
(トラッキングをブロックするDisconnectのウェブサイトの画面)
ウェブサイトを閲読したり、検索エンジンを使うことで、利用者についてのさまざまな情報が広告主に流れるーー私たちはこのことを承知の上でネットを利用しているが、「よく分からないままに、たくさんの情報がとられているようだ」と、少々の懸念を感じる人も増えている。
特に、6月上旬のいわゆる「スノーデン事件」(元CIA職員エドワード・スノーデン氏が、米国家安全保障局=NSA=による大規模な個人情報の取得を暴露)以降、不安感を強める人が多いようだ。
こうした中、一気に投資家の注目を浴びだしたのが、ブラウザーのプラグインとして使えるシェアウエアを提供する、米Disconnect(ディスコネクト、「切断」の意味)という名前のスタートアップ企業だ。
米フォーブス誌の最新号に、このソフトを試したジャーナリストの記事が載っている。
Disconnectをダウンロードすると、検索バーの中に、緑色の「D」という文字が出て、ウェブサイトが利用者の個人情報の取得をリクエストする数が出る。Disconnectはこうしたリクエストをブロックしてくれるのだ。
ジャーナリストが2週間使ってみたところ、サイトを閲読する度に何件ものリクエストが出るので、スノーデン氏が言ったように、インターネットは「あなたを監視するテレビだ」ということを実感したという。
100万人のユーザーを持つDisconnectのウェブサイトには「欲しくないトラッキングはクールじゃない」という文章が出ている。
―米FTCが「追跡しない」というオプションを依頼
個人情報はいまや貴重な売り物になっている。
米連邦取引委員会(FTC)は、ブラウザー企業、消費者保護団体、広告主に対し、ネットの利用者に「追跡しないで」(Do Not Track)ツールを使う選択肢を与えるよう求めているが、フォーブスの記事によれば、こうしたツールがどこまでをカバーするべきかについて、関係者間で意見がまとまっていないという。
プライバシー保護ツールに注目が集まる中、同様のサービスを提供する企業も続々と出ている。
記事の中で紹介されているのは、撮影した写真を一定の時間の後にネット上から削除するSnapchat, 個人のデータを外部に流れないように保管するPersonal.com、個人情報を暗号化するIPredator、専用のスマートフォンを使って電話、テキスト、電子メールなどを暗号化するSilent Circleなど。
Disconnectでは、子供用のアプリを開発中だ。開発者は、スノーデン事件で悪名がついた米NSAに勤めていた人物だ。
Disconnectの創業者の一人、ブライアン・ケニッシュ氏はかつて、ネット広告配信ツールの会社ダブルクリックで働いていた。個人情報を利用する側にいたわけである。また、グーグルでも働き、クローム拡張業務を担当した。
ケニッシュ氏が懸念を持つようになったのは2010年だという。誰がフェイスブックの広告をクリックしたのかというデータをフェイスブック側が外部に流出してしまったのだ。
そこで、ケニッシュ氏はフェイスブックに追跡されないようなコードを30分で作り、これを「フェイスブック・ディスコネクト」と名づけた。オンライン上で無料で配布したところ、2週間で5万人がダウンロードしたという。
スノーデン事件を機に、ケニッシュ氏ともう一人の創業者ケーシー・オッペンハイム氏は、Disconnectをさらに大きくしようと、投資家に資金を募る予定だ。
―「利用者に発言権を持たせたい」
ある投資家の一人は、「利用者がネットに残す足跡をすべて保存する必要ないと思う。これまでは、人は自分からはプライバシー管理について行動を起こさなかったが、今は違う」。
一方、トラッキングをブロックし続ければ、デジタル広告市場に大きな影響が出ると指摘する人もいる。
インターアクティブ・アドバタイジング・ビューローのマイク・ザニス氏は、「ウェブサイトに行って、広告を見るという行為はトレードオフ(交換)なのだと思う。もし広告をブロックしてしまえば、コンテンツを作っている人が飢え死にする」。
ケニッシュ氏は広告のブロック自体が目的ではないという。それでも、「最近は広告の中に情報取得のリクエストが組み込まれていることが多いので、リクエスト全体をブロックせざるを得ない」。
目指すのは「ウェブサイトと利用者、最終的には広告主との間に、会話の場を作る」こと。「どんなデータを取られているかについて、サイト利用者に発言権があるようにしたい」。
上等兵は、訴追された中では最も重い罪となる「敵へのほう助罪」では無罪となったが、スパイ罪を含む複数の罪で有罪となった。最長で130年を超える禁固刑がかされる可能性もある。
この件で、英米のいくつかのサイトを見てみたが、また判決が出てから3-4時間なので、どことなくきちっとしたものが出ていない感じがした。その媒体によって、どこに力点を置くかが微妙に違う。有罪を先に書くのか、無罪を先に書くのかで、その媒体の支持がどちらにあるかが微妙に出てしまう感じがした。
ひとまず英ガーディアン紙の記事などから、あくまで現時点での概要をまとめてみた。表現が正確ではない点があるかもしれないことをご容赦願いたい。
公判は、米ワシントンD.C.近郊のメリーランド州フォートミード陸軍基地で、6月から開かれてきた。
マニング兵は、大量の外交公電を不正にダウンロードした疑いで、2010年5月逮捕され、機密情報不正入手などの罪で同年7月に訴追された。2011年には、新たに「敵支援」などの罪で追加訴追された。
デニス・リンド裁判長が敵のほう助罪ではマニング氏を有罪にしなかったことで、多くの報道機関や報道の自由のために活動を行う組織はほっと胸をなでおろした面もあったかもしれない。というのも、多くの報道機関がリーク情報を報道した。もしこの罪で有罪となれば、公的利益のために内部告発によって出た情報を報道することができなくなってしまうからだ。
裁判長はまた、多くの市民が亡くなった、アフガニスタンのファラ地域での米空軍による攻撃の動画を暗号化してリークしたことについても、有罪とはしなった。マニング氏自身は暗号化してない動画や関連資料をリークしたと後になって認めたものの、同氏の弁護士らがマニング氏はこの動画をリークしていないと主張したことが通った格好だ。
20を超える罪で有罪となったが、その1つは「インターネットに出た諜報情報に敵がアクセスできるということを知った上で」、米国の諜報情報をネット上で出版する状況を「不当に、気まぐれに」引き起こした罪だ。これは報道機関にとっては、かせになる可能性があろう。
人権保護団体は判決を非難している。米国自由人権協会(ACLU)のベン・ウイズナー氏は、「マニング兵が最も重い罪では無罪になったことについては安堵した」が、「公益から報道機関にリークを行った人をスパイ法で訴追するべきではないと思っている」。
「情報漏えい罪では有罪になっているので、今後、貴重な情報をリークしようとする人を威嚇しようという意図があることが分かる」。
マニング兵の家族は、ガーディアンへのメッセージで、マニング兵の弁護士デービッド・クームス氏に感謝の念を表するとともに、こう付け加えた。「本日の判決には失望しているが、ブラッドが米国の敵を助けようとは決して思っていなかったことについて、裁判長が同意してくれたことはうれしい。ブラッドは米国を愛し、軍の制服を着ることに誇りを持っていた」。
マニング氏は2010年5月に逮捕された後、1157日間、拘束されてきた。最終的に刑が確定すれば、この日々は禁固日数から差し引かれる。裁判が始まる前の準備期間となった112日間も差し引かれる見込みだ。
マニング兵は拘束期間中の一時、夜は裸で寝るように強制されるなど、過酷な日々を過ごした。
裁判長は、今後、すぐに刑の長さを確定するための審理過程に入ると述べている。数ヶ月前にマニング兵はウィキリークスへの情報漏えいをしたと認めており、弁護側の焦点は、禁固刑をいかに短いものにするかになる。弁護側は、マニング兵が情報をリークしたときに精神的に弱い状態にあったなどと主張する見込みだ。
ウィキリークスに対し、米政府の70万点に近い機密情報をリークしたマニング氏は、デジタル時代の大量リークのさきがけとなった。政府が機密を維持する必要性と、市民の知る権利との間でどうバランスを取るかが今後も議論になるだろう。
マニング氏がアクセスできた「機密情報」は当時、米国内で300万人近くがアクセスできるようになっていた。この点を問題視する人も多い。これほど大量の人がアクセスできる情報は「機密」なのだろうかー?
―マニング兵の拘束状況
2011年3月、フィリップ・クローリー米国務次官補(広報担当)が辞任したが、これは、マニング兵が、拘束中の海兵隊施設(バージニア州)で不当に扱われていると発言したためだ。
当時の拘束状況を筆者のブログから拾ってみた。
マニング兵は自殺防止のため、夜間は衣服を没収され、全裸で眠ることを強要されていた。クローリー氏は、3月上旬、米マサチューセッツ工科大学での会合で、マニング兵の取り扱いが「不合理、国防の面から言えば逆効果で馬鹿げている」と語った後、辞任をせざるを得なくなった。
クローリー氏が「馬鹿げている」と表現した、マニング兵の拘束状況とはどんなものか?同兵の弁護士が公表した、マニング兵自身の説明を見てみよう。(ガーディアンの記事から)
***
「3月2日から、私は夜間、衣服を没収されることになった。この処理は無限に続くそうだ。最初の夜、衣服を没収された後、翌朝まで寒い独房の中で眠るしかなかった」
「翌朝、ブリッグ(米国の軍隊で罪人を一時的に拘留する場所)の検査担当官がやってくるため、ベッドから起きるように言われた。まだ衣服は戻してもらっていなかった。ベッドから起きると、すぐに独房の寒さが身にしみた。独房の前のほうに、自分の性器部分を手で隠しながら歩きだした。看守は、『休め』の姿勢をとるように言った。これは、両手を後ろに組み、両足を広げる形で立つことを意味した。検査担当官がやってくるまで、約3分間、そのままの姿勢でいた」
「検査官とそのおつきが私の独房の前を通った。担当官は私の顔を見て、一瞬立ち止まり、その後、次の独房のほうに進んでいった」
「自分が全裸でいるところを大勢の人に見られ、非常に決まりが悪かった」
「担当官たちが行ってしまった後で、ベッドまで歩き、座っても良いと言われた」
「その後衣服を返してもらうまでに10分ほどかかった」
「私は、自殺を防止するための『スモック』とよばれる衣類を与えられるようになった。夜間にはまた全裸にならなければならないが、昼間はスモックを着られた」
「最初、スモックを来たくなかった。非常にごわごわして着心地が悪かったからだ」
「これまでの状況を考えると、夜間、無期限に全裸で寝ることを強要するのは懲罰であることは明らかだった」
「私は24時間、監視されている。看守は私の独房からほんの2-3メートル離れた場所にいる。昼間は下着と衣類を身に着けられるが、この時間には私が自殺を起こす心配がないとでもいうのだろうか」
「3月2日以降の、夜間の全裸強要には正当な理由がない。これは、裁判前の違法な処罰に値する」
「現在、独房に入れられ、外に出るのは1時間のみ。23時間は、独房の中にいる。昼間は看守が5分ごとに、私が大丈夫かどうかを聞く。肯定的な返答をするのが義務となっている」
「夜間、看守から私の姿が十分に見えなかったり、毛布で私が頭を覆っていたり、壁のほうに丸まって寝ていると、看守が私を起こし、大丈夫かと聞く。食事は独房の中で食べる。枕やシーツを使ってはいけないことになっている。個人的なものを独房の中に一切置いてはいけないことになっている。一度に持ち込めるのは1冊の本か、雑誌だ。本や雑誌は、私が寝る前に、取り去られる。独房の中で運動はしてはいけないことになっている。もしプッシュアップとかしていたら、やめさせられる」
「毎日、独房の外でできる運動は1時間のみだ」
―ウィキリークスへのリーク情報はどのように公開されたか?
2010年夏以降、ウィキリークスは、英ガーディアン、米ニューヨークタイムズ、ドイツの週刊誌シュピーゲルなどといった世界の大手報道機関と共同で、米軍や米政府にかかわる機密情報を相次いで暴露した。
7月末には駐アフガニスタン米軍にかかわる9万点余の機密情報、秋にはイラク戦争にかかわる機密情報40万点以上、そして米外交公電25万点が段階的に公開された。その規模の大きさに「メガリーク」という表現も使われるようになった。
―改めて、ウィキリークスとは
オーストラリア出身のジャーナリストでインターネット活動家ジュリアン・アサンジ氏が立ち上げた内部告発用のウェブサイト「ウィキリークス」は、2006年、世界の権力者や大企業が隠したがる情報を公益のために外に出す仕組みとしてスタートを切った。
ケニアの元大統領一家による汚職情報の暴露(07年)、高速増殖炉「もんじゅ」の火災事故に関わる非公開動画の公開(08年)、アイスランド・カウプシング銀行の内部資料公開(09年)などを通じて、着々とその認知度を広めてきたが、大きな注目を浴びるようになったのは、マニング兵からの情報リークを基にした、メガリークであった。
政府や企業などの内部事情を知る人物が公益目的で行う内部告発には長い歴史があるが、その人物の素性が明るみに出た場合、雇用先からの解雇あるいは何らかの社会的制裁を受けがちだ。
ウィキリークスではウェブサイトを通じて情報を受け取るが、暗号ソフトを通して情報が渡るため、ウィキリークス側にも告発者の素性が分からないようになっている。告発者を守りながら、外に出るべき情報を出せる。これこそネット時代の内部告発のあり方であると新鮮さを持って受け止められ、世界の最強国米国の機密情報を暴露して泡を吹かせたという意味からも、創設者アサンジ氏は一躍時代の寵児としてもてはやされた。
英国に滞在していたが、スウェーデン出張中に、後に性的暴行を受けたと主張する二人の女性と関係を持った。昨年6月、この件でスウェーデン移送が決定。
移送されれば、米国に送られ、スパイ罪などに問われる可能性があると見たアサンジ氏は、これを回避するためにエクアドルへの亡命を希望し、ロンドンの駐英エクアドル大使館に政治亡命を申請した。申請は同年8月に認められた。現在も、エクアドル大使館に滞在中だ。

(個人情報を保存しない検索エンジンDuckDuckGo ウェブサイトより)
利用者の検索情報を保存・追跡しないという検索エンジン、DuckDuckGo(ダックダックゴー)の人気が急上昇中だ。6月初旬、米政府が大手ネット企業のサーバーに「直接アクセス」し、個人情報を収集するプリズムと呼ばれる行為を行っていると、英ガーディアン紙が報道してから、トラフィックがあっという間に増えたという。
英ガーディアン紙の記事(7月10日付)が、DuckDuckGoの創業者ガブリエル・ワインバーグ氏(33歳)への取材を通じ、詳細を報告している。
ワインバーグ氏によれば、プリズムについての報道が出る直前、DuckDuckGoの検索エンジンは1日に170万件ほど利用されていた。米NSA(国家安全保障局)による大規模な個人情報収集が実行されていたとする報道が連日続き、6月半ばには300万件を超えるようになったという。
DuckDuckGoという社名は、子供用ゲーム「DuckDuckGoose」をもじったものだ。
米フィラデルフィアにベースを置くDuckDuckGoでは、約20人が働いている。
ネット利用者がDuckDuckGoを検索エンジンとして使う確率は低い。デフォルトで入っている検索エンジンをそのまま使い続ける人が圧倒的に多いからだ。
それでも、クッキー(サイトの提供者が、ブラウザを通じて訪問者のコンピュータに一時的にデータを書き込んで保存させる仕組み。ユーザーに関する情報や最後にサイトを訪れた日時、そのサイトの訪問回数などを記録しておくことができる***)を使わない、利用者のIPアドレスを保存しない、ログインを必要としない、接続が暗号化されているなどの特徴があるDuckDuckGoは、次第に利用者を増やしてきた。もしNSAが利用者情報の引き渡しをDuckDuckGoに命じても、渡すべきものがないのだ。
―「グーグルでは探しだせなかったものがあった」
ワインバーグ氏はこれまでに、友人を探すサイトOpoboxや同様のサイトClassmates.comなどを立ち上げ、売却。時間に余裕が出来たのでステンドグラスを学ぶ教室に参加したところ、先生が参考用のウェブサイトのリストを渡してくれた。このリストに載ったウェブサイトがグーグルの検索では出てこないものであることを発見し、グーグルよりもよい検索エンジンを作れるのではないかと考えた。
そこで、ウィキペディア、米クチコミ情報サイトYelp、その欧州版Qypeなどを使って、より質の高いエンジンを作ろうと思ったという。
利用者の検索データを保存しないことに決めたのは、個人の情報が外に出てしまいすぎると思ったからだ。2006年にはAOLが65万人の利用者によるグーグル検索履歴を流出。この情報の一部を使って、ニューヨーク・タイムズの記者が特定の個人に取材を行う事態が発生した。
ガーディアンの記事によれば、パソコンを使ってグーグル検索をしている場合、グーグルはコンピューターのIPアドレスを知っている。これによって、どのインターネットプロバイダーを使っているかやコンピューターの位置情報も持っている可能性があるという。もしログイン状態だと、これまでの検索履歴も知っている。
携帯端末でログインしている場合、位置情報の履歴についても把握しているかもしれないという。
検索行為は非常に個人的な行為だという認識から、ワインバーグ氏は、政府がこうした情報を欲しがるだろうと想像した。「AOLの情報流出の事件を見て、政府が情報を必要とするのは避けられない動きだと思った。検索エンジンやコンテンツの制作側がデータを渡すケースも増えるだろう」。
「検索データは最も個人的なデータだと思う。自分が抱える問題や欲しいものを入力しているのだから。ソーシャルメディアで公的に何かを入力している場合とは違う」とワインバーグ氏。
では、グーグルは何故検索履歴などを保存しているのだろう?
ワインバーグ氏によれば、「グーグルが、利用者についてこれほど様々な情報を保存する必要があるというのは神話だ。検索行為からグーグルが得る収入のほとんどが、利用者が検索エンジンに何を検索するか、から生じている。これ以外にはない」。
グーグルメールやユーチューブ(グーグル傘下)など、検索以外の利用から収入を得ることは難しい、とワインバーグ氏。結果として、「ネットを利用する間、常に広告が出ている」状態となる。ガーディアンは、ディスプレー広告のサプライヤー最大手ダブルクリックをグーグルが所有することを指摘する。
―「たいがいの人はグーグルを信頼」
検索エンジンについてのニュースを集めるサーチ・エンジン・ランドのダニー・サリバン氏は、「大多数の人は、プライバシーについて懸念を持つものの、検索をプライベートにしたいという人はほとんどいない」とガーディアンの記事の中で指摘している。グーグルの検索エンジンの利用は一日に130億件であるのに対し、DuckDuckGoは300万件なのだ。
その理由は、「たいがいの人は、グーグルを信頼しているからだ」としている。
***クッキー情報参考サイト

(米ニューヨーク・タイムズに掲載された無線ランの動きを示す画像 サイトより)
WI-FI(無線LAN、ワイヤレス)機能は非常に便利で、私も自宅で複数の電子機器をこれでつないでいる。
しかし、目には見えないWI-FI情報から、他者がさまざまな情報を収集することが出来る。
この点を改めて気づかせてくれたのが、米ファッション小売チェーンNordstromのWI-FI情報を利用した顧客サービスだ。
テクノロジーに詳しい人にとっては、今更のことだろうけれども、一部始終を紹介してみたい。
英ニュース週刊誌エコノミスト(7月21日付、ウェブサイト)によると、Nordstromは、昨年10月から、数ヶ月にわたる実験として、米国内の17の店舗に入った客や通り過ぎた人が持っていた、WI-FI機能付のスマートフォンやそのほかの電子機器から端末識別IDや位置情報などを収集し、店舗内外での人の動きを調査していた。
5月上旬、Nordstromは情報収集を公にし、テレビ局が報道した。ダラス州のノースパーク店では、入り口に調査の旨を告げるお知らせの紙が出されており、希望しない人はスマートフォンなどの電源を切るように書かれていた。
情報収集の技術を提供したのはユークリッド(Euclid)という企業である。
テレビでの報道後、Nordstromは作業を停止してしまった。
7月になって、米ニューヨーク・タイムズがこの件を取り上げた。
この記事には記者が取材をした動画がついている。この記事の上の写真はサイトのスクリーンショットだが、緑色の線はスマホなどを持っている人の動きを示す。
さまざまな店舗が人の動きについての情報を収集しているのは、考えてみれば、私たちはすでに知っている。店舗内の監視カメラは珍しくもない。
しかし、改めて情報収集の一端を知ると、驚いてしまうのではないか。
動画の中で紹介されているのは、先の米小売のようにスマホなどのWI-FI機能から情報を収集するサービスを米シスコが提供し、コペンハーゲン空港で使われている例だ。
また、Nordstromと同じユークリッド社のサービスを使う米カリフォルニア州のフィルズ(Philz)・コーヒーは、何人の客が店舗内に入っているかという情報によって、サービスの向上に役立てている。
店舗内に設置されたカメラが撮影した動画を分析し、顧客(男性か女性化、大人か子供か)がどこにどれぐらい滞在したかを調査するサービスを利用しているのがリテール・ネクスト社。WI-FI機能を持つスマホを持つ人が来店した場合、たとえWI-FIにつながっていなくても、スマホは自動的にWI-FIにつながろうとアクセスポイントを探すので、顧客の位置情報を収集できるという。
それぞれの携帯機器には個別の認識コードがついているため、ある客が2度目に店舗を訪れたことや、どのぐらいの頻度で訪れたかなどが分かる。
―洗練化されたカメラ
ニューヨーク・タイムズの記事によれば、人の動きを監視するカメラの性能はどんどん進化しており、顧客が店内で何を見ているのか、どんな気分だったかまでを記録できるという。
英企業リアルアイズは、ネット上の広告を人がどのように見ているかなど、顔の表情に関する情報を収集するサービスを提供しているが、リアルの世界では、実際に店舗を訪れた人が、チェックアウトのレジでどんな表情をするのかを分析している。
ロシアのスタートアップ企業シンケラ(Synqera)は、顔の表情を基に、性別、年齢、気分を察知し、それぞれ異なる広告メッセージを提供するソフトを開発している。
小売店に電話番号などの個人情報を提供した顧客がいれば、WI-FI機能を通して得た情報にさらに詳細な情報が加わり、個人に特定したサービスが提供できる。そんなサービスを提供する企業の1つが、ノミ(Nomi)だ。
「私がメーシー百貨店に入ったとする。入った時点で、メーシー側は私が店舗に入ったことを認識し、私に適した情報を私の携帯に伝えてくれる。まるでネットの書籍小売アマゾンのようなサービスができる」とノミの社長はニューヨーク・タイムズに語っている。
タイムズ紙は、多くの人が自ら進んで個人情報を提供しているエピソードを最後に紹介している。プレースト(Placed)という米企業が、小売店舗のどこにいるかを利用者に聞いてくるアプリを発売した。自分の位置情報を教える代わりに、現金やアマゾンやグーグルプレイなどのギフトカードなどがもらえる仕組みだ。昨年8月のアプリの発売から、約50万人がダウンロードしたという。
―WI-FI機能で情報収集の仕組みとは
先のエコノミストの記事が、とのようにして情報収集が可能になるのかについて書いている。
WI-FI機能がついたスマホ、ラップトップとWI-FIのアクセスポイント(ベース・ステーション)との間には常に情報の行き来がある。端末機器がつながることができるアクセスポイントを探しているからだ。
その過程で、スマホなどは出荷状態の端末機器の識別IDなどの情報を公に発信している。端末機器が「スリープ」状態になっていても、エコノミストによれば、スピードは遅くなるものの、こうした情報を外に出していることは変わりないという。
小売店の店舗内にアクセスポイントが設置されていると、これに向かって、端末機器がWI-FIにつながろうとして情報を発信し、機器の識別ID,位置、この機器を持つ顧客がどのように店舗内を動くかなどの情報が小売店側に入る。
エコノミストによれば、これは今はやりの「小売の科学」(retail science)ともいえるようだ。
現在、トラッキング(追跡)機能は1990年代と比較して格別に進歩しており、実際に店舗に入らず、ウインドウをのぞいただけでも、その人のスマホの識別IDなどが小売店側は取得できてしまうという。
WI-FI機能がついた機器は、過去に無線ランにつながったアクセスポイントも通常示すので、普段どこで無線を使っているかも分かってしまう。自宅や仕事場などの情報を得ることが可能になる。
プライバシーが侵害されていると心配する人も出てくるだろう。7月16日、先のユークリッド社などは、米シンクタンク「プライバシーの未来フォーラム」(Future of Privacy Forum)とともに、WI-FIを使ったトラッキングについて規定を設ける計画を発表している。
以上、通信関係者には当たり前のこととは思うが、「自覚しないままに情報が取得されている」感がまだまだあるように思うので、書いてみた。
この件を知ったのは、自民党田村重信氏による一連のブログ記事だ(なぜ自民党はTBSに対して取材・出演の一時停止したのか!)
この中に、朝日の新聞記事の紹介があった。
引用:
自民、TBS取材や出演を拒否 党幹部級、報道内容受け
(朝日新聞デジタル 7月5日(金)5時20分配信)
自民党は4日、TBSの報道内容について「公正さを欠く」などとして当面の間、党役員会出席メンバーに対するTBSの取材や出演要請を拒否すると発表した。問題視したのは、6月26日放送の「NEWS23」で通常国会会期末の法案処理を報じた内容。党は「重要法案の廃案の責任がすべて与党側にあると視聴者が誤解する内容があった。マイナスイメージを巧妙に浮き立たせたとしか受け止められず、看過できない」としている。(引用終)
田村氏は、上記のブログの中で、
「今回、自民党がTBS取材や出演を拒否するとの決断は支持したい。こうしないとテレビ局は反省しないからだ。テレビの影響は大きい。これでテレビ報道も少しはまともになることを期待したい」と書いていた。
その後の同氏のブログや
続報!TBS「NEWS23」どこが問題か?
続続々、TBS「NEWS23」問題に関する菅官房長官会見(全文=関連部分)
杉本穂高氏によるブログも拝読させていただいた。
自民党のTBS取材拒否の発端となった番組を見てみた
―事態は急展開
その後、毎日新聞の報道で、取材拒否を撤回したことを知った。
自民党:取材拒否を撤回…「TBSから謝罪あった」と
以下、あえてこの記事の全文を入れてみたい。
引用:
自民党が、TBSの報道内容が公平さを欠いたとして取材を当面拒否するとしていた問題で、同党は5日、石破茂幹事長宛てにTBSの報道局長名の回答文書があったことを明らかにしたうえで「これを謝罪と受け止める」として同日で解除すると発表した。
発表文は「本回答、またこの間、数次にわたる政治部長はじめ報道現場関係者の来訪と説明を誠意と認める」とした。安倍晋三首相は同日夜、BSフジの番組で「今後はしっかりと公正な報道をするという事実上の謝罪をしてもらったので決着した」と語った。
自民党は6月27日にTBSに送った文書で、電気事業法改正案が廃案になった経緯を伝えた報道番組について「民主党など片方の主張にのみ与(くみ)したもの」と抗議していた。
一方、TBS側も5日夜に自民党に提出した文書を公表。報道番組について「『説明が足りず、民間の方のコメントが野党の立場の代弁と受け止められかねないものであった』等と指摘を受けたことについて重く受け止める」とし、「今後一層、事実に即して、公平公正に報道する」としている。【竹島一登】
◇TBS「謝罪でなく回答」
TBSの龍崎孝政治部長は「本日、報道局長が自民党を訪問し、抗議に対し文書で回答するとともに説明したが、放送内容について訂正・謝罪はしていない」とのコメントを出した。
引用終わり
―与党あるいは政党がこのような形でメディアを「脅す」べきではない
私は、一連の経緯を見て、明日以降の日本のメディアが、与党・自民党の対応を厳しく批判することを祈りたい。似たような例(政治家とメディア)を最近散見して、気になっていた。
先の「続続々、TBS「NEWS23」問題に関する菅官房長官会見(全文=関連部分)」の中で、日本のメディア記者が続々と「問題があるなら、取材拒否ではなく、番組内で反論するのが本筋ではないか」と問いかけていたが、まさにその通りだ。
こういうことが許されてしまっては、まともな政治報道ができなくなるからだ。
守るべきは:
「政治家あるいは政党が、不当ではないと自分たちが思うような報道をメディアがしたとき、言論でこれに反論すること」だろう。民主主義社会の原則中の原則だ。
批判されたから・不当だからといって、「今後、出演を見合わせる」などと、まるで絶対主義国家のような言葉を発するべきではないと思う。
「民主主義」なんて、お堅い言葉と思われるかもしれないが、この部分(=言論には言論で)を死守しないと、すべてが崩れてしまう。
それに、「不当かどうか、偏向しているかどうか」の判断には、恣意的な部分がある。白黒はっきりさせるのが難しい部分があるのだ。
もしどうしても何か行動を起こしたいのだったら、第3者に「公平さを欠いた報道かどうか」を検証してもらう、という手はなかったのだろうか。自分たちで判断し(=決め付け)、自分たちで「罰を加える」(=出演を見合わせるという判断)をするのは、「絶対王政」的行動に見える。与党という立場を乱用したようにも見える。
反論しても通じない場合、もし言論が法律に反するような類であれば、司法手段・裁判所で解決するーそういう流れもあるだろうと思う。
以前にも、政治家がある報道が不当であるとして、これを報じたメディアのグループに入る別の媒体の取材を一切拒否する、と発言したことがあったかと思う。
その報道自体に暴力性があったということを、日本ではかなりの数の人が感じていたようであるけれども、原則として、政治家がある特定のメディアの取材を「一切拒否」というのは、これ自体が暴力的な行為だと思う。
今回の自民党の行動は、報道の自由の侵害にもなろう。これを黙認してしまえば、報道機関の側はおちおち、政治家や政権を批判できなくなってしまう。自由に報道ができなくなってしまう。今回はTBSが槍玉にあがったが、ほかのテレビ局の報道部も「気をつけよう」と思うのは必須だ。
国会議員は、もしそうしようと思えば(現実的にはありえないが)、放送免許についての法律を変えることができるほどの力を持つ。(ギリシャでは財政難の政府が突如、国営放送の活動を停止させたことは記憶に新しい。)
だからこそ、放送機関が報道の自由を保障されていることが重要だ。自由に批判する・報道する・論評するという権利を脅かされるべきではない。
政治家の一挙一動にメディアがおびえているようになったら、国民はどうなるだろう?国民だって、萎縮してしまう。
報道機関は政治家になんと言われようと、簡単に謝罪したり、相手のいうことを鵜呑みにしてはいけない。国民の代表として活動をしているのだから。
今回、行動を起こしたのが与党・自民党であったことの罪は重い。自分たちが不当と思う報道が出たら、威嚇行為に出ることをはっきりと示してしまったからだ。
負けるな、日本のメディア!と言いたい。
―英国ならどうなるか?
各国によって状況が異なるので、単純な比較はできないが、英国だったらどうなるか?を考えてみた。あくまでも、外国の例と思っていただきたい。
まず、単刀直入に言えば、同様のことは起きないだろう。
細かい話に入る前に、想像していただきたいのは、英国ではメディア(=報道機関)がある意味、野党的な役割を果たすということ。その影響力は強大で、政治家のほうがメディアを怖がっているともいえるくらいだ。
メディアはどんなに完璧そうな政策を政府が発表しても、常に批判する。これが基本スタンスだ。
一方、大手放送局(BBC,ITV,チャンネル4、チャンネル5)は、ニュース報道において、「バランスよく」報道するよう、規定されている。Aという見方を出したら、Bという見方も出さなければならない。
それでも、政治家・政党からすれば、不当な、かつ偏向した、かつ過度に批判的な報道が出ることはあるだろうと思う。番組内で司会者が厳しい質問を浴びせる様子は日常的だし、政治家が面子をなくす様子もよく放送される。しかし、不恰好だろうが、面子をなくそうが、「政治家はメディアによって厳しく質問される(時には曲解される)」=そんなもの、という考えが浸透している。
メディアに不当に扱われたと思った政治家側はどうするかというと、「言論には言論で」つまりメディアに出演することで、論調を変えようとする。度を越した偏向報道の場合、放送・通信業の監督組織「オフコム」に調査をさせる、あるいは司法の場に持ち込んで(名誉毀損など)、決着をつける。
英国で、報道内容によって、政党全体として、大手放送局のいずれかに出演を見合わせることを宣言する・・・・ということはありえない。
大手放送局はすべて「公共サービス放送」という役割を持ち、国民のために放送しているわけだから、政治家・政党が一律的に「出ない」という決定をするのは、国民の知る権利を踏みにじることになる。そんな大それたことを、政治家、しかも与党がするわけがない。
「もし」そうしたら?あるいはそうしようとしたら?
英国のすべてのメディアから総スカンをくらい、新聞も含めて、非難の大合唱が起き、「アナクロ=時代錯誤」といわれてしまうだろう。そんな批判に耐えられるほど「勇気」のある政治家はいないー。
あくまで、英国の話である。