小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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 昨日、ロンドンの外国プレス協会で、英国のトップ政治ブロガーたちが外国人ジャーナリストの質問に答えるというイベントがあった。出席者はBBCの元政治ジャーナリスト、ニコラス・ジョーンズ氏(政府の情報操作に関する記事や本を書いた人として知られる)、今月中旬、英メディアを騒がせたメール事件を暴露した、ブログ「グイド・フォークス」の運営者ポール・ステインズ氏、それに保守系テレグラフ紙でコラムを書き、出版社や雑誌も出す論客イアン・デール氏。本当は、これにガーディアンのメディア・コラムニスト、マット・ウェルズ氏も入る予定だったが、なぜかとうとう来なかった。

 途中で、中国で異端とされる宗教を支持する女性が、突如宗教について熱心に話しだしたり、メキシコのジャーナリストが司会者から「それは質問になっていない」と指摘されたことで、怒り、席を蹴って出口まで行き、振り返って「もうこのクラブをやめる」と言い捨てるなど、イベントには直接関与しない部分でドラマがあった。クラブのメンバーとしては、せっかく来てくれたパネリストに対し、恥ずかしい思いでいっぱいだった。

 しかし、実際の他のジャーナリストからの質問がどうだったかというと、これが私にとっては驚きで、ブロガーを低く見る発言が相次いだ。「不正確な事実ばかりが載っている」、「偏った意見ばかりだ」、「バランスが取れていない」などなど。つまるところ、「ジャーナリストとは言えない」、と言いたかったようだ。「新聞社や放送局は、お金を使って、人を雇い、常にニュースを追っている。バランスのとれたニュースを、事実確認をちゃんとやった記事を載せている。それに比べてブログは・・・」という感じ。ブロガーたちが「不正確な事実を載せているというのは、私のブログのことを言っているの?」と問い返すと、しどろもどろになって、「一般的にです」などという答えが返ってくる。

 こういった質問はドイツ、デンマーク、スペインからで、欧州系はブログに対する考えがある意味では遅れているのかなとも思った。一瞬、「労働党に雇われて、こういう質問をしているのかな?」ともふと思った。

 「ブログはバランスのとれた意見が載らない。ブロガーが自分の視点で書いた、いわば偏った意見ばかり載る。例えば、政府の広報官の言ったことをうのみにして書いたり、読み手を故意に一定の方向に向けようとして、書くことはないのか?」と聞かれたイアン・デール氏は「一定の方向に故意に議論を持っていこうとすれば、読者はすぐそれを察知する」と述べ、ポール・ステインズ氏は「偏った見方であっても構わないと思う」と述べた。デール氏は「要は、読者が判断する」と続けた。

 デール氏は自分がジャーナリストだとは思っていない(テレグラフにコラムは書いているけれども)そうだ。自分が思うことをブログに書いているだけだ、と。ステインズ氏は、「自分はジャーナリストだと思う。他の既存メディアのジャーナリストとなんら変わるところがない。朝から晩までものすごく忙しい」。

 ステインズ氏はブログサイトの運営に日本円で月に1万5000円ぐらいかかっているそうだ。「今は誰でも簡単にサイトを立ち上げることができるようになったのだから、資金がほぼゼロでもジャーナリスト・ブロガーとしてスタートできる」。
 
 イライラ感を感じたような外国報道陣の数人が、「でもいったい運営資金はどうするの?それに、サイトをやるだけではお金は十分にもうからない。ビジネスモデルがあるの?」と聞く。デール氏は「お金だけが目的で書く人ばかりじゃないんだよ」と言ったが、どうも通じていなさそうだった・・・・。深い溝。きっと、不満げだったジャーナリストたちも実際に自分でブログをやれば、いろいろわかってくると思うのだけれど。

 ニック・ジョーンズ氏の話がはいらなかったが、新聞のニュースサイトがどんどん動画を使うようになり、新聞は自主規制なので、「公益のために」という理由でどんどん「何でもあり」状況になっていることへの懸念を示した。(詳細はまた改めて紹介したい。)

*英国ブログとお金に関する過去記事は以下で。

http://ukmedia.exblog.jp/9321155

http://ukmedia.exblog.jp/9131877
by polimediauk | 2009-04-30 06:20 | ネット業界
 22日、ダーリング財務大臣が下院で予算案を発表した。成長率や財政赤字見通しを述べたほか、超リッチな人々への課税額を50%にまで上げるなど、もろもろの案があった。今日までに、メディアはほぼこの件で持ちきりだ。どこもトップニュース扱い。しかし、テレビやラジオにひんぱんに目・耳を傾ける自分が悪いのか、どうもなんだか騒ぎすぎている感じがする。

 予算案の発表後、メディアがかなりの紙面・放送時間を割くのは毎度のことなのだが、今回は、やれ赤字が増えた、成長率見通しが前と全く変わったなどなど、ここぞとばかりに野党・保守党が攻撃することに加え、ブラウン政権+金融危機の影響に不満を持つ国民におもねようというのか、批判のオンパレードだ。昨日も、BBCの朝のラジオ番組「TODAY」で、司会のエバン・デービスがダーリング氏に質問をし、じっくり聞かずに反論ばかりする。これはTODAYのスタイルではあるのだけれど、「生煮えの予算案ですな」と言い出し、ばかばかしくて、スイッチを切ってしまった。デービス氏は元々経済記者で、知識が豊富なのは分かるが、財務省もかなり時間をかけて予算案を作っているはずで、ジャーナリストであるだけで、けんもほろろに斬ってしまうのは、なんだか傲慢な感じがした。「本当に分かって言っているのだろうか?」と。

 夜はBBCのテレビ「ニューズナイト」で、経済専門記者が、いかに赤字が増えて、将来の世代が苦労するかを説明する。口からつばでも飛んできそうな勢いで、数字を連呼する。今晩の「ニューズナイト」でも、司会のカーシティー・ウオークが、ある議員に、予算案の細かい部分や、財務相の予想の数字がおかしい、「これでは誰も信用できない」とするのに、相手は一生懸命答えようとしていた。この議員が「今、重要なことは、経済が大変な状態にあること、そしてここからどうやって抜け出せるかだ」と言っても、どうも話が通じない。「予想はあくまで予想」という議員の説明が、すっと通じないのだ。

 「誰も将来のこと(経済の行き先)はわからない」-この単純なことを、どうして一部のメディアが分かろうとしないのか、不思議である。揚げ足取りばかりに熱中している。

 日本では経済に強い人が多いだろうから、こんなばかばかしいことは起きてはいないとは思うけれど、英国では、ついこの間まで(昨年秋以前)、金融+経済はほとんどトップニュースにはならなかった。現在のような事態が生じるとは誰もわからなかったし、予測していた人は「口を封じられていた」のである(英中央銀行の幹部が、チャンネル4「ディスパッチ」で証言、20日放送)。現在も、「本当は誰も予測できないだろう。これが本音だ。でも、何とか来年までにはかなり持ち越しているはずだ」ということを、データか、直観かで「感じている」人は結構いるのかもしれない。でも、そう言う人の声は、表に出てこないのだ。メディアの一部が過度にヒステリックだから。
 
 テレビやラジオを消して、一人でじっくり経済関連の本を読んだり、周りの人の雇用状況を静かに観察したり、ショッピングに出かけて売れ行き状況を見る・・・そんな行動のほうがよっぽど真実に近づけるのだろう。
by polimediauk | 2009-04-25 07:07 | 英国事情
 民放最大手ITVの会長マイケル・グレード氏(経営責任者職=チーフ・エグゼキュティブ=も兼任)が今年一杯で辞職することになった。ただ、非常勤の会長としては残るそうだ。仕事の引継ぎ上、完全にいなくなるというわけにはいかないのだろう。

 グレード氏がBBC経営委員会〔現BBCトラスト〕の会長からITVに移ったのは、2006年11月だ〔正式就任は2007年からになるようだが)。BBCの経営体制の刷新を狙い、トラストなるものを立ち上げる直前の話で、2007年からトラストの会長となるはずだった。突然の移籍(それもライバル社への)で、共にBBC内の改革を進めてきたマーク・トンプソン社長(ディレクター・ジェラル=理事長、会長などいろいろな訳がある)は、怒りを隠せなかった。

 グレード氏ならITVを立ち直せるという前評判が高く、大きな期待があったが、広告収入の減少と経済危機の悪化のスピードが非常に大きくかつ早く、とうとう辞任にならざるを得なくなった。

 何でも、もともと2009年末までが任期だったそうで、これを昨年2月、取締役会に「もう一年いて欲しい」と頼まれて、2010年まで延ばしていた。結局、最初の計画通り、今年末までとなった。

 驚くのが、振り返ってみると、2006年末にITVに来て、たった3年で事態を大きく好転させようとしていたんだな、ということ。日本的感覚からすると、大急ぎの仕事だったわけだ。株主からの結果を出すようにというプレッシャーも相当のものだったろう。地方ニュースを制作・放映する余裕がないので、一定の地方ニュースを放送する義務が課せられる「公共放送」という看板を下ろしたがっていたわけが、今になって実感として分かる。

http://news.bbc.co.uk/1/hi/business/8013801.stm

 英地方メディアの危機に、このところ注目している。日本新聞協会の新聞協会報に数回に渡って書いている。以下は、4月21日掲載分に若干補足したものである。

存続の危機―英地方メディア① 不況で広告収入が激減 有効な打開策打ち出せず

 英メディア界で「地方の声」が風前のともしび状態となっている。全国紙に比べて広告収入への依存度が高い地方紙は、不景気による広告収入の激減で大規模な人員削減や発行停止に見舞われている。放送業界でも、地方ニュースの制作は縮小傾向だ。存続の危機に瀕する地方メディアの現状とその背景を報告する。

―半年で約4000人削減

 読者の新聞離れや広告収入の減少に悩んできた英新聞業界だが、昨年秋以降本格化した金融危機と不景気が引き金となり、広告収入はさらに激減。広告収入と販売収入の割合が75対25とされる地方紙業界は、大きな苦境に陥っている。

 2009年第1四半期の地方紙の広告収入は前年同期比37%減で、通年では前年比20%―26%減となる見込み。過去半年間で、約1300紙の地方紙のうち60紙が発行を停止し、地方紙業界全体の約一割にあたる3500人から4000人が人員削減の対象となった。

 千人以上の人員削減を昨年行なった地方紙発行大手ジョンストン・プレス社は08年の決算で赤字に転落し、株価も90%下落。負債が膨らみ、高級紙スコッツマンの売却さえ検討中だ。

 200紙以上の地方・地域紙を発行するニューズクエスト社は08年第4・四半期で広告収入が前年同期比29・3%減少。部門別に見ると、減率が最も激しいのが不動産部門(同57・7%減)で、求人、自動車販売がこれに続いている。

 昨年1200人を削減し、27紙を発行停止、4紙を売却したトリニティー・ミラー社は今年1月―2月の広告収入が前年同期比30%減。同社も08年、赤字に転落した。

 全国紙も発行するデーリー・メール&ゼネラル・トラスト(DMGT)社は、今年第1・四半期の地方紙部門の広告収入が前年同期比37%下落。今年の削減予定数は千人で、昨年末予想の2倍となる。

 各社は、傘下新聞の発行停止や売却、整理・校正役の「サブエディター」職の廃止や大幅縮小、ネットと紙の編集部門の統合など、様々な対策を実施してきた。しかし、広告収入減少の規模の大きさや動きが急なことから、有効な打開策を打ち出せずにいる。こうした中、大手再編の噂が出ている。地方紙発行大手は2-3社に収れんされる、と言われている。(つづく)
by polimediauk | 2009-04-23 19:05 | 新聞業界

パイレートベイ2

 ファイル共有サイト、パイレートベイの運営者4人それぞれに対し、スェーデンの裁判所が17日、禁固1年と罰金の実刑判決を言い渡したが、その後も、サイトのサービスは続いている。ブログによれば、既に控訴を決定しており、罰金は払うつもりはないそうなので、一部の支援者が始めた(支払いをするための)募金活動はしなくてもいい、と書かれている。

 http://thepiratebay.org/blog/151

 運営者の一人、ピーター・スンデ(Sunde)氏はビデオメッセージの中で、罰金を支払うつもりがなく、もしお金があったとしても、「焼いたほうがマシ」といっている。(ペイドコンテンツのサイト、下のビデオ。開始から5分後に英語になる。)

 http://www.paidcontent.co.uk/entry/419-pirate-bay-verdict-tpb-reax/ 

 今回の法律はスウェーデン内で実効性があり、他の国には適用されない。

 同サイトが専門家数人に聞いたところによれば、裁判所の判断がどうであれ、同様のサービスはなくならない、とする。
by polimediauk | 2009-04-20 15:42 | ネット業界
 音楽・映像のファイル共有・ダウンロードサービスを提供する、スウェーデンのウェブサイト運営者たちに、17日、著作権法違反で実刑判決が出た。

http://news.bbc.co.uk/1/hi/technology/8003799.stm
http://news.bbc.co.uk/1/hi/business/8004060.stm


 この件に関しては、日刊ベリタのみゆきポワチャ記者が何度か書いている。

http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=200903071621186

 スウェーデンで、こうしたサービスの提供が「著作権侵害ほう助に当たるかどうかをめぐる裁判」が、2月16日から3月3日まで行なわれていた。損害賠償を要求していたのは音楽、映画業界だ。

 有罪になったのはサイト創始者の4人で、それぞれが一年の禁固刑。ずい分厳しい感じがする。また、巨額罰金の支払いも科された。

 パイレートベイは世界で「最も著名なファイル共有サイト」とされている(BBC)。2003年に創設。ユーザーは音楽、映画、コンピューターゲームなどをアップロード、あるいはダウンロードし、著作権を払わず利用できた。

 こうしたサービスで使われるのは「ビット・トレント」というソフトで、同じ番組を沢山の人が同時にダウンロードできる。1人がダウンロードを開始すると、ダウンロード作業が終了する前に、他の人が番組をサイトにアップロードできる。ファイル共有する人が多ければ多いほど、作業が簡単になるという。

 パイレートベイはこのビットトレンド・ファイル、通称トレントの検索エンジンサービス。同様のサービスは他にもあるが、非常に人気が高いのがパイレートベイで、利用者は2200万人とされる。

 有罪・実刑となっても、パイレートベイを含め、同様のサービスは続くと予想されている。そこで、この判決は、著作権を払わずに利用しても良いと考える人への「警告」という意味がある・・・そうなることを、少なくとも著作権団体は望んでいる。

以下、パイレートベイのサービス説明:(日本語)

http://thepiratebay.org/

「ザ・パイレート・ベイ」は世界最大の「ビット・トレント・トラッカー」です。「ビット・トレント」は確かな方法でサイズが大きいファイルでも高速通信が可能なファイル・シェアリング・プロトコルです。

このウエブサイトは自由に使えるトラッカーで誰でもトレント・ファイルをダウンロードすることができます。アップロード、コメントの書き込み、個人的なメッセージを掲載したい場合は、会員登録が必要です。登録は無料です。

ザ・パイレート・ベイは多くの方が利用されているため、中には不快に思われる内容が掲載されている場合があります。そのような場合はご覧にならず、必要なものだけをご覧下さい。ザ・パイレート・ベイは、掲載内容が不適切な場合、削除する権利を保有します。

当コンテンツに関連性のない不適切な語句の使用を発見した場合は削除します。

当サーバーにはトレントファイルだけが保存されます。著作権がないものや違法なもの(映画、ソフトウェア、ゲームなど)はザ・パイレート・ベイによって保存されます。これらは、ザ・パイレート・ベイの過失にはらないものとします。著作権や違法物などに対して苦情を寄せられた場合、当サイト上に掲載する場合があります。

当ウェブサイトはスウェーデンの反著作権団体によって2003年に作られ、2004年10月より個人により運営されています。 Piratbyrån ご利用は全て無料となりますが、運営のための資金が必要ですので寄付金は歓迎致します。
(以上)


―タックスヘイブン

 話は変わるが、先日の金融サミットで話題となったのが「タックス・ヘイブン」(租税回避地)。経済協力開発機構(OECD)は今月2日、秘密口座の情報公開を行わないなど脱税対策に非協力的な国のブラックリストを公表した。英政府も監督・規制に力を入れるようになっており、具体的な監視策の協議を始めている。タックス・ヘイブンに関して、「英国ニュースダイジェスト」4月16日号に書いたものに、補足したのが以下である。


タックスヘイブン、規制強化へ


 4月2日、ロンドンで開催された20カ国・地域(G20)の第2回首脳会合(金融サミット)は、タックス・ヘイブン(租税回避地)の規制強化を閉幕制限に盛り込み、終了した。「銀行の秘密の時代は終わった」(宣言)のである。

 これを受けて、経済協力開発機構(OECD)は同日、該当する国・地域の名前を公表した。秘密口座の情報公開を行わないなど脱税対策を十分に行っていない国としてコスタリカ、マレーシア、フィリピン、ウルグアイを挙げた(その後、各国が協力を約束し、7日時点でリストから削除された)。脱税対策を約束していながら非協力的な国・地域としてベルギー、ルクセンブルグ、スイスなど38カ国を名指しした。

 公正な租税体制の構築を訴える在英団体「タックス・ジャスティス・ネットワーク」(TJN)によれば、「オフショア金融センター」とほぼ同義で使われる「タックス・ヘイブン」という用語には正確な定義付けがないという。税率が低い、税制の優遇措置があることに加えて大きな産業がない島国などが該当することが多い。こうした国や地域に企業が租税負担の軽減を目的として「タックス・ヘイブン」を作る。本国からの取締りが困難であるため、犯罪に使われた資金のマネーロンダリングの一つの手としても使われていると言われている。

 しかし、税金が低い、あるいは優遇措置があること自体はもちろん非合法ではなく、外国からの投資を呼ぶために、あえて優遇措置を取り、経済を活性化させる手法は多くの国が行なっている。不当に税金の支払いを回避しているかどうかの判断は「極めて難しい」とTJNの代表リチャード・マーフィー氏は語る。

 ちなみに、OECDによるタックス・ヘイブンの定義は、金融・サービスなどの活動から生じる所得に対して無税、あるいは名目的にしか課税していないこと、かつ他国と実効的な情報交換を行なっていない、または税制や税務執行に、透明性が欠如、または誘致される金融・サービスなどの活動について、自国において実質的な活動がなされることを要求していないことが条件だ。

 タックスヘイブンに関与するのは大企業だけではない。英国の銀行は英国外で働く人、退職後海外で住む人などのためにオフショア口座サービスを提供しており、英国よりもはるかに税金が低いか、税金免除があるジャージー島やマン島に口座を開設している人は多い。国も金融サービスの多様性を確保し、各金融機関の競争を促す一環として、厳しい取締りをこれまでしてこなかった経緯がある。

―クレジット・クランチ(信用収縮)で変わった見方

 昨今の信用収縮で事情は変わってきた。タックス・ヘイブンを使っての「租税逃れ」のために、英政府に入るはずの9億ポンド(約1340億円)から15億ポンドの税収が、毎年、消えている。こうした状況を政府は見逃すわけには行かなくなった。

 タックス・ヘイブンとなった国・地域の側からすれば、税率を低くして、世界中の企業がやってくることで大きな収入を得ており「顧客の秘密を守る」という銀行業の原則から言っても、顧客情報を外部に出したがらない傾向があった。

 しかし、国際的環境も変わりつつある。OECDは、2004年のG20財相会合、昨年秋の国連委員会の会議を通して、国際的な税制取り決めをまとめた。この取り決めを批准した加盟国及び一部の非加盟国は、税金に関わる全ての情報を、リクエストに応じ、互いに交換することになる。この取り決め自体には法的拘束力はないため、情報交換を希望する国同士が2国間の「税金情報共有合意」を交わす。英国はジャージー島、ガーンジー島、バージン諸島、マン島、バーミューダと交わしており、リヒテンシュタインとも交渉中だ。

 TJNのマーフィー代表は、今後は「リクエストがあれば情報を流すのではなく、自動的に情報が流れるようにするべき」と述べる。

 税制の取り決めに関して課題とされるのが、こうした合意を交わしていない国・地域に資金が流れるだけでないかという懸念もあることだ。「税金逃れの根絶」は道徳的にも尊い目標であり、税金収入増を狙う英国も含めた各国首脳陣はタックスヘイブンの規制監督強化にしばらくは力を入れそうだ。

―タックス・ヘイブンの国際基準履行状況リスト(OECD作成)、4月2日発表時点

―いわゆる「ホワイト・リスト」(国際的な税制取り決めを著しく履行した国・地域)
アルゼンチン、オーストラリア、バルバドス、カナダ、中国(*)、キプロス、チェコ、デンマーク、フィンランド、フランス、ガーンジー、ハンガリー、アイスランド、アイルランド、ドイツ、ギリシャ、マン島、日本、ジャージー島、韓国、マルタ、モーリシャス、メキシコ、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、ロシア、セーシェル、スロバキア、南アフリカ、スペイン、スウェーデン、トルコ、アラブ首長国連邦、英国、米国、米領バージン諸島(*中国は香港とマカオの特別行政区域を除く。)

―「グレー・リスト」(脱税対策を約束しながら十分に実行してない国・地域)
アンドラ、アンギラ島、アンティグア&バーブーダ、オランダ領アルバ、バハマ、バーレーン、ベリーズ、バミューダ諸島、英領バージン諸島、ケイマン諸島、クック諸島、ドミニカ、ジブラルタル、グレナダ、リベリア、リヒテンシュタイン、マーシャル諸島、モナコ、モントセラト、ナウル、オランダ領アンティル諸島、ニウエ、パナマ、セントキッツ&ネビス、セントルシア、セントビンセント&グレナディーン諸島、サモア、サンマリノ、タークス・カイコス諸島、バヌアツ、オーストリア、ベルギー、ブルネイ、チリ、グアテマラ、ルクセンブルグ、シンガポール、スイス

―「ブラック・リスト」(国際的な税制取り決めに合意していない国)
コスタリカ、マレーシア、フィリピン、ウルグアイ(7日時点で、削除)


―関連キーワード: Organisation for Economic Cooperation and Development (OECD) 経済協力開発機構。パリに本部を置く国際機関で、持続可能な世界の経済成長の支援、生活水準の向上、金融体制の安定化などを協議する。経済成長予測などのレポートが高く評価されている。1961年、発足。前身は第二次世界大戦後、欧州経済を活性化するための、米国による復興支援計画(「マーシャル・プラン」)の受け入れ整備のため、1948年に発足した欧州経済協力機構(OEEC)。日本は1964年加盟。加盟国は先進国を中心とした30カ国で、英語と仏語が公用語。約10年前からタックス・ヘイブン(租税回避地)撲滅を目指す運動の先頭に立ってきた。(資料:OECDサイトより作成)
by polimediauk | 2009-04-17 21:05 | ネット業界
 先の英中央銀行前での抗議デモで、亡くなった男性は、これまでの報道によると、ホームレスの人だったが、新聞販売を手伝っていたそうだ。その手伝いを終えて、寝床の場所に戻る途中で、3回ほど警察との接触があり、最終的には心臓発作で亡くなった。アルコール依存症で離婚し、1人暮らしだった。この件で、男性に何らかの形の暴力(暴力的振る舞い)をはたらいた可能性のある警察官の中で、少なくとも1人は既に上司にこの件を伝え、警察官としての仕事の前線からは身を引いている。事の次第の調査結果、該当する警察官がどんな処分になるかはまだ分からない。起きるべくして起きた事件だったような、避けられる事件だった気がしてならない。(・・・というのは、後からいくらでも言えるのだけれども。)

 「金融危機」という言葉を英国では結構気軽に使うのだけれども、これに対する怒り、つまり一部銀行の経営陣に対する怒りがここでは強い。ところが、先週ぐらいにフィナンシャルタイムズ紙のデビッド・ピリング記者が書いていたところによれば、「アジアでは」、そういった怒りはあまりないという。日本では、経済全体の地盤低下や派遣労働者を含めた人員削減に関する、政治家へ(小泉氏も含め)や大企業経営陣への怒りはあるとしても、銀行家への怒りといったものは、今回に関しては特にないのかもしれない。

 銀行経営陣、政府の金融担当者、ひいては銀行破たんを引き起こした(ように見える)メディアに対する英国民の疑問や怒りは、かなりあるように思う。「一体何故こんなことになってしまったのか」、「どうして、金融当局やメディアは危機の発生を事前に察知し、国民に警告してくれなかったのか」、と。

 そこで、金融報道を検証する動きが、昨年秋以降、ずっと続いている。この流れを、「新聞協会報」4月7日付に書いた。以下はそれに若干足したものである。

金融報道と英メディア


 「金融機関の破綻・買収は影響を考えて報道すべきではないのか」。BBC記者によるスクープが中堅銀行の国有化のきっかけとなったほか、インサイダー取引に関与したとの疑惑も招いたことを契機に、英国では昨年から議論が続く。一時は報道規制も浮上した。金融問題が経済全体に影響を及ぼす中、メディアは事前に警鐘を鳴らすことはできなかったのかとの論議も起きている。

 BBCのペストン記者は2007年9月、住宅金融が主力の中堅銀行ノーザン・ロックの資金繰りが悪化し、英中央銀行から緊急融資を受けることになったと特報した。翌日、預金を引き出す人々が同銀行の各支店に殺到。銀行の取り付け騒ぎは、過去150年で初めてだ。

 テレビ各局は、預金者が長い行列を作る様子も延々と伝えた。株価が急落し翌年2月、ノーザン・ロックは国有化される。

 ペストン記者は08年9月、大手金融グループ・ロイズTSBによる同HBOSの買収をめぐり、スクープを連発する。暴落していたHBOSの株価は、記者が「買収交渉が極めて進展した段階にある」と伝えると急上昇した。報道直前から大口のHBOS株の買いが入り、情報リークの噂が出た。ペストン記者が株式のインサイダー取引に関与したのではないかとの疑惑も浮上した。

 BBC記者による一連の報道を受け、下院財務委員会は報道規制の必要性の議論に着手。今年2月4日には、複数のメディア関係者を公開質疑に招いた。

 ペストン記者は、破綻は「経営の悪化、投資部門の顧客による資金の引き上げが原因だ。預金者の取り付け騒ぎのためではない」と主張する。HBOSに関するスクープにも「事実を報じたに過ぎない。金融界では誰もが知っていた」と主張し、報道規制の必要はないと反論した。

 同記者は2月中旬、BBCの番組でノーザン・ロック銀の国有化で保有していた株がタダ同然になった元株主らと対面する。「また同様の状況でも同じように報道する」と述べ、「名声のために報道した」「市場への影響を考慮するべきだ」という元株主らの言い分との間で溝は埋まらなかった。

 金融問題をめぐる報道では、危機の到来をもっと早く報道できなかったのかという問題も提起されている。2月24日、ロンドン・スクール・オブ・エコノミックスで開かれた金融危機報道の是非を問うイベントで、経済紙フィナンシャル・タイムズのテット記者が、数年前から金融危機発生の可能性を書いてきたにもかかわらず「社内も含めて、誰も耳を傾けようとはしなかった」と指摘した。「金融派生商品のことを話そうとすれば、おタクだ、専門的すぎるとよく言われた」。

 また英メディアは「個々の事象の報道に追われ、金融界の動きが社会全体に及ぼす影響に関する視点が少なかった」とも述べた。エコノミストのブイトー氏は話した。「誰もこれほど大きな事態が訪れるとは予期できなかった。私たち全員が盲目だった」。
by polimediauk | 2009-04-10 20:07 | 政治とメディア
 (春がようやく来たのはいいが、夜、やや寒かったりなどし、若干ダウン。しばし間が開いて、失礼をしております。)

 先週、ロンドン・イングランド銀行前のG20抗議デモで、男性1人が亡くなった件で、独立警察苦情委員会(IPPC)が調査を開始している。4月1日、午後7時半頃、男性はイングランド銀行付近の新聞販売店での仕事を終え、帰宅途中だった。警察が銀行広場付近にいたデモ参加者を足止めしていたため、この男性も足止めされてしまう。この間、何があったのかの詳細は不明だが、警察官が男性に何らかの暴力を働いた様子(CCTVで撮影)の映像が報道されている。後ろから押したか、叩いたのか?BBCの映像では押したように見えるけれども。

http://news.bbc.co.uk/1/hi/england/london/7990423.stm

 チャンネル4の映像では、警察官が男性をこん棒で殴っていたとされる。

 詳細ははっきりしてない。男性は、押された後、路上に倒れ、数分後に心臓発作で亡くなったらしい。

 この日、昼間広場にいて、数時間の足止めを食らった私は、不当拘束されたという思いがあった。デモ参加者には何らかの(心臓病を含めた)病を患っている人もいるだろうし、事前に予告がなく、かつ特に暴動が起きたというわけでもない状況で、大量の人を足止めすれば、必ずといっていいほど、何らかの衝突が起きるのは避けられない。どうも、ボリス・ジョンソン・ロンドン市長の監督・管理にも大きな責任があったような思いがしてならない。やり方がまずかったのではなかろうか。事件、事故、または死人が出る可能性は常にあった。ロンドン市警ではなく、市長の責任を追及するべき、と思っている。たった一人の命といえど、避けられるはずの顛末だった。この男性を押した警察官の停職とか、そういうトカゲの尻尾きりのようなことで終わらないと良いが。

 「メディア展望」誌(「新聞通信調査会報を改名」)4月号に、中東報道の是非に関する原稿を書いた。この間のガザ空爆をヒントに、英国の中東報道はどうだったかを分析したものだ。ただし、この問題は非常に広いので、BBCが空爆犠牲者を助ける広告の報道を拒否した、という点に絞り、主にBBCのスタンスについて、書いた。

 イスラエル・パレスチナ問題は「客観的に」報道するのが難しい。オブザーバー紙にもこれをトピックにした記事が2週間ほど前に載っていた。これも同時に紹介しようと思っているうちに時が過ぎてしまったので、「メディア展望」原稿分を出してみる。若干言葉を付け足した。

 それと、コペンハーゲンに本拠を置く、ロッジテレビというクルド語の放送局をご存知の方はいらっしゃるだろうか?これが、トルコ反政府武装組織、クルド労働者党(PKK)の支援をしているとして、トルコ政府が非常に怒っている。トルコはデンマーク政府に対し、この放送局の免許取り消しをずっと依頼してきたが、デンマーク側は「報道の自由」ということで、ずっとこれを拒否してきた。しかし、とうとう、デンマーク側も重い腰をあげようとしているようだ。

 デンマークの首相で、次期NATO事務総長就任予定のラスムセン氏が、もしPKKとのつながりがあると証明されれば、閉鎖も辞さない方針を明らかにしたようだ。

http://www.ejc.net:80/media_news/roj_tv_to_face_closure_if_pkk_links_proved/

 私がデンマークのロッジテレビに取材し、後トルコでクルドメディアに取材したところによれば、結局のところ、ロッジテレビは広い意味ではPKK支援と言えなくもない感じがする。このPKKの意味は、クルド人から見た場合と、いわゆるトルコ人から見た場合とかなり違う。トルコ人からすればあくまでテロ集団だが、クルド人からすると、言ってみれば、アイルランドのIRAのような(アイルランド人でIRAにシンパを感じない人はいないように、クルド人でPKKに一定のシンパをかんじない人はいない?)存在ではないか、と。

 ・・・と考えると、国際紛争で「客観的な」立ち位置というのは、存在しないかもしれないと益々思えてくるのである。(ロッジテレビ、クルドメディア取材分は日刊ベリタのサイト参照のこと)。

BBCが放映拒否で非難の的に ガザ侵攻めぐり中立性問われる英報道

 報道の基本姿勢とは何か?定義は様々であろうが、特定の視点に偏向しない、客観性あるいは中立性の維持を挙げる人は多いだろう。ところが、歴史の評価が決して一様ではないように、世界の軍事紛争では「客観」あるいは「中立」たるべき位置が存在しない、あるいは見えない状態になっている場合がある。

 この傾向が顕著になる一例が中東のイスラエル・パレスチナ紛争であろう。誰が侵略者か、犠牲者か、「テロリスト」か、また善悪の判断は当事者間で大きく異なる。イスラエル側とパレスチナ側のそれぞれを支援する国や民族によっても見方が違う。両当事者が自分たちの主張を正当化するためにプロパガンダ作戦を駆使することもあって、事態の見極めは一層錯綜する。メディア各社は、世界の注目度が非常に高いこの紛争を出来うる限り客観的に報道する努力を続けているが、当事者国から「偏向している」と非難される危険性は常にある。

イスラエル・パレスチナ紛争のような非常に入り組んだ紛争になると、「紛争の外側に、客観的に立つ報道機関」という立ち位置はないに等しい。このため、、英メディア、特にBBCは「バランスのとれた」、「インパーシャルな(不偏の))」報道、という言葉をよく使う。例えばイスラエルの犠牲者の情報を出す場合、過去の同様の情報との比較や、パレスチナ側ではこれをどう見たのかという視点を入れる、ということを指す。

本稿では、英メディアの中でも、視聴者からのテレビ・ライセンス料を運営費として使うことから特に客観性、中立性の維持を強く期待されるBBCの最近のガザ紛争報道で指摘された問題点に注目したい。

―パレスチナ被害者支援広告の放送拒否

 昨年12月27日から3週間余続いたイスラエルによるパレスチナ自治地区ガザへの空爆は、世界のメディアにとって、報道の基本原則である客観性、中立性をいかに維持するかの試金石ともなった。

 今年1月20日、イスラエル軍の撤退完了で今回の軍事行動は一先ずの終了となった。パレスチナ側で死者1300人余、イスラエル側で13人程の死者が出た。

 英テレビは連日、パレスチナ人の犠牲者やその家族の様子、家屋の破壊状態などの惨事を放映し、新聞もイスラエル軍の軍事行動で被害を受けたパレスチナ人市民の様子を大きな写真を使って伝えた。在英イスラエル大使館の前では市民らによる抗議運動が起き、デモ隊と警官隊との衝突事件で逮捕者が出た。イスラエル製商品の不買運動も一部で発生した。

 イスラエルの空爆に反対する強い感情が国民の中に共有されつつあった1月22日、ガザ地区のパレスチナ人犠牲者を支援するための動画広告の放送を、BBCが断ったことが明らかになった。

 放送依頼をしたのは1963年に創立された「災害緊急委員会」(DEC)で、英国赤十字、オックスファム、セーブ・ザ・チルドレンなど著名な慈善団体13を傘下に置く。洪水や地震など世界で起きる災害時に、英国内の民間による救援努力を一元化する役目を果たす。

 BBCの放送依頼却下の理由は、救援物資が「現地に確実に届けられるかどうか確証が持てない」ためと、「BBCの報道の公平性に対する視聴者の信頼感を守る」ためだった。アレクサンダー国際開発大臣が物資の輸送の確実性を保障し、BBCに再考を求めたが、BBC側は放送不可の姿勢を維持。放送を求める視聴者からのBBCに対する苦情は数日間で2万件を超えた。24日には5000人ほどがBBCに放送を求める抗議デモに参加し、BBCの従業員の一部もこれに参加した。100余人の下院議員からは放送をしない決定に抗議をする署名が集められた。

 新聞各紙はBBCの決定を批判する論調が大部分を占め、英国教会のトップ、カンタベリー大司教も人道上の理由から「放送するべき」と公言した。政界や宗教界をも巻き込んで、BBCは批判の矢面に立たされた。

 パレスチナ人犠牲者を助けるための広告を放送しないと決めたBBCは、「イスラエル寄り」と受け止められた。トンプソン氏の妻がユダヤ系米国人であるために、イスラエルに考慮した決断をしたのではないか(『インディペンデント』紙記事のコメントなど)といった、うがった見方をする声まで出た。

 一方、保守系の論客アンドリュー・ロバーツ氏は、「BBCではなく慈善団体が有罪だ」とする論考を『タイムズ』1月26日付に寄せ、オックスファムなど数団体は以前からガザ地区での紛争に関し「パレスチナ側が絶対的な犠牲者、イスラエル側が絶対的な悪者」とするキャンペーンを展開してきたと指摘した。数少ないBBC擁護者の声だった。

 この日、支援広告は民放ITV,チャンネル4、ファイブで放送され、BBCと衛星放送スカイテレビが放送せずとなった。

―以前は「親イスラエル」で批判されたBBC

 DECと英放送局は、公共の電波を使っての支援には「3つの原則」を満たすことを条件としてきた。人道上の危機を救うための重大な、緊急のニーズがあること、当の救援団体が現場で実質的な支援を提供できることを示す証拠があること、国民の間に、人道面からの十分な関心と同情心が存在することだ。

 不偏不党を報道の基礎に置くBBCだが、国際的な紛争や災害が発生した時、救済・支援活動目的の放送をこれまでにも実行している。また、DECのキャンペーンにも過去に何度か協力している。1967年には「6日間戦争」で居場所をなくしたパレスチニア人、シリア人の難民への支援広告を放映し、82年にはレバノンに侵入したイスラエル軍の攻撃の犠牲者のためにDECと協力して募金を集めた。90年代には第一次湾岸戦争やコソボ紛争の難民などの救援広告を放送した。

 2006年、イスラエル軍がレバノン市内に潜む武装集団ヒズボラの弱体化を狙い、軍事行動を開始した。この時、レバノン市民の犠牲者を救援するためのDECの広告の放送依頼をBBCは却下した。レバノン紛争は英国内はもちろんのこと、世界の世論を二分したという点では、今回のイスラエルによるガザ空爆事件に似ている。レバノン紛争におけるDECの放送依頼却下は、BBCによれば「不偏報道の徹底化」であるが、ガザ市民への支援アピールの件と重ねると、この頃から既にイスラエル政府に考慮した姿勢があったのではないか、という疑念がわく。

 しかし、批判者からすれば「イスラエル寄り」となるBBCだが、2003年、イスラエル政府から「反イスラエル的報道ばかりしている」と判断され、首都エルサレムでの記者会見に招待されないなど、締め出された過去がある。04年、イスラエル政府はBBC、スカイテレビ、タイムズ紙、フランスの複数の新聞に対し、「反イスラエル的」であるとし、書簡を送っている。

 BBCは03年、中東報道で偏向がないかどうかの内部調査を実施し、この結果は報告書(「バイレン報告」)としてまとめられた。これをBBCは非公開とした。05年、ある弁護士が、公的機関の情報公開を要求できる情報公開法を使って、BBCにバイレン報告の公開を求めた。BBCは報告書は「ジャーナリズムのための文章」であり、公的情報ではないとしてこれを却下。数年に渡り裁判が続いてきたが、今年3月、最高裁が、報告書を公表するべきと言う情報公開裁判所の決定を支持する判断を示した(3月現在、未公開)。

 バイレン報告書は04年BBC編集幹部に提出され、翌年、独立調査委員会がBBCの中東報道を調査した。06年発表された報告によれば、「故意のあるいは組織的な偏向はない」が、報道は「統一性に欠け、全体像を十分に描いておらず、誤解を生む報道もあった」と結論づけた。これと前後してBBCは中東報道における編集体制を刷新する。中東報道を統括する専門編集者を駐在させ、「文脈を説明する」役目を果たすようにした。同時に、不要に「テロリスト」、「暗殺」という言葉を使わない、「東エルサレムをイスラエルの一部として表現しない」(1981年、イスラエルが併合したが国際的に認められていない)など、イスラエル・パレスチナ問題に特定した用語集を作成した。

 05年にはBBCの女性記者が、パレスチナ自治政府のアラファト代表(当時)が重い病状をわずらい、自宅からヘリコプターで病院に運ばれる様子を見て「泣いた」とラジオでリポートしたところ、視聴者から苦情が出た。BBCの経営委員会(当時。現在はBBCトラスト)は「報道の不偏原則を破った」とする判断を示した。

 近年の例を振り返ると、紛争当事者の両方からBBCは偏向を指摘されたことがあったということになる。

 BBCだけが「偏向」を指摘された経験があるわけではない。先の例ではスカイや『タイムズ』紙が「反イスラエル」とされ、08年には、ガーディアン紙がイスラエル南部で起きた自爆攻撃の後を映した動画をサイト上に掲載し、読者の苦情が殺到するという事件があった。ロイターから配布された動画をそのままサイト上に載せたもので、攻撃の後、負傷者が病院に運ばれる様子や、パレスチナ人の閣僚のコメント、武装集団ハマスの広報官が「これは抵抗作戦だ」と語る様子が入っていた。

 この動画を反イスラエル報道を監視している組織「オネスト・リポーティング」(「正直な報道」の意味)が見つけ、ウェブサイト上で「ガーディアンに苦情を送れ」と訴えた。ガーディアンのサイトに同時に掲載されていた記事にはイスラエル側のコメントや背景説明があったが、動画自体にはイスラエル側の声は入っていなかった。苦情の対応に追われたガーディアンは、サイト全体ではバランスが取れた報道があったとしながらも、ロイターの動画を事前に十分に検証しなかった編集上のエラーなどがあったとして、掲載から4日後、動画を削除した。様々な勢力のロビー活動が活発なパレスチナ紛争の報道には、念には念を入れた報道体制を取る必要に、英メディアは迫られている。

―BBCトラストの判断

 今年2月19日、BBCの編集方針や経営活動を監視するBBCトラストは、DECの救援広告を放送しないとしたBBC経営陣の判断が正しかったとする報告書を出した。イスラエル・パレスチナ紛争は「大きく意見が分かれるトピックで、市民の死や負傷は『国際的な世論』を味方にするための政治的主張の中心をなす」と説明し、「今回は、紛争の政治的な主張と人道面の結果とを切り離すことが不可能」で、広告は紛争の片方の面を示さざるを得ない。もし放送すれば、視聴者がBBCがその内容に一定の承認をしたかのように受け取られる恐れがあった、と結論付けた。

 BBCは報道番組に限らず、全ての番組での不偏を維持するため、「不偏原則」に関する報告書を07年、発表している。これは、05年、慈善団体や有名人が参加した、貧困をなくするための「メーク・ポバティー・ヒストリー」(「貧困を歴史にしよう」の意味)という運動がBBCの人気コメディー番組内で使われたことがきっかけだった。脚本を書いたのがこの運動の推進者の一人だった。報告書によれば、不偏は「あらゆる視点を入れること」で、「必ずしも中心位置を意味しない」。

 不偏・中立という原則自体に疑問をはさむべき、という声もある。元下院議員のジャーナリスト、マーティン・ベル氏は、報道機関は中立、不偏という「古臭い原則を放棄」し、代わりに「公正(フェア)かどうか」という点を新たなものさしとするべきではないか、と主張している(ガーディアン紙、1月26日付)。

 DECの広告の放送を巡り、各放送局の対応は割れた。BBCの放送拒否が話題になったおかげで、DECは予想よりも大きな金額の支援を得られたという。報道の不偏、客観性の扱いに「決まった答えはない」ということが改めて認識された事件だった。
by polimediauk | 2009-04-09 06:47 | 政治とメディア
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             (FSAターナー会長)

 英金融監督機関の金融サービス庁(FSA)が、3月18日、金融危機の再発生を防ぐための新規制案(FSA会長の名前を取って「ターナー報告書」と呼ばれる)を発表した。銀行に対しては収益性よりも経営の安定を優先する、自己資本率を上げるなどを提言し、危機を未然に防ぐための積極的な監督業務の実行を宣言した。これでグローバルな危機発生を防ぐことはできるのだろうか?報告書を巡る話を、「英国ニュースダイジェスト」(4月2日号)に書いた。以下はそれに若干補足したものである。

次の金融危機を防げるか? FSAの新規制案

ーターナー報告書の主な提言

*FSAの役割を変更し、金融機関の戦略や広い意味でのリスクの監視に焦点を移す。金融機関が窮地に陥っているかどうかを未然に察知する。
*資金繰り状況をもっとよく監視する。英中央銀行、国際通貨基金などと協力する。
*銀行は景気の良い時に、将来の不況時の資金難に備えてこれまで以上に資本を増強しておく。
*銀行資本・流動性規則と会計報告を抜本的に変更する。
*格付け機関を監督下に置き、利害の衝突がないか、不当な格付けがないかを確認する。
*長期的視点でビジネスを行なえるように、銀行の賃金体制を変える。
*ヘッジファンドを銀行同様に監督できるようにする。
*全欧州レベルでの調整を強化する。欧州金融監督団体の新設も。

―「市場が何とかしてくれる」は通用しない

 多くの英国民が金融危機の兆しを見たのは、2007年9月、住宅金融ノーザン・ロックで取り付け騒ぎが起きた時だった。翌年2月、ノーザン・ロックは国有化され、同年9月の米リーマン・ブラザーズ証券の破綻を受けて世界的な金融危機が発生した。その後、英国の大手数行は巨額公的資金注入を受け、現在ほぼ国有化状態にある。

 金融危機発生の原因と監督業務の役割、今後危機を防ぐにはどうするかに関し、昨年秋、ブラウン首相が金融監督機関である金融サービス庁(FSA)に分析を依頼した。その結果が18日発表された「ターナー報告」だ。報告書をまとめたターナーFSA会長は、これまで「ライト・タッチ」(軽い)とされてきたFSAの監督業を「インテンス」(強い、激しい)監督業に大きく変える、と宣言した。

 会長によれば、金融危機以前のFSAには「市場が自分で直してくれる」という哲学が満悦しており、金融機関の経営陣の方が監督業者よりもリスクをよく察知できると考えられてきた。会長は、今後FSAは企業戦略やシステム全体のリスクの監督に焦点をあてる、と述べた。

 具体的には、銀行の自己資本率の引き上げや、好況時に資本準備を増強してかんしょう部分を作り、不景気にはこれを使って貸し出しを続行する柔軟性を持たせるなど、銀行の経営を安定化させる提言や、規制対象外のヘッジファンドなどを銀行同様に監督できるようにする、また、リスクを過剰にとらないよう、銀行の報酬政策を見直すことを促すなど、地道な金融経営を求める策を進言した。BBCのロバート・ペストン記者は、「提言のほとんどが常識だ」と評した。

―英国独自の問題は?

 では、何故英国で金融危機が起きたのだろう?ターナー報告書によれば、ロンドンは世界の巨大銀行の拠点になっており、こうした銀行がリスクの高いビジネスを行なっていたこと、住宅ローンの貸付が急激に増えていたこと、他の金融機関からの借り入れに過剰に依存した、リスクが大きなビジネス慣行をノーザン・ロック(国有化)、ブラッドフォード&ビングレー(国有化)、HBOS(ロイズTSB銀が買収)などが行なっていたからだった。また、国際的なビジネスを展開する金融機関に対して、十分な監督が行き届かなかったことも原因だった。ターナー会長は欧州全体の金融業務を監督する団体の新設を提言している。

 報告書はおおむね好意的に受け止められたが、果たしてどこまで厳しい監督業務が実行できるのかというと、疑問の声が上がる。ターナー会長が現職に就任したのは昨年9月だが、ほとんどの他の職員は「ライトタッチ」でこれまで仕事をしてきたのだ。また、もし監督がきつくなれば、国際的ネットワークを持つ大手銀行は海外に逃げてしまう危険性もある。そうなれば、世界の金融街の1つロンドンにとっては打撃になる。また、果たして他国が英国の規制案に同意するかという課題もある。報告書は、4月2日ロンドンで開催される、主要20カ国・地域(G20)金融サミットに向けた、金融監督業務の方向性に関するたたき台となる。どこまでターナー報告書の提案が賛同を得られるかの答えは意外と早く出るのかもしれない。(追記:サミット終了時点で、ターナー報告書の概要はほぼ最終宣言に引き継がれたと言って良いだろう。)

―ターナー会長のプロフィール

 アデア・ターナー。54歳。2005年、貴族の称号を授与される。大学教授の息子としてイングランド東部で育つ。ケンブリッジ大学で歴史と経済を勉学後、BP、チェースマンハッタン銀行、マッキンゼー社に勤務。英国産業連盟の事務局長、メリルリンチ欧州の副会長などを務めた後、2008年、政府の気候変動委員会の会長に。2005年には英国の年金制度の将来に関する報告書を、2008年には気候変動に関する報告書をまとめた。08年9月から金融サービス庁(FSA)会長。FSAの監督不行き届きに関して謝罪はしていないが、「間違いを犯した」と数度にわたり発言している。
by polimediauk | 2009-04-03 21:28 | 英国事情

日本も巨額支援―IMF

(以下、その後の調べで若干変わった部分があるので、「驚いた」という要旨はそのままなんですが、一部を変更してあります。)私の聞き間違いでなければ、G20ロンドン金融サミットで、国際通貨基金(IMF)の融資資金を拡充する件で、その内訳を聞かれたブラウン英首相は、中国が400億ドル、欧州が1000億ドル、日本が1000億ドル、と言ったようだ。「日本がIMFに1000億ドル」といったことに驚いた。(台湾、ルーマニアの記者からも「でかすぎないか」と驚かれた。)経済危機でこれほど払えるのだろうか?欧州(EU)で1000億ドルなのに、一国だけで1000億ドル???すごくでかい感じがするのだけれど、どうなのだろう。ほんのつぶやき。(追記:この1000億ドルの件は、ロンドンサミット前に決まっていたことを、後で知りました。コメント欄のゴンベイさんの説明をご覧ください。)参考:G20コミュニケhttp://www.g20.org/Documents/Fin_Deps_IFI_Annex_Draft_02_04_09_-__1615_Clean.pdf

 日本政府の説明は以下。:http://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/s_aso/fwe_09/kokufuku.pdf

IMFに対する最大1,000億ドル相当の融資(2月13日にIMFとの融資契約に署名)
IMFの資金基盤を拡充し、世界的な金融危機の影響を受けた国に対しIMFが柔軟かつ積極的に必要な支援を行えるよう、IMFへの最大1,000億ドル相当の融資契約を締結。



サミット会場で見た、初めての生のオバマ大統領だったが、とても疲れている様子で、眠そう+風邪+ゆっくり話していた・・・。普段はきっと、きびきびしているのだろう。途中から、会見場を抜け出す人も出ていた。
by polimediauk | 2009-04-03 08:43 | 政治とメディア
 メディアや金融・政府関係者以外にはほとんど関係がない感じのロンドンG20サミットに関して、前日のデモも含め、ベリタとニューズマグで書いています。もしおひまな方は・・・。

http://www.newsmag-jp.com/


http://www.nikkanberita.com/

 ロンドン・サミット会場はもうすぐ最後の会見が始まり、なんとなく、明るいムードです。
by polimediauk | 2009-04-02 22:44 | 政治とメディア