小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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 グアンタナモ収容所に関する、あるニュースに衝撃を受けている。

c0016826_5312154.jpg キューバの米軍基地にあるグアンタナモ収容所に、2002年から、米国が「テロリストかもしれない、危ない人物」として、一時数百人に渡る人々を世界中(主にパキスタン、アフガニスタン)で捕まえ、拘束してきたことは段々知られるようになったが、ここに未だに拘束されている最後の英国人、ビンヤン・モハマド氏に、米軍事法廷で、とうとうテロ容疑が確定した。(今まで、確固たる容疑なしに拘束されてきたわけである。これ自体が驚きで、あってはならないことでもある。)もし有罪となれば、死刑もあり得るという。

 http://news.bbc.co.uk/1/hi/uk/7427767.stm

 本人はもちろん、容疑を否定している。そして、もし何らかの証拠あるいは自白があるとしたら、拷問によって得られたものだ、と弁護士を通じていっている。(この詳細は、英国にいる方は、金曜夜10時半からのBBCニューズナイトで見れるようだ。)

 何故私が、彼が無実だと思うのか?無実であることを示す証拠はないが、ずーっと、ずーっと無実を主張し、弁護士(リプリーブと言う団体のクライブ・スタッフォードスミス氏)側もそう主張してきている。逆に言うと、テロリスト足るべき確固とした証拠がないのだ。あるとすれば、本人の自白ぐらいである。

 そして、例えビンヤンがテロ計画を考えていたとしても、何らかの拷問が加えられたことは、ほぼ確実と見られており、拷問の後では、何が真実か全く分からなくなっている。自白が信用できない状況なのだ。

「真実を探り出す」という意味で裁判が行なわれるとしたら、まず拷問あるいはプレッシャーのある状況から本人を解放し、自由にモノが言える状況で、冷静に詰めていくしかない。しかし、ビンヤンはそういう状況に今までいなかったし、今もいないのである。

 7・7ロンドンテロのような爆弾を作るのは比較的簡単と言われており、そうなると、どこの小さな片隅でも、やろうと思えば、通常のお店で売っているようなものを組み合わせて爆破物ができてしまうと言う。だから、誰がテロリストになるか、テロ計画を立てているかを見つけるのは難しい。人の頭の中を見ることはできない。

 それでも、有罪にするとしたら、証拠がないとダメだし、自白があるとしたら信頼に足る自白でなければならないだろう。モロッコやアフガニスタンで拷問を受けたらしいビンヤンの言うこと(自白)は(もしあるとしても)信頼できないと考えるのが正しいだろう。前にハリソン・フォードで映画にもなった小説のタイトルに「推定無罪」という言葉があるが、有罪たる証拠が出るまでは無罪のはずなのだが。2001米テロ以降、法律の・あるいは国際法の様々な前提が米政府によって覆された、というのは英国では定説になっている。

 今年年明けに、外務省高官が外務大臣に対し、「ビンヤンは拷問を受けた」らしいということを伝えるメールを出していた。この点を米政府に問いただすべき、としたようだが、何も起きなかったようだ。

 弁護を担当する「リプリーブ」は、英政府がこの件で介入することを望んでいる。ビンヤンが2001年にアフガニスタンやパキスタンに行ったことは事実だが、テロ計画があったからでなく、自分自身の麻薬問題を解決するため、という個人的理由だったとリプリーブは説明している。

****

(この件でもしグアンタナモに興味をもたれた方のために、既に帰国した元拘束者の話ーー日刊ベリタ1月掲載ーーを下に貼り付けておきます。)

2008年01月02日08時46分掲載
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=200801020846373

グアンタナモ米軍基地「テロ容疑者」拘束から6年ー消えない汚名

 今年1月11日、キューバにあるグアンタナモ米軍基地収容所は、最初の「テロ容疑者」が到着してから6周年目を迎える。これまでに、アフガニスタンやパキスタンで米軍に拘束されたイスラム教原理主義勢力タリバンの兵士や国際テロ組織アルカイダのメンバーとされる人々数百人が収容所に送られてきた。米政権は昨年、拘束者に対する虐待などで国際的に批判を浴びた収容所を将来的に閉鎖すると発表したが、例え自国に帰国でき、無罪釈放となっても、元拘束者たちは数年間に渡る拘束が引き起こした心身の荒廃の後遺症に悩む。英国に戻った拘束者たちの証言と社会の受け止め方のここ2-3年の変化に注目した。 
 
 収容所の設置のきっかけは、2001年9月11日の米国大規模同時テロだった。同年10月、米国と同盟国は、9・11テロの背後にあるとされたアルカイダの首謀者ウサマ・ビンラーディンを「ゲスト」としてかくまっているとして、アフガニスタンに爆撃を開始した。この時、アフガニスタンやパキスタンで拘束された人々が収容所に送られたが、一時は700人以上となった拘束者たちの法的地位は極めてあいまいだ。米国外での拘束のため米国内法は適用されない。一方、捕虜の人権を守るジュネーブ条約が適用される「戦争捕虜」でなく、「敵性戦闘員」であるとして、拘束者たちは「法律のブラックホール」に置かれてきた。現在も約300人ほどが拘束中だ。 
 
 拘束者の中で、英国籍を持つ9人が2005年年頭までに、また英国籍を持たないが英国に居住していた1人が昨年夏、そして3人が年末までに、人権団体のキャンペーン運動と英政府の働きかけで英国に無事帰国した。そのほとんどが英捜査当局の取調べの後、無罪放免となっている。(但し、年末帰国の3人の中の2人に関しては、スペインで起きたテロに関与していた疑惑で、スペイン政府から送還依頼が出ている。) 
 
 帰国者たちは自分たちの体験を公の場や映画、本などを通じて語ることで、人生の次の段階に進もうとしているが、かつて青年たちを英国に戻そうと国民が一丸になった時の熱狂は今は消え去った。多くの国民が青年たちをクールに、かつ一定の疑念を持って見ている。 
 
▽「説明できないほどの苦しみ」 
 
 2005年11月末、人権団体アムネスティー・インターナショナルは、米CIAが運営しているとされる、世界各国にある秘密収容所での拷問の停止を求める国際会議をロンドンで開催した。〈追記:ここで私は、この間ようやく解放された、アルジャジーラのカメラマン、サミ・アルハジの弟や支援をする人に会い、関心はさらに高まった。)
 
 会議にはグアンタナモ収容所から釈放された、英国籍の元拘束者9人も参加した。その中の3人は聴衆の前には直接は姿を見せなかった。3人の中の1人は、照明を落とし、顔が全く認識できない形で撮影されたインタビューの中で体験を語り、その映像が会場内のスクリーンに映し出された。残りの2人は演台が設置された会議場の隣にある小部屋から、マイクを通じて思いを語った。収容所での体験の衝撃が未だ大きく、公衆の前に出るほどの心の準備が出来ていない、という説明があった。 
 
 ドア越しにマイクで話した、フェロズ・アバッシ氏は、アフガニスタンのカンダハル空港近辺の収容所に当初拘束されたと言う。この間、数度に渡って米兵らに「尻の穴をもてあそばれ」、他にも様々な虐待を受けた。グアンタナモに送られてからは、一日23時間独房の中に入れられ、夜1時間のみ外に出ることが許された。 
 
 同じくマイクを通して語ったリチャード・ベルマー氏は、米兵による暴行の結果、頭と背中の骨を骨折し、損傷の跡が今も残る。こうした暴行が最悪の処遇だったかと会場内から聞かれ、「最悪のケースはもっとひどいものだったので、ここでは話せない」と、言葉を詰まらせた。 
 
 ダレク・デルグール氏は、車椅子の生活だ。拘束中につま先にウイルスが感染し、十分な医療ケアが受けられなかったため、切断手術を受けた。自力では立つ事ができなくなった。「帰国後、英政府の取調べを受け、私は無罪になった。しかし、身体がこういう状態なので、今でも苦しみは続いている」。 
 
 グアンタナモの拘束者たちは、2002年の移送当初、オレンジ色のジャンプスーツにゴーグル、足かせ、手かせをはめられた格好で、戸外に設置された檻に入れられた。尋問が始まると、手をあげたままや身体を不自然に折り曲げる姿勢を何時間も維持するように強要され、極度に寒冷な場所に薄着で放置されたり、ロック音楽を大音響で聞かされた。無罪であることを主張し、不当拘束に抗議をしてハンストを行なった拘束者は、鼻や口の中に入れた管から食物を強制摂取させられた。殆どの拘束者がイスラム教徒だが、米兵がコーランをぞんざいに扱って心理的苦しみを与える場合もあった。 
 
▽映画「グアンタナモ、僕達が見た真実」と漠たる不安感 
 
 一方、写真撮影には応じなかったものの、壇上にあがり、拘束されるまでの過程を淡々と語ったのは、パキスタン系移民二世のシャフィク・レスル氏とアシフ・イクバル氏だった。2人は、米政府に対して補償を求める裁判を起こしている。 
 
 レスル氏、イクバル氏、友人のローヘル・アフマド氏の経験は、マイケル・ウインターボトム監督の手によって「グアンタナモ、僕達が見た真実」という映画になった。 
 
 物語は、2001年、父親が見つけた結婚相手に会うために、イクバル氏がレスル氏、アフマド氏とともにパキスタンに出かけるところから始まる。 
 
 青年たちは、宿泊費を節約するためにモスクに寝泊りしながら、パキスタンを観光する。「大きなパンが食べなくなった」青年たちは、隣国アフガニスタンに足を伸ばす。観光で毎日を過ごしていた3人は、タリバン兵士に間違われ、米軍に拘束されてしまう。そして、グアンタナモに連れて行かれた。 
 
 映画は2006年のベルリン映画祭で銀熊賞を受賞。アフマド氏とレスル氏は映画の制作スタッフとともにベルリン訪れ、記者会見に出席して笑顔を見せた。 
 
 ところが、ベルリンからロンドンのルートン空港に到着後、アフマド氏、レスル氏、及び映画の中で2人を演じた俳優たちは、テロ取締法の下、空港内で1時間ほど拘束され、尋問を受ける事態となった。俳優の1人は、「将来も政治的な映画に出るつもりかどうか」を聞かれた。 
 
 警察当局は「反テロ法に沿った正当な行為だった」と拘束を正当化した。しかし、取り調べ行為自体は合法であるとしても、映画に出た俳優までもが短時間とは言え拘束されるとは、尋常ではない。俳優の弁護士クライブ・スタッフォード=スミス氏が言うように「醜い茶番」(BBC)でもあった。 
 
▽「何故そのまま信じるのか?」 
 
 映画は、06年3月、英民放チャンネル4で放映され、160万人が視聴した。放映翌日、どの新聞も同じ問いを発した。「何故、監督は青年たちの言うことをそのまま信じたのか?」 
 
 ガーディアン紙は、映画が青年たちを全くの善人として扱い、「何故、そもそもアフガニスタンにいたのかを十分に問わず、信憑性を失っている」と書いた。インディペンデント紙は、元拘束者の証言をそのまま映画化した作品に「居心地の悪さを感じる」とした。タイムズのコラムニスト、デービッド・アーロビッチ氏も、青年たちが「偶然に入ったモスクは、過激思想を広めることで有名な場所だった」と指摘した。 
 
 2002年から2004年にかけて、英国では英国籍の拘束者の釈放のために大きなキャンペーン運動が起きたが、最初の数人が帰国した2005年以降、社会の中には戻ってきた元拘束者たちに対する懐疑や不安感が広がり出した。グアンタナモに拘束されたこと自体が、そもそもテロに何か関連していたのではないか、とする見方が定着した。英国に帰国してから取調べを受け、拘束理由なしとして釈放されているにも関わらず、である。映画への不信感はこうした懐疑、不安感を反映していた。 
 
 英国籍の9人の中で、現在までに、最もひんぱんにメディアに出るのはモアザム・ベッグ氏だ。英中部バーミンガムの出身で、パキスタン系の英国青年だ。ベッグ氏が口を開くと、良い教育を受けたことが歴然となる、きれいな英語が流れ出る。大卒のベッグ氏は元拘束者たちの広報官的な役目も担っていた。 
 
 ベッグ氏は、2001年、アフガニスタンに小学校を建設するために妻と子供とともに英国を離れた。米軍による、アフガニスタンへの武力侵攻が始まると、ベッグ一家は戦火を逃れてパキスタンに避難したが、当局に拘束されて、グアンタナモ収容所に送られた。帰国後、体験を作家のビクトリア・ブリッタン氏との共著で「敵性戦闘員」にまとめた。 
 
 メディアの書評はおおむねベッグ氏に好意的だったが、BBCのラジオ番組に出演した際、「本当に、学校を建設するためだけにアフガニスタンに行ったのか?」と聞かれている。 
 
 保守系テレグラフ紙は、FBIから入手した資料を使い、ベッグ氏がグアンタナモ拘束中に「アルカイダのメンバーだったことを認めた」とする記事を大きく紙面を使って報道した。「自著では、こうした点に関してベッグ氏は触れていない。ベッグ氏からこの件でコメントはもらえなかった」として終わっていた。 
 
 本によると、尋問部屋の隣から自分の妻ではないかと思われる女性の叫び声を聞かされ、拷問に近い精神的苦しみを与えられて、ベッグ氏は取り調べ官が要求することを書き、署名している。FBIの資料はおそらくこうした「自白」の一部だったことが、本を読めば推測できる。テレグラフの記事は重箱の隅をつついたようなものなのだが、「ベッグ氏が嘘をついている、テロ組織と関係があった」という印象を読者に与えるのに十分だった。 
 
 共著のブリッタン氏は、元ガーディアンの外報副デスクで、2005年末のアムネスティー主催の拷問停止会議(先述)で、「識者も含めた多くの人物が、グアンタナモの拘束者が無実だとは思っていないのが現実だ。人種偏見もある」と指摘している。 
 
 2004年、ブリッタン氏はグアンタナモ収容所の元拘束者や家族の証言を元に、「グアンタナモ:自由を守る誇り」と題する芝居を書いた。芝居は好評で、ロンドン郊外の劇場から、英国の演劇のメッカ、ウエストエンドにある劇場に移り、米国、ニュージーランドでも上演された。芝居は拘束者たちは無実であることを前提にしており、上演当時、この点を疑う声は表に出てこなかった。現在では、青年たちへの疑念を検証しないほうがおかしい、とする見方が強くなっている。 
 
▽「愛情あふれる青年たち」 
 
 元拘束者たちへの疑念の原因をたどっていくと、確かに人種偏見(拘束者の殆どが南アジア系、中東系、黒人など非白人が圧倒的だ)があるのに加え、2005年7月7日のロンドン同時爆破テロに行き着く。 
 
 通勤途中の男女が電車やバスに乗っていた7月7日の朝、家族や友人によれば「普通、愛情あふれる息子」や「父親」たちが、52人の犠牲者を出した同時テロを実行した。自爆テロの4人の実行犯はほとんどが英国生まれか、あるいは英国で育った、若いイスラム教徒の青年たちだった。一人はジャマイカ出身だが、他の3人は帰国した元拘束者同様、パキスタン系英国人だった。 
 
 移民の子供たちであること、英社会に十分に融合していたと見られていたこと、特に熱心なイスラム教徒だとは思われていなかったことなど、実行犯たちと釈放された元拘束者たちのプロフィールが重なる。 
 
 9・11米テロ以降、英国内でもイスラム教徒への視線は厳しいものとなっているが、7・7テロが状況を悪化させた。肌の色が褐色で南アジア系と見られる青年たちの、駅構内や路上での警察当局の職務質問の比率は他の人種や年齢層と比較しても格別に高い。イスラム教徒の市民の方でも自分たちに疑惑の目が向けられることにおびえている。 
 
 現在、米政府はグアンタナモ収容所閉鎖の準備を進めている。約300人の拘束者の中で、近く60人が出身国に戻される予定だ。しかし、閉鎖ですべての問題が片付くわけではない。無罪でありながら拘束された青年たちにとって、失われた年月に対する無念さは消えない。そして、自国民を超法規的措置の対象にされた英政府が、青年たちの名誉回復のために立ち上がり、米政府に謝罪を要求する・・・と言った事態も起きそうにはない。英社会の中で、青年たちのために何かをしようという動きも大きくはない。何とも悲しい状況と言うしかない現状となっている。〈終)
by polimediauk | 2008-05-31 05:36 | 政治とメディア
 急に、英国のクラス(階級)システムに関する話が広がってきた。

 元をたどれば、1つには野党保守党のデービッド・キャメロン氏の台頭があるだろう。(この人は本当は何を考えているのか、よく分からない。非常に上手なマーケティングマンなのかどうか?政治信条がどうもぴんと来ない。それにしても、非常にしまった顔になってきたような気がする。キリリ。乗っているのだろう。)2001年に議員になったばかりなのだが、党首に選ばれてから、一時ふらふらしていたが、今は大分盛り返した。

・・・とキャメロンが保守党を盛り上げている内に(その大きな功績は影の財務大臣のオズボーン氏にもよるものだろうが)、今月頭には、ボリス・ジョンソン保守党議員がロンドン市長になってしまった。これで大きな風が吹いてきた。

 キャメロンもボリスも、いわゆる「トフ(上流階級)」というか、気取ったやつみたいな感じではあるのだが、「まあ、トフも悪くはないな」ことになってきた。というか、上流クラスであるから良いのではなくて、これまで上流であるとやっかみ・憎まれる感じがあったけれど(自分が上流や中流だと、わざと「労働者階級です」という人も多い)、それが「言っていることがまともなら、上流だろうが、いいものはいい」という風になってきた。

 そこでテレグラフ紙などが書き立てるのは「上流階級が人気!」という話である。それを「ニュースダイジェスト」にも書いた(以下)のだが、「上流階級が人気」というよりもむしろ、「あまり憎まれなくなった」と受け取っていただきたいと思う。

 そして、先日、地方の補欠選挙で、保守党候補が勝ったのだが、ここで労働党は大きな失敗をしてしまった。それは、保守党候補は「トフだ、上流階級の人間だ。普通の人の生活のことは分からない」として攻撃をする作戦を、労働党は実行したのだ。山高帽をかぶって貴族の格好をさせた人物を保守党候補の周りに置いたそうである、作戦として。

 これが逆に反感を買ってしまった。「いまさら、階級の事を持ち出すなんて、古い」と。選挙民はそんなことより、「各候補者が何をしてくれるか」を考えて見ていたのだった。

 新聞の中には、「これでニューレイバーは終わった」と書いたところも出てきた。ニューレイバーは、中流階級を取り込むことを狙い、成功したけれど、階級差のない社会を作るのがもともとの目的だったとしても、階級にこだわらない(上流階級に対する憎しみがない)感じがあったが、階級にこだわる=古い労働党、という印象を与えてしまった。

 総選挙は遅ければ2年先だが、本当に一時代が終わったという感じがする。

 ブラウン首相は本当にどうしてしまったのだろう。一番得意だった経済で失敗し(ノーザンロック、税金)、他の政策も後手に回り、保守党の政策のまねのような印象を与える。納税者に支援をするとダーリング財務相が前に発表したが、英中央銀行キング総裁に「資金の出所が分からない財政支援だ」と言われてしまった・・。(中央銀行を政府から独立させたのはブラウン氏なのに。馬鹿にされていてはいけない。)

 といって、労働党は、代わりに立てる人がいないのも事実だから、ブラウン氏でがんばるしかないのだろうが。(以下、ダイジェスト掲載分に加筆しました。)

(その前に1つだけ。私自身は、今、英社会を分けているのはクラスというよりも、お金のあるなしだと思う。リッチな人はどんどんリッチに!お金が自分たちのグループ内で回るのである。)

***
「上流」が格好いい?
  ボリス、キャメロンが火付け役か


 今月上旬、ロンドンの新市長にボリス・ジョンソン(「ボリス」)保守党議員が選出された。名門イートン校からオックスフォード大学で学んだボリスは裕福な上流階級家庭で育った点もキャラクターの一部だ。一方、ボリスとは大学の同窓生で同じく上流階級出身の保守党党首デービッド・キャメロン議員は同党のイメージアップに大きく貢献し、政権交代も夢ではなくなった。「Posh」=上流階級であることが格好いいと見なされるつつあるのかもしれない。

―名門校の出身者たち

―ハーロー校:チャーチル元首相、フセイン現ヨルダン国王、詩人バイロン、俳優エドワード・フォックス、歌手ジェームズ・ブラント
―イートン校:ジョンソン・ロンドン市長、キャメロン保守党党首、マクミラン元首相、ウイリアム王子、ヘンリー王子、俳優ヒュー・ローリー
―ラグビー校:チェンバレン元首相、数学者兼作家ルイス・キャロル、作家サルマン・ラシュディー、スポーツとしてのラグビーの考案者ウイリアム・ウエブ・エリス          ―チェルトナム・レディーズ・カレッジ:ザーラ・フィリップス、女優クリスティン・スコット=トーマス、TVタレントのタマラ・ベックウイズ


ー所属する階級の意識調査

自分は労働者階級だと思う: 53%    
中流階級だと思う: 41%
上流階級だと思う: 2%
分からない・無回答: 4%
(Source: Guardian/ICM Poll, 2007年10月実施)
(*この数字は解釈に要注意です。「と思う」のと、実際にそうであるかは違う可能性があるからです。)

ー階級の内訳と特徴
(これは英語版ウイキペディアを参照。さまざまな分け方があることをご了承ください。仕事のタイプと収入を合わせたり、A,B,C,D、Eで分けるやり方もあります。)

アッパークラス: 貴族、紳士階級、土地所有者など。先祖代々の土地や資産を受け継ぎ、国内で最も裕福な層。BBCのアナウンサーなどが使う発音で英語を話し、パブリック・スクールで教育を受ける。狩猟、乗馬などを楽しむ。ビジネスを嫌悪する傾向も。

アッパー・ミドルクラス: 教育程度の高い家庭出身で自分自身も良い教育を受けた層。アッパークラスの発音や生活様式を模倣しようとする。弁護士、医者、軍隊幹部、学者、官僚、株式ブローカーなど。文化的リーダーシップを取る。

ミドル・ミドルクラス: 上の階級よりは教育程度がやや低いブルジョアジー。地元企業の経営者、大企業の中間管理職など。BBC英語に少々地元のアクセントを入れて話す場合もある。

ローワー・ミドルクラス: ホワイトカラーに従事するが、大学には行かなかった場合が多い。多少地元のアクセントが入った英語を話す。相手の発言が聞き取れなかった場合、「パードン?」と言って聞き返すことが多い。

ワーキングクラス: 農業、鉱業、工場勤務者、ブルーカラーの仕事に就き、地元のアクセントの英語で話す。教育程度はあまり高くない。サッカーや大衆紙を好む層でもある。

貧困層:低所得者か社会保険を受給している層。

***

ーきっかけは

 「立候補自体がジョーク」と言われたボリス・ジョンソン保守党議員(通称「ボリス」)が、2日、ロンドンの新市長として当選を果たした。元欧州議会議員を父に持つ裕福な家庭で育ち、英国の名門パブリックスクール、イートン校からオックスフォード大学に進学した。卒業後はジャーナリストとして活動を続けながら、保守党議員にも選出された。ぼさぼさの金髪ヘアーとジョークの連発でテレビの人気キャラクターにもなり、いつしか「道化者(バフーン)」というニックネームが付いていた。こんなボリスのロンドン市長就任で、社会の上流階級に対する見方が変わりつつある。

 家柄、教育程度、職業、英語の発音や語彙、衣服の好みから趣味・志向によって、英国には様々な社会階級が存在する。分類は様々だが、大きく分けて上流(アッパークラス)、中流(ミドル・クラス)、労働者階級(ワーキングクラス)がある。上流階級の上に来るのは王室だ。社会のほんの数パーセントを占める上流階級は、非上流階級からすると、「気取っている」、「富を独占している」など、嫉妬あるいは揶揄の対象になることが多かった。

 ところが、典型的上流階級であることを隠さないボリスは多くのロンドン市民に親しみやすさを感じさせ、「ボリスなら、何かやってくれる」と思う選挙民の票を集めた。

 ボリスの選挙運動を後押ししたのが保守党の若き党首デービッド・キャメロンだった。キャメロンはボリスと同様にイートン校からオックスフォード大学に進んだ。上流階級の男性が入るクラブの典型「ホワイツ」に所属し、妻サマンサも16世紀にその端を発する上流家庭の出身。3年前に議員になったばかりのキャメロンは、暗いイメージの保守党に新風を吹き込み、1日の地方選では与党労働党に圧勝した。ボリスとキャメロンは上流であること(=posh)が「クール」だと思わせる役割を果たしているのだろう。

―新「posh」

 ボリスやキャメロンにはこれまでの上流階級とはやや違う面もある。2人とも、かつての上流階級のように運転手つき車でなく、可能な限り自転車通勤。ボリスは、労働者階級の語彙「メイツ」(仲間)という言葉をしょっちゅう使う。キャメロンは子供を私立校でなく公立校に通学させている。

 さらに視野を広げ、究極の上流、あるいは上流の一つ上の階級とも言える王室の例を見れば、ウイリアム王子もヘンリー王子も、普通の若者のようにサッカーの試合を見に行くし、ナイトクラブで飲みすぎではしゃいだり、中流階級の女性たちをガールフレンドにしている。「新上流」は旧上流と比べると、堅苦しさがないようだ。

 デーリーテレグラフ紙(7日付け)は、新上流が好感を持って受け止められているのは、「お金がすべて」という昨今の風潮への「反動」と分析している。「階級付けは意味がない」、「差はあいまいになった」と指摘する人もいるが、ガーディアン紙と調査会社ICMが昨年行なった調査によると、89%が「階級によって人を判断する」と答えており、階級と英社会が切っても切れない関係にあるのはしばらく変わらないようだ。

ー関連キーワード
ETON COLLEGE: イートン校。1440年、ヘンリー6世が創設した男子全寮制の私立中等教育機関。ロンドン西郊外に位置し、18人の首相経験者を輩出するなど、英国の名門パブリックスクール(私立中等教育機関)の中でも最高峰とされる。元々は貧しい少年たちに無料で学問の機会を与えるために設立された。生徒数は現在約1300人で、約15%が外国人。学費は年間約2万6000ポンド(約540万円)で、裕福な家庭の子弟が多い。ほぼ全員が大学に進学し、その3分の1はオックスフォード大学かケンブリッジ大学に。ウエストミンスター、ウインチェスター、イートン、ハロー、ラグビー、マーチャント・テイラーズ、セントポールズ、シュルーズベリー、チャーターハウスの9校は「ザ・ナイン」と呼ばれる英国の代表的な名門校だ。
by polimediauk | 2008-05-26 07:34 | 政治とメディア
 英通信規制団体オフコムが22日発表したところによると、従来は「デジタルデバイド」のために後発と見られていた地方で、都市部よりもブロードバンド普及率が高いことが分かった。オフコムは公共放送や通信業の規制・監督をしているが、正しい政策を行なうための判断材料として、細かく市場を調査し、その結果を発表している。

http://www.ofcom.org.uk/media/news/2008/05/nr_20080522

 地方の家庭59%がブロードバンドがあるのに対し、都市部は57%だったが、4年前までは都市部のブロードバンド普及率は地方の2倍だった。

c0016826_21115590.jpg 今回の調査で最も普及率が高かったのはイングランド北東部のサンダーランド(66%)で、低いのはスコットランドのグラスゴー(32%)。何故サンダーランドが高いのは不明だが、グラスゴーの場合は世帯収入とコンピューター所有率の低さとされている。地方でも若干の差がある。イングランド(60%)、スコットランド(53%)、北アイルランド(52%)、ウェールズ(45%)。(グラフはBBC)
 
 英国でブロードバンドが最初に提供されたのは2000年だ。

 携帯電話のみ(固定電話なし)の家庭は全体の20%だが、イングランド北東部の都市で平均より高い数字が記録された。マンチェスター市を含む「グレーター・マンチェスター地区」では28%に。

 ネットを使ってテレビ番組を含む動画を見た大人は全体の30%で、特に高いのがロンドン(40%)、エジンバラ(45%)だった。まだまだ携帯電話で動画を見た人は少ない(全体の4%)。

 テレビの視聴率をチェックしているBARBによると、英国人は毎日平均3・6時間テレビを見ているそうだ。

 また、オフコムの調査では85%の家庭が自宅にデジタルテレビを持っている。2006年の同様の調査から10%上昇した。
by polimediauk | 2008-05-22 21:15 | ネット業界
 フィナンシャルタイムズやウオールストリートジャーナル(WSJ)が21日報じたところによると、元タイムズの編集長だったロバート・トムソン氏が、20日夜、マードックのWSJとダウ・ジョーンズ社の編集統括者になる合意がなされたようだ。

http://www.ft.com/cms/s/0/36a27440-26d1-11dd-9c95-000077b07658.html?nclick_check=1

 トムソン氏はオーストラリア出身で、2002年から07年までタイムズの編集長だった。マードックがダウ・ジョーンズ(DJ)を昨年買収してからは、発行人・パブリシャーというタイトルになっていたが、新しい職では、WSJのマネジング・エディター、親会社のダウジョーンズではエディター・イン・チーフとなる。FTは、マードックがWSJを自分の好みに変える作業を一層早めたい意思を表している、とする。

 自分が買収した新聞を自分の好みのカラーにすることで著名なマードックは、少しずつWSJを専門の経済・金融よりも一般的なニュースや政治ニュースが入ったものに変更中で、WSJの特色の1つとも言われる非常に長い分析記事も嫌っているようだ。

 トムソン氏の統括編集長就任には、前職者マーカス・ブローチリ(Brauchli)氏の辞任劇があった。辞任が明らかになったのは4月。 ダウ社をマードックが買収してから4ヶ月後だ。FTの以前の記事によると、ブローチリ氏は新しい所有者がWSJにたくさん資金を投資してくれれば大きな未来が開けると考えていたそうである。

 ダウ社買収の条件の一つは独立理事会の承認なしには編集陣(ブローチリ氏を含む)を変えないことだったが、買収後ほどなくしてロバート・トムソン氏が「発行人」になり、ブローチリ氏の上司になってしまった。マードック自身もよくWSJの編集室を訪れるようになったという。

 スタッフにあてた手紙で、ブローチリ氏は、新しい所有者が来たので、新所有者が望む統括編集長をたてるべき、と書いていた。

 今月上旬、マードックはWSJをこれまでの中核読者の関心ごとであるビジネスや金融中心から、一般読者の獲得を狙って政治や一般ニュースを増やしているという見方は正しくないと反撃している。編集権の独立は保たれており、独立編集委員会にブローチリ氏がもしそうしたければ訴えることもできたが、氏はそうしなかった、と述べている。

 今回のトムソン氏の就任に関し、この特別編集委員会は満場一致で賛成したと言う。ブローチリ氏の辞任にいたる過程は「受けいられない」としたが、編集権がおかされたなどの話はなかったという。

 しかし、21日付のWSJの記事では、トムソン氏は特別委員会に対し、ブローチリ氏の辞任の処理は「間違いだったと今になって思う」と述べたと言う。

 
by polimediauk | 2008-05-22 03:29 | 新聞業界
 受精・人の誕生に関わる法案で、人口中絶可能限度期間を24週間から短縮する議案は否決され、変化がないことになった。今回の包括法案はすべてリベラル派勢力の勝ちとなった。

 日本では22週と聞く。選択肢として、12週間、16週間、20週間、22週間があったが、すべて否決されてしまった。

 英国での議論は、女性側の権利の問題やいつ「生命がある」と判断するのかが中心になった。24週間というのは1990年、28週間から短縮された。

http://news.bbc.co.uk/1/hi/uk_politics/4350259.stm

 これはイングランド、ウェールズ、スコットランドで適用されるが、北アイルランドは別。

 統計によると、20-24週間で中絶をする人は全体の1・5%ほどで、80%以上が12週間以内に中絶をしている(2006年)。
by polimediauk | 2008-05-21 07:38 | 英国事情
今、英下院で、受精に関する包括法案が審議中だ。

 この法案の詳細を見ていると、そして今週からどんどん可決されてゆく様子を見ていると、本当に空恐ろしい思いがしている。つまりは自分はかなりの石頭である、ということもあるだろう、この問題に関して。文化の違いもあるかもしれない。この包括法案がすべて可決されてしまったら(その可能性は高い)、英国はとんでもなくリベラルな国家になってゆく。これがつまりは新しい時代なのであり、自分は古い人間であるだけなのか。(+知識が十分ではない、というせいもあるのかどうか。)

 それにしても「何でもOK」となったら、一体どこに譲れない価値観を置くのだろう?(そんなものはなくてもいい、という見方もあろう。)

 こんな思いを抱く1つの法案は、英国で女性が体外受精(英国の国民保険サービスで受けられる医療の1つ)の治療を受ける時、医療機関は「生まれてくる子供の福祉」を考えて、父親の存在を求めるが、20日可決した法案によれば、「子供を支援する保育(ペアレンティング)」を子供に施せるという証拠があれば、父親となる男性のパートナーの存在は必要なくなる。これで、女性同士のカップル(同性同士の結婚は「シビル・パートナーシップ」で可能になった、通常のマリッジでなく、この言葉になったというだけでも、同性同士のカップルにとっては差別ともいえるのかもしれないが)やシングルの女性にも男性を介在せずに(精子は介在するのだけれど)体外受精をし、子供を産み、子育てをしてゆくことが可能になる。

 考えてみれば、体外受精が許され、これが実を結んだ時点(30年前が最初のベイビーの誕生)で、大きな(地殻が動くほどの?)動きが既に起きていた。

 しかし、私のイメージは体外受精といえば、既に男女のカップルがいて、自然の形では子供に恵まれないから・・・という環境での1手段と思っていたが、時代はもうずっと違う方向に進んできた。英国では女性が卵子を販売することは許されていないが、女子学生が卵子販売を許可する国に行って卵子を売りお金をもうけるということもよくあること(サンデータイムズ、サイモン・ジェンキンズ氏コラム、18日付け)なのだから、英国はむしろルールがきついという見方もあるだろう。シングルの女性(キャリアウーマン)で体外受精で子を身ごもり、育てている、という米国の具体例を雑誌で読んだことも思い出す。

 この法案可決に至る議論で、「男性のパートナーの介在なしの体外受精の禁止」の現状を支持したのが、保守党の元党首イアン・ダンカン=スミス氏だった。「家族が破壊してしまう」と訴えた。一方、禁止を解消する法案に賛成した側は、「女性同士のカップルは『家族』と言えないのだろうか?あなたはレズビアンのカップルの家庭を破綻した家庭と呼ぶのか?」と反論された。「レズビアンの権利をどうするのか?」と。

 子供は男女のあらゆる面での格闘の末に生まれる。時には体外受精を含めたさまざまな手段を使うこともあろう。時には養子で生まれ育つこともあろう。親が亡くなり、孫を育てる祖母・祖父もいるかもしれない。離婚して一人親で育てることもあるだろう。しかし、基本は子供は男女から生まれるもの。ここから目をそむけることはできない。一人の男性と向き合うプロセスを避けて、子供だけ手中に入れるというのは何かが欠けてはいないだろうか?結果だけ欲しい、ということにはならないだろうか。(こういう考え自体が古臭い+差別につながるのかもしれないが。)

 同性同士のカップルがシビル・パートナーシップで事実上夫婦になれる英国で、こうしたパートナーシップの家庭が子供を持つことを否定するのかどうかー?英国の議員たちは否定しない方に票を投じたのだ。

 他の法案を見ても、人の誕生・命を際限なく「自由に使う」ことを目指しているように思える。一体どこまで行くのかな、と思う。クローン人間がおかしいと思わなくなる日はすぐそこまで来ているな、と思う。
by polimediauk | 2008-05-21 07:15 | 英国事情
 どこまで人は人の誕生に手を加えることが許されるのだろうか?

 世界で初めて「試験管ベビー」(体外受精で生まれた子供)を生み出した英国で、中絶が許される期間の短縮、ヒトと動物に由来する「融合胚」の研究目的での生成、女性同士のカップルが子供の両親になれる道を開く(ちょっと大雑把な表現であることをお許しください)など、人の生命の誕生に関わる包括法案を下院議員たちが議論中だ。昨日19日から、どんどん新法案が可決されている。どきどきすると言うか、恐ろしいなあと思いながら見守っている。

 昨日、議会内で最も議論が分かれていた、融合胚の生成を認める法案が承認され、本日20日は、既に「父親」の介在なしに、女性同士のカップルが子供を体外受精などで作ることを可能にする法案が可決された。今晩10時ごろには、中絶限度期間の短縮に関わる法案で可決・否決の是非が問われる。

 先月「英国ニュースダイジェスト」(4月10日付)にこの件で概要を書いたのだが、一先ずそれに加えたものを出してみる。

 参考にしたのは一般紙の記事に加えて、「技術開発機構NEDO海外レポート1014」、英国会資料、以下BBCなど。HEFA (Human Fertilisation and Embryology Authority):「ヒト受精・胚機構」のサイトから、Hybrids and Chimeras (A report on the findings of the consulation)という昨年10月発表の報告書があり、これも言葉の説明など詳しい。
 

まず「融合胚」Q&A

―「融合胚」とは?

 ヒトのDNAを含んだ細胞核を、核を取り除いた動物の卵に移植して生成された胚。理論上は99・9%ヒトの遺伝子的性質を受け継ぐ卵を生成できる。ハイブリッド胚とも呼ばれる。胚は研究室で2,3日保管され、様々な組織に成長可能な幹細胞になる。幹細胞を怪我や病気で傷んだ臓器などの細胞に分化させることができれば、移植することで治療にも使えるようになる。

―何故動物の胚を使うのか?

 幹細胞を作る際に必要となる、研究用のヒトの卵細胞が希少なため。研究者によると、作業過程の煩雑さが減少し、生成確率も上がると言われている。

ーどのように利用されるか?

 例えば、パーキンソン病の患者から遺伝情報を採取し、遺伝情報を取り去った動物の卵子に入れる。これでパーキンソン病を引き起こす遺伝子情報を持つ幹細胞を作ることができる。幹細胞は様々な組織に成長する可能性があるので、そうして成長した組織を実験に利用することでパーキンソン病の治療法解明に貢献するのではないかと期待されている。

―ここまでの概略

 人工授精や胚研究に関する既存の法律を改正する「ヒト受精・胚研究法案」を巡り、議員一人一人の「良心」がクローズアップされる事態が起きた。

 この法案が成立すれば、現在24週間の中絶限度期間が20週間(以下の可能性も)に短縮される。また、医療機関はこれまで、体外受精で子供を産むカップルに対し父親の存在を治療を受ける際の必要条件としてきたが、この必要がなくなるので、女性同士のカップルも含め同性愛者同士が子供を持ちやすくなると言われている。新生児の組織の幹細胞を、病気の兄弟を治療するために使えるようにもなる。しかし人間と動物の組織を合わせる融合胚の作成を巡り、「自然に人間の手を加える」行為として批判が起きるようになった。

―閣内からの反対の声が

 融合胚を使えば、多発性硬化症やアルツハイマー病の治療法解明につながると言われている。胚を使った再生医療で英国が世界のリード役となることを望むブラウン首相は、子供の1人が免疫性難病に悩み、この分野の研究には特に期待をかけていた。

 ところが、国内に500万人の信者を持つカトリック教会の指導者陣が、「人の命を商業化しようとしている」、「人の誕生という自然の摂理に手を加えることがあってはならない」など、反対の声を上げた。特に強い調子で非難したのは、スコットランドのオブライエン枢機卿で、法案を「人権、人間の威厳、生命に対する恐ろしい攻撃」と呼んだ。与党議員は、通常政府の法案には賛同することが義務となるが、閣内にはブラウン国防相を始めとする数人のカトリック信者がおり、ブラウン首相は苦しい立場に追い込まれた。今回は特別に「良心にまかせて、自由に賛否の投票をすること」を労働党議員に対して認めざるを得なくなった。

 法案は昨年秋、提出され、既に上院では討議済みだ。(そして、19日から続々と下院で可決中だ。ああ・・。これでいいのだろうか?私にも分からないが、何だか本当にいいのかな?)

 一方、昨年9月、体外受精や胚研究の規制を監督する「ヒト受精・胚研究機構」(HEFA)は、現行関連法では融合胚の扱いが明確に定められていないとして、幹細胞研究のために動物の卵細胞に人のDNAを移植して生成できるヒトと動物の融合胚の生成を原則許可する方針をまとめた。胚を生成後14日以内に廃棄することを必要条件として盛り込んだ。HEFAは今後、個々の研究をその都度考慮しながら、認可するかしないかを決める。こうして、今年1月、新たな法の成立を待たずに イングランド北部ニューカッスル大学とロンドンのキングズ・カレッジの研究チームにヒト動物融合胚の研究目的での生成が認可された。倫理的な側面よりも科学的な成果を重要視したと言われている。4月、ニューカッスル大学が融合胚の生成に国内で初めて成功したと発表した。

 HEFAの調査によると、ヒト胚に関して「聞いたことはあるが知らない」人(31%)、「少し知っている」人(33%)が大部分を占め、研究目的での生成への反対者も多いという結果が出た。

 今年3月13日、14日、YouGov poll調査が2,311人に聞いたところ、中絶許可期限の短縮を大半が支持している。中絶の認可期限は現行の妊娠から24週間までから20週間に短縮されるべき(48%)、現行のままで良い(35%)、中絶は禁止されるべき(8%)、分からない(9%)。

ー関連キーワード 
 HEFA (Human Fertilisation and Embryology Authority):「ヒト受精・胚機構」。体外受精治療と胚研究に関する政府の独立規制機関。患者と一般市民の利益の保護、治療及び胚研究の前進、体外受精治療及び胚研究に関する情報の市民や政策担当者への提供を目的とする。また、体外受精治療や精子提供による不妊治療を行なう医療機関に認可を与え、卵子、精子、胚の保管を規制する役割も持つ。1991年、ヒト受精・胚研究法(90年)に基づいて発足した。

ー「胚ヒト受精・胚研究」法案に至る動き

1978年:世界初、体外受精による子供が英国で誕生
1980年代:これを受けて、議員が受精と胚研究に関する議論を開始。
1984年:出産、受精に関わる社会的、倫理的、法律面に関わる議論と調査内容をまとめた報告書が発表される。
1990年:ヒト受精・胚研究法が成立。人の体の外での胚の作成、保管、使用、また胚の生成目的での配偶子の保管及び使用が認可制になる。
2002年:ヒトの体細胞や胚から幹細胞株を作り貯蔵する「英国幹細胞バンク」、発足。
2004年:政府がヒト受精・胚研究法の改正を提唱。翌年、公の協議プロセスを開始。2006年:見直しのための政府提言が入った白書が発表される。融合胚の生成は原則禁止に。
2007年:3月、下院・科学技術委員会が融合胚の研究目的での生成の必要性を打ち出す。5月、法案草稿が変更され、研究目的の生成を認める形に。11月、融合胚生成を一定の規制の下で可能とする法案が国会に提出される。
2008年:生命倫理上の問題から、法案への批判高まる。5月19日、融合胚に関して、下院で可決。
by polimediauk | 2008-05-21 04:30 | 英国事情
 15日、在ロンドンの米大使館で、「米大統領選挙とデジタル・デモクラシー」と題されたイベントがあった。私自身、米大統領選の進展を細かく追っていないので、知っている人には物足りない部分もあると思うが、その時の様子を若干紹介したい。

 米大使館に入るには、必ず写真つきIDが必要で、飛行機に乗るみたいなチェックがある。大使館の建物は、おそらくそのまま車が突っ込んで来れない様にということなのか、コンクリートの塊りやワイヤーが若干取り囲んでいて、「要塞」のような感じである。(日本の米大使館はどうなっているのだろう?)この前でよくデモも行なわれている。今もデモコーナーのような場所があって、小さい看板のようなものが置かれていた。

 まず、PoliticsOnline というところのPhil Nobleという人が話した。この人はオバマ候補を支持しているとのこと。他の候補と比べると、オバマ氏のネットを使った選挙戦は非常に高いレベルにある。どの候補が勝つかの最後の決め手は投票になるが、(1)誰がどんなキャンペーンをしたか、(2)誰がどれほどたくさんの資金を集めたか、(3)どの候補がいかにメディアで大きく取り上げられたかで勝ち負けが、常時変わっている。

 ネットでは、どれだけトラフィックがあったか、どれだけフェースブックの友人を持っているか、ネットの広告をどうやって使ったか。このいわば、全く「新しい科学」の分野でいかに成功できるかが決め手となる。この点が今回のデジタル技術を使った選挙戦のこれまでと違う第1点。

 第2点は、情報をネットで出すときの出し方が違うという。オバマ候補のサイトを開くと、80%のコンテンツが、どうやったらユーザーがオバマ候補を支持できるかに関連している。そして、ユーザー・あるいは有権者が作ったコンテンツがたくさん入っている。昔は、政治の行き先がどうなるのかは政治家を見ればよかったが、今は「有権者を見ろ」に変わった。ビデオも有権者が作っている。

 第3点は、選挙戦の戦場が商業サイトに移った、例えばウイキペディア(ウイキペディアが何故「商業サイト」なのか?と私自身思ったのだが、彼はそう言っていた)、フェースブックなどのサイトでどう表記されているかが非常に重要になった。

 次に、ロンドン大学Royal HollowayのAndrew Chadwickという博士が同様の特色を挙げた。そこで何故英国で同様の現象(ネットが主戦場の一つになる)が起きていないのかの説明があった。彼によれば、米国は連邦制で英国のようには中央集権化しておらず、政党が弱い(彼によればである)が、英国は政党制度が強い。議員候補者になるのでも、政党のシステムを通らないと事実上は上に行くのは難しい。そこで、米国で全米的に支持を得ようとすれば、ネットに頼って意見を集約する、という形が役立つが、英国では既に政党があって、メディアの構成も違うので(どう違うかは説明はなかった)、ネットよりも既存メディア、既存政党の選挙戦が幅を利かせている、と。

 英国はまだまだトラディショナルな選挙戦を展開している、ということ。チャドウイック氏によれば、将来的には英国も米国型になる、と。

 次に、英国では1000万人の会員がいる人気SNSサイト「ビーボ」の社長ジョアンナ・シールズ氏が、ネットの活用で、米大統領選挙戦に大きな変革が起きた、という。それは、巨額の資金を寄付する人や既存のテレビのネットワークの占める位置を相対的に低くしてしまったからだ。

 「人はネットを好み、オバマ氏の演説でも、TVのネットワークだったら、ちょっとしか放送しない。しかし、37分間、全部を人々はネットで見ていた。一種の革命だ。資金も沢山集めることができる」

 「SNSを始めとするネットは、民主主義を市民に取り戻させる」

 「ある情報は、既存メディアが報道するより、友人がこうだよって言ってくれたものの方が受け入れ易い」

 最後は、英首相官邸にかつて勤めていたジミー・リーチ氏。選挙戦の後で彼が困惑するのは、「例えばロンドン市長選でも、キャンペーン中はそれぞれ候補者はサイトを作る。ユーザーとインタラクティブにコミュニケーションを取るかもしれない。しかし、選挙が終わったとたん、例えば当選したボリス・ジョンソン市長も、サイトを更新しなくなってしまう。これはおかしい。むしろ、当選してからの市民との対話のほうが重要なのではないか」。

 英国の政治家のネットに対する知識や意識は非常に低い、という。(裏話で、一度見知らぬ番号の持ち主から、携帯にメールを貰ったという。「誰?」と聞いたら、ブレア元首相だった。メッセージは、「初めて携帯メールを送った」だった。)

 ひとしきりパネリストの話が終わると、一問一答になった。「本当にネットは民主化に貢献するのかどうか?」と聞かれ、ノーブル氏が「今でも大きいのはテレビだが、ネットはインタラクティブであることが違う。これは大きい」、「好きな時に、好きなように相手と通信できる。これは今までと全く違う」。

 しかし、ネットで盛り上がるのはある程度若い世代で、実際に投票するのは中高年が中心だとしたら、その「ギャップ」はどうするのか?という頭のいい質問が出た。また、コンピューターを持てない人と持てる人のデジタルデバイドは?という質問も。まともな答えはなかったように思う。ビーボの社長は「ネットへのアクセスはそれほどむずかしいことではない」と言っていたように記憶する。

 おもしろかったのは、スカイテレビの人の質問で、そのうちに、ネットはテレビで見る・やるのが普通になる。テレビは万人が視聴するものだし、そうなったら、デジタルデバイドはかなりなくなる、という意見だった。もう既にテレビ番組で視聴者参加型が大人気だし、あともう少しで主流になりそうな感じがする(2-3年??)が、どうだろうか。

 もう一つ、民主党候補者選びのヒラリー対オバマの闘いの様子は世界中で報道されている。米国の海外でのイメージ戦略的に言うと、どうだろうか?という質問が出た。同じ政党の2人の闘いがマイナスイメージを与えないか、と。この答えは時間切れのため出なかったのが残念だった。

関連サイト

ポリティックスオンライン
http://www.politicsonline.com/

ジミー・リーチ氏の会社
http://www.freud.com/

チャドウイック氏の大学
http://www.rhul.ac.uk/Politics-and-IR/About-Us/Chadwick/Index.html
by polimediauk | 2008-05-19 02:29 | 政治とメディア
 インディペンデント紙などによると、フランス語の百科事典を150年以上前に作成したラルース社が「現状よりももっと優れたウキペディア」のフランス語版を開始した。(以下のアドレスは私がやると途中で止まってしまう。後日また開けてみたい。)

http://www.encyclopedie-larousse.fr/

 インディペンデント記事
http://www.independent.co.uk/news/europe/french-publishing-group-sets-up-rival-to-wikipedia-827705.html

 ウイキペディア同様に無料でアクセスできる。しかし、情報の信頼性を高める工夫として、情報提供者(書き込む人)はあらかじめ個人の名前他の情報を登録し、ログインしてから、情報・記事を送る。掲載された記事にはその人の名前がつき、責任の所在が明確にされる。一旦書き込んでしまうと、簡単に変更されないよう、保護されると言う。

 また、一般ユーザーからの書き込みに加え、ラルースの百貨事典で既に出した15万の記事と、1万の画像を使う。ナショナルジオグラフィックとの提携で今年後半には動画も入れる。フランス語版ウキペディアには39万人のボランティアが協力する。

 本家ウイキペディア(記事本数一千万とされている)の方はドイツのメディアグループ、ベテルスマン社から、9月、紙に印刷したものが出るそうだ。(これはおそらく英語版が、ということだろうか?)

 産経新聞(5月14日パリ発)によると、「ラルースは1852年創設の辞書の老舗。ラルースと並ぶ辞書の老舗のロベールも今年後半には無料サイトを開設する予定で、無料サイトでの“辞書競争”が活発になりそうだ」。

 フランスは「仏語」に非常にこだわる・大切にするようだ。世界の情報が英語に支配されていることに我慢がならないのだろう。

 今回のラルースの試みが実際にいつまで続くのか、利用者はどこまで増えるのか?現時点ではまだ分からない。英仏の両言語で華々しくデビューしたが、サルコジ大統領からの支持がなくなり、フランス語をメインにすることになった「フランス24」の例もある。減速、尻つぼみにならないといいが。
by polimediauk | 2008-05-14 18:26 | ネット業界
c0016826_21122683.jpg 今週号の英「エコノミスト」の表紙を英国で見た人は驚いたに違いない。イエスキリストを思わせる(?)ような、裸で腰まわりに布をまきつけたブラウン首相(顔だけを後でくっつけたもの)が、様々な方面から来る矢をあびている。(右写真はその一部。)(注:イエスでなく聖セバスティアヌスだそうです!!コメント参照のこと。)
 そして、この表紙の右端には、ブレア元首相が「ニヤリ」としているのである。いたずらっ子のように。

 本当にブラウン首相に関する批判がこのところ多い。それも、ブレア氏が放ったと思われる批判の嵐。例えば前副首相のプレスコット氏、労働党の影の資金担当者と言われるリービー卿がそれぞれ本を出してブラウン氏を批判したかと思うと、最近は、ブレア氏夫人がブラウン氏のことをめちゃくちゃにけなしている。(しかし、夫人シェリーは本当に様々な人物から嫌われていたようだ。タイムズに本の内容が連載されているが、他紙もおもしろいところだけを拾っている。)メディアは、一生懸命、一連の暴露ものを追うが、一般市民は「もう聞きたくない」と思っているのではないか。誰が後ろで糸を引いているかミエミエだから。

http://www.timesonline.co.uk/tol/news/politics/article3919697.ece

 エコノミストは今週号で何故ブラウン首相が失敗したのかを書いている。最後に、いろいろ批判はあるにせよ、前首相から引き継いだ公共部門の改革を一生懸命やることだ、と書いている。まだ首をすげ替えるには早いと。その上で経済が好転すれば、次の総選挙で(長くて2年後)保守党に負けない、と。それでも、後になって歴史を振り返れば、最悪の政治上の失敗と見なされるだろう、と予測している。「仕事をやり遂げるやり方は知っているのに、それを一体どうしたらいいのか分からない」政治家だから、と。

The Agony of Gordon Brown
http://www.economist.com/opinion/displaystory.cfm?story_id=11332230
by polimediauk | 2008-05-13 21:13 | 政治とメディア