小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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<   2020年 01月 ( 3 )   > この月の画像一覧

 以下のインタビューは、週刊誌「東洋経済」11月23日号掲載の「NHKの正体ー膨張する公共放送を総点検」の中の、筆者執筆記事(実は政府の影響を排除しきれていない 本当にNHKのお手本になる? BBCの意外な実態とこれから)のために行われたものです。

***

 NHKに対して逆風が吹く中、その英国版にあたるBBCの現状と将来について、専門家数人に話を聞いてみた。NHKの放送受信料にあたる、BBCのテレビライセンス料制度はいつまで続くのだろうか。

 これまでの記事は:

 英BBCはお手本になるか? 英国でN国党がない理由は「公共のため」を信じる国民がいるから

 

「BBCをぶっ壊す」英国でなぜ言われない? 特別な存在だが危機状態との指摘も

 今回(最終回)は、放送法に詳しい、リーズ大学のシルビア・ハーベイ教授に聞いた。

ー英国で、日本のN国党に相当する政党はあるのでしょうか?組織を「ぶっ壊す」ことを目標とする政党、という意味ですが。

 ハーベイ教授:該当する政党はないと思います。英国のEUからの脱退を目的とした英国独立党(UKIP)はシングル・イシューの政党ですが、ブレグジット(英国のEUからの離脱)党ができて、影が薄れましたね。ブレグジット党が特にBBC を批判していたわけではないですし。

ー与党・保守党が反BBC 政党だという人もいますが。

 保守党の一部は確かにそうかもしれません。特にジョン・ウィッティングデール元文化・メディア・スポーツ大臣(現在の省名はデジタル・文化・メディア・スポーツ省)がそうでした。反BBCで、テレビライセンス料(NHKの受信料に相当)制度も廃止したがっていました。

 でも、文化大臣として公式にそのようなことをすることはできなかったのです。保守党内では、どこまでBBCを攻撃するかについて意見がまとまっていなかった面もありました。

-なぜBBCを嫌うのでしょうか。

 

 経済及び政治的な立場がそうだからです。

 現行では、国民は法律によって特定の放送局(BBC)にライセンス料を払うことが義務化されています。

 市場経済を真に信じている人は、ライセンス料制度という、公がその活動資金を提供する形を受け入れがたく感じるのです。

 また、番組内容の面からもBBCを嫌っています。

ー新聞界とのコネが強いために、反BBCになっているという面はありますか。

 確かにそうです。

 デイリー・エクスプレス紙、デイリー・メール紙、デイリー・ミラー紙などの大衆紙がありますが、ミラーを除くと、ほかの新聞はすべて反BBCです。

 ニュース市場において、BBCは新聞界のライバルになります。ですので、新聞社の所有者は反BBCです。いくつも具体例があります。例えば、1面に常にBBCに対して批判的な記事を掲載する新聞もあります。

 新聞の販売部数が減っていますよね。これをBBCのせいだという人もいるわけです。BBCの報道が日常会話でよく出るというのです。BBCの存在が大きすぎる、という人も。新聞を読む人は減っていますので、危機感があります。

ー右派系の新聞はBBCの報道はリベラルで左派過ぎると言って攻撃します。どう思われますか。

 BBCは様々な理由で攻撃されます。

 最近ですと、75歳以上の高齢者がいる家庭はBBCのライセンス料が無料になっていますが、これを現行のように国の税金で負担するのではなく、来年からはBBCが負担するように変えられましたよね。

 でも、先日、BBCは支払いを拒否する報告書を出しました。低所得の高齢者、つまり、「年金クレジット」という支給を受ける人の分のみをBBCは負担するといいました。そこで、批判されたわけです。

ーBBCのジャーナリズムは左に偏向していると思いますか?

 個人的に言うと、そうは思っていません。不偏不党であることが義務化されていますし。でも、どの番組を取り上げるかで評価が違ってくるかもしれません。

 また、「左への偏向」とはどういう意味なのか。視聴者から集めるライセンス料という形になっていること、つまり公のお金を使っているということ自体を左的と言えなくもありません。

 でも、あくまでも私の見方ですが、不偏不党を逸脱しているという批判はいつでもありましたが、BBCのジャーナリズム全体を見れば、そうとは言い切れないと思います。

 チャンネル4という放送局のニュースを見ると、確かに左派的といってよい感じがしますが。

 チャンネル4は、ほかの放送局とは異なる視点を出すことを法律上定められていますので。また、BBCと比べると、視聴率ははるかに低いですよね。

 チャンネル4全体について確固とした意見を言えるほど、このチャンネルをしっかりと見ているわけではありませんが、権力に対して批判的な姿勢をとっていることは明白です。

 視聴占有率(ある時間にテレビを見ている人の中で、何%がどのチャンネルを視聴しているか)に注目してみましょう。

 業界誌「ブロードキャスター」によれば、トップ10にランキングするのは、BBC1,BBC2(いずれもチャンネルの名前)、ITV,チャンネル4、チャンネル5が入ります。(有料衛星放送の)スカイが作った番組や、BBCの教養チャンネルBBC4が作った番組が入ることは珍しい。

―ニュース番組で最も視聴されているテレビ局は?

 例えば9月23日の週では、ブレグジットの話題が多かったので、視聴者数は例年よりも増えています。

 最も人気が高かったのが、夕方のBBCのニュース番組でした。視聴者数は430万人です。次に人気があるのが民放最大手ITVのニュース番組でした。

 放送通信庁(「オフコム」)の調べによれば、最もニュースの信頼度が高かったのはBBCです。新聞社のニュースよりも信頼されています。

ーBBCの英社会における位置や公的組織としての存在感をお聞きしたいのですが、例えば国民医療サービス(NHS)は診察料を税金で負担していますよね。国民全体のために、全員が税金を払って、カバーすると。放送業ではBBCにライセンス料を払い、これがBBCの国内の放送活動をまかなっています。このように、公的資金がBBCの活動をカバーするという考えは、今でも支持されているのでしょうか。

 支持されていると思います。ただ、回答は難しいですね。どんな証拠があるのか、と考えた時にです。

 今のところ、BBCにとっての大きなリスクは政府との関係です。

ーそうなんですか?

 そうです。BBCの収入を大幅に減らしましたから。

 緊縮財政を実行した政府は、2010年から、BBCにこれまで以上に予算内からお金を拠出するようにさせました。ラジオの国際放送ワールド・サービスや、ブロードバンドの普及などのお金をBBCに負担させたんですね。総合すると、BBCの予算の20%ぐらいになりましたね。

 ウエールズ語の番組の費用は政府が持ってきましたが、途中からBBCに負担させるようにしましたし。新聞で大きく報じられたわけではありません。ひっそりと実行されました。

 2015年には、BBCが75歳以上の高齢者がいる家庭のライセンス料を負担することをBBCの経営陣に呑ませました。

 労働党政権時代に、こうした高齢者家庭のライセンス料は政府が払うことになったのですが、金額的にはかなり大きくて、7億ポンド(約1千億円)ほどに上りました。これを2020年からBBCが払うようにしたわけです。

 こうして、政府はBBCの予算を攻撃してきます。

 これはとても危険な動きだと思います。それは、今、オンデマンドの動画サービスが人気ですよね。ネットフリックスやアマゾンなど。BBCはこうしたサービスと競争をしているわけです。

 ネットフリックスは潤沢な資金を持っていますし、今のところは、BBCはネットフリックスと共同制作をして生き延びています。BBCが得意とするドラマの制作にはとてもお金がかかります。あと2-3年もすれば、予算の減額が制作に響いてくると思います。

―今後も、ライセンス料は続いていくでしょうか。

 私の感覚では、ライセンス料制度への一般的な支持はあると思います。

 その理由として、視聴者が有料視聴料(サブスクリプション)がどれほど払っているかに気付いた点があると思います。例えば、ネットフリックスのコンテンツを見るためには毎月6ポンド(約850円)ほど払いますが、これにはラジオやニュース報道が入っておらず、BBCが提供するサービスに比べると限定的です。

 全体として、ライセンス料制度に敵対心があるとは思いませんが、一部の人は嫌っています。

ーBBCの存在を今後も維持していくには、どうしたらいいのでしょうか。

 大きな哲学的質問でもありますが、直近の問題としてもとらえられますが。

―直近の問題としては、どうでしょうか。

 まず、予算の問題でしょう。

 10月、下院のデジタル・文化・メディア・スポーツ委員会が非常に興味深い報告書を出しています。フィナンシャル・タイムズ紙も報道していましたが。

 委員長は、保守党のダミアン・コリンズ議員です。保守党議員がこのようにBBCをサポートするような発言を表立ってすることは珍しいです。

 振り返ってみると、2015年に、BBCはライセンス料の値上げを政府に認めてもらう代わりに、高齢者家庭のライセンス料を負担するように求められ、これに経営陣がゴーサインを出しました。ちょうど、BBCの活動と存立を規定する「王立憲章」の更新が近くなっており、BBCは政府側の条件を認めざるを得なかったんです。当時、だいぶ批判されましたが。

 政府による、BBCに対する一種の脅迫だったと私は思っています(のち、BBCは支払いを拒否する)。

 コリンズ議員による報告書は、この政府とBBCとの交渉には落ち度があった、と書いています。

 ドラマ制作には大変な金額がかかります。サブスクリプションを取って、大型ドラマをテレビで視聴するサービスが広がっていますから、制作費は上昇するばかりです。

―日本では、民放に大きな存在感がありますが。

 ここ英国では、「公共サービス放送」が大きな位置を占めています。BBC,ITV,チャンネル4、チャンネル5ですね。視聴時間全体の70%をこの枠の放送局が制作しています。

―日本のNHKには逆風が吹いています。ジャーナリズム的には政府寄りではないかと批判されています。英国では、第3者機関の放送通信庁(オフコム)が独立規制・監督組織として存在し、放送局に免許を与えますが、日本ではこれにあたるのが総務省です。

 独立した規制・監督組織がないのですか?

―総務省がその機能を果たしています。

 (絶句。)

 英国では、ライセンス料の値上げは政府が規制しています。でも、日々の運営での規制・監督組織は別です。政府は、普通は直接介入しません。

 ニュース報道においては、不偏不党が定められていますし。日本でもそうでしょうか。

ーそこは同じです。ただ、何が不偏不党なのかについて議論が起きている部分があります。偏向しているとしてもし政府やほかの権力者が圧力をかければ、放送局側は右往左往してしまう傾向があります。

 不偏不党の問題を考えるとき、放送局側は、特に公共放送の場合、政府側の話に野党側の話よりも時間を割く場合があるでしょう。政府は国民が選んだものですから。

 一般的に言うと、オフコムの調査ではBBCの信頼度は高いといってよいでしょう。

 国民がどう考えているのかを測るのは難しい面もあります。保守系で反BBCのデイリー・メールの見方、政府の見方などが違うからです。

 また、テレビを視聴する時間は減っていますが、それでも、1日に3時間12分は視聴しているそうです。6年前と比較すると、49分減っています。テレビを持つ家庭の半分以上がネットにつながっているテレビだそうです。

―将来的に、ライセンス料制度は続くでしょうか。

 次に交渉が始まるのは2021年ですね。今後も続くかどうかはわかりません。

 放送業がすべて、サブスクリプション制になるという人もいます。

 英国では完全サブスクリプション化には時間がかかると思います。政府がもっとお金をつぎ込む限り、BBCは続くでしょう。

 現在の王立憲章の期間が終了するのは2027年です。これ以降もBBCは続くとは思いますが、放送を暗号化する可能性もあります。ライセンス料を払った人だけが視聴できるように。今のところ、導入には反対派が多いですが。

 将来どうなるか、私にもわかりません。

 誰にも同じサービスを提供する、というのが公共サービス放送の前提です。もしサブスクリプションのみになったら、これが崩れることは確実ですね。(終)


by polimediauk | 2020-01-24 21:32 | 放送業界

以下のインタビューは、週刊誌「東洋経済」11月23日号掲載の「NHKの正体ー膨張する公共放送を総点検」の中の、筆者執筆記事(実は政府の影響を排除しきれていない 本当にNHKのお手本になる? BBCの意外な実態とこれから)のために行われたものです。

***

 NHKに対して逆風が吹く中、その英国版にあたるBBCの現状と将来について、専門家数人に話を聞いてみた。NHKの放送受信料にあたる、BBCのテレビライセンス料制度はいつまで続くのだろうか。

 これまでの記事は:

 英BBCはお手本になるか? 英国でN国党がない理由は「公共のため」を信じる国民がいるから

 

「BBCをぶっ壊す」英国でなぜ言われない? 特別な存在だが危機状態との指摘も

 今回(最終回)は、放送法に詳しい、リーズ大学のシルビア・ハーベイ教授に聞いた。

ー英国で、日本のN国党に相当する政党はあるのでしょうか?組織を「ぶっ壊す」ことを目標とする政党、という意味ですが。

 ハーベイ教授:該当する政党はないと思います。英国のEUからの脱退を目的とした英国独立党(UKIP)はシングル・イシューの政党ですが、ブレグジット(英国のEUからの離脱)党ができて、影が薄れましたね。ブレグジット党が特にBBC を批判していたわけではないですし。

ー与党・保守党が反BBC 政党だという人もいますが。

 保守党の一部は確かにそうかもしれません。特にジョン・ウィッティングデール元文化・メディア・スポーツ大臣(現在の省名はデジタル・文化・メディア・スポーツ省)がそうでした。反BBCで、テレビライセンス料(NHKの受信料に相当)制度も廃止したがっていました。

 でも、文化大臣として公式にそのようなことをすることはできなかったのです。保守党内では、どこまでBBCを攻撃するかについて意見がまとまっていなかった面もありました。

-なぜBBCを嫌うのでしょうか。

 

 経済及び政治的な立場がそうだからです。

 現行では、国民は法律によって特定の放送局(BBC)にライセンス料を払うことが義務化されています。

 市場経済を真に信じている人は、ライセンス料制度という、公がその活動資金を提供する形を受け入れがたく感じるのです。

 また、番組内容の面からもBBCを嫌っています。

ー新聞界とのコネが強いために、反BBCになっているという面はありますか。

 確かにそうです。

 デイリー・エクスプレス紙、デイリー・メール紙、デイリー・ミラー紙などの大衆紙がありますが、ミラーを除くと、ほかの新聞はすべて反BBCです。

 ニュース市場において、BBCは新聞界のライバルになります。ですので、新聞社の所有者は反BBCです。いくつも具体例があります。例えば、1面に常にBBCに対して批判的な記事を掲載する新聞もあります。

 新聞の販売部数が減っていますよね。これをBBCのせいだという人もいるわけです。BBCの報道が日常会話でよく出るというのです。BBCの存在が大きすぎる、という人も。新聞を読む人は減っていますので、危機感があります。

ー右派系の新聞はBBCの報道はリベラルで左派過ぎると言って攻撃します。どう思われますか。

 BBCは様々な理由で攻撃されます。

 最近ですと、75歳以上の高齢者がいる家庭はBBCのライセンス料が無料になっていますが、これを現行のように国の税金で負担するのではなく、来年からはBBCが負担するように変えられましたよね。

 でも、先日、BBCは支払いを拒否する報告書を出しました。低所得の高齢者、つまり、「年金クレジット」という支給を受ける人の分のみをBBCは負担するといいました。そこで、批判されたわけです。

ーBBCのジャーナリズムは左に偏向していると思いますか?

 個人的に言うと、そうは思っていません。不偏不党であることが義務化されていますし。でも、どの番組を取り上げるかで評価が違ってくるかもしれません。

 また、「左への偏向」とはどういう意味なのか。視聴者から集めるライセンス料という形になっていること、つまり公のお金を使っているということ自体を左的と言えなくもありません。

 でも、あくまでも私の見方ですが、不偏不党を逸脱しているという批判はいつでもありましたが、BBCのジャーナリズム全体を見れば、そうとは言い切れないと思います。

 チャンネル4という放送局のニュースを見ると、確かに左派的といってよい感じがしますが。

 チャンネル4は、ほかの放送局とは異なる視点を出すことを法律上定められていますので。また、BBCと比べると、視聴率ははるかに低いですよね。

 チャンネル4全体について確固とした意見を言えるほど、このチャンネルをしっかりと見ているわけではありませんが、権力に対して批判的な姿勢をとっていることは明白です。

 視聴占有率(ある時間にテレビを見ている人の中で、何%がどのチャンネルを視聴しているか)に注目してみましょう。

 業界誌「ブロードキャスター」によれば、トップ10にランキングするのは、BBC1,BBC2(いずれもチャンネルの名前)、ITV,チャンネル4、チャンネル5が入ります。(有料衛星放送の)スカイが作った番組や、BBCの教養チャンネルBBC4が作った番組が入ることは珍しい。

―ニュース番組で最も視聴されているテレビ局は?

 例えば9月23日の週では、ブレグジットの話題が多かったので、視聴者数は例年よりも増えています。

 最も人気が高かったのが、夕方のBBCのニュース番組でした。視聴者数は430万人です。次に人気があるのが民放最大手ITVのニュース番組でした。

 放送通信庁(「オフコム」)の調べによれば、最もニュースの信頼度が高かったのはBBCです。新聞社のニュースよりも信頼されています。

ーBBCの英社会における位置や公的組織としての存在感をお聞きしたいのですが、例えば国民医療サービス(NHS)は診察料を税金で負担していますよね。国民全体のために、全員が税金を払って、カバーすると。放送業ではBBCにライセンス料を払い、これがBBCの国内の放送活動をまかなっています。このように、公的資金がBBCの活動をカバーするという考えは、今でも支持されているのでしょうか。

 支持されていると思います。ただ、回答は難しいですね。どんな証拠があるのか、と考えた時にです。

 今のところ、BBCにとっての大きなリスクは政府との関係です。

ーそうなんですか?

 そうです。BBCの収入を大幅に減らしましたから。

 緊縮財政を実行した政府は、2010年から、BBCにこれまで以上に予算内からお金を拠出するようにさせました。ラジオの国際放送ワールド・サービスや、ブロードバンドの普及などのお金をBBCに負担させたんですね。総合すると、BBCの予算の20%ぐらいになりましたね。

 ウエールズ語の番組の費用は政府が持ってきましたが、途中からBBCに負担させるようにしましたし。新聞で大きく報じられたわけではありません。ひっそりと実行されました。

 2015年には、BBCが75歳以上の高齢者がいる家庭のライセンス料を負担することをBBCの経営陣に呑ませました。

 労働党政権時代に、こうした高齢者家庭のライセンス料は政府が払うことになったのですが、金額的にはかなり大きくて、7億ポンド(約1千億円)ほどに上りました。これを2020年からBBCが払うようにしたわけです。

 こうして、政府はBBCの予算を攻撃してきます。

 これはとても危険な動きだと思います。それは、今、オンデマンドの動画サービスが人気ですよね。ネットフリックスやアマゾンなど。BBCはこうしたサービスと競争をしているわけです。

 ネットフリックスは潤沢な資金を持っていますし、今のところは、BBCはネットフリックスと共同制作をして生き延びています。BBCが得意とするドラマの制作にはとてもお金がかかります。あと2-3年もすれば、予算の減額が制作に響いてくると思います。

―今後も、ライセンス料は続いていくでしょうか。

 私の感覚では、ライセンス料制度への一般的な支持はあると思います。

 その理由として、視聴者が有料視聴料(サブスクリプション)がどれほど払っているかに気付いた点があると思います。例えば、ネットフリックスのコンテンツを見るためには毎月6ポンド(約850円)ほど払いますが、これにはラジオやニュース報道が入っておらず、BBCが提供するサービスに比べると限定的です。

 全体として、ライセンス料制度に敵対心があるとは思いませんが、一部の人は嫌っています。

ーBBCの存在を今後も維持していくには、どうしたらいいのでしょうか。

 大きな哲学的質問でもありますが、直近の問題としてもとらえられますが。

―直近の問題としては、どうでしょうか。

 まず、予算の問題でしょう。

 10月、下院のデジタル・文化・メディア・スポーツ委員会が非常に興味深い報告書を出しています。フィナンシャル・タイムズ紙も報道していましたが。

 委員長は、保守党のダミアン・コリンズ議員です。保守党議員がこのようにBBCをサポートするような発言を表立ってすることは珍しいです。

 振り返ってみると、2015年に、BBCはライセンス料の値上げを政府に認めてもらう代わりに、高齢者家庭のライセンス料を負担するように求められ、これに経営陣がゴーサインを出しました。ちょうど、BBCの活動と存立を規定する「王立憲章」の更新が近くなっており、BBCは政府側の条件を認めざるを得なかったんです。当時、だいぶ批判されましたが。

 政府による、BBCに対する一種の脅迫だったと私は思っています(のち、BBCは支払いを拒否する)。

 コリンズ議員による報告書は、この政府とBBCとの交渉には落ち度があった、と書いています。

 ドラマ制作には大変な金額がかかります。サブスクリプションを取って、大型ドラマをテレビで視聴するサービスが広がっていますから、制作費は上昇するばかりです。

―日本では、民放に大きな存在感がありますが。

 ここ英国では、「公共サービス放送」が大きな位置を占めています。BBC,ITV,チャンネル4、チャンネル5ですね。視聴時間全体の70%をこの枠の放送局が制作しています。

―日本のNHKには逆風が吹いています。ジャーナリズム的には政府寄りではないかと批判されています。英国では、第3者機関の放送通信庁(オフコム)が独立規制・監督組織として存在し、放送局に免許を与えますが、日本ではこれにあたるのが総務省です。

 独立した規制・監督組織がないのですか?

―総務省がその機能を果たしています。

 (絶句。)

 英国では、ライセンス料の値上げは政府が規制しています。でも、日々の運営での規制・監督組織は別です。政府は、普通は直接介入しません。

 ニュース報道においては、不偏不党が定められていますし。日本でもそうでしょうか。

ーそこは同じです。ただ、何が不偏不党なのかについて議論が起きている部分があります。偏向しているとしてもし政府やほかの権力者が圧力をかければ、放送局側は右往左往してしまう傾向があります。

 不偏不党の問題を考えるとき、放送局側は、特に公共放送の場合、政府側の話に野党側の話よりも時間を割く場合があるでしょう。政府は国民が選んだものですから。

 一般的に言うと、オフコムの調査ではBBCの信頼度は高いといってよいでしょう。

 国民がどう考えているのかを測るのは難しい面もあります。保守系で反BBCのデイリー・メールの見方、政府の見方などが違うからです。

 また、テレビを視聴する時間は減っていますが、それでも、1日に3時間12分は視聴しているそうです。6年前と比較すると、49分減っています。テレビを持つ家庭の半分以上がネットにつながっているテレビだそうです。

―将来的に、ライセンス料制度は続くでしょうか。

 次に交渉が始まるのは2021年ですね。今後も続くかどうかはわかりません。

 放送業がすべて、サブスクリプション制になるという人もいます。

 英国では完全サブスクリプション化には時間がかかると思います。政府がもっとお金をつぎ込む限り、BBCは続くでしょう。

 現在の王立憲章の期間が終了するのは2027年です。これ以降もBBCは続くとは思いますが、放送を暗号化する可能性もあります。ライセンス料を払った人だけが視聴できるように。今のところ、導入には反対派が多いですが。

 将来どうなるか、私にもわかりません。

 誰にも同じサービスを提供する、というのが公共サービス放送の前提です。もしサブスクリプションのみになったら、これが崩れることは確実ですね。(終)


by polimediauk | 2020-01-24 21:32 | 放送業界

以下のインタビューは、週刊誌「東洋経済」11月23日号特集「NHKの正体ー膨張する公共放送を総点検」に掲載された、筆者執筆記事(実は政府の影響を排除しきれていない 本当にNHKのお手本になる? BBCの意外な実態とこれから)のために行われたものです。

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 ジャーナリズムにも、ガバナンスにも懐疑の目が向けられるNHK。その英国版とも言えるBBCは、英国でどう受け止められているのか。課題は何か。日本の「NHKから国民を守る党」(N国党)のような政治勢力はあるのか。

 放送業の専門家数人に聞いてみた。

 最初の回は、英BBCはお手本になるか? 英国でN国党がない理由は「公共のため」を信じる国民がいるから になる。今回は、2回目である。

 英キングストン大学のブライアン・カスカート教授(ジャーナリズム)は、ジャーナリストとしても知られ、メディアに説明責任を持たせるためのロビー組織「ハックト・オフ」(俳優ヒュー・グラントが旗振り役となったことで著名に)の創業者でもある。

BBCは英国では特別な位置を占める

ー英国では、日本の「NHKから国民守る党」のような政治勢力はあるでしょうか。英国民にとって、BBCはどんな存在なのでしょうか。

カスカート教授:2つ目の質問からお答えしましょう。

 話の根幹になる部分です。

 英国社会で、BBCは特別の位置を占めていると言えます。

カスカート教授(キングストン大学提供)
カスカート教授(キングストン大学提供)

 英国はイングランド地方の他に北アイルランドもあれば、スコットランド、ウェールズもあります。人々の階級も色々ですし、人種も、出身国も違ったりします。

 しかし、これまでの歴史を振り返ると、英国を1つにまとめる役目をしてきた4つか5つの組織があります。

 1つは軍隊です。これは国のレベルですよね。

 その他には、第2次世界大戦後に作られた「国民医療制度」(NHS)。これは何十年にもわたって、英国の宝のような存在です。税金で診察料を賄うので、貧富の差を問わずにお医者さんに診てもらえる体制です。

 ゆりかごから墓場までの福祉体制もそうですね。

 王室制度もそうです。

 BBCは中でも最も力が大きいと言えます。

 第2次大戦時のBBCのニュースをみんなが聞いていました。その後も番組を視聴し続けてきたわけです。BBCは国民を一つにまとめる役割を果たしてきましたし、国民はBBCを自分たちのものとして、みんなで所有・共有してきたのです。

 これが可能になったのは、創立当初から政治的に不偏不党を頑固に貫いてきたからです。どこの勢力にも与せず、みんなのものであり続けました。

国が割れて、BBCは誰も満足させることができなくなった

ーBBCを壊すことを目指すような、日本のN国党に相当する政治勢力はありますか?

 それは現在の与党・保守党と言えるでしょう。

 過去何十年にもわたって、常に反BBCでした。保守党はBBCが民放になるべきと思ってきたのです。

 その理由は、イデオロギー的に言うと、英国の保守派はいかなる形であっても国家によるサービスというのものを信じていません。公共のために放送をするBBCの意義を信じていません。少なくとも、これが1つの理由です。

 BBCは今、危機状態にあると思っています。

 それは、これまでは不偏不党であることですべての人を満足させてきたのですが、今や、同じ理由ですべての人に不満を抱かせるようになったからです。

 今、英国はこれまでの歴史では見られなかったほどの分断が起きています。このことをいくら強調しても強調しすぎることはないでしょう。今ほど、英国が2つに深く割れたことはないと思っています。

ー英国の欧州連合からの離脱(「ブレグジット」)をめぐって、国民の意見が割れている、ということでしょうか。

 そうです。ブレグジットがあるので、BBCは機能しなくなってきています。すべての人を満足させることができなくなりました。

 BBCの現在の経営陣が弱体化していることも危機状態にある理由の1つです。この大事な時に、指導力を発揮できない状態です。

―朝の情報番組の司会者が個人的な見解を表明したとして、注意され、これが炎上して、その判断を引っ込めるという事件がありましたね。BBC、「差別批判は中立原則の逸脱」としたものの、後で撤回 一部始終を振り返る

 経営陣はすぐに対応できませんでした。自分たちが何をしようとしているのかを視聴者に伝えることができなかった。その結果、すべての人を怒らせたのです。

 それと、新聞メディアの影響もあるでしょう。

 英国の主要全国紙は非常に保守・右派系で、例外なく離脱支持派です。ですから、もしBBCが不偏不党を貫けば、新聞メディアの大攻撃に遭遇します。BBCは離脱を支持していない、と。

 保守系の新聞はBBCを国営放送とみなして、嫌っているという部分もあります。BBCはこうして、敵に囲まれていることになります。

 最初に、英国をまとめる複数の組織の名前を挙げました。BBCのほかには軍隊がありますが、かつての規模よりもだいぶ縮小しています。

 国民医療制度も、BBCが攻撃を受けるのと同じ理由で政府から攻撃されるわけです。お金を十分に投入しないという形での攻撃です。

 福祉制度も同様です。王室もこれまでに様々な理由で批判されてきました。エリザベス女王は高齢で、離脱をめぐる複雑な政治状況に対処しなければなりませんし、国自身がバラバラになっている状態です。スコットランド地方はますます独立志向を強めていますし、北アイルランド(注:離脱後、地続きとなるアイルランド共和国との関係がまだ決まっていない)では今後、何が起きるか予想できません。ひどい状態です。

―ブレグジット問題以前にも、BBCに対する信頼感は落ちていたのでしょうか。

 BBCの問題の1つは、常に不偏不党でなければならない、ということです。このため、議題設定をすることができないのです。ニュースの中でどの部分が一番重要なのかを決めることができない。新聞報道のニュース順位に即することになるわけです。

 新聞報道のニュース順位は全国紙の論調によって、決まります。全国紙はこの点で非常に重要な位置にいるわけです。

 BBC関係者は新聞報道に沿ってニュース順位を決めていることを否定しますが、ニュース番組を見ればわかりますよね。 

 

 新聞で報道されていないニュースを扱うとき、BBCは慎重にやっていますし、取り扱わないこともありますよね。

 BBCはすべての人を喜ばせようとするんです。中道にいる人からすれば、これはこれでよいわけです。でも、左右いずれかの強い意見を持つ人にとっては、物足りなかったり、BBCを嫌ったりします。

 でも、ブレグジットをめぐって、この中道という位置が消えてしまったわけです。ですから、BBCの居場所がなくなったのです。今英国には中道の位置がなくなってしまい、あるのは「残留」か「離脱」か、です。議論を動かしているのは、もともと、BBCを嫌っている人々です。

―なぜBBCの経営陣は慎重姿勢を維持するのでしょう?世論が両極端に分かれてしまったからでしょうか。

 経営陣の仕事は楽ではないとは思いますが、BBCは右派保守系新聞に常に攻撃されてきました。右派傾向を強めた保守党が政権を持っていますので、慎重にならざるを得ません。

―私が懸念するのは、人々がBBCに対する信頼感を失った結果、英国の「公共サービス放送」(BBCと主要放送局が入るカテゴリー)の考え方が壊れてしまうのではないか、ということです。

 その危険性は大いにあります。

 この公共サービス放送という概念が機能するのは、前提として、社会の中に同意(コンセンサス)が存在していることが必要になります。

 

 様々な人がいるわけですが、例えば議会は必要という点では一致しているわけです。軍隊も王室も、国民医療制度も必要であり、BBCも、その存在が肯定されているわけです。

 社会的コンセンサンスが存在していればよいのですが、いったんこのコンセンサスが崩れ、人々が両極端に行ってしまったら、最初に犠牲になるのがニュースです。つまり、「何が伝えるべきニュースか」についてのコンセンサスが崩れているわけです。

―メディアの話を超えた、大きな話ですね。

 非常に大きな問題です。英国は今、社会の分断、コンセンサスの消失という大きな過渡期にいます。

 これほどの大きな過渡期は、19世紀でいえば、選挙法を改正した1830年代でしょうか。その後はこれほど国が分断したことはなかったのではないでしょうか。

 今後ますます、社会は分断していくのではないでしょうか。

 この意味からいえば、BBCの将来は危ういです。

 スコットランド地方、北アイルランド地方が現在のように英国の一部であり続けるのかどうかが、怪しい。イングランド地方の中でさえ社会的コンセンサスを維持することも難しいのですから。

 町や村ごとに割れていますし、北部と(ロンドンがある)南部との分断、貧富の差による分断、若者層と高齢者層との間の分断もあります。

 こうした中、公共のための放送という概念も危機にさらされているというわけです。

―インターネットが普及し、メディア環境が激変しています。これもこうした分断に寄与していると思いますか?

 興味深い問いですね。ソーシャルメディアを使うことで、いわゆる「フィルターバブル」が起きていますよね。自分たちの空間の中で情報を交換し、自分とは違う意見を持つ人には耳を貸さないようになっています。

 ただ、こうした傾向はネットを介さない時代にもあったとは思います。

 今は、24時間のニュースサイクルとなっていますので、人々は落ち着いて考える時間がありません。これも影響しているでしょう。

 社会の分断の問題の原因をメディアだけに求めることはできませんが、私は常々、過去何十年にもわたって、全国紙による悪影響を指摘してきました。嘘に満ちた報道を続けてもかまわないという全国紙の報道です。英国社会の中で、こうした新聞によって損害を受けていないものはないと思います。

 例えば、国防、核兵器などについてまっとうな議論をしようと思っても、右派系新聞がかつての大英帝国をほめるような論調で報道を展開しますので、落ち着いた議論ができない状態になっています。

 国の福祉政策についてまともな議論をしようと思っても、難しいのです。新聞メディアは貧困層を嫌っていますから。

―新聞メディアが貧困層を嫌っている、とは?

 例えば、福祉制度を悪用する人は、全体からするとほんの少数です。富裕層による税金逃れの金額は巨大です。後者を攻撃し、税金を取り戻した方が、福祉の悪用者を追うよりはずっと効果的なのですが、新聞メディアは貧困層を攻撃するわけです。

 福祉制度だけではなく、これを移民あるいは外国への援助金問題と言い換えても、同様です。

 分断が激しい英社会でまともな議論ができない状況になっている、と言えると思います。

ー新聞プレスがまともに報じないトピックの1つに、EUがありましたね。

 過去30年、40年、EUについての報道はひどいものでした。不正確な情報ばかりです。驚くほどでした。人々はEUを敵とみるようになっていくわけです。大衆紙デイリー・エクスプレスやデイリー・メールが反EU感情を掻き立てる報道を出していくわけです。

ーBBCのテレビライセンス料制度(日本のNHKの受信料制度にあたる)は今後も続いていくと思いますか。

 ネット時代になって、ライセンス制度は通用しないという声をよく聞きます。

 でも、例えば衛星放送スカイの番組を視聴しようとしたら、月ぎめなり、年間なりで契約料を払うわけですよね。

 米ニューヨークタイムズを読みたければ、有料購読者(サブスクライバー)になる必要がありますね。今や私たちはサブスクリプションの世界にいます。

 英国では、BBCにライセンス料を払います。たとえBBCの番組を視聴しなくても、です。国民のほぼ全員がBBCのサービスを使っており、ライセンス料は一種の税金とみなされるようになりました。

 もしBBCが信頼を失ってしまえば、この仕組みが壊れてしまいます。

 BBCの将来が危うくなるのは、税金のような古い仕組みを維持するかどうかという問題ではなく、いつでもどこでも、だれもが視聴できるという放送局としてのBBCの仕組みが消えてしまうときです。

 ライバルとなる競争相手がいることは確かです。ネットフリックスやアマゾンなど非常に大きく、力がありますし、良いビジネスモデルを持っています。

 しかし、BBCはこれまで、オンデマンド視聴サービスの「BBCi(アイ)プレイヤー」を非常に効果的に使ってきました。

 同時視聴も見逃し視聴もできるアイプレイヤーは、成功したビジネスモデルです。非常に多くのドラマ、コメディ、そのほかの番組が視聴できますし、英国ではオンデマンド市場の首位になります。

 リスクがあるとすれば、BBCは映画は作れません(注:実際には、制作している)。また、すべての人を満足させることができません。視聴者の多くを満足させるニュースの制作にてこずっています。

―最後に、BBCや放送業の将来についての見方を教えてください。

 2つ、あると思います。

 まず、もっと指導力が高い人物がBBCの経営の指揮を執るべきです。新聞王ルパート・マードックのような人物であれ、と言っているわけではありません。でも、視聴者とつながり、BBCが何をしようとしているかを説明できる人物です。視聴者を自分たちの側に置ける人物です。

 もう1つは、ブレグジット。これを片付けてしまわなければなりません。一晩で終わるものではないことは承知していますが。

 終わったときに、BBCが指導力の高い人物をトップに置き、ニュース業の中でその地位を再度築き上げることができるかどうか、です。

 私はいつも、BBC型のメディア組織(公的資金をもとに、ジャーナリズムを行う)は良いビジネスモデルだと思ってきました。もしBBCが十分な収入を得ることができれば、生き延びていくでしょう。

 視聴者の社会的背景や貧富の差にかかわらず、誰もがいつでも視聴できるようにして活動を続けられるのであれば、将来は保証されていると思っています。


by polimediauk | 2020-01-23 22:45 | 放送業界