小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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 29日のBBCニューズナイトで、サルマン・ラシュディのインタビューがあった。(いつまでも下のサイトで見れるかどうかは不明。1週間ほどは見れるはずだが。)

http://news.bbc.co.uk/1/hi/uk/7530137.stm

 日本でも「悪魔の詩」の翻訳者が(おそらくは)関係者に殺害されたということもあって、避難生活に入った部分のことをどう言うのかなと興味があった。(私自身はこの作品を読んでいない。)クリップ再生後6分ごろからその話になるのだが、「死刑」のファトワなどが出て、身を隠す状態が続いたのは9年間で、ファトワが消えてから9年経ったという。今は特に何もなく、「大丈夫」と明るく笑う。当時は、「その日その日をどう生きるか」で大変だった、と。いつか、ファトワからの数年のことを文章にして書きたい、と言っていた。日本人の翻訳者の方が亡くなった真相は不明だと思うのだけれど、もしラシュディの小説の翻訳で、うらまれて、殺されたのだとしたら、そして、ラシュディ自身は今も生きていて、明るく笑っている様子を見たら、遺族の方は複雑な思いであろうと思ったのだった。翻訳者の方に合掌。

 取材してからよく見るようになっている「グイド・フォークス」の政治ブログで、ガーディアンの編集長のお給料の話が出ている。ガーディアンメディア社の収益の話の中に、ラスブリジャー編集長のお給料は約40万ポンドと。日本円にして8000万円以上か。なんだかすごいな、と思うーー確か利益がでるところまでいっていないはずなのだが(もしかして、首相のお給料より高いのではないか??)。社会的意義、影響力、ということの数字だろうか。編集長でこれぐらいというのが、平均かどうかは分からないのだけれども。ちなみにガーディアンの紙の発行部数は35万部ほど。ウエブのユーザーは2000万である。

http://www.order-order.com/2008/07/guardian-underestimates-fat-cat-editors.html
by polimediauk | 2008-07-31 07:03 | 新聞業界
 多くの日本人にとってあまりなじみのない話だが、こちら英国では、このところ、英国教会に関する報道がよく出ている。(60-70%の国民が自分はキリスト教徒だと言っているそうだが、それでも、教会に定期的に行く人は少なく、日常生活からは大分離れた存在になっている、とも言われている。)

 このところの話題の中心は、英国教会とその世界的組織「聖公会」が、女性主教や同性愛者の聖職叙任を認めるか否かで割れていること。10年に一度英国で開催される、聖公会の上級聖職者の集会「ランベス会議」(8月3日まで開催)の直前、聖公会の伝統重視主義者らが独自のグループ(Gafcon)を結成し、聖公会の近年の自由主義的な方向性を強く批判するという一幕もあった。

 同性愛者や女性主教を認めるか否かというのは、まさに現代的な問題でもある。傍観者からすれば、同性愛者や女性の主教の下で信者になりたくないという人は、別のグループを結成し、それで幸せになれるならその方が・・と思うけれども、英国教会指導部は何とか1つにまとまる方向で議論を進めているようだ。

 (英国教会:「チャーチ・オブ・イングランド」は聖公会:「アングリカン・コミュニオン」の中で最初に成立。もともとカトリック教会の一部だったが、16世紀のヘンリー8世の離婚問題をきっかけに、独立した協会組織となる。英国内のキリスト教信者全員が英国教会に属しているわけではない。)

 「英国ニュースダイジェスト」今週号で、聖公会やその母体となる英国教会の分裂の危機の原因を追ってみた。(以下では若干編集した。)

伝統派と自由主義派の戦い
 女性主教で英国教会に分裂の危機


―世界の聖公会

 BBCによる聖公会の分布図は:

http://news.bbc.co.uk/1/hi/world/3226753.stm

英国:1340万人
米国:240万人
カナダ:64万2千人
西インド諸島:77万7000人
西アフリカ:100万人
ナイジェリア:1500万人
スーダン:500万人
ウガンダ:800万人
ケニア:250万人
タンザニア:200万人
中央アフリカ:60万人
南アフリカ:200万人
オーストラリア:390万人
ニュージーランド:58万4800人

*50万人以上の信者がいる地域を表記

―同性愛者に対する各地域の態度

英国:2003年、同性愛者の司祭がレディング主教に選出されそうになり、大問題となる。英国教会内で反対の声が上がり、カンタベリー大司教が司祭に対し主教職を辞退するよう説得した。国教会の決まりによると、同性愛者の司祭は純潔を守る限り、市民パートナーシップを結ぶことが許される。
米国:公然同性愛者を初めて主教として選出。
カナダ:同性愛の聖職者問題で聖公会が割れるべきではないとする声明文を発表している。
西インド諸島:大司教が、米国の同性愛者の主教就任は聖書の教えに反すると表明。
西アフリカ:大司教は同性愛は「不自然」として米国聖公会との関係を断絶。
ナイジェリア:聖書の教えに反すると同性愛に反対姿勢。
スーダン:前大司教が、戦争や貧困など、同性愛よりも重要な問題を議論すべきと発言した。
ウガンダ:聖公会の自由主義的方向性に反対。米聖公会が同性愛者の主教を選んだために、関係を断絶。
ケニア:大司教が同性愛者を教会に入れるべきではないと強く主張。
タンザニア:「同性愛は罪」と大司教が発言。
中央アフリカ:米国聖公会が公然同性愛者を主教にしたことに「失望した」と元大司教が発言。
南アフリカ:公式見解はなし。聖公会内の分裂が消えるよう望むと大司教が発言。
オーストラリア:特に同性愛に関して立場を表明していないが、聖公会内の分裂に「悲しみ」を感じると聖界トップが発言。
ニュージーランド:公式見解を出していない。
(資料:英国教会、BBC他)

―ランベス会議の波乱

 聖公会の上級聖職者たちが、イングランド南部ケント大学で、10年に1度の「ランベス会議」に参加している。従来は、カンタベリー大司教が住むロンドンのランベス宮殿で開かれていたため、この名前が付いた。世界160カ国に約8000万人の信者を持つ聖公会の指導者たちが集まる会議は、聖公会が直面する問題を語りあい、キリスト教の教えについて意見を交換する場であると同時に、友好を深め、結束を確かめ合う場でもある。

 しかし、今年は聖公会内の不和が目立つ。ランベス会議は7月中旬に始まったが、開催直前の6月末、エルサレムに約1000人の聖職者が集まり、「グローバルな聖公会の将来会議」(Gafcon, Global Angrican Future Conference)というグループを結成した。目的は、同性愛者や女性の聖職任命に関する、聖公会の自由主義的傾向を変えさせることだ。ランベス会議には約800人ほどの主教クラスの指導者が参加するはずだったが、Gafconに属すると見られる約200人が参加をボイコットした。

―同性愛者の米主教の衝撃

 聖公会の内部では保守派と自由主義派が何十年にも渡り、同性愛者の扱いをどうするかで議論を戦わせてきた。現在の内部危機の直接のきっかけは、2003年、同性愛者であることを公表していた聖職者ジーン・ロビンソン氏が、米ニューハンプシャー州の主教になった時だった。同性愛行為を罪としてきたはずの聖公会で、高い指導的立場を果たす主教が同性愛者となるとは、保守派にすれば最後の砦が崩れた印象を与える事件となった。自由主義派は教会は時代と共に変わるべきと考えるため、真っ向から意見が対立することになった。

 女性司祭は既に90年代から認められていたが、主教として認められるかどうかで、保守派と自由主義派はぶつかった。保守派は聖書の教えを元に、聖職指導者は男性であるべきと考え、自由主義者は女性主教が認められないなら、女性は男性より一つ下の存在になるとして、女性主教の実現を支持した。

 Gafconの主導者たちは、「聖公会を2つに割る意図はない」と述べたものの、先のロビンソン米主教はランベス会議に招待されず、200人規模の聖職者が抗議で会議をボイコットし、かつ独自のグループまで結成した現状は、やはり「分裂の危機」と言わざるを得ないだろう。

 聖公会の「自由主義化」に反対する聖職者たちの出身国・地域を見ると、西インド諸島、アフリカ諸国など一定の地域で固まっており、旧英植民地であった場合も多い。サンデータイムズ(7月20日付)のコラムニスト、サイモン・ジェンキンズ氏は、大英帝国が自分たちの価値観を押し付けた時代は終わったと指摘する。それぞれの地域にはそれぞれの異なる文化が存在し、性に関する考えも異なる点を挙げながら、「価値観が同一であるふりをする」聖公会がおかしい、と書いた。

 聖公会の母体である英国教会のトップ、カンタベリー大司教はいかに会議をまとめ、溝を埋めるのだろうか?大司教は、会議の終わりまでに、新たな「聖公会の誓約」を発表する、としている。

―ランベス会議とは

 英国教会とその世界的組織聖公会(アングリカン・コミュニオン)の上級聖職者が集う会議。カンタベリー大主教が10年に一度開催を呼びかける。「ランベス」とは大主教が居住する、ロンドンのランベス宮殿を意味する。従来はランベス宮殿で開催されてきたが、参加者が増えて手狭になったため、今年はイングランド南部ケント大学で8月3日まで開催される。参加者は共に祈り、聖書の教えを研究し、聖公会が直面する問題を議論する。会議は非公開だが、教会グッズなどの販売をするマーケットへの訪問は、信者でなくても可能。日程など詳しくは以下のアドレスを参考に。http://www.lambethconference.org/lc2008/marketplace/index.cfm

―女性主教問題とは Q&A

―何故問題になっているのか?

 女性主教を認めれば聖書の教えにそむくと考え、英国教会を去ることも辞さないとするグループと、任命が不可能になれば女性に対する差別になるとするグループが対立している。

―現状は?

 7月、ヨークで開いた総会で、女性の主教を認める方針を賛成多数で決めた。しかし、女性の指導者がいる教区にいたくないとする信者の意思を尊重するため、女性主教の上に、男性の「スーパー主教」を作るという案も出されており、両方のグループが妥協できる仕組みの草案が、来年2月までに作られることになった。

―女性の占める位置は?

 英国では、主教より下位の司祭の職には大勢の女性が就いている。司祭になるために研修を受ける人の半分以上が女性となっており、司祭の4分の1は女性だ。女性司祭が認められたのは1992年(実際に司祭が誕生したのは1994年)。米国、カナダ、ニュージーランド、オーストリラリアでは既に女性の主教が誕生している。英国内では、スコットランド聖公会が女性の主教を認める決定をしているが、ウェールズ地方の教会監督団体は4月、認めないことで合意した。

―聖公会の最高位となるカンタベリー大司教の姿勢は?

 ローワン・ウイリアムズ氏はリベラル派と見なされていたが、英国教会の大司教に任命されてからは同性愛者や女性の主教任命に保守的な姿勢を示している。聖公会が一つにまとまることを重視しているためと言われている。

―同性愛者の聖職者たち①

 ジーン・ロビンソン:2003年、米聖公会ニューハンプシャー州主教になる。現在61歳。聖公会で初めて、公然とした同性愛者でありながら主教となった人物。70年代から同性愛者であることに気づき、結婚して2人の子供ももうけたが、1980年代に離婚し、同性愛者であることを公にした。87年、現在のパートナー(州政府勤務)に出会う。06年、アルコール依存症で治療を受ける。今年6月、両者は市民パートナーシップを結ぶ。主教選出時、州内の聖職者の一部が「教会が割れる」とする声明を出した。世界の聖公会を統括するカンタベリー大司教も聖公会全体への「大きな影響」を表明し、ナイジェリアなど複数の国の司教も懸念の声を上げた。論争が大きくなり、08年夏のランベス会議には招待されなかった。ロビンソン主教の人生はテレビや映画でドラマ化された。

―同性愛者の聖職者たち②

 ジェフリー・ジョン:イングランド東部聖オーバンス教会の首席司祭で神学者。55歳。2003年、英国教会の主教に同性愛者としては初めて任命される見込みとなったが、反対の声が上がり、カンタベリー大司教が説得し、就任を辞退した。オックスフォード大学で進学を学ぶ。英国教会の教えの中にカトリック教会の教えを取り込む「カトリック主義の肯定」運動の創始者で、女性主教の存在を支持する。04年、官邸が聖オーバンス教会の首席司祭に任命した。06年、長年の付き合ってきた男性と市民パートナーシップを結んだ。

*参考
**カンタベリー大主教に関する前のエントリー
http://ukmedia.exblog.jp/8340498/
**英国教会のカンタベリー大主教に関する論評と聖公会の危機に関しては、雑誌「フォーサイト」今年5月号に、タイムズの記者が非常に参考になる記事を書いている。購読者でないと見れないが、どこかで手にする機会があれば目を通してみていただきたい。
by polimediauk | 2008-07-30 06:03 | 英国事情
 前に、苦難の英新聞業界の新しい生き方に関して書いたが、新聞協会報の7月29日付けに、もう少し系統立ててまとめてみた。

 すぐに現在の新聞業態がなくなるというわけでは決してないのだが、「今のままではだめだ」という結論は常識となっており、そのためにはどうするかのアイデアがずい分出ている。今が非常におもしろい時期に来ているのかもしれない。
 
英紙の新しい収益モデル論議
 少人数で専門性高めるべき
 ―ネット収入の改善が課題


 広告収入の減少と発行部数の下落が慢性化する英新聞界で、新たなビジネス・モデル形成への模索が続く。かつての悲観論は具体的な打開策を提言する前向きの議論に変わりつつある。その議論は高品質化・専門化、インターネット広告の収益を改善する一方、製作の外注化や組織の徹底的なスリム化を図る方向に修練される流れに収れんされつつある。

―非営利組織の運営も

c0016826_5473123.jpg 現状打開に向け、これまでの新聞社のあり方を変えるべきだと提言したのは、2006年夏の英誌エコノミストの新聞の将来に関する特集(アドレスは記事の最後に)だった。新聞社は部数の拡大という量的な競争に走るのではなく、高品質化、専門化に力を注ぐべきだとした。幅広い読者層に、あらゆる情報を提供する新聞とはまったく違っていた。

 同誌は質の高い報道には豊富な人材と安定した資金が必要となるとして、高価格化や商業主義に左右されない非営利組織による運営を提案。高品質の言論・報道をネットでも紙でも提供する新聞の周りに、調査報道を支援する非営利団体、広い見方を持つ市民記者が存在する構図を描いた。

―グーグル下回る収入

 英国の広告費は06年、ネットが全国紙を抜いた。09年にはテレビ、10年には新聞を含む出版全体をも上回ると予想される。英紙にとりネットからの収入増が大きな課題だ。

 しかし経営コンサルティング会社「アーンスト&ヤング」が3月に公表した報告書によると、英紙がサイトから得る広告収入は検索大手グーグルと比べるとかなり低い。

 報告書は新聞サイトの毎月の固定利用者数を平均で1300万人、月間ページビューが1億1000万回と推定。サイトの広告収入は、07年で1社当たり1500万―2000万ポンド(約32億円-43億円)、固定利用者1人人当たりでは10~13ペンス(9-12円)と見積もった。グーグルの24分の1でしかない。

 増収には、①広告料をページビュー方式と、クリック単価(広告主のサイトにユーザーを誘導して得る収入)方式を組み合わせて設定する②ネットの求人広告サイトを買収する③利用者の志向や行動を分析して広告を出す「行動ターゲティング」を活用する――の3点などが必要とした。

 若者層の取り込みには、SNSサイトなどとの提携、無料配布により新聞を読む習慣を育ませることのほか、紙の新聞に暗号を印刷し、これをサイトに入力すると広告主とタイアップした商品やサービスなどが入手できるようにする、なども提案した。

―新聞社「解体論」

 新聞の不要論は見られないものの、新聞社の組織を見直すべきとする考え方は少なくない。通信環境や技術の発展で、情報収集・発信は既存媒体の特権ではなくなった。個人のブログが広い支持を得て、専門性の高いニュースサイトとして機能する事例が相次いで見られることが背景にある。

 その具体例が英国の独立系政治ブログの最大手(毎月の固定利用者数が約50万人)「グイド・フォークス」だ。政治風刺が主だがスクープ記事も多い。執筆者のポール・ステインズ氏は、既存のブログ・ホスト・サービスを利用し、ほぼ一人で取材から編集、情報発信をこなす。

 ブログ上には複数のバナー広告が並ぶ。ステインズ氏は「専門性のある情報を発信できれば、誰でも利益が出る媒体を作れる」が持論だ。新聞のように「総花的なトピックを追っていない」ことや、「制作費を出来る限り安くする」のが利益を生み出す秘訣だという。

―サブエディーター廃止

 組織を徹底的に小さくするため、製作の外注化や組織の簡素化も急ピッチで進む。独ベルリナー・ツァイトゥング紙など約300紙を発行する欧州の新聞グループ「メコム」のモンゴメリー会長は3月、英上院通信委員会で、各新聞の顔となる見出しを作る重要な職と見なされてきたサブエディターは不要で、印刷工場も「将来、外注化すべきだ」と述べた。

 サブエディター職は無料紙シティーAMが6月末に廃止し、株価下落に悩むトリニティー・ミラー社も7月、削減を発表した。インディペンデント紙を発行するインディペンデント・ニューズ&メディア社は英国以外で発行する新聞に関してサブエディター職を外注化している。

 ガーディアン紙のコラムニスト、ロイ・グリーンスレード氏は6月30日、サブエディターを「新しい時代の最初の犠牲者」とブログに書いた。「新しい時代」には「マスメディア」という言葉は存在しないかもしれないと指摘。「ニッチ市場に向けて、少人数で質の高いスタッフを雇える程度の利益を出す、全く新しい収益モデルが成立する事態を予想せざるを得ない」(7月1日付)との見方を示した。

 エコノミスト記事アドレス(他にもいろいろ面白いアイデアが出ています。)
http://www.economist.com/opinion/displaystory.cfm?story_id=7830218
http://www.economist.com/business/displaystory.cfm?story_id=E1_SRNSTPV

 グリーンスレード氏のコラム(25日付)で、NYタイムズを、米格付け会社スタンダード&プアーズ社が「ジャンク・ボンドレベルにした。やっぱり新聞業は瀕死だ」というブログ(グイド・フォークス)を紹介したものがあります。
http://blogs.guardian.co.uk/greenslade/2008/07/guido_on_the_death_of_the_dead.html
by polimediauk | 2008-07-29 05:42 | 新聞業界

テレグラフで雑談

(みなさま、いろいろコメントありがとうございます。コメント欄の方が深いので、私のブログ部分は画面の一部にし、コメント欄をでかくできないのか?と考えてしまいますーー技術的なことを分かっている方、お手すきのときにでもご連絡ください。エコノミストのコメント欄は、ちなみに、一回の投稿分がなんと、5000字なのです。いくらなんでもこれはでかすぎる感じもしますがー。)
c0016826_2362638.jpg

 7月上旬、テレグラフ編集室に行く機会があったのだが、書きそびれていた。取材ではなかったので、きちんとした報告ではなく、雑感ということで。

 テレグラフはロンドンのビクトリア駅から非常に近い。歩いて2分ほどだろうか。広い編集室の上の階に経営陣の人がいて、丁度昼時だったので、経営者の隣の部屋は、ランチ・ミーティング用のテーブルがセットされていた。(どんな優雅なことを話すのだろう???リッチな人ばかりか?)

 それにしても、広いなーと思った。写真を見ていただきたいが、昼だから人が少ないのかどうか?つまり、人数として(編集部、経理なども入れて、約1000人ほどのようだ)少ない、というよりも、スペースが広すぎるような。

 これはある意味では深いのではないかと思った。つまり、ウェブ重視になって、技術の発展で、「図体がでかい」部分は減るべきではないのか?という議論があるからだ。今が変化の過渡期なのかどうか、テレグラフにとって。

 外報ニュース担当デスクがいたので、ちょっと話を聞いてみると、何と朝8時半から来ているそうだ。帰りは午後8時半頃(早い版を作って・見てから帰るのだろう)。働き蜂である。もちろん、自宅でもニュースはチェックするのだろうし。編集会議は10時半頃と午後4時頃の2回だ。これは日本の新聞社でもほぼ同じだろう。人事の話になって、「何時誰が首を切られるのか分からないから、びくびくして、一生懸命仕事している」ということを言っていた。「まさか、外報デスクなら、安泰でしょう」と返したが、そうでもないらしい。後で、知人からこの人は解雇になるかもという噂が出ていると聞いて、申し訳ないことを聞いたなと後悔した。

 長いことサブエディター職をやっている人にも聞いた。校閲+整理の仕事にあたるらしい。今、英新聞界ではこのサブエディター職をどうするかがホットなトピックになっている。つまり、職自体をなくする動きがあるのだ。見出しを書いたりする仕事だが、この人によると、「今はデザイナーがサブエディター職を兼ねるようになっている」と言っていた。

 最大の失敗は?と聞くと、作家サルマン・ラシュディーの名前が見だしに入った大きな記事で、サルマン(Salman Rushdie)のつづりを、間違えてsalmon(サケ)とやってしまったそうだ。後で気づいたが、時既に遅し。謝罪記事は出したかと聞くと、「何もしなかった」。次の日はまた気を取り直して仕事を続けたそうだ。

 オピニオン面の担当者(外国ニュースの人もそうだったが、この人もサンデーテレグラフから移動したばかり)は、見た目、30歳ぐらい。若そうに見えた。テレグラフのオピニオン面には昔から書いてきたうるさ型のライターも多いだろうから、調整に苦労しないのかと聞くと、「ない」そうである。日本のように(日本の新聞社がそうだ、という意味でなく、一般的に)、年長だからといって遠慮することは基本的にはないと彼は言っていた。

 その他聞いたところによると、何でも、テレグラフの社説は非常に影響力があって、特に政治関係の社説の場合、翌日の影響の大きさを考えて、ある特定のトピックの掲載を故意に遅らせる、ということもあったそうである。(漠然とした書き方だが。)今はそういうことは「(少なく)なくなった」。

 とにかく、テレグラフはどんどん変わっており、どんどん人も切っており、デジタル・コンテンツの提供者としての道をまっしぐらのようだった。「昔の」テレグラフを知らない私にとっては、今のテレグラフも結構おもしろいなあと思って読んではいるのだが。

 それにしても、日曜紙をいろいろ手にしてみると、全面カラー化と文字など変えたサンデー・タイムズがきれいだな・・・と思う。テレグラフも9月から新しい印刷工場で印刷する(マードックのニューズインターナショナル社の印刷所)が、そうすると全面カラー化が可能になると言う。(やりやすくなる、ということだろうか、今現在不可能というよりも。)文字も含めたデザインまで変わるのかどうか、注目だ。
by polimediauk | 2008-07-27 23:07 | 新聞業界
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 保守党党首キャメロンの自転車が、昨日の夕方、テスコでサラダの野菜を買いに5分ほど離れたところ、何者かに盗まれた。チェーンをかけていたようだが、それでも盗まれたので、自分でも不思議で、15分ほど探していたようだ。

 おもしろいのは、この様子をミラーのサイト(携帯で取った画像である)が、読者からの投稿として、掲載している。タイムズを見ると、パパラッチらしい人が撮った写真がある。何故「おもしろい」と思ったのかというと、パパラッチまでがついている、ということは、本当に保守党が注目されている感じがしたのである。(写真はミラーサイトより。)(でも、ミラーの誰かが盗んだ、と言う可能性もある・・・うわさだけだが。)

http://www.mirror.co.uk/
http://www.timesonline.co.uk/tol/news/uk/crime/article4390444.ece

 他のサイトは間に合わなかったのか、ファイル写真になっていた。

 デイリーメール紙の編集長が書いたと思われるコラムが、保守党支持になっていた点が、先週ぐらいに指摘されていた。ここの編集長はブラウン首相と親しいらしく、その人物が保守党キャメロンを誉めていたのでは「相当だ」と見る向きもあったようだ。

 今日のテレグラフ紙では、トップ面に、保守党と北アイルランドのアルスター統一党(UUP)の協力関係の記事が出ていた。何でも、今から協力をしあい、近い将来、保守党政権が成立した場合は、その協力関係はもっと強化されるらしい。UUPの名前が消えるかどうかは分からないが、保守党に吸収されてしまうという見方もある。保守党はイングランド北部、スコットランド、北アイルランドなど北に議席が少ないことで知られる。地方分権に否定的だった保守党のイメージ回復にもつながるのかどうか、注目される。

http://www.telegraph.co.uk/opinion/main.jhtml?xml=/opinion/2008/07/24/do2405.xml
http://blogs.telegraph.co.uk/mick_fealty/blog/2008/07/24/more_deft_work_from_david_cameron

 
 BBCラジオ4の24日放送「ワールド・アット・ワン」によれば、北アイルランドでは、キャメロンはプロテスタント系政党、カトリック系政党どちらの支持者の間でも人気が高いそうである。互いの陣営との闘いに時間を費やしてきた北アイルランド政治界にあきあきした住民に、UUPは新しい選択肢を出せることにもなる。キャメロンとくっついて、支持を広げることができるかもしれないのだ。これがどこまで実現するかは別としても、新しい風が吹いてきた感じがする。

 http://www.bbc.co.uk/radio4/news/wato/
(このアドレスから聞ける24日放送分は、25日の英国時間午後1時半過ぎーー日本時間の午後9時半頃ーー以降には新しいものに変わるはずです。)
by polimediauk | 2008-07-25 02:39 | 政治とメディア
 例の毎日新聞の英語サイトに関わる謝罪文を読んでいたら、海外からのアクセスが60-70%と聞いて、驚いた。英語だから、という面があるのかどうか。それとも、一般的にどの新聞社のサイトもこんな感じなのだろうか。

 英国の新聞サイトも、半分から70%ぐらいが海外からのアクセスによる。一部を除き無料でアクセスできるので、新聞購入とは無縁の海外在住者からのアクセスをいかに貨幣化するかが、1つの課題になっているようだ。

 これは英新聞業界にとって新しい分野となろう。ノウハウを収集中ということだろうか、今月、テレグラフが海外からのアクセスの貨幣化に力を貸してくれそうな広告会社「アドジェント0007」との提携を発表し、ガーディアン・メディア社が、米ニュースブログ「ペイド・コンテント・オルグ」を買収した。ガーディアンは固定ユーザーの半分以上が米国在住者だ。

http://blogs.guardian.co.uk/greenslade/2008/07/telegraph_takes_global_ad_path.html

http://www.guardian.co.uk/pressoffice/pressrelease/story/0,,2290875,00.html

 日本の場合も何か学べることはないのだろうか?

 追加: 最新の数字(6月)によると、ガーディアンサイトへの固定ユーザー数が200万人を超えた。http://www.guardian.co.uk/media/2008/jul/24/abcs.digitalmedia

 この一月前の数字になるが、国内・国外のアクセスの内訳を入れておきたい。

 国内ユーザーの比率がガーディアンが41.8%、テレグラフが32.8%、タイムズが35.7%、サンオンラインが34.3%、ミラーが53.8%、メールオンラインが27・2%。海外からのアクセスが非常に多いことが分かる。やっぱりネットは国境を超えるのだろう。

 http://www.guardian.co.uk/media/2008/jun/19/abcs.digitalmedia

by polimediauk | 2008-07-23 06:40 | 新聞業界
 21日朝、欧州メディアのニュースを送ってくるメールの中に入ってきたのが、毎日の謝罪の記事で、ジャパンタイムズ、とあった。しかし、開いてみると、共同の英語版だった・・・。

http://search.japantimes.co.jp/cgi-bin/nn20080721a6.html

 中に新しいものはないが、最後に「性的な話題を載せればヒット数があがったので・・・」という箇所がある。コラムを書いていた人や編集長は彼らなりに一生懸命やっていたのか?やはり監督責任が重いような感じがする・・・。フランスのソシエテジェネラルのトレーダーの話をふと思いだした。どこにでも、また誰でも間違い(あるいは悪意ある行為)をする可能性があるとしても、間違いがどっかで直される仕組みになっていないとまずいだろう。(えらそうに言うけれども。)

 英国の新聞で扱っているところがないか、さっとだが見たのだが、今のところ見つからなかった。
by polimediauk | 2008-07-22 07:46 | 新聞業界

毎日新聞の謝罪

毎日新聞が「Wai Wai」で不適切な記事が掲載されていた件で、謝罪し、検証結果を20日付で紙面とウェブに掲載した。

http://www.mainichi.co.jp/home.html#02

 思わず読みふけってしまったが、「悪いところは摘出しました」という感じで、やはり、読者に向けてのメッセージとしてはこういう風になってしまうのだろう。

 いろいろな方がいろいろな感想を持つのだろうし、パーフェクトな謝罪・検証はないかもしれない。それでも、毎日自身がそう思っているというよりも、「読者があるいは世間がそう受け止めているから」ということで、書かざるを得ない表現もあったと思う。

・・・と前置きをしてからだが、謝罪や検証記事を読んで、疑問を持つ、あるいは違和感を感じた点は結構多かった。

 まず、「海外に出た」こと自体が1つの問題であったかような文脈だ(そうせぜるを得なかった事情は理解できるけれども)。たとえどんな内容(日本人として恥ずかしいと思うかもしれないことでも)であれ、日本で出版されている内容が、外に出て悪いことはないだろう。情報を日本内だけで隠し通しておける、と思う方がおかしい。私が今回の事件でまずいと思ったのは、毎日新聞の日本語版では出さない(編集規定に反するなど)と判断されるような内容が英語版で出たことだ。何から何までぴったし同じである必要はもちろんないが、「毎日」のブランドでパッケージとして出す場合、基本的に言い訳は絶対にきかない。日本語で読むにしろ、英語で読むにしろ、読者は「毎日の編集基準に沿ったもの」として読むのである。ある情報を毎日のサイトで出しておいて、「これは毎日ではない」とは言えない。

 海外向けの顔と日本向けの顔を変えてはいけないと思う。もちろんもっと説明がいる、海外読者が読みたがるトピックと日本の読者がおもしろがるものは違うかもしれないから、適宜さまざまな編集作業があるとしても、倫理規定とか根幹になる部分を変えてはいけない。また、海外向けに、ことさら日本の良い面ばかりを強調する、あるいはことさら悪い面や困惑する事実は報道しない、ということが(毎日はそうすると言っているわけではないが)、あってはならないと思う。

 それと、「外国人スタッフが」という言葉が何度も出てくる。これが非常に日本的な感じがする。何故、英文毎日の外国人スタッフと日本人スタッフを分けるのか、という問題だ。どちらも英文毎日の「スタッフ」ではないのだろうか。仕事内容や雇用体系が若干違っていても、同じ仲間ではないのか。直接は書かれていないのだけれども、「外国人=日本の知識が少ない」、「日本人=事情を良く分かっている人」という分け方をしているのだろうか。どうも差別に聞こえてしまう。どちらも「プロ」として仕事をまかされていたのではないのだろうか。それとも、外国人スタッフは1つ下の存在だったのか?国籍はどうであれ、日本に関しての記事を書く・編集するには十分な知識と力量があるからこそ、雇われていたのではなかったのか?「外からやってきた人」が起こした問題、と片付けたがっているような感じがする。

 編集チームの上司(部長職)の役割も十分に機能していなかったようだ。これも非常におかしい。どこかに「歴代部長は英文の紙面内容を十分に理解していなかったのでは」という反省も書かれてあったと思う。部長の立場では紙面内容のすべてをみる必要はないだろうけれど、一般的に、「十分には理解していなかった」状況はよくあることかもしれない・・・残念だが・・・。

 そこで、今度は女性の編集長になるという。これも驚きである。女性の視点が足りなかったから、というのが理由だ。女性の視点は女性でないと持てないのだろうか?男性の視点も女性の視点も分かる人がいない、あるいは編集長になれないのだろうか?この人は日本人なのか(多分?)、それとも「外国人スタッフ」なのか?ウェブの英文マイ地のスタッフは「外国人5人、日本人2人」という表記があった。とすると、いわゆる「外国人」スタッフはある程度の自由裁量を与えられ、おそらくは誇りを持って仕事をしていたのではないか?一人前の「スタッフ」として、仕事をしていたのではないか?しかし、今回の事件で、悪いのは外国人スタッフという結論にしゅうれんしつつあるのかもしれず、一体どんな思いでいるのだろう?事件が起きてから、はしごをはずされた、という感じをしている人もいるのだろうか?問題となった記者には、「編集長」という名刺を提供されていたという。これは結構重い。社外の人で彼に会った人は、もちろんこれを額面どおりに受け取ったであろう。

 諸所の理由から、具体的な表現が何であったかなどに関して、深い説明はなかった。若干の短い説明からは、実際のところ、それほど「不適切」な感じはしなかった。日本で出版されている雑誌でそういう記事が出ているのなら、そして出所が記載されているなら、これ自体は問題がないだろう。個人的に付け加えたところもあったようだが、表現自体が問題なのではなく、「毎日がやった」ところが問題だったのだろう。信憑性、おすみつきを与えてしまったからだ。(以下、内容説明を謝罪・検証記事から貼り付ける。)

掲載した原稿は基本的に、雑誌名を示し、表紙の写真を付した上で、導入部で記事全体を要約し、第2段落以降で元の記事を紹介するというスタイルを取っていた。原稿は1本あたり600語程度で、うち6~8割が転載だった。
 掲載された記事には「料理、獣、悪徳とその愛好者」というタイトルで異常な性的嗜好(しこう)の話を取り上げたもの(07年9月)や、「古くから伝わる米の祭りでは、お肌に効果がある洗顔クリームが評判を呼んでいる」というタイトルで日本の伝統的な祭りを性的な話題に結びつけたもの(05年12月)などが含まれていた。エクアドルやベラルーシなど外国で日本人観光客が違法ツアーに参加しているという記事(03年7月)もあった。いずれも事実の裏付けもないまま翻訳して記事化していた。
 未成年者の性に関する記事などを不適切に取り上げたり、翻訳元に掲載されている数字を算出根拠などを明確にせずに使用して誤解を招いたり、数人の女性のコメントから成り立っている雑誌の記事を「日本人女性の間で増えている」といった表現で一般化するケースも確認した。
 また、防衛政策を美少女キャラクターが登場する漫画で紹介しているという月刊誌記事を07年7月に取り上げた際、導入部の防衛省の説明に「真珠湾攻撃と南京大虐殺で世界に名を知らしめた政府省庁の後継」と加筆したケースがあった。担当記者は「美少女とのギャップを浮かび上がらせるために書いた」と語った。

by polimediauk | 2008-07-20 16:07 | 日本関連
 テレグラフのウェブサイトが来週から刷新される。ユーザーが長くサイト上にいてくれるよう、工夫をしてあるそうだ。

http://www.guardian.co.uk/media/2008/jul/17/telegraphmediagroup.dailytelegraph

http://blogs.guardian.co.uk/digitalcontent/2008/07/preview_of_the_new_telegraphco.html

 その一部は既に現在のサイト上に入っているのだが、ガーディアンの取材によると、何か新規プロジェクトを立ち上げるとき、一気に「開始日」として始めるというよりも、「少しずつ試しながらやっていく」=ウエブ式を取っているのだという。そして、「イノベーションラボ」という部屋を作って、ここでデジタルコンテンツの開発をグーグルやアップルなどの共同作業で進めている。グーグルとの提携もさらに進むようだ。このプロジェクトの指揮をとっているのがポール・チーズブローという人で、元BBCの人だ。(ビデオが上のアドレスから見れる。)

 先日、テレグラフの中をまた見せにもらいにいったのだが、これは「紙」版をどうやって作るかの話で、その話はまた後で紹介したいが、テレグラフはますますデジタルに力を入れているようだ。紙での発行は続けるとしても、もう「新聞」というカテゴリーにおさまりきれないメディアになりつつあるようだ。放送局も、新聞社も、デジタルコンテンツの生産者といったほうが正確になりつつある感じがある。
by polimediauk | 2008-07-19 06:42 | 新聞業界
 欧州と英国の児童ポルノサイトの規制に関して、新聞協会報6月24日付けに原稿を書いたのだが、日本の例との比較を入れたいと思いながら時ばかりが過ぎてゆくー。一旦、ここで出すことにしたい。(掲載分に加筆。)

EU加盟国で規制進む
 ー英・児童ポルノサイトで、
  表現の自由侵害と懸念も


 児童ポルノなどのサイト規制をめぐり、欧州連合(EU)は今年末までの3か年で4500万ユーロ(約75億円)かけ、「インターネットをより安全にする計画」を実施している。加盟国のうちフランス政府は6月10日、プロバイダー各社と協力し、児童ポルノ、テロや人種憎悪をかきたてるサイトの封鎖策を今秋から実行すると発表した。英国、デンマーク、ノルウェー、米国などに続く措置。英国では、児童ポルノ「画像」の解釈を広げる新法制定も進む。しかし規制強化には、表現の自由の観点から疑問の声も上がっている。

 EUの「ネット安全計画」は児童虐待、人種差別や外国人への嫌悪感を増幅させる「非合法あるいは有害な」コンテンツを減らし、ネットをより安全な環境で使えるようにすることを目指すという。①非合法・有害コンテンツに関するホットラインの設置②フィルタリングソフトの研究③ネット業者の自主規制能力の向上に努める――の3点を主な柱とする。

 規制は自由な表現行為を侵害する可能性がある。しかし児童の保護を重視する姿勢は欧州諸国に共通する。

 フランスのアリヨマリ内相は報道陣に「監視社会にするつもりはないが、児童を虐待から守りたい」と述べた。9月以降、利用者からの情報をまとめ「ブラックリスト」を作成する。この情報をプロバイダーに伝え、アクセスが封鎖を求めるとともに、内容により司法当局や国際刑事警察機構などに連絡する。

 英国ではブリティッシュ・テレコム(BT)が、児童ポルノの画像が掲載されたサイトを識別する「クリーンフィード」と呼ばれるサービスを利用し、非合法のサイトへのアクセスを遮断する。児童ポルノ画像、刑法違反となるわいせつな内容でないかや、人種憎悪を扇動するものではないかを監視する非営利の自主規制組織「インターネット監視財団」(IWF)(EUとオンライン業界が運営資金を持ち、会員はプロバイダー、携帯業界、メーカー、ソフトウエア企業など)がブラックスリストを作り、BTなどプロバイダー側に削除やユーザー側への警告・注意喚起などを行うよう推奨するほか、取り締まりを当局に求めることもある。児童ポルノサイトへのアクセスを制限するBTのソフトが、1日に接続を遮断する回数は、IWFによると「3万5000回」に上る。

 英政府は4月、青少年が安心してSNSサイトを利用できるようガイドラインを発表し、プロバイダーに「SNSで許される行為と許されない行為の明記」、「利用者の身元情報の定期的確認」などを求めた。政府が管理する性犯罪者の電子メールアドレスをSNSサイトの運営者に渡し、犯罪者のサイト加入を防ぐという施策も発表した。ネット上の治安問題を扱う「ネットインテリジェンス」社のフィル・ウオームス代表は複数のアドレス取得が容易なため、「性犯罪者の電子メールアドレスを渡すという方法は効果がない」としながらも、「児童をネットの危険から保護する施策がやっと出始めた」と歓迎した。

 英国では児童保護法で児童のわいせつな写真(動画を含む)や「写真に近い表現」(コンピューターグラフィックスなどの視覚表現を含む)の配布と、宣伝目的での撮影、撮影を許可、作製(ダウンロードも含む)、所持、上映などは違法と定められている。

 しかし、現行法では「写真以外の視覚的表現の所持」のみを対象として違法とする法律はない。捜査当局や児童保護団体からの懸念を受け、新法によりこうした画像の所持も違法とする考えだ。同様の法令はアイルランド、ノルウェーのほか、カナダ、米国オーストラリアで施行されている。

 ガーディアンのコラムニスト、マーク・ローソン氏は、新法制定の動きの背景には、02年の米国最高裁の判例があると指摘する(ガーディア電子版5月31日付け)。この時、CGで作った児童ポルノの画像が容疑者の「表現の自由」から禁止措置に至らなかった。英政府は、「法の抜け道」の存在に、この時気づいたのではないかー。

 CGや漫画で描くポルノ画像の単純保持を禁止する新法作りは、「自由な芸術表現に対する危険をはらむ」とローソン氏は述べる。法務省の意見聴取では「思想警察のような動き」とする反対意見が出された。

 しかし、厳格化への流れはおいそれとは変わりそうにない。昨年8月、児童ポルノのサイトから画像をダウンロードしたことで著名男優が有罪となり、性犯罪者リストに名前が登録された。「児童虐待を犯したわけではない。厳しすぎる」(オブザーバー紙、07年8月5日付け)とする声への賛同者が出たが、「違法行為だったことは確か」とする多数派にかき消された。

 ローソン氏は、今年が(監視社会の同義語となった小説)「1984年」になるかもしれないと危惧する。
by polimediauk | 2008-07-10 06:52 | ネット業界