小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


by polimediauk
プロフィールを見る
画像一覧
更新通知を受け取る

<   2014年 02月 ( 3 )   > この月の画像一覧

c0016826_6281625.jpg
 
       (欧州の媒体の取材に応じるサム・ガーディナー君)

 ロンドンに住む17歳の少年ニック・ダロイシオ君が開発会社Somoなどの協力で作ったアプリが米検索大手ヤフーによって巨額で買収され、世界をあっと言わせたのは、ちょうど1年前の昨年3月だった。

 「巨額で買収された」、「あのヤフーに」という要素よりも、最も注目を集めたのは「17歳の少年が作った」という部分ではなかっただろうか?

 ダロイシオ君が初めてアプリを作り、アップストアで販売を開始したのはそれよりももっと前の12歳のときだったというから、恐れ入る。私自身、「ずいぶんと早熟な少年だなあ、天才に違いない」と思ったものだ。

 昨年秋、雑誌「ワイヤード」がロンドンで開催したイベントでは、米国の高校生ジャック・アンドレイカ少年が、15歳のときにすい臓がんを早期発見する新たな方法を見つけたことを知った。少年の検査方法はこれまでにないほど低価格であるという点でも画期的だったという。

 2人の少年は、インターネットを使って、ああでもない、こうでもないと思いながら自分で知識を身につけていた。プログラミングもネットで学んだという。

 インターネットはいろいろな人にそれまではできなかったことを可能にする。エンパワーメント(力をつける)という意味でのネットの威力を感じたのが、ロンドン北部サム・ガーディナー君の経験だ。

 その一部始終を読売オンラインのコラムに書いたのだけれども、その後、本人に連絡がとれたので、彼自身の言葉を紹介してみたい。

 手短に言えば、ガーディナー君(17歳)は、英国の大手新聞に記事を書くサッカー・ジャーナリストのふりをして、ツイッターで情報を発信していた。フォロワーは2万5000人にまで増えた。

 サッカー選手の移籍やコーチの解任をもっともらしく発信し、本当のサッカー記者や選手からフォローされるようになった。ある選手の移籍の話を完全な思いつきで発信したところ、エジプト、アイルランド、ポーランドなど、世界各国の報道機関が取り上げたこともあった。

 今年1月、偽ジャーナリストであることがばれて、ツイッター側にアカウントを閉鎖されてしまったのだけれど、今度は本名でツイッターを続けている。将来の夢はジャーナリストになることだ。

 以下はガーディナー君との一問一答である。

 ツイッターは最初からプロのサッカー記者のふりをして、始めたの?

 最初は自分自身のアカウントを作った。でも、当時16歳だった自分の意見をまともに聞いてくれる人はいなかった。フォロワーも思うように増えなかった。

 そこで、2012年1月に、サッカー誌の架空のジャーナリスト、ドミニク・ジョーンズとしてアカウントをオープンした。いいところまでいったけど、途中でこの雑誌側にばれちゃった。だから、その後で、サム・ローズという別の架空の記者のアカウントを作ったんだよ。

 ローズ記者名義でのアカウントでは、2万5000人近くのフォロワーができたんだよね。競技場で取材しているとか、噂話をいろいろ発信したようだけど、情報はどうやって集めたの?

 新聞をよく読むよ。ウェブでね。スポーツ・ニュースも良く見ている。サッカーファンや選手、クラブのツイッターも追っている。どのクラブにどんな選手がいて、どんな特徴があるか、詳しく知っているよ。

 自分でもサッカーをやるの?

 よく試合を見に行くし、自分でもプレイする。11歳のときに、トッテナムホットスパーに入団する寸前まで行ったけれど、親が将来は違う道を選んだほうよいとアドバイスしてくれた。

 ツイッターの文章がかなりしっかりしているね。本をたくさん読むの?

 よく読むほうだと思うよ。といっても、小説とかフィクションじゃなくて、ノンフィクション。大学に進学して政治経済を勉強する予定なので、政治物、経済関係、金融破たん、開発途上国への援助問題についての本を読んでいる。

 将来はジャーナリストになりたいそうだが。

 なってみたい。サッカーだけではなくて、政治や経済、社会問題などいろいろなことを書くジャーナリスト志望だ。

 プロのサッカー記者のふりをしていることを、ほかには誰が知っていたの?

 家族や友人など、周囲の人は知っていた。両親は知っていたけど、別に大したことではないと思っていた。どういう意味を持つのか知らなかったんじゃないかな。

 偽のアカウントだということが判明し、記者のアカウントが閉鎖になったよね。この件が英国でニュースになったとき、どう思ったの?周囲の反応は?

 少しは罪悪感を感じたけど、それほどでもなかったかな。

 母は報道されたことを前向きに受け取ったようだ。父は最初、息子が悪いことをしたと思っていたけれど、僕がなぜそうしたのかを説明したら、納得してくれたよ。

 なぜ、サッカー記者のふりをしてツイッターを続けたのか?

 サッカーが大好きだから、できるだけ多くの人に話を聞いてもらいたかった。でもそれ以上に、16歳や17歳でもきちんと意見を持っていることを証明したかった。これはサッカーだけに限らない。常々、いつもそう思っていたんだ。

 自分はしっかりと考えて意見を述べているのに、大人はまともには聞いてくれない。「16歳だ」というだけで、心を閉ざしてしまうんだよ。でも、今回の一件を通じて、10代でも多くの人が注目するような、ニュースになるような情報を発信できることが証明できた。もし発信者が16歳と分かっていたら、受け取り手はまともにしてくれなかったと思う。

***

 テクノロジーの変化で社会の価値観や考え方が変わっている。「10代なのに、xxができたの?」なんて、驚くべき時代ではないのかもしれない。もうすでにツールが、しかも、そのほとんどが無料で提供されているのだから。
by polimediauk | 2014-02-12 06:29 | ネット業界
片方では鍵をかけ、片方で外に出っぱなし?

 日本で特定秘密保護法が成立したが、視点を日本の外にも広げると、いわゆる「NSA報道」とのからみが気になる。

 例えば、昨年6月から、元米中央情報局(CIA)職員エドワード・スノーデン氏のリーク情報により、米英の諜報機関の機密情報が複数の報道機関によって暴露されている。米英はともに核兵器を所有し、世界の紛争地に軍隊を派遣している。そんな国の機密情報が漏れている。いわば、一方では鍵をかけておいて、一方では蛇口が開けっ放しになっている状態だ。果たして日本でかけた鍵でどれだけ機密情報を閉じ込めて置けるのだろうか?そんな疑問を筆者は抱いた。

外国と比べてどちらがよいかは比較しにくい

 特定秘密保護法の成立前、日本の外に住む筆者に対し、この法案を批判して欲しいという主旨の原稿依頼を受けた。諸外国の例はこうで、良い面も悪い面もあるという指摘では済まされず、「反対である」というテーマに沿っての原稿が欲しい、と。

 しかし、筆者の正直な思いとして、(上)で表記した数カ国の機密保持体制と日本の特定秘密保護法を比較し、どちらが報道の自由を担保する面でより良いかの結論を下すのは、かなり困難だ。政治環境、国防についての考え方や実践の度合い、国民の言論の自由についての考え方など、異なる要素がいくつもあるからだ。

反権力を表に出す英国ジャーナリズム

 例えば英国である。日英のジャーナリズムの立ち位置には、大きな違いがある。

 英国では放送機関には公平さが求められるが、新聞界は独自の論調を前に出す。

 報道の原点は「反権力」だ。ある事柄が国家の機密であったとしても、伝える意義があるとジャーナリスト側が信じれば、報道するのが基本姿勢だ。ジャーナリズム機関が報道する場合、記者、編集幹部、経営陣が一丸となり、時には裁判沙汰になっても、(資金が許す限り)報道を続けてゆく。

 法律の規定、解釈の比較だけでは国家機密と報道の関係が明らかにならない。

 最後に、日本で報道機関が果敢な報道を行うための助けになればと思い、ドイツと英国のメディアによるスノーデン事件の報道例を紹介する。

ガーディアンの報道例

 スノーデン元CIA職員からのリーク情報を元にして、米国家安全保障局(NSA)や英政府通信本部(GCHQ)が大規模な情報収集をしていたという報道を率先して行ってたきたのが、英国ではガーディアン、米国ではワシントン・ポスト紙、ドイツのニュース週刊誌「シュピーゲル」であった。

 ガーディアンはNSA報道を始めるにあたり、英政府関係者に事実確認のために連絡を取った後で、何をどのように報道するかを部内で熟考し、独自に報道を開始した。

 昨年6月上旬の初報以降、スノーデン氏のリーク情報を引き渡すようにと何度か政府側から言われたが、ガーディアン側は拒否。7月中旬、官邸関係者がガーディアン本社を訪れ、引渡しを命じた。これを拒否したガーディアン編集長アラン・ラスブリジャー氏は巨額の訴訟費用を投じて引渡しを跳ね返すのではなく、関係者の眼前で情報が入ったコンピューターのハードディスクを破壊する道を選択した。

 編集長者はすでに情報を米ニューヨーク・タイムズ紙や独立サイト、プロパブリカと共有する手配をしていた。これを利用して報道は継続中だ。「報道の自由を憲法の修正第1条で規定する米国のメディアには政府側はおいそれとは手を出さないだろう」という計算もしていたようだ。

 8月末、ロンドン市警はNSA報道に関連する資料を携帯していた、ガーディアンの記者(当時)グレン・グリンワルド氏のパートナーの男性を英ヒースロー空港で数時間に渡り拘束した。このとき、携帯電話、ラップトップなどNSA関連の情報が入っていると思われる電子機器を、テロリズム防止法を使って、男性から没収した。この拘束事件が発生して初めて、ラスブリジャー編集長は前月に起きたハードディスク破壊の顛末を自分のブログで発表した。

 英当局が国家機密をこのような手荒な形でメディアから没収することは非常に珍しい。

 その後も様々な逆風が吹いた。「ガーディアンの報道は国益に損害を与えている」という趣旨の発言がキャメロン首相を含む複数の政治家の口から出るようになった。

 11月には国内及び海外の諜報活動に従事する英国の3大情報機関(国内の諜報活動によって国家の安全を維持するMI5、国外の諜報活動にかかわるMI6、通信傍受を担当するGCHQ)のトップが初めてそろって公に姿を現し、議会の情報安全委員会で証言し、この中でMI6長官が活動情報が報道されたことで「大きな損害があった」と述べるに至った。

編集長はどうやって議員らを振り切ったか

 12月、ラスブリジャー編集長は下院の内務問題委員会に召喚され、1時間にわたり委員ら(議員)から質問を受けた。報道によってテロリストたちに情報が行き渡り、「国益を損なっている」という批判に対し、編集長は「米英政府幹部から損害は発生していないと聞いている」と答え、国家の安全を脅かしているという説には「曖昧な批判で、具体性がない」「証拠が示されていないので、検証ができない」と切り替えした。

 質疑の中で、編集長はいかに同紙が幅広い情報網を通じてリーク内容の真偽やその影響について調査・分析し、注意深く報道をしているかを切々と述べた。独立した新聞の編集長が報道内容について議会の委員会に召喚されるというのはそれだけでも報道にブレーキをかける圧力になり得るが、ラスブリジャー氏はこの機会を使って、ガーディアンが真摯に報道を行っていることをアピールした。

シュピーゲルが経験した逮捕事件

 ハンブルクに本拠地を持つドイツのニュース週刊誌「シュピーゲル」は、調査報道に強い媒体だ。筆者がロンドン支局長クリストフ・シュアーマン氏に聞いたところによると、ドイツ政府がシュピーゲルに対し、NSA報道を規制するような圧力をかけたことはないという。「一般的には権力側からの圧力がないわけではないが、ハードディスクを破壊させるというようなあからさまな行動にはでない」。

 ドイツの報道の自由において大きな分水嶺となる事件(シュピーゲル事件)が発生したのは、1962年だ。シュピーゲルはドイツの軍事力を分析した17ページにわたる記事を掲載したが、これが国家反逆罪などに当たるとして、発行人、編集長、記者たちが逮捕されたという。言論の自由を踏みにじるような展開に抗議する大規模デモが発生し、内閣も崩壊した。

 最終的にシュピーゲル側は無罪となったが、これ以来、「当局はメディアに簡単には手を出さない」という。また、編集部員250人と事実確認を専任とするスタッフ85人を抱えるシュピーゲルが綿密な調査を行った後に報道することも政府は知っており、これが干渉を受けないための抑止策となっているという。

 ドイツでは、憲法第5条で報道の自由が保障されている。報道する側は、個人、国家の安全保障、諜報部員の命などに損害を与えないよう、責任を持って何を報道するかを決めている。また、メディア側も「国家の安全保障に関わる問題を報道するとき、どんな影響があるのかを非常に慎重に編集部内で討議する」という。

 言論の自由、報道の自由を守るには政府当局側と報道機関の間に緊張感と互いに対する敬意も必要という実例をシュピーゲルで見た。

 しっかりした報道が、権力からの無用の圧力をはねかえす抑止力になるーこれは覚えておいた方が良いだろう。(終)

***

「新聞研究」1月号、「メディア展望」1月号などに掲載された筆者記事に補足しました。
by polimediauk | 2014-02-02 19:56 | 政治とメディア
 昨年12月6日、安全保障に関する機密情報を漏洩した人への罰則を強化する特定秘密保護法が参院で可決され、成立した。野党側が審議の延長を求め、国会の外では法案に反対する多くの人が抗議デモに参加する中の可決となった。

 新年を迎えたが、秘密保護法についての議論が一部の国民の間では続いているように思う。

成立してしまった・・・

 私自身がもっとも衝撃を受けたのは、実際にこの法律が成立してしまったことだ。というのは、反対論がかなり強かったように認識しているからだ。

 国民の大部分が関心を持っているような話題ではなかったかもしれないし、そういう意味では反対の声を上げた人は数的に言えば少なかったかもしれない。

 しかし、抗議デモも含め、強い反対論が知識陣の間に出ている中での成立には割り切れないものを感じた。「今回は見送る」という選択肢はなかったのか。

 それと、成立したこと以上に衝撃だったのは、最後の参院での投票の場面をどの大手テレビ局も生中継しなかったことだ。後で、ニコニコ動画でやっていた、衛星放送ではやっていたと聞いたのだけれども、普通の主要チャンネルで放送できなかったのだろうか?

 私は、そのとき、東京にいた。家に衛星テレビはない。チャンネルを回して生中継がないと分かったとき、私はネットで見ようと思った。しかし、このとき、日本にはBBCテレビの24時間ニュース(放送局がネットで生放送、ネットにつながってさえいれば、視聴可能)に相当するものがないことに気づいた。突如、目隠しをされた感じがした。なんだか、絶句の思いだった。

 前に、「アラブの春」を日本のテレビが生では中継せず、「情報が出ない」とネット上で不満を言っている発言をツイッターなどで見た。そのときはなぜそんなことに文句を言っているのか、ぴんとこなかった。

 しかし、あの参院可決の日、生情報を同時に見れないことに気づいたとき、愕然とした。ああ、こういうことだったのかと初めて合点がいった。

 ツイッターで聞いてみると、ヤフーがネットで生中継(投票の様子を映し出す)しているという。早速ヤフーのサイトに行き、見ることができた。

 後から考えると、国会自身による生中継もあったかもしれないので、道はあったわけだけれども、「情報から遮断された」という思いは消えなかった。

 それにしても、なぜ地上派大手チャンネルは可決の場面を生で放映しなかったのだろう?報道番組を作っている人が、自分自身で知りたいとは思わなかっただろうか。自分で知りたかったら、視聴者も知りたいだろうとは思わなかったのだろうか?自分が知りたいと思うかどうかが鍵を握る。

 記者はツイッターでは「生中継」したのだろうか?

 結局のところ、日本は「定時ニュースの国」なのだろうなあと思った。それでは遅すぎるのではないだろうかー?「定時」ではだめだろう・・・。・・そうか、だからヤフーニュースをみんなが見ているのだなあとも実感した。

 特定秘密保護法、欧米の状況、国家機密と報道などについて、「新聞研究」(日本新聞協会の月刊誌)1月号、「メディア展望」(新聞通信調査会発行)1月号などに書き、マスコミ倫理懇談会全国協議会でこのテーマで昨年、話す機会があった。以下は複数の原稿とトークでの話をまとめたものである。

欧州メディアの報道振り

 欧州数紙は、言論の自由を脅かす動きとして秘密法の可決及び可決前夜を報じている。

 見出しを拾ってみると、「日本の内部告発者たちが国家秘密法案によって取り締まりに直面」(英ガーディアン紙、昨年12月5日)、「国家の機密の流布:内部告発の口を封じる、賛否両論の法律を日本が決定」(独シュピーゲル誌、同日6日)、同月6日、「日本が報道の自由を制限:メディアは福島の原発事故を報道し続けられるだろうか」(独フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング紙、同日)、「日本の秘密保護法案がノーベル賞受賞者らに批判される」(仏AFP通信、7日)など。

 それぞれの報道は法案が提出された理由(安倍首相が改憲を含む日本の国防体制の変更を視野に入れている、米国からの要請あるいは圧力、国家の機密保護に特定し法律がなかったなど)を説明し、法案の問題点として「秘密の定義があいまい=際限なく拡大解釈される可能性がある」、「秘密指定に第3者が入らないことで透欠く」、「必要な情報が公開されない傾向がますます強くなる」など、日本のメディアが指摘してきた点を挙げている。

 ガーディアン紙は先の記事の中で、言論の自由の擁護を目的とする非営利組織「国境なき記者団」(本部パリ)の声明文から、法の実施により日本では「調査報道が違法になる」という部分を引用している。

「弱々しい」メディア?

 複数の欧州メディアの記事の中で何度か繰り返されたのが、「飼いならされた」あるいは「弱々しい」日本の組織メディア、という表現だ。

 例えば、先のAFP通信の記事で、こういう個所がある。「政府は2011年、福島で発生した原発事故の重大さについてのニュースの公表を控えた。現在でも国家は大部分に置いて閉じられたドアの後ろで動いている」、「問題なのは、こうした状況が比較的弱い新聞組織によって悪化しているという点だ」。

 英ニュース週刊誌「エコノミスト」のアジア部門のエディター、ドミニク・ジーグラー氏も同様のニュアンスで日本の大手メディアを論評していた。同氏は東京と北京での勤務経験がある。

 2年半前の福島の原発事故発生後、間もなくしてジーグラー氏に取材し、日本のメディアをどう評価するかと聞たところ、「あまりにも政治エスタブリッシュメント(政治家や周囲にいる人々を指す)に対して、慇懃・丁寧すぎる」という。

 大手報道機関が政治エスタブリッシュメントに「礼儀正しい態度をとる事で、本当の問題を国民のために報道しない」という。「これは日本のメディアの大きな弱点だ」。

 特定秘密保護法は報道機関にとって仕事がしにくくなる法律と筆者は考えるが、法律を守る、つまりは「礼儀正しく」あることを最重要視した結果、大事な事柄を報道する努力を停止させることはないだろうか。

欧州諸国の秘密守秘状況

 国家機密の設定や情報公開について欧州各国の状況をざっと見てみる。

 英国(正確には人口の5分の4が住むイングランド・ウェールズ地方での話だが、そのほかの地域の司法権もこれに概ね準じる)では、これまで数回に渡り改正が行われてきた公務秘密法によって国家の機密が保護されている。

 国家の安全や国益に損害を生じさせるスパイ行為(進入禁止地域に足を踏み入れる、国家の敵に役立つ機密情報を記録する、敵に渡すなど)を行った人物には、最長で14年間の禁固刑が下る。

 1990年施行の公務秘密法の下では、公務員として勤務する人物が「安全保障と諜報」、「防衛」、「国際関係」、「犯罪者に有益な情報」、「通信傍受・電話盗聴」、「他国に秘密裏に提供された情報」の6つに該当する情報を漏らした場合、刑法違反となり、最長で2年の禁固刑および(あるいは)無制限の罰金を科される可能性がある。

 公務員ではない個人、あるいは報道機関が公務員から機密情報を受け取り、これを公開することも同法の侵害となる。

 秘密文書であっても、一定期間の経過後には歴史的記録となることから、文書の発生の翌年から20年経過後に開示するようになっている。ただし、安全保障を担当する機関が提供した情報や国家の安全保障に関わる情報については例外として個別に公開年限を定めることがある。

 ドイツでは国家機密を他国に漏えいした場合、刑法によって反逆罪となり一年以下の禁固刑か、特に重大な案件の場合は終身あるいは5年以下の禁固刑が科されることがある。国家機密を非認可の人物や国民一般に漏えい(英語版では「disclosure」)した場合、特に重大な場合は10年以内の禁固刑の対象となり得る(95条)。一方、97条による機密情報の「暴露」(revelation))では5年以内の禁固刑か罰金を科せられる可能性がある。

 独連邦公文書館法の下、国民は作成から30年経過したすべての公的記録資料(機密資料はのぞく)にアクセスする権利を持つ。

 フランスでは国家機密を刑法第413-9条で規定している。

 公文書には自由閲覧原則が採用されているが、内容によって閲覧制限がつく。国防の秘密、外交上の国家の基本的利益、国家の安全保障、公的安全、個人の安全または私的生活の保護を侵害する文書は50年間の閲覧制限の対象となる。

ちなみに、1917年にスパイ防止法を制定した米国では、機密の指定範囲と期間を大統領命令13526号で定めている。現在、機密として指定されているのは軍事計画、外国の政府に関する情報、外交活動、諜報活動、大量破壊兵器の開発など8つの分野だ。機密情報は25年を過ぎると、自動的な指定解除の対象となる(例外もある)。(続く・次回は具体例)

***

参考資料:「諸外国における国家秘密の指定と解除―特定秘密保護法案をめぐって 調査と情報―ISSUE BRIEF-NUMBER 806(2013.10.13) 国立国会図書館調査及び立法考査局行政法務課 今岡直子氏著」
by polimediauk | 2014-02-01 23:18 | 政治とメディア