小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「なぜBBCだけが伝えられるのか」(光文社新書)、既刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)など。


by polimediauk

「ゴミみたいな記事を無理やり載せたってしょうがない」


 「ネットは新聞を殺すかブログ」のコメント欄に、ジャーナリスト江川紹子さんによる、ライブドアの堀江貴文社長のインタビューが紹介されている。

http://www.egawashoko.com/menu4/contents/02_1_data_40.html

 インタビューは、既存のメディア関係者からすると、驚きの発言で一杯だ。新しい新聞の発行を予定しているというが、何か主張があって出すわけではない、という。

 これまでの、ジャーナリズムはこうあるべきだ、メディアとは、新聞とは・・・といった考え方に揺さぶりをかける言葉が多く、反発を感じる人もいるだろう。しかし、情報の受け手側の真実をついたような部分(「誰もいろいろな新聞を読み比べたりはしない」など)もあり、意外と、読み手側、特に若者層の大部分の気持ちを代弁しているのでは?とも思わせる。


 12月のインタビューだったので、放送業への進出に関しては、「言えない」としている。

(以下、インタビューです。)


堀江貴文・ライブドア社長インタビュー要旨
       2004.12.6 am11:00 ライブドア本社にて 
――「市民記者」を募集したりして、新しいメディア作りに乗り出しているが、何をやろうとしているのかを伺いたい
「あんまりそんな、肩肘張ってないんですけどね」
――規制メディアのどういう点が物足りなくて、新しいメディアを作ろうと考えたのか
「物足りないってこともないんです。元々は、商売で金融系事業をやっているわけですよ、うちは。消費者金融とか証券会社とか。そこで重要なのは、メディアを持つことですよ。
 何故かって言うと、ロイターだってそうじゃないですか。ロイターは元々通信社ですけど、証券取引のシステムを作ったところで大きく伸びたんですよ。それは、ニュースだけ出している日本の通信社との大きな違い。ロイターの収益の9割がロイター・モニター――今はその進化版みたいなヤツになってますが――それが各金融機関にあって、もちろんニュースも流れているんですけど、そこで為替取引もできるわけですよ。
 元々為替は相対でヨーロッパの銀行間で取り引きしていたんですね。今の為替取引の原形を作ったのはロイターなんですね。
――ロイターというと、私は戦争の現場などでの取材活動が思い浮かぶが
 あそこはコスト・センター。プロフィット・センターは為替部門なんです、実は。
 うちもインターネットのロイターとか……(金融情報サービス会社の)ブルームバーグも、債権のリーディングシステムが一番の収益の柱なんですね。マイケル・ブルームバーグは元々メリル・リンチ(ママ )にいた人で、そこのプログラマー(江川注=実際はソロモン・ブラザース証券のディーラー)。彼はシステムを作っているところから、そのシステムを広めるためにはニュースが必要だと、メディアの重要性を認識して、(新しいメディアを)作ったんです。
――経済、金融関係のニュースを発信していく、と。
 インターネット時代の金融会社を大きくしていくためにはどうしたらいいのかっていう流れの中で、メディアを持たなきゃいけないっていう話になったわけですよ。発想はブルームバーグさんと全く一緒。
 ロイターもブルームバーグも、企業内に情報配信システムをまず設置して、取り引きをそこでしてもらってサヤを抜くみたいなビジネスがメインになっているのは確か。それをやりたくて。
 ライブドアはポータルサイトの会社なんだけど、証券もやってる。ユーザーが自然と、証券をやるならライブドア証券で、という流れを作っていきたい。
 その中で、さらに信用とか格を上げていくためには、もっとメディア寄りのイメージをつけるのが得策だろう、と。
――では、政治や社会、文化のニュースも扱う?
 まあ、おまけなんですけどね。別にそこで儲けようとは思っていない。トントンでやれればいいな、と。
――今までのメディアとの違いが見えてくるのは、もう少し先になりそうか。
 う~ん、まあ。それ(=違い)がメインなんじゃなくて、我々がメディアを作ることがメインなんです。やりたいのは、そこ。
――プロ野球の一件でメディアにいろいろ取り上げられた。そこで不満を感じたことが動機付けになってはいないのか。
 全然なってないです。そういうことじゃないんです。
――テレビの買収とか新聞などの紙媒体を持つことに関心は?
 それはもちろん関心はありますよ。なぜかっていうと、最終的にはみんなインターネットになっていくんですけど、特に日本は(それが)遅くなるだろうなと思っている。日本人は、未だに新聞やテレビを信じちゃってるんで。ウソばっかり書いてあるんですけど、ハハハハ……
――それを身もって体験したと?
 身をもってというわけじゃないけど、他の人の話を聞いていても、やっぱりそうですからね。かなりバイアスがかかっている。
 別にバイアスかかってようと、かかってまいと、どうでもいいんですけど、(人々が)信用してるってことは確かじゃないですか、新聞とかテレビを。だから、インターネットに全部いくまでの過程は何年もかかるワケですよ。その間、新聞とかテレビを我々は殺していくんですけど、自分たちが持ちながら殺していった方が効率いいかな、と思って。そういう話ですよ。
 今は力を持っているから、それをどんどんインターネットに置きかえていって、これからはインターネットを信用しなさいよ、と。どんどん誘導していくわけですよ。啓蒙していくわけですよ。
――となると、地上波テレビの買収から?
 まあ、それはどうなるか、分からんですね。免許とるかも分かんないし。それは分からない。
――具体的に動き出しているんですか。
 それは言えない。
――新聞は?
 どうなるか分からない。
――新聞を持つことも考えているのか
 その(=新聞を持つ)方が信頼度が増すと思うんですよ。バンバン拡販して部数を何十万にするとかは考えてなくて、出してるってことで(信頼を)感じると思う。
――市民記者の位置づけは?
 まあ、普通に記事集めて書くだけですね
――せっかく新しいメディアを作るのだから、今までにないものをと思わない?
 思わないですね
――今までにないものを作るからこそ意味があるのでは?
 ベルに意味なんてかくてもいいんですよ(笑)。意味なんてどうでもいいんですよ。我々の目的は、意味あることじゃないんですよ。新しいものを作ること、意味のあることが重要なんじゃない、我々にとっては。
――市民記者を募集するのは、新しいやり方では?
 それも単なるコスト削減策なんですけどね(笑)。
――でも信頼度を上げようというのなら、それなりの質の人を集めないと。
 紙(=新聞)を出してりゃ、みんな信用しますよ。そんなもんですよ。
 (既存メディアの)記者のことなんて、誰も知らないでしょう?読売新聞も、みんなナベツネくらいしか知らないでしょう?
 紙を出して、それが今の紙とそっくりで、例えばうちなんか「東京経済新聞」とかっていう名前にしようかと思ってるんですけど、日経と同じようなロゴで「東京経済新聞」って書いてあって、全く同じような体裁で出ていたら、分かんないじゃないですか。ああなんか格がありそうだな、とか思うでしょ?
――今までにない内容の報道をやりたいというのもない?
 ないですね(笑)。いいんでよ、別に。内容が(今までのメディアと)違うかどうかは。それが目的じゃない。内容も、もしかして違ったモノになるかもしれない。ですがそれはどっちでもいい。
――堀江さんの日記には、「メディアのあり方が変わる」と書いていたが、そういう意図はないのか。
 そうやって煽った方が、みんな期待感を生むじゃないですか。僕はどっちでも……
――今のメディアではあまり報道されていないことも、インターネットを通じて伝えてういこうというのだと思っていたが。
 それは副産物的にそうなるかもしれないですけど、それはどうでもいい。僕にとってはどうでもいい。
――メディアを持つということは、情報を通じて人の考え方を左右する可能性がある。
 そうですね。
――そういうことに関心は?
 全然ないですね。
 今の記者の人は、大マスコミ的な意識っていうか、悪く言うと思い上がって、自意識過剰なところがありますね。
 うちに来る人も、大層なことを考えていて、「堀江さんはどう考えているんですか」「ライブドアにとって悪いことも記事にしますよ」と言うんですけど、そんなの勝手にやってよ。わざわざ報道しなくても、2ちゃんねるとかでうちに悪いことは書かれているわけで、見りゃ分かるわけですから。そこにはウソもホントも書かれていて、(ユーザーは)それを自己責任で判断すると。それを新聞に書かれたから本当なのかっていうと、別に本当ではないかもしれない。ある意味、歪曲して、脚色して記事にしているわけだから。
――歪曲?
 そうじゃないですか。僕の行っていることだって歪曲されていると思う。私は自分自身にストーリーがない人間なのに、何か無理矢理ストーリーを作ろうとする。私はこういう少年時代を送ってきたから今こうなんたおいうストーリーを作りたがるでしょう? そんなもん、ないんですよ。
――それは、(歪曲というより)書く側の分析でしょう?事実を伝えるのに、話の一部だけを取り上げられて歪曲されたとか、そういうことはあるのか。
 ありますね。見出しの付け方ですべてが変わっちゃうじゃないですか。全部読んだら事実なんだろうけど、見出しがそうなっていると、(読者は)なんかそこばっかり見ちゃう。
――2ちゃんねるに書かれていることは、全部本当とは誰も思いませんね
 でも新聞に書いてあることは本当だと思うじゃないですか。でも、ほとんど……とは言わないけど、かなりウソが入っているんですよ、見出しとかで。間違ったことは書いてなくても、書き方で読者の受け取り方は変わるわけでしょ。それを分かって書いているわけじゃないですか、記者も。ライブドアはこういう会社なんだ、と記者が思い込んだら、事実を書きながら、そこに思いを込めることが可能じゃないですか。新聞って、みんなそうなんですよ。それって、思い上がりじゃないのっていうことです。
――新聞も、いくつか比較してみれば……
 みんな見比べたりしないじゃないですか。そんなことするのは一部のマニア。一般市民のほとんどは、朝日新聞の一面に書いてあることは本当だと思っている。ウソじゃないけど、歪曲されているのに。
――では、朝日新聞をとっている人は朝日新聞をやめて、ライブドアの新聞を見て欲しい、ということか。
 それはない。うちはただ新聞を出すだけ、好きな人は読んでね、と。
 紙を出していると、それっぽいじゃないですか。紙を出しているのとないのでは、全然違う。
 今、インターネットのニュースって、あまり信用しないのに、紙の新聞のニュースって、発行部数がしょぼい新聞でも本当かなって思っちゃう。
――出すからには、こういうモノを出していきたいというのはないのか。
 そういうのは、おせっかいですよ。読者は別にそんなもの求めていない。そんなもの押しつけたくもないし。
――編集方針とかはどうするのか。
 そんなもん、何もないですよ。
――何もないと……
 そう思うのが既成概念。ありのままを出せばいいんじゃないですか。
――ありのままを出すというのも方針ですよ。
 方針って言われると、ちょっとアレですけど……
――ありのまま出すといっても、客観報道だって主観が入る。
 うん
――じゃあ、ライブドアの報道は、どういう主観が入るんですか?
 それぞれじゃないですか。だって市民記者が書くんだから。
――でも、デスクがチェックをするでしょう?
 チェックするといってもそれはウソを書いてないかとか、そういうレベルのチェックですから。ウソを書かないというのが重要で、確かめたのかとか、裏を取ったのか、とか。あとは、?てにおは?を直すとか。そういうレベルの話ですから。
――事実が確認されれば、あとはどんな話も載せる、と?
 紙面が許す限りですけどね。あとは人気ランキングだけですよ。
――人気?
 インターネット(のニュースに)アクセスするじゃないですか。そこで何が注目されているか、と。だいたいの記事は、先にネットに出ちゃうわけですよ。注目度が高い記事はアクセス数が多くなる。それを紙にする時に、見出しを大きくする。紙は一日一回くらいしか出せませんからね。
――新聞はいつ発行する?
 まだ決めてない。焦ってもしょうがない、ここまで来ると。紙を出すタイミングは慎重にやらないと。
――新聞を出してもずっと維持するつもりはない、と?
 インターネットに置き換わってくれれば。でも、ずっと続けるかもしれないし、それは分からない。
――規制の媒体やフリージャーナリストなどとの連携は?
(同席のメディア担当役員が、フリージャーナリストはある程度使うことを考えているが、規制の媒体の記者とは関係がない、と説明)
 やっかいですね、大マスコミ意識があるので構えちゃう。もっと気楽にやろうよって。
 悪く言うと思い上がり、自意識過剰なんですね。報道の使命とか言っちゃったりしますものね。
――「報道の使命」というのは思い上がりかもしれないが、そういうのがあるから正確な記事を書こうとか、意味のある報道をしようとかいう動機にもなっている。
 それで暴走しちゃう。読売なんて特にそうじゃないですか。平気で個人攻撃するわけですよ。でもみんな信用してるでしょ?あんなひどいヤツが主筆をやってるのに。
 絶対にバイアスがかかってますよね。そういうのが、報道の使命なのか……分かんないな。どういう気持ちなんですかね。
 野球問題では、どこも明らかにバイアスがかかっていた。読売はうちを潰そうとするし、朝日は盛り上げようとする。明らかに論調っはそうです。で、野球問題が一段落すると、今度は全員で叩きに来ます。来てますよ、朝日なんか特に。
――でも、先日の朝日で大きく紹介されたりもしていた。
 中も一枚岩ではないようですね。
 権力争いで、何年か後に社長を目指そうとする人は、(うちを)潰そうとする。
――「殺される」警戒感か?
 そうでしょうね。殺されるのは間違いない。どうやって延命しようかってことばっかり考えているんですよ。あと10年勤めたら定年だとかいう人は、そうなる人が多い。
 そういうのは、下らなすぎて相手にしたくない。お前ら、そろそろ気づけよって感じ。気づかせようとは思わないですけどね。自分で気づきなさいよ、と。押しつけは嫌なんですよ。僕も押しつけられたくないし。
――ある程度の方向性がないと、何でも載せますというわけにはいかない。
 いいんじゃないですか。自分で判断して下さい、と。それで、世の中の意向はアクセルランキングという形で出てくるんですから、その通りに順番並べればいいだけでしょ。
――みんなが注目すると大きく扱われるが、埋もれている話を発掘できないのでは?
 埋もれていることを発掘しようなんて、これっぽっちも思ってないんですってば。そういうのは情報の受け手、興味を示す人が少ないわけですから。ニッチな情報なわけですから、いいじゃないですか。一応ネットには載せておきますから、(興味のある人が)勝手にアクセスして下さい、と。
――例えば、イラクのこととか、新聞ではもうあまり載らない。でも……
 いいんですよ、(そういうことは)みんな興味ないんですから。興味ないことをわざわざ大きく扱おうとすること自体が思い上がりだと思うんです。
――でも、提供されなければ興味もわかないのでは?
 そうじゃないと思う。興味がないことを無理矢理教えてもらってどうするんですか? 何の価値があるんですか、そこに。気づかせたら、何かいいことあるんですか、ユーザーの人たちに。気づかせることによって、新聞をとっている人に、何かメリットあります?
――知らないより、知っていた方がいいこともある。
 そうですかね。知らないのと知ることで、何か差異がありますか?
――情報を提供しなければ、興味を持つきっかけにもない。
 いいんじゃないですか、別に興味を持たなくても。興味持たないと、いけないんですか?
――いけないと言っているのではないが……
 じゃあ、いいじゃないですか、それで。そういうもんじゃないですか、情報って。それこそ、押しつけじゃないですか。
――「提供」と「押しつけ」は違う 
 みなさん「提供」と言うが、(ニュースの)重みづけはユーザーが判断するもので、押しつけられるものじゃないと思いますけどね。それが暴走につながると思うんですよ。思い上がりにつながって。
――ランキングが悪いとは言わない。確かに一面に何をもってくるかは新聞社の判断で、それが押しつけといえば押しつけでもある。
 うん。
――そうした記事の大小ではなく、今では記事として提供されないものをランキングは低くてもいいから入れていこうとか、そういうことはないのか?
 なるべく入れていこう、とは思わない。操作しようとは思わない。ゴミみたいな記事を無理矢理載せたってしょうがない、ユーザーニーズもないし。
――「ゴミみたいな」とは?
 ランキングで読者の関心が低い、関心がない記事をゴミ記事と言った。価値は相対的に低い、ニッチな情報なんですよ。
――フリージャーナリストでイラクなどを取材している人がいても、今ではなかなか大きなメディアには載らない。そういうのを入れていこうとは思わないのか
 (この話は)重要だといって、あえて能動的に吸い上げようと? それって、メディアの意思が入っているじゃないですか。意思なんて入れる必要ないって言ってるんですよ。載せたいなら、読者の関心が低い記事にはお金は払えないけど、勝手にウェッブサイトに載せる分にはいいですよ。お金は払えないけど、来るモノは拒まずだから。
 ただ、それを紙に挙げる時にはランキングによる。そこのところで情報操作をする気はない。ランキングが一番になれば原稿もありますから、チャンスはありますよ。(そうした記事は)ウェルカムですけど、あえて収集するつもりはない。
 人気がなければ消えていく、人気が上がれば大きく扱われる。完全に市場原理。我々は、操作をせずに、読み手と書き手をマッチングさせるだけだから。
――インターネットでは、まだ既存のメディアからの情報を中心に流しているようだが、いずれそういうものはなくして、自前ですべてやるつもりか。
 既存のものも残る。でも他は全部配信してくれるのに、読売が載らないのは、あそこはうちに配信してくれないから。すごいでしょう? よくそういうモチベーションが湧くな。
――ラジオに関しては?
 ……やってますよ。
――新聞はまだ?
 何が起るか分からない。
 韓国のオーマイニュースなんかは政治ネタが多いけど、日本は政治はダメですよ。経済が一番売れる。政治にはあまり興味がないみたい。それはそれで、いいんじゃないですか。
――役所など、記者クラブに入らないと取材がしにくいところもあるが。
 ゲリラ的にやっていく。どうせ入れてくれませんから。そこで(入るための)努力をしようとは思わない。入れてくれれば入りますけどね。でも、任意団体にはあまり入りたくないんですよ。ここに入らないと免許をくれないという所には入りますが。
――放送免許に関しては、動き出しているのか。
 それは言えません。

# by polimediauk | 2005-02-13 17:52 | 日本関連