小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


by polimediauk
プロフィールを見る
画像一覧
通知を受け取る

<   2013年 05月 ( 14 )   > この月の画像一覧

c0016826_2114288.jpg
 

 15歳の英国人少年が開発した、ニュースを要約して見せてくれるアプリ「Summly(サムリー)」を、ヤフーが買収したニュースを記憶していらっしゃる方は多いと思う。また、堀江貴文ライブドア元社長がハフィントンポスト日本版松浦茂樹編集長との対談で、「ニュース長すぎ。たとえば新聞も長すぎ。新聞の記事って内容がない割にはけっこうだらだら書いてあって。ネット時代は長くて400文字」と発言したことも、まだ記憶に新しい。

 そんな中、英経済紙フィナンシャル・タイムズ(FT)が、29日から、刻々と発生するニュースを、24時間、短文で出してゆくサービス「fastFT」を開始した。

 PCを使っている場合、通常のようにFTのウェブサイトをあけると右コラムに「fastFT」が出る。これをクリックすると、fastFTの画面になる(29日はサービス開始初日だが、今後、若干、ナビゲーションは変わるかもしれない)。アイパッドやアイフォーンでも画面のサイズに合わせた形で出るようになっている。

 fastFTの画面では、カテゴリー(経済、マーケットなど)の次に1行の見出しが出る。いつ出た記事か(何分前かなど)の表記があり、その下には、1つの文章あるいは1つか2つの段落が出る。

 その1つ1つの記事だが、見出しだけでは全体は分かりにくい。しかし、その下につく1つ(あるいは2つの)文章で、大体話が分かるようになっている。

 もしそのトピックに興味があれば、「オープン」というタブがあるので、これをクリックすると、短い「記事」が読める。これ自体が「伝えたいこと全体の要約」ともいえる。開いてみると、とにかく短く、フィナンシャル・タイムズの通常の記事であれば、3分の1もいかないかもしれないほど。

 この「記事」の中には、FT紙の通常の記事、つまり、長い記事へのリンクが参考として入っているときもあれば、入っていないときもある。つまり、このfastFTは、通常の記事を読んでもらうことを目的としているのではなくて(そうしようと思えばできるのだけれども)、ここでほぼ完結することを狙っている。

 fastFTの面白いところは、

―ロイターなど通信社と競争しているわけではないが、「速報をすばやく知りたいときに、ほかのサイトに行くのではなく、FTに来てもらえる」
―忙しい人にとって、見出しだけ見るだけでも十分だ
―しかし、本当に1行の見出しだけで足りるかといったら、実際、そうではないので、「見出しと1-2行の要約」だけを読むと、長い記事を読まなくても良い
―さらに、ほんのもう少しだけ読みたい人には、短い記事が提供されているので、ここまで読んで、後は長い記事(ウェブサイトの通常の記事)を読まなくても良い
ー通常の長い記事を読ませることを狙っていない

という部分だろう。

 FTサイトはメーター制の課金制度をとっているので、月に8本までは無料で閲読できるが、それ以降は購読者にならないと読めない。

―要約で足りること

 かつて、数多くの媒体から情報を拾ってくるグーグルリーダーやRSSが大変な人気だったけれど、今となっては、読み手が一番読みたい媒体が短文式で速報を伝えてくれれば、時間的にも非常に助かるわけである。

 「サムリー」のときもそう思ったのだけれど、この「要約のみで足りる」方式はこれからもどんどん増えるのだろう。読み手としてはオリジナルの情報源のサイトに飛ばなくても良い、情報発信側としては無理にオリジナルサイトに読者を引っ張らないというのが、新鮮に思える。

 これは、読み手にとっても、書き手にとっても、メディア企業にとっても大きな動きだ。例えば書き手の場合で言えば、自分で考えて書いて、編集者が構成や事実確認や表現などを見て、「1つのコンテンツ」=商品として、サイトに記事を出すとしよう。ところが、これからの読み手はこのコンテンツを読みにはこない。「要約」で足りてしまうからだ。ビジネスモデル、広告モデル、ニュース情報消費モデルがどんどん、変わっている。

 改めて、FTのサービスの話に戻れば、fastFTを担当するのは8人のベテラン記者。世界の各地域に記者を置き、24時間、情報が途切れないようにする。世界のどこかでマーケットはあいているのだ。この8人は、FTの通常の記事に読者を引っ張るために要約を作るのではなく、ここだけで完結する記事を作っている。

 携帯端末の利用者を想定して、ビジネスの要約ニュースを発信するという試みは、米アトランティックもQuartzというサイトでやっている。こちらは閲読無料だ。

 アイフォーンのアプリとして使えるCirca Newsも要約ニュースが楽しめる(動く画面を見るには、アイチューンズでアプリをダウンロード)。サマリーによく似ている感じだ。ニュース源は第3者から提供され、編集スタッフが要約・編集して出している。ニュース源を知りたい場合、「i」マークをクリックすると、元記事が読める。

 特定のニュースのアップデートが欲しい場合、「購読する」を選択すると、新しい情報が入り次第、教えてくれる。先日の米ボストンマラソンのテロ事件では、多くの読者がアップデート情報を希望したという。

 ニュースは要約した形で読む、元の長い記事にいく必要はない、要約だけでもずいぶんと面白いし、役に立つー。この傾向は前から発生していたけれども、フィナンシャル・タイムズまでもが新たな形で導入し、ますます広がっている感じがする。

参考記事

Financial Times launches fastFT

FT launches breaking news tool “when 140 characters doesn’t cut it”

Circa hires Anthony De Rosa away from Thomson Reuters to expand its editorial ambitions

The Atlantic’s Quartz is here at last but will it pay?
by polimediauk | 2013-05-29 21:02 | 新聞業界
c0016826_1363098.jpg
 

 英兵リー・リグビーさん(25歳)が、先週、ロンドン南東部ウーリッチの路上で男性2人に殺害される事件が発生した。発生から4日後の26日、殺害現場は家族連れを中心とした哀悼者が次々と訪れる場所になっている。

 複数の目撃者の証言によると、22日午後2時ごろ、リグビーさんは英陸軍砲兵隊兵舎に続くジョン・ウイルソン通りの近くで、男性2人に刃物で何度も刺された。その後、男性らはリグビーさんの身体を通りの中央部に移動させた。

 現在までに2人はナイジェリア系英国人のマイケル・アデボラジョ容疑者(28)と、マイケル・アデボエイル容疑者(22歳)と判明している。

 男性らは犯行後も現場を去らず、その一人は通行人に状況を撮影してくれるよう依頼し、イスラム教に由来するメッセージを語った。
 
 撮影された映像によると、アデボラジョ容疑者とみられる男は「われわれは戦い続けるとアラー(神)に誓う」と言い、「イスラム教徒が毎日死んでいる」と続けた。リグビーさんを「目には目を、歯には歯を」という復讐の意味で殺害したことを示唆した。手には血がつき、包丁を持っていた。

 14-5分後に現場にかけつけた警察官らが男性らに発砲し、2人は現在、命に別状はないが、別々の病院に収容されている。

 捜査当局はこれまでに、事件に関係があると見られる数人の男女を逮捕している。

―花束とメッセージがいっぱい

 26日昼過ぎ、ウールリッチ・アーセナル駅から歩いて数分の現場に行ってみた。

c0016826_1395554.jpg 殺害現場を訪れる人は、すでに置かれている花束や花輪、メッセージの数々の多さにまず息を呑む。私自身もそうだった。立ち止まって、一つ、一つを思わず読んでしまうのだ。

 大きな木の下の緑の芝生部分にもっともたくさんの花束が置かれていたが、そこに行き着くまでの通りの柵にも、メッセージ付のカード、写真、英軍関係者が残したと見られる国旗やTシャツ、英軍兵士の人形、ろうそくなどが、ところ狭しとなれべられていた。

 「ゆっくり休んでください」、「世界で最高の兵士だった」、「絶対にお前のことは忘れないよ」、「遺族の方の気持ちと一つになっています」―。手書きのメッセージが多くの花束に付いていた。

 しばらくして、警察官らが花束が置かれている場所からいったん退却してくださいと呼びかけた。遺族が自ら花束をささげたいので、という。みんなが退却してスペースをあけ、一般車の通行も一時停止された。

 20分ほど待っていただろうか。数台の黒塗りの車が通りに入ってきた。数個の大きな花束を持つ葬儀関係者らとともに、リグビーさんの義父イアンさん、母リンさん、妻レベッカさんなど数人が車から出てきた。レベッカさんはピンク色のぬいぐるみをしっかりと腕に抱いていた。2歳の子供はどこかに置いてきたのだろうか?

 イアンさんはリンさんを抱きかかえるようにして車から出た。

 家族らは当初、大きな木の下の壮大な花束の数々の横に、持ってきた花輪を置いた。しばらくじっくりとメッセージに目を通し、ほかの花束や花輪を眺めているようだった。見守る人々は、私も含めて相当な数に上っていたが音を出さず、静かな時間が過ぎた。

 家族は通りを横切り、別の花束の数々の陳列場所に向かって歩き出した。歩道に上る前に小さな段差があり、リグビーさんの母親リンさんがつまずきそうになると、聴衆から大きなため息が出た。転んでしまうのではないかとひやっとしたのだった。イアンさんがリンさんを抱きあげるようにして支えたので、転ばずにすんだ。

 こちらでもまた2つの花輪を置いた後、リンさんが感極まって、大きな声をあげて泣き出した。レベッカさんやほかの家族は輪になって互いを抱きあった。

 20分ほどの家族だけの時間が終り、来たときと同じように数台の車に乗って、去っていった。

 私たちは家族が残した花輪を一目見ようと、動き出した。花輪の1つには、「お父さんへ」とかかれたカードが添えられていた。その上には、赤いリボンがかかり、「夫へ」と書かれていた。

 せいぜい10メートルほどの通りは、いつしか、身動きするのがやや困難なほど、込み合ってきた。

 c0016826_142410.jpg通りの端で、シーク教徒の長老たちが数列になり、テレビカメラの前に並んでいた。シーク教徒の男性たちは頭にターバンを巻いているから、すぐ分かるのだ。

 そばに行ってみると、地元のシーク教徒団体の代表セワ・シン・ナンディズさんが話し出した。「今日私たちがここに来たのは、英兵士の死に追悼の意を表明したかったからです。世界中で英国の軍隊はすばらしい仕事をしています。シーク教徒も英国民として英軍の一員となってきました。先週の水曜日に起きたことは、どんな宗教的な理由からも正当化されません。ひどい犯罪です。これを私たちは絶対に許してはなりません」

 「テロに負けてはいけません。一番悪いのは、テロが起きたからといって、私たちの行動を変えることです。私たちは英国民として、今までどおりに、生きていきましょう。これこそがテロに勝つことです」。

 短い演説が終わると、聞いていた人々の中で拍手が起きた。ある男性が「良くぞ言ってくれた。良いことを言ってくれたよ」と声をかけた。

 テレビは衛星放送スカイニュースの取材陣だった。

 代表の隣にいる、数人のシーク教徒の人たちに、改めて何故来たのかを聞いてみた。

 「哀悼の意味があるが、同時に、シーク教徒をイスラム教徒と混同する人が多い。だから、今日ははっきりさせたかった」と一人が言う。

 2005年のロンドンテロ(イスラム教の過激主義に心酔したと見られる数人の男性たちが首謀者となった)のときも、「シーク教徒とイスラム教徒をいっしょだと思う人がかなりいて、私たちのモスクが攻撃を受けた」。現場の近くには信者が集まるモスクがあるという。

 「宗教は家に置いておくべき。プライベートなことだわ」と女性のシーク教徒の人が言った。

 BBCの報道によれば、22日の英兵殺害事件発生後、反イスラム教感情に根ざしたと見られる攻撃が起きている。イスラム教徒用ヘルプライン「フェイス・マターズ」は事件発生から3日で162件の被害報告の電話を受けたという。また、ソーシャルメディアではイスラム教やイスラム教徒を非難するコメントが相次いでいるという。
by polimediauk | 2013-05-27 01:43
 欧州無料紙業界で、国境を越えてビジネスを展開しているのが最大手メトロ・インターナショナルに加え、ノルウェーのシブステッド、スイスのタメディアだ。

 スウェーデンの有力大衆紙「アフトンブラーデット」を所有するシブステッドは傘下に20 Min Holding AG社を置き、「20ミニッツ」のフランス版、スペイン版を発行している。

 シブステッドの国際版無料紙部門の足を引っ張るのがユーロ危機で経済が大きな打撃を受けるスペインの「20 ミヌトス」(読者数210万人)だ。11年の営業収益が前年比で400万ユーロ減少した。逆にフランス版(読者数280万人)は収益を前年比で16%増加させている。

 無料紙が新聞市場の30%を占めるスイスでは、13の日刊紙と20のニュースサイトを含む約40紙を発行するタメディアが有力だ。スイスの3つの公用語である独語、仏語、イタリア語で出す「20 Minuten」(ツヴァンツィック・ミヌーテン)の発行で大きな位置を占める。ウェブサイト「Swissinfo」によると、紙版の読者は200万人、オンラインでは50万人を数える。

―広告主の「干渉」、報道の質は?

 欧州の無料紙には、その報道内容について、有料新聞と同様の期待がかかるようになっている。

 例えば、新聞市場の30%を無料紙が占めるオーストリアだ。首都ウイーンを中心に50-60万部を発行する無料紙「ホイテ」は、地下鉄構内での配布の独占権の是非が議論の的となったり、ウイーン市など政府系組織からの広告収入の比率が高く、広告主に好意的な紙面づくりをしているという批判が出ている。

 無料紙は短時間で読み切れるように制作されているため、無料紙の配布が拡大するにつれて、全体では報道の質が下落するという懸念も表明されている。

 Swissinfoに掲載された記事「良質な情報、民主主義には不可欠」(2012年12月14日付)の中で、チューリヒ大学の公共空間・社会研究センターの研究者たちは、報道の質とは「さまざまな内容や意見があること、関連性はもちろん、背景説明を含む報道価値があること」と定義する。さらに、「質の低い一般メディアがエリート向けのより質の高いメディアを駆逐する傾向が続けば、民主主義に悪い影響を及ぼす」と警告している。

 これに対し、無料紙発行大手タメディアの広報担当者は、無料紙やオンラインメディアについて、「読者にそれほど深く掘り下げた情報を必ずしも提供しないが、そのような出版物にも需要はある」と反論している。

―「ライバルはネット、携帯端末」か

 日刊無料紙を生みだした国スウェーデンで新聞の将来を研究する、ミッドスウェーデン大学のインゲラ・ボードブリ教授は、国内の無料紙(2011年で76万2000部発行)の今後に悲観的だ。

 ネットでニュースを読む人が増え、紙の新聞を購読する習慣が廃れつつあることや、電車内では新聞よりも携帯電話などの端末機器を操作して時間を過ごすことが一般化しているからだ。

 また、有料紙と無料紙は競合相手にはならないという。スウェーデンでは有料新聞は日本のように購読者となり、自宅に宅配される形で読む。通勤時に読む無料紙と有料紙とは異なる時間に消費されている。

 「無料紙と時間を奪い合う競合相手は携帯端末」だ。「15年後、無料紙は今の形では存在しないかもしれない」とボードブリ教授はいう。同時に、「有料紙も毎日の発行ではなく、週に2回発行などに変化していく可能性もある」と付け加えた。

 一方、世界の無料紙の動向を記録するブログ「ニュースペーパー・イノベーション」を運営し、オランダのユトリヒト大学で教鞭をとるピエット・バッカー氏は、携帯端末と日刊無料紙は競合しないと見る。

 無料紙は「通常は新聞を読まない若者層に配布されている」点から、ユニークな位置にいるとバッカー氏はいう。

 同氏は「欧州内での無料紙の読者数は増加、あるいは安定化している」として、その将来を楽観視している。

 スウェーデン・メトロの創刊を誰も事前には予測していなかったように、欧州新聞事情の地図はさらに書き換えられることがありそうだ。

―無料・有料・デジタル化の棲み分け

 最後に、無料新聞の人気が高い英国の例から、有料紙やその電子版との棲み分け状況に注目して見る。

 筆者が住む英国・ロンドンでは、朝刊無料紙メトロ(アソシエーテッド・ニューズペーパーズ社発行)、無料金融紙「CITY AM」に加え、午後には無料夕刊紙「ロンドン・イブニング・スタンダード」(イブニングニュース社)が駅近辺で配布される。

 主要全国紙(有料紙)の3月の発行部数(英ABC調べ、4月はサッチャー元首相の死で特需があったので3月を比較)を見ると、前年比で2桁台の下落が珍しくない。

 特に大きな下落を記録したのは左派系高級紙インディペンデント(25・23%減、約7万5000部)。正反対の動きとなったのが同紙の簡易版で価格が5分の一以下の「i」(アイ、10.58%増、約29万部)。

 ウェブサイトのユニーク・ユーザー数は大部分の新聞が二ケタ台で増加した。英国の新聞社サイトは過去記事も含めて無料閲読の場合が多く、広告収入が主となるが、紙媒体の運営を補うほどには大きくなっていない。

 ロンドンで電車に乗ると、紙の新聞を手にしている人が目に付くが、ほとんどが無料紙(朝刊「メトロ」、経済専門紙「City AM」、夕刊紙「ロンドン・イブニング・スタンダード」など)だ。3紙合計でロンドン内で平日平均で約210万部が発行中だ。スマートフォン、電子書籍閲読端末、パソコンなどの画面を見ている人も多い。

 3紙の部数は安定しており、City AMは2月時点で前年比32・17%の伸びを見せた。インニング・スタンダードはかつて有料紙だったが、09年秋から無料紙となり、部数を3倍近く増大させた。

 朝刊無料紙メトロや夕刊無料紙スタンダードは、通常は紙の新聞を読まない人も含めた幅広い層に配布される。あまり外出しない人向けには無料のコミュニティー紙が無料で自宅に届けられる。無料新聞は英国で新聞文化の1つになっている。

 一方、電子版の有料化を率先して進めてきた経済紙フィナンシャル・タイムズは、電子版購読者が紙版購読者数をしのぐようになっている。

 また、高級紙タイムズ、その日曜版サンデー・タイムズは10年から電子版に完全有料化(購読者にならないと一本も読めない)を進め、両紙合計で約30万人を超える購読者(昨年12月時点でタイムズは12万7540人、サンデー・タイムズは11万8888人)を獲得した。

 携帯電話やタブレッド版では課金制をとってきた大衆紙サンは今年下半期からウェブサイト版にも課金制を導入すると発表している。

 高級紙の最大手デイリー・テレグラフは、ウェブサイトを英国外から利用する際に、月に20本までは閲読無料、それ以上は毎月1・99ポンド(約300円)という課金制(メーター制)を昨年11月から導入してきた。4月からはこれを国内の読者にも適用している。

 これでウェブサイトの閲読が過去記事も含めて完全無料なのは高級紙ではガーディアンとインディペンデントのみになった。

 地方紙は課金にしても十分な収入が得られない、仕組みの導入に一定の資金がかかることなどから、すぐには追随しない模様だ。

 タイムズなどが課金制を導入する前後、経済専門紙は別としても、一般紙で電子版有料制が成功するのかどうか、あるいは民主主義の観点から情報を囲い込むことの是非が随分と議論された。

 しかし、紙媒体の下落が加速化し、利用者が多い電子版による情報発信を維持するためには、課金制を導入せざるを得ないほど、切羽詰った状態になってきた。

 窮状打開のため、経費削減、人員縮小に拍車がかかっている。高級紙では数十人単位で編集部員が削減され、編集作業の効率化、機械化が進む。

 紙の新聞は無料で配られたものを読み、ネットでは好みの新聞や記事にお金を払って読むーこれが新たなメディア環境として現実化しつつある。有料新聞は紙媒体での発行をいつまで続けられるか。限界への挑戦となってきた。

 (隔月刊行の「JAFNA通信」(フリーペーパーの団体、日本生活情報紙協会=JAFNA=発行)などへの筆者寄稿記事に補足しました。)
by polimediauk | 2013-05-25 17:23 | 新聞業界
 読売新聞オンラインのデジタル面に、毎週火曜、欧州メディアのデジタル事情について書いている。関心のある方はご覧いただければ幸いである。

 来週は、5月27日に発売される、「BIG DATA」(邦訳版「ビッグデータの正体 情報の産業革命が世界のすべてを変える」、講談社)の共著者の一人に、本の内容とビッグデータの扱い方を聞いた話を出す予定でいる。

(1)「データ・ジャーナリズム」で未来を予言?
(2)メディア・アウトソーシングの新たな波
(3)既存メディアへの五つの提言
(4)東欧発の人気サービス「ピアノメディア」とは?
(5)データエディターとはどんな仕事?(上)


***

 欧州新聞界の最近の傾向について、「グーグルとの付き合い方」、「無料紙」、「デジタル課金」をキーワードにして、隔月刊行の「JAFNA通信」(フリーペーパーの団体日本生活情報紙協会=JAFNA=発行)など複数の媒体に寄稿した。以下はそれに補足したものである。長くなったので、上下に分けている。

―グーグルから譲歩をひき出そうとする欧州メディア

 検索エンジンといえば、米英および欧州数カ国で圧倒的な位置を占めるのがグーグル。そんなグーグルに対する懐疑の目は、欧州で結構強いように思う。

 英国のメディアはどちらかというと、グーグルに自分たちのウェブサイトの記事を拾ってもらうためにはどうするか?を重視し、「どうせ駆逐できないのなら、協力してしまえ」という雰囲気を感じるが、ほかの欧州数カ国ではそれほど簡単に負けてはいない。

 昨年末来報道されているが、ベルギー新聞界はグーグルによる記事利用(グーグルニュースなど)に料金の支払いを求めている。2012年末、グーグルとの交渉で和解に到達。詳細は明確にされていないが、グーグル側はベルギーの新聞のこれまでの訴訟費用を負担し、かつ、500万ユーロ(約6億4000万円)分の広告を掲載するという。

 一方、フランスでは、今年2月、政府とグーグルが新聞・雑誌業界向けの支援基金を設置することで合意している。基金の規模は6000万ユーロ(約76億円)。この基金はフランスのメディアの電子化促進に使われる。

 フランスでは新聞界がグーグルによる検索の記事の見出しや一部の利用に対し、著作権の支払いを求めていた。これは実現しなかったが、グーグルからお金を引き出したという点では、フランス側のひとまずの勝利ともいえるのかもしれない。あるいは、著作権の支払いにならなかったという点ではグーグルが勝ったのかもしれない。玉虫色の結果である。

 3月には、ドイツで、新聞社などがネット上で出したニュースを検索サイトに掲載する場合、使用許諾や使用料の支払いを義務付ける改正著作権法が成立した。「グーグル法」とも呼ばれている。報道機関は、1年間、営利目的でニュース記事を公開する独占的権利を持つ。

 交渉は難航した。改正法案支持の与党キリスト教民主党の政治家や新聞界に対し、成立すれば多額の支払いが発生することを懸念するグーグル側による反対派との間で、意見が拮抗したからだ。

 法案は3月1日、連邦参議院(上院)が可決し、22日に連邦議会(下院)での可決を経て成立の運びとなった。法案支持派は「骨抜きになった」と不満を漏らす。というのも、改正法は非営利目的で個人がニュースを利用する場合や引用が短い場合には適用されないからだ。一体、「短い引用」とはどこまでを指すのだろう?譲歩を引き出しはしたものの、これも玉虫色の印象が出た。ドイツ新聞界側もグーグル側も、どちらも「勝った」と主張できるのだ。

 ドイツ新聞界は上院での可決後、法案が成立すれば「自社で生み出したコンテンツのウェブ上での商業利用に初めて決定権を持つことができる」と声明文で述べた。出版社は「検索エンジンやニュースアグリゲーター(他媒体で作ったニュース・コンテンツを集積=アグリゲート=して独自のサイトを作る)と、どのような合意の下に商業目的のコンテンツを提供するかについて自由に決定できる」。上記の条件を考えると「自由に決定」とまで言えるかどうかは疑問なのだが。

 欧州新聞界の話からは外れるが、米通信社APが自社記事の著作権を侵害されたとして、ノルウェーのオンラインメディア「メルトウオーター」を訴えていた件で、ニューヨークの裁判所は3月20日、AP側の主張を認める判断を下した。大手検索エンジンのみならず、ニュース・アグリゲーターと新聞社などコンテンツ制作者側との戦いはこれからも続くかもしれない。

 英国ではドイツ新聞界のような動きはあまり表面化していない。ロイター・ジャーナリズム研究所の調べによると、1週間でどの媒体でニュースを得たかと聞かれ、「新聞」と答えた人がドイツでは68%、英国54%、米国45%。「ネット」と答えたのはドイツで61%、英国82%、米国86%、テレビがドイツで87%、英国76%、米国69%、ラジオがドイツで68%、英国45%、米国33%となっている。

 ドイツのメディア利用者は米英と比較して印刷媒体からニュース情報を取る比率が高い。これを強みとして、新聞界が検索エンジンと戦うことができるーという解釈もできそうだ。

―無料新聞の流れ

 有料で買う新聞の体裁を維持しながらも、広告のみで経費を負担する日刊「無料新聞」(フリーニュースペーパー、あるいはフリーペーパー)がスウェーデンで創刊され、欧州から世界に広がっていったのは1990年代半ば以降だ。欧州の無料紙市場は創刊ラッシュ、バブル崩壊、安定化という過程を経て現在に至る。

 世界新聞・ニュース発行者協会(WAN-IFRA)の「世界新聞トレンド2012」によると、2011年、世界で約3600万部の日刊無料紙が発行されているという。

c0016826_17435838.jpg

(欧州無料紙市場の流れ:「ニュースペーパー・イノベーション」ピエット・バーカー氏提供)

―急激に拡大

 日刊無料紙「メトロ」がスウェーデン・ストックホルムで創刊されたのは1995年のこと。

 スウェーデン人のジャーナリスト、ペッレ・アンデションが「新聞は市民に討論の場を提供し、民主主義の核心につながる」という発想から、無料紙の発行を企画。投資会社キンネヴィークからの資金繰りで創刊を果たした。2000年からは同社傘下のメトロ・インターナショナル社(本社ルクセンブルク)が発行。12年にはキンネヴィーク社が投資規模を拡大させるために全株を取得し、現在に至る。

 メトロは欧州を中心にその発行範囲を拡大し、現在では欧州諸国のほかに北米、中南米、韓国、香港など世界23カ国・地域、150都市で840万部を配布する。1部を何人かが回し読みするため、1580万人を超える読者がいると同社は説明する。配布国の半分(11カ国)、配布部数の半分以上(471万部)が欧州だ。

 世界的金融危機の影響から08年には損失を出したものの、2011年には税引き後利益で2000万ユーロ(約24億5700万円)を達成した。近年は軸足を西欧諸国からロシアや中南米に移している。メトロとして発行していながら、所有者が変わった国もある(フィンランド、チェコ、ポルトガル、ギリシャ、ハンガリー、フランス、オランダ、デンマークなど)。

 スウェーデンのメトロに触発されて生まれた無料紙として、スペインでは「20 minutos(ミヌトス)」(「20分で読める」という意味、創刊1999年)、オランダでは「Sp!ts(スピッツ)」(同年)、英国では先のメトロとは別だが同名の「メトロ」(同年)などが先陣グループに入る。

 無料紙は駅構内のラックに積み上げられているか、入り口付近で配布員が乗客に手渡す形を取る。

 無料紙の発行は、

 ①大量の新聞を読み手に配布できる都市型交通機関

 ②これを利用する乗客=読み手

 ③毎日紙面を満たすほど集まる広告という3要素を持つ都市型ビジネスだ。

 ネットでニュースを読む人が増える中で、有料新聞の発行部数はどの欧州の国でも下降気味だが、駅内外で無料で配布される新聞はつい手にとってしまう人が多い。文章は簡素で、記事は短いものが中心となり、通常の新聞よりは読みやすいこともあって人気を博した。2007年ごろまで、欧州各国では無料紙の創刊ラッシュとなった。

 無料紙の市場参入に抵抗する国もあった。

 2002年、フランスでは出版労組員が無料紙の印刷を拒否したり、運送中の無料紙をセーヌ川や路上に投げ捨てる妨害行為が発生した。

 ドイツでは、1999年、ノルウェーのメディア大手シブステッドが無料紙「20ミヌーテン」をケルンで配布したが、大手新聞社数社が対抗する無料紙(アクセル・シュプリンガー社による「ケルン・エクストラ」、デュモン・シャウベルク社による「ケルナー・モルゲン」など)を発行した。2001年、負債を抱えたシブステッドが独市場から撤退すると、先の複数の無料紙は廃刊となった。

 オフィスビル、空港、航空機など一部で無料で配布される新聞はあるものの、ドイツには現在に至っても本格的な無料紙が発行されないままになっている。「新聞は買って読むもの」(ドイツ新聞発行者協会)という原則を貫いている。

 1990年代半ば以降はネットニュースの出現、拡大時期でもある。新聞社や放送局などのニュース・コンテンツの制作者側、そして新興検索エンジンなどが無料で読めるニュース・サイトを続々と設置した。無料新聞の拡大とともに、「ニュースとは無料で読めるもの」という概念が広まってしまったと筆者は見ている。

ー景気悪化、過剰供給から市場淘汰の波

 スウェーデン「メトロ」の創刊から18年経ち、ドイツを除く欧州各国では主要都市の駅前で複数の無料紙を配る配送員の姿が日常的な光景になった。

 無料紙の動向を記録するブログ「ニュースペーパー・イノベーション」によると、欧州での無料日刊紙の配布部数は12年末で約1600万部(27カ国、74紙)。日刊無料紙が国内で最多の発行部数あるいは最大の読者数を持つ新聞となっている国もある(スウェーデン、デンマーク、スイスなど)。2010年では、欧州の新聞発行・配布部数全体の15%を無料紙が占めた(同ブログ)。

 しかし、景気悪化による広告収入の減少や過剰供給による市場飽和などで、2006年以降、「無料紙バブル」は崩壊してゆく。英国の無料夕刊紙「ロンドンペーパー」(09年廃刊)、スペインの「ADN」(2011年廃刊)イタリア「City」(昨年廃刊)、オランダの「De Pers」(同)などが廃刊の憂き目にあった。

 06年、スペインの無料紙の部数は500万部に達し、有料紙も含めた日刊紙市場で50%以上を占めた(「ニュースペーパー・イノベーション」調べ)。36の無料紙が発行されていたが、12年、無料紙の部数は100万部(13紙)を切った。3大無料紙(メトロ、ADN、Que!)は廃刊となり、残る大手無料紙は「20ミヌトス」(67万部)のみだ。

 創刊ブームからバブルの崩壊まで栄枯盛衰はあったものの、無料紙が欧州新聞市場の一角を占めているのは事実だ。(「下」に続く。成熟した市場となった欧州・無料紙市場の今後と、「デジタル課金」と英国新聞市場を検証する。)
by polimediauk | 2013-05-24 17:42
 知人の藤沢みどりさんから送られてきた、『調査報告 チェルノブイリ被害の全貌』の出版とイベントのお知らせです。ご参考までに。

***


 TUP速報の藤澤みどりです。大津波に続く福島第一原発の爆発を受けて2011年4月に緊急発 足した翻訳プロジェクトがようやく実り、 チェルノブイリ事故27周年の2013年4月26日に岩波書店か ら『調査報告 チェルノブイリ被害の全貌』が出版されました( わたしも校閲担当として参加しました)。
http://www.iwanami.co.jp/cgi- bin/isearch?isbn=ISBN978-4-00- 023878-6

 本書の出版を記念して著者のお一人であるアレクセイ・ ヤブロコフ博士(ロシア科学アカデミー) の連続講演会が以下の日程で開催されます。 講演当日にはネット中継が入る予定ですが、お時間のあるかたはどうぞご参加ください。



<東京>
『調査報告 チェルノブイリ被害の全貌』刊行記念
アレクセイ・ヤブロコフ博士講演会
日時: 5月18日(土)午後6時30分~
会場: 星陵会館 http://www.seiryokai.org/kaikan.html
主催: チェルノブイリ被害実態レポート翻訳プロジェクト
共催: ピースボート、グリーンピース・ジャパン、FoE Japan、グリーン・アクション、原子力市民委員会
協賛: 岩波書店
解説: 崎山比早子
司会: おしどりマコ
参加費: 1,000円(邦訳書持参の方は無料)
東京講演会の詳細はちらしをご覧ください。
昨年12月の脱原発世界会議2におけるヤブロコフ博士の講演もこ ちらでご覧いただけます。
http://chernobyl25.blogspot. co.uk/2013/04/blog-post_29. html


<盛岡>
公開講演会「チェルノブイリからフクシマへ--
原発事故の実情と教訓--」
日時: 5月19日(日)午後1時30分~
会場: 岩手大学工学部 テクノホール(工学部正門を入ってすぐ)
主催: 日本科学者会議岩手支部、 原発からの早期撤退を求める岩手県学識者の会
参加費:無料
盛岡講演会の詳細はこちらをご覧ください。
https://docs.google.com/file/ d/16mr4eZp8jZvyZqOJtAH_ hVHzWZlAnSUk09_ Vh3ODNBSZPL8TJGXrlSN3CFk6/edit


<郡山>
アレクセイ・ヤブロコフ博士講演会「チェルノブイリ被害の全貌~
福島への教訓」
日時: 5月20日(月)午後6時30分~
会場: 郡山市総合福祉センター5階集会室
主催: 「ふくしま集団疎開裁判」の会
参加費:無料
郡山講演会の詳細はこちらをご覧ください。
http://fukusima-sokai. blogspot.jp/2013/04/blog-post_ 19.html


<京都>
『調査報告 チェルノブイリ被害の全貌』刊行記念
アレクセイ・ヤブロコフ博士講演会「チェルノブイリから学ぶ」
日時:5月22日(水)午後6時15分~
会場:キャンパスプラザ京都
主催:京都精華大学人文学部細川研究室
協賛:使い捨て時代を考える会/安全農産供給センター
京都講演会の詳細はこちらをご覧ください。
http://www.greenaction-japan. org/modules/wordpress/index. php?p=649


<記者会見>
外国特派員協会報道昼食会: “Lessons from Chernobyl for Fukushima: Consequences for People and the Environment”
日時: 5月21日(火)正午~
会場: 外国特派員協会
主催: 外国特派員協会

by polimediauk | 2013-05-15 23:27
c0016826_2233116.jpg
 
(米ブルームバーグの情報端末画面を出す、英フィナンシャル・タイムズのサイト)

 世界中で使われている金融情報端末で著名な米ブルームバーグ(本社ニューヨーク)が、端末を利用するトレーダーや金融関係者についての情報(の一部)を、自社の記者が見れるようにしていたことが発覚した。ブルームバーグは経済・金融情報の配信とともに、通信社・放送事業も運営するので、報道の独立性に疑問が生じた。今後の調べにもよるが、顧客情報の守秘義務を破った可能性もある。

 米メディアの報道によれば、FRB(連邦準備制度理事会)が調査を開始しているという。

 以下、12日時点での話ということでお読みいただきたい。

 この事態を、10日、スクープしたのはニューヨークのタブロイド紙「ニューヨーク・ポスト」だ。ウオール街に「衝撃が走った」という( ニューヨーク・タイムズ、同日付)。 

 事件の経緯を「Market Hack」の編集長広瀬隆雄さんが詳しく書いている。

 「おっと、そのブルームバーグ端末を使ってヤバいメッセージを送らない方がいいぞ、『New York Post』によると、ブルームバーグの記者が覗いているから」

  ブルームバーグの企業倫理が問われている!

 簡単に経緯を振り返ると、米投資銀行大手ゴールドマン・サックスがブルームバーグに対し、情報が漏れていることへの苦情を伝えた。きっかけは、ブルームバーグの香港特派員がゴールドマン・サックス社に連絡を取り、同社の共同経営者がブルームバーグの端末をしばらく使っていないようだが、ゴールドマン・サックス社を辞めたのかどうかと聞いてきたという。これで、ゴールドマン・サックスのほうは、ブルームバーグの記者たちが本来は外部に(例えブルームバーグ内でも)出るべきではない情報にアクセスできることを知ったという。

 ブルームバーグのトップ、ダニエル・ドクトロフ氏は10日に社内に向けた電子メールの中で、顧客からの苦情を受けて、先月、記者による顧客情報へのアクセスを狭めたと書いた

 ブルームバーグは世界中に2400人ほどの記者を抱え、31万台を超える情報端末を販売している。1982年に現ニューヨーク市長のマイケル・ブルームバーグ氏が創業した。昨年の収入は約79億ドル(約8000億円)。そのうちの約85%は金融端末からの収入だ。

 ニューヨーク・タイムズに語った、あるブルームバーグの元社員によると、ブルームバーグ社は1990年代初期、ニュース部門を強化するために端末からの情報を活用するように記者らに奨励したという。まるで営業員のように銀行やヘッジファンドの担当者に電話をかけ、端末の販売を促進させたこともあったという。

 懸念を示しているのはゴールドマン・サックスだけではなく、米銀JPモルガンも同様だ、と ニューヨーク・ポストが伝えている。

 トムソン・ロイター社も同様の金融情報端末を販売しているのだが、早速、声明を発表した。金融情報部門とニュースを発信する通信社部門とが「完全に独立して」運営されており、「記者が同社の顧客に関する情報に、公開されているものを除きアクセスすることはない、特に顧客によるわが社の製品あるいはサービスの利用状況についてはアクセスできない」という(ニューヨーク・タイムズ)。

 ブルームバーグの記者がアクセスできた情報は顧客情報全体のほんの一部で、「たいしたことはない、大騒ぎしすぎている」という見方と、「とんでもない!」という見方とがあるようだ。

―グーグルもやっている・・・?

 英フィナンシャル・タイムズの「アルファビル」というコーナーに、元ブルームバーグ記者のトレイシー・アロウェイ氏が記事を書いている。タイトルは「いかに顧客にスパイ行為を行っているか、ブルームバーグのやり方」だ。

 ブルームバーグに勤めていたころ、記者は「UUID」という端末IDを使うことができた。「金融情報の記事を書くときには、とても便利だった」という。

 先のニューヨーク・タイムズの記事からさらに詳しく使い方を見てみると、ブルームバーグの記者たちは「Z機能」を使うことができた。これで顧客のリストを見ることができた。その後、顧客の名前をクリックすると、UUID機能を使えるようになる。これによって、個々の顧客の連絡先、いつログインしたか、カスタマーサービス部門と利用者とのチャット情報、端末上のどの機能を良く使ったかなどを調べることができた。

 FTのアロウェイ氏によれば、ゴールドマン・サックスが事態を知って驚いたことは理解できるが、もっと驚いたのは「なぜ今まで明るみに出なかったか」。ブルームバーグに働く記者にとっては「利点だった」という。

 また、同社の内部データベースには金融情報サービスを利用する顧客の個人情報(連絡先)や子供の名前、好きな食べ物、趣味などの情報が入っていた。

 「ブルームバーグは金融情報端末市場をほぼ独占していた。その成功の理由には、利用者情報のデータマイニングの成果もあった」とアロウェイ氏。

 顧客情報にアクセスできることで、営業部門のスタッフはより顧客に合ったサービスを勧めることができたという。「しかし、商業部門とニュース配信サービスとの境があやふやになったことは問題だと思う」。

 個人的には、なぜこういうことが何年も当たり前になっていたのかが不思議である。社内で、という意味である。金融情報を売る側と発信する側の「ファイヤー・ウオール」のようなことがあるはずだがー?

 ただ、詳細が十分に分からない部分もあり、一概に「ダメ!」と言えないのかもしれないが、それにしても、ドキ!としてしまう。感覚的に、「やっぱり、これはおかしいだろう」と。当局の調査・捜査の結果を待つしかないが。

 FTの記事につくコメントが興味深い。「グーグルも同じことをやっている。グーグルメールの情報を見て、ニュースを作っている」、「顧客情報を見られていることをうすうす感じている利用者は多い。利用後に跡を消すようにしている」、「FTにも情報を利用されないよう、毎日、紙のFTを別の小売店で買っている」などー。

―ニューヨーク・ポスト?

 あくまで余談だが、このタブロイド紙はメディア王と呼ばれるルパート・マードック氏の米メディア大手ニューズ社が所有している。マードック氏には「敵」というか、ライバルがたくさんいる(マードック氏自身がいつかは自分の手中に入れたいと思っている相手、といってもいい)。一時、リベラル派の新聞ニューヨーク・タイムズの買収を考えたという(実現せず)。

 そして、良質なジャーナリズムを提供するニューヨーク・タイムズではなく、こんな大きなスクープを出したのは、普段はゴシップ記事が多いニューヨーク・ポストであった。「鼻を明かしてやった」という部分があるだろう。

 一方、ニューヨーク市長のブルームバーグ氏は、英FT紙の買収を考慮していると、昨年末報道された。質が高い英米の新聞を買おうともくろんだ・もくろむ人物同士であった。

 マードック氏にとって、富豪・政治の大物ブルームバーグ氏は「仮想敵」といってもおかしくはないだろう。マードック氏にとっては、ちょっと面白いというか、痛快なニュースになっているだろうことが想像できる。

 以上、余談でした。


―金融情報端末市場の戦い ロイターとブルームバーグ

 世界の金融業界で使われている情報端末で、かつて圧倒的な位置を占めていたのがロイター(今はトムソン・ロイター)製だった。(以下、週刊「東洋経済」に掲載された筆者アーカイブ記事に補足。)

 19世紀半ば、ベルギーのブリュッセルと独アーヘン間で伝書鳩を飛ばして株価情報を伝えたのがその始まりとなる老舗通信社の英ロイター。世界130カ国に2400人ほどのジャーナリストを抱えていたロイターは、自他共に認めるトップ通信社だった。

 しかし、ロイター・グループの収入源の大部分は、報道部門でなく、証券会社や銀行に設置するロイター端末機が稼ぎ出すプロ向けの金融情報サービス。業者間のシェア争いは激しく、ロイターがカナダのトムソン・フィナンシャルと合併してトムソン・ロイターになる前の2006年時点(合併は2008年)、巨大市場の33%を握っていたのがブルームバーグ。これにロイター(23%)、トムソン・フィナンシャル(11%)が続いた(「インサイド・マーケット・データ・リファレンス」調べ)。

 2007年5月、トムソンがロイターに対して買収を打診。拒否権を持つロイター株主がこの買収を認めた。08年4月、ブルームバーグを超える世界最大の金融情報会社トムソン・ロイター(本社ニューヨーク)が誕生した。現在、従業員は世界100カ国で約6万人に上る。

 バートン・テイラー・インターナショナル・コンサルティングの調べによると、2011年で金融データ・分析情報市場は250万ドルに達した。ブルームバーグとトムソン・ロイターはそれぞれ約30%のマーケットシェアを持つ。

―ブルームバーグの強み

 金融情報サービス業界の競争は熾烈で、単純計算で「世界最大になった」として安閑としてはいられない。

 もともとロイターは、90年代半ば頃までは金融情報端末市場をほぼ寡占。敵はダウ・ジョーンズくらいだった。ところが、米ソロモン・ブラザーズの債券トレーダーだったブルームバーグ氏(株式の大部分を保有)が80年代に創業したブルームバーグが急成長を遂げた。ブルームバーグ氏は現場を知るトレーダーとしての経験を生かし、使い易いシンプルな端末機を作り上げ、トレーダーからの支持を獲得したためだ。ブルームバーグは端末利用者同士で使えるインスタント・メッセージのサービス(「メッセージを送って欲しい」という時、「ブルームバーグしてくれ」という表現が流行ったという)など、新サービスを次々に投入した。市場の構図は一気に塗り替えられてしまった。

 今回の事件発覚で、ブルームバーグの端末を顧客がキャンセルする動きにまでつながるかどうかは不明だ。あまりにも深くその端末が市場に食い込んでいるからだ。
by polimediauk | 2013-05-12 21:57
 イタリア・ペルージャで開催された国際ジャーナリズム・フェスティバル(4月24-28日)で印象に残ったセミナーやワークショップの一部を紹介したい。

***

c0016826_18254790.jpg
 

 その1つは、イタリアの季刊誌「COLORS」(カラーズ)による様々な実験だ。同誌は斬新な写真と深みのある記事で知られる。

 フェスティバルの初日、編集長のパトリック・ウオーターハウス氏が「ニュースを作る」と題されたプレゼンテーションを行った。同氏によれば、22年前に「カラーズ」が創刊されたときは「グローバリゼーション=多様性=良いこと」という考えがあったという。しかし、今は、「疑問符がついている」。

 毎回、人種、エイズ、宗教など人間にとって大きなテーマを取り上げ、議論を発生させてきた「カラーズ」は、最新号でニュースに注目した。「ニュースを作る」がそのタイトル。ニュースとは何か、ニュースを分析して見よう、というわけだ。

 最初のページにあるのが英大衆紙デイリー・メールの紙面。英国の新聞は企業が送ってくる広報文書(プレス・リリース)に依存するようになっているが、「カラーズ」は、ある日のデイリー・メールの紙面から、プレス・リリースに依拠した記事を取り去って見た。大きな穴が開いた紙面となった。ある紙面は90%近くが、プレス・リリースを基にしたものだった。

 一体、ニュースって何なのだろう?プレス・リリースを書き換えたもの、といえなくないだろうか、という問題提起である。

 2005年4月、イスラム武装集団が、イラクで拘束されている米兵の姿をウェブサイト上で公開した話も紹介されている。兵士の頭には銃が向けられている。武装集団は、米軍によって拘束されているイラク人受刑者を解放しなければ、この米兵士を銃殺すると脅した。

 しかし、実はこの米兵はプラスチックの人形だったー。インターネットの出現でうそのニュースを作ることがより簡単になった、とイタリア人の教師トマッソ・デ・ベネデッティ氏は語る。同氏は英国のベストセラー作家JKローリングや元ローマ法王ベネディクトが死んだと嘘のツイートを流したことで知られている。

 一方、2011年3月11日、日本を大津波が襲った後で、石巻日日新聞が出した「号外」は、紙に手書きで書いた新聞だったー。ネットが発達した現代社会だが、いざと言うときに役立ったのは紙の新聞だった。

 「ニュースは事実を伝えるもの」、「事実とは誰にとっての事実なのか?」、「私たちは先進的なネット社会に生きている」-もろもろの既成概念を問い直し、視覚的に揺さぶりをかけるのが、今回の特集だ。

 ウオーターハウス編集長は、「カラーズ」がある事象を分析するときのアプローチ方法を説明した。

 「視覚化する」、「客観化する」、「モノを通して見る」、「地理情報を加える」、「分解する」、「仕組みを説明する」、「人間の特有性を大事にする」など。

 発想を刺激する「カラーズ」だが、資金繰りはどうしているのだろう?編集長は、衣料メーカーのベネトンが資金を出しているという(ベネトンのリサーチセンター、ファブリカが担当)。

 これで少し納得がいった。ベネトンといえば、度肝を抜くような広告の数々で知られている。例えば、2011年、ローマ法王ベネディクト16世(当時)とイスラム教指導者アフマド・アル・タイーブ師がキスしている合成写真を用いた広告を出し、物議をかもした

 どうやって私たちはニュースとつきあうべきなのだろう?

 ウオーターハウス編集長に会場で聞いてみた。c0016826_18274556.jpg 編集長は自分をアーチストという。以前にファブリカ社で編集にかかわっていたが、いったんやめて南アフリカ・ヨハネスブルクに。プロジェクトに応じて「カラーズ」にかかわるようになり、現在は編集長になった。

 雑誌を見ると、世界中のさまざまな出来事を俯瞰していることが分かる。どうやって世界で何が起きているかを把握するのだろう?毎日、どうやって情報を取得するのだろう?

 「私たちは情報がありすぎる社会に生きていると思う」と編集長。「目利きとなる情報フィルターを持つことが重要になってくる」。

 「カラーズ」に入ってくる情報は、イタリアにある編集部の10人のスタッフ、世界中にいるジャーナリストやリサーチャー、アーチストなど、これまでに「カラーズ」で仕事をした人から入ってくる。

 編集長自身も地元で手に入るニュースに目は通すが、「情報がありすぎるぐらいだ」と繰り返す。

 「肝心な点は、アイデアを見つけること。自分が何を探しているのかを頭において、情報を見ることだ」という。

 フェスティバルの開催中、「カラーズ」は、「ニュースを作る機械」をリパブリッカ広場の一角に置いた。

c0016826_1828836.jpg

 最新号の特集「ニュースを作る」をフェスティバルで紹介したことにあわせ、表紙に描いた「ニュースを作る機械」のイラストを実際に作ってみたのだ。ビデオカメラやラジオ、マイクロフォン、拡声器、録音機、ブラウン管などを組み合わせた、奇妙な格好の機械である。

 その仕組みの一部を簡単に紹介すると、利用者がツイッターで@colorsmachineにメッセージを送ると、文章が音声に変換され、拡声器がこれを発声する。その音声を録音機が録音し、ブラウン管に映し出す。これをビデオカメラが撮影し、再度文字に変換するー。最後に、手前にある装置が、元のツイッターのメッセージと、ニュースを作る機械が生み出した文章とを印刷する。この機械の「編集」過程を経て手にしたメッセージはオリジナルのメッセージとは大きく異なっていることが多い。

 例えば、「今、この機械に向かって叫ぶことを楽しんでいる」が、「今、娘を持っている」に変わっていた。


c0016826_18282548.jpg
 この機械を作ったアーチスト、ジョナサン・ショムコさんは「最初のメッセージが様々な媒体を通してまったく違うものに変わっていくことを示したかった」という。最新のデジタル技術を使い、人的要素を一切排した媒体でも、結果として「間違った、あるいは不正確な情報になった」。教訓は、「新聞や雑誌などの既存メディアであれ、機械であれ、何かを媒体として出てきた情報を鵜呑みにしてはいけないということだ」。
by polimediauk | 2013-05-11 18:19 | 欧州のメディア
 いただいたコメントの全文紹介の後半である。4月上旬時点での情報を基にしたものとご了解願いたい。

***

(3)

茨城大学教授古賀純一郎さん

―堀江貴文コメント(登場人物の敬称略)

 IT(情報技術)関連の事業家で21世紀に入り注目されていた人物を3人挙げるとすれば、村上ファンドを立ち上げた経済産業省出身の村上世彰(1959年8月生まれ)、楽天の三木谷浩史(1965年3月生まれ)、そして今回仮釈放となった堀江貴文(1972年10月生まれ)あたりだろうか。うち堀江ら2人は、司直の訴追を受け有罪判決を受けた。

 何が分水嶺となったのか。それは、企業の中で揉まれ、経済システムの中で、企業人、経済人が持つべき最低限の掟を知る環境に身を置く機会があったかどうかに尽きるような気がする。

 三木谷は、大卒後、保守本流企業の筆頭、旧日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行、そこでビジネスの王道を学んだ。これに対し村上は、高級官僚として上からの目線で監督官庁傘下の企業を見ていたのだろう。堀江は、それこそ在学中にビジネスを立ち上げ、それが本業となったのだから、下から這い上がり、試行錯誤を続ける中で走りながらルールを体得することになったのだろう。それが倫理を軽視した経営に繋がったと推察できる。要は、人に上に立つ一流の経営者の在り方を皮膚感覚で学習する機会に恵まれたどうかではなかろうか。

 コンプライアンス(法律順守)がとやかく言われだしたのは、1990年代のことである。CSR(企業の社会的責任)が叫ばれたのは2000年に入ってからだ。利益だけを追求する、古典的な利益優先の企業は社会の中で存在を許されないような立場に今や追い込まれている。有罪判決を受けた2人は、こうした社会の変化を読み違えたということができようか。

 もっとも、有罪判決を受けて服役した堀江貴文。そのブログなどを読むと獄中で、社会そして人間、企業の在り方について熟考する機会をもったようだ。これからは、社会的責任を背に捲土重来をめざす新タイプの経営者として時代の先頭に立っての活動を期待したい。

 寄らば大樹の陰とは一線を画し、堀江は、自らの知恵と力で世の中の荒波に揉まれ、裸一貫で、ライブドアの設立までこぎつけた。有罪判決の基礎となった企業ではあるものの、立ち上げた堀江の企業家精神は大いに評価されるべきであろう。日本人が弱いとされる、こうしたチャレンジ精神の旺盛な企業家をこのまま見捨てるのは多いなる損失と思えて仕方がない。優れた手腕にこれまで欠けていた社会的責任の自覚が備われれば、今後の経営力は、大いに期待できよう。今回の蹉跌を糧に、役割がますます拡大しているIT業界の中で存分にその力を発揮してもらいたいと考えるのは私だけだろうか。

 “七転び八起き”は、再チャレンジが難しいとされる日本経済の活性化にとって不可欠の要素である。増税なき財政再建を目指した第二次臨調などでリーダーシップを発揮した名経営者、故土光敏夫も、当時の法相の指揮権発動でとん挫した昭和29年の造船疑獄で逮捕され、その時の経験がその後の経営で大きな教訓になったと語っている。

 仮釈放後の会見で堀江は、新しいニュース批評に挑戦したいとの決意を語ったようだ。グローバル化、IT化の進展で、メディア界では、ウェブサイトを通じた情報発信がますます重視されるようになっている。新しい感覚を引っ下げた堀江が新境地を開拓すれば、メディア界のみならず、新聞などの既存メディアに対しても新しい刺激となるのは間違いない。堀江が熱心な“放送とネットの融合”にも期待したい。ネット社会に国境はない。国内のみならず、海外に対しても積極的に事業を展開し、日本の情報の対外発信を積極的に取り組んでもらえれば、情報の勝負で強いとは言えない日本にとって大きな朗報となる。再起を切に願いたい。

***

(4)

ワイズプロジェクト 代表取締役殿岡良美さん

―堀江さんをどうご評価なさいますか(ビジネスマン、メディア運営者、起業家、政治的動きなど)

 希代の風雲児だと思っていることはもちろんですが、ご本人も出所当初のコメントで述べられているように、あまりにも社会に対して挑戦的かつ配慮が足りませんでした。そのために、いっときの金権主義の権化のように語られ、落としめられすぎたきらいはあると思っています。(実際にいくつものブログで私は批判し尽くしすぎるくらい批判しました)。

 ですが、彼の持っていた感覚=ネット時代における新しいジャーナリズムの形態に関する予感のようなものは、一定の度合いで確かだったように思います。それは旧メディアに対して強烈なアンチテーゼであり、批判の要素を持っていたのですが、残念ながら当時はIT技術も我々の意識も追いついておらず、旧利権と新興勢力の対峙の問題として飲み語られました。その課題は彼の出所した今日、あらためて継続して考えるべきテーマとなって生きていると思います。

―堀江さんの受刑をどのように受け止められましたか

 これについて当時感じた気持ちは先に引用した「心の中のライブドアショック----私たちは暴力装置の中で生きている」という記事に書きましたが、法的未整備の穴をついて過剰な量刑が彼にスケープゴートとして課されたと思っています。その後に起きた数々の経済事件の主犯が、彼よりも遥かに軽いかあるいは逮捕に至っていないことからもわかります。

―仮出所中ですが、現時点での経営者としての責任他、何かお感じになることがおありでしたら、教えてください。今後に期待されることなど(メディア、事業家、若者へのインスピレーションなど)

 彼に対して責任を求める声よりも、明らかに過剰な量刑を課されて「地に落とされた風雲児」という評価の方が、特に若い世代で主流だと思います。堀江待望論はまだ消えていません。特に、堀江さんが受刑した当時はITバブルの最盛期でした。彼の逮捕によって六本木ヒルズに集ったIT長者の時代は終わり、その後日本は長い不況と低迷の時代に入っていきます。

 アベノミックスのかけ声のもとに日本に対してまたミニバブルの時代を再来させようと政権側が企て始めた時代の中で彼が出所したことは誠に象徴的であり、またぞや彼を利用して、表層的な金権思想が勃興することは警戒します。

 一方で彼自身の才と先見性、時代をとらえる視点については私は深く認めるところであり、前述のネットにおけるニュースのありかたについて彼が発言して行くこと、ビジョンを提示して行くことは歓迎します。また、経営者としての責任は、この間の過剰とも思える量刑に服したことで十分に果たしたと思っています。

 彼にとって不幸に点は無駄に挑戦的に既存勢力に対して刺激的で乱暴な言葉を投げつけるその攻撃的な姿勢でした。出所後の会見ではそれが相当に薄れ配慮ある姿勢に徹していましたから、なお彼の今後には期待をしています。

***

 殿岡さんは堀江氏についての多数の論考をブログを中心に発表してきた。以下はそのブログ記事。

【最新】
帰ってきたホリエモン---ネットニュースに関する物語の続編とライブドアニュースの数奇な運命

ライブドア事件や堀江氏についての過去記事
BigBang カテゴリー「ライブドア」

【買収騒ぎ当時】
堀江貴文の病理------カネが全てではない理由の考察

【逮捕当時】
心の中のライブドアショック----私たちは暴力装置の中で生きている

(以上、コメント、終)
by polimediauk | 2013-05-10 07:37 | ネット業界
 3月27日、元ライブドア社長堀江貴文氏が刑務所から仮出所した。今後、新しいメディアを作るとさまざまなところで話しており、米ハフィントン・ポストの日本上陸ともあわせ、ネット界の今後がさらに面白くなってきた感じがする。

 仮出所直後の熱狂振りと堀江氏に期待するものについて、非営利組織「欧州ジャーナリズム・センター」に原稿を書いた(4月26日掲載)。

 記事内では一部しか紹介できなかったので、コメントをいただいた複数の方から了解をとって、以下にその内容を掲載してみる。コメントをいただいたのは4月上旬であった。それ以降、追加情報が出てきたわけだが(堀江氏がグノシーと協力するなど)、あくまで当時の情報を基にしたものとご了解願いたい。

***

(1)

*メディアストラテジスト集団「Qbranch」代表、新田哲史さん

―堀江さんをどう評価しますか?(ビジネスマン、メディア運営者、起業家、政治的動きなど)

 美辞麗句ではなく、「天才」「革命家」的な気質だけはある人だとは思います。

 時代の先行きを読む感覚は人並み外れているのは確か。日本でSNSが普及する前から、ミクシィをいち早く使っていた辺りは典型的ですね。

 著書名「稼ぐが勝ち」など、その言動が物議を醸したことは、「偽悪者」という評価もありましたが、「天才」であるが故に、凡人の違和感や警戒心を読み取れず、出る杭は打たれる日本社会の暗部を甘く見ていたのではないでしょうか。織田信長が、他人の空気を読めないアスペルガー症候群だったとする説がありますが、そういうことを彷彿とさせますね。ただし、「革命家」は、既成概念や常識にとらわれていてはイノベーションを起こせないので、ある種の代償で得た才能でしょう。

 しかし、元部下(塩野誠氏)の本を見ていると、経営者(リーダー)としてガバナンスが優れていたかは疑問ですね。当時のライブドアは、部下が取引先ともめて訴えられてもすべてが「自己責任」。訴訟対応も自分でやるというものだったそうで、社員を守る普通の企業であれば考えられない感覚です。あの頃の堀江礼賛的な視点で言えば、資本主義、市場原理にかなった対応で「社員は会社で食わせてもらうのではなく、稼ぐものだ」となるんでしょうが、「その他大勢」に与え続けた違和感を拭いきれませんでした。

ー堀江さんの受刑をどのように受け止められましたか。

 事件の事実認定に関する法的な解説が出来ないので、なんとも言えないのですが、仮に本人が粉飾決算の事実を知っていたとしても50数億。日本では、ライブドアより遥かにケタが2つも違う粉飾事件があった中で、実刑が出たケースは少ない。国家権力による恣意的な判断があったと勘ぐりたくもなりますね。これは知人の受け売りですが、「革命家」としては実刑は留学みたいなもので、宿命なのかもしれません。獄中からもツイッターやメルマガで発信し続けたあたり、タダでも転ばないと感じました。

―仮出所中ですが、現時点での経営者としての責任他、何かお感じになることがおありでしたら、教えてください。

 判決の事実認定についての評価は、私もなんとも言えないです。

 ただし、事件当時、当時の幹部が不可解な死を遂げましたし、ご遺族は、相変わらずメディアに出てきている堀江氏をどう思っているんだろうかと考えます。出所後の記者会見で、再犯防止の支援といった社会事業にも意欲を見せていますが、その言葉が本気なのかどうか、まだ見極めるべき段階かなと思います。


―今後に期待されることなど(メディア、事業家、若者へのインスピレーションなど)

 「革命家」として、獄中体験をどう生かすのか。特に新しいメディア事業への意欲を示しているので、どんなものか注目したいです。ただ、かつての彼は「インターネットで誰かが情報を拾って発信すればプロの記者なんかいらなくなる」的な極論を振りかざしていたので、どこまで変わったのか。

 ただし、もし自身の“えん罪”体験を踏まえ、調査報道主体の新しいメディアを立ち上げるような動きを見せると速報重視の既存メディアに良い刺激になってほしいと思います。

***

(2)

メディア・プロデューサー、石山城さん

 先ず、ボクが堀江さんに抱いている感想なのですが(彼はボクより7つ下)、彼はバブルが崩壊してから社会人になった人で、その後失われた20年といわれる超氷河期の日本に現れた超新星だったんだと思うわけです。

 出口の見えない闇雲の中を日本中の人が彷徨っている最中、「こうすれば明るく生きられるんだよ」「こうすればお金は儲かるんだ」というアクションとメッセージは、IT時代・金融時代という時代背景とマッチして華々しく輝かせたのだと思います。

 しかしながら、彼は、いわば「大人語」を使うことができなかったことで、目上の人たちから総スカンをくらった結果が、叩きつぶされた…という結果を招いたのだとボクは思っています。

 一方、同じように注目された人物として、まるで反対の表現をして成功したのが楽天の三木谷さんだったんだとボクは思っています。

 これは、例え二人が似たような才能を持ち合わせていても、大人たちの協力が得られたか、得られなかったか…という、人生の成功するステップには欠かせない要素を得られたか、得られなかったか…という大きな違いだったような気がします。ボクは二人のことはよくわかりませんが、端から見ている限りは、経営手腕はそんなに違わなかったのではなかったかと思います。

 さて、しかしながら、その話も今や昔。今、仮出所で出てきたこの時代は、当時とはかなり状況は変わっていて、今は、いかに新しいことにチャレンジするか? 世代や国籍などいっさい無関係に、いかに賛同者・共感者を集められるか?という「評価経済社会」になっているので、今となっては、堀江さんの今後のアクションは、せまい日本のなかでの、更にはオトナの世界だけに賛同者を得られている三木谷さんよりも、より大きな影響力を持っていて、実は、堀江貴文の人生はこれからが本番なのかも知れません。

 というのも、今、時代を動かしているムーブメントを牽引している人たちは、堀江さんの後ろ姿を追いかけてきた後輩たちであり、それらはGMOの熊谷社長をはじめ、mixiの笠原社長、元ペパボの家入一真くんなどなど、数え上げたらキリが無いぐらいにその影響力は高い状態となっています。

 余談までに、仮出所で出てきてからの彼の言動についての、ボクの感想をつらつらと書きます。

 彼の出所後のインタビューは、ネットのあちこちで全文が掲載されるほどの人気ぶりとなっていますが、それを見る限り、表現はとてもマイルドになったという印象を受けました。
 
 以前は、ケンカ上等のような子どものような印象を受けましたが、彼も、この逮捕経験により、自分がしたいことだけに特化する(それ以外は金持ちケンカせず)ことを学んだように思えます。

 更に、以前の彼と今の彼の違いは、時代の変化に敏感に感じ取っていることもあってか、 より本質的にーーーこれは言わば、ビジネスでも、ダイレクトに個別の商売よりも、サービス(システム)全体を売るという方向にシフトしているのかな、(見え方としてはよりビジネスビジネスに見えづらいけど、でも今の時代はそれが一番儲かる)ーーー変化してるという印象を受けました。それは今のIT成功者たちに共通する思想だともボクは感じています。(その2に続く)
by polimediauk | 2013-05-09 21:47 | ネット業界
c0016826_23373059.jpg
4月末から、読売新聞オンラインのITサイトで連載「欧州メディアウオッチ」を書かせてもらっている。欧州のメディアのニュースはなかなか発信する機会がなかったので、少しずつ拾っていきたいと思っている(欧州に住んでいらっしゃる方で、これは面白いというものがあれば、ご教示ください)。

 第1回から3回までは、イタリア・ペルージャで開催された国際ジャーナリズムフェスティバル(4月24日―28日)での模様を紹介した。

(1)「データ・ジャーナリズム」で未来を予言?

(2)メディア・アウトソーシングの新たな波

(3)既存メディアへの五つの提言

 7日に掲載された(3)の中に出てくる、イタリアのジャーナリズム集団「Next New Media(ネクスト・ニュー・メディア」について、原稿に入りきれなかった分を補足してみる。

 「Next New Media」は、紙媒体、放送媒体、ウェブサイトで経験を積んだプロのジャーナリストや写真家、ウェブ・デザイナーたちの集団だ。新聞社や放送局などが提供するウェブ上のコンテンツを代わりに制作する、メディアコンテンツのアウトソーシング組織。

 この組織を立ち上げた二人のジャーナリスト、ティツィアナ・グエリージ氏(上の写真、右)と、アンドレア・バティストゥツィ氏(左)にフェスティバル会場の一角で話を聞いた。 

―いつどのように始まったのか?

アンドレア・バティストゥツィ氏:2-3年前に起業した。その前にニューヨークで働いていて、イタリアに戻ってきてから、何人かと一緒に、プロのジャーナリストのネットワークを作ろうと呼びかけた。

 全員がウェブ、紙媒体などいろいろなメディアで働いてきた。私は英国のフィナンシャル・タイムズに匹敵する経済紙「Il Sole 24 Ore」で働いていた。ジャーナリスト、写真家、映像作家、ウェブデザイナーたちの集団だ。

 あらゆる種類のコンテンツをニュースウェブサイトに提供しようと思った。ビデオ、写真、記事、ソーシャルメディアの編集-何でもだ。とても面白い。

 新聞界は不景気のために苦しんでいるので、最も必要としているウェブ上のコンテンツを自分たちでは充分には作れない状況にいる。誰もがネット上で情報を利用したいこの時に、だ。

 そこで、完全なニュースルームをアウトソーシングのサービスとして提供しようと思った。

 例えば、「占拠」運動をライブブロギング(ネット上の現場中継)で欲しいといわれたら、ジャーナリストを調達できる。ニューヨーク、ローマ、ミラノ、どこでもニュースがあるところならコンテンツを作って、提供できる。

 イタリア国内でも、シシリーからミラノまで、各地にジャーナリストがいる。欧州ではブリュッセルやモスクワにも。

―ウェブ上でドキュメンタリーを作り、人気を博したと聞いたが、イタリアではこういう手法はよくあるのだろうか?

 バティストゥツィ氏:ドキュメンタリーをウェブで提供していくこと自体は珍しくないかもしれないが、イタリアではなかった。米国、英国、それにフランスでもあったかもしれない。

―どうやって起業したのか?

 自分たちで資金を出してあって立ち上げた。そのあと、二ヶ月ほどイタリアを回って、お互いに自由な時間を使いながら、取材した。お金も投資したが、全員が時間もたくさん投資した。

―どんな作品を作ったのか。

 話題になったのは、刑務所のドキュメンタリーだ。5-6人を1つのチームとして、国内の22の刑務所を訪ねた。

 普通は中に入れないが、刑務所の現状をそのまま出すために、人権団体「Antigone(アンティゴネ)」と協力した。アンティゴネが中を視察する中で、撮影隊がドキュメンタリーを作ってゆき、ウェブドキュメンタリー「Inside Carceri(刑務所の中)」を制作した。

―なぜ、刑務所か?

バティストゥツィ氏:イタリアでは最も熱く語られているトピックの1つだ。

 過去10年間、刑務所改革をしようとしてきたが、うまくいっていない。過密化している。公式には、最大限度は4万4000人。現在、6万6000人が収容されている。生活環境は醜悪で、非人間的とも言える。欧州連合が視察に何度も訪れ、非人間的だと報告している。

 政府はもっと刑務所を建てたがっているが、お金がない状態だ。

ティツィアナ・グエリージ氏:本当に、大きな問題だ。解決が困難だ。

―いつごろから、過密化したのか?

バティストゥツィ氏:急に増えたのは1990年代。移民法に変更があり、アフリカ大陸からやっていくる移民申請者が急増した。1980年代末、収容人口は2万2000人ぐらいだったが、今はその3倍だ。刑務所のスペースは変わらない。ナポリなど、各地で問題になっている。

ー具体的には、どんな感じか?

バティストゥツィ氏:私たちが見たのは、4人が普通の1つの部屋に11人、時には18人がいた。全員がベッドに一度に横になることができない。誰かが横になると、ほかの誰かが立っている。健康も悪化する。伝染病も広がる。

 例えばミラノ中心部には、ある歴史的建造物があるが、これが刑務所となっている。制約があって、簡単には改築できないようになっている。

 ある部屋の中では、あまりにもベッド数が多いので、窓を開けることができないようになっていた。空気が換えられない。そこで、6月に、窓のガラスをとった。窓ガラスが新しくついたのは9月だ。ガラスが入っていない3ヶ月ぐらい、刑務所内はまるで外にいるのと同じだった。雨が降れば、ベッドの上に雨が降った。

―どうやってこの作品を公開したのか?

 このプロジェクト専用のサイトを作り、公開した。多数のテレビ局やほかの大手ウェブサイトがその一部を放送した。

 様々な制限をはずしたかったので、今回のビデオは無料で見れるようにした。昨年11月にサイトで公開してから最初の5日間で、4万回ダウンロードされた。

 私たちの組織そのものは営利が目的だ。コンテンツを販売して生計を立てている。

 今準備しているほかのプロジェクトでは、放送権を売りたいと思っている。そして、人権にかかわる調査報道に関心がある市民団体から資金を出してもらって作りたい。

―刑務所運営者側の反応は?中に入るのを拒否されなかったか?

 先ほどの団体が公式な人権監視組織なので、政府の許可を得て中で撮影できた。ある刑務所の運営者は環境が劣悪でも「自分たちの責任ではない」「改築しない中央政府が悪い」と言っていた。

 刑務所の環境問題は、受刑者のみの問題ではない。その家族、弁護士、支援者、医師、看護関係者などを含めると、100万人ほどが影響を受ける。

 次のプロジェクトは都市開発と環境だ。

**「刑務所の中」の予告編は以下のウェブサイトで視聴できます。

http://vimeo.com/53736965
by polimediauk | 2013-05-07 23:30 | ネット業界