小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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 昨日(25日)、日本記者クラブが主催した「世界の新聞・メディア」研究会で、1時間半ほど、英国の新聞・放送・ネットの動向、ニューズ・オブ・ザ・ワールド事件とウィキリークスについて、話す機会がありました。

 その模様は、クラブのサイト及びユーチューブで視聴できるようになっています。

Youtubeから
http://www.youtube.com/user/jnpc
クラブのトップページから
http://www.jnpc.or.jp


 動画の全体は1時間半ほどですが、私のプリゼンテーションは約30分ほど。後は、出席したクラブメンバーの方からの質問に答える形を取りました。

 先ほど、自分で視聴してみたところ、タイムズの元編集長「ロバート・トムソン」を、「ロバート・トンプソン」といい間違えていたり、マードックのビジネスの話で、SNSのマイスペースを「高く」売却したといってしまったり(実際は、買収価格よりはかなり低い価格で売却したので、高い買い物だったと言いたかった)、若干、不正確な箇所がありましたが、大体、英国のメディアの雰囲気は伝わったのでないかと思いました。

 それと1つ、後で気づいたのですが、ブレア元首相の自伝「ブレア回顧録」(いま、書店で平積み)を訳された石塚雅彦 さんからの質問で、「政治権力とメディア」の関係が日英でどう違うかを聞かれて、私が十分に答えていなかったなあと反省。マードックの事件が頭にあり、英国の「政治とメディアの癒着の問題」を指摘しましたが、それよりももっと大きな特色を言い忘れていました。つまり、英国の(政治)メディアと政治勢力とは敵対関係にあるのです。常に、丁々発止の闘いがあります。英メディアは、それこそ「第4の権力」として、強大な力を持っている感じがします。・・・ということを言えばよかったなあ・・・と。ついつい、既に自分では分かっていることの説明をするのを忘れてしまったなと反省しております。

 それでも、

 「日本のジャーナリストと、英国のjournalistの意味の違いは?」
 「英国の記者によるブログ活動やツイッターでの情報発信の現況」
 「何故左派系高級紙が保守系よりも部数の落ちが大きいのか?」

 などなど、鋭い質問が飛び、自分でも知的な刺激を受けた時間でした。

 会場まで足を運んでくださった皆様、本当にありがとうございました。

 事務局の方には大変お世話になりました。

 もしお時間のある方で、英国のメディアにご関心がある方は、ご視聴くださると幸いです。
by polimediauk | 2011-11-26 22:29
 「紳士のスポーツ」とも言われるクリケットで八百長を行ったパキスタン人選手数人に対し、英高等法院は、11 月上旬、有罪判決を出した。元々は英国で発祥したスポーツであるクリケットは、現在ではインド、パキスタンといったインド亜大陸の諸国を始めとする世界各国で本国以上の人気を集めている。クリケットの歴史と八百長事件の経緯に注目した記事を、「英国ニュースダイジェスト」の最新号〔ニュース解説〕に書いた。

http://www.news-digest.co.uk/news/content/blogcategory/18/263/

 以下は「ダイジェスト」の筆者原稿に若干補足したものである。

 野球の原型とされるクリケットは、11人で構成されたチーム同士が、緑の芝生の中に作られたフィールドの中で対戦する球技だ。この競技が生まれたのは、16世紀のイングランド南部においてだったと言われている。やがて19世紀に大英帝国がその領地を世界中に拡大していくにつれて、クリケットも世界各地に広まっていった。現在ではとりわけインド、パキスタン、オーストラリア、ニュージーランド、西インド諸島、南アフリカ共和国、ジンバブエなどで人気が高い。競技人口の多さでは、サッカーに次いで世界第2位である。1909年には、クリケットを統括する国際組織「国際クリケット評議会(International Cricket Council, ICC、本部ドバイ)」が設立された。

 クリケットいえば、ファッションもお楽しみの1つ。選手のユニフォームは原則白で、男性の場合は白い襟付きのポロシャツに白いスラックス。女性は下に白のキュロットスカートなど。手には白い打者用手袋をはめ、足には白い脛あてをはく。靴も白だ。ひさしのついた白い帽子かハンチング帽をかぶる。緑の芝生の上を、白で全身を固めた選手たちが球を追うこの球技は、公正さを重要視する、紳士・淑女のスポーツといわれている。「それはフェアじゃない」という意味で「It’s not cricket」(関連キーワード参照)という表現を使うように、クリケットは公正さの象徴となっている。

―八百長疑惑が発覚

 ところが、2010年夏、クリケットの試合中に八百長が行われたとの疑惑が発覚する。大衆紙「ニューズ・オブ・ザ・ワールド」(現在は廃刊)は、ロンドンに住むスポーツ・エージェントのマザール・マジャードに、パキスタンの選手たちに反則投球を行わせたら、15万ポンド(約1800万円)を払うと持ちかけた覆面取材を敢行。そして、同年8月にロンドンで開催されたパキスタン対イングランドの国際選手権において、パキスタン選手たちは、同紙に事前に告げられていた予定通りに反則投球を行った。さらに、お金を受け取ったマジャードの様子を映した画像が同紙のウェブサイトなどに掲載されてしまう。マジャードはこのとき受け取ったお金を使って、同試合の出場選手であるモハメド・アジフに6万5000ポンド(約788万円)、サルマン・ブットに1万ポンド、モハメド・アミールに2500ポンドを払ったと後に説明している。 

 疑惑がかけられたブット、アシフ、アミールは潔白を表明したが、今年2月、試合出場の5年間の禁止措置をICCから受けた。

 今月上旬、ロンドンのサザク高等法院は、マジャード、アシフ、アミール、ブットが、賄賂受領目的で故意に反則投球を行い、賄賂を受領したことへの共謀罪で有罪とした。

 パキスタンのスポーツ紙「ドーン」の記者によると、パキスタン選手の多くが不正行為への誘惑を受けるという。クリケットはほかのスポーツ競技同様、賭博の対象になっており、胴元が巨額のお金を選手に渡し、「反則投球などを依頼するようになっている」、「世界中の著名なチームの選手たちが巨大な八百長マフィアのメンバーになっている」。

 今回はおとり取材によって明るみに出た、パキスタン選手らによる違法行為。ほかにこうした違法行為に手を染める選手がどの程度いるのか、そして、英国も含む他国ではこのような不正行為は行われていないのだろうか?今回の事件は、パキスタンのみならず、クリケットという球技自体への信頼感を大きくゆるがせる結果となった。


ーパキスタン選手による八百長事件の経緯

2010年7月:国際クリケット評議会(ICC)が、イングランド地方で行われた国際選手権での八百長疑惑に関し、パキスタン人選手らに連絡を取る。
8月:大衆紙「ニューズ・オブ・ザ・ワールド」が、おとり取材の手法を使い、スポーツ・エージェントのマザール・マジャードが賄賂で受け取った金を数える様子を撮影した動画をウェブサイトに掲載。マジャードは数人の疑惑のパキスタン人選手の名前を挙げた。ロンドン警視庁がこのエージェントを逮捕。
9月:疑惑がかけられたサルマン・ブット、モハメド・アシフ、モハメド・アミールの3選手は潔白を表明。ICCが3人を停職処分にする。3人はこの処分の撤回を求めて訴えを起こす。
10月:アシフが撤回の訴えを中止する。ブットとアミールによる停職解除の訴えが、裁判所によって却下される。
2011年2月:ICCが3人の選手の試合出場を数年間、禁止する。
11月:サザク高等法院が、マジャード、アシフ、アミール、ブットらが、試合での不正行為や賄賂の受領への陰謀罪で有罪とした。後日、ブットには30ヶ月、アシフには1年、アミールには6ヶ月、マジャードには2年と8ヶ月の実刑が下った。
 

ー関連キーワード

It’s not cricket. 「それはフェアじゃない」。

直訳は「それはクリケットではない」だが、クリケットは公正なルールを順守する、紳士のスポーツという意味合いがあり、「クリケットではない」とは、「スポーツマンらしくない」、「スポーツマンにふさわしくない」、「スポーツマンシップに反する」などの意味として使われる。ちなみに、これまでに「It’s not cricket」という名がついた英映画が2つ(1937年、49年公開)公開されている。前者はクリケット狂いの英国人の男性と結婚したフラン人女性の話で、後者はクリケットがからんだ、スパイ物だ。
 
by polimediauk | 2011-11-25 23:01 | 英国事情
 私も参加させていただいている、ネットのニュースサイト、BLOGOSが25日からリニューアルされた。

 http://blogos.com/

 BLOGOSは、私のブログ記事が時々転載されるという点を除いても、前からセンスがいいなあと思っているサイトの1つ。

 こんな感じの記事が、やっぱりとってもおもしろい。

 「日本は韓国に遅れをとっている」オリンパス前CEO会見の一問一答

  http://blogos.com/article/25463/?axis=g:0

 BLOGOSは、妙に、ニュースセンスが良い感じがして、一体これはどこから来るんだろうといつも思っていた。

 そこで、ある日、せっかく東京にいるので、BLOGOS編集部をたずね、編集長にいろいろ「何故?」を聞いてみた。

 いま、英国に戻るバタバタですぐに記事化できないのだけれど、なるべく早く、「編集長インタビュー」をこのブログに載せたいと思っているーー少々お待ちください。
by polimediauk | 2011-11-25 22:52 | ネット業界
 英国のメディア界の出来事にまったく関心がない人でも、「ハリー・ポッター」なら知っているという人は、きっといらっしゃるのではないかと思う。

 この「ハリー・ポッター」シリーズの作者JKローリングさんが、24日、ロンドンの高等法院で、有名人の写真を撮るパパラッチたちや新聞記者のしつような取材でいかにひどい損害を受けたかを証言したーと聞いたら、「!!」と思われるだろう。

CNNの記事
http://www.cnn.co.jp/showbiz/30004692.html

 ロンドンでは、今月中旬から、英新聞界の慣習や倫理に関する独立調査委員会の聞き取りが行われている。今週はプライバシー侵害などの被害にあった著名人を中心に公聴会を行った。

 もともとは、廃刊となった大衆紙ニューズ・オブ・ザ・ワールドの電話盗聴問題がきっかけだ。この件に関しては、何度も、これまでに書いてきたけれども、この新聞の記者や私立探偵が、著名人の携帯電話の留守電を「盗聴」することでネタを探し、これを紙面に出していたことが、発覚したのが2005年から2006年ごろ。当初は王室関係者への盗聴であったと理解されており、同紙の王室報道担当記者と私立探偵が逮捕・実刑判決を受けた(2007年)。

 その後、もろもろのことがあって、実際は、盗聴の範囲がかなり広かったことが判明し、今月までに、約5800人がこうした一連の盗聴の対象になっていた可能性が出てきた。

 この独立調査委員会(委員長レベソン判事の名前を取って、レベソン委員会と呼ばれている)は、キャメロン首相が設置したもの。委員会は、公聴会で証言をする人に対して、宣誓をさせる(もし委員長がそうしようといえばだが)権利を持つという。つまり、嘘をついてはいけない、ということだ。

 ローリングさんの記事はBBCにも出ている。また、BBCニュースのサイトで探すと、いろいろな動画も出てくる。

http://www.bbc.co.uk/news/uk-15876194

 ローリングさんは、あまりにもパパラッチの攻勢がすごいので、家を引越したそうだ。前の家は道路の近くにあったので、パパラッチに攻撃を受けやすかったからだ。また、小さな娘の水着姿をある大衆紙に掲載された。さらに、当時小学校1年生の子供が学校と家の行き来の際に使っていたバッグの中に、新聞記者が入れたらしい、ローリングさん宛ての手紙が入っていた。これを知ったとき、ローリングさんは相当のショックを受けたようだ。

 また、郵便局の局員や税務署の人間であるふりをした記者が、ローリングさんの個人情報を取ろうとしたという経験もあるという。

 レベソン委員会は、今後も、新聞報道によってプライバシーなどを侵害された人を呼んで事情を聞く予定。委員会の調査はこれから数ヶ月は続く見込みで、聞き取り終了後、委員長はまとめの報告書を出す予定。報告書発表の正確な時期は未定だ。報告書の作成は「一年以内」とレベソン委員長は言っているものの、来年一杯はかかるのかもしれない。

 委員会のウェブサイトは以下。証言が行われているときは、その模様がストリーミングで視聴できる。また、後で、内容を書き取ったものが読めるようになっている。

http://www.levesoninquiry.org.uk/
by polimediauk | 2011-11-25 10:41
 ロンドンを中心に、イングランド地方に広がった夏の暴動事件。その原因について、社会全体の観点から考えてみたインタビュー記事が、BLOGOSに掲載されました。

「過剰な社会保障が負の連鎖を生んだ?」在英ジャーナリストが語る英国暴動の正体http://news.livedoor.com/article/detail/6035691/

 暴動の原因・理由については、何せいま、英国内でも究明中であるということでもあり、ひとことで「これ!」とはいえないのだけれども、その背後にあるもろもろのことを、思いつくままに話してみました。

 この「思いつくままの話」をまとめるのは、相当大変だったろうなあ・・・と思うのだけれど、ご興味のある方はどうぞー。

 この中で、タイトルに「過剰な社会保障」とあるが、私が社会保障が過剰だ!と思っているわけでは(必ずしも)ない。ただ、様々な生活支援を受ける人が「本当に、正当に受け取る状況にいるのだろうか?」という点に関して、社会の中で大いなる疑問があがっていることも事実。あくまで英国内の話ですが。

 前に、「空気が読める・読めない」という表現が流行ったけれど(2年前?)、日英間でそういう「空気が違う」ことや、何故そうなるのだろうということを、私になりに解説してみました。舌足らずな部分もたくさんあるが、行動の背後にある、ものの考え方の違いや雰囲気の違いを感じ取ってもらえると、幸いです。
by polimediauk | 2011-11-17 13:40 | 英国事情
 c0016826_00877.jpg本がやっと、できました。「英国メディア史」(中央公論新社・選書)。この出版社が出す新シリーズ、「中公選書」の創刊となります。今回は5冊が出て、私はその中の1冊です。10日から書店に並ぶ予定です。

自分で手に持ってみた感じは、400ページを超えるため、やや厚い+重いかも。ですので、是非、ゆったりしたところで、じっくり読んでみてください(まずは書店で、買うに足るかどうかを確かめてみてくださいーー恐縮ですが、お値段がはりますのでーー1900円+税金!!)。昔の話はすっとばし、現在に近いところからお読みになってもいいかもしれないです。

 英国のメディアの歴史(新聞がいつから発行されたか、BBCがどうやってできたかなど、マードックの話もありますーールパート・マードックの父が、著名なジャーナリストで、オーストラリアでは非常に高い評価を受けている人物だったことを、この本を書くことで、初めて知りました・・・)と、英国の歴史の流れとの2本立てです。

 昔から現在まで英国メディアの歴史をたどってみての感想は、英国のメディアは「たくましいなあ・・・」ということ。ちょっとやそっとでは揺らがないし、あくどい手を使って取材をしたりもするんだけど、権力の監視というか、調査報道もそれなりにやっている、と。このタフさは、肉を食べているからなのか(!?)――まあ、それは半分冗談としても、どうもいつも、「権力者対それに抵抗・反抗する人」という構図ができる。そして、なんだか、いつも闘っている。

 そして、こんなタフなメディアがある英国の国民というか、英国に住んでいる人もタフだなあ・・・と。多分、英国人(+住んでいる人)は、上からの統治が非常にしにくい人たちなんじゃなかろうか、と思う。「いいから、こっちの言うことを黙って聞きなさい」って言われても、聞かないと思う。(「黙ってこっちの言うことを・・」という人も少ないけれど。)

 それで、最終的には、「自分が判断する」ということ。何しろ、右から左、あるいはそれにおさまらないもろもろの見方があって、みんなが好き勝手にそれぞれの思いを主張しているので、自分でどれが正しいかを決めないといけない。あることが正しいかどうかっていうことは、原則、自分が「正しい」と思えば、「正しい」ということになる、と。ほかの人が別のことを「正しい」と思っていたって、別に構わないのである。人それぞれ、違うのだからー。自分で答えを見つけないといけない。

―感銘を受けた人

 昔、「サンデー・タイムズ」に、ハロルド・エバンズという編集長がいたのだけど(マードックに追い出された)、この人は本当に熱血漢の編集長で、エピソードをたどるうちに、感動してしまった。職場でもそうだけど、チームを引っ張る人が熱いと、チームも良い仕事をする、という感じ。

 もう1人、オックスフォード大学の教授でDiarmaid MacCullochという人がいるのだけど、この人は、キリスト教の歴史に関する本を何冊か、出した人。BBCでキリスト教の歴史に関わる番組も作った。私は夢中になってBBCのテレビを見ていたのだけど、歴史について書くこと・勉強することは、昔の人がどんな風に生きていたのか、「想像力を使うことだ」とインタビューに答えていたのが印象深かった。書いている間、何度もこれを思い出した(ほかにもいろいろ、感銘した点があるのだが、この教授のキリスト教の歴史に興味のある方は以下などでー。http://www.bbc.co.uk/programmes/b00nrtr8 )

―意外かもしれないエピソード

 現在のBBCを作ったのは初代ディレクター・ジェネラルのリース卿なのだが、この人には、実は私生活に「ある秘密」があった・・・という話も。そしてこの秘密は意外なところに、堂々と出ていたー。

 などなど。

 どうぞよろしくお願いいたします!

(訂正気づいた分です:ほかにも見つけた方はご一報ください。)

 *360ページ、10行目、「そんな機会が訪れたのが2010年春である」ではなく、「そんな機会が訪れたのが2009年春である」。
 *362ページ、7行目、「紆余曲折の後、2010年1月に」ではなく、「紆余曲折の後、2009年1月に」の間違いです。

 
by polimediauk | 2011-11-09 23:58
 10月31日発売号の「週刊東洋経済」の就活特集に寄稿したのが以下の文章である。題名をこちらで変えたり、若干補足をしている。

 「就活」と一体になっている、新卒一括採用制度。これをどうにかしないと、いつまでも日本の雇用市場は硬直化し続けるのではないか?そんなことを考える。

 「みんなが一斉に・・・」というやり方が通じなくなっている。周囲がドンドン変わっているのに、大企業を中心とした会社組織がこれに対応して十分に変わっていないのかもしれない・・・などと思ったりするがー。

 若者にとって超厳しい雇用市場が存在し、「底辺層」を何とか「働く層」に変えようともがく英国の例を見てみようー。

***

若年雇用不安とロンドン大暴動の実像


 今年8月上旬、ロンドン各地は度重なる暴動に見舞われた。「暴動」といっても、実態は路上駐車中の車両に放火する、家電販売店やスーパーの窓ガラスを叩き割って中に入り、窃盗行為を行うなどの反社会的行為である。

 ロンドン東部の貧困地域トッテナムに住むある黒人青年を警察が射殺したことがきっかけとなって発生した地元商店街の破壊行為は、瞬く間にロンドンからイングランド地方各地に拡大した。ロンドンだけでも3000人以上が逮捕された。

 英法務省が9月15日に発表した資料によると、逮捕後、裁判所に出廷するところまで行った暴動参加者の大部分は若者であった。その半分が20歳以下で、5分の1が10歳から17歳、31%が18歳から20歳であった。

 少年少女及び若年層による反社会的行為は、ここ何年もの間、英国社会の大きな問題となってきた。

 移民や教育程度の低い貧困層が多く住むロンドン東部ハックニーの下院議員ダイアン・アボットは、複数のメディアの取材に対し、若者たちが破壊行為に走ったのは、「自分がこの社会と利害関係を持っているという感覚を持てないからだ」と説明した。貧困層の若者たちには高等教育を受ける機会がなく、働き口を見つけることも困難である場合が多く、社会的疎外感が破壊行為の背後にある、と。

 所得や教育程度が低く、失業が慢性化した一家に育った子どもたちは自分自身も失業者になる確率が高いばかりか、犯罪を犯して刑務所に入る確率も高い。一説には受刑者1人の維持費用は数百万ポンドに上る。英政府は前政権の労働党政権時代(1997-2010年)から、こうしたいわゆる「アンダークラス=底辺層」の救済に力を入れてきたが、それほど成果は出ていない。

 長年、都市の貧困地域で取材を続けてきたBBC記者マーク・イーストンは、暴動終息後に書いた記事(BBCニュース、8月11日付)の中で、多くの少年・少女たちが、「最も関心がある消費社会に参加する機会を与えられないことに当惑し、嫌悪感を抱いていた」と報告した。欲しいものがたくさんあるのに十分なお金が手元になく、親もそれを与えることができず、お金を稼ぐ機会も与えられていないと。いみじくも、今回の暴動で暴動者たちが大挙して押しかけ、破壊・窃盗行為を働いたのは普段は手に届かない家電製品を置く店やスポーツ用品専門店であった。

ー若年層の失業率は過去最高

 英国の雇用市場が特に若年層に厳しい状態であることを改めて示したのが、英国家統計局(ONS)が10月に発表した「労働市場統計」だ。

 今年6月から8月までの3ヵ月間で、16歳から64歳までの雇用可能年齢人口を対象にした失業率は8・1%だが、対象者を16歳から24歳の若年層に限ると、21.3%に急上昇する。この年齢層の失業者数は99万1000人。ONSが若年層の数字を記録し出した1992年以降、最高となった。

 ただし、この失業者数には、学生でパートタイムの雇用を探している26万9000人が含まれているため、学生以外で雇用を必要と考える若者は72万2000人となる。

 このほかに、教育、労働、職業訓練のいずれにも参加していない「ニート=NEET, Not in Education, Employment or Training」状態にある若者たちは 約300万人に上る(「ニート」は、英国では16歳から24歳が対象)。

 失業率・失業者数の上昇理由には、不景気や政府の緊縮財政策(雇用支援政策の縮小あるいは廃止、公的部門の雇用縮小など)が挙げられる。

―「スキルが不足する若者はいらない」

 日本のような新卒一括採用制度が存在しない英国の雇用者は若年層をどう見ているのだろうか?BBCラジオの若者向け番組「ニューズビート」が、10月17日、英国の大手民間企業50社を対象にした、雇用に関するアンケート調査の結果を発表した(回答は27社)。

 これによると、大部分の企業が、多くの若者は数学や英語(母語)など、仕事に必要なレベルのスキルを身につけずに学校を卒業していると見ていた。「基本的なスキルの欠落と経験のなさ」のため、若年層の雇用を敬遠していたのだ。即戦力になりにくい若年層は、大卒という資格があっても、容易には職を見つけられない状態が続いている。また、企業側は若者にスキルを身につけさせるのは学校か税金を使った政府の役目と考えている。

 若年層の就職難は高等教育を受けたかどうかに関わらず存在するが、英国で特徴的なのが社会の底辺層・貧困層が落とす影だ。貧困のためにあるいは親の教育程度が低いために子供に高等教育の機会を与えることを度外視している家庭や、親あるいは祖父・祖母の世代が失業者であったために「働く」ことの意味を理解しない家庭で育った子供たちは、仕事に必要なスキル(単純計算を行う、敬語を使う、他人と臆することなくコミュニケーションを取る、定時に毎日出勤するなど)、母語の運用能力(明瞭な発音ができる、正しいつづりで書けるなど)が低い場合が多い。雇用市場に参入する以前の段階で、はじかれ、行き場のない若者たちが少なくない数で存在する。英社会の闇の部分ともいえよう。

 ロンドンでは、10月中旬から「ロンドンを占拠せよ」運動の参加者が金融街シティーなどで座り込み運動を開始している。元々は米国のそして世界の金融の中心地ウォール街で始まった、貧富の格差と高い失業率への抗議運動「ウォール街を占拠せよ」である。シティーでは初日3000人ほどが参加し、イングランド地方各地やスコットランド地方にも広がった。「金融機関の傲慢さには我慢がならない」、「私たちの声は小さいかもしれないが、行過ぎた資本主義への抗議を示すべきだと思った」-。BBCテレビのインタビューに答えていた参加者の声である。

 BBCのワシントン特派員キャッティー・ケイは、米国の抗議デモが暴力行為に走らず、座り込みが主であることに「やや驚いた」と感想を述べている(10月13日付、BBCニュース)。欧州各国では昨年来から、雇用問題や大規模財政削減への抗議デモが発生しており、デモ隊が警察隊にゴミ箱や火炎瓶を投げつけたり、警察側がデモ隊に催涙ガスを発射するなど、暴力を含む対立となっているからだ。

 経済危機状態にあるギリシャの若者の失業率は42・9%、スペインでは45%にも上る(2011年第2四半期、EU統計局)。若年層の失業率が経済危機で急速に悪化した。

 9月中旬米で始まり、翌月から英国を含む他国に広がった「占拠」デモと財政難の欧州各国の抗議デモの共通点は、自分たちの声が政治に反映されないことへの国民の怒りの表明である点であろう。

 両者の違いは、前者はデモの具体的な目的が明確になっていないが、後者は政府の緊縮策可決を阻むなど、具体的な目標を持つ点だ。暴力沙汰になるかどうかも大きな違いとなる。

 ギリシャ、スペインほどには英国の若年層の失業率は高くないが、ロンドン暴動発生後、多くの人が、これまで十分に取り組んでこなかった若者たちの雇用問題に改めて注目するようになっている。
by polimediauk | 2011-11-07 12:10 | 英国事情
 内部告発サイト「ウィキリークス」の創始者ジュリアン・アサンジは、スウェーデンでの性的暴行容疑を巡り、滞在中の英国からスウェーデンに移送されるべきかどうかー?

 アサンジがロンドンで逮捕された(自ら出頭して、逮捕)のは、昨年12月。その後、アサンジ側は裁判に訴え、現在まで移送を拒んできた。

 今月2日、ロンドンの高等法院(刑事事件の第2審にあたる)は、「アサンジはスウェーデンに移送されるべき」という一審判決を支持する判断を出した。

 世界の大企業や各国政府が隠しておきたい情報を暴露することで名をはせたウィキリークス。アサンジの性的暴行容疑は、サイトの業務やその評価とは、本来、別物の話である。

 しかし、アサンジ側はスウェーデンに身柄が移送されれば、米国への引き渡しにつながる可能性があるとして、移送を拒んできた経緯があった。

 米国といえば、近年、自国が主導をとったイラク戦争やアフガン戦争などに関する機密情報や、外交公電をウィキリークスに暴露され(情報自体は、米兵ブラッドリー・マニングがウィキリークス側に渡したといわれている)、「アサンジ、憎し」の状態にあるーーといっても、まあ、どの程度「憎し」かどうかは分からないが、いずれにせよ、何らかの処置をとったことを見せないと、機密情報が暴露されたのに、指をくわえたままで何もできなかった、というのは米政府側としてはしめしがつかない。

 そこで、米国はアサンジに対し刑事責任を追及する可能性が指摘されており(着々と準備を進めているとも言われている)、そうなったら、アサンジ側としては、いまだ確定はしていないものの何らかの罪で(「スパイ罪」など)「有罪」となる「かも」しれないー。

 ということで、アサンジ側は、米国への身柄引き渡しにつながるような、スウェーデンへの移送に対し、ずっと抵抗してきたのである。

 ご存知のように、「スウェーデンでの性的暴行」事件とは、2010年夏、オーストラリア人のアサンジが、滞在していた英国からスウェーデンに旅行をし、この時に性的関係を持った2人の女性が「アサンジに暴行を受けた」と主張している事件。アサンジは国際指名手配され、同年12月、ロンドン市内で逮捕された。現在は、保釈中の身である。

―EAW(European Arrest Warrant)を使われて

 英国に滞在中のアサンジがスウェーデンに移送されるのは、スウェーデン当局からの依頼によるものだが、移送の根拠として使われるのが「ヨーロピアン・アレスト・ウオレント」(欧州逮捕状、EAW、2003年施行)。欧州連合加盟国間での、主に刑事事件に関わる容疑者の引渡しについて、容疑の証拠を十分に示さなくても、引渡しを要求できる。欧州連合内の容疑者の身柄引き渡しを、よりスムーズに行うために作られた仕組みだ。

http://en.wikipedia.org/wiki/European_Arrest_Warrant

 アサンジ側は、「スウェーデンでは公平な裁判が期待できない」などとして抵抗してきた。

 そして、2日の高等法院は、移送を認める判断を出し、アサンジは報道陣に「次の手段を考える」と述べている。

 今後は、最高裁に訴える方法が考えられるが、ウィキリークスは資金難(米外交文書の公開後、米系クレジットカードの会社などが、ウィキリークスの活動資金の取り扱いを凍結した)に苦しみ、当面、活動を停止した状態だ。裁判費用を負担するためにアサンジが考えついたのが自伝執筆だが、出版社と締め切り時期などに関して意見が衝突。結局、著作権保持者であるアサンジの了解を得ないままに、9月、出版社が本を出す顛末となった。出版社側は既に支払い済みの、一部の前金以上に、アサンジ側に支払いをする予定はないと述べており、アサンジは、財政的には苦しい状況にある。果たして、最高裁に訴えるほどのお金を調達できるだろうか?

―「スウェーデンに行ったほうがよい」?

 米「フォーブス」のジャーナリストで、以前にアサンジに単独インタビューをしたこともあるアンディー・グリーンバーグが、「ジュリアン・アサンジは何故スウェーデンに行ったほうがよいのか」という記事を書いている(2日付)。

http://www.forbes.com/sites/andygreenberg/2011/11/02/why-julian-assange-might-be-better-off-in-sweden/

 グリーンバーグが取材した弁護士たちによれば、親米である英国の司法に身をゆだねるよりも、「予測がつかない」スウェーデンの司法にゆだねたほうが、アサンジにとって、有利ではないかという。「英国にいつづければ、スウェーデンに移送された場合よりも、もっと早く米国に連れて行かれるだろう」(弁護士ダグラス・マクナッブのコメント)。

 一方、アサンジ自身は、スウェーデン司法との戦いの「真相」を、新たに立ち上げたサイト(「スウェーデン対アサンジ」)に詳細に書いている。
http://www.swedenversusassange.com/

 「ガーディアン」報道によれば、アサンジの弁護士側は14日以内に、最高裁に上告する権利を取得するための司法手続きをするかどうかを決めるという。もし上告しないと決めた場合(裁判費用を負担できないなどの理由から)、あるいは上告する権利を却下された場合でも、欧州人権裁判所に「移送は人権違反」と訴える可能性もある。

 あっさりと移送が決まってしまうのか、それとも長い戦いとなるのか、今月中旬には少しは判明しそうだ。
by polimediauk | 2011-11-03 12:39 | ウィキリークス
 英高級紙第4位の「インディペンデント」が、ウェブサイトを刷新し、北米からのアクセスには有料購読制を導入した。月に20本までは無料で読める、メーター制だ。これ以上の本数を読みたい人は6・99ドル(約540円)を払って、有料購読者となる必要がある。同時に、アイパッド用にも有料購読制を導入。当初は無料だが、その後、月に19・9ポンドを支払う。アイパッド用の料金はほかの高級紙の閲読料金よりも高いという。

 英国のニュースサイトは、ガーディアンやBBCが無料で提供しているほか、経済紙フィナンシャル・タイムズはメーター制、タイムズは完全有料購読制(ただし、一部が携帯電話アンドロイドなどで読める場合もある)をとる。海外の利用者向けとはいえ、インディペンデントも、デジタル・ニュース閲読に「有料の壁」を立ち上げたことになる。

 インディペンデントのウェブサイトの利用者はその半分ほどが海外からのアクセスといわれている。

 インディペンデントには、妹分とも言うべき、「アイ」という格安の価格で売られている新聞があるが、こちらの部数はいまや本紙インディペンデントと同様の17万部ほどに達しており、両紙合わせて34万部の部数となる。アイは中身はインディペンデントだが、それぞれの記事が短くて読みやすい。また、価格は本紙の5分の1である。

 いま、インディペンデントとアイのウェブサイトを開けてみたら、アイは読者との双方向性を重視するつくりになっていた。アイの編集長が読者に語りかけるレイアウトとなっている。(実際に記事を読もうとすると、うまく読めなかったので、サイトがダウンしているなど問題が生じている可能性もある。)

インディペンデント
http://www.independent.co.uk/

アイ
http://www.independent.co.uk/i/
by polimediauk | 2011-11-01 22:50 | 新聞業界