリッジ大学で勉強した後、日本に移住したからだ。何と、政治家加藤紘一氏のスピーチ・ライターになったという。英国流で言えば、自分自身も政治家になるためのキャリアみたいな感じだ。

 メディア担当、ワシントン支局長なども歴任した後、タイムズに来た。

 仕事開始は水曜日(12日)だそうだ。

 それにしても、トムソン氏も中国及び日本で記者職の経験があり、日本語を話せ(あるいは理解し)、今度の編集長も中国、日本、日本語の共通点がある。あまりにも似すぎている!!

 これまでは、ルパート・マードック+ロバート・トムソンのコンビだったわけだが、今度は、マードックの息子ジェームズ・マードック(34歳)+ジェームズ・ハーディングのコンビとなり、若返りにもなる。

 一方、ニューズインターナショナル社のレス・ヒントン会長は、買収するダウ社の最高経営責任者になる。英国からヒントン氏、トムソン氏が米国に入ることになる。「米メディア界への影響の方が大きい」とBBCニューズナイトのコメンテーターが昨晩言っていたが。
by polimediauk | 2007-12-09 02:49 | 新聞業界
 5日、BBCの政治記者(政治部長とでも訳せばいいのだろうか、ポリティカル・エディターと言うタイトル)ニック・ロビンソン記者がロンドン市内で元ベテランBBC記者からの質問に答える、という集まりがあった。

 ロビンソン氏は、元々、制作側にいて、BBCの著名ドキュメンタリー枠「パノラマ」などで勤務した。BBCニューズ24の政治記者となり、民放ITVの政治部長となった後、ライバル局だが古巣のBBCの政治部長に抜擢された。大きなメガネをかけて、おそらく、最初に彼の顔を見た人は、「変だなあ!」と思うのではないか。私もメガネがでかすぎると奇妙に思ったものだった。

 いくつかの一問一答から。

―夜のニュースなどで、政治記者は何故官邸のドアの前に立ってレポートするのか?官邸内で何かが起きているわけでもないのに、だ。政治記者といえば、議会のロビーに立って、議員たちを捕まえて取材する、情報を取るのが普通だったが。

ロビンソン氏:一般的に、政治記者はあまりロビーには行かなくなった。政治家のほうがメディア側に来てくれる。しかし、なるべく行くように努めてはいる。夜、官邸のドアの前からレポートするのは臨場感を出したいから。

―ニュースは今、24時間体制になったが、スクープを手にしたとき、例えば夜の旗艦ニュース番組の放映まで出さないでおくなど、「押さえておく」ことは可能か?

 すべてを直ぐ出す必要はないが、それでもなるべくすぐ出さないと、ライバル社が放送してしまう可能性がある。そこであまり長くキープしないで出していかざるを得ない。

―政府と政治メディアの関係について教えて欲しい。

 どの政治家も、政府関係者もあるいはどんな人でも、メディアに情報を提供するとき、出してほしい理由がある。政治家や政府との関わりで言えば、常にトレード・オフ、つまり、何かと何かの交換になる。以前、ブレア元首相の右腕といわれたアリステア・キャンベル氏が官邸勤務時代の日記を出版する際、BBCに日記をベースにした番組の放映権を与えた。インタビューまで約束した。ところが、直前になって、インタビューでは「本に関しての質問は受けない」といわれた。「それならいやだ」とBBCは言わなかった。既に番組放映権が得られていたし、キャンベルは自分の宣伝ができた。

 政治家がジャーナリストに情報を与えるとき、何故そうしたのかを見極めることが肝心だ。(一問一答抜粋終わり。)

 私がこの集まりで特に印象的だったのは2つあって、1つは、2003年のイラク戦争開戦に関わる、政府の情報操作疑惑(BBCラジオ放送)で、「政府がイラクの脅威を誇張していた」としたBBCラジオ記者アンドリュー・ギリガン氏に関するコメントだった。ロビンソン氏はギリガン記者の報道は「雑なジャーナリズム」、「情報源を正確に紹介しなかった」とした。ギリガン記者は「真実を探り当てたヒーロー」といわれているが、自分はそうは思わない、と。(政府が脅威を誇張していたのは後で実証されているが、ギリガン記者が報道の情報源を不正確に表現し、匿名情報提供者の名が割れると、提供者=デビッド・ケリー博士は自殺した。)

 もう一つは、財務相だったブラウン首相と「夜中まで飲んだ」ことを明らかにした点だ。日本でも、いや世界中で政治記者と政治家・時の政府は親しい関係にあるのかもしれないが、それでもどうやって一線を画すのかに興味があった。「ジャーナリズムは人が命。人を知ることによって報道ができる。自分は政治記者だから政治家をよく知る必要がある」と言っていた。

 「夜中まで飲んだ」のはブラウン氏が財務相の時のエピソードで今はどうなのかは分からない。そして、この時、翌朝、ラジオの時事番組でインタビューすることになっていたそうだ。ブラウン氏はインタビューのリハーサルをやりたがったという。ロビンソン氏は「そういうことはしないもの」とこれを断っている。しかし、「一体どういう政策になるのか?」など、今後のことをいろいろ「議論した」と言う。そして、翌朝になり、新聞ではブラウン氏に関する別の話題、つまりチャーチルとガンジーを崇拝すると述べたブラウン氏のコメントが見出しとなっていたので、ロビンソン氏は「非暴力のガンジーを本当に崇拝するのか」とブラウン氏に繰り返し聞き、「世界の新しい秩序」を話そうとしていたブラウン氏は、これ以降心を閉ざし、「怒りに満ちた答えに終始した」と言う。

 そのときのインタビューは以下で聞ける。

http://www.bbc.co.uk/blogs/nickrobinson/2007/01/the_big_b_meets.html

 親しい関係を続けながらも、「情報の交換相手」として、時にはクールに対応することもあるだろうー。ロビンソン氏は屈託なく様々なことを話してくれたが、これが現実なのだろう。政治記者の経験がない私からすると、こういう政治家と政治記者の関係は、「夫婦の会話」を聞いているような感じで、「随分仲がいいんだなあ」と思うばかりだった。
by polimediauk | 2007-12-06 16:53 | 政治とメディア

英日曜紙の将来は?

 日曜紙の将来が気になり、平日版との融合の動きを、新聞協会報12月4日付けに書き、これにやや補足したものが以下である。

 私は仕事柄、日曜高級紙を全て買っているが、興味のない分野の小冊子を抜いていくと、ずい分、紙のゴミがたまってしまう。もったいないなあとは思うのだが・・・。かくして、月曜日、他の紙のゴミも合わせて、大きなリサイクル場所に棄てに行くのがパターンとなっている。

           ***

英日曜紙、平日版と融合進む
土日の生活スタイル変化
24時間編集体制に組み込まれ



 英テレグラフ・メディア・グループは11月中旬、日刊紙・日曜紙・ニュースサイトの経済部門を、写真部門に続き統合した。ガーディアン・メディア・グループも、日刊紙ガーディアンと日曜紙オブザーバーのサイト上での融合を加速させるとしている。土曜付けの新聞の日曜紙化に加え、日刊紙が24時報道体制の確立とサイト強化に向けた動きを進める中、日刊紙と独立した編集体制を誇ってきた日曜紙は岐路に立っている。

 英紙は発行日の違いから、月曜から土曜まで発行される日刊紙(平日版)と、日曜紙とに分かれる。キリスト教の教えの影響で日曜は長年「特別な日」と考えられ、両紙はそれぞれ別個に発展してきた。発行元は同じ場合でも、編集長や編集スタッフは日刊紙とは別に持つ。

 4大日刊高級紙デーリー・テレグラフ、タイムズ、ガーディアン、インディペンデントの系列日曜紙はサンデー・テレグラフ、サンデー・タイムズ、オブザーバー、インディペンデント・オン・サンデーとなる。

 その週を振り返る解説記事や読み物的記事に加え、テレビ・ラジオの番組予定の小冊子、数々の特集の小冊子、映画のDVDなど、かなり分厚く読み応えのある日曜紙だけを購入する人も多く、日曜紙の発行部数の順位は系列日刊紙の順位とは異なる。例えば、デイリー・テレグラフの発行部数は約88万部(10月、英ABC)で4大高級紙の中では首位だが、系列日曜紙の中では、サンデー・タイムズが約127万部(同月)でサンデー・テレグラフの約65万部を大きく引き離す。

 しかし日刊の高級紙は近年、グループの日曜紙に対し、連日の編集協力を求めるようになっている。24時間の報道体制を確立し、サイトで収益を上げようという経済的な理由が背景にある。編集体制の融合は日曜紙独自の編集方針を脅かす恐れがあるとして9月以降、懸念を抱いた日曜紙編集長が辞任したり(サンデー・テレグラフ)、辞任表明(オブザーバー)したりすることが相次いだ。

 テレグラフ社は11月16日、日刊紙、日曜紙、ウエブの経済部門を統合した。これに先立ち、写真部門も一体化している。2紙の編集部門の融合はこれからも進む見込み。ガーディアン社も、来年の本社移転を機に、ガーディアン紙とオブザーバー紙の間でネット向け編集作業をさらに加速させる予定だ。

 「日曜紙は時間をかけた調査・分析や、スクープ発掘を主眼とする。速報が重視される日刊紙のジャーナリズムとは必ずしも一致しない。日刊紙と融合すれば、独自性が薄れてしまう」。と新聞やテレビ局などの編集長らで構成する「ソサエティー・オブ・エディターズ」のボブ・サッチェル代表はこう指摘する。

 同氏は、日刊紙との融合の圧力に、24時間報道体制・デジタル化とともに、土曜付け新聞の変ぼうを挙げた。日曜日は今や「特別の日」ではないと言う。「土曜日、人々は休息を取り自宅でじっくり新聞を読み、日曜日は買い物などに出かけるようになった」。

 かつては日曜紙が独占していた翌週のテレビ・ラジオの小冊子や、フィーチャー記事を土曜日付けの新聞が掲載し、大きく販売部数を伸ばしている。「日曜紙の存在価値そのものが問われている」とサッチェル氏は話す。

 ニュースの発信を常時求められるネットでの報道がますます重視される中、発行頻度が週に一度で、独自のサイトを持たない日曜紙がグループ内の日刊紙から同化への圧力を受けるのは避けられない事態と言えるようだ。

 それでも新聞によって生き残りの程度は変化するかもしれない。日曜紙の編集を最終的に統括するタイムズの編集長は日曜紙の独自の個性を維持すると宣言しており、大衆日曜紙ニューズ・オブ・ザ・ワールドの系列日刊紙となるサンは「2紙の融合はない」としている。(プレスガゼット紙電子版11月23日付け)。
by polimediauk | 2007-12-05 07:33
 英歳入関税庁が児童福祉手当の受給者2500万人分の個人情報を保存したCD2枚を紛失していたことが、先月末、明らかになった。英国の全人口の約4割にあたる国民の情報が流出したことになる。他人の個人情報を使ってクレジット・カードを作るなど、詐欺犯罪が頻出する危険性がある。政府が維持する国民の個人情報は、近年増えるばかりだが、管理能力の欠落が目立ち、国民の大きな懸念事項となっている。事件の影響と背景を「英国ニュースダイジェスト」最新号にまとめた。

 ダーリング英財務相は、11月20日、歳入関税庁(税務当局)が児童福祉手当の受給者2500万人分の個人情報が入ったCD2枚を紛失したと議会で発表した。CDには725万世帯の対象者の住所氏名や児童の出生記録に加え、受給者の国民保険番号、銀行口座などのデータが入っていた。

 ことの始まりは今年3月。会計検査院が歳入関税庁に児童福祉手当に関わる情報の提出を依頼し、関税庁の若い役人がデータをCDに複製し監査局に郵送した。後、CDは関税庁に返還された。10月、会計検査院が再度同様の情報提出を依頼し、関税庁はCDを民間運送業者に託し、書留や内容証明扱いにせず、通常の郵便物として送った。しばらくしてCDが到着しないため、会計検査院は関税庁に再度送付を依頼。関税庁の担当者は今度は書留で送り、無事到着した。

 しかし、最初に送ったCDが11月に入っても届かなかったため、関税庁の担当者は事の次第を上層部に報告した。財務相が事態の報告を受け、議会で紛失事件を発表したのは、もともとのCD 発送時から1ヶ月後だった。

―無防備だった情報管理

 紛失事件を通して、関税庁の情報管理のずさんさが目立った。データ保護法によると、政府機関など、国民の個人情報の管理者は機密保全策(暗号化を含む処理、スタッフの研修など)を取るように定められている。関税庁の内規では、今回CDに記録されたような広い範囲の個人データは持ち出しが禁止されており、庁内での閲覧が原則だ。

 会計検査局は、受給者の名前、国民保険番号、受給番号のみの入手を希望しており、その他のデータに関しては、後、関税庁を訪問して監査する予定だった。ところが、関税庁は、会計検査局が数ヶ月前に同様の監査を行っていたことから、最初からすべての情報を送ることに決めた。会計検査院は必要外の情報をCDに入れないようにと関税庁に伝えたが、「コストがかかる」と関税庁はこれを却下していた。もし不必要な情報を削った場合、削除編集作業には5000ポンド(120万円ほど)がかかっただろうと言われている。また、CDにはパスワードがかけられていたものの、暗号化されておらず、これは「致命的なエラー」(サイバー犯罪に詳しい専門家)だった。

―責任の矛先は財務相、首相へ?

 ポール・グレー歳入関税庁長官は既に引責辞任したが(しかし、12月3日、内閣に同様の給与をもらって勤めていることが発覚した)、財務相及び首相にも責任のいったんがあると言われる。歳入関税庁は2つの政府組織が統合し、2005年、発足したが、統合の決定をしたのは当時財務相、つまり現在のブラウン首相だ。人員削減が急ピッチで進む中「仕事は増えるばかり」(関税庁スタッフ)の上に、コスト削減が最重要視されていると言う。

 銀行団体は、紛失した個人情報を悪用されて口座からお金を引き落とされたなどの被害があれば、払い戻す方針を打ち出しているが、被害の規模が不透明なこともあって、払い戻しの財源を財務省に求めていると言われている。結局、政府の失態を国民が税金で負担することになるのだろうか?

いずれにせよ、政府が力を入れてきた国民IDカードの導入に、大きな待ったがかかった状況になったのは間違いない。

―政府管理下の個人情報

国民の巨大なデータが政府の管理下に置かれている現在、その流出に大きな懸念が出ている。

 以下はサンデータイムズに紹介されていたデータベースの数々だ。

ーNHS医療記録データーベース
 5000万人の患者の記録を維持するデータベースが120億ポンド(約2兆6800万円)の予算で構築される予定。GPの一部や政府が維持する個人情報の巨大化に反対する運動家らは、データが外部に流出する恐れが高いと懸念を示す。

―DNAデータベース
 逮捕された人430万人のDNA情報を警察が管理。DNAデータベースでは世界最大規模。逮捕後無実になった成人100万人や未成年者90万人分の情報も含む。

―警察の記録
 北ロンドンのヘイドンにある警察のコンピューターには、犯罪者に関わる9600万個分の情報が保管されている。警察、裁判所、犯罪記録管理局のスタッフが24時間アクセスできる。

―運転者・車両免許局データベース
 4200万人の運転免許保有者の名前、住所、車の詳細など。民間駐車場営業者に個人情報を販売して巨額の利益を得ていたことで批判を浴びた。

―歳入関税庁
 税金控除を申請する600万人の名前と住所、所得税を払う3000万人及び2500万人の児童福祉手当受給者の名前、住所、国民保健番号、給与などの詳細を保持。

―政府給付金を管理するコンピューター
 1150万人の国民年金受給者、265万人の障害手当て、400万人の収入補助金受給者の個人情報を管理する。

―パスポートのデータベース
 4500万人の英国民の名前、生年月日、パスポート及び海外居住の詳細を維持する。

ー「コンタクト・ポイント」(実施予定)
 英国内の全児童の名前、住所、性、生年月日に加え、性的嗜好、精神状態、虐待の経験などの情報も含む。NHSの職員や福祉関係者がアクセスできる。

―「Eボーダーズ」(予定)
 12億ポンド(約2680億円)の予算をかけて、英国への出入りをチェックするシステム。クレジットカードの情報、休暇時の滞在先、旅程、電子メールのアドレスなども入る。

―IDカード(予定)
 2009年から実行予定で、予算は56億ポンド(約1兆2500億円)。名前、住所、生体認証情報、国民保健番号、パスポート、運転免許証情報などを一元化する。

 政府機関の情報処理の失態も絶えない。ほんの2005年からの分を拾ってみても、

2005年:UBS銀行の顧客の個人情報が入った、暗号がかけられていないCDを歳入関税庁が紛失。「1回限りの失態」と説明。
2007年2月:雇用年金省が個人情報の入った書簡を26000人に送付したが、本人ではなく別の人物に送っていた。
3月:関税庁が、税金控除を申請していた国民に合計58億ポンド分〈約1兆2900億円〉を過剰に支払う。
5月:関税庁が、「印刷機のエラー」により4万2000人分の税金控除状況と銀行口座情報を別の人物に送付。
9月:関税庁が、金融機関スタンダード・ライフの顧客1万5000人の個人情報を紛失。また、金融商品ISAを購入した2000人の顧客情報が入った、関税庁職員のラップトップが盗まれる。過去1年で他に40台が盗まれていたことが発覚など。

―個人情報紛失が明るみに出るまでの経緯

10月18日:イングランド北東部タイン&ウエアー郡にある歳入関税庁に勤める若手の役人が、児童手当の受給者に関する情報が入った2枚のCDを、運送業者を通じてロンドンの会計検査院に送る。配達証明、書留などの措置を取らなかったが、CDはパスワードを使って開けるようになっていた。
10月24日:CDが会計検査院に届かなかったため、同様のCDが、今度は書留で送られ、無事到着する。
11月3日:歳入関税庁の上層部が最初のCDが紛失したという報告を受ける。
11月10日:首相や他政府閣僚が紛失の通知を受ける。
11月14日:歳入関税庁がCDを見つけることができず、ロンドン警視庁が捜査に乗り出す。
11月20日:歳入関税庁のトップが辞任。ダーリング財務相が紛失事件を議会に報告する。
11月21日:首相が議会で紛失を謝罪する。

―HM Revenue and Customs (HMRC):歳入関税庁(税務当局)とは

 HMとは Her Majesty’s の略で、直訳は「女王陛下の」で、英国の政府機関を指す。財務省の下部組織で、所得税、法人税、キャピタルゲイン税、相続税、付加価値税、印紙税他の税金徴収、関税管理、国民保険、児童手当の配布、税額控除、最低賃金制度の実行などに責任を持つ。2005年、内国歳入庁と間接税財務局とが合併し、新組織として設立された。段階的に人員削減が行われており、08年5月までに合計で12500人が削減される予定だ。合併前の2つの組織の合計人員の約14%の削減となる。今年11月末発覚した、児童手当受給者の個人情報紛失事件は、人員削減に加えて仕事量が増加したことが一因とも噂された。

英国ニュースダイジェスト
http://www.news-digest.co.uk/news/index.php
by polimediauk | 2007-12-04 06:43 | 英国事情