小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


by polimediauk
プロフィールを見る
画像一覧

<   2013年 08月 ( 6 )   > この月の画像一覧

c0016826_821172.jpg
 

 「あなたの好きな動物は何?」など、単純な質問に答える仕組みの交流サイト「Ask.fm」(アスク・エフエム)が、欧州を中心とした数カ国に住む10代の少年少女の間で、人気になっているという。

 利用の手始めは、新たに名前、電子メールのアドレス、生年月日などを使って登録するか、フェイスブック、ツイッター、あるいは「VK」のアカウント(主としてロシア語圏で人気があるソーシャルメディア)を使って、プロフィールを作る。友人を誘って、質問を投げかけてもらう。ほかの利用者もさまざまな質問を投げかけることができる。フェイスブックとは違い、匿名でも利用可能だ。ウェブサイトでもモバイル機器のアプリとしても使えるようになっている。

 このサービスの利用者の中で未成年者数人が、いじめを苦にして自殺したと推測される事件が相次いでいる。

 今月2日、14歳のハンナ・スミスさんが、英イングランド中部レスタシャーのラターワースの自分の部屋で首をつって自殺した。

 ハンナさんの父親デービッドさんは、自分のフェイスブックのページに「Ask.fmで娘が受けた虐待がどんなものかを読んだ。いじめた人たちが匿名であるのは許せないと思う」と書いた。父親はAsk.fmが娘を追い詰めたと信じているという(ガーディアン紙、7日付記事)。

 ラトビアの首都リガに本拠地を置くAsk.fmは、2010年6月にサイト運営を開始した。

 フェイスブックやインスタグラムのプロフィールにAsk.fmのプロフィールを入れている利用者も多く、なるべく数多くの人に質問をしてもらうことを目指して、使っているようだ。答えは写真や動画の形でも可能で、ツイッターやフェイスブックのタイムラインのように、自分のプロフィール欄の下に、質問と自分の答えが時系列に並んでゆく。

 CNETが今年6月、サイトの創業者マーク・テレビン氏とイルジャ・テレビン氏に取材したところによれば、4月、サイトは130億のページビューを記録。ユニークビジター数は1億8000万人だったという。毎日、新しい利用者が20万人増えている。

 現在、150カ国で利用できるようになっており、特に利用者が多いのが米国、英国、ブラジル、ロシア、ドイツ、フランス、トルコ、ポーランド、イタリアだ。(ちなみに、日本語でも利用できる。)

 利用者の半分が18歳以下だという。少年少女にしてみれば、大人がいない空間で、他愛ないことをおしゃべりできる点が魅力のようだ。

 質問によっては、いじめが発生することもある。例えば、ガーディアンの記事によれば、ハンナさんのプロフィールには「牛」、「太ったカタツムリ」、「見醜い馬鹿」などの言葉が書き込まれていた。

 昨年秋には、アイルランドに住む13歳と14歳の少女たちが、サイトで匿名の利用者からきつい言葉を浴びせられ、自殺した、とガーディアン紙は伝える。

 4月には、イングランド北部ランカシャー州の15歳のジョッシュ・アンワース君が庭で首吊り自殺をした。生前、Ask.fmで「お前はまったく気が狂ってるな」、「悪いことが起きて当然だな」などの文句を何ヶ月にわたり、書かれていた。

 1月には16歳の利用者アントニー・スタッブ君が自殺し、スタッブ君のガールフレンドやいとこも「ひどい」言葉を残されたという。

 アイルランド政府はラトビアに対し、このサイトと自殺との関係について調査を依頼しており、米メリーランド州の法務長官がサイトの広告主に対し、広告をひきあげるよう、呼びかけている。

 Ask.fmではこれまで、サイトのマイナス面は「社会の欠点を映し出していることを意味する」と説明してきた。昨年、自分のサイトのプロフィールの中で、創業者マーク・テレビン氏は、「問題の根本を考えるべきだ。Ask.fmは単にツールに過ぎない。電話と同じだ。ツールを責めても始まらない」。

 テレビン氏はまた、あるサイトのインタビューの中で、自動アルゴリズムと手作業によってポルノ的表現、言葉による虐待などをチェックし、その都度削除するか、利用者をブロックしている、と述べている。

 しかし、「1日に3000万の質問と3000万の答えがあり」、検証が大変であることも指摘した。

 自殺したハンナ・スミスさんの父親デービッドさんが複数の英国のメディアによる取材に応じたことで、Ask.fm事件はここ2日ほど、大きなニュースとして紹介されている。

 デイリー・ミラー紙(8日付)の報道によると、娘のハンナさんが首をつった姿を発見したのは姉で16歳のジョアンさん。父のデービッドさんはトラックの運転中だった。

 「ハンナは死んだと言って、ジョアンが電話を切ってしまった。こちらからかけ直して何が起きているかを知ろうと思った。それから兄弟に電話して、兄弟が事情を探ってくれた。ハンナが首をつったと言われて、『死んだのか』聞くと『そうだ』と言われ、泣き崩れた。すぐにトラックを家に向けて走らせた」。

 父親はAsk.fmが殺人罪に問われるべきではないかと考えている。「こんなサイトはいらない。(なくさないのなら)規制されるべきだ」。

 妹同様にAsk.fmを利用していたジョアンさんのプロフィールにも悪質な質問が出され、ハンナさんに捧げられたフェイスブックのページにも同様のコメントが送られたという。

 BBCの報道(8日付)によれば、いくつかの大手広告主がサイトへの広告出稿を取りやめる事態が発生している。取りやめを決定したのは、大衆紙サン、エネルギー会社のEDF,通信会社BT、メガネ販売のスペックセーバーなど。

 Ask.fm社は公開書簡を8日公開し、「今週ツイッターが発表したような、ツイート内で悪質なつぶやきを報告するような機能を昨年から採用している」と述べている。「これによって、懸念がある人は何でも報告できる。もし10代の利用者の親が懸念がある内容を見つけたら、このボタンを押して、モデレーターに教えて欲しい」。

 「当社のサイトの利点の1つは、すべてがオープンであることだ」、「問題があるコメントを見つけたら、誰もが報告できる」。

 今週早々には、Ask.fm社はハンナさんの死を「悲劇」と呼び、警察の捜査に「喜んで協力する」と述べている。

ー安全のためのヒント、利用規約は?

 一体どんなことが起きているのか、Ask.fmのサイトの規約を読んでみた。日本語になる部分があったので、以下はサイトからの引用である。

 安全のためのヒント

 Ask.fmのコミュニティのメンバーになることで、 利用規約に従うことになります。 安全のためのヒントはAsk.fmを賢く、責任を持って利用するための基本的な指針です。

 一般的な安全

 インターネットに接続中は、いくつかの重要な安全対策を忘れないでください:

 共有する内容に注意する。自分のページで電話番号、メールアドレス、自宅の住所などの個人情報を決して共有しないでください。 利用規約, に違反しているユーザーをブロックして、報告してください。 ターゲットにされている場合は大人に相談してください。不適切な質問には返信しないでください。

 プライバシー

 プライバシー設定 で匿名の質問をオフにできます。こうすると匿名のユーザーは質問できなくなり、受信箱で受信する内容をより安全に管理できます。 Ask.fmやウェブでは誰もがあなたのプロフィールやコンテンツを閲覧できます。投稿する前に十分注意してください。

 不適切な質問

 理由の如何に関わらず不快な質問を受け取った場合は、返信せずに両親や信用できる大人に相談してください。送り主のユーザーをブロックすると、二度と連絡が来なくなります。 それでも不愉快な行動が続く場合は、「報告」ボタンを押して当社に報告してください。警察などにも通報してください。

 匿名性

 匿名性を利用して不快な質問や有害な質問をしないでください。Ask.fmで匿名で質問をすると、あなたの名前は質問相手や他のユーザーには表示されません。 当社があなたの身元を他のユーザーに公開することはありません。 恥ずかしい時や、質問者が誰か分からない方が回答者が答えやすいと思う場合は匿名性は便利です。 規約に違反した場合は、責任を負っていただきます。必要とあれば、捜査機関に身元を特定する情報を提供します。


 そして、以下は利用規約である。読み出して、私は驚いた点があった。(お断りしておきたいが、私はフェイスブックやツイッターなどの利用規約と細かく比べてみたわけではない。あくまで、このサイトの利用規約で驚いた部分である。)

 気になったのは、3番目の項目のユーザーが送信、投稿、表示したコンテンツは他のユーザーに公開されます。ユーザーはAsk.fmのサービスを通じて送信するデータに責任を負いますという点である。(黒字は筆者。)

 4番目と5番目の項目も気になる。

 ユーザーはAsk.fmのサービスを通じて送信、投稿、表示したあらゆるコンテンツの権利を留保します。 Ask.fmのサービスを通じてコンテンツを送信することで、それらコンテンツをすべてのメディアや配信方法で使用、コピー、複製、処理、脚色、修正、出版、発信、展示、配布するための全世界共通、非独占的、著作権使用料のないライセンスをAsk.fmに付与します。 Ask.fmあるいはAsk.fmと提携している他の企業、組織、個人によって、ユーザーが送信、投稿、発信、あるいはAsk.fmのサービスを通じて利用可能にしたコンテンツに対し報酬を支払うことなく二次利用できるものとします。

 このプラットフォーム上で発信・受信したものはすべて、Ask.fmのものになるということだ。

 10番目の項目も注目だ。

 Ask.fmはコンテンツをコンピューターネットワークや様々なメディアを通じて発信、展示、配布するために修正、脚色、および/またはネットワーク、端末、サービス、メディアの要件や制限に応じてコンテンツを適合させる必要がある場合はコンテンツを変更することができます。Ask.fmのサービスの利用にあたり、好ましくない、節度に欠ける、悪趣味と見なされるコンテンツを目にすることがありますが、それらコンテンツが不適切な表現であると特定されるとは限りません。Ask.fmは匿名のコンテンツを認めており、監視を行うことはありません。ユーザーは自己責任でAsk.fmのサービスを利用し、ユーザーが好ましくない、節度に欠ける、悪趣味と見なすコンテンツに対し、Ask.fmが法的責任を負わないことに同意するものとします。

 Ask.fmは、ここではっきりと、「Ask.fmは匿名のコンテンツを認めており、監視を行うことはありません。 ユーザーは自己責任でAsk.fmのサービスを利用し、ユーザーが好ましくない、節度に欠ける、悪趣味と見なすコンテンツに対し、Ask.fmが法的責任を負わないことに同意するものとします」と書いている。

 また、プライバシーのところで「 Ask.fmやウェブでは誰もがあなたのプロフィールやコンテンツを閲覧できます。投稿する前に十分注意してください」とある。

 私が驚いたり、気になったりする理由とは、このAsk.fmの利用者の半分が10代の少年少女であるのに、「匿名でもいいですよ」、「好き勝手にやっていいですよ」、「悪趣味な言葉をかけられても、自分で責任を負ってください」――ということでいいのだろうか、ということだ。

―実際に、質問を見てみると

 利用者ではない(=登録していない、またはログインしていない)私でも「見れる」というので、早速サイトで見てみた。

 最初の画面の下に、小さな写真のアイコンが並ぶ。これをクリックすると、誰でもその利用者プロフィールと質問が読める。10人ほど、読んでみた。それぞれ、13歳から16歳ぐらい。

 時には無邪気な質問もあるが(「好きな食べ物は何?」など)、ほとんどの利用者の場合、性的な嫌がらせあるいは、性的なアプローチの問いがある。時には、子供たちは「気味悪い!」と言い返したり、「児童性愛主義者ね、あっち行って」などと切り替えしている。

 一人の男の子の顔写真の下に、フェイスブックのアドレスがあった。一体、中高生なのか、あるいは働いているのかと思って、クリックしてみた。写真がやたら多いサイトである。家族の写真もある。しかし、よく見ると、数人の家族の中で、「兄」や「姉」と説明してある人の名前が本人とはファーストネームもラストネームもまったく別なのだ。全員がすべてまったくつながりのない名前になっている。友人同士を「家族」としている可能性もあった。

 しかし、ふと、この可愛らしい写真の少年は、少年でもなんでもなく、大人だったり、あるいは女性だったりするかもしれないー。また、本当にそのままの少年で、何らかの「仕掛け」があるのかもしれない。そこで私はこの少年のフェイスブックの探訪をやめた。

 大の大人が少年少女の顔写真が一杯掲載されているフェイスブックを熱心に見ていようものなら、児童性愛主義者と見なされないとも限らない。児童ポルノは所持だけでも違法になるのが英国だ。

 「仕掛け」というのは、不用意にクリックした部分に何らかの隠れたセッティングがある可能性のことだ。(最近、テレビを見ていたら。フェイスブックの「にせいいね!」の手口の1つは、あるサイトをクリックしたと思ったら、その裏に隠されている別の「いいね!」用サイトをクリックしたことになった・・・というものであった。真実のサイトの上に、薄紙を置いたように、偽のサイトがかぶさっていたのである。別件になるが。)

 このサイトで精神的に虐待されて、自殺を図った少年少女は全体からみればごく少数かもしれないから、「サイトの閉鎖」まで行くべきなのかどうかは分からない。どんなツールを使っても、サイバーいじめはなくなりにくいとは思うし。第一、携帯メール(テキストメッセージ)でも、いじめるような言葉を発信できる。

 しかし、子供たちは、あまりにも無防備にこのサイトでわが身をさらしていることにならないだろうかー?

 考えて見ると、このサイトは

 (1)10代の子供たちに写真付プロフィールを設置している

 (2)これをそのソーシャルメディアでなくても誰でも見れる、読めるようにしている
ここまではフェイスブックやツイッターも踏襲しているのだろうが、だんだん危険度が高まってくるのが、以下だ。

 (3)匿名で子供たちに質問ができる

 (4)その質問に性的嫌がらせ、冷やかし、あるいは性的アプローチを目的とするものがかなりひんぱんに入っている

 (5)サイト運営者はチェックをしているというものの、結果的に、嫌がらせ、冷やかし、性的アプローチを目的とした質問が出るのが常態となっている

 などの点が、非常に気になる。

 実際に使っているほうの子供たちは、結構平気なのかも知れないがー。

 さて、ソーシャルメディアを楽しみ、言葉による攻撃を受け続けないようにするにはどうするか?

 BBCのデイブ・リー記者が6つの提案をしている(7日付ウェブサイト)。

 1つは「悪用を報告」ボタンをどこでも使えるようにしておく

 2つは自動的な仲裁機能(機械化)をとりつける

 3つは、実名利用を義務化すること

 4つは事態が深刻になった場合は、警察を呼ぶ

 5つは運営者のほうで、モデレーター(仲裁者)の数を増やす

 6つはオンライン上で互いに不快な言動を行わないように、教える、だ。
by polimediauk | 2013-08-09 07:47 | ネット業界
 ホームレスの人が販売している雑誌「ビッグイシュー」日本版が創刊されてから、10年になるそうです。

 今まで続いてきたことを記念して、10周年のイベントが複数開催されます。


 ビッグイシューから送られてきたメールの内容を以下に貼り付けます。

***

 10周年記念イベント:その4/ジョン・バード氏と日本人若手社会起業家たちが語る「社会を変える仕事をしよう~社会的起業を通して見えてきたこと」

 今から22年前、1991年に雑誌『ビッグイシュー』はロンドンの街角でスタートしました。その2年後にはINSP(国際ストリートペーパーネットワーク)が立ち上がり、今では世界100カ国以上にメンバー誌がある「貧困問題の解決」のためのネットワークへと成長しています。そのムーブメントの創始者であるジョン・バード氏に「英国における社会的起業のいまとそれを取り巻く社会の状況」などについてお話をいただきます。

 そして、そんな彼と若い日本人社会起業家3人に、それぞれの起業のきっかけやビジネスを続ける中で見えてきた課題などをお話しいただいた後、パネルディスカッション、フロアも一緒になってのディスカッションを行います。その後、当日の司会者の料理研究家の枝元なほみさんに軽食をプロデュースいただいた懇親パーティもあります。レアでアットホームな集いにしたいです。

日時:2013年9月4日(水)18時~21時半
場所:UBS証券株式会社 会議室
東京都千代田区大手町1丁目5番1号大手町ファーストスクエア イーストタワー12階
登壇者:ジョン・バード氏(ビッグイシュー創始者)/永岡鉄平さん(株式会社フェアスタート代表取締役)/白木夏子さん(株式会社HASUNA代表取締役)/岩瀬香奈子さん(株式会社アルーシャ代表取締役)
司会者:枝元なほみ(料理研究家・チームむかご主宰、ビッグイシュー基金理事)/佐野未来(ビッグイシュー日本東京事務所長)
参加費:3500円(懇親パーティ参加費含む)
定員:100名
お申込方法:以下のフォームよりお申し込みください。
http://goo.gl/AAlzTd
申し込み締め切り:8月30日(金)
主催:(有)ビッグイシュー日本
助成:大和日英基金
協力:UBS (UBS証券株式会社、UBS銀行東京支店、UBSグローバル・アセット・マネジメント株式会社)

お問い合わせ:ビッグイシュー日本東京事務所(03-6802-6073)
http://www.bigissue.jp

 ☆以下のイベントも残席あります!☆

 ・9月1日(東京)浜 矩子さん×萱野 稔人さんの対談と講演「これからの日本を考える」&交流会。
 ・9月2日(大阪)[THE BIG ISSUE創始者] ジョン・バード×ビッグイシュー販売者「社会的な排除&包摂に取り組むビッグイシューのいま、これから」
 「すべての人に居場所と出番のある社会」を考える。

 詳細は以下のリンクをご覧ください。
 http://www.bigissue.jp/anniversary.html


by polimediauk | 2013-08-08 16:53 | 日本関連
 米ワシントンポスト紙をアマゾンの創業者ジェフ・ベゾス氏が個人で買収した。

 すぐに思ったのは、「ほかに誰も買う人がいなかったのかなあ」と。よりによって、税金問題や働く環境の苛酷さで批判されているネット企業の創業者に買われてしまうとはー。米国で紙の新聞を印刷・販売するというビジネスは、先行きのないビジネスとして把握されているのだろうなあ、とも。将来性があって、投資家が続々と押し寄せて「ぜひ買いたい!」という代物とは見られていないのだー。

 今後、ワシント・ポスト(WAPO)紙はアマゾンの税金問題や就労環境の件を厳しく追求した記事を掲載できるのだろうか?矛先が緩むことはないのかどうか。ワシントンの政界で広く読まれている新聞だから、ロビー活動をするにも役立つという面もあるのではないか。

 それと、ベゾス氏にとっては、いわゆる「トロフィー」なんだろうな、と。つまり、「すごいでしょ」と他人に見せるものとしてのWAPO紙。

 「トロフィーワイフ」という英語の表現があって、これは富も名声も手に入れた男性が、自分の社会的地位を誇示するため迎えた若くて美人の妻のことを指す。WAPO紙を「美人の妻」というわけではないが、同紙は伝統的な、世界のジャーナリズムのトップとして名高い(映画「大統領の陰謀」をご参考)新聞だ。そんなメディアを手に入れれば、はくがつくのは目に見えている。富をたくさん手にしたベゾス氏。手に入れたいのは、「売った本の冊数がすごいだけじゃなくて、売る内容もすごいぞ!」という部分だろうか。

 アマゾンというビジネス自体も歴史に残るだろうが、WAPO紙の所有者として、ベゾス氏はこれでジャーナリズムの歴史にも名を残すことになった。

 オーストラリア出身のマードック氏(米ニュース社の会長)も、ニューヨーク・タイムズを欲しがった。英タイムズは手中にしたから、次は米メディアのトップを狙ったがうまく行かず、結局、それでもウオール・ストリート・ジャーナルを手に入れた。

 WAPO紙とアマゾン、ベゾスの買収については在米大原ケイさんのブログがほぼすべてを言い表していると思う。このトピックにご関心のある方は、ぜひご一読を。

ワシントン・ポストをベゾスが買ったワケ(「マガジン航」掲載)


***

 新聞通信調査会発行の「メディア展望」7月号に、イタリア・ペルージャのジャーナリズム祭の様子をデータジャーナリズムを中心してまとめてみた。この祭りについては読売新聞オンラインで何度か書いたが、今回は、もっと詳しく書いてみた。以下は、それに若干補足したものだ。

 最後に、データジャーナリズムについて参考になる文章を書いている方をまとめてみた。
 
―「データジャーナリズム」とは

 イタリア中部の都市ペルージャで、毎年春、国際ジャーナリズム祭が開催されている。地元のジャーナリストらが2006年に発案し、恒例行事となった。世界中からやってくるジャーナリスト、学者、メディア関係者らがジャーナリズムの現状や未来について話し合い、意見を交換する。参加費は無料で、ペルージャを訪れた人は誰でもセッション会場に入り、議論に参加できる。

 今年は4月24日から28日、ペルージャの旧市街に建つ複数のホテルを会場で200を超えるセッションが開催された。500人を超えるスピーカー、約1000人の報道陣が詰めかけ、参加者は5万人以上となった。

―データを活用するジャーナリズム

 欧州最大規模のジャーナリズム祭とされるこのイベントで目立ったテーマは「データジャーナリズム」だ。その意味するところや実践例をジャーナリズム祭での進行をたどりながら紹介してみたい。

 データとは情報を数値化したものを指し、データジャーナリズムとは「データを活用するジャーナリズム」の意味になるが、これが近年、注目を浴びている。さまざまな情報がデジタルデータ化されており、同時に、大量のデータを分析したり、視覚化するためのツールが容易に手に入るようになったことが背景にある。データ分析ツールを使い、それ以前には見えなかった事実や視点を提供するジャーナリズムを意味するようになった。

 ジャーナリズム祭の協賛組織となっている欧州ジャーナリズムセンター(EJC、本部オランダ・マーストリヒト)と英オープン・ナレッジ・ファウンデーション(OKF)は、昨年のジャーナリズム祭で、「データジャーナリズム・ハンドブック」(英語版)をオンライン上で出版した。これからデータジャーナリズムを始めようとする人へのガイド本だ。70人以上の国際的なジャーナリストたちのアイデアを基に作成された。紙版は書籍として有料販売されている。現在までに、無料オンライン版がスペイン語版、ロシア語版で出版されている。

 今年のジャーナリズム祭では、EJCとOKFは共同でデータージャーナリズムについてのワークショップ(「データジャーナリズム学校2013」)やセッションを複数開催した。

 まず、「データジャーナリズム学校」のワークショップの様子を伝えてみる。

 初日の講師となったのは、アリゾナ州立大学ウォルター・クロンカイト・ジャーナリズム・スクール教授のスティーブ・ドイグ氏だ。ハンドブックの作成にも力を貸した。

 1980年代、コンピューターを趣味として使っていたドイグ氏は、仕事にも使えることに気づいた。当時は米フロリダ州マイアミ・ヘラルド紙の記者だった。同州のハリケーンによる被害がずさんな建築基準によって悪化したことをデータ分析で証明し、1993年のピューリッツア賞を受賞している。

 ラップトップのパソコンを持ち込んで授業に臨んだ参加者の前で、ドイグ氏は「ジャーナリストがデータジャーナリズムを手がける目的は、ストーリー(ネタ)を見つけるため」と切り出した。

 小型コンピューターの普及で、記者がデータの中に「パターンを見つける」ことが容易になった、と語る。例えば、以前であれば、飲酒運転についての原稿を書くときに具体的な逸話をいくつか例に出し、結論に導いた。データを使って書けば、「単なる逸話を超えて、論拠を示すことができる」。

 データジャーナリズムが頻繁に話題に上るようになったのは「ここ2-3年」だが、米国では1960年代初期、司法体制が有色人種を差別していることを突き止めた例があるとドイグ氏は言う。

 データの分析という社会学の研究手法をジャーナリズムにも応用しようという議論が出たのは1970年代。1980年代以降、コンピューターの小型化が進展し、ジャーナリストが大量のデータを活用することが次第に容易になった。

 近年の例としては、米国ではUSAトゥデー紙の実践があるという。同紙は、生徒の試験の成績と教師が受け取るボーナスの支払い状況を分析した。結果、教師側がボーナスをもらうために試験の成績をごまかしていたことが分かった。

 データ解明ツールには表計算(エクセルなど)、データベース(アクセスなど)、マッピング・位置情報検知(ArcMapなど)、統計分析、ソーシャルメディア分析(NodeXLなど)のソフトをあげた。位置情報検知ソフトを使えば、どの場所で犯罪が発生したかを示す地図が作成でき、NodeXLは人がどんな風に他人とつながっているかを視覚化できる。

 ジャーナリズムに利用できるデータは、「例えば予算、歳出、犯罪のパターン、学校別の試験の点数、自動車事故、人口動態、大気環境、スポーツについてのさまざまな数字など」。

 データの視覚化にはデータ管理ソフトGoogle Fusion Table、プログラミングのための言語としてRuby, Django, perl, pythonなどをドイグ氏は紹介した。

 しかし、プログラミング言語を学ぶところまで行かなくても、エクセルなどの汎用ソフトを使うだけでもジャーナリストはデータをさまざまな形で分析できると教授は言う。例えばソート、フィルター、トランスフォームなどの機能を駆使し、数字の裏にある真実を見つけることができる。

 ドイグ教授は会場内で、イタリアの各都市で発生する犯罪件数のファイルを参加者に開けさせた。使用ソフトはエクセルだ。そして、人口当たりの犯罪発生件数を表示してみる。「何故この都市はほかの都市と比較して、犯罪率が格別に高いのか?ここからストーリーが生まれてくる」。

 2日目の講師マイケル・バウワー氏は、ジャーナリズム祭に参加したツイッター利用者のつぶやきを分析する方法を見せてくれた。

 どんなつぶやきを発しているか、誰が誰のつぶやきを追っているか、誰のつぶやきをリツイート(=他人のつぶやき内容を再発信する)しているかなどの要素を拾い、数理ソフトを使って、グラフ化した。ツイッターの利用者が誰にどのようにつながっているかが分かる図が目の前に広がった。

 筆者は、ドイグ教授の授業には終始ついていけたものの、バウアー氏の講義でグラフを自分のラップトップで再現するには時間がかかった。出席したほかの参加者も途中で戸惑いを感じたようで、会場内がざわつく場面が何度かあった。バウアー氏は「もし自分で今できなくても、がっかりしないでください。後で自習できる教材を流します」と説明した。

 講義終了後、データジャーナリズムを実践するには、ジャーナリスト側にはどれほどコンピューターの知識が必要なのかをバウアー氏に聞いてみた。「プログラミングができるほどの知識は必要ないと思う。コンピューター技術の専門家とジャーナリストとの共同作業がデータジャーナリズムだと思う」とバウアー氏。「しかし、データを使えば何ができるのかをジャーナリストが知っていることは重要だ。技術者は『こういうことをやってくれ』とジャーナリストから言われることを待っている」。

 授業の中でツイッターを通じた人のつながり方がグラフ化されたが、例えばこれはどんな記事を書くために使われるのだろうか?バウアー氏はこの問いにやや呆然としたようだ。少し間があり、「どんな記事ができるのか、という視点では考えていない」と答えた。筆者は、原稿を書く側にいるため、この答えは意外だった。改めて、データによって明るみに出そうとする事柄・文脈を考えるのはジャーナリスト側なのだ、と思った。

 「データの学校」の3人目の講師はグレゴール・アイシュ氏。「データの視覚化」のワークショップにはたくさんの人が詰め掛け、会場内に全員が入りきれないほどだった。同氏はグラフ作成ソフトを使って、データをカラフルなグラフに変換する具体例を次々と見せる一方で、「グラフの美しさにごまかされないように」と釘を刺すことを忘れなかった。データジャーナリズムの批判の1つが、「きれいなグラフを作るだけではないか」だからだ。

 次に、データジャーナリズムをテーマにしたセッションを見てみよう。

 初日のセッションの1つ「データジャーナリズムの2013年の現状」で、パネリストの一人で米ニューヨーク・タイムズ紙のインタラクティブ・ニュース部門を統括するアーロン・フィルホファー氏は、「データジャーナリズムという言葉の響きは地味だが、ピューリッツア賞を取る場合もある」と述べた。

 具体例は米南フロリダ州のサン・センチネル紙による「スピーディング・コップス」(スピード違反の警官たち)だ。同紙は、調査に3ヶ月をかけ、約800人の警官がスピード違反をしていたことを暴露した。2012年の一連の報道で、今年、同紙は公共サービス部門でピューリッツア賞を受けた。

 データジャーナリズムを担当するチームの話になり、フィルホファー氏はニューヨーク・タイムズでデータジャーナリズムの専門チームは自分ひとりという時代から、現在は18人のスタッフを抱えるまでになったと述べた。

 米コンピューター雑誌「ワイヤード」のイタリア語版で働くパネリスト、グイド・ロメオ氏が同誌のデータチームはいまだに自分ひとりだけだと発言すると、フィルホファー氏はデータジャーナリズムの実践には「大掛かりなチームは必ずしも必要ではない。サン・センチネルも小規模のチームで実行した」と補足する。「どのニュース編集室でも、やろうと思えばできる」。

 ニュース編集室とウェブ技術とをつなぐ活動を支援する米ナイト・モジラ・オープンニュースのディレクター、ダン・シンカー氏もパネリストの一人となった。同氏は、最近のデータジャーナリズムの優れた例として、米大統領選挙をめぐる報道をあげた。「4年ごとに行われるので、テクノロジーの進展振りが比較できる」。

 例えば、公益のための調査報道を主眼とするニュースサイト、プロパブリカが生み出した、選挙期間中に送られた募金依頼の電子メールを分析した「メッセージ・マシン」。プロパブリカはメールと人口動態から、どこでどんなことがトレンドになっているかをサイト上で示した。

 複数のパネリストが、選挙結果の予想家として知られる統計学者でブロガーのネイト・シルバー氏の分析を優れたデータジャーナリズムの1つとして挙げた。

 2008年、シルバー氏は政府が公表するデータや世論調査の結果から、大統領選で全米50州49州の勝敗を的中させた。昨年の大統領選では50州の投票結果を完璧に予測した。フィルホファー氏は「データジャーナリズムの勝利だ」という。「現状を切り取って見せたと同時に、未来を予言して見せたからだ」。しかし、「危ないのは、世界中の編集幹部が『自分たちもシルバーが欲しい』と言い出すこと」という。


 実際に、伊ワイヤード誌のロメオ氏は「何故、シルバー氏のような人材がイタリアにいないのかと悩んだ」という。

 「シルバー氏の予測はあくまでも過去の例に基づいたもの。必ずそうなる、ということではない」(フィルホファー氏)。

 聴衆の中にいた、英ガーディアン紙のデータジャーナリズム担当者ジェームズ・ボール氏は「確かにシルバー氏は間違うこともある。2010年の英国の総選挙の結果でも予測がはずれた」と発言した。

―共同作業とデータジャーナリズム

 EJCとOKFが共同開催した別のセッション「データとジャーナリズム -国境を超えた共同作業」は、ジャーナリズム祭の2日目に開催された。

 2010年、内部告発サイト「ウィキリークス」が、米軍にかかわる大量のデータを入手し、ニューヨーク・タイムズ、ガーディアン、仏ルモンド紙、ドイツのシュピーゲル誌など欧米の大手メディアと共同でデータを分析し、数々の報道につなげたことを記憶している方は多いだろう。データの量が膨大で、複数国にまたがる事象を取り扱う場合、共同作業は欠かせないーこれがこのセッションのメイン・テーマだった。

 ガーディアンは日常的にデータジャーナリズムのプロジェクトを手がけているため、その手法をウェブサイトに掲載し、情報を共有できるようにしている。

 「扱うデータ量が大きくなるにつれて、複数のメディア間で協力をせざるを得なくなっている」と同紙のデータジャーナリズム担当者でパネリストの一人、ボール氏が語る。税金逃れを暴露するプロジェクトの実行には、40以上のメディア組織と共同作業を行ったという。

「データの学校」のワークショップについてさらに詳しく知りたい方は関連ウェブサイトをご参照願いたい。

―データジャーナリズム賞を選出

 ジャーナリズム祭4日目の27日、非営利組織「グローバル・エディターズ・ネットワーク」(GEN、本部パリ)が今年の最優秀データジャーナリズム賞の最終候補72を発表した。世界中から送られてきた、300を超える実践例の中から、選出された。

 調査報道部門、ストーリーテリング(伝え方)部門、アプリ部門、ウェブサイト部門があり、それぞれの最優秀賞が選ばれる。1つの部門に対し、大手メディアから1つ、中小メディアから1つ選出されるため、合計8つのメディア組織あるいは個人が最優勝賞を受け取る。賞金総額は1万5000ユーロ(約190万円)だ。最終結果は6月19日と20日、パリで開催されるGENニュース・サミットで発表される。日本の媒体では、朝日新聞による、憲法改正についての政治家の姿勢を表にした例が出ている。

***

補足:

この賞の結果を、朝日新聞の平和博記者がブログで報告している。

データジャーナリズム賞を受賞した7作品

***

 最後に、基調講演を振り返りたい。

 3人のスピーカーの中で、最初が米テクノロジー系ウェブサイト「ギガ・オム」のブロガー、マシュー・イングラム氏だ。講演のタイトルは「魚に歩き方を教えるには?――旧来メディアが新しいメディアから学べる5つのこと」。「旧来メディア」(伝統メディア)とは新聞やテレビを指し、「新しいメディア」とはネットメディアのことだ。

 5つの提言とは①オープンであること(「読者と意思疎通を取らない旧メディアはまるで『要塞』のようだ」)、②情報源を示すこと(「ネット・サイトはハイパーリンクで情報源を示している」)、③人間らしさを出すこと(「間違えることもあることを認める」)、④ニュースを過程としてとらえること(「24時間の報道体制が現実化し、どんなニュースも『その時点でのまとめ』に過ぎない)、そして⑤「焦点を絞ること」(「すべてをカバーしようとするな」)だった。

 筆者は会場で、「ネットで無料情報があふれているが、職業としてのジャーナリズムは将来なくなるか?」と聞いてみた。イングラム氏は「これまでにもお金をもらえなくても発信をする人はいた、例えば芸術家や詩人だ」。市民から報酬をもらうためには「その他大勢とは違う何かを提供できることだ」。

 二人の目のスピーカー、エミリー・ベル氏は、米コロンビア大学のタウ・センター・フォー・デジタル・ジャーナリズムのディレクター。同氏もこれからの流れとして「特化と個人化」を指摘したのが印象的だった。「将来、ジャーナリズムの規模はもっと小さくなる」、「一人ひとりの記者が読者とつながり、一つのコミュニティー空間を作ることが必要だ」。

 最後のスピーカーは、米起業家でエンジニアのハーパー・リード氏。昨年の米大統領選挙では、オバマ大統領の再選運動に参加した。ビッグデータの分析やソーシャルメディアの活用など、デジタル技術を駆使した。ビッグデータを活用すれば、より深みのある報道ができるとして、「数学をジャーナリズムにもっと使ってもいいのではないか」―。

 日々増えてゆくデジタル・データを分析しながら、新たなジャーナリズムを生み出す過程を追体験した数日間だった。

 同時に、日本でもこのような国際的なジャーナリズムのイベントが開催されたら、大きな活性剤として働くのではないかとも思った。しかし、「個人化と特定化」といわれても、「中立報道」への圧力が強く、署名記事が一般化してしていない日本の新聞ジャーナリズムにとって、馬耳東風に聞こえる可能性もあるがー。

ご参考

データジャーナリズムについては、上で紹介した朝日の平記者のほかに、以下の方々が継続して書いている。

佐々木俊尚さんによるデータジャーナリズムとは

津田大介さんによる解釈

赤倉優蔵さんによる解説
by polimediauk | 2013-08-07 21:23 | ネット業界
 インターネットを使って、誰もが気軽に情報を発信できるようになったが、自由闊達な議論が発生すると同時に、嫌がらせ行為に相当する発言、暴力的な発言も、ネット界にそのまま流れる状況が生まれている。

 報道の自由を維持しながら、いかに暴力的な、あるいは差別的な表現から市民を守るのかが、焦点となってきた。

 英国やフランスで発生したネット上の暴言の事例を紹介してみたい。

―英国の事例 ツイッターの場合

 最も最近の例は古典学者で歴史物のテレビ番組のプレゼンターでもあるメアリー・ビアード教授のケースだ。

 長い銀髪のヘアスタイルとメガネがトレードマークとなっている教授は、過去にBBCのパネル番組に出演した後で、容姿を批判したり、女性であることを蔑視するつぶやきを自分のツイッターのタイムラインに受けるようになった。

 こうしたつぶやきを発する一部の利用者と「対話」をネット上で行うことで窮地を切り抜けてきた教授だが、今月3日、「爆弾をしかけたぞ」というつぶやきを受け、警察に通報した。

 4日時点で、ツイッター社は「個々のケースについてはコメントしない」としている。

 7月末には、新たな10ポンド(約1400円)紙幣に女性作家ジェーン・オースティンの姿が印刷されるよう、キャンペーン運動を行った女性活動家キャロライン・クリアドペレス氏と、彼女を支援した議員ステラ・クリーシー氏のツイッターに、脅し文句のツイートが1時間に数十も送られる事件が発生した。

 ツイッター社側は当初すぐには対応せず、米本社のニュース部門担当者が自分のツイッター・アカウントをロック状態にし、苦情を受け付けないかのような姿勢を見せた。

 その後、一定の知名度を持つ女性への暴言ツイートは女性の新聞記者や雑誌記者にまで拡大した。

 一連の事件がメディアで報道されると、より使いやすい「悪用を報告する」ボタンを採用するようにツイッター側に求めるオンラインの署名が、12万5000件集まった。野党・労働党の女性幹部もこの事件の重要さを取り上げるようになった。

 3日、ツイッター英国社のゼネラル・マネージャー、トニー・ワン氏は、暴言ツイートを受け取った女性たちに対し謝罪した。また、ツイッター社のブログ上で、暴言を防ぐために方針を見直すことを明言し、アップル社が採用するIOSを使う機器ばかりではなく、すべてのプラットフォームで「悪用を報告する」というボタンを9月末までに付けると発表した。

 4日、女性ジャーナリストのカイトリン・モーラン氏は、象徴的な行為として、この日一日、ツイッターを使わないと宣言した。

―既存の複数の法律で対応

 英国のそのほかのネット上の暴言の多くが、既存の法律で処理されてきた。

 昨年4月、あるサッカー選手が19歳の女性への性的暴行罪で有罪となった。性犯罪の事件では、報道機関は犠牲者の名前を報道することを禁じられている。これはソーシャルメディアにも適用される。しかし、数人がこの19歳の女性の個人情報の割り出しをはじめ、実名がツイートされてしまった。男性7人と女性2人が性犯罪改正法違反で有罪となり、罰金を科された。

 秋には、ある上院議員が、5万人を超えるフォロワーを持つ人権運動家の女性から、児童性愛主義者であることを暗示するツイートを発信された。議員はこれが事実無根であるとして、女性を名誉毀損で訴えた。裁判で、女性は5万ポンド(約750万円)の損害賠償を支払うことを命じられた。

 リアルの世界の法律がソーシャルメディアでも適用されるケースが増えている。ネット以外の世界でやってはいけないことは、ネット界でも許されないと考えると、分かりやすい。

―欧州諸国とヘイトスピーチ

 日本では、最近、在日コリアンを「殺せ」などとデモ行進をする一部団体がいると聞く。これは「ヘイトスピーチ」の1つだろう。

 ヘイトスピーチの直訳は「憎悪のスピーチ」。憎悪に基づく差別的な言論を指す。人種、宗教、性別、性的指向などを理由に個人や集団を差別的におとしめ、暴力や差別を助長するような言論だ。

 世界では多くの国がヘイトスピーチを禁止する法律を制定している。

 国際的には個々の人間の自由権に関する国際人権規約ICCPR(International Covenant on Civil and Political Rights)が「差別、敵意、あるいは暴力を先導する、国の、人種のあるいは宗教上の憎悪の主張は法律で禁止されるべき」としている。また、人種差別撤廃条約が人種差別の煽動を禁じている。

 英国(イングランド、ウェールズ、スコットランド地方)では複数の法律(公共秩序法、刑法と公共秩序法、人種及び宗教憎悪禁止法、サッカー犯罪法など)によって、肌の色、人種、国籍、出身、宗教、性的指向による、ある人への憎悪の表現を禁じている。もし違反した場合は罰金か、禁錮刑、あるいはその両方が科せられる。

 ドイツでは、「民主的選挙で政権を取ったナチスがユダヤ人大虐殺を引き起こした反省から、人種差別的で民主主義を否定する思想を厳しく批判する『戦う民主主義』を採用している」という(共同通信記事、「新聞協会報」7月30日付)。

 ヘイトスピーチには刑法の民主煽動罪が適用され、これは「特定の人種や宗教、民族によって個人、団体の憎悪をあおることを禁止し、違反すれば最長で禁錮5年」が科せられる(同)。

 ナチスやヒトラー総帥を賞賛する言動、出版物の配布も刑法によって禁じられているという。

 フランスでも英国やドイツと同様の働きをする複数の法律があり、1990年には、ホロコースト(ナチスによるユダヤ人虐殺)の否定を禁止するゲソ法が成立している。

―フランスと「良いユダヤ人」

 昨年10月、フランスで、「unbonjuif」というハッシュタグ付きのつぶやきが氾濫した。これは「良いユダヤ人」という意味だが、「良いユダヤ人とは死んでいるユダヤ人」など、反ユダヤ的な文章や画像、ホロコーストを笑うジョークなどがツイートされた。

 同時期、「もし私の息子が同性愛者だったら」、「もし私の娘が黒人男性を家に連れてきたら」などを意味するフランス語のハッシュタグを使って、人種差別的な、または同性愛差別的なツイートも発生した。

 一連の反ユダヤ主義的ツイートについて、フランスユダヤ学生連盟(UEJF)が抗議運動を開始。ツイッター幹部とミーティングの機会を持ち、問題のツイートの削除と利用者情報の開示を求めた。ツイッター社は問題となったツイートの一部を削除することに合意したものの、利用者情報は渡さなかった。

 同時期、ドイツ警察からの依頼を受けて、ツイッター社は、独ハノーバーを拠点にするネオナチ・グループが使っていたアカウントを閉鎖している。

 今年1月、UEJFが反ユダヤ的なツイートを広めた利用者の情報開示をツイッター社に求めていた件で、パリの裁判所は、この情報をUEJFに渡すよう命じた。

 もしこの命令にツイッター社が2週間以内に従わないと、1日に最大で1000ユーロ(約13万円)の罰金を科すという厳しい判決となった。

 言論の自由を信奉するツイッター社がこれに応じなかったため、3月、UEJFは同社を刑法違反で訴え、CEOのディック・コストロ氏に3850万ユーロ(約50億円)の損害賠償の支払いを求めた。

 ツイッター社は控訴したものの、7月、最後の判定が出て、UEJF側に利用者情報の一部を渡すことになった。

 ツイッター社が「フランス政府に屈服した」という評価が一部で出た。

ー市民レベルでの運動が発達

 欧州各国では、ヘイトスピーチを行った人を罰する法律が存在する場合が多く、ほかには名誉毀損法、人種差別禁止法など関連する法律を適用して、ネット上の暴言を処理している。市民が反対運動、抗議運動を行って署名を集めたり、著名人が「ツイッター利用をボイコットする」と宣言したりなど、市民レベルでの運動が活発だ。

 報道の自由の維持と暴力的な発言の削減との兼ね合いの間で、試行錯誤が続いている。
by polimediauk | 2013-08-05 08:19 | ネット業界
 英中央銀行が、作家ジェーン・オースティン(「高慢と偏見」、「エマ」など)を10ポンド紙幣の裏に印刷すると発表したことをきっかけに、女性ジャーナリストや政治家のツイッターに「殺すぞ」、「レイプするぞ」などの書き込みが殺到する事件が発生した。3日、ツイッター社の英国幹部が、悪質な書き込みを受けた女性たちに謝罪。一連の書き込みは「許されない」、今後、こうした行為をなくするようさらに努力する、と述べた。事件発生から1週間以上が過ぎており、「対応が遅すぎた」という声もある。

 中央銀行が、10ポンドの紙幣の裏に、現在描かれているチャールズ・ダーウィンの代わりに、女性の作家オースティン(1775-1817年)を印刷すると発表したのは先月24日のことだ。

 2016年からは、現在5ポンド紙幣の裏に登場する社会改革者のエリザベス・フライの代わりにウィンストン・チャーチル元首相が描かれることになっている。そうなると、エリザベス女王以外では、女性の姿が英国の紙幣から消えてしまうー。この点を懸念した英国内の女性団体は、女性が紙幣に印刷されるよう、キャンペーン運動を始めた。

 運動の中心となったのが、ジャーナリストのキャロライン・クリアドペレス氏であった。女性を選出するようにというオンラインの署名も3万5000人分が集まった。2017年以降に使われる10ポンド紙幣の裏に描かれる人物としてオースティンが選ばれたことで、クリアドペレス氏の努力が実った格好となった。

 ところが、中銀の発表直後から、「殺すぞ」、「レイプするぞ」、「爆弾をしかけてやる」などの脅しのつぶやきが、クリアドペレス氏のツイッターに押し寄せた。1日に数十回の頻度で発生したという。

 野党労働党の女性議員ステラ・クリージ氏がクリアドペレス氏を擁護する意見を表明すると、今度は彼女のツイッターに同様の悪質なつぶやきが押し寄せた。その後の数日で、ガーディアン紙、インディペンデント紙、米タイム誌の欧州特派員など、複数の女性ジャーナリストのツイッターにも「爆弾をしかけるぞ」などのつぶやきが出るようになった。

 女性たちが警察に通報し、これまでに数人の逮捕者が出ている。

 英国では、一連のツイッター事件は連日、テレビや新聞で報道された。

 しかし、ツイッター側の反応は必ずしも早くはなかった。被害にあった女性たちは脅しのつぶやきを止めるための対応をツイッター側に依頼したが、返事がないままに数日が過ぎた。

 筆者は、英民放チャンネル4の7月30日放送分で、ツイッター米本社の「信頼と安全性」部門の責任者デル・ハービー氏の返答を視聴した。同社は悪質なつぶやきが発生しないよう、ベストを尽くしていると説明していたが、何故英国で大騒ぎになるのか分からないような様子を見せ、米英の温度差を感じた。

 BBCの報道によると、「悪用を報告する」というボタンをツイッターの機能に入れるべきだという署名が、2日時点で約12万5000人分、集まったという。

 ツイッター英国のゼネラル・マネージャーとなるトニー・ウオング氏が、ツイッターの自分のアカウントから、虐待を受けた女性たちに謝罪したのは3日だった。

 「女性たちが経験した虐待はまったく受け入れられないものだ。リアルの世界で受け入れられないし、ツイッターでも受け入れられない」

 同じく3日、ツイッター英国は今回の事件や利用者からのフィードバックによって、嫌がらせについての方針をより明確にしたとブログ内で述べた。

 「悪用を報告する」というボタンはIOSを使う機器ではすでに使えるようになっており、9月からはそれ以外の機器でも使えるようにするという。
by polimediauk | 2013-08-04 07:24 | ネット業界
c0016826_2136346.jpg
 
(英サン紙の、有料購読をすすめる画面 ウェブサイトより)

 英国の大衆紙最大手サンが、8月1日からサイト閲読に有料制を導入している。さっと画面を見たところでは、お金を払わないと1本もまともに記事が読めない方式だ。

 サンを発行するニュースUK(旧ニュースインターナショナル社)は高級紙タイムズ、サンデー・タイムズも発行している。両紙がサイト閲読を有料化したのは2010年。サンの有料化はこの動きに沿ったものだ。

 サンのウェブサイトに飛ぶと、最初の月は、「サン+(サン・プラス)」を1ポンド(約140円)で閲読できる、という説明が出ている。2ヶ月目以降は、週に2ポンドを払う。年間契約にすれば、10か月分で1年間、閲読できる。サン+の購読者になれば、携帯端末(タブレット、スマートフォン)でも読めるようになる。

 英国では店頭で新聞を買う人が多いが、サンを小売店で買った場合、紙の新聞にサイト閲読用のコードがついてくる。これを入力して、サイト上で記事を読む仕組みだ。

 サンは読者をひきつけるために、サッカーのプレミアリーグの試合をサイト上で見れるようにしているほか、ほかのサッカー試合の動画や生情報をどんどん出してゆくという。スポーツ好きに焦点を絞った戦略だ。

 サンがプレミアリーグの動画を有料パッケージの中に組み込めるは、ニュースUKの親会社となる米ニュース社が英衛星放送BスカイBの株の一部を持っているためだ。BスカイBはプレミアリーグの試合の多くを独占生中継する権利を持つ。

 タイムズやサンデー・タイムズがネット記事の閲読を完全有料化したとき、ユニークユーザーの90%が減少したといわれている。

 ガーディアン紙に掲載された記事によれば、サンのデジタル・エディター、デレク・ブラウン氏は、サンの月間ユーザーは3200万人だったが、そのほとんどが「単に通り過ぎるだけ」の人たちだった。

 アナリストは有料購読者が30万人を超えないと赤字になると予測している(上記ガーディアンの記事)。

 電子版の有料化を率先して進めてきた英経済紙フィナンシャル・タイムズ(メーター制)は、現在までに、電子版購読者が紙版購読者数をしのぐようになっている。

 一方、英国の高級紙最大手テレグラフ紙はウェブサイトを英国外から利用する際に、月に20本までは閲読無料、それ以上は毎月1・99ポンド(約300円)という課金制(メーター制)を昨年11月から導入してきたが、今春からこれを国内の読者にも適用している。

 これで、ウェブサイトの閲読が過去記事も含めて完全無料なのは、英国の大手高級紙ではガーディアンとインディペンデントのみになった。

―増える有料制の導入

 ウェブサイト上のニュース閲読に課金する新聞社は、英国を含む欧州各国、米国でも増えている。米国では300紙以上が導入中と言われている。

 背景には新聞の発行部数の下落、インターネットでのニュース取得の常態化といったメディア環境の変化があるが、デジタル収入が紙媒体からの収入の落ち込みを挽回するほどには増えておらず、各国新聞界が本気で新たな収入源を模索している様子が見える。

 スイスでは、独語日刊紙「ノイエ・チュルヒャー・ツァイトゥング」が昨年、ウェブサイト閲読に有料制を導入し、今年3月にはそのライバル紙となる「タゲス・アンツァイガー」が有料制導入計画を発表。

 ドイツでは地方紙「シュヴァーバッヒャー・タークブラット」が3月からサイト閲読に課金制を導入。国内で課金方式を採用する35番目の新聞となった。「もはや新聞を無料であげてしまうわけにはいかない」)(同紙編集長、ドイツ新聞発行者協会のウェブサイトより)。

 ドイツの大手出版社アクセル・シュプリンガー社の全国紙「ウェルト」も昨年末から課金制を導入し、同社の大衆紙「ビルト」は6月から、無料と有料の記事を混在させる仕組みをスタートさせている。

 BILDPlus Digital がウェブ、スマホ、タブレットでの閲読用で月に4・99ユーロ(約650円)、電子ペーパー版を含むのがBILDPlus Premium で、月に9.99ユーロ。いずれも、最初の月は99セントという低い価格が設定されている。

 また、サッカーのブンデスリーグの試合ハイライトなどの視聴を含む特別なパッケージ(月に2・99ユーロ)も提供する予定だ。

 当初無料であったサービス(=ネット版の記事閲読)を有料にする場合、いかに利用者に納得してもらえるかが鍵となる。

 サンのプレミアリーグ動画の視聴が一つのやり方とすれば、発想の転換によるアプローチで成功したのが、フィンランドの大手出版社サノマ社の例だ。

 同社はスカンジナビア諸国で最大の発行部数を持つ日刊紙「ヘルシンギン・サノマット」を発行する。ネット版閲読に課金制を導入したのは08年だ。

 そのやり方は、ヘルシンギン・サノマットの紙版とネット版(パソコン、タブレット、携帯電話含む)の閲読をセットで提供する仕組みだ。

 セットの購読は年間340ユーロ(約4万3000円)。紙版のみは304ユーロだが、少しこれに上乗せするだけで閲読機器を選ばずに読める、として利用者を説得する手法を取った。39万人の定期購読者の中で、3分の1が前者を選択し、新たな収入源の柱となっている。

 一定のブランド力がないと課金制は失敗する。英国の地方紙発行元大手ジョンストン・プレスは思ったほどの購読者が集まらず、10年、課金制を撤回した。

 単独ではネット版課金を維持できないと考える出版者が複数参加し、1つの課金プラットフォームを作っているのが、スロバキア出版界の最大手プティット・プレスの経営陣が2011年5月に発足させたピアノ・メディアだ。

 利用者は週に小額を払い、参加している新聞社の記事をネット上ですべて閲読できる。現在までに、スロベニアやポーランドのメディアも参加するようになっている。

 ネットのコンテンツをお金を払っても読みたいと思わせるような仕掛け作りで知恵を競う時代となったが、英国で無料閲読を維持している新聞の1つがガーディアンだ。

 今後の方針について、アラン・ラスブリジャー編集長がGIGAOMから取材を受けている

 将来、サイト閲読を有料化するかどうかについて、ラスブリジャー編集長は「オープンだ」(決してしないとはいえない)と表明している。

 しかし、英国ではBBCをはじめとした放送メディアがニュースを無料で発信している。英語での情報もあふれるほどある。こうした多くのメディアが出す報道以上のものを、お金をとって提供できるのかどうかー?この点をガーディアンは考えなければならない、という。

 結論として、今のところ、「無料で行く」方針に変わりはないようだ。

 有料か無料かという二者択一ではなく、「良いジャーナリズムをどうやって発信するか」を第一に考えるという。また、中核となる読者は、おそらくお金を払ってでもガーディアンのウェブ記事を読んでくれるだろうが、「ガーディアンの記事は無料で出すべきだ」という思いが強いという。こうした読者の気持ちが、ガーディアンのネット記事の閲読無料化を支えている。

―グーグルニュースと戦うドイツ新聞界

 以前に、グーグルニュースと戦うドイツの新聞社の動きを紹介した

 グーグルニュースが、自分たちがお金をかけて作ったコンテンツを無料で利用している、だから何らかの見返りが欲しい、というのがドイツ新聞界側の発想である。

 今年3月、ドイツでは、新聞社などがネット上で出したニュースを検索サイトに掲載する場合、使用許諾や使用料の支払いを義務付ける改正著作権法が成立している。報道機関は、1年間、営利目的でニュース記事を公開する独占的権利を持つ。

 8月1日以降、グーグルニュースに自社サイトのニュースを拾われたくない新聞社は、「オプト・アウト」(抜け出る)を申請することになっていた。

 しかし、今朝、どうなっているかを見ると、ほとんどの新聞社が「オプト・イン」(選択する)を選んでいる(AP電)。

 アクセルシュプリンガー社は1日、グーグルからニュースの使用料が支払われることを期待する、と表明しているという。

(新聞通信調査会「メディア展望」掲載の筆者記事を一部使用しています。)
by polimediauk | 2013-08-01 21:37