小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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 インドのテロでパキスタンとインドの関係がまたこじれそうだ。インド出身の技術者とオフィスを共同で使っているのだが、いつも忙しそうにしているこの男性が、金曜日はテロのニュースをPCで見ていた。彼が仕事以外のことをするのを見たのは初めてだった。

 「ダイジェスト」用に出した英国の様々なトピックで、11月6日用に書いたのが、イングランド地方で予定されている、小学校での性教育の義務化だった。調べるうちに、「性のことを子供に教えるのは恥ずかしい、どことなくちゅうちょする」態度が日英では似ているのかなと思ったりした。


5歳児から性教育開始?
  親や教師の一部から反対も
  

 政府は、2010年から、イングランド地方の小中学校で性教育を義務教育の一環として教える案を発表した。同時に飲酒や麻薬の危険性も学ばせる。欧州一とされる十代の妊娠率を下げ、飲酒行為や麻薬中毒を防ぐのが目的だ。実現すれば5歳児から導入される性教育は、むしろ妊娠率を上げてしまう、家族の価値観を教える親の役割をないがしろにするなどと反対の声も出た。

―大人と子供のそれぞれが見た性教育の現状

 10月26日付の「オブザーバー」紙の調査によれば、「性に関する情報を過度に与えている」(13%)、「情報が少なすぎる」(40%)、「丁度良い情報を与えている」(47%)。調査には16歳以上の1044人が参加した。

 一方、子供たちの見方は、「性教育の授業は最悪あるいはひどかった」(40%)、「まあまあだった」(33%)、「その他」(27%)。UK Youth Parliament survey 2006-2007より。27%の詳細が明らかになっていないので、「良い」と思った人もいるとは思うのだが、とりあえず。

 十代の妊娠率(イングランド地方)はTeenage Conception Statistics for England 1998-2006, Department of Healthを、中絶件数の年齢別比較(イングランドウ・ウェールズ地方)はSource: Abortion Statistics, England and Wales 2006 &2007, Department of Healthを参考にした。

 政府がイングランド地方の公立小中学校で導入を予定しているのは、「個人の社会及び健康教育」(personal social and health education, PSHE)だ。現在行われている「性と関係教育」(sex and relationship education, SRE)に代わるものだが、2010年以降は義務化する意向だ。

 政府案が実現すれば、5歳から16歳までの児童が、人体や生殖に関する基礎、男女関係、衛生・保健問題、避妊や性病防止に関して段階的に学ぶことになる。児童・学校・家庭省のナイト閣外相は「5歳から性行為を学ばせるわけではない」と述べる。

 義務教育化の背景には若者の性行動の社会問題化がある。英国の十代の妊娠率は欧州の中でもトップと言われ、1998年時点で18歳未満の女性1000人当たりで妊娠した女性の割合は46人を超えた。その後はなだらかに減少したが、2006年では約40人で、2010年までに1998年の数字の半分に減少させると言う政府目標の達成は難しくなった。

 保健省が6月発表した2007年の人工中絶の件数を年齢別に見ると、平均では前年比3%増であるのに対し、18未満では9%増、16歳未満では10%増、15歳未満では12%増。低年齢化するほどに中絶を選択する割合が高く、性感染症に苦しむ女性も低年齢化している。

 教育基準局オフステッドが性教育の実態を調査したところ、個々の学校によって教える内容ややり方にむらがある上に、全体では生徒の学びが不完全であることが分った。現在、イングランド地方では性教育は義務教育化されておらず、生徒は主に科学の授業の中で生殖の意味や生命の成り立ちを学ぶ。英国全体で見ると、ウェールズ地方、北アイルランドでは既に義務教育課程に組み込まれているが、スコットランドでは義務教育化されていない。

―微妙な線引き

 イングランド地方での性教育の義務教育化に対し、反対の声も上がっている。保守系キリスト教団体「クリスチャン・ボイス」は性教育は「性行為への関心を高め、妊娠や性病感染が増える」と指摘。家族計画協会は、男女関係の築き方や性に関する知識をどの段階でどのように子供に教えるかを決定する「親の権利を侵害する」と述べる。教育関係者の一部も「現在の教育課程を教えるので精一杯」、「教師のトレーニングが間に合わない」と反対だ。

―子供たちは「もっと話したい」

 約2万人の子供たちが参加した調査によると(慈善団体「UK Youth Parliament」調べ、2006-7年)、多くの児童が学校の性教育に低い評価を下している。「ビデオを見てプリントを渡されただけ。授業の後でみんなプリントを捨てていたわ」(13歳のテイラーちゃん)。

 オフステッドは2007年の報告書の中で、「多くの若者たちが、親や教師が性行為や男女関係など、最も微妙なトピックに関して話したがらないと指摘している」と書いた。子供たちは「どうやって子供ができるかという生物学的なことだけでなく、性にまつわる感情や人間関係についてもっと話したいと思っているのに」。

 十代の妊娠や性病感染に関して嘆いているだけではだめで、性に関する知識や異性関係の築き方を子供にきちんと伝え、教えることが重要だー。この点で政府、親、教師は一致しているものの、どこまでどのように教えるのかで議論が続いている(「英国ニュースダイジェスト」11月6日号掲載分に追加)。

 補足だが、日本の状況に関して日本性教育協会に聞いたところ、性教育が正規の教育には入っていないので、性に関わる事柄を保健やその他の教科、学活、特活の時間のなかで取り扱っているとのこと。(そうすると、ずい分昔からあまり変わっていないのだろうか?)「数年前より一部の政治家によって『性教育バッシング』が始まり、性教育に対する教師の意欲は低下して」きている。あえて「(教育委員会や学校長ににらまれながら)教える気持ちにならない」のではないか、という答えをもらった。

 ほとんどの都道府県では「性教育指導の手引き」を作成しているが、文部科学省の「性教育に関する指導方針(手引きの配布・通知等)、教師用指導資料、児童生徒用教材・学習用資料の作成」という文書を見ると、どうもあまり積極的ではない印象を与える。
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/17/12/06022203/001/001.htm

 個人的には、なるべく早い段階で性教育はあったほうがいいと思う。自分の子供時代を振り返ってもきちんとした知識が欲しかったし、知識があれば何らかの危険がもしあるとしてもそれを防ぐことができる。自分で自分の人生の行き先を決めたいものだと思っていた。 
by polimediauk | 2008-11-30 23:11 | 英国事情
 英議会の真向かいのパーラメント広場で反戦の座り込みを数年間続けているブライアン・ホー氏を、「英国ニュースダイジェスト」の編集長がインタビューした。(ダイジェストは私が書かせてもらっている媒体で、ここでも何度も紹介しているが、本当におもしろいインタビューものが多いと思う。)写真も良くて、かつ、本人からのメッセージつきだ。

 ホー氏は一体どんなメッセージを日本人に向けて出したのだろう?

 「テロをやめろ、殺し合いをやめよう・・・」-。日本人なら特にぐっとくる、せつせつとしたメッセージだ。





 サイトから、じっくり読んでいただきたい。(一定期間の後、サイトから消える可能性もあります。)

 http://www.news-digest.co.uk/news/content/view/4355/120/

 ちなみに、私自身も2年前に取材して、ホー氏に関して書いた。これはブログ上に出したと思うけれども、すぐ見つからなかったので、アドレスをあげておきたい。

http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=200606180912040

 〔追記:この項目が読みに来て下さった方たちの一部で議論を呼びました。自分としては、「王様は裸だ!」という位ストレートなメッセージ+解釈を喚起するビデオだと思いますが、意外にもそうではないように見る方もいらっしゃると知りました。もしかしたら、「反戦」と叫ぶことの意味合い、文脈、やり方の解釈が日英ではずい分違うのかもしれません。チェンネル4というテレビ局が、昨年、Most Inspiring Political Figureーーもっとも奮起させる政治的人物ーーという賞をあげたんですね。これは視聴者が選んだんです。豊富な情報を持ち+シニカルな、チェンネル4の英視聴者に選ばれたというのはなかなかです。ホーさんとは個人的に親しいわけでないのですが、英議会前の広場で寝泊りしての抗議は政治家へのプレッシャーとして存在意義があります。政治家がどこの国に兵隊を飛ばして戦争をするかを決めるんですからね・・・。戦争をしている国に住んでいるな、と毎日実感しております。)
by polimediauk | 2008-11-28 20:00 | 英国事情
 インドでテロが起き、英新聞各紙はトップにこの事件を載せている。朝のBBCラジオのニュース番組「TODAY」でテロ分析の記者フランク・ガードナー氏が眠そうな声で出ていた理由が分かった。

 テレグラフ(紙)を読み出したら、「ボンベイ」とある。「ムンバイ」なのに・・・と思う。ミャンマーでなくビルマと呼ぶのは政治的意味合いも込めているのかもしれないが、その国自身が「ムンバイ」としているのだから、そろそろボンベイと呼ぶのは止めたほうがいいのではないか?ずい分自分たちの呼び方にこだわるな、とちらっと思った。ボンベイというのは確かに分かりやすいけれども。(BBCはムンバイ、である。)テレグラフもウェブではムンバイとなっていた。(ちなみに、タイムズはボンベイ、インディペンデントとガーディアンはムンバイである。いずれも紙の1面見出し。)

 記事を読みながら思ったのは、報道時で「80人死亡」という部分で、その衝撃度だ。2005年のロンドンテロでは52人の犠牲者が出た。これは非常に大きな衝撃だった、英国民にとっては。どこの国でも一人の死でも痛いが、それでも、人口10億のインドにとって、「80人」(書いている時点で100人以上)というのは、国全体ではどんな意味合いを持って受け止められているのだろう?

 ・・・と思っていたら、在ニューデリーのラウル・ベディという人が「次のテロリスト攻撃を座って待つ」という記事があった。(すぐにサイトでは見つからなかったが、Sitting and waiting for the next terrorist―by Rahul Bedi)

 彼によると、過去3年で、インドでテロで亡くなった人は300人。解決された事件は一つもなく、誰も有罪になっていない。すべてのケースが「イスラム系テログループ」がやった、ということになっている。政府は「外国人のテロの細胞」がインド中にある、という。インドでは、ムスリム系国民は経済的にも社会的にも低い位置にいるという。イスラム過激派たちがこうした国民の中にシンパを見つけてゆくー。

 べディ氏は、最近のインドでのテロ攻撃は、警察や警備を担当する人々が何にも達成できていないことを示すものだと見ている。名前さえも登録がなされていない何百万人もの人が生存し、死んでゆく国で。テロが起きるたびに監視カメラが設置され、鉄道の駅や他の公的な場所が捜索されるけれども、結局は交通渋滞と(電車が遅れて)不満な通勤客を生み出しただけだったと。「インスティチュート・オブ・コンフリクトマネジメント」のアジャイ・サーニという人のコメントが最後で、今のところは「次のテロリストの攻撃を座って待つしかない」状態だという。

 一方、タイムズではジェレミー・ペイジ記者が、タージマハール宮殿ホテルから炎が出た光景は、「まるで(インドの)9・11テロ」のような衝撃を与えた、と書いている。1903年に建設されたホテルは、インドの「最も著名な目印」で、インドのテレビのキャスターが言ったところによれば、「米国人がワールドトレードセンターの光景が忘れられないように、ムンバイとその自由な精神を代表する美しい建物から炎が出た光景を人々は決して忘れ去ることはないだろう」。
by polimediauk | 2008-11-27 19:33 | 新聞業界

英景気刺激策で戦々恐々

 24日、財務相が景気刺激策を発表した。実態は確かに「景気刺激策」なのだけれども、「Pre-budget report」(直訳は予算の前のレポートか)と呼ばれている。毎年秋に発表される。翌年の春発表される予算の編成方針や経済の現況の分析を説明するものだ。BBCによれば、1997年、労働党政権が発足してから、当時のブラウン財務大臣が毎年これを報告することを決めたそうだ。経済の安定化や市場に安心感を与えることを目的としていたようだ。今回は秋の金融危機から初めての報告となり、「危機をどうするか」ということが目玉となった。

http://news.bbc.co.uk/1/hi/business/7733570.stm

 下院で景気対策を発表した様子はビデオで見るとおもしろいが、時間がない人には難しい。

http://news.bbc.co.uk/1/hi/uk_politics/7745340.stm

 このニュースは今朝の新聞各紙が詳しく伝え、昨日はBBCニュースで一日中やっていた。英国に来て間もない頃、どうしてこんなに注目されるのかと思ったけれど、結構、生活に直結する面があるからだということが分った。自分の収入やその他の経済的要因に応じて、様々な影響を受ける。企業経営者、高額所得者、低額所得者、年金生活者、母子・父子家庭、児童への財政支援などなど、何かしら自分にも関連してくるのである。

 今回の注目はいかにこの危機を乗り切れるか?だったが、景気刺激策は総額200億ポンド(約2兆円―3兆円)で、付加価値税(日本の消費税に相当)が現行の17・5%から15%になる。これは来年末までの時限措置。中小企業や中低所得層への様々な減税策(ただし長くは続かない)、住宅ローンが払えなくなって家を追い出される人に対する支援(追い出し前に3ヶ月の猶予期間を与えるなど)、年金生活者への支援(来年1月、特別一時金の支払い)など、「持たざるもの」への支援が耳に残った。「1997年の労働党政権発足以来、初めての労働党らしい刺激策・予算だ」という声も聞いた。高額所得者の所得税引き上げ、という決断もその理由だろう。

 全体的に見て、「今困っている人を助ける」、「減税」を表に出していた。そして、将来どうつじつまを合わせるのかは、基本的には先送りにした。高所得層の所得税率引き上げも2011年からだ。都合の悪いことは2010年以降、つまりは総選挙の後に回した感じだ。そういう意味では、政治的な動きでもあった。
 
 そこで、野党保守党は「国民のことを考えていない政治的刺激策」と批判した。(オズボーン影の財務相は「こんなことをしていたら、1990年代の日本のようになってしまう。日本は10年間不景気になったのだ」と言ったが、ダーリング財務相は「違う。日本の財務大臣に教えてもらったから」と返していた。)

 第2野党の自由民主党のビンス・ケーブル議員は「刺激策は評価するが、構造を変えないとダメだ。銀行が貸し出しをしないので経済が回らない。これを何とかしないとどうにもならない」と述べた。

 24日朝のBBCラジオ「TODAY」に出たエコノミストは、予想されていた刺激策が「経済を上向きにするかどうかは分らない。誰にも分らないが、やってみてもいいと思う」と述べる。

 ダーリング財務相は09年後半から景気が回復する、とした。これは非現実的とする声がテレビなどを見ている限りは多かったが、「コンフィデンスを与える」という意味では良かったのではないか。悪いニュースばかりなのだから。
by polimediauk | 2008-11-25 20:01 | 英国事情
 先月、BBCのラジオ番組の中で、タレントのラッセル・ブランドとジョナサン・ロスが、往年のコメディアン、アンドリュー・サックス(TVシリーズ「フォルティー・タワーズ」)の留守番電話に、「(ブランドは)あなたの孫娘と寝てしまいました」とメッセージを残した件で、21日(金曜日)、BBCトラストがことの経緯を調査した報告書を出した。トラストのトップらが会見を開き、「起きてはならないことが起きた」と言って、タレント本人たちと同様に、番組の編集過程やこの放送を許した編集幹部に責任がある、と非難した。

http://news.bbc.co.uk/1/hi/entertainment/7741322.stm

http://news.bbc.co.uk/nol/shared/bsp/hi/pdfs/21_11_08_brand_ross_moyles.pdf

 何だかすごいおおごとになっているなあ・・と思った。この日、私はオフコムの会議でロンドンのブルームバーグのオフィス(開催場所)にいた。丁度BBCのディレクタージェネラルのマーク・トンプソン氏が講演に来ていた。心なしか、非常に疲れた顔をしていた。経営陣が実現を望んでいた、地方版のウェブサイト拡充案も、トラストは「公的価値がない」として、ひとまず却下した。最終決定は来年になるが、見込みは暗い。

 トラストの調査によれば、25歳の番組プロデューサーがサックス氏に連絡を取り、「放送していいかどうか」聞いたそうだ。サックス氏は「トーンダウンして欲しい」と言ったが、なぜかプロデューサーは「OK」と受け取っている。不思議である。その後、この男性はBBCのコンプライアンス部門の幹部に放送していいかどうかを聞いている。「サックス氏は了承済みだ」として。そこで幹部は承諾し、番組内容を管理するコントローラー職の女性に連絡。女性は「放送していい」とメールで返した・・・。コントローラーの女性は番組内容を事前に聞いていなかった。

 こういう間違いは(もし間違いだったとして)、しょっちゅうあるのではないか。25歳のプロデューサーはタレントのブランド氏に雇われていた。プッシュしたいという気持ちがあったのだろう。幹部になればなるほど、実際の番組内容をチェックする時間もなくなるだろう。誰かに代わりにやってもらうしかないのだ。

 普通だったら、減俸とか始末書とかで済むはずだったが。既にブランドは番組を自分で降りているし、幹部2人も自己都合で辞職。ロスも3ヶ月間の謹慎状態で、BBCの番組には来年まで一切出られなくなった。ある意味では厳しすぎる感もある。

 ここまで厳しくなったのは、視聴者からたくさん不平不満が寄せられたことが直接のきっかけだろう。しかし、不平不満の大きさだけでは説明がつかない。「ジェリー・スプリンガー・ショー」という、元は米国のテレビ番組で後にミュージカルになったものが、テレビ放映される直前、「神を冒涜している」という理由でたくさんの不平不満や放映中止を求める声があがったのだ。BBC側は「いや、それでも放映の意義がある」とがんとして聞かなかった。「表現の自由」という旗印の下に。

 多チャンネル化、デジタル化で、BBCの将来は必ずしも明るいものでなく、テレビライセンス料も今まで通り、すべてを独占できるかどうか分らない。そこで、BBCは視聴者からの支援が必要なのである。「ここで動かなければだめだ」というのがあったのだろう。

 もう一つ大きな原因というか、事態を大きくさせたのは保守系デーリーメールなどの新聞側のキャンペーンという要素もあろう。

 高額の報酬をもらっているロスを来年から続行して使い続けるのかどうかに関しては、BBC幹部は「そうする」と言っている。高額の報酬をもらうキャスターたちに対する(一部の?)視聴者たち及び新聞業界のバッシングは強い。これまでは単に、いわゆるバッシング的な感じだったけれど、今景気が非常に悪くなっているから、ロスの継続雇用はずい分ときびしくなったのではないか。

 ジョークも、ロスもブランドも、BBCだって何も変わっておらず、いつもどおりやっていたのかもしれないけれど、周囲の状況が、雰囲気がすっかり変わってしまった。

 24日(月曜日)、低所得者は付加価値税を支払わなくてよいなどの短期的減税策を、財務大臣が発表するという噂が出ている。「ジョナサン・ロスを維持、高額報酬を維持」というBBCの姿勢は本当に時代にそぐわないものになってきている。あっという間に時代の雰囲気は変わってしまう(ように感じる)ものだ。前回紹介したMr City の経済コラムの最後ではないが、「諸行無常」である。
 
by polimediauk | 2008-11-24 02:52 | 放送業界

 ポンドは下がり続け、企業の大規模な人員削減の話がよく報道される。モノが売れないそうで、通常はクリスマス後になるセールが今商店街でどんどん始まっている。景気は悪くなるばかり、という感じである。

 これからどうなるのか?こんな時こそ、じっくり今後のことを考えるよい機会だというのが、「英国ニュースダイジェスト」の経済コラム「Mr City Focus 世界経済」である。

http://www.news-digest.co.uk/news/content/blogcategory/7/98/

 金融関係者の人が覆面で書いているコラムだが、長期の視点があって、非常におもしろい。何故これほど激震が起きているのかというと、

 (引用開始)第一に英国経済がウィンブルドン方式において「メガ金融機関や外資サービス業にビジネスの場を提供することでその手数料を得る」という構造を土台としているため、金融動向に振られやすいこと、そして第二にその金融が実際に大きく振れたことの2点の組み合わせから生じている。金融市場の変化は、実体経済よりも非常に早いスピードで動くことが特徴なので、この変化はインフレ懸念で抑制されつつあった国民の消費や、ピークアウト感が出ていた住宅投資をソフト・ランディングではなく、ハード・クラッシュに導きつつあるということを意味する。(引用終わり)

 こんな時にはどうしたらいいのか(心の持ち方)も書いてある。「悲観することはない」と筆者が考えるのは何故なのか?是非読んでみていただきたい。

 20-21日のオフコム会議の最後を飾ったのはニューヨーク州立大学でコミュニケーションを教えるダグラス・ラシュコフ氏だった。以下本人サイトとウキペディア。どんな人なのか?は紹介しにくいが、「サイバーパンク」運動の一人とも書かれている。

http://rushkoff.com/2004/01/15/class-begins-all-are-welcome/
http://en.wikipedia.org/wiki/Douglas_Rushkoff

 今、「ライフ・インコポレーテッド」という本を書いているそうである。結構小さくきゃしゃな感じの人だった。しかし、レクチャーをすると迫力がすごい。ちょっと思想的にはヒッピーっぽいかなとも思った。「人間らしさを取り戻そう」という話だった。現在の金融危機は1930年代の大恐慌と比較するべきではなく、ルネッサンスのことを考えるべきだ、と。資本主義によって奪われた人間性を取り戻すべきー。現代社会の話になって、長い間、資本主義社会では、会社がある価値を作り、これを人々に提供して対価を得ることで成り立ってきた。しかし、1980年以降、人々は次第に自分たちで価値を作るようになった。つまらない価値でなく、本物の価値を。また、テレビなどのメディアは人々を「非社交的」にしてしまう。つまり、テレビ番組なり、広告なりは、それを人々に見てもらうことを目的としている。もしテレビなり広告なりを見ていなければ、友達と話したり、遊んだりすることもできるはずだ。「オンライン広告はひどいものだ。グーグルの広告もそうだ。なぜかと言うと、人々はネットで何かを見ている時、既にもうたくさんお金を使っている。それは接続費かもしれないし、コンピュータなどの設備費かもしれない。そして、何かをやっている。それなのに、広告が邪魔をする。興味を移動させてしまうのだ。こういうことはアリなのだろうか?広告なんか、見たくないんだよ、ネットで何かをやっている人はー」。

 「企業側からすれば、人々が(ネットを通じて)(お金などの対価が得られるような、あるいは人や社会の役に立つような)価値を生み出すのは脅威になる。価値を生み出すのは企業であるべき、と考えるからだ」。

  「このオフコムの会議は、実はリーマンブラザーズとの共催のはずだったんだ。でもみなさんご存知のように、リーマンはなくなってしまった。現在は、ドットコムバブルが本当に終わったことを意味するのだろう。実体経済はスペキュレーションの経済についていけなくなったんだ。モノを1つ作る間に、スペキュレーションはその何百倍にもなっていたんだから」
  
 「今コンピューターの教育というと、いかにコンピューターを一消費者として使うかの話になる。何故プログラミングを学ぼう、どうやってコンピューターが動くのかを学ぼうとならないのだろう?」、「デジタル社会と言うとデジタル経済と同義語に使われるが、違うのではないか?」

 結局のところ、自分で考えると言うか、「箱の外から考える」というか、様々なヒントがあった。ラシュコフ氏の思想がどうこうというよりも、このところ考えていたことと合うような部分があった。超ベストセラー作家勝間和代さんの「自分メディア」にもやや似ている。勝間さんは新聞やテレビなど既存メディアは基本的には重要視しないと書いていたと思う。それよりも自分の五感を大事に、と。

 ラシュコフ氏の話にぴんと思ったのは、私たちが乗せられすぎているのではと感じていたせいもある。情報を追っているようで、実は「ものを買わせられている」だけになってはいないか、と。(オンライン広告の話など、聞いていてすっとした。みなさんも実はそう思いませんか?「仕方ない」とあきらめているかもしれないけれど、実は広告を見たくない人っていませんか?)

 ネットを一切使わないとか、テレビや新聞に一切に触れないということではないのだが、今貴重なのは、ネット、テレビ、新聞などから離れ、街を歩き、季節の変わり目を感じ、人に会い、生の議論をすることではないかと思ったりする。情報の伝わり具合が遅いことが新鮮だったりする。
 
by polimediauk | 2008-11-22 17:16 | ネット業界
今日から、通信団体オフコムが主催する次世代の通信に関する会議(20日、21日)に出ている。

http://www.ofcom.org.uk/event/

 話題の中心になったのは、ネット時代のプライバシー保護の件だった。若干のメモを次回から書きたいが、今日驚いたのは、午後4時からの最後のセッションでみんな会場に集まりだした頃、「緊急連絡です。そのまま動かないでください」と何度もアナウンスがあった。「冗談か?」と思ったら「すぐ外に出てください」というアナウンスに変わった。それでも半信半疑で一斉に外に出て、1時間ほど外にいた。会場はロンドン・ブルームバーグの建物である。テロかな?とも思ったが、何だったのか今のところ分からない。みんなそれほど驚くこともなく、「寒い」(8度)といいながら、談笑していた。なんだかロンドンらしいな・・・と思った。
by polimediauk | 2008-11-21 07:01 | ネット業界
 コメントを残された方も指摘していたが、日本も含めて、グーグルが検索エンジンとしてはトップではない国が世界にはある。こうした国での検索エンジンのシェアをフィナンシャルタイムズの9月16日付けがグラフにしている(The non-Google world)。元々は米コムストアの調べ。中国、ロシア、韓国、日本、チェコのグラフである。

http://www.ft.com/cms/s/0/4fddc05e-841e-11dd-bf00-000077b07658.html

 グーグル・サーチの未来に関しては、創立10周年ということで、グーグルのオフィシャルブログにThe future of Search (by Marissa Mayor, VP, Search Product & User Experience)というエントリーがある。

http://googleblog.blogspot.com/2008/09/future-of-search.html

 コンピューターでキーワードを打ってサーチするのは煩雑すぎるのではないか、と、ブログの書き手マリッサ・メイヤー氏は問いかける。友人との会話の中に出てきた言葉を拾って、これをあっという間にサーチしてくれるようになればいいな、と彼女は思っている。サーチエンジン自体は探す人のニーズに合うように常時変化しており、いわば「まるで友人のように、あなたのことを知っている」存在になる。あなたの居場所や、誰に会ったか、どんな好みを持つかを、サーチエンジンが知れば知るほど、あなたに最適の検索結果を探し出せる、というわけである。最高の検索エンジンとは、「世界中の事実に瞬時にアクセスでき、あなたが見たり知っていることをまるで写真のようにはっきりと記憶している、あなたの親友」である。やや薄気味悪いと思う人は多いのではないか?

 さらに、コンピューターや携帯電話でなくて、「まだ開発されていないが、あなたの身に着ける装置」が検索をしてくれる様子を思い描いている。これは一種の人工知能ではないだろうか?

 ・・・ということは他の人ももう既に指摘しているのだろうけれども、そういう方向にグーグルが向かっている、向かわざるを得ないことを公式ブログで読んで、改めて「これは一体どうなるのか?」と思った。また、これがグーグルという一社がやると考えると懸念が出るが、一つの公的サービスになっていく・・・としたら、どうなのだろう?それでも今のところは不快感が出るが。何故不快に思うのか、という問いも出てくるだろう。

 グーグルを考える時、この会社自体の将来というよりも、「グーグル的存在」つまりはデジタル社会がどうあるべきかという問いに関して、私たちは考えることになるのだろう。
by polimediauk | 2008-11-18 19:22 | ネット業界
 グーグルEMEA(欧州、中東、アフリカ諸国地域)のユーチューブのコンテントパートナーシップのディレクター、パトリック・ウオーカー(Patrick Walker)氏のインタビュー。

 氏のキャリアは、なんと日本のNHKから始まったという。ロンドンに戻ってきたのは2000年だそうだ。インタビューは在英ドイツ人ジャーナリストのヘニング・ホフ氏が担当した。ホフ氏はフリーランスで、メディア関係の記事をドイツ及び英国の新聞に書いている。

 個人的に参考になったのが、ネットで見る動画(ビデオ)市場がこれからもどんどん大きくなって、市場参加者全員が利益を得られる豪華な「晩餐」になるだろう、という予測だ。ビデオ市場はあまり伸びないのではないかと英テレビ界で聞いたばかりだったので。以下はインタビューの一部抜粋。

「幸せなユーザーと幸せな広告主」

―グーグルの欧州・中東・アフリカ(EMEA)地域の特徴とは?

ウオーカー氏:非常に広い範囲の国を網羅する。英国、フランス、ドイツ、スペイン、イタリアなど洗練され、ブロードバンドの普及率の高い国と、中東やアフリカなど, ブロードバンドよりも携帯電話が比較的主導的役割を果たす地域がある。

 「カスケード効果」が起きている。つまり、ある製品を販売する時、米国で開始し、貨幣化が導入される。その後英国で販売し、その後フランスやドイツ、イタリアなど他の欧州諸国で導入する。2,3ヵ月後などに他の地域に導入する、という形だ。地域によってアプローチがかなり違うが、最初の流れが次の地域で再現される。

 英国は米国に次ぐ第2の市場として位置づけている。他の国と比べると、売り上げ面でも英国市場は先を行っている。(同じ英語という)言語の問題もある。コアになるチームがここにいる点もあるし、英国が非常に進んだ広告市場であるという点も大きい、ブロードバンドの普及率やクリエイティブな広告代理店が新たな手法、新たなプラットフォームを使おうとする。英国では米国同様、音楽やエンタテインメントなどのクリエイティブなコンテンツが豊富だ。

 欧州の大部分の国でグーグルはもっとも人気のある検索エンジンだが、ロシアやチェコでは他のエンジンの方が人気があるので、こうした地域ではライバル社と連携したり、自分たちのサービスを改善している。

 別の意味の課題があるのは中東で、巨大な需要とブロードバンドの普及率も高いが、アラビア語の検索能力を向上させる必要がある。

―フランスが「グーグルプリント」(現グーグル・ブック検索)に抗議の声を上げた。グーグルあるいは米国が世界を支配してしまう、と非難した。何故このような反発を招くと思うか?

ウオーカー氏:教育が必要なのだと思う。私たちが何をしているのか、またどのようにデータを管理しているのかを理解してもらえるようにする必要がある。私たちは責任を持ってデータを管理しているし、何か隠された意図があって行動しているのではない。

 最終的には、ユーザーがグーグルのサービスを使って、画面上でクリックしてくれる。マウスを使ってグーグルのサービスに投票してくれる。ユーザーはそうしたければ他のサービス、製品に移動すればいいのであって、障壁はない。グーグルの広告主や資金を出す企業に無理強いをしたこともない。私たちはビジネスの機会を作り出すが、これを使うかどうかは相手によるのだ。ユーザーが毎日使ってくれていること自体が、私たちがどうやっているかの最高の目安だと思う。

―欧州の不景気は広告重視型の収入構造に影響を及ぼしているだろうか?

ウオーカー氏:確かに鈍化している。しかし、オンライン広告でおもしろいのは、広告費がどれだけ活用されたかを測定できる点だ。私が見るところでは、広告主は、確実で、結果が測定可能な広告方法を不景気時には望んでおり、私たちにとっては良い機会だと思っている。

―ユーチューブは十分に利益を生み出していないのではないか、と言われているが?

ウオーカー氏:ユーチューブの貨幣化の試みは本当に初期段階だ。ユーチューブはもともと米国のサービスだった。コンテンツを作った人は、商業化を目指していた。しかし、欧州では、貨幣化よりも企業にとってのマーケティングの機会となっている。ユーチューブのブランド・パートナーとなるチャンネルを探し、パートナーたちがそこでプレゼンスを持ち、自分たちのブランドをユーチューブ上で管理できるようにした。2007年時点でゼロから始めて、現在までに1200の大手メディア企業やクリエイティブ制作会社がユーチューブ上にチャンネルを持つようになった。政治家もユーチューブを使っている。英女王も。 スペインの公共放送と協力して08年の選挙を放送した。この時は最初から商業化を視野に入れた。

 ユーチューブの貨幣化について考えるとき、まず、ユーチューブは非常に変革が激しい業界にいるということを思い出して欲しい。オンラインビデオ市場はどんどん伸びている。ブロードバンドの普及でオンラインでビデオを見る人がどんどん増えている。アップロードやダウンロードの時間も短くて済むようになっており、携帯電話にもビデオを作る機能がつく。誰でも簡単にコンテンツを作って放送できるようになっている。

 ビジネスとしてはまだ初期段階だが、私たちが避けたいのは、急いで行動を起こし、すでに存在する広告のフォーマットを採用し、これがあまりユーザーにとって使いやすくなかったり、十分にターゲット化されていなかったり、必ずしも広告主、パートナー、ユーザーにとって按配がよくない結果になることだ。どうやってユーザーとインターアクトするか、最善の広告フォーマットをどのように作るかに関して、十分に注意深くありたいと思っている。

 最近導入したのはビデオ広告だ。基本的に、ビデオのウインドウの中に広告が入る。欧州では始めたばかりだが、通常のディスプレー広告のクリック回数の5倍から10倍のクリックがあった。

―オンラインビデオの世界では競争がますます激化する。ヤフーやネットテレビ米「HULU」もある。脅威を感じているのだろうか?

ウオーカー氏:わくわくしている!他社の市場への新規参入を歓迎している。他の会社を競争相手だと言う人もいるかもしれないが、同時に、パートナーとなる可能性もあると思う。英テレビ局数社が開始する、ビデオ・サービス「カンガルー」の将来にも注視している。

 ユーチューブは非常に活気ある、グローバルなビデオのコミュニティーだ。高品質の、長時間のビデオやテレビ番組の消費サイトだ。もっと参加組織が増えればうれしい。

―自分の取り分が減っても?「一つの同じ骨を奪い合う」状態になるのではないか?

ウオーカー氏:必ずしも減るとは思わない。プレイヤーが増え、著名メディア企業がオンライン上でサービスを提供すれば、広告主はビデオ市場にもっと投資しようと思うだろう。「同じ骨を奪い合って」・・・と考えるのは早すぎる。誰でも参加して利益を出せる、非常に大きな晩餐会をイメージしている。

 カスケード効果を考えると、将来に楽観的だ。北米で成功し、これを英国にもってきた。視聴者は増えている。ここ2,3ヶ月で英国市場でナイキや主要映画スタジオなどがユーチューブに広告を出している。こうしたカスケード効果を中東やアフリカでも期待できると思う。

―将来的に、グーグルはコンテンツを作るようになるのだろうか?

ウオーカー氏:ならない。コンテンツを楽しむ環境を作るだけだ。コンテンツを効率的に、簡単に配布できるようなプラットフォームを作る。コンテンツプロバイダーになろうとはしていない。焦点を置くのはテクノロジーや宣伝だ。

―グーグルは「世界を支配しようとしている」のか?

ウオーカー氏:全くそうは思わない。ユーザーのためにすばらしいツールを継続して提供していきたい。選択と機会を与えたい。生活を楽しくさせ、情報へのアクセスを拡大したい。貨幣化の道を探し、これを開発し、幸せな広告主と幸せなユーザーになってもらいたい。幸せな広告主と幸せなユーザーができていかないと、成功しない。この点を忘れたら、途端に私たちは失敗する。 (インタビューは2008年9月8日、グーグルのロンドン・オフィスにて。取材者ヘニング・ホフ氏より掲載了解。インタビュー内容の一部抜粋を掲載。)(こぼれ話は次回の⑤で最後の予定です。)
by polimediauk | 2008-11-16 02:16 | ネット業界
グーグル副社長EMEAエンジニアリング担当ネルソン・マトス(Nelson Mattos)さんのインタビュー(下)

 「モチベーションをこちらから与える必要はない」

―世界中に散らばるエンジニアたちを統括する役目を担うマトスさんは、どうやって仕事の動機付けを与えているのだろうか?

マトス氏:そんなことは簡単だよ。私がモチベーションを与える必要はないんだ。エンジニアたちが自分たちでモチベーションを見つけているからだ。グーグルは非常にフラットな組織になっていると言ったね?そして、非常に技術力に優れた、かつ自分でアイデアを発想・開発できる人を雇う、とも。そうすると、社内で、私がエンジニアのところに行って、 「ある言語で検索をしやすくするにはどうしたらいいか考えて欲しい」と言わなくてもいい。エンジニアが私のところにやってきて、「ユーザーが検索ワードを入力する時、途中まで入力しただけで、検索が始まるサービスを作ったらどうか」と言う。私がやるのは、「それはいいアイデアだ。よしやってくれ」と言うだけなんだ。

―そうすると・・・マトスさんの仕事は一体何になるのか?

マトス氏:私がIBMで働いていた時のことを思い出すと、日本のエンジニアは世界中のエンジニア同様に素晴らしいアイデアを出していたよ。しかし、日本では、私がエンジニアのところに行って、「今どんなアイデアがある?夜眠れないほどの悩み事はないか?」などと聞く必要があるだろうと思う。米国のエンジニアはもっと自分の言いたいことを自分からこっちに言ってくる。

―あなたが行かなくても、エンジニアがあなたのところにやってくる、と。

マトス氏:そうだ。それでも、時々、こちらから方向性を示すこともある。世界でどんな技術上の挑戦があるか、すべてのエンジニアに情報を出している。一旦、全体的な方向性を示すと、エンジニアたちは勝手にどんどんアイデアを考え出すんだ。

 例えば、1週間に一度、欧州にいるすべてのグーグルのエンジニアを対象に、「イノベーション会議」を行っている。どのエンジニアも私の所に来て、自分が思いついたアイデアを15分間、話すことができる。チューリッヒにいる私は、今ロンドンにいるあなたとこうしているように、ビデオ画面を通して話を聞く。毎週、いつも、すべてのスロットが予約済みとなるほどの人気だ。

―あなた自身に、達成するべきゴールというものはないだろうか?

マトス氏:ゴールはあることはあるが・・・例えばこう考えて欲しい。多くの企業には、開発するべき製品、到達するべき収益、市場シェアのターゲットなどがあるよね?しかし、グーグルはそういう風に動かない。

 ではどうやって動くのかというと、例えば、今、携帯電話でネットにアクセスする人が増えている。これから増える10億人のネットユーザーは、おそらくPCではなく携帯からのアクセスになる。しかし、携帯はPCに比べたら、パワフルではない。ネットへのアクセスがPCほどには簡単ではないかもしれない。

 そこで私がグーグルのエンジニアたちに言うのは、PCを使う時と同時くらいに携帯でもネットが使えないだろうか、と。ここで注意して欲しいのは、私は特定の製品について、あるいは収益の数字に関して言っているのではないということ。どれぐらい収益が上がるのかも分らない。しかし、将来的に課題となってくるのは明らかだ。また、携帯電話の使用者が世界的に増えているけれども、その多くが開発途上国にいる人たちかもしれない。読み書きさえまともにできない人たちかもしれない。携帯電話を使い慣れていない、こうした人向けに提供するサービスはどんなものであるべきだろう?あるエンジニアは、音声自動認識サービスを使って、声が文字に変わるのはどうか、と私に言ってくる。いや、タッチスクリーンのほうがいい、というエンジニアもいるだろう。また別のエンジニアは、もし画像やビデオをもっと使うなら、まずインフラ整備をしないといけない、と言うかもしれない。製品や収益のことなど議論に上らず、技術上の課題やユーザーが欲しがるかもしれないサービスに関して、私は話す。エンジニアたちがこれを実現するアイデアを考えてゆく。

 これがグーグルのやり方だ。したがって、「グーグルは来年どんなサービスを出すのか」と聞かれても、答えようがない。携帯が重要になり、オープン・プラットフォームを開発中だ、とは言えるけれども。ウェブ上のアプリケーションが重要さを増す、とも。どんな製品が?と聞かれると、私には分らない。エンジニアたちがやっているから。

―グーグルとプライバシー問題について聞きたい。IBM時代には、セキュリティーやプライバシーについて著作物もあるマトスさんはこれをどう見ているか?

マトス氏:この問題には2つの面がある。プライバシーについて語る時、2つの要素を混ぜて話している人が多い。非常に重要な要素だが、それぞれが独立した要素だ。そのうちの1つはデータの保護だ。人々がデータに関して懸念持つという時、「データが安全に守られているか」を知りたがっている。この点に関しては、世界でもトップクラスの専門家を社内にそろえている。

 グーグルのデータセンターに安全に情報が保管されている。(従業員はデータの内容にアクセスできる。)データの保護という面では、グーグルは業界でもトップクラスだ。
 
 もう一つはプライバシーの面。つまり、「自分に関するデータをグーグルは一体どうしようとしているのか?」という疑問だ。グーグルはユーザー情報の取り扱いを非常に、非常に真剣に受け止めている。どれほど長く情報を保管しているかを公表した最初の会社だと思う。私たちが利用する情報に関しては、ユーザーが選択できるようになっている。 グーグルのそれぞれのサービス内で、情報は共有していない。Gメールとユーチューブの間で同じユーザー情報が共有されると思っている人がいるようだが、正しくない。

 Gメールを使う時、画面上に広告が出るのは検索エンジンを使っている時と同じことで、グーグルがあなたの個人的なデータを見ているわけではない。あなたをネット上で追いかけて、他のサービスに利用しようとしているわけではない。(チューリッヒ・オフィスの人から「最後の質問をどうぞ」という声がかかる。)

―ライバルのマイクロソフトに関してどう思うか?

マトス氏:マイクロソフトに直接聞いたほうが良いと思う。私が答えられるのは何故グーグルが成功しているか、だ。マイクロソフトにとって参考になるかどうかは分らないが。私たちはユーザーに焦点を置く。これは非常に重要だ。ある製品がユーザーにとって最善かどうかを第一に考える。オープン・ソース、オープン・プラットフォーム、オープン・ウェブを重視する。これがイノベーションを引き起こす。グーグルはテクノロジーを中心にすえる会社だ。製品にではなくある挑戦・課題に焦点をあわせ、これをユーザーのニーズに合わせて解決しようとしている。その後で、どうやって収益を上げるか、利益を出すかを考える。

 世界中のどこからでも、いつでも、どんなデバイスからでもアクセスできるようにするために、クラウド・コンピューティングの拡大を目指す。携帯電話をもっと使う人が増えれば、クラウド・コンピューティングの使用がもっと増える。クラウド・コンピューティングには巨大なインフラが必要となる。巨大な処理能力、保管能力、データーセンターの必要性が増す。(2008年8月末、グーグルのロンドン・オフィスにて取材。「東洋経済」誌、2008年9月27号「グーグル特集」のためのインタビュー。)(次回、ユーチューブ販売担当者の話。)

参考:
クラウド・コンピューティングを批判する人もいる:
http://www.guardian.co.uk/technology/2008/sep/29/cloud.computing.richard.stallman
by polimediauk | 2008-11-15 01:33 | ネット業界