小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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 日本で買った本の中に、朝日新書の「情報のさばき方」(外岡秀俊さん著)がある。知っている方だったので、思わず手にとってしまった。
 
 外岡さんは今(でも?)、朝日新聞の編集局長の方である。ロンドンに3年半駐在され(欧州総局長として)たが、赴任されて早々の頃、たまたま外国報道陣向けの北アイルランド出張団でご一緒した。とても腰の低い方で、時々鋭い質問を北アイルランドの政治家にしていたのを覚えている。

 私は外岡さんを個人的によく知っているわけではない。その後、別件でメールを交換したことがあるだけだ。誠実な方、という印象があった。

 そこでこの本を読んでみて、やはり人柄が表れている感じがした。いろいろ、新聞記者として、どうやって情報を集め、見極め、原稿を書いてきたのかの手の内を明かしている。ここまでオープンにはなかなかできないのではないか、普通。

 外国特派員の話の部分に注目すると、外岡氏が外国で始めて勤務したのは、1989年で、ニューヨーク支局の勤務が最初。そこで当時の支局長に、「電話がなったら助手に任せず、自分で電話を取る事、アポイントも自分で取るように」と言い渡される。米国人に取材したら、「助手にテープ起こしを頼まず、自分でメモ起こしを作る」と言う原則を言われる。

 そこで外岡氏はこれを実行する。留学体験がなかった氏にとって、非常に厳しいことを課されたことになった。これはすごいな、と私は思った。

 そして、10数年経って、ロンドンに赴任した氏は、「支局長」と名がつくものの、一記者として、他の記者を「同僚」として働く。英国の新聞数紙を自分で読み、切抜きを作ってゆく。これも相当だと思った。

 新聞業界になじみのない人は、「自分で英語でアポを取り、自分で現地紙を読んで、何がすごいんだろう」と思うかもしれない。しかし、以前、(ロンドンにある漱石博物館の館長、今は日本在住)恒松郁生さんの「こちらロンドン漱石記念館」を読んで驚愕したのだが、「日本の新聞社の海外支局に働く記者は、助手に当日の新聞のおもしろいものを捜してもらう、見出しを書き取ってもらう」場合が多い、と聞いた。

 しかし、もちろん、外岡氏は違ったのである。自分で恥をかき、自分で新聞を読んでいたのである。ここに一筋の誠実さを見る思いがした。「自分で恥をかいてきた」ところが。

 「『情報を伝える』ことは、岩登りと同じように、真剣勝負なのだと思います」という箇所が光った。

 (蛇足だが、私は欧州を中心に各国で取材をしているが、基本的に英語のみを使う。「現地語を全く知らないのは傲慢だ」と家族に言われてしまっている・・・。)
by polimediauk | 2008-03-30 06:21 | 英国事情
(追記:中で紹介した、オランダのウエブサイトから見れるはずの映画は、28日夜頃から見れなくなっています。サイトを運営する会社の社員に殺害予告が出たから、というのが理由とされています。)

 オランダの国会議員、ヘールト・ウイルダース氏の反コーラン映画「フィトナ」が昨日、オランダのウエブサイトで公開・放映された。

http://news.bbc.co.uk/1/hi/world/europe/7317506.stm

 早速見てみた。コーランの教えの一部を紹介しながら、テロで亡くなったり傷ついた人、首を切られた人、ユダヤ人に対する憎しみを教えるクリップをつなげる。オランダや欧州でイスラム教徒が増えて行き、映画監督が殺され、ゲイが攻撃されるクリップも出る。イスラム教徒の恐怖がオランダに押し寄せる新聞記事が紹介される。最初と最後に、デンマークのムハンマド風刺画(ターバンに爆弾がついている)が出る。

 幻想的な音楽に乗って、静かにメッセージが繰り返される。最後はコーランを破くシーンもある(これには後で仕掛けがあると分かるのだが)。

 おそらく、イスラム教徒の人にとっては不快だろう。しかし、いわゆる、表現の自由の範囲内だと思った。もっと気持ち悪いのもウエブ上ではたくさんあるだろう。ただ、国会議員が何故?とも思うけれども。アーチストだったらな、と。

 Geert Wilders で探すといろいろ出てくるが、映画とフォックスニュースのインタビューは以下。

http://www.liveleak.com/view?i=7d9_1206624103

http://jp.youtube.com/watch?v=j0jUuzdfqfc

 フォックステレビのインタビューは1月頃に行なわれた模様で、2部構成になっていてかなり長い。聞いていると、信念があってやっていることが分かる。私がオランダで聞いたムスリムの教師の話や、ムスリムに殺された映画監督の友人やリベラル派教授の言っていることと重なってくるのが不思議だった。

 つまり、習慣や価値観(+宗教)の異なる人々が、移民としてオランダにやってきて、多文化社会という言い方がよくされるけれども、こういう人たちとどうやって生きるのか、という問いがある。大雑把な言い方だが、オランダは多文化・異なる価値観の尊重・維持・奨励策を取ってきたようだ。ところが、本当にそれでいいのだろうか。相手の価値観が自分と価値観とは相当に違い、オランダ社会の自由さを変えるところまできていたとしたら、本当にそれでいいのか、と。この点から、「国会議員だからこそやった」ことにもなるのだろう。

 ウイルダース議員は、「イスラム教の教えそのものがおかしい」と異議申し立てをしている。「何かがおかしいと思っても、それを指摘してはいけないというタブーがある」と。

 この映画でパキスタンやイランでもし何らかの反応があったとしても、それは本当はあまり重要ではなく、真の(アイデアの)闘いは欧州だろうし、オランダ内で模索が続く。他国での反応は本質的な問題ではないだろう。

 ウイルダース氏映画の画面を開くと、右横に推奨された動画がいくつも並ぶ。その中の一つに、米国に住むイスラム教徒の女性の声があった。イスラム教の名前をかたり、テロを起こす人に怒っている。こういう本当の声、素朴な声はなかなか英国のメインメディアには登場しない。

 英国でテレビ離れとか新聞離れが起きるのは、作っている人の頭が「議題を設定して視聴者・読者に流す」形式に凝り固まっているせいもあるかもしれない。見ている方の知りたい・見たいことと、作る側が提供する「知りたいだろう・見たいだろうこと+知るべき、見るべきと思うこと」が一致しないのだ。ネットに人が流れるのは自然なのだろう。

〈さらに追記)
 29日の時事報道で
「反イスラム映画を非難=表現の自由は争点にならず-国連総長
【ニューヨーク28日時事】国連の潘基文事務総長は28日、オランダの極右政党党首がイスラム教批判の短編映画を公開したことを受けて声明を発表し、映画は「不快なほど反イスラム的」であり、「最大限の表現で非難する」と述べた。文明間の融和を訴え続けてきた潘事務総長だけに、強い調子の非難声明となった。
 潘事務総長はこの中で、「偏見に満ちた発言や暴力の扇動は決して正当化できない」と批判。さらに「表現の自由は問題にならない。自由は常に社会的責任を伴うべきだ」と指摘し、「真の断層はイスラム教徒と欧米社会の間ではなく、敵意と対立をあおることに関心を寄せる双方の少数過激派の間にある」と強調した。 
[ 3月29日7時0分 更新 ]

 何となく、「ズレているなあ」という思いを強くした。欧州内では、作品そのもは「たいしたことなかった」というのが一般的なのに・・・。

by polimediauk | 2008-03-28 21:30 | 欧州表現の自由
 BBCニュース・サイトは非常に便利で、まず最初にここを見てから他のサイトに行く習慣がついていたが、新聞社のウエブサイトや他にもニュース動画を使ったサイトが増えてきて、あまりデザインを変えないBBCサイトがむしろ退屈にも思えてきた今日この頃。

 と思っていたら、今日届いたBBCの宣伝メールによると、ニュースとスポーツ関連のサイトを来週、大刷新するという。もっと動画を増やし(動画クリップは放送業者BBCのオハコだったのだが、すっかり今では新聞社サイトに追いつかれてしまい、という背景もあるのだろう)、最新のニュースやライブのイベントなどをもっと入れる。画像にも凝るそうだ。今年年末にはもっと大幅に変え、使いやすくするようだ。
 
 ニュース記事に付随する動画は、別のウインドウを開けてからでないとこれまでは視聴できないが、記事の中で見れるようにする。「記事の横にスクリーンがあって動画が動く」というのが普通になるようだ。その方が動画を見る人の比率が10倍に増えたそうだ、社内調査では。動画クリップは他のユーザーと共有でき、ブログなどのウエブサイトで使えるようにする・・・。まるでユーチューブあるいはSNSサイトのような。

 人気のラジオのニュース番組「ツデー」のサイトは5月頃に刷新され(このサイトのデザインも随分古い)、テレビ・ドキュメンタリー枠「パノラマ」のサイトも夏頃、新しくなる。携帯用ニュースサイトも刷新する。
 
 これはBBCの「創造的な未来」を作る、というBBCの方針の一環だ。「世界中で最高のマルチプラットフォームのニュース提供メディアになる」ために。

 また、ニュースに限らず、BBCサイトの刷新が進行中であるという。「世界で最高の」・・・と言うのが逆に「首位をおびやかされそうで(あるいはもう首位ではなく)あせっている」感じがしないでもない。正確な数字は覚えていないけれど、前にBBCのインターネットの担当者に会ったとき、グーグル・ニュースやヤフーのほうがアクセスが多いと言っていたし、「世界で最高の・・・」と言ってもどういう面で計算するかなあとも思う。

 一方、BBCは過去7日間の作品が無料でネット上で見れるBBCアイプレイヤーというソフトを提供しているが、英国のネットユーザーの中では、番組をダウンロードする人が次第に増えている。これがネットプロバイダーに負担となっており、結果的に、プロバイダーの契約者が過重料金を払うはめになっている、という記事がテレグラフに今日、出ていた。大げさな計算の感じもしたが、1時間半の番組をダウンロードした場合、プロバイダーによっては、あるユーザーのある月のリミットを超えることになり、超過料金をチャージしてしまう、という。最大では月に20ポンド(4000円)位、多く払ってしまう羽目にもなる、と。

 最近、一定の時間帯(夕方や朝)でやけにネットの処理能力が落ちるようなことがあり、こうしたことも関係しているのだろう。

http://www.telegraph.co.uk/connected/main.jhtml?xml=/connected/2008/03/25/dlbroad125.xml

 通信団体オフコムによると、テレビ番組のダウンロードや動画の視聴が人気で、スムーズにこうした作業が行えるように通信体制をアップグレードさせるには、今後5年間で8億3000万ポンド(約1650億円)かかるそうである。

 このテレグラフ記事の後に、読者がたくさん体験談を寄せている。
by polimediauk | 2008-03-27 02:04 | 放送業界
 ネットワークソリューションズとサイト閉鎖のことを考えていたら、BBCニュースの英語版サイトに対する、中国政府による封鎖・ブロックがなくなった、という記事が出ていた。

 http://news.bbc.co.uk/1/hi/world/asia-pacific/7312240.stm

 中国政府は、BBCニュース英語のサイトを中国にいて読もうとするとき、情報によっては読めないようにブロックをかけていたことを、「正式には認めていない」と言う。しかし、BBCが実際に中国にいる人に聞いたところでは、ネットカフェなどからアクセスしようとすると、場合によっては、エラーメッセージが出ることがあったのだという。

 それが今、自由に読めるようになったようで、「喜びの声」がBBCスタッフやユーザーから届いているのだという。

 一方、中国語版のBBCニュースサイトは1999年からできたけれども、これにはまだブロックがかかっているという。

 (中国だけ、特別だと思うだろうか?私は日本にもブロックがかかっていると思う。個人的に経験したことはないけれど、別の分野での「情報締め出し」に遭遇している。たとえば携帯電話である。機種によっては大丈夫らしいのだけれど、普通に欧州で使っていて、「世界中で使える」という携帯電話を日本に持ち込むと、使えないことがあるのだ。機種が違うからしょうがない、と思うだろうか?そうかもしれない。では、クレジットカードはどうだろう?私は成田エクスプレスのチケットをネットで買おうとした。クレジットカードの登録をネット上でしたら、すぐOKになった。カードは英国の銀行のもので、海外で使えるもの。これでいくつもの国に出かけたし、お金も引き出したことがある。ところが、実際に買う画面になると、「このカードはおかしい」というメッセージが出るのである。後で、ふと思いついて、日本で発行されたカードに変えてみた。すると、すぐネットでチケットが買えた。他にも同様のことがあった。トルコでさえー「さえ」と言ってはまずいかもしれないがーー使えたカードが。どこかで何かが「閉じた空間」になっているようなのだ、日本は。私が思いつくのはクレジットカードとか携帯電話程度。でも、どこかで情報が閉じられている、ということはないのだろうか?ふと、思ったりするのである。すばらしい国、知的な人がたくさん住む国日本なのだが。知らないうちに、ある情報が(故意に)与えられていない、ということはないのだろうか?)

(追記)後で思ったが、欧州(+他の数カ国)で使っていた機器を日本に持っていって使えなくても、ただ単に「違うシステムを使っている」というだけ、という可能性もないわけではない。

 
by polimediauk | 2008-03-26 07:45 | ネット業界

 オランダのイスラム映画の件で、ネットワークソリューションというところがホストになっているウエブサイトで、3月31日、「放映」されることになっていたけれど、プロモ用に使っていたサイトが、ネットワーク側の都合で閉鎖状態、ということを前に書いた。

 この件をしばらく追っていたら、ニューヨークタイムズのブログサイトで、この映画の公開の是非に関する記事があり、読者からのコメントが次々についていた。私も早速書いてみた。メールアドレスと名前を入れると、誰でも投稿できる。すぐには画面表示されず、出るまでに10分ぐらいかかった。誰かがチェックしてから載るようだ。チェックといっても、内容がトピックに関連したものであれば良く、よっぽどでない限り、大丈夫なようだ。(載ってから見たら、スペルの間違いが結構あった。英国に住みだしてから文法やスペルがーーますますーーめちゃくちゃになったが、それもまたいいだろう。コメント番号は61番。ご関心のある方は投稿してみては?)

http://thelede.blogs.nytimes.com/2008/03/24/jockeying-continues-before-dutch-films-release/#comment-360718

 そこで読んでいくうちに気づいたのだが、ネットワークソリューションというのは、イスラム過激派系のサイトのホストでもあるようなのだ。たとえばヒズボラの。アルカイダ系のサイトも。そうすると、「こっちは良くて、あっち(オランダのイスラム映画)はどうしてだめなのか?」という疑問を何人かが指摘していた。

 それと、これが本当かどうかは分からないのだが、動画サイトのユーチューブが、最近、世界的につながりにくかったか止まっていたことがあって、それは、「パキスタン政府から苦情(?)か何かが来て」、一時止めたらしい。一国の政府からの苦情で果たしてユーチューブがコトを起こすのかどうか???だが。

 オランダ・イスラム映画の放映ができないようにサイトを閉鎖したネットワーク・ソリューションを「腰抜け」のような感じで非難したコメントもあったが、「民間の会社なのだから、商業的都合で何を見せるか見せないかを決めるということもあるだろう」、「もっと問題なのは、インターネットで何を見せるかあるいは見せないかを、民間企業が決めている事態だ」と指摘した、頭のいい人もいた。

 「フィトナ」というイスラム教批判の10分の映画を公開しようとした、オランダのヘールト・ウイルダース議員は、「もし他に方法がなくなったら、アムステルダムのダム広場でDVDを配る」と言っているそうである。オーストリアの極右政党が「サイトを貸してもいい」と言ったがこれは断ったようだ。 
 
 ネットができて、情報があっという間に世界中に広がってしまうから、だからこそ外に情報を出せない、なんてことも起きている、ということだろうか。ブツ(=DVD)の手渡しが最後の手段、というのだから。
by polimediauk | 2008-03-26 06:10 | ネット業界

 ロンドンの無料紙「シティーAM」の大株主の一人で、現在は米国籍になっているがラトビア出身のビジネスマン、レオニド・ロゼツキン氏が、失踪中だ。ラトビアに休暇で里帰りしているところだったが、ここ1週間ほど姿が見えなくなっているという。滞在中の住居や車の中に血痕があった、とインディペンデント23日付が伝えていた。

 41歳のロゼツキン氏はもともとロシア生まれ。最後に目撃されたのは16日。 マイスペースに載っている情報によると、ロサンゼルスの映画制作会社も所有している人物だ。

 インディペンデントによると、ロシアのプーチン大統領を批判していたという。最後に姿が目撃されたのは、ゲイ・クラブ前まで連れて行った、タクシーの運転手だ。ラトビアの内務大臣によると、氏の身柄が見つかっていないので何の証拠もないが、と前置きした上で、「他殺の可能性もある」としている。単なる陰謀説でまったく何の根拠もない話なのかもしれないが、06年にリトビネンコ氏がロンドン市内で毒殺されたことも考えると、何かあったと言えなくもない。まったくの推測に過ぎないが。いったいどうなることか。

 殺されたリンゼイ・ホーカーさんの家族が来日し、犯人を捕まえて欲しいと会見を開いた様子がこちらでも何度も放映された。疑問なのは、容疑者と考えられている若い男性には確かご両親がいたはずだ。何の連絡も受けていないのだろうか?顔を整形しているということはないのだろうか?そういう点はもう日本で報道されつくしているのだろうけれども、どの報道を見てもそこがクリアではなく、おかしいなあと思って聞いていた。

 まったく別の話でとりとめなく、いくつか気づいたこと。ネットで調べ物をしていて、しばらくぶりにおなじみのサイトに戻ると、たくさん新しい(楽しい)機能がついていて、すごいなあと思ってしまう。ヤフーサイトで文学賞発表があったり、書きたい人の掲示板がたくさんあった。産経のイザ!もさらに進化しているようで、本当に楽しい。

 今朝メールを開いたら、ウオールストリートジャーナルから広告が入っていた。クリックすると、電子ブック形式ですべての紙面が読めるようになっている。無料だそうだ。もちろん販促だから最終的には無料ではなくなるが、なんと6月まで毎日無料で読める、という。6月まで読んで、「気に入ったら購読してほしい」と言うことだ。2-3ヶ月も無料なんて、太っ腹だ。マードックがお金をたくさん注入したのだろうか。

 日経が「ヴェリタス」という新聞を紙とオンラインで発行しだした。購読していないのでちゃんと記事が読めず、なんともいえないのだが、月刊ファクタの編集長の評価をブログで読んだ。

 http://facta.co.jp/blog/archives/20080317000633.html

 ビジネスに興味のある方はご参考に読んでみていただきたいが、なかなか、新雑誌に厳しいことが書かれている。「大変だなあ」と思ってしまった。私は編集者の側でなく、書く側の方にいるので、いろんな制約がありながらも何かを生み出す日経記者さんの方にやや同情している。(記事を読んでもいないのに、だが。)常に超一級の企画、原稿を出せればいいが・・・・。
by polimediauk | 2008-03-25 07:55 | 新聞業界
 オランダの話から書くべきだろうけれど、週末、ロシアのジャーナリストの死が気にかかっていた。

 http://news.bbc.co.uk/1/hi/world/europe/6426043.stm

http://news.xinhuanet.com/english/2008-03/22/content_7839514.htm


http://www.euronews.net/index.php?page=info&article=476352&lng=1

 まず、今月の頭に、コメルサント紙のジャーナリスト、イワン・サフノロフ氏が、モスクワの5階建のアパートから落ちて死んだのである。当初、「理由は分からない」とされていたが、「誰かに殺されたんじゃないかな」と思った。ロシアではあまりにも殺されるジャーナリストが多いのだ。これまでの英語報道を見ただけの判断だけれど。

 51歳のサフロノフさんはロシアのシリアやイランへの予定されていた武器売却に関して記事を書くために調査をしていたと言う。編集長は「自殺するようなふしはなかった」とBBCに語っている。検察局は自殺の線で調べているという。しかし友人や親戚は自殺とは思えない、と。

 国際ニュース安全機関(違う訳もあるかもしれない、略はINSI)の報告によると、ロシアは、ジャーナリストにとって、イラクに次いで、世界中で第2番目にもっとも危険な場所になっているという。過去10年で88人のジャーナリストがロシアで殺害されたという。雇われた殺し屋が殺している、と。

 まったくの憶測だけれど、彼も殺害されたのかな・・と思っているうちに、また死んだ人が出た。

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 今度は22日、ロシアの国営テレビ「チャンネル・ワン」のイリヤス・シュルパイエフ(Ilyas Shurpayev、写真)というジャーナリストで、モスクワで刺殺された。北コーカサスでも地方テレビのテレビ局のガジー・アバシロフ(Gadzhi Abashilov)車の中にいたところを、撃たれ,亡くなった。捜査当局によると、アバシロフさんの死は仕事に関連していたらしい。両記者は、ある地元紙が言及することを禁じている人物だったという。ロシアRIA通信によると。

 ロシアは、怖いなと思う。自分も(武器の話を書くことはないだろうが)ぼやっとしていると流れ弾に当たってしまいそうだ。(それとも、ステレオタイプで自分はロシアを見ているのだろうか??)

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 オランダの話になるが、極右国会議員(まだ刑務所に住んでいるのだろうか?)ヘールト・ウイルダース氏がイスラムを批判する映画を作り、これをテレビで放映する予定でいたが、どこも怖がって放映しないので、ウエブサイトを通じて放映するつもりだったが、サイトを米国のサーーバー・ホストが停止してしまったと言う。

http://news.bbc.co.uk/1/hi/world/europe/7310439.stm

www.fitnathemovie.com

 ホスト・サーバーの運営者はネットワーク・ソリューション。「憎悪を産み出す言語を禁止するガイドラインをおかしているという苦情があり、調査中」であることを理由にしているようだ。

 短編映画は15分で、イスラム教が「自由の敵」であることを示すものだと議員は説明している。

 オランダ政府は議員の味方に賛同していないというが、「議員」なのだから、国会で何とかできないのだろうか?「表現の自由の侵犯」になってしまうからできないのか?

 まだ公開されていないのにすでにイランやパキスタン(こうした問題ではおなじみの国になったが)からは非難の声があがっている。

 映画の題名はアラビア語の「フィトナ」で、「宗教上の戦いや不一致」をさす、とBBCは説明している。(欧州のイスラム学者ジル・ケペル氏も別の文脈で本の中でこの言葉を使っていたけれども。)

 22日付のオランダのフォルクスクラント紙にウイルダース氏が書いたところによると、「この映画はイスラム教徒についてのものというよりも、コーランやイスラム教についてものだ。イスラム教のイデオロギーは、私たちにとってもっとも重要なこと、つまり、自由を破壊することを究極の目的としている」。

 「フィトナは西欧に対する最後の警告だ。自由を求める戦いは今始まったばかりだ」。

 映画の公開前、議員はネットワークソリューションズのウエブサイトをプロモ用に使っていたが、日曜日になって、苦情をたくさん受けたことを理由に、停止状態となった。

 イスラム教批判をしているために、議員は警護つきの生活だ。04年に、映画監督テオ・フォン・ゴッホがイスラム教の狂信者の青年に白昼、アムステルダムで殺されている。(・・・というくだりはこのブログでしつこく書いてきたので、耳にタコだろうけれども・・・・・・。)

 先日、アムステルダム経由で日本からロンドンに戻る途中、飛行機が遅れ、アムステルダムに一泊することになった。ホテルで夜中テレビを見ていたら、トーク番組があって、右派政治家でやはり殺されたピム・フォルタイン氏がゴッホ監督にインタビューされているクリップが放映された。その後、また延々とイスラムと表現の自由に関して話している様子があって、「まだやっているのか・・・」と驚いたが、ウイルダース議員の映画の件で、「古くて新しいトピック」にまた関心が集まっているようだった。

 まだまだ、オランダの人にとっては、ホットなトピックだった。

 土曜日には、アムステルダムで、1000人ほどの人が、「映画を放映するな」と抗議デモをやっていた様子をテレビで見た。 「イスラム教徒に対する魔女狩りをやめろ」と書かれたプラカードを持っている人もいたそうだ、BBCによると。「もう黙って入られない。憎悪と恐怖がオランダに存在する」と、「オランダが本当の色を出した」という団体(反人種主義団体)の一人は語っている。
 
 一方、これもBBCだが、預言者ムハンマドの風刺画をデンマークの新聞に描き、警護がつく状態になってしまった風刺画家カート・ウェスターガード氏(Kurt Westergaard)は、オランダ政府の上映するなという声にもかかわらず、ウイルダース議員が短編を公開するべきと語っている。

 「デンマークではすべてを風刺する。イスラム教徒もこれを受け入れるべきだ」。

 私自身は、映画は見てみたいが、どうしてこういう短編を作り、こういう形(政治的キャンペーンのように)で公開しようとするのか、と疑問に思う。「表現の自由」の話でなく、政治的パフォーマンスに見える。あくまでも。

 ただ、ある宗教に遠慮して、何も言えない,言いにくい・・・という思いを多くのオランダ市民+欧州市民が持っているかもしれない。この言いにくさ感がいやだ、という人も多いかもしれない。これをどうするか?パフォーマンスでなく、じっくり考える問題ではないかと思っている。

 
by polimediauk | 2008-03-24 08:15 | 欧州表現の自由
 イラク戦争から5年経ち、ロイターがビデオクリップや写真、ジャーナリストたちの体験談、関連サイトの情報などをまとめた「ベアリング・ウイットネス」というコンテンツを作った。ビデオクリップを2本ほど見たが、見続けるのがつらいほどに迫力がある。コンテンツのまとめ方も洗練されていて、改めて、ネット・デジタル形式でなければできない見せ方だなあと感心もした。

 ある女性ジャーナリストの証言の中で、取材中に自分のチームが攻撃を受けてしまい、同僚が亡くなり、自分も頭部に傷を負う。その後カウンセリングも受けるのだが、攻撃から受けたトラウマは消えない。「イラクの小さな子供を目にするとつらくてたまらない。周囲で人が殺された様子を目撃し、それでも生きる子供たちのことを思うと・・・・」、と話す場面もあった。

 http://iraq.reuters.com/
by polimediauk | 2008-03-20 07:06 | ネット業界
 イラク戦争開始から5周年のドキュメンタリー番組、ニュース特集が続いている。現地に入って、様々な人に取材するが、状況はひどく、隣国シリアに逃げたが、資金がなくなってイラクに戻らざるを得ない人もたくさんいる。

 シーア派とスンニ派の住民が誘拐したりされたり、殺害される。フセイン時代に押さえられていたものが、一気に噴出しているのかもしれない。

 英メディアは「イラクがいかにひどいか」を描写するが、見ているほうは、どうしたらいいのか?という思いがする。誰にもなおせないほどひどくなっている状態では、どうしたらいいのか。英軍の完全撤退を英国民は望んでいるが、それで手を洗っておしまいというわけにもいかない。本当にひどいことになったが、シーア派とスンニ派の戦いをどうにかして止められないのか、同じ国民同士で(国民意識よりもそれぞれの宗派への帰属意識のほうが高いのだろうが)殺し殺される場面が、想像を絶する。

 話は変わるが、テレグラフ紙に、時々日本発で記事を書く人がいて、コリン・ジョイスという名前だった。誠実によく見て、書いている人だなあという印象があった。それでも、1つか2つは変だな?と思うものもあった。何故日本の面白おかしい面ばかりを強調するのかな、と。それでも、東京特派員の中では誠実な方の人、という印象があった。

 書店で、彼が書いた本を見つけた。すでにテレグラフは去ったようで、フリージャーナリストになっている。日本語はかなりできるようだが、本向けに翻訳をしてもらっている。それが「『ニッポン社会』入門」だった。(生活人新書。)時々、ほろりとしながら読んだ。

 メディアの面から言うならば、もっともお勧めが14章の「イギリス人が読みたがる日本のニュース」の項である。ここを読んで、初めて、何故多くの特派員記事が「おもしろおかしい日本」を強調しているのかが分かった。特派員記事に不満を持っている方は特に読んでいただきたい。

 最初に驚いたのが、ジョイス氏が(そしておそらく他の英新聞のほかの特派員も?)面接なしで採用されたことだ。履歴書を送り、サンプルの原稿を書き、電話で話しただけで採用となった、と。

 そして、自分が書いた記事は本社のデスクによって改ざんされてしまう。補足情報を要求され、出だしが変更され、段落の順序が並べ替えられる。「日本社会の一面を明るみに出すことを意図して丁寧に書かれた原稿は、編集の段階でわずかに修正を加えられるだけで、ただ面白がって詮索しているだけの気恥ずかしいまでに冗長な記事に変わってしまう」そうだ。

 こうしたことが起きるのは、日本に関してあまり知識がない読者に向かって書かねばならないのと、日本に関する報道の重要度がテレグラフ内であまり高くないことが原因、としている。

 やっぱりなあ・・・と思ってしまった。そうすると、例え英新聞で日本に関する奇妙な記事が出ていたとしても、書いた本人が奇妙な人なのではなく、頭がおかしいわけでもなく、編集体制全体の中で、そういった記事が求められているから、ということなのだろう(か)。読者がかわいそうである。(だからまともなのはFTの日本発記事しかなくなるのだろう。奇妙さが少ないという意味だが。)

 英国で外国のニュースというと、まず中東、米国だ。それにほんの少しの欧州だ。最近は中国、アフリカも多い。しかし、まるで自分が中東の一国にいるような気がするほど中東のニュースが多い(イラクやパレスチナの話が主だが)し、米国のニュースも本当に多い。本当は隣国欧州のほかの国のことが個人的にはもっと知りたい。

 ジョイス氏の本も、記事同様、誠実さがにじみ出るものだった(と言ってもまじめな本というよりは、一種の洒落だろうけれど)。今どうしているのかな?

 
by polimediauk | 2008-03-19 17:30 | 新聞業界
 2003年のイラク戦争開戦から、今年3月19日―20日で5年目となる。BBCやチャンネル4は5周年ということでイラク特集を始めている。

 BBCのニュースで気づいたのが、もう既にそうなってずい分時間が経つのだろうが、イラク戦争は「米国主導のイラク侵攻」US-led invasion to Iraqになっていること。「侵攻」という言葉を使うと、ある国(地域)に不当に武力攻撃をかけた意味合いが出るだろう。宣戦布告なしに、勝手に侵攻したニュアンスが。

 2003年当時、それから1-2年ぐらいは、侵攻という言葉を使うのにためらいがあったような気がする。すっかり変わってしまった。

 以下は、デンマークのムスリムたちのインタビューの最後である。本当にこういう人がこれからを担うのだろうなと思う。デンマークに関しては、だが。デンマークで生まれ育ち、信仰深いが、パキスタンなど他国のイスラム教徒とは全く違う考えを持っている人たちだ。(掲載が07年であったため、今年=2007年、昨年=2006年などになっていることにご留意ください。)

2007年01月26日
日刊ベリタ掲載
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=200701261317135
「少数派を攻撃する表現の自由はデンマークの伝統ではない」とイスラム教徒の若者イクバル氏

c0016826_17415155.jpg(コペンハーゲン発)カムラン・イクバル氏(29歳)は米国系大手ンピューター会社に勤務するITエンジニア。両親はパキスタンからデンマークにやってきたが、本人はデンマークで生まれ育った。英国中部バーミンガムでの留学経験もある。MUNIDA(デンマークの若いイスラム教徒の集団)のメンバーで、昨年秋、イスラム教の預言者ムハンマドの生涯を書いた本を仲間とともに翻訳して出版した。そのような若いイスラ教徒デンマーク人として、彼は風刺画事件が浮き彫りした移民の融合や表現の自由をふくめたこの国の将来をどのように考えているのだろうか。
 
イクバル氏とは、前回紹介したアーマド・カーシム氏と同様、ユランズ・ポステン紙のムハンマド風刺画を持って中東諸国を回ったアブラバン導師がいるコペンハーゲンのモスクで会った。 
 
▽民主主義はイスラムの価値観と同じ 
 
―デンマークと英国に住んでみてどうだったか? 
 
イクバル氏:非常に違う感じがした。ここで生まれたのでデンマークに関しては何が起きているか全てが分かる。デンマークの方がいいと思った。 
 
―英国にはインドやパキスタンから来た移民が多いので、パキスタン系英国人と思われたのでは? 
 
イクバル氏:英国でどこから来たかと聞かれ、「デンマーク人だ」というと、「そうか、デンマーク人か」ということで質問は終わった。ところがデンマークでは、移民がこの国に来るようになってからまだ年月が浅いので、自分はデンマーク人だと言っても「で、本当はどこから来たの?」と聞かれるんだ。英国ではそんなことは全くなかったのに。移民の社会融合のレベルが違うのだろう。 
 
―MUNIDAには何人ぐらい所属しているのか?活動内容は? 
 
イクバル氏:大体100人位いて、集まってサッカーをしたり、泳ぎに行ったり。このモスクにはたくさんイスラム教に関連する本が置いてあるのでイスラム教について一緒に学ぶ。5年か6年前から活動している。 
 
 学校や企業などに出かけてイスラム教やムスリムに関して講演をしたりする。企業側から来て欲しいと言う依頼がくることもある。 
 
 私たちの大部分はデンマークで生まれ、デンマーク語を母語として話すので、先住デンマーク人とイスラム教徒のどちらの立場も分かる。イスラム教は私たちが生まれ育った生き方だし、デンマーク社会も知っている。私たちにとってはこの2つは同じことだ。外に出て自分たちの状況を説明することで、この社会の構成員全員がより心地良く生きる助けになればと願っている。 
 
―イスラム教徒として西欧社会に住むことで何か対立を感じることは? 
 
イクバル氏:ない。基本的に、イスラム教の価値観は世界共通の価値観だと思っている。民主主義の価値観でもある。民主主義とはデンマーク人が新たに発明したものではない。世界共通の価値観だ。 
 
―男性と女性が職場でともに働くことに関してはどうか? 
 
イクバル氏:職場では男女は全く平等だ。つまり、女性は私よりもプロフェッショナルだ。例えばMUNIDAが手がけた預言者ムハンマドの生涯についての翻訳本を作る作業で、私たちはチームとして働いた。誰かが翻訳して、誰かが間違いを直したりした。女性たちの何人かは男性たちの何人かよりももっとプロフェッショナルだったと言わざるを得ない。何の問題もない。 
 
―しかし、イスラム教徒の男性の中には女性は家にいるべきだ、と考える人もいるが。 
 
イクバル氏:女性を家に置いておくというのはイスラム教の価値観とは思わない。確かに、女性たちは家で例えば子育てなどをしている。男性も家事はできるが、私は赤ん坊に授乳することはできない。女性がやる方が自然であることもあるし、女性が仕事をすることには何の問題もない。 
 
▽風刺は権力者に向けられるべき 
 
―本について教えて欲しい。 
 
イクバル氏:インド人の著名な作家でサフィル・レーマン・ムバラクプリという人が書いた預言者ムハンマドに関する本があって、これをMUNIDAでデンマーク語に翻訳した。この作家はムハンマドの自伝を書いてきた人で、サウジアラビアの大学で百科事典を作る仕事をしている。 
 
 昨年2月から3月にかけて、風刺画事件が世界中で大きな問題となった時、デンマークをよりよいものにするために私たちができることはないのかと考えた。それで、私たちはムハンマドを尊敬しているので、これを伝えることができないかと考えた。何故私たちがムハンマドを尊敬するのかを書いたら、人々がお互いをもっとより良く理解できる、と。それでデンマーク語への翻訳を思いついた。本の題名は「月が割れた時」だ。オリジナルは英訳もされている。 
 
―12枚の風刺画がユランズ・ポステンに掲載された時、あなたにとって衝撃だったろうか? 
 
イクバル氏:ショックだったし、失望した。問題の風刺画には相手に対する敬意の念が欠けていると思ったからだ。私たちはデンマークの少数派だ。デンマーク国内でイスラム教やイスラム教徒に関する議論は非常に否定的なものが多い状態が長い間続いてきた。それに加えて風刺画が掲載されたので、さらにがっかりした。 
 
―あの風刺画の掲載理由として、デンマークでは表現の自由の伝統がある、と言われたが。  
イクバル氏:違う、それは理解できない。私たちには人を傷つける伝統はない。そういうことが問題なのではない。 
 
 風刺画は、通常、権力を持つ人を風刺するために使われる。例えばデンマーク首相が風刺画に描かれる。首相には権力がある。私たちとは違うんだ。説明が難しいが、私たちはデンマークでは少数グループだし、少数派を攻撃するようなこういう形の表現の自由はデンマークの伝統ではないと思う。全く無目的の挑発行動だったと思っている。 
 
―ユランズ・ポステンも、それから風刺画を再掲載したドイツの新聞も掲載は表現の自由のためだったといい続けている。 
 
イクバル氏:しかし、デンマークでは誰も表現の自由に挑戦していなかったんだ。風刺画事件の前でも後でも、誰も挑戦していないんだ。だから何故ああいうことをしたのかと思ってしまう。 
 
 私とMUNIDAにとって、平和的に、調和を保ってお互いにこの社会生きるにはどうするかが重要だ。私を殴ってから、尊敬してくれと言われてもできない。私に尊敬してほしかったら、まず私を尊敬することだ。そうすれば、私も相手を尊敬する。その後で私たちはお互いを理解するように努め、話をすることができる。こんな風に、「風刺画を掲載できるぞ、私はあなたよりもっと力があるんだぞ、だからあなたを殴るぞ」、という形ではだめだ。あまり前向きの考え方ではない。 
 
▽カーダー議員には違和感 
 
―風刺画をきっかけに、デンマークのイスラム系国民の一部は過激化したと思うか? 
 
イクバル氏:そうは思わない。イスラム系国民といっても様々だ。私はここで生まれて教育を受け、MUNIDAの仲間もそうだ。ところがデンマークのイスラム系国民の一部は難民だ。例えばパレスチナ、レバノンなどから来ている。戦争が起きているような場所から来た人もいる。全員が同じというわけにはいかない。 
 
 デンマークに来たばかりの人の場合、この社会に欲求不満を感じているかもしれない。私も風刺画を見て苛立ちを覚えたが、本を出すなどが私の怒りの表現方法だ。しかし、表現方法が違う人もいるだろう。例えば、祖国での生活が尋常ではなかった場合、何か暴力的行動に走ったとして、だからといってイスラム教徒全員がそうだとは言えない。特殊な状況にこういう人たちはいたのだから。 
 
―風刺画事件の後、デンマークに住むイスラム教徒は生きにくくなったと思うか? 
 
イクバル氏:それほど大きくは変わっていないと思う。私はここで生まれ育ったからデンマーク社会の価値観を知っている。私が通っていた学校はすぐそこだし、ここら辺で全生涯を過ごした。でも、デンマーク国民全員がイスラム教とはどんな宗教かを知っているわけではない。 
 
 自分の個人的な体験から言うと、イスラム教に関して不満を言っている人は多くない。ただ、風刺画事件はあまりにも大きく報道されたので、人々の心に印象深く残っている。この本でイスラム教徒はどんな人たちなのかを知って欲しい。助けになって欲しい。平和的に暮らすには、互いに良い対話をすることで、そのためにはお互いの価値観を知ることだ。 
 
―「民主ムスリムネットワーク」を結成した、自分自身もイスラム教徒だったナッサー・カーダー議員をどう思うか? 
 
イクバル氏:彼には自分が達成したい目的があるのだろうと思うが、カーダー氏は自分たちを代表していないと思う。 
 
―どういう意味で?「穏健派ムスリム」を代表しているはずだが?あなたも穏健派ではないのだろうか? 
 
イクバル氏:分からない。自分のことは「穏健派ムスリム」だと思っていない。ムスリムかと聞かれればそうだし、穏健でもあるが。イスラム教は穏やかな宗教だと思う。過激主義が入り込む余裕はない。だから、私にとっては、まるで火と水を並べられたようで、過激主義とイスラムとはぴったりこない。 
 
 自分のアイデンティティーでは、私にとってはムスリムであることが最初に来る。でもデンマークに住むことに何の問題も感じない。ITエンジニアという仕事があるし、仕事が好きだし、職場の仲間も好きだ。お互いによく話すし、何の問題もない。今までずっとそうだった。何の問題もなくここで仕事ができるし、信仰を実践するムスリムでもある。お祈りをし、ビールなどのアルコールはとらない。ところが、カーダー議員を見るとムスリムという感じがしない。だから私を代表していない。 
 
―あなたを代表するような人が政治家になれば良いと思うか? 
 
イクバル氏:できればね。誰か私の考えを共有するような政治家がいればいい、と思う。しかし、その政治家がイスラム教徒である必要はない。既にたくさん良い政治家がいるし、ムスリムに関する問題を考えてくれる人がいる。良い政治家だったら、イスラム教徒であるかどうかは関係ないんだ。 
 
          *** 
 
 インタビューはイクバル氏の仕事が終わった後に行われたので、取材後にモスクを出ると、既に外は真っ暗だった。近くのバス停まで送ってくれたイクバル氏と話しながら、イスラム教徒であることと欧州の価値観との間の対立を感じないという言葉を思い出していた。 
 
 イクバル氏が通うモスクのイマーム、アブラバン師は風刺画を見て侮辱を感じ、「アドバイスを求めるため」母国のエジプトを始め中東諸国を回った。同じ風刺画はイクバル氏にとっては「失望」だったが、彼と彼の仲間は、イスラム諸国に共感を求めて出かけるのではなく、旗を焼くのでもなく、裁判に訴えるのでもなく、預言者ムハンマドの本をデンマーク語に訳すことを選択した。 
 
 欧州社会の中で彼らのような新しいイスラム教徒の世代が増え、アブラバン師に代表される言わば旧世代のイスラム教徒が世代交代をして消えてゆくとしたら、表現の自由の信望者たちは挑発する相手を失うことにもなるのではないか。だとすれば、現在起きているような「表現の自由」、「価値観の違い」を巡る摩擦は自然に消えていくことになるかもしれない。(この項、おわり) 
by polimediauk | 2008-03-17 17:42 | 欧州表現の自由