小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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 拙著「英国メディア史」に関する書評がアマゾンにはまだ出ていないので、関心をもたれても、「???」という方がいらっしゃるかもしれません。

 書いた本人からしても、「読まれた方は一体どう思われたのだろう?」という点は大いに知りたいところです。

 そこで、グーグル検索などで少々拾ってみました。

*お勧め本を紹介するサイト、「HONZ」の書評

http://honz.jp/6818

 こんなにしっかり読み込んでくださり、恐縮です・・・。

*産経新聞SANKEI EXPRESS 掲載
Viva Europe イギリス 時代超える記者魂に感動 
http://sankei.jp.msn.com/world/news/120109/erp12010910430003-n1.htm

 これを書かれた記者さんに、「技術の進展がメディアを回してきた」といわれ、改めて、そうだなあと気づいた次第。やはり読む人によって、いろんな読み方ができるのだろうなあと思いました。

*新世界読書放浪
http://neto.blog10.fc2.com/blog-entry-7611.html

「タネ本があってもこれだけの量を書くのは大変だろう。読むのも大変だったけど」-という箇所に、思わず苦笑!!!「本当に読むのが大変だったでしょうね・・・」と思いつつ、「分かります!」の気持ちでした。

*読書メーターブログ
http://book.akahoshitakuya.com/b/4121100042


*資料保管庫・管理人のひとりごと

http://blog.goo.ne.jp/4thestate/e/c7aefed46d39a8e1778c7cc9c35b8823
感謝。

*「週刊読書人」2011年12月23日号
マスコミ回顧 上智大学鈴木先生のレビュー
http://pweb.cc.sophia.ac.jp/s-yuga/Article/Media_BookReview11.pdf

*私が時々、書いている、「メディア展望」1月号の書評もあります。2月になると、画面からダウンロードできるはずなのですが、発行している「新聞通信調査会」のサイトは以下です。 http://www.chosakai.gr.jp/news/mokuji_h24.html

 評者は黒岩徹東洋英和女学院大学名誉教授、元毎日新聞ロンドン支局長です。後でダウンロードできる状態になりましたら、またご紹介します。

*週刊東洋経済1月21日号

―5世紀を超える変転の姿が描かれる大著。政治権力と戦いつつ、同時に大衆の興味をかき立てることに腐心する。いかにも個性豊なメディア人たちが担い手として続々と登場し、異国とはいえ新聞・放送のあり方を考えさせられる。
 電話盗聴によってニューズ・オブ・ザ・ワールドが廃刊になる、21世紀冒頭の10年が本書の真骨頂だ。放送ばかりでなく、Webとの戦いも熾烈になり、新聞界ののたうち回る姿が印象的だ。無料紙や「Webファースト」戦略、さらには「ウィキリークス」活用も功を奏さず、2010年にはインディペンデントのような高級紙も、全面カラー廉価版を創刊して窮状を打開しようとする。
 膨大な史料をひもときつつ、著者は冷静にジャーナリズムの観点から見つめる。日本のメディア界との違いが浮き彫りになるが、激変するメディア環境は共通しており、必ずしも英国の特異性だけではとらえ切れない事実に満ちている。―

***

 みなさん、ありがとうございました。

 (好意的な評ばかりだなあと思われた方へーー特に好意的なものを選んだつもりはないのですが、検索ですぐに出たものと自分が知っているものを入れてみましたーーご容赦ください。ボリュームがある本であることと、ほかに似た本がないので、容易には批判しにくいのかなと思います。)

 個人的に読後感を送って下さった方もたくさんいらっしゃいます。感謝します。日本にいたときには、直接の感想もいただきました。「知らないエピソードがたくさん入っていて、驚いた」、「一気に読んだ」、「私だったら、タイムズが頂点となる章を先に置くよ」、「インターネットへの言及が少ない」、「ロイターが金融経済情報を専門に扱って変身してゆくさまをもっと知りたかった」などなどなどー。

 手に持つと厚い本なのがやや難ですが、「おそらく」、「ええ!」というエピソードが見つかるのではと思います。

 将来的に重版になる可能性もありますので、てにをはや事実の間違いを見つけられた方、「これを入れてほしかった」、あるいはお叱り・批判の感想など、引き続き、メールしていただけたら幸いです。ginkokoba@googlemail.com
by polimediauk | 2012-01-30 07:13 | 英国事情
 昨年末、フランスの会社(PIP)が製造した豊胸用シリコン・バッグに医療上の問題があることが発覚した。最悪の場合、シリコン材が体内で破裂する可能性があり、豊胸手術を受けた女性たちの間にパニックが起きた。本国フランスやドイツでは女性たちに摘出手術が勧告されたが、英政府は「必ずしも手術は必要ない」と発表し、国によって対応がまちまちになっている。(「英国ニュース・ダイジェスト」最新号に掲載された原稿に若干補足したのが以下である。)

「ニュースダイジェスト」の英国ニュース解説:グラフつき
http://www.news-digest.co.uk/news/news/in-depth/8476-faulty-french-pip-breast-implants.html

 まず、こだわるようだが、このニュースを日本語で拾うと、「豊胸」という言葉が出てくる。英語では、breast implant (乳房インプラント)になる。英語ではニュアンスとして、ニュートラルな感じがする。「豊」がつくと、どうもすでにあるものを(より)大きくする・豊にする、というイメージが出る。これは事実を述べているだけかもしれないが、どうも個人的にはぴんとこない。乳がんなど、病気で乳房を失われた方が利用するもの、というイメージが自分の中であったせいかもしれない。

 しかし、英国では、このインプラント手術を受ける人の90%が、乳がんなどの胸の病気よりも、「胸が小さい、あるいは形が気に入らないので、大きくしたい・形を変えたい」という理由で、これを利用しているという。胸が小さいことは大きな精神的なコンプレックスやダメージにつながることも多いので、この手術を受けたことで、人生が変わった、気持ちの持ちようが変わって幸せになったという女性がたくさんいる。

 英国では乳がんに関しての関心が高い。BBCで見つけた情報によれば、毎年4万5000人が乳がんにかかっており、がん患者のなかでは、乳がん患者がもっとも多いという背景がある。家族、知人・友人の中に乳がん患者がいることは、珍しくないのだ。

Breast cancer
http://www.bbc.co.uk/health/physical_health/conditions/in_depth/cancer/breast_cancer.shtml

 以下、便宜上、「豊胸手術」という言葉を使用する。

―昨年から出始めた懸念

 フランス製の豊胸用シリコン・バッグが、体内で破裂する危険性があるという恐れが出て、昨年末ごろから、世界各国で大きな健康上の懸念に発展している。

 この豊胸材はフランスのポリ・アンプラン・プロテーズ(PIP)社が製造したもの。同社は医療用としては未認可の産業用シリコンを使い、フランス政府は使用禁止措置にした。会社は2010年に倒産している。

 豊胸出術は、乳がんで乳房摘出手術をした人が乳房再建のためや、胸を大きくする美容整形上の理由などから利用されている。PIP社製の豊胸材でがん腫瘍が拡大するといった結果は1月時点で出ていないが、懸念は体内破裂の可能性だ。シリコンの中に入っているジェル状の物質が体内に流れ出て、細胞に損傷を与えると、痛みや炎症が発生したり、乳房の変形につながる。豊胸材の摘出も困難になる。

―世界で30万人、英国では4万人

 PIP社製の豊胸材は世界65カ国の約30万人の患者に販売された。英国では豊胸手術を受けた25万人の中で、4万人がPIP社の製品を使ったと見られている。正確な数がはっきりしないのは、豊胸手術の95%は民間の医療クリニックが手がけているためだ。国民保健サービス(=NHS。税金で運営され、原則無料で医療サービスが受けられる)にはほんの一部の患者情報しかない状況だ。

 英国医薬品庁(MHRA)によると、英国では女性に施される手術の中で豊胸手術の数がもっとも多いが、医療上の理由から豊胸手術を受けた人は全体の1割のみだ。

 豊胸手術を受けた女性たちは、現在、大きな不安を抱えながら生きている。安全性についての情報が確定していないのと、摘出が必要となった場合、誰が手術費用を負担するかがはっきりしないからだ。

 例えばフランス政府は「破裂の可能性は5%」とするが、MHRAによれば1%に下がる。一方、大手民間クリニックのトランスフォームは7%という。

 フランス政府は予防策として摘出を推奨し、ドイツ、オランダ、チェコ、ベネズエラなども同様の姿勢をとる。

 英国では、女性たちの懸念に後押しされる形でアンドリュー・ランズリー保健相が専門家グループに事態の分析を依頼。1月6日に発表された報告書は「原則としての摘出の必要は認められなかった」と結論付けた。ただし、「不安感はこれ自体が健康上の懸念になるので、もし女性たちがそう望めば、摘出できるようにするべきだ」とも書かれていた。すっきりとしない結論である。

 費用負担についての政府の不明確な態度が豊胸手術を受けた女性たちの怒りを大きくしている。保健相は「民間のクリニックには、女性たちが無料で摘出手術を受けられるようにする、道義上の義務がある」と述べたが、「道義上」のみではなく、もっと強い口調で民間クリニックに訴えてほしいと思う女性たちが多い。

 フランスでは、PIP社の豊胸材を使った女性たち約3万人に対し、政府が摘出の手術代を負担すると宣言。英国ではNHSが費用を負担すると述べているが、これはNHSで豊胸手術を受けた人のみ。ただし、民間のクリニックで豊胸手術を受けて、そのクリニックが閉鎖していたり、無料の摘出手術を行うことを拒絶した場合には、摘出手術のみ(ただし別の豊胸材との交換はしない)を行うという。民間の医療機関が行った手術の後始末をどこまでNHSが面倒を見るべきなのだろうか?

 政府や民間医療機関の支援が十分ではないことに対し、豊胸手術を受けた女性たちが中心となって、抗議デモが各地で発生した。最終的に求めているのは、どの医療機関で治療を受けたかにかかわらず、無料で診察を受け、患者たちがそう望んだ場合には摘出と交換までも含め、無料ですべてをやってもらうということー患者たちは医者を信じて、この手術を受けたのだから。

 今回の一連の事件では、豊胸手術について、公的機関による情報の一元管理を求める声が出た。また、医療以外の理由で豊胸手術に踏み切る女性たちに、豊胸材を身体に入れることへの強い警告を発した。

 事態が今後どのような方向に進むにせよ、現在大きな犠牲者となっているのが、医療機関に身をゆだねた女性たちである。医療関係者がせめてできることは、すでにこの手術を受けた女性たちに安心感を与えるような環境を一日も早く築き上げることだろう。

 本当になんだかつらないなあ・・・と思う事件である。医療上あるいは美容(あるいは生活)上の理由から身体に異物を入れることー様々な理由から人間はこれをよしとしてきた。(小さなことかもしれないが、私自身もコンタクトレンズを目に入れている。)ほかにも身体の一部を入れかえる医療技術の発展は目覚しく、恩恵を受ける人は私の家族も含め、たくさんいるのだけれども、人間は一体どこまでこの「入れかえる」道を進むのかなあ・・・と、しばし思いをめぐらせる事件でもあった。

―関連キーワード

Mammography:マンモグラフィー。乳がんの早期発見のために、乳房をX線撮影する方法、あるいはその装置。受診者の乳房を装置の撮影台に乗せ、プラスチックの板で乳房を台に強く押さえつけてから、撮影する。約30分間の処置となる。

 英国に住む47歳から73歳の女性(昨年までは50歳から70歳)は、3年ごとに無料でマンモグラフィーを受けるよう国民保健サービス(NHS)から連絡を受ける。私自身、この検査を受けた。義務化されているのが非常にうれしい。無料なのだ!

 2007-8年の1年で、170万人を超える女性がマンモグラフィーを利用した。早期発見となったために乳がんの進展による死を免れた割合は20-30%と言われている。しかし、すべてのケースを発見できるわけではなく、10%は見逃すとされる。初回で疑わしい兆候が見られ、再検診を受けるのは20人に一人であるという。
by polimediauk | 2012-01-26 19:45 | 英国事情
 最後の回となった。今回は「ニューズウィーク」の動きを追ってみた。

 文中で参考にしたのは、Pew Research Center’s Project for Excellence in Journalism: The State of the New Media (An Annual Report on American Journalism) というレポートだ。米雑誌界の盛衰にご関心のある方は見ていただきたい。毎年出しているようである。http://stateofthemedia.org/2011/overview-2/

***

―ネットサイトに吸収された米「ニューズウィーク

 好調の「エコノミスト」とは対照的に、米国では、「タイム」と並ぶニュース週刊誌の1つ「ニューズウィーク」の不調がひんぱんに報道された時期があった。

 米ピュー・リサーチ・センターが発表した、米ジャーナリズムに関する年次報告書「ニュース・メディアの状況 2011」によると、ニュース雑誌市場では、3大ニュース誌の「タイム」、「ニューズウィーク」、「USニューズ&ワールド・リポート」)が、2007年以降、急速に部数を落としたという。逆に比較的小規模(100万部前後から下)な「ニッチ(隙間)な雑誌」の「ニューヨーカー」、「エコノミスト」、「ウィーク」、「アトランティック」が部数を伸ばしていた。2008年の「リーマンショック」の負の影響が部数に明確に反映されたのは2010年で、「USニューズ&ワールド・リポート」は同年12月、ニュース週刊誌としての印刷を止めた。オンライン上で報道は続けているが、印刷物は業界ランキングを扱うのみとなった。

 「タイム」は2009年下半期の平均部数が335万部から1年後には331万部となり、マイナス1.1%の微減でおさまったが、「ニューズウィーク」は230万部から157万部に31・6%も激減した。「ニューズウィーク」の広告掲載頁は09年から10年の間に19・8%下落し、「タイム」は2.9%減。一方の「エコノミスト」は3.8%増で、明暗を分けた。

 米国のニュース週刊誌市場最大手「タイム」と、政治経済に強い「エコノミスト」の間に挟まれた格好の「ニューズウィーク」は、人員過剰もあってコストがかさみ、損失が大きく膨らんだ。起死回生を図るべく誌面刷新を試みたが、この時、目標としたのが「エコノミスト」だった。ネットで流れるニュースのスピードに週刊誌では勝てないことから、論説や解説を主軸にすることに決めたからだ。

 「ニューズウィーク」は広告収入に対する考え方も大きく変えた。広告に大幅に依存することで購読価格を低く設定するという米国型の収入体系を改めるため、まず、広告収入の元になる読者数を2008年までの310万人から、2010年年頭までに150万人に変更した。同時に購読料を年間20ドル(約1560円、昨年11月7日計算)から40ドルに倍増させた。読者数は減っても、より高い購読料を払える読者を対象にする雑誌に変えようというのである。(ちなみに、「エコノミスト」の購読料は年間120ポンド前後で、円に換算すると約1万2000円から1万5000円ほどになる。「ニューズウィーク」の購読料よりもかなり高額だーあるいは「ニューズウィーク」の価格はかなり低い。)

 しかし、現実は厳しかった。08年から09年にかけて広告収入は37%下落。刷新誌面も評価を高めることができず、2010年5月、「ニューズウィーク」を半世紀近く所有してきたワシントン・ポスト社はついに「ニューズウィーク」を売りに出した。同年8月、音響関連の企業を経営するシドニー・ハーマンが、負債を引き受ける条件で、「ニューズウィーク」をたったの1ドルで買収した。この年の12月、「ニューズウィーク」は、2008年に生まれたばかりのネット専門のニュースサイト「デイリー・ビースト」と合併。経営はニューズウィーク・デイリー・ビースト社が行うことになった。同社の株の50%は「デイリー・ビースト」を所有するIAC社が、残りをハーマンが手にする。

 先の年次報告書に寄せた論考(「Magazines: A Shake-Out for News Weeklies」)は、米国のニュース雑誌は、これまでのように、移り気な読者を大量に集めることで大きな広告収入を取得するやり方ではなく、「『エコノミスト』のように」、堅実で忠実な購読者を確保することに重点をおく必要がある、と指摘している。

 また、「エコノミスト」が過去10年間に北米で販売部数を130%増大させ、ビジネスとして成功させることができた理由として、①グローバルな経済情勢を理解するために必須の読み物だというマーケティング戦略に成功したこと、②知性を高めることを主眼とする編集方針の一貫性、③一部売りの値段及び年間購読料を米国の「タイム」などよりもはるかに高く設定していることを挙げている。

 米ニュース雑誌市場で「エコノミスト」よりも成功しているのが、月刊誌の「アトランティック」だ。部数は前年比1・3%増だが、広告頁数は24%増。デジタル広告の収入は70%増加、紙媒体からの収入も27%増となった。「アトランティック」関係者は成功の理由を①確固としたブランド化、②デジタル・ファースト戦略、③マーケティング・サービスの構築、④読者が参加するライブ・イベントの開催、⑤質の高い人材を採用する点を挙げた。

 もともと英国で始まった、その週のニュースを世界の様々なニュースメディアから選りすぐってまとめる、「ウィーク」も人気が高い。部数こそ微増(0.7%)だったが、広告頁数は前年比16・8%増となっている。(終)(月刊メディア誌「Journalism」12月号掲載分に若干、補足)(http://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=13295)

「エコノミスト」http://www.economist.com/
「ウイーク」http://www.theweek.co.uk/
「タイム」http://www.time.com/time/
「ニューズウィーク」http://www.thedailybeast.com/newsweek.html
「アトランティック」http://www.theatlantic.com/
by polimediauk | 2012-01-19 19:47 | 新聞業界
―強みはブランド力、そしてパッケージ化

 幾多あるニュース雑誌の中でも、ひとはなぜ「エコノミスト」に向かうのだろうか?

 ジョン・ミクルスウェイト現編集長は、エコノミスト・グループの編集上の哲学として、「私たちの世界観、様式、哲学全体がほかの出版物とは違う」とウェブサイトで語っている。具体的には、「国際的であること、政治とビジネスのつながりを強していること、不遜であること、独立していること」だという。

 2010年7月、「エコノミスト」のデジタル担当エディター、トム・スタンデージを取材したときに、例えば米ビジネス週刊誌「ビジネスウィーク」にはビジネス記事は掲載されているが、政治記事は少ない、と指摘していた。

 「米国の経済誌の場合、政治記事が少ない。またニュース誌の国際面は必ずしも世界の全地域を常時カバーしているわけではない」。一方の「エコノミスト」では、全世界の各地域を扱うスペースが毎週用意されており、「世界の情勢を俯瞰できる」とスタンデージは説明した。

 「エコノミスト」が創刊されたころといえば、大英帝国が「パックス・ブリタニカ」、最盛期に向かう助走の時代である。産業革命による経済力と軍事力を使って、世界各地に大英帝国の領地が拡大していった。

 英国の目はたえず世界に向いていた。この時代に身につけた「英国から世界全体を俯瞰する」視線は、現在でも「エコノミスト」には受け継がれているということだろう。

 しかし、この視線や言論が、例えば当事者から見て、時には「不遜」と受け取られることもある。しかし、それこそが「エコノミスト」である、とミクルスウェイト編集長は述べている。また、その言論は、特定の勢力におもねることなく、「独立している」とも。

 さらに、「米国のメディアではない」ことも大きな力になっている。発行部数の半分強が北米の購読者だが、この地域の知識人は「米国発ではない、もう1つの視点」を求める。2003年、イラク戦争をめぐっては、米知識人たちが愛国主義に傾きがちの米国メディアにかわる「もう1つの視点」を求めて、英ガーディアン紙のウェブサイトに殺到したことがあったが、それと同様の動きが「エコノミスト」にも働いている。グローバルな視点を持ちつつ、かつ英国のメディアであるということが、はからずも「エコノミスト」に独自の立ち位置を与えている。

 「エコノミスト」は紙媒体だけでなく、ウェブ版にも注目が集まっていると先に述べた。ネットと紙媒体の両立を、「エコノミスト」はどうやっているのだろうか?

ーこの一冊を読めば今週はこれで終わり

 先のスタンデージによると、「エコノミスト」は雑誌に出た記事を、1週間かけてウェブサイトに少しずつ出していく。次号がそろそろ発売になる頃には、丸々1冊分の記事全て及びアーカイブ記事をサイト上で無料で読めるようになる。ということは、時間さえかければ「エコノミスト」を買わなくても、全部読むことができるということだ。それでも、紙媒体の「エコノミスト」の販売部数(店頭売りの比率が少ないので、発行部数はほぼそのまま有料購読数と見てよいという)には影響がないという。

 その理由をスタンデージは「パッケージ化の強み」と説明する。ネットで記事を読んだ場合、次から次へと記事が出てくるので「際限がない」。ところが、1冊の雑誌、つまりパッケージとして「エコノミスト」を手にすれば、「全ての領域が網羅されており、これを1冊読めば、今週はもうこれで終わり」として、区切りをつけることができるというのだ。また、紙媒体は様々な場所に気軽に持ち込み、読むことができる。忙しい世界の指導者層やビジネスに携わる人々にとって、これが非常に便利なのだという。「ウェブサイトは、雑誌の代わりにはならない。紙の雑誌の不完全な代用品でしかない」。

 ただし、iPadなどのタブレットやスマートフォンは、画面上で紙の誌面に酷似したものを出せるので、これは「1つのパッケージになっている」とみている。このためタブレット端末やスマートフォーン用には独自のアプリを用意し、有料購読制を取っている(ちなみに、タブレットやスマホ上で「エコノミスト」PC版のウェブサイトを開いた場合は、パソコン上でサイトにアクセスしたのと同じになり、無料で読めることになる)。

 「パッケージ化」とは、週内の様々なニュースをフィルタリングし、カプセル化することを意味する。情報が増えれば増えるほど、読者のために情報をフィルタリングする媒体の重要性が増すことになる。

 「雑誌の代替にはならない」とスタンデージが言うところのウェブサイトは、現編集長就任の2006年頃から力を入れている。

 現在では、雑誌に入る記事だけではなく、記者が書くブログ(英国の政治について書く「バジョットのノートブック」、アジア事象については「バンヤン」、金融市場の「ボタンウッズのノートブック」、スポーツの「ゲーム・セオリー」、書籍・文化・アートの「プロスペー」など20を超える)が随時更新され、世界中の利用者からコメントが寄せられる。一つの議題を決めてこれを討論するコーナーや「ギリシャはユーロを去るべきか?」など、その時々のトピックに関して是非を投票させるなど、双方向性を取り込んだ、毎日、動きのあるサイトとなっている。

 ところで、人にお金を払ってでも読みたいと思わせる質の高い記事を書く秘訣はあるのだろうか。

 独自の視点、分析力を誇るには、編集スタッフの質の高さと広い取材網が必要だ。「エコノミスト」もその例に漏れない。常に世界の様々な情報をウオッチングし、解析する作業を行う記者たち、編集者たちは、学生時代からあるいは子供時代から長年に渡る、相当な量の読書(あるいは議論)にいそしみ、知識の積み重ねを行ってきた人材である。

 「エコノミスト」中国特派員や東京支局長を務め、今はアジアに関するコラム「バンヤン」の書き手として知られるドミニク・ジーグラーは「記者の質が高い」ことに加え、「情報の質が高い」ことを理由として挙げた。「内部事情をよく知る人や政府や組織の上部にいる人」への取材に加え、「道行く、普通の人々」にも広く取材をしているという。独自の取材網で得た質の高い情報があるからこそ、「独自かつ質の高い情報を発信できる」とジーグラーは説明する。

 ついでに、経営面から好調の理由を探ると、まず、購読料が全収入の5割から7割近く(残りは広告収入)を占め、景気の動向に左右されにくい仕組みになっている。昨今のように経済の先行きが不透明になればなるほど、情勢分析に優れた「エコノミスト」が強みを発揮するのはご承知の通り。また、株式を上場していないので、株価の上下に左右されることもない。さらに、マーケティングにも大きく投資している。先の3月期決算の数字では、収入総額の実に約42%にあたる約1.5億ポンドがマーケティング関連への投資だった。

―オックスフォード大卒の知ったかぶりとの批判も

 しかし、「エコノミスト」を批判する人もいる。

 1つの典型が米ジャーナリスト、ジェームズ・ファローズが米ワシントン・ポスト紙に書いた「『エコノミスト』誌についてー植民地支配的な従属姿勢の経済学」と題する記事だ(1991年10月6日付)。

 英国滞在経験もあるファローズは、「エコノミスト」が「英国の階級制度に根ざした俗物根性、気取り、極度に単純化した議論」にとらわれており、「知ったかぶりのイングランド人の態度」を米国に提供している、と書いている。「自分たちはオックスフォード大学の卒業生だ、だから正しい」とでもいうような態度(編集スタッフには同大学の卒業生が多いという)を、ファローズは嫌う。

 編集長を始めとして部員がオックスフォード大学のモードリン・カレッジの卒業生であることが多く、このあまりにも仲間内的な構成がグローバルな雑誌の編集には適さないのではないかという指摘は、英国内でも時折、耳にする。

 批判は記事の匿名性にも及ぶ。カナダ人の作家で、国際ペンクラブ会長のジョン・ラルストン・ソウルは、「エコノミスト」が記者の名前を隠すのは、「意見よりも、公平無私な真実を販売しているという幻想を作り出すため」と著作の1つに書いている。

 ファローズやソウルに限らず、「エコノミスト」の「上から目線」に、植民地を拡大していった時の大英帝国の姿を重ね合わせ、反発を感じる人は少なくない。しかし、それにもかかわらず、「エコノミスト」を手に取る人が増えている。それは、グローバル化が進む中で次々に起こる経済危機や政治の混迷を理解する一助になっているからだろう。

 つまるところ、「エコノミスト」好調の最大の理由は、独自の視点という最大の売りもさることながら、大英帝国時代を彷彿とさせる俯瞰主義、そして不遜ともいえる大胆な分析力、この2つの力が醸し出す「頼れる一冊」というブランド・イメージかもしれない。(つづく。次回は最後で、米「ニューズウィーク」の話)

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月刊メディア誌「Journalism」12月号(http://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=13295)
に英「エコノミスト」http://www.economist.com/
by polimediauk | 2012-01-18 08:05 | 新聞業界
 月刊メディア誌「Journalism」12月号に英「エコノミスト」が売れる理由を分析する原稿を書いた。十分に説明できているかどうかは、読む方の判断にお任せしたいが、囲み記事としてつけたのが、米ニュース週刊誌「ニューズウィーク」との比較であった。長いので分けて流します。

「Journalism」12月号(http://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=13295
「エコノミスト」http://www.economist.com/

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 英「エコノミスト」好調の理由とは?

 国際政治、経済、社会動向の最新情報を分析・解説する、英国のニュース週刊誌「エコノミスト」が、好調の波に乗っている。

 エコノミスト・グループの2011年3月決算期の営業利益は前年度10%増の6300万ポンド(約78億円、2011年11月7日計算)、収入は9%増(3億4700万ポンド)、税引き後の利益は16%増(4420万ポンド)に上る。発行部数は4%増(2010年7月―12月期)の約147万部。広告収入は15%増で、デジタル広告の伸びに注目すれば、23%増の好成績だ。

 広告主や読者の「紙離れ」が恒常的経営不振の大きな原因となっている米英の新聞雑誌業界からすれば、「エコノミスト」の好調はうらやましい限りだ。

 一方、負債が膨らんでいた米ニュース週刊誌「ニューズウィーク」は、米版「エコノミスト」を目指して2008年に変身を図ったものの、思うような結果を出せないままに終わっている。

 「ライバル誌には絶対に真似できない」と「エコノミスト」の編集者の1人は、筆者に自信たっぷりに語る。一体、「エコノミスト」にできて、ほかのニュース雑誌にできないこととは何なのか?

 本稿では、改めて「エコノミスト」とは何かに注目し、成功のための戦略を紹介する。また、米ニュース雑誌業界の盛衰をたどりながら、「エコノミスト」の成功理由を別の側面から見てみたい。

―1843年創刊の穀物法反対運動の落し子

 週刊誌「エコノミスト」の創刊は1843年である。帽子製造を営んでいたスコットランド人、ジェームズ・ウィルソンが38歳で立ち上げた。

 ウィルソンは経済における自由放任主義「レッセフェール」を信奉し、1830年代後半、大きな政治問題になっていた「穀物法」廃止運動の主要論客の1人となった。穀物法とは、国内の穀物価格がかなり高くなるまで、外国からの穀物輸入を禁止するもので、価格の高値維持を狙う法律だ。1815年、ナポレオン戦争が終了し、欧州大陸から安い穀物が流入することをおそれて導入された。

 当時、国会議員の大部分は地主貴族で、生産する穀物の値段が高止まりするのは自分たちにとっては都合が良かった。しかし、穀物価格が上がれば賃金が上がると見た産業資本家層がこれに反対し、パンが安値で買えなくなると懸念した労働者層も反対に動いた。穀物法問題は階級間の争いという様相を呈し、議論が百出した。

 ウィルソンはこのとき、統計や史実をふんだんに使って、何故穀物法が廃止されるべきかを論理的に説明した長文パンフレットを発行した。自分が所属する階級の利益にとらわれた主張をする人がほとんどの中で、事実を元にして書かかれたウィルソンのパンフレットは高い評価を受けた。穀物法について一躍論客となったウィルソンは、その後、新聞各紙に論説記事を寄稿するようなるが、編集者の手によって記事が縮小されたり、掲載が延期されるという憂き目にあった。

 そこで、自分の手で新聞を発行しようと思い立ったウィルソンは、1843年8月、「ザ・エコノミスト、または政治、商業、自由貿易のジャーナル」を1部6ペンスで創刊した。

 当時、ウィルソンは「エコノミスト」という言葉に、「全ての議論、原理を事実に照らし合わせることによって問題を立ち向かう人」という意味を込めていたという(” The Pursuit of Reason: The Economist 1843-1993” by Ruth Dudley Edwards)。なお、穀物法の廃止されたのは、創刊から約3年後の1846年である。

 「エコノミスト」の当初の平均部数は2000部弱であった(「エコノミスト」のウェブサイトより)であった。1870年代頃まで、発行部数は4000部から3000部を維持し、少数のエリート層による購読の時代が続いた。1万部に達したのは1938年である。このとき、購読者の半分は英国外にいた。

 10万部の達成は1970年。『陽はまた上る』など、日本に関する数々の著作でも知られているビル・エモットが編集長となった90年代前半、部数は50万部に伸び、収入の80%が海外での販売によるものとなった。

 2011年上半期、全世界で発行されている部数は約148万部。そのうち、英国内の購読者は約14%(21万318部)。購読者の比率は北米が最も高く(約56%、84万4387部)、次が英国を含む欧州(約30%、45万1213部。英国を除くと、約16%、24万895部)となる。発行総数の前年比は3・03%増だが、特に伸びが大きいのが母国英国(前年比7・7%増)である。

―匿名記事で違いを出す

 「エコノミスト」のウェブサイトから、自己定義や統治体系を見てみた。「エコノミスト」とは「国際的なニュース、政治、ビジネス、金融、科学、テクノロジー」などについての、「信頼できる洞察や論説を提供する」出版物とある。

 週に一回発行の雑誌だが、「ニューズペーパー」(新聞)と呼んでいる。それはその週の主なニュースを掲載し、毎週木曜日、世界の複数の場所で印刷され、翌日あるいは翌々日には読者の手元に届く発行物という点で、刊行頻度は日刊紙とは異なるものの、その役割や内容は新聞と同様の媒体と考えているからである。

 記名記事が原則の英国にあって、「エコノミスト」はその記事が全て匿名であることも特色の1つだ。これは「書いている内容のほうが、誰が書いたかよりも重要」という考えによるもの。活発な議論が交わされる編集会議には記者全員が出席でき、個々の記事の執筆には記者がお互いに協力し合い、「1つの声」として発信している。

 記者の数は約90人で、30余人が特派員として世界各地に駐在している。普段は表に出ない記者陣のプロフィールはウェブサイトの「メディア・ディレクトリー」に詳細が記されている。

 「エコノミスト」の株式は創刊以来、ウィルソン家が保有してきたが、1928年からは全株の半分を、英メディア複合大手ピアソン社の子会社「フィナンシャル・タイムズ」が所有している。株式は上場しておらず、残りの株は従業員や投資家(キャドベリー、ロスチャイルド、シュローダーなど)が持つ。一部の株は4人の評議員(トラスティー)たちが保有し、特定の投資家や企業が株の過半数を所有しないよう工夫がされている。

 編集権の独立を保障するのは評議員たちだ。エコノミスト・グループの会長職や「エコノミスト」の編集長を決める権利を持ち、株の譲渡も評議委員会の承認なしには決定できない仕組みとなっている。

―急進的保守派の論調
 読者は年収1300万、平均47歳


 「エコノミスト」の創始者ウィルソンは、自由貿易、国際主義、政府の干渉を極力避ける、市場の力を信奉など、19世紀の典型的な自由主義的考えの持ち主だった。現在の「エコノミスト」もこの流れを汲んでいる。政治的には「急進的保守派」(1950年代のある編集長の表現)で、過去を振り返ると、レーガン前米大統領(共和党)やサッチャー前英首相(保守党)を支持した。ベトナム戦争では米国を支持。その一方で、ウィルソン前英首相(労働党)やクリントン前米大統領(民主党)の政権取得を支持した。古くは刑法改正、非植民地化を提唱し、銃規制や同性愛者同士の結婚など、様々な自由化政策を支持した。

 文章は「平易であること」をモットーとしている。名物編集長の1人ウオルター・バジョット(編集長在職1861-1877年)は、「日常的に人と会話をしているように」書くことを記者に勧めたという。しかし、ユーモアやウィットを随所に利かせた癖のある文章は、ストレートなニュース報道とは異なり、必ずしもわかりやすいわけではない。

 こんな「エコノミスト」の読者は世界平均で87%が男性だ。平均年間所得は17万5000ドル(約1300万円)、年齢の中心は47歳という。

 「エコノミスト」の読者といえば、エリート層、しかもやや高齢(例えば政治家や企業の経営陣など)というイメージがあるが、こうしたイメージをほぼ踏襲する結果となっている。

 ネット版「エコノミスト」の読者層(全員が購読者とは限らない)はどうだろうか。所得、年齢をみると、幅が広くなる。利用者の3割は日本円に換算すれば年収約370万円以下で、年収約800万円までの人を入れると、70%近くにもなる。また、34歳以下の若者層が6割を占め、45歳以上は2割ほど。つまり、ネットで同誌の記事を読んでいる人は、いわば「普通の人」だ。将来の購読者を獲得し、言論の広がりを加速させるには、広範囲な読者が生息する場所、すなわちウェブサイト、あるいは携帯電話やそのほかの電子端末で提供するコンテンツの拡充が重要な鍵を握ることになる。(つづく)

***ドラフトの間違いを拾いきれなかった部分を直してあります***(雑誌掲載時には訂正済み)
by polimediauk | 2012-01-17 01:20 | 新聞業界
 丁度1年ほど前に、「ネットとリアルの切れ目がない」ということを書いたのだけれども、英国では大手メディア(新聞、放送)がネット・メディア化、さらに言えばデジタル・コンテンツ・プロバイダー化している。

 この点は、英国に住んでいるとなんとなく周知のことになってしまい、十分に強調してこなかったような気がする。

 つまり、「BBCが・・・」というとき、「ネットメディアでもあるBBCが・・・」という意味合いになる。ネットメディアと大手既存メディアとが分かれていない。一緒になっている。区分けはある意味ではどうでもいいわけだが、ネットに利用者や広告主が移動しているわけだから、メディアとしてはそっちでもビジネスをやらざるを得ないーそれもかなり積極的に。といって、もちろん、ネットオンリーのメディアがないわけでなく、例えば、ガーディアン・メディア社の一部になっているが、デジタルメディアの話を伝えるペイドコンテントがその1例。

 英国の新聞は紙の発行という意味では斜陽産業なのだけれど、これまでのブランド力とコンテンツを持っているという強みがある。互いとの競争(報道では放送業界との競争もある)はシビアだが、これはいかに早く、利用者が好みのサービスを提供していくかの競争でもある。

―主戦場はウェブサイトではなく、携帯・タブレットへ

 ・・・と見出しを書くと、あまりにも聞きなれた表現になってしまうのだけれども、つまり、かつては、ウェブサイトをいかに利用者にとって利便がよいように充実するかの競争があった。サイトからいかに収入を生み出すかについてもさまざまな議論が起きた。無料、有料、スクープ、「ウェブファースト」、動画、著名コラムニストの充実、グーグル検索に引っかかりやすいような見出し作り、リンク、収益を上げるためにデート・サイトなどの広告掲載など、様々な工夫をしたわけである。勝つための主戦場はウェブサイトであった。

 ところが、もうすでに私たち自身が経験していることだが、メールやニュースを読むのでも、PCを開いて・・というよりも、携帯機器でまずチェックすることが多い。そこで、(言わずもがなだが)戦いは携帯機器の画面上で起きている。

 ・・この点もいままで言われてきたことだし、現時点で新しくはないのだけれど、このところ、「本格的にそうなってきたな」という感がある。「もうウェブは見ない」「携帯機器のみ」という未来が、中高年の人も含め、現実化しつつある。

 ・・・そんなことをひしひしと感じたのは、ガーディアン、フィナンシャル・タイムズ(FT)、エコノミストの動きである(以下、主にペイドコンテントの記事を参考)。

 まずFTだが、昨年6月に提供を開始した、新たな携帯機器専用アプリをダウンロードした人が、現在までに100万人に達したそうだ。FT・コム(FTのデジタル版)の頁ビューの中で、20%が携帯(スマホ、タブレット)を通じてのものだった。PCのウェブサイトから閲読する人よりも、スマホやタブレットを使っている人の方が滞在時間が長く、フィードバックの率も高い。

 このアプリはアイチューンズで購入する形にはなっていない。ロンドンのウェブ・アプリケーション会社アッサンカ(Assanka)が中心となって、独自のアプリを開発したのである。アプリのダウンロード自体は無料である。前に、FTのデジタル担当者に取材したことがあったが、「自前でやる」ことを重要視していた。アイチューンズに入れば、収入の30%をアップルに取られるばかりか、顧客情報も渡してしまうのがいやだ、と。

 今月、FTはアッサンカを買収したと発表した。「FTテクノロジーグループ」の1つに入った。今後、いかに機能的なアプリを提供するかにさらに力が入る見込みだ。これは昔風で言えば、「新聞販売店を丸抱えにした」ということなのかなと思う。(英国には日本のような販売店制度はない。)ちなみに、FTのデジタル購読者は25万人である。

 今度は「エコノミスト」の話である。「フリップボード」Flipboardという、様々なトピックを雑誌のように並べられるアプリ(アイフォーン、アイパッドなど)があるが、これに似たつくりの、タブレット専用の独自アプリの提供を開始した。

 内容は米大統領選に関する情報をまとめたもので、「Electionism」という。これはPCの画面上では見れないので、electionism.comというサイトから、アプリをダウンロードする必要がある。ただ、見れるのはタブレット(アイパッド、ギャラクシー、キンドル・ファイヤー、ブラックベリーのプレイブック)を使った場合のみである。「エコノミスト」の米大統領選挙がらみの記事のみでなく、米議会にかかわる発行物「ロール・コール」からの記事や、ほかのメディアの関連記事、ツイートなどが並ぶ。アプリのダウンロード及び記事の閲読は無料である。

 いかにもアクセスが大きく増えそうなトピックが読めるアプリを「タブレットでしか見れない」つまりPCをすっ飛ばしてしまった点が、今らしい。

 このアプリを作ったのはカナダのソフトウェア・デザイン会社Nualyerで、Presslyというプラットフォームを使っているそうである。

 最後に、ガーディアンだが、タブレット機器用に提供しているアプリは、50万人にダウンロードされたという。実際に利用しているのは28万人(昨年12時月時点)といわれている(ペイドコンテント)。

 現在、閲読は無料だが、13日からは有料(月額9・99ポンド=1,182円)となる。日本の感覚からするとかなり安いように思えるが、いままで無料だったものが有料になるというのは、大きな心理的障害かもしれない。

 13日以降、新規の利用者がアクセスすると、7日間は無料だが、それ以降は有料となる。

 一方、アイフォーン用のアプリの場合は1日に3本は無料で読め、もっと読みたかったら、有料となる(6ヶ月で2・99ポンド、1年で4・99ポンド、米国では無料)。

 しかし、ペイドコンテントのロバート・アンドリューズ記者が指摘するのは、スマホなりタブレットなりで、ガーディアンの通常のウェブサイトを開くと、すべてが無料で読めるので、これが足を引っ張るかもしれない、と。無料と有料が混在する、まことに奇妙な状況となっているわけである。

参考:

Guardian Starts Charging 280,000 iPad Readers From Friday; How Will It Go?
http://paidcontent.co.uk/article/419-guardian-starts-charging-280000-ipad-readers-today
The Economist Tries A Flipboard-Like Election App All In HTML
http://paidcontent.co.uk/article/419-the-economist-tries-a-flipboard-like-election-app-all-in-html/
Electionism
http://www.pressly.com/electionism/desktop.html
FT Buys Its Web App Maker; CEO Ridding’s Memo
http://paidcontent.org/article/419-ft-buys-its-web-app-maker-ceo-riddings-memo/
テレグラフの記事:Flipboard is ready to page the future says Mike McCue
http://www.telegraph.co.uk/finance/newsbysector/mediatechnologyandtelecoms/digital-media/8969325/Flipboard-is-ready-to-page-the-future-says-Mike-McCue.html
「世界初ソーシャルマガジン」アプリケーションのFlipboardが生み出す3つの変化とは?  http://gendai.ismedia.jp/articles/-/955
by polimediauk | 2012-01-11 22:54
 英ニュース週刊誌「エコノミスト」東京支局記者ケネス・クキエ(Kenneth Cukier)氏に、東京事務所で話を聞いた。今回はその2(最後)である。

―3月の東日本大震災の発生で、現地に飛んで取材をしたこと、大きな衝撃を受けながら原稿を書いたことを聞きました。その後、東京に戻ってからの報道はどんな感じになりましたか。

クキエ記者:東京に戻ってからは、震災の影響がどうなっているのかを書くことになりました。その後、私たちは東北に何度も戻りました。トリックス支局長は破壊された都市のほとんどをたずねました。避難所を全部回り、第一原発から2-3キロのところまで行きました。

 今回の震災は、日本の歴史にとって画期的な事件になりましたが、ここで強調しておきたいことがあります。それは、この震災についての最も驚くべきことが、ここ東京で起きていたということです。

 この事務所から霞ヶ関まではタクシーで5分ほどです。その霞ヶ関の愚かさ、政治階級の愚劣さ、日本国民のニーズにこたえることができない無能さが、震災を通じて表面化しました。国民を失望させました。メディアも例外ではありません。国民は官僚、政治家、メディアが自分たちを裏切ったことを知っています。現状に適応することができなく、是正することもできませんでした。この震災は、こうした人々をテストする機会でした。

 日本の中の変化はゆっくりと起きるので、官僚、政治家、メディアが本当に現状に適応できるようになれるのかどうか、明確ではありません。しかし、官僚、政治家、メディアはかなり非情だったと思います。今後、日本国民の期待にこたえることができないとすれば、深刻な問題に発展すると思います。

 また、経済団体はすぐに政治階級に連絡をつけて、エネルギー市場を変えさせないようにするでしょう。独占的状況にあるエネルギー市場は日本国民を裏切っています。日本人は裏切られたことを知っています。若い年代の人たちは、物事を変えたいと思っています。

ー日本に良い意味での変化が起きると思いますか?

 日本は世界の中でも最も重要で、文明が進んだ国の1つです。芸術、文化、国力、知性、優れた先端技術を持っています。こうしたものは消えません。資産を国民全員が平等に共有することはできなくなるかもしれませんが、日本は依然として地球上の文明化の動きの中心的存在ですよ。

―世代が変わらないと、なかなか変化が起きにくいのではないでしょうか。人口構成の要素も影響しているのではないでしょうか。若い層にはなかなかチャンスが与えられていない感じがしています。

 確かに、私もそうは思います。日本社会全体で見ると、それほどいい状態というわけではない。日本は2つの層に分かれる社会になっていくと思いますーもう既にそうなっているのでしょうが、これがもっと進むと思います。ギャップが大きくなる。古い日本と新しい日本に分かれる。新しい日本は現代的で、地球全体につながっており、豊かです。古い日本は貧しく、内向きで、経済もうまく行かない、と。

―前向きの動きが起きていると思いますか?

 起きていると思いますよ。国民は先ほどの既成組織が自分たちを裏切ったと感じています。日本を変えたいと思っています。しかし、おそらく、既成の組織を通して変化を起こそうとしているのかもしれません。

 政治で言えば、政治などどうでもいいと考える人が増えています。企業に関しても、どうせ変わらないだろう、と。しかし、どういう方向で変化を起こしたいのか、日本国民自身がまだ分かっていないのではないでしょうか。

 国民は、変化を起こしたいとは強く思っているーーもっとグローバルに、もっと市場主義の要素を導入し、自分の人生を自分でコントロールするようになりたいと思っている。

 現在の日本では、国民が自分の人生を所有していないと思っているのではないでしょうか。学校に行く年齢のときは、学校が自分を所有している。従業員のときは、雇用主が自分を所有しているのです。

 ただ、地震で日本がいかに変わったかを語ることができるのは、今から10年か20年後になるのかもしれません。いまではない感じがします。私は日本の将来に関して楽観的ですが。

―日本にはどれぐらいいらっしゃるのですか?

 もう4年半です。

―米国のご出身ですか?

 国籍はそうです。

―日本のメディアについてどう思いますか。例えば米国と比べてどうでしょう?

 どこも完全なメディアを持っている国はないですね。日本人のジャーナリストたちに会うと、皆さん非常に優秀です。自分がやっていることに非常に心を傾けています。

 しかし、組織としてみると、まるで19世紀のやり方をしている感じがします。日本のメディアは日本国民を裏切っているのだと思います。つまり、「自由なメディア」がやることは、権力の監視です。日本のメディアはこれを実行していません。やっているふりをしているだけなのです。自分たちのことを「フリー・プレス(自由な新聞)」と呼ぶなんて、本末転倒といってよいレベルです、偽りの行為です。権力者の速記者になっているだけなのですから。

―この部分はオフレコの発言でしょうか?

 いいえ、違います。喜んで今言ったことを繰り返します。

 といっても、この類に入るのはすべてのメディアではありません。もちろん、例外はあります。個人のレベルでは、どのジャーナリストもすばらしい。優れた報道をしているメディアもあります。しかし、主流のメディアに関しては、「自由なプレス」がその責務として行うような形では、社会に仕えていないと思います。

―何故「エコノミスト」は世界中で部数を伸ばしているのでしょうか。独自の視点を出せる秘密は何だと思いますか?

 まず、第1の要素として、「エコノミスト」は普通のメディアでは適合しないような人を惹きつけます。ジャーナリストだったら、何でも簡単に説明する能力が求められますが、「エコノミスト」は強い好奇心を持ち、簡単に説明してしまいたくないと思う人を惹きつけます。読者に記事を読んでもらうには、物事の複雑さをやや緩和して書くことが必要なことは知っていても、物事の複雑さを楽しみ、きれいに書かれた文章を作るために時間を割き、もっと時間をかけて考える人が集まる場所なのです。

 週刊の発行物なので、すぐに書かなければならないというわけではありません。また、書くスペースが小さいので、簡潔に書かなければなりません。記事は分析記事で、高い水準を維持する必要があります。こうしたことが全てが「エコノミスト」ならではだと思います。

 さらにもっと重要なのは、「エコノミスト」には非常によい同僚たちがいます。家に呼んで家族とともに過ごしたいと思わないような同僚は1人もいません。

―それは珍しいですね。

 本当に珍しいです。私はアメリカ人ですし、オックスフォード大学に行ったわけでもありません(注:「エコノミスト」には同大学の卒業生が多いといわれる)。ほかの会社で働いた経験もあります。典型的な「エコノミスト」のジャーナリストではないわけです。

 聖人君子である必要はありませんが、英国式のマナーがありますよね。たとえ何が起きても、気持ちよく人とつきあうことを重要視する文化です。アメリカ人には同じような考え方はありません。フランス人は反対でしょう。もし自分の気分がくさっていたら、それを表現し、同僚にぶちまけるのが自分の権利だと思っているようです。

 でも、英国は違います。議論をしていて、自分が相手の論旨に同意しないときはどうするか?「多分、あなたの言っていることは正しいかもしれないが」とか、「ほかの意見も聞くに値するのではないか」というわけです。非常に礼儀正しいやり方で、同意しないことを伝えてくれます。

 最後に、署名原稿の形を取らない点があります(注:英米では署名原稿が一般的だが、「エコノミスト」では記事に特定の署名がつかない)。このため、ほかのメディアで働いていた場合に芽生える虚栄心が、少し失せるのです。例えば「ニューヨーク・タイムズ」だったら、たくさんの著作があるコラムニストや、官邸記者、外交問題の記者だったら、自分の名前がついた記事が1面に載るわけですから、自分が特別な人間だと思ってしまうでしょう。

―自分もそうなりたいという気持ちはないのでしょうか?

 ジャーナリストだったら、誰しもがモーチベートされたいと思っていますよね。でも、(無記名の記事を出すことで)そんな感情や虚栄心を昇華させて、もっとより良いことのために書こう思えるようになってくるはずです。自分自身を検証することもできます。自分の名声のために記事を書くわけではないことが分かってきます。ほかの記者や編集者と一緒に一つの原稿を作り上げる過程で、原稿の質が上がっていきます。

 署名を失う代わりに、もっと純粋に書く事ができるのではないでしょうか。誰が書いたかよりも、何を書いたかの方が重要だと思っています。(終)
by polimediauk | 2012-01-09 08:24 | 日本関連
 昨年秋、日本に滞在したときにインタビューさせてもらったメディア・出版業界の方々の中で、オンレコで内容をブログ掲載してもよいと言ってくれた3人の方の声を紹介してきた。今回は、その最後にあたる。

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 英ニュース週刊誌「エコノミスト」東京支局のケネス・クキエ(Kenneth Cukier)記者(写真、右)は、日本のビジネス・金融問題を担当している。その前には「エコノミスト」のロンドン本社でテクノロジーや通信問題について書いてきた。「エコノミスト」の前には「ウオール・ストリー・ジャーナル・アジア」(香港駐在)、「インターナショナル・ヘラルド・トリビューン」(パリ駐在)などを経験している。 http://www.economist.com/mediadirectory/kenneth-neil-cukier

 インタビューはオリンパスの粉飾決算がらみで英国人社長が解任されて間もなくの頃に行われた。東京事務所に先に到着して待っていると、クキエ記者は約束の時間にほんの少し遅れて姿を見せた。聞けば、元社長とのインタビューで、原稿を書いていたという。一仕事を終えたばかりのすっきりした表情をしたクキエ氏は、東日本大震災の報道の様子や日本のメディアについて語ってくれた。

                 ***

―「エコノミスト」の締め切りまでの1週間の流れと、今回の東日本大震災をどうやって報道したかを教えてください。


クキエ氏:締め切りは毎週水曜日になります。英国時間の木曜までに原稿が印刷所に送られて、金曜日には新聞の形になって(注:「エコノミスト」は自分たちの媒体を「新聞」と呼ぶ)、駅の売店や購読者のもとに届けられます。

 地震が起きたのは金曜日の昼でした。そこで、すぐに私たちは(自分とヘンリー・トリックス東京支局長)は、地震発生の第一報を書きました。最初はほとんど何も情報がなかったのですが、そのうちに段々新しい情報が入ってきたので、原稿をアップデートしていきました。地震の悲劇があって、津波の犠牲者が発生し、当日の夜には今度は過熱した原発の問題が発生しました。こういうニュースをまず東京で、金曜日に書いていたわけです。

 私自身はまず家族が無事だったかどうかを確認しました。余震が何度もありまししたし、4ヶ月の赤ん坊と4歳の子供がいたので、家族の安否を確かめるのが最優先でした。

 私たちのオフィスは銀座にありますが、ビルの外に出てみると、たくさんの人が六本木から渋谷方面に向けて歩いていました。赤信号のところで止まっている様子などを見ていましたが、がんばろうという雰囲気、我慢しようという雰囲気が感じられましたね。

 週末の土曜と日曜に、私たちは1日に2本の原稿を書きました。まず前の晩に起きたことを入れた話を朝書いて、午後にもそれまでに分かった情報で新たな原稿を作りました。

―その原稿というのは、ウェブサイト用に書いたということですね?

 そうです。朝1本書いて、午後も1本書くというパターンを1週間ほど続けました。他の人はもっと書いていましたけれども、とりあえず、「エコノミスト」のウェブサイトに利用者が来れば、何か読むものがあるように、現在の動きが分かるように、と思っていました。

 週明けの月曜日の朝、編集会議が開かれました。そこで、誰かが現地に行くべきだという話になり、その役が私に回ってきました。うちに帰って荷物をまとめて、現地に向かいました。

―現地には誰かと一緒に行ったのですか?

 そうです。いま「エコノミスト」があるこのビルの中で働いているオーストラリア人のジャーナリストと一緒に、お昼12時頃、車で出かけました。福島めがけて東北道を走っていましたが、福島ではメルトダウンが起きていたので、東京から1時間走ったところで新潟方面へ。新潟に着いたのは午後10時か11時だったと思います。それから山形に向かい、午前3時か4時ごろ到着。そこで一晩を過ごしました。寝たのは3-4時間ぐらい。7時には南三陸に向かっていました。国際救援センターを目指していたのです。

―いつもとは違う仕事ですね。

確かに。

―「エコノミスト」は分析・解説記事で知られています。今回は分析記事を書くのは難しかったのでは?

 確かに分析記事で知られていますが、外に出て取材をするのも私たちの伝統の1つです。ロンドンの本社で、忍耐強く省察を試みるという伝統からすれば、現地取材はあまり目立たないですが。どんなジャーナリストも、現地に行って目撃したいという思いがあるはずです。

 例えば、2008年に、チベットで暴動がありました。そこにいた唯一の西洋のジャーナリストが「エコノミスト」の記者でした。過去8年間、チベットに行きたいと申請を出していたのですが、その記者は当局にいつも断られ続けてきました。しかし、その年には中国政府から渡航許可を得たのです。暴動があるとは思っていなかったのですが。もちろん、当時は、誰もそんなことが起きるとは思わなかったのです。(注:ウィキペディアによると、2008年3月10日、中国チベット自治区ラサ市において、チベット独立を求めるデモをきっかけとして暴動が発生。「エコノミスト」のジェームズ・マイルズ記者がその場にいた。)

―当初、どのぐらい現地に滞在したのですか?

 私は6日間、行っていました。陸前高田に行って、大船渡にも行きました。それから青森にも。どこに行っても、目にしたのは破壊でした。特にひどかったのは、陸前高田でしたが。

―あれだけの破壊を目にしたら、1人の人間としても影響を受けたのではないでしょうか。

非常に深い影響を受けました。いまはこんなことを話すときではないかもしれませんが、あの光景を見てから、私の人生観が、そして私自身が変わりました。生涯、忘れることはないでしょう。

―本当に?

 もちろんです。

 いかに自然が破壊的になるかを目の当たりにしました。信じられないぐらいの破壊力です。人生とはいかに説明がつかないものなのかー。陸前高田では、町中から5キロほど離れたところに田んぼがありました。倒壊した家や木々や枝が散らばっていました。ここにいた家族が、その生活が、根こそぎバラバラにされたのだということがよく分かりました。その家だけでなく、ほかの人の家でもまったく同じことが起きていました。家族の誰かがそこで亡くなったり、消えてしまったのです。

 人間には、自分には制御できないことがあるのだということをしみじみと感じました。人生は非常にでたらめなのです。そこで私は、「心配する必要はないー私の人生の終わりの時が来たら、もうそれから逃れることができない」、と思いました。

 ある民家が無事で、ある民家がまったく無傷のままだったのは何故なのか。理由はないのです、単にそういう結末になったというだけです。「自分がやるべきことをやれ、そこでゲームオーバーになったら、それはそれなんだ」ーそう思うことができました。

―来るべき時が来たら、すべてが終わり、と。

そうです。それと、日本的な心の持ちようにも救われました。「これが人生だ、何かが起きたらこれを受け入れ、進んでゆく」という考え方です。自然災害を体験したことがある国だからこそ、一種の国民的な性格になっているのでしょう。そして、日本国民のタフさ、無私の精神にも感銘を受けました。

幸運にも津波を生き残ったある人に取材しました。全てを失った人でした。家が流され、屋根の上にあがって生き延びたのです。いまは妻と一緒にカナダに移住している人ですが、今でもメールで連絡を取り続けています。

ジャーナリストとして、何が起きたかの報道することは、道義的な面からも意味がありました(目に涙がたまる)。震災は感情に訴えかける出来事でした。報道、ジャーナリズムという手法だけでなく、詩によって表現したほうがもっと実情が伝わったかもしれないと思います。

―日本のジャーナリストや小説家の中で、「今回起きたことを表現するには時間がかかる」、「自分の中で言語化するにはもっと時間が必要だと思った」、と書いているのを読んだことがあります。

 そういう思いはよく分かります。今回も、また震災以前の別のときにも、「時が熟していない」、「言葉がまだ準備できていない」、あるいは自分自身がもっと考えを熟成する必要があるなどの理由で、言語化をためらう経験をしたことがありました。

「言葉でいかに伝えるか」

 現地にオーストラリア人のジャーナリストたちと行ったときに、車で回っていたのですが、同乗していたのがオーストラリア人の写真家でした。この写真家は、10分おきぐらいに車を止めさせて、外に出て行って、写真を撮っていました。

 このとき、私はメモ帳を手にして、車の後部座席に座っていました。周りの光景を見て、メモを取りながら、考えていました。写真家だったら、車の外に出て、シャッターを押します。そこで仕事は終わりで、人々は写真を見て、感動するでしょう。そこで私は自分に誓ったのです。よし、ここで見たことを熱をこめて書くぞ、と。読んだ人に忘れられない強い印象を残すような記事を書くぞ。と。

 1枚の写真が数千語の文字に匹敵すると人は言います。そこで私は言葉を使って、強い印象を残す文章を書こうと思いました。読み手に何が起きたかを本当に伝えることが使命だと思いました。

―それほどまでに記者個人として強く感じたのであれば、「エコノミスト」では記事は無記名で、「1つの声」として書くので、こうした点に限界を感じなかったのでしょうか。

 それは大丈夫でした。締め切りの話に戻りますが、次の号が出る頃には、震災発生から一週間が過ぎていました。既に読み手はたくさんの写真や動画をテレビや新聞で見たり、記事を読んだりしているわけです。ドラマを越えた何かを読者のために提供する必要がありましたので。

 トリックス支局長は東京にいて、情報収集に力を入れていました。私は現場にいて、何が起きているか、人々の反応を探る作業をしていました。

 記事の中に、もっと感情的な要素を入れたいと思ったのは確かです。でも、最終的にバランスよくできたと思っています。この大きな人間の悲劇に心を動かされなかった人はいないだろうと思います。自然が引きおこした・・・(言葉に詰まる)・・・自然の破壊です。心で感じて、頭でも感じるわけですね。何が起きているのか、何が起ころうとしているのか、再建策は何か、当局がどうやって避難民を扱ったのか。

 私が衝撃を受けたのは・・私たちが作り上げた文明が破壊され、流されてしまったことです。バラバラにされて、無になるほどめちゃくちゃにされてしまいましたー。

 これを口に出すのは厳しいようですが、最後には、あなたが誰であろうと、どこからきて、身分証明書に何が書いてあろうと、最後には、すべてが瓦礫になってしまう。木やダンボールの一部、壊れたガラス、瓦礫の山―そんなものが最後には残っただけなのですーそんなことを考えていました。(つづく)
by polimediauk | 2012-01-08 07:12 | 日本関連
 クリスマス以降、やや暖かい日が続いてきた英国ですが、数日前には強い風が吹き(木が倒れ)、2日ぐらい前からは非常に寒くなっています。

 9日(月曜日)、Sankei Express という新聞の「Viva!ヨーロッパ」という面に、「英国メディア史」にちなんでの著者インタビューが掲載されます。どこでも売っているわけではないようですが(都内の地下鉄駅などではあるようです)、手に取っていただけたら、幸いです。

 以下は、編集長の「Sankei Express」とはどんな新聞か?の説明。

http://www.sankei-express.com/about/interview_index/details01/index.html

 「購読者のターゲットは、都会に暮らす20代30代の男女と、情報感度の高い「新しもの好き」の大人たち。ニュース報道の最前線で仕事をしてきた新聞社ならではの信頼性を大切にしながら、EX独自のスタイルを作り出し、2006年11月の創刊以来、じっくりと読者を増やしてきました。」

 「EXは都会暮らしで知っておくべき世界と国内のニュースを15分間で一覧できるように編集されています。鮮やかな写真と独自の切り口を大切にした1面に続き、2面から5面までの4ページで、その日のニュースを重要度が一目でわかるように定型化してコンパクトに配置しています。」とのこと。

 どうやら、イメージ的には、英高級紙「インディペンデント」が「i」でやっている、質を維持しながらも読みやすい記事作り+英国で大人気の無料紙「メトロ」(15分で読める)+「フィナンシャル・タイムズ」の週末版に付く「マガジン」(バラエティーに富んだ話題ーーアートもビジネスも)・・・といった感じでしょうか。
by polimediauk | 2012-01-08 06:17 | 英国メディア史
c0016826_21554188.jpg 新たな年が明けました。今年もよろしくお願いいたします。(やっとクリスマスカードやツリーを片付け、年末のカウントダウンも済ませ、次第に生活が落ち着きつつあるところである。残すところの年末年始の「イベント」は、英国恒例の「パントマイム」を観にいくこと。本日、これから「シンデレラ」鑑賞に出かける予定だ。)

 TBSメディア総合研究所が発行している、「調査情報」最新号に、英国のテレビについての原稿を寄稿している。どこかでお手に取られて、見ていただけたら幸いである。

http://www.tbs.co.jp/mri/info/info.html

 今回の特集は「テレビ ドック―いまなにが可能か」である。以下はその目次。

テレビ ドック―いまなにが可能か
グーテンベルク以来のメディア革命のなかで(今野勉)
テレビとネットのカニバリズムは本当か?(橋元良明)
連続ドラマの活況は戻ったのか(堀川とんこう )
テレビは肉体表現者を描けるのか(武田薫)
ニュースに二時間も必要なのか?(吉川潮)
バラエティー~メディアパワー喪失の20年(鈴木健司)
テレビCMの現在~お前はすでに死んでいる?(河尻亨一)
デジタル時代で面白みが増す、英テレビ界(小林恭子)
テレビは、テレビではなくなり、生き残る(境治)
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 雑誌はいまこちらに郵送途中で手にとってはいないが、読むのが楽しみな構成である。

 自分自身、どちらかというと英国の新聞界に関する原稿を書く事が多いのだが、今回は放送業に目をやる機会があって、いろいろ考えさせられた。ひとつ、テレビについて書くのはよいのだが、ラジオ界の話を書く機会がなかなかない。英国を含む欧州では、ラジオが知識人の論考のネタになったり、質の高い娯楽の提供メディアになっている(日本ではそうなっていない、という意味ではないが、日本と比較すると、ラジオの重要度が高いような気がする。)今年はこのブログなどでラジオの話も出していければと思う。
by polimediauk | 2012-01-05 22:00