小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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 21日に、ネットの放送局「ホウドウキョク」の「あしたのコンパス」という番組に電話出演しました(午後9時半ごろ)。トピックは欧州の難民・移民問題でした。

 話したトピックは「英国の難民対策」でした。放送用にまとめたメモが以下です。このまま話したわけではありませんが、英国事情のご参考として見てくださると幸いです。

シリア難民が増加した要因は?

 シリア難民は2011年のシリア内戦からずっと発生してきていたのですが、最近、例えば去年の4月ぐらいから、欧州に行き着くためのゴムボートが沈没して、何人もの方が亡くなったりなど、目につくようになったかと思います。ずっと続いている問題ではありますが。

 難民発生の原因は内戦ですよね。イスラム過激派組織、イスラム国(IS)がシリア、イラクで拡大している、と。シリアのアサド政権の軍隊、反アサド勢力、そしてISの戦いが内戦になっています。かつて、米英側は反アサド勢力に支援(軍事、資金)をしていましたが、ISを討伐するための、米を中心とした有志連合が、シリアに空爆を無数に行っている状態です。それでも、ISは力を減らしておらず、空爆はほとんど功を奏していないと言われています。

 もう、近隣のそれぞれの国にはだいぶ逃げていますし(トルコには190万人とか)、レバノンにもたくさん。

 その次の波として、欧州にまで逃げてくる人がどんどんいる、ということですよね。

ドイツを目指す難民が多い理由は?

 政治的にドイツが受け入れを積極的にやったためと、西欧は経済も好調ですし、難民支援もしっかりしていると、難民側が知っている、ということでしょう。

 メルケル首相のリーダーシップで、前からEU各国に受け入れを求めてきましたが、それがうまい具合に行かず、例のアイランちゃんの写真事件もあって、緊急受け入れ策を講じました。それでも今や、アップアップ状態ですね。

EU各国の難民への対策や、英国の状況は?

 EU各国ですが、欧州委員会が中心になって、前に、それぞれの国ごとに割り当てるようにしましたが、これに全員が賛成していません。英国も参加せず。14日の会議でも、義務化は無理だったようですよね。

 英国の難民受け入れですが、まず、「移民・難民」は近年の英国政治で非常に大きなテーマになっています。「欧州」もそうです。英国はもともと欧州が嫌いと言いますか、ブリュッセル(欧州委員会、EUなど)への不信感を持っています。統合を深化したくないのです、一人でやっていける、ということで。ユーロに参加していませんし、国境でパスポートのチェックをしない「シェンゲン協定」にも入ってません。

 2004年に欧州連合に東欧諸国がどっと入りました。このため、ポーランドなどの旧東欧からたくさんの移民が入ってきました。すると、英国人の仕事を取られたと思う人がでてきました。実際、学校とか公的サービスは窮屈になっています。そういう流れで、EU脱退を望む英国独立党が人気になりました。2017年までに予定されている、EU加盟についての国民投票実施もこの流れです。

 現保守党政権ですが、公約として、「移民のネット数を減らす」としています(ネット数とは、英国から出て行った人と、やってきた人の数を合計し、その差を表します。純移民数)。年に10万人に抑える、と。ところが、最新の情報では、30万人ぐらいになっていましたーー30万人分、人口が増えているわけです。大失敗。何せEUに入っていれば、自由に英国に来れますし、英語は国際語だし、仕事はあるし(好景気)で、どんどん入ってくるわけです。

 ・・・という背景があって、キャメロン首相はずーっと、EU/メルケル主導の「難民割り当て策」にはずっと否定的・反対でした。なるべくかかわらないようにしてきました。

一枚の写真が変えた

 でも、9月2日、シリア難民男児アイランちゃんの死体が海岸に打ち寄せられ、世界中の同情を買いましたね。これで、難民を助けると言わざるを得なくなりました。また、ドイツはメルケルさんが受け入れに積極的なので、「それに比べて、フランスや英国はなんだ!」という批判の声が内外で高まったことも、プレッシャーになりました。そして、7日、難民キャンプからシリア難民を2万人受け入れる(今後5年間で)と発表しました。数日後には、レバノンやヨルダンにある、シリア難民の収容所を訪れました。

 アイランちゃんの写真が出たことで、英国民の中でも「なんとかしなければ」という思いが募っています。チャリティー団体が子供たちに物資を送るために運動したり、12日には、難民支援のためのデモが発生しました。野党労働党のコービン新党首が、党首に選任された直後に駆け付けたのが、ロンドンのこうしたデモの1つでした。

 プレッシャーをかけられたために「2万人」という数字を出しましたが、世論調査では難民の受け入れに消極的な人が結構多いです(半分以上)。

 内務省によると、今年6月までの1年で、英国の難民申請数は2万55571人。シリア難民は2024人。BBCによると、申請者の約6割が認定を却下されたそうですね。

 ドイツのような大陸の欧州(それぞれが地続き)と英国(海を隔てている、心理的には欧州より米国に親近感)とでは、この問題、大きな温度差がありますよね。

 英国は欧州内ではこの問題では独自のスタンスですよね。ほかの国が「受け入れ」を言っているのは、今現在、地続きでやってくる難民たちのことですね。ところが英国は、先にも言いましたが、シリア近辺の難民キャンプにいるシリア人を受け入れる、と言っているのです。今、国を出て欧州に向かう人は危険な道を通っているから、そういう危険な方法を奨励したくない、というスタンスです。ある意味、当たっていますが、口実のように聞こえなくもありません。

米英(仏)の責任は?

 米国が急きょ、1万人のシリア難民を受け入れることにしたそうですね。また、2016年度からは難民受け入れ枠を拡大するという報道がでましたよね。欧州を訪問中のケリー国務長官が、20日、明らかにしました。現在は年間およそ7万人で、16年度には8万5000人、2017年度に10万人に拡大するようです。

 米英はイラク戦争を主導したり、シリアの反アサド政権の武装組織を助けるために、支援をしてきたということらしいので、「シリア難民を作った責任」があるよう気がしてなりません。リビアからの難民も多いですが、リビアを爆撃などして、カダフィ大佐を引きずりおろしたのは、英仏でしたからね・・・。

 また、ドイツに今回入ってきた難民の出身国を調べたら、シリアが一番多かったそうですが、ほかの国もかなり多かったようですね。その1つがアフガニスタンと聞きました。米英などがアフガニスタンに侵攻したのは2001年10月です。9.11テロの直後ですね。結局、今もアフガニスタンは国として非常に課題が多い状態になっています。
by polimediauk | 2015-09-22 07:39 | 英国事情
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(ツイッター画像より)

 フランスの風刺雑誌「シャルリエブド」の最新号が、トルコの海岸で見つかった、シリアからの難民男児アイラン・クルディちゃん(3歳)の遺体画像を風刺画のトピックとして描いている。ツイッターを見ると、「気持ち悪い」「恥を知るべきだ」などの声が出ている。(*Aylan=アイラン=ちゃんは Alan=アラン=と表記されることもあるようです。)

 今月2日、波打ち際に顔をふせて横たわっていたアイランちゃん。その姿を撮影した画像は、世界中の注目の的となった。赤いTシャツに半ズボンのアイランちゃんは、両親と兄と一緒にゴムボートに乗り、ギリシャに向けて出発したが、ボートが転覆し、命を落とした。母と兄も亡くなった。

  画像では顔の正面は見えなかったが、アイランちゃんは小さな体を通して、欧州に渡ろうとする難民たちの姿を生々しく伝えた。子供がある人もない人も、心を動かさずにはいられない光景だった。

  このアイランちゃんの画像をもとに、シャルリエブドは2つの風刺画を掲載した。

 その一つは「移民さん、ようこそ」という題名がつき、横たわる子供のイラストの左上に、「ゴールにとても近かったのに・・・」という文字が書かれている。その右隣にはマクドナルドの看板が描かれている。看板には、「子供たち二人のメニューを、一人分で」(買える)というプロモーションがある、と書かれている。

  もう1つの風刺画は、題名が「欧州がキリスト教信者である証拠」。左側にキリストと見られる人物が立っている。その右横には、半ズボンをはいた、子供らしい人物が海の中に頭を突っ込んでおり、半ズボンと足だけが見える。キャプションが付いていて、「キリスト教徒は水の上を歩く。・・・イスラム教徒の子供たちは沈む」。

 果たして、これが風刺なのだろうかー?筆者はこの二つの風刺画をネットで見ただけで、実際の雑誌を手に取っていないので、ほかに関連の表記があるのかどうかは分からない。

  しかし、もし風刺の目的が「権力者を批判する・笑う」のであれば、これは風刺には当たらないだろう。弱者を笑っているように見えるからだ。イスラム教徒を差別的に描いているようにも見える。

 いったい何が面白いのかなと個人的には思うが、何か深い意味があるの「かも」しれない。あるいは、ないのかもしれない。状況が分かる方に教えていただきたいものだ。もっとも、「笑い」は説明されてしまっては、つまらなくなるものだが。

 一つの解釈として、亡くなった子供やイスラム教徒を笑っているのではなく、「難民問題をうまく処理できない、右往左往状態の欧州政府を笑っている」と言えなくもないがー。

  ご関心のある方は、ハフィントンポスト英語版のサイトからご覧になっていただきたい。
by polimediauk | 2015-09-15 08:07 | 欧州表現の自由
 欧州に押し寄せる難民・移民の様子が、欧州各国でトップ記事として報道される日々が続いている。

 ハンガリー、オーストリアを経由してドイツ・ミュンヘン市に到着した難民たちは5日 、市民らの拍手で歓迎を受けた。水やお菓子を渡した市民もいた。現場中継をしていたBBCのリポーターが「こんな光景は見たことありません」と驚きの声をあげる。

 メルケル独首相は昨年の約4倍に相当する最大80万人の難民が今年流入する可能性があると表明している。

 イツは難民を受け入れる体制ができていると主張しているが、反移民・極右派による難民収容施設への攻撃が今年だけでもすでに200件発生している。

約70%のスウェーデン市民が難民・移民に前向きの見方

 英インディペンデント紙(5日付)に掲載された「ユーロスタット」の調査によると、ドイツ国内で難民流入に対する意見は大きく分かれている。

 旧西ドイツの市民の36%が流入がもたらす影響に危惧を抱いているが、旧東ドイツの市民の間ではこれが46%に上昇する。

 欧州連合(EU)の加盟国の中で、EUの外の地域からの人の流入に対し市民の大部分(71-77%)が肯定的な見方をしているのはスウェーデンだけであった。

 肯定的な意見を持つ人の比率が最も低いのがイタリア、チェコ、スロバキア、エストニア、ラトビア(それぞれ15-21%の間)。

 ハンガリー、ブルガリア、ギリシャでは、肯定的な見方をする市民は全体の22-28%だった。反外国人感情が強いこうした国で、何故政府が難民受け入れの割り当てを拒んだかが分かる。

 スロバキアのロベルト・フィツオ首相は最近、このような発言をした。スロバキアは「キリスト教国なので、イスラム教徒の難民は受け入れたくない」。今回欧州にやってくる難民・移民の中で、シリアからやってくるイスラム教徒が多いことを踏まえての発言だ。人種・宗教・性別で人を差別した発言と見られても仕方ない。

 一方、EUの中では人口密度が高い英国、アイルランド、フランス、スペイン、ベルギーでは非EU加盟国からの難民・移民の流入に対して前向きの見方をする人の割合は49-29%だった。

東欧と西欧との考え方の違い?

 旧東欧諸国と西欧諸国との移民に対する考え方の違いを指摘する人もいる。5日放送された、BBCラジオの「海外特派員から」という番組の中で、特派員の1人が旧東欧の国の市民の見方を紹介している。「東欧圏にいたときは、移民が実質的に発生しなかった。西欧圏を訪れて、移民がたくさんいることを知った」。この市民は移民が多い国の現状を否定的に受け止めていた。

 西欧諸国では、文化の多様性、社会の価値観の多様性は良いこと、奨励されるべきことと考えられてきた。難民は人道的面から助けるべき人々であり、移民は経済を活性化するために、かつ多様性を深めるためにも、悪いことではなかったーーただし、元からいる国民の生活を脅かさないよう、一定の歯止めをかけながら、である。

 EUに加盟すれば、EU域内での人の出入りは自由になるが、特定の国に人が急激に集まることはないはずだった。

 しかし、ここに来て、急増する難民・移民たちの群れはいまだかつてないほどのプレッシャーを欧州各国に与えている。「一定の歯止め」をかけたり、十分に事前に準備したりする暇はない。即断即決が必要とされる。難民・移民たちの様子を伝えるメディアが、そして取材に応じる難民・移民たちが待ったなしの即決を各国政府に迫る。

 4日、ハンガリー、オーストリア、ドイツの首脳らは、例外的にドイツに難民らを受け入れる緊急避難措置を決めた。その後5日にかけて、ハンガリーに足止めされていた難民らがウイーンやドイツの都市に到着し始めた。

 押し寄せる難民・移民を止める策が見つからないまま、EUはより公平に難民らを受け入れざるを得ない状況に置かれている。

 一部の報道では、欧州委員会のジャン・クロード・ユンカー委員長は割り当て受け入れ制度に参加しない加盟国には罰金を課すことも考えているという。


 
by polimediauk | 2015-09-07 16:37 | 欧州のメディア