(大判と小型タブロイド判の2種類を同時発行していた頃のインディペンデント)
なぜ英インディペンデント紙が「いけてる」のか?
新聞の発行部数が落ち続けるイギリスで、高級紙(日本の朝刊紙にあたる)の「タイムズ」と「インディペンデント」が通常の大型判と小型タブロイド判との並行発行を開始してから、1年が経つ。念願の発行部数増加は両紙ともに成就したものの、評価は大きく別れた。
つまり、「インディペンデント」はいけてるが、「タイムズ」はちょっと・・・・という人が専門家の間でも多いのだ。
まず部数増加率だが、「タイムズ」は今年9月時点で年間4・5%増で、「インディペンデント」の21%と比較すると大きな差をつけられた。
理由は、「インディペンデント」は読者層が若く、多くは都市近辺に住み、新しいものを好む傾向が強いのに比べ、「タイムズ」の読者は年齢層が上で、伝統の継続を好む傾向があるためではないかといわれている。
先に始めた方の利というのもあるだろう。「インディペンデント」がタブロイド判に先べんをつけたのは昨年の9月。これを「タイムズ」が11月に追った。本家はあくまでも「インディペンデント」。
また、編集長主導でタブロイド判化をはじめた「インディペンデント」では、売り上げも当初の予想を超えて伸び、部内は「久しぶりに活気がある雰囲気になった」という部員の証言もある。作っている本人たちが元気なところは、こうしたムードが紙面にも何かしら反映されるのではないだろうか。
イギリスの新聞は家庭での購読率が低く(全体の10数%といわれる)、読者は主に新聞販売代理店や駅や街角にある新聞スタンドで、1面を見てから、新聞を買う。ずらりと1面を表にして並べられている数紙から選ぶので、紙面が格好いいもの、見出しが目を引くものが売れる。
「インディペンデント」は、人目を引く見出しと写真で格好いいポスターのような1面を作り、読者のハートをつかんだのだ。
一例として、ケン・ビグリーさんというイギリス人のエンジニアが、バクダッドで人質になって殺されるという痛ましい事件があった。長い交渉の後で、とうとうビグリーさんは首を切られて命を落とした。何とも悲しく、むごい事件だった。
このとき、他紙は、ビグリーさんが人質になっている写真を一面で使い、これに「ビグリーさん、殺される」といったような見出しをつけた。ストレートで分かりやすい。人目を引くような見出しなど不必要になるほど、衝撃的な殺害事件だったとも言える。
しかし、「インディペンデント」は「殺害」という言葉を一切使わず、一言、「ビグリーの苦悩」とした。連日のようにビグリーさんの状態はテレビや新聞などで報道されていた。「殺害された」という意味の言葉を見出しに入れた他紙をよそに、あえて「ビグリーの苦悩」とすることで、読者に「おや?」と思わせた。何らかの深い読み物が展開されるであろうことが期待され、その期待感で思わず一部、手にとってしまう。
前PLOのトップ、アラファト議長が亡くなった時も目立っていたのが「インディペンデント」だった。どの新聞も凝った作りになっており、甲乙つけがたかったが、「インディペンデント」は、モノクロの写真で、アラファト前議長の顔のクローズアップ。これだけで、記事はなし。非常に迫力のある紙面になっており、かつ、典型的な「ポスター紙面」で、そのまま壁に貼りたくなるような1面になっていた。
すでに「高級タブロイド紙」という新たなジャンルを作り出した、ともてはやされた「インディペンデント」。一方、何故「タイムズ」は、「いけてない」とされたのだろうか?