小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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 29日付サンデー・テレグラフ紙に、「ツイッター、秘密を明かす」と題する記事が1面に出た。これによると、イングランド北部サウスタインサイド地区の区議会委員らが、「ミスター・モンキー」(「猿氏」)という偽名を使う内部告発者のツイッターでの発言が名誉毀損にあたるとし、モンスターの個人情報開示を求めて米国で訴えを起こした。そして、この訴えが認められたという。

 http://www.telegraph.co.uk/technology/twitter/8544350/Twitter-reveals-secrets-Details-of-British-users-handed-over-in-landmark-case-that-could-help-Ryan-Giggs.html


 この記事から、少々中味を紹介してみたい。

 その前に、前回、サッカー選手ライアン・ギグスが女性と不倫し、ギグス選手の弁護士が、この件が報道されないよう、裁判所から差し止め令を勝ち取ったことを書いた。(現在でも、実は差し止め令は有効で、本当は報道してはいけないのだが、現実にはもう無効化しているので、どの新聞も放送局もギグスの名前を出している)。ギグスの名前をどんどん公的空間に出したのはツイッター利用者たちであった(あまり騒ぐので私もツイッターでキーワードを入れてみると、すぐに名前が判明した)。

 ギグスの弁護士は、20日、英高等法院に向かい、ギグス選手の情報を暴露したツイッター利用者の情報を得るべく、ツイッター捜索令を求めた。

 23日、ジョン・ヘミング下院議員が国会で「7万5000人がギグス選手だと書き込んでいる。全員を捕まえることなんてできっこない」と発言。(同氏は、議員特権により、差し止め令違反で逮捕されない。)翌日からは、「誰でも報道してOK」の雰囲気が作られた。

 その後、ツイッターの欧州責任者が、法律を使っての要求があれば、ツイッター側としてはこれに沿って、個人情報を渡すことになるだろうと述べた。

 サンデー・テレグラフによれば、ギグス選手の弁護士によるツイッターの捜索願いの期限は先週末までだったそうで、どうも情報は渡っていないようである。担当した裁判所が英国内であったため、米企業ツイッターには適用されないのだろうか?

 一方、先のイングランド北部サウスタインサイド地区の区議会委員らは、ツイッターの本社所在地となる米カリフォルニア州の裁判所に、「ミスター・モンキー」のアカウント情報の開示を求めて提訴していた。

 裁判長は名誉毀損に当たるツイートを発信してきた人物の個人情報開示をツイッター側に命令する判決を出したという。AFP通信の30日付報道によると、この判決を受けてツイッター社から代理人の弁護士に個人情報が開示され、現在、専門家が情報を分析しているという。

 ミスター・モンキーは、2008年ごろから、サウスタウンサイド議会や議員らによる不正選挙、麻薬使用、経費流用などの疑惑をブログサイトなどを通じて発信してきた。2009年からはツイッターを通じても同様の情報を発信してきた。

 区議員たちは米国の弁護士事務所を使って、名誉毀損となるような情報を発信してきた5つのツイッター・アカウントに関わる個人名、住所、電子メールのアドレス、電話番号、位置情報の開示を求めた。

 この5つのアドレスの1つは、ツイッターからの情報開示以前の段階で、無所属の区議員アーマド・カーン氏のものであったことが分かっている。しかし、カーン氏は自分はミスター・モンキーではないと言っているそうだ。

 ***
 
 報道の自由の問題や、果たしてツイッター(あるいは、個人情報を持つフェイスブックなどのソーシャルメディア)が情報をこのような形で外部に出すべきなのかどうか、言論の自由との兼ね合いはどうかなど、この話はいくらでも広がるだろう。

 私にはどうしたらいいのか、その判断がうまくつかないが、ひとまずはツイッター(あるいはソーシャルメディア)を、これまでのメディアや情報発信方法(直接誰かに話す、郵便で送る、既存メディアに手紙を書くあるいは出演するなど)と大きく異なるものだと考えないほうが良いのだろうな、と思う。

 不特定多数の人に(あるいは公的空間に)出した言葉は、発信者に返ってくるーあるいはその可能性がある。最後は何らかの形で自分の言ったことを引き取る必要がある。

 言いっぱなしというわけにも行かないのだろうな、特に誰かを傷つけるあるいはその地位を脅かすようなことを発信するのであれば。砂漠に穴を掘って、穴に向かって「王様の耳は・・」と叫ぶ限りはー。

 それと、ツイッターを含むソーシャルメディアは、個人が特定しやすい特徴があるな、と。個人をベースに情報を交換して成り立っているわけだから、当然といえば当然だが、無限大の言論空間であるかのように自分は錯覚していて、実は窮屈な・狭い言論空間であるのかもしれないー。

 
 
by polimediauk | 2011-05-30 08:26 | ネット業界
 このところ、英国で、著名人などが都合の悪いプライバシー情報の報道を防ぐため、裁判所に訴えて「報道差し止め令」を出してもらうケースが、目に付くようになった。

 場合によっては、差し止め令が出ていることも報道させないようにする、「差し止め令の差し止め」、つまりは通称「超差し止め令」が出ることがある。すると、この人物に関わるその情報が、まったく外に出ないことになる。

 プライバシーに関わるスクープ情報を手にした報道機関にしてみれば、差し止め令・超差し止め令は「言論の自由の妨害」ともなり、何とか法の目をくぐって、報道への道を作ろうと苦心する。こうして、報道機関側と差し止め令を出す裁判所との綱引きが続く。

 ごく最近の例は、サッカー選手ライアン・ギグスの不倫騒動だ。モデルのイモジェン・トーマスさんが不倫相手であったという事実には報道差し止めはかかっていなかったが、ギグス選手の名前は伏せるよう差し止め令が出ていた。

 裁判所は、新聞社や放送局による報道を止めることができたが、このネット時代、情報の流布を止められないのが現実だ。ギグス選手の名前は、少し前から関連キーワードを入れれば、ネットの検索エンジンを使えばすぐに見つけ出すことができていた。ツイッターでももちろん情報は飛び交ったが、ギグス選手の弁護士側はツイッター側から情報発信者の情報を得るため、法的措置をとる方向に向かった。

 同選手の話は産経(以下)ほか、既に報道されている。
 英司法界揺さぶる実名ツイート 報道禁止命令も…マンU・ギグス不倫騒動
http://sankei.jp.msn.com/world/news/110526/erp11052607460003-n1.htm
 
 果たして、ツイッター側がどう反応するかに注目が集まっていた。

 BBCによると、ツイッターの欧州部門の責任者トニー・ワン氏は、25日、プライバシー侵害を防ぐための報道差し止め令を順守しないツイッターの利用者については、その個人情報を英当局に渡す準備があると述べた。
http://www.bbc.co.uk/news/technology-13546847

 ワン氏は、「(ツイッターの)プラットフォームには責任がある」、「利用者(注:この場合はプライバシー侵害をされる方だろう)が自分を守る権利を擁護する」と述べている。ギグス選手の問題には直接答えなかったが、非合法な行為が行われた場合、ツイッターはその国の法律にのっとって、ユーザーの情報を当局に渡すという。当局から個人情報提出を要請された場合、該当するユーザーに情報を渡すことを伝えるという。

 G8の会議でも、司法権とインターネットの関係は議題の一つとなっているそうだ。グーグルのエリック・シュミット代表やフェイスブック創始者マーク・ザッカーバーグ氏が参加する。

****

 それにしても、ツイッターでパーッと広がった情報を差し止めるなんて、事実上できないのではないか?どうにも馬鹿げた動きに見えてしまう。といって、出すべきでない情報が出た場合に、仕事を失ったりする人もいるであろうし、その被害は尋常ではないかもしれないがー。

 いや、それよりも、もっと気になるのは、このサッカー選手の不倫が表に出たとして、「だから何なの?」と思うわけである。その人にとっては、そして家族にとっては恥ずかしいことではあるだろうけれど(そのほかにももっと何か悪影響があるかもしれないが)、不倫とサッカー選手としての活躍は別だろうと思う。一時は人気が落ちるかもしれないが、めげずによいプレーを見せてくれれば、それでいいのではないか。

 こういう情報を出したがるのはサン、ニューズ・オブ・ザ・ワールドとかの大衆紙。「公益がある」「報道の自由」と主張して、裁判所と戦う。自分のところが報道しないと、ライバルが出してしまうから、必死だ。

 せっかく弁護士にたくさんの費用を払って、「報道の自由」を勝ち取るのだったら、もっと社会全体のためになるようなネタを見つけて、裁判所と戦ったらどうなのだろうー?騒ぎはでかいが、ネタそのものは「・・・・」と思うような話である。「差し止め・超差し止め」問題にはいろいろな側面があるが、とりあえず今回に限っては、私は「そんなに大きなネタなのか?」という思いを持っている。

***

 差止め令の措置に関しては、「英国ニュースダイジェスト」のニュース解説もご覧ください。編集部さんが、非常に分かりやすく書いてあります。

 http://www.news-digest.co.uk/news/content/view/7927/263/
by polimediauk | 2011-05-26 12:53 | ネット業界
 昨年夏から年末にかけて、ウィキリークスと共同で一連のメガリーク報道を行った、英ガーディアン紙のイアン・カッツ副編集長に、作業の一部始終と編集方針を聞いた。(朝日「Journalism」4月号などで一部紹介。)

***

―どうやってウィキリークスとの共同作業を始めたのか

イアン・カッツ:これまでにもいろいろな事件で協力体制をとってきた。2-3年前にはケニア政府の汚職の話を一緒にやった。これは大成功のケースで、ウィキリークスが情報を取得してガーディアンでもすぐに公開した。英極右派政党BNPの党員名簿公開でも協力した。ガーディアンの調査報道記者デービッド・リーがウィキリークスの代表ジュリアン・アサンジとずっと連絡を維持してきた。

 今回のメガリークに関しては、ニック・デービス記者が話を持ってきた。メガリークの話を聞いてアサンジに連絡し、捕まえた。このくだりはもうデービスが記事に書いているけれどね。デービスはアサンジにブリュッセルで会って、一緒にやろうと呼びかけたんだ。ニューヨーク・タイムズとシュピーゲルもこれに参加してね。

―情報はどうやって受け取ったのか?

カッツ:3つの段階があった。最初に受け取ったのは戦闘記録で、データベースにアクセスするパスワードをもらった。米外交公電の場合は、リーがメモリースティックをもらった。この経緯に関してももう書いているけれど。そして、リーはこのメモリースティックを持ってスコットランドに行ったんだ。3ヶ月ぐらい、自分で吟味していた。すべてを1つのコンピューターに入れていた。

 掲載の約一ヶ月前になって、社内にデータベースを作って、みんなで共有できるようにした。この過程で、外国特派員が3-4人関わって、その後に8-9人ぐらいが関わった。仕事場からリモートアクセスでデータベースを使えるようにした。その後は、一人か二人の特派員にロンドンに帰ってもらって、作業した。駐在先の国ではデータベースへのアクセスが自由にできなかったから。

 こうして、最初のころは、デービッド・リー、それともう一人の調査報道部記者のロブ・エバンスも入れて、20人から40人ぐらいが作業に関わった。それからどんどんまた人を入れていって、専門記者も入れたな。経済記者、環境問題の記者とか・・。

―ITエンジニアも?

カッツ:そうだ。でもそのほとんどがジャーナリストだった。経済や金融記者、環境、エネルギー、医療、司法、スポーツ、メディアの記者も。全体では30-40人ぐらい。

―戦闘記録の分析には、軍事関係の人を入れたのか?

カッツ:そういう意味の専門家は入れなかった。ニューヨーク・タイムズやシュピーゲルと共同作業でよかったのは、三つの媒体が協力すれば、戦闘記録が何を意味するのかが分かって、すべての略語を読解できるようになっていた。

 原稿を書く段階になってから、よく専門家に聞きに行った。そのとき、ウィキリークスが出したこういう戦闘日記があるんだけどーという聞き方はしないで、「こういうことが起きた」ということなんだけど、ちょっとつながりを見つけるのに協力してくれないか?と聞いた。その後は、自分たちで文脈を探り当てることができた。

―英国の政府当局とは連絡を取ったのか?

カッツ:米外交公電の件で?

―そう。ニューヨーク・タイムズは官邸と連絡を取ったようだけれど。

カッツ:米外交公電に関しては、ガーディアンは確かに米政府に連絡した。しかし、私たちがやったこととニューヨーク・タイムズがやったことには違いがある。ニューヨーク・タイムズはどの公電を扱うかという情報を米政府と共有したが、私たちは共有しなかった。
 
 ガーディアンは、ロンドンの米国大使館やワシントンの米国務省と何度も議論の機会を持った。米政府側は特定の事柄に関して懸念を表明したよ。そこでこっちは「懸念の件は考慮する。しかし、どの公電を使うかは言えない」と言ったよ。

―英政府は?連絡をつけたのか?

カッツ:お伺いをたてる、ということはなかったな。特定の事柄に関して連絡を取ることはあったけど、つまり、アフガン戦闘記録について、英軍が関わったアフガン民間人の犠牲に関する事柄について聞いたことはあったけれど。

―特定の事柄に関して、政府に連絡を取るのは一つのルーティンかどうか?ウィキリークスの場合が特別というよりも?

カッツ:そうだ。それと、どこの国の政府とも、どれを使うかあるいは使わないかという点に関して、どの段階でも一切交渉をしなかった。

―ガーディアンとウィキリークスの関係だが、メガリークに関しては新聞が主導したことになったが。

カッツ:そうだが、協力関係は昨年末までだ。12月23日頃に解消した。年を越してもいくつかのウィキリークスがらみの記事は時折出しているけれど。 記事を出して、当事者に危険が及ばないように既に一部を消した公電情報をウィキリークスに送り、ウィキリークスが掲載する、というパターンだった。
 
 こうして、少なくとも昨年末までは、ウィキリークスが出したほぼすべての米外交公電は、ガーディアン、ニューヨーク・タイムズ、シュピーゲルが責任を持って、消すべきところは消したものだ。

―ロンドン市立大学に拠点を多く調査報道センター(CIJ)のギャビン・マクフェイデン所長は、アフガン戦闘日記の情報公開で、「間違いがあった」と言っていたが。これに気づいていたか?

カッツ:特にどの情報の事を指しているのか、分からない。一回か2回、掲載した後で、「待てよ、消すはずの名前が出てるぞ」と誰かが言って、すぐに修正したことは覚えているが。

 興味深いのは、米国防総省も国務省も、イラクやアフガンの戦闘記録や米外交公電の報道で、誰かが危険な状態になったことを示す証拠がひとつもないと言っていることだ。

―ニューヨーク・タイムズは生の外交公電情報をウィキリークススからは直接受け取らなかった。私の知人の一人が、「ニューヨーク・タイムズは直接情報を受け取りたくなかったので、ガーディアンからもらった」とガーディアンの編集者が言っていた、と話してくれた。 そういう話を私はガディアンのサイトでは読まなかった。

カッツ:私もだ。初耳だ。

 私たちはアサンジと最初に情報の取り扱いに関して約束をした。これは戦闘日記も外交公電も、すべての情報だと私たちは思った。アサンジはこれに同意しない。アサンジが同意したのは外交公電のみであって、戦闘日記のそれぞれにはまた別の合意約束が必要だ、と言ったんだよ。

 夏が過ぎて、アサンジはニューヨーク・タイムズと仲が悪くなった。それでデータをニューヨーク・タイムズにあげたくないと言い出した。デービッド・リーは、これは道のくぼみみたいなもんで、今後も、3つの媒体で仕事を進めるべきだ、といった。そこで、ニューヨーク・タイムズと情報を共有することにしたんだ。プロジェクト全体のために共闘して来た。これはほんの短期のことなんだ、アサンジが気難しくなっているだけなんだ、と。それで、状況を修復させて、作業を継続した

―どんどん、他の媒体も参加しているようだ。一体何が起きているのか?

カッツ:ウィキリークスは、地域ごとにパッケージとして情報を共有しようと考えている。例えば、オーストラリアやブラジルにはその地方のパートナーがいる。ただ、ノルウェーの新聞アフテンポステンはウィキリークスが出したのではない情報を使っていると言っている。

 ウィキリークス自体にリークが起きたんじゃないかな。ウィキリークスの端っこでリークして、アフテンポステンにあげたんだ。アフテンポステンはデンマークのポリティケン紙にあげたのかもしれない。どうやって情報を得たのかは、分からない。ただ、今じゃ複数のコピーがあるということだ。

―英民放チャンネル4とは共同作業をしているのか?メガリークのデータはチャンネル4にも行ったようだから。

カッツ:情報が渡っていたね。でも、ガーディアンがチャンネル4に情報を出したんじゃないんだよ。チャンネル4が持っていると聞いた時、強い怒りを感じた。アサンジが戦闘記録をチャンネル4にあげてしまったんだよ。チャンネル4とガーディアンは前に一緒に仕事をしたことがあるけど、この件に関しては共同作業はしてない。

―ガーディアンや他の媒体が時間をかけて修正をしたデータが他の媒体にすっと渡ってしまうのでは、ずいぶんと悔しい思いをしたのではないか?

カッツ:まあ、すごく心配になったね。こっちは何時間も、何時間も、何時間もの努力と頭を使って、情報を安全に、責任を持って出そうとしたんだ。誰かが修正なしに出してしまったら、全てが水の泡になりそうだった。アサンジにとっても問題になるよ。生の情報がそのまま出てしまったらね。私たちがやってきたこと全てが無駄になった気がした。

―編集方針について聞きたい。国益は公益よりも重要だろうか?これは二者択一の問題か?ガーディアンの方針は何か?

カッツ:いつもバランスをどうするかの話になる。一般的にいうと、今回は英国というよりも米国の国益だったが。

 ペンタゴン文書の裁判で非常に興味深い判定が出た。米最高裁の判事が、 文書の公開は公益ではなかったと言ったが、それでも、直接的なかつ回復不可能な損害を与えないと言ったんだよー細かい表現は忘れたけれど。つまり、判事が言っているのは、一般的に、法律は公開をして間違える側に味方するということだ、明確な損害が起きる場合を除いては。

 健全な社会では、出版して間違うほうが、情報を出さないで間違えるよりもいい。何かを知っていたら、これを出すというところから始まる。ガーディアンが何かを知っていたら、読者も知る、と。
 そうは言っても、外交公電報道の原稿を作っているときに、自問自答したことが何度もあったよ。「さて、この情報は米国務省が主張する損害を無視して余りあるほどの公益があるだろうか?」と。

 欧州では、一般的に、出版して間違いを犯すほうを選ぶと思う。

 しかし、ニューヨーク・タイムズとガーディアンを比較して(どちらが報道の勇気があったかを)論じるのは公正ではない。ニューヨーク・タイムズの場合は米国の国益が問題にされたわけだから。
 
 ニューヨーク・タイムズは本当に勇敢な新聞だと思う。ウィキリークスは、ニューヨーク・タイムズが批判の矛先を緩めた報道をしたという。しかし、優れた報道を行ったと思う。量的にはガーディアンほど多くはなかったけれど。私は、それには別の理由があったと思う。米国では少ない本数の記事をでかくやる。こっちはたくさんの記事を出す。

ーもし同様のことが起きたら、英国の新聞は政府に挑戦して報道を行えるか?

カッツ:同様の判断をするだろうと思いたいが、しかし、英国の司法状況は米国とはずいぶん違う。司法の縛りがはるかにきつい。公務守秘法があるし、名誉毀損法もある。事前差止め令があるし。例えば米国などと比べ、こっちでは差止め令がよく出る。

 米国では、政府が報道の差し止めをしようとしたら、大きな話になる。こちらでは日常茶飯事だ。もし英国の外交公電が出たら?出版を止めるよう、政府は差止め令を出そうとしただろうね。

―ガーディアンは差し止めが出されても、出版しようとしただろうか?

カッツ:そうだ。ニューヨーク・タイムズやシュピーゲルと協力しようと思った理由の1つは、世界中で掲載されているのだから、差し止めはできないと思ったことだ。

―これが共同作業の利点だった?

カッツ:そうだ。

―ウィキリークスはジャーナリズムか?

カッツ:ジャーナリズムだと思う。かつて、私たちが理解するところのジャーナリズムとは編集過程の全てを指していた。情報を得て、これを検証し、コンテクスト化し、分析し、読者に届ける、と。

 ウィキリークスは、この過程のすべてには関わらない。最初のところだけをやる。あるいは最後のところだけ。真ん中をやらないのだ。しかし、時には、私たちも真ん中だけ、あるいは最後だけやる。だからといって、ジャーナリズムではないとはいえない。すべての過程をやる必要は、もはやない。ウィキリークスはジャーナリズム・プロセスを満たしていると思う。

―ジャーナリズムを変えただろうか?

カッツ:それはいうのは早すぎる。本当の問題は、情報を持つ人がどんどんとウィキリークスのようなところへ行くことだ。大きなブランドだし、匿名を守る。リーク者はウィキリークスに行くのか、それとも、ジャーナリストのところへ行って、なんらかの関係を持ち、情報の処理の仕方や公開に色をつけることを助けるのかどうかーまだ答えはわからない。
 
 私たちのような伝統的なメディアでは、多くのエリアで、メディアのランドスケープが分断化している状況に慣れる必要があると思っている。
 
 例えばブログがある。政治に興味を持っている人であれば、ガーディアンは政治ブログと競争している。私たちが書く記事と同じぐらい良くて、権威があるブログがある。これまでは新聞が得意だとされていきた解説や分析だってネット上のどこかにあるだろう。
 
 メディアの生態圏が多様になっている。ガーディアンはブログと並列状態に存在していることに慣れつつある。機密情報を出すことができる人にも慣れないといけなくなった。ほかのニュース媒体の担い手にどうやって対抗していくのか。
 
 このメディアの生態圏は私たちのようなメディアがないと機能しないと思うけれど、私たちの役割は、いつも最初から最後までではない。他のメディアが取り扱わない、一部を担当するだけかもしれない。例えば事件を分析するブログがあれば、私たちの役割はニュースを出すこと。その後で、このブログがそのニュースに関して分析を出して、議論が始まる。ウィキリークスの場合はその反対で、ウイキリークスが情報を出し、私たちが文脈を配信する、と。

―ガーディアンは柔軟でないとやっていけなくなった。

カッツ:私たちみんながそうなる必要がある。

―他のリークサイトとも協力するか?

カッツ:私たちは様々なアイデアに対し、完全にオープンだ。ウィキリークス元NO2のダニエル・ドムシャイク=ベルクとも話している。情報を出す人が望むような秘蔵性と匿名性を提供できるところであれば、誰とでも組みたい。(終)

***補足***

 4月26日、英テレグラフや米ワシントン・ポスト、米新聞グループのマクラッチー、フランスのルモンド紙、ドイツのシュピーゲルに加え、イタリアやスウェーデンの新聞などがウィキリークスからの情報を元にキューバの米グアンタナモ基地に関する機密を大々的に報じた。内容は、グアンタナモの収容者700人以上に関する調査をしたファイル。

 今回、ウィキリークスはガーディアンやニューヨーク・タイムズと共同作業をしなかった。しかし、この2紙も同日、大々的に報じた。ウィキリークスは情報を横取りされた格好になった。ウィキリークスは2紙に故意に情報を渡さなかった模様だ(暴露本などで、関係が冷えたと見られているー「新聞協会報」5月10日号、共同電)。2紙の情報源は明らかになっていないという。

 ・・・という経過を聞いての私の感想ー。この情報がもともと、いわゆるマニング上等兵からウィキリークスに渡った情報の一部であったとも考えられるが(そういう意味では、すでにガーディアンもニューヨーク・タイムズも生情報を持っていた)、別の意味では、元ウィキリークスNO2のダニエル・ドムシャイト=ベルクが本に書いたように、ウィキリークスが大手メディアと共闘した、あるいはウィキリークスあるいはアサンジが大手メディアをいいように扱った・・・のではなく、「大手メディアに食い物にされるアサンジ(あるいはウィキリークス)」という構図が見える。おそろしや、大手メディア!弱肉強食。
by polimediauk | 2011-05-16 22:14 | ウィキリークス
 ロンドン市立大学に本拠地を置く、英調査報道センター(CIJ)所長ギャビン・マクフェイデン氏に国家機密とジャーナリズムについて、聞いてみた。米国人のマクフェイデン氏はウィキリークスのジュリアン・アサンジ代表と個人的にも親しい人物の一人。(朝日新聞「Journalism」4月号掲載分に補足。)

―メガリーク報道をめぐる米政府やメディアの対応をどう見るか。

所長:米政府はすぐにウィキリークスとアサンジに対する攻撃を開始した。また、大部分の米国の新聞は暴露報道をしないようにと圧力をかけられた。政府側は新聞社の愛国心に訴えた。「どうか報道はしないでくれ。米政府が困惑するから」と。

 米国の大手報道機関は難しい状況に立たされた。ジャーナリストたちはスクープを欲しがる。しかし一方では、メディア自体が巨大化し、大きな権力になっている。そこで、政府が耳元でこうささやく。「この報道は勧められませんね。出さないほうがいいんじゃないですか。政府批判なら別のこんな話はどうですか。今回の話だけはやめてください」と。メディアはいつもアクセスをしたがる。アクセスがすべてといってもいいくらいだ。

―アクセスとは?

所長:権力へのアクセスだ。すべての大手メディアが、オバマ米大統領に電話して、プライベートに何かについて話してくれることを願っている。もしオバマ大統領に反対する記事を書けば、アクセスは難しくなる。アクセス権が、当局の情報開示を阻む武器になっている。

―「ペンタゴン文書」事件*(米国防相の指示の下で作成された極秘報告書「ベトナムにおける政策決定の歴史1945-68年」が、1971年、シンクタンクの調査員ダニエル・エルズバーグによってニューヨーク・タイムズにリークされた。政府は報道差し止め令を裁判所に出させたが、審理の結果、この差し止め令は解除された)のときと比較して、ニューヨーク・タイムズは変わったと思うか?

所長:そう思う。いや、タイムズ自体が変わったというよりもータイムズは前よりもリベラルになっているーー周りの環境が変わった。

 ペンタゴン文書の際には、米社会の非常に重要な階層の人々が、ベトナム戦争に反対していた。今でもイラクやアフガン戦争に反対の人がいるが、ベトナム戦争のときのようには、その声が表に出ていない。

 あの時、たくさんの人が参加する反戦デモが頻繁にあり、何万人もの兵士が軍隊から逃げて、カナダやスウェーデンに向かった。まだそういうことは米国では起きていない。

 ベトナム戦争のために社会に大きな変化が起きていて、ペンタゴン文書のリーク報道があった。今は、ペンタゴン文書のときのような、ニューヨーク・タイムズへの熱い支持は起きていないと思う。

 そして、ベトナム戦争時には、政権の上層部が戦争継続に反対だった。今はそうではない。少しはいると思うけれども。しかし、イラクやアフガンの戦況を見て、上層部が圧倒的に反戦となる動きにはなっていない。

―ペンタゴン文書の件についてだが、ある日本の論客が言うには、「ニューヨーク・タイムズは、国益に考慮した公益のために行動した」と述べた。したがって、ニューヨーク・タイムズによるペンタゴン文書のリーク報道はメディアの勝利ではない、と。私がそう思っているわけではないが。

所長:私もそうは思わないがー。変な論でもあるね、というのも、ニューヨーク・タイムズなどの大手の新聞が、何かに関する真実を報道したことで政府によって攻撃を受けるのは、この100年で最初だったから。それができたのは、裕福で権力も持つたくさんのひとが反戦だったからだ。

 アフガンやイラク戦争に反対する人は今いるけれども、数が小さい。米国が今危機状態にあるからだ(それどころではない、と)。

 ベトナム戦争が始まった時、米国は大きな繁栄時期にいた。本当に裕福な時代だった。イラクやアフガン戦争は、大きな金融危機の時期と重なっている。負債がこれまでにないほど膨らみ、崩壊の危機だ。国民はすべてのことに恐れを抱いているーベトナム戦争の時と比べると。

 今、右派勢力は当時よりももっと組織化されている。右派政治家セラ・ペイリンはその典型だ。こうした人たちがアサンジを殺せ、と主張している。二つの戦争を支持したのもこういう人たちだ。

 ペンタゴン文書の時代と今は、ずいぶんと違う。

―今回リークされたのは米国の外交公電だったが、例えば英国の外交公電がリークされたとしたら、ガーディアンを含めた英国の新聞は反政府的になって堂々と情報を報道できると思うか?

所長:できないと思う。英国の新聞は倒れてしまうのではないかな。公務員機密守秘法とか、米国と違っていろいろ厳しい法律があるからだ。米国には英国の公務員機密守秘法に相当するものはない。米憲法の第一条修正で表現や宗教の自由の権利が保障されている。

 英国、フランス、ドイツ、それにほとんどの欧州諸国、それと多分日本でも、法律の問題で外交機密レベルの情報を出すのは難しいだろうと思う。すぐに刑務所に送られることだってあるだろう。

 ガーディアン自体が、セーラ・ティズドール(Sarah Tisdall)という内部告発者を牢獄に送ったことがある(*ティズドールさんは元外務省職員。1983年、政府の機密書類を省内でコピーし、ガーディアンに送った。政府は裁判でコピー文書を渡すよう、ガーディアンに要求。ガーディアンが渡した書類を精査すると、外務省内のコピー機を使っていたことが判明し、ティズドールさんは公務機密法違反で実刑となった。)警察がガーディアンに告発者の名前を聞き、ガーディアンは名前を教える形になってしまった。ほかにもあるが、これが最悪のケースだったと思う。この事件は、その後の調査報道の進展に大きな悪影響を与えたと思う。

 英国の新聞は法律を真面目に考える。英国の名誉毀損法は非常に厳しくて、名誉毀損ではないことを、ジャーナリスト側が証明する必要があるために、さらに状況は厳しい。

―調査報道で、少々非合法の手段を使っても、真実を探るためには仕方ないと思うか?

所長:非合法な手法の大部分はコンピューターを使わなくてもできるものだ。例えば著名人のゴミ箱をあさるとか。「ゴミ箱男のベニー」と呼ばれる人物がいた。複数の新聞社に雇われて、著名人のゴミ箱をあさって情報を探した。まったく汚いやり方だけどね。

 私たちは全般的にいって、そういうことはやらない。ハッキングもしない。罰金が高すぎる。それに、原則として、よっぽどの理由がない限り、個人のプライバシーを侵害したりはしない。

 もしどうしてもやるとすれば、例えば、重要な社会問題、医療や軍事情報、人権の乱用などの本当に大きなことを探るときだ。

 しかし、普通は違法行為はやらないし、違法行為を可能性として考えることさえしないーよっぽど重要なことでなければ。他のやり方で情報をとることができるはずだ。時として、法律を破ることは正当化されるかどうか?社会的重要性がものすごく大きい場合、正当化される。

―ウィキリークスは調査報道の面から、何を変えたのか。

所長:内部告発者の力が、広く理解されるようになったこと。ウィキリークス以前は知っている人は少なかったが、今はみんなが知っている。公益のための内部告発を後押しする大きな動きだ。

 しかし、メッセージの中味よりも、メッセージを伝える人のほうが重要になってしまった。有名人文化が強い現在、仕方ないのかもしれないが。

―アサンジのように?

所長:そうだ。アサンジは確かにすごい人物で、大変勇気がある。しかし、ウィキリークスが暴露した情報の中味より、アサンジのほうが大きなニュースになってしまった。不幸なことに。

―アサンジに関する否定的な報道が多いので、ウィキリークスは支持するが、アサンジは支持しないという声も聞く。

所長:そうだ。しかし、忘れないでおきたいのは、国家がその批評家に対してよく使う手が、否定的な報道を広めることだ。アサンジは自分を攻撃対象にしてしまった。無理もない、あんな国家機密を暴露してしまったのだから。しかし、ああいう情報を暴露すれば、誰だってーー例えあなたでもーー悪者扱いされるだろう。誰にしろ、攻撃されてしまうようなことを抱えているものだ。

―アサンジとはどんな人物か。

所長:これまでにたくさんのジャーナリストに会ってきたが、疑いなく、最も頭のいいジャーナリストの一人だ。アサンジはメディアが何で、どんな風に機能するのかを知っている。情報をどのように安全にするかを知っているし、科学的過程を大事にする。もともと、科学を学んだ人物だー数学、物理学など。

 同時に、非常に好青年だ。嫌いにはなれない。非常にナイス・ガイだ。暴力的ではない。気が狂ってもいない。真面目で、言論や報道の自由を心から信じている。そのために、アサンジは他のジャーナリストたちを居心地悪くさせているかもしれない。私たちは妥協をすることに慣れているが、アサンジは妥協を好まない。

―ウィキリークスはジャーナリズムの一部だろうか?

所長:絶対にそうだ。世界の中で、一見ジャーナリズムとは思えないものがジャーナリズムだったりする。例えば印刷機だ。コンピューターも。ジャーナリズムの一部と見なされるようになったのは、これを使ってジャーナリズムが生み出されるからだ。印刷機を使った人の多くがジャーナリストになった。

 米国の著名ジャーナリストの中で、自分の印刷機を持っていた人が結構いる。 有名なのが I.F. Stone.という人で、ニックネームがIzzy Stone(イジー・ストーン、1907-1989年)だった。毎週、自分の印刷機を使って、週刊新聞を発行した。数千人規模の購読者に新聞を郵送したんだ。みんながこの新聞を読んだものだ。ストーンは印刷業者だったけれど、非常に良い記者でもあった。

―今で言うと、ブロガーのようだ。

所長:電子メールが生まれる前の時代の「印刷ブロガー」だったのかもしれない。
 現在はみんながコンピューターを持つようになった。印刷機を持つ人は少ないけれど、コンピューターだったら買える。

 ウィキリークスはジャーナリズムか?今までとは異なる種類だが、そうなのだと思う。

――調査報道にとって、現在は良い時期だろうか。

所長:インターネットの出現でやりやすくなった面もあるが、本当の理由は戦争だと思う。米英両国は今、イラクやアフガニスタンなどの戦争に関与している。戦争は人々を批判的にし、考えさせ、疑い深くさせる。真実を学ぶ機会にもなり得る。私たちがやっているような調査報道が、人々の物事に対する見方を変えられたらいいなと思っている。

―確かに、戦争をめぐっては論争が起きやすい。

所長:しかも、何人もの人が亡くなる。イラク戦争では嘘を元にした戦争で、多くの人が殺害された。とても大きな論争を引き起こすのも無理はない。

―これまでにも、それほど十分ではない理由で、あるいは国民に理由を説明しないままにたくさんの戦争が起きたー。

所長:それこそ、「国益のために」だ。

ー確かに。

所長:そんな理由付けのほとんどがいかに間違っていたかを、私たちは今、知っている。道徳上間違っていたし、倫理的にも間違っていた。嘘を元にしていたんだ。米国人であろうと、日本人であろうと、ドイツ人であろうと、ロシア人であろうと、何人であろうと、戦争は常にーーほとんど常にーー嘘の理由に基づいて開戦となった。すべてとは言わないが、そのほとんどは嘘だった。

―民主主義社会に生きる私たちにとって、「国益」とは何かを本当に査定するときが来たー。

所長:査定するのはジャーナリストであり、国民だ。今すぐ、行動を起こしてほしい。

***こぼれ話

 CIJの事務所は、ロンドン市立大学の通常の建物の端っこにある。「センター」というからある程度大きいのかなと思うと、秘書の部屋一つ、これが荷物置きと本を置く場所になっている。所長の部屋も本が一杯で、ゲストがひとり入るともう何も入らないほど小さい。「ようこそ、調査報道センターへ!」と言って向かいいれてくれた。インタビューは真面目な話と大笑いが錯綜。大笑いは、「誰でも隠したいようなことが一つか二つはあるよ」といって声が低くなったときと、最後、「行動を起こすのはあなただ!」とボールがこっちに返ってきたとき。米国のジャーナリズムの状況を一生懸命弁護する姿も印象的だった。
by polimediauk | 2011-05-15 18:16 | ウィキリークス
 国家機密に相当するリーク情報をメディアが入手したとき、これをいかに扱うべきだろうか。

 国家機密とメディアの関係について、ロンドン市立大学に拠点を置く非営利組織「調査報道センター」(CIJ)の所長で同大教授ギャビン・マクフェイデン氏に見解を聞いた。(朝日新聞「Journalism」4月号掲載分に補足したものです。http://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=12525)

 米国人のマクフェイデン氏は、所長就任前、米英両国でドキュメンタリーや調査報道番組のプロデューサーとして活躍した。ウィキリークスの創始者ジュリアン・アサンジの知人でもある。メガリーク報道では、ウィキリークスから直接生情報を入手し、これをCIJの姉妹組織で非営利の番組制作団体「調査報道局」に提供する橋渡し役を演じた。

―どのようにしてウィキリークスと関わるようになったのか?

マクフェイデン所長:ウィキリークスに関しては、その名前が有名になるはるか前から知っていた。

 ウィキリークスに興味を持ったのは内部告発者の身元が本当に擁護されていると思ったからだ。内部告発者は身元が十分に守られていると確信できないと、告発しようとは思わないものだ。きちんと守ってくれる体制があれば、もっと告発者が出てくるだろう。ウィキリークスはこうした見方があたっていることを十二分に証明した。

 私たちがウィキリークスに注目し始めたのは2007年ごろ。実際に、直接ウィキリークスと関わるようになったのは2010年の5月から6月ごろ。代表者ジュリアン・アサンジがアフガンやイラクでの戦闘日記や外交公電情報を公開する準備のために、ロンドンに戻ってきたころだ。最初は、アサンジはガーディアン紙と共同作業を行っていた。
 
 CIJの妹的な存在となるのが、「調査報道局」(Bureau for Investigative Journalis、BIJ)だ。これはCIJ同様に拠点をロンドン市立大学に置いているが、番組制作を担当している。テレビ用の映画を作る。
 
 BIJがウィキリークスとイラク戦闘日記の件で共同作業を行った。CIJやBIJなどから人が集まって、情報の処理に取り掛かった。アフガン戦闘日記の情報を公開したときのような間違いをおかさないように、とね。消すべき名前が消されなかったことがあったから。すぐに間違ったことをしたとみんなが思ったし、これを繰り返してはいけない、と。

―何人ぐらいが関わったのか?

所長:大体20人ぐらい。最多でも23人ほど。生の情報から危険だと思われる部分を消してゆく作業に関わった。作業は大成功で、不意に出てしまった名前などは一つもなかった。

―作業を通して、見えてきたことは何か?

所長:民間人が数千人規模で組織的に殺害されたという点だ。ベトナム戦争と比較しても、バグダッドの道路上でさらにたくさんの人が殺害された。例えば、ある場所で680人が亡くなったことがあった。このうちの11人は戦闘員だったが、そのほかは、民間人で、女性や子どもたちもいた。
 
 こういう情報は米政府を喜ばせなかった。そこで、米政府はすぐにウィキリークスやアサンジを攻撃しだした。すべてではないが米国の新聞の大部分が、メガリークの情報を掲載しないようにと政府から圧力がかかった。今でもそうだ。

―イラク戦争の情報が出た後での圧力か?

所長:アフガン、イラクの戦闘記録、外交公電―すべてだ。愛国心に訴えて、「頼むから掲載しないでくれ。政府が困ってしまうから」と。

 CIJやBIJのジャーナリズムは違う。ジャーナリズムは独立した存在であるべきだ。政府や野党勢力のプロパガンダのための広報官にはならない。

―英政府と一連の報道に関して連絡を取ったのか?

所長:取らなかった。全然だ。興味深いことに、英政府がまったく関与しないというのは珍しい。

 政府と私たちは全然関係ない。政府はこちらに連絡を取らなかったし、こちらからも政府に連絡を取らなかった。ただ、ガーディアンの上部は連絡を取ったかもしれないけれど。

―しかし、政府あるいは軍事関係者に連絡をとって、情報の信憑性を確認する必要はなかったか?

 所長:なかった。元軍隊にいた人からの情報があって、「この数字は正しいか?」「この場所は、これで合っているか?」などと聞くことができたから。

―先ほどの、20人ほどの作業者というのは全員がジャーナリストか?

所長:ジャーナリストとコンピューター関係の人だ。実際に、数千もの名前を消す作業にはコンピューター技術の知識が必要だった。データベースの専門家なども使った。CIJではこうしたことも教えているので、普通のジャーナリストよりはデータベースやコンピューターに関して詳しい。

―どうやって秘密を守らせるようにしたのか?

所長:厳しい統制だ。作業室には他の人が誰も入れないようにした。作業に関しては、他の人とー家族も含めてー話してはいけないことにした。これが作業に参加する条件で、情報を門外不出とする契約書に署名してもらった。誰一人、情報を漏らした人はいない。

―それはすごい。

所長:みんな調査報道をやってきた人たちばかりなので、仕事をしていて自動的に政府に何かを話したりするような人たちではない。

―お金のために情報を売る人もいるが、ここのスタッフはもちろん、そういうことではなかった、と。

所長:そうだ。

―情報は、ウィキリークスから直接受け取ったのか?

所長:そうだ。

―内部告発で得た情報は「盗まれたもの」であるという理由から、情報の正当性を疑問視し、これを大手報道機関が公開することを批判する声があるが、どう思うか。

所長:政府や企業との雇用契約の中で、職務上知り得た秘密を口外しないという項目があった場合、雇用主は従業員に情報の守秘を要求する権利がある。

 しかし、良心の問題がある。情報を得て、それが道徳的あるいは倫理的に悪いことだと思ったら、内部情報を広く公開することは市民の義務だと思う。大きな犯罪を露呈させるために機密情報を明るみに出す行為は、公益という目的において正当化される。企業の利益や政府が困惑するかどうかよりも、公益目的の内部告発を優先するべきだ。

 政府がある情報の公開を拒むときのほとんどは、自分たちが恥をかきたくないためだ。政府は国民が払う税金によって仕事をしている。恥をかいたって、それはそれでいい。政府は困るかもしれないが、国民は心配しなくてもよい。

―しかし、国益のために、政府は秘密を守る権利があるのではないか。

所長:政府はいつも「国益のために」という。たいがいの場合、政府が誰かから賄賂を受けとり、その事実を暴露されたくないときにこれを理由として使う。

―民主主義社会では、国民には国家に関わるほぼすべての情報について知る権利がある、ということか?

所長:そうだ。ほぼ100%に関して、知る権利がある。

―公開されれば人命を危険にさらす、あるいはプライバシーを侵害するなど、ごく少数の例外を除いては。

所長:そうだ。例外というのは、個人の例になるかと思う。私やあなたの健康関連の情報は公開されるべきではないと思う。銀行口座の情報もそうだろう。こうした情報はあなたの情報であって、政府の情報ではない。

―米国メディアは人々の知る権利よりも、国益を優先化していると思うか?

所長:そうは思わない。同意しない。そういう見方に反論したい。国民のために、つまり、「公益」というのは原則だ。国民が政府に対し、国民のために働くように権力を与えている。国民のためにであって、国民の利に反するために働くのではない。国民は自分たちが支払ったお金がどのように使われているかを知る権利がある。選挙で選んだ人がどんな仕事をしているのかを、知る権利がある。

 どのように公的なお金を使っているのか、どのような仕事をしているのかに関して透明性がないと、説明責任がなくなる。政治家にしてみれば、何も質問をしない国民は扱いやすい。何でもやりたいことができる。私たちは何が起きているのか知らされなくなる。しかし、もし国民が何が起きているかを知っていれば、もし間違った方向に物事が進んでいれば、これを正すことができる。

―ジャーナリストは公益よりも国益を時に重視するべきか。

所長:ジャーナリストは公益のためにこそ存在する。国益という考え方そのものが何を指すのか。一体誰のための国益なのか、一握りの銀行家のための国益か。どこかの軍人のための国益か、あるいは国民全体の利益のことか。私自身は、一般的にいって、国益という概念を容認しない。国益が何を意味するのか、権力者は説明しない。

―つまり、それで人が殺されるとかの場合以外の「国益」ということ?

所長:まったくその通り。

***(下)に続く
by polimediauk | 2011-05-14 18:28 | ウィキリークス
c0016826_18323057.jpg このところ、ウィキリークスが入手した外交公電情報で、日本に関わる分が報道されだした。

 ほかに最近の動きとして、5月11日付のガーディアンによると、米バージニア州で、ウィキリークスに国家機密を漏らしたことに関連して、大陪審が審理を開始したようだ。まずはボストンから召喚された男性が証言をすることになっている。この審理は非公開であるという。ガーディアンによれば、これは最終的にはスパイ罪違反として、ウィキリークスの代表者ジュリアン・アサンジを裁く方向に向かうことを狙っているという。

WikiLeaks: US opens grand jury hearinghttp://www.guardian.co.uk/media/2011/may/11/us-opens-wikileaks-grand-jury-hearing

 もう1つは、ウィキリークスの元NO2のドイツ人活動家ダニエル・ドムシャイト=ベルグが、ウィキリークスを批判という話。これは、アサンジがウィキリークスのスタッフに対し、機密を守る文書に署名をするよう迫り、もし機密を漏らせば巨額の賠償金を支払うという項目が入っていたという。そこで、「これはおかしい」と発言している。まるで機密を隠す政府・当局のような動きではないか、と。

Ex-WikiLeaks spokesman criticises Assange's gagging order for staff
http://www.guardian.co.uk/media/2011/may/13/wikileaks-spokesman-assange-gagging-order

 ちなみに、今、日本語でウィキリークスの関連本がいろいろ出ているが、このドムシャイクト=ベルグ氏の本はお勧めである。というのも、ウィキリークスの中から見た話で、知らなかったことがいろいろ入っている。最初の部分はアサンジの話があってちょっとゴシップめいているのだが、段々、新たな事実が出てくる。例えば、アフガン関連のメガリークで、ウィキリークスは、危険が及ぶような人物名などを十分に消さなかったとして人権団体などに大きく批判された。しかし、アサンジ側からの「消すように」という指示が、公開予定日の直前であったので、すべてを消せなかったという理由があったと分かる。

 少し前になるが、朝日新聞の「Journalism」4月号に書いたウィキリークスの記事をいかに転載したい。ニューヨークタイムズとガーディアンの編集長がどうやって当局と距離を置いたのかと具体的な編集作業をどうしたのかを書いたもの。既にウィキリークス本などを読まれている方にとっては重複部分が多いとは思うが、結論あたりを見てくださると幸いである。(ちなみに、「Journalism」4月号には立花隆さんのインタビューなど、盛りだくさん。http://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=12525)

 また、ガーディアンの副編集長と調査報道のジャーナリズム機関CIJの代表者へのインタビューは、記事の中でも紹介されているが、いずれも全部は入っていないので、別の形で、この後出す予定。編集幹部のいろいろな見方が入るので、何らかのご参考になればと思う。

***

英ガーディアンとウィキリークス 「メガリーク」報道の舞台裏 

 昨年後半から、内部告発サイト「ウィキリークス」が世界の話題をさらっている。数カ国の大手報道機関が、ウィキリークスが入手した米軍に関わる大量の漏洩機密情報と米外交公電を元に、大々的な報道(「メガリーク」報道)を展開したからだ。

 このメガリーク報道に参画した主な報道機関は、米ニューヨーク・タイムズ紙、英ガーディアン紙、独シュピーゲル誌、仏ル・モンド紙、スペインのエル・パイス紙、英テレビ局チャンネル4、カタールの衛星テレビアルジャジーラなど。

 本稿では、ニューヨーク・タイムズとガーディアンの例を中心に、機密情報の取り扱い方や公開時の編集判断を振り返る。

―調査報道記者がアサンジに接触

 英国の左派高級紙ガーディアンの調査報道の現状については、「Journalism」誌2010年4月号で詳しく書いたが、同紙は専任記者を2人置き、調査報道に力を入れている。普通の取材ではなかなか手に入れることができない内部事情を明るみに出すリークと調査報道は、切っても切れない関係にある。

 専任記者の一人デービッド・リー記者のあまたの情報源の中に、06年にウィキリークスを創設するジュリアン・アサンジがいた。ケニア元大統領の汚職疑惑報道(07年)や、多国籍石油取引企業トラフィギュラの産業廃棄物に高い毒性があることを示す報告書の公開(09年)など、複数の事例でガーディアンとウィキリークスは協力してきた。

 今回のメガリーク報道につながるきっかけを作ったのは、ガーディアンの特約記者ニック・デービスである。専任記者ではなかったが、デービスも調査報道を長年手がけてきた。昨年6月、デービスは、ガーディアン紙上で、ブラッドリー・マニングという名前の米上等兵が大量の外交機密文書をウィキリークスに流した疑いで逮捕(5月)され、これに関し米当局がアサンジの居場所を探し出そうとしているという記事を読んだ。

 デービスは、この機密文書を入手し報道できれば大きな注目を集めると直感、アラン・ラスブリジャー編集長に相談した。すぐに取材許可が出た。

 デービスが住所不定のアサンジとベルギーのブリュッセルで会合を持ったのは、10年6月末であった。デービスは、アサンジに対し、ガーディアンと手を組まないかと持ちかけた。常日頃から、サイト上での情報公開だけでは注目度がいま一つと感じていたアサンジは、これに同意した。しかし、その情報量が巨大であったため他のメディアにも参画してもらうことにし、オバマ米政権があまり干渉をしないだろうと踏んだ、リベラル派の米ニューヨーク・タイムズに声をかけることにした。複数の国の報道機関が関与すれば、当局も一斉に報道を差し止めることは難しいだろうと両者は考えたのだ。

 アサンジはデービスにリーク情報を引き出すためのパスワードを与えた。パスワードは、アサンジが立ち上げる仮のウェブサイトを閲読するために使うものだった。このウェブサイト自体はほんの1、2時間のみネット上に存在し、情報にはさらに暗号ソフトによって鍵がかけられていた。

―本社5階の一室で始まったアサンジとの共同作業

 ロンドンに戻ったデービスは、ラスブリジャー編集長から、無事、企画進行の合意を得た。
 
 その2、3日後、デービスの元にアサンジから仮のウェブサイトの存在を知らせるメールが届いた。デービスは自宅でパスワードを使って情報をダウンロードしたものの、暗号を解くことができなかった。

 いったんメモリー・スティックに落とした情報を、ガーディアンの編集部に持ち込み、システム編集者に開けてもらう。この準備段階で、ガーディアンのベテランジャーナリストたちがてこずったのは、ネット時代の情報の取り扱い方であった。機密が漏れないよう、関連書類を維持するサイトを暗号化したり、メールアドレスや携帯電話を頻繁に変えたりするなどの方法が取られた。
 
 ラスブリジャー編集長から共同作業の打診を受けたニューヨーク・タイムズのビル・ケラー統括編集長は、ウィキリークスの情報が本物の米軍の機密情報かどうかを確かめるため、ワシントン支局のエリック・シュミット記者をガーディアンに送った。シュミットは軍事の専門家だった。情報を閲読したシュミットは、ケラー統括編集長に「本物」であると報告し、ニューヨーク・タイムズの参加が本格化した。その後、ウィキリークス側からドイツの週刊誌シュピーゲルも加えてほしいという依頼があり、3媒体の共同作業が始まった。

 ロンドンのキングス・クロス駅から歩いて数分の所にあるガーディアン本社5階の一室が共同作業の準備室になった。6台のアップル・コンピューターを前に、調査部長のデービッド・リー、デービスに加え、ニューヨーク・タイムズとシュピーゲルの記者、そして6月末からはアサンジが加わり、データの整理作業が始まった。

 手元にあったのは、アフガン戦争に関する米軍の戦闘報告書(約9万点)である。専門用語が多く入っており、まずこれを解読する必要があった。同時に、情報量が巨大すぎて標準のデータ整理用ソフトでは扱いきれず、データバンクと独自の検索エンジンを作成する必要が出てきた。そこで、準備チームにはガーディアン社内からコンピューター技術やデータ分析を専門とするスタッフが参加した。戦闘機の種類やその他の軍事情報を解析するため、世界各地にいる特派員がロンドンに呼ばれた。

 メガリーク報道がこれまでのリーク情報の編集作業と大きく異なるのは、データの整理、解析作業に時間と困難が伴うことだ。例えば、「データ・ビジュアライザー」という役目を担ったスタッフは、戦闘報告書が記録する数千の爆撃行為を視覚的に分かりやすくするために、アフガニスタンの地図の上にカーソルを合わせると攻撃の日時、犠牲者などの情報が現れるようにした。

 こうした作業は関係者以外には極秘のプロジェクトとされ、ガーディアン内部でも関係者以外のスタッフにはその存在を知られないようにされた。

 ニューヨーク・タイムズ、ガーディアン、シュピーゲルの3媒体は、ウィキリークスの生情報を事前に閲読・検証し、あらかじめ決めた日に一斉に報道することで合意した。情報の整理や検証の段階で協力できる部分は協力しても、どこを使ってどのような記事を作るかは、各媒体が決めることにした。この決まりは、メガリーク第2弾、3弾についても同様だった。

―情報をそのまま出すか、出さないか

 3媒体は、人命が危険にさらされると考えた箇所など、情報の一部について掲載しないことにしたが、「文脈を丸ごと出す」ことを方針とするアサンジは、「修正はいらない」と当初言い続けた。後に、リー記者はメディアの取材に対し、「考え方の違いの大きさに愕然とした」と述べている。人命に損害を与える箇所を事前に修正する「損害最少化方針」が合意事項となっていることをウィキリークス側全体が知ったのは、アフガン文書公開予定日の数日前であった。

 フルタイムで働くスタッフが大急ぎで修正作業に取り掛かったが、時間が足りず、3媒体からの提案で、アフガン人からの警告をもとに治安リスクを査定する「脅威報告書」約1万4千点を公開しないことにした。それでも、一部に実名が出てしまい、ウィキリークスは人権団体から抗議を受けた。

 その後、ウィキリークスは情報の一部を修正する方針に変わっていき、第3弾の米外交公電の公開では、原則として、主要報道機関が編集・掲載したものを自らのウェブサイト上に載せるようになった。

 メガリーク報道の第1弾となる7月25日のアフガン文書報道の数日前、ニューヨーク・タイムズはホワイトハウスと国防総省にコメントを求めた。ケラー統括編集長によると、「オンレコ・コメント」を他の参加媒体に伝え、「人命に損害を与える情報は出さないでほしい」というホワイトハウスからの要望をウィキリークス側にも伝えた。

 公開後、ガーディアンとシュピーゲルはそれぞれの記事に、ウィキリークスのサイトへのリンクを貼ったが、ニューヨーク・タイムズは貼らなかった。後に、この点について、ガーディアンのラスブリジャー編集長はウィキリークスとガーディアンの関係を「相互補完」と説明しているが、ニューヨーク・タイムズのケラー統括編集長はウィキリークスを「パートナーとは考えていない」「あくまでも一つの情報源」(『オープン・シークレッツ』より)と述べている

 10月22日にはイラク戦争関連の米軍の機密書類約40万点を元にした報道が第2弾として開始され、新たに英テレビ局チャンネル4と衛星テレビ局アルジャジーラが報道に参加した。

―「外交公電」報道数日前に米側がガーディアンに接触

 第3弾の11月28日の米外交公電(約25万点)報道までに、3媒体のほかに、仏ル・モンド紙、スペインのエル・パイス紙が加わった。

 報道の数日前、ロンドンの米大使館から2人の官僚がガーディアン本社を訪れた。その内容は明らかにされていないが、ラスブリジャー編集長は、26日に、米政府中枢部に電話するよう言われた。

 26日、編集長はワシントンの電話番号を回した。電話口に出てきたのはクローリー米国務次官補(当時、広報担当。3月に辞任)であった。クローリーはクリントン国務長官の秘書、国防総省代表者、諜報関係者、国家保安委員会の代表者に囲まれていた。クローリーは、外交公電は「盗まれた書類」で、「慎重に扱うべき軍事機密を明るみに出し、人命を危うくする」と述べた。もし、ガーディアンが「書類を共有する」なら、米政府は「助ける意思がある」と続けた。この謎めいた言葉は、掲載する公電が何かを教えてほしい、という意味だと編集長は察した。

 ラスブリジャー編集長がこれに直接答えないでいると、クリントン国務長官の秘書が「どの公電かを教えるのか、教えないのか」と重ねて聞いた。しかし、編集長は情報を「渡さない」と答えた。それでも、1日目はイラン、2日目は北朝鮮、3日目はパキスタンに関する公電だと大まかな予定を教えた。会話はこれで終了した(ガーディアン、2011年1月31日付)。

 同日、英政府は、ガーディアンを含む複数のメディアに対し、慎重に扱うべき外交情報があれば通知してほしいという「国防通知」を出している。この通知に応じる法的義務はないが、報道機関は国防に配慮した報道を行うよう要請される。英首相官邸は「この通知によって報道差止め令を裁判所に求める意図はない」と説明した。
 一方米国では、クローリー国務次官補が公電報道は米国と外国政府との信頼関係を壊す、と述べた。

 ニューヨーク・タイムズは報道前に、米政府と何度か交渉の機会を持った。11月19日、ニューヨーク・タイムズはホワイトハウスに外交公電報道の予定を知らせたところ、その2日後、ワシントン支局長と他の2人の記者がホワイトハウスに呼ばれた(『オープン・シークレッツ』以下同)。ホワイトハウス、国務省、CIA、FBIなど政府関係者とニューヨーク・タイムズ記者たちとの会合内容はオフレコのため、公開されていないが、ニューヨーク・タイムズ側の一人によれば、政府側からは「抑制された怒りと不満感が伝わってきた」という。

 その後は、連日、電話での交渉が続く。ワシントン支局が掲載予定の公電をホワイトハウスに送ると、この公電は該当地域の担当者に回された。後日、政府関係者が「修正すべき項目やその理由」を電話でニューヨーク・タイムズに伝えた。その内容はニューヨーク・タイムズから他の媒体にも伝えられた。

 政府側が「修正すべき項目」としてあげたのは、①人命に損害をもたらすと思われる部分、②諜報活動の秘密を暴露すると思われる部分、③外国の政治家に関わる率直な感想を述べた部分であった。ニューヨーク・タイムズは①に関しては理解を示したものの、②と③については政府の懸念に同意しないとする場合もあったという。最終的に、「一部は修正し、一部は修正せず」という方針をとった(「読者へのお知らせ」11月28日付)。
 
―機密情報と報道の基準「きちんとした方式はない」

 国家機密を手にした報道機関は何を基準にして掲載に踏み切ったのか。
 
 アフガン文書公開時、ニューヨーク・タイムズはこの文書は「実際に戦闘行為や再建を行っている兵士や官僚という重要な、有利な視点から語られたリアルタイムの戦争の歴史」と呼んだ(7月25日付)。「機密情報を掲載するかどうかの決定は困難で、リスクと公益をはかりにかけて、掲載しないことを選択する時がある」。しかし、情報に大きな公益性がある時があり、「今回がその時だった」と。

 ケラー統括編集長は、メガリーク報道の経緯をまとめた書籍『オープン・シークレッツ』の中で、報道機関の役目である「政府が持つ秘密の暴露」と「国民に情報を与えること」とのバランスについて、きちんとした方式はないと書いた。情報を出そうとするメディアと情報を守ろうとする政府との間には常に緊張が生じるからだ、と。

 ガーディアンの場合は、今回のメガリークは米軍あるいは米外交公電であったため、英国の国益を特には問題視せず、「公益」を理由に掲載したと説明してきた。

 ガーディアンのイアン・カッツ副編集長は筆者の取材に対し、同紙では「編集部が入手した情報は、読者にも伝える」ことを原則としているという。機密情報であっても、「これを掲載しないことで間違いを犯すよりも、情報を掲載して間違いを犯すほうを選ぶ」とも語った。

 もし今回の外交公電が英国のものであったとしても、カッツ副編集長は「編集部の判断(=公益と見なして報道する)は変わらないだろう」という。そして公務員機密法、名誉毀損法、法廷侮辱法などを使って、政府側が報道差止め令を裁判所に申請する可能性が高いと予測した。

 ニューヨーク・タイムズは、アサンジとマニング上等兵について否定的な視点で書いた記事を掲載したことでウィキリークスと仲違い状態となり、外交公電はガーディアンから迂回して入手した。そのせいもあってか、ケラー統括編集長はウィキリークスを「一つの情報源」であり、共同作業の相手とは認めていない。ウィキリークスをジャーナリズムと呼ぶことにも抵抗があるという。

 一方、ガーディアンのカッツ副編集長は、報道機関がジャーナリズムの編集の全過程をもはや担当しえなくなっている、と指摘する。伝統メディアのガーディアンと、ブログやウィキリークスのような内部告発サイトなどが編集過程のそれぞれの部分を担う時代になった、と。

 シュピーゲルの記者マルセル・ローゼンバッハとホルガー・シュタルクは共著『全貌ウィキリークス』(早川書房刊)の中で、ウィキリークスのようなサイトの将来像に思いをはせる。「機密文書公開のための、検閲が不可能なウェブサイトは」、その国の法律に時に縛られ、為政者との緊張関係に身をおく大手報道機関の外に位置する「国家の枠を超えた第5の権力になりうる」と。

 一方、ウィキリークスの元ナンバー2、ダニエル・ドムシャイト=ベルクは、著書『ウィキリークスの内幕』(文藝春秋刊)の中で、ウィキリークスに送られたリーク情報を、特定の報道機関が独占的に報道することに疑問の声をあげている。

 「機密情報の所有者が政府から大手報道機関に移動しただけという側面はなかったのか」と問いかける。実際に、アフガン文書公開時、ウィキリークスが未公開とした1万4千点余の文書の閲読をワシントン・ポスト紙がウィキリークスに申請したところ、「3媒体と約束をしたから」という理由でアサンジに断られた経緯があった。ウィキリークスは自分たちが受け取った情報の使用権を特定の報道機関に譲り渡す形となった。

 内部告発情報を広く世に出すことがウィキリークスの目的とすれば、「独占契約」は正しい選択だったのか、とドムシャイト=ベルクは問う。

 国家機密の報道のあり方、内部告発の情報の取扱方法など、様々な論点を喚起したメガリーク報道であった。〔終)

Journalism 4月号
http://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=12525

Journalism 最新号
http://publications.asahi.com/ecs/66.shtml
by polimediauk | 2011-05-13 18:32 | ウィキリークス