小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


by polimediauk
プロフィールを見る
画像一覧

<   2011年 01月 ( 15 )   > この月の画像一覧

 昨晩(1月11日)、ロンドンの記者クラブ「フロントライン・クラブ」で、「ウィキリークスはジャーナリズムに鏡をかかげているのか」という題で、メディア関係者が議論を行った。

 その模様は以下の動画で見れる。

 http://frontlineclub.com/events/2011/01/on-the-media-wikileaks---a-mirror-for-journalism.html
 http://frontlineclub.com/

 フロントラインクラブはジャーナリストであれば会員になれるが、放送・映像ジャーナリズムに主眼を置いているようだ。

 昨晩、このイベントでとったメモを頼りに、話の流れを追ってみたい(上の動画を再視聴すれば間違っているところが出てくるとは思うのだが、ひとまず、メモのみの再現であることをご了解願いたい。随時、修正が入る可能性あり)。

 出席者は:司会が、アルジャジーラ英語放送のプリゼンターの一人、リチャード・ギズバードRichard Gizbert。これに、タイムズのコラムニスト、デービッド・アーロノビッチDavid Aaronovitch、ウィキリークスの創始者ジュリアン・アサンジの弁護士(メディア専門)マーク・スティーブンスMark Stephens、ガーディアンの副編集長イアン・カッツIan Katz、ロンドン市立大学の中にある調査報道の研究所「センター・フォー・インベスゲティブ・ジャーナリズム」のディレクターのギャビン・マクフェイデンGavin MacFaydenである。(以下、すべて敬称略。)

 長いので2回に分けようと思ったが、結構さあっと最後まで行ける・・・はずである。

***

 フロントラインクラブを発足させ、今、アサンジに居住地を提供しているボーン(読み方訂正)・スミスが、クラブのメンバー全員がウィキリークスやアサンジを支持しているわけではないと述べた。そこで、19日に会員を集め、アサンジ支持の方針について、議論を行うという。

                     ***

―「文化の衝突」

司会:米誌「バニティー・フェア」の記事によれば、アサンジとガーディアン側との間に「対立」ができた、という。これはジャーナリズムの編集上の対立か、それとも個人のパーソナリティーが衝突したのか?

イアン・カッツ(ガーディアン):雑誌が書いたほどの対立はなかったと思う。もっと複雑な話だ。昨年3月、アサンジの弁護士マーク・スティーブンスと一緒に席に着き、6時間ぐらい、話し合ったのは確かだ。
 この時、独シュピーゲルの記者もいたかな?そこで、どうやってこれから巨大な情報を公開してゆくかを相談した。同時に情報を一斉公開することで合意した。
 アサンジは欧州の媒体を入れたがっていたので、ルモンドなども入れることにした。
 この共同作業は本当にすばらしいもので、数ヶ月続いた。緊張関係はあったかもしれないが、同時に、学ぶことが多かった。
 ウィキリークスはネット媒体で、国境を越えて情報を出すという力がある。当局が容易には抑制できない。データジャーナリズムでもある。私たちは古い新聞ジャーナリズム。
 扱うデータが非常に多くて、多くの記者が関わった。巨大な量の情報を見て、これでどうやって、情報源を守ったらいいのだろう、と考えた。
 最後は、文化の違いが出たと思う(ガーディアンとウィキリークスの間で)。
 昨年の夏に出たアフガン戦争ログだが、ウィキリークスが持っていたのは生データ。このデータが引き起こすリスクへの考慮がなかった。そこで、いわばガーディアンに情報の精査などをアウトソースした。

―「ジャーナリズムのやり方を変えた」

マーク・スティーブンス(アサンジの弁護士):まあ、大体そういうことだった。
 ウィキリークスは、これまでのジャーナリズムのやり方を変えたと思う。大きな変化だ。
 (対立や衝突が起きたのは)家族だったらストレートに本音を言えるが、他人同士だとなかなかそうはいかないから。
 これまでに、メガリークで誰一人、危害にあった例はないと思う。
 私は、一連の情報が、過度に機密情報として分類されていたのではないかと思う。ほとんどが公開されてしかるべきものだった。社会のためになるのだから。

―「ガーディアンがアサンジを飼育」

デービッド・アーロノビッチ(タイムズのコラムニスト):一言で言えば、野獣のアサンジを、ガーディアンが飼育したのだと思う。
 一人の米兵(マニング)がクーデターを起こし、巨大なデータを外に出した。これは一回こっきりの話かもしれない。その影響が何なのか、まだ結論を出すのは早すぎる。もっとこういう種類のデータが外に出るのかどうかは分からない。
 話は、(アサンジがガーディアンに来たのではなく)、ガーディアンがアサンジにアプローチしたのだろうと思う。ガーディアンはゲイトキーパー(門番)の役目を果たしたのだろうと思う。
 それと、バニティー・フェアの記事は、ガーディアン側の取材でできたものだった。(弁護士のスティーブンス、「そうだ。こちらには全く取材がなかった」と声を出す。)
 アサンジは、自分は生情報を出す側にいて、ガーディアンがゲイトキーパーの役を果たすと言っていた。
 ジャーナリズムの面からとても面白い現象だ。ある女性ジャーナリストが言っていたが、すべてのジャーナリストはその手段を正当化できない、と。つまり、記事を作るためには、いろいろな手段を使うのだ。
 ガーディアンはアサンジを使ってそうした。アサンジでなければ、情報はガーディアンに来なかった。
次の新たなウィキリークスの類似サイトがガーディアンと協力するかどうかは分からない。一回のみの現象かもしれないのだ。

―「津波のような情報量」

ギャビン・マクフェイデン(「センター・フォー・インベスゲティブ・ジャーナリズム」―CIJ―ディレクター):巨大なデータの堆積はまるで津波のようだった。
 ウィキリークスは2007年から活動を開始したが、ケニア、南アフリカ、世界中から情報が集まる。集まりすぎて、人材が足りないぐらい。巨大な量の情報がたくさん入ってくる。毎日だ。
 情報が集まるのは、リーク者が安全な場所だと思うからだろう。内部告発サイトとしては、ウィキリークスは最高に成功したサイトだと思う。
 最も効果的に、世界の腐敗に説明責任を持たせることができるサイトだ。

スティーブンス(弁護士):ウィキリークスが情報を出しても、それが自分の国に関係ない限り、報道機関は見逃してきた。ペルーの政権が崩壊したのも、ウィキリークスが出した情報が一因だった。でも、他の場所では誰も気づかなかった。
 優れたジャーナリズムはウィキリークスから出てくる。
 外交公電の公開でも、真実が出た。外交は嘘が多い。公開されたものが真実を表す。これが本当の話だ。
 (リーク情報を元にしたなど)ジャーナリズムがきれいごとではないことは、この部屋にいるみんなが知っている。

マクフェイデン(CIJディレクター):ニューヨーク・タイムズはガーディアンとは異なる報道を行った。タイムズが出したのは、ほんの一部のみだ。ガーディアンに比べて10分の1だ。
 米国の報道機関はあまり報道していなくて、ニューヨークでは出ていても、私がシカゴに行ったとき、全く見かけなかった。
 イラク戦争の戦闘記録の情報を出したときも、英国のテレビでこれを取り上げて放映したのは民放チャンネル4の「ディスパッチ」だけだった。
 ニューヨークタイムズは最小限の情報しか出していないし、米国のメディアはウィキリークスやアサンジに批判的だ。

アーロノビッチ(コラムニスト):先ほど、情報の公開で「死んだ人はいない」という発言があったが、実際は分からないと思う。
 公電の公開でもいろいろなことが起きているのだし。
 ガーディアンの社説にも、一定の情報は公開して欲しくないと思っている、と書かれていた。つまり、敵に渡ったら好ましくない情報や、テロを起こすような情報だ。
 しかし、何が公開するべきで何を公開しないかを、一体誰が決めるのだろう?どうやって決めるのだろう?政府の全員が大うそつきだ、いやそうじゃないというのは、不毛の議論だと思う。
 そこで、実際にはガーディアンが、自分たちの判断で、やりたいように情報を選択して出している。
 しかし、その選択が正しかったかどうかを一体どうやって検証するのか?司法の場か?報道の自由に司法が介入といえば、みんなが大騒ぎをしてしまう。

スティーブンス(弁護士):アサンジは、公開前に、米政府や英国の国防通知担当者にコンタクトをとっている。人の命を危険にさらす情報や、軍隊の実際の動きに関する情報に関しては、考慮する、と言っている。

マクフェイデン(CIJディレクター):私の経験では、センターの私のところに、ある女性から電話がかかってきた。数人のアフガン人の子供たちの名前を消して欲しい、と(注:CIJは生データの精査に協力している)。すぐに消した。2秒もかからなかったろう。しかし、彼女がどうやって私のコンタクト先を知ったのかが疑問だった。聞いてみると、米国務省に聞いたというのだ。驚きだった。

カッツ(ガーディアン):ガーディアンがアサンジを「使った」ということはないと思う。緊張感が漂う会議があったことは認めるけれども。
 アサンジのコントロールがきかないところで、(注:ウィキリークス内の誰かが)ある人に生情報を渡してしまったのだ(注:これは、在英ジャーナリスト、ヘザー・ブルック)。そこで、こうなった以上は、情報公開の時期を早めるかどうかで議論になった。

司会:誰かが生情報を渡したというのは、ウィキリークス内部の誰かがということか?

カッツ(ガーディアン):言いたくない。アサンジのガーディアンに対する「裏切り」とは思っていない。ただ、アサンジは目立つ性格で、これを使っていると思う。

スティーブンス(弁護士):ウィキリークスがジャーナリズムの姿を映し出しているのかどうかというと、そうだと思う。これから、どうやって情報を出すのかが変わった。メディアは、アサンジが情報を取得した方法が嫌いだから、アサンジを否定的に見るのだと思う。倫理的に判断している。

マクフェイデン(CIJディレクター):他のメディアがメガリークを大々的に出していないのは米政府から圧力があるからだ。例えばニューヨー・タイムズのように。例えば、「拷問」という言葉を使っていなし、犠牲者の数も少なく報道している。
 例えば、検問所での死者が、その周り2マイル四方での死者よりもひどく多い。イラクのアブグレーブ刑務所での米軍によるひどい取り扱いも、ニューヨーカーのサイモン・ハーシュが報道したけれども、報道から1年半ぐらい、何もおきなかった。
今、ニューヨーク・タイムズはアサンジを攻撃している。

 アーロノビッチ(コラムニスト):公開された情報のほとんどはすでに報道されたことや、私たちがわかっていたことだったけれど、あれほどまとまった事実の積み重ねはない。

マクフェイデン(CIJディレクター):アフガン政府の汚職は広く知られていたが、例えば、アフガン政府の高官がスーツケースに現金を納めたというエピソードが出て、リアルになる。すばらしいのは生情報が出ていること。これがあるので、事実を否定できないーたとえ新しい内容がなくても。

カッツ(ガーディアン):今、内部告発者はウィキリークスに行く。もしガーディアンに持っていったら、ガーディアンが独自の「色」をつけるから。

―「異なるスキルが必要とされる」

スティーブンス(弁護士):ジャーナリズムの意味が大きく変化している。巨大なデータがディスクに入っている。これを分析しないといけない。異なるスキルがジャーナリストに必要になった。
 それと、アサンジは「ブランド」ではないと思う。もともと、匿名だったが、米メディアに名前を出されてしまったので、そうしているだけだ。私の印象では、特にメディア戦術に長けているとは思えない。

質問:今回のメガリークで、各国の政府が情報管理を厳しくするようになったと思うか?

スティーブンス(弁護士):情報管理がゆるかったのは、ある意味では米政府のみ。今回の情報も300万人が見れるようになっていたのだから。

質問:巨大なデータを報道機関は処理できるほどの人材とお金があるのか?

カッツ(ガーディアン):準備万端とはいえない。

アーロノビッチ(コラムニスト):分析屋(アナリスト)の位置が大きく変わった。例えば、経済の問題なら、特定のシンクタンクに意見を聞く。今は情報が大量に出ている。これを分析する人が必要になった。何が重要で何が重要でないのか。アナリストに聞かないと分からないのだ。
 メディアはこうしたことをやっていけるかどうか?お金がかかる。調査報道の1つにもなる。
 これからもウィキリークスに類似したサイトはドンドン出てくる。情報の公開へ求が高まる。
 民主主義の問題でもある。一体誰が、どの情報を公開するかどうかを決めるべきなのか?どうやって?大きな問題だ。
 元F1のモズレー会長(性的嗜好を大衆紙に暴露された)が、プライバシー保護の運動を続けている。しかし、そんなことは、もう関係なくなってくる。例えば、ガールフレンドの一人が、ウェブ上に体験話を載せてしまえば終わりだ。医療記録だって、誰かがサイトに載せるかもしれない。そういう時代に生きている。

質問:アサンジはジャーナリストか?

スティーブンス(弁護士):どちらでもいいのではないか?

マクフェイデン(CIJディレクター):問題になるのは、もしアサンジがジャーナリストだと、米国では、憲法上、報道の自由の観点から保護の対象になるという点だ。

スティーブンス(弁護士):広い意味で、アサンジはジャーナリストだと思う。アサンジは米メディアでは攻撃されている。テロリストという人もいるくらい。

司会:もしアサンジがテロリストなら、記事を載せたニューヨークタイムズはテロリストにはならないのだろうか?(機密を暴露したのだから、同じはずだ。)

―なぜ、アサンジに批判的な記事をガーディアンは出したのか?

質問:スウェーデンの検察庁のリーク情報(アサンジの性犯罪容疑に関する詳細)がガーディアンに来て、ガーディアンはアサンジ攻撃とも見られる記事を出した。アサンジからすれば、裏切られたと思ったのではないか。

カッツ(ガーディアン):情報がガーディアンに来たので、出さざるを得なかった。もし出さなければ、たくさんのメガリーク報道をしていて、ガーディアンのジャーナリズムに公正さがない(偏っている)と思われる可能性があったからだ。アサンジに関する批判的な報道を出さなければならなかった。

スティーブンス(弁護士):今は、情報源の信憑性を計れない時代。ネットの新時代。マスメディアから人は離れ、もっとばらばらになっている。ブログや他の情報発信手段がある。

カッツ(ガーディアン):ウィキリークスは、ジャーナリズムの創造的な構成要素だと思う。

アーロノビッチ(コラムニスト):アサンジに対する、本当の意味での身の危険はないと思う。身の危険があるのは、現在、中国で投獄されている人々だ。

マクフェイデン(CIJディレクター):ウィキリークスには中国で投獄されている人から預かった書類もたくさんある。

質問:ウィキリークスがもっと前から活動を行っていれば、2003年のイラク戦争は止められたか?

マクフェイデン(CIJディレクター):可能性はあった。しかし、新聞は報道しなかっただろうと思う。

アーロノビッチ(コラムニスト):答えは、ノーだ。イラクの大量破壊兵器に関する脅威を記した、英諜報部の報告書を政府は出した。当時のブレア首相は、後で、報告書ではなく「生データを出せばよかった」と言っているくらいだ。情報が出ても、戦争は回避できなかった。

                      ****

 以上、メモをもとにした情報である。時間のある方は動画をご覧いただきたい。(細かい点を動画を視聴してチェックしていないことを、再度記しておきます。)

 私自身の見方は、タイムズのコラムニストと結構重なる。ウィキリークスがあっても「イラク戦争は回避できなかった」(かなりたくさんの情報が少なくとも英国ではたくさん出ていた)「もっと時間が経たないと、何が起きたのかを理解できない」「私たちはウィキリークスの時代に生きている」。(1・12記)
by polimediauk | 2011-01-13 00:09 | ウィキリークス
―大衆紙の人気は衰えず

 本題に入る前に、英国での大衆紙の位置をおさらいしておきたい。

 2010年10月、平日(月曜から土曜)発行の日刊紙のトップを占めたのは大衆紙サンで約290万部。これに同じく大衆紙のデイリー・メール(213万部)、デイリー・ミラー(122万部)が続く。(補足:ここでの数字は10月のものだが、現在でもあまり変わらないので、とりあえず、このままにしておきたい。)

 高級紙のトップ、デイリー・テレグラフは約66万部で、サンの部数の4分の1以下である。ガーディアンは28万部で、10分の1以下だ。

 日曜紙市場では、サンの日曜版に相当するニューズ・オブ・ザ・ワールド(NOW)紙がトップで約281万部。日曜高級紙として最大の部数を誇るサンデー・タイムズは106万部で、NOW紙の部数の3分の1だ。

 (補足:英国は、新聞といえば大衆紙の国なのである。ジャーナリズムについて書くとき、私自身、ガーディアンやタイムズなど高級紙を話題にすることが多いが、圧倒的に多くの人が、ゴシップ満載で、記事は短く読みやすい大衆紙を読んでいることを頭の片隅に入れておきたい。)

 日本の人口の約半分弱の英国で、100万部を超える大衆紙がそれぞれ競争する。この発行部数の大きさが、時には世論を動かし、時には権力者の名声を破壊する力として働く。

 平日版の大衆紙は一部が20ペンス(約27円)から40ペンス。一般高級紙(経済紙フィナンシャル・タイムズをのぞく)の価格の5分の1だ。低価格は熾烈な部数競争が招いたものでもある。
 
―ニューズ・オブ・ザ・ワールドとは

 ニューズ・オブ・ザ・ワールド(NOW)紙は1843年創刊。著名人のゴシップ記事や性に関わる不祥事の暴露で知られ、おとり取材(記者が別の人物に成りすますなど)の手法も良く使う。

 2010年5月には、ビジネスマンを装った記者がエリザベス女王の次男アンドルー王子の元妻セーラ・ファーガソンさんに近づき、王子を紹介する口利き料としてファーガソンさんが、50万ポンド(約6500万円)を要求する姿を隠し撮りし、この動画を同紙のサイト上で公開した。

 08年には、当時国際自動車連盟の会長だったマックス・モズレー氏が数人の娼婦を相手に、「ナチス政権下の強制収容所、拷問室にいるという設定で乱交プレーを行った」という記事を掲載した。NOWは娼婦の一人にビデオカメラで乱交プレーの様子を撮影させており、この動画をサイトに出した。後にモズレー氏はNOW紙をプライバシー侵害で訴え、勝訴。NOWは賠償金の支払いと裁判費用の負担を命じられている。(補足:モズレーは今でもNOWへの怒りが消えていないようだ。なぜ、この報道に関わった記者が解雇されないのかといきまいているという記事を読んだ。)

―最初の盗聴事件は英王子のけが報道で発覚

 盗聴事件の発端は、2005年11月にさかのぼる。ウィリアム王子のひざの怪我に関する記事がNOW紙に出たことがきっかけだった。ごく内輪の人間のみが知る情報が新聞記事となったことで、王室スタッフが、携帯電話への不正アクセスを懸念しだした。

 06年1月、王室から調査以来を受けたロンドン警視庁は、NOW紙の王室報道記者クライブ・グッドマンと同紙に雇われた私立探偵グレン・マルケーの関与の可能性を突き止めた。
 
 マルケーの自宅から押収した書類などから、盗聴被害にあっていた可能性のある数千に上る携帯電話の番号と、留守電の伝言を聞くために必要な暗証番号91件分をマルケーが保管していたことが判明した。押収物の中には、マルケーが、サッカー界の幹部の電話をいかに盗聴するかについて、ある記者に説明する会話を録音したテープも含まれていた。

 しかし、警視庁は王室関係者への盗聴だけに捜査を絞ってしまう。また、NOWの中でグッドマンやマルケー以外に携帯電話の留守電盗聴に関与していたかどうかも捜査の対象から外してしまった。

―「知らぬ」「記憶にない」に「集団健忘症」と報告
 
 ところが、決着したはずのこの事件を、09年7月、ガーディアンが蒸し返した。グッドマンやマルケーの盗聴裁判で明らかになった情報と独自の取材を通して、NOWの複数の記者が広範囲な電話盗聴を行っていたと報道したからだ。

 盗聴対象者は有名人、スポーツ選手、政治家など約3千人に上るとした。また、盗聴対象者の一人に入っていた英プロサッカー選手協会ゴードン・テイラー会長が、08年、NOWから70万ポンド(約9千万円)の和解金を受け取る代わりに、和解内容を極秘とする示談に応じていた、とも報じた。NOWによる盗聴が王室関係者のみではなかったことを示す、動かぬ証拠となるはずであった。

 ガーディアンの報道を受けて、下院の文化・メディア・スポーツ委員会が盗聴事件に関する公聴会を開いた。

 公聴会の焦点は、盗聴行為がグッドマン、マルケーだけに限らずNOWの中で常態化していたかどうか、元編集長クールソン氏の関与がなかったのかどうか、であった。

 召喚されたクールソン氏及び現NOW関係者、ニューズ・インターナショナル幹部は、「盗聴行為関与はグッドマンとマルケーのみ」とする返答を繰り返した。マルケーがNOWの別の記者に送った、盗聴内容を書き取ったメモの詳細など細かい点に関して聞かれると、「記憶にない」「分からない」とする返答に徹した。

 クールソン氏は「編集長として、部下が何をやっているのかを関知してないのは、おかしいとは思わないか」と委員に詰め寄られたが、「すべてを関知できない」と一蹴した。

 2010年2月、委員会は報告書を発表し、NOWは電話盗聴事件に関し「集団的健忘症にかかっている」という皮肉とともに、盗聴行為に関し、編集室の中で誰も関知していなかったのは「理解できない」と指摘した。しかし、結局、クールソン氏が盗聴を承認したのかどうかは確認できずに終わった。

 また、後にグッドマンとマルケーがNOWから「不当解雇」であったとして賠償金の支払いを受けていたとの指摘もある。違法行為を働いた上での解雇であったにも関わらず、賠償金とは奇妙な話である。金額や条件は公開されていないが、同委員会は、両氏が金銭を受け取る代わりに、NOWとの取り決め内容を口外しない約束を交わしたことを示唆している。 

 新聞業界の自主規制団体、英報道苦情委員会も独自の調査を行ったが、09年11月現在でも盗聴行為が行われている証拠がない」と結論付けている。(つづくー最後の③は「しかし、である。そんな曖昧な決着を突く報道が2010年9月、現れた」ー。)

 補足:英報道苦情委員会はガーディアンに対し、あまり同情をよせない姿勢をとっている。09年秋、ガーディアンのNOW報道の証拠の1つをけなし、これに抗議して、ガーディアン編集長が報道苦情委員会の「倫理規定小委員会」を辞めたのである。

「Journalism」2010年12月号より転載 
―朝日新聞社ジャーナリスト学校 
http://www.asahi.com/shimbun/jschool/ 
―富士山マガジンサービス 
http://www.fujisan.co.jp/journalism/ 
by polimediauk | 2011-01-10 02:38 | 新聞業界
(nofrills さんのコメントもご覧ください。特にラモ+ワイヤードの件)
 (これらの経緯、下記で当事者(アイスランドの議員、米国の技術者アペルバウムら)と、法務周りの人々、およびニュース系の人々のtweetをまとめてあるので、データベース的に共有・ご参照ください。
http://togetter.com/li/87263

エイドリアン・ラモのチャットのログをWiredが公開しない件についても、Togetterでまとめてあります。
http://togetter.com/li/82372
http://togetter.com/li/83478)
 

 話がどんどん進んでいるので、もし速報を追う場合、「ウィキリークス」か「wikileaks」のキーワードで探し出したツイッターアカウントを追うのが一番早いと思う。私自身が見つけた情報も、日本語・英語ツイッターで出している。@ginkokobayashi(日本語)@ginkotweet(英語)ー私自身が情報を取るのが早いというよりも、「早い人をフォローしている」ので、これを読まれた方も、どんどん早い人を探してみてください。

                   ***

 なかなかある程度まとまった日本語情報が出ないので、情報はまだまだ不正確も知れないが、ひとまず概要をまとめてみた。

 BBCとガーディアンの記事によれば、米政府はツイッターに対し、ウィキリークス関係者のつぶやきや個人的な情報を提出するよう命令したという(以下はその中から抜粋した情報である)。

http://www.bbc.co.uk/news/world-us-canada-12141530
http://www.guardian.co.uk/media/2011/jan/08/us-twitter-hand-icelandic-wikileaks-messages

 昨年12月14日、米政府は、バージニア州の地方裁判所を通じて、ツイッターが持つ、ウィキリークス関係者に関する個人情報の引渡しを命じた。この情報要求は「現在継続中の犯罪行為の捜査に関連」しているそうだ。

 ツイッターは情報を渡すまでに3日間の猶予期間を置かれ、情報を要求された件や捜査の存在を口外しないように言われた。

 しかし、同じ裁判所が、この規制を1月5日解除。ツイッターが利用者側に対し、情報の提出要求の件を通知できることになった。

 「ウィキリークス関係者」とは、ウィキリークスの代表ジュリアン・アサンジ、メガリークの情報源といわれているブラッドリー・マニング兵、アイスランドの国会議員ブリギッタ・ヨンスドティル(女性)、オランダのハッカーRop Gonggrijp 、米国のプログラマー、ジェイコブ・アップルバウムである。最後の二人は、以前、ウィキリークスの中で働いていた。

 要求している情報は、ユーザー名、住所、接続記録、電話番号、支払い情報の詳細だ。

 7日、議員がツイッターで事の次第をつぶやいたことから、この件が広く知れわたった。

 ヨンスドティル議員は、7日、米司法省がツイッターに対し、自分の個人情報と2009年11月以降のすべてのつぶやき情報を渡すことを要求した、とつぶやいたのだ。この要求に対し、これを控訴するための時間が、10日間あると書いた。

 「米政府が、私の2009年11月以降のすべてのつぶやきを知りたがっている。私がアイスランドの議員だって言うことを知っているのかしら」-これがその時のつぶやきの1つだ。

 「これは私の情報だけの問題ではない。ウィキリークスに関係しているすべての人に対する警告だ。こんなふうに米司法省が力を持って威嚇するのは到底受け入れられない」「私は幸運だ。議会の代表者だから。でも、他の人たちはどうするのか?この(力の)乱用を止めるのが私の義務だ」

 ツイッター側はこの件に関してコメントを出すことを拒否したが、こう言っている。「司法当局や政府が個人情報の開示を求めた場合、ユーザーの権利擁護を支援するため、ツイッターはユーザー側に開示の件を通知する。(ただし)法律上、ユーザーへの通知を阻まれた時は別である」

 アサンジは8日、「嫌がらせ行為だ」とする声明文を出した。「もしイラン政府が」同様のことをしたら、人権団体や世界中が声を上げるだろう、と。

 ワシントンにある、ネットの監視団体「電子プライバシー情報センター(EPIC)」の代表マーク・ローテンバーグは、米司法省がウィキリークスとアサンジを訴追する準備を始めているという。

 EPICは、これより前に、司法当局に対し、マスターカードやビザ、ペイパルなどを通じてウィキリークスに募金を行った人に関する当局の調査内容をEPICに引き渡すよう要求してきた。

 ローテンバーグは、「政府には情報を取得する権利があるが、法の範囲内でやらないと。ウィキリークスに対する、合法な起訴はありうるだろうか?私には、ありそうにないように思える。しかし、この点が、今米国で大きな問いになっている」と述べる。

 今回のメガリークでリーク者となったとされるマニング上等兵だが、彼に関する情報を当局に渡したのが、ハッカーのエイドリアン・ラモである。

 ラモは、マニングが最初にウィキリークスと接触を持ったのが、2009年11月末としている。この「09年11月」というのが、まさに、米司法省が要求する、アイスランド議員のツイートの時期と重なる。(ラモの件は、様々な情報が飛び交っているようだー下にある、宮前さんのコメントもご覧ください。)
 ラモの話を暴露した米雑誌ワイヤードが、ラモとマニングのチャット内容を一部しか報道しておらず、「何かを隠しているのでは?」という声も、米ネット界であがっている。(この件は、英語圏のネット上でかなり盛り上がっているようだ。ご関心のある方は、キーワードで探してみればと思う。)

 昨年7月、アサンジの同僚の一人で、先に名前も挙がったアップルバウムが、米当局に3時間尋問されている。

 アイスランド議員のウィキリークスとのかかわりだが、彼女は、アイスランドの「モダン・メディア・イニシアチブ」法施行の動きに中心的な役割を果した。この法律は、アイスランドを調査報道と言論の自由の安息地にすることを狙ったもの。

 また、昨年4月、ウィキリークスが暴露した、2007年のイラク戦争で米軍のアパッチ戦闘機が民間人を殺害した様子を撮影した動画の制作にも議員は協力した。

 一説には、議員はウィキリークスの支援活動からは今は身を引いていたとも言われる。彼女は、アサンジがもっと目立たない動きをしたほうがよいといったそうだ。

 TUP通信の宮前ゆかりさんによる以下の文章の中にも、アイスランド議員とウィキリークスのつながりの話がある。

速報864号 ウィキリークスとジャーナリズム
http://www.tup-bulletin.org/modules/contents/index.php?content_id=892

以下は一部抜粋

■アイスランドの画期的メディア政策(2010年12月13日)
今年六月、アイスランド議会は「アイスランド現代メディア構想」法案を満場一致で通過させた。スコットランド、英国、フランス、ベルギー、ノルウェー、スウェーデン、アメリカなど世界各国の「言論の自由」擁護の法律の中から特に優れた内容を取り入れ、内部告発者や調査報道を保護し、表現の自由や開かれたコミュニケーションを保障する画期的な法案だ。アサンジもこの法案作成に参加していた。さらに、この法案には表現の自由擁護分野における「ノーベル賞」級の新しい世界的規範設立が含まれている。

法案の作成と立法化に取り組んできたブリギッタ・ヨンスドティル議員は、イラクでの殺戮ビデオを編集しウィキリークスで公開したプロデューサーの一人だ。調査報道機関のサーバーをアイスランド管轄圏に保護したり、ジャーナリズムのハブとなる教育機構を構築したり、世界各国の内部告発者を擁護するための法律的なシステムを確立するなど、アイスランドが世界の「言論の自由」のメッカとなるための本格的な取り組みがすでに始まっており、国境を越えた民主主義の新しい展望が生まれようとしている。

****

 「ツイッターよ、お前もか?」になるのかどうかー?今のところ、「ツイッター・がんばれ、踏ん張ってくれ」の気持ちだがー。

 考えてみると、ネット関係の大手はすべて米企業ーグーグル、アップル、フェイスブック、イーベイ、ツイッター・・・。なんと切ないことだろう、これほどまでに頼り切ってしまっていたとは。

****

裁判所の命令の翻訳は、Tassaさんの翻訳をご参考に。
http://tassaleaks.blogspot.com/
http://t.co/p8iqP00


コメント欄にもありますが、個人認証システムをやっていらっしゃる方がいます。

http://timeowner.aa0.netvolante.jp/

by polimediauk | 2011-01-09 00:03 | ウィキリークス
 c0016826_3524193.jpgメディア王ルパート・マードック傘下の日曜大衆紙「ニューズ・オブ・ザ・ワールド」を巡る、電話盗聴事件に関して、これまで、何度か記事を書き、このブログでも紹介してきた。

 この電話盗聴事件ではすでに2007年、関係者二人が有罪となっている。新聞社側は「この二人以外は関係していない」と主張する。しかし、ガーディアンは「組織ぐるみだった」と報道してきた。

 問題は、盗聴事件が起きたときの編集長が今、官邸の広報担当者になっていること。それと、ニューズ・オブ・ザ・ワールド紙及び英国内のマードック・プレス(ほかに、サン、タイムズ、サンデータイムズ)の影響力が強大で、「怖くて何もいえない」部分があることだ。

 盗聴を含めた取材行為が行われていたとき、編集長が「全く知らなかった」ということが果たしてあり得るだろうかー?

 ガーディアンのしつこい取材で、「実は自分もやっていた」とする元記者たちが、声をあげるようになった。しかし、年末、実際に警察が聞き取りをすると、この元記者たちは口をつぐんでしまった。

 ところがである。年が明けて、ある女性タレントの電話盗聴を巡る裁判の過程で、ニューズ・オブ・ザ・ワールド紙のニュースデスクの一人が関与していたらしいことが明るみに出て、このデスクが停職状態になったのである。

(ガーディアンの関連記事)
http://www.guardian.co.uk/media/2011/jan/05/news-of-the-world

 今後どのように発展するのかは分からないが、まだまだ「火は消えていない」のである。

 この事件の経緯を、ニューズ・オブ・ザ・ワールドを怖がる政治家たちの視点を入れて、朝日の月刊誌「Journalism(ジャーナリズム)」12月号に書いた。この記事を何度かに分けてここに紹介したい(情報は11月上旬時点を元にしているので、その都度、若干補足したい)。

 尚、「ジャーナリズム」の情報は以下。また、電子版購読も可である。

―朝日新聞社ジャーナリスト学校
http://www.asahi.com/shimbun/jschool/

―富士山マガジンサービス
http://www.fujisan.co.jp/journalism/

                   ****

マードック傘下の英大衆紙 -消えぬ巨大電話盗聴事件① 

 娯楽、ゴシップ、スポーツ、芸能情報を主に扱う英国の大衆紙は、英国の新聞市場では大きな存在だ。
 
 発行部数が高級紙の数倍という影響力に加え、その鋭い牙と破壊力は「泣く子も黙る」という表現がぴったりなほどである。著名人の私生活、政治家の不祥事、王室の内情に関わる極秘情報などを、私立探偵を雇い、時には「ダークアーツ」(闇の魔術)と呼ばれる数々の違法手段を用いても探り出し、紙面で暴露する。英国の政治家、著名人、企業の経営陣が、最も恐れるメディアの1つだ。

 そんな大衆紙の中でも発行部数1,2位を争うのが日曜紙の「ニューズ・オブ・ザ・ワールド」(NOW)。有名な大衆紙「サン」の姉妹紙である。このNOW紙が逆に、高級紙から巨大電話盗に関する疑惑を報じられ、官邸を巻き込む騒ぎになっている。

―ガーディアンの暴露で官邸を巻き込む騒ぎに

 もともとは、同紙の王室報道担当記者と同紙に雇われた私立探偵が、王室関係者の携帯電話の留守電記録に不正アクセスし逮捕された事件だった。2007年、2人に禁固刑の有罪判決が下りている。

 事件に再び注目が集まったのは、2009年夏である。左派系高級紙ガーディアンが、米複合メディア大手ニューズ社の最高経営責任者ルパート・マードック氏の傘下にあるサンやNOWが、盗聴行為やその他の違法手段を使って著名人の個人情報を取得し、これを隠ぺいするために、盗聴犠牲者らに巨額を支払っていたと報道したからである。

 盗聴行為が、NOW紙がそれまで説明していた「記者一人の行動」ではなく、組織ぐるみで行われていたこと、また、盗聴対象者は当時の副首相も含めた政治家、モデル、俳優、スポーツ関係者など「数千人規模の可能性」と書き、驚かせた。

 この報道で脚光を浴びたのが、事件発覚当時、NOW紙の編集長だったアンディー・クールソン氏(注:コールソンと発音する場合もある)である。「盗聴行為に関しては一切関与してない」「知らなかった」としながらも、07年1月、引責辞任していた。同氏は、辞任後まもなく、野党保守党(当時)の広報責任者に雇われた。2010年5月、キャメロン保守党党首が首相になると、官邸の広報責任者に就任。政権の中枢に入った。

 ところが、同年9月、同氏にとって「爆弾」報道が出て再び話題の人となった。米ニューヨーク・タイムズが元NOW紙記者らに取材を重ね、「クールソン編集長は個人的に盗聴行為を奨励していた」とする証言を引っ張り出したのである。キャメロン首相の側近が、違法行為を「奨励していた」人物であったとすれば、一大事である。盗聴事件は、急速に政治色を帯びることになった。

 クールソン氏の存在は、英政界及びメディア界にとって、特別な意味を持つ。それは、同氏が首相側近としてだけでなく、マードック氏の腹心という位置づけにあるからだ。

 マードック傘下のニューズ・インターナショナル社は、英国でサン、NOW、高級紙のタイムズとサンデー・タイムズを発行する。これら「マードック・プレス」の延べ総発行部数は約800万部。その支持を得ることは、首相及び首相候補者にとっては非常に重要なことである。

 1970年代末以降、歴代の首相、首相候補者はマードック氏と良好な関係を築くことに心を砕いてきた。キャメロン現首相も例外ではない。その意味で、NOW紙の元編集長はマードック・プレスと首相をつなぐ、キー・パーソンの役割を果たしている。疑惑が明るみに出たからといって、簡単に追い出すわけにもいかないのである(補足:逆に、何らかの「復讐」があるかもしれない、と私は思う)。

 再捜査の兆しが見える、このNOW紙の盗聴事件の経緯をたどりながら、大衆紙ジャーナリズムやマードック・プレスの影響を考えてみたい。(つづく)
by polimediauk | 2011-01-08 03:52 | 新聞業界
 皆様、あけましておめでとうございます。

 クリスマスの「12日」は1月5日に終わるそうで、クリスマスカードやら、クリスマスツリーがまだ部屋の片隅に残っている状態です。ここ数年、クリスマス・イブに親戚数人と、1月は1日か2日に家族のみで、山にウオーキング(ハイキング)に出かけています。山歩きを昨日終え、とりあえず、年末年始にやることは一通り終えたところです。

 今年も健康に気をつけて、面白い現象をウオッチングしていきたいと思っております。

 今年もどうぞよろしくお願いいたします。

****
 
 年末年始、おもしろい動きがたくさんあったのだが、とりあえず、少し古い情報を元にしたものだが、「メディア展望」(新聞通信調査会発行)1月号に出したウィキリークスに関する原稿を以下に出したい。

 12月初旬のジュリアン・アサンジ逮捕までの流れをまとめたものなので、これまでウィキリークスの話を追ってきた方にとっては、目新しいものがない原稿となる。

 ウィキリークスの件は、何を問題とするかで、いろいろなことが書ける。原稿を書いた12月中旬時点では、「機密情報の管理」「公益とは何か?」という部分に最も重きを自分では置いていたので、その件を結論部に置いた。現時点では、「それほど簡単なものでないだろう」という思いがある。

 また、ツイートでも紹介したが、アサンジとフェースブックを比較した記事(と動画)が非常に面白かった。ここにアドレスを入れておきたい。

アサンジVSザッカーバーグ(「ブログ暫定龍吟録」)
http://dragoncry.blog34.fc2.com/blog-entry-190.html

 それと、保坂展人(のぶと)さん(当初、うち間違いでのびととしてしまい、失礼いたしました!!)のメディア評もご参考に。メディアの現在、未来について、非常に示唆に富む内容を書かれている。保坂さんは政治家だが(今は元衆院議員となったが)、ずっとジャーナリストでもあった。しばらくはジャーナリスト活動にもっと力が入りそうで、期待大である。

既存メディアとネットメディアの拮抗の時代へ
http://blog.goo.ne.jp/hosakanobuto/e/090cf85e17435b9d1f6a5e289b8cb0cd

****

  「報道の自由」の戦士かテロリストかー?「ウィキリークス」をどう考えるか 
 
 告発サイト「ウィキリークス」(WikiLeaks)――。このところ、新聞、テレビ、ネットの言論空間でウィキリークスの話が出ない日はない。

―大量の秘密情報暴露で衝撃
 
 その存在が大きな注目を浴びるようになったのは昨年春頃から。米軍上等兵によるリーク情報を元に、米軍に関わる機密情報や外交公電を複数の世界の大手メディアを使って大々的に暴露した。サイトの創始者ジュリアン・アサンジ氏を「報道の自由の戦士」として賞賛する声が出る一方で、一部の米政治家はイスラム系テロ集団アルカイダのメンバーと同一の「国際テロリスト」と呼んだ。

 公的情報の漏えい問題は、11月に発生したいわゆる「尖閣ビデオ流出事件」を通じて、日本に住む多くの人にとっても大きな関心事となった。

 本稿では、12月上旬、英国に潜伏中だったアサンジ氏がスウェーデンでの性犯罪容疑(本人は否定)で逮捕されるまでを一つの終点として、ウィキリークスに関わるこれまでの経緯をまとめた。

 ウィキリークスは匿名で政府や企業などの機密情報を公開するウェブサイトだ。組織内の人間が所属組織の不正や違法行為を監督機関や報道機関に通報する、いわゆる「内部告発」のサイトの一つとして知られている。

 オーストラリア生まれの元ハッカー、アサンジ氏(性犯罪事件では同氏は「容疑者」だが、本稿では告発サイト、ウィキリークスの話をまとめるという点から、便宜上「アサンジ氏」と表記)が、2006年からサイトの開設準備を始め、本格的な運営開始は07年である。情報提供者の素性を秘蔵しながら、生の情報をサイト上に掲載し、「サイトの読み手や歴史学者に真実を提供する」ことを狙う(ウェブサイトより)。活動の原則は「言論の自由」、「歴史文書の向上」、「新しい歴史を作る人々すべての権利を守る」ことである(同サイト)。

 ウィキリークスはボランティア(ジャーナリストも含む)によって運営されている。情報を受け取り次第、スタッフはその検証作業に入る。信ぴょう性、サイトの公開目的にかなうかどうか、情報公開により特定の個人が不必要に危険にさらされることはないかをチェックした後、「出版」(=パブリッシュ、サイト上での公開)の運びとなる。

 アサンジ氏はオーストラリアのクイーンズランド州生まれ。幼少時に両親が離婚し、母親は再婚したものの、国内を点々とする生活が続いた。頭脳明晰な子供で、16歳の時には既に「メンダックス」という別名を持つコンピューター・ハッカーになった。1992年、カナダの電話会社などへのハッキングの罪で有罪となり、その後はプログラマー、フリーウェア開発者としてデータ暗号化、検索エンジンの開発に関わった。

―欧米報道機関と連携
 
 ウィキリークスはこれまでにさまざまな機密情報をサイトを通じて公開してきた。近年の例としては、ケニアの元大統領による巨大汚職を暴露した「クロール・リポート」(これで国際人権団体アムネスティー・インターナショナルから09年、人権報道賞を受賞)、キューバにある米軍グアンタナモ基地収容所における収容者の取り扱い書、アイスランドの金融危機の報告書などの公開がある。

 世界中でウィキリークスの名が著名になる「兆候」が見えたのは昨年4月だ。07年7月、ロイター通信のカメラマンら二人が、イラクで米軍のヘリコプターに襲撃されて死亡する事件があった。この襲撃の様子を収めた映像をウィキリークスが公開したのである。映像はヘリの乗組員がカメラマンの撮影器材などを武器と誤認し、攻撃した様子を映し出した。遺体を見て歓声を上げている様子も映像は伝え、罪のない報道機関のスタッフが射殺された無残な情景を示した。

 公開から間もなくして、米当局は、米陸軍情報分析官で20代前半のブラッドリー・マニング上等兵を機密漏えいに関与したとして逮捕している(クリントン米国務大臣は12月上旬、大量の機密文書や外交公電の情報を漏洩したのが同兵であることをBBCのインタビューの中で認めた)。

 ヘリ攻撃事件を大きく上回るリーク報道が起きたのは7月末である。米紙『ニューヨーク・タイムズ」』NYT)、英紙『ガーディアン』、ドイツ誌『シュピーゲル』が、一斉に、アフガニスタン駐留米軍に関わる機密文書9万点以上を元にした報道を開始したのである。ウィキリークスは、公表日の数週間前に、これらの有力紙誌に生情報を渡し、これを受けて報道機関は、事前に情報の信憑性やその意味合いを検証・分析し、それぞれ独自の原稿を作って、あらかじめ決められていた日に一斉に報道を始めた。同日、ウィキリークスも一連の文書をサイト上で公開した。

 10月、今度はイラク戦争に関する約40万点の米軍の機密文書がウィキリークスと先の報道機関によって公開された。

―米公電公開を厳しく非難

 11月末、ウィキリークスは、今度は25万点に上る米国の外交公電を自らのサイトと同時に仏紙『ルモンド』、スペイン紙『エル・パイス』)を含む世界の五つの報道機関を通じて段階的に公開した。

 米外交官らによる各国首脳陣のゴシップ話的論評とともに、サウジアラビアの国王によるイラン攻撃要請などの安全保障上の機密情報、米政府が国連代表部の外交官にスパイ活動を指示したとされる内容も含まれていた。ギブス米大統領報道官は、公電の公表は「米国および諸外国の外交利益に大きな影響を及ぼす」「米国の外交官らを危険にさらす」と、ウィキリークスによる情報公開を厳しく非難した(11月29日付声明文)。

 外交公電の漏えい情報報道は現在も続行中で、今後も物議をかもす情報が公表される見込みだ。

―アサンジ代表の逮捕劇

 米政府側は、これまでに、マニング上等兵を公電15万点以上を不正入手した罪で訴追し、機密情報の保全を確実にするために、端末からUBSメモリーやCDにダウンロードできないようにした。逮捕前、上等兵は元ハッカーに対し、音楽アルバムに見せかけたCDを職場に持ちこみ、公電等の情報をダウンロードしたと漏らしていた。米国では、01年の9・11米中枢大規模テロ以降、機密情報の一元化を進めてきた。これが今回の情報漏えいにはからずもつながってしまったことへの反省から、情報管理体制の見直しを進めている。
 
 米当局にとって、ウィキリークス及びその創設者アサンジ氏は厄介な存在となった。法的措置でその活動を制限あるいは処罰を与えようとしても、ネット上にのみ存在するウィキリークスや米国外にいるオーストラリア人のアサンジ氏(住所不定)を懲らしめる手立てがないまま、時間が過ぎた。

―サイバー戦争に発展

 12月に入り、米ネット大手アマゾンが、ウィキリークスのウェブサイトへのサーバー提供を停止した。ウィキリークスは早速、サイト管理の経由地を一部フランスやスウェーデンなどに移動したが、今度はサイトが数時間アクセスできない状態に陥った。これは、ウィキリークスのドメイン名を管理する米国の会社が、大量のサイバー攻撃を理由にウィキリークスへのサービスの提供を停止したためであった(ウィキリークスはその後、新ドメイン名を取得し、閲読は可能になった)。

 同月内には米ネット決済システム「ペイパル」がウィキリークスへの寄付金の送金業務を停止し、クレジットカード会社米ビザと米マスター・カードがウィキリークスへのすべての資金の払い込みを停止すると発表した。スイス郵政公社も、アサンジ氏名義の銀行口座を申請事情に不正があったとして閉鎖している。米政府は「圧力をかけていない」としているが、ペイパルの経営陣の一人が「米政府から違法行為を行うサイトであると通知があった」と述べた映像が、BBCなどを通じて公開された。

 アサンジ氏自身の身柄を拘束する具体的な動きも始まった。昨年8月、スウェーデン当局はアサンジ氏に対し、一年前に同国内で発生したとされる強姦などの容疑で逮捕状を出していた。この逮捕状は一旦は取り下げられたが、11月18日、再び出され、国際刑事警察機構がアサンジ氏を国際手配するまでになった。12月に入り英当局にスウェーデンから逮捕状が届き、アサンジ氏は7日、自ら英警察に出頭して性犯罪容疑で逮捕となった。

 スウェーデン側はアサンジ氏の同国への身柄引き渡しを要求しており、移送をめぐる裁判が今年早々、ロンドンで開始される予定だ。同氏の弁護士は性犯罪容疑はウィキリークスの信用失墜を狙う政治的な動きとしたが、スウェーデン当局側はウィキリークスの活動とは「一切無関係」とする。

 逮捕の翌日(8日)以降、ウィキリークスの支援者と見られる(しかしウィキリークスの指示があったわけではない)ネット利用者たちの一部が、スウェーデン検察庁、マスターカード、ビザ、ペイパル、アマゾンのウェブサイトにサイバー攻撃を仕掛け、一時、各ウェブサイトにアクセスできなくなった。英メディアの報道によれば、こうした攻撃をする人々は「アナニマス(匿名、という意味)」と呼ばれ、ウィキリークスに対する米企業などの「攻撃」への反撃活動を独自に行っている。

―ウィキリークスと公的情報公開

 最後に、ウィキリークスの活動の評価について考えてみたい。自国の機密情報が暴露された米国、報道の自由の旗印の下で機密情報を大々的に報道した英国、尖閣ビデオ流出問題以降、情報漏えい問題がより身近になった日本―この3か国でのウィキリークスに対する反応は微妙に異なった。

 米当局は、情報漏えいを問題視し(これは当然であろう)、政治家の中にはアサンジ氏をスパイ容疑で拘束しようとする声も出た。英国ではウィキリークスを報道の自由の守り手として好意的に描写する報道が目立った。日本では、「報道の自由」の観点からウィキリークスを支持する声と、「公的な機密情報の暴露は良くない」、「何でも暴露すればよいというものではない」、「アサンジ氏を自由の戦士としてあがめるべきではない」などの慎重論とが拮抗したと筆者は見たが、どうであろうか。

 ウィキリークスの功績の一つは、私たちがデジタル時代に生きていることを改めて認識させてくれたことだと筆者は思う。すべてが電子的に加工され、瞬時に世界中に配信される時代である。どのような誰の情報であっても、公開され、共有される可能性がある世界に私たちは生きているー好むと好まざるに関わらず。

 政府も含む公的機関からすれば、自分たち自身の情報も組織内外の人物の手によって配信され、共有される状態が現実となった。国民の側は最大限の情報公開を求めるようになっており、もし公開しない情報があれば、その理由を十分に説明する必要がある。機密の鍵をかけても、この鍵を開ける技術を持つ人は巷には少なくない。「公益のため」に機密を告発サイトに流す組織内の人物も出るかもしれない。

 ただし、機密とされる情報が外に出て、国民が納得するのは「公益(国益)があったかどうか」によるであろう。

 では、その「公益・国益」をどう判断するべきか?筆者が日本語のツイッターやブログを追っていると、「機密情報の公開=違法行為」という部分にこだわっている人が多いように見受けられた。「何でも暴露すればいいというのはどうか」などがその典型例だ。もちろん、ウィキリークスの目的は「何でも暴露」にはない。目的(=公益)があっての情報公開である。「機密情報の公開=「違法行為」という部分にこだわるのは、ひょっとすると、「当局=公の機関=しかるべき存在=しかるべき秩序」と考え、その崩壊あるいは崩壊の恐れを危惧しているのだろうか?その場合、その「しかるべき秩序」つまりは、守ろうとしている機密とは一体何か、という問いが発せられるべきであろう。また、最終的には誰が公益・国益を定義する権限を持つのか、という問いも。

 ビデオ・ジャーナリスト神保哲生氏は、自身のブログ(12月10日付、「ウィキリークス問題への一考察」)の中で、国益の定義の管理を私たちは普段は為政者に任せているが、「それは不断のチェックを受けなければならない」し、「最終的な決定権者が主権者たる国民でなければならない」と書く。

 筆者はこれに同意する。ウィキリークスの情報流出の評価は、「お上が所有する、外出不可の情報を勝手に外に出した=違法行為」と結論付けるか、「すべての公的情報は国民が知るべきもの=国民主権」という原則から「情報流出には公的価値があった」と見るかで変わってくるのかもしれない。(「メディア展望」1月号掲載分。情報は12月上旬時点のもの。)
by polimediauk | 2011-01-03 22:49 | ウィキリークス