小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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(「アクアティック・センター」のスタンド部分を取り外す作業員たち、LLDC提供)


 昨年夏に開催されたロンドン五輪の主会場となった「オリンピック・パーク」。現在は「クイーン・エリザベス・オリンピック・パーク」と名称を変え、今夏、その一部が再オープンする。改修作業が着々と進むパーク内を視察する、報道陣向けツアーに参加してみた。

―建設現場

 地下鉄ストラットフォード駅で降りて、ツアー用バスに乗り込む。数分後に到着したパークは、まるで「店じまい」をしたかのような静けさとなっていた。五輪期間中はたくさんの観戦客や報道陣、警備担当者、案内のボランティアでいっぱいであったのとは対照的だ。

 眼前に広がった光景は、一言で言えば、「建設現場」。黄色い上着を着た工事関係者が点在し、バスが通る道や見学可能な場所は白とオレンジ色のブロックで囲まれている。建設作業員でなければ、ブロックの外を自由に歩くことはできない。

 パーク内の移動はもっぱらバスだ。総面積は約2・5平方キロメートルあり、ハイドパークと同様の広さになる。

 昨年9月、五輪とパラリンピックが終了すると、ロンドン市長の直属機関ロンドン・レガシー開発社(LLDC)は、3億ポンド(約430億円)近くの費用をかけて、自然公園「クイーン・エリザベス・オリンピック・パーク」への改修作業を開始した。

 「レガシー」(遺産)は、五輪招致のためのキーワードの1つだった。

 数週間のスポーツ競技開催のために新たに永久的なスポーツ施設を作ってしまうと、巨額の維持費がかかる。過去の夏季五輪で、使用された競技関連施設が閉会後は「無用の長物」(=「ホワイト・エレファント」)となってしまうことを避けるため、ロンドン五輪運営関係者は何年も前からレガシー計画を策定してきた。

―解体、取り壊し

 昨年秋からこれまでに、不要となった電力ケーブル、発電機、通信機器などが取り除かれ、ホッケー競技に使われた施設の解体がほぼ終了。バスケットボール、水中ポロ用の施設も取り壊し中だ。最終的には25万の座席、140キロメートルにわたって張り巡らされたフェンス、約10万平方メートルの臨時競技スペースが撤去あるいは改修される。最大で5000人の作業員が働いてきた(1月末現在は、1000人程度)。

 LLDC社の施設管理責任者ピーター・チューダー氏によると、臨時用施設で使われた資材の多くは「国内外の競技施設で再利用される」。

 来年春の完全オープンに向けて、作業は3段階で進んでいるという。

 3段階とは「クリア(撤去する)、コンプリート(解体・撤去作業を終了し、新たな施設として完成させる)、コネクト(地元コミュニティーや住民をパークにつなげる)」である。

 同社が「コネクト」の部分を重要視するのは、五輪の開催目的にはロンドン東部の環境保全を含む再開発もあったからだ。

 パークが位置する4つの特別区(ニューハム、ハックニー、タワー・ハムレッツ、ウオルサム・フォレスト)は、ロンドンでも最も貧しい地域の1つだ。単純労働の雇用主となってきた製造業が長期的に凋落し、失業率が恒常的に上昇した。
 
 東京で言うと都庁に相当するグレーター・ロンドン・オーソリティー(GLA)の調査によると、貧困は寿命も縮める。ニューハムの男性の平均寿命は76.2歳であったが、高級住宅地ケンジントン・チェルシー地区では85歳であった。

 パークの建設地はかつて産業プラントが集積しており、深刻な土壌汚染状態となっていた。長年再開発が行われず、廃棄物が散在する状態が続いていた。五輪開催への準備をするために、ようやく大規模な浄化が進んだ経緯があった。200万トン分の土壌が浄化され、約4000本の木と30万以上の湿地性植物が植えられた。鳥の生息地にもなるように、750の箱が設置されたという。

 パークを自然公園化し、住宅、学校、スポーツ施設を建設することで、住民にとっても、ここを訪れる人にとっても、心身ともにくつろぎ、活性化できる都市空間を作るーこれがLLDCの使命だ。

―北部からオープン

 7月27日、昨年の五輪開幕から1周年の日に、まずパーク北部が「ノース・パーク」としてオープンする。

 コミュニティーセンター、カフェ、ピクニックや散歩に適する緑地ができるほかに、五輪ではハンドボールなどの競技会場となった「コッパーボックス」は、バスケットボールや体操、コンサートなど多目的用途で使う施設となる。

 オープニングのイベントとして、陸上ダイヤモンドリーグのロンドン・グランプリや、大手プロモーター、ライブ・ネーションが担当する世界的な人気アーチストによるコンサートが開催される予定だ。

 世界中からやってきたメディアが利用した国際放送センターは、デザイン、テクノロジー、リサーチ、データ・センターなどITビジネスの拠点「iCITY」に生まれ変わる。今夏からは、通信大手BTの新スポーツ・チャンネル「BTスポーツ」が、ここで放送を始める。iCITYによると、6000人以上の雇用が見込まれるという。

 選手村は「イースト・ビレッジ」としてオープン。ここには約3000戸の住宅が建設され、その半分ほどが低価格住宅となる。

 パークが完全オープンとなるのは、来年の春。南部は「サウス・プラザ」と呼ばれ、飲食街となる。プール施設「アクアティック・センター」と赤いらせん状のタワー「アルセロール・ミタル・オービット」が一般公開となる。

 年間80万人の利用者を見込むアクアティック・センターは市民が気軽に水泳を楽しむ施設になる予定で、ロンドン市内の公営プールなどの料金を超えない範囲で利用できる見込み。

 オービット・タワーは観光客から入場料を取り、企業のパーティーや会議利用で運営収入を得る。年間で最大100万人の来客を見込んでる。

 一部報道ではタワーが年内にオープンするという。LLDC社のチューダー氏は「現時点でコメントできない」としたものの、その可能性を否定しなかった。

 同社はパーク全体で年間900万人の訪問者を予定している。

 パークの中心的位置を占めるオリンピック・スタジアム。政府は当初、売却を考えていたが、適当な買い手が見つからず、公営のままで借り手に使用をリースすることにした。プレミアリーグのウェストハム・ユナイテッド(本拠地ニューハム)が借り手になるはずだったが、法律上の問題から交渉はいったん、停止。

 紆余曲折があったものの、年末、交渉再開が発表された。LLDC社の最高経営責任者デニス・ホーン氏は、「今のところ、最有力候補はウェストハム・ユナイテッド」と語っている。

 寒さが厳しい冬の日に、ところどころに残る雪を目にしながらの見学は、緑あふれる自然公園の様子や、カフェやコンサートに集まる人の熱気を想像するには、少々困難な感じがした。しかし、夏以降、ふらっと訪れて、のんびりしてみたいとも思った。ロンドンの新名所になることは間違いない。

***

 パークの変貌の進ちょく状況を見るバスツアーについてのお問い合わせは、メール(parktours@springboard-marketing.co.uk )かお電話でー。(英国) 0800 023 2030
by polimediauk | 2013-01-26 07:53 | 英国事情
 英「情報コミッショナー事務所」(ICO)が、24日、PlayStationシリーズの家庭用ゲーム機、ならびにゲームソフトの開発、製造、販売などを行うソニー・コンピューター・エンタテインメント欧州社に対し、2011年の個人情報大量流出によって個人情報保護法を重大に違反したとして、25万ポンド(約3500万円)の罰金を課すと発表した。

Sony fined £250,000 after millions of UK gamers’ details compromised
http://www.ico.gov.uk/news/latest_news/2013/ico-news-release-2013.aspx

 ICOは、公的機関の情報公開の促進、個人の情報保護のために活動する特殊法人。

 罰金は、2年前の4月、同社のプレイステーションの端末がハッキングされ、数百万人に上る利用者の名前、住所、電子メールのアドレス、生年月日、パスワード、クレジットカード情報などが流出した件を対象とする。

 ICOの調べによると、ハッキングによる攻撃は、プレイステーションのソフトウェアが最新のものに更新されていれば、防ぐことができた可能性があるという。また、パスワードも十分に保護されていなかった。

 ICOの副所長デービッド・スミス氏は、ICOのウェブサイトの動画の中で、「これほどの規模のカード情報やログイン情報を取り扱っている場合、個人情報の保全は最優先事項になるべきだった。今回はそうはなっておらず、データベースが攻撃されたとき、当時の保全対策では十分ではなかった」と述べた。

 「専門技術を取り扱う会社であるから、個人情報を安全にするための知識とリソースへのアクセスがあったはずだ」

 「この罰金が高額であることは承知している」が、「非常に多くの消費者が直接影響を受けた、少なくとも身元情報を他人に盗まれる可能性もあった」。 (つまるところ、一つの例として高額罰金とした、とも言えるのだろう。)

 スミス氏によると、もし今回の措置で明るいニュースがあるとしたら、ウェブサイト「PRウィーク」が調査をしたところ、プレイステーションへのハッキング行為が明るみに出た後、77%の消費者が個人情報をウェブサイトに出すときに以前よりも注意するようになったと答えていることだという。

 企業側が情報保全についてもっと気をつけることはもちろんだが、「私たち全員が、自分の個人情報を誰に公開するかについて注意する必要がある」。

 ソニーは英BBCの取材に対し、「ICOの結論には同意しない」とし、控訴予定だと述べている。

Sony fined over 'preventable' PlayStation data hack http://www.bbc.co.uk/news/technology-21160818
by polimediauk | 2013-01-24 22:01 | 日本関連
 先日、日本でメディアを研究する若手の人と、会話をする機会があった。

 この方はベースは日本だが、他国のトレンドも研究対象としており、今回は米国や欧州への出張中であるという。

 メディア利用者の生の声を取材しながら、メディアの役割、日本のメディアの現状、そして日本の将来などについて深く考察している方で、自分にとっても大いに知的刺激になった。

 メディアの現状や未来について、普段から考えてきたことと一致する部分があったので、メモ代わりに記してみたい。

 まず、

①同じトピックばかりが上に来る状況をどうするか?

 今、さまざまなニュース媒体、情報ポータルがネット上に存在している。

 この中で、例えば著名検索サイトのニュース・ポータルに注目すると、ヒット数によってランキングが決まってくる。昨年1年間で何が上位に来たかを見ると、研究者によると、ある芸能人の話題だったそうだ。

 芸能トピック自体が悪いというのではないのだが、大手ニュースポータルのランキングに注目すれば、「不特定多数の人=みんな=が興味のあること」が上に来る。これは構成上そうなっているので、これ自体が悪いわけではもちろんない。

 問題は、「ヒット数のランキング」=「最も重要」という視点でずっとサイトを作っている、あるいは読み手となっていると、「重要なことが抜け落ちるのではないか」という点だ。あるいは、多様性が減じるのでは、と。

 もちろん、この点をカバーするために、「ちょっと変わった話題」、「編集部お勧めトピック」などを、ポータルの中に入れるという試みが続いているわけだけれどもー。

 ポータルの作り手が、「今、これがおもしろい!」、「重要!」と思うものを目立つ所に置いて、読者をグングン引き込むーそんなサイトを(もっと)見てみたい。

 マイナーなトピックだけれども、一定の価値観で拾ったテーマをずっと追うというのもおもしろいだろう。作り手(チームでやっているにしても)の広く深い関心・興味・知識が物を言う。

 放送業の話になるが、例えば英民放チャンネル4が「Unreported World」(報道されない世界)と題するドキュメンタリー番組を放映している。

http://www.channel4.com/programmes/unreported-world/

 世界のさまざまな地域で起きている状況をリポーターが取材する。毎回、目からウロコ状態の内容が放送されている。

②似たようなトピックが上に並んだら、なぜ駄目なのか?

 似たようなトピックが上に並んだポータルサイトがたくさんあるとき、一体、「だから、どうなの?」と思われる方もいらっしゃるだろう。

 それ自体が悪いというのではないのだけれども、「言論の厚みが薄くなる」ことが一つの懸念だ。

 「言論」は、ここではネット空間の言論だ。

 言論の厚みを保障するには、いろいろな人が、「本気で書いた論考が、どんどんネット空間に出ていること」が必要だと思う。

 もちろん今でも、本気で書いている人はたくさんいるのだけれども、私が感じているのは、例えば新聞・雑誌の論考・意見が、ネット空間にもっと出てもいいのではないかと思う。具体的に言うと、例えば新聞の解説記事が、多くの人が読めるように=つまりは、無料か廉価で=どんどん出ればどうかと思う。

 経営上の理由があることは承知しているのだけれども、ネット空間の言論の更なる充実化、厚みを出す1つの方法として、解説面に出ているような記事が、どんどんネットに出て、これが一定の量になることが必要ではないかと思う。(ネット上では新聞報道への批判があることは承知しているけれども。)いろいろなやり方があるだろうから、これは1つの案だ。

③ソーシャルメディア上の言論はどうやったら、充実するか?

 (ソーシャルメディアを使うことの是非問題がまずあり、また、SNS上の言論が充実する必要があるかどうかも、一つの問題だがー。)

 具体的に私が頭に描いたのは、ツイッターだ。必ずしも日本が英米のまねをする必要はないのだが、ジャーナリズムの話をすれば、英国ではジャーナリストがツイッターを使うのはほぼ常識になっている。情報発信や収集などで、欠かせない。

 ツイッターがジャーナリズムの1手法になったのは、ツイッター利用者がたくさんいて、実際にジャーナリストたちが使ったから。

 ツイッターにしろ、そのほかのネット言論にしろ、さまざまな意見を本気で出してゆく人がたくさんいて、紙で言論を作ってきた新聞などがネットにも充実した記事をどんどん放っていって、一つの、厚みがある生態圏ができてゆくのではないかと思う。

 若手研究者と話していたときに、日本語空間では、「厚み」の面で、もっと充実してもいいのでは、と思った次第だーー主観的な見方になるかもしれないが。

 議論の厚みがない言論空間を持つ国では、例えばだが、強烈な意見を持った政治家が、選挙で圧倒的な票を得て当選する・・・といった事態が起きるのではないか。

④本気の議論を阻むものは何か?

 時々、ネット言論を見ていると(主に各種ニュースサイト、ブログなど)、議論がぐるぐる回っているような思いにかられることがある。本当の議論を迂回しているようなー。

 本当の議論とは何か?これはあまりにもドデカイ問いだが、あくまで主観的な話をすれば、日本のいろいろな難しい問題(原発の行方、沖縄基地問題、生活苦などなど)を根本的に解決しようとすると、どうも日米問題に行き着いてしまう気がしてならない(議論があまりにも唐突だと思う方がいらっしゃるだろうが、そんな風に感じている人は、私だけではないと思う)。つまるところ、日本はどうやってやっていくのか、その戦略というか、方針が定まっているのかどうか。(あえて戦略を表には出していない可能性もあるが。)

 「最後の最後には、米国が解決してくれる」―そんな「空気」を感じてしまう。

 これ自体がいいことか悪いことか、戦後に日本で生まれた私にとって、ストレートな答えは出ない。しかし、「誰かほかの人が、最終的には責任を取ってくれる」という生き方、国のあり方は、一体、どうだろうか?今、大きなひずみが出ている感じがする。

 自分の行動に自分で責任を取る状態になっていないと、本気での議論ができていかないのではないか。

 本当に、自分の頭を使って、自分の責任で、自分の手と足で物事を決められるーそんな事態が発生したのが、3・11の大震災だったのだと思う。避難するのかしないのか、被災地からの農産物を自分の子供に食べさせるのか、食べさせないのか。

 その後、外から見ているだけだが、(原発を推進してきた)自民党が先月の総選挙で圧勝し、「自分の責任で、自分で物事を決められる」機会は、一体どうなったのかなと思う。

****

 そのほかにも、ソーシャルメディアの多用によって、じっくりと物事を考える時間が失われているのではないか(トレードオフとして)、「ツイッターの言論は、信用しない」という外国の若者の話などが、会話に出た。あっという間の1時間半だった。
by polimediauk | 2013-01-21 21:04 | 日本関連
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(BBCの国際テレビ放送「ワールドニュース」の新スタジオ、BBC提供)

 英国放送協会(BBC)が、今月中旬、新たな国際ニュースの生成・発信の場を本格的にスタートさせた。

 BBCはこれまで、ニュースの制作を複数の施設で行ってきた。英国内向け、国際ラジオ放送「ワールドサービス」、国際テレビ放送「BBCワールドニュース」、ウェブサイト「BBCニュース」など、BBCのニュースと言っても、たくさんの出力先があるのだ。

 今は、BBCのすべてのニュースの編集・管理部門を一堂に集めた、巨大なニュース編集室(=「ワールドニュースルーム」)を作り上げ、稼動させている。今回は新ニュースルーム訪問記の(2)である。

 米CNNをはじめ、世界に向けて24時間ニュースを発信する放送局は、英国以外でも続々と生まれている。ニュースの世界地図の中で、BBCのワールドニュースルームはどこに位置し、何を目指すのだろう?

 ニュースルームの見学後、BBCの商業部門の1つ「グローバルニュースリミテッド」社(ワールドニュースとオンラインのBBCニュースの国際版「BBC.com/news」を管理)の関係者から、今後の戦略を聞いてみた。

***

ー「ワールドニュース」は日本では300万戸の家庭で視聴されている

 BBCの人気SFテレビドラマシリーズ「ドクター・フー」の登場人物のイラストがガラス製のドアに入った小部屋で、グローバルニュース社の配信責任者で、「BBCワールドジャパン」の代表でもある、コリン・ローレンス氏に話を聞いてみた。

 ローレンス氏によると、日本で国際テレビ放送ワールドニュースの放送を視聴できるのは、ホテルでの視聴者をのぞくと、約300万戸。

 日本での放送分(家庭ではスカパー!やケーブルテレビなどを通して視聴可)では、1日のうちに約18時間がロンドンと東京で日本語の同時通訳や字幕をつけた2ヶ国語放送となっている。

 同氏の職務の目標は視聴者を増やすことだが、既にBBCは知名度がある大きな放送局なので、「既存の視聴者にもっと頻繁に見て欲しい」。

 「インターネットが普及し、人々はさまざまな形でニュースを消費している。BBCのためにどれほどの時間を割いてもらえるのかで、ほかのメディアと競争をしている。視聴者の選択の幅は大きく広がっている」。

 BBCのウェブサイトによると、米ケーブルサービス、コムキャストとの契約によって、ワールドニュースはその配信先をワシントンDC,フィラデルフィア、シカゴ、ボストンなどの大都市に拡大している。欧州ではフランスやギリシャなどでも配信先を大きく増加させた。

 今後も米国での拡大に力を入れてゆくそうだが、携帯電話やタブレットなどで番組を視聴する人が増えており、「いかに新規のプラットフォームからマネタイズするか」に頭を悩ませているという。

 「個人的な意見」として、世界の24時間のテレビニュース市場に、日本がもっともっと出てきてもいいのではないか、という。「日本は世界にとって重要な国だが、『静か過ぎる』のではないか」。

 グローバルニュース社の最高執行責任者ジム・イーガン氏は今後をどう見るか?

 同氏によると、最終的な目標は、「BBCのニュースが世界の国際報道の究極的な基準となること」。なかなか、壮大な目標であると私は感じた。

 そのためには、「3つのR」戦略をとっている。「リーチ、レベニュー=収入、レピュテーション=評判」を高めることだという。「最も大事なのは評判だ」。 

 では、どうやって、BBCの報道についての評判を高めるのだろう?

 最初の鍵は「コンバージョン」(=変換)だという。「インターネットが始まったのは約20年前だ。当時、ネットとテレビ放送は2つの別々の存在だった。今は視聴者はネットでも番組を見る。ネット放送とテレビ放送とは今や一緒になった」。

 こうしたメディアの消費環境の変化に応じ、BBCも「ネットとテレビ受信機へ向けての放送とを区別せず、どちらも放送・配信対象としてやってゆく」。これは技術的な実務から、人の配置、番組放送予定など、ありとあらゆる局面が変わることを意味するという。

 次の鍵は、「ワールドニュースルームへの引越し」だったという。「最新の高度な報道技術が使える。3Dを利用したり、HD映像をこれまで以上に生成・出力できる。結果として、ダイナミックで高度に洗練された報道が可能になる」。

 ダイナミックな番組作りが、広告主を引き寄せ、配信提携先が増えることを期待しているのだ。

 そして、固有な存在となる、「ニュースルーム」自体も大きな鍵の1つだという。これは編集室の大きさそのものを指しているわけではない。イーガン氏が言うのは、人的資源の集積の貴重さだ。

 「ニュースルームで働くスタッフは、一人ひとりが独自の知見と情報を持つ、プロのジャーナリストだ。国際ラジオ放送ワールドサービスのスタッフは、それぞれの言語を話し、現地の事情に通じている。一人ひとりが担当地域の専門家でもある」。いわば、世界各地の知の集積が、このニュースルームなのだ。

 「これほどの規模と深みがあるリソースを持つニュースルームは、世界でもほかにはないと思うよ」とイーガン氏は誇らしげに語る。

 「今後5年間で、グローバルニュースが得る広告収入や配信収入を、30%増にしたい」と述べるイーガン氏。「強気すぎるのではないか」と聞くと、「そうは思わない。楽観的とは言えるかもしれないが」といって、笑顔を返した。具体的な数字目標を聞いたが、「商業部門なので、言えない」と口をつぐんだ(ちなみに、2011-12年の年次報告書によれば、BBCワールドニュースの営業利益は380万ポンド=約5億4200万円=を記録している)。

 現在のところ、BBCの国内放送向けの活動資金は厳しい状態にある。緊縮財政を実行する政府は、公的組織BBCにも予算削減を求めている(2013年から17年の間に7億ポンド分の削減)上に、2014年4月からは、政府からの交付金でまかなってきた、国際ラジオ放送のワールドサービスをBBCが「自力で」運営するように、決定されてしまった。テレビライセンス料(日本のNHKの受信料にあたる)で国内の活動費用をまかなっているBBCにとって、商業部門が生み出す利益は、国内外のBBCのジャーナリズムを支えるために大きな役割を果たすことになる。

 英語が国際的な言語として利用されるようになって久しい。英語による報道機関として世界でもトップを争う位置にあるBBCは、世界を俯瞰し、どこで何が起きているかを世界に向かって伝え、分析し、解説しているー今、この瞬間にも。

 BBCジャーナリズムの新たな活動拠点としてのワールドニュースルーム。24時間、活動停止がない知的頭脳の一端に触れた思いがした
by polimediauk | 2013-01-21 17:00 | 放送業界
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(BBCの「ワールドニュースルーム」、BBC提供)

 今月上旬、中東カタールの衛星テレビ放送アルジャジーラが、米元副大統領アル・ゴアが立ち上げた、ケーブル・テレビ「カレント・テレビ」を買収し、ニュース・ウオッチャーをあっと言わせた。世界のテレビ市場(広告収入および有料テレビ)で最大の規模を占める、米国への本格的な足がかりをこれで作ろうとしたと言われている。24時間のニュース放送局アルジャジーラは、もともとはアラビア語で始まったが、今は英語版もある。ライバルは米CNNや英BBCだ。

 24時間ニュースのテレビといえばCNN(1980年開始)が草分けだが、現在では世界各国に同様のサービスを行う放送局が発生している。

 世界のテレビニュース市場で覇権を握る戦いが続く中、ラジオ時代を入れると創立から90年を超える歴史を持つBBCが、今月14日、新たな国際ニュースの生成・発信の場を本格的にスタートさせた。

 BBCの事業は、日本のNHKのように視聴者から徴収する「テレビライセンス料」(NHKの受信料に相当)でまかなう国内向けの制作活動、広告収入と番組配信料で運営し、海外向け事業を担当する商業部門「BBCワールドワイド」、英外務省からの交付金が原資となる国際ラジオ放送「ワールドサービス」などによって構成されている。

 ニュースの制作は、これまで、英国内向け、ワールドサービス、国際テレビ放送「ワールドニュース」、ウェブサイト「BBCニュース」など、複数の施設で行われてきたが、今月中旬からは、BBCのすべてのニュースの編集・管理部門を、ロンドン・オックスフォード・サーカス駅から数分の「新ブロードキャスティングハウス」に一手に集め、巨大なニュース編集室(=「ワールドニュースルーム」)を作り上げた。かかった費用は10億ポンド(約1430億円)に上る。

 「新」というのは、1932年に建設された放送施設用ビル「ブロードキャスティングハウス」(日本での呼称は「報道センター」)の横に、拡張された形で建設されたビルだからだ。

 BBCのすべてのニュース部門が一箇所に結集されたことで、一体、どんな変化が起きるのだろうか?

 新体制に移行してから3日目、この「ワールドニュースルーム」を視察する機会を得た。そのときの模様を紹介したい。

―「6000人が働く」ニュースルーム

 ニュースルームの見学を出迎えてくれたのは、BBCの商業部門の1つ「グローバルニュースリミテッド」社のリチャード・ポーター氏。

 グローバルニュース社は昨年9月、ワールドニュース(国際テレビ放送)とオンラインのBBCニュースの国際版「BBC.com/news」とを統合管理するために創設された。

 ポーター氏が担当するのは、ワールドニュースとオンラインのニュースに加え、ワールドサービス(ラジオ)の英語版のコンテンツ作りと運用だ。

 ちなみに、24時間放送のテレビ・チャンネル、ワールドニュースは世界200カ国に配信されており、3億5000万戸の家庭や180万室のホテルの部屋、152の豪華客船、40の航空会社、23の携帯電話網で視聴できる。

 日本でも人気がある番組の1つが、テクノロジーを扱う「クリック」だが、ほかにも丁々発止のインタビュー番組「ハード・トーク」、ライフスタイル番組「トラベル・ナビゲーター」などがある。

 米CNNに相当する、英国の24時間の報道テレビが放送を開始したのは、1989年。衛星放送スカイテレビが最初だった。現在のワールドニュースの前身「BBCワールド・サービス・テレビジョン」の開局は1991年になる。

 セキュリティー担当者のチェックを受けてガラスの回転ドアの向こうに入ると、眼下に広がるのが、広々としたフロアに並ぶコンピューターのモニターやデスクだ。かつてのバブル時代の証券会社のフロアを思わせる。その巨大な光景に息を呑まずにはいられなかった。

 中央部には、天井部分から丸い輪が下がっている。「ハロー」(星の集まりおよびその周辺の光を発する物質から構成される薄い円盤状の構造)と呼ばれている。この下に位置する机にもたくさんのコンピューター・モニターが並び、忙しそうに画面に向かう人がたくさんいた。

 「この中で、最終的には6000人が働くことになる」とポーター氏。

 これまでは7つのビルにバラバラに存在していたニュース部門の記者や編集者らが一堂に集まるのだという。ハローの下にある机の集積部分には、ニュース生成過程のすべての情報が集まるようになっている。

 世界中に特派員を置き、24時間報道を実行するBBCにとって、情報を一箇所に集めることはとても重要だ。また、例えばテレビの記者がテレビ媒体にのみ情報を出すことはもはやなく、ラジオ、あるいはネット用にも出力することが求められるため、中央の情報集積が必須となってくる。

 スタッフは机に張り付いてばかりいるわけではなく、いざとなったらすぐに専門家の所に飛んでコメントをもらえるよう、余禄のカメラクルーもプールしてあるという。

 この日は、朝、ロンドン・ボックスホール駅近くでヘリコプターがビルに墜落し、新体制になってから、初の大きなニュースが勃発していた。あちこちに設けられたテレビモニターが映し出すのは、現場にいた市民が撮影したと見られる、ヘリコプターの一部が燃えている映像だった。

 ポーター氏によれば、事件・事故現場に出くわした市民がBBCに映像を自発的に送ってくるのが日常的になっている。こうした素材は「ユーザー・ジェネレイテッド・コンテンツ」(UGC)と呼ばれ、その信憑性(情報提供者の本人確認、映像が真実を語っているかなど)確認のために、BBCは一定の人員をあてている。

 「確認作業をすれば時間がかかるが、どんなときにも、BBCとして、正確で、信憑性の高い報道を行うことが大事だと思う」(ポーター氏)。

 フロア内をピンクの上着姿の人が時々、歩いていた。「新体制に移行して間もないので、技術的な疑問を持っているスタッフがまだ多い。助けてくれるサポートの人たちだよ」。

 ヘリコプター事故の様子を伝える、ワールドニュースの司会者の姿がモニターの1つに映る。ワールドニュースは英国外向けのテレビ放送となるが、「BBCは英国の放送局なので、今回のような事故は国内のニュースであっても、国際放送で伝えている」。

 テレビモニターがいくつも並ぶ、コントロール・ルーム。あるモニターの中では数人の人物が歩き回り、その周囲を緑のシートが覆っている。緑のシート部分には、3Dを含むさまざまな映像を入れ込むことが可能だ。ポーター氏は、例えば日中の尖閣諸島問題の説明に、周辺の地形を3D化した映像を組み込んだという。

 「どんなセットもこれで作成が可能になった」ー。「ハード・トーク」の収録に、これまでは「本当の家具を周囲に置いていた」。これからは、司会者とインタビュー対象者以外は、「本物でなくても良くなった」。

 新設の放送施設は、地上9階、地下3階の建物で、地下の1つにあるのが、ワールドニュース用の「スタジオB」。引越しの前までは、西ロンドンにある放送施設「テレビジョン・センター」の小型スタジオを使っていた。新スタジオは司会者が座る席の後ろに、横長の大きなスクリーンが設けられている。動画、静止画、グラフィックなどを強いインパクトを与える形で映し出せるという。

 ポーター氏によれば、狙いは「ダイナミックなプレゼンテーションによって、BBCが視聴者を重要に思っているというメッセージを伝えること」。主力ニュース番組「GMT」は英国時間では昼の放送開始だが、日本では時差の関係で午後9時ごろになる。重みのあるニュースが日本に住む視聴者に伝わることを望んでいるという。

 地上5階の一角にあるのが、27の言語で放送される、ワールドサービスのオフィスだ。机とモニターが並ぶ中に、ミニスタジオが散在する。あるスタジオの予定表を見ると、「ブラジル、ウズベキスタン、ロシア・・・」という順番が書き込まれていた。

 BBCの国際ラジオ放送は1930年代に始まったが、最近はラジオよりもテレビで見たいという人も増えているため、各地域の地元テレビ局との協力で、番組作りを始めているという。

 ラジオのワールドサービスと、テレビ放送のワールドニュースのスタッフとが協力して作っているのが、「フォーカス・オン・アフリカ」(「アフリカに焦点を置く」)だ。1つの横長のデスクを、シェアしながら使っていた。

 「こういう共同作業がしやすくなったのも、ニュース部門が一堂に集まったからこそだ」という。

 テレビ放送は英語だが、世界の複数の言語で、「地元の声を入れた報道をBBCニュースという1つのブランドの中で発信できるのが強みだ」。

ー視聴者のために番組作り

 世界に向けてのテレビ放送というと、米国ではCNNが著名だ。アラブ世界ではアラビア語ばかりか、英語でも放送をするアルジャジーラ(アラビア語は1996年、英語は2006年開局)がある。フランスでも、24時間ニュースのテレビ局として、フランス語、英語、アラビア語で放送する「フランス24」(2006年開局)があり、ロシアには「ロシア・トゥデー」(2005年開局、英語、ロシア語、スペイン語、アラビア語でも放送)がある。

 BBCの国際放送は、上記のほかの放送局とどこに違いがあるのだろうか?また、英国内の放送業の巨頭BBCが、商業部門を持つ必要はあるのだろうか?

 ニュースルームの視察を一通り終えた私は、ポーター氏にそんなことを聞いてみた。

 「BBCの基本は、公共サービスの提供者であること」、と同氏は話しだす。

 「BBCの商業部門は広告で運営されているけれども、その収益をBBCの活動のために戻している。これがBBCのジャーナリズムに投資されている」。

 実際に、2011-12年度のBBCの年次報告書によると、商業部門BBCワールドワイド(国際テレビ放送BBCワールドニュースの広告業務を委託されている)は、約2億ポンドを、BBCの国内向け放送のために「戻して」いる。前年比では19%の増加だ。

 BBCの存在目的は「株主の利益を拡大するためではなく、政府に仕えるためでもない。私たちは、視聴者のために活動している」(ポーター氏)。

 世界のニュース報道市場にはさまざまな参加媒体がいるが、「視聴者のために活動」という部分が、BBCが信頼を得ている理由ではないか、と同氏は言う。(続く)
by polimediauk | 2013-01-20 17:28 | 放送業界