小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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 安倍首相が26日、靖国神社を参拝した。英国のメディアはこれをどう報じたのだろうか?

 私はいま東京滞在中で、ネットで記事を読むぐらいなのだが、若干紹介してみたい。

 英BBCの報道の1つには、「中国が日本の安倍晋三首相の靖国参拝を非難」という見出しがつく(後で更新されるかもしれないが、日本時間の夜中12時頃のバージョンを使った)。

 その後の流れは以下のようだ。

***

 中国と韓国は戦争犯罪者を含む日本の戦没者が祭られている神社を参拝した日本の安倍晋三首相を非難した。

 韓国は「嘆かわしい」行為に激怒すると述べ、中国は参拝を「絶対に受け入れられない」として、日本の大使を呼びつけた。

 日本の隣国は靖国参拝を第2次世界大戦における日本の軍国主義の象徴と見る。

 米国高官らは参拝がこの地域の「緊張感を悪化させた」と述べた。

 中国、日本、韓国は東シナ海の領域をめぐって、いくつもの論争の渦中にある。

 紛争のために、どの国でも国粋主義的感情が熱を帯びている。

―「自省」

 安倍首相による参拝は現役の首相としては2006年の小泉首相以来で、その様子はテレビで生中継された。

 「中国、韓国の人々の気持ちを傷つけるつもりは、全くありません」と安倍首相は述べている。参拝は不戦の行為であったという。

 官邸によれば、首相は私人として参拝しており、政府を代表したわけではないという。

 しかし、その後間もなくして、中国は北京の日本大使を呼び、「強い抗議」の意を伝えた。

 中国のQin Gang外務省広報官は、「日本の指導者の行為を深刻に非難する」と述べた。

 「参拝は2国関係の向上に、大きな政治的な障害をつくる。日本は参拝が引き起こす結果全てに責任を持つべきだ」。

 中国の怒りは韓国や台湾でも繰り返された。台湾のデービッド・リン外務大臣は日本に対し、自省や隣国の感情を傷つけないよう求めた。

 20世紀初期、日本は軍国主義の国家に変貌した。天皇は神としてあがめられた。

 日本は台湾、韓国半島、中国の大部分を占領した。

 第2次世界大戦中、日本の帝国軍はアジア東部や南東部で残虐行為を行った。例えば、韓国の女性を性の奴隷とし、中国で虐殺を行った。

 上記の隣国は日本がその犯罪を償うために十分なことをしていない、歴史をごまかそうとしているとして、頻繁に不満を表明してきた。

―A級戦犯

 靖国神社は19世紀半ば、戦争で亡くなった男性、女性、子供を追悼するためにできた。

 神社にはこうした人々のなきがらが収容されているが、遺族が敬意を払うために向かう象徴的な場所となっている。

 現在、250万人の戦没者を「英霊」と称して祭っている。その多くが民間人だ。

 しかし、第2次大戦の戦犯となった数百人も祭られている。

 いわゆるA級戦犯となる14人――戦争を計画した人々――もこの中に含まれている。1948年、戦争犯罪で処刑された、参謀総長東條英機も入っている。

***

 以下は、上記の記事についている、BBCの特派員ルパート・ウイングフィールドヘイズ氏の分析だ。

―「神社が中国や韓国にとって侮辱的な存在なら、何故安倍首相は参拝したのか

 まず第一に、安倍氏がそうしたかったからだ。首相を深く観察してみると、その心は国粋主義者であり、歴史的修正主義者だ。日本の戦時の指導者たちを有罪とした裁判は「戦勝国による裁き」であったと見ている。

 安倍氏の祖父であった岸信介氏は、戦時内閣に入っており、A級戦犯の疑いで米国に逮捕された。後で釈放された。しかし、中国での日本の戦争犯罪に関わりがあったという汚点は完全には消えなかった。

 次に、安倍氏の支持ベースは自民党の右派勢力であることが参拝の理由だ。東京のテンプル大学のジェフ・キングストン教授によれば、安倍氏は「自分がタフ・ガイ(強い人物)であることを見せている」、中国を怖がっていないことを示しているのだという。こういう姿勢は、安倍氏を支持する人々に受けがいいのだ。

***

 英ガーディアン紙の見出しは「日本の安倍晋三が、戦死者の神社参拝によって隣国との緊張関係を危険にさらす」。

 内容はー:

 日本の首相安倍晋三氏が東京にある、論争がある戦争神社(注:靖国神社のこと)に参拝し、中国を激怒させている。

 丁度1年前に2度目の首相になった安倍氏は、7年前に靖国を参拝した小泉純一郎氏以来初めて現役の首相として参拝した人物となった。

 安倍氏は、アジアでの戦時中の行動についての「自虐的な」罪悪感を日本は終結する必要があると述べたことがある、保守派の人物だ。2006年9月からの最初の首相就任時に、最初の年に参拝しなかったことを残念に思うと発言したことがある。

 26日の参拝は中国と韓国から予想通りの怒りを引き起こした。この2つの国は、靖国が日本の軍国主義の強力な象徴であると見ている。政治家による靖国参拝を、20世紀の前半に中国や韓国半島の一部で行った残虐行為について日本が罪滅ぼしをしていない証拠ととらえている。

 「中国政府は、日本の指導者が中国やその他の犠牲となった国々の人々の感情を踏みにじったこと、歴史的正義への公然とした挑戦であることに強い憤りを表明する・・・そして、日本に対する強い抗議と深刻な非難を表する」とする声明文を中国外務省が発表した。

 中国外務省広報担当Qi Gang氏は、続けて、「日本の指導者の行動に強く抗議し、深刻に非難する。日本の指導者の靖国参拝の本質は、軍事的侵略と植民地支配の歴史を美化するものだ」。

 ロイター通信によれば、韓国は、参拝を日韓の絆に損害を与える、嘆かわしく時代錯誤的動きだと述べた。

 「私たちは、この参拝についての遺憾と怒りを差し控えることができない」と、韓国の文化・スポーツ・観光担当大臣ヨー・ジン・リョン氏が述べている。参拝は時代錯誤的な行為だ、と。

 靖国神社は19世紀後半以降、戦争で亡くなった250万人の日本人に敬意を表している。連合国による裁判でA級戦犯とされた、戦時の指導者数人もこの中に入っている。

 安倍首相は中国や韓国の人々の感情を傷つけるつもりは「まったくない」と述べている。

 「靖国参拝については、戦犯を崇拝するものだと批判する人がいますが、私が安倍政権の発足した今日この日に参拝したのは、御英霊に、政権1年の歩みと、二度と再び戦争の惨禍に人々が苦しむことの無い時代を創るとの決意を、お伝えするためです」。

 「国のために戦い、尊い命を犠牲にされた御英霊に対して、哀悼の誠を捧げるとともに、尊崇の念を表し、御霊安らかなれとご冥福をお祈りしました。貴重な人生を犠牲にした戦死者に経緯を表すために祈り、安らかに眠られるようにと願いました。靖国神社への参拝については、残念ながら、政治問題、外交問題化している現実があります」、「中国、韓国の人々の気持ちを傷つけるつもりは、全くありません」。

 後で発表された声明文で、安倍首相はこう続けた。「靖国神社に参拝した歴代の首相がそうであった様に、人格を尊重し、自由と民主主義を守り、中国、韓国に対して敬意を持って友好関係を築いていきたいと願っています」。

 安倍氏の参拝は日本と隣国との絆にもっと損害を与えると見られている。日本は中国とは東シナ海の戦略的に重要な場所にある複数の島――日本では尖閣といい、中国では釣魚島ーーを巡って、韓国とは、韓国では独島と言われる竹島の領有権を巡って長期の対立状態にある。

 安倍首相は今年、中国と韓国を怒らせてもいる。一般的になっている、日本がアジア本土で侵略戦争を起こしたという見方を疑問視したからだ。日本の隣国はまた、日本の自衛隊(注:原文は「軍隊」)を強くしようという最近の計画や、自衛隊が海外でもっと積極的な活動ができるようにするために日本の平和憲法を改正しようという動きについても、神経質になっている。

 安倍氏の靖国参拝が米国を困惑させたと見る人もいる。米国は日本と隣国との関係の良好化を願っているからだ。

 「(安倍首相は)おそらく、大丈夫だと思っているのだろう。比較的人気があるし、信念をもってそうしている」と上智大学の中野晃一教授(政治学)が話す。「小泉首相の場合は、彼が修正主義者・国粋主義者ではないことをみんなが知っていた。安倍首相はどうなのかと、人々は疑問に思っていた。その答えが、今出た」。

***

 参考:安倍首相談話「恒久平和への誓い」(全文)
by polimediauk | 2013-12-27 01:07 | 日本関連
 12月に入り、英国ではクリスマスから年末年始にかけてのショッピングシーズンが本格的に到来している。

 毎年、この時期にどれぐらいの売り上げが出るかで景気の動向が分かる。

 会計会社デロイト・トウシュ・トーマツの調査(11月25日発表)によると、12月の小売販売総額は前年比3・5%増の403億ポンドに上る見込み。このうちの50億ポンドがネットショッピングによるが、前年比19%増の大きな伸びになるという。「消費者マインドが上向きになっており、財布の紐を緩める人が増えている」(デロイト社の小売部門責任者イアン・ゲッデス氏)。

 消費者のニーズに合わせて、どれほど柔軟に商品を配達できるかで小売店同士の競争が起きると同氏は予測する。例えば午前、午後など配達時間を指定できる(日本のようにさらに細かい時間指定は一般化していない)のは当然としても、自宅や職場の近くに専用の商品受け取り場所を設置することを望む消費者が増えているという。

 全国展開のドラッグストアBoots、ロンドン東部の巨大ショッピングセンター、Westfieldをはじめとする多くの小売店舗は早朝から真夜中近くまで開店時間を延長させている。スーパーのM&Sは朝5時から開いている。日曜日はほとんどのお店が閉まっていた昔と比べると時代は変わったものだ。

 一方、価格比較サイト「uSwitch」によると、親が子供にクリスマス時に買うテクノロジー機器は一家庭で平均234ポンドに上る。16歳以下の子供たちが最も欲しがるのはタブレット(24%)、ビデオゲーム(17%)、スマートフォン (13%)、デジタルカメラ (12%)、電子書籍閲読端末(11%)の順となった。最も人気が低かったのは基本機能のみの携帯電話だった。

 (週刊「エコノミスト」の「ワールドウオッチ」の筆者担当分に補足しました。)
by polimediauk | 2013-12-13 12:46 | 欧州のメディア
 一年ぶりに東京に来てから10日ほどが過ぎた。特定秘密保護法が成立するという大きな動きがあり、非常に興味深い日々が続いている。

 ソーシャルテレビ、テレビの将来関連のイベントなどに出て、日本のテレビの先端は熱いことを実感した。(「ソーシャルテレビ推進会議」の模様を「あやとりブログ」に書いています。ご関心のある方はご覧ください。)

***

 米NSA報道によって米国と欧州諸国の政治層に亀裂が入った話について、週刊東洋経済11月30日号に書く機会があった。少し時間が過ぎたが、筆者記事「核心リポート」に補足したのが以下である。

 この記事の後の状況を、ドイツのニュース週刊誌「シュピーゲル」ロンドン支局長に聞いてみた。その話を読売オンラインの筆者コラムに書いている。あわせて目を通していただけたら、最新の事情が分かると思う。(33)独誌支局長に聞くNSA報道の舞台裏


「スノーデン」で大揺れ 敗戦国ドイツの悲哀

 ドイツのメルケル首相の携帯電話が米国家安全保障局(NSA)によって盗聴されている――そんな衝撃的な疑惑が明らかになったのは10月の独誌の調査によってだった。

 国家権力による監視の記憶が消えない旧東ドイツ出身のメルケルは、これまでも「私の電話は盗聴されているでしょうね」と冗談交じりに語ってはいた。しかし、想定していたのはイランや中国からの不正アクセス。同盟国の米国ではなかった。
 
 6月以降、複数の主要欧米メディアがNSAや英国の通信傍受機関、政府通信本部(GCHQ)による大規模な情報活動を報じている。その情報源は元米中央情報局職員(CIA)のエドワード・スノーデンだ。数百万人単位の米国市民の通話記録を収集していること、大手ネット企業のサーバーへのアクセス、国連や欧州連合(EU)在米代表部での盗聴行為などが暴露され、10月からは欧州各国でのNSAの活動が明るみに出た。

 しかし、ドイツの指導者層が「ショックと怒り」に見舞われ、対米関係が「大きく揺らいだ」と感じたのが、メルケルの携帯電話盗聴だった。

ファイブ・アイズ

 世界の主要国が互いにスパイ行為を行っていることはどの国の首脳陣も認識しているが、外交には表と裏がある。首相クラスの電話の会話を同盟国が盗聴し、かつその事実を知らなかった、とは対外的にも国内的にも二重の恥だ。

 しかも、これまでNSAの情報収集活動に対する批判に対し、なだめるような態度を見せていたのがメルケル首相。6月末に訪独したオバマ米大統領は、情報収集と国民の権利を守るという点について、「米国は適切なバランスを取っている」と述べ、この発言を信じた。8月半ばには「もうスノーデン事件は一段落した」ともらした独政府高官もいたという。

 10月末、米大統領広報官は、メルケルの携帯電話を過去に盗聴していたことを事実上認めた。一方のキャメロン英首相の携帯電話については過去、現在、将来も盗聴していないとし、英独の差が出た。

 そもそも米国は英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドとともに「ファイブ・アイズ」と呼ばれる協定を結び、諜報情報を共有するとともに、互いへのスパイ活動を禁じている。この協定は米英2国間で第2次世界大戦後に始まり、独仏は加盟していない。

 しかし、いうまでもなく諜報活動は各国が行っている。オランド仏大統領はフランス市民へのNSAによる情報収集を「受け入れられない」と非難したものの、フランス自身も国内情報中央局(DCRI)や対外治安総局(DGSE)が巨大な情報収集体制を築いている。

 「正直になろう。こちらも盗聴はしている。誰でもやっている」とベルナール・クシュネル元外務・欧州関係大臣は公共放送ラジオ・フランスの番組(10月22日放送)内で発言した。「米国ほどの(大規模な)収集手法を持っていないだけの違いだ」。世界をまたにかけた高度な情報収集を実行できる米国に「嫉妬している」と付け加えた。

 ドイツにはミニNSAともいえる連邦情報局(BND)がある。現在はNSAからの諜報情報に大きく依存しているが、ゆくゆくはさらに組織を拡大することを独政府は望んでいる。

ドイツへの冷たい対応

 現実主義者のメルケルは、ファイブ・アイズのような関係を米国と持つために、次の一歩を進めている。11月第1週に自国の情報機関幹部らを米国に送ったのだ。

 これは、独米間の「信頼関係の再構築」の一環として、NSAやCIA幹部らにドイツからの情報収集の詳細を聞きだし、「二国間同士でスパイ行為を行わない」との確約取り付けを狙ったものだった。

 しかし、11月12日付けの独シュピーゲル誌が伝えたところでは、ドイツ側は新たな情報を得ないまま帰国したようだ。米側は、スノーデンが持っているドイツ関連情報、スノーデンが業務を離れた5月以降の諜報情報を「ドイツ向けパッケージ」として提供する用意があると持ちかけただけだったという。

  ファイブ・アイズの長い歴史、9・11テロの実行犯らが独ハンブルグで飛行機の運転研修を受けていた、といった要素を考慮しても、実に冷たい対応といえる。

 筆者は11月6日、ロンドンで開催されたイベントで次のようなシーンを目撃した。シュピーゲルのロンドン支局長クリストフ・シューアマンが「ファイブ・アイズのような連携を米国はドイツと交わすべき」と発言したところ、英情報機関MI6の元幹部ナイジェル・インクスターが首を横にふり、「いったいドイツは何を提供できるのか」と繰り返し聞いていた。「何もないのだから、入れてやらない」とでも言いたげであった。

 巨大な情報網を築くNSA、その子分的存在のGCHQ。この米英連携による諜報情報の収集体制に、事実上頼らざるを得ない欧州。この構図はスノーデン後も変わらない。米政府側がどれほど好き勝手に情報を収集していても、欧州は文句を言いながらそれについていかざるを得ない。

 スノーデンは、NSAの強権ぶりと米英と欧州諸国との力関係を、残酷に浮き彫りにしたといえる。

 欧州の米国への不信感はNSA問題の発覚前から存在してきた。その根の1つがグーグルやフェイスブックなど米大手ネット企業の世界的な躍進への反発だ。プライバシー侵害や、不当に自国のビジネスの利益を阻害する行動があれば、これを停止する動きが出る。9月、仏政府はフェイスブックに対し新しくなったプライバシー設定の詳細な説明を求めた。これより先、独新聞界はグーグルとニュースサイトの記事掲載でもめた経緯がある。

 複数紙の報道で米ネット企業の利用者の情報がNSAに流れていると指摘された後で、米国にあるデータセンターを使わないネットの仕組みを作ろうという動きがここ何ヶ月かの間に発生している。独テレコムは「ドイツ製の電子メールサービス」を提供しており、ブラジルやEUは米国のデータセンターを通さないネット空間を作ろうとしている。こうした「ネットの囲い込み」を、「最も解放された通信の場」として発展してきたインターネットを阻害する動きだと英フィナンシャル・タイムズ紙は見る(11月1日付)。「世界を一つにまとめる公的空間を各国のクラウド網の寄せ集めに変形させれば、世界経済は大きな打撃を受ける」と警告する。

 NSA・GCHQによる情報収集活動の暴露報道は、インターネットの将来をも変える可能性がある。
by polimediauk | 2013-12-12 22:27 | 政治とメディア