小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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 2017年秋以降、セクハラや性犯罪に声を上げる「#MeToo運動」が拡大している。職場での性差別解消の動きを後押しする機運もできた。

 しかし、2019年現在でも、「まだこうなの?」という例もあちこちで散見される。

 英スコットランドのグラスゴーで、6月1日から3日まで開催された第71回世界ニュースメディア大会・第26回世界編集者フォーラムの中の「女性ニュースサミット(Women in News Summit)」の様子を紹介してみたい(主催は世界新聞・ニュース発行者協会=WAN-IFRA)。

「同じ日に同じ職に昇進のオファーだが、男女で報酬の差」

 英BBCで、性による給与格差が大きくクローズアップされたのは2017年7月。15万ポンド(約2100万円)以上の高額報酬者のリストを発表したところ、男性ばかりが上位を独占した。

 国家統計局(ONS)によると、英国全体の男女の賃金格差は17年時点で18・4%(女性の賃金が男性の賃金よりも18・4%低い)で、BBCは、内部調査でその差は9~10%としているため、平均からすれば悪くないのだろうけれど、女性陣の一部にとっては大きな衝撃となった。

 怒った女性の一人が、中国からの報道を統括する「中国編集長」という職に就いていたキャリー・グレイシー氏だった。4人の国際版編集長(男性2人、女性2人)の中で、男性陣が女性陣よりも「50%以上高額の」報酬を得ていたことに気づいた。

 グレイシー氏は中国編集長に任命されたとき、BBCは北米編集長(男性)と同程度の金額の報酬となることを約束した。これを前提に、グレイシー氏は赴任した。ところが、実際は男性の方の報酬がはるかに高かった。BBCと話し合いを進めたが、納得がいかなかったグレイシー氏は、昨年1月、男女の報酬差に抗議するため、中国編集長職を辞任した。同じ年の6月、BBCはこれまでの不当な扱いを謝罪し、不足額をグレイシー氏に支払った。

 BBCラジオ(「ラジオ4」)の朝のニュース解説番組「トゥデー」で司会者だったセイラ・モンタギュー氏も、同番組の男性司会者の報酬がはるかに高いことに抗議し、「トゥデー」を自ら去った。現在は午後のニュース番組「ワールド・アット・ワン」で司会役として働いている。

 

 英国で大きく注目されたこのような例が続々と発生しているのだから、よほど事態は改善しているのだろうと想像するが、実はそうでもないことが分かったのが、今年5月。

 

自分の身に起こったことについて話す、BBCのマーティン氏(Wan-Ifra Flickrより)
自分の身に起こったことについて話す、BBCのマーティン氏(Wan-Ifra Flickrより)

 

 BBCラジオのニュース部門の編集者カレン・マーティン氏が、その内情を「女性ニュースサミット」で語った。

 マーティン氏は、「副編集長」に昇進するオファーを受けた。同じ日、同じ職場で働くある男性も同一の職へのオファーを受けた。昇進のための選考過程は同じで、職務も全く同じなのに、自分の報酬は「1万2000ポンド(約165万円)低かった」。上司からは、昇進は「正当な評価だね」とねぎらいの言葉をかけられた。「それなのに、報酬が男性よりも低いなんて」。金額自体に文句を言っているわけではなかったが、「男女で平等な金額であるべき」と感じた。

 マーティン氏は、この昇進を受けるべきかどうか、迷ったという。シングル・マザーのマーティン氏は娘たちにどうするべきかを聞いてみた。「お母さんは、いつも堂々と生きるべきだって言っているわよね」。これで心が決まった。昇進を断ることにしたのだ。

 BBCは「これまでの勤務経験や業績によって、同じ職務でも報酬に差がつくことはあり得る」としている。

 マーティン氏は事の次第を同僚に電子メールで伝えた。BBCのニュースでも報道された。

 「世界中の人から、たくさんの激励のメッセージを受け取った」。原理原則よりも「日々の生活を優先させなければいけないときもある。でも、職場の屈辱をどれぐらい我慢できるかが目安になる」とマーティン氏は語った。

 時に涙声になったマーティン氏。悔しさがよみがえってきたように見えた。

「50:50」は拡大中

 前向きな動きもある。昨年の女性ニュースサミットで紹介されたのが、BBCニュースが取り組む「50:50プロジェクト」。番組「アウトソース」で司会者を務めるロス・アトキンス氏の発想で、2017年に始まったプロジェクトで、番組出演者の男女比を出来得る限り半分ずつにしようという試みだ。

 「アウトソース」がまず開始し、ほかのニュース番組にも参加しないかと声をかけた。どれぐらいの比率を達成したのかを番組毎に競い合った。

 プロジェクト・リーダーのニナ・ゴスワミ氏がニュースサミットで語ったところによると、取材対象者の男女比は対象外だが、取材をするリポーター、司会者、ゲストの出演者、事例紹介などの際に男女半々を達成するように努めたという。英語での放送番組を当初は対象にしていたが、アラビア語放送も参加するようになった。

 専門家のコメントを必要とするとき、「女性の数が足りない」という声が出た。制作現場のスタッフから「女性の専門家を探す時間がない」といわれた。そこで、ソーシャルメディアやつてを通して人材発掘をした。女性の専門家のデータベースには、今や約1000人が登録されているという。

 筆者は英国でテレビを見ていて、ニュース番組の制作者・出演者に女性が増えたように思っていたが、意識的な動きもあったことが分かった。

5月31日のBBCニュースのウェブサイトの画面。たまたまかもしれないが、女性の姿が多かった(BBCニュースのウェブサイトから)
5月31日のBBCニュースのウェブサイトの画面。たまたまかもしれないが、女性の姿が多かった(BBCニュースのウェブサイトから)

 「数を増やすこと自体が目的ではない。男女の比率を半々にすることで、人口構成の比率を反映した番組作りを目指している」とゴスワミ氏は語った。

数を単純に増やして、失敗

アンダーソン氏(右。筆者撮影)
アンダーソン氏(右。筆者撮影)

 マイクを握り、「失敗例から学ぶこともあると思う」と話し出したのが、スウェーデンのメディア企業ミッテメディア社の人材育成担当者カリン・アンダーソン氏だ。

 2014年、アンダーソン氏は日刊紙のスポーツ部門のスタッフが全員男性であることに気づいた。

 「54人のジャーナリスト全員が男性。これではいけないと、女性をどんどん増やした。とうとう17人まで増えた」。

 しかし、スポーツ部門に行った女性たちのほとんどが、数か月で退職してしまった。アンダーソン氏は辞めた女性たちに理由を聞いてみた。原因はセクハラだった。男性たちは女性とともに働くことに慣れておらず、性的なジョークを連発していた。こうした事態が発生することを予測できなかった自分を恥じたという。

 

 「文化を変えなければだめだ」と思ったアンダーソン氏は、男女が平等に働くにはどうするかについて、記者やデスクたちに研修を行った。「職場環境は、少しずつよくなっていると思う」。

「いつの間にか、女性の話を多く書くようになった」

 女性ニュースサミットでは、優れた指導者として編集に貢献した女性に賞(「エディトリアル・リーダーシップ・アワード」)を与えている。

 今年のリーダーシップ・アワードの受賞者は、中東・北アフリカ部門がレバノンの日刊紙「L'Orient-Le Jour」のシニア・エディター、アシル・タバラ氏、アフリカ部門は南スーダンのジュバ・モニター紙の編集長アンナ・ニミリアノ氏となった。ニミリアノ氏は飛行機の遅延でサミットには出席できなかったが、タバラ氏はこれまでの道のりとアワード受賞の喜びをサミット出席者に語った。

 

タバラ氏(撮影筆者)
タバラ氏(撮影筆者)

 タバラ氏がジャーナリストとしてのキャリアを開始したのは、1986年。最初はAFP通信の記者だった。レバノン内戦(1975-90年)の真っただ中である。数々の紛争の現場を目にし、タバラ氏はいつの間にか戦争に翻弄される人間の悲劇をつづることに力を傾けるようになった。「いつの間にか、女性の話を書くことが多くなっていた」。

 アラブ・イスラエル紛争、イラク戦争、そしてアラブの春の政権交代。報道に足る出来事には事欠かなかった。2009年から14年まではAFP通信の湾岸局を統括し、巨大なマルチメディア編集室を作り上げた。記事はアラビア語、フランス語、英語で世界中に発信されていった。

 「このアワードを私に多くのことを教えてくれたジャーナリストたちに捧げたい。その多くが女性だった。若い人には、ジャーナリストという職業が落ち目だと思ってほしくない。今こそ、中東でジャーナリストが必要とされているのだから」。

将来は?

 今年で3回目となった、女性ニュースサミット。今回はパネリスト全員が女性で、それぞれの女性たちの話は充実していたものの、来年はぜひ、男性陣を入れたサミットにしてほしいものだ。


by polimediauk | 2019-06-26 21:25 | 政治とメディア

「プライベート主義」を維持しながら、アーチーちゃん誕生

 5月6日、エリザベス女王の孫にあたるヘンリー(通称ハリー)王子とメーガン妃の間に、初の子供(アーチ―・ハリソン・マウントバッテン=ウィンザー)が誕生した

 ハリー王子の兄にあたるウィリアム王子(王位継承順位第2位)の妻キャサリン妃の出産の場合とは異なり、ハリー王子とメーガン妃は出産を出来得る限り「プライベート」に行った。どこで赤ちゃんを産むかは公にされず、出産から数時間で母親メーガン妃が報道陣の前に姿を現すこともなかった。

 ハリー王子の継承順位は第6位で、アーチーちゃんは第7位。父子共に、国王になることはまずないとみてよい。この面から、いつどれぐらい情報公開をするかについて、自由度が高かったのだろう。

 しかし、ウィリアム王子とハリー王子の母は、王室に入る前後から執拗にメディアに追われ、1997年に交通事故で命を落としたダイアナ妃。両王子共に人一倍「プライバシーを守りたい」という気持ちが強く、メーガン妃自身も「情報を選択的に公にする」ことを望んだのだろう。

 出産当日の6日、バッキンガム宮殿が「メーガン妃は分娩に入りました」と午後2時頃に伝えたが、実はその日早朝にもう出産を終えていた。ハリー王子とメーガン妃は公式インスタグラムで出産のニュースを告げ、幸せいっぱいの王子が少数のメディアの取材に応じた。この時の動画がすぐに報道された。

 今か今かと誕生の一報を待ち構えていたメディア側は、「分娩に入った」とされながらも実は生まれていたことを知り、「一体、どうなっているんだ!」と右往左往。正確な情報が入ってこなかったことで、いら立ちや怒り、困惑を感じたメディアもあったようだ。

 出産から2日後の8日、王子とメーガン妃はアーチー君を抱いて、メディアの取材に応じた。短い動画だったが、二人の肉声が聞ける、貴重な動画となった。


 筆者はこの時、若い王室のメンバーが、「子供の顔を見たい、知りたい」という国民の要求を満たしながらも、「自分が設定した状況で子供を見せる」を一つのルールとしていることを、改めて知った。「メディアの都合に振り回されない」という姿勢だ。


 また、「自分たち自身がどう見せるかに深く関与する」ようになった。

 例えば、ウィリアム王子とキャサリン妃が子供たちの誕生記念の画像を公式に出す時、母親であるキャサリン妃自身が撮影した写真を使っている。

 メーガン妃とハリー王子の場合も、アーチーちゃんの姿を初めて公開するにあたり、二人で「こうしよう」と細かく決めたに違いない。どんな背景で、どんな場所で、どんな服装で、赤ちゃんをお披露目するのか、と。

 この「メーガン・ハリー流」は現代的で、手作り感がある。筆者は好感を持った。

 しかし、実は、懸念もあった。

 先の動画の中で、カメラがアーチーちゃんの顔のクローズアップを撮ろうとしていた。クローズアップは瞬時で、アーチーちゃんの顔の片側が垣間見えたのみ。

 テレビでこの動画が紹介されていた時、キャスターが「よく顔が見えないんですよね・・・」と何気なく、言っていた。筆者も、「そうだなあ、もっと見たいなあ」と思ったものだ。


 しかし同時に、筆者は嫌な予感がした。メーガン妃はアフリカ系の血を引く。もしかしたら、アーチーちゃんの肌が浅黒いのかあるいは白いのかをじっくり見たいという人も出てくるはず。そうすると、将来、人種差別主義的な人やメーガン妃を批判する人の攻撃対象になるのではないか。そういうことが起きないといいなあと思った。

 しかし、すでに、「事件」が起きていた。

BBCの司会者がツイート発信

 BBCの「5ライブ」というラジオ・チャンネルで自分の番組を持つ司会者ダニー・ベーカーが、ハリー王子とメーガン妃の赤ちゃんについて、BBCが後で言うところの「重大な判断の誤りがある」ツイートを発信していたのである。

 問題とされたツイートは、ベーカーがすでに削除してしまったが、成人の男女が洋服を着たチンパンジーの手を取っている画像に「ロイヤルべビー、病院を出る」というキャプションがついていた。男女はハリー王子とメーガン妃、チンパンジーが赤ちゃんを指すのは明白だ。

 ベーカーはこのツイートで、アーチーちゃんをチンパンジーに例えてしまった。メーガン妃がアフリカ系であることから、彼女の出自を嘲笑したとも受け取られかねない。

 

 2016年、ミシェル・オバマ米大統領夫人(当時)を「ヒール付きの靴を履いたサル」と評したフェイスブックのコメントを支持し、後に辞職したウェストバージニア州クレイの町長の話を筆者は思い出した。

 BBCは、ベーカーが「素晴らしい放送人」ではあるが「放送局の価値観とは逆行する」として、彼を番組から降板させると発表した。

これまでにも番組降板の経験があった人物

 ベーカーはロンドン生まれの61歳。庶民的で、歯に衣を着せぬ物言い、鋭いジョーク、番組に電話をかけてくるリスナーやゲストに「自分も同じスタジオにいる感じにさせてくれる」ことで人気を博するベテランだ。

 しかし、これまでにもBBCを離れざるを得なくなったことがある。

 最初は1997年。サッカーの試合で「レフリーを痛めつけろ」と番組中に発言して、解雇された。2012年には、平日放送の自分の番組が週末に移動する予定となり、当時の上司らを「愚かでずるがしこい」と批判。これがきっかけで信頼関係が崩れ、BBCを去った。

ベーカーの言い分は

 今回問題となったツイートについては、まずソーシャルメディア上で批判が高まり、ベーカーはツイートを削除。その後で、新たにツイートした。「もう一度(いう)。馬鹿で、思慮に欠けたギャグの画像について、深く謝罪する」。

 先のツイートは「王室対気取った服装をしたサーカスが大好きな人々についてのジョークのつもりだった」。ここでいう、「サーカス」とは赤ちゃんの誕生で大騒ぎをするメディアとこうした報道を追う人々を指すのだろう。しかし、これが「サルと人種についてのものであるとして解釈されてしまった。だから、正しくも、削除した」。

 続けて、「王室のウオッチングは自分の得意な分野ではない」。

 その前後のツイートでは、「ほかの王室のメンバーや(白人の大物政治家)ボリス・ジョンソンの子供」にも、この画像を使っただろうという。「笑えるイメージだから(使った)」、「大きな間違いだった」、「グロステスクだ」、「アーチー君、ごめんね」。

 その後、彼の家の前に集まった報道陣に対しては、「人種差別的とは思わない」と述べている。この画像を使用したことについては「考えが足りなかった」ことを認めている。

 彼のツイートへの反応を見ると、圧倒的に先のツイートを非難する声が多い。

 ちなみに、「人種差別的とは思わない」という表現は、人種差別的発言をした人が良く使う表現だ。「つい、うっかりして」そんな発言をしたが、「自分は人種差別的ではない。人種の異なる友人がたくさんいる」というのである。

 ベーカーは、確かに人種差別のつもりはなく、画像も単に「笑える」と思って使ったのかもしれない。赤ちゃんにまつわる大騒ぎ(「サーカス」)を批判するのも、まっとうな行為だと思う。

 しかし、発信する前に、どうしてピンとこなかったのか?感覚が鈍すぎたように思えて仕方ない。

そのツイート画像とは

 削除されたツイート画像だが、その内容の描写を聞いて、筆者はぞっとした。しかし、オリジナルの画像にはどういう意味があったのだろうか?

 …と思っていたところ、10日付のデイリー・テレグラフ紙に問題のツイートの画面が掲載されていた。

 

 ここまでの話で、読者の方も心の準備ができていると思うので、テレグラフの記事やハフィントンポストの記事から、ツイートで使われた画像の背景を紹介してみたい。

 ベーカーの問題ツイート(5月10日付、テレグラフ紙を筆者撮影)
 ベーカーの問題ツイート(5月10日付、テレグラフ紙を筆者撮影)

「紳士のチンパンジー」

 中央にいるのは「ジェントルマン・チンパンジー(チンパンジー紳士)」とも呼ばれたチンパンジーで、名前は「ジョー・メンディ」。

 米国のサーカス興行者ルー・バッケンストーに買われて、1920年代を中心に米ブロードウェーやコメディア界で人気者になった。バッケンストーの妻がチンパンジーに芸を教え、「5歳の子供と同じ知的能力がある」という触れ込みで、米国内を巡業した。

 最も著名な例としては、テネシー州デイトンで行われたショーの中で、メンディはミニチュアのピアノを弾き、カメラの前でポーズを取った。ある飲食店でコーラを飲んだとも言われている。

 初代メンディは1930年に死亡。2代目のメンディが巡業を行ったが、バッケンストーが窃盗罪で捕まり、デトロイト動物園に送られたという。死亡は1934年。

 写真に写っているのは、1925年、メンディが「*スコープス裁判」(通称モンキー裁判 )に出廷するためにやってきたところ

 *大辞林によると、「宗教と科学をめぐるアメリカの裁判事件。1925年、聖書の天地創造説に反する理論を公立学校で教えてはならないというテネシー州法に反して進化論を教えたとして、生物教師スコープス(J. T. Scopes)が訴えられ、裁判の結果有罪とされた。67年、同州法は廃止された」。

 (注:ツイート内の写真のオリジナルのキャプションは、Roland Robbins, Joe Mendi & Gertrude Bauman at the Scopes Monkey Trial. 12/14/25. Credit: Library of Congress。ローランド・ロビンス及びガートルード・バウマンは関係者とみられる。テレグラフ記事では「男性と女性はバッケンストー夫妻」という説明がついている。)

再びの謝罪

 10日、ベーカーはツイッターで、先日のツイートについて改めて謝罪した。「本当に、配慮に欠けた、破滅的な間違いだった」。なぜ特定の画像を選んだのか、何を目的としていたのかについて真摯にかつ詳細に記した。

 将来、「4度目の正直」でベーカーはBBCに戻るかもしれない。ふと、そんな気がした。


by polimediauk | 2019-06-26 15:11 | 放送業界

(新聞通信調査会が発行する「メディア展望」の筆者記事に補足しました。)

 5月29日、NHKのテレビ放送のインターネットへの常時同時配信を認める改正放送法が、参議院本会議で自民党や立憲民主党などの賛成多数で可決・成立した。

 英国では、現在までにBBCを含む主要放送局が常時同時配信を行っている。過去の番組を再視聴できる「見逃し視聴(キャッチアップ)サービス」も含めて原則無料で提供されており、インターネット視聴も可能なので、ネットに接続していれば「いつでも」「どこでも」「どの端末でも」番組コンテンツを視聴できる環境がある。

 その法的根拠やどのように使われているかについて、ニュースの消費状況を中心に紹介してみたい。

放送と通信の融合

 2003年、電気通信及び放送サービスの在り方を規定する「放送通信法」が成立し、この中で「放送通信庁(Office of Communications)」(通称「オフコム」)が規制・監督を行う組織として新設された。

 放送通信法はいわゆる「放送と通信の融合」を象徴する。BBCを例にすれば、テレビやラジオで番組を放送するばかりか、ネットではニュース情報や動画を配信し、「放送」と「通信」の両方にまたがるサービスを展開している。インターネットの普及を背景にしたメディア環境の激変を反映したのが、この放送通信法と言えよう。

 英国で放送局による番組コンテンツの同時配信が実現したのは、10年ほど前だ。

 テレビ番組視聴の際にはNHKの受信料にあたる「テレビ・ライセンス料」を支払う必要があるが、通信法の詳細を定める「通信(テレビ・ライセンシング)規制」(2004年)は、対象となる「テレビ受信機」をインターネットやそのほかの方法での「放送・同時配信を受信できる装置」と規定している。この「受信機」にはPCやタブレットなども含まれると解釈されている。

 2006年から主要放送局の1つチャンネル4が見逃し番組の視聴サービスを開始し、BBCも2007年には本格的にこのサービスを提供した。翌08年、BBCは放送と同時の番組配信を始め、放送界で同時配信が常態化していく。

 こうした市場の変化を踏まえて、2016年、先の「通信(テレビ・ライセンシング)規制」が改正され、テレビ受信機が「受信」するサービスの中に「BBCが提供するオンデマンド・サービス」が付け加えられた。オンデマンド・サービスには見逃し番組の視聴サービスも含まれる。

 BBCはオンデマンド・サービスや同時配信サービスに対し、ライセンス料の支払い者となる視聴家庭に追加の使用料の支払いを求めていない。ただし、ライセンス料を支払っていることが前提であり、テレビ受信機を持っていなくても視聴できる媒体を持っていれば、支払い義務が生じる。

 PC、スマートフォン、タブレットなどでBBCの番組を視聴する場合、画面上でライセンス料を払っているかどうかを聞かれる。また、ログインIDを作る必要がある。BBCは後者を「利用者のし好にあったサービスを提供するため」と説明している。

24時間報道の生態圏と同時配信

 さて、具体的にはニュースはどのように発信されているのか。

 3月中旬、英政界が大紛糾し、筆者が自宅のテレビ、PC,英議会前と様々な場所で取材した模様を伝えたい。

 3月12日、英国の欧州連合(EU)からの離脱日(予定は同月29日)を間近に控え、英下院の動きが大きく注目された。昨年11月にメイ首相とEU側が合意した離脱条件を決める「離脱協定案」の修正版の採決を取るため、数時間にわたり、議論が続いた。

 流れを追うため、筆者はPC上でBBCのニュースサイトからテレビ番組視聴アプリ「BBC iPlayer」を開き、ニュース専門チャンネル「BBCニュース」を見た(テレビをつけて、BBCニュースのチャンネルを見ることもできた)。画面には、前日深夜、最終交渉のためにフランス・ストラスバーグに出かけたメイ首相の疲れ切った姿があった。

 筆者は、PCがある部屋から出て台所でコーヒーを沸かす間、スマホの同じアプリで同じ番組を視聴し、議員らの発言を聞き続けた。

ライブ・ブログで情報を収集する

ガーディアン紙の政治ブログ(ウェブサイトより)
ガーディアン紙の政治ブログ(ウェブサイトより)

 テレビと同時に、BBCや大手新聞社が立ち上げる「ライブ・ブログ」にも目をやった。それぞれの記者数人が、議論の要点やほかの政治家の言動、コメンテーターの評価などを時系列に記していく。著名なブログが、ガーディアンのアンドリュー・スパロー記者による政治ブログだ。

 海外から、ツイッターで議論に「参加」する人もいる。例えば、修正案の採決直前には、EUの交渉担当官ミッシェル・バルニエ氏が英国の議員らに慎重な対応を求めるというツイートを発信。これをライブ・ブログが拾い、これにまたコメントがついていく。

議会前で人の話を聞く

 午後7時の採決になったため、議論はまだ続いていたが、筆者は夕方、議会前の広場に集まるEU離脱派、残留派の市民の声を拾うために家を出た。

 電車に乗っている間や広場で市民に声を聞く合間に、スマホでツイートをチェックし、ライブ・ブログで議論の進展を確認する。ここでも見ようと思えば、先ほどのアプリで議論の生中継を視聴できる

テレビでも視聴

 帰宅後、今度は居間にあるテレビを先ほどのBBCニュースのチャンネルに合わせ、採決結果を追うと同時に、スマホ上ではライブ・ブログでの識者のコメントを読んだ。もう一度聞きたい表現があった場合は、生番組をリモコンを使って「巻き戻し」ができる。

 これは自分だけの特別の視聴方法ではなく、例えば特定のスポーツに関心がある人は試合の実況中継や関連ツイートを熱心に追っていることだろう。

 英国メディアのジャーナリストはツイッターを頻繁に使うので、ツイッターを追うだけでもいろいろなことが分かってくる。

 大きな事件・事故があったとき、人々はテレビばかりか、ネットで情報を常時探す。

 英国では、テレビ、ラジオ、PC、タブレット、スマホなど媒体を選ばず、常時番組コンテンツに切れ目なくアクセスする生態圏が出来上がっている。

 ニュースに関しては、1990年代後半以降、「24時間ニュース・チャンネル」が存在し、「切れ目ない」報道の生態圏に向かってすでに舵が切られていたということも押さえておく必要があるだろう。

 今はそのようなチャンネルが複数あり、ネットでも視聴できる。例えば、BBCニュース・チャンネルのほかに、スカイニュース、英国発以外では、「フランス24」や「アルジャジーラ」(それぞれ複数言語版がある)など。

なぜ、同時配信が必要か

 英放送業界が同時配信をせざるを得なくなった理由として、メディア消費環境の変化がある。

 オフコムの調査「メディア・ネーションズ 2018」(3月発表)によると、英国でテレビ受信機で番組を視聴する人は、年々減っている。2018年上半期で、1日当たり平均視聴時間は3時間16分(前年同期比4・9%減)だったが、若者層(16歳から34歳)では特に低下した(12%減、1時間51分)。

 代わりに増えているのが放送局以外、例えばユーチューブやネットフリックス、アマゾンプライムなどが提供するコンテンツだ。

 つまり、視聴者がネットに移動したので、これに合わせて放送局もネットに移動した。

 ライバルはユーチューブやネットフリックス、アマゾンプライムになるので、BBCを始めとした主要放送局は、シリーズ物の番組の場合、すべての回がまとめて見られる「ボックスセット」形式での配信を始めている。

 BBCと民放最大手ITVが協力して、新たなオンデマンド視聴サービスを提供するための話し合いも進めている。

 国内の放送局にとって、潤沢な資金をかけて作品を制作・配信するネットフリックスやアマゾンに「勝つ」ことが重要となっている。

負の影響は?

 放送局による同時配信が新聞メディアに悪影響を与えるのかどうかについては、十分な調査が行われていないが、ニュース報道におけるBBCの地方紙・地方テレビへの圧迫問題については、これまでにも指摘されてきた。

 ジャーナリズム業界の今後を考える調査報告書「ケアンクロス・レビュー」(2月12日発表)によると、ネットで無料のニュースがあふれ、人々のメディア消費の動向が大きく変わる中、新聞、放送、ニュースサイトなどで働くジャーナリストの数が減っている。2007年の2万3000人から17年の1万7000人という下落傾向に、歯止めがからないという。

 全国紙の発行部数は1日平均1150万部(2008年)から580万部(18年)に転落し、地方紙も6340万部から3140万部と半分以下となった。

 英国民がニュースにアクセスする媒体として最も大きな位置を占めるのはテレビで、最も頻繁にアクセスするニュースサイトはダントツでBBCのニュースサイトだ。

 「レビュー」は、オフコムに対し、BBCがほかのニュースメディアのビジネスを阻害していないかどうかの調査を開始するよう、提案している。


by polimediauk | 2019-06-13 16:49 | 放送業界