小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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メディア展望」(新聞通信調査会発行)6月号掲載の筆者記事に補足しました。

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 毎年イタリア・ペルージャで開催される「国際ジャーナリズム祭」が今年は4月3日から7日まで行われ、世界各地からやってきた学者、リサーチャー、ジャーナリスト、メディア組織の編集幹部、学生、一般市民などで賑わった。

 もともとは地域活性化の一環として始まり、今年は約650人のスピーカー(女性は49%)が約280のセッションで熱弁をふるった。運営費用はフェイスブック、グーグル、アマゾン、欧州委員会、コカ・コーラ社、ネッスル社、衛星放送スカイ、金融機関ユニポールと小規模なNGO組織、そしてペルージャがあるウンブリア州地域の自治体などが提供した。

ハンガリーとメディアの寡占化

 まずは報道の自由を扱った数多くのセッションの中から、欧州の中でも「典型的なポピュリズムの国」と言われるハンガリーの例を紹介したい。

 反移民・難民、「キリスト教文化の維持」を前面に掲げるオルバン首相による強権政治が行われているハンガリー。首相の与党「フィデス・ハンガリー市民連盟」は下院議席の3分の2を占める。これを活用して、政権は司法権の縮小やメディア規制に力を注いできた。国内のメディアの90%が直接あるいは間接的に与党の支配下にあると言われている。

 「ハンガリー:非リベラルな民主主義のメディア」と題するセッションの中で、3年前まで左派系最大手の新聞「ネープサバッチャーグ」の元副編集長で、今は調査報道のサイト「HVG」の編集長マートン・ゲーゲリー氏が体験を語った。

 ネープサバッチャーグ紙の突然の廃刊は、2016年10月。その理由は、政権の強硬な反移民政策を批判したためと言われている。

マートン・ゲーゲリー氏(撮影 Maria Lisa Brozetti)
マートン・ゲーゲリー氏(撮影 Maria Lisa Brozetti)

 3年前、ネープサバッチャーグを含む5大主要紙の中で、3紙は政権に批判的で、2紙は政権寄りだったが、今は3紙のみとなったという。「2紙は政権寄りで、1紙は批判的だが、部分的には政権に妥協している」

 「政権に批判的なメディアが存在するからこそ、権力にプレッシャーを与えることができる」。しかし、メディアの大部分が政権を支持していれば、「国民は何がよくて何が悪いかを見極めることができなくなる」。

 ハンガリーのシンクタンク「メディア・データ・社会センター」のディレクター、マリウス・ドラゴミル氏は「メディア・キャプチャー(メディアの寡占化)」という言葉を使って、ハンガリーの状況を説明した。

 「まず法律を変えて、メディアの規制体制を築く。次に、公共メディアを政府の支配下に置く。いずれの場合も組織のトップに政権に近い人物を配置する。民間の場合は政府寄りの人物あるいは企業に買収させるか、閉鎖に追い込む。最後に、公的資金を政権寄りのメディアにつぎ込む」。これで事実上の「寡占化」となる。

 翻って、日本はどうか。自民党の一党支配体制が長く続き、野党政権発足の可能性はほとんどない。「忖度」の害悪も指摘されている。メディアの権力批判は十分に機能しているだろうか。ハンガリーの話を聞きながら、日本のことが心配になって来た。

読者と深い関係を持つメディア

 セッションを回る中で、メディアの規模の大小にかかわらず、読者との関係を深めることで信頼感を高め、収入に結びつけようとする動きが目に付いた。

 欧州数か国で発行されている英字新聞「ローカル」のスウェーデン版の編集者エマ・ロフグレン氏は、「購読料はお金の行き来だが、会員制は関係性を築くことを意味する」という。「サイトのクリック数を伸ばすことを最優先するのではなく、読者の生活に関わりが強いトピックを取り上げることに力を入れている。読者の意見を取り入れて新聞の方向性を決めている」。

リタ・カプール氏(撮影 Giulia Nardelli
リタ・カプール氏(撮影 Giulia Nardelli

 

 最近会員制を取り入れたばかりというインドのクインティリオン・メディアは、読者を市民記者として使うという。インドの山間地帯にはリポーターが入っていきにくい場所があり、市民記者は「現場で何が起きているかを知らせてくれる役目を果たす」(リタ・カプールCEO)。

 ファクトチェックにも読者が参加する。インドではメッセージ・サービス「ワッツアップ」を通してフェイクニュースが広がっているが、ワッツアップによる通信は暗号化されるため、利用者同士以外は通信内容にアクセスできない。そこで、ワッツアップ内でどんな噂が広がっているかを読者に聞き、フェイクニュース拡散の防止を試みている。

リー・コースガード氏(撮影 Francesco Ascanio Pepe)
リー・コースガード氏(撮影 Francesco Ascanio Pepe)

 デンマーク発の新興メディア「ゼットランド」は知的レベルが高い人向けの会員制電子新聞だ。広告は入れていない。「会員の利便を図ることを最優先している」(リー・コースガード編集長)。毎日、ポッドキャストでの情報発信やニュースレターの配信をするものの、オリジナルで出す記事は1日に2本ほど。読者が「これで読み終えた」という達成感を持てるようにと、あえて本数を抑えている。

 ポッドキャストを始めたのは、2年前に読者にどんなサービスを望むかと聞いたところ、「オーディオ」と言われたからだ。記事を読みあげてほしいというリクエストである。現在、サイト利用の65%がオーディオ(音声で聞く)になっている。

 また、 時々、「ライブ・ジャーナリズム」という名前で、大きなイベント(有料)を行う。会員ではない人も含め、1500人ぐらいが集まる。そこで、10本のストーリーをジャーナリストが語る。その後、ビールやコーヒーを片手に話をする。コースガード編集長は、「場所や時間帯に制限されず、人々が情報にアクセスするようになった今こそ、人が一堂に集まり、同じ話を一緒に聞くことが新鮮な体験になっている」という。

 ゼットランドのように、ジャーナリスト、作家、アーチストなどを舞台に上がらせ、そこで「ストーリーを語る」=「ライブ・ジャーナリズム」が、欧州各国で広がっているようだ。

英フィナンシャル・タイムズ紙のライブ・ジャーナリズム

 ジャーナリズム祭のセッションの中に、フランスの黄色いベスト運動を分析するセッションがあり、この中のパネリスト(フローレンス・マーティン=ケスラー)がライブ・ジャーナリズムを実践する会社「ライブ・マガジン」(フランス)を運営していた。2014年創業。

 4月9日、ライブ・マガジンによる英国での最初の試みとして、英フィナンシャル・タイムズ紙がイベントを行ったので、出かけてみた。場内の撮影・録音は許されず、「その場限り」のイベントである。

 ロンドン・バービカンセンター近くにある大学の講堂を使い、10人ほどのジャーナリストが、舞台の右端の椅子に並んで座る。左端にはピアノが1台。

 著名コラムニストなどが舞台の中央にやってきて、それぞれのストーリーを語る。例えば、昨年殺害された、サウジアラビアのジャーナリストについての思い出を語ったジャーナリスト、メイ首相への期待感がいかに失われていったかを「メイ政権は大きな冷蔵庫だ」というタイトルで面白おかしく話したコラムニスト、政治漫画家の話などに加え、株価の動きをオペラ歌手が「歌声でつづる」(株価が上昇すれば、声も上がるなど)というアトラクションも。

 笑いあり、涙ありのストーリーイベントだったが、少々お堅い感じがあった。感動まではいかなかったように思う。特定のテーマがあれば、また来ようと思ったかもしれないが。

 チケット代は35ポンド(約5000円)。ガーディアンの同様のイベントでは17-20ポンドぐらいで、それに比べるとやや高い。観客は20代から60代。若者たちのグループが目立った。もしかしたら、安く入手していた可能性もある。

 FT、ガーディアン、ほかの英国の新聞もイベント自体はよく開いている。また、ジャーナリストや編集者が議論をする、講演をする場合も珍しくない。

 

 しかし、ジャーナリストたちが次々とストーリーを語る「ライブ・ジャーナリズム」的イベントは、どこかに「頂点」がないと、最後の感動にまではなかなかいかないように思う。「また来たい」という気持ちにさせてくれない。英国ではまだ発展途中という感じがした。

地方ジャーナリズムの支援策

 上記以外には、公的助成金を使って地方のジャーナリズムを活性化させる試み(米ニュージャージー州)、英BBCと地方紙との共同作業(BBCが地方紙に記者を派遣。記者は地方議会、警察、裁判所を取材し、その内容を提携する複数の地方メディアと共有する)、寄付金やフィランソロピーによるメディアへの財政支援(ゲイツ財団やロックフェラー財団による英ガーディアン紙への支援、米起業家クレイグ・ニューマークによる大型寄付)などが、ペルージャ・ジャーナリズム祭で取り上げられた。

 メディア環境が激変する中、報道機関を支えていくにはどうするか。世界各地で知恵を絞る人々がいることを実感した数日間だった。

 日本でも、地域活性化の1つとして国際ジャーナリズム祭が開催できないものだろうか。


by polimediauk | 2019-07-15 16:30 | 政治とメディア

 「報道の自由」という言葉に、どんなイメージを持たれるだろうか?

 日本や筆者が住む英国は民主主義社会であり、報道の自由が保障されている。しかし、世界に目を配ると、政府批判の報道によって投獄される、自分や家族の生命が脅される、ネット上でハラスメント攻撃を受ける、他国に移動せざるを得なくなるなど、様々な逆境にさらされているジャーナリストやメディア組織が少なくない。

 世論を味方につけようと思っても、フェイクニュース(ディスインフォメーション)によって事実がゆがめられていたり隠されていたりする。国民がフェイクニュースを真実として理解していれば、ジャーナリストやメディア組織が言うことを信じないかもしれない。

政府主催のメディア会議

 今月10日と11日、ロンドンで「報道の自由のための国際会議」(グローバル・コンフェレンス・フォー・メディア・フリーダム」が開催された。100か国以上から閣僚級の代表者や学者、報道関係者など約1500人が参加し、報道の自由の侵害状況や改善策について意見を交換した。

 主催は英国とカナダ政府で、それぞれの国の外務大臣が複数のセッションで顔を見せた。

 報道の自由の会議を政府が主催?何とも奇妙な組み合わせである。政府や権力者が外に出したくないこと、でも国民が知るべきことを報道していくのが、メディアの役目だからだ。

 筆者は、会場内で複数の人に「なぜこの2つの政府がこのテーマで報道の自由の国際会議を開くのか?」と聞いてみた。ほとんどの人が「分からない」と答えた。

 「権力者側にいる政府が報道の自由の会議を開くなんて、おかしい。一体どんなことになるのかを見に来た」(英国の大学でメディア経営を教える教授)。「米中という強いスーパーパワーに対抗する存在がない。だから、ひとまずこの2か国でまとまるという意味があったのではないか」(ドイツのメディア教育組織のトップ)。

 筆者は、以下のように受け止めた。

 英国を含む欧州で、「報道の自由が完全ではない」、「他国からの干渉・攻撃に苦しんでいる」地域と見なされるのが、旧ソ連圏、つまり東欧諸国(ハンガリー、ラトビア、スロバキア、ブルガリア、チェコ、ウクライナなど)だ。この場合の「他国」とは、ロシアである。

 ちなみに、会議開催の前日、英外務省はロシアのテレビ局RTとスプートニク通信社に対し、取材許可を与えなかった。理由は「ディスインフォメーションを積極的に拡散した」からだ。ロシア大使館は「政治的意図がある差別だ」と述べている。

 RTは声明文で「報道の自由を奨励すると言いながら、都合の悪い声の参加を禁じるのは偽善的だ」と述べ、スプートニクは「ディスインフォメーションは私たちの仕事ではない」としている(BBCニュース、7月9日付)

 複数のセッションに出てみると、東欧諸国やかつては英国の植民地だった国の報道の自由の侵害状況を訴える事例が目立った。

 今回の会議には、英国・カナダの「西側」が報道の自由の守護者としてのイメージをアピールするという宣伝目的もあったと筆者は思う。いかに両国が報道の自由を重視しているかを世界に見せることによって、まずロシア、そして報道の自由が侵害されていると見なすトルコ、フィリピンなどの国々をけん制する意味合いが出た。

 しかし、裏の狙いが何であれ、セッション参加者が語った状況は嘘ではなく、参加者にとっては多くの学びの機会となったと思う。

 以下で、そのハイライトを紹介したい。

報道の自由の意義、その現状

 まず、「報道の自由」は、なぜ重要なのだろう?

 英外務省の説明によれば、「自由で独立したメディアは、人権を守り、権力者に説明責任を持たせるために重要な役割を持つ」。

 報道の自由は「民主主義になくてはならないものであり、経済の繁栄や社会の発展の基礎になる」。社会が「自由で、公正で、オープンであること」を示す。ジャーナリズムによる詮索は、「生き生きとした、そして健全な民主主義には必須」だ。

 現状がどうなっているかというと、「国境なき記者団」の調査によると、昨年、報道によってターゲットにされ、殺害されたジャーナリストの数は前年より15%増加しているという。

 国連の調査では、昨年1年間で殺害されたジャーナリストの数は少なくとも99人。348人が新たに投獄され、60人が人質となった。殺害犯が責任を問われることはほとんどない(UNESCO調べ)。

 セッションのハイライトを紹介したい。

「世界の指導者たちは何もしていない」とクルーニー氏

クルーニー氏(左)とハント英外相(撮影筆者)
クルーニー氏(左)とハント英外相(撮影筆者)

 10日の基調セッションに登壇した一人が、米人権弁護士アマル・クルーニー氏。

 「報道の自由が減少し、ジャーナリストが殺害されている。戦時ではなく、平時に、だ」。

 日本でも大々的に報道されたのが、サウジアラビア出身のジャーナリスト、ジャマル・カショギ氏が殺害された事件だ。米CIAは、殺害を指示したのはサウジの皇太子と名指しした。「カショギ氏は拷問の上、殺された。世界の指導者たちは何もしていない」

 「トルコ、アゼルバイジャン、モルディブでも殺害されたジャーナリストがいる」

 「ジャーナリストが権力者からハラスメントを受けない国はない」

 「独立したジャーナリズムが存在しない国では、国民に十分な情報が与えられていないという構図がある」。

 英政府はクルーニー氏を「報道の自由」特命大使に任命している。「国が本気で報道の自由のために行動を起こしたら、様々なことを実行できる」。例えば、報道の自由が保障されない国に住むジャーナリストに対し、特別ビザを与える、ジャーナリストを殺害する国に制裁を課す、ジャーナリスト支援のための基金を設置するなどをクルーニー氏は例として挙げた。

顔を隠して報道を続けるジャーナリスト

 

(左端がアナス氏:撮影筆者)

 ガーナのジャーナリスト、アナス・アルメイヨー・アナス氏が壇上に登ると、会場内が一瞬、シーンとした。顔が分からないように、すだれのようなものを着用していたからだ。

 人権問題と汚職の暴露を専門とするアナス氏は潜伏取材が主であるために、公の場では顔が判別されないように仮装するのである。

 ガーナは、「国境なき記者団」が作成する「世界プレスの自由インデックス」で180か国中23位であるが、アナス氏が手掛けるのは権力を持つ人が外に出したくない事実だ。このため、様々な形のハラスメントが行われており、今年1月には、サッカーの汚職報道で一緒に働いていたジャーナリストが銃弾を受けて殺害される事件が起きている。

 「報道の自由の重要性は、必ずしもすべての人に理解されているわけではない」という。

 「民主主義を育てるには、単にお金を提供するだけではなく、現地の人をエンパワーする方向で支援するべきだ」。

ハント英外相は何を語ったのか

 ほかにも何人かがスピーチした後、最後に登壇したのがハント英外相だ。

 「歴史家ジョン・アクトン(アクトン卿)は、1887年、こう書いた。『権力には腐敗の傾向がある。絶対的権力は絶対的に腐敗する』、と」。

 ハント氏は「腐敗を防ぐのは自由なメディアだと思う」。

 報道の自由が侵害されている国としてロシア、中国、ベトナム、サウジアラビアなどを挙げながらも、英国も例外ではないという。今年4月、英領北アイルランドで、ジャーナリストのライラ・マッキー氏が命を落としたからだ(注:彼女の場合、現地の暴動でデモ参加者が警察に向けて発した銃弾を体に受けて、死亡)。

 世界で報道の自由を保障するため、英政府として次の5つを実行する予定だという。

 (1)「グローバル・メディア・ディフェンス基金」を設置する。複数の国が参加し、UNESCOが運営する。危険な状態で働くジャーナリストに法律のアドバイスを提供し、安全維持のための研修をする。今後5年間で、英国は300万ポンド(約4億円)を出資。カナダは100万カナダドルを出す。

 (2)「国際タスクフォース」を設置する。各国政府が報道の自由を保障できるように支援する。毎年、国連総会の場でどの程度の進展があったかを話し合う。

 (3)特命大使クルーニー氏を中心として、ジャーナリストを法律で守る仕組みを考えるための専門家パネルを設置する。英国内でも、新法を立法化する、あるいはすでにある法律を更新する際に報道の自由への影響がどうなるかを考慮する。

 (4)カナダのクリスティア・フリーランド外相とともに、報道の自由が侵害されたときに一斉に行動できるような連絡グループを作る。ほかの政府の参加を奨励する。

 (5)報道の自由を保障することを誓う「グローバル・プレッジ」に署名し、来年もこの目的のために集う。

 この会議の開催前に、英政府は外国の報道の自由の促進のための複数のプログラムを発表している。

 例えば、東欧諸国でのディスインフォメーションやフェイクニュースを反撃し、バルカン諸島西部の独立メディアを支援するために、「紛争・安定・セキュリティ基金」を通して、今後3年間で1800万ポンド(約24億4000万円)を拠出する(7月7日発表)。東欧・中央アジア地域への資金提供はディスインフォメーションに対策を講じ、独立メディアを支える目的の5年計画(1億ポンド拠出)の一環である。また、バルカン諸島政府への支援は、この地域への8000万ポンド(2020-21年度)に上る支援の一部をなす。

政府支援への居心地の悪さ

カナダのフリーランド外相(英外務省のFlickrより)
カナダのフリーランド外相(英外務省のFlickrより)

 政府がメディアの報道の自由を保障する・奨励することに対する居心地の悪さが、セッション後半のメディアとのやり取りの中で明らかになった。

 カナダのフリーランド外相は英フィナンシャル・タイムズ紙の元記者で、ロシアでの特派員経験もある。ハント英外相はジャーナリストの経験はないが、常にメディアから厳しい質問を受けてきた。権力を批判するのがメディアの仕事だから、その権力の側がメディア報道の自由を奨励をするとは、奇妙に聞こえるだろうと二人は何度か述べた。しかし、どこまで、実際に覚悟をしているのだろうか?

 カナダのメディアがフリーランド外相に質問した。

 昨年秋、サウジのジャーナリスト、カショギ氏が殺害され、サウジアラビアは世界的な非難を浴びた。「G20の来年の議長国はサウジアラビアだ。G20はサウジでの開催をキャンセルするべきだと思うか?」

 この問いに対し、フリーランド外相は「G20は同じ価値観を持つ者同士が集まる場所ではない」という。「カナダは、ロシアによるクリミア併合(2014年)には反対の立場を取る。それでも、G20という場を共有している」。つまりは、キャンセルする必要はないという。

 報道の自由を侵害した国に対し、即時に制裁を加えるかどうかも含め、ハント英外相は「交渉にはプライベートで意見を言う場合もあれば、公式の場で行動する場合もある」と説明し、外交交渉には幅があることを示した。

 両外相の説明には一定の説得力があったものの、「説明になっていない」と後で述べたジャーナリストもいた。

ジャーナリストの即時釈放を求める声明

 メディア会議の会場の外では、内部告発サイト「ウィキリークス」の創始者で、現在は英国内に収監中のジュリアン・アサンジ被告の釈放を求める抗議デモが発生していた。4月、米司法省は、アサンジ被告を米政府のコンピューターに侵入した罪、機密文書を暴露した罪などで起訴したと発表。米側は英政府にアサンジ被告の身柄の引き渡しを求めている。ジャビド英内相は「引き渡し命令に署名した」と述べており、司法判断を待っているところだ。

 報道の自由のために活動する、ドイツの非営利組織「欧州センター・フォー・プレス&メディア・フリーダム」(ECPMF)は、メディア会議開催の前日、ほかの30を超える報道の自由関連組織の代表者と集い、会議に参加する国に向けて請願書を出した。

 請願書は「投獄中のジャーナリスト全員を釈放すること」、「ジャーナリストの殺害、攻撃、中傷を停止すること」、「ジャーナリストの殺害事件すべてを調査し、責任者を訴追すること」を求めている。


by polimediauk | 2019-07-14 19:38 | 政治とメディア

 書店に行くと、フェイクニュースについての本が目につくようになった。

 かつては「フェイクニュース」を「偽ニュース」などと訳していたこともあったが、もはや、このカタカナ言葉だけで意味が通じる。

 デマ情報が世間を駆け巡る現象は昔からあったが、私たちが今問題視しているのは、デジタル空間で飛び交うフェイクニュースのことだ。

 かつて、「私たちの誰もが情報発信者になれる!」と言いながら、嬉々としてインターネットがもたらす明るい未来について語っていたことを覚えているだろうか。

 しかし、誰もが情報を簡単にネット上で発信できるとき、流れ出て行く情報の質は玉石混淆だ。信ぴょう性もバラバラだ。ファクト(事実)もフェイク(偽)もある。何がファクトで、何がフェイクなのかを判断する物差しは一つではない。

 さて、どうするのか。

 まずは現状認識から始め、フェイクニュースに惑わされないようにしたい。

 そんな思いを持つ人に役立ちそうな1冊が、茨城大学の古賀純一郎特任教授(ジャーナリズム論)の新刊「すべてを疑え!フェイクニュース時代を生き抜く技術」(以下、「すべてを疑え!」)だ(筆者をはじめ、国内外のメディアウオッチャーのコメントも所々に入っている)。

なぜ、フェイクニュースが危険なのか

「すべてを疑え!」の表紙(筆者撮影)
「すべてを疑え!」の表紙(筆者撮影)

 

 改めて、なぜ、フェイクニュースが問題視されるのだろう?

 古賀氏は、究極的には「民主主義が破壊される」から、と説明する。

 私たちは、民主主義社会に生きている。「その核心となる代表者を選ぶ議会の選挙で、確実で間違いのない情報や報道をベースに、主権者である私たちが判断し、代表を決め、議会を通じて民主主義社会を運営」しているのである(「すべてを疑え!」)。

 これまでは、信頼できる情報源は既成の報道機関だった。しかしもし、フェイクニュースを情報源としていたら?これを「ベースに有権者が投票するのであれば、結果は市民の要求からかけ離れたものになるだろう。民主主義は破壊され、その将来は危うい」(同)。

安倍総理逮捕?10年間かけて無実を証明したスマイリーキクチ

 

 国内の著名なフェイクニュースには、どんなものがあるのか。

 2017年8月、ある新聞の号外版がツイッターに流れた。見出しは「安倍総理逮捕」。ノーネクタイの安倍首相の両側には警察官。産経新聞を標榜する号外の1面である。しかし、調べてみると、7月31日に産経が出した号外を加工したフェイクニュースだった。

 1999年、芸能人スマイリーキクチは、女子高生殺人事件の犯人と決めつけられた。ネット上の掲示板の書き込みがきっかけだった。キクチの所属事務所は関与を否定し続けたが、情報拡散を止めることはできなかった。

 2008年、ITの知識が豊富な刑事の助けで、書き込みをした数人が検挙された。キクチが汚名をすすぐまでに、足掛け10年かかったのである。

 2018年10月の沖縄知事選でも、多数のフェイクニュースが発生した。地元紙の調査では飛び交ったツイート、リツイートなど「20万件以上の9割が誹謗・中傷で、(米軍)基地反対派の玉木デニー候補に集中していた」という。

 本書は最初にこのような日本のフェイクニュースの具体例を次々と紹介した後、海外に目を向ける。米大統領戦(2016年)、フランス大統領選(2017年)、英国のEU離脱の是非を問う国民選挙(2016年)など、著名な例を再確認できる。

すべてが嘘だったわけではない、大本営発表

 今ではフェイクニュースの典型として時々言及されるのが、戦争時の「大本営発表」だ。本書によれば、大本営の起源は日清戦争の前年の戦時大本営条例(1893年)だ。

 

 「大本営」とは、「戦時に天皇が国事を指揮する最高の統帥機関」で、「陸軍の参謀本部と海軍の軍令部が総合的に戦略などを練り、作戦行動の発令のため日清・日露戦争で設けられた」。日中戦争(1937-45年)が始まると新たに大本営令が制定され、戦争よりランクが下の「事変」でも設置が可能となった。

 第2次大戦時の大本営発表は1941年12月8日に始まり、3年9ヶ月続いた。当初は国民の精神を鼓舞するために、新聞紙面で「日本軍を自賛」した(保坂正康「大本営発表という権力」)。この時は事実に忠実だった。しかし、戦況が悪化すると、「虚偽や誇張が消え、それさえ通じなくなると発表それ自体を」やめてしまったという(同)。

 第2次大戦では日本の敵国となった米国もプロパガンダ報道を熱心に行った。「『日本兵は軍服を着た猿』、日本は『鬼畜米英』などと相手国を貶めるような宣伝戦に走り、戦場では人肉食いなどの残虐行為が横行しているなどと敵の冷酷さを強調する報道」が行われた(「すべてを疑え!」)。

国家が背後にいる攻撃

 筆者は欧州各国のメディア会議に足を延ばすことが多いが、「フェイクニュース」を「ディスインフォメーション」(真実を隠したり、人を欺くために故意に発信される偽情報)と言い換える人が増えている。前者の場合、本人が知らずに誤った情報を流し、結果として「フェイク情報」になってしまう場合も含むが、後者の特徴は「故意に」「欺くために」がその生成・拡散目的となる。

 国家レベルのディスインフォメーションの使い手として、西欧で恐れられているのがロシアだ。

 「サイバー空間の敵」ともされるロシアは、情報工作をするばかりか、軍事手段、政治工作も組み合わせて対抗相手に攻撃を仕掛ける。古賀氏は、こうした手法を「ハイブリッド戦争」と呼んでいる。

 例えば、欧州内外をあっと驚かせたのが、2014年、ロシアによるウクライナ・クリミア半島の一部併合だ。身分を隠したロシア軍部隊をクリミアに投入し、現地を制圧。これを背景に現地での住民投票を実現させ、ロシアへの編入を望む住民の意思を叶えるという形で一部併合を実現。ロシアの「プーチン大統領の支持率は70%に迫るまでアップした」(「すべてを疑え!」)。

情報操作にだまされないためには、どうするか

 古賀氏は、後半でフェイクニュースにだまされない手法を列記する。

 例えば、在米ジャーナリストで「現代アメリカ政治とメディア」の著者の一人津山恵子氏は、以下を推奨する。

 (1)おかしいと思った情報は検索で確認

 (2)自分がシェアする情報に責任を持ち、真偽がわからない場合はシェアしない

 (3)主要メディアはフェイクニュースを発信しない、つまり主要メディアのニュースをシェアするのは安全(初出は「メディア展望」2017年6月1日号)。

 その上で、津山氏は「真剣にググろう(検索しよう)」、「写真の出所、撮影時間をチェックしよう」などとアドバイスしている。

 最後に、古賀氏は自分がどうやってニュースの真偽をチェックしているかを披露する。同氏は元共同通信社の記者で、海外特派員の経験も長い。現在は大学でジャーナリズムを教えているので、その手法は貴重だ。

 詳細はページをめくってみていただきたいが、共通しているのは、自分でニュースの真偽を頻繁に確認すること。つまりは、鵜呑みにしないこと。まさに、「疑え!」なのである。


by polimediauk | 2019-07-12 19:30 | 政治とメディア