小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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 毎日新聞の元欧州総局長で、現在は編集編成局次長の小倉孝保氏との初顔合わせは、5年ほど前になる。

 当時は在ロンドン・欧州総局長で、在英日本人が集まるイベントが終わり、食事会のためにレストランに入った時だった。小倉氏が少し離れた席で、とても楽しそうに会話をしている姿が見えた。なんだか面白そうな人だと思い、別の日に友人たちとの夕食にお誘いした。

 英国の新聞の「長い訃報記事を愛読している」という小倉氏は、常に面白いおかしい話を引き出しに入れており、大笑いしながら食事をすることになった。

 新聞記者である一方で、小倉氏は数々のノンフィクション作品も書いており、ある会食時には「三重スパイ」の取材のために自腹でお金を使い、あちこちに出かけたことを話してくれた(これはのちに、講談社から『三重スパイ イスラム過激派を監視した男』として出版された)。

 過去の本も含めて小倉氏の本を読むようになり、『がんになる前に乳房を切除する 遺伝性乳がん治療の最前線』(文芸春秋)、同氏がニューヨーク支局長であった時に米国で死刑執行の現場に立ち会い、関係者に取材しながら米国と日本の死刑制度を比較した『ゆれる死刑 アメリカと日本』(岩波書店)に感銘を受けた。

 そんな小倉氏の最新刊が、『100年かけてやる仕事 中世ラテン語の辞書を編む』(プレジデント社)である。

 1-2年前に、「次の本は?」と何気なく聞いた時に、「実は・・・」と切り出されたトピックだった。

 「100年もかけて、辞書を作る?」、それも「ラテン語・・・・」。一瞬、言葉を失った。

時間をかけて辞書を作る、欧州の伝統

『100年かけてやる仕事 中世ラテン語の辞書を編む』(筆者撮影)
『100年かけてやる仕事 中世ラテン語の辞書を編む』(筆者撮影)

 本書によると、相当の年月をかけて辞書を作るのは欧州では珍しくないそうだ。17世紀、フランス学士院はフランス語の辞書作成に55年をかけ、「オックスフォード英語辞典(OED)」は、完全版発行までに71年かかっている。グリム兄弟が開始した「ドイツ語辞典」には1839年の編集開始から完成までに123年をかけているという。

 中世ラテン語辞書作成プロジェクトが101年ぶりに完了したのは、2014年。当時ロンドンに赴任していた小倉氏は、さっそく、取材を開始する。まずは物差しとヘルスメーター(体重計)を持って、このプロジェクトを担当していた英国学士院を訪ねた。そう、「ヘルスメーターを持って」、である。学士院に事前に問い合わせたところ、辞書の重さが不明と言われたからだ。全17冊分の辞書の重さは11キロを超えた。

 プロジェクトの開始前に、英国にラテン語の辞書がなかったわけではない。1678年作成の辞書があったが、フランス人ラテン語学者デュ・カンジュが編纂したものだった。

 この状況に不満を抱いた英国人ラテン語学者ロバート・ウィトウェルは、1913年、学士会に新たな辞書作成を提案するとともに、一定のラテン語知識を持つ人に情報提供の協力を求めた。ボランティアとしてラテン語採取に加わった人(「ワードハンター」)たちは、100人から200人と言われている。

 『100年かけてやる仕事 中世ラテン語の辞書を編む』は、学士院の人々に取材をしながら、その後の辞書編纂者の奮闘ぶりを記していく。一体なぜ、ラテン語辞書の作成に100年もの時間をかけて人々は取り組んできたのか。コストや辞書の必要性については、どう考えてきたのか。

日本での辞書作りとは

 英国の辞書作りを調べるうちに、著者の関心は日本に向く。

 「言葉は民族を立てる時の柱である。そのため言語辞書は近代国家の成立と密接な関係にある。日本語のもその例外ではないはず」と踏んだ小倉氏は、日本語研究者で清泉女子大学文学部教授の今野真二氏を訪ねる。

 日本では、国語(日本語)の辞書がそろい始めるのは1887年前後。国語学者の大槻文彦氏の編纂による、最初の本格的な国語辞書『言海』が出版されたのが、1891年だった。今野氏によると、「ちょうど日本が近代国家として成立し、国家を建てたころです。辞書を作る条件が整い、その機運が高まったのです」。

 『言海』は、大槻氏の自費出版で世に出た。「日本に国が作った辞書は1冊もありません。政府は資金を出すわけでもなく、私費で辞書ができるのを喜んでいる。珍しい国だと思います」(今野氏)。

 小倉氏は、「なぜ辞書を作り続けるのか」について、2018年に出た『広辞苑』第7版の編集者だった平木靖成氏(岩波書店)に聞いている。「辞書作りは地道な作業の繰り返しであり、派手さのない日常の連続である。しかも手間の割には経済的な収益もさほど期待できない」のに、と。

 平木氏は、一見無駄なもの、価値が薄いと思われようなことに力を注ぐことこそ文明の力なのではないかという。例えば小惑星探査機「はやぶさ」のように、である。「それがなくても人間は生きていける。でも、そういうものに夢中になり、魅力を感じることもできる。それこそ文明なんじゃないですかね」。

 2015年夏、小倉氏は東京に戻る。毎日新聞本社の編集部で時間に追われる日々が始まった。

 その一方で、英国で辞書を作っていた人々の言葉が思い出されてきた。「ゆっくりと時間を過ごすことの大切さ、速度よりも正確性を追求することの重要さ、短期的成果が見込めなくとも価値あるものは存在することに気付くことの必要性」が心に迫ってきた。

 「言語の木を植え、山をつくった人たちの言葉を多くの人たちと分かち合いたかった」。これが本書を書いた動機だったという。

 ラテン語について、辞書作りについて、そしてこれからの人生の過ごし方について、本書は様々なことを考えさせてくれる。


by polimediauk | 2019-09-21 15:19 | 英国事情

ドイツの「Correctiv(コレクティブ)」の試み(ウェブサイトより)

 これまで、数回にわたり、読者とともにメディアを作る試みを紹介してきた。

 最後は、ドイツの新興メディアで調査報道を専門とする、「コレクティブ」を取り上げたい(4月4日セッション「独立した編集室の運営方法」から)。

コレクティブとは

コレクティブのクレッチマー氏(撮影Giorgio Mazza)
コレクティブのクレッチマー氏(撮影Giorgio Mazza)

 コレクティブとは、2014年、ドイツ・エッセンで創業した非営利の調査報道組織。ブロスト財団(Brost Foundation)が年間100万ユーロ(現在の計算で約1億1700万円)を3年間提供することで設立資金を賄った。40人が働く。ドイツ以外にイタリア、スペインにも拠点を持っている。

 ジャーナリズム祭のセッションで話したのは、マネジング・ディレクターのサイモン・クレッチマー氏である。

 コレクティブは非営利組織として始まり、最初は財団からの資金が100%の収入源だったという。しかし、現在は55-60%を占めるようになった。会員制とそのほかの事業から得る収入とが、それぞれ20-25%ほど。

 将来的には、以下の3つの収入源の中で、どれか1つが突出しないようにしたいという。

  (1)財団による寄付金・支援金など(中核となるプロジェクトに使う)

  (2)民間からの資金(企業との共同作業、ブランドビジネスほか)(大規模なプロジェクト用)

  (3)サポーターからの収入(定期購読者からの収入、プロジェクトごとの支援など)

  最後にある(3)「サポーターからの収入」には、一度きりの寄付も入る。来年以降、(1)にあたる財団からの支援を「25%程度にしたい」。

 「持続可能な財政体制」を重要視しており、そのためには「組織のミッションに沿った経営をすること」が重要と考えている。

 ではコレクティブのミッションとは、何か?それは、「調査報道を行うこと」。

市民を巻き込む

 新規企業としてのコレクティブが重要視するのは、「市民を巻き込むこと」。

 調査活動に市民を参加させれば、「市民側もこちらに何かを戻してくれる。結果的に、調査報道の質が上がる。コレクティブを中心とした、ネットワークができていく」。

 ちなみに、市民・読者・オーディエンスを巻き込む、という姿勢はジャーナリズム祭のほかのメディア(大小限らない)でも大きなテーマとなっている。

 クレッチマー氏は「自前のオーディエンスを築き上げるべき。オーディエンスを理解すること。注意を払うこと」。

 オーディエンスは「持続可能な、公正な社会の実現を望んでいる」という。おのずと、コレクティブの経営及び編集方針がこれを反映するものになる。

 現在、約3000人のサポーターがいて、コレクティブはこの人たちにコレクティブの方向性について、意見を募った。同時に、まだサポーターになっていない人にもツイッターやフェイスブックを通して、問いかけた。

 「コレクティブの仕事をどう評価するか」、「あなたにとって最も重要なことは何か」、「どのようにしたらもっと支援者を増やすことができるか」、「どのようなニュースレターを読んでいるか」など。最終的には1500人が質問に答えたという。

調査報道で協力

 コレクティブに所属しないジャーナリストを巻き込んでの調査報道にも、力を入れている。

 550億ユーロにも上る「脱税」疑惑(「CumExFiles」)を調査報道した時は、欧州12か国の19の報道機関と協力した。38人のリポーターが28万ページに相当する書類を共同で精査したという。

 

 ほかにも、いくつもの調査報道を国内外の報道組織と協力しながら行っている。

 提携している報道機関は、コレクティブによる調査結果を使うことができる。「コレクティブの調査であるとその記事の中で書いてもらう、あるいはリンクをつけてもらう」のが条件だ。

 コレクティブ側にとっては、調査報道の内容が多くの人にインパクトを持って伝えられることが利点だ。

地方メディアとの協力体制

 コレクティブは地方のジャーナリストと専門家をつなぐ試みも行っている。

(プレゼンテーションの画面を筆者が撮影)
(プレゼンテーションの画面を筆者が撮影)

 リサーチャー(研究者)とオーディエンスが協力して情報を集め、記事化する。

 ハンブルク、ベルリン、デュッセルドルフなど、特定の都市に焦点を置き、定期的にミーティングを開いている。

 また、「クラウドニュースルーム」も設置した。これはコレクティブと契約をしている報道機関の編集室を一本化する・共通化するもので、報道機関がそれぞれのコンテンツをここにアップロードし、情報を共有しながら作業をする。

クラウドニュースルーム(プレゼンテーションの画面を筆者が撮影)
クラウドニュースルーム(プレゼンテーションの画面を筆者が撮影)

 このシステムを使って、現在までに7つの調査報道が行われ、5000人が参加したという。7つの報道の中で、5つは不動産に関する話題だった。銀行、教育現場も対象となった。

 1つのトピックに1000人規模が参加する。たった1人の記者がたった1回の記事のために取材をするのではなく、「取り上げられたトピックをずっとフォローする人もいて、公的議論の下地が生まれた」という。

 クレッチマー氏はいう。「私たちは活動家ではない。ジャーナリストだ。問題に光を当てるのが仕事になる。人々が問題に対する答えを見つけることを助けたい」。

ファクトチェックの役割

 コレクティブは、ファクトチェックで中心的な役割を果たしていることでも知られている。

 創設当初、ドイツの総選挙でのデマ、フェイクニュースがたくさん広がっていた。そこで、コレクティブがファクトチェックを担当するようになった。事実確認の上、デマか真実かをウェブサイト上で公表する。

 すでに、200人ほどがコレクティブでファクトチェックのやり方を学習している。

イベント「キャンプファイヤー」

 

キャンプファイヤーのイベントの様子(プレゼンテーションの画面を筆者が撮影)
キャンプファイヤーのイベントの様子(プレゼンテーションの画面を筆者が撮影)

 コレクティブは、1年に1回、大きなイベント「キャンプファイヤー・フェスティバル」を開催している。

 昨年のイベント(3日間)では18のテントが設けられ、ワークショップ、セミナーなど(200のセッション)が開催された。1万人以上が参加した。

 調査報道は「ウェブサイト上で出すが、ワークショップや劇場で語ることもできる」とクレッチマー氏。

 「私たちはメディアと、メディアを消費する人を1つの場に置きたいと思っている。バリアがないようにしたい。いろいろな人が一堂に集まれば、そこで議論ができる」。参加費は無料だ。

エンパワーさせるための教育

 コレクティブは教育組織としての面も持ち、ジャーナリズムを学ぶウェブアカデミーを開設している。人々を「エンパワーさせる」という目的があるという。

 「ジャーナリストは職場で訓練を受けるが、誰もが情報発信するようになった今、ジャーナリストのいろいろなスキルは、ほかの多くの人にとっても役に立つものではないか」。

 100人を超える著名ジャーナリストを含む講師がデータの扱いやフェイクニュースの見分け方などを教える。1月29日にサービスを開始し、春までに「5000人が参加した」という。無料と有料(5ユーロから15ユーロ、約590円から1700円)がある。

 ちなみに、英ガーディアンも「マスタークラス」という名称でさまざまな講座を提供しているが、こちらはかなり高額で、例えば1日のライティングコースが249ポンド(約3万2000円)である。

 コレクティブのコースは、収入を得ることよりも教育面に重点を置いているようだ。

本社上階に書店を作った

書店で読者とジャーナリストが出会う(プレゼンテーションの画面を筆者が撮影)
書店で読者とジャーナリストが出会う(プレゼンテーションの画面を筆者が撮影)

 

 「ブックショップ」という試みもある。本社の上階を書店として、毎週水曜日、イベントを開催。記者が「なぜある記事を書いたのか」を話したり、著名人が講演をしたり。イベントはライブストリーミングされる。「ふらっと来て、本を買う」こともできる。これも「市民へのエンパワーメントの1つ」と位置付けている。

 この書店は、筆者もぜひ出かけてみたい思いに駆られた。

***

 欧州のメディアによる、「読者とのつながり方」を数回にわたって、紹介してみた。

 日本で、メディアが読者・視聴者にとってさらに身近で重要度が増す存在になることを願っている。


by polimediauk | 2019-09-10 16:30 | 欧州のメディア

 英国は、10月31日までに欧州連合(EU)から離脱(「ブレグジット」)する予定だが、これを必ず実現すると確約したジョンソン英政権の評判がガタ落ち状態となっている。

 9月5日、ジョンソン首相の弟で閣外相のジョー・ジョンソン下院議員が、「家族と国益の板ばさみとなって悩んでいた」と、閣外相を辞任した。下院議員の職も退く意向だ。

 8日には、アンバー・ラッド雇用・年金大臣が閣僚辞任、与党保守党からの離党をサンデー・タイムズ紙のインタビューの中で明らかにした。

 自分の弟や信頼を置いていたラッド大臣の辞任は、ジョンソン政権にとって大きな痛手だ。「家族さえも見放す政権なのか」、「慎重派政治家のラッド大臣までが・・・」。そんな驚きを持って受け止められた。

議会長期閉会で、怒り

 政権に対する信頼感や評判が大きく損なわれたきっかけは、ジョンソン首相による、前代未聞のごり押し政治だ。

 首相は就任時から一貫して、将来EUとどのような政治・通商関係を結ぶのかについての「合意に達しなくても、離脱する」覚悟を示してきた。

 「合意なき離脱」は、「崖から飛び降りるような」離脱になると言われているが、混乱が生じるにせよ、ジョンソン首相は「2016年の国民投票での離脱派の勝利」という国民の決定を形にすることに力を傾ける意思を表明した。

 一方、下院議員の間では、「合意なき離脱」は避けるべきという声が圧倒的で、最大野党労働党を中心に、夏休みの後で9月3日に始まる議会では、ジョンソン首相の合意なき離脱にまっしぐら路線を止める法案を提出しようという動きが出た。

 ところが、首相側は先手に出た。議会の開会・閉会を決めるのはエリザベス女王の役目だが、「政府のアドバイスで」決めることになっている。そこで、8月、スコットランド・バルモラル城に滞在していた女王の下に女王の諮問機関となる枢密院のメンバーと離脱強硬派で院内総務ジェイコブ・リース=モッグ氏を派遣して「アドバイス」を伝え、9月上旬から10月中旬までの4-5週間の閉会の承認を得た。

 毎年、秋には政党の党大会が開かれるので、9月の第2週から10月7日ぐらいまでは議会は休会となるが、通常は短期である。これほどの長期は珍しい。

 何を狙ったかというと、閉会を長期にすることで、合意なき離脱を止めるための法案が提出され、これが立法化されることを避けたかったというのが、大方の見方だ。つまり、「議論を封殺」するのが目的だったといえよう。

 民主主義が十分に発達していない国の強権政治をほうふつとさせる手法である。

 政権側は「十分な議論の時間はある」と主張したものの、「議論の場を失われた・制限された」ことへの不満感、怒りが議会内外に充満した。

 歴史を振り返ると、17世紀、国王と議会の対立が内戦(「イングランド内戦」)にまで発展した。1628年、国王チャールズ1世は、課税強硬策に議会が同意しなかったため、翌年議会を解散。その後、11年間、招集しなかった。1640年春、やっと議会を招集したところ、議員たちは11年間の専制政治を責めた。国王は招集からわずか3週間で議会を解散。この年の秋に招集された議会で、議員らは国王の愚性を批判する大抗議文を出し、国王の怒りを買った。国王派と議会派の武力対決が始まったのは、1642年である。

 何世紀も前の話ではあるが、この内戦で議会派が勝ち、議会制民主主義の構築に向かった歴史を人々は忘れていないし、議員であれば、なおさらだ。「あってはならないことが、起きた」という思いが、議員や国民の中でわき起こった。

21人もの粛清がとどめを刺した

 弟のジョンソン氏やラッド大臣の辞職につながったのは、長期閉会の決断の後に、追い打ちをかけるようにジョンソン政権が実行した「21人の与党議員の粛清」だ。

 なぜそんなことになったのか。

 まず、議会の開会時期が短縮されたことで、野党勢力の「何とかして『合意なき離脱』を止めたい」という思いがさらに強くなった。

 そこで、保守党内の賛同議員の協力も得て、ヒラリー・ベン労働党議員が法案を提出した。もし10月19日までにEU側と離脱条件の合意ができなかったら、離脱期限の延期をEUに要請することを首相に義務付ける法案である。これによって、「合意なき離脱」を止めようとしたのである。

 ジョンソン政権はこれに対し、「合意を得るのが最優先だが、もしなくても離脱する。合意なしでも離脱するという姿勢を見せないと、交渉はうまくいかない」と反論した。

 

 しかし、5日までに法案は上下院で可決され、9日以降、立法化予定だ。

 下院では、4日、法案は賛成327、反対299で可決されたが、この時、保守党内からも賛成票を入れた議員がいた。

 そこで、ジョンソン政権は、21人の造反議員を党から除名した。この中にはフィリップ・ハモンド前財務相、最長連続の議員歴をもつ議員に与えられる「下院の父」という敬称を持つケネス・クラーク議員、ウインストン・チャーチル元首相の孫にあたるサー・ニコラス・ソーム議員もいた。まさか・・・の除名措置に、大きな衝撃が走った。

 ますます、「強権政治」に見えてきた。

 ジョンソン首相は、「自分がEUに離脱期限の延期を要請することはない」として、下院の解散と10月15日の総選挙実施を提案したが、下院はこれを否決。しかし、9日にも再度同様の法案を提出する見込みだ。8日時点で、野党側は再度否決する意思を固めている。

ラッド雇用・年金相の思い

ラッド氏(サンデー・タイムズの紙面を筆者撮影)
ラッド氏(サンデー・タイムズの紙面を筆者撮影)

 

 サンデー・タイムズ紙のインタビューで、ラッド氏は、以下のことを語っている。

 閣僚辞任、離党を決めたのは造反議員の「粛清」とジョンソン首相がEUとの合意を取り付けようとはしないことが分かったからだという。

 首相自身は「合意を取り付けることが最優先」と繰り返して述べているものの、同時に「合意がなくても離脱する」とも発言しており、「合意なき離脱を目指している」と解釈されてきた。

 内情を知るラッド氏が、ジョンソン氏がEUとの合意を得ようとしている「証拠はない」と発言したことで、この解釈が当たっていたことが判明した。

 ラッド氏は、クラーク議員やソーム議員の党籍除名は「良識や民主主義への攻撃だ」、という。党内中道派の「近視眼的な除名は、政治的な破壊行為」であり、次期選挙で保守党の損失となると予測する。

 ラッド氏によると、議会の長期閉会について「閣議での説明は一切なかった」。首相とアドバイザーのドミニク・カミングス氏が決めたようだ。

 ラッド氏が閣僚辞任に動いた直接のきっかけは、造反議員の除名措置だった。除名のために保守党本部があっという間に行動を開始したのを見て、「静観しているわけにはいかないと思った。保守党が離脱強硬派だけの政党になってしまうのは間違っている」。

 もはやジョンソン首相の言葉は信じられないという。

 首相は「総選挙をしたくない、合意なき離脱は望まない」と言っているが、「もしその行動がその反対の方向に向かっているなら、人はそれぞれの解釈をする必要がある」。

 「母がこう言っていた。『何を言っているかではなく、何をしているかでその人を判断しなさい』、と」。

世論調査では、ジョンソン保守党が強い

 ジョンソン首相の信頼度は低下する一方だが、保守党への支持率は下がっていない。

 オンラインの世論調査「ユーガブ」が9月5-6日に行った調査によると、保守党の支持率は35%(前回調査から変化なし)、これに労働党(21%、4ポイント減)、自由民主党(19%、3ポイント増)、ブレグジット党(12%、1ポイント増)が続いている。

 ***

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 【ブレグジット】ジョンソン英政権、10月半ばまで議会閉会 「合意なき離脱」ごり押しのためのウルトラC

 


by polimediauk | 2019-09-09 17:34 | 政治とメディア

 イタリア・ペルージャで開催された、国際ジャーナリズム祭のセッションから、地域のジャーナリズムを支える例を紹介したい。

 (以下、4月4日セッション「21世紀のメディアのために公的資金を使う」から)

 話し手

 カリン・パグリーズ加アブオリジン・ピープルズ・テレビジョン・ネットワーク(APTN)、ニュースと時事部門のエグゼクティブ・ディレクター

 

 マイク・リスポリ米フリープレスのニュース・ボイセズ・プロジェクトのディレクター

 

 ビクトリア・プレスト英BBCのローカル・デモクラシー・レポーティング・サービス所属

 

***

 地域のジャーナリズムをどう支えるのか?世界中でこの問いが発せられている。

 米ニュージャージー州では地方ニュースと情報拡散を支援するためのプロジェクトに公的資金が投資されることになった。

 英国では、BBCが中心となって地方ニュース活性化が行われている。カナダでは、政府が巨額を地方ニュースの振興に費やすことを決定している。

 公的資金と地方ニュースについて、パネリストたちが現状を説明した。

カナダの先住民向けテレビ局

パグリーズ(撮影Giorgio Mazza)
パグリーズ(撮影Giorgio Mazza)
APTNのウェブサイトから
APTNのウェブサイトから

 カリン・パグリーズのアブオリジン・ピープルズ・テレビジョン・ネットワーク(APTN)は、「世界最初の先住民によるテレビ局」と言われている。カナダの放送局で、カナダと米国に住む先住民に向けて放送されている。

 APTNができた背景には、「公的助成金がないとメディアはやっていけない」という見方があった。「アメリカからカナダにニュースが入り、消費される。カナダの文化はどうなるのか」という危機感もあった。

 カナダも、ほかの先進諸国同様にメディアの消費環境が大きく変わっている。新聞界では「広告と購読料で経営を賄うというビジネスモデルが破綻しつつある」。

 カナダ政府が調査を開始し、2018年の予算に「報道の対象になりにくいコミュニティーの報道」のために財政支援をすることが決定された。「5年間の期限付き」だ。

 新聞界については、税金面での優遇措置が取られることになった。「カナダでは毎年多くの新聞が廃刊となっている。その一方で、ニュースのスタートアップ企業はごくわずかだ」。

 大手新聞社への公的助成金をどのように分けるのかで議論沸騰となった。「報道の自由への懸念もあるし、新規企業は対象にならないので、不公平だという不満の声も出ている」。

米ニュージャージー州の試み

リスポリ(撮影Giorgio Mazza)
リスポリ(撮影Giorgio Mazza)

 マイク・リスポリ(米フリープレス「ニュース・ボイセズ・プロジェクト」のディレクター):フリープレス(2003年創設)は、メディアとテクノロジーを人々をエンパワーするために使う運動組織。ネットの中立性やブロードバンドのアクセスについての運動を行っている。

 「ニュース・ボイス(ボイセズ)」と言うプロジェクトは、2015年、地方のジャーナリズムを活性化させるため、ニュージャージー州で生まれた。

 アメリカではよくジャーナリズム祭で地方のジャーナリズムをどうするかの議論があるという。

 ニュース・ボイセズ・プロジェクトはこの文脈の中で生まれ、コミュニティーをどうやって活性化させていくかについて、イベントやワークショップを開いている。

 米国の地方紙業界は崩壊の危機に瀕しており、ニュージャージー州でもその状況に変わりはなかった。大手放送局が隣接州にあり、ニュージャージー州に限ると地方ジャーナリズムはほとんど砂漠状態。

 まず、プロジェクトでは地元の人にどんな情報やニュースが必要かと聞いた。州内の新聞関係者、メディアの専門家にも話を聞いた。

 その結果、市民のための情報法案を考えた。これによって助成金管理のファンドを作り、地元コミュニティーでこの資金を共有できるようにした。

 「ある地域ではデジタルのスタートアップのためにお金を使う、ほかの地域ではテクノロジーのために、あるいはニュースのリテラシー向上のプログラムにお金を使うかもしれない」。

 2017年、こうした法案実現のために州内の市民が1000人規模で参加した。プロジェクト側が企画したイベントに集まって、ニュースの編集者や法律専門家に手紙を書いたという。次第に機運が高まり、政治家も協力するようになった。

ニュース・ボイセズ・プロジェクトのウェブサイトから
ニュース・ボイセズ・プロジェクトのウェブサイトから

 「政治家がジャーナリズムを助けるとは珍しい。しかし、有権者の要求に応える必要があった」。2018年、法案は可決された。

 ニュース・ボイセズ・プロジェクトは、この法律に沿ってより良いメディアを作るという目的を実現するためのインフラ作りに力を入れている。

 「州民がこれほどニュースの将来について関心を持っていたとは知らなかった」、「ニュースの編集者側は、オーディエンスを単にニュースの消費者としてみてはいけないと思う」。

 ニュージャージー州の試みは、2017年にノースカロライナ州、今年に入ってフィラデルフィア州に広がっている。

英BBCが地方ニュースを支える

右端がプレスト(撮影Giorgio Mazza)
右端がプレスト(撮影Giorgio Mazza)

 ビクトリア・プレスト(英BBCのローカル・デモクラシー・レポーティング・サービス所属):「ローカル・デモクラシー・レポーティング・サービス」とは、BBCと地方のジャーナリズムが協力するプロジェクト。去年の初めから始まった。

 3本の柱がある。

 まずBBCはアーカイブ映像を含む巨大なコンテンツを持っているが、これをパートナーとなった地方メディアが使えるようになる。

 2つ目の柱がデータジャーナリズムで、データジャーナリズムのスキルを地方メディアのジャーナリストに教える。公的なデータを使ってどのような物語を語ることができるか。公益目的のジャーナリズムとは何か、など。

 3つ目の柱が、ローカル・デモクラシー・レポーティング・サービス。144人のBBCのジャーナリストがイングランド地方、ウェールズ地方、スコットランド地方のメディアに配置され、記者として働く。ほか数人が年末までに北アイルランド地方のメディアに配置される予定。派遣されたBBC記者の給与はBBCが払う。

 配置されたBBC記者は地方自治体、警察、消防署、健康医療サービス(NHS)を取材し、地方自治体が制作する資料に目を通す。資料は地方議会の議事録であったりする。議会も取材する。「その地方で政治家が物事を決定するとき、その場所にジャーナリストがいるようにする」。

 取得した情報は、パートナーとなった地元メディアと共有する。BBC、地方紙、そのライバルとなる地方紙も含む。ハイパーローカルなブログ、民間のラジオ放送がこれに入る場合もある。

 パートナーになっているのは、大小含めて100だが、この中には英国の地方紙発行大手3社も入るので、約850のタイトルが含まれ、これは地方新聞市場の75%を占める。昨年以降、春までに約6万本の記事が発信された。

 このプロジェクト開始のきっかけは、英国の地方紙市場の困窮だ。「2017年の統計によると、過去10年間で約300紙が廃刊となった。同じ間に発行部数は50%減っている」。

 「廃刊が続くと、地方自治体の政治を監視する人がいなくなる。権力の監視、詮索をする機能が十分に働かなくなる」。

 BBCは視聴家庭から徴収するテレビライセンス料(日本のNHKの受信料に相当)で国内の運営を賄っている。「今回のプロジェクトの新しさは、パートナー間での協力だ。広い意味で地方のニュース市場が一緒になっている。ライセンス料を使いながら、異なる形のジャーナリズムを実践している」。

 

ローカル・デモクラシー・レポーティング・サービス(BBCのウェブサイトより)
ローカル・デモクラシー・レポーティング・サービス(BBCのウェブサイトより)

 

***

 (ジャーナリズム祭の報告から、最終回はドイツのスタートアップ「コレクティブ」の戦略を紹介します。)

 


by polimediauk | 2019-09-07 17:43 | ネット業界

会員制ニュースサイト「コレスポンデント」のウェブサイト

 メディア経営で、購読料でもなく、販売収入でもなく、「会員になってもらう」ことで収入を得て、ジャーナリズムにこれを投資する仕組みが世界各国で目に付くようになった。

 読者が会員になることで、コンテンツを作る側の意識が変わり、編集作業も変革している。会員になってもらうためには、どうしたらいいのか、これがメディアの悩みの1つでもある。

 ペルージャの国際ジャーナリズム祭のセッションから、具体例を紹介してみたい。

英ガーディアン紙の会員制はどうやって始まったか

 アマンダ・ミッシェル(英「ガーディアン」のグローバル・ディレクター・コントリビューションズ):収入は広告の方が多かったが、3年ほど前から会員制を開始し、寄付金(コントリビューション)も合わせると、読者からの収入が広告収入を上回るようになった(4月5日のセッション「会員制モデルの人気」)。

 そもそもは、ガーディアンが開催するイベントで始まった。イベントに来てくれた人には参加料を払ってもらえる。しかし、これはロンドン、あるいは英国だけだ。

 読者は世界中にいるし、大規模に読者から収入を得る方法はないか、と。

 まず、読者に大々的な調査を開始した。そこで分かったのは、読者はガーディアンの広告収入はどれぐらいで、寄付するとすればどれぐらいがいいのか、何に使われるのかを知りたがっていた。

 このため、ウェブサイト上では記事の後に、「ジャーナリズムを支えるために」会員制あるいは寄付を募っているという文章を入れるようにした。このやり方は自然発生的にできた。

 ガーディアンのウェブサイトによれば、現在、ガーディアンに何らかの形でお金を払って支援する人は約100万人(有料購読者、会員、寄付金を払う人)。3年後の2022年までに、これを200万人にする計画を立てている。

「ローカル」のスウェーデン版は

「ローカル」スウェーデン版のウェブサイト
「ローカル」スウェーデン版のウェブサイト

エマ・ロフグレンスウェーデン版ローカルの編集者):ローカルは欧州に住む外国人向けのニュース媒体で、9つの国で発行されている。自分はスウェーデン版を担当しているが、英語での情報発信だ(4月4日のセッション「新しいモデル、新しいジャーナリズム:資金繰り改革は内容も変える?」)。

 2年前、ローカルはもっと長期的に、かつ大きく収入を伸ばすにはどうしたらよいかと考えだした。そこで思いついたのがメンバーシップ(会員制)だった。

 ローカルは英語で情報を読む人のコミュニティーに向けて作られており、そのコミュニティーと住んでいる国との橋渡し的役割を持つ。「購読料はお金の行き来だ。しかし、会員制は関係性を築くことを意味する」。

 「クリック数を伸ばすことを最優先するのではなく、オーディエンスにかかわりのある問題を扱っている。オーディエンスからの意見を取り入れて、物事を決定するようにした」。

オランダ:会員と一緒に記事を作る

 さらに詳しく、見てみよう。会員制で知られている、オランダの「コレスポンデント」の例だ。

 ローザン・スミット(オランダの会員制ニュースサイト、コレスポンデント)編集長:オランダではすでに6万人の会員(有料購読者)がいるが、英語版でもサービスを開始し、こちらは5万人(注:本格的なサービス開始は今年秋)。会員は世界130か国にいる。90%の収入は会員からの購読料だ(4月5日のセッション「ニュースビジネスの次は何か?」)。

 日々のニュースを追うのではなく、私たちの生活に重要なトピックを追う。例えば気候温暖化やプライバシー保護など。

 原稿が出るまでの過程に、会員が関与する。例えば、議題を設定するのは編集長ではなく、ジャーナリスト自身。それぞれのジャーナリストが自分なりの議題を持っているので、編集部はジャーナリストに対し、どのようなことを書きたいと思っているかを細かく説明してもらう。

 この時、ジャーナリストは「嘘の中立性」を持たないようにしてもらう。自分なりの世界観(例えばプライバシーだったら、プライバシー侵害に抗議するという姿勢)を読者と共有してもらう。

 ジャーナリストは会員・読者に対し、なぜその特定のことを書くことにしたのかを明らかにする。このようにするのは、会員との関係を築くため。取材・執筆過程にも会員が参加できるようにするため、ジャーナリストは経過報告を出す。そこに会員がインプット。一緒に調査できるようにする。

 会員が関与する動機は、「自分のインプットによって記事が変わる・人の物の見方が変わる・世界が変わる」と思うから。起きていることを批判するだけではなく、解決策も考える視点を持つ。

 これまでの経営で、学んだことをリストアップしてみる。

 まず、会員制とは1つの文化を作ることを意味する。

 また、会員制は双方向の動きで、ジャーナリストはこれまでの取材・執筆手法を変える必要がある。

 読者の方もジャーナリズムに対する期待を変える。つまり、コレスポンデントのジャーナリズムとは出来上がった記事をお金で買う、という商業行為ではなく、会員である自分たち自身も知識のプラットフォームとしてこれに参加することを意味する。ともに作る、ということである。それには会員も時間と知識をインプットする必要がある。

 これを可能にするには互いの連絡をスムーズに行うソーシャルのツールが必要で、会員がどのような専門知識を持っているかを見つけ出せるようなツールも必要だ。

 「対話のエディター」、「ソーシャル・エンゲージメント・エディター」など、新しい職種が生まれた。

 90%の収入は会員が払うことになるが、収入と歳出の内訳をオープンにしている。会員からの支持がなければ成り立たないことを示し、経営の透明性、ひいてはメディアへの信頼性を築くための1つの方法だ。

 会員は記事を非会員に贈り物として送ることができる。また、会員費はいくつかあって、選べるようになっている(払いたい分だけ、払う)。

インド:会員になってもらうために、何を読者に提供するか

「ブルームバーグ・クイント」のウェブサイト
「ブルームバーグ・クイント」のウェブサイト

 リタ・カプール(インドのクインティリオン・メディアCEO):「クイント」というニュースサイト(無料閲読)と同時に、米ブルームバーグと協力して、メーター制の「ブルームバーグ・クイント」というサイトを経営している(4月5日のセッション「ニュースビジネスの次は何か?」)。後者は毎月7本までは無料。2年間、1年間の有料購読、あるいは記事1本ごとのマイクロペイメント体制を取っている。この2年間で5000人の利用者を獲得した。

 先のクイントのウェブサイトの方は一般ニュースを扱っている。今後、会員制を新たな収入源にしようと思っている。

 会員制開始にあたり、3つの特徴を考えた。

 1つは市民記者としての参加だ。インドの山間地帯には、こちらのリポーターが入っていけない・入りにくい場所も多々ある。そういった地域で何が起きているかを知らせてくれる役目を果たす。読者はニュース作りに参加でき、こちらも重宝する。

 2つ目はファクトチェックへの参加である。読者に協力を呼び掛けている。インドではフェイクニュースが多いが、これは、通信が暗号化されるワッツアップで広がる。外からは何が起きているかは分からない。そこで、読者にどんなうわさが出ているかを聞くことで、フェイクニュースが出回っていないかどうかを探る。

 3つ目はオリジナルの特集記事で、この3つの点を持って、会員化を呼びかけた。4月から始めたばかりだが、大きく増えることを期待している。

スペイン:スクープで会員を増やす

スペイン「eldiario.es」のウェブサイト
スペイン「eldiario.es」のウェブサイト

 以下の2つの例は、4月5日のセッション「会員制モデルの人気」から。

 マリア・ラミレズ(スペイン「eldiario.es」のストラテジー・ディレクター):2012年、政治やルポ、調査報道を柱とする左派系メディアとして誕生した。

 当時、経済危機がようやく終わりそうな頃で、既存メディアに対する大きな失望感が人々の間にあった。危機につながる事態を十分に報道できていないのではないか、政治経済のエリート層にメディアは近すぎたのではないかという疑念が人々の間にあった。それで、私たちのメディアが人気になった部分があるのではないかと思う。

 急激に会員(現在は3万5000人)を増やせたのは、1年前のスクープ記事がきっかけだった。マドリード州首相クリスティーナ・シフエンテスの学歴詐欺を暴露した。彼女は最終的に辞任した。

 今後、会員数を拡大するにはスクープを出し続ける必要があるのが悩みだ。現在は購読料を含む読者からの収入が40%で、広告収入は60%。将来的にはこの比率を逆にしたい。

 ウェブサイトは無料で閲読できる。会員になればニュース記事が先に送られるようにしているが、プラスアルファを考える必要がある。イベントを開催すると、若い女性が多い。これを活用できないかと考えているところだ。

デンマーク:イベントで誘う

「ゼットランド」のライブイベントの画面(ウェブサイトより)
「ゼットランド」のライブイベントの画面(ウェブサイトより)

 リー・コースガード(デンマーク「ゼットランド」の共同創業者・編集長):ゼットランドは、ハイクオリティーの会員制電子ペーパー。コペンハーゲンに本拠を置く。

 会員が中核にあり、「会員の時間を無駄に使わせない」を読者への約束としている。広告は入っていない。毎月の購読料は17ユーロ。学生は半額だ。オランダのコレスポンデントの例を倣い、会員は記事をシェアできるようにしてあり、これで知名度を拡大させるようにしている。

 毎日、情報があふれるように出ているので、ゼットランドはそうせず、デイリーのポッドキャストとニュースレターをのぞくと、1日に2本ほどを掲載する。「読み終えた」という感覚を持てるようにする。

 最近の記事の1例として、厳しいしつけ・教育についての連載があった。連載終了後、書籍化した。執筆を担当したジャーナリストは国内各地で講演し、これがゼットランドへの勧誘にも貢献した。

 原稿作成過程では、読者から質問を募った。例えば「妊娠中に、1日3回コーヒーを飲んでもいいのかどうか」という質問が来る。記者は探偵のようにしてこれを調べ、記事にする。会員の興味・関心が核になって、作業が進んでいく。

 ポッドキャストを始めたのは、2年前に読者にどんなサービスを望むかと聞いたところ、「オーディオ」と言われたからだ。記事を読みあげてほしいという。これがすごく人気が出たので、専用アプリを作った。今、サイト利用の65%がオーディオである。読者との対話は非常に大事だ。

 時々、「ライブ・ジャーナリズム」という名前で、大きなイベント(有料)を行う。会員ではない人も含め、1500人ぐらいが集まる。そこで、10本のストーリーをジャーナリストが語る。その後、ビールやコーヒーを片手に話をする。「今は情報がたくさん出ているが、人が一堂に集まって、同じ話を一緒に聞くのは非常に珍しい体験ではないかと思う」。

英フィナンシャル・タイムズ紙のライブ・ジャーナリズムのイベント

「ライブ・マガジン」のウェブサイト
「ライブ・マガジン」のウェブサイト

 

 ジャーナリズム祭の別のセッションで、パネリスト(フローレンス・マーティン=ケスラー)が「ライブ・ジャーナリズム」を実践する会社「ライブ・マガジン」(フランス)を運営しているという。2014年創業。

 ジャーナリスト、作家、アーチストなどを劇場の壇上に呼び、そこで「ストーリーを語る」ことをライブ・ジャーナリズムと呼んでいる。欧州各国でこれまでにいくつものイベントを行っている。(2017年の関連記事

 

 今年4月9日、英国での最初の試みとして、ライブ・マガジンの協力によって、英フィナンシャル・タイムズ紙がイベントを行ったので、出かけてみた。

 場内の撮影・録音は許されず、「その場限り」のイベントである。場所は、ロンドン・バービカンセンター近くにある大学の講堂だ。

 著名コラムニストやジャーナリストたちが、舞台の右端に並べられた椅子に座っている。左端にはピアノが1台。

 一人ひとりが舞台の中央にやってきて、それぞれのストーリーを語る。例えば、昨年殺害された、サウジアラビアのジャーナリストについての思い出を語ったジャーナリスト、メイ首相(当時)への期待感がいかに失われていったかを「メイ政権は大きな冷蔵庫だ」というタイトルで面白おかしく話したコラムニスト、政治漫画家の話などに加え、株価の動きをオペラ歌手が「歌声でつづる」(株価が上がれば、声も上がるという演出)というアトラクションもあった。

 笑いあり、涙ありのストーリーイベントだったが、少々お堅い感じがあった。感動まではいかなかったように思う。特定のテーマがあれば、また来ようと思ったかもしれないが。

 チケットは35ポンド(約4500円)。ガーディアンの同様のイベントでは17-20ポンド(2000-2500円)ぐらいで、それに比べるとやや高い。観客は20代から60代。若者たちのグループが目立った。もしかしたら、安く入手していた可能性もある。

 FT、ガーディアン、ほかの英国の新聞もイベント自体はよく開いている。また、ジャーナリストや編集者が議論をする、講演をする場合も珍しくない。

 しかし、ジャーナリストたちが次々とストーリーを語る「ライブ・ジャーナリズム」的イベントは、どこかに「頂点」がないと、最後の感動にまではなかなかいかないように思う。「また来たい」という気持ちにさせてくれない。

 先のゼットランドのイベントは、パフォーマンスにかなり工夫をしていると聞いている(ジャーナリストが着ぐるみに入って登場。舞台劇を思わせる)。また、イベント後の「飲み物を片手のおしゃべり」が大好評であるという。英国メディアが学ぶ部分はいろいろありそうだ。

 (次回は、地方ジャーナリズムを救う試みを紹介します。)


by polimediauk | 2019-09-06 23:29 | 欧州のメディア

 前回、英ガーディアン紙が購読収入や販売収入とは別個に、会員制やフィランソロピー(慈善行為、社会貢献活動)による支援金・寄付金をジャーナリズムに投資し、効果をあげている話を紹介した。

 今回は、フィランソロピーとジャーナリズムについて、今年4月に開催されたイタリアの「ペルージャ国際ジャーナリズム祭」*(記事の最後に詳しく説明)でのセッションから論点を紹介してみたい。前回の記事と若干重なる部分もあるが、話のつながりとして中に入れてみた。

フィランソロピーとジャーナリズムの関係は

 ニュース組織の経営は厳しいものになっているが、財団や読者からの財政支援、億万長者からの寄付金によって運営される、非営利のニュース・メディアが一定の位置を占めるようになってきた。その良い点、悪い点を経験者が語った。

 4月5日のセッション「フィランソロピーはジャーナリズムを救う答えになるか?」

 話し手

 クレイグ・ニューマーククレイグ・ニューマーク・フィランソロピーズの創業者

 

 アラン・ラスブリジャー、ガーディアン元編集長、現在はオックスフォード大学マーガレットホール学長、ロイタージャーナリズム研究所の会長 

 

 ビビアン・シラー米シビル財団のCEOで、ガーディアンを所有するスコット・トラストのメンバー

 インディラ・ラクシュマナンピューリッツアー・センターのエグゼクティブ・ディレクター

 

なぜ投資するのか、投資家の視点は

ニューマーク 撮影Diego Figone
ニューマーク 撮影Diego Figone

 クレイグ・ニューマーク(米クレイグ・フィランソロピーズの創業者で、ジャーナリズムのためにたくさんの寄付金を出している):なぜジャーナリズムに投資をするのか、と聞かれる。

 学校で学んだのは、信頼できるジャーナリズムは民主主義にとって不可欠だと言うこと。国家として生き残るには、国民は何が起きているかを知らなければならない。ジャーナリストは真実を語る役目を持つ。

 2016年11月、トランプ米共和党候補が大統領選に勝利した。「あれが警告となった」。

 「ジャーナリズムを助ける」ために、資金を出すことにしたという。

 「普通の人が世界の中で正しい判断をするには、正確な情報が出回っていることが必要だ。以前から、米ポインター財団を助けてきた。財団はアメリカのジャーナリズムの倫理と言うことに関しては先端を行っていると思う。私自身にはジャーナリズムの経験がほとんどないので、他の人の意見を聞いてどこに投資するかを決めている」。

 *ニューマークのジャーナリズム支援の1つ、ニューヨーク市立大のジャーナリズム・スクール

 

英ガーディアン紙が、フィランソロピーでできたこと

 アラン・ラスブリジャー(ガーディアンの元編集長):「ガーディアンはスコット財団に所有されてきた。大きな利益を生み出すような新聞ではない」。

ラスブリジャー 撮影Diego Figone
ラスブリジャー 撮影Diego Figone

 ガーディアンは会員制を設け、それが最近は100万人に達した。「会員制は一種のフィランソロピーであると思う。購読料とは違う。会員になるためにお金を出すことで、自分だけではなく、みんながガーディアンのジャーナリズムを読めるようになるからだ」。

 ビル・ゲイツ財団からの寄付金では開発についての記事を書くことが条件だった。結果的に主にアフリカ大陸について書くことになった。もし寄付金がなければ、ガーディアンはこうした記事を書く財政上の余裕はなかっただろうという。「お金をもらうことによってこのようなテーマについて書けるというのは、良いことだと思っている」。

 また、オーストラリアの政治家から電話をもらい、オーストラリア版のガーディアンを作ってくれないかと言われた。「70%のオーストラリアのメディアがメディア王マードックに所有されているので、何とかしてほしい」と。ラスブリジャーはオーストラリア版を作りたかったが、「お金がなかった」。

 そこでフィランソロピーで進めることにし、旅行サイト「Wotif」を作った起業家グレアム・ウッドが5000万ポンドを提供して、オーストラリア版ができたという。

 ほかには、寄付金を利用して「現代の奴隷制度」、「都市の近代化」などのテーマで記事を作ることができた。「お金を出す方にしてみれば、ガーディアンに記事が出てたくさんの恩恵があったと言うふうに考えているのだろう」。

ジャーナリストがかわいそうだから、フィランソロピー?

 

シラー 撮影Diego Figone
シラー 撮影Diego Figone

 ビビアン・シラー(シビル財団のCEO)は、「フィランソロピーによる支援は、ジャーナリズムが苦しくなっており、かわいそうなのでこれを支援すると言う形で与えられるべきではない」という。

 インディラ・ラクシュマナン(ピューリッツアー・センターのエグゼクティブ・ディレクター)もこれに同意する。「フィランソロピーによる支援はジャーナリストを助けると言うよりも、パブリックのためにある。民主主義社会が機能するため。人々が社会に参加するためだ」。

 ラクシュマナンは、「もし利益の衝突が起きたら、どうするのか」をラスブリジャーに聞いた。「ゲイツ財団がアフリカの開発について記事を書くために資金を出した後で、ガーディアンが調査し、ゲイツ財団自身の開発支援が非常に効果が低かったことが判明したら、どうするのか」。

ラクシュマナン 撮影Diego Figone
ラクシュマナン 撮影Diego Figone

 ラスブリジャーは、「まず最初にルールを決めておく」という。ルールをオープンにし、関係者が何がルールかをわかるようにしておく。該当するプロジェクトに誰がお金を出しているのかも明記する。

 これまでにも広告収入を得ながらメディアは活動してきたので、「フィランソロピーの場合も問題はないと思う」。

居心地の悪さ

 しかし、ラスブリジャーが「居心地の悪い思い」をしたことは何度もあったようだ。

 編集長時代に、あるネイティブ広告の記事が掲載された。ほぼ同時に広告の中で紹介したある企業について、かなり批判的な記事が出ることになった。これを知ったラスブリジャーは、担当の記者に電話した。「なぜここまで批判的な記事を書くのか」と聞いた。

 記者は「この会社はひどいと思う」と持論を述べたという。ラスブリジャーは記事の差し止めをしなかったので、批判記事はそのまま掲載された。

 また、気候温暖化についての記事が、フィランソロピーで援助を受けたいくつかの財団を真っ向から非難する内容だったことがあった。「読者からこの点を指摘された」という。まさに「居心地が悪い」瞬間だった。

 セッションの動画

ペルージャのジャーナリズム祭とは

 毎年4月、ペルージャで開催される「国際ジャーナリズム祭」は、地元活性化の一環として始まった。参加費は無料で、世界各地からやってくる学者、リサーチャー、ジャーナリスト、メディア組織の編集幹部、学生、一般市民などが参加する。

 

 今年は4月3日から7日まで開催され、スピーカー(女性は49%)は約650人、セッション数は約280。運営ボランティアは、19か国出身の約130人。

 運営資金のスポンサーは、フェイスブック、グーグル、アマゾン、欧州委員会、コカ・コーラ社、ネッスル社、衛星放送スカイ、金融機関ユニポールと小規模なNGO組織。ペルージャがあるウンブリア州地域カウンシルも支援。

 寄付金は米クレイグ・ニューマーク・フィランソロピーズから(ニューマークは「クレイグリスト」で知られる)。(クレイグリストとは

 来年は、4月1―5日に開催予定となっている。

プログラムの特徴は

 近年の焦点はテクノロジー関連(データジャーナリズム)、世界の報道の自由、ビジネス(ニュースのスタートアップ)。過去2年はフェイクニュースやフェイスブックを始めとするソーシャルメディアの諸問題が中心となった。

 今年は純然たるテクロノジー関連は影を潜めたようだ。また、フェイクニュースは一時期の大騒ぎを通り越し、国家レベルの「ディスインフォメーション」をどうするかの議論に成熟した。

 ソーシャルメディア、特にフェイスブックに対する視線はいまだに厳しいものの、ザッカーバーグCEOが規制導入に前向きの姿勢を見せていることから、「どうやって共にやってゆくか」という議論に向かいつつある。

 (次回は、各メディアによる会員制を詳しく報告します。)


by polimediauk | 2019-09-05 19:30 | 政治とメディア

メディア展望」(新聞通信調査会発行)8月号掲載の筆者記事に補足しました。

***

 英国の左派系高級紙「ガーディアン」(月曜から土曜)と日曜紙「オブザーバー」を発行するガーディアン・ニュース&メディア社が長年の赤字を克服し、2018-19年度で80万ポンド(約1億円)の営業利益を計上した。親会社となるガーディアン・メディア・グループ(以下、「グループ」)が、8月上旬、19年3月決算で正式に発表した

 グループの収入は2億2450万ポンド(約290億円)に達し、経営陣が3か年計画で目指していた損益分岐点に達した。鍵はデジタル収入と読者からの支援の増加であるという。

 グループの収入の半分以上(56%)がデジタルから生じるようになっている(プリント版発行による収入は43%)。

収入の内訳 ガーディアンのウェブサイトから
収入の内訳 ガーディアンのウェブサイトから

 収入の内訳は、大きい順から「広告収入」(40%)、「読者からの収入」(28%)、「店頭での販売収入」(24%)。

収入の内訳 ガーディアンのウェブサイトから
収入の内訳 ガーディアンのウェブサイトから

  

 今回の決算では、海外事業の結果を初めて公表。ガーディアンのウェブサイトには米国版とオーストラリア版があるが、この2つのウェブサイトの広告収入と読者からの支援は3008万ポンドの収入を生み出したという。これはグループの海外事業収入の14%にあたる。

 3月時点で、ウェブサイト(ガーディアンとオブザーバーは1つのウェブサイトを共有)には1億6300万人のユニークユーザーがおり、13億5000万のページビューがあったという。

 現在、ガーディアンに定期的に財政支援を提供する人は65万5000人に達し、過去1年に一度でも支援した人は約30万人だ。

 グループは、非営利組織「スコット財団」に所有されており、10億ポンドの寄贈財産を持つ。これを長年にわたって投資することによって得た収入の中で年間300万ポンドをジャーナリズムに投入している。

新聞ビジネスをどのように立て直したのか

 グループの中核をなすガーディアン・ニュース&メディア社は、2017-18年度には1900万ポンドの損失、15-16年度には5700万ポンドの損失を出したものの、過去3年で経営が大幅に改善された。

 経営状況改善の鍵は2016年1月から導入された、「リレーションシップ戦略」だ。読者とのかかわり(リレーションシップ)をより深めることで収入を増大させ、3年で経費を20%減少させることを目指した。

 人員削減の過程では解雇費用に430万ポンドを支払い、編集・販売・サポート部門の従業員を1475人から1437人に減らしている。

 また、ガーディアン、オブザーバー両紙は英国の新聞では固有となる縦に細長い「ベルリナー判」で印刷されてきたが、これを小型タブロイド判に変更(2018年1月)したことも経費削減に寄与した。

購読者のほかに会員、支援者を募る

 「読者からの収入」と言えば、店頭で新聞を買うことから得られる販売収入か、プリント版あるいは電子版の有料購読による収入が一般的。

 しかし、ガーディアンは左派リベラル系の政治姿勢や継続した調査報道を看板とし、同紙のジャーナリズムに貢献する「会員」あるいは「支援者」として金銭を払う選択肢を読者に提供した。

 ほかの英国の新聞は電子版での記事の閲読に一定の限度を設け、購読者でないとすべては読めないようにしているが、ガーディアンやオブザーバーは過去記事も含めて無料で読めるようにしている。

 注目に値するのは、無料での記事閲読を維持する一方で、有料購読という形ではなく、「会員」、「支援者」、「貢献者」として読者に幾ばくかの料金を払ってもらう仕組みを考案したことだ。

購読者、貢献者

 現在、ガーディアンに毎月何らかのお金を払う人は65万5000人に上ると紹介したが、もう少し詳しく見てみよう。

 その内訳は、プリント版あるいは電子版の有料購読者(サブスクライバー)、会員(メンバー)、支援者(サポーター)、貢献者(コントリビューター)などに分かれる。

 また、昨年1年間で30万人が1回限りの形でお金を払っているので、トータルでは、年間約100万人から収入を得ている。

 有料購読者以外の区分けだが、

 ー「会員」には「サポーター」(年に49ポンドあるいは毎月5ポンドを払う)と「パートナー」(年に149ポンドあるいは毎月15ポンド)があり、前者はガーディアンが主催する会員向けイベント(有料)に出席でき、後者は同様のイベントに無料あるいは割引価格で参加できる。

 ー「支援者」は毎月5ポンドを払うことで、ジャーナリズムを支援する。

 ー「貢献者」は寄付金を払う仕組みで、頻度(「1回のみ」、「毎月」、「毎年」)と金額(2ポンド以上)を選択できる。「パトロン」という選択肢(年間1200ポンド以上)もある。

会員制、寄付金制度の広がり

 会員制でよく知られているのが、オランダの新興メディア「コレスポンデント」(電子版のみ)だ。

 サイトに広告は入れず、有料購読者からの収入でほぼ運営を賄う。読者を「会員」あるいは「貢献者」と見なし、より深い関係を持つことを目指す。

 現在6万人の会員を持つが、英語版(会員数5万人)を今年秋から開始予定。会員制を双方向の動きと考え、原稿の議題設定から執筆までの過程に会員も関与する。ジャーナリストは執筆経過を会員に明らかにし、会員はこれに情報を付け加える。執筆者と会員とが時間と知識を投入して1つの記事を作り上げていく。時折会員向けイベントを開催し、媒体との結びつきを強化している。

 「大きな規模の会員制」とも言えるのが、「フィランソロピー(社会奉仕、慈善事業)」による財政支援だ。

 米「クレイグ・ニューマーク・フィランソロピーズ」の創業者クレイグ・ニューマーク氏は、ジャーナリズム振興のために多額の寄付金を拠出している。ジャーナリズムの教育機関米ポインター・インスティテュートやニューヨーク市立大学のジャーナリズム・スクールなどが拠出先だ。

 ガーディアンは米ゲイツ財団、米ロックフェラー財団などから寄付金を受け取っている。「気候温暖化」、「現代の奴隷制度」など、テーマが指定される場合もある。いずれも、社会的に重要なテーマであるが、必ずしもページビューや広告収入の増大に結び付かないものである。

 しかし、支援を提供する組織の利害が報道の邪魔になる場合はないのか?

 ガーディアンの元編集長アラン・ラスブリジャー氏は「最初にルールを決めておく」ことを進言する(伊ペルージャのジャーナリズム祭にて、今年4月)。「このルールを関係者全員が分かるようにしておく。また、記事の中に該当するプロジェクトに誰がお金を出しているのかを明記する」という。

 ガーディアンの会員制・寄付金制度は、フェイスブックの個人情報流出事件を含むスクープ報道を次々と発信していることやその政治姿勢への支持、ファン層のベースがあってこそ、実現できたと言えよう。

 しかし、独自の支援者層を作りこれを収入増に結び付ける試みやフィランソロピーの支援は日本でも応用が可能に見える。

*** 

 会員制、フィランソロピーについては、4月に開催された「伊ペルージャ・ジャーナリズム祭」で興味深い例があったので、次回以降、さらに詳しく紹介してみたい。


by polimediauk | 2019-09-03 18:13 | 新聞業界