小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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 2008年に拡大した世界的な金融危機。英国では、危機以前に約5%だった失業率が現在7.8%(今年4-6月)に達している。2016年半ば頃までは低成長が続くという。

 こんな英国で、「仕事が見つからないなら、自分で始めよう」-そう考える人が増えている。

 フリーで働く人を対象に仕事の案件を売買する英サイト「フリーランサー」 (登録者約870万人)によると、過去1年で「マイクロビジネス」(一人であるいは家族を手伝わせて経営する小規模の事業)を始める人が急増した。

 で、これにマンチェスター(23%)、ベルファースト(21%)、ロンドン(21%)、カーディフ(21%)、エディンバラ(20%)、リバプール(20%)、バーミンガム(19%)、リーズ(19%)、グラスゴー(18%)と続く。

 起業は「景気後退で解雇された時の準備や収入不足を補うのが目的」(フリーランサー社の欧州担当者)という。オンラインショッピング用のソフトを作ったり、ネットで翻訳サービスを始めるなど、「パソコン一つで起業できるようになったこと」も追い風になっている。

 英政府の依頼でシンクタンク「バンクサーチ」が調べたところによると、昨年の起業数は過去最高の49万件に達し、中小企業の数は約480万となった。

 起業後「どれほど利益を出しているかは疑問だ」と手放しに喜べないという人もいる。景気が本格的に回復するまでの防衛策として賢い一手ともいえるのかもしれない。

 (週刊「エコノミスト」の「ワールドウオッチ」の筆者担当分に補足しました。)
by polimediauk | 2013-09-27 06:46
 週刊「エコノミスト」(毎週月曜日発売)に「ワールドウオッチ」という、数人で執筆を担当する連載コラムがある。時折、私も書いている。

 以下、9月の最初の2週間に掲載された分に若干細補足してみた。英国のビジネス・経済状況の点描として閲読いただければ幸いである。 

ー最低賃金を払わない企業の実名をさらす案が浮上

 国が設定する最低賃金を払わない企業の実名を公表して恥をかかせる案が、英国で浮上中だ。

 現在、21歳以上の勤労者の最低賃金は時給6.19ポンド(約974円、1ポンド=約157円として計算、以下同じ)だが、10月から6.31ポンド(約993円)に上昇する。政府は、これに合わせて所定額を払わない企業名を公表し、全国最低賃金法の徹底遵守を目指す。

 違法行為が発覚した雇用主には、不足分の支払いと最大で5000ポンド(約78万円)の罰金が科せられる。昨年、若い女性に人気のファッション・ブランド「Top Shop」を運営するArcadia社はインターンとして働く従業員らに約20万ポンド(約3150万円)の不足賃金を払う羽目になった。

 英国歳入関税局(HMRC)の調べによると、昨年、736の雇用主が最低賃金以下の給与を支払っていた。2万6500人を超える従業員への不足分の支払いは390万ポンド(約6億1700万円)に達した。

 英国の労働組合の中央組織「労働組合会議」(TUC)によれば、最低賃金以下で働く労働者はHMRCの調査した数よりも「はるかに多い」。しかし、不満を口に出せば雇用を中止されることを懸念して、「口をつぐんでいる」。

 最低賃金のレベルを守るだけで良いかというと、そうとは言えないのがロンドンの例だ。

 一定の生活水準を維持するための「生活賃金」は全国では時給7.45ポンド(約11780円)だが、ロンドンは生活費がほかの都市と比べて高いため、市は雇用主に対し、時給8.55ポンド(約1346円)を採用するよう推奨している。ところが、これを無視して国による最低賃金を払う雇用主も少なくない。その1つがお役所関係だ。複数の省庁が清掃担当の職員に6.19ポンドにほんの少し上乗せした金額を払っていた。清掃員たちは大臣に抗議の書簡を送り、官公庁前でデモを行ってきたが、賃金が上がったという話をいまだ聞かない。

 英シンクタンク「レゾリューション・ファウンデーション」によると、生活賃金以下の収入で暮らしている人が英国内では480万人いるという。
by polimediauk | 2013-09-26 08:14 | 英国事情
 米英の諜報機関による大規模な個人情報の収集実態を次々と報道してきた英ガーディアン紙に対し、英政府が報道の元となる資料の破棄を命じたり、記事の執筆者のパートナーを拘束して所持品を没収する事態が発生した。報道の自由が定着した英国で、政府がここまで直接的に報道機関の手足を縛る動きに出るのは異例中の異例だ。

 国家権力とメディア報道について、「新聞協会報」(9月17日号)に寄稿した。以下はそれに若干付け足したものである。事件の流れについて以前にほかの媒体でも書いたが、今回は英国のほかの新聞の反応や、国家権力とメディアとの関係について書いてみた。

ー資料破棄や拘束

 6月上旬から、ガーディアン紙は、元中央情報局(CIA)職員エドワード・スノーデン氏が提供した内部資料を元に、米国家安全保障局(NSA)や英国の通信傍受機関、政府通信本部(GCHQ)が大規模な個人情報の収集活動を行っていることを報道してきた。執筆陣の中心は米国人コラムニスト、グレン・グリーンワルド氏であった。

 8月18日、同氏のパートナーでブラジル人のデービッド・ミランダ氏がロンドン・ヒースロー空港で拘束された。ミランダ氏はグリーンワルド氏とともに今回の報道に携わってきた米国人のドキュメンタリー作家ローラ・ポイトラス氏にドイツで会い、自宅があるリオデジャネイロに戻る途中だった。

 英テロリズム対策法の下で9時間近く拘束されたミランダ氏は、携帯電話、ラップトップパソコン、予備のハードディスク、メモリースティックなどを没収された。電子メールやソーシャルメディアの利用パスワードなどを聞かれた。「教えないと刑務所に入れると言われた」という(BBCニュース、8月21日)。

 テロリズム対策法を使うと、捜査当局は捜査令状を取らずに人を最長9時間拘束できる。協力を拒否すると、刑法違反で罰金か禁錮刑(3ヶ月)を科される。

 ロンドン警視庁はテロ対策法の適用を「合法」、メイ内相も「慎重に扱うべき、盗まれた情報をある人物が所持している場合、警察が動くのは当然だ」として、拘束を支持する声明を出した。

 英コラムニスト、ニック・コーエン氏は「米政府の意向を汲んだ動きだ。グリーンワルド氏を威嚇し、ラップトップに何が入っているかを探し出すのが目的だった」(米ニューヨーク・タイムズ、20日付)と書いた。

 同月19日、ガーディアンのアラン・ラスブリジャー編集長は、スノーデン氏から得た情報を引き渡すよう、政府から数度にわたり圧力をかけられていたことを初めてブログで報告した。

 6月、「首相の意向を伝える」政府高官から連絡を受け、情報の引渡しを要求された。7月にも同様の要求を受け、引渡しがない場合は裁判に訴えると言われた。もう1つの選択肢は情報を保管するラップトップのハードディスクの破壊であった。情報を渡せないと考えた編集長は、GCHQの職員の前で、ハードディスクを破壊した。

 編集長によれば、ディスクの物理的な破壊は「象徴的行為」であった。情報ファイルが英国外の場所にも保存してあることを職員に説明したが、それでもGCHQ側はその場での破壊を要求したからだ。

 8月20日、ミランダ氏は高等法院に訴えを起こし、拘束が合法であったことが確立するまで、押収した所持品の捜査を停止するよう求めた。22日、高等法院は「国家の安全保障以外の目的での捜査停止令」を出した。実際には「高度に慎重に扱うべき資料が存在している」という理由から、テロ事件捜査班が捜査中だ。

 8月30日、高等法院で本件についての政府側の答弁があった。押収品の中には「5万8000件以上の国家安全保障上の機密書類」があるという。ミランダ氏側は「根拠がない」と反論した。

 ミランダ氏の長時間拘束やハードディスクの破壊について説明を求めるべく、欧州評議会(本部、仏ストラスブール)のトールビョルン・ヤーグラン事務総長はメイ内相に公開書簡(8月21日付)を送った。この中で、英当局の行動は「欧州人権条約第10条で保障されたジャーナリストの表現の自由を萎縮させる効果をもたらしかねない」と書いた。

ー英高級紙、政府に一定の理解

 英国内の複数の高級紙は、政府側の行動の意図に一定の理解を示した。8月19日付のフィナンシャル・タイムズ社説は拘束の法的根拠が「非常に不完全だった」と指摘し、「米英政府にはスノーデン氏を追及する権利がある」とこ認めた。その上で、「同氏やジャーナリストへの追及は慎重にやるべき」で、「高圧的なやり方は国民の信頼を得られない」としている。

 一方、ガーディアンは9月4日付で国連の表現の自由や人権についての特別報告者らによる「国家機密の保護を『新聞界を恫喝して黙らせる』ための口実にしてはいけない」という声を紹介している。

 近年の例を振り返ると、国家機密あるいは国家や政府側が公開しないと決めた文書を内部告発などで入手し、大々的に報じたのは、デイリー・テレグラフ紙による国会議員の経費過剰請求事件(2009年、経費情報が入ったディスクが流通し、同紙が告発者から高額で買い取った)や、ガーディアンが内部告発サイト、ウィキリークスとの共同作業で行った、イラクおよびアフガン戦争での米軍文書や米外交文書の報道(いずれも2010年)があった。

 いずれの場合も、政府が報道機関が持つ書類を物理的に破壊させる、報道執筆者やその家族に威嚇行為を行うという事態は発生しなかった(少なくともその事実は表面化しなかった)。

 今回の場合、公権力の顔が急に眼前に現れたようで、筆者もいささか衝撃を受けた。

―権力側=強者か?

 今回の当局からの圧力を、報道の自由の面からどう見るべきだろうか?権力側=強者、報道側=弱者としてしまうと、一面的になる。英国の権力側と報道機関は常に綱引き状態にあるからだ。

 例えばミランダ氏に注目すると、当初同氏はグリーンワルド氏の生活上のパートナーでありジャーナリストではなく、いわば「何も知らない普通の人」がグリーンワルド氏の報道に関連して拘束されたと解釈され、「そこまで権力の手が伸びたのか」という衝撃につながった。

 しかし、その後の報道で、必ずしも「何も知らない、ジャーナリズムとは関係ない人物」とは言えなくなってきた。

 グリーンワルド氏は、後の米メディアの取材の中で、ミランダ氏がスノーデン氏から得た生のリーク情報を持って旅行したことを明らかにした。ドイツまでの往復の旅費をガーディアンが負担していたことも判明し、なんらかのジャーナリズムの目的があってのドイツ行きであった可能性が出てきた。取調べを受けても不思議ではないとも言える。

 権力側は常にペンの力や司法の場で権力の行使を検証される。

 メディア側も簡単には引き下がらない。ディスクの破壊後も、ガーディアンはニューヨーク・タイムズなどと協力し、スノーデン発の報道を続けている。

 権力側と報道機関との綱引き劇の最終幕はまだ下りていない。
by polimediauk | 2013-09-24 23:03 | 政治とメディア
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 今回は、英日曜紙オブザーバー編集室の見学記である。

ーモダンなビル

 オブザーバーは前回紹介したサンデー・タイムズのようにいろいろなセクション(付録、雑誌など)が本紙につ
く。いずれもカラフルでレイアウトに凝っている。サンデー・タイムズよりももっとリベラルで、社会正義のための企画を出すことが多いように思う。

 オブザーバーの編集室は日刊紙のガーディアンと同じビルにある。とてもモダンなビルで、美術館と見間違えるほどだ。

 編集室のレイアウトはサンデー・タイムズと非常によく似ている。違いは、カラフルな待合室、ミーティング用のソファーがあちこちに置かれているところだ。

 案内は午前10時過ぎに始まったので、ちょうど、ガーディアンの編集会議が進行中だった。会議室の1つには、長い黄色のソファーがいく列にも並んでいる。一方のソファーにはガーディアンのアラン・ラスブリジャー編集長が座り、編集部員たちが向かい合うソファーに座っていた。結構、「上から」という感じに見えたが、どうだろうか。もっとフラットな感じかなと思ったので、意外だった。

 部内の壁に、その日のガーディアンの紙面をそれぞれ印刷したものが貼り付けられていた。この貼り付けたものを使って、編集部員らが議論するようだ。

 ガーディアンの編集室を過ぎて、オブザーバーの編集室に入る。ここでも壁にはいくつかの紙面が貼り付けられていた。この日は木曜日。まだ少ししかできていない。貼られていたのは「ニューレビュー」という冊子の紙面だった。これは紙の質も本紙と少し変わっていて、とてもきれいな冊子である。

 面白いのは、マルチメディア用の施設(ガーディアンと共用)で、ミニスタジオがいくつもあった。記者はマルチメディア(ビデオ、音声)をやることも要求される。マルチメディア専門の人がいるというよりも、「すべての記者がやれるのが原則」なのだ。

 社内には、3匹の子豚のぬいぐるみも置かれていた。3匹の子豚がニュースの中心になり、これをテレビ、ウェブサイト、紙の新聞で読むというテレビのコマーシャルを作ったときに使われたぬいぐるみを模したものだった。

 オブザーバーの編集スタッフは数十人だが、記者は一ケタ台であるようだ。相当にギリギリの数字である。

ー紙の新聞を読む若い人は少ない

 案内をしてくれた人の話によれば、若い人の間で紙の新聞を読む人は少ないし、周りでもほとんどいないという。それは「ウェブ上でただで読めるから」。言外に、「だから、お金がもうからないのも当たり前だよ」という感じだった。

 ガーディアン、オブザーバーはウェブサイト(両紙で共通)上の記事の閲覧を無料にしている。携帯機器で読むための有料のアプリを提供し、そこそこ売っているけれども、このアプリを買わなくても実際には無料で記事が読める。

 紙の販売・広告収入が大部分で、デジタル収入の比率は小さいが、デジタル収入のみに注目すると前年比「30%増」だという。

 ガーディアンやオブザーバーの記者などが講師として教える「マスタークラス」という収入源もある。記者が調査報道のやり方を教えるなど。受講者として出席するには1回で300ポンド(約4万7000円)、400ポンド(約6万3000円)に上るー決して安くはない。

 収入拡大の期待がかかるのはウェブサイト上の動画につける広告だという。

 英国に「プレスクラブはあるか?」とも聞いてみた。案内をしてくれた人は、親善クラブのように解釈したが、日本の記者クラブに相当するものはないのかと踏み込んで聞いてみると、「(ほとんど)ない」とのこと。唯一、似ているものは国会記者クラブ。国会記者証を持たされ、議場にプレスとして入ることができたり、官邸のブリーフィングに出られる。省庁の建物の中にオフィスを置いて、情報を得る形はとっていないのかというと、必要がないという答えだった。省庁の方からプレスリリースを出すなど、何でも今はネットで情報が公開されているからだ、と。

ージャーナリストになるのは難関

 英国で大手メディアのジャーナリストになるのは、かなりの難関だ。サンデー・タイムズでも採用するのは年に2-3人。この枠に入るのは相当難しい。

 そこで、たいていの人が親や親戚、友人・知人のつてをあてにする。今回、サンデー・タイムズやオブザーバーを案内してくれた人もそれぞれ、家族がマスメディアに何らかのコネを持っていたので、最初に足を踏み入れることができた。最近はジャーナリズム学校を通じて入る人もいるという。

ー売る努力

 オブザーバーのオフィスに行く前に、最寄のキングスクロス駅近くの道路の交差点で、「週末版」を宣伝する人が何かを配っていた。見てみたら、ガーディアンとオブザーバーからいくつかの記事を抜粋した、数ページの特別版だった。

 これとともに、小型カードに見えるチラシもくれた。紙が小さく折られているのを開けてみると、クーポンだった。1枚1枚を切り取って、お店に行けば、その日のガーディアンやオブザーバーを安く買える。

 ガーディアンやオブザーバーがいつまで存続するのかは分からないが、無料化した夕刊紙「ロンドン・イブニング・スタンダード」のかつての販促を思い出した。なんだか、涙ぐましい努力であった。

 今回の訪問の次の日曜日、私はオブザーバーを買った。月に一度、「テック・マンスリー」(テクノロジーとサイエンス特集)の小冊子がつくことになったのだ。レイアウト、紙の質、発想、記事の内容など、こちらの頭を大いに刺激してくれる。

 それからほぼ毎日、クーポンを使いながら、ガーディアンやオブザーバーを買い続けている。
by polimediauk | 2013-09-22 18:33 | 新聞業界
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 (ニュースUK社が発行する、サン紙とタイムズ紙)

 今月中旬、英日曜紙サンデー・タイムズと同じく日曜紙のオブザーバーの編集室を知人とともに訪れる機会があった。

 短時間の訪問だったが、生の空気を吸って見えてきたことがいろいろあった。ここで、概要を紹介してみたい。

 その前に、「日曜紙」の意味を簡単に説明してみよう。

 英国の新聞は発行日の違いから、月曜から土曜まで発行される日刊紙(平日版)と、日曜日にのみ発行される日曜紙とに分かれる。キリスト教の教えの影響で日曜は長年「特別な日」と考えられ、両紙はそれぞれ別個に発展してきた。発行元は同じ場合でも、日刊紙と平日紙ではそれぞれ編集長や編集スタッフが別になる。

 4大日刊高級紙デーリー・テレグラフ、タイムズ、ガーディアン、インディペンデントの系列日曜紙は、それぞれサンデー・テレグラフ、サンデー・タイムズ、オブザーバー、インディペンデント・オン・サンデーとなる。

 日曜紙はその週を振り返る解説記事や読み物的記事に加え、テレビ・ラジオの番組予定の小冊子、数々の特集の小冊子、映画のDVDなどがつく(最近は経費節約のためか、DVDがつくことは少ない感じがする。)かなり分厚く読み応えのある日曜紙だけを購入する人も多い。

 一方、月曜から土曜まで発行される平日紙だが、土曜日版は普段の日よりも厚い。日曜紙をほうふつとさせる解説記事、読み物、番組予定の小冊子などがつく。土曜日版は日曜紙のライバルともいってよい。

 近年は、日刊紙、日曜紙、ウエブの編集部門を統合する現象が発生している。理由は経費節約だ。紙の新聞の発行からの収入にたよってきた新聞社の経営は苦しくなっている。

ーサンデー・タイムズ

 米メディア企業ニューズ社(ルパート・マードックが会長)の傘下にあるニューズUK社が発行するのが大衆紙サン、日曜大衆紙サン・オン・サンデー、高級紙タイムズ、日曜高級紙サンデー・タイムズだ。

 この複数の新聞を制作するビルは、ロンドンの地下鉄タワーヒル駅から、ワッピング方向に歩いて数分の場所に建つ。新しいビルだが、周囲は3メートル以上もの高い塀に囲まれていた。

 編集室の案内が始まる前に、テーブルに新聞を広げて紅茶を飲んでいたら、横にあった自動販売機にアジア系女性(50代ぐらい)が来て、チョコレートを買っていた。担当は、投書欄だという。何人でやっているかと聞いたら、2人でと聞いて、びっくりした。ずいぶんと少人数でやっているのだなあ、と。もっと若い人がやっている印象があった。(後で考えると、週に1回の発行だから、少人数でも驚くほどではないのかもしれない。)

 ツアーは午後3時半過ぎに開始。広い、近代的な編集室に大きな画面のコンピューターが乗っている机が整然と並んでいる。ところどころに、新聞が積んである。昔の日本の新聞社の編集室を思い浮かべるとずいぶんと違うが、日本では今はこんな感じのようだ。

 タイムズの編集室は別フロアにあったので、案内されたフロアはサンデー・タイムズのみである。

 ニュース、特集(「フォーカス」)、雑誌(後述)、スポーツ、ビジネス、写真などのコーナーに連れて行ってもらって、その時々、紹介された。それぞれ、紹介された人が立ち上がって、挨拶してくれる。

 特集面のデスクの一人が通りかかり(女性)、今度のトピックは東京五輪で、超ハイテクになりそうだということを書くという。

 ほかにもデスククラスで、小部屋に入っている人が女性。結構、編集幹部で女性が多いというか、目に付いた。たまたまかもしれないが。

 女性記者の一人は、ハイヒールで短距離を走った人の話を書くそうで、自分も一緒に走るのだといってうれしそうに話してくれた。

 声を荒げるような人はおらず、整然と、静かに、編集作業が続いている感じがした。

 個人的に面白かったのは、写真のコーナーである。写真デスク(50-60歳前半ぐらい)の人と少し話した。24年ぐらいサンデー・タイムズで働くという。どれぐらいのスタッフがいるかと聞いてみたら、社員としてはゼロだという。

 昔はたくさんいたそうだが、今は社員としては雇用としてない。その代わり、フリーの人をどんどん使うという。働くほうからすると、不安定である。しかし、これが現実なのだ。サンデー・タイムズに載るといわれて、いやというフリーの人はいないだろう。

 このデスクが、引き出しから取り出したのが分厚い手帳。これはフリーの人などの連絡先が入っている、ずしっとしたものだった。かなり年月がたっているし、使い込まれている。この手帳こそ、彼の財産であり、サンデー・タイムズの財産でもある。

 (余談になるが、テレビや新聞でフリーの人を使う場合は非常に多い。たとえば、3・11の震災とその後の原発事故で、BBCの報道がすごいと日本でほめた人がいるそうだが、BBCの社員が作った場合もあれば、フリーのジャーナリストたちが取材・制作したものをBBC枠で流していたという面もあったと、知人から聞いた。)

 一通り終り、紅茶を飲んでいたテーブルに戻って、紙面を説明してもらった。

 サンデー・タイムズはポジション的にはタイムズの日曜版といってもいいのだが、もともとの誕生の経緯は違う。それでも、前の経営者でカナダ出身のトムソン一家が2つとも買って(サンデー・タイムズは1959年、タイムズは1966年)、ずっと続いてきた。後にマードック氏が買収した(1981年)。

 日刊のタイムズは保守系・伝統的高級紙(ただし、英与党の保守党支持ではない)といってよいだろうと思う。サンデー・タイムズはタイムズよりもちょっとリベラルだろうかー?

 サンデー・タイムズは高級紙・日曜紙の部門では一番売れている新聞で、今は100万部ぐらい。ただ、どんどん部数は落ちている。タイムズは40万部ほどだ。

 サンデー・タイムズに限らず、日曜紙はたくさんの別冊がつく。本紙、付録・別冊として、自動車・運転、スポーツ、ビジネス、求人、それに「ニュースフォーカス」という別冊がある。これとは別に、2つの雑誌がつく。1つは若い女性向け(ファッション、料理、化粧、ゴシップ)と、文化・書評・映画評・テレビ・ラジオ欄の「カルチャー」。「カルチャー」はなかなか、読み応えがある。新聞の文化批評(本、映画、テレビ、ラジオ、演劇、音楽など)は英国知識層にとって、欠かせない存在。これを読むか、内容を知っていることが大切だ。

 サンデー・タイムズでは子供や若い人も読んでもらえるよう、マーケティング戦略を工夫している。その週は動物をテーマにした、ポスターをつけた。これを見ながら、家族で会話をしてもらうことを狙う。日曜は家族が一緒に、ゆったり過ごす日だ。

 英国の高級紙はすべて原則、全頁がカラーだ。サンデー・タイムズもそうだった。

ー相次ぐスクープ

 サンデー・タイムズはスクープ報道でも知られている。一体どうしたら、毎週毎週、スクープを出せるのかというと、政界やさまざまなところに情報のネットワークを張っている。常に仕込んでいるわけである。

 また、政界やビジネス界、そのほかニュースを報道してもらいたい側は、もっとも影響力が強い媒体を常に探している。日曜の朝、もっともインパクトの高い知的媒体はどこだろうか?サンデー・タイムズがトップに来る場合が多い。(でなければ、BBCの午前中のニュース番組。)

 サンデー・タイムズとタイムズがプッシュしている電子化の話では、購読者になると、「タイムズプラス」というクラブに入ることになる。そうすると、ウェブサイトで記事が読める(通常は、無料では読めない)と同時に、サッカーのプレミアリーグの試合の生中継などの情報、たとえばゴール情報などがスマートフォンなど携帯機器に独占的に送られる。

 メンバーになると、文化的イベントにも安く参加できたりする。クラブに入れば「知的エリート層」になった気分が味わえる・・・という風にして、売っているわけである。(次回はオブザーバー紙の訪問記)
by polimediauk | 2013-09-22 06:30 | 新聞業界
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(シブステッド社のウェブサイト)

 今回はノルウェーとオーストリアのメディア企業の取り組みを紹介する。

ーノルウェーの新聞業界とシブステッド社

 ノルウェーは人口約480万人を擁し、220-230の新聞が発行されている。

 メディア企業が会員となるノルウェー・メディアビジネス協会によると、人口の81%が新聞を読み、49%が オンラインで閲覧している。62%が一紙以上の有料購読者だ。ドイツ同様、幅広い層が新聞を購読している国と言える。

 新聞の総発行部数は220万部ほどで、12年は前年比3・8%の減少となった。

 最大の部数を誇るのがアフテンポステン(朝刊紙、約22万部)、これにビージー(VG=Verdes Gang=ヴェルデス・ガング、約18万部)、アフテン(アフテンポステンの夕刊版、約9万6000部)、ダーグブラデット紙(約8万8000部)が続く。

 メディア大手シブステッド社は1839年、クリスチャン・マイケル・シブステッド氏が立ち上げた。1860年に創刊したクリスチーナ・アドレッセブラード紙が、現在のアフテンポステン紙になる。複合メディア企業として7800人の従業員を抱え、29カ国で事業を展開している。

 シブステッド社のCEO、ロルフ・エリク・リスダール氏は12年版年次報告書に、「デジタルへの転換」と題した文章を寄せた。

 このなかで3つの目標を掲げ、「世界的なデジタルメディア企業になる」、「競争力とイノベーションを実行する」に加え、「クラシファイド広告に大きな重点を置く」と記している。クラシファイド広告戦略は市場制覇を最重視し、参画する市場の数を増やし、あくまでナンバーワンの位置を確保してこそ、意義があると強調する。

 戦略の柱となるのがメディアコンテンツの出版(電子版を含む)とオンラインのクラシファイド広告サービスだ。

 シブステッド社はノルウェー国内の新聞・出版、ウェブサイト運営のほか、複数の新聞、通信社、オンラインの金融サイトなどを所有・運営する。

 スウェーデンでは大手紙アフトンブラーデットやスベンスカ・ダーグブラデットを発行している。また、ノルディック地方最大のテレビ・映画会社メトロノーム社も所有する。「20分で読める」無料紙をフランスでは「20 ミニュット」、スペインでは「20ミヌトス」などの現地に適応した言語で発行する20ミン・ホールディング・エージー社も傘下に置いている。

 オンライン・クラシファイド広告分野は8つのサイトを運営中で、そのほか14のサイトについては該当市場で首位になるべく先行投資を続けている。

 8つのサイトとは、(1)フィン・ノー(ノルウェー)(2)ブロケット・セとビトビル・セ(両者ともにスウェーデン) (3)ルボノコワン・エフアール(フランス)(4)はアヌンティス(スペイン)(5) インフォジョブズ・ネット(スペイン)(6)ダンディル・アイイー(アイルランド)(7)スビト・アイティー(イタリア)(8)ウィルハーベン・エーティー(オーストリア)。

 そのうちのいくつかを詳しく見ると、

 (1)のフィン・ノーはノルウェーで首位のクラシファイド広告サイトで、車、不動産、求人などを扱う。携帯電話の利用が増え(利用者の30%を占める)、自動車部門の収入が前年比14%増、不動産部門は12%上昇した。

 (2)のブロケット・セはスウェーデンで最大規模のクラシファイド広告サイト。ビトビル・セは同じくスウェーデンのサイトで、車専用のクラシファイドサイトとして知られる。両者を合わせた収入は前年比12%増。

 (3)のルボノコワン・エフアールは、日に50万の案件が掲載されるフランスの著名サイト。前年比で収入は52%増加した。06年にスタートしたサイトで、当初シブステッド社は50%の株を所有、10年に全株を取得した。

 (4)以降は、市場でトップになるべく成長中のサイトだ。スペインのアヌンティスは複数の専門サイトの総合サイトとなっているが、2%の伸びにとどまった。26%と高率の失業率に悩むスペインで、インフォジョブズ・ネットも苦戦し、収入は12%減少した。

 本格運営に向けて投資段階にあるサイトは、欧州各国(ベルギー、ポルトガル、ハンガリー、ルーマニア、フィンランド、スイス、イタリア)、アジア(フィリピン、インドネシア、マレーシア)、ラテンアメリカ(ブラジル、チリ)、アフリカ(モロッコ)に広がっている。

 12年のシブステッド社の営業収入を見ると、前年に比べ増加しているのはオンラインのクラシファイド広告だけ。クラシファイド広告の営業収入は全体の四分の一を超えるまでに成長しており、同分野に力を入れる戦略もうなずける。

ーオーストリアのラス・メディアも独社を買収

 独アクセル・シュプリンガー社やノルウェーのシブステッド社のように、国境を越えてクラシファイド広告サイトを買収する動きは、他の欧州メディア企業にも広がっている。

 オーストリア最西部フォアアールベルク地方にある複合メディア企業ラス・メディアは、約1500人の従業員を抱え,2つの日刊地方紙フォアアールベルク・ナヒリヒテン(Vorarlberger Nachrichten 、通称VN、発行部数約7万2000部)、ノイエ・フォアアールベルク・ツァイトゥング(約2万5000部)を発行する。

 フォアアールベルクはスイス、ドイツと隣接し約37万人の住人がいるが、この地方のウィーンから西に700キロに位置するシュバルツァッハに本拠を置く。主力はVN紙で、フォアアールベルク州の新聞市場の57%を占め,読者のほとんどが定期購読者だ。

 2紙のほか週刊誌、ネットサイト、ラジオ局、ブロードバンドのインターネット・プロバイダー・サービス、携帯電話サービス「テルコ」(Telco)、地上電話通信サービス、ワイファイネットワーク、デジタル広告ネットワーク、保険契約、印刷工場を提供・運営する。ウィーンとザルツバーグに支店を置く。さまざまなメディアを保有しているため、フォアアールベルクの住民のほとんどが、同社のいずれかのサービスに接している。

 1945年の創刊以来、ラス家が経営を担当し、現在のユージン・ラス社長も同様だ。オーストリアをはじめ、ドイツ、ハンガリー、ルーマニアでも新聞を発行したり、ポータルサイトを運営しており、従業員の3分の1はデジタル部門で働いている。

 デジタル時代を生き抜くため、05年にドイツのクラシファイド広告会社大手クオーカ社を買収し、07年にVMデジタル社を設立した。

 クオーカ社はドイツで18の週刊新聞を手がけ、月約60万部を発行する。そのウェブサイトはドイツのクラシファイド広告サイトの最大手とされる。サイト上に掲載される自動車、不動産、美容グッズなど多種多様な広告は500万件を超える。

 VMデジタル社は、クラシファイド広告、モバイル、電子商取引の領域にあるオンラインメディア企業への投資や買収に特化する目的で設立された子会社。既に10以上のポータルサイトを手中にしている。

 今年6月上旬、タイ・バンコクで開催された世界新聞・ニュース発行者協会による世界新聞大会で、筆者はパネリストの一人として参加していたユージン・ラス社長と話す機会があった。

 ラス社長はスマートフォンを指さして、「この存在で、クラシファイド広告の将来像が大きくと変わった」と語った。「若者はわざわざコンピューターを開けて、モノを売買しない。携帯電話でさっと決済を済ませてしまう。ここに未来がある」

 「収入源として、クラシファイド広告を非常に重視している」と述べ、今後は利用者の好みにあったクラシファイド広告サイトが増え、合わせて大手企業に買収されるケースが増えるだろうと予測する。

 鍵を握るのは「いかに他にはない特徴を出せるか」。その具体例として、ラス・メディアはペット売買専用のウェブサイトをハンガリーで立ち上げ、重機械のクラシファイド広告を専門に扱うサイトをドイツでスタートさせたという。

 「紙の新聞業はオーストリアで十分収益を上げられるビジネスだが、これからはデジタル。しかも携帯機器を利用したアクセスの比重が増える」と見て、積極的なデジタル戦略を展開している。

(ラスメディアについては読売オンラインの拙稿もご参考に。)

ー終わりに

 米英のメディア動向を追っていると、「記事にどうやって課金するか」に議論が集中しがちだ。

 しかし、欧州大陸のメディア企業は新聞発行で蓄積したブランドと資金力を武器に、消費者同士がネット上で物品やサービスを売買するビジネスオンラインのクラシファイド広告に果敢に進出している。

 自分たちが発行する新聞にどのように広告を集めてくるかに頭を悩ませるよりも、利用者もそして広告主も「新聞メディア」という仲介を必要としない未来を察知して、ネット上の売買のためのプラットフォームを提供している。

 新聞を広げて求人広告をながめる習慣は今後、廃れていくかもしれないが、生活にかかわる情報の交換、売買はこれからも続く。ネットの普及で、売り手と買い手が直接、物を売買する行為はさらに盛んになるかもしれない。

 欧州メディアの試みは、これからの新聞と広告との関係を考えるうえで大いなる刺激となりそうだ。(終)

***

 「日経広告研究所報270号(2013年8月号)」に掲載された筆者記事に若干補足した。
by polimediauk | 2013-09-19 17:26 | 新聞業界
 先日、欧州の新聞社の経営をネット広告という観点から、レポートにまとめてみた。以下は「日経広告研究所報270号(2013年8月号)」に掲載されたレポート記事に若干補足したものである。

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ーはじめに

 多くの人々がネット上でニュースを読むようになった。新聞各社は読者と広告主をいかにひきつけるかに知恵を絞っているが、デジタル収入が購読料や広告料といった紙媒体の発行に伴う収入を補うほどには成長していないのが実情で、欧米諸国の新聞社は苦しい戦いを強いられている。

 その打開策として、従来無料だったウェブサイトの閲読に課金制(いわゆる「有料の壁」)を導入するところが増えている。焦点は、新聞社の最大の売り物であるジャーナリズムコンテンツに、「ネット情報は無料」と解釈する利用者がおカネを払うかどうかである。

 欧州大陸の新聞社のなかには、課金制を段階的に導入しつつも、オンラインのクラシファイド(classifieds)広告(日本で言う三行広告に近く、「売ります」「買います」「募集」などの広告を地域やジャンルに分類して掲載する)会社を次々と傘下に収めることによって、デジタル収入を増やそうとする会社も散見される。

 ここでは、国境を越えたデジタル広告業界で収益を拡大しているドイツのアクセル・シュプリンガー社を中心に、ノルウエーのシブステッド社などによるネット広告会社の買収戦略を紹介する。

ー欧州新聞界概観

 まず、世界の新聞市場の中で、欧州の状況を見てみよう。

 世界新聞・ニュース発行者協会(WAN-IFRA)が今年6月上旬発表した最新版「世界の新聞トレンド」(世界70余カ国で発行されている新聞の2012年の数字。業界規模で90%を網羅)発行部数は前年比で0・9%減少した。地域別にみると、アジアは増加したものの、北米(米国・カナダ、6・6%減)、西欧(5・3%減)、東欧(8・2%減)が全体の足を引っ張った。

 2008年と比較すると、欧米諸国と他地域の差はさらに拡大する。北米は13・0%減、西欧は24・8%減、東欧は27・4%減と2ケタのマイナスが並ぶ一方、アジアや中東・北アフリカはそれぞれ10%前後の伸びを記録した。

 広告収入をみると、07年までは伸びていたが、08年から下落に転じた。12年の全市場平均は2%減だったが、08年と比較すると22%の減少だ。紙の新聞の広告媒体としての地位は明らかに揺らいでいる。

 一方、欧州委員会が作成した「新聞出版産業」リポート(12年発行)によると、欧州連合(EU)27カ国内の新聞社は約9000社(07年時点)にのぼる。これは雑誌も含めた出版業の1割に当たり、約30万人(フリーランスは含まず)が新聞社で働いている。

 一日あたりの新聞発行部数は減少傾向にあり、05年の8500万部が09年には7400万部になった。

 欧州諸国を新聞の発行部数の大きさで順に並べると、ドイツ(全体の28%)、英国(21%)、フランス(10%)、スペイン(8%)、イタリア(6%)、オランダ(5%)となる。

 広告収入は07年まで伸びていたが、08年から下落に転じた。欧州新聞発行者協会の調べによると、新聞社収入の約5割を広告料が占める。この割合が85%近くに達する米国に比べて、欧州の新聞社の方が経営のバランスがよいと言われるゆえんだ。

ードイツの新聞業界

 ドイツ連邦共和国(人口約8100万人)では、毎日約2280万部の新聞が発行されている(12年第3四半期、独ABC調べ)。前年同期と比較すると、約82万部(3・5%)の減少だ。

 ドイツ新聞発行者連盟によると、14歳以上の国民の70%が毎日、新聞を情報取得のため利用している。世界的に見ても、新聞がよく読まれている国と言えるだろう。

 この連盟は298の日刊紙(総発行部数約1650万部)と13の週刊新聞(同約100万部)の利益を代表する団体で、地方色が豊かなことが特徴。全体の95%が「地方紙・地域紙」のカテゴリーに入る。

 連盟のリポート(12年11月発表)によると、ドイツの新聞業の収入は、かつて広告が三分の二を占め、残りが販売・購読料だったが、01年から03年にかけての広告不況を経て、現在は比率が逆転した。11年の新聞界の年間収入は85億1000万ユーロと、前年の85億2000万ユーロをわずかに下回り(0.1%減)、広告収入は37億7000万ユーロと前年比で2・2%減少した。

 広告市場全体に占める新聞広告の割合も徐々に小さくなっており、2000年には29%だったが、11年には20%強となった。

ー独社、デジタル企業化を宣言

 アクセル・シュプリンガー社(Axel Springer、以下AS社と略)は1946年、アクセル・シュプリンガー氏が出版業を営む父の後を継いで立ち上げた。欧州で最大手の複合メディア企業の1つで、ドイツ新聞市場では最大、雑誌市場でも国内第3位に入る。約1万3000人の従業員を雇し、活動拠点はドイツのほかハンガリー、ポーランド、チェコ、フランス、ロシア、スペイン、スイスなど34カ国。230以上の新聞・雑誌を発行し、160以上のオンラインサービスを提供、テレビ・ラジオ局も保有している。

 ドイツ国内の日刊紙市場で23・6%のシェアを持ち、著名な新聞としては「ウェルト」(高級紙)、「ビルト」(タブロイド紙)、「ベルリナー・モーゲンポスト」(地方紙)、ポーランドのタブロイド紙「ファクト」など。ドイツ語版米「ローリングストーン」誌も発行している。

 最もよく知られているのがビルト紙で、発行部数は300万―400万部だが、1部を3人で読むと仮定し約1200万人の読者がいると同社は見ている。

 AS社は13年3月に発表した年次報告書の冒頭で「紙メディアは重要」としながらも、目指すのは「第一級のデジタルメディアグループとなることだ」と宣言した。(プレゼン資料もご参考に。)

 12年の年間売上高は33億1000万ユーロ(前年の31億8490万ユーロから3・9%増)にのぼるが、成長のけん引役は同22%増の11億7420万ユーロ(前年は9億6210万ユーロ)を達成したデジタルメディア部門だ。この大半が広告収入で、25・4%増の9億9200万ユーロ(前年は7億9120万ユーロ)を確保した。

 同社は近年、売り上げの半分をデジタル事業収入にする目標を掲げており、12年は同比率が37・2%(前年は約33%)になった。04年当時、総収入の98%は印刷物発行によるもので、デジタル収入は残り2%だったことを考えると、急激な変身を遂げていると言えるだろう。

 12年の紙媒体発行に伴う収入は前年比3・5%減だったが、広告収入は同9・4%増加した。

 AS社のデジタルメディア部門は3本の柱で構成されている。

 1本目は「コンテントポータルとほかのデジタルメディア」だ。収入は前年比27・8%増の3億8740万ユーロ(前年は3億300万ユーロ)。ビルトやウェルト、そのほかウェブサイトからの収入となる。

 2本目が「パフォーマンスマーケティング」で、同4・4%増の4億5660万ユーロ(前年は4億3720万ユーロ)。オンラインマーケティング会社ザノックスなどの収入だ。

 3つ目の「アクセル・シュプリンガー・デジタル・クラシファイド(Axel Springer Digital Classifieds、以下ASDC社)」は12年にAS社が70%、国際的投資会社グローバル・アトランティック社が30%を出資して設立した会社で、各国に散らばる傘下のネット広告企業を統括する。売上高は48・9%増の3億3000万ユーロ(前年は2億2180万ユーロ)。傘下にはフランスが本拠地のセロジャール・コム(不動産のサイト)、求人会社トータル・ジョブズ・グループのステップストーン、ドイツの不動産売買サイト、インモネット・デなどがある。

 最高経営責任者(CEO)のマティアス・デップナー氏によれば、同社のデジタル戦略が成功したのは、オンラインの求人、不動産広告などが貢献した面が大きく、ASDC社を立ち上げて、同部門の成長スピードをさらに上げ、国際的な拡大を目指している。

 クラシファイド広告戦略は、国際化と国内、地方化の2つの方向性を持つ。

 ASDC社は12年10月、ドイツの地域情報サイトであるマイネシュタット・デを運営するアレスクラー・コムを買収した。マイネシュタット・デはドイツの1万を超える市町村向けサイトのポータル(玄関)サイト、月間平均6700万人が訪れる。マイネシュタット・デ社のポータルサイト利用者は、地元ニュースのほか、求職、自動車あるいは不動産の売買、その他クラシファイド広告を目当てにサイトを訪れる。

 ポータルサイトには地域ごとのサイトが設定され、その地域独自の情報(都市・町の基本情報、余暇情報、イベント情報、映画の上演情報、ビジネスディレクトリーなど)が掲載されている。

 AS社によると、買収の目的は地方広告市場への参入だが、マイネシュタット・デ社のブランド力確保と全国レベルでの広告展開の補強という狙いもあった。

 AS社は、ネット専門の広告サイトを次々と買収している。

 09年には欧州内の求人情報サイト大手ステップストーン社を1億1100万ユーロで、2011年には仏のセロジャール社を6億3300万ユーロで買い取った。ステップストーン社は1996年にオスロで創業後、職探しサイトとして欧州内でサービスを拡大させた。ドイツ国内だけで毎月500万人を超える訪問者を誇る。

 自動車専門広告サイト、オートハウス24デ(19.9%株を所有)、不動産サイトのインモネット・デ、書籍、電子本、音楽などさまざまな電子商取引サイトのブエシェル・デ(33・3%株を所有)、金融情報サイト、フィナンゼン・ネットなども傘下に置いている。

 12年のステップストーン社による英トータル・ジョブズ社買収も、欧州内での拡大(国際化)、ネット広告部門の成長という両輪戦略のなかで重要な位置を占める。

 トータル・ジョブズ社は英国でトップの職探しのサイトだ(ユニークユーザーは月間700万人)。1億3200万ユーロで買収し、欧州の求人サイト市場で強固な地歩を築いた。

 AS社は昨年11月、ベルギーの不動産情報サイト、インモウェブを買収。サイトは月間240万人のユニークユーザーを持ち、13万600件余の情報を掲載する。

 同月には、スイスの複合メディア大手リンギエ社と折半出資のリンギエ・アクセル・シュプリンガー・メディアが、ポーランドのグルーパ・ワン・ピーエル社の発行済み株式のうち75%を取得した。ワン・ピーエルはポーランドのインターネット利用者の70%にリーチすると言われる大手サイトだ。リンギエ・アクセル・シュプリンガー・メディアはポーランド、チェコ、スロバキア、セルビアといった東欧や欧州中部で新聞・雑誌事業の展開を目指している。

 AS社は広告主に向けての情報開示にも力を入れている。ウェブサイトの場合、利用者の男女比率、年齢、教育程度、収入に加え、ユニークユーザー数、訪問(ビジット)数、ページ・インプレッションを公開している。(「下」に続く。ノルウェーとオーストリアのメディア、終わりに)
by polimediauk | 2013-09-18 19:26 | 新聞業界
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(食についてのトピックをコラージュした画面 ラ・プレスのサイトより)

 本題に入る前にー。

 2020年の東京でのオリンピックの開催決定、おめでとうございます。

 日本では、原発や震災のことを考えて、「五輪開催どころではない」と考える方がたくさんいらっしゃると思います。おそらく、私も日本に住んでいたら、そう思っていたでしょう。

 しかし、2012年にロンドン五輪を観戦してみて、オリンピックは夢を持たせるという部分があることを実感しました。「フィール・グッド・ファクター」(心地よくさせる要素)が最大の貢献と英国でよく言われたものです。ポジティブな気持ちが生まれる、これが大きいと。

 個人的には、スポーツとお金が結びついていること、潤沢な資金を持つ大都市でなければ開催できなくなっていることなど、どうもぴんと来ない部分がありますーー純粋にスポーツを楽しむことはできないのだろうか、と。もっと社会的によい効果を生み出すために大きな方向転換をしてもいいのではないか、と。

 それでも、自分たちが自身が前向きに将来への歩を進めるための一つの機会として、日本に住む方が奮起してくれればと強く願っています。

 一つのことを(五輪開催)をやるから、別のこと(震災関係でやるべきこと)ができない・・・という風には考えず、全方向で思考・実行されることを願っています。

***

ーネット閲読に課金したカナダ紙 「グローブ&メール」の戦略

 電子版の閲読を有料にするかどうかで、世界中の新聞が悩んでいる。バンコクで6月に開かれた世界新聞大会のセッションの1つ「有料の壁:課金するか、しないか」から、異なる対応を選択したカナダの2紙を紹介したい。

 カナダの有力紙「グローブ&メール(Globe and Mail)」は課金を選択した。

 同紙は「グローブ」として1844年に創刊。1936年に現在の名前になった。トロントを本拠として約32万部を発行している。ジョン・スタックハウス編集長の話は次のようなものだった。

 10年、グローブ&メールはオンライン版の閲読に課金制を導入する方針を決め、12年秋に「グローブ・アンリミテッド」として新しいウェブサイトを開いた。

 そこでは、(1)無料記事、(2)一定数が無料で閲読できるメーター制の対象となる記事、(3)プレミアム・コンテンツとして有料の壁の中でのみアクセスできる記事、などを分けた。

 月に10本までの記事を無料で閲読でき、これ以上は毎月19・9カナダドルの購読料金を払う(最初の月のみ99セント)。紙の新聞の購読者の場合、週に5日以上の契約であればサイト閲読は無料となり、金、土、あるいは土曜日のみを購読契約している場合、料金は4.99ドルだ。

 経済ニュースを強みの一つとするグローブ&メール紙ならではのサービスとして、記事コンテンツだけではなく、利用者が関心を持つ個別の企業のニュースや株価を随時表示する「ダッシュボード」というサービスも作った。

 当初の懸念は「有料制で読者がつくか」、そして「有料の壁に入りたがらない書き手をどう説得するか」だった。

 現在、電子版の登録者43万4000人のうち、有料読者は8万1000人。約20%である。

 名前が知られている記者は自分の記事が課金域にはいることに抵抗があったというが、実際には有料購読者の中でしっかり読まれていることを知って、納得したという。

 スタックハウス編集長は、グローブ&メールが課金制導入の過程で学んだ教訓を次のようにあげた。

 
「良いジャーナリズム(そしてブランド)は読者を増やす」
 「コンテンツを増やす(有料化で、利用者の滞在時間や1回ごとのページビューが増加)」
 「編集室をオープン化する(市場調査、デジタル技術者や広告担当者からの依頼に快く応じる、閲読データの分析、検索エンジンに拾ってもらうための工夫、そして編集室、マーケティング、広告、デジタル部門の幹部らが毎日ミーティングし、その日のサイトの最優先事項を決める、など)
 「購読者の動きに対応する計画を立てる(有料読者が減少した場合の対応、サイトのさらなる最適化や無料コンテンツとの組み合わせ方の工夫など)」
 「無料サービスを利用して有料コンテンツを売り込む(無料の動画で利用者を引き込む、無料のソーシャルメディアを利用する、など)
 ホットなニュースを利用する(ニュース発生時、話題性が高い間に速報、分析、関連記事、動画などをタイミングよく出すことで、有料購読に誘導する)
 「有料購読者にインセンティブを提供する(電子本の提供や編集長による著名人インタビューなどのイベントに招待など)」


 スタックハウス編集長は、電子版が制作費を負担できるほどの収入を得るのにどれくらいかかると思うかという質問に対し、「3年から5年」との見通しを示した。しかし、現在コンテンツの制作には紙の新聞の制作リソースを使っているので「計算は難しい」という留保もつけた。

ータブレット版無料の仏語紙 画面の斬新さで挑む「ラ・プレス」

 カナダのフランス語圏ケベック州モントリオールの「ラ・プレス(La Presse)」はオンラインのタブレット版を無料で提供するサービスを今年4月から始めた。

 同紙は129年前に創刊された中流層向けの日刊紙で、週に170万人の読者を持つ。

 ギー・クレビエ社長は、紙の新聞の将来が不透明なため「行動を起こさざるを得なくなった」と語った。同社の調査では、1998年から11年の間に新聞の購読者は22%減少した。特に減ったのは24歳から34歳の読者層で54%も減っていた。「編集室の雰囲気は暗かった」

 ラ・プレスが目をつけたのはタブレット端末だった。「スマートフォンは普及率が10%に達するまでに7年かかったが、タブレットは2年半」という調査結果に賭けることにした。

 タブレット版開発のために4000万ドルを投資し、そのうち200万ドルは読者の嗜好や広告の効率性についての調査に使われた。2400万ドルが技術者の給与、600万ドルがハードウェア、800万ドルがソフトの開発に使われた。

 現在、欧米諸国ではタブレット版での記事閲覧を有料にするところが多いが、ラ・プレスは無料に決めた。「ネット上でニュースを無料で閲読する風潮は、これからも変わらないだろう」と判断した結果だ。

 今年4月のサービス開始から5週間で20万人の購読者ができた。閲読時間の平均は週日で1日35分、週末は70分という。

 会場を驚かせたのは、新聞社のサイトとしてはユニークな画面の新鮮さ、華麗さだった。一つ一つの画面が、写真と記事の組み合わせ方、色づかい、動画の配置などファッション雑誌のようだった。

 画面を開くと、ニュース、議論、アート、スポーツなどの項目が左手に出る。左に画面をスワイプすると、紙の新聞で言うところの1面になる。上部にいくつかの選択肢が出て、メインのストーリー(本記)、ニュースの中に出てくる人物に焦点を当てた記事、解説、動画などを選ぶようになっている。一つの事件をマルチメディアを使って多角的に読ませる仕組みだ。

 印象的な報道写真を背景にし、右側に解説記事のコラムを埋め込んだ画面では、背景はそのままでコラム内を上下にスワイプさせながら記事を読む。

 アートや食、旅行などのトピックを扱うページでは、横長、縦長などの複数の記事がカラフルなパズルの一片のようになって、横長のタブレット画面を構成する。それぞれの記事を触れると、その記事が大きく画面に広がる。

 会場内から思わずため息が漏れたのは、英国の人気歌手アデルを扱った画面だった。複数の画面に分割されており、その1つでは歌手の新作アルバムの批評記事を掲載。別の部分に触れると、アデルが歌う動画が始まる。この曲が気に入ったら、アマゾンのサイトに飛んで、アルバムを購入出来るようにもなっていた。ラ・プレスの画面からアマゾンのサイトへの移行が非常にスムーズで、「ため息」のような音が会場内から出たのはこのときだった。

 画面の使いやすさに加え、聴衆を感心させたのは、広告の工夫だ。ラ・プレス社では、3年間の準備期間中、どんな広告が最も注目を集め、クリックに結ぶつくかなどについて、「徹底的な調査を行った」という。画面のどの部分に視線が行くのか、目の動きも研究した。

 例えば、2つの口元を写した写真を掲載。あるメーカーの歯磨き粉を使えば、「輝くような白さになる」ことを宣伝するため、利用者が画面の一部に触ると、一方の口元の歯が真っ白になるようにした。「双方向性が鍵」とクレビエ社長は述べた。

 社長は「将来、紙媒体での発行をしなくなっても、十分に収益があがるような質の高い広告を増やしたい」という。質の高い広告を使うことで、広告料を上げるのが戦略だ。今後も無料化を続行するという。

 文章で表現しても、十分には感触が伝わりにくいと思うので、アイパッドをお持ちの方は、一度ダウンロードしてみることをおすすめしたい。

ー読者データの徹底利用

 ウェブサイトを見ていると、自分の年齢、住んでいる地域などに関連した広告が掲載される場合がある。私たちは、こうした現象にもはや驚かなくなった。しかし、メディアが読者について大量の情報を把握しているかを実際に知ったら、おそらく衝撃を受けるだろう。

そんなことを考えさせたのが、4日の世界新聞大会のセッションで、日刊タブロイド紙デーリー・メールを出している英出版社デーリー・メール&ゼネラル・トラストの傘下にあるDMG Mediaのケビン・ビーティーCEOの説明だった。

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(どれほどの情報を収集しているかを示すDMGメディアの説明)

 同社のウェブサイト「メール・オンライン(Mail Online)」の月刊ユニークビジターは4600万人で、世界でも有数の新聞サイトになっている。

 同サイトは、どの記事にいつどれぐらいのアクセスがあるかをリアルタイムでチェックしている。ある記事が最初に読まれたのはいつか、ページビュー別の記事のランキング、1分毎のページビューを表示し、10分毎のページビューのトレンドを線グラフにして分析する「リアルタイム・アナリティクス」画面を作成している。ページビューを上げるために、ランキングの状況によって、適宜、記事の見出しを変更したり、記事内容を変更している。

 同社はサイト利用者についての詳細な個人情報を収集している。例えば、ビーティー氏が紹介した「豊富な顧客データ」の表によれば、利用者の「名前、生年月日、住所、電話番号、電子メールのアドレス、独身か既婚か、収入、持ち家か借家か、職歴、フェイスブックのプロフィール、ツイッターのハンドル名、関心事(例えば映画、ファッション、スポーツ、ニュースなど)、どんなウェブサイトによく行くか、ゲーム好きかどうか、休暇にどこに行ったか、何を買ったか」などの情報を持つ。

 メール・オンラインは広範囲でかつ詳細な情報を次のように取得しているという。

 (1)ウェブサイトへのコメントを残すときにソーシャルメディアのプロフィールを利用させる、(2)ニュースレターを送るときに個人情報を取得する、(3)スマートフォン、旅行などの商品を無料あるいはディスカウント価格で提供するためのコンテストに参加させる、(4)「フラッシュマーケティング」(割引価格や特典がついたクーポンを期間限定でインターネット上で販売する手法。数十時間の間に集客と販売および見込み顧客の情報収集が行われる)サービス「ワウチャー」(Wowcher)などだ。

ーデンマークの試み 利用者データを徹底収集

 4日の広告フォーラムのセッションでは、新聞がオンラインサイトを活用して収入増をはかっている具体例が示された。

 デンマークのユトランド半島北部(北ユラン地域)を拠点にする複合メディア企業ノアユースケ・メディア(Nordjeske Medier)の出版部門の統括責任者ヘンリク・ブラン氏の説明だ。

 同社は、ニュースサイト、ウェブショップ、モバイルサイト、アプリ、電子ペーパー、マーケティングなどの多数のデータ収集地点から利用者の情報を集め、収入増加に役立てている。

 ひとつは「再マーケティング」である。利用者があるサイトを見ていて、そこに出ていた広告が、利用者が移動した先のサイトにも再度出るというやり方だ。クッキー情報(利用者が訪問した回数や前回のアクセス日時など)を利用する。新聞サイト側は、利用者が最初の広告でクリックをしなくても、再度これが掲載されることでクリックした場合に、収入を得ることになる。

 また、「対話マーケティング」という手法では、出版社が発行するニュースレターを通じて、利用者と直接的な関係を持つ。ニュースレターの発行部数は6万部で、これは北ユラン地域の人口の1割にあたる。この6万人について、メディア側は性別、年齢、持ち家か借家かなどの詳細な情報を持ち、その特徴に応じた広告を利用者がサイトに来たときに出していく。利用者それぞれに適応した広告を画面に出すと、クリック率が「5~10%上がる」ので、メディア側の収入が増える仕組みだ。

ー個人情報の収集についてメディアは説明すべき

 英国のDMGメディア社やデンマークのノアユースケ・メディアの例を見ると、ウェブサイトを提供するメディア側が利用者・閲読者の広範囲な個人情報を取得していることが分かる。

 メディア側が個人情報の取得に熱心になるのは、ページビューを増やしたい、あるいは利用者にあった広告を出すことでクリック率を上げたりして、ターゲットを絞った広告をプレミアム広告として、より高い広告掲載量を広告主に要求できる利点があるからだ。

 また、収入とは別に、ネットニュースには読者の興味に合わせた「個人化」が求められる傾向があり、メディア側のニーズと利用者のニーズが一致したかのように見えるかもしれない。

 しかし、私は、メディアからの説明責任が十分に果たされていないように感じる。

 ウェブサイトを訪れると、クッキー情報を利用することの許可を求められることがある。私たちの多くは「許可する」を選ぶのではないだろうか。しかし、あるサイトを見ていて、次のサイトに移動したときにも前のサイトの広告が一緒に移動しており、この広告をクリックしたら、1つ前に訪れた新聞社のサイトに収入が入るというデンマークのメディアのような手法について、どれだけの利用者が自覚的に認識しているだろう。

 取得される情報の大きさについても懸念を覚える。英国のメール・オンラインのどれだけの読者・利用者が、名前から趣味嗜好までの情報を発行会社が把握していることを、十分に理解しているだろう。

 サービスごとに、個人情報の提供は常に同意を求められているはずだが、それでも、収集された情報の総体について想像するのは難しい。

 メディア側は、どんな情報を取得しているのかを一度、利用者に開示するべきではないだろうか。

 一方、デジタル時代の言論空間で、個人の無記名性が減少しつつあるのではないかとも思う。かつて、新 聞は、キオスクやスタンドでふらりと気軽に買えるものであった。買い手は自分の名前や住所などを売り手や作り手に教える必要はなかった。新聞の定期購読・宅配率が日本ほどには高くない多くの国で、紙の新聞の場合は、今でもそうである。

 しかし、ネット時代になって状況は変わった。コンピューターやスマートフォン、タブレットの画面からニュースを読む私たちの多くは、知らないままいわばプライバシー情報を切り売りしながら、さまざまな言論を読んでいる。それ以外の選択肢はなく、この傾向はますます強まりそうだ。この点が、私には居心地が悪い。

 大会開催と同時期に、元米CIA職員の男性が米国家安全保障局(NSA)による大規模な個人情報収集の実態を暴露する報道が出た。「国家の安全保障のためには、監視されても仕方ない」と考える人がいる一方で、「過度の監視は違法だ」と考える人もいる。

 ビッグデータの活用が提唱される中、読者・視聴者の信頼感に基礎を置くメディアの立ち位置はどうなるのだろう。(終)
by polimediauk | 2013-09-08 21:20 | 新聞業界
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(自由のための金のペン賞 のタン・トゥ・アウン氏(右) WAN-IFRA提供)

 月刊誌「Journalism」(8月号)に、6月に開催された世界新聞大会のレポートを書いた。最新号(9月号)が出たので、これに補足したものを2回に分けて出してみたい。

 世界新聞大会については、読売新聞オンラインの「欧州メディアウオッチ」でも何回か書いたが、入りきれない部分がたくさんあった。

***

 世界新聞・ニュース発行者協会(WAN-IFRA)主催の「第65回世界新聞大会、第20回世界編集者フォーラム、第23回世界広告フォーラム」は、6月2日から4日間、バンコクで開かれた。

 「革新、ひらめき、双方向」をテーマにうたった今年のイベントには、66カ国から約1500人のメディア幹部が出席し、90人のスピーカーが自社の取り組みを紹介した。
 
 WAN-IFRAは、世界の新聞社の国際的な組織で、約1万8千の紙媒体、1万5千のオンラインサイト、120カ国以上の3千余の企業が会員となっており、報道の自由、ジャーナリズムの質の向上、メディアビジネスの活性化などを目指して活動している。

ー新聞は世界の25億人に読まれている

 世界の新聞界の現状を見てみよう。

 大会で発表された「世界の新聞トレンド2013年版」(実際の数字は2012年のもの)によると、世界中で約25億人が日刊紙を紙媒体で、6億人が電子版(オンライン)で読んでいる。新聞メディアの総収入は2000億ドル(約20兆円)に上る。トレンド調査は、70カ国以上の新聞メディアのデータを基につくられ、業界の健康状態を判断する目安として広く利用されてきた。

 新聞の世界での総発行部数は、12年で約5億2300万部となり、08年に比べて2%減少した。

 地域ごとの状況には大きな明暗がある。欧州の新聞発行部数は08年に比べて26.5%減、北米(カナダ、米国)でも13%減っている。一方、中東・北アフリカやアジアでは08年から12年にかけてそれぞれ10%ほど増加している。

 広告収入の総額は12年に世界で約934億4600万ドルで、08年に比べて22%減った。08年と12年の比較では北米で42%(非常に大きな数字である)、欧州で22%減っている。逆に、ラテンアメリカでは37・5%、アジアでは6・2%それぞれ増えている。

―「自由のための金のペン賞」はミャンマーの経営者に

 WAN-IFRAが毎年選ぶ「自由のための金のペン賞」(Golden Pen of Freedom)はミャンマーのイレブン・メディア・グループの最高経営責任者タン・トゥ・アウン氏に贈られた。民主化を弾圧するミャンマー政府による検閲に負けず、報道を続けてきたことが評価された。

 同氏がイレブン・メディア・グループを3人で始めたのは13年前。現在は450人のスタッフを抱える。2003年には同グループの編集者が国際無償資金協力援助の悪用に関する記事を書き死刑(後に懲役3年に変更)を宣告され、自身も11年に短期間拘束されたという。

 タン・トゥ・アウン氏は受賞のスピーチで「軍事政権がどんな嫌がらせをしようと、自分のジャーナリズム、倫理、基準は変えなかった」と述べた。

 世界の報道の自由度を調査した「グローバル・プレス・フリーダム・リポート」も大会で発表された。

 これによると、昨年6月から今年5月までに殺害されたジャーナリストは54人(ブラジル6人、カンボジア1人、エジプト1人、メキシコ3人、イラク2人、パキスタン9人、パレスチナ2人、フィリピン1人、ロシア2人、ソマリア10人、南スーダン1人、シリア15人、タンザニア1人)。内戦が続くシリアでの殺害人数が突出している。この中には、大変残念ながら昨年8月に命を落とした、独立系通信社ジャパンプレス所属の山本美香さんが含まれている。

 6月5日、編集者フォーラムは朝のセッションでジャーナリストの安全性をテーマとして取り上げた。

 パキスタンの英字紙「ドーン」のザファル・アッバス編集長は、2008年から13年に85人の同国のジャーナリストが殺害されたと報告した。ジャーナリストたちが誘拐され、拷問を受けたことは何度もあるという。同紙の記者には自宅にまで警備をつけるようにしており、アッバス氏自身にも武装警備員がつくという。出かける際は複数の車を乗り継ぐようにしている。

 しかし、「国内のほとんどのジャーナリストはこのような警備がついていない。カメラに保険がかかっていても、カメラマンには保険がついていないことが多い」。

 メキシコの「エル・シグロ・デ・トレオン」紙のエディトリアル・ディレクター、ジャビエ・ガーザ氏は記者の安全性確保のためにさまざまな手段を講じている、と述べた。同紙は麻薬カルテルの縄張り争いの地となっているラグラ地域をカバーする。この地域では麻薬事件絡みで殺害される人が増えている。2007年には年間89人だったが、昨年は1085人に増加したという。

 エル・シグロ自体も攻撃のターゲットとなった。今年2月には編集スタッフ5人が麻薬組織関係者に誘拐された。現在ではメキシコ連邦警察が同紙のビルの周囲を武装警備している。

 エル・シグロ紙では記者などの安全確保のためにガイドラインを設定している。同紙での「勤務を示すIDを身に着けない、」「紛争場所への到着は、警察による警備体制が敷かれた後にする」、「デスクとの連絡をたやさない」、「銃撃戦の模様は当局による公式情報のみを報じる」、「銃撃戦で特定の犯罪グループの名前を出さない」、「個々の記者名が特定されないよう、ソーシャルメディアは会社の公式アカウントを使う」など。また、犯罪報道は署名記事にせず、数人の記者が輪番で書くようにしている。

 安全性確保の方策を実施しながらも、「新聞がこの地に存在し続ける」ことの重要性をガーザ氏は強調した。「自己検閲はしないようにしている。そんなことをしたら、存在意義を放棄することになる」。

 報道の自由の観点から開催国タイがそ上に上ったのが、刑法第112条によって定められた不敬罪の適用をめぐる問題だ。

 タイでは国王、王妃、王位継承者あるいは摂政に対して中傷する、侮辱するあるいは敵意をあらわにする者は刑法第112条に違反したとして3年から15年の禁固刑に処される。米人権保護団体ヒューマン・ライツ・ウオッチによると、不敬罪の裁判は2005年までは年に4、5件だったが、2006年以降急速に増え、累計で400件を超える。政治的異端者を押さえ込む道具として使われているという懸念が出ている。

 WAN-IFRAが以前から異議を表明してきたのが、タクシン元首相派の雑誌「ボイス・オブ・タクシン」の元編集者ソムヨット・プルエクサカセムスック氏の処遇だ。今年1月、同氏は2010年掲載の記事により、不敬罪で懲役10年、名誉毀損で懲役1年を言い渡された。2011年8月から身柄を拘束され、バンコクの刑務所で受刑中だ。これまでに何度も保釈を求めているが、却下されてきた。

 4日、WAN-IFRAや大会参加メディアの代表者22人はシナワトラ首相と会い、不敬罪の「誤用」による禁錮刑を科されたジャーナリストたちがいるとして、事態の改善を求めた。

―紙媒体の力とは

 紙での新聞の発行もまだまだ捨てたものではないー。そう思わせる事例を、インドの大手メディア企業ABPグループの最高経営責任者D.D.パーカヤスサ氏は、5日、新聞大会のセッションの1つで紹介した。

 同グループはテレビ、ラジオ、新聞、雑誌、学校、デジタルサイト、英語の雑誌などを所有・運営する。印刷物とテレビ・ニュースを総合すると、6000万人以上にリーチしているという。テレビニュースの視聴率ではインド内でトップ(市場の28%)。ベンガル語の新聞市場では64%を占める。

 しかし、悩みは若者層の読者が比較的少ないことだった。そこで、若者向け新聞の創刊を前に潜在的読者層へのインタビュー取材を200回行ったという。その結果、成功に向けての5つの要素が判明した。

1 小型タブロイド版にする
2 幅広い分野のコンテンツ(政治だけではつまらない)―国際ニュース、スポーツ、娯楽、漫画小説、セレブリティー、心を揺さぶるような独自の記事、日曜日には文化や文学―を入れる
3 紙面をカラフルに
4 手ごろな価格
5 「新聞=古い」という固定観念を覆すため、若さを前面に出した広告を打つ

 この5つを考慮して、昨年9月、カルカッタ市で創刊の運びとなったのがタブロイド版のエベラ(Ebela)だ。

 発行から6週間で、発行部数は約27万8000部。読者の30%は30歳以下だ。ほかのベンガル語の新聞は20%相当と推定され、若い層の比率が他紙よりは高い。フェイスブックでは、15万人から「いいね!」を集めたという。(つづく)
by polimediauk | 2013-09-07 19:00 | 新聞業界
 少々前になるが、雑誌「新聞研究」(今年7月号)に世界の新聞のレイアウト(デザイン)について、書いた。以下はそれに補足したものである。

 新聞のレイアウトは、それぞれの地域によって違う。カラフル、アート、遊び心ーそんな言葉が浮かんでくるのが、今回紹介する世界の新聞だ。


***

わかりやすさを考える 
デザインで訴求力を高める
<米SND「世界の最優秀デザイン新聞賞」の巻>


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(ドイツのヴェルト・アム・ゾンターク紙の紙面。赤いコードはこの次の3ページにわたり、続く)

 世界各国でニュースメディアの紙面制作にかかわる約1500人が所属する非営利組織「ニュースデザイン協会」(the Society for News Design=SND、本部米フロリダ州)は、今年2月13日、第34回「世界の最優秀デザイン新聞賞」の受賞者を発表した(デザイン=紙面構成のこと)。

 1979年発足のSNDは毎年、優れた紙面の新聞を選出している。会員の中から推薦で選ばれた20人余が審査員となる。

 審査には5つの基準がある。「ニュース価値」、「情報をいかに編集したか」、「情報をどのように構築したか」、「美的体裁」、「革新性」だ。

 これ以外に、SNDが最優秀作品を選ぶ時の一般的な基準がある。

 新聞賞発表の際のプレスリリースを見てみよう。

 例えば、「文字の字体(フォント)が統一されていること」、「記事の重要度に応じて順列をつけた配置にしていること」、「余白を生かしていること」などが「良い」とみなされる。また、「見た目がすっきりとしていること」が大事な一方で、「インパクトがあって、記事(=伝えようとしていること)を読ませること」はそれ以上に重要となる。

 芸術的なポスターのような美しさばかりでは、情報を伝え、考える機会を提供する新聞の機能が不十分になってしまう。

 実際の受賞作品と審査員評を見てみよう。

―余白を効果的に使う

 今回の受賞者はスウェーデンの日刊紙「ダーゲンス・ニュヘテル」、ドイツの日刊紙「ツァイト」、ドイツの日曜紙「ヴェルト・アム・ゾンターク」、カナダの週刊新聞「グリッド」、そしてデンマークの日刊紙「ポリティケン」だ。

 紙面を実際に見ないと感覚がつかみにくいと思うので、ウェブサイトで具体例をご覧になっていただければ幸いである。

 スウェーデンのダーゲンス・ニュヘテル(上記サイトのスライド2から20)はタブロイド版の日刊紙だ。その紙面の特徴は、審査員によれば「硬派と軟派のトピック、長短の記事が混在していること」。通常の大型ブランケット判よりも紙面のサイズが小型になるが、写真使いの巧みさでまるで大判を広げたような迫力を持つ。

 紙面には記事がたくさん詰まっているものの、余白空間をうまく使い、視覚に訴える(=ビジュアル)要素(写真、イラストなど)が生きているという。

 ドイツのツァイト紙(スライドの22から41)は「長い記事を掲載し、すべての人を満足させようとは思っていない」のが特徴だ。この新聞も紙面の「余白部分の使い方が絶妙」で、重要な要素を引き立たせ、かつ視覚ツールが目に迫ってくる、と審査員は指摘している。

 「それぞれの紙面が美しく、1つの作品となっているが、同時に、深みのある内容が掲載されていると読者が感じるようになっている」。ツァイト紙が最優秀デザイン賞を受賞したのは、今回で6回目となる。

 2011年に創刊されたばかりのカナダ・トロントの週刊新聞グリッド(スライド42-72)の特徴を審査員は「楽しい、知的、大胆、信頼が置ける、洗練されている、若い」と表現した。

 読者の声を紙面に積極的に反映し、地方色を出す工夫として地図や画像で注目の場所を掲載。犬についての特集記事を出した号は、「グリッド(The Grid)」という新聞紙名を犬の怒鳴り声「grr」をもじって「The Grrid」に変えたことも審査員を微笑ませたようだ。

―「こうあるべき」という約束を自ら破る 

 前回に続き、最優秀デザイン新聞賞を受賞したのが、デンマークのポリティケン紙(スライド74から98)。「印象的な写真使い、興味深いトピック、挑戦的な編集、強い遊び心」が決め手となった。中心になるのは記事だが、ビジュアル・ツールを自在に使って、独特のトーンを出した。「挑戦的」、「遊び心」とは「新聞紙面とはこうあるべき」という約束を自ら破ることを意味するようだ。

 紙面いっぱいを手書きの漫画で埋めた実例(以下はその一部を拡大したもの)がある。記事の内容を際立たせるためにツールを柔軟に使う、そのために編集部員がじっくりと想像力を働かせるーこれがポリティケンの秘密のようだ。
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 1つの紙面にいくつもの記事を入れたり、次の面に誘うための導入を入れたりする新聞が多い中、ドイツの日曜紙ヴェルト・アム・ゾンターク(スライド99から122、上記写真掲載)はほとんどの場合、「1つの紙面で1つの記事を原則としている」。また、長い記事が読者を退屈させないよう、作り手が知恵を絞る。

 例えば、余白空間や大きな写真を駆使する。文字のフォントは2つに絞り、統一感を出す。イラストを頻繁に使い、ある面で使ったイラストを発展させた形でほかの面に新鮮な形で使う。08年に最優秀賞を受賞した同紙の紙面構成は「一つの文化の域に達している」と審査員は書いている。(終)
by polimediauk | 2013-09-07 15:17 | 新聞業界