小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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フリーペーパー その2


英メトロは何故伸びる?―「中立」


 イギリスではフリーペーパーのメトロの発行部数が伸びているが、(1)無料であること、(2)朝の通勤時間に構内のスタンドに積み上げられているので手に取りやすい、(3)小型タブロイド判なので、混雑した電車の中でも読みやすい、(4)小脇にかかえやすい、(5)通勤者をターゲットにした広告が、読者の嗜好とマッチする、(6)1つ1つの記事が短めで、読みやすい、などの理由があった。

 既に高級紙のインディペンデント、タイムズが手軽さ、持ちやすさを備えた新聞として、通常の大判からタブロイド判一本のみになり、部数を増やした。

 しかし、手軽さに加えて、実は、(6)の理由、つまり1つ1つの記事が短めで、読みやすいという部分に大成功の秘密があったのだと思う。

 そして、「読みやすさ」の秘密は、「中立であること」。

 日本で発行されている出版物の中で紙面の論評、あるいは新聞記者としての心構えなどを書いた文章を読むとき、「中立」という言葉が出てくる。実際には、日本の新聞はそれぞれ論調が違う。しかし、少なくとも、新聞が目指すべき立場としては、中立、とされているようだ。

 イギリスの新聞に、中立はない。最初から偏っているし、偏ってもいい、とされている。ただし、「バランスのとれた」あるいは「客観的な」報道をめざす、ということになっている。

 公共放送のBBCにも、「中立」というのは要求されていない。「公平な」「バランスのとれた」という要求があっても。

 イギリスの人々はそれぞれの政治信条に最も近い新聞を買って読んでいる。ある新聞が政治家を批判的に書いたとしよう。読者は、その新聞が、政治家が所属する政党を支持する新聞なのか、反対する新聞なのかという要素を加味して、その記事の妥当性を評価をする。

 日本でも、同様のことを読者はしていることだろう。しかし、イギリスの場合、それぞれの新聞の独自の政治信条、編集姿勢をあえてかなり強く出す。「中立であろう」とは、しないのだ。


―無色透明の記事が読みたい!という欲求

 英メトロが伸びた要因として、「さらさらっと読める」「無色透明な記事」、「シンプルな英語で書かれた」「事実のみを記した記事」を読みたい!という単純な欲求がイギリスの読者の中にあったという点が大きい、と私は見ている。

 高級紙を読んでいると、常に「色」がついているので、おもしろいことはおもしろいが、「本当はどうだったんだろう?」と思う。

 事実だけを手っ取り早く知りたいときは、BBCオンラインのウエブサイトに行って、ニュースを読むのが一番早い。

 BBCには、公平でバランスのとれた報道をする、という公共放送としてのルールがあるので、多少読み応えが物足りないと思っても、基本的事実を押さえるための最初のステップとして、使いやすい。

 元TVプロデューサーで今はメディア・コラムニストのデビッド・コックス氏も左派系週刊誌「ニュー・ステーツマン」の中で、メトロの躍進の理由は記事の読みやすさ、無色透明さである、としている。読者は、既存の有料新聞の、政治的議題が裏に隠れた記事を読むことに、あきあきした、と。

 「中立とは何か?」という議論をすると際限がなくなるが、英メトロは、それまでのイギリスの新聞界にはない「中立」の新聞だったのだ。〔続く〕





 
# by polimediauk | 2005-01-15 02:36 | 新聞業界