小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


by polimediauk
プロフィールを見る
画像一覧

<   2012年 03月 ( 11 )   > この月の画像一覧

c0016826_2031527.jpgメディア組織に雇われた編集スタッフだけで制作するのではなく、外部の声を取り入れるジャーナリズムのあり方が、最近、英国で目につく。これを仮に「オープン・ジャーナリズム」とでも呼んでおく。

 メディアがインターネットを使うようになった時点で、すでに編集部の外からの声が入ってきたとすれば、この現象は決して新しいものではない。また、英国「だけ」で起きている現象でもないはずだ。最近のソーシャルメディアの活用は、一種の「オープンな」ジャーナリズムともいえるだろう。

 しかし、ここに来て、外部参入の度合いを一段と高めるような、いくつか新たな動きが出ているように思う。今回はまず、「市民ジャーナリズムをよみがえらせた」といわれる、ニュースサイト「Blottr(ブロット)」http://www.blottr.com/ を紹介したい。(右上写真は創設者のアダム・ベイカー氏)

 2010年夏に始まったこのサイトは、市民の投稿による原稿で制作される、いわば市民ジャーナリズムのサイトである。「市民ジャーナリスト、市民ジャーナリズム」(citizen journalist, citizen journalism)という言葉は、少し前にもてはやされたが、今は英国では下火になったかのような言葉だ。日本でも市民ジャーナリズムによるウェブサイトで大成功といえるものは今のところはないようだ。

 Blottr(2011年、英優秀起業賞受賞 http://www.startups.co.uk/2011_4)は、現在、約5000人の登録記者を抱える。ユニーク・ユーザーは200万ー300万人だという。世界中に散らばる記者たちが、自分の目で見た事件を報道する。このブログを読んでいるあなたも、名前や電子メールのアドレスなどを登録すれば、すぐに記事を投稿できる。原稿を書き、自分で満足したなら、「提出(submit)」というボタンを押すと、まもなくしてサイトに掲載される。載るか載らないかで気をもむ必要はない。編集者の手が入らずに、すぐに出るからだ。

 Blottrは、編集過程を「共同作業」(コラボレーション)と呼ぶ。数人の編集スタッフやほかの登録記者たちが情報を追加したいと思えば、これもすぐにできるようになっている。あなたの投稿した記事に様々な人の手が入り、肉付けがされて、より充実した記事になってゆく。自分が書いた原稿の一字一句を変えてほしくないと思ったら?そういう人はBlottrへの参加はお勧めできない、とウェブサイトではっきりと宣言されている。

 Blottrには英国内で自分が住む都市によって画面を変える選択肢がある。例えばロンドンであったり、バーミンガム、レスター、マンチェスターなど、7都市を選択できるのである。選択すると、その都市でのニュースを中心としたつくりに変わる。また、ドイツ語版、フランス語版もある。将来的には日本語版を作りたいとBlottrは願っているそうである。

 ロンドンにあるBlottrのオフィスを訪ね、創設者のアダム・ベイカー氏(37歳)に、創設の理由と実際にどのように運営しているのかを聞いてみた。

―何故Blottrをはじめようと思ったのか?

 ベイカー:まず、自分はニュースが大好きだということ。しかし、ニュース業界が向かっている方向に大きな不満を抱いていた。例えば、ある新聞社はウェブサイトを有料化したり、編集人員を削減したり。新聞を広げれば、トップになる記事は大体同じようなものだし。どの新聞もそれほど変わらない。

 ニュース中毒としては既存の新聞を読んでもあまり価値がない。毎日、わくわくして読む感じではなくなっていた。その一方で、テクノロジーがどんどん発展し、カメラつきの携帯電話やスマートフォーンを持っている人が増えているし、どこからでも情報を発信できる時代になってきた。

 そこで、実際に現場にいる人が自分で目撃したことを伝えれば、これほどパワフルなことはないし、ニュースを収集し、報道するやり方としてはすばらしいことになる、と思った。

 2001年の9・11米国大規模テロのとき、大手報道機関が現場に行って、状況を伝えるまでにものすごく時間がかかったことに驚いてもいた。発生現場には何百人もの人がいて、自分でカメラや携帯で現状を撮影していたのに、と。

 実際に現場にいる人が送るニュースには迫力があるし、市民が市民のために作るニュースのサイトを作ろうと思った理由は、こういったことだった。

―構想からスタートまではどれぐらいの時間がかかったのか?

 構想は2010年の初頭で、サービス開始はその年の夏だ。

―設立資金やスタッフはどうやって集めたのか?

 いくつか会社を経営していたが、2007年にその1つを売却した。このときの資金を使って、別のプロジェクトで一緒にやったデベロパーとで立ち上げたんだ。幸運だった。一旦サービスが開始となってからは、もっとデベロパーを雇ったよ。今は社員は自分も含めて9人だ。

―新しいサービスを開始するということをどうやって広めたのか?

 検索エンジンにひっかかるような工夫をしたよ。サイトを探してもらえなかったら、もうアウトだから。ツイッターやフェイスブックなどのソーシャルメディアが特に役に立ったね。

―現在、登録者が5000人で、200万人余のユニーク。ユーザーと聞くが、今後は?

 今後1年で、その倍にしたい。

ー収入の内訳はどうなっているのだろう?

 広告や企業やブランドのスポンサーシップ、それに「ニュースポイント」*(後述)というテクノロジーをほかの企業に販売している。

―投稿者は何を目的で Blottrに記事を書くのだろう?

 基本的には自分の記事が出版されたのを見たいからだろうと思う。特に、かなりユニーク・ユーザー数が大きくなっているので、インパクトは増している。自分が興味を持ったことについて書き、ニュース記事を作る場をBlottrは提供している。参加したいという人は多い。

 具体的には、事件が発生している現場にいた市民、ジャーナリズム専攻の学生など。後者は履歴書に記事の出版経験があると書き込むができる。あるいは、すでにブログなどで情報を発信している人、人に話したいような意見を持っている人など。ブログを書いていても、Blottrに記事が出れば、ブログへのアクセスも増やせる。
 
 サイトの記事は無料で読めるし、投稿者も原稿料は無料で書いている。多くのニュース・サイトが失敗したのは、原稿を書いてお金を稼ぐプロのジャーナリストに、無料で書いてもらおうとしたからじゃないかな。
―どうやって、「ニュース」記事を生み出しているのか?投稿登録者の数は確かに多いが、いつもいわゆる「事件」に遭遇するわけではないはずだ。

 確かにそうだ。いつも事件に出くわすわけではない。事件が発生しそうな場所にいつもいるわけにもいかない。サイトが最終的に狙うのは、登録記者が事件の現場からニュース原稿を送ることだが、いつもそういうわけには行かないから、アクセスが増えるような記事を出すことに力を入れざるを得ないときもある。でも、ニュースといえるような事件に関する報道をしてゆくことで、読み手でもある投稿者が、「これなら自分でも報道できる」と思ってくれて、実際にそうするようになる。

 最初はそうではなくても、この次、外に出かけたときに、投稿しようと思うようになる、というわけだ。書いてくれる人の多くがなにかしらの事件に遭遇してすぐにレポートするけれど、その人たちも、最初の頃は事件というよりも、自分に関心があることから書き出す、というパターンだ。

―「こういう事件があるから、ここに行ってくれ」と編集部から投稿記者に指示を出すことはないのだろうか?

 基本的にはない。しかし、例えばこんなことがある。シリアでは今内戦状態になっている。そこで、編集スタッフはまず、シリアに関する情報を集めて、原稿が入ってくるのを待つ。

 ある人がシリアの現状に関するとてもよい原稿を送ってきたとしよう。編集チームはその人に連絡をして、もっと送ってくれとか、周囲の状況を聞く。「誰かほかに現場にいて、レポートしてくれそうな人を知りませんか?」と聞くこともある。ほかにも投稿記者が見つかれば、現場で一種のチームが結成された感じになる。編集作業を重ねることで、充実した記事が出来上がってゆく。

―記事の信憑性はどうやって確保するのか?

 その点については、私たちも気を使う。出版する記事が事実の面で正確であるように、注意を払っている。アルゴリズムを使って、その書き手のほかの利用者に対する影響度や、書き手自身についてのこちらの情報を分析する。どれぐらい私たちはこの書き手のことを知っているのか、前に書いたことがあるかどうか、投稿の内容を裏付ける写真があるかどうか、動画はあるのか、何人がこの原稿の編集作業に関与しているのか?こうした細かい点をすべて網羅して、「よし、この書き手は信頼できるし、この投稿も信頼に足る内容だ」と言えるようになる。

―原稿を書いて、「投稿」ボタンを押すと、すぐにサイトにでてしまう。これでどうやって原稿の質を確保できるのだろう?文法上の間違いがあったらどうするのか?

 利用者たちが内容を直してくれる。利用者同士の共同作業になっている。利用者には原稿を送るだけでなく、ほかの人の原稿にも手を入れて、編集したり、情報を新しくしたりしてもらっている。編集チームもいるので、文法の間違いがあったら、すぐ直せる。また、内容が中傷あるいは卑猥なものであった場合には、すぐに取り下げる。

―サイトの記事には、「xxxによると」という表記がないようだ。例えばBBCによると、という表現がない。

 確かにそうだ。これは重要な点だ。例えばBBCのウェブサイトを見ると、記事の中で、「AP通信によると」という表記がある。これは、BBCが現地に行っておらず、AP通信の記者がいたので、「AP通信によると」という表現になる。

 Blottrでこれがないのは、書き手が実際に現場にいるからだ。だからほかの媒体を引用する必要がない。

―登録の際の個人の身元確認はどこまでやるのか?

 登録にはまず名前と電子メールのアドレスが必要だ。メールアドレスはあなたが人間であることを証明し、こちらで連絡を取る場合に必要だ。これ以上はなしだ。

―仮名を使ってもよい?

 かまわない。例えば「エルシド」という名前の書き手がいる。非常によい原稿を出す書き手だ。ほかにも仮名の利用者がいる。書き手の本名にはこだわらない。よい原稿を書けるかどうかが決め手だ。

―英メディアを変えているという気持ちはあるか?

 そう思いたいね。最初は知名度を高めるのに苦労したが、次第に、まじめなニュースサイトであること、ほかのニュース媒体より先にニュースを発信していること、ジャーナリストではない書き手が報道を行っているなどが理解されてきた。ニュース界を変えつつある。Blottrの規模がメインストリーム(大手)と言えるほど大きくなったら、市場が変わるだろうね。既存のメディアは古臭い方法でニュースをリポートし、制作している。Blottrは、人々が自分たちで目撃し、リポートしたニュースを掲載する。

―将来は?

 もっとアクセスを拡大することと同時に、今後1年で、さらに海外版を増やしたい。例えば1つはほかの英語圏で、それから、できれば日本語でも始めたい。

***

関連:
Newspoint(ユーザーが作ったコンテンツをブログやサイトに組み合わせるテクノロジー)
http://newspoint.biz/
「欧州ジャーナリズムセンター」の記事
http://www.ejc.net/resources/featured/blottr1/
by polimediauk | 2012-03-30 17:17 | ネット業界
 英メディアとツイッターの話で、「何をつぶやくか」の件である。

 組織に勤める記者で、会社から公式アカウントをもらってツイッターをやっている人の場合、組織人としての発言になるわけだから、つぶやく内容には一定の制限がかかる。

 まず、組織の側が記者のツイッターに期待するのは、

 「組織の人間として、担当分野にかかわる様々な気づき、発見、最新の情報などを、なるべく多くの数の読み手に、発信する」ことだろう。目的は、広い意味の広報・宣伝活動である。

 その結果、広い範囲の情報の受け取り手に対し、組織の名を広め、例えばニュースであれば報道機関としての優位性を示し、発行する新聞を買ってもらい、あるいは番組を視聴してもらい、ウェブサイトに1人でも多く来てもらうことを狙う。

 何故フェイスブックだったり、ツイッターがその手段となるのかは、前々回のエントリーに書いたが、潜在的読者や視聴者がそこに生息しているからである。

 新聞のウェブサイトに来て記事を読んだり、番組の視聴へといざなう際の、決め手となっているのが、こうしたソーシャルメディアの場である。マス向けの広告よりも、「BBCのxx記者がこう言っている」という、個人の顔を出した情報に、より付加価値がつく。

 「読者あるいは視聴者と直接つながる」ことが業務の一部となっている状況を、前回紹介した、民放ITVテレビのローラ・クエンスバーグの例で見てみる(ガーディアン、1月29日付記事)

 クエンスバーグはITVの夜のニュース番組の経済記者だ。まず、午前7時ごろから、新聞を読んだり、昨晩のニュースをチェックする。それからITVのウェブサイトにある、自分のブログに今日の見立てを書く。これが2-3時間。その後、英議会や金融街シティに出かけ、取材。午後4時にはスタジオに入って、6時放映のニュースの準備のための原稿作り。午後8時からは10時のニュースの準備。こうした作業の合間を縫って、現在の経済状況やその日のニュースに関してツイッターで情報発信。

 「ツイッターは記者の仕事の一部になった」とクエンスバーグ。視聴者が「すぐにニュース情報を得たがっている。たくさんの視聴者がすでにツイッターやフェイスブックを使っているので、私たちもその中に入らないと、置いてけぼりにされる」。

 2-3年前には、通信社から流れる情報をコンピューターで常にチェックしていた。今は、ツイッターを見ているほうが情報が早いという。「経済情報を出す人たちがツイッターを使って情報を出している。だから通信社電より早い」。

―入ってきた情報をかたっぱしからツイート

 では、一体、どんなことをツイートしているのだろう?

 27日付のツイートでは、「これから2-3日は出ないけれど、ITVニュースを見ててね」というメッセージが。https://twitter.com/#!/ITVLaura

Thanks for all your tweets as ever - I'm not around in next few days so keep up with @itvnews - see you!

 1つ前が、

 「切手の値上げで郵便制度の穴を埋められるだろうか?民営化への準備か?午後10時のニュースを見てね」である。(その少し前を見ると、利用者から郵便を利用するかどうかの問いがあった。)

 Is rise in stamp price really just to fill a hole in Royal Mail's balance sheet? Or preparing for privatisation - watch @itvnews at 10

 これの1つ前が 「キャメロン首相は地下鉄ジュビリー線が経済を活性化するといっているけど、おっと、キング英中銀総裁は経済が縮小するといっている」。

 Cameron said the Jubilee would give us the chance to 'go for it' - but oops, Mervyn King says Jubilee impact will lead economy to shrink

 フォロワーたちとの相互コミュニケーションや、番組視聴への誘い、キャメロンとキング総裁の発言の比較を通して、新たな視点を読者に提供している。

 スカイテレビの制作プロデユーサーの1人、ニール・マンも著名なツイッター利用者の1人だ。「個人的な意見」という断り書きがプロフィールに付く。

http://twitter.com/#!/fieldproducer

 今見たら、例えば、@WyreDaviesの情報、「バグダッドの中心部で3つの爆弾が爆発」をリツイートしていた。自分がフォローする人から受けた情報を、自分の興味がおもむくままに、流しているわけである。
 
RT @WyreDavies: At least 3 explosions heard in central #Baghdad. No idea what or where yet.

 「両方の陣営でプロパガンダの戦争が起きていることを、とても多くの人が忘れているよね」と2人のフォロワーに向かって書く。

@stuartdhughes @marklittlenews so many forget that there is a propaganda war on both sides.

 彼が英国のメディア関係者の間で人気になったのは、情報が早く、重層的であったことだ。様々な情報源からの情報を、すばやく、コメントつきで流してゆく。やはりここでも、「双方向のコミュニケーション」がある。

―スクープはどうするか?

 ツイッターで、スクープ情報を流してもいいのだろうか?特に、組織の公式アカウントを持っている記者はどうするか?まずは組織のデスクに流してから?

 BBCや衛星放送スカイテレビのスカイニュースは、規定では「編集部に連絡を入れる」「編集部に情報を先に流す」などの行為の後で、ツイッターで発信することを推奨している。

 しかし、これはその時々で変わるのかもしれない。実際に、多くのスクープを出している、BBCのビジネス担当記者ロバート・ペストンの場合、http://twitter.com/#!/Peston  @Peston テレビのニュース番組でスクープを流す前に、ツイッターやブログで出したことが何度もあると言われている。

 前に、デイリー・テレグラフ紙の編集室で話を聞いたことがあったが、翌日の紙媒体でスクープを出す前に、ウェブサイトで出すことをやるようになった(適宜)ということで、それは、「テレグラフが最初に報道した」ということさえ、周囲が理解すれば、「どんな形でもかまわない」ということであった。

 これで行けば、例えば、午後10時のBBCのテレビのニュースに出るペストン記者の場合、視聴者がこの時間にテレビの前に座っていればいいが、多くの人がテレビを見ていなかったり、外出していたりする確立は高い。ブログやツイッターで流せば、特に後者の場合、瞬時に利用者の携帯電話などに流れるわけで、「最初の報道がBBCだった」ということにしたいのであれば、テレビの10時にこだわる必要はなくなる。速さを競う報道機関にとって、ツイッターは非常に便利な媒体である。

-個人的な話は(あまり)書かない

 「個」が見えるツイッターではあるが、英メディアでジャーナリストとして発言している人の場合、「お昼に何を食べた」などのプライベートな話はあまりしないのが、1つの特徴であるようだ。

 例えば、前に紹介した、スカイニュースの記者はアカウントが記者としてのものであることを自覚し、ニュースがらみの話に徹底しているという。というのも、「ニュースには関係のない、プライベートなことを書いていたら、がくんとフォロワー数が落ちた」からだ(マーク・ストーン記者)。

―個人裁量でつぶやく

 記者が公式アカウントでつぶやくとき、英メディアの場合(ほかの国も同じとは思うが)、その内容については、原則、自分が決めている。流す前に上司などに相談するのは、特別な事情(スクープなど)を除き、ないようだ。

 ただ、BBCの場合、つぶやき内容をソーシャルメディアの担当者が「監視」(モニター)しているという。ブログの場合、BBCでは書く本人とその上司という最小限のチェックで画面にでるようだ。かなりの個人裁量が発揮できる。

―米国の例

 2011年5月、The American Society of News Editors(全米ニュース編集者協会)がソーシャルメディアの利用についての各社の方針を文書化している。

http://asne.org/Article_View/smid/370/ArticleID/1800.aspx

 ブルームバーグからワシントンポスト、ウオールストリートジャーナル、ニューヨークタイムズなど、主に米国のメディアを中心とした、ガイドラインの紹介である。

 APのガイドラインは以下。

http://www.mediabistro.com/10000words/ap-updates-social-media-guidelines-to-address-retweets_b8179

 いずれも、ソーシャルメディアの利用を奨励しながらも、気をつけることを列記している。

ー企業とソーシャルメディア

 フィナンシャル・タイムズが3月8日付けで、従業員がソーシャルメディアをやることについて、企業側はどう考えるべきかを米ガートナー社アナリスト、キャロル・ローズウェルに聞いている。

―何故、企業はソーシャルメディアに関する方針を持つべきなのか?

 従業員がすでに使っているから。

―どうやったら、意味のある方針を作成できるのか?

 組織がすでにある内規に準じるものにする。ソーシャルメディアの利点を忘れないように。よい方針・ガイドラインには以下の要素が入っている。

*従業員がソーシャルメディアで取るべき行動とその理由
*1-2ページに収まる
*組織の文化や価値と一致している
*関連するガイドラインや教育用資料にリンクさせる

 ローズウェル氏は、ソーシャルメディアを通じて、「企業は(企業が提供するサービスの)利用者とつながり、会話を交わす機会が持てる」、「まだこれがどんな意味を持つのかを、私たちは学んでいる最中だ」と述べている。

―止められない動き

 BBCのテクノロジー記者ローリー・ケアリン=ジョーンズは、ブログ(2月8日付)の中で、ソーシャルメディアは報道機関の編集室の「力関係を変えた」と書く。「新しい世界」を知っている若い記者たちが、自力でメディアの評判を作り上げることができるようになった、と。

 「かつては、ニュースのデスクにすべての権力が集中していた。署名記事が書けるのは一部の記者だけだったし、新聞が出る前に情報を外部に出したら解雇された時代だ。そんな時代に時計の針を戻したい人はいるだろう」、しかし、「もう遅すぎる」と書いている。
http://www.bbc.co.uk/news/technology-16946279








 
 

 

 
by polimediauk | 2012-03-29 21:50 | ネット業界
 NHK堀さんのツイッターアカウントの件で、話が盛り上がっているようだが、ひとまず、英メディアとツイッターの話で前回、入りきれなかったことを紹介してから、この件を考えてみる。

―司法界

 ツイッターを利用する人がどんどん増える英国で、昨年末、イングランド・ウウェールズ地方(英国の人口の5分の4を占める)で、裁判を傍聴する記者が事前の許可なしにツイッターや電子メールを通じて法廷から外部にツイートすることが認可された。

http://www.bbc.co.uk/news/uk-16187035

 これ以前の話として、2010年末、ウィキリークスの創始者ジュリアン・アサンジの裁判で、記者らが(許可なく)ツイートを始めた事件があった。昨年5月には、芸能人らのスキャンダルを巡って、裁判所が報道禁止令を出していた件で、ツイッターに当事者を特定する書き込みが多数発生した。禁止令は有名無実化してしまった。

 今年2月には最高裁がツイッターを開始している。アカウント:@UKSupremeCourt

―人種差別発言で有罪

 ツイッターは気軽に情報発信ができるが、学生が黒人サッカー選手に関する人種差別的発言をして、逮捕される例も出ている。その一つは、3月17日、サッカー場で倒れた、ザイール出身のファブリス・ムアンバ選手について、人種差別発言をツイッターで流したリアム・ステーシー君(21歳)。28日、ステーシー君に56日間の禁固刑が下った(チャンネル4)。 

http://www.channel4.com/news/muamba-tweets-man-could-face-jail

―組織で使うアカウントは誰のものか?

  組織名が入ったアカウントの場合、使い手・記者は「組織の一員としての発言」を求められる、と考えるのが普通であろう。

 しかし、組織を出て、別の組織に移動した人の場合、前の組織で作ったアカウントのフォロワーたちは、誰のものなのだろう?

 昨年夏、公共放送最大手BBCの政治記者ローラ・クエンスバーグの民放ITVへの移籍が物議をかもした。

 というのも、記者はBBC名が入った自分のツイッター・アカウント(@BBCLauraK )に約6万人のフォロワーを持っていたが、ITV側は移籍後のアカウントとして@ITVLauraKを登録していたからだ。

 クエンスバーグがこれほどの数のフォロワーを持てたのは、BBCの記者として画面に登場していたからだが、果たして、BBCという組織はクエンスバーグのフォロワーたちを「所有」しているのだろうかー?

 現在のところ、BBCが所有権を主張する法律がないようである。過渡期なのだ。

 さて、3月末時点で、クエンスバーグのITVのアカウントのフォロワーは7万5千人を超えている。記者はBBC時代のフォロワーをライバル局に「持っていった」ことになった。BBCは悔しいかもしれない。でも、残念ながら、どうすることもできないのが現状だ。

 もともと個人同士のコミュニケーションの活発化のために発展したソーシャル・メディアは、参加者一人ひとりの価値観や特徴が強くにじみ出る性格を持つ。

 既存のメディア組織で働く記者にとっては、情報の発信媒体と受け取り手との間に存在していた格式ばった隔たりが消失し、記者個人の見立てによる情報の発信が可能になった。

 組織の側からすればツイッターはブランドの価値を高める一手法だが、情報の受け取り手は記者個人の視点や専門性、性格などに共鳴し、フォロワーとなる。

 記者のツイッター・アカウントのどこまでが個人のものでどこまでが組織に所属するのか?その境界線は、あいまいだ。

 クエンスバーグの例で考えると、BBC時代の彼女の6万人のフォロワーが「BBCの所有物」として、もし法的に定義されたとしても、BBCはこの6万人の大多数が、クエンスバーグの新しいアカウントに流れることを止めることはできない(もちろん、この6万人が、クエンスバーグの現在の7万5000人のフォロワーの中の6万人とぴったし同じ人であるという証拠はない。しかし、大部分は重複していると考えるのが妥当であろう)。

 つまり、「止められない」ので、「何ともしようがない」という部分がある。

―NHK堀さんのアカウントについて

 NHKの番組アナウンサー堀さんのアカウントが、担当番組が終了するために3月いっぱいで使えなくなるそうで、議論が沸騰している。

http://blogos.com/discussion/2012-03-28/nhk_HORIJUN/

 私も意見を少し書いたのだが、まず、このアカウント名は@nhk_HORIJUNで、番組名が入っていない。つまり、番組終了後も、もし掘さんがNHKに勤務し続けるのであれば、使えるアカウントである。9万人ものフォロワーがいるのであれば、このまま利用できるようにすれば、と思うけれどー。

 「特定の番組のアナウンサーとして作った」アカウントであるならば、別のアカウントを新たにNHKに作ってもらったらどうだろう。今度は担当職務の変更でその都度、変えないようにしてーー察するところ、これができないので、「さよなら」というつぶやきになっているだろう、おそらくー。(この部分が実はすごく深いのだろうと想像する。)

 このアカウント名にどうも「秘密」があるような気がしてならない。番組名が入っていないアカウントを、その番組の担当からはずれるからといって、「返上する」というのは、やや外に立って物事を眺めると、どうにもおかしい。不思議である。

 これを機に、NHKのほうで、「記者、編集者には積極的にツイッターによる情報発信をしてほしい」ので、改めて、「堀さんをはじめとする様々な人に公式ツイッターアカウントを作ります」―と言ってほしい。どうであろうか?

 結局、問題は、「番組担当中にのみ、ツイッターで情報発信をさせる」という方針を、NHKが持っているかどうか。「もし」そうならば、その方針を変更することはできないものだろうかー?

 (長くなったので、「何をどこまで発信できるのか?」については後日。)

***追記***

 後でいくつか、思ったことをメモする。(ツイッターでも流そうと思う。)

 ①NHKのツイッター(あるいはソーシャルメディア)についての方針で、文書の形にしたものがあるのであれば、これをできれば公表してはどうだろうか?これがないと、話が憶測に基づくことになりがちだ。 (前のエントリーに書いたが、英BBCではこれをウェブサイトで公表している。)

参照:BBCのソーシャルメディア方針
公式アカウント用:
Social Networking, Microblogs and other Third Party Websites: BBC Use
http://www.bbc.co.uk/guidelines/editorialguidelines/page/guidance-blogs-bbc-summary

個人利用用:
Social Networking, Microblogs and other Third Party Websites: Personal Use
http://www.bbc.co.uk/guidelines/editorialguidelines/page/guidance-blogs-personal-summary
ツイッター利用規定
http://news.bbc.co.uk/1/shared/bsp/hi/pdfs/14_07_11_news_official_tweeter_guidance.pdf
公式ブログ、ツイッターアカウントの表
http://www.bbc.co.uk/news/help-12438390

 ②これがNHKバッシングにつながらないといいな、と思う。

 ③組織側からすると、いい意味の広報役を失うことになるが(9万人もいるので)、もったいなくはないのだろうか?

 ④堀さん(あるいは同様に、組織内でツイッターをやっている人など)は、ひとまず、個人でアカウントを作ったら、どうか?組織が方針を変えるまでには時間がかかるし、組織には組織の理由があるかもしれない。だから、それを待つのではなく、自分で、個人の資格でやる、というわけだ。

 実際に、日本で、社名が入ったアカウントを持つ人でも、「所属組織の意見ではない」「個人のツイートである」ことを明記して、やっている人は結構いるので。

 ⑤「わざわざ、ツイッターをやる必要はないんじゃないか?」という意見をBLOGOSで見たけれど、今、情報を取ることを仕事とする人は、特にニュース報道や情報番組を作っている人は、ツイッターで情報収集をしないと、出遅れる感じがする。記者・ジャーナリスト「だからこそ」やるべきと個人的には思う。自分が発信しなくてもいいから、情報収集だけでもー。

 とりあえずー。 



 



 
by polimediauk | 2012-03-28 20:55 | ネット業界
 英国の大手メディアがソーシャルメディアをいかに活用しているかについて、「新聞協会報」(3月27日号)に書いた。かなり大きなスペースをいただいたのだけれども、いろいろなことが起きていて、調べた分だけでもすべてを入れることができなかった。

 今回は、ひとまず、協会報掲載分に若干補足したものをここで紹介し、次回のエントリーで、入りきれなかった論点を紹介してみようと思う。

 ***

 英大手メディアは、インターネット上で参加者が情報を提供・交換・共有するサービス、「ソーシャルメディア」の活用を活発化させている。

 ネットが情報収集の大きな場として成長する中で、リアルおよびにバーチャルな友人・知人による口コミが情報の収拾選別の方法として広まってきたことが背景にある。

 速報性に優れることで大きな注目を浴びる短文投稿サービス「ツイッター」の例を中心に、これまでの経緯やガイドラインをまとめてみた。

―ツイッターで一報

 英国のメディアがウェブサイト上に日記形式の「ブログ」を取り入れたのは2003年頃である。

 翌04年初頭には米国でソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の元祖ともいうべき「フェイスブック」が始まった。これは「友達」であることを互いに承認する形でバーチャルな友人網を作り上げるサービスで、現在までに世界中で8億人が参加する。

 06年、米でサービスを開始したツイッターは、利用者が140字以内の短文で投稿すると、その内容が複数の「フォロワー」(情報を追う人)たちにいっせいに発信される仕組みだ。

 フェイスブックは相互承認を必要とする友人同士という閉じられた空間での情報交換であったが、ツイッターは承認を受けずに、情報発信者を「フォローする」(発信者の投稿内容を自分のサイトに反映させる)ことができ、原則オープンな空間での情報提供・共有ツールだ。

 ツイッターは、情報の収集や発信などジャーナリズムのツールの1つとして、英国では頻繁に使われている。その威力を発揮したのは、昨年夏のロンドンやイングランド地方各地での暴動だった。

 衛星放送スカイ・ニュースのマーク・ストーン記者は、次に暴動が発生しそうな場所の情報を自分の携帯電話の画面から「同僚によるツイッターで知った」。現場に駆けつけ、状況を携帯で撮影し、動画を編集部に送信。撮影から編集部に送信するまでに要した時間は「10分ほどだった」(3月7日、ロンドンのイベントでの発言)。

 同事件の取材で、最初の5日間、現場では「紙のノートにメモを取らなかった」、とガーディアン紙の記者ポール・ルイス氏が語る(同イベントで)。

 ルイス記者は報道の最初の一歩としてツイッターを使うという。「見たことをすぐに発信する。事件が進展するにつれて、次々と細切れに情報を出してゆく」という。「長い記事は後で翌日用に書く」。

―個人と組織の兼ね合い

 個人同士のコミュニケーション進展のための媒体であるソーシャルメディアを、組織で働く記者が利用する場合、「個人による情報発信」という面と、「組織の一員としての情報発信」という面が出てくる。

 2つの面の兼ね合いについて、スカイ・ニュースのストーン記者は、ツイッターでは「記者としての情報を出しており、日常の個人的な生活に関してはつぶやかないので問題がない」と述べた(同イベント)。

 各メディアのソーシャルメディア用のガイドラインを見ると、ガーディアン紙は、ブログやネット上で読者から寄せられた意見について、記者あるいは編集者が「建設的な意見交換に従事する」「事実の根拠をリンクで示す」「事実と意見の違いを明確にする」ように、と規定する。

 同紙ではアラン・ラスブリジャー編集長が率先してツイッターでの情報発信に従事する。内容は主に紙面で扱うトピックに関するものだが、09年には国際石油取引会社による汚染物廃棄をツイッターで暴露した。

 民放チャンネル4のニュース番組「チャンネル4ニュース」では、記者全員がツイッター・アカウントをもち、ブログを書く。

 「自分らしさを維持すること」を記者らに伝えているという(ウェブサイト担当者アナ・ドーブル氏談)。記者のツイートを発信前に確認することはない。指針とするのは、「放送中に言えないことは、ネット上でも言わない」だという。

 スカイ・ニュースの内部向けガイドラインによると、同ニュースの記者としてのアカウントを使用時、「自分が関与してないニュースについてはツイートしない」「他局のニュースを再発信(リトイート)しない」(その情報の真偽が確認できないためと、自局の編集過程を経ていないため)のほか「スクープ情報は最初に編集デスクに連絡し、その後にツイートする」などの規定がある。

 スカイ・ニュースはツイッターで数多くのスクープ情報を出してきた過去を持ち、自局以外の情報源から集めた情報を再発信することで、多くのフォロワーを集めた著名編集者がいることもあって、こうした規定が2月7日、ガーディアン紙を通じて暴露されると、「記者の口を封じる」「自由な情報の拡散を阻害する」などの反発がツイッターやブログ界で多数出た。

 BBCは詳細なガイドラインとソーシャルメディア参加者の名前などの情報をウェブサイト上に公開している。

 ツイッターに関しては、個人用アカウントとBBCニュースの一員としてのアカウントについてのガイドラインが分かれる。個人用のアカウントではBBCの評判を落とすことがないよう、「分別ある」振る舞いをすること、アカウント名にBBCを入れないこと、発信内容は個人の意見であることを明記すること、と定めている。

 公式アカウントの場合、BBCニュースのウェブサイトのコンテンツの1つとなる。所属する部門の上司と相談の上、ソーシャルメディアの専任編集者からアカウント名をもらう。不偏不党のBBCの編集方針に沿ったツイートが奨励される。スクープの場合は、ツイッターで公的空間に流す前にBBCの編集部に情報が流れるようにする、という項目が2月8日、追加された。

 一連の規定は、ツイートによる情報発信の速度を遅らせる(=スクープ発信が遅くなる)、SNSに特有の情報発信者の個人的な視点が阻害される(この点が失われると、ツイートがメディア企業の単なるPRになってしまう)などのリスクがある。

 記者の見立てで瞬時にネット上で情報を発信できるという特徴を持つツール、ツイッターの取り扱いを含め、ソーシャル・メディアのガイドライン作りには、今後、紆余曲折が見込まれる。
by polimediauk | 2012-03-28 00:17 | ネット業界
 昨年3月、日本では東日本大震災が発生し、福島県にある複数の原子力発電所が危機状態に陥った。その後、ドイツが原発からの完全撤退を表明し、イタリアでは国民投票で原発建設に反対の意が表明された。1950年代半ば、世界で初めて商用原子炉を稼動させた英国では、福島の原発事故以降も、新規原発の建設も含めこれまでの方針を変更しないようだ。

 原発における英国の立ち位置を検証してみた原稿を、「英国ニュースダイジェスト」に出している。最新号のニュース解説には、原発の場所や稼動年が入った地図がついているので、ご覧いただけたらと思う。

 http://www.news-digest.co.uk/news/news/in-depth/8732-nuclear-energy-in-uk.html

 以下は、本文部分に若干補足したものである。


***
 英国の原発の今 
―「クリーンなエネルギー」の行方は?


 
 原子力の民事利用の規制・監督団体「原子力規制庁」(Office for Nuclear Regulation=ONR)は、昨年10月、東日本大震災による原発事故が英国の原子力産業に与えた影響について調査報告書を発表した。福島原発の被害状況を査定した上で、ONRは、福島の事例によって英国の原子力産業のこれまでの方針や今後の計画を変える必要はないと結論付けた。

 その根拠として、事故が発生した福島原発では軽水炉型の原子炉が使われていたが、①英国ではガス冷却型であるため、同様の経緯での危機に発展しにくい、②ほぼ10年ごとに各原発が安全性の点検を監督団体から受けている、③規制・監督団体が原子力業界から独立している上に、原発推進策をとる政府からも独立している、③大規模な津波や地震が発生する確率が低い、などを挙げている。

 報告書は、最終的に「英国の原子力施設に、基本的な安全上の弱点があるとは思えない」とした上で、換気、予備の電力設備、使用済み核燃料棒の処理、洪水発生時の対策などを常に見直し、必要あれば改善させるよう推奨した。

 私たちが原子力と呼んでいるのは、ウランやプルトニウムの核分裂、放射性物質の崩壊、重水素・トリチウムなどの核融合により放出される核エネルギーだ。原子核反応により発生するエネルギーは、化石燃料の燃焼などの化学反応により発生するエネルギーに比べて桁違いに大きい。

 1940年代、英国の科学者たちは原子力を主に軍事目的で開発していた。英国最初の原子炉は、1947年、英南部オックスフォード州ハーウェルに設置された。世界初の商用発電の開始は1953年で、イングランド東北部カンブリア地方に設計された施設ウィンドスケールのコールダー・ホール原発(マグノックス炉―関連キーワード参照―を使用)であった。その後、より効率的でより出力の大きな原子炉の調査・開発が進んでいった。

 現在、英国では原子力が国内の電力供給の中で約19%をカバーしている。ちなみに、日本はこの割合が30%近くに上る。

 原発事故も経験済みだ。1957年にはウィンドスケールで火災が発生し、大量の放射線汚染物が拡散された。2005年にはセラフィールドのソープ核燃料再処理施設のパイプの隙間から20トンのウラニウム、160キロのプルトニウムが漏洩した。

―原子力=クリーンなエネルギー

 近年、地球温暖化への懸念が強まる英国では、原発は二酸化酸素を排出しないクリーンなエネルギーとして受け止められてきた。歴代の政府は「事故発生率が低い」点も原発の利点として挙げた。環境擁護運動の推進者たちは、核廃棄物の最終保管場所が決定していないことを問題視し、英国保守層の国民の多くは、英国が誇る田園の景観を損なう風力発電用施設の建設こそが大問題だと訴えてきた。

 原発の長い歴史を持つ英国は、初期に導入した国であるからこその悩みを持つ。原子炉の稼動期間は大体40年ほどだが、その後、効率や出力の面で機能が向上したにもかかわらず、国内に旧型の原子炉を多く抱えているのだ。

 今後、次々と旧型原子炉は稼動停止となる時期を迎える。現在稼働中の原子炉の中で、2024年以降も稼動予定なのはサイズウェルBのみ。この原子炉も2035年を最後に稼動停止となる。

 原子炉は建設計画から施設の完成までに10年から15年かかるため、2020年代以降、継続して原発を利用するのであれば、緊急に建設に着工しないと、電力出力に問題が生じる可能性がある。政府は新規原子炉の建設をすでに決定しているものの、福島原発事故以降、世論には逆風が吹き出してきた。

 電力生産に穴を開けないためにも、風力発電などの再生エネルギーの生産に政府としては力を入れたいものの、景観などの面から建設予定地の地元民からの反対運度が起きている。3月11日、東日本大震災の1周年記念日、新規原発建設予定地ヒンクリー・ポイントで、住民らによる建設に反対する抗議デモが起きた。

 福島原発事故の後、英国は欧州他国とは異なり、原発計画を大きく変更させなかった。しかし、「原発=国の将来を託すに値する、安全な、環境保護の面でも正しいエネルギー供給源」という楽観論は少々あせたように見える今日この頃だ。

―関連キーワード:Magnox:マグノックス炉。

 核分裂で生じた熱エネルギーを、高温の炭酸ガスとして取り出す仕組みを使う、英国が開発した原子炉のタイプ。名前の由来は、超高温に耐えうるマグネシウムの新合金「マグノックス」を使用したため。主に核兵器に使用する濃縮ウランを生み出すために設計されたマグノックス炉は、1956年、英コールダー・ホールで初稼動した。世界最初の商用原子炉で、これを原型として、多くのガス冷却型原子炉が実用化された。日本発の原子力発電所である東海発電所にも導入されている。コールダー・ホールのマグノックス炉は2003年稼動停止。47年間の長期にわたる稼動だった。
by polimediauk | 2012-03-23 03:15 | 英国事情
 14日、BBCの経営陣トップ(ディレクター・ジェネラル)、マーク・トンプソン氏が、ロイヤル・テレビジョン・ソサエティーの会合で、スピーチを行った。

 私も話を聞いた聴衆の1人だった。トンプソン氏はディレクター・ジェネラルになって8年目。そろそろ、辞め時か・・・という噂も出ている。そこで、「いつ辞めるのか?」、「これまでの最大の失敗は何か」という点に、会場の質問が集中した。

 しかし、もっとも刺激的だったのは、「プロジェクト・バルセローナ」(=バルセロナ計画)の話である。この話はその後、ニュース媒体でどんどん配信された。

 これは何かというと、利用者が、BBCの過去の番組(過去といっても、うんと昔というよりも、放送直後にという意味)=デジタルアーカイブを「少額で」買って(ダウンロードして)、永久に所有できるサービスだ。

 トンプソン氏は「オープン・アップ」という言葉を使っていた。複数の販売網から販売する構図が思い浮かぶ。DVDを販売しているお店に足を運んで、BBCの過去の作品を買うのと同じように、デジタル・アーカイブ化した番組を、「デジタル・ショップ」でダウンロード販売する、というわけである。

 ふと、楽曲や映画を販売するアイチューンズのBBC版が登場するかもしれないと思い、なんだか心がときめいた。

 今でもアイチューンズでは、BBCの過去のテレビ番組などがダウンロード購入できる。しかし、BBCのアーカイブ番組は膨大である。これをそのまま、自局のシステムあるいはほかの業者による販売網を通じて売ることができれば、BBCにとっては、非常に大きな収入となることが想像できる。

 前者の場合、つまり、もしBBCが新たな販売システムを作って、利用者が番組を直接買うようにすれば、アイチューンズに任せるより、もっと利益を得られるかもしれないーー例えば、フィナンシャル・タイムズが自社販売網でアプリを提供しているように。(今、デジタル時代の進展で「中抜き」現象がいろいろなところで発生している。そういう文脈の中では、一定のブランド力を持っている、デジタル・コンテンツ所有者の中に、「アイチューンズ抜き・はずし」?のようなことが起きているのかもしれない。――ただし、トンプソン氏がアイチューンズを使わないといったわけではない。ただ、その話し方によって、アイチューンズに依存しない可能性を大きく示唆したわけである。)

 いよいよ、BBCというか、英国のテレビがデジタル化してきたなあと思う。

 BBCが新規のサービスを開始するとき、必ずBBCトラストという、日本のNHKの経営委員会にあたる組織におうかがいをたてなければならない。トラストは内部での議論のほかに、識者に聞いたり、国民から意見を募ったりして、結論を出す。これが今年中に開始され、もしOKとなれば、早ければ来年以降にサービス開始となりそうだ。

 英テレビ界は今、BBCと民放の番組が参加する、ネット上のオンデマンド放送のサービス「ユービュー」の開始に向けて、歩を進めているところだ。「(参加しないテレビ局の)ビジネスを阻害する」などの理由で、実現が難しくなっていた。

 スピーチの中で、ユービューについては7月末開催の「ロンドン・オリンピックまでに開始したい」という箇所があったので、後でトンプソン氏に確認してみると、「そうなるように努力中」と話していた。

 一方、英国のラジオ放送がネット上で一括して聴けるサービス、「ラジオプレイヤー」が人気だ。

 BBC及び民間のラジオ局の番組が、同時放送及びオンデマンド、ポッドキャストでも聴けるサービス、「ラジオプレイヤー Radioplayer」http://www.radioplayer.co.uk/が、好調に成長を遂げているという。

 日本でラジオというと、テレビの後ろに隠れた存在として受け止められているかもしれないが、英国では(というか、欧州では)若者の間でも、かつ知識層の間でも、一定の位置を占める堂々としたメディアだ。

 例えば、BBCラジオの教養番組チャンネルといっていい「ラジオ4」では、毎週、数人の学者を呼んで様々なトピックに関して議論をする、かなりハイブラウな番組「イン・アワ・タイム」があるが、これを後にダウンロードして聞く人が非常に多い。

 「ラジオプレイヤー」のサービスの運営自体は非営利になっており、この組織はBBCと商業放送が資金を出し合って成立している。現在までに、315局の放送が聴ける。

 テレビ界がユービューを開始できずにごたごたしている間に、ラジオ界が先に「ここに行けば、(ほぼ)すべてがある」というサービスを一年前に始めてしまったわけである。しかし、ユービューのサービスにラジオプレイヤーも参加予定となっているそうなので(以下のテレグラフ紙記事参照)、ユービューはテレビもラジオもネットで視聴できるサービスとなりそうだ。

 ラジオプレイヤーはPCやラップトップで使うことを前提に作られているが、5月あるいは6月ごろに、専用の携帯アプリができるという。

 テレグラフ紙の記事によれば、ラジオプレイヤー側は、アップルやアンドロイド携帯の製造会社に対し、携帯がWI-FIや3Gにつながっていない状態でも、ラジオプレイヤーが使えるように、FMチップを入れてもらうなどの方法を工夫するよう、交渉中だという。

BBC chief plans iTunes-style TV download service
http://www.reuters.com/article/2012/03/15/net-us-britain-bbc-idUSBRE82E0TX20120315
Radioplayer: an internet success the TV industry couldn't manage
http://www.telegraph.co.uk/technology/news/9145111/Radioplayer-an-internet-success-the-TV-industry-couldnt-manage.html
by polimediauk | 2012-03-16 23:22 | 放送業界
 英国の新聞の発行部数(2月)を、先日、改めて確認してみた。

 英国の新聞は、地域によって、全国紙、地方紙、中身によって大衆紙、高級紙、発行頻度によって日刊・朝刊紙、日刊・夕刊紙、日曜紙、週刊新聞、お金を払うか払わないかで有料紙、無料紙に分かれるのだけれど、とりあえず、主要全国紙の比較である。

 発行部数と前年同月比でどれぐらい減ったかを、英ABCの調査でみると(最後に数字を補足)、分かっていたようでも、その下落振りにはいささかの衝撃を感じざるを得ない。

 例えば、英国の日刊紙で最も売れている「サン」(大衆紙)。これは前年同月比で、約8%の下落。同じく大衆紙で、もっとどぎつい女性の裸の写真を堂々と1面に出す「デイリー・スター」は14%の下落。

 高級紙では経済紙の「フィナンシャル・タイムズ」が16%の減少。「ガーディアン」はマイナス17%。そして、「インディペンデント」紙が42%減なのだ。(もっとも、インディー紙のここまでの減少には、後述する別の理由があるのだけれどもー。)

 こういうレベルの下落は、昨日や今日始まったことではなく、毎月発表されるABCの調査によれば、近年、継続している。

 こうした数字がしっかりと私たちに教えてくれることは、「紙の新聞を読まない人が増えている」状態から、「紙での印刷出版が、これまでの考え方の経営では成り立たないレベルに向かって、一直線に進んでいる」ことだ。紙が消えるといってしまうとなんだか衝撃的な表現となるが、少なくとも、デジタル版が主で、紙はおまけにならざるを得ない方向だ。数字がそういっている。

 道理で、フィナンシャル・タイムズが、紙版を手に取ると、本当にスカスカになり(骨組のみ、という感じ)、強気でデジタル版をプッシュしているはずである。

 新聞の内容や質に対する、読者からの何らかの異議申し立てで部数が減っているのではなく、単に、「紙では、もう読まない」ということなのだ。これが1つの大きなメッセージだろうと思う。

 しかし、最近のトレンドとして、あと2つ、特徴があろうかと思う。

 それは、無料紙の存在である。無料紙といっても、正真正銘の新聞だ。ただ、小型判で、記事が読みすい。20分もあれば、通勤電車の中で読めてしまう。

 朝は朝刊無料紙メトロ(全国では約140万部、ロンドンでは80万部)があるし、ロンドンだったら、午後から夕方にかけては「ロンドン・イブニング・スタンダード」(約70-80万部)が無料で配られている。ロンドン金融街向けの朝刊無料経済紙CITY AM(約10万部)も何とか経営を続けている。ロンドン近辺に限ると、1日に160-170万部の無料新聞が手に入るのだ。

 ロンドンで電車に乗ると、こうした無料新聞を手にしている人がとても多い。久しぶりに「スタンダード」を開いてみたら、前はファッションやゴシップが多かったが、今は、独自調査の社会派ネタが前面に出ていた。新所有者のロシア人・レベジェフ氏は、スタンダード紙を少々、高級向けにしたいと述べていたが、それが実っているのかもしれない。

 そこで、トレンド2としては、「わざわざ買っては読まないが、無料だったら、読む人が結構多い」ことだ。電車に乗ったら新聞を広げるーこれはまだまだ1つの習慣であるし、座席などに読み終わった新聞が置いてあれば、ふと手にとって読む・・・ことをしてしまうわけである。アマゾン・キンドルや時にはアイパッド、またはスマートフォンでニュースやメールを読んだりする人がいる中で、無料新聞を読む人もいる・・・そんな感じである。

 そして、もう1つのトレンド(といっても、最近の話でもないが)だが、先ほど、インディペンデント紙の発行部数が、前年比で42%落ちたと書いた。これには理由があって、それは、少し前から、同紙は弟分とも言うべき新聞「i(アイ)」を発行しているのである。

 「アイ」は中身的には無料新聞に近い。インディペンデントの記事を読みやすく書き換えたり、レイアウトを変えて、掲載の記事本数は減らして作っている。そして、値段を、本紙の5分の1である、20ペンスにしているのだ。これがものすごい伸びを示している。インディー紙が10万部売れているのに対し、アイは約24万部。すっかり逆転してしまった。

 つまるところ、読者としては、一部1ポンド(約120円)は高いと思うようになっている。新聞をたとえ読みたいと思ったとしても、まずは無料か、あるいはせいぜい20ペンス(約24円)ぐらいで入手したいと思っている、というわけだ。

 これは結構、深いんじゃないかと思う。120円(1ポンド)というのは、決して大きな額ではない。でも、読者のほうは0円から24円で新聞を読みたいと思っていること。売る側と買う側の大きなギャップである。

 だとしたら、新聞を作る側としては、定価体系の抜本的見直しや、無料新聞としては作れないのかなどを、様々な選択肢の1つとして考えるべきではないのかな、とー私がそう言っているというよりも、読者がそう言っている感じがしてならないのである。

 広告だけに頼ったら、不景気のときに困るだろうから、あくまで「選択肢の1つ」なのだが。

 そして、デジタル版が主で、紙はおまけ・・という方向にしたら、どんなビジネスモデルができるのかを真剣に考えてもいいのでは?

 読者の購買行動を見ていると、間接的・直接的に、そんなことを表現しているように見えて仕方ない。「もし紙媒体だったら、もっと読みやすくて、もっと安い新聞がほしい」-そんなことを言っている感じがする。

 ガーディアンの編集長が「紙のガーディアンは後10年後にはないかもしれない」とどこかで言ったそうだが、この言葉をショックだと思う人もいれば、当然と思う人もいるだろう。ガーディアンはデジタル投資にずいぶんと力を入れてきたからそう言ったのかもしれない。でも、見逃してはならないのは、現実に、こんなに勢いよく紙の発行部数が減っていったら、もう「主」の存在としては出せなくなってしまう将来が現実になるのは意外と近いかもしれない、ということ。紙は消えないだろうが、定価の額も含めてかなり抜本的に制作過程を見直し、それでもあくまでも「従」として生き残るのだろうな、と思う。

英国・主要紙の発行部数 2012年2月

新聞名、発行部数、前年同月比(%)の順です。

ー平日・日刊有料紙

サン 2,582,301 -8.38
デーリーメール 1,945,496 -6.04
デイリー・ミラー 1,102,810 -6.32
デイリー・スター 617,082 -14.11
デーリーテレグラフ 578,774 -7.89
タイムズ 397,549 -10.86
フィナンシャル・タイムズ 316,493 -16.43
ガーディアン 215,988 -17.75
インディペンデント 105,160 -42.38
i(アイ) 264,432 50.49

ー無料紙

朝刊紙メトロ* 1,381,142 0.67
(*のみ2011年9月ー2012年9月の平均値で比較)

(資料:英ABC)
by polimediauk | 2012-03-15 22:23
c0016826_2128566.jpg 
 6日夕刻、ロンドンの帝国戦争博物館(Imperial War Museums)で、世界各地での戦争報道で知られるベテラン写真家ドン・マッカリン(Don McCullin)と、現役の戦争報道写真家たちが、アフガン戦争について語るイベントがあった。「50年間、戦場写真を撮ってきたが、何も変わらなかった」とクールに語るマッカリンと、「戦争の記録を残したい」という若手写真家たちとの違いが色濃く出た夕べとなった。(写真右はマッカリンによる、ベトナム戦争で「シェルショックを受けた米兵」1968年。)

 イベントは、博物館で開催中のマッカリンの写真展(4月15日まで)に付随して行われた。
http://www.iwm.org.uk/exhibitions/shaped-by-war-photographs-by-don-mccullin

私がノートに取ったメモ書きを元に、その雰囲気を再現してみたい。(名前――McCullin――の日本語表記はマッカリン、マッカランの両方あるようだ。とりあえず今回はマッカリンにした。)

 パネリストとして出席したのは白髪のマッカリン、米国出身の戦争写真家ケイト・ブルックス、元英空軍にいたアリソン・バスカビル(両者は「フォト・ジャーナリスト」として紹介されていた)、英領北アイルランド出身のドノバン・ワイル、英軍付属の写真家(アーミー・フォトグラファー)のルパート・フレールであった。最後にそれぞれのウェブサイトを紹介しているので、ご関心のある方は、どんな写真を撮っているのかをご覧いただきたい。

 また、マッカリンについて少々補足すると、イベントでの発言のみをたどるとクールでシニカルな感じがするが、写真展を見ると非常に熱い思いで戦場で仕事をしていたことが分かる。自分の功績を謙遜する、非常に思慮深い人物であることも。

 マッカリンはロンドンで生まれ、ハマースミス芸術工芸建築学校で写真を学んだ。1950年代半ば、英空軍に勤務後、写真家としてのキャリアを積んだ。キプロス島での市民戦争の写真で、1964年、世界報道写真賞を受賞。英国人でこの賞をとったのは彼が初だ。その後、主にオブザーバー紙、サンデー・タイムズ紙向けに紛争地での写真を多く撮った。近年は、戦争報道から離れ、ポートレートや自然の情景、様々な暮らしの写真を撮影している。

―アフガン戦争にはいつ行って、どんな写真を撮ったのか?

マッカリン:私が行ったのはずいぶん前だ。1980年ごろ。当時はムジャーヒディーン(イスラム義勇兵)に面倒を見てもらっていた(*)。自分は友達だと思っていたが、そのうち、こちらの荷物の中身を盗むようになったので、「悪い人なのかもしれない」と思い出した。

(*補足:1970年代末、アフガニスタンは大きな政情不安に見舞われた。78年に軍事クーデターで社会主義政権が樹立し、国名がアフガニスタン民主共和国に変更された。これに対して全土でムジャーヒディーン=イスラム義勇兵が蜂起し、1989年まで続くアフガニスタン紛争が始まった。ウィキペディア参考。)

 まったくばかげたことだが、自分が本当の戦いから故意に隔離されていたことを知らなかったのだ。間抜けなことだった。まともな写真は撮れなかった。お茶を飲んでいる様子などを撮ったりした。自分は写真家として失敗したのだと思う。

 アフガン人は外から来る人を嫌う。たくさん戦士がいるし、戦うことが好きなのではないか。

 私は軍隊の付属(従軍撮影者)にはならなかった。写真家として自由でありたかったからだ。アフガン戦は長い戦いだ。軍の付属になったら、よい写真は撮れない。例えば、負傷した自国の兵士の写真を、もし従軍であったら、撮影できないだろう。

ケイト・ブルックス:アフガンに行ったのは、2001年12月。9・11テロ勃発からまもなくだった。当時、米国はオサマ・ビンラディンをなんとしても捕まえようとしていた。

 2005年にも行った。比較的平和になっていたので、市民の暮らしを撮影した。米国人はアフガンのことに関して無知なので、記録をすることが大事だと思ったからだ。従軍写真家になるかどうかだが、今はそうしないと危険すぎると思う。

アリソン・バスカビル:英空軍に勤務していた時から、写真は趣味だった。記録に取り、目撃することが楽しかった。そこで、ウェストミンスター大学で写真を学んだ。自分は前線に行ったはじめての女性兵士となったが、兵士の人間としての側面を写し出したかった。そこで肖像写真が増えた。アフガニスタンは、戻って探索したくなる国だ。

ルパート・フレール:もともとは爆弾処理を担当していた。前から写真には関心があって、写真撮影をやるようになった。

―若手写真家の話を聞いて、どう思ったか?

マッカリン:戦争では市民の犠牲が出る。軍隊に埋め込まれた形で写真を撮るとき、一緒にいる兵士の攻撃の先にあるものは何か、どこに向かっているのか、そこで何が起きたのかー自分だったら、そんなことを考えてしまうだろう。「攻撃された側に対する懸念は抱かないのだろうか」、と話を聞いていて、思った。

フレール:自分は兵士であり写真家でもあるが、いざとなったら、兵士の部分が先に来る。写真家であっても、軍服を着ているから、市民は怖いという感情を持つようだ。兵士は外から来た人を簡単には信用しない。でも、自分は仲間の1人だから信頼してくれる。アフガン市民の中でも、子供たちは人懐っこい。ペンやチョコレートをあげるからかな?アフガンの言葉は分からないけど、数少ない、自分が知っている言葉に「カラム」がある。これはペンを意味するそうだ。

ドノバン・ワイル:自分は通常、まとまった写真を撮るとき、1年か1年半をかけて仕上げる。その土地を知り、建築物を知る。しかし、アフガニスタンに行ったときは6週間しかなく、時には数日あるいは数時間でカメラの位置を決めなければならなかった。これがつらかった。

 (プロテスタント系住民とカトリック系住民との対立が暴力事件の頻発につながり、英軍が派遣されるに至った)英領・北アイルランドで生まれ育ったので、兵士がいる光景は見慣れていたが、アフガニスタンで戦場に行ったとき、居心地悪く感じた。自分はカナダの軍隊に付属して出かけたが、写真を撮りやすいようにとみんなが協力してくれた。戦争写真は、自分の過去、そして将来の歴史を写しとることだと思う。

マッカリン:近年、戦争写真というと、それ自体が魅惑的なものになっていることが多い。(そうはならないよう)注意しなければならないと思っている。

 戦争写真を撮っても、何も変わらないと思う。それに、アフガン戦争は勝てない戦争だと思う。

バスカビル:私は戦争写真は重要だと思う。何が起きたかを記録に残すことが重要だ。

マッカリン:私はアフガンの将来に楽観的ではない。今、米英がアフガン軍のトレーニングなど、様々なことをしているが、私たちが撤退したら、消えてしまうと思う。西欧が考えるところの民主主義は根付かないと思う。賄賂の習慣が根深い。どんなに犠牲を払っても(兵士が亡くなっても)、アフガニスタンは変化しないと思う。

(会場にいたベテラン写真家からのコメント):9・11テロ勃発の頃、ちょうどニューヨークに戻るところだった。しかし、テロが発生したので、もちろん飛行機はキャンセルされたが、私はニューヨークではなく、アフガンに行くべきだと思った。そこで、13日から14日かけて、パキスタンからアフガンに向かった。

 その後、当時アフガンで政権を担当していたタリバンに圧力をかけて、報道機関を中に入れてくれと頼んだ。そこで、少人数の報道関係者が中に入り、10月、アフガン戦争が始まると、市民の犠牲者の姿を撮影することができた。

 タリバンが私たちを中に入れたのは、もちろん、自分たちのプロパガンダのためだった。レーダーが爆破された場所に連れて行かれた。私たちは、病院に連れて行ってくれ、と頼んだ。そこで運び込まれた人の写真が撮影できた。

―会場からの質問:ここは「大英帝国(=インペリアル)博物館」であるが、これにちなんで、聞きたい。アフガンにいたとき、自分たちが「大英帝国の側から来た人間」と思っていたかどうか。

ブルックス:その言葉の意味をどう解釈するかだが、まあ、「アフガン人は戦うことが好きだから」なんていうのは、とても植民地主義的な考え方だろうと思う。そんなことはない。誰だって平和がほしい。ただ、外国軍が自国を占拠したというスタンスから、こちらを見ていることも事実。

バスカビル:私も同意だ。現状でよいと思っているアフガン人はいない。食べ物や衣類、住む場所など、人間の基本的ニーズを満たしたいと思っている。

フレール:私は英軍の兵士だから、英軍が行くところにはどこでも行く。英軍がやっていることを撮影している。しかし、自分がやっていることはプロパガンダではない。本当に起きたことを撮影している。

 私が撮影した写真をこの博物館で展示して、多くの人に見てもらいたい。私が撮影したことから、何らかの教訓が得られるのかどうか、見てほしい。過去にどこが間違ったのか、あるいはどこが正しかったのか、を。

ワイリー:自分にとって、アフガンに行くことは写真を撮るという仕事をする機会なのだと思う。

―(会場から)軍隊の付属として行くべきかどうか?報道の自由はどうなる?

ブルックス:付属になるかどうか、これは個人のまったくの自由だ。リスクを負えるかどうか。

フレール:軍隊の一部だとしても、アフガン市民との相互交流はある。付属であることは、自分にとっての安全のみばかりか、自分にかかわる人々の安全にもつながる。

マッカリン:写真家としては、そもそもアフガン戦に行くべきかどうか、どんな目的で行くのかを考えるべきではないかと思う。シリアにしてもアフガンにしても、過去50年間、変わっていない。英国人を失うほどの犠牲を払うべき価値があるかどうか、と。

ワイリー:犠牲を払うべき価値があるかどうかで悩むのは実によく分かる。自分は(カトリック系とプロテスタント系の住民の争いが続いた)北アイルランドで育ったからだ。

マッカリン:アフガンに行くよりももっと行くべき場所、撮影するべきものがここ英国にあるのではないだろうか。先日、英北部に行った。貧困度が深いと思った。国内にもたくさん報道するべきことが起きている。

ブルックス:戦争で何が起きたかの記録をとるために、自分としては、写真家は戦場に行くべきだと思う。しかし、マッカリンの言いたいことは理解できる。私はリビアで写真を撮ってきたが、不毛感を持った。撮影の中心は、いつも亡くなった人や葬式の写真だ。これでいいのか、と。何故これを、世界中の人に見せなければならないのか、と。

 戦争は平和をもたらさない。(戦場で写真を撮っていると)感覚がなくなる思いもする。フォトジャーナリストになったのは、何かを変えようと思ったからなのに、と。

バスカビル:私は自分のことを「戦争写真家」ではなく、単に写真家だと思っている。写真は視覚的に純粋だと思う。人々に情報を与えることができる。自分は写真で世界を変えようとは思っていない。病院に行って、犠牲者の写真を撮っても、外に出さないことがある。出しても、みんな感覚がなくなっているので、思ったほどのインパクトを与えないからだ。そこで私は(ポートレートなど)別のやり方で、写真を撮ってきた。

―会場からの質問:写真家として戦場に行って写真を撮った場合と、兵士が写真家でもある場合と、どちらがより真実に近づけるのか?

フレール:その場にいる人間の1人としては、現場にいる兵士・写真家のほうが真実に近づけると思う。兵士たちは外からやってくる人には警戒心を抱く。私は仲間の1人だから。

ブルックス:それは人によって違うだろうと思う。

バスカビル:兵士が写真家だと、確かに近くから撮れる。でも、写し出すのはプロセス(=過程)ではないだろうか。ストーリー(物語)を見せないのではないか。

フレール:兵士であり写真家という役割は、まるでジキルとハイドのように2つの面がある。病院で傷ついた人の写真も撮れるし、どこにでも入れるというのは兵士だから。アフガンの子供にカメラを向けるとき、自分はどちらの側にいるのだろうか?死にそうな人を助けるのか、あるいは撮影をするのか?戦争写真家にはこんなせめぎあいがある。

ーベトナム戦争での写真の役割とアフガン戦での写真の役割の違いは何か?

バークスビル:文化も時代も変わった。米ライフ誌に掲載された、ベトナム戦争の写真は、米国民に大きな衝撃を与えた。そんな写真を今まで見たことがなかったからだ。

 今ではデジタル写真がある。SNSがある。すぐに情報が出る。即時性がある。フィルムに撮った映像を紙に焼いて・・・という意味での写真には、もはや即時性が失われている。

ブルックス:私もそう思う。いまや、多くの写真家は動画を撮っている。また、ベトナム戦争と違って、アフガン戦争は敵が見えない戦争だと思う。

マッカリン:ベトナム戦争で、はだしの少女の写真は強い印象を与えた。最終的に私たちは、ベトナム戦争を終結させることができた。しかし、それまでに多大な犠牲があった。

 戦争とは、誰にとっても勝てないものなのだと思う。

***

プロフィール:

ドナルド(ドン)・マッカリンは76歳。ロンドン生まれで、都会の下層階級の暮らしや戦争報道で知られる。写真展のアドレスを再度挙げると:
http://www.iwm.org.uk/exhibitions/shaped-by-war-photographs-by-don-mccullin
 また、グーグルでDon McCullinで検索すると、撮影写真がどっと出てくる。

ルパート・フレール
http://www.army.mod.uk/news/press-office/16687.aspx#
アリソン・バスカビル
http://www.alisonbaskerville.co.uk/
ケイト・ブルックス
http://www.katebrooks.com/
ドノバン・ワイリー
http://www.magnumphotos.com/C.aspx?VP=XSpecific_MAG.PhotographerDetail_VPage&l1=0&pid=2K7O3R1VT2KC&nm=Donovan%20Wylie
by polimediauk | 2012-03-08 21:26 | 新聞業界
 朝日新聞が出している月刊メディア雑誌「Journalism」の3月号に(私も1つ原稿を書いているが)、興味深い記事がいろいろ出ている。

 データジャーナリズムに関する詳しい記事(小林啓倫氏著)も興味深いが、私にとっての目玉は、朝日・奥山俊宏記者が書いた、オリンパスの元社長による、日本の新聞批判である。

 オリンパスの損失隠しを最初に書いたのは、月刊誌「FACTA」であったという。これが2011年7月。それ以降、日本のマスコミはこれについてずっと書かないまま。英訳記事を手にした当時の社長ウッドフォール氏が、ここに書いていることは「事実なのか?」と菊川会長(当時)に聞いたことがきっかけで、一連の大きな動きが起きる。

 社長職を解任されたウッドフォード氏が、損失隠しに関わる資料を持って、内部告発をしようと思ったとき、声をかけたのは、日本のメディアではなく、英フィナンシャル・タイムズだった。金曜に記者と会い、翌土曜日には1面の記事となった。奥山記者はウッドフォード氏と、日本の新聞が何故、FACTA報道後に書けなかったのか、日本のメディアの問題点などを議論しあう。これが1つの記事になっていて、その後、記者はFTの記者とも会って、どのような経緯で資料を受け取り、すぐに報道できたのかを探る。

 日英の新聞報道の違いが垣間見える2つの記事だ。奥山記者が「何故、日本の新聞がほかのメディアを引用して書けないのか」を説明するところが面白い。1つには名誉毀損があるからだという。いろいろ、考えさせられた。どこかで入手されたら、ご一読をお勧めしたい。

朝日「Journalism」
http://publications.asahi.com/ecs/66.shtml


 
by polimediauk | 2012-03-06 21:18 | 新聞業界
 TBSメディア総合研究所が隔月に発行している「調査情報」誌の今年元旦発売号(201年1-2月号)に、英国のテレビ界の現況をまとめた原稿を出した。http://www.tbs.co.jp/mri/info/info.html 3月初旬、同誌の最新号発行を機に、拙稿を以下に転載したい。

 この原稿は、「2012 テレビドック -いまなにが可能か」という特集の一部である。この中で、日本のテレビ界の様々な批評記事が載っているので、マスコミ批判など、このテーマに関心のある方はどこかで手にとっていただけたらと思う。

 私自身は、この特集のほかに、「メディア論の彼方へ」というコラムで、金平茂紀氏が書いた、「『御用ジャーナリスト』について僕が知っている2,3のことがら」という記事に、かなり衝撃を受けた。金平氏は、彼がいうところの「御用ジャーナリスト」の何人かの名前をはっきりと挙げている。(誰がそうなのかは、ページをめくってみていただきたい。)最後に、故・清志郎の『軽薄なジャーナリスト』のラスト部分を引用している。「軽薄なジャーナリズムに のるくらいなら (中略) あの発電所の中で 眠りたい」。

***

―デジタル時代で面白みが増す、英テレビ界

 日本では新聞やテレビなどマスコミの先行きを悲観視する議論が活発なようだ。ジャーナリズムの面からも大手メディアに不満を抱く人が増えていると聞く。英国では、日本同様、新聞の発行部数は減少の一途をたどるものの、テレビ界は活況を呈しているように見受けられる。

 確かに、2008年のいわゆるリーマン・ショックで広告収入が激減したテレビ界で、民放は大きな打撃を受けた。多チャンネル化が進んでいるため、各チャンネルの視聴占有率(一定の時間にあるチャンネルが放映する番組が視聴されている割合)は相対的に下降している。財政緊縮策が実行される中、公共放送最大手BBCはテレビ・ライセンス料(日本のNHKの受信料にほぼ相当し、現在年間145.50ポンド=約1万7000円)の値上げを凍結させられ、役員の給与カット幅の増加、人員削減、番組の制作本数の減少を強いられている。

 経営陣にとっては厳しい情勢となっているわけだが、視聴者の側からすれば、これほど面白い時代はない。

 デジタル化・多チャンネル化の進展で、番組の選択肢が広がっている。無料で利用できる見逃し番組再視聴サービス(BBCのアイプレイヤーなど)や1時間後の番組を放映するチャンネル(=タイム・シフト・チャンネル)が提供され、「いつでも、どこでも、好きなときに、好きなプラットフォーム(テレビ受信機、携帯電話、タブレット型端末など)で」、様々な番組を楽しめる状況となった。

 こうした状況にあって、現在の英国のテレビ業者とは、かつてのようにあらかじめ決められた放映予定表に基づいてテレビ受信機に向けて番組を流すための業者ではなく、利用者が様々な視聴を行えるよう、複数のプラットフォームに向けて番組コンテンツを配信する業者(=デジタル・コンテンツの提供者)に変身している。テレビ受信機に向けての番組配信(=放送)は、あくまでも1つのオプションなのである。ちなみに、2003年施行の通信法をもって、英国では放送と通信の融合が法制化された。

 情報通信庁「オフコム」の計算によると、テレビ業界の総収入(広告収入、有料視聴契約料、公的資金援助その他の合計)は2010年で約117億円ポンドに上り、前年度比で5.7%増。複数のテレビを持つ家庭は多いが、主となるテレビのうち、93%がデジタル放送を視聴できる状態にある。各家庭の一人当たりのテレビ視聴時間は平均で1日に4時間余。国内の放送局の数は510に上る。

 英国の広告市場(2010年で約165億ポンド、英インターネット広告局調べ)で存在感を増しているのがネット広告だ。その総額は2010年で約40億ポンド、全体のほぼ4分の1を占めた。

 2011年上半期(1月―6月)では全体の27%(約22億ポンド)に達し、テレビの広告総額が占める26%を超えた。前年同期と比較すると13・5%の増加だ。広告市場全体の増加は同時期で1・4%増となり、はるかに高い数字となった。

 テレビ局としては、広告主や利用者が生息する場所、つまりはネット上のサービスの拡充で競争することになる。SNSも組み込みながら(ネット上で過ごす時間の25%がSNSやブログの閲読という)、いかに利便性の高い視聴環境を提供できるか、かついかに面白いと視聴者に思ってもらえる作品を作るかが大きな課題となる。

―歴史に裏打ちされた「公共のための放送」

 英国の放送業の始まりは、1922年、無線機の製造業者が集まって作った民間会社英国放送会社(British Broadcasting Company)である。

 放送業は公共体が運営するべきという考えが当時の政府、知識層、アマチュア無線愛好家たちの間でほぼ共有され、1927年、先の会社が英国放送協会(British Broadcasting Corporation)として生まれ変わった。初代の経営陣トップとなったリース卿がBBCの目的は「楽しませ、教育し、情報を与えること」と提唱したが、娯楽一辺倒ではなく、何かしら知的に意味のあるサービス=放送業というイメージが確立してゆく。

 1950年代半ば以降はITVを初めとする民放が次々と開局した。誰でもがテレビをつけさえすれば番組を視聴できる地上波の放送局BBC、民放ITV、チャンネル4、チャンネル・ファイブには「公共サービス放送」(Public Service Broadcasting, PSB)という枠がはめられている。公共の電波を使うから「公共サービス」と呼ぶのではなく、「公益のための放送サービス」という意味である。

 PSB枠に入ると、バランスの取れたニュース報道、一定の本数のドキュメンタリー、児童番組や地方ニュースの放送が義務化される。オリジナル性がある番組や国内で制作される番組の制作も一定の比率で求められる。番組の質の維持にはBBCの場合はBBCトラスト(NHKの経営委員会に相当)が、民放の場合はオフコムが目を光らせる。

 しかし、質の高さを競わせる土壌を作るのはオフコムによる規制というよりも、開局当初から20数年間英国の唯一の放送業者だったBBCの歴史が関係する。

 英国では、自分の懐から出たお金で運営されるBBCに対する期待や批判を声に出す習慣がある。現在でも、国民がBBCやほかのテレビ局の番組あるいはラジオ番組について、喧々諤々の議論を行うのが常になっている。新聞や雑誌はテレビやラジオ番組の批評を書籍や演劇、美術展の批評と同位置におき、テレビ番組評論家によるレビュー記事が切磋琢磨の環境を作り上げる。

 番組制作者たちの熱い思いを垣間見れるのが毎年夏、スコットランド・エディンバラで開催されるテレビ祭だ。各放送局の編成幹部、制作者、作家、出演者に加え、企画を売り込みたい若手など約1000人が参加する、年に一度の集まりだ。業界関係者が一堂に集まるお祭りであると同時に、テレビ業界の今後を作りあげるためのアイデアや情報を交換する場でもある。

―広がるデジタルサービス

 有料テレビ(ペイ・テレビ)市場の最大手は衛星放送のBスカイBだ。1000万人の契約者を持ち(ちなみに英国の人口は日本の約半分の6000万人前後)、サッカーのプレミアムリーグの独占放映権、再視聴サービスの拡充など、地上波のテレビでは見られない番組を提供することで契約者を増やしてきた。

 第2位の市場規模を持つのが、ケーブル・テレビ、電話、インターネット・サービスを一括して提供するバージン・メディアだが、こちらは約370万人の契約者で、BスカイBに大きく水をあけられている。

 多彩なデジタル放送を視聴する1つの方法は、BスカイBやバージン・メディアなどの有料契約者となることだが、もう1つの方法は地上波デジタル放送のプラットフォーム「フリービュー」を使うことだ。1台約15ポンドのセット・トップ・ボックスを購入する必要があるが、購入後は追加で料金を出す必要はない(一部、有料契約を結ぶチャンネルもある)。これをテレビ受信機の側に置くと、数十のデジタル・チャンネルの番組が楽しめる。BBC,ITV、チャンネル4、BスカイBと通信インフラ企業アーキヴァが株主だ。

 今年はフリービューのサービスをさらに進化させた「ユービュー」が開始予定だ。開発にはBBC,ITV,BT,チャンネル4、チャンネルファイブ、通信業者トークートーク、アーキヴァが参加している。ユービュー用のセット・トップ・ボックスをテレビにつないで使う。ブロードバンドにつながっている必要はあるものの、追加の利用料が請求されずに、大手放送局の番組が再視聴でき、番組を録画もできる。

 世界最大のSNS人口(2011年9月22日現在、8億人超)をもつフェイスブック。例えばこのフェイスブックで友人同士がお気に入りの番組の情報を交換し、一つの番組を同時視聴することができたらどうだろうか?

 BBCニュース(2011年9月11日付記事、Beyond the couch: TV goes social, goes everywhere)によれば、テレビ技術の会社シーチェンジは、画面をマルチスクリーン状態にし、友人たちと番組視聴を共有するソフトを開発している。これを使えば「仮想空間上のパーティー」が行える。フェイスブックの担当者は同記事の中で、SNSの活用で「テレビ業界にルネッサンスが起きる」と述べる。

 日本でも、ネット上の動画に参加者がコメントを書き込めるサイト「ニコニコ動画」が大人気と聞く。感動的なコンテンツを同時に視聴することで、体験の共有ができる「場」を提供するテレビの重要性は今後も増すだろう。

―刻々と発信されるニュース

 英国のテレビが「面白い」、「いつでも、どこもで視聴できる」と先に書いたが、一つの具体例として、ニュース報道を挙げてみる。

 大きな役割を果たすのが24時間、ニュースを流すチャンネルの存在だ。

 ブロードバンドが入っている家庭では少なくとも3局(BBC,BスカイBのスカイ・ニュース、米CNNなど)視聴できるため、世界で大きなニュースが起きると、テレビは大活躍となる。テレビ受信機の前に座っていなくても、パソコン、スマートフォンなどでも視聴可能なのは言わずもがなだ。

 24時間のニュース専門局の存在は、ありとあらゆる視点を出す機会を提供する。つまらないゲストや視点が狭いと視聴者はほかのチャンネルに行ってしまうので、誰をいつ出すのかに制作者側は知恵を絞る。

 情報はツイッターでもどんどん入ってくる。テレビの報道局の記者らがツイッターのアカウントを持っているので、たとえばアラブの春などのニュースが発生すると、現場から、そしてスタジオから、一斉につぶやき出す。刻一刻と事態が変化してゆく様子を利用者は追体験できる。

 英国の新聞界では、スクープがあったときに紙媒体の発行まで伏せておくという習慣はもはや消えたが、テレビ界では、記者ブログでスクープを出しておく手法も珍しくなくなった。

 例えばテレビ局が基幹のニュース番組とするのは午後10時放送分になるが、これを待たずに、記者が自局のウェブサイト上に設けられた自分のブログの中で、まずスクープ報道を行う。その後で、基幹番組で同様のトピックを自分で報道することもアリとなる。刻一刻と動く国内外の情勢を、複数のプラットフォームで競うように出していくのが英国のテレビである。

―未来はデジタルに

 英国テレビの特徴を際立たせるためにデジタル・コンテンツの提供者としての側面を書いてきたが、多チャンネル化による市場の変化で失敗もある。

 先に、多チャンネル化で各チャンネルの視聴占有率が相対的に低下していると書いたが、広告収入の減少を補い、自局の番組に視聴者をもってこようとあせったテレビ局が手を出したのが、広い意味の「視聴者参加型番組」の制作であった。

 歌手あるいはタレントになるためにそのスキルを競うオーディション番組(ITVの「Xファクター」など)や、視聴者がドキュメンタリー番組の出演者となる番組、若者たちを合宿所で生活させ、外界との接触を禁じながら、生活の様子をカメラで撮影・放送する番組(チャンネル4の「ビッグ・ブラザー」など)など、その種類は様々であった。

 こうした視聴者参加型テレビには、テレビ局に電話をかけさせる仕組み(「フォーンイン」と呼ばれる)を組ませることもあった。

 例えば、オーディション番組では視聴者が気に入った出演者に「投票」(テレビのリモコンを使ったり、テレビ局が指定する電話番号に電話する形を取る)させたり、クイズ番組で正解を当てさせたりした。視聴者は自分が番組に直接参加した思いがし、クイズの賞金をもらえるとあって、投票行為に続々と参加した。テレビ局側には視聴者がかけた電話の料金の一部が懐に入った。

 視聴占有率を上げながらお金も入ってくる方法で、重宝されたが、テレビが単に換金行為のための「箱」(昔、図体がでかかったテレビのことを「ボックス=箱」と呼んだ)に成り下がった面があった。ところが、こうした番組が乱立して、不当に電話料金を請求していたことが発覚し、テレビ局はオフコムによって巨額罰金の支払いを命じられるという事件が、2007年、発生した。

 BBCへの近年の批判の1つは、タレント出演者に対する高額報酬の支払いである。

 受信料で国内の活動をまかなっていることから、これを正当化するためにBBCにはより良質の、かつより多くの視聴者が来る番組を制作するよう圧力がかかる。こうした圧力をかわす一つの方法が、人気があるタレント(多くが番組の司会者)への高額報酬の支払いであった。これで高い視聴率が取れる番組の制作を狙った。

 また、BBCの経営及び編集幹部の給料が高すぎるのではないか、経費使いが荒いなどの批判も常に浮上している。特に報道機関としてはライバルとなる新聞業界は、スキャンダルが起きるとこれぞとばかりにBBC批判の論考を大々的に掲載する傾向がある。

 受信料の上昇を凍結されたBBC,広告収入の上下に経営が左右される民放など、経営上の悩みはつきないが、視聴者の利便性や番組内容の質の面からは優れた水準を維持しているのが英国のテレビ界である。

 未来はデジタルにあるーこれを経営陣が周知のこととし、視聴者のためにサービスを拡充することに英国のテレビ業者は頭を絞る。現在及び将来は決して暗くない。
by polimediauk | 2012-03-02 19:48 | 放送業界