小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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 「足利事件」(1990年の女児殺害事件)で無期懲役が確定して服役していた菅家利和さんが、17年半ぶりに釈放された。もともと、有罪の決め手となっていたのがDNA鑑定だった。DNA鑑定の精度が飛躍的に向上したことが今回の釈放につながったが、英国DNA鑑定の生みの親は、鑑定を「過信するな」と言い続けている。

 2004年、在英報道陣がDNA鑑定の生みの親の教授と会見する機会があり、これをベリタなどに書いている。ご関心のある方はご覧になっていただきたい。

http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=200409101413335

http://www.newsmag-jp.com/archives/1328

他参考

http://en.wikipedia.org/wiki/United_Kingdom_National_DNA_Database

 日本の警察は英国のDNA鑑定(捜査に使う)をモデルにしている、と聞いたことがある。確かに、英国ではDNA鑑定が初期捜査の重要な部分を占めているようだ。現在、少なくとも400万人分のDNA情報を持っている。

 英国(ここではイングランド・ウェールズ地方)で問題なのは、警察で取り調べを受けた人はほぼ全員がDNAのサンプルを取られてしまうことだ。例えば飲酒運転、あるいは町で10代の少年少女が喧嘩をしていて、これをつかまえた場合もサンプルを取る。ただ単に、喧嘩に巻き込まれた人、その場にいた人もとられる場合がある。つまりは、無実の人のサンプルも、「いつか悪いことを起こす人」のサンプルとして取得されてしまう。また、いったん取られたら、警察は基本的にはその人が無罪であると後でわかったとしても、DNA情報を削除したりはしないのだ。

 これを機会に、日本でもDNA鑑定の是非やDNA情報の保管の在り方に関する議論が改めて起きることを願っている。

 また、「裁判・取り調べの可視化」という意味で、つまりは足利事件では自供も最初は大きな決め手になったと聞くけれど、これも問題かもしれない。

 英国で刑事ドラマを見ていると、取り調べの様子が出てくるが、その時、まず容疑者は隣に弁護士が必ず付き、また、取り調べ内容は録音されている。録音なんかしたら捜査がやりにくい、という見方もあるかもしれないが、もし推定無罪と言うか、容疑者=犯人とは決まっていない、という部分を大事にするなら、こういうことも最低限やってほしい。出ないと、もう「捕まったら最後・・・」となってしまいがちだろう。

 今回の足利事件報道で、警察側、検察側のコメントが知りたいところだが、報道したところはあるのだろうか?きっと、言いたいことがたくさんあるに違いないーー菅家さん中心の報道の裏で。
by polimediauk | 2009-06-05 10:11 | 英国事情
 NHKの朝のニュースでも伝えられていたが、ブリアーズ英地域・地方政府担当相が辞任し、スミス内相も次期内閣改造後に辞任する意向を示した。これで、ブラウン政権の将来に暗雲が・・というような内容だった。国会議員による、一連の「灰色」経費請求の実態報道で、4日行われる地方選挙、欧州議会議員選挙に何らかの影響があると見られている。

 辞任のきっかけを作ったのは、デーリ・テレグラフ紙の一連の報道だ。先月8日、下院議員の特別手当制度を利用して不当と思われる経費を請求していた政府閣僚のリストを紙面に載せた。その事情などを邦字週刊紙「英国ニュースダイジェスト」(5月28日号)に書いた。これに若干付け足したものが以下。(原稿脱稿時の5月20日頃の情報が中心になっていることに御留意願いたい。)

 家族が英国から持ってきたテレグラフ紙面を見ていると、保守党議員らも相当たたかれている。テレグラフは保守党支持の新聞ということになっているけれども、所有主のバークレー兄弟は英国のエスタブリッシュメントが嫌いだという声も聞いた。保守党自体も嫌いなのだろうか?そんなことが気になった。

(追記:年金担当大臣のジェームズ・パーネル氏も4日、辞任したようだ。ああ、びっくり。次はだれが?与党政権がバラバラだ。すごく大きな動きが起きている。政権交代も夢物語ではなくなった。熱い!英政局だ。)


英国の政界が大混乱に
ー国会議員と特別手当制度


 「次はいったいどの議員がターゲットに?」そんな戦々恐々感を抱かせる報道が、先月8日から連日、続いている。きっかけを作ったのは高級紙デーリー・テレグラフ。「別宅手当」と呼ばれる制度の仕組みを、何人もの下院議員たちが乱用している実態を明るみに出した。

 議員たちは年間最大で約2万4000ポンド(約344万円)相当の「追加費用手当」(additoinal costs allowance, ACA)(通称「別宅手当」)を利用できる。住宅ローンの金利や賃貸料、カウンシル税、光熱費他必要経費が主な対象となり、議員の申請で支払額が決まる。別宅手当は乱用に最もつながりやすいと言われており、2004年頃から一部のジャーナリストたちが情報公開法を利用してこの手当の内訳の公表を求めてきた。下院側はこの要望を拒否し続けてきた結果、情報公開をめぐる争いは裁判沙汰にまで発展。紆余曲折の後、昨年5月、下院が敗訴し、ついにブラウン首相を含む一部の議員及び元議員に関する経費の内訳が公表された。

 今年3月、スミス内相が選挙区にある自宅を別宅として届け出て、住宅手当10万ポンド以上を不正に受け取っていた事態が発覚する。さらに、夫がポルノ映画の視聴料10ポンドを経費の一部として請求し、失笑を買う事件もあった。政治家に対する国民の不信感は高まりつつあった。

―辞職・職務停止処分者が続出

 5月から始まったのが、下院議員の経費に関する連日の報道である。情報公開を求めるジャーナリストたちの努力が実り、下院の議員手当管理事務所が今年7月、全ての下院議員の経費を公開予定することになっていたが、テレグラフ紙がこの情報を事前に入手。同紙のスクープ報道に追随した各紙の誌面は、下院議員の経費問題で一色になった。

 テレグラフが明らかにした「灰色経費」の請求者はブラウン首相、ストロー司法相などの政府閣僚や、保守党、自由民主党など野党議員、無所属のクレア・ショート元国際開発担当相なども含まれ、政界全体に疑惑のまなざしが向けられることになった。報道に対し、多くの議員は「合法に経費を申請している」と反論したが、選挙民からの不信の高まりを察知し、経費の一部を返還する議員も続出。報道から1週間で約12万ポンド分が国庫に返却された。

 既に完済していた住宅ローンを経費として請求していたエリオット・モーレイ元環境・食料・農村省閣外相が職務停止処分となり、野党保守党のマッケイ議員も党首顧問を辞任した。住宅手当を不明瞭な形で利用していたとされるマリク議員も法務省政務次官の職を辞任せざるを得なくなった。さらに手当の内訳の公開を拒んできたマイケル・マーティン下院議長もついに世論の風当たりに耐えられず、辞任を発表した。

 ブリアーズ地域・地方自治相も6月3日辞任し、スミス内相も次期内閣改造時には辞任の意向を表明。次期総選挙(来年5月までに行われる)には立候補しないと表明する政治家も続出している。

―政治家は信頼を取り戻せるのか

 党議員に関する手当の詳細をウェブサイトに掲載することを決定した野党保守党を始め、各政党はイメージ回復に懸命だ。だが、手当に関する規則自体が現状に合っていないという声も根強く、政治とお金に関わる問題を吟味する「公務員基準委員会(Committee on standards in public life)」が年内に出す提案を元に、本格的な改革が行われる見込みとなっている。英政界の混乱はしばらく続きそうだ。

―主な経過

2004年10月:在英の米国人ジャーナリスト、ヘザー・ブルック氏が下院議員の経費に関わる情報の開示を申請。何度も拒絶される。
2005年1月:情報公開法成立。
2007年6月:情報長官が情報開示を支援するが、領収書の公開は支持せず。
2008年2月:情報裁判所が領収書の公開を命じる。下院が控訴。
2008年5月:ブルック氏が裁判に勝ち、一部下院議員の「別宅手当」の内訳が領収書付きで公開される。
2009年3月29日:スミス内相がポルノ映画の視聴料を経費として請求していたことが発覚する。
5月8日:デーリー・テレグラフ紙が議員の経費請求の実態をスクープ報道。連日、すべての政党の議員による「灰色経費」の状況が暴露される。
11日:ブラウン首相が謝罪
12日:野党保守党が改革案を出す
14日:マッケイ保守党党首顧問が引責辞任。モーリー元環境・食料・農村省各外相が職務停止処分。
15日:マリク議員が法務省政務次官職を辞任。保守党が経費請求の状況をネット上に掲載開始。
17日:経費情報公開を拒んできたマーティン下院議長に対し、クレッグ野党・自由民主党党首が辞任を求める。
19日:マーティン下院議長が、6月21日に議長を辞任する意向を表明。下院議長が辞任を強いられるのは1695年以来。
23日:テレグラフが、一連の報道の情報源は元陸軍特殊空挺部隊員だったことを明らかにする。
6月3日:ブリアーズ地域・地方政府担当相が辞任

―暴露された政府閣僚の「灰色経費」請求の例

ダーリング財務相:エジンバラにある、家族が住む家を別宅として別宅手当をもらい続けた後、2005年9月、これを本宅として、南ロンドンにフラットを税金で購入。

ブリアーズ地域・地方担当相:ロンドンの別宅を売却の際、売却額の40%をキャピタルゲイン税(資本の売却にかかる資本利得税)として支払うはずだったが、払わなかった。

マンデルソン企業相:欧州委員に任命されて議員職を辞職した後、選挙区内の家の修繕費として3000ポンド(約43万円)を請求した。

パーネル労働・年金相:ロンドンのフラットを別宅として申請。2004年、売却時には税務当局に本宅だったと説明し、キャピタルゲイン税の支払いを免れた。

スミス内相:イングランド中西部レディッチにある、家族が住む家を別宅とし、ロンドンの姉妹の家の寝室の1つを本宅にして、13万8000ポンド(約1980万円)に上る別宅手当を請求した。

―経費問題で処分を受けた主な議員

デービッド・チェイトン労働党議員:すでに住宅ローンの支払いが終わっていた別宅について、1万3000ポンド(約186万円)の住宅ローン支払い分を経費として受け取っていた。労働党議会会派から停止処分。

エリオット・モーリー議員:すでに住宅ローンの支払いが終わっていた別宅について、1万6000ポンド(約229万円)住宅ローン支払い分を経費として受け取っていた。労働党議会会派から停止処分。

シャヒド・マリク労働党議員:経費使用に疑問が呈され、法務政務次官職を辞職。

アンドリュー・マッケイ保守党議員:下院議員である妻とともに、一家は2つの別宅をそれぞれ届け出て、手当を受け取っていた。「判断に間違いがあった」として、デービッド・キャメロン保守党党首の顧問役を辞任。

―正当な議員手当の内訳

*別宅維持手当

 選挙区がロンドン中心部の外にある下院議員に対して、別宅の維持費用として支給される「追加費用手当」は、通称「別宅」手当ともいわれる。2008-2009年の支給限度額は約2万4000ポンド(約344万円)。手当は別宅の住宅ローンの支払いや光熱費などに充てられる。昨年までは250ポンド(約3万5000円)以下の支出については領収書が必要とされなかったが、現在は25ポンド(約3500円)に縮小された。

*給与や手当

 議員の年間給与は約6万3000ポンド(約900万円)。これに加え、事務所の維持、本宅や別宅の維持費、2つの住居を移動する際の交通費などが支給される。2007年10月公表の資料によれば、平均請求額は議員一人当たり約13万5000ポンド(約1930万円)。

*旅費

 旅費に限度額はないが、いくつかの規則が設定される。議員としての仕事に関わる国内の移動に限り、航空便ではビジネスクラス、電車ではファーストクラスの使用が可能。欧州内では年間3回の出張と家族は30回の片道旅行が可能。2006-2007年に旅費として議員が請求した額は450万ポンド(約6億46000万円)に上った。

*ロンドン手当

 ロンドン中心部の選挙区の議員は7500ポンド(約1000万円)までを請求できる。選挙区がロンドン郊外である場合、これを受け取るかあるいは追加費用を請求できる。

*臨時費

 議員が仕事を行うために生じた費用で、宿泊費、事務所機材費、消耗品など、最大約2万20000ポンド(約315万円)を請求できる。

*スタッフ手当

 議員が雇用するスタッフの費用で、年間約10万ポンド(約1430万円)が限度。家族や親せきを雇用してもよいが、その場合は届け出をする。

*文具手当

 議員が使用する文具費用には上限がないが、選挙区民との通信など議員活動のために使用するに限る。

*IT手当

 議員一人当たりに提供されるのはPC3台、プリンター、スキャナーで、約3000ポンド(約43万円)相当。

*終結手当

 議員が亡くなった、退職した、あるいは議席を失った場合、業務を終結させるために使った費用を対象と、手当額上限は約4万ポンド(約570万円)。

*通信手当

 年間約1万ポンド(約143万円)まで請求可で、選挙区のニュースレター、ウェブサイト維持、名刺など。所属政党の資金集めや選挙戦には使えない。

*再定住手当

 議席を失ったあるいは退職する場合に出る手当で、議員の年齢や議員としての勤務の年月によってきまる。年間所得の半分から全額の間となる。

(参考:BBC)

ー珍しい経費請求品目

―製氷皿(1ポンド50ペンス、約70円)、ジョン・リード元保健相
―はたき(一本99ペン)、スティーブン・ウェッブ自由民主党議員
―馬ふん(一袋70ペンス)、デービッド・ヒースコートエイモリー保守党議員
―トイレのふた維持費(112ポンド52ペンス)、ジョン・プレスコット元副首相
―電球交換費(住宅維持費135ポンドの一部)、デービッド・ウィレッツ保守党議員
―トイレット・ペーパーのホルダー(35ポンド)、ポール・マーフィーウェールズ担当大臣
―雇用センターとケルティック公園との間のお抱え運転手代(1400ポンド以上)、マイケル・マーティン下院議長

(参考:デーリー・テレグラフ)

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 「フリッピング」。下院議員が、「本宅」、「別宅」という住居の定義をひんぱんに変えること。ある資産を買い、その後素早く売却して利益を得る、という意味もある。英国ではロンドン中心部以外に選挙区を持つ下院議員に対しては別宅手当が支給され、改装も含めた別宅の維持費はこの中で賄われる。一部の議員らは、改装が必要な住居を別宅と称し税金でこれを改装し、後これを本宅としたり、改装で住宅価値を増大させた別宅を売却して、利益を得ていた。経費に関する今回の騒動を受けて、与党・労働党及び野党保守党は党議員に対し、フリッピングの禁止を命じた。
by polimediauk | 2009-06-04 10:46 | 政治とメディア