小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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<   2009年 08月 ( 13 )   > この月の画像一覧

 ガーディアンメディア社が日曜紙オブザーバーを廃刊にするか、あるいは縮小・雑誌にするかでゆれる中、テレグラフの4日付で(ウェブは3日)、いかに「失敗続きのガーディアンがオブザーバーをだめにしたか」というような論旨の記事を載せている。
 
http://www.telegraph.co.uk/comment/columnists/andrewpierce/5968035/The-Guardians-loyalty-to-the-Observer-looks-paper-thin.html

 ライバル意識丸出しである。ガーディアンも常にテレグラフを見下ろしたような記事を出してきたので、お互い様であるが。オブザーバーには小説「1948年」「動物農場」を書いた作家ジョージ・オーウェルや後にソビエトのスパイと分ったキム・フィルビーも書いていたそうだ。所有主はどんどん変わり、ガーディアンが1993年に買い取った時、オブザーバーの編集の独立性を守る、と確約したのだが、と。

 今年5月以降、テレグラフ紙のスクープ報道で国会議員の経費問題が大きな注目を浴びたが、6月末には国内最大手の公共放送BBC(英国公共放送)の経営陣が針のむしろに立つことになった。情報公開法に応じて明るみに出たBBCトップの経費の使い方は、不景気に苦しむ庶民の感覚とはずい分と離れたものだった。その経緯を「英国ニュースダイジェスト」(8月6日号、ウェブは4日発行)に書いた。以下はそれに補足・追加したものである。
 
―BBCとは

 British Broadcasting Corporation=英国最大の公共放送。従業員数は世界で約2万2000人、国内では約1万7000人。BBCの存立、目的、企業統治を定める女王の「ロイヤル・チャーター」(「BBC憲章」、「特許状」などと訳される)と、これに沿った業務の具体的な内容を定める「協定書」(BBCと所管の文化メディアスポーツ相との間で交わされる)によって運営されている。ロイヤルチャーター、協定書ともに10年ごとに更新される。現在の期限は2016年末。テレビ受信機を所有する者に課すテレビ・ライセンス料(現在、カラーテレビで年に142・50ポンド、約2万2000円)を主要財源とする。ライセンス料収入、政府交付金、商業活動からの収入等を合計すると毎年50億ポンド前後が事業収入となる。視聴者の代表として「BBCトラスト」がBBCの業務全般を、放送通信庁「オフコム」(Ofcom, Office of Communications)がその放送内容を監督・規制している。視聴率を調査する団体「BARB」によると、2007年度の多チャンネル視聴世帯の平均テレビ視聴率は、BBC1とBBC2の合計で28・5%、ITVが19・2%、チャンネル4が8・6%、ファイブが5・1%、その他が36・5%。(参考:BBC, 「NHKデータブック世界の放送2009」他)

―テレビ・ライセンス料の使い道内訳 (2008-2009年度)

総額:33億9600万ポンド(約5300億円)
―テレビ:23億3600万ンド(69%)
―ラジオ:5億8800万ポンド(17%)
―オンライン:1億7700万ポンド(5%)
―他:2億9500万ポンド(9%)

―テレビ・ライセンス料を毎月で割ると(2008-2009年度)

一ヶ月の総額:11.63ポンド(約1800円)
―テレビ:8ポンド
―ラジオ:2.01ポンド
―オンライン:0.61ポンド
―デジタル転換支援費用他:1.01ポンド

(資料:BBC年次報告書2008―2009年)

経営陣の経費が明るみに
  冷たい視線を浴びたBBC


 昨年夏、BBC(英国公共放送)の人気テレビ司会者ジョナサン・ロスとタレントのラッセル・ブランドが老舗俳優アンドリュー・サックスの留守番電話に失礼なジョークを残し、これをBBCのラジオ番組の中で放送するという事件があった。ロスの3ヶ月謹慎措置にまで発展した、いわゆる「サックスゲート」事件の勃発時、BBC経営陣のトップ、マーク・トンプソン会長はイタリア・シシリー島で休暇中だった。会長は家族と共に緊急帰国。この時、帰国費用の約2200ポンド(約35万円)を、会長は経費として請求していた。会長にしてみれば、仕事上の必要な経費だったが、これが国民の目に触れることになるとは想定していなかったに違いない。

 6月末、情報公開法の請求に応じ、BBCは過去5年間の経営陣の経費使用の詳細を公開した。これでトンプソン会長の帰国費用をテレビ・ライセンス料支払い者が負担していたことが明るみに出て、国民を驚かせた。高額報酬で働くテレビ出演者たちに、経営陣らが頻繁に花や贈ったり、食事に連れて行ったことも発覚した。いずれも経営陣らは違法行為を働いたわけではない。しかし、5月にテレグラフ紙が報道した、下院議員の「灰色」経費リストと、BBCの経営陣による経費リストとが、国民の多くの目にはいささかダブって見えた。自分たちが払ったライセンス料が、例えば先の司会者ロスに100ポンドの花を贈るために、あるいは休暇からの帰国代交通費に使われていたのは、どうにも納得がいかないように見えるのだった。

 7月中旬、視聴者の代表としてBBCの活動を検証する、「BBCトラスト」のマイケル・ライオンズ委員長は、不景気の折、巨額賞与を出すことはできないと考え、「経営陣への賞与支払いの凍結」を宣言した。ところが、委員長の報酬が前年比で30%上昇していたことで、せっかくの宣言も国民の不満を癒すのには役立たなかった。

 委員長はパートタイム勤務で勤務日を増やしたために報酬も増加したが、それでも、21万3000ポンドはブラウン首相の約19万ポンドという給与よりも上に来る。トンプソン会長といえば総報酬は83万4000ポンドに上る。51万ポンドの報酬を得るジョナ・ベネット氏(テレビ部門担当)は、仕事中にバッグを盗まれ、今年2月、500ポンドの経費を請求していた(後、保険会社負担)。経営陣の報酬や経費の水準は、一般国民からすれば、相当かけ離れた額だった。

 BBCが「潤沢なカネを不当に贅沢に使う放送局」という印象が広がってしまった背景にあるのは不景気だ。経営陣による経費の使い方や巨額報酬は財布の紐を締めざるを得ない国民の心理を逆なでした。また、不景気による広告収入の激減で、ライバル局となる民放は大きな打撃を受けている。資金難にあえぐ民放と安定したライセンス料収入を毎年得るBBCとの間の溝が広がっている。

 BBC経営陣は「経費は全て正当化される」と強気だが、BBCのほかの従業員からも批判の声が上がり、四面楚歌状態だ。ライセンス料を他の放送局と共有する案やBBCの分割案に口実を与える経費・報酬問題となった。

―関連キーワード
Lord Reith:リース卿(1889年―1971年)。
英国放送協会(BBC, British Broadcasting Corporation)の初代会長。英国公共放送の父とも言われる。1922年、BBCの前身となる英国放送会社(British Broadcasting Company Ltd.)のゼネラル・マネージャーとなる。1927年、現BBCの初代会長に就任する。BBCの役割は「学ばせ、情報を与え、楽しませる」ことと定義した。1938年、職を辞し、入閣。戦後は英連邦の通信監督庁のトップを初めとする重鎮的役職を歴任した。2006年に出版された娘が書いた伝記「My Father — Reith of the BBC」は、リース卿がナチドイツを賞賛し、何人もの若い愛人を持ち、20代には男性の恋人がいたことを暴露した。(こぼれ話だが、この経緯を私はある時、BBCテレビを見て知った。これを先日、知人らと話していたら、「英国のエリート層・富裕層の男性で権力を手にすると共に同性愛者でもあったケースは多い」というコメントがあった。)
by polimediauk | 2009-08-04 16:46 | 放送業界
 ガーディアン・メディア・グループ(GMG)が発行する日曜紙、「オブザーバー」が、廃刊か大幅縮小化する、という噂が出ている。GMG社は先週、9000万ポンド近くの損を出したという年次報告書を出したばかり。全国紙を出す部門のガーディアン・ニューーズ・アンド・メディア社では、ガーディアン(月曜から土曜)とオブザーバー紙の合計で3600万ポンドの営業損失で、これは前年より増加している。

 オブザーバーは200年以上の歴史を持つ。大幅縮小化した発行物となるのか、廃刊するのか、あるいは今のままで行くのかはまだ不明だが、既に先月上旬、縮小化した場合の紙面デザインなどを経営陣が目にしたと伝えられている。

 オブザーバーをどうするか?という問題は常にGMG社の経営陣らが議論をしてきており、プレスガゼット誌に語ったある人が言うには、今のところ「五分五分」(廃刊か続行か)らしい。

http://www.pressgazette.co.uk/story.asp?sectioncode=1&storycode=44082&c=1
http://www.pressgazette.co.uk/story.asp?sectioncode=1&storycode=44075&c=1

 一方、地方紙を出版する大手トリニティーミラー社は、今年前半の営業利益が前年同期と比較して31%下落。広告収入の減少によるものだ。どこも冬の時代である。

 今日届いた「新聞協会報」で、ジャーナリスト、佐々木俊尚さんの新著「2011年 新聞・テレビ消滅」が出ていることを知った。その中で、「インターネットの進展により、ビジネスを始めるコストが劇的に下がるチープ革命がおきており、これに対応できずにいるのが問題の本質である」という指摘があるそうだ。佐々木さんが協会報に書いたコラムで、「新聞はミドルメディア化して生き残れ」というのがあり、本当にはっとしたものだった。今回の著作も、何歩も先を行く、氏の洞察がとても参考になりそうだ。英国のメディアを追っていると、「ネットか既存メディアか」という二者択一的な見方ばかりになってしまう。「ミドルメディア」の発想は新鮮だった。

 ところで、こうした本を日本から取り寄せるのに苦労する。もちろん、ネットで注文は簡単にできる。しかし、海外郵送代が高い。今のところ、私は日本の家族の家に送ってもらい、他のものとまとめてこちらに送ってもらうが、もちろんこれも郵送代がかかるし、時間もかかる。

 アマゾンでは、(どうして)ネットでPDF版を売る・買うというサービスを始めないのだろうか。アマゾンでなくてももちろんいいのだが。ネットで書籍を購入する、そしてこれを読者がプリントアウトする・・・形がもっと一般的になって欲しい。
by polimediauk | 2009-08-03 22:40 | 新聞業界
 現在貴族院議員(一代貴族)で、企業相のピーター・マンデルソンが法律の改正により貴族院議員を辞職し、下院に立候補する可能性がある、とサンデーテレグラフ紙が2日付で伝えている。

http://www.telegraph.co.uk/news/newstopics/politics/labour/5955600/Secret-plan-for-Lord-Mandelson-to-return-to-Commons-in-Labour-safe-seat.html

 ちょっと読み出すと、「マンデルソンの友人」が言った話になっているので、マンデルソン氏自身か秘書がテレグラフ紙の懇意の記者に故意にリークしたように見える。証拠があるわけではないが、日曜紙のお気に入りの記者にネタを提供する、というのは1つのパターンになっている。なので、これもその一つに見える。自作自演・・・という感じである。

 秋に各政党は党大会をそれぞれ開くが、それまで現在のブラウン首相が継続するとして、その後の党首(総選挙の後かもしれないし、その直前かもしれない)は一体誰になるのだろう?いくつか既に名前が挙がっているが、どうも小粒である。また、今までのニューレイバー路線から現在の労働党が後退するわけにはいかないだろうから、これを次ぐ人となると、マンデルソン、というのがやはり少なくとも話としては非常におもしろい。ブレア氏が影で糸を引いているかもしれない。もしブレア氏がEUの大統領になれば、そしてマンデルソンが英国の首相になれれば、ブレア氏としては願ってもない素晴らしい状況となるの「かも」しれない。

 前に、新聞各紙が偽名を使いながら、通信社記事を自社記事として出す、という一つの習慣について書いた。その時は「めちゃくちゃ」だが、「そういうこともあるだろうな」と達観したようなことを書いたのだけれど、最近、「やっぱりおかしいだろう」と思うようになった。

 それは、「ニューズオブザワールド」紙をめぐる盗聴疑惑の事件を見てもそうなのだが、とにかく「お金儲けが最大の重要事」という感じが英メディア界にある(一説には、マードックがそうした、と見る人もいる)。

 例えば、日本から来て英国で暮らし始めると、どの人も英国の顧客サービスの貧困さに驚くと思う。どっちが客なのか分らない感じ。しかし、最近思うのは、このサービス精神あるいは客に対するまともな感覚の欠如が、果たして、小売業「だけ」の話なのだろうか?と。

 社会の木鐸として機能する、あるいは何か人のために役立つ情報を出す、正確な情報の提供に心砕く・・・そういうもろもろのことをおろそかにした場合の英メディア界は、とんでもないことになっていないのかな?と。

 この盗聴疑惑に関し、下院の委員会に関係者・当事者がメディア界から呼ばれ、議員にたくさんの質問を受けた。その受け答えを見ていると、「誰も本当のことを言っていない」感じがした。真実の追究をあまり重要とは思っていない人たちばかりに見えた。こういう感じはメディア界だけでなく、社会の様々な部分にもあるように思える。自分自身が英社会にどっぷりつかってしまった数年間。改めて、一体何が起きているのか、考えてみたいと思っている。
 
by polimediauk | 2009-08-03 03:08 | 政治とメディア