小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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 世界中にファンを持つ、英作家JKローリングが書いたファンタジー小説「ハリー・ポッター」シリーズ。

 今年3月、英国に「ザ・メイキング・オブ・ハリー・ポッター」という博物館ができた。ここには実際の映画撮影で使われた衣装や小道具がたくさん置かれている。ハリー・ポッターのファンばかりか、本を読んでいない人、映画も見ていない人にも「楽しめる内容になっている」―という話を実際に行った人から聞いた。

 博物館には、(配給会社の)「ワーナー・ブラザーズ・スタジオ・ツアー・ロンドン」 http://www.wbstudiotour.co.uk/ という名前も付いている(以下、「スタジオ」と呼ぶ)。

 先日、このツアーに参加してみた。まず、ロンドン・ユーストン駅からワトフォード・ジャンクション駅まで電車に乗る。約20分ほど。そこからシャトルバス(片道1・20ポンド=150円ぐらい)でスタジオへ。

 バスの中では、スタジオの敷地の歴史を語る動画が上映される。第2次世界大戦中は、国防省のためにここで戦闘機が作られていた。その後は飛行機のエンジンを作る工場となり、「リーブズデン・エアロドローム」と呼ばれていた。1994年に工場は閉鎖され、その後は映画用音響施設、セットの組み立て場所になった。

 映画になったハリー・ポッターシリーズのセットを再現するスタジオ構想ができたのは2000年ごろであった。

 中に入ると、短い紹介の映画を見た後、広々とした宴会場に通される。ここはホグワーツ魔法魔術学校の「グレート・ホール」だ(上の写真はホールにつながる大きなドア)。俳優たちが着用したシャツやガウンがずらりと並ぶ。実際に映画で使われた本物である。

 グレート・ホールを抜けると、チョコレートの数々(本物は熱で溶けてしまうので、プラスチック製)、カツラやコスチューム、魔法学校の少年たちのベッドルーム、ダンブルドア校長先生の部屋など、次々とセットが再現されてゆく。

 本当に細かいなあと思うのは、校長先生の部屋にあった油彩の肖像画だ。複数の肖像画はすべてが映画の美術担当者たちが実際に描いたものだ。

 来る前に、「インタラクティブ性が楽しい」と既に行った人から聞いていたが、例えば、台所の流しにあるフライパンを洗う動作を、ボタンひとつで訪問者が動かせたりできる。

 私自身が圧倒されたのは、CG使いを説明をする場所だった。魔法使いのほうきがついた自転車が空中に吊らされており、その後ろのスクリーンの中で、この自転車を使っていかに空中戦のイメージを作り出したかを技術者たちが説明する。目の前の単なる自転車が、映画の中では空飛ぶ自転車に変身する。まさに映画の魔術である。

 途中で訪問客が車やほうきに乗り、空を飛ぶ様子を撮影してもらうコーナーもあった。

 ツアーは2つの建物に分かれており、最初の建物を見終わって次の建物に入る前に、小さな広場があった。ここには橋や家が再現されていた。石や木の節々に色濃く生える緑の苔を見て、随分古い材料を使っているなあと思ったのだが、近くにいたスタジオのガイドによると、「苔はすべて作ったもので、本物ではない」という。思わず、再度、そばによって見てしまった。

 第2の建物に入ると、手や本などの小道具にいかに生命を吹きこんで、動くようにするかが分かる展示になっている。小道具の数々の後ろに大きなスクリーンが設けられ、スクリーンの中から、俳優たちが説明をしてくれる。説明が終わると、「じゃあ、次に行こう」と言ってくれるので、一緒にスタジオを回っている感じがした。

 そして最後の最後―。私にとっては最も感動的な展示があった。魔法学校のセットだ。

 セットの周りには手すりがあって、ここに設置されたスクリーンが、眼前にあるセットがどのように映画で使われたかを説明する。これを見ていると、スタジオに入ったときから何度も思った、あることがまた頭の中によみがえった。

 それは、ここには英国のクリエイティブパワーが結集している、こうやって英国は世界に自分のクリエイティビティを発信している、ということ。

 うらやましくもあり、鳥肌が立つようにも感じもた。日本だったら、何を世界にアピールするだろう?-もちろんたくさんあるのだけれども、英国のクリエイティブ産業の底力をスタジオツアーでしみじみと感じた。

 最後のほうには、ショップがあって、随分と人が集まっていた。中国から来たジャーナリストの女性が、「ハリー・ポッターの映画はとてもセクシー。大好き」と、お土産に買った魔法の杖を片手に話してくれた。「ずーっと、ここに来るのが夢だった」。

 出口の近くにはカフェがあって、私もチーズサンドイッチを買って、一休み。

 チケットだが、訪問前にオンライン上で予約が必要だ。その場では買えないのだ。大人一人で28ポンド(3360円)、子供は21ポンド。家族4人だと83ポンドというセット価格があった。交通費とランチ代を含めると、100ポンド(約1万2000円)は軽く超えるだろう。これを高いと思うかどうかー?ハリー・ポッター熱の具合でその判断が決まるのだろう。
by polimediauk | 2012-08-31 22:21 | 英国事情
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 ロンドン・パラリンピックで、障害者をめぐる環境は変わるのだろうかー?これがパラリンピックの開催地英国で盛んに議論されるようになった。

 29日、開会式が開始される数時間前のイベントで、元パラリンピック参加者の男性と話す機会があった。

 聖火リレーを応援し、パラリンピックを盛り立てようというイベントには、パラリンピック関係者、英国の観光業関係者、文化フェスティバル運営者、メディアが集まった。

 体格のよい男性が、談笑の輪の真ん中にいた。濃紺のさっそうとしたスーツ姿で、少し日に焼けている。ストライプのシャツに水玉のタイも格好よい。

 アラン・ウェザリーさんは元パラリンピック参加者でロンドン在住。視力に障害があって、よっぽど大きな字でなければ読書は不可。紙に書かれた文章を読むには、片目のレンズがふさがれている特製めがねをかけて、紙に顔をくっつけるようにして読む。片目のレンズが曇りガラスのようになっているのは、「実際にほとんど見えないので、もう1つの見える目に集中するため」だという。

 ウェザリーさんを囲む数人はどのように見えるのだろうか?「大体の色や形は見えますが、細かいところまでは見えません。複数の色が手前にあって見えなくなるのです」。

―いつから視力に障害が出たのですか?

 ウェザリーさん:9歳からです。ある朝、眠りから覚めてみると、いろいろな色が眼前に見えだしました。それが今でも続いています。遺伝性視神経症という病気です。私の家族で目が悪い人はいないのですが。

 どんな影響があるかというと、文字を読むときは、目にくっつくほど近くに置かないと読めません。外を歩くときは、たくさんの色が一度に見えるので、周囲の状況の判断が難しくなります。ですから、杖を持って歩いています。

ーパラリンピック選手でいらしたとのことですね。

 英国代表陸上選手としてパラリンピックに参加したのは1980年で、1981年の視覚障害者が参加する欧州陸上選手権では100メートルで銅メダルをとりました。マラソンにも14回参加しています。10回はロンドンマラソンで、ニューヨークやボストンマラソンにも出ました。

 大学ではスポーツとレジャーを勉強しました。視覚障害者を助ける組織RNIBなどで働いた後、現在は児童や若者を対象としたスポーツ振興に力を入れています。

―いつからスポーツを?

 スポーツは10代のころから親しんできました。もっとも好きなスポーツは、視力障害者のテニス(ブラインド・テニス)です。いくつかの選手権のシングル部門で優勝もしています。

 2007年、日本から視覚障害のテニスの選手たちが来ました。そして、どうやってプレーするかを教えてくれたのです。私たちはとても感動しました。特に、全盲の故・武井さん(*武井実良さん、本名は武井視良さん)という日本の方です。特殊なボールの開発に大きな貢献をした、ブラインドテニスの創始者です。日本では、全盲あるいは視力に一部障害のある人が参加している、いくつものテニスクラブがあると聞いています。この中の人たちが英国に来て、私たちに教えてくれたのです。

 ここ4-5年、私は視力障害者のテニスをやっていますが、元は日本からやってきたボールを使っています。音が鳴るボールです。

 2010年、私は日本に行く機会がありました。日本のコーチや選手たちに会って、ブラインドテニスの教え方を学びました。

―今もテニスを楽しんでいるのですか?

 もちろんです。毎週金曜日にやっていますし、土曜日には北西部で選手権があって、勝ちました。

―ウェザリーさんは、一見したところ視力に障害があるようには見えません。どうやって日常生活を行うのでしょう。

 いくつかできることがあります。まず、私には視覚障害があるといいます。そして、助けを求めます。歩き回るときには杖を使っています。

 ロンドンがいいと思うのは、バス、電車などで説明の音声が出るようになっているところです。次がどこの駅かなどが分かります。駅員さんたちも、障害者をどう扱ったらよいのかを知っています。こうしたことで、助かっています。

 特殊なめがねを使って、字をものすごく顔に近づけないと見えません。ほかの人は私がこんなめがねを使ったり、杖を持っているので、ああ、と気づいてくれます。

 それでも、視覚障害があるということを随分と長く説明しなければならないときもありますよ。ほとんどの場合、皆さんは理解してくれているし、「何かできることはありませんか」と聞いてくれますが。

 今は、視覚を失うことへの理解が深まっています。英国では、視覚になんらかの障害を持つ人が200万人ほどいると聞いています。視覚障害について知ってもらうことが大切です。

 私がそのためにやっていることとして、例えば休暇で、美術展などに行くとしましょう。そこで、自分も含めた障害者のためにどんなサービスがあるかを確認するようにしています。

―パラリンピックに参加したくても参加できないほど重症の障害者がいると思います。自分にはできない、関係ないとして、疎外感を感じている人も多いのではないでしょうか?

 11日間にわたるパラリンピックは、確かにエリートの、トップの力を競うものです。しかし、私たちが忘れてはいけないのは、楽しめるスポーツやそのほかの余暇としての活動がたくさん提供されているということです。世界一を競うようなエリートスポーツができなくてもいいのです。

 今日も、聖火リレーがありますね。障害があっても、例えば参加することで、自分がパラリンピックの一部となってゆきます。

 障害の原因は病気や事故かもしれません、兵役によるものかもしれません。ゼロからの出発になります。周囲の支援と助けで、何かを成し遂げることができるようになります。

 私のメッセージは、何でも可能だということ。時として、少し違うやり方をしなければならないかもしれませんが、すべてが可能になるということです。

―意識を変える研修

 イングランド南東部で、「ウェルカム・オール(すべての人を歓迎する)」というサービスを提供する組織で働くリチャード・グレイさんも、イベントに参加した一人だった。

 グレイさんは、ホテル、レストラン、小売店などのサービス業や企業で働く人を対象に、「障害者に対する意識を高める」セミナーで教えている。

 そのプログラムを見ると、「すべての人が一人の個人である」「目に見える、そして目に見えない障害」「バリアを取り除く」などの項目が入っている。「温かく迎える」「車椅子を使う人への注意事項」「アクセスしやすい食サービス」なども。

 グレイさんによると、今のところ、教えるセミナーで「障害者」というのは「車椅子を使う人」を想定している。「将来的には、もっと広げないといけないんですが」。

 パラリンピックがあるということで、「2、3年前から、需要が急激に増えました」。来年以降は、「反動で減ると思います。また増えるとは思いますが」。

 セミナーに参加して、障害者に対する意識を変えてもらい、誰もがより生活しやすい環境を作るのが狙いだという。「セミナー参加者の反応は上々です」とグレイさん。自分がやっているからそんな答えが返ってくると解釈もできるが、実際に「たくさんのことを学んだという人が多い」という。

 しかし、「本当の問題は、こういうセミナーに来てくれないビジネスマン、ビジネスウーマン、経営者たちです。こうした人たちが大部分なのですから」-。

―善玉と悪玉?

 BBCの夜のニュース解説番組「ニューズナイト」では、自分自身が視覚障害者のピーター・ホワイトがパラリンピックと障害者の生活が変わるかどうかのリポートを行っていた。

 この中で、障害者支援の組織「スコープ」のアリス・メイナードさんは、「世間では、障害者は手当てを不当に受け取っているという悪いイメージがある。パラリンピック開催で障害者の世界が大きく変わるわけではないが、(政府による)障害者手当てのカットなど厳しい状態に置かれていることを分かってもらえるのではないか」という。

 障害者で女優のリズ・カーンさんは、「障害者が2つのグループに分離することを懸念する」という。「パラリンピック開催に向けて、素晴らしい競技を行う、人間を超えた存在=スーパーヒューマンとして障害者が描かれた。その一方で、障害者手当てを不当に受け取る悪いやつ、というイメージもある。大部分の人はどちらでもないのに」。

 メダル11個を獲得した、車椅子のタニー・グレイ=トンプソンさんは、「パラリンピックは、御伽噺の妖精の粉のようなもの。これがずっと続くわけではない」。閉会後に障害者をめぐる環境が大きく好転するかどうかについては、「議論の余地がある」。 

 しかし、パラリンピックは「人の心を広げると思う」とグレイ=トンプソンさんはいう。これまではネガティブなイメージを障害者に対して抱いていた人が、「こんな素晴らしいスポーツができる」という見方を持てるようになるからだ。

 これまで何度かパラリンピックの取材をしてきたホワイトは、「パラリンピックではいつも、障害者問題に焦点が当たる。でも、問題意識は時間がたつにつれて、消えてしまう」と述べて、リポートを終えた。

***

 (*ブラインド・テニスの発案者武井さんの話や発祥までの経緯は日本ブラインドテニス連盟のウェブサイトなどに詳しい。http://homepage2.nifty.com/JTAV/)
by polimediauk | 2012-08-30 19:10
 新聞の電子版(ウェブサイト)の閲読に課金するのかしないのかーこの点について、英国の新聞界の雰囲気が、最近になって随分と変わった感がある。

 この点について、日本新聞協会が発行する、企業の経営陣向け発行物「NSK経営リポート」(2012年夏号)の中の「新聞経営World Wide」という欄に原稿を書いた。以下は、それに若干付け足したものである。

***

英国新聞界電子版事情
―有料化へのタブー消え、デジタル利用増で市場変化



 英国では、長年にわたり、「ネットで読むニュースは無料」という考えが支配的だった。

 公共放送BBCや検索エンジンが提供する無料のニュースサイトが影響力を持ち、新聞各紙は自社ウェブサイト上で過去記事も含めてすべての記事を無料で公開してきた。

 しかし、スマートフォンやその他の電子端末の普及を機に有料化の壁(=ペイウオール)を立てる新聞社が増え、成果をあげている。ここ2年ほどで、ニュースの消費をめぐる環境は様変わりした。

―快進撃のフィナンシャル・タイムズ

 電子版の成功例として真っ先にくるのが経済紙フィナンシャル・タイムズ(FT)である。

 FTは、ウェブサイトの閲覧をメーター制(一定の本数を無料で閲読でき、それ以降は有料)にしてきた。無料閲読でも名前と電子メールの登録を必須とし、無料分は当初、月に30本、その後は10本から2~3本まで、頻繁に変更した。現在、紙の新聞と電子版の両方を購読の場合、毎月90ポンド(約1万1000円)、電子版のみでは29ポンドなどの料金体制をとる。

 電子版購読者数は今年4月時点で約28万5000人と、2年前の倍以上だ。ウェブサイトへのアクセスは2月時点で1日に90万人(前年比で36%増)。特に伸びているのがスマートフォンでの利用で、過去半年間と比較して66%増、タブレットでの利用では71%上昇した。

 (補足:やや混乱するかもしれないが、最新情報を付け加えておく。現在までに、電子版購読者は紙の発行部数を上回っている。今年6月の紙の発行部数は世界で29万7225部で、電子版購読者数は30万1471人だ。電子版の購読者の伸びは、下記のガーディアンのコラムニストの計算によれば、前年比で31%増だという。電子版閲読のための登録者は約480万人だった。)

 成功の秘訣は経済紙という強みのほかに、「『電子版購読』という商品を販売する小売店」という方針を強気で貫いたことだという(FTコム担当執行役員ロブ・グリムショー氏)。

 小売りのポイントは、売るに足る品物つまり記事の質だが、それ以上に「登録や購読の際の支払い過程を徹底的に簡素化する」(同氏)ことが重要という。広告収入に頼らない収益構造を目指すFTは、電子版からの収入のみで経営をまなかう方向に向かっている。

 FTの強気戦略を如実に示したのが昨年6月、携帯端末用閲読アプリをアップル・ストアから引き上げたことだ。アプリ利用による収入の30%をアップル側に提供することや顧客情報をアップルが保管することを問題視した。FTはアップルを通す必要がないブラウザー上で動作するウェブアプリを自前で構築するために、IT関連企業の買収までした。顧客情報の自社保管によって、きめ細かいかつ単価が高い広告を打つことができる。データマイニング用の宝を手中にした。

ータイムズ、サンデー・タイムズの実験成果は?

 2010年夏、一般紙のタイムズ、その日曜版のサンデー・タイムズがウェブサイトを完全有料閲読制にした。購読をしないと一本も読めない。一般紙では成功しないのでないかという懸念があったが、発行元の発表によると、今年1月時点で、タイムズの電子版購のみの読者数は約11万9000人、サンデーは約11万3000人を記録。紙媒体の購読者は電子版を無料で読めるため、紙での発行部数(それぞれ約40万部と約96万部)を合わせると、1日換算ではタイムズには52万人、サンデーには108万人のデジタル読者がいるという。業界内ではこれを「成功」と見ている。

 課金制導入前はタイムズのサイトには月間2000万人ほどの固定ユーザーがいた。これがほとんどが消えたことになるが、プレミア価格の広告が出せる少数のユーザーに絞る方針を取った。タイムズは長年赤字経営だったが、来年には黒字化の予想が出ている。

 他紙は携帯端末を対象とした課金化に動いている。各種調査によれば英国では成人の約半分がスマートフォンを所有しており、あと3年で、これが75%にまで伸びると予測されている。タブレットは10年時点で10%が所有していたが、その後、急速に伸びている。書籍閲読用端末アマゾン・キンドルも普及率が高い。各紙はこうした携帯端末で新聞を閲読するときに使うアプリ自体を有料にしたり、アプリが無料でも記事閲読に購読制を導入している(ただしブラウザー経由では、記事のすべてが無料で読める)。

 ショッピング、娯楽、情報収集など、消費および知的行動の大部分が、今やデジタル空間で発生するようになったー私はこの点が、かつてはタブーだった有料化が受け入れられてきた最大の理由ではないかと思う。

 紙ではなく電子版での閲読が定番になりつつある中、「ブランド力のあるコンテンツをデジタルで読むならお金を払う」という考えが浸透してきた。

 といっても、質の高い無料情報があふれるほどある英語圏のネット環境の中で、利用者にお金を払ってもらうには、あくまでも「相当のブランド力」が必要であることを忘れないようにしたい。

ft.com/about us
http://aboutus.ft.com/corporate-information/ft-company/#axzz24H5CIaS4

How the Financial Times achieved a digital milestone
http://www.guardian.co.uk/media/greenslade/2012/jul/31/financialtimes-digital-media
by polimediauk | 2012-08-22 21:19 | 新聞業界
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 朝日新聞の月刊メディア雑誌「Journalism(ジャーナリズム)」がソーシャルメディア特集をしている。
メディアあるいはジャーナリストがソーシャルメディアをどう使うか、である。

http://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=14106

 ツイッター導入に積極的な朝日のソーシャルメディア担当者、毎日新聞やTBSの実践者の話に加え、英国(小林)や米国の活用例が紹介されている。日本に住む方には朝日や毎日の事例が参考になるのではないだろうか。私自身、米国メディアがいかにソーシャルメディアを駆使して報道しているかが興味深かった。

 中国事象のエキスパート、ふるまいよしこさんによる「変化する中国メディアの視点 この頃反日デモが起きない理由」も示唆に富むように思った。常々、中国やほかのアジア諸国にかかわる報道で、ついつい私たちはこうした国の政治パフォーマンスに踊らされ(過ぎ)てはいないか?と思っていたからだ。ふるまいさんによると、中国ではどんどん新しい感覚の記者が育っている。こうした記者たちは、

 「古い話題ばかりの日本にかまっているヒマ」はないのである。

 という箇所があった。ネットを使い、米CNNを見て育った若い記者がぞくぞくと生まれている。こうした世代の意識は、古くからの記者の意識とはかなり違う。

 ソーシャルメディアの話に戻るが、朝日のデジタル編集部記者の方の記事で、最後の方に

 ツイッターはその発信コストの圧倒的な低さによって、人々の感情を知るセンサーの機能すら持つようになっている。だが日本のメディアはこうした動きに完全に乗り遅れている。

 とあった。

 この結論とはやや離れるかもしれないが、日本で会った大手メディア勤務者(編集職)の中で、ソーシャルメディアについて「名前だけは知っている」という人が結構多かった。「名前だけ」というのが、なんともさみしい感じがした。私が会った人たちの顔ぶれが40代から50代(+30代)ぐらいだったせいなのだろうか?同時に、「会社での仕事(繰り返すが、ニュース制作が仕事である)が終わると、ニュースをチェックしない」「会社で画面ばかり見ているから、目が疲れるから」と何人かに言われた。「あれはどうなったのだろう?」という野次馬根性はないのかなあと思ったが、なんだか、いろいろなことがのんびりしている(?)のかもしれないし、始終ニュースやメールをチェックしなくても、できてしまう仕事なのかもしれない。いわゆる「デスク」クラスに入る人たちであったが、どことなく、愕然としたことも確かである。

 日本では、ソーシャルを含むデジタル世界は、大手メディア勤務者にとっては、結構隔絶した存在なのかなあと思った次第。-どうなのだろう?

 紙(の制作)とネット版とを分けて考えない方向に今少なくとも英国は進んでいる。その最大の理由は、社会全体がデジタル化にますますなっているし、広告主とメディア利用者がデジタル界に生息しているからだ。

 話が飛ぶが、BBCの経営トップ、マーク・トンプソン氏が、この秋に退任後、米ニューヨークタイムズの最高経営責任者になることが分かった。トンプソン氏はBBCのオンデマンドサービス、アイプレイヤーを推進した人。BBCのデジタル戦略の牽引者。ニューヨークタイムズは生き残り策としてトンプソン氏を選んだようだ。

BBC会長がNYタイムズCEOに(NHK)http://www3.nhk.or.jp/news/html/20120815/k10014294151000.html

NYタイムズCEOにBBC会長(これもNHK.背景が良く分かります。)
http://www3.nhk.or.jp/news/web_tokushu/0816.html

引用(トンプソン氏の)持論は、「テレビやラジオの放送事業者ではなく、視聴者がどこにいても番組を届けることを目指す」。
by polimediauk | 2012-08-19 17:47 | ネット業界
 昨晩、閉会式があって、ロンドン夏季五輪が終了しました。

 白熱の競技が続き、いくつかのどきどきした情景が目に焼きついています。みなさんは、いかがでしょうか。

 閉会式はポップ音楽のメドレーで、私にはすべてのミュージシャンの名前が分からなかったけれど、私が若かった頃の音楽は非常に懐かしいものでした。

 特に感動したのは、もう亡くなってしまった、クイーンのボーカル、フレディー・マーキュリーの姿を映し出し、いかにも彼がまだ生きているかに見せて、生の観客と掛け合いをさせた場面です。やるなーと思いました。クイーンの残りのメンバー二人の演奏もいい感じでした。

 モンティ・パイソンのメンバーの一人、エリック・アイドルが出てきて、Always look on the bright side of life(いつも人生の良い面を見よう)という歌を歌ったところも、本当にそうだなあと思って、非常によい場面だと思いました。単に、のほほんと「人生の良い面を・・・」というだけじゃ、つまりませんよね。でも、この歌がどういう場面で前に使われたかで、その意味が深くなってきます。

ウィキペディアの説明によれば:

1979年の映画『ライフ・オブ・ブライアン(Monty Python's Life of Brian)』のエンディング曲として発表され、後にサッカーファンによって口ずさまれ、1991年にヴァージン・レコードよりシングルCDとして再リリースされ、ヒットした。

翻訳すれば『(深刻にならずに)人生の輝かしい面を見よう』という歌詞であるが、『ライフ・オブ・ブライアン』では主人公であるブライアンが磔刑にかけられ、死に行く真っ最中に同じく磔刑にかけられている囚人たちの合唱で歌われている。

とあります。

 ですので、ひねったユーモアで、なんだか胸がこそばゆくなるような可笑しみがあります。

 ツイートを見ていたら、閉会式の解説をしていたNHKのアナウンサーが、結構ボロクソにけなされていました。

 もしかしたら、こういうときこそ、この歌をアナウンサーたちに贈るべきなのかも知れません(某田淵氏のコメントを勝手にひねくりながら、引用)。

 この歌が閉会式のフィナーレになればよかったのにというツイートを英国のメディア関係者の何人かが書いてました。

 なんとも英国らしい感じの歌で、私もそうだなあと思いました。

 それと、閉会式でボランティアたちが壇上に呼ばれて、その献身に対して、会場の観客が一斉に拍手をする場面もありました。これもとっても英国らしい感じがします。

 ロンドン五輪が、終わりました。

 とっても面白いショーを見せてもらった思いがあります。みなさんは、どうでしたか。
by polimediauk | 2012-08-13 14:24 | ロンドン
c0016826_317515.jpg 夏季ロンドン五輪がいよいよ終盤戦に入った。「その後」を考える時期が到来したともいえよう。果たして、五輪招致はロンドンや英国全体にとって、どんな経済効果をもたらすのだろうか?

 「英国ニュースダイジェスト」最新号の筆者記事に補足したものが以下である。

***
 

 7月上旬に発表された、大手銀ロイズ・バンキング・グループによる調査報告書「ロンドン2012の経済効果―オリンピックとパラリンピック」の中から、要点を拾ってみた。

The Economic Impact of the London 2012 Olympic & Paralympic Games http://www.lloydsbankinggroup.com/media/pdfs/lbg/2012/Eco_impact_report.pdf


―GDPへの波及効果は165億ポンド

 報告書が調査対象としたのは、ロンドンが五輪開催地と決まった2005年から、2012年の開催から5年後の「遺産」(レガシー)期間を含む、2017年までの12年間だ。この間に、GDPにして165億ポンド(約2兆円)が新たに生み出されるという。

 この金額の中で約57%が開催のため施設建設に由来する。五輪に絡んだ観光業が12%、大会運営・開催費が6%、24%が閉会後のレガシー関連の建設業による。

 一方、ロンドンおよび英国全体で6万2200人分の雇用が生み出されるという。

 LOCOG=ロンドンオリンピック・パラリンピック組織委員会の調査によれば、五輪施設建設で雇用された人の中で、元失業者だった人たちの居住地域は、以下のように分かれた。場所、人数(全体に占める割合)の順だ。

ロンドンーグリニッチ 244(8%)
ロンドンーハックニー 397(13%)
ロンドンーニューアム 671(22%)
ロンドンータワー・ハムレッツ 397(13%)
ロンドンーウオルサム・フォレスト 427(14%)
ロンドンーバーキング・アンド・ダゲナム 122(4%)
他のロンドン地域 739(26%)

 合計は2997人だ。

 経済が潤うのはロンドン(約60億ポンド)ばかりでなく、そのほかの地域(約105億ポンド)も好影響を受ける。

 報告書によれば、大会施設の建設を担当した五輪実行委員会(ODA)が英国の建設業サプライヤーと交わした800件の契約の中で、ロンドンのサプライヤーであった場合が25%であったのに対し、残りがロンドンの外のサプライヤーであった。また、経済効果の発生場所も41%は大会施設が建設されたロンドンや南東部となったものの、他の地域も恩恵を受ける。

 経済効果の発生場所を地域別に見ると、以下のようになる。

ロンドン41%
イングランド南東部9%
イングランド北東部7%
イングランド東部6%
スコットランド6%
ウェスト・ミッドランズ6%
ヨークシャー&ザ・ハンバー 6%
南西部6%
イースト・ミッドランズ5%
そのほかの地域8%

―観光客は1000万人以上増加

 2017年末までに、観光業は20億ポンドのGDPを生み出す。そのうちの3%は五輪開催前、49%が開催中、48%が閉会後である。

 約1000万人が五輪観戦を目的としてロンドンを訪れると予想されており、そのうちの12%(約120万人)は海外からの旅行客だ。結果として、2017年までの訪英者の中で、追加で1080万人が観光や五輪関連ビジネスで訪れると予想されている。混雑したロンドンを嫌って、国内のほかの地方を訪れる人も増える見込みだ。

 五輪ビジネスで利を得るのは大企業だけと思うのは間違いだ。ロンドン五輪組織委員会(LOCOG)によると、LOCOGと契約を交わした企業の中で、72%が中小企業なのだ。

 複数の調査によれば、大きなイベントを開催した場合、その国の国民の中に「幸福感」(feelgood factor)が生まれる。そのイベントに参加した、あるいはイベントの近くにいた、イベントを開催できたことによるプライドなどが理由となる。

 調査報告書はこうした幸福感が消費につながる場合もあるとし、国民一人当たり少なくとも165ポンド相当の贈り物をする可能性がある、と計算する。

―大会が生み出す本当のレガシーとは

 この報告書は12年間という長期スパンでの推測だが、一部では「楽観的過ぎる」という批判が出た。

 また、「それほど期待はできない」という調査も各種出ている。

 しかし、広大な自然公園となるオリンピックパークの出現、土地の再利用、住宅・雇用の機会の提供など、さまざまな環境が大きく変わったことは確かだ。

 元失業者で五輪施設建設のために雇用された人の場合、人生が変わったともいえる。

 閉会後はオリンピックビレッジ内に3000戸前後の低価格の住宅ができる。これは近辺の住民の生活水準を上げ、さらには、報告書によれば、「健康状態の改善、医療費の減少、犯罪の低下」につながる可能性があるという。

 私は、五輪開催による、英国にとっての良い影響を挙げるなら、

 ①スポーツ振興(今回の大会で金メダルを取った英選手の中で、4年前の北京五輪で触発されたという人が結構いる。また、青少年にとっても「やってみたい」と考える人は少なからずいるだろう。スポーツおよび教育機関が予算をもっと増やそうとすることも想像できよう)

 ②先の「幸福感」(feelgood factor)―これは数字でははかることができない、さまざまな波及効果があるだろう

 ③大きな公園ができた(これも幸福感につながるはずだ)

 ④英国の強みが増えた

 などの点が少なくともあるだろうと思う。

 ④についてだが、環境面に配慮しながら競技施設を建設し、競技運営のみならず、競技後のレガシーまで計画して実行した英国流五輪開催のやり方は、1つのビジネス・モデルとして、また都市計画の1つとして世界に広める価値があるだろうと思うー少なくとも、英国関係者はそうするだろう。強みを増やしたという点で、ここが最終的には「経済効果」になるのではないかと思う。

―関連キーワード:Olympic budget:(ロンドン)五輪の開催予算。

 招致の際に提出した予算は約240億ポンド(今年7月末計算で約2960億円)だったが、後に警備費などを入れて膨らんだ。2007年に再計算した額(93億2500万ポンド)を発表し、開会までに予算内の92億9800万ポンドに収まった。財源は中央政府(62億4800万ポンド)、ロンドン市(8億7500万ポンド)、宝くじ(21億7500万ポンド)。使途は会場用地のインフラ整備、五輪競技施設の建設、警備費、交通費、公園設置、メディア・センター建設など。
by polimediauk | 2012-08-09 03:17 | ロンドン
c0016826_659077.gif 毎日、熱戦が続けられるロンドン五輪。こんな選手がいたんだなあと思うことばかり。各国選手の顔を見ているだけも、面白い。

 今日は日本の男子サッカーが決勝戦進出は果たせなかったものの、なでしこが残っている。なでしこに、日本女性の姿を重ねてしまう人は私だけではないだろう。世界で、決勝戦まで残る力を持つというのは、それだけで心強い。社会の中でも、女性たちがもっともっと抜擢されてもよいはずではとついつい、思ってしまう。

 放送批評懇談会が出している月刊誌「GALAC(ぎゃらく)」最新号に、プレミアリーグの放映について書いている。ご関心のある方は、書店などでお手にとって下さると幸いである。今回、プレミアリーグの国内での放送権獲得戦争に本格的にかかわったBT(ブリティッシュテレコム)。これまではほぼスカイテレビの独壇場だった。果たして、これが今後、変わってゆくのかどうか。ただ、放送権獲得戦争は熾烈を極め、価格がものすごく高騰した。スポーツとカネの話は深い。

 以下が雑誌の目次です。(ウェブサイトより)http://www.houkon.jp/galac/index.html

 この雑誌の面白いところは、「こんなにすごい番組があったのか!」と分かるところ。テレビにがっかりしている方に、逆にお勧めします。

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GALAC/ぎゃらく No.184/2012年9月号
表紙の人/マツコ・デラックス
写真/山﨑祥和

定価780円(税込み) 8月6日発売!
編集・発行 NPO法人放送批評懇談会
発売 角川グループパブリッシング


特集 BS多チャンネル時代がやってきた

BSパラドックスを乗り越えろ/川喜田 尚

インタビュー
住友裕郎(スカパーJSAT取締役)
BS市場の拡大を見込みCSから進出

BS全局まるわかりアンケート

さまざまに深く、さまざまに尖れ/吉岡 忍

Interview
THE PERSON
吉田尚記 デジタルは人と人をつなぐもの。

旬の顔
マツコ・デラックス 知的なトイレットペーパー。

連載

CMアーカイブの旅/高野光平
GALAXY CREATORS[中嶋淳介]/木原 毅
ローカル局の底力[中部日本放送]/小森耕太郎
海外メディア最新事情[ロンドン]/小林恭子
GO!GO!コミュニティFM[KOCOラジ]/鈴木則雄
視聴率リテラシー/藤平芳紀
ニュース・メタボ診断/山腰修三
今月のダラクシー賞/桧山珠美
MEDIA REVIEW[IT/映画/マンガ/MUSIC/ステージ/本]
GALAC NEWS/山本博史
TV BEST&WORST

ギャラクシー賞

月評 2012.6[テレビ部門/ラジオ部門/CM部門/報道活動部門]
   2012.5[マイベストTV賞]

by polimediauk | 2012-08-08 06:59 | 放送業界