小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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 急速に展開するウクライナ情勢。ウクライナ南部にあるクリミア自治共和国では11日、ウクライナからの独立を宣言する文書を議会が採択した。16日の住民投票後、クリミアが独立した主権国家になる可能性もあり、目が離せない状態となっている。

 今月上旬、ロシアの英語ニュースのテレビ局「RT」(旧ロシア・トゥデー)のキャスターが、ロシアが親露武装集団をクリミアに配置させたことを番組内で「間違った行為だ」と発言し、大きな注目を集めた。(もしまだこのときの様子を画面で見ていない方は、ユーチューブで確認していただきたい。ほんの1分強の動画だが、また、細かい言葉がつかめなくても、その言いっぷりにはっとするはずである。)

 その後、別のキャスターが今度はプーチン大統領を批判して番組中に辞任宣言。あっという間の展開となった。この二人のキャスターの発言については、「欧州メディアウオッチ」のコラムで書いたので、関心のある方はご覧いただきたい。
 
 報道番組のオンエアーの時間を使って、ロシアがお金を出している放送局で、ロシア政府や大統領を批判を堂々と行うとは、驚きだ。私はこれはものすごいことではないかと思う。

 英国のジャーナリストが、自分が働くメディアでもしスキャンダルが発生したら、これをきっちり書けるか・報道できるかといったらなかなか難しい。

 ほぼ唯一、英国のメディアで自分の組織の上司やスキャンダルを堂々と報道し、これでもか!と言えるほどの厳しい質問を相手に浴びせられるのはBBCぐらいしかないと思う。

 そのBBCでさえ、辞任覚悟でキャスターが本音を言うなんてリスキーなことはしない・・・。

 といっても、今はウクライナ問題で大プロパガンダ合戦が起きている真っ最中であるので、「RTって、すごいね!」とほめる必要はない。先の二人のキャスターもそれぞれの陣営(ロシア・RT側と欧米側)のプロパガンダの一部になっているといえなくもないのだから(本人たちにはその気がなくても、である)。

 この件で情報を探していたら、1980年代に政府に抵抗した旧ソ連のジャーナリストの話が出てきた。以下はBBCのニュースサイトからの紹介である。

 ロシア人とブルガリア人の両親の下に生まれた、ウラジミール・ダンチェフ氏。出身は現在のウズベキスタンの首都タシュケントであった。「ラジオ・モスクワ・ワールド・サービス」というラジオ局の英語ニュースを読むアナウンサーだった。

 彼の友人バシリー・シュトレコフ氏が2006年に語ったところによれば、ダンチェフ氏はソ連共産党のメンバーで、当時のソ連社会に住む、普通の若者と言った感じだった。

 1983年、ソ連がアフガニスタンに軍事介入する事件が起きた。これにダンチェフ氏は義憤を感じたようである。

 あるとき、原稿の文章の中に否定を意味する「not」が入っていないことがあったという。ミスプリントだったが、「ノット」を入れないことで文章の意味が変わることに気づいた。そこで、政府がある事実を否定する「ノット」を入れた原稿を渡されても、故意に「ノット」をいれず、事実を認めたという意味になるように読むようになったという。いつでもミスプリのせいにできるのだ。

 シュトレコフ氏が台所を片付けていたとき、ダンチェフ氏がラジオでニュースを読み上げた。

 「・・・ソ連の占領軍が村を焼き払った」-。シュトレコフ氏はこの部分を聞いて「信じられないほど、驚いた」。

 当時、駐アフガニスタンのロシア軍は、政権のプロパガンダによれば「国際的兵士たち」の「限定的な集団」で、「アフガニスタンの友好的な人々」を助けるためにアフガンにいるはずだった。「占領軍」ではなかったはずだった。

 翌日、シュトレコフ氏は職場でダンチェフ氏に会い、原稿を読み間違えたのかどうかをきいてみた。

 「そんなことはないよ。書いてあるのを読んだだけだ」。これでシュトレコフ氏はダンチェフ氏が故意に「占領軍」と読んだことを確信した。

 1983年5月23日、BBCの国際ニュースのラジオ放送「BBCワールドサービス」がダンチェフ氏の行為を暴露報道。

 これを通信社電で知ったシュトレコフ氏はダンチェフ氏に教えようと、職場を探し回った。ダンチェフ氏はちょうど、生放送中だったー。

 政府にたてをついた行為がばれて、ダンチェフ氏はタシュケントにある精神病院に送られたという。後、ラジオ局に戻ってきた。

 シュトレコフ氏は先の2006年のインタビューの中で、ダンチェフ氏がその後どうなったかは分からないと答えている。

 BBCワールドサービスがダンチェフ氏の行為をばらしたというくだりが、昔から続く情報戦の一端を垣間見せる。
by polimediauk | 2014-03-13 06:34 | 政治とメディア
 グーグルの広告ビジネスを概観する拙稿を「日経広報研究所報」2014年2-3月号に出しています。以下はそれに補足したものです。昨年末時点の情報をもとにしています。)

利用度低い国・地域も

 これからの広告市場とグーグルの位置づけを考えてみたい。

 広告市場の今後を占うキーワードは、デジタル、モバイル、動画の3つとされている。

 プライスウォーターハウスクーパースの予測によると、デジタル広告市場は12年の1002億ドルが17年には1854億ドルに拡大する。そのなかで検索連動広告がデジタル広告に占める割合は、12年の43%が17年には41%に低下するものの、首位を堅持するという。シェアの低下は、広告主の間でモバイルや動画への関心が高まるからだ。

 一方、ディスプレー広告はいかに目立たせるかという悩ましい問題が深刻さを増し、デジタル広告内のシェアは12年の29%が17年には27%に減る。動画広告は12年に前年比33%増を記録し、シェアは3・8%だったが、17年には6・5%に拡大する。もう一つ急拡大するのがモバイル広告で、17年には270億ドルに達し、ネット広告全体の15%(12年は8・3%)を占めるようになる。

 グーグルは全世界の検索エンジン市場で圧倒的な地位にあり、ネット広告分野でも同様の存在感を持つ。これを追いかけているのがフェイスブックだ。

 eMarketerによると、米国内のデジタル広告売上高のうち、グーグルは40%以上を維持しトップを独走している。2位のヤフーが徐々に比率を下げる一方、フェイスブックはシェアを増大させている。もちろんその差は2015年で見ても、グーグルの44・0%に対して、フェイスブックは8・3%とまだまだ大きい。しかしモバイル広告にしぼると、フェイスブックのシェアは2ケタ台にあり、その差が縮まっている。

 グーグルの広告ビジネスの課題をあげるとすれば、クリック単価の下落、パソコンからモバイルへのシフト、検索連動広告のネット広告内での比率低下などであろう。

 また、世界各国・地域での市場開拓も課題の1つだ。昨年10月、英オックスフォード・インターネット・インスティテュートはウェブサイト分析の専門会社米アレクサ社と共同で、世界各国の人気サイト調査の結果を発表した。それによると、グーグルは50カ国で最も訪問者が多いサイトとなった。フェイスブック(36カ国で訪問者が最多)、ユーチューブが続く。ユーチューブはグーグル傘下にあるので、合わせればグーグルが飛びぬけたトップともいえる。

 しかし、グーグルは世界各国でまんべんなく人気があるわけではない。強いのは欧州諸国の大部分、北米、オセアニア地域に限られる。フェイスブックは中東、アフリカ北部で首位に立つことが多い。中国では百度の人気が高い。2010年、グーグルは中国当局による検閲を嫌って市場から撤退している。日本や台湾ではグーグルよりヤフーの人気が高く、ロシアもヤンクスが首位にある。

フェイスブックとグーグル、ツイッターの戦い


 デジタル広告市場を誰が将来牛耳るようになるかについて、米ネット界では議論が沸騰しているが、最強のグーグル、これに続くフェイスブックのどちらが勝つかを米調査会社フォレスター・リサーチのネイト・エリオットが論じている(米サイト、All Things Digital、13年8月21日付)。

 フェイスブックで「いいね!」を押す、ツイッターでつぶやく、米電子商取引サイト、アマゾンでレビューを書き込むー世界中で、こういった行為に興じる人が世界中に存在するようになった。このようなソーシャルメディア上の活動は、利用者がある人(あるいは人々)、製品、モノについての好みや結びつきたいという思いの表れだ。

 自分は何(あるいは誰)について親しみ(アフィニティー=affinity)を感じるのかという情報がネット上に蓄積される一方で、何かを探しているときの情報が検索エンジンによって収集されている。

 エリオットによれば、後者、つまり検索エンジンは人がこれからやろうと思うこと、つまりある意図(インテンション=intension)についての情報を集めていることになる。人が何を欲しがっているのかが分かれば、何を売れるかも分かってくる。「意図についてのデータをターゲット広告に使い、売上げを上げているのがグーグル」だ。

 ところが、「親しみの感情」を貨幣化することは簡単ではない。その証拠は、グーグルは12年で約500億ドルの売上げとなったが、フェイスブックが50億ドル程度だったことだ。

 大きく差がついた1つの理由は、親しみの感情は普通、何かを購買・所有・消費した後で生じるためだとエリオットは説明する。「既に持っているものに対する感情」だからだ。意図についての情報ほどには、短期間の購買行動に結びつかない。親しみの感情をマーケティングに使うためには、ブランド価値を育むなど、中長期の戦略が適しているという。

 エリオットは、グーグルとフェイスブックのどちらが利用者について集めた情報をマーケティングに使う競争で勝つかを分析し、グーグルに分配をあげている。

 その理由は

 (1)「グーグルが広い範囲のアフィニティー・データを収集している」から。グーグルが収集しているのは検索を通じての意図の情報だけではない。傘下のユーチューブには毎月8億人が訪れ、500万人近くがユーチューブで視聴した動画をGメールを使って友人たちと共有している。グーグルの検索表示画面には様々な項目についてのレビュー、ブログ、ツイートなどが出てくる。不人気と言われるグーグル・プラスだが、2億人を超える利用者が自分が気に入った情報を載せている。

 (2)「データに意味を与える点で、グーグルはフェイスブックよりも優れている」。ある情報についてさまざまな文脈を示す情報をあわせて出すーこれは検索エンジンとしてのグーグルの得意とする点だ。グーグルが持つ、ネット広告の配信インフラ、ダブルクリックは過去15年間、検索エンジンの利用者に検索項目に合致した広告を表示してきた。広告主には結果を分析するツールを与え、グーグルが持つデータを活用もさせている。

 (3)「グーグルはブランドのインパクトを構築する広告ツールを持っている」。ブランドを強くアピールできる媒体をグーグルは既に持っている。例えば、ユーチューブで見たい動画が始まる前に流れる広告は100万単位の視聴者に届く。これは通常のテレビ番組並みだ。グーグルと提携するウェブサイトやGメール、ユーチューブの画面の一部にリッチメディアの広告を出す「グーグル・ディスプレイ・ネットワーク」もフェイスブックの同様のサービスと比較すると優れている、とエリオットは書いている。

ツイッターはどこまで伸びる?

 グーグル、フェイスブックと比較すれば規模が大きく異なるツイッターだが、米国の900の広告主を対象として調査したところ、その将来に大きな期待が寄せられていることが分かった(米サイト、Investing、12月13日)。

 米RBC Capital MarketsとAd Ageの調査によると、インターネットのトレンドである「モバイルでの利用」、「テレビに投入されていた広告費がネットに向かっている」がツイッターの広告媒体としての潜在的可能性を高めているという。

 900の広告主の中で、71%が既にマーケティング目的でツイッターを使っており、今後一年間に広告をだすことを考えているという広告主が81%だった。すでにマーケティング用にツイッターを使っている広告主の60%が14年はツイッターを使っての広告・マーケティング費用を増やすと答えている。

 RBC Capital Marketsの分析を担当したマーク・メハーニーは、ツイッターの魅力として「テレビとの相乗効果」を挙げている。

 日本でもテレビ視聴とツイッターを結びつける動きが活発化している。昨年12月10日、テレビの視聴率を記録するビデオリサーチ社は、今年6月から、テレビ番組に関連するつぶやきを番組ごとに集計し、視聴率とは異なる指標を作ることを発表した。

最後に

 本稿では大手広告会社としてのグーグルに焦点を当てたが、広告業で足場を固めながら規模を拡大させる同社は、「検索エンジンの会社」という呼び名では似つかわしくないほどに日々成長を続けている。

 めがね型コンピューター「グーグルグラス」で多くの人の度肝を抜いたかと思うと、新たにロボット事業を発表し、次々と新たな発明を形にしている。技術革新を行う、発明企業という捕らえ方が現在最もふさわしいかもしれない。広告の仕組みばかりか、社会を変えていく企業といえよう。 

 もしアキレス腱があるとすれば、「ソーシャル」だろうか。フェイスブックやツイッターはSNSとして大きく伸びた。情報が膨大になったからこそ、友人、知人のお勧めというフィルターを経た上での情報に価値が高まっている。巨大になりすぎたグーグルに人々が警戒感を持つようになれば、必ずしも安泰とはいえなくなるのではないか。

余談

 私自身は、何もかにもがグーグルでできてしまう世界・・・というのはどうにも奇妙な感じがしてしまう。なんだか、息苦しい。グーグルをしのぐような企業は出てこないものなのだろうか?これだけネットインフラで大きな位置を占めるようになったグーグルは、公共組織化するべきではないのだろうか?

 英誌「エコノミスト」のデータエディターで、ビッグデータについての本を書いた米国人記者ケネス・クキエ氏に、そんな疑問をぶつけてみたことがある。クキエ氏はグーグルが公共組織化するべきとは「全然思わない」。公権力は常に不正を働こうとするからだという。市場の力で動く民間企業のほうがよっぽど信頼できる、とー。公共放送BBCが提供する幅広い娯楽や報道番組を視聴でき、無料診療を原則とする国民健康保険サービスがある英国に住む自分は公共サービスの恩恵を日々享受しており、民間企業の限界を感じてしまうのだけれどもー。

 みなさんは、どう思われるだろう?

 (長い記事の拝読をありがとうございました。)

 (日経広報研究所が出している「日経広報研究所報」 2014年2-3月号掲載分の筆者記事に補足。)
by polimediauk | 2014-03-03 17:48 | ネット業界
 (グーグルの広告ビジネスを概観する原稿を日経広報研究所が出している「日経広報研究所報」 2014年2-3月号に出しています。以下はそれに補足したものです。昨年末時点の情報をもとにしています。)

***

 グーグルが展開するインターネット広告サービスの中核と言えるのが、アドワーズとアドセンスである。

3者がハッピーになれる広告とは

 2000年に開始したアドワーズは、企業などが製品・サービス・ビジネスに関連するキーワードのリストとともに広告を出稿する仕組みだ。グーグルを使って検索する利用者がリストにあるキーワードを入力すると、これに付随した広告が検索表示画面に連動して掲載される。広告の掲載位置や料金は入札で決まり、最も一般的なクリック単価制を採用した場合、利用者が広告をクリックした時だけ料金が発生する。広告主は、掲載先のウェブサイトや地域(国、都道府県など)を指定できるのも利点だ。

 サイトにコードを埋め込むことで、広告を通してサイトを訪れた見込み客数や、実際に購入や申し込みに至ったかどうかといった情報も取得できる。

 アドセンスのサービス開始は03年からで、広告が検索結果画面ではなく、利用者のウェブサイトに関連して出てくる。利用者は、自分が運営するサイトのどこに掲載するかを指定し、広告の種類を選択する。広告コードをサイトに掲載すると、広告主がリアルタイムオークションで広告枠に入札し、最高額の広告が常にサイトに表示されるようになる。大きな広告予算を持たない企業でも気軽に使えるため、参加企業が見る間に増えていった。

 利点として、競合他社や不適切な広告をフィルタリングできる、さまざまな広告フォーマットを選択できる、パフォーマンス報告と分析ツールの「グーグル・アナリティクス」を参考に改善が図れるなど。また、広告主は一度広告コードをウェブに追加すれば自動的に広告が表示されるようになるので、その後は何もしなくても収益が上がるといったメリットもある。

 グーグルについての著作「イン・ザ・プレックス(In the Plex)」を書いたスティーブン・レビーによると、最適な検索結果を出すことを目指すグーグルにとって、アドワーズの仕組みは同社らしいサービスで、「広告の質」を示す最初の試みとなった。「グーグル、広告主、そして特に利用者の3者全員がハッピーになれる」。自分に関係ない広告がサイトに出れば、利用者は不満を持つ、だからグーグルは「無関係な、いらいらさせるような広告を出さない仕組みを構築することを最優先した」としている。

増益基調も、クリック単価下落が悩み

 グーグルの財務状況に目を向けてみたい。12年決算は、売上高が501億7500万ドルで、前年に比べ32%増加した。営業利益は8・7%増加し、127億6000万ドル。純利益も10・3%増の107億3700万ドルだった。

 12年に買収したモトローラ・モビリティを除く売り上げは460億390万ドルで、21%の増加(2014年1月末、売却を発表)。

 10月に発表した13年度第3四半期(7-9月)決算によれば、売上高は前年同期比12%増の148億9300万ドル、純利益は36%増の21億7000万ドルと好調を維持している。
グーグル直営サイトを通じたアドワーズによる収入は22%増の93億9400万ドル(売上高137億7200万ドルの68%)で、アドセンスプログラムを通じたパートナー経由の収入はほぼ横ばいの31億4800ドル(同23%)。それ以外の9%は「その他の事業収入」で、85%増の12億3000万ドル。グーグル・アップスや携帯機器用OS(基本ソフト)のアンドロイドなどだ。

 ペイドクリック(利用者が広告をクリックした数)は前年同期比26%増と、過去一年で最高の伸び率を記録した。半面、クリック単価は8%、前期比でも4%減った。単価が低いモバイル広告への移行が進んでいるのが要因と言われる。

 ペイジCEOによると、グーグルが所有する動画投稿サイト、ユーチューブへのモバイル機器からのトラフィックは、2年前は10%足らずだったが、現在は40%前後に増えた。同社が携帯電話を製造するモトローラを買収したのも、モバイル強化の一環だ。13年2月にはクリック単価の低下に対抗するため、スマートフォン、タブレット、デスクトップの広告を統合するサービスを始めている。

全能か無能か

 グーグルが広告会社として成功した背景に、インターネットの急速な発展・普及といった時代の大きな流れがあったことは否定できない。

 「世界中の情報を記録・整理する」目的を掲げて、検索エンジンに優れたアルゴリズムを採用し、最新技術を駆使したサービスを次々と展開しながら、利用者の情報を絶え間なく収集してきた。

 検索などのサービスを世界規模で拡大した結果、地球上に張り巡らせたネット広告の大きなプラットフォームが出来上がった。個人や中小企業に対し、手持ち資金が少額でもネット上に広告を出せるシステムを提供し、市場を拡大させている。

 米オムニコムと仏ピュブリシスの合併は年間50億ドルの経費削減につながるうえ、メディア購入部門の拡充で広告主への貢献度合いが高まるのがねらいと言われる。

 しかし、この合併策も移り変わりの激しい広告業界で万全の策とは言えないと、英エコノミスト誌は警鐘を鳴らしている。同誌は13年8月3日付記事で広告会社の将来像を分析し、オムニコムの社名をもじって、見出しに合併が「全能か、無能か(Omnipotent, or omnishambles?)」を掲げた。

 「無能」となるかもしれない要素として、エコノミスト誌はグーグルやフェイスブックのようなネット企業はサイト利用者について豊富なデータを持ち、広告主は広告会社を通さずに直接モノやサービスを売りたい顧客に結びつくことを可能にした点を挙げる。

 テレビや新聞といったマスメディア広告が伸び悩むなかで、デジタル広告市場は拡大している。その要因の一つは、広告主が広告を掲載するまでの過程が簡略化され、迅速に出来るようになったことだ。かつて広告出稿には広告代理店が欠かせなかった。広告主とメディア企業の間には広告代理店が介在し、仲介役を果たしていたが、ネット広告市場ではこのスタイルが万能でなくなっている。

 一般企業などが魅力的な広告作品を独自に制作するところまで、広告市場が大きく変わるかどうかは分からない。広告会社は今後も存続するだろうが、巨大化が生き残り策と言えるかどうかは疑問である。

フラットで自由な発想生む職場

 グーグルの広告ビジネスの発想法やイノベーションの生み出し方について、筆者がかつてグーグルの関係者に行ったインタビュー(「週刊東洋経済」2008年9月27日号)の一部を当時の編集者の許可を得て紹介したい。

 相手はグーグルの欧州及び新興市場向け製品とエンジニアリング部門のバイス・プレジデント、ネルソン・マトスで、スイス最大の都市チューリッヒにあるグーグルのエンジニアリング・調査開発センターに勤務していた。

 マトスはグーグルの検索サービスは他社サービスとは「質が違う」と説明、その要因として「カバーする地域の広さ、インデックス数の大きさ、クロール(ソフトウエアなどで自動的にウェブページを収集する作業)の頻繁さ」を挙げた。

 さらに会社組織が「非常にフラット」で「透明性が高い」と強調し、従業員ならだれでもCEOや創業者に連絡をとって議論することが可能で、全ての従業員の達成すべき課題を相互に確認できるといった体制を説明した。このシステムが会社の意思決定を迅速にし、各種サービスの開発などを効率化している。加えて「技術力が高く、起業家精神にあふれる人材を採用する」ことも、イノベーションを生み出す鍵になっている。

 以下はマトスとの一問一答である。

―グーグルのような検索サービスをほかの企業が何故できないのか

 「まずできないだろう。検索エンジンの結果の質が違うからだ。また、それぞれの地域や言語に応じた検索サービスを提供しているーこれほどの規模では他社はできない。第3として、グーグルのインフラの規模の大きさがある。検索エンジン業界で、おそらく最大のインデックスを使っている。どのウェブサイトをどれぐらいの頻度でクロールすればどれぐらいの質の高い検索サービスを提供できるのかを何年にも渡って研究してきた。他の検索エンジンはグーグルほど頻繁にはクロールしていない」

―製品開発やR&Dなどの面で、グーグルはほかの会社とどこが違うか

 「大きな違は会社の構造だ。グーグルは非常にフラットな組織体制を持つ。会社の中のコミュニケーションがスムーズに縦横に進む。会社の最高経営責任者や創業者たちに誰でもが連絡を取れ、議論できる。会社としての意思決定が非常に早く、ものごとが効率的に進む」

 「次に、雇う人材が違う。技術能力が高く、起業家精神にあふれる人を採用する。内部の仕組みも違う。プロジェクトは少人数のチームで手がけるので、良いアイデアが非常に早いスピードで発展して行く」

―エンジニアたちの「効率性」の達成をどのように行っているか

 「グーグルには他社と違う6つの要素がある。(1)「エンジニアのレベルが高い」、(2)「技術上の知識が豊富なだけでなく、起業家精神にあふれ、20%の勤務時間を独自のプロジェクトにつぎ込める人を選ぶ、(3)従業員同士のネガティブな競争をなくするために、透明性を重視する-すべての内部情報に誰でもがアクセスできるようにしている。(4)4半期ごとの達成目標がすべての従業員に設定されている。これは最高経営責任者から秘書職までの全員だ。ネガティブな競争がなくなり、共同で働くことができる」

―それでも競争が起きそうになったらどうするか?

 「良い・悪いなどの主観的決定をするには、データでの裏づけを示す(5)。データで良し悪しを判断できない場合はユーザーに焦点を合わせる。ユーザーにとって良いことかどうか。最後(6番目)の秘訣はスピードだ。ネットの世界ではスピードは本当に重要な要素だ。早く開発して、市場に出し、フィードバックを元にアップデートし、また市場に送り出すー何度も。とにかく早く動くことだ」

―世界中に散らばるエンジニアたちを統括する役目を担うと聞く。どのようにして「管理する」あるいは仕事の動機付けをしているのか?

 「モチベーションを与える必要がない。理由は、エンジニアたちが自分たちでモチベーションを見つけているからだ。グーグルは非常にフラットな組織になっている。そして、非常に技術力に優れた、かつ自分でアイデアを発想・開発できる人を雇う。そうすると、社内で、私がエンジニアのところに行って、『ある言語で検索をしやすくするにはどうしたらいいか考えて欲しい』と言わなくてもいい。エンジニアが私のところにやってきて、「ユーザーが検索ワードを入力する時、途中まで入力しただけで、検索が始まるサービスを作ったらどうか」と言う。私がやるのは、『それはいいアイデアだ。よしやってくれ』と言うだけだ」

 「ただ、折を見て、方向性を示すこともある。世界でどんな技術上の挑戦があるか、すべてのエンジニアに情報を出している。一旦、全体的な方向性を示すと、エンジニアたちは勝手にどんどんアイデアを考え出してゆく」。

 マトスは現在、チューリッヒでの勤務を追え、米サンフランシスコのグーグル・オフィスで働いている。(つづく)
by polimediauk | 2014-03-02 19:06 | ネット業界
 メッセージングアプリ、ワッツアップをフェイスブックが巨額で買収することになり、大きなニュースとなった。グーグルもワッツアップを買収する交渉をしていたといううわさが出た(グーグル側は否定)。

 世界で最も大きいネット広告の市場は米国だが、ここでシェアの奪い合いをしているネット企業といえば、グーグルとフェイスブックが視野に入ってくる。

 グーグルはこのところ、人口知能にかかわるネット企業の買収もしており、「検索大手」という呼び方におさまらない存在になっている。

 昨年末時点での情報を使って、日経広報研究所が出している「日経広報研究所報」(2014年2-3月号)に、グーグルについて書いた。

 以下はそれに若干補足したものである(題名や見出しを少し変えている)。

 グーグルなどのネット企業は刻々と変化をとげているので、3月上旬現在、若干古くなってしまった感さえある分析となったが、グーグルとはどんな会社で、これからどこに行こうとしていくのかを考える1つの「まとめ」あるいは「概観」として見てくださると幸いである。

 長いので何回かに分けている。また、事実の間違いがあったらご教示願いたい。

米オムニコムと仏ピュブリシスは合併を選択したが

 2013年7月、広告市場で売り上げ世界第2位の米オムニコムと3位の仏ピュブリシスは、合併することで合意したと発表した。これが実現するとトップの英WPPをしのぐ世界最大の広告会社が誕生することになるだけに、世界的な注目を集めた。

 オムニコム(12年の売上高約142億㌦、米eMarketer社調べ)とピュブリシス(84億㌦、同)を合わせた売上高は226億㌦だが、米大手インターネット検索会社のグーグルはこれをはるかに上回る広告収入を上げている。

 同社の年間売上高は500億㌦を超える。12年に買収した通信機器メーカー、モトローラ・モビリティの売り上げ(約41億㌦)を引いても、460億㌦に達し、その95%がグーグルサイトや傘下サイトからの広告収入だ(注:今年1月末、中国のパソコン大手レノボ・グループがモトローラを29億1000万ドルで買収することに合意したと発表した)。

 検索市場での独占的な地位や矢継ぎ早の新サービスに目を奪われがちだが、グーグルは堂々たる大手広告企業と言える。

 英プライスウォーターハウスクーパースの調査(「Global Entertainment and Media Outlook 2013-2017」)によれば、12年の世界広告市場でデジタル広告のシェアは20%だったが、17年には29%まで拡大する。その成長を支える最大の要因は検索機能である。

 グーグルは日々30億を超える検索要求に対応しており、世界中に11億人の利用者を抱える米交流サイト、フェイスブックとデジタル広告市場で激しい競争を展開している。

 今のところグーグルが圧倒的に優位な立場にあるが、2億人の利用者を持つ短文投稿サービス、米ツイッターや1億5000万人が使う写真投稿サービス、米インスタグラムが後を追っている。他のテクノロジー企業にも追いつかれないよう、グーグルには常に先を行く戦略が求められる。

 オムニコムとピュブリシスの合併は規模の拡大によって広告市場での影響力強化を狙った戦略と言えるが、欧米メディアの報道からは「大きさで勝負するのは古い発想だ」「大きな組織は小回りがきかない」「重視すべきはテクノロジーへの投資だ」といった声が聞こえて来る。多くの人々がインターネットへの依存度を高めており、各利用者の行動を数値で計測できるネット広告の重要性も高まっている。このような現状を踏まえた発言と言えるだろう。

 グーグルはどのように広告ビジネスを立ち上げ、インターネットおよび広告業界に影響を与えているのか、今後の展望を含めて考えてみたい(文中敬称略)。

二人の出会いとページランク


 まず、グーグルの成り立ちと基本的なビジネス構造を振り返る(あまりにも有名な話だけれども)。

 1995年、米スタンフォード大学で博士号取得を目指して勉強していた二人の青年ラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンが出会ったのが発端だ。二人はともに22歳だったが、翌年グーグルの前身となる検索エンジン、バックラブを開発する。

 98年には非公開会社としてグーグルを創業し、2004年に株式公開した。11年からは創業者の一人ペイジが最高経営責任者が、エリック・シュミットが会長を務めている。シュミットはペイジやブリンより18歳年上で、01年にグーグルのCEOに就任する前は米ソフト開発企業ノベル(Novell)のCEOだった。もう一人の創業者ブリンは現在、特別プロジェクトを担当している。

 グーグル検索の中核は「ページランク」と呼ぶアルゴリズムで、常に更新されている。検索要求に最も合致する結果を出すために、該当するウェブサイトと他サイトのリンクに注目、その他ウェブサイトの訪問頻度、検索キーワードの位置、サイトの誕生年なども考慮しているという。

 同社サイトなどによると、以下のような過程を経て検索結果が表示される。

 グーグルは60兆を超えるウェブサイトを巡回し、サイトのページ同士のリンクに注目する。内容やその他情報を取得し、インデックスを作る。インデックス情報は1億ギガバイトにも上る(13年12月現在)。

 利用者が検索キーワードを入力すると、独自のアルゴリズムによって最適な結果が表示されるシステムが働く。検索キーワードに直接関係ないのに意図的に検索結果に表示されるような操作をするウェブページもあるが、これらは自動的にはじかれる仕組みができている。ただ、すべてを機械で取り除くことは不可能なので、同社の技術者が処理する場合もある。

 筆者がグーグルサイトで検索結果の表示過程を閲覧し最後の行まで読み終わったとき、閲覧時間内にグーグルに何件の検索要求があったかが表示された。閲覧に要したおよそ6分間に約1500万件の要求があったと知って、検索数の巨大さを改めて実感した。

世界の検索市場とグーグル

 インターネット上にはさまざまな情報が飛び交っているが、グーグル創業時、必要な情報を探し出すガイド役となる検索エンジンの重要性を認識していた人はそれほど多くなかったろう。今では誰でも、検索エンジンの重要性を知っている。

 グーグルはインターネット検索市場の最大手だ。米コムスコア社の12年調査(米ウェブサイト「サーチエンジン・ランド記事)によると、同年12月時点で、世界の検索市場の65・2%をグーグルが占める。これに続くのは中国の百度(8・2%)、米ヤフー(4・9%)、ロシアのヤンデックス(2・8%)、マイクロソフト(2・5%)で、グーグルの独走状態と言える。

 日本国内はどうか。朝日新聞社の調べによると(13年10月13日付)、日本の検索エンジンのシェアは05年ではヤフー!ジャパン(53%)、グーグル(30%)、マイクロソフト(10%)、その他(7%)の順だったが、12年はグーグルが85%(ヤフー経由も含む)と圧倒的な地位を占める。

 ヤフー!ジャパンは01年にグーグルと提携し、グーグルの検索技術を採用したが、04年いったんは自社の検索技術に変更。10年に再度、グーグルの検索技術を採用した。(つづく)
by polimediauk | 2014-03-02 01:03 | ネット業界