小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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 アフガニスタンへの英軍の駐留(今8000人ほど)で、死者が相次いだために、アフガンに軍を送ること自体への疑問、改めて意義を問う声が英国内で強まっている。メディア報道を見ればそんな論評が多いし、28日付のインディペンデント紙に掲載された世論調査でも、即時撤退を望む声が過半数(52%)。それでも、7月中旬頃のガーディアン紙の調査では、この戦争の支持者が反対者よりやや多く、また、継続したICM調査(この記事にある)でも、「アフガニスタンを好転させている(違いを作り出している)」と考える人が33%いる。

http://www.guardian.co.uk/uk/2009/jul/13/public-opinion-poll-afghanistan-war

 現時点で、「犠牲者が増えたので」+「アフガン派遣の反対の声が高まっている」・・・とだけ結論づけるとすると、「いや、まてよ」とも思う。「例え犠牲が出ても、やるべきことをやって、例えばタリバン征伐など、全うして欲しい」、「もう少しがんばって欲しい」と考える部分が意外と根強いのではないかと思うのだ。

 先日、英兵の遺体を棺に入れて運ぶ車の通過に追悼の意を示す儀式が注目を浴びている英南部の町、ウートン・バセットに行ってきた。そこでは、やはり、遺族や関係者、元軍人などが来るわけだから、アフガン派遣を支持する人が圧倒的に多い。しかし、全国各地から他の町の住民も詰め掛けていること、メディアが集まっているので、頭がクールなはずのほかのジャーナリストたちにも聞いてみたのだが、「犠牲者が出た=即撤退を」という声には必ずしも結びついていない感じがした。つまり、軍事行動に出る、という国の守り方が、もう何百年も続いていて、当たり前のことになっている。もちろん、日本生まれの私にとっては、ピンと来ない。しかし、そうなのである。戦勝国はすごいものである。ずーっと続いてきている。

 これがまた、イラク戦争の場合は、大量破壊兵器がない・なかった・ないのではないか、また、違法の戦争だったという認識があって、戦争の反対デモは非常に大きくなった。しかし、アフガンの場合、「テロ防ぐ」という大儀に関しては、広く認められているようなのだー世論調査を見る限り。

  アフガンの英軍死者――ゆっくりどんどん死んでいるーに関しては、もう何年も前から、英国内の一部で問題視されていたが、一般国民の間で強く認識されるまでにはずい分時間がかかった。やっと最近になって、人々の意識に上ったかな、という感じだと私は見ている。

 ウートンバセットの様子は「ニューズマグ」に今日明日、出す予定。

「アフガン戦争 英兵の遺体を見送る人々とともに①」
http://www.newsmag-jp.com/archives/1742

 
by polimediauk | 2009-07-30 20:03 | 政治とメディア
 BBCニュースで見ていて、空恐ろしくなったのが、政府がTwitter使用を官僚に勧めている、という話である。

http://news.bbc.co.uk/1/hi/uk_politics/8171597.stm
http://blogs.cabinetoffice.gov.uk/digitalengagement/

 何でも、官邸のウェブサイトを通じて、「ツイッターを使うように」と指令を出し、これを説明するため、20ページに渡る書類を作成した。ツイッターでつぶやいたり、返事を書いたり読んだりで、1日に1時間は費やすことになりそうだ、という。具体的には、1日に2回から10回は「つぶやき」を書こう、と勧める。

 官邸広報官の話によれば、インターネットの利用が国民の間で普及し、コミュニケーションの重要な一手段となっており、政府としても、「デジタル・チャンネルを有効に使う能力を培う必要がでてきた」と説明する。このデジタルチャンネルの1つがツイッターなどのSNSだという。既に、官邸のツイッターを100万人以上がフォローしている。

 それにしても、もっと他にやることがあるのでは?と思うけれど。

 今、英国では本当に「ツイッターは格好いい」というイメージが広がっている。
by polimediauk | 2009-07-29 05:03 | 政治とメディア
 前回MI6について書いたが、BBCのラジオ4が3回にわたり、特集を組む。明日(27日)の朝9時から放送。(海外からも聞けるはずである。)

http://www.bbc.co.uk/programmes/b00ls8ll

 朝日新聞では、月に2回ほど、月曜日に「GLOBE」という折込特集を組んでいる。27日付けの「メディア最前線」コーナーに、BBCに関する記事を寄稿した。掲載から数日すれば、GLOBEのウェブサイトにも載るはずである。ご関心のある方は: http://globe.asahi.com/ 内容はBBCの1人勝ち状態の現状を書いた。他局の経営が苦しくなっているので、テレビライセンス料を主な収入源としたBBCの大きさが特に目立ってしまうー。地方ニュース(ITVが支えきれない)は、今後一体どうなるか?BBCだけになれば、画一的になってしまう。
by polimediauk | 2009-07-27 00:25 | 放送業界
 英国でアイフォーンはどれだけ売れたのだろう?アップル社によれば、世界中では2170万台が販売され、英国では100万台ほど。英国で販売された携帯電話の総台数からすれば、1%ほど。多くはない。(メディアで頻繁に書かれる・報道される割には、実はほんの一握りの人が持っているのではないか?という私の予測がほぼ裏打ちされたように思う。)しかし、ドイツ銀行の予測によれば、英国の携帯電話業界の利益の20%をアイフォーンが生み出している。これに人気のブラックベリーを入れると、台数では5%、利益では58%となる。今後も、この2機種は売り上げを伸ばすと予測されている。

 今月上旬、海外の諜報活動に従事する「情報局秘密情報部」(通称MI6)の新長官に就任予定の男性の私生活に関する情報が、SNSサイト「Facebook」に掲載されるという珍事件があった。よりによって、秘密裏に情報を集めるはずの組織のトップの個人情報が世界中のFacebook利用者に公開されたとあって(現在までに削除された)、この「由々しき事態」を巡って、英国内で議論が起きた。「英国ニュースダイジェスト」(7月23日号)に、、MI6の新長官の横顔や英国の諜報機関の役割について書いたが、以下はそれに加筆したものである。

 なお、ネットで「エシュロン」に関して情報を集めていたら、「エシュロの国際法的問題」という文書があった。

http://www.soejima.to/kensho/004.html

 アマゾンでは「エシュロン―暴かれた全世界盗聴網 欧州議会最終報告書の深層 」という本も出ている。

 資料は主に公式ウェブサイトを見た。下院の「インテリジェンス・安全保障委員会」の年次報告書(Intelligence and Security Committee Annual Report 2007-2008)も参考にした。

SNSサイト掲載で大慌て
 英諜報機関と情報公開


―表に出た身元情報

 海外で諜報情報を収集・分析する英政府機関「情報局秘密情報部」は通称MI6(エムアイ・シックス)と呼ばれ、ジェームズ・ボンドがスパイ役として活躍する小説・映画でもお馴染みだ。ロンドンのボックソールにある通称「レゴランド」と呼ばれる巨大なビルも超有名だ。その存在自体はおなじみだが、実際にどんな具体的な活動を行っているのか、誰が勤務しているのか、年間の予算やスタッフの人数は?となると、肝心な部分はベールに包まれている。

 7月上旬、この秋からMI6の新長官に就任予定のジョン・ソーズ現国連大使の個人情報が、世界的に人気のSNSサイト「Facebook」に掲載されるという事件が起きた。

 ソーズ氏の長官就任予定は既に先月報道され、顔写真や経歴などは紹介されていたものの、Facebookには海水パンツ一枚でビーチ遊びをする氏の写真、おどけた格好でカメラに向かう氏の妻と娘の写真が掲載されていた。夫妻のロンドンのアパートの住所や友人たちの情報も載っていた。妻のシェリーさんはこうした情報へのアクセスに制限をつけておらず、世界で2億人とも言われるFacebookの利用者に向かって情報が発信された。「メール・オン・サンデー」紙がこの事実を報道後、外務省に連絡を取ったところ、情報は削除された。

 デービッド・ミリバンド外相は「ソーズ氏が『スピード』社の水着を着ていたことが分かったぐらいで騒ぐ必要はない」として、今回の事件を重要視しない発言をした。しかし、就任前とは言っても、ソーズ氏の家族は危機管理が甘いという批判の声が一部ではあがった。タリバンなどのイスラム原理主義集団が、FacebookやマイクロブログのTwitterを通じて、米英軍の情報を収集しているとも言われている。

―諜報機関、オープン化へ

 英国の情報機関は、長年、存在自体が公式には秘密だった。その役割が明文化されたのは1994年の情報情報法が施行されてからだ。

 MI5の元長官ステラ・リミントン氏(1992年―1996年就任)が現職時代、一部メディアが写真をスクープ掲載した。これに押されるようにして、1993年、政府はMI5の活動とリミントン長官の顔写真が入った小冊子を発行した。MI5の活動や役割が公式に説明され、長官の顔写真が公表されたのは、これが初となった。現在のジョナサン・エバンス長官はメディアとの公式会見の場を持ち、内容を報道することが許される。顔写真がウェブサイト上に掲載されており、誰もが使えるようになっている。

 国際テロの脅威が高まり、人員増強の必要性から多様な人材を確保するため、2006年、MI6は初めて新聞広告で工作員の募集を開始した。現在では、MI5同様、公式ウェブサイトを立ち上げ、これまでの歴史の説明や人材募集を行っている。しかし、MI5と比較しても、MI6は秘密のベールが未だ厚く、ジョン・スカーレット現長官の写真はウェブサイトには掲載されていない。次期長官になるような人物が個人情報を無制限に掲載してしまうというのは、諜報関係者からすれば前代未聞で、あってはならないことだった。しかし、これだけ個人情報の発信が日常化してしまった現在、起こるべくして起こった事件だったともいえるのかもしれない。

―MI6の次期長官のプロフィール

ジョン・ソーズ(John Sawers)、53歳
現国連大使。11月から新長官に就任予定。英南部バースで育ち、ハードル飛びや演劇に熱中する高校時代を過ごす。ノッティンガム大学で物理と哲学を専攻する。1970年代には労働党員にも。1977年からの数年間、英政府のスパイとして働いていたという噂がある。1982年以降は外交官としてシリア、エジプト、南アフリカ、米国で勤務。ブレア前首相の片腕として、北アイルランド、イラク、アフガニスタン、バルカン諸島における政策アドバイザーとして活躍。複雑な交渉過程や世界情勢を分かりやすく説明できる人物としてメディアでは評判が高い。教師の妻との間に3人の子供がいる。スポーツ、ダンスを楽しみ、ボンド映画で主役を演じたピアース・ブロスナンに雰囲気が「似ている」という人もいる。

MI6(SIS) Q&A

―情報局保安部(SIS)が通称MI5(軍情報部第6課)となっているのは何故か?
 
 1930年代後半、SISの任務を含む海外での諜報活動全体がMI5と呼ばれていた。活動内容を特定せずに利便的に使われていた。MI5の使用は第2次大戦中に頻繁に行われるようになり、現在でも、SISの外ではこの言葉の方が使われるようになった。

―何故MI5の長官は「c」と言われるのか?

 最初の長官がマンスフィールド・スミス・カミング海軍大佐だった。大佐は書簡の最後に「c」と緑のインクで署名するのが常だった。それ以降、どの長官も「c」と署名する。自分の身元情報を出さないという意味でも便利な手法だった。

―イアン・フレミングの書いた、MI6のスパイ、ジェームズ・ボンドの一連の小説や映画は、どれぐらい事実を反映したものなのか?

 現実に基づいてフレミングはボンド像を描いたが、現実をそのまま書いたのでは書籍を売ることはできないので、脚色をせざるを得なかった。映画化で、さらに現実と想像の世界の溝は広がった。しかし、MI6で勤務を望む人たちは、この溝をいくらかでも狭めるような事件に出くわすことを想像するだろうし、ボンドのようにお国のために働いて、実りが多くかつ刺激も多い職につく事を夢見ている。

―働くにはどうするか?
 
 ウェブサイトから応募できる。志が高く、ダイナミックな人員を募集している。http://www.sis.gov.uk/output/sis-home-welcome.html

(資料:公式ウェブサイトより)

―関連キーワード

Echelon:エシュロン、「英米協定」に合意した5ヵ国(米国、英国、オーストラリア、カナダ、ニュージーランド)の間で使われている、世界の通信傍受、収集、分析のネットワークを指すコードネーム。英米協定とは1940年代、英国と米国が結んだ通信傍受のための協定で、これに後、英連邦諸国3カ国が加わった。電話、電子メール、インターネット、人工衛星などほとんど全ての手段の通信情報を傍受することができると言われている。英国の政府通信本部(GCHQ)など5カ国の諜報機関がこのシステムを通じて情報を共有。1960年代初期までは旧ソ連と東欧圏の軍事及び外交に関わる通信を傍受するためにもっぱら使われたが、現在ではテロ、麻薬取引、政治及び外交インテリジェンスに関わる通信も傍受するようになっている。欧州議会の2001年の調査報告書は世界数箇所に通信衛星から情報を傍受する基地があるとし、その中の1つとして青森県にある三沢基地をあげた。

―英国の諜報機関の比較

略名:MI5 (Military Intelligence section 5)=軍情報部第5課
正式名:SS=Security Service=情報局保安部
創設:1909年。秘密情報局として創設。情報保安法(1989年)と諜報情報法(1994年)によって、名称が成分化された。
本部所在地:ロンドンのテムズハウス
人員数:約3500人(40%が女性、54%が40歳未満)
予算:複数の情報組織を含め、2010年で約20億ポンド、約2990億円の予定。個別の予算は公表されていない。
組織のトップ:ジョナサン・エバンス(2007年ー)
役割:英国内の治安を維持する責任を有する情報機関。内務省指揮下に置かれる。
逸話・こぼれ話:第2次世界大戦中、敵国のスパイを見つけ、英国のスパイに変貌させて敵国に偽の情報を流させるという「ダブル・クロス」手法が数々の成功をおさめた。

略名:MI6(Military Intelligence section 6)=軍情報部第6課
正式名:SIS=Secret Intelligence Service=情報局秘密情報部
創設:1909年。秘密情報局と思想説。情報保安法(1989年)と諜報情報法(1994年)によって、名称が成分化された。
本部:ロンドンのボックソール
人員数:不明。約2500人から4000人規模という報道がある。
役割:英国の国家安全保障と経済上の安定を保護するため、海外での人による諜報活動に従事。外務省の指揮下に置かれる。
組織のトップ:ジョン・スカーレット(2004年ー現在、2009年10月末退任予定)
逸話、こぼれ話:イアン・フレミングの小説007シリーズでは架空MI6要員のジェームズ・ボンドが大活躍。

略称 CHQ(Government Communications Headquarters)=政府通信本部
正式名:同じ
創設:1919年。政府暗号学校(Government Code and Chipher School)として創設。1946年、改名。
本部:英南西部グロスターシャー州のチェルトナム。南西部コーンウオールと北部ヨークシャーにも施設がある。
人員数:約5500人
組織のトップ:イアン・ロッバン(2008年ー現在)、
役割:世界の通信傍受、収集、分析に関わる。外務省の機構に含まれるが、実質的には首相官邸直属。
逸話、こぼれ話:第2次世界大戦時、前身の政府暗号学校が、ドイツの解読困難な暗号「エニグマ」を解読した。
by polimediauk | 2009-07-24 21:12 | 英国事情
 「プレスガゼット」のサイト(7月6日付)に、デイリーテレグラフ紙が通信社の原稿を書き直し、これに架空の名前をつけて署名・自社記事として出している、という報道があった。

http://www.pressgazette.co.uk/story.asp?sectioncode=1&storycode=43927&c=1

 元々は週刊誌「プライベート・アイ」(ユーモア誌)に書かれていたネタで、これによると、数々の架空の名前を使って署名記事が出ているという。こうした現象を検証したのが、メディア・スタンダード・トラストという団体だ。複数の新聞の同じトピックについて書かれた記事を比べてみると、「非常によく似ている」ことが分った。つまりは、通信社記事を社内で加工していた、と。「通信社の記事を自社用に編集しなおして、署名記事に変えるということ自体が問題だが、架空の名前を使っていたというのは行き過ぎている」とトラストのマーティン・ムーア氏が自分のブログで書いている。

 トラストがテレグラフに問い合わせをしたところ、「署名記事でないと見た目がおかしい感じがしたので」デザイン面から考えてそうした、ということで、それほど大事とも思っていない風であったという。「他のところもやっているのだから」と。

 この記事についているプレスガゼット上のコメントがまたおもしろい。そのコメントの信憑性自体を疑ってみる必要もあるようだが、どうも業界の手の1つになっているようだ。通信社記事の書き直しでなく、つまり架空の名前を使うというレベルまで。

 よくある架空の名前のパターンの1つが、例えばスポーツ部門のデスクの息子2人のファースト・ネームをくっつけて1つの名前を作るなど。何だか笑ってしまった。

 日本の新聞界ではこんなことは許されないだろう。英国の新聞界はすごいことになっているようだ。新聞=社会の木鐸・・・という考えは薄いのだろう。めちゃくちゃだなあと思う。私自身はあまり気づかないのだが、英国の新聞は間違い(数字など)が多いとも聞く。しかし、この「めちゃくちゃさ」は、必ずしも悪くないとも思う。架空の名前を使うこと(!!)を奨励・賛同するわけでは決してないが、「新聞なんて、こんなものさ」という低い期待をさせておいて、「いや、待てよ、良いことも言っている」・・・と「発見」するのも楽しい。
 
by polimediauk | 2009-07-18 05:05 | 新聞業界
 アフガニスタンで、英兵の死者が相次いでいる。たった1日で8人亡くなり、アフガンで命を落とした英兵の数は184人となった。どこの新聞もこれがトップに来ていた。

 本当に痛ましい限りだが、「一体、それでタリバンの方は何人殺されたんだろう」?と思うとこれまたさらに恐ろしい。英国と日本は似ているという人が時々いるが、この点をとっても、全く違う考え方の国であることが分る。

 テレグラフ紙に、ローリースチュワートという人が、「勝てない戦争だ」という趣旨の論考を寄せている。

http://www.telegraph.co.uk/news/worldnews/asia/afghanistan/5797197/Afghanistan-a-war-we-cannot-win.html

 民主的国家を作り上げ、タリバンを征伐し・・・なんていう壮大な+非現実的な目標はやめて、まずは現在の派兵数をぐっと減らし、アルカイダを征伐するという目的のために、2000人ほどのSASを送るべき、などと書く。内戦が続き、中央集権政府が事実上機能していないような国で、外国勢力が短期で壮大な+不明瞭な目標の実行などをできるわけがない、・・・と。スチュアート氏は本も書くが、元兵士、元外交官で、今はNGO活動もやっている。

 この痛ましい死をきっかけに、大きな方向の見直しが始まるといいのだが。アメリカと一緒に夢物語を追ってはいけないのだ。

 反戦運動は大きく高まっても、軍隊自体への批判は、「わが息子たち、娘たちを戦場に送っているから」という理由でこれまであまり大きくならなかったと思うけれど、これを機会に是非是非、方向転換をしてほしい。「帝国」はもうやめたほうがいいのだが。

***

ご関心のある方は、「ニューズマグ」3月掲載の以下もご参考に。

アフガニスタンの将来を考えるー英中東専門家の見方:「米軍増派の効果は期待薄」


http://www.newsmag-jp.com/index.php?s=%E3%82%A2%E3%83%95%E3%82%AC%E3%83%8B%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%B3
by polimediauk | 2009-07-12 06:20 | 英国事情

英国のTwitter 人気

 心に浮かんだことを140語で表現する、マイクロブログ・サービスのTwitterが英国でも人気を博している。俳優スティーブン・フライなど著名人のつぶやきが読めることで話題沸騰となったが、6月、イランの大統領選挙を巡る紛争では、政府の検閲を逃れて国民の生の声を伝える媒体になり注目された。Twitterの由来やその影響力に関して、「英国ニュースダイジェスト」(7月9日号)に書いた。以下はそれに付け加えたものである。内容は基本をまとめた形で、他にもたくさん論点が(有名人になりすますTwitterなど)あるのだが、まずは第一弾である。ジャーナリズムの観点から、前にも少し触れたが、イランの紛争報道とTwitter の関係を以下のサイトからたどってゆくのも面白いのではないかと思う。

Journalism Rules Are Bent in News Coverage From Iran
http://www.nytimes.com/2009/06/29/business/media/29coverage.html

 それと、英国の雰囲気だが、Twitter =最新のハヤリもの、何かしら格好いいもの、というイメージがあるような気がする。著名人がやっている、と部分がまず表に出たからだと思う。

有名人が続々参加
人気のTWITTERとは?


―はじまりは

 日々の感想やつぶやきを140語以内でつづる、米国生まれの人気マイクロブログサービス「Twitter」(ツイッター)が、英国で存在感を増している。

 もともとの始まりは2006年3月21日(公式オープンは7月)。米ミズーリー州出身のプログラマー、ジャック・ドーシー(現在32歳)、マサチューセッツ州出身のソーシャルネットワーキングサービスの専門家ビズ・ストーン(35歳)、ネブラスカ出身の起業家エバン・ウイリアムズ(37歳)が協力して作り上げた。オンライン上で互いに何をしているか手短に報告しあっている間に、「簡単なミニブログを作る」というアイデアを考え付いた。オバマ米大統領や米歌手ブリットニー・スピアーズ、英国では俳優スティーブン・フライや司会者ジョナサン・ロスなど著名人が使うようになって、知名度、人気度が劇的に高まった。

 Twitterの醍醐味はまずその使いやすさ。名前やメールアドレスなどの入力で簡単に登録が可能で、登録後は「今何をしているの?」という問いに答える形で今やっていることや心に浮かんだことを情報発信するだけ。利用者全員につぶやきを公開することもできれば、特定の利用者のみが読めるようにもできる。著名人や他の気になる人物が利用していれば、その人の「follower」(フォロワー、追いかけ人)となって、行動を追いかけることもできる。例えばオバマ大統領が、あるいはブリットニー・スピアーズが今この瞬間何をやって、何をつぶやいているかを、瞬時にキャッチできるのだ。著名人、家族、知人・友人たちと「直接」つながることができる、生の声が聞こえるーこれはTwitterならではの楽しさだ。

―表現行為としてのTwitter

 Twitterは、人との親交を深めるための社交ツールであるほかにも、既存メディアでは扱われない市民の生の声を瞬時に外に発信するというジャーナリズム・ツール、あるいは政治的目的のために意見を結集する政治のツールにもなり得る。

 具体例がインド・ムンバイのテロ(08年11月)、米ハドソン川に不時着水した航空事故(1月)、オーストラリアで起きた大規模山火事(09年2月)などだ。現場にいあわせた市民が直接目撃した事情を携帯電話を通じて情報発信していった。

 最近の例にはイランがある。6月の大統領選の後、現在まで政情不安が続くイランでは、国内の反体制のデモなどの報道に厳しい報道規制が敷かれた。市民が直接自分たちの声を外に発信するためのツールの1つになったのがTwitterだった。6月中旬、Twitterはメインテナンスのためサービスの一時停止をしていたところ、米国防省の官僚からメインテナンスを遅らせるよう依頼を受けた。Twitterが「重要な通信手段」と認識した上での異例な依頼だった。

 いざとなったら強力な政治運動のツールにもなりうるほどパワフルなTwitterだがその楽しみ方は利用者によって千差万別だ。単なる流行ツールを超えた存在になるだろうか。

―Twitterの始め方

①www.twitter.comにアクセスする
②サイトの説明に沿って、自分のプロフィールを入力する。
③「今何をしていますか」という問いに答える。ここで文章を入力することで、自分の最初のつぶやきができる。Twitter人生の始まり。誰に自分のつぶやきを公開するかを選択できる。
④つぶやきを追いかけたい人をサイトのFind peopleから探す。特定の人物のfollower=追いかける人になれば、その人物のつぶやきを適宜受け取ることができる。
⑤他の人から何か返答が来ていないかどうかを確かめたり、www.twitscoop.comで流行をチェックする。

―Twitter語録

Fllower:フォロワー。あなたのつぶやきを追う人
Re-tweet:誰かから送られてきたつぶやきを他人に転送する
Tweet:Twitterで情報発信する。
Tweet-up:Twitterを使う人(Twitterer)たちが直接会うこと。
Twestival: 世界中のTwitterを使う人たちが毎年集うイベント。
Twitterhood/Twitterville:あなたのつぶやきを読む人たちのグループ
Twitterfeeds:特定のニュースをwitter口座に送付するサービス
Twitterific, Tweepler, Tweetie, Tweetdecic:Twitterのつぶやきをコンピューター上あるいは携帯電話の中で整理・分類するソフト
Twitpic:携帯電話で写真を撮り、その画像を自分のfollowerたちに送付するソフト
Twoosh:140語丁度でメッセージを作ること
(参考:テレグラフ紙他)

―Twitterを使う著名人

バラク・オバマ米大統領:世界中にfollowerを25万人持つ。大統領選ではTwitter, Facebook,ウェブサイトを利用したインターネット戦略が大きな力を発揮した。
スティーブン・フライ、俳優
―「ビルの26階のエレベーターに閉じ込められちゃったよ!何時間もこのままかも。」Followerは12万人。
ブリットニー・スピアーズ、歌手
―「昨日はプールのそばでぶらぶらしてから、ツアーのための衣装をチェックしたわ」。
ジョン・クリーズ、俳優
―「で、他の人はこれを使って本当に連絡しあっているんだね?」
ジョナサン・ロス、テレビ司会者
―Followerは5万5000万人。
アル・ゴア、元米副大統領候補、環境運動家
MCハマー、歌手
ラッセル・ブランド、タレント
―Followerは2万人。
アラン・カー、コメディアン
デミー・ムーア、米女優
―「隣で建設工事。朝7時にハンマーを叩く音が。ひどい目覚めだわ!」
アーノルド・シュワルツネッガー、米カリフォルニア知事
シンプソンズ(コミック番組)
ジミー・カー、コメディアン
アンディー・マリー、テニス選手
―「ホテルのロビーで、ラッパーのプロディジーに会った!」
ボリス・ジョンソン、ロンドン市長
―本人のサイト「火災警報が鳴って市庁舎から避難した!」
―偽者のサイト「リリー・アレンを有名人大使にしようと思う」
ハリエット・ハーマン議員
サディク・カーン議員
ジェイミー・オリバー、シェフ
ヨーコ・オノ、アーチスト、故ジョン・レノンの妻

―関連キーワード

Micro blogging:マイクロブログ、ミニブログ、つぶやきブログ。コンピューターや携帯電話などを使って、短い文章や写真、動画などを特定の人に向けてあるいは不特定多数の人に向けて発信すること。発信にはサービスを提供するウェブサイトへの投稿の形をとる。投稿内容は短い文章が主となるため、更新が容易で、ほぼリアルタイムの通信が可能。「何をしているの?」などという問いに答える形での投稿が一般的。Twitter, Plurk, Jaiku、Timelogなどが著名。ソーシャルネットワーキングサービスのFacebookも一種のマイクロブログと言える。ハーバード大学の調査では、Twitterの交信のほぼ90%は登録したユーザーの10%が発信したものだそうである。
by polimediauk | 2009-07-10 18:22 | ネット業界
 昨晩(8日)、夕方のチャンネル4のニュースを見ていたら、「ガーディアンのスクープ!」として、大衆紙ニューズ・オブ・ザ・ワールドが政治家を含めた複数の著名人を盗聴していたことが分った!!という報道があった。その中には元副首相のジョン・プレスコットや、コメディアンのレニー・ヘンリーなども入っていた!!と。この盗聴事件そのものの発覚は2年前で、既に盗聴を王室に対してやっていた記者は辞職の上、4ヶ月の禁固刑となり、当時の編集長も辞任している。そして、その当時の編集長アンディー・コールソンは今、保守党のコミュニケーション部門の統括役となっている・・・。さて、不面目な状態になったキャメロン保守党党首は、コールソンを辞めさせるのだろうかー?

 テレビ画面には大きくルパート・マードックの顔写真が出た。マードックは米ニューズコープのトップだが、ニューズオブザワールド紙はその傘下にある・・・。

 驚いたニュースだったが、あれ?と思って見ていた。というのも、盗聴なり、他の違法(すれすれ)の手を使うのはニューズオブザワールドだけではない。また、ガーディアン自体もぎりぎりの手を使っていたはずで、そのくだりはガーディアンのジャーナリスト(今はフリーの)ニック・デービーズが書いた「フラットアースニューズ」に書かれていた。ガーディアンも偉そうなことを言うなあ・・・と思って見ていたら、何とそのデービーズが画面に出て、インタビューに答えている!何だか紙芝居的というか、裏がありそうだな・・と思った。

  今朝、ガーディアンを買うと、1面トップがこの記事である。そして、その記事を書いたのはデービーズ記者だった。にっこりして、いかにも「格好いいジャーナリスト」のような顔写真付きである。2年前の話なのに、何故今これが出てきたのだろう?つまりは、テレグラフの議員と金問題のスクープの向こうをはったということなのか?それにしても、「古いネタを掘ってみました」というのがアリアリだった。つまるところ、労働党時代からブラウン首相の側近だったマクブライドが、右派ブロガーやテレグラフなど他紙のスクープで官邸の職を辞めざるを得なくなった事件が4月にあったけれど(2,3日前にこのブログにも載せたけれど)、そういうことが裏にあるのかなと思った。保守党のイメージを何とか悪くしたいというのがアリアリである。

 何だか露骨な話だなあと思っていたら、「2年前の事件の時に、すべて情報は出尽くしており、今回、新しい情報はない。また、政治家などを盗聴していた証拠はない」ということを、ロンドン警視庁が発表し、警察の捜査には至らないことが分った。

 http://news.bbc.co.uk/1/hi/uk/8143120.stm

 そこで右派ブログ「ガイ・フォークス」を読むと、ガーディアン記事が出る前の夜、ブレア元首相の片腕だったアラステア・キャンベル元官邸戦略局長から電話があって、「マクブライドの敵をとる」と言ったそうだ。何せ「うわさ」を扱うブログであるから、100%は信用できないかもしれないが、おもしろい。

http://order-order.com/2009/07/09/coulson-coulson-coulson/

 BBCの政治記者ニック・ロビンソンのブログを読むと、「保守党に損害を与えようとした」、「政治的」な目的を持つ動きが引き起こした・・・という箇所があった。キャンベルがやった、とは書いていないけれども。

 キャンベルがやったと「もし」すれば、何だかあまりにもお粗末だったなあと思うけれども、そのお粗末さが彼らしいのかもしれない(分りすぎるという意味で)。

 ・・・というのは、あくまでも1つの仮説である。

 それにしても、いやだなと思うのは、ガーディアンがいかにも「自分は全くのシロ」というスタンスでこういうトピックを扱うことだ。(100%シロのメディア、人間はいないと思う。)もっと正直であってくれれば、もっと好きになれるのに。

 BBCラジオ4の夜10時からのニュースの中で、ジョン・ロイド(ロイターがやっているジャーナリズム学校にいる)が、「この際、(業界全体を)きれいにするべき」と言っていた。同感である。(でも違法ぎりぎりの手を使うという習慣はなくならないと思うけれど・・・。)
by polimediauk | 2009-07-10 07:27 | 政治とメディア
 英国でポッドキャストを楽しむ人は今年5月時点で780万人。1年前は600万人だったので大きく伸びた(ラジオの視聴率調査団体RAJAR発表)。約420万人が週に一度はポッドキャストに耳を傾ける。しかし、今回の調査で驚きだったのは、録音したものを最後まで聞く人28%だけだったことだ。また、料金を払ってポッドキャストを楽しんだ人は4・5%しかいない。ただし、お金を払ってもいいと答えた人も結構いたようだ。しかし、広告が入ってもいいから無料であって欲しいという人も。

Podcast popularity grows - but only 28% listen to the end
http://www.pressgazette.co.uk/story.asp?sectioncode=1&storycode=43912&c=1

 一方、英エコノミスト誌が、8年ぶりに映画館で上映されるコマーシャルを作ったことが話題になっている。どこかの都市の街中で、赤い綱を渡る男性の奮闘振りが映し出される。以下のサイトから見れる。

http://www.guardian.co.uk/media/2009/jul/02/the-economist-cinema-ad-high-wire-tightrope-walker

 赤い綱はエコノミストを象徴するようだ。男性は身体を揺らせ、今にも落ちるんじゃないかと少し心配させながらも、最後まで無事に渡ってゆく。キャッチフレーズは「Let your mind wander」=あなたの心をさまよわせよう、ぶらつかせよう、の意味だろうか。心を自由に歩かせよう、ということか?ガーディアン記事によれば、綱渡りをする人物は心を楽しく刺激するスリル感を表す、とのことだ。今週から映画館で上映されており、テレビ局チャンネル4でも7日から出る。綱渡りをしている人は、モデルでなく、本当の綱渡り人(Florent Blondeau)だそうだ。

 このコマーシャルは普段はエコノミストを手に取らないような人、でも知的好奇心の高い人向けだそうである。男性の体が左右に揺れるたびに、「世界でいろいろとわけの分らないことがたくさん起きている。逡巡しながらも、解説・分析をしている」というように私には見えたがー。
by polimediauk | 2009-07-04 02:05 | 新聞業界
 英国、特にロンドン近辺+南東部で暑い日が続いている。日本からすれば珍しくはないことだが、今日は33度ぐらいまで気温があがりそうだ。これほどの気温の高さに適応するような環境ができていないので、暑い!という感じが増す。例えば電車やバスに乗ると、大きな窓はあっても、開けることができる部分が非常に小さいのである。寒いことを基本にして作られているのだろうなあ・・と思う。

 アイフォーンを使いだして2日目の昨日。寝転がってアイフォーンを片手に持ってニュースを読めることの楽さをしみじみと感じた。PCの電源をつけて画面を読むことは、これに比べるとやはりおおごとである。知らない場所に出かける時、地図の画面を使って、全く迷わずに目的地に行くことができた。これは私にとって大きな進歩だ。電車の中では通常は何かしら紙媒体を読んでいたが、今回はアイフォーンの画面の設定をしたり、情報を読んだりして、時間があっという間に過ぎた。スマートフォンを持っていたら、少なくとも電車内で新聞を読む行為はしなくなっていく。まだ少ししか(アイフォーン専用の)ニュースサイトを入れていないが、米「ハフィントンポスト」の読み心地・使い心地が他と比べてダントツに良い。やはりもともとネットサイトだから、というのがあるのだろう。ハフィントンポストはウェブサイトを開くと、何だかどこから読んでいいのか、米国に住んでいない私としては決めがたく、読みにくい感じがしていたが、アイフォーンでは読みやすく、これなら今後もちょくちょく読みそうだ。不思議なものである。読み方を変えただけで、これだけ認識が変わるとは。

 夢中で使っていたら、アイフォーンの裏部分が非常に熱くなっていた。知人が、アイフォーンを使っていたら、異様に本体が熱くなったという記事をどこかで読んだと言っていた。何だか問題がありそうだ。とりあえず、電源を切って休めておく。

 このところ、紙媒体に書いたもののブログ掲載が滞っていた。すこし前になるが、「英国ニュースダイジェスト」(4月30日号)掲載分に補足したのが以下である。また、この中のブロガー、ポール・ステインズ氏の快挙に焦点をあわせた原稿を「GALLAC」7月号に書いている。

 また、最新の英国事情分析記事が読みたい方は、ニュースダイジェストのサイトで、今回の「ウイークリーアイ」の特集が「下院議長」にスポットライトをあてている。(電子ブック)

http://www.news-digest.co.uk/news/component/option,com_wrapper/Itemid,25/

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英政治ブログが暴露した「スピン」


 野党保守党党首らに関する誹謗・中傷メールを労働党支持のブログの運営者に送っていた、首相官邸の広報官が、4月11日、辞任した。メールは、野党指導陣に関する誹謗中傷を広めることを狙っていた。ブレア前政権の代名詞ともなった「情報操作」(スピン)とは決別したはずのブラウン政権に対する国民の信頼感は落ちた。メールの存在を暴露したのは、政治ブログ「Guido Fawkes」。事件の裏には左派系と右派系ブログの間の「戦争」があった。

 英政府が雇用する「スペシャル・アドバイザー」は現在、70人以上を超える(ちなみに、労働党政権が誕生する直前の1996年ー1997年では38人、下院調べ)。メディア、政治、政策に関わる専門知識を持ち、政府閣僚の仕事を補助するのがその使命だ。この中でトップクラスに位置するのが首相官邸勤務のアドバイザーたち。官邸の戦略・企画担当広報官だったダミアン・マクブライド氏はこの部類に属し、ブラウン首相の「側近中の側近」だった。

 保守系政治ブログ「Guido Fawkes」の運営者が、4月、暴露したところによると、マクブライド氏は、野党保守党党首らに関する、根拠のない誹謗・中傷ネタを複数のメールに書きつけ、政府の元メディア戦略担当官デレク・ドレイパー氏などに宛てて、自身の公用アドレスから送信していた。このネタをドレイパー氏が作るブログ「RedRag」に掲載することで、保守党の地盤沈下を狙っていた。

 ドレイパー氏が「素晴らしい」と誉めたネタの内容は、同性愛の保守党議員とビジネス界の癒着、既婚者の保守党議員の情事、キャメロン保守党党首が性病を患っている噂作り、オズボーン影の財務相の「恥ずかしい写真」を探す、オズボーン夫人の精神状態に疑問を投げかけるなど。姑息な手法で相手を貶める手口が明るみに出た。

 マクブライド氏はメール事件が新聞報道された同月11日、辞職。ブラウン首相はキャメロン党首らに「遺憾の意」を示す書簡を送付し、メールの作成に閣僚やマクブライド氏以外の側近が関わっていなかったと強調した。

―「スピン」は消えたか?

 ブレア前政権時代、頻繁に話題に上ったのが情報操作を意味する「スピン」、という言葉だった。「スピン・ドクター」といえば情報操作が巧みな専門家を意味し、政府の広報官(=スペシャル・アドバイザー)とほぼ同義語として使われた。当時の著名なスピンド・クターはアレスター・キャンベル官邸報道戦略局長や数々の閣僚職を担ったピーター・マンデルソン氏(現企業相)だった。イラク戦争開戦前夜、「イラクに大量破壊兵器がある」、「45分で英国が攻撃される」とした政府の説明がスピンだったことが後に判明した。

 2007年の首相就任で、ブラウン氏は「スピンは終り」と宣言した。ところが、誹謗メールのネタの下劣さと首相側近が関わっていた点から、国民の間に失望感が漂う。労働党の支持率も下落気味となった。

―ブログ戦争

 マクブライド氏とドレイパー氏がブログを通じて、保守党に関わる悪評を流そうとしたのには理由があった。英国の政治ブログは右派・保守党系の人気が高い。先の「Guide Fawkes」、「ConservativeHome」、政治ジャーナリスト、イアン・デール氏の「Iain Dale’s Diary」などがある。

 一方、ドレイパー氏は、労働党支持者によるブログ「LabourList」を、今年年明けから開始したばかり。デール氏のサイトの人気に追いつきたいと、「どうやったら良いブログができるか」を氏に相談したという。噂話や陰謀話も歓迎する「Guido Fawkes」のようなブログを想定したのが、新設の「RedRag」だった。「暗黒のプリンス」というニックネームがあるほど影で情報操作をするのが得意とされるマンデルソン氏の愛弟子だったドレイパー氏が、ブラウン氏の側近だったマクブライド氏のネタ案を元に、人気ブログを作り上げて名声を上げ、保守党の弱体化も実現できれば、一石二鳥と考えても無理はなかった。敵の誹謗・中傷ネタを流布し、政敵への攻撃を狙ったマクブライド事件に、本当に官邸首脳陣の意思は全く反映されていなかったのだろうか?
 
―中傷メール事件の関係者

ダミアン・マクブライト氏(35歳):元官邸の戦略・企画担当広報官。今年1月、野党保守党党首らに関する中傷メールを政府の元メディア戦略担当官デレク・ドライバー氏などに複数回送付。保守系政治ブログ「Guido Fawkes」の運営者にこのメールの内容を暴露され、辞任。元財務省官僚で、ブラウン蔵相(現首相)の政治広報官になる。ブラウン氏の首相就任後は官邸で同職を務めた。影のブリーフィングを得意とする。ケリー運輸相の辞任を正式発表前に一部メディアに漏らした事件の責任を取り、戦略・企画担当広報官に移動していた。

デレク・ドレイパー氏(41歳):元々、左派系雑誌のジャーナリスト兼マンデルソン氏(現企業相)のかばん持ちだった。1998年、おとりの取材記者に対し、閣僚への接見を金銭で売ると持ち掛けたスキャンダルが発覚し、労働党広報官の立場を追われる。現在は心理セラピスト、作家として活動。労働党支持者によるブログ「LabourList」を運営する。人気の右派系ブログに対抗する「RedRag」という新たなブログを設置。コンテンツ案をマクブライド氏と練っていた。

ポール・ステインズ氏(=Guido Fawkes)(42歳): ダミアン・マクブライド氏の中傷メールに関する情報を自分のブログ「Guido Fawkes」や新聞など既存メディアに提供し、マクブライド氏辞任のきっかけを作った。2004年に開始したブログは政治に関わるジョーク、風刺、噂話が満載で、毎月十数万人の利用者を持つ。80年代に保守党青年部に所属していた。ダンス音楽「アシッドハウス」運動の中心的存在で、東京でヘッジファンド会社に勤務したことも。昨年、大物労働党政治家ピーター・ヘイン氏の副党首選挙に関わる資金疑惑を報道し、ヘイン氏を閣僚辞任に追い詰めた。

―メールが示唆した誹謗・中傷

*「同性愛者の保守党議員が小売業の経営陣と肉体関係にある」、議員の立場を利用して下院に招き、小売業者が望む『フェアトレード』の製品を振興している」

*「保守党議員2人が一晩限りの情事を楽しんだ」

*「キャメロン保守党党首は公表したくないような病気を隠していないだろうな」(注:性病を示唆)

*「(影の財務相)オズボーンには困惑するような写真があるに違いない」

*「オズボーン夫人が、昨夏の夫に関するスキャンダル発覚以降、感情的に壊れ易い状態となっていることを、何故夫の友人たちは隠そうとしないのだろう?」
 

―人気政治ブログ

Guido Fawkes
http://www.order-order.com/
噂と陰謀を歓迎する右派系サイト。ブラウン首相の側近による中傷メールの暴露と側近の辞任で注目の的に。

 ちなみに: GUY (or GUIDO) FAWKES: ガイ(またはグイド)・フォークス(1570年―1606年)。1605年の火薬陰謀事件の実行責任者。熱心カトリック教徒で元兵士。当時イングランドでは、国王の国教会(プロテスタント系)優遇政策により、カトリック教徒は弾圧を受けた。貴族ロバート・ケイツビーと共に、国王が上院の開院式に出席するところの爆殺を計画した。議場地下に火薬を貯蔵するところまで行ったが、暗殺計画が発覚し、絞首刑となった。毎年11月5日は「ガイ・フォークスの日」と呼ばれ、英国各地で「ガイ」と呼ばれる人形を焼く習慣がある。

ConservativeHome
http://conservativehome.blogs.com/
2005年の総選挙前、ティモシー・モンゴメリー氏が設置。モンゴメリー氏は元保守党党首イアン・ダンカン・スミス氏の政治アドバイザーだった。インターネットテレビ「18 Doughty Street」(2006年―2007年)のディレクターでもあった。

Iain Dale’s Diary
http://www.iaindale.blogspot.com/
保守系政治評論家の第一人者で、ジャーナリストでもあるイアン・デールのサイト。インターネットテレビ「18 Doughty Street」を立ち上げ、雑誌「Total Politics」の発行人でもある。政治ブログに関する本も出している。

labourhome.org
http://www.labourhome.org/
政治活動家アレックス・ヒルトン氏らが2006年立ち上げたブログ。ConservativeHomeへの対抗ブログとして、労働党を活性化させるために作られた。08年にはプレスコット元副首相が文章を寄せるなど、大物政治家の寄稿もある。左派系週刊誌「ニューステーツマン」の出版社がサイトに投資している。

Recess Monkey
http://www.recessmonkey.com/
アレックス・ヒルトン氏が作った左派系政治ブログで、冗談なども交え、軽いタッチ。Guido Fawkesの保守党版とも言える。

―ブログ戦争:首相側近辞任までの主な経緯

2008年9月23日:ケリー運輸相(当時)が辞任。首相の政治広報担当官ダミアン・マクブライド氏が正式発表前に辞任のニュースを一部メディアにブリーフィング。
10月3日:マクブライド氏が官邸の戦略及び企画担当広報官に移動させられる。
11月:ブログ「RedRag」が開設される。この名称はデレク・ドライバー氏がつけた。
同月:ブリアーズ・コミュニティー問題担当大臣が、右派系ブログを批判し、中でも「Guido Fawkes」には「悪意のあるニヒリズムがある」と述べる。
16日:ドレイパー氏、ブラウン首相との昼食に招かれる。
2009年1月6日:ブラウン首相やマンデルソン企業相らの支援の下、ドレイパー氏が労働党支援のブログ「LabourList」を立ち上げる。
1月13日:マクブライド氏がドレイパー氏に宛てたメールで、保守党を攻撃しないかと持ちかけ、具体策を記す。ドレイパー氏は「何と素晴らしいアイデアだ」と返答。
2月3日:保守系ブロガーのイアン・デール氏がタレントのキャロル・サッチャー氏が黒人テニス選手を「黒ン坊」と呼んだ件に関し、「なぜサッチャー氏がこの発言をしたのか理解できる」とBBCの番組内で発言。LabourListブログが氏を人種差別主義者として大批判。
3月26日:ブログ「Guido Fawkes」を運営するポール・ステインズ氏が、マクブライド氏がドレイパー氏に対し、デール氏への攻撃の仕方を指南していると主張。ステインズ氏とデール氏は情報公開法を利用して、マクブライド氏の指南内容を入手しようと動く。
4月2日:ステインズ氏がマクブライド氏の中傷メールをテレグラフ紙に提供することを持ちかける。テレグラフ紙は掲載せず。
4月9日:Guido Fawkesが、マクブライド氏の写真入りで中傷メールの存在を示唆する。
4月11日:テレグラフ紙がメール事件を報道。マクブライド氏、辞任。
by polimediauk | 2009-07-02 18:27 | 政治とメディア