小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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(訃報を伝えるBBCニュースのウェブサイト)

 (「英国ニュースダイジェスト」の筆者による連載コラム「英国メディアを読み解く」に補足しました。通常は「だ・である」調で書いていますが、このコラムでは「です・ます」調で書いています。)

 ジル・セイワードさんという名前を聞いたことがありますか。

 2002年に英国にやって来た筆者は、恥ずかしながらこれまで彼女のことを知りませんでした。

 昨年1月上旬、セイワードさんが心臓発作で亡くなったという訃報(享年51)を目にして、初めて分かりました。

 セイワードさんはレイプの犠牲者として、英国で初めて実名を明かした女性です。その後は性的暴力を防ぐための活動を続けました。遺族はジャーナリストの夫と3人の息子です。

事件が発生したのは、1986年

 1986年、ロンドン西部イーリングにある牧師館に覆面をした武装集団が押し入りました。セイワードさんの父親はこの牧師館の牧師でした。

 男たちは館内にいた父親とセイワードさんの当時のボーイフレンドに現金や宝石類を出すよう要求し、クリケットのバットで死の寸前まで叩きのめします。2人を縛り上げて動けなくした後、男たちは当時21歳のセイワードさんを2階に引きずり上げ、数度にわたってレイプしました。

 事件後、大衆紙「サン」が牧師館に向かうセイワードさんの全身の写真を掲載します。目の周辺にあざが見え、レイプの犠牲者であることが広く知られてしまいました。これは「セカンド・レイプ」と言ってもよいほどの、つらい体験でした。

 犯人の男性3人の裁判が始まったのは事件発生から11カ月後です。レイプ行為に加わらなかった主犯格の男には強盗罪で14年の刑が下りました。行為を行った2人の男のうちの一人はレイプ罪で5年、強盗罪で5年の刑となり、もう一人には性的暴行で3年、強盗では5年の刑が決定されました。レイプよりも強盗の方が重い刑となったのです。

 量刑の判断に際し、裁判官はセイワードさんのトラウマは「それほど大きくはない」と述べました。この心無い言葉に、セイワードさんは大きく傷つきます。裁判官は後年、セイワードさんに謝罪しました。

 事件後、3度の自殺未遂を行い、トラウマによるストレスに苦しんだセイワードさんですが、当時の裁判官はこうした状態を理解することができなかったのです。

 レイプ事件の犠牲者の身元を特定する報道やレイプよりも強盗の刑が重いことに、大きな批判の声が上がります。セイワードさんは地元の国会議員に犠牲者の個人情報が守られるよう、法改正を求めました。ほかの議員の支援や世論の後押しもあって、1988年、犠牲者の匿名性が完全に守られるよう法改正が行われ、メディアは犠牲者の身元を特定するような情報の報道を禁止されました。

何故、実名を出すことにしたのか

 1990年、セイワードさんは事件について語った本「レイプ、私のストーリー」を共同執筆、出版しますが、このときから実名を出す決意をしました。レイプの犠牲者に対する人々の意識を変えたい、支援を手厚くしたいというのがその理由です。テレビやラジオ、イベントなどで自分の体験を話すようになり、性的暴力を防ぐための慈善団体を立ち上げる、警察に犠牲者の扱い方について研修を行うなどの活動を積極的に行いました。

 1998年には、レイプには加わらなかったものの、牧師館を襲った男性たちの一人と対面する機会がありました。セイワードさんは「謝る必要はありませんよ」と言ったそうです。

 活動の成果が実り、レイプ犯罪の扱われた方が変わってゆきます。例えば、夫婦間でのレイプが刑事犯罪となり、オーラル及びアナル・セックスもレイプと見なされるようになりました。2013年、イングランド・ウェールズ地方での性犯罪実行者への量刑の決定には犠牲者への影響をより重要視するように改正されました。

 警察の調べによると、イングランド・ウェールズ地方で成人がレイプされた件数は2015~16年で2万3851件。4年前の約2倍です。犠牲者のほとんどが女性でした。BBCの人気司会者ジミー・サビル(故人)の性犯罪が明るみに出たことで、警察に報告する人が増えたので件数が増加したと見られています。犯罪統計の専門家たちは、実際の数は約6倍に上るのではないかと言います。

 レイプ事件は実行犯が有罪に至る比率が低い(15~16年では全体の7.5%)犯罪として知られています。高級紙ガーディアンの記事(2016年10月13日付)によると、犠牲者が外見上の傷を負わなかった、あるいは行為に抵抗しなかった場合、レイプではなかったと誤解されがちだそうです。犠牲者が麻薬やアルコールを摂取していた場合も不利に働くそうです。

 日本に目をやりますと、フリージャーナリストの伊藤詩織さんが2015年に発生した性的暴行事件で、記者会見を開いたのは昨年5月末でした。まだ1年も経っていないのに、随分と状況が変わったように感じられます。米ハリウッドの映画プロデューサーによるセクハラ・性犯罪疑惑を受けて、「Me Too」が運動が広がったことも記憶に新しいですね。伊藤さんは、10月に「準強姦」被疑事件について書いた本「Black Box」を出版しています。

 伊藤さんは、先月、米ニューヨークの国連本部で記者会見し、「日本ではまだ性暴力被害者が声をあげにくい状況にある」として、「Me Too」より、多くの人が助け合いながら性暴力被害をなくす取り組み『We Too(私たちも)』運動を盛り上げていきたい」と述べたそうです(「しんぶん赤旗」)。

 セイワードさんがもし生きていたら、伊藤さんに大きなエールを送ったことでしょう。

 

 


by polimediauk | 2018-04-22 23:14 | 英国事情

(「英国ニュースダイジェスト」の筆者コラム「英国メディアを読み解く」に補足しました。)

 「オックスファム」といえば、英国では大変なじみがある非営利組織・慈善(チャリティー)団体の一つです。街角のあちこちにはオックスファムが運営するチャリティー・ショップがありますし、貧困撲滅を掲げて世界各国で人道支援活動に取り組んでいることもよく知られています。

 そんなオックスファムは今年2月、スキャンダルに大揺れとなりました。ほかの慈善団体も批判の的になりました。

 でも、慈善団体の意義が減じたわけではありません。英国で慈善団体が立ちあがっていった経緯を振り返りましょう。

スキャンダル、発覚

 2月9日、オックスファムの職員の一部が、2010年に大地震に見舞われたハイチで地元女性らを買春していたと英「タイムズ」紙が暴露報道しました。オックスファムによる内部調査報告書(2011年)によると、性的搾取、ポルノ画像のダウンロード、いじめ、威嚇行為があったとして4人が解雇され、3人が辞職。このとき、オックスファムは英国の慈善組織の活動を監督する「チャリティー委員会」に詳細を報告していませんでした。

 タイムズ紙側はオックスファムが事実を「隠ぺいしていた」と主張しました。オックスファムの親善大使として活動をしていた著名人らがその役割を次々と返上していきます。同団体への寄付金登録も7000件以上キャンセルされました。チャリティー委員会も調査を開始しました。

 オックスファムは政府から年間3170万ポンド(約48億円)の資金援助を受け、世界各国で人道支援活動を行っていますが、ペニー・モーダント国際開発相は場合によってはこの援助を打ち切る可能性も示しました。

 また、ほかの慈善組織「セーブ・ザ・チルドレン」や、パリに本拠を置く「国境なき医師団」も過去に性的不正行為で職員を解任していたことを公表するようになり、慈善活動やその組織自体に疑惑の目が向けられました。

チャリティーの元々は?

 「チャリティー(Charity)」は「慈善・博愛・慈愛」などという訳語が当てられますが、慈善行為自体も意味します。

 英国(ここでは主としてイングランド地方)では、17世紀まではキリスト教の教区内の互助制度が貧困者を支援。支援の原資は教会、救貧院、富裕層からの寄付金などが賄いました。最古の救貧院は10世紀に英北部ヨークに建設されたそうです。

 17世紀後半から18世紀、「啓蒙の時代」と呼ばれるころには、上流階級が貧困層を助ける社会奉仕活動が次第に発展していきます。そんな活動家の1人、トーマス・コーラムがロンドンの孤児のために1739年に設立したのが「ファウンドリング・ホスピタル」という施設でした。「ホスピタル」はここでは「慈善施設」のことです。

 19世紀に入って続々と慈善組織が設置されていく中、恵まれない層を支援する社会貢献活動が中流階級の中で1つの流行となっていきます。1853年、慈善組織の監督、支援、助言を行う機関としてチャリティー委員会が設置されました。

 20世紀に入って、貧困をなくすための抜本的な改革をしなければと思ったジョーゼフ・ラウントリーは、労働者たちに節酒を勧め、また、低所得者層の住宅問題を解決することまで考えながら、慈善組織を次々と発足させました。しかし、貧困からくる諸問題の解決には至りませんでした。その後、第2次世界大戦後の労働党政権下で、医療費の無料化、雇用保険、救貧制度、公営住宅の建設など「福祉国家」への歩みが始まります。(ラウントリー協会 )

ラウントリー協会のウェブサイト
ラウントリー協会のウェブサイト

 

 民間の慈善組織の立ち上げには、信念を持つ個人が存在していました。

 先のラウントリーはもともとチョコレート会社の経営者でしたが、資産の半分を使って恵まれない人の支援に乗り出します。また、児童の権利保護のために活動する、セーブ・ザ・チルドレンを築いたのは社会改革家のエグランティン・ジェップでした。第1次大戦後、飢餓状態にある子供たちを救うため、ジェップは妹と一緒に活動を始めました。

 チャリティー組織には逆風が吹きましたが、困窮状態にいる人を支援する活動とその意義を忘れないようにしたいものですね。

オックスファム(Oxfam)とは

 英国内で4番目に大きな慈善組織です。1942年、イングランド東部オックスフォードで、クエーカー教徒や教育者たちのグループがナチス政権下にあるギリシャの国民を支援するため「オックスフォード飢餓救済委員会」として設置しました。1965年にオックスファムという名称になりました。現在、約1万人が90カ国で活動し、昨年の収入は約4億9000万ポンドに上りました。


by polimediauk | 2018-04-20 22:58 | 英国事情

「=」(平等)と入ったTシャツを着るモンタギューさん(サンデー・タイムズ1面)

モンタギューさんの怒り

 「自分の名前だけが入っていない・・・」。

 昨年7月、BBCは年間15万ポンド(約2260万円)以上の報酬を払っている職員や出演者の名前と金額を公表したが、この時、衝撃を受けた一人が、BBCラジオの著名ニュース解説番組「トゥデー」で長年司会役を務めてきたセイラ・モンタギューさんだった。

 「トゥデー」には数人の司会者がいるが、自分の名前だけが公表されたリストの中に入っていなかった。「他の司会者より給与が低いかなとは思っていたが、これほど差があるとは思っていなかった」(サンデー・タイムズ、4月8日付の寄稿記事)。

 当時、モンタギューさんの給与は13万3000ポンド。これ自体が大きな額であることをモンタギューさんは自覚しているものの、自分と同じ仕事をするジョン・ハンフリーズ氏は約60万ポンド。他の司会者も20万ポンド近くを得ていた。

 「どれぐらい貰うかは個人に関わる問題になる。その人が日中やっていることの評価になるし、雇用主があなたをどう見ているかも金額で分かる」。だからこそ、自分の給与が同じ仕事をしている人よりもかなり低かったことがつらかった。それだけ自分が低く評価されていることを意味するからだ。

 かつては、他の人よりも低いかもしれない給与で司会をしていることに自分なりの誇りを持っていた。しかし、いざリストが発表されてみると、「自分はバカだったことに気づいた」。高い給与を得ている人の贅沢な生活を助けているだけだったことに気づいたからだ。

 また、20年以上前にBBCで働き出した時、BBCの会社員という形をとらず、自分で会社を作りそこから出向している形を取るほうがよいとBBCから言われ、そうしたモンタギューさん。今になって、もし退職すればBBCの会社員として年金や恩恵を受けられないことを改めて実感した。

 モンタギューさんは「トゥデー」を辞め、午後のニュース解説番組「ワールド・アット・ワン」に移動した。「ワールド・アット・ワン」は老舗のニュース解説番組だが、同種の番組の中では「トゥデー」の方が知名度が高い。しかし、もはや「トゥデー」でやっていく気力はなくなっていた。

 モンタギューさんは、その怒りと失望をサンデー・タイムズ紙に寄稿した。モンタギューさんの怒りは今年年頭、BBCの中国編集長という職務を辞任した女性ジャーナリスト、キャリー・グレイシーさんを思い起こさせる。

 

グレイシーさんの戦い

1月末、下院で賃金格差問題を語るグレイシーさん。BBCのニュースサイトより
1月末、下院で賃金格差問題を語るグレイシーさん。BBCのニュースサイトより

 昨年7月のBBCによる高額報酬者のリストを見て、グレイシーさんも怒りと悲しみに襲われた。

 リストに名前が挙げられた96人のうち3分の2は男性で、男性のトップ(200万~約225万ポンド)と女性のトップ(45万~約50万ポンド)の間には大きな開きがあった。英国では平等賃金法(1970年)や平等法(2010年)の下、雇用者は同等の仕事をする男女に同等の賃金を支払う義務があるのだがー。

 1月上旬、グレイシーさんは自身のブログに「BBCの視聴者へ」と題された公開書簡を投稿し、男女の賃金差に抗議するために中国編集長を辞任したと宣言した。辞任直前の給与は13万5000ポンドだったが、少し前までは約9万ポンドで、男性2人の国際編集長はグレイシーさんの2倍以上の給与だった。ちなみに、国際編集長は4人いて、残りの一人(欧州編集長)は女性。この女性もリストに名前が挙がらなかった。

 グレイシーさんはBBCに男女同等の給与の支払いを求めて交渉を開始したが、埒が明かず、編集長職の辞任を選択するに至った。今はロンドンで内勤の職員として働いている。

 1月31日、下院の委員会で賃金格差についての公聴会が開かれた。証言者として登場したグレイシーさんは、自分の給与が同職の男性陣と比べてはるかに低い理由を「あなたは開発途中だから」と言われたことを暴露した。

 30年余以上BBCに務め、中国における報道の統括役として赴任したグレイシーさんを「開発途中」とするのは「侮辱だ」。

 男女の賃金格差の現状を認め、これを是正することをBBCに求めたグレイシーさんは「BBCの役割は真実を伝えること」と述べ、「自分たち自身について真実を語れないなら、どうやってBBCは信頼してもらえるのか」と問いかけた。

英企業・組織が男女の賃金格差の状況を報告

 英国では、今月から、250人以上の従業員を持つ企業・公的組織は男女の賃金格差の現状を政府に報告するよう義務付けられた。

 その結果は政府のウェブサイトで公開されている。

 報告が義務付けられた項目は(1)男女の平均賃金の差、(2)男女の賃金中央値の差、(3)男女の平均ボーナス額の差、(4)男女のボーナス中央値の差、(5)ボーナスを受け取る従業員の中の男性の割合、(6)ボーナスを受け取る従業員の中の女性の割合など。


 国家統計局(ONS)によれば、男女の賃金格差は昨年時点で18・4%(男性が女性よりも18・4%高い賃金を得る)であった。1997年には27・5%であったので、その差はだいぶ縮まっている。

 BBCの調査によると、これまでに数字を提出した約1万社・組織の中で、78%が男性の従業員により高い賃金を払っていたという(時給中央値の比較)。

 また、高給を受け取る従業員では男性の比率が女性より高かった。これは女性がパートタイムで働くことが多く、経営の上層部にいる人の数が男性よりは少ないことも関係していそうだ。

 サンデー・タイムズ紙(8日付)が業種別に分析したところ、男女の賃金で格差が最もあったのは金融サービス業(26・2%)、これに続いたのが建設業(21・8%)、弁護士業界(20・7%)、スポーツ・娯楽業界(19・1%)。

 投資銀行ゴールドマンサックスでは、男女のボーナス額に72・2%の格差があった(男性がより大きな額を得ている)。

 BBCの調査によると、社内の男女の賃金格差は9~10%で、国内平均の18%よりはかなり低い。しかし、モンタギューさん、グレイシーさんの怒りや彼女たちに連帯を示すBBC女性陣の声が大きくなる中、平均よりも低かっただけでは済まされない状況にBBC経営陣は追い込まれている。

 ちなみに、経済協力開発機構(OECD)による主要23カ国の男女の賃金格差調査(2015年時点)の中で、最大の差がみられたのは韓国(約37%)、2番目が日本(約26%)となっている。

賃金格差を埋めるには

 男女の賃金格差を埋めるには、どうしたらいいのだろうか。

 BBCニュースの記事(4月5日付)を参考にしてみると、

 (1)より良い子供のケア体制を築く

  子供を持つ女性が安心して働けるよう、現在よりも良い児童のケア体制を構築する。

 (2)より良い人材募集体制

  企業が求人をする際に、勤務時間はフレキシブルにできるなどを明記するようにする。仕事中心の男性だけを求めている印象を与えないようにする。

 (3)給与の透明性をはかる

  給与体系を公表する、透明度を高める。女性従業員の中には自分が男性従業員よりも低い給与であることを知らない場合もある。

 (4)育児休暇を拡充する。

 (5)目標を作る。

  xx年までに差を縮小する、経営陣に女性を入れるなどの目標を立てる。

 (6)女性従業員の賃金を上げる。

 (7)女性が働き続け、幹部を目指すことも視野に入れるように研修を行う。

 (8)文化を変える。

   経営幹部が率先して、女性の雇用を支援する雰囲気を作る。

 (9)スポーツを振興する。

 

  スポーツは少年がするもの・・・と考えがちだが、女性も参加するよう奨励する。スポーツを通じて、自尊心を高められるようにする。


by polimediauk | 2018-04-18 19:47

(「英国ニュースダイジェスト」の筆者コラム「英国メディアを読み解く」に補足しました。)

 王位継承順位第5位に当たる「ハリー王子」ことヘンリー王子(33歳)と米国の女優メーガン・マークルさん(36歳)の結婚(5月)が迫ってきました。

 メーガンさんが米国籍であること、母親がアフリカ系米国人であることから、王室に「外国人」のかつ「初めて有色人種の血」が入ることを一時、右派系メディアは問題視していましたが、昨年末の婚約会見で2人の幸せそうな姿が報道され、英国全体に「祝結婚」ムードが広がっています。

 「時代が変わった」と感想を漏らす人もいました。「離婚歴のある米国人女性」という点でメーガンさんと共通点を持つウォリス夫人は、1930年代に当時皇太子だったエドワード8世と恋に落ちました。国民も政治家も結婚には否定的な見方をし、1936年、国王は王の座を放棄しました。

外国人を受け入れてきた王室

 英王室の長い歴史を紐解くと、結婚相手が外国人であることは実は日常茶飯事でした。国王自身が「外国人」であったことが何度も発生しました。ブリテン島にイングランド王国が出来上がるのは10世紀ごろ。その後は欧州大陸からデーン人やノルマン人がやって来て、地元アングロ・サクソン人を支配していきます。12世紀のプランタジネット朝を始めたのはフランスの貴族アンジュー伯アンリ(ヘンリー2世として即位)でした。

 少し時代を進めて、18~19世紀のハノーバー朝を見てみましょう。

 前王朝のスチュアート朝は、直系の世継ぎを作ることができないまま終わってしまいました。そこでスチュアート朝の血筋を引く、ドイツ北部の領邦君主であるハノーバー選帝侯ゲオルクが君主として迎え入れられます。彼はジョージ1世となりますが、ほとんど英語は理解できませんでした。ハノーバー朝初期の国王はイングランドの政治に関心が薄く、英国よりもドイツのハノーバーにいることを好んだようですが、これを機に国王が不在でも政治が回るように議会制内閣が発展したと言われています。そしてジョージ3世の時代(1760~1820年)になってようやく英国の文化や慣習を理解する国王になったとされています。

 18歳で即位したビクトリア女王(在位1837~1901年)はジョージ3世の孫です。現在のエリザベス女王はビクトリア女王の孫の孫であり、英王室はハノーバー朝時代からドイツ系が続いています。ドイツとの繋がりが負の要素になったのは第一次大戦でした。1917年、ジョージ5世は敵国ドイツの領邦名であったザクセン=コーブルク=ゴータをウィンザー家に変えざるを得なくなりました。

 外国から国王を招き入れるにとどまらず、英歴代の女王たちを堅固に支える伴侶役を射止めたのも外国人でした。ビクトリア女王の結婚相手は、母ケント公妃の兄、独ザクセン=コーブルク=ゴータ公エルンスト1世の次男アルバート。アルバート公は42歳で病死してしまいますが、王室改革に取り組んで無駄を減少させ、科学と教育の可能性を信じ、ロンドン万博(1851年)の成功に大きな貢献をしました。科学博物館、ビクトリア & アルバート博物館などは万博で得た収益で設立されました。

 また、エリザベス女王の夫は、ギリシャ王子の血を引くエディンバラ公フィリップ殿下です。生後間もなく同国でクーデターが発生し、フランスや英国で暮らしました。1947年に英国に帰化後、英国王ジョージ6世の長女エリザベス(現エリザベス女王)と結婚。65年以上にもわたり国を治めているエリザベス女王ですが、昨年、結婚70周年を迎えたフィリップ殿下がいつもそばにいたことで、様々な苦労が軽減された面もあるのではないでしょうか。

 ところで前出のエドワード8世ですが、ウォリス夫人と結婚後はウィンザー公となり、生涯を英国外で暮らしました。エリザベス女王は途中で王座を投げ出した伯父を一家の恥として受け止めたとされています。とは言え、時代は確かに変わりました。英王室全体がハリー王子のメーガンさんとの婚約と結婚を祝福してくれているのですから。できれば、離婚をせずに最後まで添い遂げてほしいと筆者は願っています。

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 エドワード8世がウォリス夫人と結婚をするためには、王位を放棄するしかありませんでした。英国で初めて作成された「退位証書」にまつわるエピソードなどを入れた新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)をどこかでお手に取って下されば、幸いです。


by polimediauk | 2018-04-16 17:20 | 英国事情

 

英プレスガゼットはフェイスブックとグーグルの「2強」拡大を止める運動を行っている


(日本新聞協会発行の「NSK経営リポート」35号に掲載された、筆者記事に補足しました。)

懐疑のまなざし

 グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル(頭文字を取って「GAFA」と呼ばれる)など、インターネット業界を席巻する米IT企業大手の振る舞いに、英国を含む欧州諸国は懐疑のまなざしを向けてきた。日本と比べてみた時、このまなざしがあるかないかの違いがあるように思う。

 何故「懐疑」なのか?

 その背景には、一握りの私企業がインターネットがなければ回らなくなった社会の中で独占的な位置を持つことへの危機感、収益に見合う税金を払っていないのではないかという疑念、いずれの企業も利用者の個人情報を利用することでビジネスを拡大させていることへの不安感などがある。欧州であまりにも成功したがために、その巨大さが目立ち、漠とした恐怖感も底流にあると見ていいだろう。

 英ニュース週刊誌「エコノミスト」は1月18日号で「デジタル時代の競争――いかにテック業界の巨人を手なずけるか」と題する特集記事を掲載した。

 エコノミストは、こうした企業を「悪い=BAAD」だという。「巨大で(Big)、競争を妨げ(anti-competitive)、 ネット中毒を助長し(addictive)、民主主義を破壊(destructive to democracy)」するからだ。 規模が大きいからといって背後に必ずしも悪意があることを意味しないと続くのだが、それでも懸念するべき状態にあると指摘する。

 GAFAと英政界、規制業界、伝統メディアとのぶつかり合いのこれまでを見てみたい。

法人税逃れの疑惑をめぐる衝突

 英国とGAFAとの争いには伏線があった。 やり玉にあがったのは米スターバックス。2012年、同英国法人の売上は直近の3年間で12億ポンド(約1800億円)あったが、法人税納付額はゼロだった。この件でスターバックスの不買運動が起き、続いてメディアはGAFAなどが租税回避する事実を続々と暴露した。

 こうした状況を背景に、15年、英国は「グーグル税」を導入。多国籍企業による租税回避に対し、通常の法人税率(20%)より高い25%を課した。20か国・地域(G20)や経済協力開発機構(OECD)の場で税逃れを防ぐ国際課税の新たなルール作りが進む中、GAFAなどは英国での税金支払いの仕組みを変えるようになった 。これによりフェイスブックの英国法人の法人税支払額は14年の4327ポンド(約65万円)から、2年後の16年には510万ポンド(7億6200万円)と急増した。

 ソーシャルメディアを通じてニュースに接する人が増え、その影響力に懸念が出る中、16年米大統領選ではいわゆる「フェイクニュース」が大きな役割を果たしたと言われた。

 そこで、17年1月、下院の文化・メディア・スポーツ委員会(同年7月に改組し、現在はデジタル・文化・メディア・スポーツ委員会=DCMSC)が、フェイクニュースとその影響についての調査を開始した。現在もその作業が続いている。

 昨年10月、DCMSCが開いた公聴会で何度か取り上げられたのが、「フェイスブックやグーグルなどをどう法的に定義するか」であった。こうしたネット企業はこれまで、自分たちでは情報の中身を作らず、これを運ぶ「プラットフォーム」として機能するが、情報を作成しその中身に責任を持つ「出版社(パブリシャー)」ではないと主張してきた。

 しかし、ブラッドリー文化相(当時)は違法なコンテンツや過激主義を扇動するようなコンテンツがネット上のサービスを通じて拡散されるようになったことを問題視し、「ネットを規制するために新たな法整備が必要だ」という考えを示した。放送・通信業界の規制・監督組織「オフコム」のホッジソン代表も「個人的な意見」として、フェイスブック、グーグルなどを「出版業として規定するべきだ」と述べた。現時点では法制化は実現していない。

 DCMSCはネット企業に対し、16年6月の欧州連合(EU)離脱の是非を問う国民投票と17年6月の英下院選で、16年秋の米大統領選で発生したようなロシア側によるソーシャルメディアを通じての介入があったかどうかを調べ、報告するように指示した。しかし、報告された件数などがごく少数で影響は限定的であったため、コリンズDCMSC委員長は昨年末、詳細な報告が出ない場合「制裁を科す」と脅しをかけた。

 フェイスブック側は1月18日、「調査の幅を広げる」ことを約束する書簡を委員会に送った。2月8日、DCMSCは米ワシントンでグーグル、ユーチューブ、ツイッター、CNN、ニューヨーク・タイムズの代表者からフェイクニュースについての聞き取り調査を行った 。

 英国の伝統メディアにとって、グーグルやフェイスブック、ツイッターは情報を広めるための重要な役割を担っており、なくてはならない存在だが、同時に「敵」でもある。グーグルやフェイスブックが自社のニュースをどう扱うかで閲読率、ページビューなどに大きな影響があることに加え、両社のサービスを通じて自社のニュースを閲読する傾向が高いためにネット広告から得られる収入が激減してしまう からだ。

 新聞業界のニュースサイト「プレスガゼット」はグーグルとフェイスブックを「2人組(デュオポリー)」と呼び、「ジャーナリズムの破壊を停止し、ニュースの発行者にもっと代金を支払うべきだ」と両社に要求する取り組みを17年4月から開始している。同年末には仏ルモンドの紙面を使って、欧州委員会や欧州議会議員に対し公開書簡を発表。フランス、ドイツ、スペイン、スウェーデン、オーストリア、オランダ、ベルギーの各通信社の連名で、オンライン広告収入の70%を占める2社の「ニュース事業は成長著しい一方で、他のメディア企業のビジネスは崩壊している」と主張した。

グーグル、メディア支援を表明

 グーグルは「無断でニュース記事を使って収入を得ている」という欧州新聞界からの批判をかわす一策として、15年末にデジタル化を支援する「デジタル・ニュース・イニシアティブ(DNI)」を開始している。英メディアも支援対象に入っているが、伝統メディアからはグーグルだけでなく、ほかの米テック企業にも英国のジャーナリズムを助けるために一肌脱いでほしいという声が挙がる。

デジタル・ニュース・イニシアティブのサイトから
デジタル・ニュース・イニシアティブのサイトから

 ウィッティングデール元文化相は新聞編集幹部が集まったイベントで、苦境にある地方新聞界にグーグルやフェイスブックが手を貸すアイデアを打診したことを明かした(プレスガゼット、1月18日付)。BBCは地方紙業界と協力し、150人の新規雇用を提供する仕組みを開始している。この「地方ニュース・パートナーシップ」にはBBC の受信料が原資として活用される。

 ウィッティングデール氏はグーグルとフェイスブックにこの制度に何らかの形で 供参加しないかと呼びかけたが、「それほど良い反応はなかった」という。同氏は「これからも説得を続ける」と語った。両者にはメディア業界の支援者としての役割も求められるようになってきたのである。

 生活のあらゆる面で米テック企業の存在感が増す中で、ネット上に広がる悪しき情報、例えばフェイクニュース、児童を性愛対象にするコンテンツ、憎悪を育んだり、テロを扇動するようなコンテンツなどを一掃する役割も期待されている。子供たちがネットに夢中になり、「中毒」となる現象への対処も求められている。

 今年1月に スイス・ダボスで開かれていた世界経済フォーラムで、メイ首相はテロ、過激主義、児童虐待などコンテンツを「自動的に削除する」ため、テック企業が一層努力するよう呼びかけた。欧州内ではこれらの企業がネットの監視人になるべきだとの風潮は強まるばかりだ。グーグルはユーチューブ上のコンテンツの監視人員を1万人以上に増やすと述べ、フェイスブックは年内に倍増の約2万人にするという。

 その規模や影響力が拡大すればするほど、テック企業への要求も大きくなる。昨今、ネット上に横行する有害なコンテンツの締め出しなどの社会的役割をすべてこうした私企業に押し付けるような論調が続いているが、政府、伝統メディアあるいは市民側ができることはないのかと筆者は思う。

 前述のメイ首相による「過激主義、児童虐待などのコンテンツを自動的に削除すべきだ」という要求について、フェイクニュースに関する著作物を持つジャーナリスト、ジェームズ・ボール氏は「漠然とした表現で失望した」という(BBCニュース1月24日放送)。グーグルやフェイスブックに効果的な行動を期待するのであれば、「何が過激主義あるいは児童虐待とされるコンテンツになるのか、政府側で明確に定義するべきではないか」と主張している。

 今年3月中旬、データ解析を基に選挙のコンサルティングを行う英企業ケンブリッジ・アナリティカ社が、8700万人にも上るフェイスブック利用者から個人情報を不正に取得し、有権者の投票行動に影響を及ぼそうとしたとする疑惑が大々的に報じられた。

 ケンブリッジ社は非難の的になったが、そんな流用を許してしまったフェイスブックに対する視線も、ますます厳しいものになっている。

 


by polimediauk | 2018-04-08 23:01 | ネット業界

ガーディアン紙(1月15日付)とサン紙(1月19日付)

 (日本新聞協会が発行する月刊誌「新聞研究」の「世界メディア事情」3月号に掲載された、筆者記事に補足しました。)

 英リベラル系高級紙「ガーディアン」とその日曜版にあたる「オブザーバー」が今年1月、経費削減のため、縦に細長いベルリナー判から小型タブロイド判に移行した。字体を含めて紙面及びウェブサイトのデザインも刷新した。

 日本同様、英国の新聞も紙版の発行部数が長期にわたり減少傾向にあるが、小型化、デザイン刷新は果たして部数増加に貢献するのだろうか。

 小型化の背景や英メディア界の評価を紹介してみたい。

印刷費用を削減するためタブロイド化

 両紙を発行するガーディアン・ニュース&メディア社(GNM)は、来年4月までに財政を健全化させる3か年計画を実行している。今回のタブロイド化はその一環だ。

 2005年から導入されたベルリナー判での発行には専用の印刷機が必要だったが、タブロイド判であれば他の新聞社の既存の印刷機を使うことができる。

 そこで、全国紙「デイリー・ミラー」や地方紙など約260の新聞を発行するトリニティー・ミラー社がガーディアン(1月15日付から)とオブザーバー(同月21日付から)を印刷・発行するようになった。

 

 小型タブロイド化で「数百万ポンドを節約でき、ガーディアンの長期的将来を確固としたものにする」(プレスリリース)という。

経営状態は?

 ガーディアンとオブザーバーの経営状態を見てみよう。

 昨年4月決算によると、GNMを中核ビジネスとするガーディアン・メディア・グループ(GMG)の収入は前年比2・4%増の2億1450万ポンド(約335億円)、電子版からの収入は9410万ポンド(前年比14・9%増)、営業損失は3800万ポンド(同33%減)となった。

 電子版の収入増の要因は、購読料とは別に設定される会員費(購読者と合わせると、決算時で約40万人)、モバイル版アプリからの収入、読者からの寄付金など。損失の削減は従業員を1860人から1563人と大幅に減少し、費用を削減したことによる。

 

 3か年計画の柱は「新たな収入源の確保」「オーディエンスとより深い関係を作る」「経費を20%削減する」の3つ。GMGのデービッド・ペムセルCEOによると、今年4月までに営業損失を3800万ポンドから2500万ポンドに減少させ、翌年までに解消する見込みだ。

英メディア界の反応は

 ガーディアンはどのように変わったのか?

 小型化以外には、題字を変え、見出しには新規の字体「ガーディアン・ヘッドライン」を導入。「真剣で、信頼できるジャーナリズム」を提供する「質の高い、グローバルなニュース・ブランド」にふさわしい紙面づくりを目指した。

 英メディア界の評価を見てみよう。

 大衆紙サンは「タブロイド判ガーディアンより安い」という表現を1面の題字の上に記載した(1月16日付)。社説では「(ガーディアンは)他では読めない、大きなスクープを載せたらどうか。(高級紙は)そんなことは聞いたこともないだろうが、そうすれば1部か2部でも売れるだろう」と皮肉たっぷりだ。

 左派系高級紙「インディペンデント」の元編集長で現在はBBCのメディア記者アモル・ラジャン氏は、全体的に「魅力的」なデザインであると評価した。

 しかし、1面の題字を2段組にしたことで「最も弱い面」になった、と指摘もした(BBCニュース、1月16日付)。一段組だった「The Guardian」という題字が「The」が上段に、「Guardian」がその下に来る形となったからだ。これによって紙面の縦の間隔が狭くなり、保守系高級紙で同じサイズのタイムズ紙の1面と比べて中面に何があるかを示す情報も少ないという。

 新しい字体と、見開き両面を使って鮮烈な写真を掲載する「アイウイットネス(目撃)」、長文記事が冊子として組み込まれた「ジャーナル」、スポーツのドラマを再現する写真や記事の配置については称賛した。

 紙面刷新の目的が「コスト削減」、「編集長が自分はこれをやったということを示すため」、「デジタル化が進む中、印刷媒体の意義を読者に認めてもらえるかどうか」だったとすれば、もし最初の目的を果たし、黒字化に成功すれば、ガーディアン編集長キャサリン・バイナーとGMGのペムセルCEOは「歴史に名を残すだろう」(ラジャン氏)。

 筆者は新装初日の1月15日にガーディアンを入手し、大きな期待を持って紙面を開いた。全体としては、タイムズの紙面によく似ている印象を持った。

 ガーディアン(1月15日付)とサン(1月19日付)の1面を、この記事の冒頭に入れてみたが、直ぐに目が引き付けられたのはサンの方だ。ウィリアム王子の新しい髪型が180ポンドの高額であったことをユーモアを交えて報道している。

 一方、ガーディアンの方は、内部告発サイト「ウィキリークス」に米軍の機密情報を流したチェルシー・マニング氏の画像を載せている。

 マニング氏は長期の受刑を課せられていたが、昨年1月に恩赦を与えられ、5月からは一般市民の一人として生活している。 

 今回、サンの1面のようなパンチ力が、ガーディアンにはないように感じた。ただし、大衆紙のように「強く叫ぶ」スタイルを取らないのが、ガーディアンやタイムズなどの高級紙の特徴ではあるのだが。

紙は下落傾向、電子版はトップクラス

 英ABCの調査によれば、昨年12月時点でガーディアンの紙の発行部数は約15万部(前年比5・88%減、前月比3・32%増)、オブザーバーは約17万5000部(前年比3・7%増、前月比0.27%減)。

 一方、ウェブサイト(ガーディアンとオブザーバーは1つのサイトにある)の月間ユニークブラウザーは1億4000万を超え、英国ではトップクラスだ。寄付金、会員費、購読料など何らかの形で資金を提供する人は、年末時点で80万人を超えた。

 電子版で記事を読む人が圧倒的に多く、購読料とは別に会費あるいは寄附金を払う人も相当数いることから、両紙の将来はデジタルにあると見るのが妥当だろう。

 紙の新聞の印刷・発送を他の新聞社に委ねて身軽になったGMG社が、2016年3月に完全電子化したインディペンデントに続く決断をする、つまりガーディアンとオブザーバーを完全電子化する日はそれほど遠くないのではないか。

 


by polimediauk | 2018-04-06 16:55 | 放送業界


(新聞通信調査会の「メディア展望」3月号に掲載された筆者原稿に補足しました。)

 英オックスフォード大学に設置されているロイター・ジャーナリズム研究所は、毎年、世界主要国のデジタル・ニュースをめぐる状況について調査を行い、その結果を発表している。最新版「デジタルニュース・リポート 2017」を紹介してみたい。

 今回で6年目となるリポートは36カ国・地域の7万人を対象にし、英YouGovが昨年1月から2月にかけて調査を行った。調査費用の一部はBBCを含む英メディア、複数の大学、米グーグルなどが負担した。

メッセージアプリが人気、SNSへの不信感

 36カ国・地域全体の特徴として、いくつか拾ってみる。

 

 (1)ソーシャルメディアからメッセージアプリへ。前者の拡大が停滞気味で、プライバシーをより保てる後者の人気が高まっている。

 

 (2)ソーシャルメディアが事実とフィクションとの区別を十分に行っていると答えた人は24%のみ。伝統メディアの場合は40%。


 (3)ニュースメディアへの信頼性は、国によって大きく異なる。フィンランド(62%)が最も高く、最も低いのはギリシャと韓国(23%)だった。


 (4)メディアへの不信感の高さと政治的偏向には強い相関関係があった。特に政治見解が分極化している米国、イタリア、ハンガリーでこの傾向が見られた。

 

 (5)約3分の1がニュースに接触することを避けることが多い、あるいは時々そうすると答えている。理由は気持ちが沈むから、あるいは真実とは思えないからだった。


 (6)パソコンよりも携帯機器でニュースを閲覧する人が増えている。

 

 (7)携帯機器でキュレーションされたニュースを読む人が多い。特に伸びたのがアップル・ニュースとスナップチャット・ディスカバー。

 

 (8)外出時だけではなく、家でも主としてスマートフォンでニュースを閲覧する人が増えている。

 

 (9)アマゾンのエコーなど音声で動作を開始する機器でニュースに接する人が米英で増えている。

 

 (10)オンラインニュースの有料購読率は、「米トランプ大統領効果」によって大きな伸びを見せた。

 2016年11月の大統領選から昨年の年頭までにニューヨーク・タイムズ紙はデジタルの有料購読者を50万増やし、ウォールストリート・ジャーナル紙は25万増加させた。寄付の比率も増えた。新規購読者の大部分は左派系の若者層だった。

 何故有料購読するかと聞かれ、「ジャーナリズムを助けたい」という人が米国では29%いた。

 (11)オンラインニュースの有料購読率が特に高いのは北欧のノルウェー(15%)、スウェーデン(12%)、フィンランド(10%)だった。最も低いのはギリシャの2%。日本は6%。

 何故有料購読するかと聞かれ、全ての国・地域で最大の理由として挙げられたのは「スマートフォンやタブレットでアクセスしたいから」(30%)。これに「広い範囲の情報源のニュースに接したいから」(29%)、「割安サービスを提供されたから」(17%)が続いた(複数回答)。「ジャーナリズムを助けたいから」は13%だった。

 

 逆に、何故有料購読しないかを聞かれ、最大の理由は「無料でニュースが閲覧できるから」(54%)で、これに続いたのが「最も好むニュースサイトが無料で記事を出しているから」(29%)、「オンラインのニュースはお金を払う価値がないから」(25%)。

 (12)インターネット広告をブロックする「アドブロック・ソフト」の導入はデスクトップでは21%で、これは現状維持。スマートフォンでは7%。

 一時的にアドブロックを行ったという人はポーランド、デンマーク、米国で半数以上を占めた。国別では導入率が最も高いのはギリシャ(36%)、韓国が最も低く(12%)、日本も12%と低い。

 (13)特定の媒体のニュース記事が複数のプラットフォームで配信されるとき、どこでその記事を見つけたかは記憶に残るが、どこの新聞あるいはニュースサイトが制作した記事かは覚えていない傾向が見られた。

 

 (14)ニュースへのアクセスで、紙の新聞を最も好むのはオーストリア人、スイス人。ドイツ人やイタリア人はテレビを最も好む。中南米諸国ではソーシャルメディアやチャット用アプリを最も好む傾向があった。

日本の閲覧傾向は?

 ロイターのリポートは全体の傾向を説明する部分の後に、各国の状況をつづっている。日本の現況を紹介してみたい。

 テレビ、ラジオ、新聞・雑誌を合わせた中で、最も利用するニュース媒体はNHKがトップ(56%)。

 これに続くのが日本テレビ(44%)、テレビ朝日(40%)、TBS(39%)、フジテレビ(36%)、地方紙(23%)、テレビ東京(18%)、朝日新聞(17%)、読売新聞(17%)、民間ラジオ局(13%)、日経新聞(13%)、米CNN(6%)、毎日新聞(6%)、5%が産経新聞、BBCニュース、スポーツ紙(複数回答)。

 オンラインではヤフーニュースが断トツ(53%)で、これに続くのがNHKニュースオンライン(23%)、日本テレビ(15%)、TBS(13%)、テレビ朝日(13%)、朝日新聞(12%)、フジテレビ(12%)、日経新聞(12%)、MSNニュース(8%)、産経新聞(8%)、テレビ東京(7%)、読売新聞(7%)、民間ラジオ局(6%)、毎日新聞(6%)、日経ビジネス(5%)、地方紙(5%)。

 NHKを好む理由は「正確で安心できる」(59%)、「複雑な事柄を理解できる」(43%)、「強い視点がある」(33%)、「面白い、娯楽性がある」(22%)。

 一方、ヤフーニュースを好む人は「面白い、娯楽性がある」がトップの理由で63%、これに「正確で安心できる」と「複雑な事柄を理解できる」がそれぞれ32%、「強い視点がある」は27%だった。

 日本の項目は共同通信社の澤康臣記者の執筆による。澤氏はロイター・ジャーナリズム研究所のフェロー(2006-07年)だった。

 同氏は他国では人気が高いソーシャルメディアのフェイスブックが日本ではユーチューブやLineに続く、第3位の位置にあることを指摘する。

 ニュースにアクセスする際に最も人気があるソーシャル・メディアとメッセージアプリのランキングでは、フェイスブックは第4位となり、ツイッターの下に来る。

 その理由について、澤氏は総務省の2014年の調査を例に出す。これによると、日本人はオンライン上では匿名であることを好むという。これが、ビジネス上のネットワークを作るソーシャルメディアのリンクトインが他国では人気が高いのに、日本では有効回答者の1%しか使っていない理由ではないか、という。

 筆者は毎年、このリポートに目を通してきたが、いつも気になるのが「オンラインニュースへの参加度」という指標の結果だ。

 「参加度」には様々な意味合いがあるが、「ソーシャルメディアなどで共有した」、「コメントを残した」と定義した場合、最もその度合いが低いのが日本だ。トップは中国(64%)とブラジル(同)で、ほぼ真ん中にあたる米国が41%。筆者が住む英国は後ろから3番目の22%。日本は最後で13%だ。

 国民性と関係があるのだろうか?日本のニュースサイトはコメントができない場合も多いので、これが関係しているのかどうか。興味は尽きない。

今年のトレンドは?

 さて、今年、ニュース業界はどうなっていくのだろうか?

 ロイター・ジャーナリズム研究所は、今年のトレンドを予測するリポート(「ジャーナリズム、メディア、そしてテクノロジーのトレンドと予想 2018」)も発行している。

 世界29カ国のメディアで働く、194人のデジタル・ニュース担当者に聞いたところ、最も懸念しているのはフェイスブック、グーグル、アップルなどのいわゆる「プラットフォーム」と言われる企業が影響力を増していること(44%)だった。

 半数に近い担当者が有料購読をデジタル収入の要と考えていた。

 成功の鍵とされているのが「音声」だ。58%がポッドキャストや音声で作動するスピーカーを使うことに力を入れるつもりであるという。また、72%が人工知能(AI)を使った実験を行うことによって、記事のおすすめ機能を向上し、記事の制作を効率化させたいと考えている。

 筆者は先月、日本に一時帰国していたが、家電販売店で見かけたのがアマゾンのエコーなど、音声でニュースなどを流す機器だった。高額というイメージがあったが、機器によっては3000円という価格のものもあり、買いやすくなっているようだ。実際に利用しているという人も友人の中にいた。「音」が確かに鍵になりそうだ。


by polimediauk | 2018-04-05 16:25 | ネット業界