小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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(ニュースエクスチェンジのフェイスブックのサイトから)

月刊誌「メディア展望」3月号の筆者原稿に補足しました。)

 テロ組織がネット上に出す動画をメディアはどのように取り扱うべきだろうか。

 イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(自称の組織名であり、国ではない)による日本人2人の拘束・殺害事件では、日本のさまざまなメディアが、少なくとも最初の頃は動画をほぼそのまま流していたように見受けられた。筆者は疑問を抱いた。こんなことをしていいのだろうかー?「垂れ流し」になってはいないだろうか?「テロ組織のプロパガンダになるかもしれないが、どうするか」という問いをした上での公開だったのだろうか、と。 

 一連の人質殺害動画には大きなニュース価値があり、報道すれば多くの読者・視聴者を集めることができる。しかし、メディアがテロ組織のメッセージをそのまま伝えれば、その宣伝活動に不本意にも加担してしまう危険性がある。

 さて、どうするべきか?

 昨年末、チェコ・プラハで国際ニュース会議「ニュース・エクスチェンジ」が開催され、ここで議論されたテーマの一つが、「テロ組織によるメッセージをテレビがどのように伝えるべきか」だった。

 会議は欧州放送連合傘下の「ユーロビジョン」が運営し、世界のテレビ局大手の編集幹部や学生、ジャーナリストら約500人が参加した。

 会議の特別セッション(「『イスラム国の上昇』:報道の教訓は何か」)で、欧米メディアの編集幹部が「イスラム国」による動画をどのように捉え、処理してきたかなどを話し合った。

 本稿ではセッション内の主要な発言を紹介するとともに、今年2月3日に公開された、ヨルダン人パイロットの焼殺動画の米国での放送状況についても記したい。

メディアは「共犯者」か?

 セッションに参加した国のいくつかは、イスラム教過激主義グループによって国民が拘束され、政府との交渉の結果(あるいは交渉をしないことで)、人質となった人物が殺害された事件をこれまでにも経験済みだ。

 しかし、改めて大きな分水嶺となったのが、昨年8月、「イスラム国」のメンバーによって米国人ジャーナリスト、ジェームズ・フォーリー氏が殺害され、その斬首場面が入った動画が公開された時だった。その後も欧米人では5-6人以上、非欧米人では数十人が同様の手法で殺害され、動画がネット公開されている。

 セッションの司会者マシュー・アムロイワラ氏(英BBC)によると、フォーリー氏の動画公開後、BBCは「静止画と音声のみを流す。動画は見せない」方針を決めた。これが世界中の多くの放送局で1つの型となったという。一方、動画はグループの活動を広める役割を持つプロパガンダでもあり、「メディアは報道することによってプロパガンダの共謀者となった」という見方があると同氏は指摘した。

 英民放「チャンネル・ファイブ」のニュース部門編集長クリスティーナ・ニコレッティ・スクワイヤーズ氏は番組内で使ったのは「静止画のみだった。理由は動画を出すとプロパガンダに加担すると思ったからだ」と述べた。また、「オレンジ色のつなぎ服姿で砂漠にひざまずき、後に殺されるという、人間として不名誉な姿を映すべきではないと思った。さらに、午後5時放送のニュースを見る視聴者のニーズにも合っていない」。

 米CNNインターナショナルのニュース幹部トニー・マドックス氏は「何をどう見せるかは、その時々によって変わって来る」とし、「犠牲者の名誉を考え、映像を番組内で出す割合がだんだん減少した。最後(4人目の英国人人質)には映像をまったく出さなかった。言葉で説明するだけで意味が通じるようになっていたからだ」。

 中東カタールに拠点を置く衛星放送アルジャジーラのアラビア語版のニュース部門ディレクター、イブラヒム・ヘラル氏は「音声にも強いメッセージが込められている」点を指摘した。

 フランス語、英語、アラビア語で放送する24時間のテレビニュース局、フランス24は「静止画のみを映した」(フランス24英語サービスの編集幹部フランソワ・シャンピー=ウストン氏)。部内では「イスラム国」の呼称(「ダーイシュ」あるいは「ISIL」という表現を選択)、殺害行為の表現(殺害=マーダー=なのかあるいは「暗殺」=アサシネーション=なのか)についても話し合いがあったという。

 人質の「名誉・尊厳に考慮して」画面に映さないようにするという見方には会場内から反論も出た。「不適切な部分を取り除いてニュースを報道するというやり方には問題があるのではないか」、「貧困や紛争などで苦しむ世界中の人々の姿をメディアは報道している。犠牲者が西欧人ジャーナリストとなった途端に、報道に臆病さが出るのはおかしい」(南アフリカの地方テレビ局の男性)。

 「ジャーナリストには現地の様子を伝えるという使命がある。たとえ不名誉な格好であったとしても、映すべきだ」(ジャーナリストの安全性確保のために情報を提供する組織「INSI」の女性)。

 「静止画を映すだけでも『イスラム国』に協力しているとする批判にはどう答えるか」と司会者が聞く。CNNのマドックス氏は見せる意義があると主張する。「一連の動画を見た上で政治家が政策を決めている。国民は、どうやってある政策が決まっていったのかを知る必要がある。報道すること自体に大きな意義がある」。

 一方、アルジャジーラのヘラル氏は「静止画かあるいは動画かというのは瑣末な話だ」と発言した。

 同氏はアルジャジーラが「イスラム国」メンバーとこれまでもにさまざまな動画の放送について情報交換をしてきたことを説明。自分自身もシリアを訪れ、戦闘現場を視察してきたという。アルジャジーラは「イスラム国」の「脅しやプロパガンダ性について深く、広く見聞してきた」。昨夏以来の一連の動画によって、「イスラム国」側は「残酷さを見せびらかし、新たな戦士の採用をもくろんでいる」、「私たちはこれを許さない。動画は人間性への脅しだ」。

 アルジャジーラとしては「イスラム国」の動画の目的を「成就させないようにしたい。動画全部を流すことでいかにこの組織が獣のような存在であるかを示せるのなら、そうする」。

 ヘラル氏は続けて「イスラム国」の狙いは「世界中のメディアが自分たちを怖い、悪魔のような存在として映し出すことだ」。ある調査によれば、アラブ世界で「イスラム国」を強く支持している人は10%、少し支持が30%、反対派が60%。「この程度の支持率を持つグループに力を与えてはいけない」。

 残酷動画をテレビで放送しないで欲しいと家族が頼んだらどうなるか、と司会者が会場に問いかける。「家族の声は考慮する。耳を傾ける。しかし、最終的には私たちが報道に値すると考えたニュースは報道するだろう」(BBC勤務の女性)。

 紛争地での取材に危険性が高まると、記者を送れないという事態が発生する。

 フランス24では近年、派遣先のマリで記者2人を殺害されている。同局のシャンピー=ウストン氏は「自局の記者を送れないほど危険な場所にいるフリーランスのジャーナリストには仕事を依頼しない。自分たちが人を送れない場所に他の人が行くことを奨励するべきではないと考えるからだ」。

 こうした報道状況は「非常に不満足だ。記者は紛争地に行って取材したがる。しかし、安全性が保証できないので、許可しない」。代わりに頼るのは通信社の報道だという。

 司会者のアムロイワラ氏がアルジャジーラのヘラル氏に聞く。「何をどのように報道しても、テロ組織の広告・宣伝を大手メディアが買っている状態になる、という人がいるが、どう思うか」。ヘラル氏は「確かにそういう面がある」。アルジャージラでは「イスラム国」と一定の距離を保ちながら、情報ルートを維持し続けているという。「時には動画のすべてあるいは一部を放送したほうがいい場合もある。そうすれば、視聴者はネットに行って動画を探す必要がなくなる。放送局で出せば、こちらの編集上の文脈で出せる」。

米フォックスがパイロットの動画を放送

 2月3日、残酷度において一連の殺害動画を上回る動画が公開された。「イスラム国」グループに拘束されていたヨルダン人のパイロットが焼き殺される様子を映した、約22分の動画である。

 多くの大手放送局が動画の一部のみあるいは静止画数枚、または殺害の様子を言葉で説明して報道を行ったが、パイロットの国ヨルダンではそのほぼ全部が繰り返し放送された。

 米フォックス・ニュースはアンカー、ブレット・ベイヤーが動画を番組内で取り上げた後、その全貌をウェブサイトに掲載した。動画には冒頭に極端にどぎつい内容であるという警告が出た。同局の編集幹部は「ISIS=「イスラム国」の別の呼称=の残虐さを見る選択肢」を視聴者に与えたと説明した。「見ることも見ないことも選択できる」。

 フォックス・ニュースはテロ組織に発言の場を与えたということで大きな非難との的となった。

 一方、CNNは動画の内容を言葉で伝えたのみだった。その編集方針について同氏は同局の番組内で司会者の質問に答えている。「その時々によって編集方針は変わる」という。静止画で見せたフォーリー氏の場合は「こんなことは起きたのは初めてであったし、何が起きたのかを視聴者に伝える必要があった。後藤健二さんの場合も殺害されたことを伝えたかった。今回はあまりにも残酷な動画でいかなる編集上の理由からも放送することを正当化できなかった」という。「言葉で説明できる。見せることで何も得ることがない」。

 「パイロットが亡くなる前の映像でもそうか?」と聞かれ、人質となって殺害場所に向かう姿を映すのは「人間としての尊厳を冒す」と答えている。

 司会者の1人が「どこまで何を出すかの線をどこで引くか」と聞いた。「絶対にあれをしない、これをしないとは言えない。ただ、何を出すかはCNNの編集部で決めるべき」、(動画を出した「イスラム国」など)「他者に設定されるべきではない」とし、その都度の決定について「視聴者に説明して行きたい」と語った。

 ネットに行けばさまざまな情報が出ている。一つの編集判断としてあえて動画も静止画も見せないというCNNの判断は貴重に思えた。(終)

***

 上で紹介した、テレビジャーナリズムの国際会議「ニュースエクスチェンジ」については、雑誌「GALAC」3月号にも書いている。良かったら、ご覧ください。

【海外メディア最新事情 スペシャルレポート】
ネット社会に報道機関の存在意義はあるか
by polimediauk | 2015-04-06 01:57 | 政治とメディア
月刊「新聞研究」3月号掲載の筆者原稿に補足しました。)

 イスラム教スンニ派過激主義組織「イスラム国」(イスラミック・ステート:IS、通常の意味の「国」ではない)による2人の日本人(湯川遥菜さんと後藤健二さん)の拘束事件と最悪の結末は筆者にとって大きな衝撃だった。

 1月20日、「イスラム国」グループは最初の動画をユーチューブに投稿し、身代金2億ドルの支払いを要求した。この動画を初めて英国のテレビで見たときのことを良く覚えている。オレンジ色のつなぎ服に身を包んだ後藤さんと湯川さんが砂漠に並んでいた。私は胃をぎゅっと誰かにつかまれた思いがした。

英国の体験

 英国はこれまでにもイスラム教過激主義グループが中東諸国にいる英国人を拘束し、身代金や政治目的での交換条件を要求する事件に何度も遭遇してきた。政府は身代金を支払わない方針を崩さず、「テロリストとは交渉しない」姿勢を(少なくとも建前上は)維持してきた。

 筆者が特に忘れられないのは2004年、イラクでジハード・グループに拘束された英国人ケン・ビグリー氏や、2005年、慈善団体で働いていたマーガレット・ハッサンさんのケースである。

 仕事でイラクにいたビグリー氏はオレンジ色のつなぎ姿で動画に登場し、「助けて欲しい」と訴えた。ハッサン氏も動画を撮影され、イラクにいる英軍の撤退を求めた。両者ともに拘束グループに命令された言葉を発しているのは明らかだった。

 家族や知人、友人、著名人を使った解放への訴えにもかかわらず、ビグリー氏は拘束から1ヶ月で、ハッサン氏も約1ヶ月後に拘束グループに殺害された。

 昨年夏、「イスラム国」のメンバーによって米国人ジャーナリスト、ジェームズ・フォーリー氏の斬首動画が公開された。夏から現在までに欧米人では5-6人、非欧米人(レバノン軍兵士、シリア軍兵士、クルド人兵士など)では数十人が残酷な手法で殺害され、動画がネット公開された。英国では国民2人がフォーリー氏と同様の手法で殺害されている。

 2月3日には、日本側が後藤さんとともに解放されることを望んでいたヨルダン軍の戦闘機パイロット、ムアーズ・カサーベス氏が殺害されたと見られる映像がネット上に投稿された。

 今回の日本人拘束・殺害事件は、その時々によって名前を変えてきたイスラム武装グループ(現在最も著名なのは「イスラム国」)による人質殺害事件の一つだった。

英国メディアの報道振り

 こうした経緯もあって、今回の日本人の人質事件を英メディアは連日、詳細に報じた。2人の経歴、家族の会見の様子、日本政府の動き、ヨルダン政府との交渉の行方などを特派員報告を中心に掲載した。

 ネット界でトレンドとなっていることを取りあげる「BBCトレンディング」(1月26日付)は、「アイ・アム・ケンジ」というハッシュタグが広がっていることや、いわゆる「クソコラ・グランプリ」について紹介した。後者は「イスラム国」の動画に出ていた人物をアニメや漫画を使った加工した画像の数々だ。

 ロンドン大学の講師グリセディス・カーチ氏は「ソーシャル・メディア上では2人がそもそもシリアに行くべきだったのかどうかについて、議論がある」と指摘した。

 BBCはウェブサイトで後藤さんについて充実したプロフィールを掲載した。NHKやテレビ朝日でのリポートにリンクが貼ってあり、ジャーナリストとしての後藤さんへの敬意がにじみ出た。

日本の安保政策の変更に注視

 英メディアが熱く注視するのは、今回のテロ事件をきっかけに日本の安保政策に変更があるかどうか、だ。

 英フィナンシャル・タイムズの知日派デービッド・ピリング記者(著書『日本‐喪失と再起の物語:黒船、敗戦、そして3・11』)は電子版1月28日付の記事で「平和憲法に基づいた日本の外交政策は今、転換期にある」と書いた。防衛専門家岡本行夫氏のコメントとして、「誘拐は日本国民に世界の不愉快な現実を顕在化させた。見せ掛けの中立性にもはや隠れているわけには行かない」を紹介している。

 「安倍首相にとって憲法の再解釈を行うための法改正は簡単ではなさそうだ」が、「後退は一時的だろう」とピリング氏は予想する。「世界は変わっている。中国は日本に対し領土権主張を求めてくる」、また米国は「いざとなったら、日本を守るために米国人の血を流すことはしないだろう」-。日本政府が「傍観する日々は終わりつつある」。

 FTの電子版2月2日付の社説「日本のテロへの反応は孤立であるべきではない」は軍事力の施行を待望する論調だ。

 記事は人質事件によって、日本国内で「受動的な国際上の役割を維持する声」が大きくなる可能性を懸念する。人質拘束後に、安倍首相が2億ドルに上る人道支援を中東諸国に提供すると確約したことで、首相の批判者たちが「タイミングが悪かった」「人質の状況を悪化させた」「日本はグローバルなプロフィールを大きくしようとしないほうがいい」と言いだした。「しかし」、とFTは続ける。この事件が「安倍首相が計画している憲法上の変化の土台を壊してはならない」。

 最後の段落はこのように終わる。2人の殺害は「例え平和主義の国であっても、イスラム戦闘勢力の心無い暴力から逃れられないことを示した。日本の反応は国際的なエンゲージメントに根ざすものであるべきで、新たな孤立であるべきではない」。「国際的なエンゲージメント」は、戦闘も含めてのテロ戦参加を望んでいることを意味するだろう。

 筆者は、ここまでFTが日本に軍事的な対応を求めていることを知って、いささか驚いた。

 ガーディアン紙のジャスティン・マッカリー記者も、電子版2月1日付記事で安保政策の行方を案じた。

 物事がいったん落ち着いた後で、安倍首相は「日本は地域内の安全保障の分野で、より大きな役割を果たす必要があると主張するようになるだろう」。

 テンプル大学のアジア研究部門のディレクター、ジェフ・キングストン氏は記事の中で、後藤さん殺害のニュースに「日本の国民は恐怖感を感じ、事態を理解する段階にいる。どのように世論が動くのかは不透明だ」。

 記事は同氏のコメントで終わる。「国民は安倍首相の安保政策や、反ISIS(「イスラム国」)勢力に参加することへの深い懸念を持っている」―。首相が望むようには物事が進まないのではないかと示唆して終わっている。

 さて、どちらの方向に進むのだろう?
by polimediauk | 2015-04-01 07:30 | 日本関連