小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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 7月16日、午後6時半からロンドン大学SOASで開催された「伊藤詩織さんを囲む会」は、「日本の未来をイギリスから考える会」の主催者(小野信彦、小林恭子ほか全5人)を含めて約50人が参加して行われました。


開催趣旨:

 セクシャル・ハラスメントや性的暴力に対して声を上げる「MeToo」運動が世界中に広がっています。日本でも、財務次官による女性記者へのセクハラが報道されたことでこの問題にスポットライトが当たり、ジャーナリズムに携わる女性による職能集団「メディアで働く女性ネットワーク」が組織化されています。日本の雑誌を手に取ると、続々と「セクハラ」「性暴力」が特集記事のトピックとして選択されるようになりました(「新聞研究」、「Journalism」、「世界」など).

 英国では、6月26日に大和日英基金で「日英のMeToo運動」と題されたイベントが開催され、熱い議論が交わされた後、2日後の28日には、性犯罪に対する日本社会の状況を変えるために活動を続けるフリーランス・ジャーナリスト、伊藤詩織さんに焦点を当てたBBCのドキュメンタリー番組「日本の秘められた恥」が放送され、大きな反響を呼びました。日本の性犯罪についての法律をより実態に即したものに変えるため、7月9日から13日まで性暴力被害当事者団体「Spring」 が英国を視察し、ロンドンで公開イベント(7月11日)を開催したこともあって、「状況を変えていこう」、「英国に住む邦人ができることを知りたい」という機運が高まっています。

 そんな今、滞英中の伊藤さんを囲み、性による差別を解消し、男女ともに生きやすい社会を作るにはどうしたらいいかを一緒に考えてみよう、これから何ができるかについて双方向の会話をしようというのが開催理由でした。

「日本の秘められた恥」  伊藤さんを語り手としたドキュメンタリーをBBCが放送



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(写真撮影はウェディング・フォトグラファー渡辺未知さん。)

 

 伊藤さんは番組制作までの背景を語り、放送後には英国内から数百件の応援メッセージを受け取ったそうです。「今何ができるかと一緒に考えてくれるメッセージ」で、非常にうれしかったと話しました。

 30分ほどの伊藤さんのお話の後、会場との質疑応答になりました。何人もの方が指摘したのは「BBCの番組を日本でも放映できないか」という点です。伊藤さんによると、BBCの番組を制作したのは「True Vision」という会社でこちらに連絡してみればどうかとのことでした。


 男女ともに生きやすい社会を作るため、しっかりした性教育や、人と人との関係性を子供のころから教えることの重要性も取り上げられました。


 その1例が、オーストラリアのビクトリア州の小学校で導入されている「リスペクタフル・リレーションシップ(尊厳を持った関係性)」という授業です。(参考:)こちらのウェブサイトによると、州内では1000校に導入されており、互いに対する敬意(レスペクト)を持って接することの必要性を子供の頃から教える授業のようです。


 日本のメディアの経営陣に女性を増やすことの必要性も、話題に上りました。バズフィードが報じた民放連女性協議会による調査では、在京の放送局の中で「役員」や「最高経営責任者」で女性がゼロのところが圧倒的という結果があったことを踏まえてのお話です。


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 会は午後8時過ぎには終了しましたが、伊藤さんの周りに参加者が集まり、一人一人との歓談が9時ごろまで続きました。


 (文責:小林恭子)



by polimediauk | 2018-08-11 16:53 | ロンドン

 (英国の邦字紙「英国ニュースダイジェスト」に掲載中の筆者のコラム「英国メディアを読み解く」に補足しました。)

 「ボリスはどこだ? 」

 6月末、ウェストミンスター議会での審議中、野党の労働党議員から叫び声が上がりました。日本人にとってもなじみが深いヒースロー空港(ロンドン西部)に、第3の滑走路を新設する法案を国会で審議していたときのことです。

 「ボリス」ことボリス・ジョンソン外相(当時。7月9日辞任)は、前職のロンドン市長であったときから新滑走路の建設には大反対の姿勢を取ってきましたが、この日、その姿が見当たらなかったのです。

 空港の設備拡張賛成派と反対派の議論が白熱する中、最終的に政府の建設案は可決されました。ジョンソン氏はアフガニスタンを訪問中で、票を投じることはできませんでした。

 新滑走路は2021年に建設が着工され、26年までに完成する予定です。総事業費は140億ポンド(約2兆460万円)に上るそうです。

 ヒースロー空港は、第1次世界大戦中に軍用機の発着地となったのがその始まりです。1930年代には、航空機の組み立てや試験飛行に使われるようになりました。第2次大戦が勃発すると小規模の商業空輸を取り扱い、戦後は空軍に接収されました。「ロンドン空港」が敷地内で建設されたのは1944年。2年後には民間航空局に返還され、民間空港として正式オープンします。「ヒースロー空港」と名称変更されたのは1966年です。現在は「ヒースロー空港ホールディングス」が所有者になっています。

 国際線利用者数では世界第2位(2017年は約7320万人)の同空港ですが、敷地面積はほかの欧州の主要空港と比較すると半分以下で、滑走路も2本しかありません。国際競争の面から、そして旅客サービスを向上させるためにも、空港設備の拡張が長年の課題となってきました。

 今回の新滑走路建設決定までには、長年の紆余曲折がありました。設備拡張を掲げた白書が公表されたのは2003年。07年のパブリック・コンサルテーションを経て、09年、当時の労働党政権が新滑走路建設を支持します。しかしその後、地球温暖化への影響、地域住民からの騒音や大気汚染問題への懸念が、大きな抗議運動に発展していきます。

 2010年の総選挙戦では、野党だった保守党と自由民主党が新滑走路建設反対を主張し、当時のロンドン市長ジョンソン氏は、テムズ川河口に浮かぶ人工島に新空港を建設するという大胆な計画をぶち上げました(!)。このときの総選挙で勝利した保守党と自民党が連立政権を組み、新滑走路建設案を中止してしまいます。

 それでも、英南東部の空の旅の受け入れ能力を拡大するための試みは続いていきます。

 2012年には拡張の可能性を査定する「空港委員会」が立ち上げられ、その翌年出された3つの提案の中の一つが第3滑走路の建設でした。政府がこれを支持する意向を示したのが、その3年後。そして今年6月上旬、政府が建設計画を閣議で了承し、これを踏まえて議会で同月25日に採決が行われ、ようやくゴー・サインが出ました。

 この採決に関してクリス・グレイリング運輸相は、「5つの誓約」を表明し、その中で「事業費に税金は投入しない」と約束しました。拡張計画は10万人以上の新規雇用を生み出し、740億ポンド相当の経済効果があると述べています。

 この第3滑走路の建設により、ヒースロー空港の年間の旅客輸送能力は1億3000万人に増える予定だそうです。また、環境対策や周辺住民への補償として26億ポンドを使うことも明言しています。

 でも、不安要素も多々あります。

 本当に事業費を民間資金だけで賄えるのか、ほかの空港と比較して高いと言われるヒースローの空港使用料が更に上がるのでは、そしてこれが運賃に転嫁されるのではという懸念です。新滑走路周辺の道路整備による交通渋滞も、頭痛の種と言われています。立ち退きを余儀なくされる約800戸の住人にとっては、大きな決断のときとなります。

 サディク・カーン現ロンドン市長を含め、滑走路建設反対派の声は依然として強く、これからも論争が続きそうです。

キーワード 5つの誓約(Five point pledges)

 グレイリング運輸相は、ヒースロー空港拡張で5つの原則を確約しました。(1)税金は使わない、(2)経済効果(新国際線の開通、10万人の新規雇用、740億ポンドに上る恩恵)、(3)国内全体での恩恵(国内線航路を15%増発、地域経済活性化)、(4)環境保護(温暖化や大気の質の基準を維持、夜間飛行制限に新基準など)、(5)誓約順守に法的縛りをかける。さて、これは守られるでしょうか。


by polimediauk | 2018-08-10 20:07 | 英国事情

(英国の邦字紙「英国ニュースダイジェスト」の筆者コラム「英国メディアを読み解く」に補足しました。)

 英国のNHS(National Health Service)こと「国民医療制度(国民保健サービス、と訳されることもあります)」が先月、創設から70周年を迎えました。税金で運営されているため、英国に住む人は基本的に無料で医療サービスを受けられます。

 社会を構成するすべての人々に一律の医療サービスが無料で提供されるようになるまでには、どんな経緯があったのでしょう?

「National Health Service」という言葉を最初に使ったのは、英北西部リバプールのベンジャミン・ムーア医師だと言われています。1910年出版の著作の中で言及し、1912年には「国家医療サービス協会」を立ち上げました。

 NHS発足前は、病気になったら自分で医療費を払うのが原則でした。貧困者が治療を受けるのは容易ではなく、いったん職を失えば、路頭に迷う可能性もありました。

 1911年、転機が訪れます。自由党政権のデービッド・ロイド=ジョージ財務相の主導で、「国民保険法」が成立したのです。政府、雇用主、被雇用者が保険料を拠出することで、疾病時に医療費を負担し、失業時には給付金を支払えるようになりました。

 当時は社会福祉というと「貧困者など一部の人に慈善で与えられるもの」「貧困度を測り、必要な人にだけ提供するべき」「国家予算を悪用されないようにしなければ」という意識が根強かったものの、第2次世界大戦(1939~45年)が勃発し国民総動員で戦う時代になると、「すべての人に与えられる一つの権利」として次第に認識されるようになりました。戦時中、オックスフォード大学ユニバーシティ・カレッジの学長だった、経済学者のウィリアム・ベバリッジが、政府から社会保険制度の状況を検討するよう依頼されます。1942年に発表された「ベバリッジ報告書」は、すべての人の疾病を予防・治療する保険医療制度の設立を提唱していました。

 1945年の総選挙で、この報告書の実現をマニフェストの一つに掲げて戦ったのが野党・労働党でした。第2次大戦で英国を勝利に導いた宰相、ウィンストン・チャーチルの率いる保守党を打ち破って政権に就いた労働党は、1946年に国民保健サービス法(National Health Service Act)を成立させます。その2年後、NHSと呼ばれる国民医療制度がいよいよ始まりました。

 NHSは地域ごとに4つ(イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランド)に分かれて運営されています。合法的に英国に滞在する外国人も加入できますが、2015年以降、欧州経済領域(EEA)以外の国籍を持つ移民の場合、査証取得・延長時にサービス利用料として年間150~200ポンドを支払うことが義務付けられました(永住権保持者は含まれません)。

最近は「常に危機状態」

 ここ数年、NHSの財政難や人手不足、混雑した病院の内情を伝える報道をよく目にするようになりました。

 NHSは今、膨れ上がる医療のニーズに病院側が対処しきれず、苦境に陥っているのです。

 政府の公的サービスへの支出額の中で、NHSへの拠出は30%にも上りますが、支出が増えている大きな原因の一つは高齢化です。医療技術の進歩で、70年前と比べて平均寿命が13歳も伸びています。

 65歳以上の人口比率が増加の一途をたどっており(2015年では約18%)、高齢になるほど長期的な疾病(糖尿病、心臓病、認知症など)の比率が高まっていきます。また、平均的な65歳のNHSでの医療ケアにかかる費用は30歳の2.5倍になるそうです(BBC ニュース、5月24日付)。

 新薬の価格高騰、政府の緊縮財政でNHSへの予算の増加率が抑えられていることも運営を圧迫しています。緊縮財政策は、高齢者に対する自治体の生活支援サービスの削減にもつながりました。

 NHSの恩恵を何年も受けてきた筆者は、「すべての人が無料で利用できる」という伝統をぜひ死守して欲しいと願っているのですが、担当の家庭医(GP)への予約が取りにくく、予約時にクリニックに行っても長い間待たされることが続くと、NHSも「そろそろ限界に来ているのかな」と思ったりします。

キーワード

Beveridge Report(ベバリッジ報告)

 経済学者ウィリアム・ベバリッジが委員長となった「社会保険及び関連サービス各省連絡委員会」が、1942年に社会保障制度の拡充のために提出した報告書です。健康保険、失業保険、年金などを、すべての国民が対象となる統一制度として提唱しました。「ゆりかごから墓場まで」と言われる、第2次大戦後の社会保険制度の土台となりました。


by polimediauk | 2018-08-08 19:43 | 英国事情

(新聞通信調査会が発行する「メディア展望」7月号の筆者原稿に補足しました。)

書評:原野城治著(ホルス出版=1400円+税)

「日本の発言力と対外発信」

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 日本の海外に向けた発信力は、今一つなのではないか?そんな疑問を持ったことはないだろうか。

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 本書の著者原野城治氏は、日本の発言力や対外発信の現状に強い危機感を抱く。同氏は時事通信社で政治部、パリ特派員、解説委員、編集局次長を務めた後で対外発信の現場に飛び込んだ。多言語季刊誌「ジャパンエコー」を経営・編集し、多言語サイト「ニッポンドットコム」の運営を約15年間、担当した。世界の舞台での日本の発言力・発信力を観察するには絶好の立場にいた。

 原野氏は、日本からの対外発信の目玉として「マンガ・アニメ」ばかりという選択肢のなさを見て、「日本の文化的劣化さえ覚える」という。また、「IT時代において、政府レベルに最低限必要な『国連公用語六カ国語』(英、仏、西、中、露、アラビア各語)の対外発信基盤が常設されていない現実は、『ダメな国だ』という諦めより虚しさに近いものだった」。

 第1章から3章まで、著者が見聞きした対外発信の具体例がつづられてゆく。

 第3章では多言語発信の現状が紹介されているが、最も多くの言語でラジオ放送を行っているのは「中国国際放送」(CRI)で61言語、これに米「ボイス・オブ・アメリカ」(42言語)、ロシアの「スプートニク」(39言語)と続く。NHKの国際放送(「NHKワールド」)は18言語だという。国際戦略の違いが出た格好だが、このままで良いのかと著者は問う。

 第4章では、日本のメディアによる英語での情報発信が「規模が小さく、採算的にも赤字を垂れ流し」、「英語力も質量的に不十分」と指摘する。かつて日本の英字媒体で働いていた筆者にとっては、耳が痛い。何とかならないものかと筆者自身が焦燥感を持ってきた。

 著者は第5章以下で、日本や欧米諸国が対外発信、対外文化事業に力を入れた1930年代の歴史を紐解く。1934年に発刊されたのが日本初の本格的なグラフ誌「Nippon」。写真家・編集者の名取洋之助氏が中心となって編集され、日本と日本文化の国際性をアピールすることを主眼とした。44年までの10年間に英語、ドイツ語、フランス語、スペイン語で刊行されている。同じ頃に設立された「国際文化振興会」の資金援助を得て、名取は「国内の多様な写真撮影を行い、アーカイブス化して海外に配信した」。

 第6章は戦後の動きを扱う。「国際交流、異文化交流の『民力』の拠点となった」、「国際文化会館」の創設に尽力したジャーナリスト、松本重治氏に焦点があてられる。

松本重治氏(ウィキペディアより)
松本重治氏(ウィキペディアより)

 米エール大学に留学した松本氏は歴史学の教授だった朝河貫一博士に出会い、「本物の国際人は、本物の日本人でなければならない」と教えられる。1951年に締結されたサンフランシスコ講和条約をめぐる過程で、松本氏は戦前の日米人脈を活用したという。日米文化交流の土台が作られてゆく経緯が本書に詳細に記されている。 

 国際文化会館を舞台とする松本氏らの国際交流は「日米の学者や有識者を中心とする人的ネットワークに依存したもの」で、終戦から独立の回復へという混乱の中で「物事を多面的に見ようとする知的エリートによる交流と対話の復活」を軸とした。これには「日米両国間のコミュニケーションが不全状態に陥った歴史に対する」松本氏の「強い反省の意が込められていた」。

 終章では著者が深く関わっていた「ジャパンエコー」創刊にまつわる話や、日本の等身大の姿を伝えるためのコンテンツ作りの肝が紹介される。例えば「知ったかぶりをしない」、「しっかり時間をかける」、「海外の読者をどんなことがあっても『見くびらない』」など。

 著者は、これからの日本は「静かなる有事」に備えなければならない、という。「静かなる有事」とは、「有事」ではないが、漫然とした「平和な時」でもない状態を指す。国際社会において日本からの発言力をこれまで以上に高め、「等身大の姿を説明するための持続的で強力な対外発信基盤の構築」を提唱する。そのための必要最低限の条件として著者が勧めるのは、国連公用語による対外発信だ。「言語戦略は極めて重要な国家戦略であって、言語はソフトパワーそのもの」だからだ。

 日本の対外発信の歴史を振り返り、今後を考えるための一冊と言えよう。 


by polimediauk | 2018-08-07 18:06 | 日本関連


 米国人女優のメーガン・マークルさんが、エリザベス英女王の孫にあたるヘンリー王子と結婚して2か月半が過ぎた。

 結婚前から、「なんだか危ないなあ・・・」と筆者が思っていたのはマークルさんの家族の行動だ。

 父親トーマスさんは、結婚式の直前、娘のために良かれと思って、パパラッチと示し合わせて自分の日常生活を紹介する写真を撮らせた。一見、「たまたま写真に撮られた」ようにも見えたが、あらかじめ準備していたことが発覚すると、「やらせ写真だ」として非難の嵐となり、式の出席を辞退せざるを得なくなった。トーマスさんの「イメージ向上」のために写真撮影を父に勧めたのはメーガンさんの異母姉妹だった(トーマスさんとメーガンさんの母親はすでに離婚している)。

 しかし、父親として娘の結婚式に出ないのはあまりにもつらいことである。メーガンさんがトーマスさんに出席するよう説得し、いったんは「出席する」としたトーマスさんだったが、直前になって心臓手術のために結局出席できなかった。式前後の様々な心労が災いしたのかもしれないが、「お騒がせ男」と言ってよいだろう。

 

結婚式の様子を伝える、英各紙 (撮影 筆者)
結婚式の様子を伝える、英各紙 (撮影 筆者)

 さて、結婚式が終わり、ヘンリー王子とメーガンさんは新たな人生のスタートを切った。

 しかし、父トーマスさんは黙っていられない。

 先月末、英国の日曜紙「メール・オン・サンデー」の長時間インタビューに応じ、娘と全く連絡が取れない状態であることを暴露したのである。

 「娘は私を完全に切ってしまいました。とても傷ついています」

 「娘にかけられる電話番号を持っていたんですが、『王室が娘を変えている』などと私が批判した後、使えなくなりました」

 「電話が不通になりました。もう娘と連絡できる番号がないんです」

 そして、こんなことまで言った。「私が死んだ方が娘にとってはいいのだと思います」。しかし、「和解を望んでいます。娘と話をしないままに死ぬのは嫌ですね」。

 ここまで言われたら、娘はどうしたらいいのだろう。

 さらにトーマスさんはこうも言っている。「メーガンや王室にはもう我慢がなりません。黙っていてほしいと思っているんですよね。いなくなればいい、と。でも、黙ってはいませんよ」

 「沈黙なんかしない。いらいらするのは、メーガンが自分は私よりも上だと思っていることですよ。私がいなければ、何でもない存在なのに。今のメーガン妃があるのは私がいたからなんだ。メーガンのすべてが、私が作ったようなものなんだ」。

 ヘンリー王子の母になる故ダイアナ妃(1997年、事故死)にもトーマスさんは言及する。もし現状を知ったら、ダイアナ妃は怒るだろう、と。

 身内がメディアに出て、家族の内情を吐露する・・・これは英王室にとって、ご法度だ。

 ただし、もちろん、故ダイアナ妃は夫であるチャールズ皇太子との不仲をBBCのテレビ番組「パノラマ」で暴露し、それ以降、皇太子とダイアナ妃の間でメディアを使った戦いが発生してゆくのだがー(2人は1996年8月末に離婚した)。前例がないわけではないのだが、それにしても、である。

 いくらメーガンさんが新しい家族・王室の一員としてがんばろうとしても、家族(の一部)が足を引っ張る…といった構図が見える。

 トーマスさんの行動は英王室から眉をひそめられるばかりか、多くの国民にとっても驚愕であり、決して好感は持たれないだろう。

 

 というのも、「米国からやってきた」、「黒人の血を引く女性」、「元女優」ということでメーガンさんは大人気だし、トーマスさんはそんなメーガンさんを批判していることになる。かつ、英メディアに出ることでトーマスさんが巨額の報酬を得るのは確かで、「お金儲けのために告白をしているのではないか」と思われても仕方ない部分がある。

 読者の皆さんも、ご経験があるだろう。結婚後、当人同士がいくら互いを気にいっていても、それぞれの家族同士が相手を嫌っていたり、衝突したりすることが。自分の家族や親せきが「見苦しい」振る舞いをしてしまうことも多々ある。当人たちにはどうしようもない。

 筆者自身、トーマスさんの行動は「ちょっとなあ」と思う。娘に連絡できないつらい心情は理解できるとしても、メディアを通じて訴えるというやり方はどうなのか。娘のことを考えるなら、どれほどつらくても表に出ないやり方でアプローチするべきではないか。娘よりも、自分の気持ちを優先する行動をしているように見えて仕方ない。

 ・・・とはいうものの、一定の同情も感じる。

 トーマスさんは英国の市民ではないし、娘が王室に嫁いだからと言って、沈黙を強いられる必要はない。言論の自由があるはずだ。どこかで自分の言いたいことを言わないと、病気になってしまう可能性もある。今回のインタビューがたとえみっともないものであったとしても、少なくともトーマスさんの声は娘に届いたはずだ(気持ちを傷つけただろうが)。今、メーガンさんを慰め、彼女の相談相手になっているのが、ヘンリー王子の兄にあたるウィリアム王子の妻キャサリン妃だというが、本当だろうか。2人はともに「一般人」で王室に嫁ぎ、年も36歳同士である。

 一番の責任は英王室にあるように思う。誰か父トーマスさんをケアする人はいないのだろうか?

 一抹の憐れみを感じさせるトーマスさんの姿だ。

 そろそろ、メーガンさんが米国に「里帰り」をして(トーマスさんはメキシコに住んでいるそうだけれども)、2人がお互いの気持ちを十分に話す機会を持ち、心を通い合わせることができるようにと筆者は強く願っている。


by polimediauk | 2018-08-03 16:26 | 英国事情

(GENサミットは、リスボンのコメルシオ広場にある会場で開催された(撮影 小林恭子)


(新聞通信調査会が発行する「メディア展望」7月号の筆者原稿に補足しました。)

***

 5月30日から6月1日まで、ポルトガルの首都リスボンでメディア会議「GENサミット」が開催された。「GEN」(ジェン)はGlobal Editors Networkの略である。今年は世界70カ国以上の約840人のメディア関係者が参加した。

 GEN(2011年創設)は約6000のメディア組織 の編集・経営幹部を中心とした集まりで、編集室のデジタル改革を進めることを目的とする。メディア界とテクノロジー業界が出会う場の1つだ。

 年に一度開催されるGENサミットには、メディア界の大物と共に第2のフェイスブックやグーグルを目指す起業家たちやジャーナリストらが参加。メディア界、テクノロジー業界が抱える諸問題をテーマに議論が行われると同時に、大手テック企業が指南役となっていかにデジタル・ツールを編集室で使うかを教えるワークショップも複数開催された。

 「テクノロジー」、「女性」という2つのキーワードに沿った議論を紹介してみたい。

AI、ブロックチェーンが話題に

 数あるセッションの中で繰り返し取り上げられたトピックが、「AI」(人口知能)と「ブロックチェーン」だ。

 サミット初日の最初のセッションは、人間が不要となる世界を連想させるAIに対する恐れを取り除く話から始まった。

 フェイスブックのAI調査部欧州担当のアントワン・ボーダーズ氏によれば、「簡単なAI」は編集作業の至る所で使われている。例えば「音声を書き取ったり、写真にキャプションを付けたりする作業」だ。ある男性がサーフィンをしている写真には、AIの利用でこれを正確に描写するキャプションが作られたが、画像が複雑になると絵柄とは異なる描写になってしまう。人間には簡単なことでも、コンピューターには難しいことがあるという。

 2つ目のセッションでは、英BBCが「チャットボット」を使って記事を構成する具体例を披露した。「チャット」はネットを使った主としてテキスト形式でのリアルタイムのやり取りのことだが、「ボット」とは「ロボット」の略で一定のタスクを自動化するためのプログラムを指す。「チャットボットを使う」とは、人間(利用者)とAIを組み込んだコンピューターとが互いに人間同士であるかのような双方向の対話をすることだ。

 例えば、BBCニュースのウェブサイト上にある、英国の欧州連合(EU)からの離脱(「ブレグジット」)についての記事(5月24日付)を開くと、「アスク・ミー(私に聞いてください)」というタブが文中に表示され、最初のメッセージとして「ブレグジットは難しすぎて分からないと思っていませんか?」という問いが出る。その下には、ブレグジットについて理解を深めるための3つの質問が示される。利用者がこの中の1つを選ぶと、該当する質問に対する答えが次々と会話形式で出てくる。まるで友人とメッセージの交換をしているようだ。BBCのポール・サージェント氏は、「友人に話しかけるように文章を書くこと」と担当者に教えているという。

 同じセッションに出た米サイト「クオーツ」のジョン・キーファー氏によれば、同社では社員同士の連絡用メッセージ・サービス「スラック」の中で「クワックボット」を使っている。このボットに音声ファイルを落とし込むと、自動的に音声を文章化してくれる。人間の手を使えば書き取りには膨大な時間がかかる。また、音声ファイルを聞く時間がない社員もいるが、文章であればさっと目を通すことができる。クワックボットは時間の節約になっているという。

 もう1つ、大きな注目の的となっていたのがブロックチェーン技術だ。これは仮想通貨ビットコインの中核となる、取引データ技術を指す。取引のデータ(履歴)は「トランザクション」と呼ばれ、複数のトランザクションをまとめたものを「ブロック」とする。

 デロイトトーマツによる資料「メディア業界におけるブロックチェーン」によれば、ブロックチェーンとは「トランザクションをほぼリアルタイムで時系列に記録する変更不可能な分散型デジタル台帳」。他の複数の資料によれば、ブロックが重なるように保存された状態(「ブロックチェーン」)になっている。分散して管理され、利用者のコンピューターに保存される。

 メディアはブロックチェーンをどのように利用できるのだろうか?

 30日午後のセッションでは、ブロックチェーン技術を少額決済、中間業者の撤廃、事実検証に活用できることが紹介された。

 ブロックチェーンのプラットフォームを提供する米シビル社のダニエル・シーバーグ氏は、この技術を使えば「コンテンツは数万、数十万のコンピューターに配信され、永久的に存在する。消えることがない」という。誰もがその真偽を検証でき、利用者から信頼を勝ち取ったニュース制作者あるいは検証者は少額決済で報酬を受けることもできる。ブロックチェーンは「書き手、コンテンツ、読者が直接つながることができる世界だ。中間業者は必要なくなる」。

 ブロックチェーンを生かして、どのようなビジネスモデルを作るのか。次回のGENサミットまでにより具体的な例が散見されそうだ。


女性の勇気に総立ちの拍手


 米国で始まった性的ハラスメントや性暴力の告発運動「#MeToo」が、世界中に広がっている。

 6月1日のセッション「#MeToo―ジャーナリズムの唯一無二の瞬間」では、女性ジャーナリスト、編集者、リサーチャーらがその体験談を語った。米慈善組織「プレスフォーワード」のダイアン・ピアスバージェス氏は、性的ハラスメント・暴力の問題は「ジェンダー問題ではなく、人権問題だ」と述べた。

アヤブ氏(撮影 小林恭子)
アヤブ氏(撮影 小林恭子)

 

 パネリストの一人、インドの調査報道記者ラーナ・アヤブ氏の話を紹介しよう。

 同氏は、2年前に出版した本の中で、モディ首相と与党・インド人民党のシャー党首が2002年に北西部グジャラート州で発生した地域紛争の共謀者だったと書いた。インドの下層カーストに属する人々や少数民族に対する暴力についても多くの記事を書き、モディ首相がこうした暴力に対し十分な対応をしていないと批判した。アヤブ氏は「反体制的な記事を書くこと、女性であること、ヒンドゥー教徒が大多数を占めるインドでイスラム教徒であること」などの理由から、ソーシャルメディア上で攻撃を受けてきたという。

 

 今年4月、アヤブ氏についての間違った情報がツイッター上で広がった。同氏が児童レイプを支持したという誤情報だ。これを受けて同氏への批判が殺到した。メッセージアプリ「ワッツアップ」では自分の顔と裸の女性の身体が合成された画像が流布し、ツイッターではアヤブ氏の電話番号や住所などの個人情報が拡散された。男性たちが裸の写真画像や「レイプするぞ」などのメッセージを同氏に大量に送ってきた。超過熱状態は約2週間、続いた。「心身ともにボロボロになった」という。

 アヤブ氏は一連の攻撃の背後には「政治的意図があった」と指摘する。政権を批判する複数の女性ジャーナリストたちが、同様の扱いを受けたからだ。国外で活動をしたほうがいいのではないか、とよく言われることがあるが、アヤブ氏はインドを去るつもりはない。「私を黙らせるのが攻撃の目的だから。その目的を叶えさせたくない。これからもインドに住み続ける」。勇気ある発言に対し、会場内の参加者全員が総立ちとなり、アヤブ氏に拍手を送った。

 サミットは42のテクノロジー企業がスポンサーとなって開催された。来年は今年同様リスボンで、6月19日から21日まで開催予定だ。

***

 以下のブロックチェーン(「現代ビジネス」より)についての記事もご参考に。

シリア難民支援で最先端のブロックチェーンが使われている深い理由

蔓延する「ブロックチェーンは善」という空気を鵜呑みにできない理由


by polimediauk | 2018-08-02 16:14 | 欧州のメディア