小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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 毎週、木曜夜に放送されるBBCのニュース番組(視聴者参加型)「クエスチョンタイム」。パネリストが数人並び、会場内の参加者から質問をもらって、これに答える形を取る。

 最近は、私は後でBBCアイプレイヤーで見ることが多く、今晩も別のことをやっていた。しかし、ラジオでニュースを聞いて驚いた。なんでも、デービッド・ローズ(自由民主党議員、自民党と保守党は連立政権を作っている:追記「ローズ」でしたね。直しました。)という大臣が出席するはずだったが、その代り、野党労働党の元官邸戦略局長アラステア・キャンベル氏を出さないようにしてほしい、とお願いしていた(実際、同氏は出演)。

 そして、ラジオで聞いただけなのだが、番組の冒頭で、司会のデービッド・ディンブルビー氏が、「誰が番組に出席するのはこちらが決める。官邸ではない」と言ったようだ。

 番組のプロデューサーもかなり頭にきている様子。「政府の干渉だ」と。なんでも、3年間この番組を担当してきて、官邸がこんな形で言ってきたのは初めてだという。

ニュース記事
http://news.bbc.co.uk/1/hi/uk_politics/8709930.stm
プロデューサーのブログ
http://www.bbc.co.uk/blogs/theeditors/2010/05/question_time.html

 すごいことになったな、と思う。明日、アイプレイヤーで早速見てみようと思う。

 気になるのは、BBCがこんなに威勢がいいことを言って大丈夫なのかな?と。保守党は政権を取ったらBBCの受信料カットやBBCトラストという経営委員会に相当する組織をなくすると言っていた。実際は、それほど急にカットにはならない感じ(通信庁オフコムも、前はなくするといっていたが、政権を取ってからはそうではなくなったようであるし)だ。しかし、「先は分からない」のである。

 司会者のディンブルビー氏の、「官邸が決めるのではない・・・」という、どことなくリキが入った声の調子がどうにも気になるのだ。前に官邸(労働党政権時代)と対決した時(2003-2004年、イラク戦争を巡り)、経営陣二人が辞めるところまで行ったのである。勇み足というか、あまり理想論でいきりたって、対決姿勢にしていいのかな、と。

 ある意味、大したことではないのではないかと思うーつまり、「プライドを傷つけられた」(BBCの制作者側の)だけかもしれない。(BBCのプライドはかなりデカイのである。)

 おそらく、似たようなことは水面下でいつも起きているだろうし、このような形で大きくなったことこそが、「裏に何かあるな」という感じもする。一体どうしてこんなにこじれたのだろう。

 出席したキャンベル氏は「メディアのスピン」が得意ということで有名な人だったけれども、キャンベル+労働党側に利用されたということはないのかな、と思う。つまり、ディンブルビー氏は「BBCは独立・中立」としながらも、ラジオでちらっと聞いた、鬼の首でも取ったかのような物言いが気になる。BBCは左寄りとよく言われるのだけれど、何だかそんな感じもした。

 保守党にはタブロイド紙「ニューズオブザワールド」の元編集長アンドリュー・コールソン氏がついているし、労働党も野党になって黙って引き下がるわけはないだろう。常にさまざまな局面で本気のメディア合戦があるし、昔のトーリーとホイッグじゃないけれど(話が古い!!!)、マジの戦いがある。今晩の時点では、労働党が勝ったといことだろう。


追記:
この日出席予定だった大蔵副大臣(財務省のナンバー2)デービッド・ローズという人は、この後急展開があって、大臣職を辞職しました。聞き及びの方もあるかもしれませんが。直接関係あるとは思いませんが、テレグラフのスクープで、男性の恋人とシェアしていた(?)アパートの賃貸料の支払いを議員経費として請求していたのですが、これに不適切な部分があったということで、謝罪。同性愛者であったことがばれてしまいました。当人は家族(両親とかそういう意味でしょうか、独身者なので)にも秘密にしていたそうです。結局、こういうごたごたでは仕事に専念できないだろうということで、内閣から離脱。あっという間でした。ゲイであることがばれることを非常に恐れていたそうです。

by polimediauk | 2010-05-28 08:46 | 政治とメディア

 ガーディアンの5月21日付に、エノラゲイの乗組員の最後の生存者のインタビューが載っていた。その内容紹介と思ったことをまとめたので、この件に関心のある方はご覧ください。


 「同じ状況だったら、また投下しただろう」―エノラゲイで原爆投下した元航法士が英紙に語ったことの衝撃

http://www.newsmag-jp.com/archives/3526


 少し前になるが、 「日刊ベリタ」に関連で米国での見方が拾われていた。

広島、長崎への原爆投下の正当化は、米国の基本的な見方
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=200808071225024
by polimediauk | 2010-05-22 23:48 | 英国事情
―組織的盗聴事件ではマードック軍団とも戦う

 話は前後するが、07年に、日曜大衆紙ニューズ・オブ・ザ・ワールド(NOW)紙の王室担当記者と私立探偵が著名人の留守番電話を盗聴していたとして有罪判決を受けた事件があった。これを調査したガーディアン紙は、09年7月、NOW紙や大衆紙サンが組織的に電話の盗聴を行っていると報道し、読者を驚かせた。盗聴の対象は政治家も含む著名人「2000人から3000人」というからすごい数である。

 NOWといえば、「メディア王」ルパート・マードック氏が経営する米メディア大手ニューズ社の傘下にあるニューズ・インターナショナル社が発行元である。大衆紙サン、高級紙タイムズ、日曜紙サンデー・タイムズも同社の発行で、発行総数は延べ800万部。盗聴などの違法行為が「組織的に行われていた」とする一連のガーディアン紙の記事は、英国新聞市場で巨大な存在であるマードック勢力への挑戦状となった。 

 しかも、先の盗聴事件の発生時にNOW紙の編集長だったアンディ・コールソン氏は、現在、野党保守党(注:原稿作成当時。今年5月より首相)のコミュニケーション戦略責任者で次期首相候補デービッド・キャメロン保守党党首の側近だ。ガーディアンの記事は、当時のコールソン編集長の関与も暗示していた。

 一連の報道で先の盗聴事件に関わる警察の捜査のやり方や苦情報道委員会(PCC)の調査の公正さにも疑問が呈されるようになり、数日後には、下院の文化・メディア・スポーツ委員会が調査のための公聴会を召喚した。ここまではガーディアンの勝利と言えよう。

 ところが、召喚されたNOWの現編集長とコールソン元編集長、ニューズ・インターナショナルの法律顧問らはそろって疑惑を否定。ロンドン警視庁も「改めて組織ぐるみの盗聴行為を調査するには至らない」と結論付けた。

 11月には、報道苦情委員会も、ガーディアン紙の疑惑報道の根拠は薄いとする判断を示した。情報源を守る一方で、報道の信憑性を明示しなければならないガーディアン紙は板挟みとなった。

 ところが、援護射撃が思わぬところからやってきた。今年2月末、プライバシー保護や名誉棄損に関する調査を終えた文化、メディア、スポーツ委員会がその報告書の中で、公聴会に召喚されたニューズ・インターナショナル社の経営陣が盗聴活動に関して真実を隠していたことを明らかにしたからだ。盗聴は「警察、軍隊、王室、政府閣僚を対象にした広範な範囲で、産業的規模で」行われていた、と書かれていた。

 こうして、ガーディアン紙の報道にはお墨付きがつく形になったが、批判相手が巨大メディア・グループである場合、傘下のメディアによるバッシング報道も起きる。また、今回のように、メディア団体からその信憑性を疑う判断が出ることもある。調査報道には、前からも後ろからも弾が飛んでくるのだ。(注:若干補足すると、戦いはまだ続いていて、ガーディアンの報道がすべて正しいのかどうかには疑問符も。証明されるまでには時間がかかるかもしれません。)

 ガーディアン紙は調査報道のために専属担当記者を2人置いている。他にこうした担当者を、あるいは番組枠を設けている英メディアは、サンデー・タイムズ紙、BBC(「パノラマ」、「ニューズナイト」など)、「もう一つの視点」を提供する放送局チャンネル4(「ディスパッチ」)などがある。

―調査報道を支えるのは、「面の皮の厚さ」

 こうした調査報道を可能にする要因は何か?

 現状を見る限り、真っ先に挙げなければならないのは、資金力と規模だろう。

 記者を調査報道のために配置し、さらに社内弁護士チームを雇い、裁判費用を負担する。そのためには、一定の資金が継続して必要となる。

 英国ではいま、高額な名誉棄損裁判が問題視されている。相当の資金力がないと提訴を受けて戦ってゆくことができない。

 オックスフォード大学による08年の調査によれば、イングランド・ウェールズ地方の名誉棄損訴訟費用の高さは欧州一だという。2番目に高い国アイルランドの4倍、3番目のイタリアの40倍にもなる。

 メディア弁護士協会のマーカス・パーティントン氏が先の下院委員会に報告したところによれば、法廷弁護士の時給は500ポンド(約6万8000円)から650ポンド。勝訴後、負けた側から裁判費用の倍額を受け取る仕組みを利用した場合、時給は1000ポンドを超える。

 08年、科学作家サイモン・シン氏がガーディアン紙上に英国カイロプラクティック協会に関わる記事を書いた。これを巡る名誉棄損訴訟では、09年の協会側による提訴から現在までに、シン氏の裁判費用は10万ポンド(約1360万円)に上っている。

 次にリスクに対する相当の覚悟も必要になろう。調査報道は時間がかかり、すぐにはその正当性が立証されない。先の盗聴疑惑報道の場合のように、四面楚歌状態になることもある。また、記者、編集長、経営陣などの引責辞任という大きな代償を払わざるを得ない場合もある。

 後者のケースが、03年のイラク開戦に関わる、英政府の情報操作を指摘したBBCの報道だ。

 開戦前夜、政府はイラクの脅威に関わる文書を作成した。BBCの記者は、この文書に「誇張がある」と報道し、後に、嘘をついたのは官邸報道官であると、大衆紙のコラムの中で名指しした。BBCはこれによって、官邸を敵に回してしまった。

 「誇張疑惑」を問題視したブレア首相(当時)は独立調査委員会を発足させ、04年2月、委員会報告書は「誇張はなかった」と発表した。記者は辞職、当時のBBC会長、経営委員長は引責辞任した。しかし、後の複数の調査で、文書に掲載された諜報情報の信頼性が薄いことが実証された。

 三番目は支援体制だろう。報道機関が組織として調査報道を始める場合、編集長をはじめ経営陣による強い支援がなくては不可能だ。

 08年、ガーディアン紙は、英国最大のスーパーのテスコがオフショア(海外)にある不動産を使って法人税の支払い逃れをしていると報じた。テスコは同紙と編集長を「悪意ある嘘」をついたとして、名誉棄損で訴えた。

 最終的には租税回避という点では報道は正しかったが、正確には法人税ではなく、土地売買を巡る印紙税の節税で、その額は報道分よりも少なかった。ガーディアン紙は謝罪記事を出すとともに、裁判費用の負担を強いられた。

 この後、編集長が記者に言った言葉がガーディアンらしい。「次回から気を付けてくれ」ではなく、「ほかに税金逃れをしてる会社があるはずだ。どんどんやろう」。

 最後は、実行力だろう。つまり、やろうとするかどうか。巨額訴訟に追い込まれ、政治家や大企業を敵に回す調査報道は、「面の皮が厚くないとやっていけない」。先の盗聴事件をガーディアンに書いた、ニック・デービス記者の言葉である。(終)

「Journalism」4月号掲載分より(若干補足あり)
http://www.asahi.com/shimbun/jschool/

 (BAE疑惑などを担当した、ガーディアンの調査報道の記者デービッド・リー氏へのインタビュー記事に紙面に出なかった部分を補足したものを折を見て出します。)
by polimediauk | 2010-05-21 23:24 | 新聞業界
 調査報道」に取り組むガーディアンの記事の転載は以下(若干補足あり+数字は3月時点のものです。)
朝日新聞・月刊「Journalism」
http://www.asahi.com/shimbun/jschool/

「調査報道こそジャーナリズム、英紙ガーディアンの流儀」(上)

 英国では、複数の新聞社や放送局が権力に挑戦する調査報道を果敢に続けている。

 「調査報道(investigative reporting または investigative journalism)」は、英国では単に「深く調査し、報道する」という意味にとどまらない。例えばオックスフォード英語大辞典の定義を訳せば「違法行為、誤審などを調査し、これを暴くジャーナリズム」とある。政治家や大企業など、権力を持つ相手が公表したくないことを明るみに出す能動的な行為で、権力側との対決は避けられない。権力を「監視」するばかりか、これに挑戦する姿勢が英国では調査報道の核となる。

 本稿では、「挑戦するジャーナリズム」を掲げ、日々実践するガーディアン紙の調査報道について紹介したい。

 本題に入る前に、ガーディアン紙の特徴を手短に説明しておくと―。1821年、英中部都市マンチェスターで「マンチェスター・ガーディアン」として創刊。「中流階級(英国では、中流は平均より上の知識層のニュアンスがある)のための新聞」として出発した。「ガーディアン」となったのは、1959年から。政治傾向は中道左派。発行部数約28万(2010年2月現在。英ABC調べ、以下同じ)。テレグラフ(約68万部)、タイムズ(約50万部)、インディペンデント(約18万部)とともに4大高級紙の一つである。他紙同様、紙の発行部数の減少が悩みの種だが、そのサイトでは月間ユニークユーザー数は3600万人を数え、英新聞の中ではトップクラス。リベラル左派論壇への影響力が強い。大手紙の中で唯一非営利団体(「スコット財団」)が所有する。

―アラビアのジョナサン 武器調達の収賄疑惑

 1995年4月10日、ガーディアン紙は、ジョナサン・エイトケン財務副大臣(当時)が、サウジアラビアから兵器契約に絡んで賄賂を受け取っていたと1面で報じた。同紙とグラナダ・テレビの調査報道番組「ワールド・イン・アクション」(WIA)の記者による調査を基にしていた。WIAは、エイトケン氏の武器調達大臣時代の賄賂受領疑惑を「アラビアのジョナサン」と題する番組で、同日午後8時から放映予定だった。

 ところが、エイトケン氏は放映3時間前に記者会見をし、「嘘と嘘を広める人」への「戦い」を始めると宣言した。番組は放映され、同氏は名誉棄損で提訴した。

 しかし、同氏のパリのホテルでの宿泊代が賄賂であった証拠をガーディアンとWIAの共同取材が明るみに出し、1997年、同氏の敗訴が確定した。99年、同氏は偽証罪と司法妨害で有罪となり、18か月の実刑判決を受けた(実際の受刑は7か月)。裁判費用が膨らみ、同氏はロンドンの自宅を売却しても足りず、破産宣告を受ける羽目になった。

 一方、ガーディアンとグラナダも訴訟に240万ポンド(約2億2600万円、以下日本円換算はいずれも10年3月23日現在)を費やした。

―7年かけて挑んだ 防衛関連企業BAE疑惑

 今年2月、英国最大の防衛関連企業BAEシステムズの汚職疑惑を調査していた英米当局は同社と合計4億5000万ドル(約370億円)罰金の支払いで合意した。

 同社は、東欧諸国やサウジアラビアへの航空機販売を巡り、賄賂を使った事実を隠すために、米司法省に対し虚偽の情報を提供していたことを認め、巨額の罰金を払うことになった。英重大不正捜査局に対しては、同社がタンザニアでの取引を巡って不正会計を行ったことを認め、罰金3000万ポンド(約40億円)を払い、企業による刑事犯罪事件の和解金額として、英米両国においてともに最大額となった。

 BAEシステムズの賄賂疑惑は長年噂になっていた。しかし、それを実証するには時間がかかった。ガーディアンが先陣を切って取り上げたのは2003年である。当初ガーディアンが問題視したのは、1980年代に英国とサウジアラビアの間で交わされた「アルヤママ」兵器売却契約に関わる賄賂疑惑だった。90年代を通じて契約内容が拡大し、全体では430億ポンド(約5兆8000億円)にまで膨れあがっていたからだ。もちろん英国最大の兵器売却契約である。

 報道を続けるうちに、同社が裏金を使ってサウジアラビアの王族に接待を行っていた証拠を持つ人物がガーディアンに連絡を取るなど、情報提供者が徐々に現れて、報道の信ぴょう性が高まっていく。

 2004年、英重大不正捜査局が捜査を開始した。しかし、06年12月、捜査が佳境に入ったところで、政府の介入により突然中止されてしまう。

 ブレア首相(当時)は「テロ打倒、中東和平など」、サウジアラビアと英国が「戦略的に非常に重要な関係」にあり、打ち切りは「正しかった」と述べた。重大不正捜査局の当時の局長は「政治的圧力はなかった」「自分で決めた」とBBCの取材に答えているが、サウジ側からの英国への政治的圧力や兵器契約が打ち切られた場合の雇用減少や売却金の喪失という経済上の圧力が働いたことが、報道によって暴露された。

 ガーディアン紙は、2007年6月にはBBCとともに、BAEが元駐米サウジアラビア大使に対し、兵器受注にからみ過去10年間で10億ポンド(約1360億円)以上の裏金を渡していたと報道した。

 こうして、BAEが虚偽報告や不正会計で英米当局に罰金を支払うまでに、報道開始から7年の歳月が流れていた。

―差し止め報道を差し止める 多国籍企業を敵に回して

 このところ英国で問題視されているのが、著名人や大企業が、高額で弁護士を雇い、自分たちに都合の悪い情報の報道をストップさせる、差し止め令の発令だ。さらに差し止め令が出ていることすらも報道させない「超差し止め令」事件が増え、言論の自由を奪う状態が生じている。その典型が多国籍石油取引大手トラフィギュラ社の例だ。

 06年、同社は、西アフリカのコートジボワールに廃棄物汚染物を捨てた。その際、調査会社に依頼し、人体や環境への影響について報告書を作成させた。報告書は廃棄物の毒性が高く、場合によっては死に至る可能性もあると指摘していた。

 この「極秘資料」(同社)の報告書が、09年9月、「第三者」によってガーディアン紙に渡ったという。トラフィギュラ社は、同紙が「違法に入手した極秘」報告書を公表することをおそれ、阻止すべく提訴した。

 高等法院(刑事事件の第二審に相当)は同月、「報道の公益性がない」などの理由から報道の差し止めを命じた。同時に、報告書の内容が公表されればトラフィギュラ社に重大な悪影響をもたらすとの理由から、差し止め命令が出ている事実を報道することも禁じた。「超差し止め令」の発令である。命令を無視して報じた場合、ガーディアン紙側は法廷侮辱の罪で禁固刑などの刑事罰を受ける可能性もあり得た。

 法律で口を封じられたガーディアン紙はどうしたか?

 10月、高等法院の差し止め命令を問題視したある下院議員が、議会での審議を提案した。「超差し止め令」によって、この議案内容すらも報道できないガーディアン紙は、自社サイト上で同紙が「議会報道の差し止めを受けた」と題する記事を掲載した。同時に、アラン・ラスブリジャー編集長がツイッターでこれを報じた。

 ツイッターのつぶやきにフォロワーたちが反応。あっという間にネット上で議案内容を突き止める動きが広まった。すでに英文ウィキペディアで報告書の概要が出ていたこともあって、「超差し止め命令」は有名無実になってしまった。トラフィギュラ社は超差止め令を翌日解除し、報告書自体の報道差し止め命令も数日後に解除した。
 
 「報道の自由の勝利」として一件落着したが、ガーディアン紙はトラフィギュラ社に裁判費用(未公表、一説には100万ポンド=約1億3600万円)を支払っている。(次回に続く)
by polimediauk | 2010-05-21 08:07 | 新聞業界
 6月からタイムズ、サンデータイムズなどのウェブサイトが有料化される。いよいよ・・・ということで、話題沸騰状態だ。1日の閲読だと1ポンド(平日の紙媒体を買うのと同じ値段)だが、1週間だと2ポンドを払う。1週間2ポンドは安い感じがする。私のようにタイムズを購読しておらず+時々買ったり、無料でサイトで記事を読んでいる読者にとっては、非常に便利だ。わざわざ新聞販売店に行って買わなくてもいいのだ。支払い方法がどれだけ簡単かがカギかもしれない。
 
 無料路線(広告で経費をカバー)のガーディアンにとっても、心穏やかではない時期となる。もしタイムズが成功すれば、ガーディアンにしても何らかのビジネス上のヒントになる。今日の紙面を見たら、「エキストラ」というサービスを始めるようだ。これは、年に25ポンド払ってもらって、いろいろなサービスをディスカウント料金で利用できる、というもの(例えばレストランの食事代だったり、イベントの参加料だったり。ガーディアンの社内見学とか、記者との懇談会とか)。もし既にガーディアンの定期購読者だったら、無料でエキストラのメンバーになれる。タイムズで言えば、「タイムズプラス」というサービスに似ている。つまり、「読者のクラブ」のようなことだ。それほど高くないので、試しに入ってみようかなとちらっと思う。

エキストラ、プレミアム会員サービスのお知らせhttp://www.guardian.co.uk/media/2010/may/20/guardian-news-media-premium-membership

 でも、このブログをしばらく読んでくださった方で気づかれた方もいらっしゃるかもしれないが、私は実はそれほどガーディアンが好きなわけではない。海外(米国)で評判が高いというのは知っているのだが。英国で「ガーディアンを読むタイプの人」というのは、1つのパターンがあるような気がする。ただのイメージかもしれないのだけれどもー。例えば、「ガーディアンを読むタイプの人」は、「テレグラフを読む人」を馬鹿にするのである。「シャンパン・ソーシャリズム」という言葉を聞いたことがあるのだが、どうもそんな感じ。つまりは、自分はブルジョア生活を送りながら、「労働者の権利」などを語るのが好き・・という感じであろうか――この論理のつながりは英国独特かもしれないが。(ガーディアンの新ビルに行って中を見る機会のある方は、きっと驚くであろう。まるで「近代美術館」である。受け付けや社内のあちこちに置かれている、極度にカラフルで、アートっぽい椅子に座っていると、まるで自分自身がアートになった気が。「仕事が遊び」・・・ふうーん、ガーディアンだなあとしみじみ感じるのであった・・・。)

 ・・と散々、訳の分からない(?)悪口を言ってしまったが、独断と偏見はここまで。先日、調査報道に関して、ガーディアンに行って取材をし、朝日「Journalism」の4月号に記事を書いた。その結果、「ガーディアンにはいろいろ気に入らないところがあって、個人的には好きじゃないけど、でも、調査報道をここまで太っ腹でやれるのはすごい」と心から感心し、畏怖した。すごい新聞であり、絶対になくなってはならない新聞である。こんなに勇気のある新聞も、なかなかないであろう。

 実際に話を聞いて分かってきたのは、これだ!とガーディアン側が思ってやる調査報道が、「いつも成功するとは限らない」こと。お金もかかるし、裁判で負けることもある。大恥もかくし、自分たちの側にいるはずの団体からも批判されることもある。それでも、やっているのである。何故?、と私は思ったー結局のところ、「それが新聞の使命だから」と信じているからやるのだろう。

 「割に合わない仕事=調査報道」に取り組む、ガーディアンの記事(「Journalism」掲載分)を次のエントリーで出します。(今入れたら、「長すぎる」というメッセージが出たので・・・。)
by polimediauk | 2010-05-21 07:58 | 新聞業界
 5月6日に行われた英国の総選挙で負けた労働党。敗因をどのように分析し、これからどうやって保守・自由民主党連立政権に対抗しようというのだろう?

 おそらく、まだ確固とした戦略はまとまっていないだろう。それでも、一体どんな思いで敗退を受け止めているのだろう?感触を知るために、15日、労働党のシンクタンク「フェビアン協会」の集まりに行ってみた。最初のスピーカーが、元エネルギー・気候変動担当相のエド・ミリバンド氏。今年9月に予定されている、労働党党首選への立候補表明の場に遭遇することになった。

 当日の朝の時点で、ミリバンド氏が立候補の意志を表明すると第1報が出ていたので、舞台に出てきた段階で、「いつ表明宣言をするかな?」と期待をこめた熱い視線が注がれていたようだ。30分以上、まったくメモなどの助けを使わず、一人で話した同氏の話に何だか引き込まれてしまい、こちらのメモを取る作業が止まってしまった。

 彼なりの労働党敗因の理由は、「有権者との接点を失ってしまったこと」。政権を担当した労働党は「官僚的になってしまった」。移民問題や税制の面で人々が不公平感を感じていても、これに対応できなかった。「人々のニーズにばかり注目し、人々が社会に何を貢献できるかを議論にしなかった」。また、国家と国民の自由の観点からは、「あまりにもカジュアル過ぎた」(国民IDカードの発行の奨励など)。「あまりにも中央集権過ぎた」。

 これからは「市場とどうやってつきあうか、国家はどうあるべきか」を考えていくべきー「政治のやり方も変えなければならない」(選挙方法の変更の示唆)と述べる中で、「イラク戦争で労働党は信頼を大きく失った」「下院議員の灰色経費請求問題でも信頼を失った」と発言。

 「イラク戦争で労働党は信頼を大きく失った」という箇所で、思わず、はっとしてしまった。与党時代、労働党の幹部・政権担当幹部は常にイラク戦争を支持・誉めることしかしなかった。なかなか思い切ってこの事実を認められなかった。

 ミリバンド氏はまた、労働組合の重要性を認めながらも、「環境団体、地域の団体とつながることは大いに重要」として、これまでの労働党とはやや違うニュアンスを示唆した。

 同氏が労働党に入ったのは17歳の時だったそうだ。「現状に不満を言っているだけではだめだと思ったから」。「信頼と楽観主義」をモットーとして挙げ、キング牧師にも言及した。

 毎晩、寝る前に、「労働者階級のために生活をよくしたかどうか」を考えるという。(本当かな?とちらっと思ったがー。)

 兄の元外相デービッド・ミリバンド氏が既に党首選に立候補すると表明している。弟のエド・ミリバンド氏は、兄弟間での「取引はない」と述べた。これは、前に、ブレア・ブラウン両労働党首・元首相らが、野党時代、もし政権を担当したら、「ブレアが先に、次にブラウンがなる」と両者間で「取引をした」という通説があるからだ。

 演説の後で兄との違いは何か?と聞かれ、「エンバシー」(共感)と答えている。

 兄弟の父親はベルギー出身のマルクス主義理論家・政治学者であるラルフ・ミリバンド氏(1994年死去)である。

 私はエド・ミリバンド氏の話を新鮮に感じた。今、労働党は将来の方向性を模索中だと思うけれども、これまでとは違う、新たな方向性になろう。つまり、ブレア・ブラウンが登場する前の、①労働組合に大きく依存した、労働者階級の政党としての労働党(連帯を重要視する、社会の不公平を減少させる、国家が大きな役目を果たす)ではなく、②ブレア・ブラウンのニューレーバー(社会の不公平感の減少や政府の役目は重要視しながらも、市場経済の原理を受け入れる)でもない、新しいコンセプトが出てくるはずだ。

 新しいコンセプトが出る前に、まず現状を分析することが肝要になろう。その意味で、エド・ミリバンド氏がニューレーバー批判を思い切って行ったのが新鮮だった。

 ブレア・ブラウンの2大巨頭の政治家が現役でいた時には、なかなか「次」が出てこなかった。イラク戦争で信頼感がくずれたことを認め、金融サービス業への規制には「及び腰」であったこともミリバンド氏は演説の中で認めた。政権を担当していると、これを維持しようというプレッシャーがあって、「税制の不公平感を取り除けず、移民問題をまともに議論できない」政党になり、国民との接点を失ってしまったのだという。

 演説の終わりには、会場内で多くの人が立ち上がり、拍手をしていた。

 それにしても、なぜもっと早く、エドにしろデービッドにしろ、立候補して、労働党を新たな方向に引っ張っていけなかったのか?1997年の政権奪回までに、18年の野党生活を送ったことがネックになって、なかなか思い切った改革ができないでいたのだろうか?

 現在は、状況がすっかり変わってしまった。何しろ、銀行・金融サービス業に「もっと規制を」という声が高いのだ。移民問題も、以前にも増して、特に2004年以降の東欧諸国からの移民流入以降、否定的な声が国民の間で強くなっている。EUからの移民の数はそれほど多くないと発表したり、「英国人の仕事が奪われているわけではない」とどれほど政府が言っても、不満感は消えなかった。

 エド・ミリバンド氏は40歳。兄のデービッドは44歳だ。今のところ、兄の方が支持率が高いようだが、弟のエドはエネルギー・気候変動相として、昨年のコペンハーゲン気候変動会議で奔走した。もまれて、随分と成長したなという感がある。デービッドはブラウン元首相に近く、エドはブラウン元首相に近かったそうである。どちらが勝つのか、あるいは他の候補者になるのか(元教育相のエド・ボールズ氏、労働組合からの支持が高いとされるジョン・クルーダス氏などが立候補を考慮中と言われている)は分からないが、新しいアイデアが決め手になるのではないか。ボールズ氏やクルーダス氏はどうにも新しい感じがしない。元保険相のアンディ・バーナム氏は若さの面ではよいのだが、党首になるほどの支持があるかどうか。

 ポスト・ニューレーバー時代の新しいアイデアの創出には時間がかかるかもしれない。果たして、ニューレーバーの次はなんと呼ばれるのだろう?16日「オブザーバー」紙インタビューの中で、デービッド・ミリバンド氏は「ネクスト・レーバー」と表現しているが。
by polimediauk | 2010-05-17 01:00 | 政治とメディア
 朝日新聞の月刊誌「Journalism」2009年8月号の「海外メディア報告」というコーナーに、英国の陪審員の守秘義務と報道に関する記事を書いた。以下はその「下」である。数字は当時のもの。(「Journalism」ウェブサイトは http://www.asahi.com/shimbun/jschool/ )


陪審員も黙っていられない -英国・法廷侮辱罪を巡る2つの事件報道(下)

―侮辱法違反に問われた「タイムズ」の場合

 英国では近年、乳幼児の体を過度に揺することで内出血などを発生させる「乳児揺さぶり症候群」によって乳児を死に追いやったとして、実の母親や保育士たちが、傷害致死で有罪となり、その後の控訴で無罪となるケースが相次いでいる。「揺さぶり症候群」は児童虐待の一種とされる。

 サリー・クラークさんも、実の子2人を「症候群」で致死させたとして、1999年、実刑判決を受けた一人だ。

 判決の決め手となった医療専門家による証言の信憑性について、後に疑問符がつき、控訴によって03 年無罪を勝ち取った。しかし、心労が大きかったのか、釈放から4年後、アルコール中毒症で亡くなった。

 今年(2009年)5月、「タイムズ」紙と陪審団長の男性が法廷侮辱法違反で有罪となったのも、揺さぶり症候群での乳児傷害致死事件の報道だった。

 07年11月、バッキンガム州に住む保育士のケラン・ヘンダーソンさんが、揺さぶり症候群で保育中の乳児を死なせたとして、禁固3年の実刑判決を受けた。しかし、同年12月、この裁判の陪審団長が、匿名で「タイムズ」の記事で誤審を示唆し、複数の医療専門家による証拠の有効性に疑問を投げかけた。08年には、同紙に署名記事を寄稿し、裁判所内では質問がしにくく、陪審団は理解が不十分なまま評決に至ったと書いた。

 侮辱法違反の判決は、記事について、「陪審団が評議の初期段階で総意を固め、これを変えようとしない意思を伝えている。侮辱法で禁止されている『評議内容の公表』に当たる」と判断した。

 陪審団長はまた「陪審員たちが『常識』を使って『普通の男性、女性として評決した』」と記事の中で述べたが、裁判に提出された証拠・証言を陪審員は十分に考慮することになっており、この点の軽視も法廷侮辱に当たるとされた。

 裁判で「タイムズ」側は、欧州人権条約第10条にある表現の自由を盾に報道機関の権利を主張したが、判決は「陪審員の秘密」を暴露した点を重く見て、「陪審室内での意見が外に漏れないと認識しているからこそ、陪審員は自信を持って意見表明をすることができる」とも述べた。「タイムズ」は1万500ポンド(約2300万円)の罰金と裁判費用2万7426ポンドの支払いを、男性には500ポンドの罰金の支払いが命じられた(「タイムズ」と男性は控訴申請中)。

―守秘義務は知っている、しかし、と陪審員

 「タイムズ」側にとって侮法違反の判断は意外だった。「タイムズ」法務部門のアレステア・ブレット氏は、筆者の取材に対し、記事は「陪審員室の会話を再現したものではなかったので、侮辱罪の適用とはならないと思っていた」と語る。また、「揺さぶり症候群による乳児傷害致死罪に問われ、有罪となった数多くの女性たちがいた。今回のヘンダーソン容疑者の場合も有罪確定の決め手は医療専門家による証言だった」と説明し、「陪審員の間で専門家の証言に懸念を持っている人がいたのであれば、それを報道するのは公的利益にかなうと判断した」とも付け加えた。

 「パノラマ」や「タイムズ」の報道は侮辱法適用では異なる様相を見せたが、どちらの場合も、陪審法廷での医療や科学など専門家による証言・証拠に困惑する、非専門家である陪審員の姿を浮き彫りにした。

 「タイムズ」が取り上げた傷害致死事件の裁判の陪審員だった女性は、07年、「キャロル」という偽名を使ってBBCのラジオ番組に電話し、「複数の専門家の間でも意見が一致しない事柄の判断を、私たちが分かるはずがない」と思いを伝えた。

 「タイムズ」のフランシス・ギッブ記者は法廷侮辱とされた同年12月の記事の中で、陪審団長とキャロルさんの両者は「陪審員室の秘密を公にしてはいけないことを知っている。それでもこうやって発言したのは、いかに強い感情を持っていたかを示すため」と書いた。ヘンダーソン容疑者の事件が今後どう展開するのかは分からないが、判決結果に重大な懸念が出た場合、評決確定までのプロセスという「ブラックボックス」を開けることをタブー視してはならないだろう。

 陪審室の評議の検証は陪審制の根幹部分に疑問をはさむ「司法審理への介入」と受け取られる危険性をはらむとしても、である。自分自身が無実の身で投獄された経験を持つ「パノラマ」のロウ記者が言うように、どの裁判にも「人の命がかかっている」。だからこそ、陪審員たちも、やむにやまれぬ声をあげたのではないか。(終)
 
関連サイト
Jurors break silence to insist childminder did not kill baby(2007年
12月19日付、タイムズ)
http://business.timesonline.co.uk/tol/business/law/article3071072.ece

Juror speaks out: ʼthe court saw us as idiotsʼ(2008年1月29日付、タイムズ)
http://business.timesonline.co.uk/tol/business/law/article3242073.ece
by polimediauk | 2010-05-13 16:25 | 英国事情
 英国で新たな政権がようやく誕生した。昨日(11日)は、ブラウン(元)首相の辞任から、新首相キャメロン氏の官邸入りというドラマチックな日となった。ブラウン氏が官邸の前でマイクの前に立ち、「首相と労働党党首を辞任します」と宣言。その場で「辞任」となってしまうのだから、驚きだ。エリザベス女王のところに行って辞任を伝え、その後、少しして、キャメロン氏が女王のところに出かけて、政権担当の任命を受けた。キャメロン氏は官邸にやってきて、新任のスピーチ。この間、1時間あるかないか。ものすごく早い。そして、やや情けないことに、連立を組む自由民主党が連立案を承認するかどうかで集会を開いたのはその1時間後。全員一致で連立案を承認したのが夜中過ぎ。正当な手続きを踏むのは理解できるが、「政府は待ってくれない」とあるコメンテーターがラジオで言っていた。

 労働党の党首が誰になるか?だが、左派週刊誌「ニューステーツマン」の元編集長John KampfnerがBBCラジオで言っていたのは、「ある強力なリーダーがトップに長く居続けると、後輩が育たなくなるので、不毛の時期が続く」。具体例として、保守党のサッチャー元首相の例を挙げた。そして、今回、ゴードン・ブラウン氏が党首を辞任し、次の大物指導者はすぐには出てこないのではないか、と。確かに、ブレア―ブラウンの2大政治家に頼ってきた労働党。誰が党首になるだろうか?

                     ***

 日本で裁判員制度が始まって1年余が経った。始まる前には、裁判員制度そのもの、および裁判報道・事件報道に関する議論が百出した。現在では、裁判後に裁判員が記者会見に応じるケースもあり、制度が始まる前に心配したほどには、報道の自由の面からは支障がなかったように見ているが、どうであろうか。

 陪審員制度が長く続いている英国で、裁判報道はどうなっているかに関し、複数の記事を昨年書いた。その中で、朝日新聞の月刊誌「Journalism」2009年8月号の「海外メディア報告」というコーナーに掲載された記事について、ブログ再掲載の許可が出たので、以下に貼り付けたい。

 「Journalism」には毎月、あっと驚くような記事が載っているので、ご関心のある方はご覧いただきたい。
 
  http://www.asahi.com/shimbun/jschool/

 ブログは文章が長すぎると読みにくいので、上下に分けたい。今はアイフォーンなどで読む方も多いと思うが、読みにくい表現などがあったらお許し願いたい(あるいはすっ飛ばしていただきたい)。これまで、自分自身がネットで情報を探した時、非常に多くの人の情報に助けられた。この記事も誰かの何らかの参考になることを願っている。数字は掲載時(09年8月)のものである。

「海外メディア報告」
陪審員も黙っていられない -英国・法廷侮辱罪を巡る2つの事件報道


 日本の裁判員制度と英国の陪審員制度の共通点の一つは、審理に参加する市民(裁判員、あるいは陪審員)に課せられる厳しい守秘義務である。評決にいたる話し合いの内容や裁判で知りえた秘密などを、家族を含めた他者に漏らすことはできない。この守秘義務は生涯続く。

 この制約はまた、取材をする側にとっては大きな壁となっている。しかし、この壁に、風穴を開ける報道が起きている。BBCの調査報道番組「パノラマ」と高級紙「タイムズ」、テレビと新聞の事件報道である。陪審制の長い歴史をもつ英国で起きた、2つの殺人事件報道をもとに、どのような時に、どこまで踏み込んだ陪審員取材が可能となったかについて、報告したい。

 英国では、法廷侮辱法(1981年)第8条によって、陪審員が評議内容を明かすことを裁判終了後も禁じている。陪審団の人数、男女構成をメディアが報道することは認められているが、個人を特定できるような情報(人種、職業など)の報道はできない。また法廷内でのスケッチや写真撮影もできない。侮辱法に違反すると、無制限の罰金か最長で2年の禁固刑が科される。
 
 陪審員に、裁判参加について感想を聞くことには規定がない。しかし、メディア側は陪審員情報を(実際に裁判所で姿を目視する以外は)もっておらず、陪審員に対する取材は事実上、閉じられた状態になっている。

 「パノラマ」の場合は、テレビ司会者殺人事件を扱い、陪審員が画面に登場したが、侮辱罪は適用されなかった。一方、「タイムズ」の乳幼児傷害致死事件を巡る報道では侮辱法違反とする判決が出て、罰金の支払いを命じられた。両者ともに、陪審員から接触があって報道が実現した。

ー2人の陪審員が生の声、BBCの事件検証番組

 1999年4月26日朝、BBCの人気女性司会者ジル・ダンドーさん(当時37歳)は、西ロンドンの自宅前で、何者かに頭部を撃たれ、まもなく死亡した。目撃者、指紋、犯人のDNA情報、殺害に使われた銃などが見つからない中、事件発生の翌年、ダンドーさんの自宅近くに住んでいた男性バリー・ジョージが容疑者として逮捕され、2001年、殺人罪で有罪・終身刑となった。

 有罪判定の決め手となったのは容疑者のコートのポケットから発見された、火薬残留物の一片だった。ダンドーさんの頭髪や現場に残された薬きょうの中にあった残留物と同一である可能性が法廷で指摘された。弁護側は証拠が「脆弱」として控訴したが、02年7月、控訴院は高等法院判決を支持し、同年末、英国の事実上の最高裁である貴族院が弁護側による再度の上訴を棄却した。

 06年9月、BBC「パノラマ」は「新たな証拠」と題して、ジョージ容疑者の有罪確定の決め手となった火薬残留物が「犯行に使われた銃から発射されたものではない可能性がある」とする専門家の発言に加え、有罪評決に大きな疑問を感じたという2人の陪審員(1人は実名、1人は匿名)の生の声を放映した。これまでに陪審員が実名でテレビ画面に登場した先例はない。600万もの人々がテレビの前に釘付けにされ、時事番組としてその年最大の視聴者数を獲得した。

 翌年6月、誤審の可能性の高い刑事事件を調査する「刑事事件再審委員会」が、2年前から行っていたダンドー事件見直し作業の結果、火薬残留物の一片に裁判の重点が置かれすぎていたとする結論を出し、弁護側に控訴の権利を認めた。
 
 さらに07年10月29日、パノラマは「まだ結論は出ていない」と題する新たなダンドー事件の番組を放映した。翌月に予定されていた控訴院の判断を前に、刑事事件再考委員会が控訴院に提出した、残留物の証拠の信憑性の低さを指摘した報告書を紹介すると共に、なぜ、この不確実な証拠が有罪判決につながったのかを検証した。前回の番組に出演した女性陪審員が再度実名で登場した。陪審団長だった男性が、匿名で、顔が分からないように口元や目元の一部や後ろ姿を映すという形でインタビューに応じた。

 11月15日、控訴院が判断を示し、有罪が無効化され、再審へ。そして翌年8月、無罪釈放となった。

ー真相解明に努力したBBC記者の執念

 筆者は、「パノラマ」の二つの番組「新たな証拠」「まだ結論は出ていない」を企画・リポートしたラファエル・ロウ記者にロンドン市内で話を聞いた

 番組制作の目的は「たった一つ─真実を探し当てることだった」という。

 ロウ記者は一風変わった経歴の持ち主だ。1988年に英国南部で起きた殺人・暴行罪で有罪・終身刑を受け、12年間刑務所生活を送った。数人が虚偽の証言をしたため、無実の罪での受刑だった。2000年、無罪釈放となったが、ロウ記者は「法廷で提出される証拠や証言が事実ではない」場合があることを身をもって体験した。

 ダンドー事件について、ロウ記者は04年から独自に調査を開始。06年、容疑者の弁護士や裁判の証言者への取材を行う中で、パノラマの番組の話を知った陪審員の一人が、容疑者の弁護士を通して記者に接触してきた。

 法廷侮辱法により、陪審員への取材には厳しい規制がつくことを承知していたロウ記者は、顧問弁護士のアドバイスを受けながら、何をどのように聞くべきかに非常に注意を払った。

 「評議の内容については、聞かない。他の陪審員が、どんな発言をしたのかについても聞かない。聞くのは、その陪審員の感想のみ」という制約の中で、接触ができた陪審員との間で、「絶対にこの制約を踏み外さない、相手も、そして自分も侮辱罪に問われない取材をすること」を事前に確認した。また、「どのような内容の番組で、どのような視点で制作するのか、詳しく説明し、信頼してもらうと同時に、相手が自信をもって話せるように」心を砕いた。さらに注目度の高い事件であったため、陪審員が取材を受諾した理由に、その後、メディアに体験談を売って書籍化するなど私的利益を計る意図はないかについても確認したという。

 カメラが回っていない、陪審員と2人きりの時でも、侮辱罪に問われるような話はしなかったのだろうか?

 「なかった」とロウ記者はきっぱり答える。理由は「この事件の重要度はあまりにも高い。私の一挙一動を司法当局や関係者が見ているし、番組には数百万人単位の視聴者もいる。取材後、司法関係者が陪審員に聞くこともあるかもしれない。侮辱罪に抵触するようなリスクはとても取れなかった」。

―説明上手な専門家の意見を信じたと陪審員

 2007年10月29日放映の「まだ結論は出ていない」では、女性陪審員が「火薬残留物一片だけが決め手となって殺人罪になるなんておかしいと強く思っていた」と感想を語った。法廷で提出された複数の専門家による証拠は「それぞれが相反しており、どれが正しいのか判別がつかなかった。結局、説明が上手な専門家の意見を信じた」。
 
 番組内で提示された、検察側が用意した図には、容疑者のコートから出た火薬残留物の一片が殺されたダンドーさんの髪から見つかった残留物、及び殺害に使われた銃から出た残留物と同一であるかのように描かれていた。法医学調査機関「フォレンジック・サイエンス・サービス」の科学者による、コートから見つかった残留物は「殺害に使われた銃から発射されたものである可能性がある」という説明を図式化したものだった。

 コートの残留物は「証拠として実証性がない」と法廷で主張した専門家もいたが、これは取材に応じた2人の陪審員の心には強い印象を残さなかった(先の科学者自身は刑事事件再審委員会の調査の中で、証拠の脆弱性を後に認めた)。陪審団長(男性)は、番組の中で、「残留物の証拠が不十分なものであったことが当時分かっていたら、自分は有罪にはしなかった」と語っている。

 ロウ記者は、侮辱法による陪審員取材への厳しい制約を「公正な司法審理を維持するためには必要」という。「感想だけなら聞いてもよいという条件だったが、自分は十分な取材ができた。侮辱法は決して邪魔にならなかった」。(「下」に続く)
(ロウ記者のインタビュー記事を折を見て出したいと思っています。)

ージル・ダンドー殺人事件の経緯
(資料はBBCの情報を元に作成)
1999年4月26日:BBC のテレビ司会者ジル・ダンドーさんが自宅前で射殺される 同年5月18日:BBC 番組「クライム・ウォッチ」が射殺事件を再構成した番組を放映。コンピュータを使った容疑者のモンタージュ写真が紹介される
2000年5月25日:ダンドーさんの自宅近くに住んでいたバリー・ジョージが容疑者として逮捕される
同年:5月29日殺人罪で起訴
2001年2月26日:中央刑事裁判所で公判開始。ジョージ容疑者は殺害を否定
同年7月2日:ジョージ容疑者が殺人罪で有罪に。容疑者のコートのポケット内で見つかった火薬残留物の一片が有罪の決め手となった。
2002年7月29日控訴院が控訴を棄却。弁護側は、有罪の決め手となった証拠の正当性を「脆弱」と主張したが、却下される
同年12月16日:貴族院(最高裁)が再度の上訴を認めず
2004年:刑事事件再審委員会がダンドー事件の見直しを決定
2006年3月25日:ジョージ容疑者の弁護士、有罪確定を覆す新たな証拠があると発表
同年9月5日:BBC 番組「パノラマ」がジル・ダンドー事件を扱った「新たな証拠」と題する番組を放映。事件に関わった陪審員らが番組に登場
2007年6月20日:刑事事件再審委員会が、火薬残留物に裁判の重点が置かれすぎていたと結論。弁護士側、控訴の権利を得る
同年10月29日:BBC 番組「パノラマ」がジル・ダンドー事件は「まだ結論が出ていない」を放映。ここでも、陪審員らが登場
同年11月15日:控訴院が先の裁判での証拠が妥当でなかったと判断を示し、有罪が無効化される。再審へ
2008年6月9日:中央刑事裁判所で新たに公判開始
8月1日:バリー・ジョージ氏、無罪釈放となる。
2009年7月10日現在、真犯人はわかっていない

関連サイト 
Dando murder evidence questioned
(2006年9月4日、BBCニュース)
http://news.bbc.co.uk/1/hi/uk/5305694.stm
Jill Dando: The Juryʼs Out(2007年10月29日、BBCニュース)
http://news.bbc.co.uk/1/hi/programmes/panorama/7067290.stm
 
by polimediauk | 2010-05-12 18:57 | 英国事情
 英国の総選挙後、2大政党の「崩壊」と日本の将来について、最近聞かれるようになった。

 何故聞かれるのだろう?と思い、改めてグーグルを拾ってみると、いくつかの日本の新聞で、英国の総選挙の結果、2大政党制が崩壊した・しつつあるので、「2大政党の日本も気を付けた方が良い」「留意した方がよい」(表現は若干違うのだが)として、何故か急に日本の状況とくっつけて論じていた。

 日本の2大政党制(民主党が政権を取ったことで、2大政党制が始まったとした場合)と英国の2大政党制を結び付けるのには無理がある。何しろ、日本は自民党一党体制が戦後、ほぼ一貫して続いてきた国である。かつての野党・民主党が政権を取ったばかりなのだ。今回の英国の総選挙の結果を「2大政党制度の崩壊」として、「だから2大政党は問題がある」とつなげるのは、論理的に飛躍している。「2大政党」というのを、そのまま字句通りに解釈せず、英国の場合、「与党対野党」と考えた方が良いかもしれない。「常に野党側が与党政権を倒し、次の政権を担当するかもしれない状況」だと。一党体制が長く続いていた日本とはずいぶん状況が違う。
 
 うがった見方なのかもしれないが、英国の総選挙=2大政党の崩壊=日本の2大政党制度に言及する=日本でも一考するべきだ・・的な結論になるのは、何か裏があるように見えてしまう。2大政党を嫌う人・2大政党で不利益を被る人が裏にいるように見えてしまう。例えば、自民党あるいはその勢力下にいる人が、「やっぱり民主党はダメなんだ」と言いたいとか?私の想像だけかもしれないけれど。
 
 英国の2大政党制が本当に崩壊してしまったのかどうかは、私自身、分からない―実際、投票した人の多くが保守党か労働党に投票している。2大政党のいずれかに投票する習慣はまだ根強く、保守党か労働党かが政権を担当するものという考えはなくなっていない。だからこそ、どの政党も過半数を取れなかった現況が衝撃なのだ。

 かつて、有権者はいずれかの政党を信じて投票し、両政党は有権者の判断によって、必ずどちらかが政権を取ることを信じて疑わなかった。そんな時代は終わったのだろう。「当たり前のように交代で政権を担当する」ということ自体に、有権者は「ノー」と言ったのだと思う。

 既存大手政党・政治家への「ノー」は、政治・政治家全体に対する不信感も大きいだろうと思う。丁度1年前、下院議員の灰色経費疑惑が明るみに出たのである。

 保守党、労働党が過半数を取れなかった理由はほかにも様々だが、これまでに挙げられているのは、(a)労働党に関しては、金融危機を含めた経済に対する大きな不満、 (b)ブラウン首相に対する失望感、(c)3期まで続いた労働党へのあきあき感など。既存の大政党にがっかりした人が、自由民主党の若き党首クレッグ氏のテレビ討論での様子に感動した。クレッグ氏は有権者一人一人に、語りかけてくれたのだ。新鮮だった。「もう1つの道」があるように見えた。

 しかし、最後に有権者が票を投じたのは、新鮮なクレッグ氏率いる自民党よりも、これまでの2大政党の保守党か労働党だった。

―自民党は何故議席がそれほど取れなかったのか?

 何故自民党が不振だったのか?

 この答えでまだぴんとしたものを見つけていないのだが、クレッグ氏によれば、実際に投票所に来て、投票をする段階になって「選んだのは保守党か労働党だった」という状態が起きた。保守党、あるいは労働党という大きな2つの政党に票を奪われた形となった。「クレッグは好きだけど、政策は嫌い」という見出しがついた記事が出たが、政策が嫌われた面はあるのかもしれないー例えば移民政策(不法滞在の移民にアムネスティーを与える)やEU政策(EUに積極的に関わる政策、国民の多くがEUへの不信感)、トライデントの破棄(国防政策への不安感)など。

 どれほど接戦となっても最多の票を取った方が勝ちという単純小選挙区制がネックになったとも言われている。例えば、票数を数えると、保守党が約1000万票、労働党が860万票、自民党が682万票を取った。保守党が306議席取れたのであれば、自民党がその半分の150議席を取ってもよいようだが、たったの57議席なのだ。自民党が比例代表制の導入を含む選挙制度の改正を主張するのも無理はない。 http://news.bbc.co.uk/1/shared/election2010/results/

 今年中にまた選挙があるとして、誰が政権を担当するか分からないのが普通になりそうだ。どの政権も過半数を取らない状況が続けば、「過半数の議席を取った政党が、即政権を作る」という仕組みを変えざるを得なくなる。どんなに接戦でも票を多くとった人が当選し、負けた人の票は死に票になる現行の選挙制度も変わらざるを得ない。

 政党同士が、協力して政権を作らざるを得なくなる。昨日から今日にかけて、よくメディアで聞いたのが、「今回の選挙は、有権者が政治家に対して、『よく話し合って、協力して政権を作りなさい』というメッセージを出したのだ」ということ。

 まさにそういう状態が今、生じている。クレッグ自民党党首はキャメロン保守党党首側と連立政権の可能性を話し合っている最中で、同時にブラウン首相とも今日、会合を持った。

 連立政権の場合、政策の整合性はどうするのか?

 これが今のところ、大きな問題となっている。中道右派保守党とリベラル左派自民党はいくつかの政策に大きな違いがある。特に自民党がこだわっているようなのが、選挙制度の改革、特に比例代表制の導入だった。保守党は現行の小選挙区制度を維持したがっている。自民党はEUと共に働くことに積極的だが、保守党はEUの英政府への影響をなるべく少なくしたいと思っている。自民党は違法滞在の外国人に一度限りのアムネスティーを与えたいとしているが、保守党はこれに反対。自民党はトライデント廃止を訴えているが、保守党はトライデント維持。

 それでも、「国益のために」協力しようというのがキャメロン氏の呼びかけである。内閣の大臣職を自民党に提供する用意もあるらしい。

 政策が異なる政党が連立政権を作ったらどうなるのかー?政権が分裂するか、あるいは「国益」優先で互いに妥協するのか?最大議席(306)の保守党に自民党(議席数57!)が呑み込まれしまうのではないかと自民党内では危惧がある。うまくいくかどうか?それが分かる人は誰もいない。月曜日中には何らかのめどがつくと言われている。
by polimediauk | 2010-05-10 07:44 | 政治とメディア
 英総選挙は、結局、全議席650(ただし確定は649議席―候補者が亡くなり、1議席は27日に投票)の中で、保守党が306、労働党が258、自由民主党が57となった。残りは他政党か無所属である。環境問題を最優先するグリーン党が1議席を獲得した。

BBC
http://news.bbc.co.uk/1/shared/election2010/results/

毎日新聞記事
http://mainichi.jp/photo/archive/news/2010/05/07/20100508k0000m030042000c.html

 どの政党も過半数に達しないため、最大の議席数を獲得した保守党が自民党と政権を発足させるのかどうか、交渉が続いている。保守党キャメロン党首がクレッグ自民党党首に声をかけ、ブラウン首相・労働党党首もクレッグ氏に「一緒に連立を組まないか?」と呼びかけており、二人の愛人の間で揺れるクレッグ氏・・といった構図になっている。第3者的に見ると、ややコミカルな雰囲気もあるが(キャメロン、ブラウン氏ともに、クレッグ氏にラブコール)、交渉は「閉じられたドア」の向こうで行われているため、国民の間には焦燥感もある。

 本当に、まったくバラバラで、国内が割れている感じがする。月曜日までには保守党・自民党の側から何らかの声明文が出ると言われている。

                      ***
 
 ここ10年余ほど、ロンドうンを中心に広がったのが、英国の無料紙(この場合は一般有料紙が主とするニュースを扱い、有料紙と対抗するもの)だ。英国ばかりか欧州他国でも人気となった。しかし、景気動向の変化で広告収入が減少し、例えばロンドン内では2つの無料夕刊紙が廃刊となった。(逆に、有料夕刊紙だったイブニング・スタンダードが無料に。)

 有料紙にとってはほっと一息と思いきや、今ライバル視されているのが、地方自治体が発行する無料紙の存在だ

 この問題について、日本新聞協会が発行する月刊誌「新聞研究」5月号の「メディア・スコープ」欄に書いた。以下はそれに若干付け足したものである。

http://www.pressnet.or.jp/publication/kenkyu/100501_496.htm

英地方自治体が新聞を発行 ―地方紙が「民業圧迫」と非難

―有料紙の領域にも進出

 広告収入と販売部数の減少というダブルパンチに悩む英国の地方紙が、近ごろ、新たな「敵」に頭を悩ませている。地方自治体(=councilカウンシル)が発行する無料の新聞(council-run newspapers)だ。

 地方自治体のロビー団体、地方自治体協会の昨年の調査によると、イングランド地方の199の地方自治体の94%が無料情報紙・雑誌を発行している。そのほとんどは自治体からのお知らせを伝える数ページの広報媒体だが、都市部を中心とした一部の地方自治体の発行物にはテレビの番組表、スポーツ情報など、有料地方紙が扱うような充実したコンテンツが掲載されており、まさに「新聞」となっている。季刊、月刊、隔週刊、週刊など発行頻度にはばらつきがある。

 地方自治体の活動を監視する自治体監査委員会の今年1月発表の調査では、無料新聞を発行するイングランドの自治体の47%が民間企業の広告を紙上に掲載しており、広告に収入源を頼る地方紙にとって、大きな脅威となっている。ジャーナリズムの面からは、自治体を批判する記事が出ないなど政治上の中立性を保てない問題が指摘されている。その一方で、地方紙が埋めきれない穴(裁判や議会報道)を自治体発行の新聞が埋めるという構図もある。

 自治体が広報紙を出すのは地域や自治体に関わる情報を住民に通知し、住民からの意見を自治体の活動に反映させるためだ。地方自治体協会は住民とのコミュニケーションの一方法として、新聞や雑誌などの広報媒体の発行を奨励してきた。

 自治体発行の新聞を地方紙が脅威と見なす背景には、地方紙自体の窮状がある。

 読者の新聞離れ、インターネットの普及、「メトロ」などの無料紙の人気など、昨今のメディア環境の激変で新聞紙の販売部数は下落が続く。2008年秋の世界的金融危機以降は、広告収入の減少が加速化した。全国紙に比べて地方紙は広告収入に依存(広告収入と販売収入の比率はほぼ80対20、全国紙は半々に近い)してきたために、衝撃が大きい。好景気に集中していた不動産、雇用、自動車などの案内広告が不景気で大幅に減少し、これまでにない厳しい経営事情に直面することになった。

 地方紙を発行する大手3社(ジョンストン・プレス、ノースクリフ・メディア、トリニティー・ミラーの地方紙部門)の2009年の広告収入は、前年比で平均26-30%下落し、総収入でも20%前後下落した。

 09年の地方紙主要86紙の発行部数は270万部で、前年より平均7・2%減となった(英新聞雑誌部数公査機構調べ)。約1300の地方紙が加盟するニューズペーパ・ソセエティーの調査によると、昨年廃刊となった地方紙は60紙を数え、2007年では4万1000年を雇用していた地方紙業界はその1年後には3万5000人に減少した。その後も大幅人員削減の波が衰えていない。

―反撃のキャンペーン

 今年3月末、トリニティー・ミラー社は、西ロンドンの地方自治体が発行する新聞を廃刊に追い込むため、2週間に渡るキャンペーンを繰り広げた。「正当な新聞を、プロパガンダはダメだ」というスローガンが書かれたポスターを街中に貼り、同社が発行する週刊新聞フルハム・アンド・ハマースミス・クロニクル紙上で、地方自治体が隔週で発行するh&fニュース紙の発行を停止させるための署名を募った。一部80頁のh&fニュース紙は、地域に住む18万人の住民に無料で配布されている。有料だったクロニクル紙は、これに対抗するため、今年1月無料化を余儀なくされた。クロニクル紙のキャンペーンは切羽詰まった地方紙の姿を現していた。

 東ロンドンのハックニー自治体が1993年から配布してきた無料新聞イーストエンド・ライフ紙(発行部数、毎週9万9000部)は、裁判報道からスポーツ、テレビの番組表、広告など、地元有料日刊紙が扱うようなコンテンツが掲載されている。地元の有料紙イースト・ロンドン・アドバタイザー紙の発行部数は、イーストエンド・ライフ紙の創刊時、2万部だった。現在は7500部に減少し、その存続が風前の灯となっている。

 アドバタイザー紙の急落の原因の1つに、大量に提供される無料ニュースの存在がある。速報や動画など充実したコンテンツを提供するBBCのニュースサイト、毎朝、駅構内で入手できる朝刊無料紙メトロなど、どこでもニュースが無料で読める・見れる状況に人々はすっかり慣れてしまった。イーストエンド・ライフ紙は週刊だが、無料で、しかもこれが自宅に届くので、有料のアドバタイザー紙を買ってもらうには、相当の動機づけの創出が必要となる。「お金を払って、紙の新聞を買う」という行為そのものが廃れつつある中、どの地方紙も苦しい戦いを強いられている。

―公正取引庁の調査の行方

 ニューズペーパ-・ソサエティーは、自治体による無料紙発行を抑止するため、政府に対してロビー活動を行ってきた。

 そのかいあって、昨年6月、政府は自治体監査委員会に対し、自治体発行の新聞に関わる調査を依頼した。今年1月の調査結果の報告で、監査委員会は自治体による新聞発行は新聞社側が主張していた「公費の無駄遣い」ではないと結論付けた。委員会が管轄するイングランド地方の自治体のほとんどが情報媒体を発行しているが、1か月に一度以上の頻度で発行している自治体は全体の5%のみ。また、47%が企業の広告を掲載していたが、地方紙が収入を依存する求人広告は6%だった。監査委員会は、自治体の新聞が地方紙市場へどのような影響を与えているかに関しては「管轄外」として、意見を控えた。

 4月6日には、下院の文化・メディア・スポーツ委員会が地方メディアの将来に関する調査報告書を出した。地方紙に限らず、放送局もメディア環境の変化や広告収入の減少が打撃となっており、「地方の声」が消えつつあることを憂慮して、下院委員会は1年前からメディア関係者への聞き取り調査を行ってきた。

 下院委員会は、「自治体による無料紙は地方紙から広告を奪うばかりでなく、報道の客観性・中立性が保証されず、自治体にとって都合の悪い情報は掲載されないなど、マイナス面がある」、「情報媒体の1つとしての有益性はあるが、独立したメディアとしての地方紙の代わりにはならない」と述べた。また、公正取引庁に自治体発行の新聞の地方紙への影響を調査するよう提案した。

 公正取引庁の関与は地方紙団体の希望だったが、実現するかどうか、あるいは地方紙に好意的な結果となるかは不明だ。昨年11月、公正取引庁代表は、自治体発行の新聞と地方紙の広告市場での競争に関する判断は同庁の管轄下にはないと述べている(先の下院委員会の公聴会)。

 例え「地方紙のビジネスを阻害する」という判断がもし出たとしても、コンテンツの内容までに踏み込める規制団体は、今のところ、新聞業界には設置されていない。例えば放送業でいえば、放送内容を規制・監督する情報通信庁(オフコム)に相当する団体がない。最終的には誰も責任を取らず、堂々巡り状態に陥る可能性がある。

 先の下院委員会は経営難の地方紙に対し、「自助努力」での生き残りを提言した。地方紙にとって、まだまだ冬の時代が続きそうである。(終)
by polimediauk | 2010-05-09 19:15 | 新聞業界